(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜3に示される密封装置では、スリンガが、内径側の第1円筒部と、円板部と、外径側の第2円筒部とにより断面形状が二重円筒形の倒U字形の形状をなす。そして、スリンガの第2円筒部と第2部材とによってラビリンス部が形成されることにより、ラビリンス部の軸方向に沿った長さが大きく確保される。したがって、外部からラビリンス部を経て密封装置内へ塵埃等を含む泥水等(以下、泥水等と言う)の浸入を阻止する機能が効果的に発揮される。しかし、スリンガを前記のように倒U字形の形状をなすようにすると、逆に、一旦密封装置内に浸入した泥水等が外部に排出され難くなり、泥水等が、スリンガと第2部材とにより囲まれる空間部に経時的に蓄積されてゆく。蓄積された泥水等に含まれる塵埃等の異物は、サイドリップのスリンガの円板部に対する弾接部に噛み込み、これによって、回転側部材の回転に伴うサイドリップの円板部に対する弾性的摺接部が摩耗する。この摩耗によって、サイドリップの円板部に対する弾接部から、泥水等がさらに密封装置内を経てシール対象の軸受空間内に浸入し、シール機能が経時的に低下して密封装置としての寿命が短くなる。
【0005】
本発明は、前記実情に鑑みなされたもので、第1部材が二重円筒形状である密封装置において、第1部材における外径側円筒部の軸方向長さ、外径側円筒部の内径側部分の軸方向長さ、さらには、外径側円筒部と第2部材との間のラビリンス量(隙間)を適正化することにより、密封装置内への泥水等の浸入を抑えまた浸入した泥水等の排出性を高め、シール性能が長く維持される新規な密封装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る密封装置は、外側部材と、該外側部材に対して同軸回転する内側部材との間に装着される密封装置であって、前記内側部材に外嵌される2重円筒形の第1部材と、前記外側部材に内嵌される芯金及び該芯金に固着されて前記第1部材に弾接する弾性体製のシールリップ部を備えた第2部材とが組み合わさって構成され、前記第1部材の内径側及び外径側円筒部は、軸方向に沿って前記第2部材側に延びるように形成され、前記第2部材の前記芯金は、前記外側部材の内径面に内嵌される芯金円筒部と、前記芯金円筒部の一端部から内径側に延びる内向鍔部とを備え、前記第1部材の外径側円筒部における外径側部分と前記第2部材の前記芯金円筒部との間に、軸方向に沿った第1ラビリンス部を形成すると共に、前記第1部材の外径側円筒部の端面と前記第2部材の前記内向鍔部との間に、前記第1ラビリンス部に連続する径方向に沿った第2ラビリンス部とを形成し、前記第1ラビリンス部の軸方向長さが1.5mm以上であり、前記第1部材の外径側円筒部における内径側部分の軸方向長さが0.75mm以上とされ、さらに前記第2ラビリンス部の隙間が1mm以下であ
り、前記シールリップ部は、前記第1部材の内径側円筒部から外径側に延びる円板部に弾接し、前記外径側円筒部と前記シールリップ部との間には、空間部が設けられ、前記空間部に至る前記外径側円筒部と前記第2部材との間は、前記第1ラビリンス部及び前記第2ラビリンス部のみで構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の密封装置によれば、第2部材に備えられた弾性体製のシールリップ部が、第1部材に弾接するから、内側部材が外側部材に対して同軸回転する際には、シールリップ部が第1部材に対して弾性的に相対摺接する。したがって、内側部材の同軸回転時にも、外部から当該密封装置を経て、外側部材と内側部材との間の被密封空間への泥水等の浸入が防止される。また、第1部材が内径側円筒部及び外径側円筒部を含む二重円筒形であり、第1部材の外径側円筒部は、前記第2部材との間に軸方向に沿った第1ラビリンス部と、該第1ラビリンス部に連続する径方向に沿った第2ラビリンス部とを形成するから、当該密封装置に対する外部からの泥水等の実質的な浸入経路が長くなる。これと内側部材の軸回転に伴う第1部材の遠心作用及びポンピング作用とが相俟って、密封装置内への泥水等の浸入阻止、及び、一旦密封装置内に浸入した泥水等の吐き出し機能が効果的に発揮される。これによって、シールリップ部の第1部材に対する弾接部に泥水等に含まれる塵埃等の噛み込みが低減され、第1部材の軸回転に伴うシールリップ部の第1部材に対する前記弾性的相対摺接によっても、シールリップ部の経時的な摩耗が抑えられて、当該密封装置の長寿命化が図られる。そして、第1ラビリンス部の軸方向長さが1.5mm以上とされているから、前記密封装置内への泥水等の浸入阻止及び前記吐き出し機能がより効果的に発揮される。因みに、第1ラビリンス部の軸方向長さが1.5mmより小さいと、泥水等の密封装置内への浸入阻止及び吐き出し機能が低減する傾向となる。なお、第1ラビリンス部の軸方向長さは、当該密封装置の仕様や装着される部位のスペース的な範囲内で1.5mm以上に設定される。
【0008】
また本発明によれば、第1部材の外径側円筒部における内径側部分の軸方向長さが0.75mm以上であることにより、第1部材と第2部材とにより囲まれた空間が大きく確保され、内側部材の軸回転に伴い、当該空間内に溜まった泥水等のラビリンス部を経た外部への吐き出し機能がより発生し易くなる。これによって、仮に第1及び第2のラビリンス部を経て当該密封装置内に泥水等が浸入しても、浸入した泥水等がラビリンス部を経て装置外に速やかに排出されて滞留が抑制される。したがって、シールリップ部と第1部材との弾接部に対する塵埃等の前記噛み込みがより効果的に低減され、当該密封装置が長寿命化される。因みに、外径側円筒部における内径側部分の軸方向長さが0.75mmより小さいと、前記遠心力による泥水等の吐き出し効果が少なくなる傾向となる。なお、外径側円筒部における内径側部分の軸方向長さは、当該密封装置の仕様や装着される部位のスペース的な範囲内で0.75mm以上に設定される。
【0009】
さらに本発明によれば、第2ラビリンス部の隙間が1mm以下であるから、仮に、第1ラビリンス部に泥水等が浸入してもこの第2ラビリンス部によってそれ以上の密封装置内への浸入が抑えられる。因みに、第2ラビリンス部の隙間が1mmより大きいと、第1ラビリンス部に浸入した泥水等は、さらに密封装置内へ浸入し易くなる傾向となる。なお、第2ラビリンス部の隙間は、当該密封装置の仕様や装着される部位のスペース的な範囲内で1mm以下に設定される。
【0010】
本発明において、前記第1部材は、前記内側部材に外嵌される第1円筒部と、該第1円筒部から外径側に延びる円板部と、該円板部の外周縁部から延出された第2円筒部とを含む2重円筒形状をなすスリンガを有し、前記スリンガの第2円筒部が前記第1部材の外径側円筒部を構成するものとしても良い。
本発明によれば、第1ラビリンス部はスリンガの第2円筒部の軸方向に沿った長さ分に及ぶことになるから、前記と同様に、泥水等の浸入経路が長くなり、これと内側部材の軸回転に伴うスリンガの遠心作用とが相俟って、密封装置内への泥水等の浸入阻止及び吐き出し機能がより効果的に発揮される。
【0011】
本発明において、前記第1部材は、前記内側部材に外嵌される第1円筒部と、該第1円筒部から外径側に延びる円板部と、該円板部の外周縁部から延出された第2円筒部とを含む2重円筒形状をなすスリンガを有すると共に、前記スリンガの円板部には、回転検出用の環状エンコーダが固着一体に設けられており、前記スリンガの第2円筒部と前記環状エンコーダの外径側端部とにより前記第1部材の外径側円筒部を構成するものとしても良い。
本発明によれば、第1ラビリンス部はスリンガの第2円筒部の軸方向長さ及び環状エンコーダの外径側端部の軸方向長さに及ぶことになるから、前記と同様に、泥水等の浸入経路が長くなり、これと内側部材の軸回転に伴うスリンガ及び環状エンコーダの遠心作用とが相俟って、密封装置内への泥水等の浸入阻止及び吐き出し機能がより効果的に発揮される。
【0012】
この場合、前記スリンガの第2円筒部の外周面には、円筒状の弾性部材が固着一体に設けられており、前記弾性部材で覆われたスリンガの第2円筒部と前記環状エンコーダの外径側端部とにより前記第1部材の外径側円筒部を構成するものとしても良い。
本発明によれば、第1ラビリンス部は前記弾性体の軸方向長さ及び環状エンコーダの外径側端部の軸方向長さに及ぶことになるから、前記と同様に、泥水等の浸入経路が長くなり、これと内側部材の軸回転に伴う弾性部材で覆われたスリンガ及び環状エンコーダの遠心作用とが相俟って、密封装置内への泥水等の浸入阻止及び吐き出し機能がより効果的に発揮される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第1部材が二重円筒形状である密封装置において、第1部材における外径側円筒部の軸方向長さ、加えて、外径側円筒部の内径側部分の軸方向長さ、さらには、外径側円筒部と第2部材との間のラビリンス量(隙間)が適正化され、これらによって、密封装置内への泥水等の浸入を効果的に抑え、また浸入した泥水等の排出性を高め、密封装置の長寿命化が図られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1は、自動車の車輪(不図示)を軸回転可能に支持する軸受装置1を示す。この軸受装置1は、大略的に、外側部材としての外輪2と、ハブ輪3と、ハブ輪3の車体側に嵌合一体とされる内輪部材4と、外輪2とハブ輪3及び内輪部材4との間に介装される2列の転動体(ボール)6…とを含んで構成される。この例では、ハブ輪3及び内輪部材4が内側部材としての内輪5を構成する。外輪2は、自動車の車体(不図示)に固定される。また、ハブ輪3にはドライブシャフト7が同軸的にスプライン嵌合され、ドライブシャフト7は等速ジョイント8を介して不図示の駆動源(駆動伝達部)に連結される。ドライブシャフト7はナット9によって、ハブ輪3と一体化され、ハブ輪3のドライブシャフト7からの抜脱が防止されている。内輪5(ハブ輪3及び内輪部材4)は、外輪2に対して、軸L回りに回転可能とされ、外輪2と、内輪5とにより、相対的に回転する2部材が構成され、該2部材間に環状空間Sが形成される。環状空間S内には、2列の転動体6…が、リテーナ6aに保持された状態で、外輪2の軌道輪2a、ハブ輪3及び内輪部材4の軌道輪3a,4aを転動可能に介装されている。ハブ輪3は、円筒形状のハブ輪本体30と、ハブ輪本体30より立上基部31を介して径方向外側に延出するよう形成されたハブフランジ32を有し、ハブフランジ32にボルト33及び不図示のナットによって車輪が取付固定される。以下において、軸L方向に沿って車輪に向く側(
図1において左側を向く側)を車輪側、車体に向く側(同右側を向く側)を車体側と言う。
【0016】
環状空間Sは、軸受空間を形成し、この環状空間(以下、軸受空間と言う)Sの軸L方向に沿った両端部であって、外輪2とハブ輪3との間、及び外輪2と内輪部材4との間には、ベアリングシール10,11が装着され、軸受空間Sの軸L方向に沿った両端部が密封される。これによって、軸受空間S内への泥水等の浸入や軸受空間S内に充填される潤滑剤(グリース等)の外部への漏出が防止される。
【0017】
ベアリングシール10,11のうち、車体側のベアリングシール11を本発明に係る密封装置として説明するが、車輪側のベアリングシール10に本発明を適用することも可能である。このベアリングシール(密封装置)11の実施の形態について、
図2〜
図5をも参照して説明する。
図2は本発明に係る密封装置の第一の実施形態を示し、ベアリングシール11は、外輪2と内輪5とを有する軸受装置1に装着される。当該ベアリングシール11は、内輪(内側部材)5に外嵌される2重円筒形の第1部材50と、外輪(外側部材)2に内嵌される第2部材60とが組み合わさって構成される。
【0018】
本実施形態のベアリングシール11において、第2部材60は、外輪2に内嵌される芯金61と、芯金61に固着されたゴム製のシールリップ部62とを備える。さらに具体的には、芯金61は、外輪2の内径面2bに内嵌される芯金円筒部611と、芯金円筒部611の軸受空間S側の端部611aから内径側に延びる内向鍔部612とを備えてなり、断面形状が略L字形状をなす。また、シールリップ部62は、ゴム材からなり、芯金61に加硫成型により固着一体とされるシールリップ基部620と、シールリップ基部620から延出された1個のサイドリップ621及び2個のラジアルリップ622,623とを備える。シールリップ基部620は、芯金61における内向鍔部612の軸受空間S側の面612aの一部から内周縁部612bを回り込み、内向鍔部612の軸受空間Sとは反対側の面612cの全面を覆うように芯金61に固着一体とされている。さらに、シールリップ基部620は、芯金円筒部611の内径面611bの全面を覆い、軸受空間Sとは反対側の端部611cを回り込んで芯金円筒部611の外径面611dに至るように芯金61に固着一体とされている。シールリップ基部620の芯金円筒部611の外径面611dに至る部分は、外径側に隆起する環状突部624とされ、この環状突部624は、芯金61が外輪2に内嵌された際、外輪2の内径面2bと芯金円筒部611の外径面611dとの間に圧縮状態で介在するように形成されている。環状突部624の、外輪2と芯金円筒部611との間での圧縮状態の介在によって、外輪2及び芯金円筒部611の嵌合部への泥水等の浸入が防止される。これによって、外輪2及び芯金円筒部611の嵌合部の発錆を防止すると共に、この嵌合部からの軸受空間S内への泥水等の浸入が防止される。環状突部624の2点鎖線部は圧縮前の原形状を示している。
【0019】
第1部材50は、断面倒U字形状をなす2重円筒形のスリンガ51を備える。スリンガ51は、内輪5(内輪部材4)に外嵌される第1円筒部511と、第1円筒部511の軸受空間Sとは反対側の端部511aから外径側に延びる円板部512と、円板部512の外周縁部512aから軸L方向に沿って第2部材60側に延びる第2円筒部513を含む。第2部材60のサイドリップ621は、スリンガ51における円板部512の軸受空間S側の面512bに弾接する。また、ラジアルリップ622,623は、スリンガ51における第1円筒部511の外径面511bに弾接する。
図2において、サイドリップ621及びラジアルリップ622,623の2点鎖線部は、弾性変形前の原形状を示す。
【0020】
本実施形態のベアリングシール11においては、スリンガ51の第1円筒部511が内径側円筒部501を、第2円筒部513が第1部材50の外径側円筒部502をそれぞれ構成する。第2円筒部513(外径側円筒部502)は、第2部材60との間にラビリンス構造部rを構成する。このラビリンス構造部rは、軸L方向に沿った第1ラビリンス部r1と、該第1ラビリンス部r1に連続する径方向に沿った第2ラビリンス部r2とにより構成される。第1ラビリンス部r1は、第2円筒部513の外周面513aと、これに対向する第2部材60の外輪2に対する内嵌部(芯金円筒部611及び芯金円筒部611を覆っているシールリップ基部620の内周面620a)との間に形成される。また、第2ラビリンス部r2は、第2円筒部513の軸受空間S側(車輪側)の端面513bと、これに対向する部分(シールリップ基部620における内向鍔部612の軸受空間Sとは反対側の面612cを覆う部分)の車体側面620bとの間に、径方向に沿って形成される。第1ラビリンス部r1の軸L方向長さd1は、当該密封装置11の仕様や装着される部位のスペース的な範囲内で1.5mm以上に設定される。また、第1部材50の外径側円筒部502における内径側部分の軸方向長さd2が当該密封装置11の仕様や装着される部位のスペース的な範囲内で0.75mm以上に設定される。さらに、第2ラビリンス部r2の隙間aは、当該密封装置11の仕様(加工公差含む)や装着される部位のスペース的な範囲内で1mm以下に設定される。特に、隙間aはできるだけ小さい方が望ましいが、第1部材50は第2部材60に対して同軸回転するから、回転時に第2円筒部513の端面513bが、シールリップ基部620の車体側面620bに当たらない程度の加工公差を含む最低限の隙間が確保される。
【0021】
図3は同実施形態の変形例を示す。この例では、
図2の例に比べて第2円筒部513の端面513bに対向する、シールリップ基部620の車体側面620bが軸受空間S側に凹んだ形状とされている。これにより、第1ラビリンス部r1の軸方向長さd1及び外径側円筒部502における内径側部分の軸方向長さd2が前記例より大きく確保される。その他の構成は
図2の例と同様であるから共通部分に同一の符号を付す。
【0022】
図2及び
図3に示す例のように構成されるベアリングシール11が組み込まれた軸受装置1において、ドライブシャフト7が軸Lの回りに回転すると、内輪5は外輪2に対してドライブシャフト7と一体で同軸回転する。この時、サイドリップ621及びラジアルリップ622,623は、それぞれ、スリンガ51の円板部512及び第1円筒部511に弾接した状態で相対摺接する。したがって、軸受装置1の稼働中、外部からベアリングシール11を経て軸受空間S内への泥水等の浸入が防止される。また、軸受空間S内に充填されている潤滑剤(グリース等)の軸受装置1外への漏出が防止される。そして、軸L方向に沿った第1ラビリンス部r1及び径方向に沿った第2ラビリンス部r2と、内輪5の軸回転に伴う遠心作用とが相俟って、ベアリングシール11の外部からベアリングシール11内への塵埃を含む泥水等の浸入が抑制される。しかし、第1及び第2ラビリンス部r1,r2は隙間であるから、泥水等の浸入を完全に防止し得るものではなく、若干の泥水等はベアリングシール11内へ浸入することは不可避である。そして、ベアリングシール11内へ浸入した泥水等は、スリンガ51の第2円筒部513、円板部512、サイドリップ621及びシールリップ基部620で囲まれた空間部110に至る。この空間部110はポケット形状をなすので、内輪5の軸回転に伴いポンピング作用が働き、浸入した泥水等を第1及び第2ラビリンス部r1,r2側に押し戻そうとする。
【0023】
前記のように、第1及び第2ラビリンス部r1,r2によって、空間部110への泥水等の浸入は抑制されるが、少量でも空間部110に浸入した泥水等は、徐々に空間部110内に蓄積される。そして、泥水等の蓄積に伴い、泥水等に含まれる塵埃が、サイドリップ621における円板部512の車輪側面512bに対する弾接部に噛み込み、内輪5の軸回転に伴う弾性摺接によって、サイドリップ621の先端部が摩耗することがある。しかし、軸受空間Sとは反対側に向くラジアルリップ622がスリンガ51の第1円筒部511(内径側円筒部501)に弾接するから、サイドリップ621の先端部が摩耗して泥水等がサイドリップ621の円板部512に対する弾接部を通過しても、ラジアルリップ622によってそれ以上の浸入が阻止される。これによって、ベアリングシール11のシール機能が永く維持される。加えて後記する性能試験(
図6、
図7)の結果からも、第1ラビリンス部r1の軸方向長さd1、外径側円筒部502における内径側部分の軸方向長さd2及び第2ラビリンス部r2の隙間aを前記のように設定することにより、一旦空間部110内に浸入した泥水等の排出機能が効果的に発揮され、ベアリングシール11の長寿命化が図られる。
【0024】
図4は、本発明に係る密封装置の第二の実施形態を示す。本実施形態のベアリングシール(密封装置)11では、前記第1部材50は、前記例と同様形状のスリンガ51を有すると共に、スリンガ51における円板部512の車体側面512cには、回転検出用の環状エンコーダ53が固着一体に設けられており、スリンガ51の第2円筒部513と環状エンコーダ53の外径側端部53aとにより第1部材50の外径側円筒部502を構成する。環状エンコーダ53は、磁性粉を含むゴム材を円板部512の車体側面512cに加硫成型により一体とし、その車体側面53bに多数のN極及びS極を周方向に交互且つ等間隔で着磁したものである。車体(不図示)には、環状エンコーダ53の着磁面(車体側面)53bに対峙するよう磁気センサ12が設置され、この磁気センサ12と磁気エンコーダ53とにより、内輪5(車輪)の回転検出機構が構成される。
【0025】
第2部材60は、
図3に示す例と略同形状の芯金61と、芯金61に固着されたゴム製のシールリップ部62とを備える。シールリップ部62は、前記と同様にゴム材からなり、芯金61に加硫成型により固着一体とされるシールリップ基部620と、シールリップ基部620から延出された2個のサイドリップ621,625及び1個のラジアルリップ623とを備える。この例でも、外径側円筒部502は、第2部材60との間にラビリンス構造部rを構成する。このラビリンス構造部rは、軸L方向に沿った第1ラビリンス部r1と、該第1ラビリンス部r1に連続する径方向に沿った第2ラビリンス部r2とにより構成される。第1ラビリンス部r1の軸方向長さd1は、スリンガ51における円板部512の車体側端面512c及び第2円筒部513の端面513b間距離と、環状エンコーダ53の軸L方向の厚みとの合計とされる。そして、第1ラビリンス部r1の軸方向長さd1は、前記と同様に当該密封装置11の仕様や装着される部位のスペース的な範囲内で1.5mm以上に設定される。また、第1部材50の外径側円筒部502における内径側部分の軸方向長さd2は、これも前記と同様に、当該密封装置11の仕様や装着される部位のスペース的な範囲内で0.75mm以上に設定される。さらに、第2ラビリンス部r2の隙間aも、前記例と同様に、当該密封装置11の仕様(加工公差含む)や装着される部位のスペース的な範囲内で1mm以下に設定される。
【0026】
この例においても、
図1に示す軸受装置1に組込まれて、内輪5が軸L回りに回転すると、前記と同様に、第1及び第2ラビリンス部r1,r2によって、空間部110への泥水等の浸入は抑制されるが、少量でも空間部110に浸入した泥水等は、徐々に空間部110内に蓄積される。そして、泥水等の蓄積に伴い、泥水等に含まれる塵埃が、サイドリップ621における円板部512の車輪側面512bに対する弾接部に噛み込み、内輪5の軸回転に伴う弾性摺接によって、サイドリップ621の先端部が摩耗することがある。しかし、このサイドリップ621より内径側に位置するもう1つのサイドリップ625が円板部512の車輪側面512bに弾接するから、サイドリップ621の先端部が摩耗して泥水等がサイドリップ621の円板部512に対する弾接部を通過しても、サイドリップ625によってそれ以上の浸入が阻止される。これによって、ベアリングシール11のシール機能が永く維持される。加えて後記する性能試験(
図6、
図7)の結果からも、第1ラビリンス部r1の軸方向長さd1、外径側円筒部502における内径側部分の軸方向長さd2及び第2ラビリンス部r2の隙間aを前記のように設定することにより、一旦空間部110内に浸入した泥水等の排出機能が効果的に発揮され、ベアリングシール11の長寿命化が図られる。
その他の構成は、前記例と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、その作用・効果等の説明は割愛する。
【0027】
図5は、第二の実施形態の変形例を示す。本例のベアリングシール(密封装置)11では、
図4に示す例と同じ構造のスリンガ51の第2円筒部513の外周面に、円筒状の弾性部材54が固着一体に設けられている。また、スリンガ51における円板部512の車体側面512cには、
図4に示す例と同様に環状エンコーダ53が固着一体とされている。弾性部材54は環状エンコーダ53と連続する磁性粉を含むゴム材からなり、環状エンコーダ53の加硫成型時に同時に第2円筒部513に加硫一体に成型される。円筒状の弾性部材54は、さらに、第2円筒部513の軸受空間S側の端面513bを覆う端面覆部54aを連続的に有している。弾性部材54で覆われたスリンガ51の第2円筒部513と、前記環状エンコーダ53の外径側端部53aとにより前記第1部材の外径側円筒部502を構成する。
【0028】
この例でも、外径側円筒部502は、第2部材60との間にラビリンス構造部rを構成する。このラビリンス構造部rは、軸L方向に沿った第1ラビリンス部r1と、該第1ラビリンス部r1に連続する径方向に沿った第2ラビリンス部r2とにより構成される。第1ラビリンス部r1の軸方向長さd1は、スリンガ51における円板部512の車体側面512c及び第2円筒部513の端面513b間距離と、円筒状弾性部材54の端面覆部54aの軸方向厚みと、環状エンコーダ53の軸L方向の厚みとの合計とされる。そして、第1ラビリンス部r1の軸方向長さd1は、前記と同様に当該密封装置11の仕様や装着される部位のスペース的な範囲内で1.5mm以上に設定される。また、第1部材50の外径側円筒部502における内径側部分の軸方向長さd2は、第2円筒部513の内径側部分の軸L方向長さと、円筒状弾性部材54の端面覆部54aの軸方向厚みとの合計とされ、これも前記と同様に、当該密封装置11の仕様や装着される部位のスペース的な範囲内で0.75mm以上に設定される。さらに、第2ラビリンス部r2の隙間aは、端面覆部54aとこれに対向するシールリップ基部620の車体側面620bとの間の隙間とされ、前記例と同様に、当該密封装置11の仕様(加工公差含む)や装着される部位のスペース的な範囲内で1mm以下に設定される。
【0029】
この例においても、
図1に示す軸受装置1に組込まれて、内輪5が軸L回りに回転すると、前記と同様に、第1及び第2ラビリンス部r1,r2によって、空間部110への泥水等の浸入は抑制されるが、少量でも空間部110に浸入した泥水等は、徐々に空間部110内に蓄積される。そして、泥水等の蓄積に伴い、泥水等に含まれる塵埃が、サイドリップ621における円板部512の車輪側面512bに対する弾接部に噛み込み、内輪5の軸回転に伴う弾性摺接によって、サイドリップ621の先端部が摩耗することがある。しかし、このサイドリップ621より内径側に位置するもう1つのサイドリップ625が円板部512の車輪側面512bに弾接するから、サイドリップ621の先端部が摩耗して泥水等がサイドリップ621の円板部512に対する弾接部を通過しても、サイドリップ625によってそれ以上の浸入が阻止される。これによって、ベアリングシール11のシール機能が永く維持される。加えて後記する性能試験(
図6、
図7)の結果からも、第1ラビリンス部r1の軸方向長さd1、外径側円筒部502における内径側部分の軸方向長さd2及び第2ラビリンス部r2の隙間aを前記のように設定することにより、一旦空間部110内に浸入した泥水等の排出機能が効果的に発揮され、ベアリングシール11の長寿命化が図られる。
その他の構成は、前記例と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、その作用・効果等の説明は割愛する。
なお、
図4及び
図5において、スリンガ51には環状エンコーダ53が設けられているが、この部分は環状エンコーダに限定されず、ゴム材等の弾性体で構成された環状体であってもよい。
【0030】
次に、本発明に係る密封装置の性能試験の要領及びその結果について、
図6及び
図7を参照して説明する。
<性能試験の要領>ここでの性能試験は、次の要領で行った。先ず、軸受を模擬した内輪と外輪との間に前記した各種ベアリングシールを装着し、上記模擬軸受を泥水を擬似した液体を収容する容器に入れてその中心軸L(
図1参照)より下半部を液体にディップした。この状態で内輪を1100rpmで軸L回りに回転させ、20時間回転及び4時間停止を繰り返し、各ベアリングシールの軸受空間S(
図1参照)側部分を観察して、この部分より液体が回転開始から漏出し出すまでの経過時間を計測した。
図6において、サンプル1、サンプル2及びサンプル3は、それぞれ、
図2、
図3及び
図5に示すタイプのベアリングシールに対応する。各サンプルにおける比較例は、第2円筒部が設けられていない断面L字形状のスリンガであって、d2が0で、且つ、隙間aがラビリンスを構成しない場合(本発明の範囲外)であることを示している。また、各サンプルにおける実験例は本発明の範囲内であることを示している。
図6及び
図7において、各サンプルにおける試験結果(シール寿命)で、比較例の結果(前記経過時間)を1とし、実験例の結果(同経過時間)はそれぞれの比較例との比率で表している。また、
図7における「比」は比較例を、「実」は実験例をそれぞれ示している。
【0031】
<試験結果の考察>
図6及び
図7において、各サンプルとも、第1ラビリンス部r1の軸方向長さd1が1.5mm以上、第1部材50における外径側円筒部502における内径側部分の軸方向長さd2が0.75mm以上、第2ラビリンス部r2の隙間aが1mm以下の場合に、シール寿命が各比較例より長くなることが理解される。即ち、各サンプルにおける実験例では、各ベアリングシール11の空間部110に泥水等が浸入しても、内輪5の軸回転に伴う第1部材50の軸回転による遠心力とポンピング作用によって、泥水等がラビリンス構造部rを経て外部(軸受空間Sとは反対側)に排出され易いことが理解される。そして、空間部110に浸入した泥水等は、速やかに排出されるから、空間部110に滞留することが抑えられ、これによって泥水等に含まれる塵埃等が、シールリップ621・・と第1部材50との弾性的摺接部分に噛み込むことが少なくなり、シールリップ621・・の摩耗によるシール寿命の低下が抑えられるものと考えられる。
このような試験は、凹凸が多くしかも水溜まりが多い悪路を自動車が走行する場合を想定した軸受の密封装置の耐久試験に相当する。したがって、本試験結果は、劣悪な道路環境を走行する場合でも、本発明の密封装置は悪路耐久性に優れることを意味する。
【0032】
なお、前記実施形態では、本発明に係る密封装置が、自動車用の軸受装置に適用される例について述べたが、これに限らず、外側部材に対して内側部材が軸回転可能に支持される当該2部材間に装着される密封装置であれば、他の産業分野の軸受装置にも好ましく適用される。また、自動車用の軸受装置であっても、
図1に示す軸受装置に限らず他の形態の軸受装置であっても良い。また、芯金及びこれに固着されるシールリップ部の形状も図例のものに限定されず、芯金と外輪との嵌合形態等も図例に限定されるものではない。さらに、サイドリップ及びラジアルリップの形状等も要求される仕様等に応じて適宜変更が可能である。