特許第6556455号(P6556455)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556455
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】果実酒
(51)【国際特許分類】
   C12G 1/06 20190101AFI20190729BHJP
【FI】
   C12G1/06
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-12776(P2015-12776)
(22)【出願日】2015年1月26日
(65)【公開番号】特開2016-136867(P2016-136867A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2017年7月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】大倉 龍起
(72)【発明者】
【氏名】近藤 平人
【審査官】 田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−158502(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/151021(WO,A1)
【文献】 オレンジとミントのサングリア,レシピサイト「Nadia | ナディア」プロの料理, 2014年,https://oceans-nadia.com/user/13815/recipe/115243, 検索日:2018年5月29日
【文献】 押久保重政,スパイスの機能と効果,高砂香料時報,2008年,No.162,p.15-17
【文献】 J. Agric. Food Chem., 2003年,Vol.51,p.7671-7678
【文献】 知られざる「コク」の正体,HATENAVI ZIP!,2013年10月28日,http://www.ntv.co.jp/zip/onair/hatenavi/404424.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 1/00−3/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/WPIX(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガスを含有し、下記(A)〜(C)を満たすことを特徴とする、赤ワインである果実酒。
(A)オイゲノールの含有量:0.1〜20ppm
(B)ケイヒアルデヒドの含有量:0.1〜15ppb
(C)メントールの含有量:0.1〜10ppm
【請求項2】
アルコール度数が1〜16v/v%である、請求項に記載の果実酒。
【請求項3】
炭酸ガス圧が0.7〜3.5kgf/cmである、請求項1又は2に記載の果実酒。
【請求項4】
果実酒が含有するオイゲノールの少なくとも一部が、チョウジ及び/又はその抽出物に
由来することを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の果実酒。
【請求項5】
果実酒が含有するケイヒアルデヒドの少なくとも一部が、ケイヒ及び/又はその抽出物
に由来することを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の果実酒。
【請求項6】
果実酒が含有するメントールの少なくとも一部が、ミント及び/又はその抽出物に由来
することを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の果実酒。
【請求項7】
Brix値が3〜20である、請求項1〜のいずれか一項に記載の果実酒。
【請求項8】
果実酒のpHが3.00〜4.00の範囲にある際のOD525nmにおける吸光度に
より表される色調が0.05以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の果実酒。
【請求項9】
炭酸ガスを含有する、赤ワインである果実酒の製造方法であって、下記(A)〜(C)を満たすように、果実酒中のオイゲノールの含有量、ケイヒアルデヒドの含有量、及びメントールの含有量を調整することを特徴とする、前記製造方法。
(A)オイゲノールの含有量:0.1〜20ppm
(B)ケイヒアルデヒドの含有量:0.1〜15ppb
(C)メントールの含有量:0.1〜10ppm
【請求項10】
炭酸ガスを含有する、赤ワインである果実酒に、味の厚みと清涼感をバランスよく付与する方法であって、下記(A)〜(C)を満たすように、果実酒中のオイゲノールの含有量、ケイヒアルデヒドの含有量、及びメントールの含有量を調整することを特徴とする、前記方法。
(A)オイゲノールの含有量:0.1〜20ppm
(B)ケイヒアルデヒドの含有量:0.1〜15ppb
(C)メントールの含有量:0.1〜10ppm
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガスを含有し、かつ、特定量のオイゲノール、ケイヒアルデヒド、及びメントールを含有する果実酒に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ガスを含有する果実酒、特に炭酸ガスを含有するワインは、発泡性ワイン又はスパークリングワインとして知られている。スパークリングワインは、ワインに二酸化炭素を多量に溶け込ませたものをいい、開封後に二酸化炭素が微細な気泡として立ち上がってくることを特徴とする。また、炭酸性飲料には食欲増進効果があるため、スパークリングワインは食前酒に適している。
【0003】
スパークリングワインには、発酵過程で発生する二酸化炭素がワインに溶け込んだものや、非発泡性ワインに二酸化炭素を吹き込んで製造されるものなどがある。例えば、特許文献1には、ワインにポリグリセリン脂肪酸エステルを添加することで、発酵スパークリングワインの泡感及び炭酸感を付与した二酸化炭素吹込スパークリングワインを提供できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−128246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭酸ガスを含有する果実酒、特に市場に出回っている発泡性赤ワインは、味の厚みに乏しいものや、逆に厚みが強く飲みにくいものが多いという問題が指摘されている。
【0006】
本発明は、味の厚みと清涼感がバランスよく付与され、良好な味わいが感じられる炭酸ガス含有果実酒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、炭酸ガスを含有する果実酒に特定量のオイゲノール及びケイヒアルデヒドを配合することで、果実酒に味の厚みを付与できることを見出した。しかしながら、特定量のオイゲノール及びケイヒアルデヒドを配合するのみでは、果実酒の味の厚みが強くなり過ぎて飲みにくいことが示された。本発明者らは、鋭意検討した結果、さらに特定量のメントールを配合することで、味の厚みと清涼感を好ましいバランスで付与できることを見出した。結果として、良好な味わいを有する炭酸ガス含有果実酒を製造することが可能となった。
【0008】
即ち、本発明は、以下のものに関するが、これらに限定されない。
(1)炭酸ガスを含有し、下記(A)〜(C)を満たすことを特徴とする果実酒。
(A)オイゲノールの含有量:0.1〜20ppm
(B)ケイヒアルデヒドの含有量:0.1〜15ppb
(C)メントールの含有量:0.1〜10ppm
(2)ワインである、(1)に記載の果実酒。
(3)赤ワインである、(1)又は(2)に記載の果実酒。
(4)アルコール度数が1〜16v/v%である、(1)〜(3)のいずれかに記載の果実酒。
(5)炭酸ガス圧が0.7〜3.5kgf/cmである、(1)〜(4)のいずれかに記載の果実酒。
(6)果実酒が含有するオイゲノールの少なくとも一部が、チョウジ及び/又はその抽出物に由来することを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の果実酒。
(7)果実酒が含有するケイヒアルデヒドの少なくとも一部が、ケイヒ及び/又はその抽出物に由来することを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の果実酒。
(8)果実酒が含有するメントールの少なくとも一部が、ミント及び/又はその抽出物に由来することを特徴とする、(1)〜(7)のいずれかに記載の果実酒。
(9)Brix値が3〜20である、(1)〜(8)のいずれかに記載の果実酒。
(10)果実酒のpHが3.00〜4.00の範囲にある際のOD525nmにおける吸光度により表される色調が0.05以上である、(1)〜(9)のいずれかに記載の果実酒。
(11)炭酸ガスを含有する果実酒の製造方法であって、下記(A)〜(C)を満たすように、果実酒中のオイゲノールの含有量、ケイヒアルデヒドの含有量、及びメントールの含有量を調整することを特徴とする、前記製造方法。
(A)オイゲノールの含有量:0.1〜20ppm
(B)ケイヒアルデヒドの含有量:0.1〜15ppb
(C)メントールの含有量:0.1〜10ppm
(12)炭酸ガスを含有する果実酒に、味の厚みと清涼感をバランスよく付与する方法であって、下記(A)〜(C)を満たすように、果実酒中のオイゲノールの含有量、ケイヒアルデヒドの含有量、及びメントールの含有量を調整することを特徴とする、前記方法。
(A)オイゲノールの含有量:0.1〜20ppm
(B)ケイヒアルデヒドの含有量:0.1〜15ppb
(C)メントールの含有量:0.1〜10ppm
【発明の効果】
【0009】
本発明では、味の厚みと清涼感がバランスよく付与され、良好な味わいが感じられる炭酸ガス含有果実酒を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
特に断りがない限り、本明細書において用いられる「ppm」、及び「ppb」は、重量/容量(w/v)のppm、及びppbを意味する。
【0011】
(果実酒)
本発明は、炭酸ガスを含有する果実酒が、特定量のオイゲノール、ケイヒアルデヒド、及びメントールを含有するものである。そして、本願発明の果実酒は、味の厚みと清涼感がバランスよく付与されており、良好な味わいを感じることができる。なお、本明細書において、「味の厚み」とは、口に含んだ時に感じる香味の広がり、アタックの強さ、味わいの複雑さを意味する。
【0012】
本明細書における「果実酒」とは、原料となる果汁を酵母の作用によりアルコール発酵させて得られる発酵飲料、及びそのような発酵飲料を主な原料として含む飲料を意味する。そして、本発明におけるオイゲノール、ケイヒアルデヒド、及びメントールの含有量の条件を満たす限り、当該発酵飲料の含有量に制限はないが、典型的には、5v/v%以上、10v/v%以上、20v/v%以上、25v/v%以上、又は50v/v%以上であり、100v/v%以下、90v/v%以下、80v/v%以下、70v/v%以下、又は60v/v%以下である。当該発酵原料としては、ブドウ果汁、リンゴ果汁、モモ果汁、グレープフルーツ果汁、パイナップル果汁、マンゴー果汁等が挙げられ、これらの果汁を単独で用いてもよいし、2以上を組み合わせて用いてもよい。前記定義を満たす限り、本発明における果実酒は、酒税法等の法律に基づくカテゴリーに限定されないが、本発明における果実酒の範囲には、日本の酒税法による果実酒、甘味果実酒、リキュール、その他の醸造酒が含まれる。
【0013】
本発明における好ましい果実酒の一つはワインである。本明細書における「ワイン」とは、ブドウ果汁を主な原料として製造される発酵飲料、及びそのような発酵飲料を主な原料として含む飲料を意味する。
【0014】
本明細書におけるワインには、赤ワイン、白ワイン、ロゼワインが含まれる。本明細書における「赤ワイン」とは、ブドウの果肉、果皮、及び種を含む果実全体から搾り取った果汁を原料として製造される発酵飲料、及びそのような発酵飲料を主な原料として含む飲料を意味する。また、本明細書における「白ワイン」とは、ブドウの果肉のみから搾り取った果汁を原料として製造される発酵飲料、及びそのような発酵飲料を主な原料として含む飲料を意味する。さらに、本明細書における「ロゼワイン」とは、前記赤ワインの製造方法と前記白ワインの製造方法を組み合わせて、又は前記赤ワインと前記白ワインを混合して製造される発酵飲料、及びそのような発酵飲料を主な原料として含む飲料を意味する。
【0015】
さらに好ましくは、本発明の果実酒は赤ワインである。代表的な発泡性ワインの多くは白ワイン又はロゼワインであり、発泡性の赤ワインはほとんど知られていない。さらに、炭酸ガスを含有する発泡性の赤ワインは、日本人の味覚に必ずしも適合せず、万人受けするものではないとされている。例えば、発泡性の赤ワインは、味の厚みに乏しいものや、逆に厚みが多く飲みにくいものが多いという問題が特に顕著である。そのため、味の厚みと清涼感をバランスよく付与し、良好な味わいが感じられる炭酸ガス含有果実酒を提供することができる本発明は、赤ワインに特に好適である。
【0016】
(オイゲノール)
本発明の果実酒に含有されるオイゲノールの含有量は、0.1〜20ppm、好ましくは0.5〜10ppm、より好ましくは0.5〜5ppmである。オイゲノールの含有量をこの範囲にすると、炭酸ガス含有果実酒の味の厚みを増大することができる。
【0017】
果実酒を製造する際には、精製又は単離されたオイゲノールを用いてもよいし、オイゲノールを含む原料を用いてもよいし、それらを両方用いてもよい。オイゲノール自体及びそれを含む原料の使用量が適切であれば、果実酒中のオイゲノールの含有量も適切な範囲となる。オイゲノールを含む原料としては、例えば、チョウジ(クローブとも呼ばれる)、ピメント、ローリエ、ケイヒ、バジリコ、バナナ、ナツメグ等の植物及びその抽出物が挙げられる。本発明においてオイゲノールを含有する原料を用いる場合には単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
オイゲノールの含有量は、HPLCやガスクロマトグラフィー、質量分析等の公知の方法で測定することができる。
【0019】
(ケイヒアルデヒド)
ケイヒアルデヒドは別名シンナムアルデヒドと呼ばれ、立体異性体としてトランス体とシス体が存在するが、天然に存在するものはトランス体である。本発明では、これらの立体異性体を単独で、又は混合して使用することができるが、トランス体のケイヒアルデヒドを使用することが好ましい。
【0020】
本発明の果実酒に含有されるケイヒアルデヒドの含有量は、0.1〜15ppb、好ましくは0.5〜10ppb、より好ましくは0.5〜1ppbである。ケイヒアルデヒドの含有量をこの範囲にすると、炭酸ガス含有果実酒の味の厚みを増大することができる。
【0021】
果実酒を製造する際には、精製又は単離されたケイヒアルデヒドを用いてもよいし、ケイヒアルデヒドを含む原料を用いてもよいし、それらを両方用いてもよい。ケイヒアルデヒド自体及びそれを含む原料の使用量が適切であれば、果実酒中のケイヒアルデヒドの含有量も適切な範囲となる。ケイヒアルデヒドを含む原料としては、例えば、シナモン(桂皮、ニッキ)及びその抽出物が挙げられる。本発明においてケイヒアルデヒドを含有する原料を用いる場合には単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
ケイヒアルデヒドの含有量は、HPLCやガスクロマトグラフィー、質量分析等の公知の方法で測定することができる。
【0023】
(メントール)
メントールには、立体異性体としてd体とl体が存在する。本発明では、これらの立体異性体を単独で、又は混合して使用することができるが、l−メントールを使用することが好ましい。
【0024】
本発明の果実酒に含有されるメントールの含有量は、0.1〜10ppm、好ましくは0.5〜5ppm、より好ましくは0.5〜1ppmである。メントールの含有量をこの範囲にすると、炭酸ガス含有果実酒に好ましい清涼感を付与することができる。
【0025】
果実酒を製造する際には、合成品のメントールを用いてもよいし、メントールを含む原料を用いてもよいし、当該原料から精製又は単離されたメントールを用いてもよいし、それらを組み合わせて用いてもよい。メントールを含む原料の使用量が適切であれば、果実酒中のメントールの含有量も適切な範囲となる。メントール含む原料としては、例えば、ミント、ペパーミント、ハッカ、アップルミント、ウォーターミント、コルシカンミント、スペアミント、ペニーロイヤル、ホースミント等のシソ科ハッカ属植物及びその抽出物が挙げられる。本発明においてメントールを含有する原料を用いる場合には単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
メントールの含有量は、HPLCやガスクロマトグラフィー、質量分析等の公知の方法で測定することができる。
【0027】
(アルコール)
本発明の果実酒のアルコール度数は、特に限定されないが、好ましくは1〜16v/v%、より好ましくは2〜10v/v%、さらにより好ましくは3〜7v/v%である。アルコール度数の調整方法は、添加するアルコール成分の量の調整などの、公知のいずれの方法を用いてもよい。
【0028】
本明細書に記載の「アルコール」との用語は、特に断らない限りエタノールを意味する。本明細書において、果実酒のアルコール度数は公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。具体的には、果実酒から濾過又は超音波によって炭酸ガスを抜いて、試料を調製し、そして、その試料を直火蒸留し、得られた留液の15℃における密度を測定し、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)及び比重(15/15℃)換算表」を用いて換算して求めることができる。アルコール度数が1.0%未満の低濃度の場合は、市販のアルコール測定装置や、ガスクロマトグラフィーを用いても良い。
【0029】
(炭酸ガス)
本発明の果実酒は、炭酸ガスを含む。例えば、発酵過程で発生する二酸化炭素がワインに溶け込んだものでもよい。また、炭酸ガスは当業者に通常知られる方法を用いて果実酒に付与することもできる。具体的には、二酸化炭素を加圧下で果実酒に溶解させてもよく、カーボネーター等のミキサーを用いて配管中で二酸化炭素と果実酒とを混合してもよく、二酸化炭素が充満したタンク中に果実酒を噴霧することにより二酸化炭素を果実酒に吸収させてもよく、果実酒と炭酸水とを混合してもよいが、これらに限定されるものではない。また、これらの手段を適宜用いて炭酸ガス圧を調節する。
【0030】
炭酸ガス圧の測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、京都電子工業製ガスボリューム測定装置GVA−500Aを用いて測定することができる。より詳細には、試料温度を20℃とし、前記ガスボリューム測定装置において容器内空気中のガス抜き(スニフト)、振とう後、炭酸ガス圧を測定する。本明細書においては、特段の記載がない限り、当該方法によって炭酸ガス圧を測定する。
【0031】
本発明の果実酒の炭酸ガス圧は、特に限定されないが、測定時の液温が20℃の際の果実酒のスニフト後のガス圧が、好ましくは0.7〜3.5kgf/cm、より好ましくは0.8〜2.8kgf/cm、さらにより好ましくは0.8〜2.5kgf/cmである。
【0032】
(色調)
本発明の果実酒の色調は、果実酒のpHが3.00〜4.00の範囲にある際のOD525nmにおける吸光度で表される。本発明の果実酒の鮮やかな赤色は、ブドウなどの果肉や果皮に豊富に含まれる色素であるアントシアニンによるものである。ここで、アントシアニンはpHに応じて吸光スペクトルが変化するという性質を有するため、pHが所定の範囲になければ、OD525nmにおける吸光度と果実酒の色調との相関関係を規定することは難しい。そのため、本明細書においては、特に断りがない限り、果実酒のpHが3.00〜4.00の範囲にある際の、果実酒の吸光度を測定するものとする。果実酒のpHが所定の範囲になければ、pHを所定の範囲に調整した後で、OD525nmにおける吸光度を測定する。なお、本明細書におけるpHの調整は、果実酒を過度に希釈しないように、高濃度の酸性水溶液若しくは塩基性水溶液、又は固体の酸若しくは塩基を果実酒に添加し、当該果実酒のpH調整前後の容量変化及び質量変化を0.5%未満に抑えた条件で、当該果実酒のpHを3.00〜4.00の範囲に調整することをいう。
【0033】
当該色調は特に限定されないが、果実酒に赤ワインの鮮やかな赤色を付与するために、果実酒のpHが3.00〜4.00の範囲にある際のOD525nmにおける吸光度が、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.08以上である。色調の調整は、公知の方法によって行うことができるが、例えば、果実酒を珪藻土による濾過、フィルター濾過、MF膜濾過、UF膜濾過、遠心分離等に供することが挙げられる。
【0034】
(他の成分)
本発明の果実酒は、味の調整のために、糖類を含有してもよい。糖類の種類は特に限定されないが、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース等が挙げられ、これらの糖類を単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、糖類を含む原料、例えば、糖液や蜂蜜を用いてもよい。本発明の果実酒に糖類が含まれる場合には、その含有量は、Brix値を指標として見積もることができる。Brix値は、好ましくは3〜20、より好ましくは5〜15である。飲料のBrixは、当業者に公知の方法を用いて測定してもよく、例えば、市販のBrix計を使用することができる。
【0035】
本発明の果実酒は、本発明の設計品質を超えない範囲で、果汁を含有してもよい。果汁の種類は特に限定されないが、例えば、レモン果汁、グレープフルーツ果汁、オレンジ果汁、ライム果汁、ミカン果汁、ユズ果汁、カボス果汁、イヨカン果汁、リンゴ果汁、ブドウ果汁、モモ果汁、熱帯果実果汁(パイナップル、グァバ、バナナ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ及びライチ等)、その他果実の果汁(ウメ果汁、ナシ果汁、アンズ果汁、スモモ果汁、ブルーベリー果汁、ラズベリー果汁、キウイフルーツ果汁、サクランボ果汁及びクリ果汁等)、スイカ果汁、イチゴ果汁、カシス(ブラックカーラント)果汁、レッドラズベリー果汁、及びメロン果汁等が挙げられる。
【0036】
果汁としては、果実を搾汁して得られる果汁をそのまま使用するストレート果汁であってもよく、濃縮した濃縮果汁のいずれの形態であってもよく、それらの果汁を冷凍して得られる冷凍果汁を用いてもよい。これらの果汁は、1種類の果汁を単独使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0037】
本発明の果実酒には、飲料に通常配合する添加剤、例えば、香料、ビタミン、色素類、酸化防止剤、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、品質安定剤等を配合することができる。
【0038】
(果実酒の製造方法、及び味の厚みと清涼感をバランスよく付与する方法)
本発明は、別の側面では、果実酒の製造方法であって、果実酒中のオイゲノールの含有量を調整する工程、ケイヒアルデヒドの含有量を調整する工程、及びメントールの含有量を調整する工程を含むものである。オイゲノール、ケイヒアルデヒド、メントール、及び他の成分の含有量や成分比率、及びその好ましい範囲、並びにその調整方法については、果実酒に関して上記した通りである。また、炭酸ガスを含有させる工程をさらに含んでもよく、炭酸ガスの付与方法や炭酸ガス圧は上記の通りである。これらの工程は、どの順序で行ってもよく、最終的に得られた果実酒における含有量や比率が所要の範囲にあればよい。また、果実酒の原料や、その発酵方法については、公知の方法を用いればよい。
【0039】
オイゲノール、ケイヒアルデヒド、及びメントールの含有量の調整工程を、植物原料を用いて行う場合には、当該植物原料は、通常、乾燥させたものを用いるが、そうでなくてもかまわない。乾燥させた植物原料をそのままワインに浸漬させても良いし、溶媒(水、エタノール等)で抽出して得られる抽出物を使用してもよい。
【0040】
果実酒への各種成分、植物原料、果汁等の添加タイミングは特に限定されない。例えば、原料の果実酒が保持されている容器(ステンレスのタンク等)に、各種成分、植物原料、果汁等を添加しても良いし、タンク内から果実酒の一部を抜き取り、その中に各種成分、植物原料、果汁等を溶解させてから再度元のタンクに加えるという方法で添加しても良い。果実酒が複数の果実酒のブレンドである場合には、各種成分、植物原料、果汁等を、ブレンドされる果実酒の1以上に添加後、得られた果実酒を他の果実酒とブレンドしても良いし、ブレンド後に添加しても良い。また、果実酒のろ過後や殺菌後などに各種成分、植物原料、果汁等を添加しても良い。原料の混合後は撹拌機を用いる、窒素等の不活性ガスをバブリングする等の方法でワインを撹拌することが好ましい。
【0041】
本発明の果実酒の製造方法では、炭酸ガスを含有する果実酒に味の厚みと清涼感をバランスよく付与することができる。従って、当該製造方法は、別の側面では、炭酸ガスを含有する果実酒に味の厚みと清涼感をバランスよく付与する方法である。
【0042】
(容器詰飲料)
本発明の果実酒は、容器詰めとすることができる。容器の形態は何ら制限されず、瓶、缶、樽、またはペットボトル等の密封容器に充填して、容器詰飲料とすることができる。
【0043】
(数値範囲)
明確化のために記載すると、本明細書において下限値と上限値によって表されている数値範囲、即ち「下限値〜上限値」は、それら下限値及び上限値を含む。例えば、「1〜2」により表される範囲は、1及び2を含む。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(ベース果実酒)
250Lの赤ワイン用原料酒(甘味果実酒)に対して、ニュートラルスピリッツ、果糖ブドウ糖液糖、グレープフルーツ果汁、オレンジ果汁、無水クエン酸、及び水を混合し、容量を1000Lに調整した。さらに炭酸ガスを2.2kgf/cmとなるように含有させて、ベース果実酒を調製した。当該ベース果実酒のアルコール度数は5.0v/v%であった。
【0046】
(サンプル果実酒)
上記のベース果実酒に市販のチョウジエキス、ケイヒエキス、及び/又はミントエキスを種々の量で添加して、サンプル果実酒1〜43を製造した。次に、サンプル果実酒1〜43について、オイゲノール、ケイヒアルデヒド、及びメントールの含有量を測定した。
【0047】
果実酒中のオイゲノール、ケイヒアルデヒド、及びメントールの含有量について、ガスクロマトグラフィー質量分析計(Agilent Technologies社製)を用いて以下の方法で測定した。
【0048】
使用機器:6890N/5975B inertXL
カラム(DB―WAX φ0.25mm×30m、膜厚0.25μm)
移動ガス:ヘリウム1mL/min
温度:試料注入口220℃、カラム80℃(1min保持)→10℃/min昇温→200℃(10min保持)
イオン源温度:230℃
イオン化法:EI
設定質量数:m/z 164,149(オイゲノール)
m/z 132,131(ケイヒアルデヒド)
m/z 71,81(メントール)
サンプル調製:試料を1から2g秤量し、水で20mLに希釈した後、ジエチルエーテル20mLと塩化ナトリウム8gを加え、振とうし静置した。そのジエチルエーテル層を回収し、実験に供した。
【0049】
各サンプル果実酒中のオイゲノール、ケイヒアルデヒド、及びメントールの含有量を表1〜3に示す。
【0050】
次に、各サンプル果実酒を試飲し、「味の厚み」、「清涼感」、「全体のバランス」、「総合点」の4項目について、5名のパネラーで以下の基準(1〜5点)で官能評価試験を行った。表1〜3に、「総合点」の官能評価の結果を示す。なお、高い点数ほど好ましい。
【0051】
<評価点の基準>
5点:良い
4点:やや良い
3点:普通
2点:やや悪い
1点:悪い
さらに、各パネラーの「総合点」の評価点の平均点を総合評点として算出し、総合評点に応じて◎、○、△、及び×の記号を付した。各記号は以下の意味を有する。
【0052】
◎:4点以上
○:3点以上4点未満
△:2点以上3点未満
×:2点未満
結果を表1〜3に示す。表1〜3に記載の通り、オイゲノール、ケイヒアルデヒド、及びメントールの含有量を本願発明の範囲内に調整することで、本願発明の効果が認められることが示された。具体的には、オイゲノール、ケイヒアルデヒド、及びメントールの3種を含有し、それらの含有量が本願発明の範囲内であるサンプル果実酒34〜43では、官能評価の結果が全て◎であり、良好な味わいが感じられることが実証された。さらに、当該サンプル果実酒34〜43では、味の厚み(コク、深み)と清涼感のバランスが好ましい傾向にあることも示された。一方で、このような効果は、オイゲノール、ケイヒアルデヒド、及びメントールのうちの1種又は2種のみを含むサンプル果実酒1〜33では認められなかった。
【0053】
尚、官能試験の総合評点が4点以上(◎と記載)と4点未満(○と記載)とでは、数値の差はわずかに見えるかもしれないが、数値の差以上の大きな違いが感じられる。このことを以下に説明する。「総合点」が4点未満の評点のサンプル果実酒は、「味の厚み」又は「清涼感」の評点は高いが、「全体のバランス」の評点が著しく悪い傾向にある。そのため、「総合点」の数値は高いが、飲料としての品質は劣っている。一方で、「総合点」が4点以上の評点のサンプル果実酒は、「味の厚み」、「清涼感」及び「全体のバランス」の3項目の評点がいずれも高い。従って、「総合点」の数値も高く、かつ、飲料としての品質も優れている。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】