(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556525
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】基板処理方法および基板処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20190729BHJP
【FI】
H01L21/304 647Z
H01L21/304 648K
H01L21/304 651B
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-127588(P2015-127588)
(22)【出願日】2015年6月25日
(65)【公開番号】特開2017-11206(P2017-11206A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2017年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】石井 弘晃
【審査官】
安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−026813(JP,A)
【文献】
特開昭52−128289(JP,A)
【文献】
特開2007−234815(JP,A)
【文献】
特開2006−073945(JP,A)
【文献】
特開2008−258437(JP,A)
【文献】
特開2012−074601(JP,A)
【文献】
特開2000−124185(JP,A)
【文献】
特開2007−227765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304−308
B08B 3/00−14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板処理方法であって、
a)純水を溶媒とし、所定の電解質を溶質として、電気抵抗率が0.2MΩ・cm以下となるように生成されるとともに、40℃以上に加熱されたリンス液を、処理液が付着した基板の主面にリンス液ノズルから供給する工程と、
b)前記リンス液が付着した前記主面を乾燥する工程と、
を備え、
前記a)工程において、前記リンス液ノズルからの吐出直前に、前記電解質の水溶液と加熱された純水とを混合することにより、加熱された前記リンス液が生成されることを特徴とする基板処理方法。
【請求項2】
基板処理方法であって、
a)純水を溶媒とし、所定の電解質を溶質として、電気抵抗率が0.2MΩ・cm以下となるように生成されるとともに、40℃以上に加熱されたリンス液を、処理液が付着した基板の主面に供給する工程と、
b)前記リンス液が付着した前記主面を乾燥する工程と、
を備え、
前記a)工程よりも前に、前記電解質の水溶液と加熱された純水とをリンス液タンクにおいて混合することにより、加熱された前記リンス液が生成され、
前記リンス液タンクに循環ラインの両端がそれぞれ接続され、前記循環ラインを流れるリンス液が、ヒータにより一定の温度に加熱されていることを特徴とする基板処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の基板処理方法であって、
加熱された前記リンス液における前記電解質の濃度が、1000ppm以下であることを特徴とする基板処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の基板処理方法であって、
前記電解質が、非金属元素のみから構成されることを特徴とする基板処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の基板処理方法であって、
前記電解質が、アンモニアを含むことを特徴とする基板処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載の基板処理方法であって、
前記アンモニアの濃度が、250ppm以上かつ500ppm以下であることを特徴とする基板処理方法。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれかに記載の基板処理方法であって、
前記電解質が、塩酸を含むことを特徴とする基板処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載の基板処理方法であって、
前記塩酸の濃度が、2ppm以上かつ5ppm以下であることを特徴とする基板処理方法。
【請求項9】
基板処理装置であって、
純水を溶媒とし、所定の電解質を溶質として、電気抵抗率が0.2MΩ・cm以下となるように生成されるとともに、40℃以上に加熱されたリンス液を、処理液が付着した基板の主面にリンス液ノズルから供給するリンス液供給部と、
前記リンス液が付着した前記主面を乾燥する手段と、
を備え、
前記リンス液供給部が、前記リンス液ノズルからの吐出直前に、前記電解質の水溶液と加熱された純水とを混合することにより、加熱された前記リンス液を生成することを特徴とする基板処理装置。
【請求項10】
基板処理装置であって、
純水を溶媒とし、所定の電解質を溶質として、電気抵抗率が0.2MΩ・cm以下となるように生成されるとともに、40℃以上に加熱されたリンス液を、処理液が付着した基板の主面に供給するリンス液供給部と、
前記リンス液が付着した前記主面を乾燥する手段と、
を備え、
前記リンス液供給部が、前記電解質の水溶液と加熱された純水とをリンス液タンクにおいて混合することにより、加熱された前記リンス液を生成し、
前記リンス液タンクに循環ラインの両端がそれぞれ接続され、前記循環ラインを流れるリンス液が、ヒータにより一定の温度に加熱されていることを特徴とする基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板処理方法および基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体基板(以下、単に「基板」という。)の製造工程では、基板処理装置を用いて基板に対して様々な処理が施される。例えば、表面上にレジストのパターンが形成された基板に薬液を供給することにより、基板の表面に対してエッチング等の処理が行われる。薬液の供給後には、基板に純水を供給して表面の薬液を除去するリンス処理や、基板を高速に回転して表面の純水を除去する乾燥処理がさらに行われる。
【0003】
純水を用いるリンス処理では、基板の表面が帯電してしまう。この場合、基板表面にて放電が生じ、基板上に形成された膜等の一部が損傷することがある。そこで、特許文献1では、炭酸水を用いることにより、純水を用いる場合に比べて基板の帯電を防止する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−359224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、リンス処理後の乾燥処理に要する時間を短縮するために、リンス液の温度を高くすることが考えられる。しかしながら、リンス液として炭酸水を用いる場合に、リンス液の温度を高くすると、リンス液中の二酸化炭素が気化してしまい、基板の帯電を抑制することができなくなる。したがって、基板の帯電を抑制しつつ基板の乾燥時間を短縮することが可能な新規な手法が求められている。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、基板の帯電を抑制しつつ基板の乾燥時間を短縮することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、基板処理方法であって、a)純水を溶媒とし、所定の電解質を溶質として、電気抵抗率が0.2MΩ・cm以下となるように生成されるとともに、40℃以上に加熱されたリンス液を、処理液が付着した基板の主面に
リンス液ノズルから供給する工程と、b)前記リンス液が付着した前記主面を乾燥する工程とを備え
、前記a)工程において、前記リンス液ノズルからの吐出直前に、前記電解質の水溶液と加熱された純水とを混合することにより、加熱された前記リンス液が生成される。
請求項2に記載の発明は、基板処理方法であって、a)純水を溶媒とし、所定の電解質を溶質として、電気抵抗率が0.2MΩ・cm以下となるように生成されるとともに、40℃以上に加熱されたリンス液を、処理液が付着した基板の主面に供給する工程と、b)前記リンス液が付着した前記主面を乾燥する工程とを備え、前記a)工程よりも前に、前記電解質の水溶液と加熱された純水とをリンス液タンクにおいて混合することにより、加熱された前記リンス液が生成され、前記リンス液タンクに循環ラインの両端がそれぞれ接続され、前記循環ラインを流れるリンス液が、ヒータにより一定の温度に加熱されている。
【0008】
請求項
3に記載の発明は、請求項1
または2に記載の基板処理方法であって、
加熱された前記リンス液における前記電解質の濃度が、1000ppm以下である。
【0009】
請求項
4に記載の発明は、請求項1
ないし3のいずれかに記載の基板処理方法であって、前記電解質が、非金属元素のみから構成される。
【0010】
請求項
5に記載の発明は、請求項1ないし
4のいずれかに記載の基板処理方法であって、前記電解質が、アンモニアを含む。
【0011】
請求項
6に記載の発明は、請求項
5に記載の基板処理方法であって、前記アンモニアの濃度が、250ppm以上かつ500ppm以下である。
【0012】
請求項
7に記載の発明は、請求項1ないし
4のいずれかに記載の基板処理方法であって、前記電解質が、塩酸を含む。
【0013】
請求項
8に記載の発明は、請求項
7に記載の基板処理方法であって、前記塩酸の濃度が、2ppm以上かつ5ppm以下である。
【0014】
請求項
9に記載の発明は、基板処理装置であって、純水を溶媒とし、所定の電解質を溶質として、電気抵抗率が0.2MΩ・cm以下となるように生成されるとともに、40℃以上に加熱されたリンス液を、処理液が付着した基板の主面に
リンス液ノズルから供給するリンス液供給部と、前記リンス液が付着した前記主面を乾燥する手段とを備え
、前記リンス液供給部が、前記リンス液ノズルからの吐出直前に、前記電解質の水溶液と加熱された純水とを混合することにより、加熱された前記リンス液を生成する。
請求項10に記載の発明は、基板処理装置であって、純水を溶媒とし、所定の電解質を溶質として、電気抵抗率が0.2MΩ・cm以下となるように生成されるとともに、40℃以上に加熱されたリンス液を、処理液が付着した基板の主面に供給するリンス液供給部と、前記リンス液が付着した前記主面を乾燥する手段とを備え、前記リンス液供給部が、前記電解質の水溶液と加熱された純水とをリンス液タンクにおいて混合することにより、加熱された前記リンス液を生成し、前記リンス液タンクに循環ラインの両端がそれぞれ接続され、前記循環ラインを流れるリンス液が、ヒータにより一定の温度に加熱されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基板の帯電を抑制しつつ基板の乾燥時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】リンス液の供給により生じる基板の帯電電位を示す図である。
【
図5】リンス液の乾燥後に上面に残留するアンモニアの量を示す図である。
【
図6】リンス液が供給された基板の乾燥処理に要する時間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る基板処理装置1の構成を示す図である。基板処理装置1における各構成要素は、制御部10により制御される。基板処理装置1は、基板保持部であるスピンチャック22と、基板回転機構であるスピンモータ21と、スピンチャック22の周囲を囲むカップ23とを備える。基板9は、スピンチャック22上に載置される。スピンチャック22は、基板9の周縁に複数の挟持部材を接触させることにより、基板9を挟持する。これにより、基板9が水平な姿勢にてスピンチャック22により保持される。以下の説明では、上方を向く基板9の主面91を「上面91」という。上面91には、薄膜のパターンが形成されている。
【0018】
スピンチャック22の下面には、上下方向(鉛直方向)に伸びるシャフト221が接続される。シャフト221の中心軸である回転軸J1は、基板9の上面91に垂直であり、基板9の中心を通る。スピンモータ21は、シャフト221を回転する。これにより、スピンチャック22および基板9が、上下方向を向く回転軸J1を中心として回転する。なお、スピンチャック22は、基板9の裏面を吸着する構造等であってもよい。
【0019】
基板処理装置1は、薬液供給部31と、薬液ノズル32と、リンス液供給部4と、リンス液ノズル40とを備える。薬液供給部31では、薬液の供給源が弁を介して薬液ノズル32に接続される。薬液ノズル32は、図示省略のノズル移動機構のアームに取り付けられる。ノズル移動機構は、アームを回転軸J1に平行な軸を中心として回動することにより、薬液ノズル32を、基板9の上面91に対向する対向位置と、水平方向において基板9から離れた待機位置とに選択的に配置する。図示省略の他のノズル移動機構により、リンス液ノズル40も、基板9の上面91に対向する対向位置と、水平方向において基板9から離れた他の待機位置とに選択的に配置される。
【0020】
図2は、リンス液供給部4の構成を示す図である。リンス液供給部4は、温純水供給源41と、アンモニア水供給源42と、リンス液タンク43と、循環ライン44と、ヒータ45と、ポンプ46と、リンス液供給ライン47とを備える。温純水供給源41は、温純水供給ライン411を介してリンス液タンク43に接続される。アンモニア水供給源42は、アンモニア水供給ライン421を介してリンス液タンク43に接続される。温純水供給ライン411およびアンモニア水供給ライン421には、それぞれ弁412,422が設けられる。
【0021】
リンス液タンク43では、温純水供給源41からの温純水と、アンモニア水供給源42からのアンモニア水(希釈アンモニア)とが所定の混合比にて混合されたリンス液が貯溜される。リンス液は、純水を溶媒とし、アンモニアを溶質とする希釈水溶液である。リンス液では、微量のアンモニウムイオンと水酸化物イオンとが生じており、リンス液は、希釈イオン水と捉えることができる。制御部10(
図1参照)には、リンス液タンク43に設けられた液量センサから液量を示す信号が出力される。リンス液タンク43内におけるリンス液の量が所定量以下であることが検知されると、制御部10が弁412,422の開度を調整することにより、温純水供給源41からの温純水と、アンモニア水供給源42からのアンモニア水とが所定の割合にてリンス液タンク43内に供給される。
【0022】
基板処理装置1では、リンス液の電気抵抗率が0.2MΩ・cm(メガオーム・センチメートル)以下となるように、温純水とアンモニア水との混合比が予め決定されている。例えば、リンス液中のアンモニアの濃度を質量基準で250ppm(パーツ・パー・ミリオン)以上とする場合、リンス液の電気抵抗率が上記範囲内となる。なお、温純水の電気抵抗率は0.2MΩ・cmよりも十分に大きい。本実施の形態では、リンス液中のアンモニアの濃度は500ppm以下である。アンモニアの濃度を上記範囲内とすることが好ましい理由については後述する。
【0023】
リンス液タンク43の下部および上部には、循環ライン44の両端がそれぞれ接続される。循環ライン44では、リンス液タンク43の下部に接続する一端から、リンス液タンク43の上部に接続する他端に向かって、ヒータ45およびポンプ46が順に設けられる。ポンプ46の送液動作により、リンス液がリンス液タンク43の下部から循環ライン44内に流入し、循環ライン44を通り抜けてリンス液タンク43の上部へと戻される。リンス液供給部4では、リンス液が(原則として)常時、リンス液タンク43および循環ライン44を循環する。循環ライン44を流れるリンス液は、ヒータ45により40℃以上(例えば、沸騰を避けるため、90℃以下)の一定の温度に加熱される。
【0024】
リンス液供給ライン47の一端は、循環ライン44においてポンプ46と、リンス液タンク43の上部側の端との間に接続される。すなわち、リンス液供給ライン47の一端は、循環ライン44においてヒータ45よりも下流側の位置に接続される。リンス液供給ライン47の他端は、リンス液ノズル40に接続される。リンス液供給ライン47に設けられる弁471を開放することにより、リンス液ノズル40からリンス液が吐出される。本実施の形態では、弁412を含む温純水供給ライン411の一部、弁422を含むアンモニア水供給ライン421の一部、リンス液供給ライン47の一部、リンス液タンク43、循環ライン44、ヒータ45およびポンプ46は、キャビネット49(
図2中にて破線の矩形にて示す。)内に収容される。
【0025】
図3は、基板処理装置1における基板9の処理の流れを示す図である。まず、外部の搬送機構により未処理の基板9が
図1の基板処理装置1内に搬入され、スピンチャック22にて保持される(ステップS11)。続いて、図示省略のノズル移動機構により薬液ノズル32が、基板9の上面91の中央部に対向する対向位置に配置される。また、スピンモータ21により、所定の回転数(回転速度)での基板9の回転が開始される。そして、薬液供給部31により薬液が薬液ノズル32を介して上面91に連続的に供給され、薬液処理が行われる(ステップS12)。上面91上の薬液は基板9の回転により外縁部へと広がり、上面91の全体に薬液が供給される。また、外縁部から飛散する薬液は、カップ23にて受けられて回収される。薬液は、フッ酸(HF)や、SC−2(HClとH
2O
2とを含む混合液)、あるいは、SC−1(NH
4OHとH
2O
2とを含む混合液)等の洗浄液である。薬液は、酸性、アルカリ性、あるいは、中性の他の処理液であってもよい。薬液の供給は所定時間継続され、その後、停止される。薬液による処理では、ノズル移動機構により、薬液ノズル32が水平方向に揺動してもよい。
【0026】
薬液による処理が完了すると、薬液ノズル32が、水平方向において基板9から離れた待機位置へと移動する。続いて、図示省略のノズル移動機構によりリンス液ノズル40が、基板9の上面91の中央部に対向する対向位置に配置される。そして、リンス液供給部4によりリンス液ノズル40を介して、リンス液が上面91に連続的に供給され、リンス処理が行われる(ステップS13)。これにより、上面91上の薬液がリンス液により洗い流され、上面91上にリンス液の膜が形成される。既述のように、リンス液の温度は、40℃以上であり、例えば80℃である。リンス液の供給中も、スピンモータ21による基板9の回転が継続される。リンス液の供給は所定時間継続され、その後、停止される。
【0027】
リンス処理が完了すると、リンス液ノズル40が、水平方向において基板9から離れた待機位置へと移動する。また、スピンモータ21により基板9が、上記処理における回転数よりも高い回転数にて回転する。基板9の回転による遠心力により、基板9の上面91に付着しているリンス液が周囲に振り切られる。また、高温のリンス液により基板9が暖められていることにより、上面91に残留するリンス液の蒸発(気化)も促進される。このようにして、上面91のリンス液が除去され、基板9が乾燥される(ステップS14)。乾燥処理後の基板9は、外部の搬送機構により基板処理装置1から搬出され、基板処理装置1における処理が完了する(ステップS15)。
【0028】
ここで、リンス液中のアンモニアの濃度について述べる。
図4は、リンス液の供給により生じる基板9の上面91の帯電電位を示す図である。
図4では、リンス液供給部4から供給されるリンス液による帯電電位を「希釈イオン水」と表記して示し、リンス液中のアンモニアの濃度およびリンス液の温度を括弧内に記している。また、常温(20〜30℃)の純水に二酸化炭素が溶解した炭酸水、および、80℃に加熱した温純水のそれぞれを上記リンス液に代えて使用した場合における基板9の帯電電位も、それぞれ「炭酸水」および「純水」と表記して示している。
【0029】
図4に示すように、アンモニアの濃度が260ppm、320ppm、520ppmのいずれの場合であっても、温純水を使用する場合に比べて、基板9の帯電電位(帯電量)が十分に低くなる。実際には、アンモニアの濃度が260ppm、320ppm、520ppmのいずれの場合も、基板9の帯電電位が炭酸水を使用する場合よりも低くなる。リンス液中のアンモニアの濃度が低くなるに従って、基板9の帯電電位は高くなる傾向であるが、アンモニアの濃度が260ppmの場合でも、帯電電位が炭酸水を使用する場合の半分以下であるため、アンモニアの濃度が250ppm以上であれば、基板9の帯電を十分に抑制することが可能であるといえる。実際には、リンス液中のアンモニアの濃度を250ppm以上とする場合、リンス液の電気抵抗率が0.2MΩ・cm以下となる。リンス液の電気抵抗率は、例えば0.02MΩ・cm以上である。
【0030】
図5は、基板9上に供給されたリンス液の乾燥後に上面91に残留するアンモニア(アンモニウムイオン)の量を示す図である。
図5では、薬液処理、80℃のリンス液によるリンス処理および乾燥処理の後に上面91に残留するアンモニアの量を「薬液処理+希釈イオン水リンス」と表記して示している。リンス処理では、アンモニアの濃度が500ppmであるリンス液を使用した。また、薬液処理、炭酸水によるリンス処理および乾燥処理の後に上面91に残留するアンモニアの量を「薬液処理+炭酸水リンス」と表記して示し、基板9上への常温の純水の供給(薬液処理は行わない。)、および、乾燥処理の後に上面91に残留するアンモニアの量を「純水リンス」と表記して示している。なお、「薬液処理+希釈イオン水リンス」におけるリンス時間は15秒であり、「薬液処理+炭酸水リンス」におけるリンス時間は22.5秒である。上面91に残留するアンモニアの量は、イオンクロマトグラフィーにより測定した。
【0031】
図5に示すように、「薬液処理+希釈イオン水リンス」では、上面91に残留するアンモニアの量が、「薬液処理+炭酸水リンス」および「純水リンス」と同等である。したがって、リンス液中のアンモニアの濃度を500ppm以下とすることにより、基板9の上面91を「薬液処理+炭酸水リンス」および「純水リンス」と同等の残渣量(リンス液に起因する残渣であるアンモニアの量)とすることが可能となる。また、加熱されたリンス液を使用する場合、リンス処理の効率も向上し、常温の炭酸水を使用する場合よりも、リンス処理を短時間にて完了することが可能となる。
【0032】
実際には、リンス液中のアンモニアの濃度を1000ppmとしても、基板9の上面91における残渣量の増加は僅かである。したがって、リンス液中のアンモニアの濃度を1000ppm以下とすることにより、乾燥後の基板9の上面91において不要物が残留することが抑制されるといえる。なお、「薬液処理+炭酸水リンス」および「純水リンス」の場合に、アンモニアが検出される理由は明確ではないが、カップ23の内面等に付着するアンモニア(を含む物質)に起因する可能性が考えられる。基板9の上面91に対して求められる清浄度が確保される場合には、リンス液中のアンモニアの濃度が1000ppmより大きくてもよい(他の電解質が溶質として用いられる場合において同様)。
【0033】
図6は、リンス液が供給された基板9の乾燥処理に要する時間を示す図である。
図6では、80℃のリンス液が供給された基板9に対し、所定回転数での回転を開始した後、基板9が乾燥するまでの時間を「希釈イオン水」と表記して示し、常温の純水が供給された基板9に対し、同じ回転数での回転を開始した後、基板9が乾燥するまでの時間を「純水」と表記して示している。
図6から、80℃のリンス液を使用することにより、常温の純水を使用する場合に比べて、短時間にて乾燥処理が完了することが判る。基板9上に供給されるリンス液の温度は40℃以上であれば、常温の純水を使用する場合に比べて、乾燥時間の短縮が可能となる。好ましくは、リンス液の温度は55℃以上であり、より好ましくは、70℃以上である。
【0034】
以上に説明したように、基板処理装置1では、純水を溶媒とし、アンモニアを溶質として、電気抵抗率が0.2MΩ・cm以下となるように生成されるとともに、40℃以上に加熱されたリンス液が、処理液が付着した基板9の主面に供給され、リンス処理が行われる。これにより、基板9の帯電を抑制しつつ基板9の乾燥時間を短縮することができる。また、リンス液が金属を含まない、すなわち、非金属元素のみから構成されることにより、基板9の金属汚染を防止することができる。リンス液におけるアンモニアの濃度が、250ppm以上かつ500ppm以下であることにより、基板9の帯電および不要物の残留をより確実に抑制することができる。
【0035】
図7は、リンス液供給部の他の例を示す図である。
図7のリンス液供給部4aでは、温純水供給源41が、温純水供給ライン411を介してリンス液ノズル40に接続される。また、アンモニア水供給源42が、アンモニア水供給ライン421を介して、温純水供給ライン411における弁412とリンス液ノズル40との間の位置に接続される。制御部10(
図1参照)が弁412,422の開度を調整することにより、温純水供給源41からの温純水と、アンモニア水供給源42からのアンモニア水とが所定の混合比にて混合されたリンス液が、リンス液ノズル40から吐出される。このように、リンス液供給部4aでは、リンス液ノズル40からの吐出直前にリンス液が生成される。リンス液供給部4aにはヒータは設けられないが、当該リンス液も、温純水により加熱されていると捉えることができる。
【0036】
図7のリンス液供給部4aを利用する基板処理においても、純水を溶媒とし、アンモニアを溶質として、電気抵抗率が0.2MΩ・cm以下となるように生成されるとともに、40℃以上に加熱されたリンス液が、リンス処理に用いられる。これにより、基板9の帯電を抑制しつつ基板9の乾燥時間を短縮することができる。リンス液供給部4,4aでは、アンモニア水供給源42からのアンモニア水が加熱されていてもよい。
【0037】
上記リンス液は、アンモニア水以外を利用して生成されてよい。例えば、
図2および
図7のリンス液供給部4,4aでは、アンモニア水供給源42に代えて、塩酸水溶液供給源が設けられてよい。この場合、純水を溶媒とし、塩酸を溶質として、電気抵抗率が0.2MΩ・cm以下となるように生成されるとともに、40℃以上に加熱されたリンス液が、リンス処理に用いられる。これにより、基板9の帯電を抑制しつつ基板9の乾燥時間を短縮することができる。
【0038】
アンモニアよりも電離度が高い塩酸では、例えば、リンス液中の塩酸の濃度を質量基準で2ppm以上とする場合、リンス液の電気抵抗率が上記範囲内となり、基板9の上面91の帯電がより確実に抑制される。また、塩酸の使用量を少なくして、不要物の残留をより確実に抑制するとともに、基板処理におけるコストを低減するという観点では、リンス液中の塩酸の濃度は5ppm以下であることが好ましい。また、塩酸を用いる場合も、リンス液が金属を含まない、すなわち、非金属元素のみから構成されることにより、基板9の金属汚染を防止することができる。
【0039】
上記基板処理装置1では様々な変形が可能である。
【0040】
上記実施の形態では、純水に溶解する(添加される)電解質としてアンモニアまたは塩酸を含むリンス液が用いられるが、アンモニアおよび塩酸の双方を含むリンス液が用いられてもよい。また、他の電解質を溶質とするリンス液が用いられてもよい。この場合も、電気抵抗率が0.2MΩ・cm以下となるように溶質と溶媒の混合比を決定することにより、基板9の帯電を抑制することができる。また、リンス液を40℃以上に加熱することにより、基板9の乾燥時間を短縮することができる。好ましくは、当該リンス液における溶質の濃度は1000ppm以下である。これにより、乾燥後の基板9の上面91において不要物が過度に残留することが防止または抑制される。
【0041】
半導体基板に対する処理では、上記実施の形態のように、リンス液に溶質として含まれる電解質が、非金属元素のみから構成されることが重要となるが、後述するように、ガラス基板等の他の基板に対する処理では、金属を含むリンス液が利用されてもよい。
【0042】
リンス液が付着した上面91の乾燥は、スピンモータ21による基板9の回転以外の手法にて行われてもよい。例えば、上面91に沿って伸びる長尺の噴出口を有するノズルを上面91に沿って移動しつつ、当該噴出口から乾燥用の気体(エアや不活性ガス)を噴出することにより、静止状態の基板9の上面91を乾燥することが可能である。また、基板9の乾燥処理は、基板9の加熱を含んでもよく、この場合も、高温のリンス液により基板9が予め暖められていることにより、基板9の乾燥時間を短縮することができる。
【0043】
基板処理装置1にて処理される基板は半導体基板には限定されず、ガラス基板や他の基板であってもよい。
【0044】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0045】
1 基板処理装置
4,4a リンス液供給部
9 基板
21 スピンモータ
91 上面
S11〜S15 ステップ