特許第6556485号(P6556485)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556485
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】地盤注入方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20190729BHJP
【FI】
   E02D3/12 101
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-87319(P2015-87319)
(22)【出願日】2015年4月22日
(65)【公開番号】特開2016-204963(P2016-204963A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000230788
【氏名又は名称】日本基礎技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100072718
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 史旺
(74)【代理人】
【識別番号】100151002
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 剛之
(74)【代理人】
【識別番号】100201673
【弁理士】
【氏名又は名称】河田 良夫
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和成
(72)【発明者】
【氏名】武末 勝司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 雄一
【審査官】 湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−078564(JP,A)
【文献】 特開2015−025293(JP,A)
【文献】 特開2008−002076(JP,A)
【文献】 特開2014−185469(JP,A)
【文献】 特開2005−314939(JP,A)
【文献】 特開平01−010820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の対象領域に対して注入材を注入することで、前記地盤中に複数の改良体を立体的に造成する地盤注入方法であって、
前記地盤に前記注入材を注入する注入工程と、
前記注入工程が実行された後、前記注入材の注入を中断する中断工程と、
を繰り返し実行し、
前記注入工程は、台形波形又は三角波形で前記注入材の注入速度を変化させて行い、
前記注入工程は、前記注入材の注入速度が最大速度に到達するまでの前記注入材の注入速度の時間変化率の絶対値、及び前記注入材の注入速度が前記最大速度となる状態から前記注入材の注入を停止するまでの前記注入材の注入速度の時間変化率の絶対値を各々5.56×10-3L/秒2以下に、且つ、前記注入材の注入速度が前記最大速度に到達するまでの前記注入材の注入圧力の時間変化率の絶対値及び前記注入材の注入速度が前記最大速度となる状態から前記注入材の注入が停止されるまでの前記注入材の注入圧力の時間変化率の絶対値を各々0.5MPa/秒以下に設定したことを特徴とする地盤注入方法。
【請求項2】
請求項1に記載の地盤注入方法において、
前記注入工程は、
前記注入材の注入速度を前記台形波形で変化させる場合、前記注入材の注入速度をqp、注入速度の時間変化率をaq、係数をα(α=0〜1)としたときに、前記注入材の注入速度が前記最大速度となるときの保持時間Tpを、
Tp=(qp/3aq)×α
に設定することを特徴とする地盤注入方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の地盤注入方法において、
前記中断工程は、
前記注入材の注入速度をqp、注入速度の時間変化率をaq、係数をβ(β=1〜6)としたときに、前記注入材の注入を中断する時間Tiを、
Ti=(qp/3aq)×β
に設定することを特徴とする地盤注入方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の地盤注入方法において、
前記地盤の対象領域に近接する構造物の変位、前記地盤の変位、前記注入材の注入速度の最大速度及び前記注入材の注入圧力に基づいて、前記注入材の注入速度の漸増、漸減を行うことを特徴とする地盤注入方法。
【請求項5】
請求項に記載の地盤注入方法において、
前記注入材の注入速度における前記最大速度は、前記注入材を注入した後の前記地盤の対象領域に近接する構造物の変位、前記地盤の変位に基づいて規制されることを特徴とする地盤注入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不均一に堆積した自然地盤やポンプ浚渫などにより造成された人工地盤に対して複数の改良体を造成する地盤注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤注入における注入形態は、例えば地盤の土粒子を移動させることなく間隙水を注入材に置き換わるように浸透させる「浸透注入」と、土粒子を移動させながら注入材を注入する「割裂注入」とに大別される。「割裂注入」は改良範囲以外の部分に注入材が注入され、改良範囲内に未改良部が生じる可能性があるため、地盤注入における注入形態として「浸透注入」を行うことが理想とされる。また、「浸透注入」における注入材の注入は、ゲルタイムが60〜1000分程度である長結材を用いて、「割裂注入」に比べて低圧で静的に注入を行っている。
【0003】
透水係数が低い地盤に対する注入において注入速度を低く設定する必要がある場合、中結材の注入は、注入の途中でゲル化物の粘性が大きくなり以降の注入が不可能になる。注入圧力を上昇させて注入を継続した場合は、割裂により変位を生じさせる。このため、「浸透注入」を確保するには長結材を使用する必要がある。
【0004】
透水係数が5×10-4から1×10-3cm/sec程度の細粒分を多く含む砂地盤においては、浸透注入を確保するための注入速度はMaagの理論などによると4.5L/分以下であり、構造物近傍においてこれを超える注入速度で注入を行った場合、割裂注入により所定範囲外に薬液が逸走し、構造物に変位を生じさせることになる。
【0005】
近年、多数の微細亀裂を含む亀裂性岩盤に対するグラウト注入工法として「動的注入」の有効性が確認され、その適用例が増加している。「動的注入」は、注入圧力に特定の或いは数種類の周波数を持つ脈動圧力を重畳的に付加して注入を行う方法である。
【0006】
「動的注入」を用いた事例として特許文献1から特許文献3が挙げられる。特許文献1では、亀裂性岩盤にセメント、ベントナイト系の注入材(グラウト材)を注入する際に、注入圧力に5〜30Hzの周波数域から選択された特定の周波数を持つ脈動圧力を重畳的に付加して、グラウト材の構成粒子を励起させて浸透性を向上させる技術について開示している。
【0007】
また、特許文献2は、亀裂性岩盤および鉛直・水平方向に均一な砂質地盤にグラウト材を注入するグラウチングにおいて、注入圧力に、0.04〜0.08Hzの長波と1〜6Hzの短波の複合波による脈動圧力を重畳的に付加して、グラウト材の構成粒子を励起させて浸透性を向上させる技術について開示している。
【0008】
さらに、特許文献3は、地盤注入方法において、7〜15秒の周期で注入速度を増減変化させ、前記増減の繰返しの度に注入圧力の最大値及び最小値を増加させて注入することにより、割裂注入の発達を抑制して目的の範囲に注入材を効率良く浸透させる技術について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3096244号公報
【特許文献2】特許第5089430号公報
【特許文献3】特許第3757400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2では、透水係数が5×10-4〜1×10-3cm/sec程度の細粒分を多く含む砂地盤の注入においては、脈動圧力のピークは±0.5MPa以上となり、大きすぎる圧力により割裂注入が生じるため、所定の範囲外に注入材が注入されてしまうという問題がある。
【0011】
また、特許文献2及び特許文献3は、鉛直・水平方向に均一な模型地盤に一つの改良体を造成することを意図した試験を行っており、複数の改良体を立体的に造成する場合の浸透性については記載されていない。
【0012】
例えば、液状化の危険性が高い川沿いの沖積低地は、河川の氾濫によって運搬されて堆積した土砂により砂質土・粘性土の互層を形成している。不均一に堆積した自然地盤やポンプ浚渫などで造成された人工地盤に対して複数の改良体を立体的に造成する地盤注入工法においては、鉛直・水平方向に均一な地盤に対して注入する場合と比較して浸透性が低下することは想像に難しくない。
【0013】
したがって、鉛直・水平方向に均一な地盤に対して複数の改良体を立体的に造成する地盤注入方法として、特許文献2及び特許文献3に開示される注入方法を用いた場合は、注入材の注入の進捗に伴い対象地盤全体の透水性が低下して間隙水圧が次第に増加し、地盤の剪断強さが低下する。さらに注入材の注入を継続した場合、注入進捗率が最大70%前後に達した時点で割裂注入が生じて所定の範囲外に注入材が注入され、さらに、地盤や構造物変位が生じるリスクが高くなる。また、不均一に堆積した自然地盤やポンプ浚渫などで造成された人工地盤に対して立体的かつ連続的に改良体を造成する場合も同様である。
【0014】
本発明は、不均一に堆積した自然地盤やポンプ浚渫などで造成された人工地盤に対して複数の改良体を立体的に造成する地盤注入工法において、注入と中断を繰り返して断続的に注入し、変位を与えることなく短期間に確実な地盤改良効果を有する地盤注入工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
一つの観点によれば、地盤の対象領域に対して注入材を注入することで、前記地盤中に複数の改良体を立体的に造成する地盤注入方法であって、前記地盤に前記注入材を注入する注入工程と、前記注入工程が実行された後、前記注入材の注入を中断する中断工程と、を繰り返し実行し、前記注入工程は、台形波形又は三角波形で前記注入材の注入速度を変化させて行い、前記注入工程は、前記注入材の注入速度が最大速度に到達するまでの前記注入材の注入速度の時間変化率の絶対値、及び前記注入材の注入速度が前記最大速度となる状態から前記注入材の注入を停止するまでの前記注入材の注入速度の時間変化率の絶対値を各々5.56×10-3L/秒2以下に、且つ、前記注入材の注入速度が前記最大速度に到達するまでの前記注入材の注入圧力の時間変化率の絶対値及び前記注入材の注入速度が前記最大速度となる状態から前記注入材の注入が停止されるまでの前記注入材の注入圧力の時間変化率の絶対値を各々0.5MPa/秒以下に設定したことを特徴とする。
【0017】
また、前記注入工程は、前記注入材の注入速度を前記台形波形で変化させる場合、前記注入材の注入速度をqp、注入速度の時間変化率をaq、係数をα(α=0〜1)としたときに、前記注入材の注入速度が前記最大速度となるときの保持時間Tpを、
Tp=(qp/3aq)×α
に設定することが好ましい。
【0018】
また、前記中断工程は、前記注入材の注入速度をqp、注入速度の時間変化率をaq、係数をβ(β=1〜6)としたときに、前記注入材の注入を中断する時間Tiを、
Ti=(qp/3aq)×β
に設定することを特徴とする。
【0019】
また、前記注入材は、前記注入材を注入する深度を浅くしながら複数の異なる深度に対して順次注入されることを特徴とする。
【0020】
また、前記注入材は、前記注入材を注入する深度を深くしながら複数の異なる深度に対して順次注入されることを特徴とする。
【0021】
また、前記地盤の対象領域に近接する構造物の変位、前記地盤の変位、前記注入材の注入速度の最大速度及び前記注入材の注入圧力に基づいて、前記注入材の注入速度の漸増、漸減を行うことを特徴とする。
【0022】
この場合、前記注入材の注入速度における前記最大速度は、前記注入材を注入した後の前記地盤の対象領域に近接する構造物の変位、前記地盤の変位に基づいて規制されることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本件開示の地盤注入方法によれば、注入材の注入と中断を繰り返して断続的に注入することで、地盤に対して変位を与えることなく、短期間に確実な地盤改良効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】二重管ストレーナ工法を用いた地盤注入方法の手順を示す図である。
図2】施工システムの機能ブロックである。
図3】(a)はインチング注入工法における注入速度と経過時間との関係を示す模式図、(b)はインチング注入工法における注入圧力と経過時間との関係を示す模式図である。
図4】模型地盤の構成を示す断面図である。
図5】モルタル上面に設置したコンクリートゲージ及び変位計の位置を示す図である。
図6】(a)はケース1における応力の変化を示すグラフ、(b)はケース1における変位を示すグラフである。
図7】(a)はケース2における応力の変化を示すグラフ、(b)はケース2における変位を示すグラフである。
図8】(a)はケース3における応力の変化を示すグラフ、(b)はケース3における変位を示すグラフである。
図9】(a)はケース4における応力の変化を示すグラフ、(b)はケース4における変位を示すグラフである。
図10】(a)はケース5における応力の変化を示すグラフ、(b)はケース5における変位を示すグラフである。
図11】ケース1からケース5の試験を実施したときの模型地盤における団結材の状態を示す断面図である。
図12】インチング注入工法を用いて注入材を注入する場合で、応力値が管理値に到達したときに、管理値毎に設定した低減率に基づいて注入速度を規制する場合の一例を示す模式図である。
図13】ケース6からケース7の試験を実施したときの最大応力、最大変位、及び注入進捗率を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の地盤注入方法について説明する。地盤注入方法としては、二重管ストレーナ工法、二重管ダブルパッカ工法、単管ロッド工法、結束細管多点注入工法等の工法が挙げられる。なお、これら工法については、周知であることから詳細については説明を省略する。以下、本実施形態の地盤注入方法として、二重管ストレーナ工法を用いた場合について説明する。なお、二重管ダブルパッカ工法、単管ロッド工法、結束細管多点注入工法等の工法を用いて、本発明を実施することも可能である。
【0026】
図1(a)から図1(c)に示すように、二重管ストレーナ工法(単相式)は、内管と外管から構成される二重管構造のボーリングロッド10を取り付けた回転式削孔機(ロータリーボーリングマシン)11を用い、ボーリングロッド10の内部に削孔用水を送り込みながら地盤の所定の深度まで削孔し、注入材を一定量注入した後、ボーリングロッド10を所定量引き抜く。ボーリングロッド10により注入材を注入した後、ボーリングロッド10を所定量上昇させる動作を繰り返すことで、注入範囲12に改良体13を立体的に造成することが可能となる。
【0027】
なお、図1においては、地盤の所定の深度まで削孔した後、注入材を一定量注入し、ボーリングロッド10を所定量引き抜きながら、注入孔の口元側に向かって注入材を順次注入していくことで、地盤に改良体13を立体的に造成する方式(ステップアップ方式)について説明している。しかしながら、地盤に改良体13を立体的に造成する方式としては、ステップアップ方式の他に、注入口の口元側から注入を行った後、削孔を行いながら、所定の深度まで注入材を順次注入する方式(ステップダウン方式)を用いることも可能である。
【0028】
注入材は、水ガラス系溶液型、懸濁液型、土壌浄化材、重金属不溶化材、アクリル酸多価金属塩水溶液型の薬液が挙げられる。なお、注入材としては、例えば数十分以上経過したときに凝固する長結材、例えば数十分以上経過したときに凝固する中結材、数秒〜十数秒程度で凝固する瞬結材などが挙げられる。
【0029】
注入材は、以下に示す1ショット、1.5ショット及び2ショットのいずれかの混合方法を用いて地盤に注入される。例えば1ショットの場合、所定の配合比率で混合した薬液を予め1液の状態に混合しておき、混合された状態で地盤に注入する方法である。1ショットによる注入方法を用いる場合、注入材としては、長結材が用いられる。
【0030】
また、1.5ショットの場合、注入材を構成する主材と硬化材とを各々別経路により注入管頭部に送り込み、注入管頭部で主材及び硬化材を合流させて注入管の内部で混合しながら注入する方式である。1.5ショットによる注入方法を用いる場合、注入材としては、長結材や中結材が用いられる。
【0031】
また、2ショットの場合、注入材を構成する主材と硬化材とを各々別経路により注入管に送り込み、注入管の吐出口で合流混合させて注入する方式である。2ショットによる注入方法を用いる場合、注入材としては、長結材や中結材の他に瞬結材を用いることが可能である。
【0032】
図2は、地盤に改良体を立体的に造成する際に用いる施工システムの一例を示す機能ブロック図である。図2に示す施工システムでは、複数の改良体を造成する場合について説明している。なお、図2においては、回転式削孔機11や回転式削孔機11を制御する構成については省略している。
【0033】
施工システム20は、動態管理装置21と、動態管理装置21とローカルエリア接続される注入管理装置22や記録用PC23を有する。
【0034】
動態管理装置21は、測定器24からの測定データを記録用PC23から受信し、受信した測定データを用いて、測定器24に対応した注入ポンプ25の回転数の制限、停止指示判断を行う。動態管理装置21は、規制値と測定データを逐次比較しており、測定データが規制値を超えた場合に、注入管理装置22に対して逓減率を0〜99%の間で規制する指示を行う。なお、逓倍率は注入ポンプ25の各々で設定変更することができる。
【0035】
注入管理装置22は、流量・圧力測定装置26から流量圧力、瞬時流量、積算流量の計測データを取得し、流量圧力、瞬時流量、積算流量の計測データをモニタ等に表示する。注入管理装置22は、インバータ27を介して各注入ポンプ25に繋がっており、インバータ27を介して各注入ポンプ25に対するON/OFF及び周波数制御信号を送信する。また、動態管理装置21から注入ポンプ25の回転数の制限・停止指示信号(逓倍率)が送信されると、注入管理装置22は、注入ポンプ25における注入流量を、設定流量に逓倍率を掛けた数値となるように周波数制御信号を注入ポンプ25に出力する。
【0036】
記録用PC23は、測定器24からの測定データを取得し、注入材の注入時における応力や変位データをモニタ等に表示する。また、記録用PC23は、測定データを記録するとともに、動態管理装置21に測定データを送信する。
【0037】
測定器24は、注入口の近傍に設けられ、注入材の注入時における応力や地盤の変位を測定する。注入ポンプ25は、グラウトミキサと流量・圧力測定装置26との間に設けられ、削孔時に削孔用水を、注入材の注入時に薬液を回転式削孔機11に取り付けたボーリングロッド10に向けて送り込む。
【0038】
流量・圧力測定装置26は、注入ポンプ25と、回転式削孔機11に取り付けたボーリングロッド10の上端部に設けたスイベルとを接続するホースに設けられる。
【0039】
次に、注入材を地盤に注入する際の注入工法について説明する。本実施形態においては、注入材を注入した後、注入材の注入を一時中断する動作を繰り返し行う断続的注入(インチング注入)工法を採用した。なお、図3は、インチング注入工法における注入速度及び注入圧力の時間的変化を示す。なお、注入材の混合方法として、2ショットを採用した場合を示す。
【0040】
工程1:ボーリングロッド10を取り付けた回転式削孔機11を用いて地盤を削孔する。
工程2:ボーリングロッドの外管と内管よりそれぞれ主材・硬化材を同時に圧送し、ボーリングロッド10の吐出口に設けたグラウトモニタにより主材及び硬化材を混合して、ボーリングロッド10の先端から注入材を地盤に注入する。
工程3:注入材が所定量浸透注入した後、注入材の注入を一時中断する。
工程4:回転式削孔機11に取り付けられたボーリングロッド10を用いて地盤を再削孔する。
上記工程2から工程4を繰り返し、所定の注入が完了すると、注入材の注入工法が終了する。
【0041】
図3(a)及び図3(b)に示すように、地盤に注入材を注入する場合、注入材の注入速度が予め設定されたピーク値となるように注入ポンプの回転数が制御される。この注入ポンプの制御により、注入材の注入速度が最大速度(ピーク値)となるときに、注入材の注入圧力も最大圧力(ピーク値)となる。なお、図3(a)及び図3(b)中「MAX」がピーク値を示す。ここで、注入材の注入を開始してから注入速度がピーク値に到達するまでの注入速度の時間変化率ΔV1(=(Vmax−V0)/T1)の絶対値は5.56×10-3L/秒2以下、注入圧力の時間変化率ΔP1(=(Pmax−P0)/T1)の絶対値は0.5MPa/秒以下に設定される。
【0042】
また、図3(a)及び図3(b)に示すように、注入材の注入を中断する場合、注入材の注入速度が0となるように注入ポンプの回転数が制御される。したがって、注入材の注入速度が0となるように注入ポンプの回転数が制御されることで、注入材の注入圧力も0となる。注入材を注入する工程を停止する過程で、注入速度がピーク値から0になるまでの注入速度の時間変化率ΔV2(=(V0−Vmax)/T2)の絶対値は、5.56×10-3L/秒2以下に、また、注入圧力の時間変化率ΔP2(=(P0−Pmax)/T2)の絶対値は0.5MPa/秒以下に設定される。
【0043】
以下、本発明の注入工法における注入材の浸透性及び変位抑制効果を証明するために、模型地盤を用いた試験を行った。
【0044】
[試験1]
図4に示すように、模型地盤29は、直径56cm、高さ74cmの円筒形のモールド(ドラム缶)30の最下層に砂利の排水層31を設け、排水層31上に硅砂32を充填する。なお、側面にはドレーンパイプ33,34を設置している。ドレーンパイプ33,34は、飽和時は注水用として、注入時は排水用として使用される。硅砂32は、土粒子の密度Gs=2.647g/cm3、細粒分含有率Fc=6.6%、均等係数Uc=1.6である。硅砂32は、模型地盤29において相対密度Dr=80%の状態で、74cmの層厚に突き固められた。硅砂32の上部に厚み5cmのモルタル35を設ける。モルタル35の一軸圧縮強さは、46.5N/mm2に設定される。
【0045】
図5に示すように、注入材の注入時の挙動を監視するため、モルタル35の上面には、注入口36の中心から紙面上の上方向を0°としたときに、0°方向にコンクリートゲージC−0−1,C−0−2,C−0−3を配置した。コンクリートゲージC−0−1,C−0−2,C−0−3は、注入孔36の中心から外周側に向けて5cm、14cm、23cmの位置に設置した。
【0046】
また、0°方向に対して時計方向に90°回転した方向(以下、90°方向)に、コンクリートゲージC−90−1,C−90−2,C−90−3を配置した。コンクリートゲージC−90−1,C−90−2,C−90−3は、注入孔36の中心から外周側に向けて5cm、14cm、23cmの位置に設置した。コンクリートゲージC−0−1,C−0−2,C−0−3,C−90−1,C−90−2,C−90−3としては、例えば鋼材や、コンクリート、モルタルの表面ひずみの測定、木材の短期測定に使用するポリエステル樹脂をベースにした箔ゲージが挙げられる。
【0047】
同様にして、上述した0°方向に、変位計H−0−2,H−0−3を注入孔36の中心から外周側に向けて14cm及び23cmの位置に設置した。また、90°方向に、変位計H−90−2,H−90−3を注入孔36の中心から外周側に向けて14cm及び23cmの位置に設置した。
【0048】
以下、注入材の注入方法として、静的注入方法及び動的注入方法の他に、本実施形態に示すインチング注入方法を用いた。なお、注入材は、水ガラス系溶液型の中結材を用いている。なお、ケース4及びケース5においては、注入材の注入圧力の時間的変化の絶対値が0.5MPa/秒以下となるように注入ポンプの回転数を制御している。
【0049】
なお、ケース1からケース5のいずれの事例に対しても、図4に示す1ステップ、2ステップ、3ステップの各ステップの位置で注入材の注入を行うステップダウン方式で行った。
【0050】
[ケース1]
注入方法:静的注入
注入速度:4.5L/分
[ケース2]
注入方法:静的注入
注入速度:9.0L/分
[ケース3]
注入方法:動的注入
注入速度:最小速度4.0L/分
最大速度8.0L/分
周期7秒
[ケース4]
注入方法:断続的注入(インチング注入)
最大注入速度:0.075L/秒(4.5L/分)
注入速度の時間変化率の絶対値:5.56×10-3L/秒2
ピーク保持時間係数:1
中断時間係数:1
ピーク速度の保持時間:4.5秒
中断期間:4.5秒
[ケース5]
注入方法:断続的注入(インチング注入)
最大注入速度:0.075L/秒(4.5L/分)
注入速度の時間変化率の絶対値:5.56×10-3L/秒2
ピーク保持時間係数:1
中断時間係数:6
ピーク速度の保持時間:4.5秒
中断期間:27秒
【0051】
なお、ケース4及びケース5において、ピーク速度保持時間Tp及び中断時間Tiは、(1)式及び(2)式で表される。
Tp=(qp/3aq)×α・・・・(1)
Ti=(qp/3aq)×β・・・・(2)
【0052】
ここで、qpは最大注入速度、aqは注入速度の時間変化率、αはピーク保持時間係数、βは中断時間係数である。なお、ピーク保持時間係数αは、0から1の間の値に設定され、中断時間係数βは、1から6の値に設定される。
【0053】
図6から図10に、ケース1からケース5の各事例における応力の変化及び変位量の変化を示す。なお、各図において「1STEP」、「2STEP」及び「3STEP」は、注入材が注入される順序を示す。ここで、「1STEP」で示す位置は、図4に示す硅砂32の上面から深さ10cmの位置である。また、「2STEP」は、図4に示す硅砂32の上面から深さ25cmの位置である。また、「3STEP」は、図4に示す硅砂32の上面から深さ40cmの位置である。なお、応力の変位において、例えば1.5N/mm2を上回ったときに、浸透注入の他に、割裂注入が発生していると判断できる。
【0054】
図6に示すように、ケース1の場合、1ステップ目から応力の増加が発生し、2ステップ目において応力が2N/mm2を上回った時点で変位が発生している。そして、3ステップ目において変位が最大50mmに到達している。
【0055】
図7に示すように、ケース2の場合、1ステップ目の注入材の注入開始直後から応力が増加し、少し遅れて変位が増加している。2ステップ目において変位は28mmに達してからは、大きな変位の変動は見られない。
【0056】
図8に示すように、ケース3の場合、1ステップ目から2ステップ目の前半にかけて、応力増加及び変位の発生は無く、割裂注入の発達が抑制され、効率良く浸透注入が行われていることが伺える。2ステップ目の途中から応力が増大するが変位は生じていない。2ステップ目の注入完了後に応力は収束するが、3ステップ目の注入開始直後から応力が著しく増大し、同時に変位が生じている。応力が増大するタイミングは、注入量が計画量に対して70%の進捗率に達したタイミングに重なっている。
【0057】
図9に示すように、ケース4の場合、2ステップ目及び3ステップ目において、応力は増加しているが応力の変化は1.5N/mm2未満であり、変位の変動も1mm未満である。
【0058】
図10に示すように、ケース5の場合、ケース4と同様に、2ステップ目及び3ステップ目において、応力は増加しているが応力の変化は1.5N/mm2未満であり、変位の変動も1mm未満である。
【0059】
つまり、ケース4及びケース5の場合は、地盤の間隙水圧が効率良く消散し、割裂注入は発生せず、浸透注入が確保されていることがわかる。
【0060】
なお、上述したケース1からケース5の各事例における団結材の断面図を図11に示す。図11(a)はケース1における団結材の断面図、図11(b)はケース2における団結材の断面図である。また、図11(c)はケース3における団結材の断面図、図11(d)はケース4における団結材の断面図である。最後に、図11(e)は、ケース5における団結材の断面図である。
【0061】
図11(a)に示すように、ケース1では団結体40は上部に形成されている。図11(b)に示すように、ケース2ではケース1と同様に団結材41は上部に形成されている。これらケース1及びケース2では、硅砂32とモルタル35との境界に注入材が逸走しており、注入圧力がモルタル35の下面に直接作用した状況が伺える。
【0062】
図11(c)に示すように、ケース3では、固結体42は、注入口36を中心に概ね形成されているが、やや上方に位置し、モルタル35の下面に接している。
【0063】
図11(d)に示すように、ケース4では固結体43は注入口36を中心に形成され、良好な浸透注入が確保できていることが確認できる。また、図11(e)に示すように、ケース5では、ケース4と同様に、固結体44は注入口36を中心に形成され、良好な浸透注入が確保できていることが確認できる。
【0064】
[試験2]
試験2では、試験1と同一の模型地盤29を用いて、インチング注入工程における注入条件を変えて試験を行った。試験2では、図12に示すように、一次管理値及び二次管理値に到達した場合に、注入ポンプの回転数を制限して、注入速度を変更している。ここで、一次管理値を1N/mm2とし、二次管理値を2N/mm2としている。また、最大注入速度は、一次管理値に到達することで80%に制限され、二次管理値に到達することで50%に制限される。
【0065】
[ケース6]
注入方法:断続的注入(インチング注入)
最大注入速度:0.15L/秒(9.0L/分)
注入速度の時間変化率:5.56×10-3L/秒2
ピーク保持時間係数α:1
中断時間係数β:1
ピーク保持時間:9秒
中断時間:9秒
[ケース7]
注入方法:断続的注入(インチング注入)
最大注入速度:0.15L/秒(9.0L/分)
注入速度の時間変化率:5.56×10-3L/秒2
ピーク保持時間係数α:0
中断時間係数β:6
ピーク保持時間:0秒
中断時間:54秒
[ケース8]
注入方法:断続的注入(インチング注入)
最大注入速度:0.15L/秒(9.0L/分)
注入速度の時間変化率:11.12×10-3L/秒2
ピーク保持時間係数α:1
中断時間係数β:1
ピーク保持時間:4.5秒
中断時間:4.5秒
[ケース9]
注入方法:断続的注入(インチング注入)
最大注入速度:0.15L/秒(9.0L/分)
注入速度の時間変化率:5.56×10-3L/秒2
ピーク保持時間係数α:2
中断時間係数β:0.5
ピーク保持時間:18秒
中断時間:4.5秒
【0066】
図13に示すように、ケース6及びケース7は、応力値が1N/mm2に到達して、最大注入速度が初期値の80%に低減される。しかしながら、最大応力及び最大変位は、各々低い値となり、応力値が2N/mm2に達することなく注入進捗率100%を達成した。このことから、断続的注入による注入方法は、複数の改良体を立体的に造成する地盤注入工法において、近接構造物への影響を軽減しながら所定の範囲を100%改良できることが立証された。また、ケース8及びケース9は、応力値が2N/mm2に到達して、最大注入速度が初期値の50%まで低減される。これらケース8及びケース9の場合には、ケース6及びケース7と比較して最大応力及び最大変位ともに、非常に高い値であることが確認された。
【0067】
試験1及び試験2の結果により、注入速度の時間変化率の絶対値は5.56×10-3L/秒2以下、ピーク保持時間係数αは0〜1、中断時間係数βは1〜6であるとき、断続的注入がより有効であることが判明した。なお、中断時間係数βが6を超える場合も断続的注入の効果は有効であるが、中断時間係数βが1〜6で実施した場合と比較して更なる効果の向上は見込めず、また、施工効率が低下して経済性が悪化する。
【符号の説明】
【0068】
10…ボーリングロッド、11…回転式削孔機、13…改良体、20…施工システム、21…動態管理装置、22…注入管理装置、23…記録用PC、24…測定器、25…注入ポンプ、26…流量・圧力測定装置、29…模型地盤
図1
図2
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図4
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図7
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図10
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図12
図13