特許第6556501号(P6556501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556501
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】組合せオイルリング
(51)【国際特許分類】
   F16J 9/06 20060101AFI20190729BHJP
   F16J 9/20 20060101ALI20190729BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   F16J9/06 B
   F16J9/20
   F02F5/00 301E
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-110177(P2015-110177)
(22)【出願日】2015年5月29日
(65)【公開番号】特開2016-223524(P2016-223524A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】390022806
【氏名又は名称】日本ピストンリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】中 良介
(72)【発明者】
【氏名】一杉 英司
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 亮介
【審査官】 羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−130231(JP,A)
【文献】 特開2011−185383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 5/00
F021 1/00
F16J 1/00−1/24
F16J 7/00−10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンのオイルリング溝に装着され、平板で且つ環状の上下一対のサイドレールと、
前記上下一対のサイドレールの間に配置されるスペーサエキスパンダと、を備え、
前記スペーサエキスパンダは軸方向及び周方向に離間して周方向に交互に多数配置された上片及び下片と、互いに隣接する上片と下片とを連結する連結片と、前記上片及び前記下片の内周側端部に立設して形成され前記サイドレールを押圧するための耳部とを備えた組合せオイルリングにおいて、
前記上片の上面及び前記下片の下面の少なくとも一方の面の外周側端部に前記サイドレールと当接するサイドレール支持部が突設され、
前記サイドレール支持部は、前記サイドレールとの当接部から前記サイドレールに対して傾斜した傾斜面を備え
前記当接部は前記傾斜面の上端又は下端に位置し、
前記上片の上面及び前記下片の下面には、径方向に延びる溝が形成され、
前記溝の外周側端部は、前記傾斜面によって閉塞されていることを特徴とする組合せオイルリング。
【請求項2】
請求項1に記載の組合せオイルリングにおいて、
前記耳部には、径方向に穿孔された貫通孔が形成されることを特徴とする組合せオイルリング。
【請求項3】
請求項2に記載の組合せオイルリングにおいて、
前記貫通孔は、前記溝と連通していることを特徴とする組合せオイルリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組合せオイルリングに関し、特に、上下一対のサイドレールと、それらの間に配置されるスペーサエキスパンダとを備えている3ピース構成の組合せオイルリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関のシリンダ内壁面に付着した余分なエンジンオイルを掻き落とし、適度な油膜を形成して内燃機関の運転に伴うピストンの焼き付きを防止するオイルリングが知られている。このようなオイルリングは種々の形態が知られており、例えば、下記の特許文献に記載されているように、上下一対のサイドレールと、それらの間に配置されたスペーサエキスパンダとを備え、スペーサエキスパンダは軸方向及び周方向に離間して周方向に交互に多数配置された上片及び下片と、隣接する上片及び下片とを連結する連結片と、上片と下片の内周側端部に起立形成され、サイドレールを押圧するための耳部が形成された組合せオイルリングが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−185383号公報
【0004】
また、組合せオイルリングは、上述したように内燃機関のシリンダ内壁面に付着した余分なエンジンオイルを掻き落とし、適度な油膜を形成してピストンの焼き付きを防止しているが、未燃焼カーボンや潤滑油燃焼生成物から生じたカーボンスラッジ等がスペーサエキスパンダとサイドレールとの間に堆積し、円滑なエンジンオイルの掻き落としを阻害するという問題を有していた。
【0005】
この問題を解決するために、例えば特許文献1に記載された組合せオイルリングは、上片の上面と下片の下面の少なくとも一方の面に溝を形成し、該溝が連通する貫通孔が耳部に形成され、該溝及び貫通孔を通して掻き落としたエンジンオイルが流出すると共に、上辺又は下片の外周側端部に上辺の上面又は下片の下面よりも高さを有するサイドレール支持部を形成してサイドレールとスペーサエキスパンダの間に段差を設けて、スペーサエキスパンダとサイドレールとの間にカーボンスラッジが堆積することを防止している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の組合せオイルリングは、上述したカーボンスラッジの堆積の防止をより効果的に行うために、サイドレール支持部の段差をより大きく形成したり、溝を深く形成するなどして対策を行っているが、特に、サイドレールとスペーサエキスパンダの間の隙間のうち最狭部や、サイドレールとスペーサエキスパンダが接する角部などに依然としてカーボンスラッジが堆積しやすく、長期間内燃機関を運転すると、次第にこれらの部位にカーボンスラッジが堆積してしまい、依然としてエンジンオイルの円滑な流出を阻害するという問題を有していた。
【0007】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、長期間内燃機関を運転してもサイドレールとスペーサエキスパンダとの間にカーボンスラッジが堆積することのない組合せオイルリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る組合せオイルリングは、ピストンのオイルリング溝に装着され、平板で且つ環状の上下一対のサイドレールと、前記上下一対のサイドレールの間に配置されるスペーサエキスパンダと、を備え、前記スペーサエキスパンダは軸方向及び周方向に離間して周方向に交互に多数配置された上片及び下片と、互いに隣接する上片と下片とを連結する連結片と、前記上片及び前記下片の内周側端部に立設して形成され前記サイドレールを押圧するための耳部とを備えた組合せオイルリングにおいて、前記上片の上面及び前記下片の下面の少なくとも一方の面の外周側端部に前記サイドレールと当接するサイドレール支持部が突設され、前記サイドレール支持部は、前記サイドレールとの当接部から前記サイドレールに対して傾斜した傾斜面を備え、前記当接部は前記傾斜面の上端又は下端に位置し、前記上片の上面及び前記下片の下面には、径方向に延びる溝が形成され、前記溝の外周側端部は、前記傾斜面によって閉塞されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る組合せオイルリングにおいて、前記耳部には、径方向に穿孔された貫通孔が形成されると好適である。
【0010】
また、本発明に係る組合せオイルリングにおいて、前記貫通孔は、前記溝と連通していると好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る組合せオイルリングは、サイドレール支持部は、サイドレールとの当接部からサイドレールに対して傾斜した傾斜面を備えているので、サイドレールとスペーサエキスパンダとの間にエンジンオイルが流通可能なスペースを形成でき、さらにサイドレール支持部のオイルを周方向に素早く排出することができ、サイドレールとスペーサエキスパンダとの間にカーボンスラッジが堆積することを防止することができる。
【0012】
また、本発明に係る組合せオイルリングは、耳部に径方向へ穿孔された貫通孔が形成されているので、貫通孔からエンジンオイルを流出することで、サイドレールとスペーサエキスパンダとの間にカーボンスラッジの堆積を防止することができる。
【0013】
また、本発明に係る組合せオイルリングは、貫通孔は上片の上面又は下片の下面の少なくとも一方の面に形成された径方向に延びる溝と連通しているので、サイドレールとスペーサエキスパンダの間の空間容積を大きく確保することができると共に、貫通孔から円滑にエンジンオイルを流出させ、カーボンスラッジの堆積を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る組合せオイルリングの一部分を示す斜視図。
図2】本発明の実施形態に係る組合せオイルリングを組み付けた内燃機関のシリンダ軸方向に図1におけるA−A部にて切断して示した要部断面図。
図3】本発明の実施形態に係る組合せオイルリングを径方向から見た図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る組合せオイルリングの一部分を示す斜視図であり、図2は、本発明の実施形態に係る組合せオイルリングを組み付けた内燃機関のシリンダ軸方向に図1におけるA−A部にて切断して示した要部断面図であり、図3は、本発明の実施形態に係る組合せオイルリングを径方向から見た図である。
【0017】
図2に示すように、本実施形態に係る組合せオイルリング10は、内燃機関のピストン2の外周面に形成されたオイルリング溝3に組み付けられ、シリンダ1の内壁と摺接することで、シリンダ1の内壁に付着した余分なエンジンオイルを掻き落としてシリンダ1の内壁に適切な油膜を形成する部材である。
【0018】
組合せオイルリング10は、上下一対のサイドレール11,11と、この上下一対のサイドレール11,11の間に配置されるスペーサエキスパンダ12とから構成されている。これらサイドレール11,11及びスペーサエキスパンダ12は鋼等からなっておりサイドレール11は、合口(図示せず)を備えた平板の環状リングとして構成されている。
【0019】
図1に示すように、スペーサエキスパンダ12は、鋼材を塑性加工して形成されており、軸方向に沿って凹凸形状(波形形状)となると共に、周方向に略円形状に構成されている。この軸方向の凹凸形状によって、軸方向の端部に上片13及び下片14が形成されている。即ち、スペーサエキスパンダ12は、軸方向及び周方向に離間して周方向に交互に多数配置された上片13及び下片14を備えており、互いに隣接する上片13と下片14とは連結片15によって連結されている。
【0020】
また、図2に示すように、スペーサエキスパンダ12の上片13及び下片14の内周側端部には、サイドレール11,11を外周側に押圧する耳部16が立設して形成されている。さらに、耳部16には、方向に沿って貫通孔18が形成されている。
【0021】
また、図1に示すように、スペーサエキスパンダ12の上片13及び下片14の外周側端部には、サイドレール11,11と当接するように、軸方向に突設するサイドレール支持部19が形成されている。
【0022】
サイドレール支持部19は、サイドレール11に対して傾斜した傾斜面として形成されており、図3に示すように、サイドレール支持部19は、サイドレール11の当接部から傾斜して形成されている。このサイドレール支持部19の傾斜によって、サイドレール11とスペーサエキスパンダ12との間にスペースを形成することができ、当該スペースをエンジンオイルが流通することで、サイドレール11とスペーサエキスパンダ12との間にカーボンスラッジが堆積することを防止している。尚、図3では、サイドレール支持部19と溝17の底の位置は、スペーサエキスパンダ12の外周側には開口していない状態を記載したが、当該溝の底の位置はスペーサエキスパンダ12の外周側に開口しても構わない。
【0023】
また、上片13の上面及び下片14の下面には、径方向に延びる溝17が形成されており、耳部16に形成された貫通孔18と溝17とはピストンの内周側に連通している。これに対し、溝17の外周側は、図3に示すように溝17をサイドレール支持部19が閉塞するように傾斜して形成されているので、外周側には連通していない。この構造によって、エンジンオイルを内周側へ向かって円滑に流すことで、外周側から内周側へエンジンオイルを流すことが可能となる。このようなサイドレール支持部19による溝17の端部を閉塞する構造では、溝17の深さやサイドレール支持部19の板厚を適宜調整することで実現することが可能であるが、サイドレール支持部19の板厚は、例えば0.15〜0.35mm程度に構成すると好適である。
【0024】
なお、溝17は軸方向に沿った断面形状が、V形状に形成されており、本明細書において、V形状とは、互いに隣接する斜面が鋭角に交差する形状の他、互いに隣接する斜面を円弧で連続させた形状も含む。
【0025】
スペーサエキスパンダ12は、ピストン2のオイルリング溝3に組み付けられた状態で合口が突き合わされて周方向に縮められた状態で組み付けられている。したがって、スペーサエキスパンダ12の張力によって径方向外方へ拡張力を生じるように組み付けられているので、上下のサイドレール11,11を上片13,下片14のサイドレール支持部19,19で軸方向に沿って上下に保持すると共に、耳部16がサイドレール11の内周面をそれぞれ押圧することによって、上下のサイドレール11,11の外周面をシリンダ1の内壁面に密着させている。
【0026】
このように本実施形態に係る組合せオイルリング10は、サイドレール支持部19がサイドレール11に対して傾斜した傾斜面として形成されているので、サイドレール11とスペーサエキスパンダ12との間にスペースを形成することができ、当該スペースをエンジンオイルが流通することで、サイドレール11とスペーサエキスパンダ12との間にカーボンスラッジが堆積することを防止している。
【0027】
また、本実施形態に係る組合せオイルリング10は、溝17が軸方向の上方又は下方に凸となる略V字状に形成されているので、サイドレール11とスペーサエキスパンダ12の間の空間容積を大きく確保することができると共に、貫通孔18から円滑にエンジンオイルを流出させ、カーボンスラッジの堆積を防止することができる。
【0028】
また、本実施形態に係る組合せオイルリング10は、耳部16に径方向へ穿孔された貫通孔18が形成されているので、貫通孔18からエンジンオイルを流出することで、サイドレール11とスペーサエキスパンダ12との間にカーボンスラッジの堆積を防止することができる。
【0029】
また、本実施形態に係る組合せオイルリング10は、貫通孔18が上片13の上面又は下片14の下面の少なくとも一方の面に形成された径方向に延びる溝17と連通しているので、サイドレール11とスペーサエキスパンダ12の間の空間容積を大きく確保することができると共に、貫通孔18から円滑にエンジンオイルを流出させ、カーボンスラッジの堆積を防止することができる。
【0030】
また、上述した本実施形態に係る組合せオイルリング10は、溝17の断面形状をV形状に形成した場合について説明を行ったが、溝17の断面形状はこれに限られず例えば断面R形状に形成しても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0031】
1 シリンダ, 2 ピストン, 3 オイルリング溝, 10 組合せオイルリング, 11 サイドレール, 12 スペーサエキスパンダ, 13 上片, 14 下片, 15 連結片, 16 耳部, 17 溝, 18 貫通孔, 19 サイドレール支持部。
図1
図2
図3