【実施例】
【0024】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。実施例は、本発明の典型例である混合気通路を延長する例を開示するが、本発明はエア通路の延長にも適用できる。
【0025】
図1は、実施例のエアクリーナを組み込んだ層状掃気式2サイクル内燃エンジンの概要を説明するための図である。
図1を参照して、参照符号100は層状掃気式2サイクル内燃エンジンを示す。エンジン100は刈払機、チェーンソーなどの携帯作業機に搭載される。
【0026】
図1から分かるように、エンジン100は、単気筒エンジンであり、また、空冷式エンジンである。エンジン100は、エンジン本体2と、排気系4と、吸気系6とを有する。
【0027】
エンジン本体2は、シリンダ10に嵌挿されたピストン12を有し、ピストン12によって燃焼室14が形成されている。ピストン12は往復動する。参照符号16は排気ポートを示す。排気ポート16には排気系4が連結されている。参照符号18は混合気ポートを示す。混合気ポート18はクランク室20に通じている。
【0028】
シリンダ10には、クランク室20と燃焼室14とを接続する掃気通路22が形成されている。掃気通路22は、一端がクランク室20に連通し、他端が掃気ポート24を通じて燃焼室14に連通している。
【0029】
シリンダ10は、また、エアポート26を有する。このエアポート26に、後に説明するフレッシュエアつまり混合気を含まないエアが供給される。掃気ポート24とエアポート26とはピストン溝28を介して連通される。すなわち、ピストン12は、その周面にピストン溝28が形成されている。ピストン溝28は、ピストン周面に形成された凹部で構成されている。ピストン溝28はエアを一次的に溜める機能を有している。
【0030】
排気ポート16、混合気ポート18、掃気ポート24、エアポート26はピストン12によって開閉される。すなわち、エンジン本体2は、いわゆるピストンバルブ式である。また、ピストン溝28と掃気ポート24との連通及びピストン溝28とエアポート26との連通はピストン12の動作によって遮断される。すなわち、ピストン12の往復動によって、ピストン溝28と掃気ポート24との連通又は遮断が制御されると共に、ピストン溝28とエアポート26との連通又は遮断が制御される。
【0031】
エアポート26及び混合気ポート18には吸気系6が連結されている。吸気系6は、エアクリーナ30、気化器32、インテーク部材34を有する。インテーク部材34は可撓性材料(弾性樹脂)で作られている。気化器32は可撓性のインテーク部材34を介してエンジン本体2に連結されている。気化器32の上流端にエアクリーナ30が固定されている。
【0032】
気化器32は、スロットルバルブ40と、その上流に位置するチョークバルブ42を有する。スロットルバルブ40とチョークバルブ42は、共に、バタフライ弁で構成されている。気化器32は第1の仕切り壁44を有する。スロットルバルブ40及びチョークバルブ42が全開状態のとき、すなわち、エンジン100が高速回転するとき、スロットルバルブ40とチョークバルブ42と第1の仕切り壁44とによって、気化器32の内部ガス通路46には第1エア通路50と第1混合気通路52が形成される。
【0033】
図1において、参照符号8はメインノズルを示す。中速回転、高速回転の時にメインノズル8から燃料が第1混合気通路52に吸い出される。
【0034】
気化器32とエンジン本体2との間に介在するインテーク部材34は、第2の仕切り壁58を有している。インテーク部材34は、第2の仕切り壁58を挟んで一方側に位置する第2エア通路54と、他方側に位置する第2混合気通路56とを有する。
【0035】
なお、第2エア通路54と第2混合気通路56を備えたインテーク部材34に代えて、第2エア通路54を備えた第1の部材と、第1の部材とは別に、第2混合気通路56を備えた第2部材とで、気化器32とエンジン本体2とを連結してもよい。
【0036】
上述した説明から分かるように、エアクリーナ30の下流には、気化器32内の第1エア通路50と、インテーク部材34の第2エア通路54とで、吸気系6のエア通路が形成されている。他方、吸気系の混合気通路は、気化器32内の第1混合気通路52と、インテーク部材34の第2混合気通路56とで形成されている。
【0037】
エアクリーナ30は、第1吸い込み口60と第2吸い込み口62とを有し、第1、第2吸い込み口60、62は互いに独立している。外気はエレメント64で浄化されて清浄エア(clean air)が作られる。清浄エアは、第1吸い込み口60を通じて吸気系エア通路に入り、第2吸い込み口62を通じて吸気系混合気通路に入る。
【0038】
エアクリーナ30の第2吸い込み口62、つまり、吸気系混合気通路に通じる吸い込み口には通路形成部材70が接続されている。この通路形成部材70は延長混合気通路72を有する。延長混合気通路72は入口72aと出口72bとを有している。エレメント64で浄化されたエアの一部が入口72aを通じて延長混合気通路72に入る。そして、延長混合気通路72を通るエアは出口72bを通じて第2吸い込み口62に入る。
【0039】
通路形成部材70は、吸気系エア通路に通じる第1吸い込み口60の周囲を包囲する形状を有している。
図2は、エアクリーナ30を平面視した図である。
【0040】
図2を参照して、エアクリーナ30は平面視円形の形状を有し、エアクリーナ30のベース30aの上にエレメント64が配置されている。エレメント64は平面視円形リング状の形状を有し、エレメント64の外周面64aがエアクリーナ30の外周面を構成している。
【0041】
通路形成部材70は平面視円弧状の形状を有する。通路形成部材70は、エレメント64の内周面64bの内方に配置されている。そして、通路形成部材70の外周面70aとエレメント内周面64bとは離間している。通路形成部材70とエレメント内周面64bとの間隔を「D」で示す。
【0042】
図2から分かるように、エアクリーナ30の内部空間に対して第1吸い込み口60と第2吸い込み口62は互いに独立して開口している。第1吸い込み口60と第2吸い込み口62は、また、互いに隣接して位置している。そして吸気系エア通路に通じる第1吸い込み口60はエアクリーナベース30aの内周側に位置し、吸気系混合気通路に通じる第2吸い込み口62は外周側に位置している。
【0043】
第2吸い込み口62に装着された通路形成部材70は、エアクリーナベース30aの外周部分に沿って円周方向に延びている。通路形成部材70の延長混合気通路72の入口72aは、出口72bつまり第2吸い込み口62の近傍に位置している。
【0044】
吸気系エア通路に通じる第1吸い込み口60は、その周囲が通路形成部材70によって包囲されている。通路形成部材70は、第1吸い込み口60に通じる吹き返し燃料拡散防止領域74を規定する周囲壁面70bを構成している。
【0045】
エアクリーナエレメント64は、上述したように円形リング状の形状を有している。エアクリーナエレメント64で濾過された清浄エアは、エレメント64で囲まれた空間に貯留される。エレメント64で囲まれた空間を「エアクリーナ清浄空間」と呼ぶ。このエアクリーナ清浄空間に上記第1、第2吸い込み口60、62が開口している。
【0046】
エレメント64は、エアクリーナ30の天井壁を規定する天井プレート部材66(
図1)を有している。エアクリーナベース30aと対抗して位置する天井プレート部材66は吹き返し燃料拡散防止領域74を閉塞している。すなわち、吹き返し燃料拡散防止領域74は、エアクリーナベース30aと通路形成部材70の周囲壁面70b(
図2)と天井プレート部材66とによって規定されている。
【0047】
エアクリーナエレメント64で浄化されたエアは、その一部が、通路形成部材70(延長混合気通路72)の入口72aを通じて延長混合気通路72に入り、そして、延長混合気通路72を通り、出口72b、第2吸い込み口62を通って吸気系混合気通路に入る。
【0048】
エアクリーナエレメント64で浄化されたエアは、その一部が、通路形成部材70(延長混合気通路72)の入口72aと出口72bとの間の第1の隙間80(
図2)を通って吹き返し燃料拡散防止領域74に入る。そして、第1吸い込み口60を通って吸気系エア通路に入る。換言すれば、吹き返し燃料拡散防止領域74は、第1の隙間80を通じてエアクリーナ清浄空間に開放している。
【0049】
エンジン100の運転中、吸気系混合気通路を通じた混合気の吹き返しは通路形成部材70の中に入る。吹き返し混合気に含まれる燃料成分、オイル成分は、比較的長尺の通路形成部材70の壁面に付着する。したがって、吹き返し混合気によるエアクリーナエレメント64の汚染を防止できる。
【0050】
エンジン100の運転中、吸気系エア通路を通じて逆流した吹き返しエアは、通路形成部材70の内周壁によって、その拡散が阻止される。つまり吹き返しエアは、吹き返し燃料拡散防止領域74に留められる。これにより、吹き返しエアに混合気やオイル成分が混ざっていたとしても、これによるエアクリーナエレメント64の汚染を防止できる。
【0051】
吹き返し燃料拡散防止領域74の天井壁を作る天井プレート部材66は、エレメント64と一体構造であってもよいし、エレメント64とは別部材で構成してもよい。
【0052】
通路形成部材70を平面視したときの通路形成部材70の形状は円形に限定されない。楕円であってもよいし、多角形であってもよい。多角形という言葉は幾何学で使う言葉に限定されない。角を有する形状という意味である。この角は丸みを備えているのが好ましい。好ましくは、ヘアピンカーブのような折り返しの無い形状であるのが良い。通路形成部材70の長さは例えば半円、円の3/4の長さであってもよい。
【0053】
図2の例では、通路形成部材70の一端と他端との間の第1の隙間80を通じてエアを吹き返し燃料拡散防止領域74に導入するようになっている。換言すれば、吹き返し燃料拡散防止領域74は、第1の隙間80を通じて「エアクリーナ清浄空間」に開放している。第1の隙間80の大きさは、上記のように通路形成部材70の長さや形状を変えることで任意に設定できる。通路形成部材70と天井プレート部材66との間の第2の隙間を利用して吹き返し燃料拡散防止領域74に導入するエアの量を調整してもよい。換言すれば、吹き返し燃料拡散防止領域74は、第2の隙間を通じて「エアクリーナ清浄空間」に開放していてもよい。この第2の隙間は、通路形成部材70の長さ方向の全長に亘る隙間であってもよいし、部分的な隙間であってもよい。
【0054】
通路形成部材70の延長混合気通路72は、その長さ方向の各部において、有効断面積が同じであるのが最も好ましい。勿論、許容できる範囲で各部の有効断面積が異なっていてもよい。
【0055】
図2を参照して、吸気系エア通路に通じる第1吸い込み口60は、吸気系混合気通路に通じる第2吸い込み口62よりも内周側に位置している。そして、第2吸い込み口62には通路形成部材70が取り付けられている。通路形成部材70において、第2吸い込み口62の部分つまり通路形成部材70(延長混合気通路72)の出口72bの部分に注目すると、出口72bの部分は、第1吸い込み口60に隣接した反射壁を構成している。これにより、第1
吸い込み口60から出てくる吹き返しエアに対して、通路形成部材70の出口72bの部分は反射壁を形成する。この反射壁によって、第1
吸い込み口60から出てくる吹き返しエアがエレメント64側に拡散するのを効果的に阻止することができる。すなわち、反射壁によって吹き返しエアが吹き返し燃料拡散防止領域74に向けて反射される。
【0056】
図3〜
図8は実施例を示す。この実施例の説明において、上述した要素と同じ要素には同じ参照符号を付してその説明を適宜省略する。
図3は、実施例のエアクリーナ200の分解斜視図である。エアクリーナ200は、エアクリーナベース202と、通路形成部材204と、エレメント部材206とで構成されている。
【0057】
エアクリーナベース202及び通路形成部材204は合成樹脂からなる成型品である。エレメント部材206はリング状のエレメント64と天井プレート部材66とを有し、エレメント64はメッシュ材料などの濾過材料で構成されている。
【0058】
通路形成部材204は、複数の脚210を有し、この脚210は先端に爪212を備えている。この爪付き脚210を使って、通路形成部材204はエアクリーナベース202に固定される。通路形成部材204は、エアクリーナベース202側に向けて開放した断面U字状の形状を有し、通路形成部材204とエアクリーナベース202とで延長混合気通路72が形成される。
図4は、通路形成部材204の斜視図である。
【0059】
通路形成部材204は、平面視円形のエレメント64に隣接して位置している。また、通路形成部材204は、平面視円弧状の形状を有し、エレメント64に沿って、そのほぼ全周に亘って延びている。この長尺の且つ円弧状の形状によって、この通路形成部材204を通るエアを整流することができる。
【0060】
通路形成部材204は、
図3から分かるように、その天井壁204aが波形に湾曲している。天井壁204aの凹部218に対応してエアクリーナベース202には、通路形成部材204と共に延長混合気通路72を形成する部位に気化器32(
図1)側に突出した凸部220を有する(
図3)。これにより、延長混合気通路72は、その全長に亘って実質的に同じ有効断面積を有する。
図5はエアクリーナ200の側面図である。
【0061】
図6は、エアクリーナ200の縦断面図である。
図6を参照して、平面視円形のエアクリーナベース202はその中心に起立したネジ棒222を有している。平面視円形のエレメント部材206には、天井プレート部材66の中心にボス224が形成されている。エレメント部材206は、ネジ棒222にボス224を螺着させることによりエアクリーナベース202に固定される。
図6のクロスした斜線で示す部分は、延長混合気通路72を示す。
【0062】
図7、
図8は、エアクリーナベース202に通路形成部材204を装着した状態を示す。すなわち、
図7、
図8は、エレメント部材206を装着する前の状態を示す。吸気系エア通路に通じる第1吸い込み口60とは直径方向に対抗する部位に通路形成部材204の上記凹部218が形成されている。
【0063】
通路形成部材204で規定される吹き返し燃料拡散防止領域74は、2つの部位を通じて外方に開放している。第1の部位は、通路形成部材204(延長混合気通路72)の入口72aと出口72bとの間の第1の隙間80である。第2の部位は、通路形成部材204の凹部218である。上述したように、凹部218は、第1吸い込み口60と直径方向に対抗した位置、つまり上記第1の隙間80と実質的に対抗した位置に位置している。この2つの部位を通じて、エレメント64で浄化されたエアが吹き返し燃料拡散防止領域74に入り、そして、第1吸い込み口60を通じて吸気系エア通路に入る。
【0064】
以上、本発明の好ましい実施例を説明した。本発明に従うエアクリーナは、特許文献1(US 7,494,113 B2)に開示の形式の層状掃気式エンジンに好適に適用される。前述したように、特許文献1に開示のエンジンは気化器に仕切り壁を有している。この仕切り壁によって、スロットルバルブが全開状態のときに、エンジン吸気系が実質的にエア通路と混合気通路とに仕切られる。
【0065】
図1を参照して、気化器32の第1仕切り壁44の変形例として、その一部を切り欠いた仕切り壁であってもよい。その好適な例が、特許文献1の
図4に開示されている。すなわち、前述した第2タイプの気化器を備えたエンジンに対して、本発明のエアクリーナが好適に適用できる。これにより、2サイクルエンジンの給気比(delivery ratio)を高くしつつ、エアクリーナエレメントの汚染を防止できる。
【0066】
前記第2タイプの気化器は、気化器内仕切り壁に窓を形成することで、吸気系エア通路と吸気系混合気通路とを常時連通させている。この窓を、エンジン吸気系の任意の部分に配置してもよい。
【0067】
以上、上記の実施例は、吸気系混合気通路を延長する例を開示したが、本発明はこれに限定されない。本発明は、吸気系混合気通路の延長に代えて、吸気系エア通路の延長に好適に適用できる。吸気系エア通路の延長のために通路形成部材70を第1吸い込み口60に設けたときには、第1吸い込み口60と第2吸い込み口62の配置関係を逆にして、第1吸い込み口60を第2吸い込み口62よりも外方に配置させるのがよい。