(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る観覧席構造について、
図1〜
図6を用いて説明する。
ここで、
図1(A)は、競技場30を模式的に示す平面図であり、
図1(B)は、競技場30の屋根架構22に、観覧席構造に係る観覧席10を適用した構成を示す
図1(A)のX1−X1線断面図である。
図2(A)は、競技場30を模式的に示す平面図であり、
図2(B)は、
図2(A)のY1−Y1線断面図である。
図3は、
図1(B)の部分拡大図であり、
図4(A)は、観覧席10を説明するための断面図、
図4(B)はその平面図であり、
図5(A)は、観覧席11を説明するための断面図、
図5(B)はその平面図である。
図6は、階段24を説明するための
図2のZ1−Z1線視図である。
【0016】
図1〜
図6に示すように、観覧席構造は、競技場30の屋根架構22から吊り下げられる観覧席10を有している。競技場30は、また、中央部に設けられて競技が行なわれるフィールド34と、フィールド34を囲んで地盤60の上に構築された、複数の固定観覧席36を有している。
【0017】
なお、本実施形態における競技場30は、オリンピック等のビッグイベント時に使用される大規模な施設である。一例として、競技場30への適用について以下説明するが、競技場30に限定されることはなく、アリーナ等施設の名称に関わらず、屋根架構22を有する大規模な施設であれば適用できる。
【0018】
屋根架構22は、鋼材を組み合わせたトラス架構で構築され、競技場30の固定観覧席36、及びフィールド34の上に、中央部を高くしたアーチ状に渡されている。
図3に示すように、観覧席10は、屋根架構22から複数が吊り下げられ、それぞれの観覧席10は、競技場30の中央部へ向けて高くなるよう、互いに高さ(H1、H2)を異ならせて吊り下げられている。
【0019】
また、観覧席10は、フィールド34を囲んで地盤上に構築された、複数の固定観覧席36の上に設けられている。固定観覧席36は、フィールド34に最も近い最前列が、地盤60の上からの高さが最も低く、フィールド34から離れる程、地盤60からの高さが高くされている。また、地盤60からの高さが最も高くされた固定観覧席36の後方に、競技場30の出入口84がある。
【0020】
観覧席10は、固定観覧席36の最上段の座席の後方であり、固定観覧席36の最上段の座席より高い位置に、最下段が設けられている。観覧席10は、屋根架構22の傾斜に沿って、高さを高くし、フィールド34の中心に最も近い位置が、地盤60からの高さが最も高くされている。
【0021】
これにより、複数の観覧席10を屋根架構22からケーブル20で吊り下げても、それぞれの観覧席10からの視界(フィールドを見下ろすための前方及び斜め下方の視界)を確保することができる。
図4(A)、
図4(B)に示すように、観覧席10は、平板状に形成され、観客12を支持するベース部材(床版)16を有している。ベース部材16の周囲には、手すり部材18が立上げられている。
【0022】
ベース部材16は、鋼材、木材、樹脂部材及び鉄筋コンクリート版等を用いて形成され、複数の吊り下げ位置で、所定の吊り下げ部材で吊り下げられた状態において、複数の観客を乗せても(本実施形態では14人)、平板状態を維持できる、十分な曲げ剛性を備えている。
ベース部材16は所定の外径寸法で形成され、上面には、観客用の複数(14個)の椅子14が取付けられている。
【0023】
手すり部材18は、観客12の落下防止と共に、観覧席10から下へ、物品を落さないよう設けられている。また、手すり部材18は、椅子14に座った観客12の視界を確保できる高さに形成されている。
手すり部材18はC形鋼で形成されている。手すり部材18の下端部は、ベース部材16の周囲の端部と接合され、上端部には、ケーブル(吊下手段)20の下端部が複数接合されている。
【0024】
観覧席10は、競技場30の屋根架構22に固定された6本のケーブル20で、水平に吊り下げられている。ケーブル20は、下端部を手すり部材18の上端部に取付け、上端部を屋根架構22に固定している。ケーブル20の上端部と屋根架構22は、連結部材28で連結されている。
なお、屋根架構22が適切な位置にない場合には、屋根架構22の部材間に梁を渡し、この渡された梁を利用して固定すればよい。
【0025】
また、観覧席10は、振れ止めワイヤー62で、振れが抑制されている。振れ止めワイヤー62は、下端部を手すり部材18の上端部に接合し、上端部を屋根架構22に接合している。振れ止めワイヤー62は、X軸方向及びY軸方向に斜めに渡され、観覧席10の振れを抑制する。
【0026】
図2、
図6に示すように、観覧席10は、矩形状に形成されたベース部材16の長手方向に沿わせて、椅子14を一列に配置している。また、観覧席10は、フィールド34の長手方向に沿わせて、ベース部材16の長手方向を配置している。
これにより、観覧席10の観客は、フィールド34の長手方向に沿にそって一列に並び、フィールド34を、斜めに見下ろす視点で競技を観戦できる。
【0027】
また、
図5(A)、
図5(B)に示すように、ベース部材16の椅子14の後側には、通路スペース38が設けられている。これにより、通路スペース38を通り、観覧席10にある自分の椅子14まで移動することができる。
【0028】
図3、
図6に示すように、複数の観覧席10のそれぞれは、観覧席10用の階段(昇降路)24で、屋根架構22の下部の踊場(通路)32とつながれている。また、踊場32は、階段86で出入口84と直結する踊場26とつながれている。
【0029】
階段24は、屋根架構22に沿って高さを異ならせて配置された観覧席10を、高さの順に、順次、観覧席10をつないで配置されている。
階段24は、観覧席10と独立した構成とされ、屋根架構22から直接吊り下げられている。しかし、これに限定されることはなく、両側面にある観覧席10のいずれか一方の側面と一体化させ、階段24と観覧席10が一体化された状態で、屋根架構22から吊り下げてもよい。
【0030】
これにより、観覧席10へ移動する観客12は、
図3に示すように、出入口84を入った後、矢印A、矢印B、矢印C、矢印D、矢印Eの順に進み、踊場26に到達する。踊場26に到達した後、矢印Fに従い階段86を上ることで、踊場32に到達する。ここに、踊場32は、最下部の観覧席10と同じ高さとなっている。また、踊場32は、階段24の最下段と同じ高さとなっている。
【0031】
観客12は、続いて矢印Gに示すように、観覧席10の間に設けられた階段24を上ることで、自分の椅子14がある観覧席10に到達することができる。目的とする観覧席10では、手すり部材19に設けられた入口を通り、矢印Hの方向へ進むことで、観覧席10のベース部材16に移動することができる。最後に、観覧席10の通路スペース38を通り、自分の椅子14まで進む。
【0032】
踊場26、階段86及び踊場32は、いずれも地盤60の上に構築されている。一方、階段24は、屋根架構22から吊り下げられている。このため、踊場32と階段24の接合部には、図示しないエキスパンションジョイントが設けられている。
【0033】
なお、
図5(A)、(B)に示すように、競技場30の中央部(屋根架構22の上部)の近くに配置される観覧席11は、ベース部材17や手すり部材19の一部、又はベース部材17や手すり部材19の全部が、透明な樹脂部材等で製造されている。
これにより、観客12の観覧席11からの、下方の展望を確保することができる。また、フィールド34の上方から、フィールド34を見下ろす角度で、イベント等を観戦することができる。
なお、
図5(A)に示すベース部材17や手すり部材19の断面は、樹脂部材の透明性を表現するため、敢えてハッチングは省略している。
【0034】
本構成によれば、観客12を載せる観覧席10が、ケーブル20で屋根架構22から吊り下げられている。観客12は、吊り下げられた観覧席10から、屋根架構22の下部で行われるイベント等を楽しむことができる。これにより、観客12は、従来の固定観覧席36とは異なる視点で、異なる感動を得ることができる。
また、観客12は、階段24を通り、屋根架構22の下部の踊場32と観覧席10との間を行き来できる。また、観客12は、踊場26を通り、踊場32と出入口84との間を通り行き来できる。
【0035】
上述したように、本実施形態によれば、屋根架構22を利用して、固定観覧席36の上に、観覧席10を設けることが可能となる。この結果、屋根架構22の下部の観覧席数(固定観覧席36と観覧席10の合計)を最大化させることができる。これにより、競技場30の敷地面積を増大させずに、観覧席数を増大させることができる。
【0036】
また、吊るされた観覧席10は、フィールド34からの距離が近く、下方のフィールド34で行われている競技を見下ろすという、従来にない、競技観戦の新しい視点を創出することができる。
【0037】
なお、競技場30は、既設であっても、新築であってもよく、屋根架構22の下部の空間を有効に活用して、観覧席の二層化が図れ、観客席数を増やすことができる。
また、屋根架構22は、アーチ形状で説明したが、これに限定されることはなく、屋根架構22が傾斜していなくてもよい。また、屋根架構22の傾斜がアーチ形状でなくてもよい。
【0038】
また、本構成は、乾式工法(ボルト締め)で架構できるので、既存施設であっても、オリンピック等のビッグイベント時に要求される一時的な観客席数の増大に対応できる。その際、工事、撤去が簡便となる。更に、オリンピック等のビッグイベント終了後に、大掛かりな改修を伴わずに、観覧席数を適正な数に簡便に収めることができる。
【0039】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る観覧席構造について、
図7(A)、(B)、
図8(A)〜(C)、
図9(A)、(B)、
図10(A)、(B)を用いて説明する。
第2実施形態に係る観覧席構造は、観覧席10が昇降可能に吊り下げられている点において、第1実施形態と相違する。相違点を中心に説明する。
ここで、
図7(A)はウインチ46で昇降可能に吊下げられた観覧席10を示し、(B)は、ロッド巻上装置72で昇降可能に吊下げられた観覧席10を示している。
図8(A)〜(C)は、観覧席10が昇降可能に吊り下げられた競技場30の活用例を示し、
図9(A)、(B)は、観覧席10の活用例を示し、
図10(A)、(B)は、観覧席10の他の活用例を示している。
【0040】
図7(A)に示すように、観覧席10は、屋根架構22に取付けられたウインチ46から吊り下げられたケーブル20に取付けられている。
ウインチ46は、連結部材45で屋根架構22に固定され、運転操作に従いケーブル20の巻き上げ、巻き戻しを行う。ウインチ46は、観覧席10を吊るす全てのケーブル20に取付けられている。
これにより、ウインチ46を操作することで、個々の観覧席10を、矢印Qに示すように、独立して昇降させることができる。
【0041】
先ず、
図8(A)〜(C)を用いて、ウインチ46により、観覧席10が昇降可能に吊り下げられた競技場30の活用例を示す。
図8(A)に示すように、観覧席10を、矢印Qに示すように、ウインチ46で所定高さまで吊り上げ、かつ、吊下げ位置を微調整することができる。これにより、複数の観覧席10を、それぞれ所定の高さに配置することができる。
屋根架構22の下部に観覧席10を増加させることで、競技場30における観客席数を最大化させることができる。
【0042】
図8(B)に示すように、観覧席10を、ウインチ46で、最上部に設けた格納位置(屋根架構22の近傍)まで巻き上げて、格納することができる。
即ち、観覧席10を使用しない場合には、観覧席10を、矢印Rに示すように、ウインチ46で、格納位置まで持ち上げることで、競技場30の内部空間を広くすることができる。
【0043】
ここに、観覧席10の格納は、一部の観覧席10のみを格納し、残りの観覧席10を使用する構成も可能である。
これにより、競技場30の減築等を伴わずに、競技場30における観覧席数を、容易に適正な数に調整することができる。また、必要に応じて再度、観覧席10を所定位置に取付け、観覧席数を最大化させることができる。
【0044】
図8(C)は、全ての観覧席10を、天井面から取り外した構成を示している。
競技場30における観客席数を最大化させたイベントが終了し、観覧席数を減らす場合には、観覧席10を取り外し、観覧席数を適正な数に調整することができる。
この際、ウインチ46を利用することで、観覧席10の取外しが容易になる。
【0045】
なお、観覧席10の取外しは、一部の観覧席10のみであってもよい。
また、観覧席10の取外しにおいて、観覧席10のみを取外し、ウインチは残してもよいし、観覧席10とウインチ46の両者を取り外してもよい。
これにより、競技場30の減築を行わずに、容易に、競技場30から観覧席10を取り外し、競技場30の観覧席数を適正に維持することができる。
【0046】
なお、
図7(B)に示すように、観覧席10を昇降可能に吊り下げる構成は、外周部にネジが切られたロッド70と、ロッド70を囲むロッド巻上装置72を用いてもよい。
観覧席10は、ロッド70の下端部に取り付け、ロッド巻上装置72は、連結部材73で屋根架構22に固定されている。また、屋根架構22の上方には、上下方向に移動するロッド70の収容空間が設けられている。
【0047】
ロッド巻上装置72の内部には、ロッド70の外周に設けられたネジ部と螺合する、図示しないナット部と、ナット部を回転させる回動部を有している。運転操作で回動部の回転方向を制御することで、ロッド70を上下方向へ移動させることができる。
ロッド70の上下方向への移動により、観覧席10を矢印Qに示すように、昇降させることができる。
【0048】
次に、
図9(A)、
図9(B)を用いて、観覧席10を音響性能の調整に活用する例について説明する。
図9(A)、
図9(B)は、いずれも、観覧席10のベース部材16の底面16Bに、吸音材又は反響材64を貼り付けた構成である。これにより、競技場30で音楽イベント等を開催する際に、観覧席10の位置や角度を調整することで、競技場30の内部空間の音響性能を向上させることができる。
【0049】
図9(A)は、観覧席10の底面16Bを水平に向けた場合を示している。フィールド34からの矢印Sで示す音を、観覧席10の底面16Bで反射させ、又は吸収させることで、競技場30内部の音響性能をコントロールできる。
【0050】
図9(B)は、観覧席10の底面16Bを、水平に対して傾斜させた場合を示している。これにより、傾斜角度を調整することで、フィールド34からの矢印Sで示す音の反射や吸収を、より効果的に調整できる。
【0051】
次に、
図10(A)、
図10(B)を用いて、観覧席10を照明性能の向上に活用した例を説明する。
図10(A)は、複数の、観覧席10のベース部材16の底面16Bに、面状の発光源66をそれぞれ設置した構成を示している。
位置が異なる観覧席10の底面16Bに、面状の発光源66を取付け、面状の発光源66からの、矢印Nで示す光の色や強度を適切に調整することで、フィールド34における、光の演出効果を高めることができる。
【0052】
図10(B)は、複数の観覧席10のベース部材16の底面16Bに、半球状の発光源68を、それぞれ取付けた構成を示している。位置が異なる底面16Bに半球状の発光源68と取り付け、半球状の発光源68からの光の色や強度を適切に調整することで、フィールド34における光の演出効果を高めることができる。
【0053】
更に、図示は省略するが、複数の観覧席10のベース部材16の底面16Bに、プロジェクターを設置して画像を投射したり、複数のベース部材16の底面16Bから垂れ幕を吊り下げることもできる。また、これらを組み合わせ、種々の演出や情報発信に利用することができる。
なお、観覧席10の底面16Bのメンテナンスは、近傍の床面から行うことができる。
他の構成は、第1実施形態と同じであり説明は省略する。
【0054】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態に係る観覧席構造について、
図11(A)、
図11(B)を用いて説明する。
第3実施形態に係る観覧席構造は、観覧席40を有している。観覧席40は、観覧席40を吊るすケーブル42を、側面視において、観覧席40の中央部のみに配置した点において、第1実施形態と相違する。相違点を中心に説明する。
ここで
図11(A)は、観覧席40を説明するための断面図であり、
図11(B)は、その平面図である。
【0055】
図11(A)、
図11(B)に示すように、観覧席40は、Y軸方向の中央部に、X軸方向の全長に渡るH形鋼44を有している。H形鋼44は、観覧席40の構造部材を構成すると共に、椅子76の一部としても利用されている。
【0056】
観覧席40は、3本のケーブル42で、屋根架構22から吊り下げられている。ケーブル42の上端部は、連結部材28で屋根架構22と接合され、下端部は、H形鋼44の上フランジに取付けられている。
【0057】
なお、観覧席40は、第2実施形態で説明したウインチ46で吊下げられる構成であってもよい。これにより、観覧席40を上下方向に調整することができる。
また、観覧席40の手すり部74には、X軸方向、及びY軸方向の振れを抑制する振れ止めワイヤー62が取付けられている。
【0058】
本構成とすることにより、ケーブル42の数量を3本に減らし、観覧席40の構造を簡略化できる。また、観覧席40の手すり部74に取付けるケーブル42の数を減らすことができるので、観覧席40からの視界を広く確保することができる。
また、本実施形態においても、第2実施形態で説明したように、観覧席40の活用を図ることができる。他の構成は、第1実施形態と同じであり説明は省略する。
【0059】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態に係る観覧席構造について、
図12(A)、
図12(B)を用いて説明する。
第4実施形態に係る観覧席構造は、観覧席50を有し、観覧席50はベース部材54が木造とされている点において、第1実施形態と相違する。相違点を中心に説明する。
ここに、
図12(A)は、観覧席構造に係る観覧席50を説明するための断面図であり、(B)は、その平面図である。
【0060】
図12(A)、(B)に示すように、観覧席50のベース部材54は、椅子14が取付けられる上段の上段床材56と、ケーブル52の下端部が取付けられる下段の下段床材58を有している。上段床材56と下段床材58は、いずれも木材で形成されている。
上段床材56と下段床材58との間には、空間80が設けられている。空間80には、ケーブル52の取付け部を補強する補強部材82が配置されている。
これにより、観覧席50の軽量化が図れ、屋根架構22に加えられる荷重を低減することができる。
【0061】
ケーブル52は、ベース部材54の周囲に8本が取付けられている。ケーブル52の下端部は下段床材58に取付けられ、ケーブル42の上端部は、連結部材28で屋根架構22と接合されている。
また、観覧席50の手すり部78には、X軸方向、及びY軸方向の振れを抑制する振れ止めワイヤー62が取付けられている。
【0062】
なお、連結部材28は、第2実施形態で説明したウインチ46を、屋根架構22に取付けた構成であってもよい。これにより、観覧席50を上下方向に昇降可能に取り付けることができる。
また、本実施形態においても、第2実施形態で説明したように、観覧席50の活用を図ることができる。他の構成は、第1実施形態と同じであり説明は省略する。