(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556462
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド
(51)【国際特許分類】
A63B 53/04 20150101AFI20190729BHJP
【FI】
A63B53/04 D
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-33700(P2015-33700)
(22)【出願日】2015年2月24日
(65)【公開番号】特開2015-160137(P2015-160137A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2018年1月16日
(31)【優先権主張番号】61/944,119
(32)【優先日】2014年2月25日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】14/311,913
(32)【優先日】2014年6月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド・ルウェリン
(72)【発明者】
【氏名】辻 圭
(72)【発明者】
【氏名】加茂 新
【審査官】
大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−250934(JP,A)
【文献】
特開2004−174224(JP,A)
【文献】
特開2013−255779(JP,A)
【文献】
特開2013−165962(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0218053(US,A1)
【文献】
特開2007−136069(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/181551(WO,A2)
【文献】
特開2010−029590(JP,A)
【文献】
特開2013−255587(JP,A)
【文献】
米国特許第07393286(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0294599(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0176183(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0117648(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0331201(US,A1)
【文献】
特表2015−517886(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0029408(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0331203(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフクラブヘッドであって、
内部空洞を規定し、打球フェースとソールとを含むボディと、
前記ソール上に位置し、第1の側壁と第2の側壁と少なくとも2つの波部とを備える波状スロットとを備え、
前記第1の側壁は、実質的に第1の概して上向きの方向に延び、前記打球フェースの近位に位置しており、前記第2の側壁は、実質的に第2の概して上向きの方向に延び、前記第1の側壁から見て前記打球フェースと反対側に位置しており、
各々の波部は、前記第1の側壁と第2の側壁との間に位置決めされ、前記各々の波部の低い地点に各々谷部を備え、
前記波状スロットは、第1の高さを有する第1の波部と、第2の高さを有する第2の波部とを備え、前記第2の高さは、前記第1の高さよりも高く、
前記第1の高さおよび前記第2の高さは、前記第1の側壁の高さおよび前記第2の側壁の高さよりも低く、
前記第2の波部は、前記第1の側壁の近位に位置し、前記第1の波部は、前記第2の側壁の近位に位置している、ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記第1の側壁の高さは、前記第2の側壁の高さに実質的に等しい、請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記第1の側壁の高さは、前記第2の側壁の高さよりも高い、請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記第2の側壁の高さは、前記第1の側壁の高さよりも高い、請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記ゴルフクラブヘッドの前記波状スロットに取付けられ、前記ソールの下方に突き出ないように配置されたダンパをさらに備える、請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記ダンパは、タングステン、プラスチック、アルミニウムおよび鋼のうちの1つ以上を含む、請求項5に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記ダンパは、はんだ付け、溶着、接着、クリッピングおよびリベット留めのうちの1つ以上によって取付けられる、請求項6に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
前記波状スロットは、少なくとも3つの波部を備える、請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項9】
前記波状スロットは、前記打球フェースに沿って延びる前側部を備え、
前記前側部と交差するソール中央線の方向に前記ゴルフクラブヘッドのヘッド幅を有し、前記前側部は、前記ヘッド幅の中央より前記打球フェースの側に配置された、請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にゴルフクラブヘッドに関し、より特定的には波状ソール特徴を有するウッドタイプのゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
現在のドライバおよびフェアウェイウッドゴルフクラブヘッドは、一般に、鋼またはチタン合金で形成されている。例えば体積が300ccを超える大型ドライバヘッドは、通常、Ti−6Al−4Vなどのチタン合金で形成されている。しかし、変更が加えられない限り、大型ヘッドは比較的高い重心(center of gravity:COG)を有する可能性があり、このことは、打ち出し角度、スピンおよびゴルフボールの飛行軌道に悪影響を及ぼし得る。また、変更が加えられていない大型ヘッドは、重心がフェースから遠く離れ過ぎる傾向があり、このことも打ち出し角度、スピンおよび飛行軌道に悪影響を及ぼし得る。したがって、多くのクラブヘッドは、クラブヘッドの重心を下げてクラブヘッドの前部に(すなわち、打球フェース付近に)近付けるために、例えばヘッドに鋳造されたスロットまたはウェイトパッドを有している。
【0003】
現在市場に出回っているいくつかのゴルフクラブは、ゴルフボール打ち出し条件を向上させ、かつ、クラブヘッドの重心を下げることを意図した、フェースの近位に位置するソール特徴を含んでいる(たとえば、特許文献1参照)。これらのソール特徴は、しばしば、
図1および
図2に示されるように平行な側壁を有するスロットまたは溝である。この例では、クラブヘッド10のボディは、打球フェース12と、ソール14と、スロット16とを含み得る。スロット16は、高さ19を有する側壁18と、幅21を有する上壁20とを有している。スロット16はフェース12に柔軟性を付加するので、スロット16は反発係数(coefficient of restitution:COR)を向上させることもでき、その結果、ボール打ち出し特性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−045871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この構成を用いて性能を向上させようという試みは、クラブヘッドのソール14に直接重量を付加すること、または、スロット高さ19、スロット幅21を間接的に大きくすること、および/または、上壁20の厚みを大きくすることを含んでいた。しかし、スロット高さ19を大きくすると、一般にクラブヘッドのCOGを上昇させることになる。さらに、製造プロセス中に型からクラブヘッドを取外すことの困難さが増すことにもなる。一方、幅21を大きくすると、プレー中のクラブヘッドとの望ましくない芝生の相互作用(例えば、引っかかり)の可能性が高まり得る。上壁20またはソール14の厚みを大きくすると、鋳造ピンホールおよび/または不均一な壁面などの製造上の欠陥が引起される可能性がある。したがって、この構成は、CORを向上させることができるが、COG位置に対する制御を犠牲にしてCORを向上させ、製造プロセスに対して困難さおよび費用を追加することになる。
【0006】
これらのスロット構造は、一般に製造を容易にするために選択されるが、最適化されたボール打ち出し条件をもたらさない。さらに、上記のように、より厚みのある壁またはより深いスロットを鋳造しようと試みることにより、例えば鋳造欠陥および他の製造上の問題が引起される可能性があるので、これらのスロット構造の構成は制限される。これらの制約の結果、従来のスロット構成は、CORを向上させてCOGを移動させることができる程度に制限される。
【0007】
したがって、鋳造ピンホール、波状面および不安定な肉厚などの製造上の困難さを引起すことなく、向上したゴルフボール打ち出し条件をもたらすゴルフクラブヘッド構造が必要である。また、COGおよびCORをより大きく制御するゴルフクラブヘッド構造が必要である。また、ゴルフクラブヘッドは、従来の鋳造技術を用いて容易に鋳造可能であるべきである。本発明の実施例は、これらのニーズおよびそれ以上のことに対処する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
簡単な概要
本発明の実施例は、ウッドタイプのゴルフクラブに関し、特定的には打球フェースとクラウンとソールとを有するクラブヘッドを備える本開示に係るゴルフクラブに関する。ソールは、ゴルフクラブのクラブヘッドに追加の重量を付加するためのスロットを含み得る。本開示に係るスロットは、ソールのスロット領域に形成された1つ以上の波形状を有する波部特徴を含み得る。
【0009】
いくつかの実施例では、ゴルフクラブヘッドは、内部空洞を規定し、打球フェースとソールとを含むボディを備え得る。いくつかの実施例では、波状スロットが、ソール上に位置し得て、第1の側壁と第2の側壁と少なくとも1つの波部とを備え得る。第1の側壁は、実質的に第1の概して上向きの方向に延び得て、打球フェースの近位に位置し得て、第2の側壁は、実質的に第2の概して上向きの方向に延び得て、第1の側壁から見て打球フェースと反対側に位置し得る。いくつかの実施例では、第1および第2の側壁は、互いに鋭角で配置され得る。いくつかの実施例では、波部は、第1の側壁と第2の側壁との間に位置決めされ得て、ソールの下方に突き出ない谷部を備え得る。
【0010】
なお、ここで第1の概して上向きの方向とは、ソールが地面に接するようにゴルフクラブヘッドを地面上に置いた場合に、地面から離れる方向(ソールから離れる方向)であって、地面に対して垂直な方向および当該地面に対して傾いた方向を含み得る。上記第1の概して上向きの方向として、ソールから離れるとともに打球フェースからも徐々に離れる方向(ソールに対して後方側へ傾斜した方向)を採用してもよい。
【0011】
また、ここで第2の概して上向きの方向とは、ソールが地面に接するようにゴルフクラブヘッドを地面上に置いた場合に、地面から離れる方向(ソールから離れる方向)であって、地面に対して垂直な方向および当該地面に対して傾いた方向を含み得る。上記第2の概して上向きの方向として、ソールから離れるとともに打球フェースへ徐々に近づく方向(ソールに対して前方側(打球フェース側)へ傾斜した方向)を採用してもよい。
【0012】
いくつかの実施例では、波状スロットは、実質的に等しい高さの2つの波部を備え得る。いくつかの実施例では、第1の側壁の高さは、第2の側壁の高さに実質的に等しくてもよい。他の実施例では、波状スロットは、第1の高さを有する第1の波部と、第2の高さを有する第2の波部とを備え得て、第2の高さは、第1の高さよりも高い。いくつかの実施例では、第1の波部は、第1の側壁の近位に位置し得て、第2の波部は、第2の側壁の近位に位置し得る。他の実施例では、第2の波部は、第1の側壁の近位に位置し得て、第1の波部は、第2の側壁の近位に位置し得る。
【0013】
いくつかの実施例では、第1の側壁の高さは、第2の側壁の高さよりも高くてもよく、他の実施例では、第2の側壁の高さは、第1の側壁の高さよりも高くてもよい。他の実施例では、第1の側壁の高さは、第2の側壁の高さに実質的に等しい。本開示のいくつかの実施例は、ソールの下方に突き出ないようにゴルフクラブヘッドの
波状スロットに取付けられたダンパを備え得る。ダンパは、例えばタングステン、プラスチック、アルミニウムまたは鋼を含み得るが、それに限定されるものではない。いくつかの実施例では、ダンパは、例えばはんだ付け、溶着、接着、クリッピングまたはリベット留めによって取付けられ得る。
【0014】
本発明の上記および他の目的、特徴、局面および利点は、添付の図面と関連して理解されると本発明の以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【0015】
詳細な説明は、一例として図面を参照して、利点および特徴とともに本発明の例示的な実施例を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1のソール溝構成を有する先行技術のゴルフクラブヘッドの断面図である。
【
図2】
図1の先行技術のゴルフクラブヘッドの底面斜視図である。
【
図3】本発明のいくつかの実施例に係るウッドタイプのゴルフクラブヘッドの断面図である。
【
図4】本発明のいくつかの実施例に係る
図3のウッドタイプのゴルフクラブヘッドの底面図である。
【
図5A】本発明のいくつかの実施例に係るさまざまな波部構成を有するウッドタイプのゴルフクラブヘッドの断面図である。
【
図5B】本発明のいくつかの実施例に係るさまざまな波部構成を有するウッドタイプのゴルフクラブヘッドの断面図である。
【
図5C】本発明のいくつかの実施例に係るさまざまな波部構成を有するウッドタイプのゴルフクラブヘッドの断面図である。
【
図5D】本発明のいくつかの実施例に係るさまざまな波部構成を有するウッドタイプのゴルフクラブヘッドの断面図である。
【
図5E】本発明のいくつかの実施例に係るさまざまな波部構成を有するウッドタイプのゴルフクラブヘッドの断面図である。
【
図5F】本発明のいくつかの実施例に係るさまざまな波部構成を有するウッドタイプのゴルフクラブヘッドの断面図である。
【
図6】本発明のいくつかの実施例に係るダンパを含むウッドタイプのゴルフクラブヘッドの底面図である。
【
図7】本発明のいくつかの実施例に係る
図3のウッドタイプのゴルフクラブヘッドの変形例の底面図である。
【
図8】比較例のゴルフクラブヘッドの底面図である。
【
図9】比較例のゴルフクラブヘッドの断面図である。
【
図10】実施例のゴルフクラブヘッドの底面図である。
【
図11】実施例のゴルフクラブヘッドの断面図である。
【
図12】評価したパラメタを説明するためのゴルフクラブヘッドの側面図である。
【
図13】評価したパラメタを説明するためのゴルフクラブヘッドの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
本発明の実施例は、一般にゴルフクラブヘッドに関し、より特定的にはそのソール上のウェイトスロットに波部を有するゴルフクラブヘッドに関する。いくつかの実施例では、ゴルフクラブヘッドは、ウェイトスロットを用いることにより底面前部領域に重量を付加させることができる。ウェイトスロットは、スロット壁の厚みを増大させることなくスロットの重量を増やすために、例えば波形状を含み得る。いくつかの実施例では、ウェイトスロットは、2つ以上の波形状を含み得る。
【0018】
本発明の実施例は、波またはジクザグ形状で上向きおよび下向きに交互に延びる連続的な壁を有する波状スロットを備え得る。波部は、前部スロット側壁の高い地点から開始して、後部スロット側壁の高い地点で終了し得る。当該波形状により、既存の製造技術に適応するようにスロット肉厚を一貫したものにすることが可能になり得る。また、この波形状により、COG位置を打球フェースの方に移動させる目的で打球フェースに隣接したクラブヘッドのソールの質量を増大させることもできる。
【0019】
説明を単純および明確にするために、本明細書では本発明はウッドタイプのゴルフクラブヘッドとして記載されている。しかし、本発明がそのように限定されるものではないということを当業者は認識するであろう。本発明のさまざまな要素を構成するものとして以下に記載される材料は、例示的であるよう意図されており、限定的であるよう意図されたものではない。本明細書に記載される材料と同一または類似の機能を果たすであろう多くの好適な材料が、本発明の範囲内に包含されるよう意図されている。本明細書に記載されていないこのような他の材料としては、本発明の開発後に開発される材料が挙げられ得るが、それらに限定されるものではない。
【0020】
上記のように、従来のゴルフクラブヘッドの一般的な問題は、スロットの厚みまたはスロットの深さを大きくすることができることによってウェイトスロットの使用が制限されることである。これは、製造上の欠陥なしに使用可能な肉厚を制限するか、または、鋳造時の制約のためにウェイトスロットの深さを制限する従来の製造技術に起因し得る。これにより、さらなる部品または材料を追加することなくCOGを前方に移動させることができる程度が制限される。
【0021】
図3および
図4は、本開示のいくつかの実施例に係るクラブヘッド110の実施例を示す。クラブヘッド110は、打球フェース112と、ソール114と、波状スロット116とを含み得る。いくつかの実施例では、波状スロット116は、前部側壁118と、後部側壁119と、1つ以上の波部120とを備え得る。波状スロット116は、打球フェース112の近位のソール114上に位置し得る。波状スロット116の位置は、とりわけクラブヘッド110のCOGおよびCORに影響を及ぼし得る。
【0022】
例えば打球フェース112のより近くに波状スロット116を位置付けることによって、前方(すなわち、打球フェース112の方)にも下向き(すなわち、ソール114の方)にもCOGを移動させることができる。COGの位置は、クラブヘッド110のスピン生成特性(例えば、ボールに伝えられるスピンを減少または増加させること)に関与し得る。その結果、前方および下向きにCOGを移動させることができることにより、向上したスピン特性をクラブヘッドにもたらすことができる。
【0023】
先行技術において用いられるより長方形の溝と比較して、波状スロット特徴116を用いることにより、所与の肉厚で、クラブヘッド110のソール114により多くの重量を付加することが可能になり得る。これは、長方形の溝の底面がほぼ平坦であるのに対して、波状スロット116では1つ以上の波部120が形成されているので、波状スロット116を構成するクラブヘッド110の外殻の体積は長方形の溝を構成する当該外殻の体積より大きくなるためである。そして、肉厚が製造プロセスによって事実上制限され得るので、波状スロット116の構成は、先行技術よりも大きな範囲のクラブヘッド重量およびCOG位置(例えば、より下方およびさらに前方)を可能にする。いくつかの実施例では、波状スロット116の重量、ひいてはクラブヘッド110の重量およびCOGを制御するために、波部120の数を変化させてもよい。
【0024】
波状スロット116を用いることにより、COR特性も向上させることができる。例えば従来のクラブヘッドと比較して、クラブヘッド110は、打球フェース112のより大きな面にわたって、向上したCORを有することができる。波状スロット116は、剛性が減少した領域を打球フェース112上にもたらすことができ、インパクト時に波状スロット116が「アコーディオンのように動作する」のでトランポリン効果を増大させることができる。このように、フェースのより大きな領域にわたってより大きな力をボールに伝えることができ、打撃の一貫性が向上する。打球フェース112の大きな領域にわたってCORを向上させた結果、「スイートスポット」が大きくなり、その結果、クラブヘッドの性能を向上させることができ、所望のボール飛行を生成(再生)するために必要なユーザのスキルおよび精度を少なくすることができる。
【0025】
CORの変化は、例えば波状スロット116の数および寸法を変更することによって制御可能であり、波状スロット116の数および寸法は、例えば打球フェースに最も近い波部120の高さなどであるが、それに限定されるものではない。各々の波部120は、谷121または低い地点と、ピーク122とを有し得る。いくつかの実施例では、第1の波部(すなわち、谷121からピーク122まで)の高さは、所望のCORの向上およびより大きなスイートスポットをもたらすために、例えば2.0mm以上であってもよい。各側壁118,119の高さも、所望のCORの向上およびCOG位置をもたらすように選択され得る。たとえば、波部の高さ(谷121からピーク122までの垂直方向における距離)を2.0mm以上としておくことで、打球フェース112の中心より下側(地面側)の位置における反発係数を、当該波状スロット116が無い場合と比べて効果的に高め得る。
【0026】
図4に示すように、波状スロット116は、クラブヘッド110のヘッド幅130の中央より前側(打球フェース112側)に配置されていてもよい。また、波状スロット116において打球フェース112に最も近い部分であって打球フェース112に沿って延びる前側部116aの、トウ−ヒール方向における長さ132は10mm以上であってもよく、20mm以上であってもよい。また、前側部116aはクラブヘッド110のソール中央線131と交差するように配置されていてもよい。また、ソール中央線131が前側部116aにおけるトウ−ヒール方向における中央を通るように、前側部116aが配置されていてもよい。
【0027】
図5A〜
図5Fは、クラブヘッドのための代替的な波形状を示す。各々の特有の形状は、異なるCOGおよびCOR特性ならびに異なる全重量を有し得る。示されているパターンは、特定のユーザまたは用途にとって所望の特性をクラブヘッドにもたらすように選択され得る。
図5A〜
図5Fは、寸法および波部のサイズをいかに変更することができるかということの例を示すために示されているに過ぎず、本開示の実施例を限定することを意図したものではない。
【0028】
本開示に係るいくつかの実施例は、クラブヘッド210と、打球フェース212と、ソール214と、波状スロット216とを備え得る。波状スロット216は、前部側壁218と、後部側壁219と、第1の波部222と、第2の波部223とを含み得る。各々の波部222,223は、各々の波部の低い地点における谷部221と、各々の波部の高い地点におけるピーク229とを有し得る。波状スロット216の側壁218,219および波部222,223は、各々、それらに関連付けられた高さ225,226,227,228を有し得る。いくつかの実施例では、例えば、前部側壁218の高さ225は、後部側壁219の高さ226に実質的に等しくてもよい。同様に、いくつかの実施例では、第1の波部222の高さ227は、第2の波部223の高さ228に実質的に等しくてもよい。
【0029】
いくつかの実施例では、波状スロット216は、例えば他の構成(例えば、波状スロット316,416,516,616および716)と比較して比較的小さな高さを有し、したがって軽量である波部222,223を備え得る。
図5Bには、打球フェース312と、ソール314と、波状スロット316とを有するクラブヘッド310が示されている。この構成では、第1の波部322の高さは、第1の波部222の高さに実質的に等しくてもよいが、第2の波部323の高さは、第2の波部223の高さよりも高くてもよい。
図5Aにおける波状スロット216のように、波状スロット316は、高さが後部側壁319に実質的に等しい前部側壁318を有し得る。このような構成は、例えばクラブヘッド210と310との間で類似のCOR性能をもたらすことができるが、クラブヘッド310のCOGは、打球フェース112にさらに近くなっている。
【0030】
いくつかの実施例では、
図5A〜
図5Dに示されるように、前部側壁および後部側壁は、高さが実質的に等しくてもよい。他の実施例では、
図5E〜
図5Fに示されるように、前部側壁および後部側壁は、異なる高さを有していてもよい。側壁の高さを変化させることによって、波状スロットの重量は、クラブヘッドの打球フェースの近くに、またはクラブヘッドの打球フェースから離れて位置し得る。本開示の実施例は、1つ、2つ、3つまたはそれ以上の波部を有する波状スロットの構成を含み得る。また、本開示に係る実施例は、特定の用途についての所望の重量、COR値およびCOG位置に従って変化する側壁の高さおよび波部の高さを有する波状スロットの構成を含み得る。
【0031】
一般に、より高い前部側壁および前部波部を有する本開示の実施例は、より短い前部側壁およびより高い第2または第3の波部を有するように設計されたクラブヘッドよりも、打球フェースのより近くであって、かつ、ソールからより高いCOG位置を有し得る。クラブヘッドが打球フェースのより近くにCOGを有する場合、打球フェースから離れた所にCOGを有するクラブヘッドよりも少ないスピンをボールに伝える傾向があり得る。さらに、クラブヘッドのCOGの高さは、最も高いCORを有する打球フェース上の位置である「スイートスポット」の位置およびサイズを変化させ得る。これらの特徴は、例えば大なり小なりスピンを望むゴルファーに合わせて調整可能である。
【0032】
いくつかの実施例では、短い方の波部の高さは、およそ1.0〜2.0mmであり得る。高い方の波部の高さは、およそ2.0〜4.0mmであり得る。打球フェースに最も近い波部の短い方の波部の高さは、例えば、打球フェースの下方部分のCORを実質的に増大させることはできないが、高い方の波部が場合によってはこのような効果を有し得る。いくつかの実施例では、所望のクラブヘッド重量およびCOG位置などの設計上の考慮すべき事項は、特定の波部のサイズおよび構成を示唆し得る。
【0033】
いくつかの実施例では、
図6に示されるように、クラブヘッド810は、例えばクラブヘッドの打撃音を制御して望ましくない芝生の相互作用(例えば、引っかかりおよび掘り返し)を最小限にすることを目的とするがそれらに限定されない目的で、ダンパ24を備え得る。変更が加えられなければ、構成および材料次第で、クラブヘッド810は、ボールを打ったときに望ましくない音を生成する恐れがある。また、クラブヘッド810は、ゴルフボールが載っている芝生と相互作用する恐れがある。引っかかり、キャッチング、えぐり出しなどの望ましくない芝生の相互作用の結果、スイングのずれ、ミスヒット、さらには怪我が引起される恐れがある。この目的で、これらの場合によっては望ましくない影響の大きさを減少させるためにダンパ24が利用され得る。ダンパ24は、波状スロットに取付けられ、クラブヘッド810のソールの下方に突き出ないようにサイズ決めされ得る。
【0034】
いくつかの実施例では、ダンパ24は、クラブヘッドのCOGをさらに下げるために、タングステンなどの特に高密度の重い材料を含み得る。他の実施例では、ダンパ24は、例えばプラスチック、アルミニウムまたは鋼を含み得るが、それに限定されるものではない。ダンパ24は、例えばソール114にはんだ付けされ得るか、溶着され得るか、接着され得るか、クリッピングされ得るか、またはリベット留めされ得るが、それに限定されるものではない。
【0035】
また、
図7に示すように、クラブヘッド910では、たとえばソール914に形成された波状スロット916は、平面視において複数の屈曲部916b、916c、916f、916gを含んでいてもよい。さらに、波状スロット916は、上記複数の屈曲部916b、916c、916f、916gを介して接続された前側部916a、第1側方部916d、916e、および第2側方部916h、916iをさらに含んでいてもよい。具体的には、前側部916aは、平面視において打球フェース912側に位置するとともに打球フェース912に沿って延びる。前側部916aには、当該前側部916aの両端部に位置する屈曲部916b、916cを介して、前側部916aの延在方向と交差する方向に延びる第1側方部916d、916eが接続されている。第1側方部916d、916eには、前側部916aと接続された端部と反対側の端部に位置する屈曲部916f、916gを介して、第2側方部916h、916iが接続されている。第2側方部916h、916iのそれぞれは、第1側方部916d,916eの延在方向と異なる方向に延びる。
【0036】
また、異なる観点から言えば、波状スロット916の平面形状は、クラブヘッド910の外周に沿うように屈曲した形状を有していてもよい。波状スロット916の端部916j、916kは、クラブヘッド910の前後方向(
図7の左右方向)においてクラブヘッド910の中央部より後側に位置してもよい。
【0037】
また、上述したクラブヘッドにおける波状スロットでは、2つの波部が形成されているが、当該波部の数は3つ以上でもよい。たとえば波部の数は3つでもよいし、4つとしてもよく、5つ以上としてもよい。
【0038】
(実施例1)
実施例のクラブヘッドと比較例のクラブヘッドとについて、重心位置や反発係数についてシミュレーションによって検討した。
【0039】
<試料>
比較例のクラブヘッドとして、
図8および
図9に示すような構成のクラブヘッドを考えた。また、実施例のクラブヘッドとしては、
図10および
図11に示すような構成(ソールに波状スロットが形成された構成)のクラブヘッドを考えた。
図8〜
図11からわかるように、比較例のクラブヘッドと実施例のクラブヘッドとは、基本的な形状は同様であるが、実施例のクラブヘッドのソールにおいて波状スロット16(
図10、
図11参照)が形成されている一方、比較例のクラブヘッドでは、上記実施例のクラブヘッドの波状スロットが形成された場所に対応する領域11がほぼ平坦なソール表面となっている。また、比較例と実施例とで重心の位置をほぼそろえるため、比較例のクラブヘッドでは、
図9などからも分かるように、上記領域11に錘512が配置されている。
【0040】
比較例のクラブヘッドと実施例のクラブヘッドについて、波状スロット16が形成された領域または錘512が配置された領域以外の部分の構成は、基本的に同じとした。
【0041】
<計算方法>
シミュレーションソフト(Creo/Mechanica : PTC Inc.)を用いて、比較例および実施例のクラブヘッドについて、重心(COG)の位置、スイートスポット(SS)の位置、打球フェースの中心点(第1測定点)における反発係数、打球フェースの中心から地面側に下がった位置であって、地面から12mmの距離となっている第2測定点における反発係数を算出した。
【0042】
なお、
図12に示すように、重心13の位置については地面518から重心13までの高さa、およびスイートスポット(SS14)から重心13までの距離cを評価パラメータとした。また、スイートスポット(SS14)については、地面518からSS14までの高さbを評価パラメータとした。
【0043】
また、
図13に示すように、打球フェースの中心点(第1測定点15)は、打球フェースを含む平面において打球フェースの外周に接する四角形を仮定し、当該四角形の中心点とした。また、第2測定点17は、上記打球フェースを含む平面において、第1測定点15を通り、地面518に垂直な線分上において地面518からの距離が12mmとなる位置とした。なお、第2測定点17は、ゴルファーが実際にボールを打つ位置を想定して決定した。
【0044】
<結果>
実施例のクラブヘッドにおける重心13の地面518からの高さaは15.7mm、SS14から重心13までの距離cは23.7mm、地面518からSS14までの高さbは26.3mmであった。また、実施例のクラブヘッドの第1測定点15における反発係数(COR)は0.798であった。
【0045】
また、比較例のクラブヘッドにおける重心13の地面518からの高さaは15.5mm、SS14から重心13までの距離cは23.4mm、地面518からSS14までの高さbは26.8mmであった。また、比較例のクラブヘッドの第1測定点15における反発係数(COR)は0.799であった。このように、上述した高さa、高さb、距離cおよび第1測定点15における反発係数は、実施例と比較例とでほぼ同じになっている。特に、第1測定点15における反発係数については、実施例と比較例とでその差が0.001と小さくなっている。
【0046】
一方、実施例の第2測定点17における反発係数は0.780であり、比較例の第2測定点17における反発係数は0.770であった。第2測定点17における反発係数については、実施例と比較例とでその差が0.010となっている。つまり、第2測定点17では、反発係数の実施例と比較例との差が第1測定点15における当該差の10倍となっている。
【0047】
これは、実施例のクラブヘッドにおいて波状スロット16が形成されていることにより、第2測定点17における反発係数が比較例の当該反発係数より大きくなったためである。このように、実施例のクラブヘッドでは、重心13の位置などを比較例と同様としながら、打球フェースにおいて十分な反発係数を有する領域を広くすることができる。
【0048】
(実施例2)
<試料>
実施例1の実施例のクラブヘッドの構成において、
図11に示す波状スロット16の打球フェース寄りの波部の高さdを1.0mm、1.5mm、2.0mm、2.5mm、3.5mmと変えた構成(サンプル1〜サンプル5)を考えた。なお、ここで波部の高さdとしては、波部の中央部に位置する谷から波部の両端のピークまでの垂直方向における高さのうち小さい値を示す高さを用いた。
【0049】
<計算方法>
実施例1と同様のシミュレーションソフトを用いて、上述した各クラブヘッドについて第1測定点15および第2測定点17における反発係数を算出した。
【0050】
<結果>
第1測定点15における反発係数は、高さdが1.0mm〜2.0mm(サンプル1〜サンプル3)の場合0.799、高さdが2.5mm、3.5mm(サンプル4、5)の場合0.800であった。一方、第2測定点17における反発係数は、高さdが1.0mm(サンプル1)の場合0.771、高さdが1.5mm(サンプル2)の場合0.773、高さdが2.0mm(サンプル3)の場合0.780、高さdが2.5mm(サンプル4)の場合0.780、高さdが3.5mm(サンプル5)の場合0.781であった。
【0051】
このように、高さdが2.0mm以上である場合、第2測定点17における反発係数をある程度大きくできる。
【0052】
なお、ここで高さdは、打球フェース寄りの波部における谷からピークまでの高さとしたが、波部において谷の両側に位置するピークのそれぞれまでの高さが異なる場合(たとえば
図5D〜
図5Fなどに示す構成の場合)、高さdは谷から2つのピークまでの高さのうち小さい方の高さとしてもよい。
【0053】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0054】
11 領域、13 重心、14 スイートスポット、15 第1測定点、17 第2測定点、110,210,310,410,510,610,710,810,910 ゴルフクラブヘッド、112,212,312,912 打球フェース、114,214,314,914 ソール、16,116,216,316,416,516,616,716,916 波状スロット、118,218,318 側壁、119,219,319 側壁、120,222,223,322,323 波部、121,221 谷部、116a,916a 前側部、916b,916c,916f,916g 屈曲部、916d,916e 第1側方部、916h,916i 第2側方部、916j,916k 端部、130 ヘッド幅、131 ソール中央線、132 長さ、512 錘、518 地面。