(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556550
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】光硬化性粘着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 153/00 20060101AFI20190729BHJP
C09J 133/12 20060101ALI20190729BHJP
C09J 133/08 20060101ALI20190729BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
C09J153/00
C09J133/12
C09J133/08
C09J4/02
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-156993(P2015-156993)
(22)【出願日】2015年8月7日
(65)【公開番号】特開2017-36368(P2017-36368A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2018年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 健太
(72)【発明者】
【氏名】野依 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】竹内 拓
【審査官】
井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−203977(JP,A)
【文献】
特開2009−279862(JP,A)
【文献】
特開2015−137359(JP,A)
【文献】
特開2013−253129(JP,A)
【文献】
特開2011−026551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルメタアクリレートとブチルアクリレートのトリブロック共重合体エラストマー(A)と、酸素または窒素原子を含む置換基を有する単官能(メタ)アクリレートモノマー(B)と、光重合開始剤(C)と、を含む光重合性粘着剤組成物であって、(A)成分の含有量が全組成物の不揮発分100重量部に対し10〜35重量部であり、(A)の硬さが、ISO7619−1に準拠したタイプAデュロメータで30〜70である光硬化性粘着剤組成物。
【請求項2】
前記酸素または窒素原子を含む置換基を有する単官能(メタ)アクリレートモノマー(B)が、ヒドロキシル基またはアミド基またはフェノキシ基を含有する、請求項1の光硬化性粘着剤組成物。
【請求項3】
前記組成物が、3000mPa・s以下の粘度である請求項1または2いずれか記載の光硬化性粘着剤組成物。
【請求項4】
再剥離可能なラベルに用いることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の光硬化性粘着樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラベルやシートに薄膜で塗布する粘着剤で、被着体に一旦貼り付けた後に剥離を行う際に、特別な加工作業なしでも粘着剤残り等の汚染が生じにくい、再剥離性に優れた光硬化性粘着剤、およびそれを塗布した再剥離可能なラベルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、市場に出回る多くの商品には、価格、商標および内容物等の情報を表示したり、また当該商品を包装および結束するため、各種の粘着性テープ、粘着シートおよび粘着ラベル(以下「粘着ラベル類」という)が大量に使用されている。これらに使用する粘着剤は、環境問題の高まりから有機溶剤を使用しない組成物への移行が進んでおり、例えばアクリル系重合体とイソシアネート基を含有する(メタ)アクリル酸エステルと光重合開始剤による活性エネルギー線硬化型ホットメルト粘着剤が提案されている(特許文献1)。
【0003】
更に最近では一旦貼り付けた後に剥離を行う場合、被着体に粘着剤が残りにくい再剥離性に優れる粘着ラベル類へのニーズが高まっており、こうした要求に対し、例えば半導体製造工程において剥離を行う際に紫外線を照射する粘着テープ(特許文献2)や、郵便物等で情報の機密性を保持する用途に用いられ、貼合わせ時に加圧を行う接着剤(特許文献3)等があるが、貼合わせおよび剥離時に特別な加工工程が必要という課題があった。またこうした特別な加工工程が必要とされない場合は、アクリル系モノマーとポリエーテルポリオールとアルカリ金属塩とからなる粘着剤層を有する粘着テープ(特許文献4)のように、モノマーからの重合反応が必要で製造プロセスが高価な配合となるため、特別な加工工程が不要で一般的な粘着ラベル類に使用できる、安価な無溶剤型粘着剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012‐67250号公報
【特許文献2】特開2008−127545号公報
【特許文献3】特開2002‐285160号公報
【特許文献4】特開2010‐53192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ラベルやシートに薄膜で塗布する粘着剤で、被着体に一旦貼り付けた後に剥離を行う際に粘着剤残り等の汚染が生じにくい、また貼合わせおよび剥離時に特別な加工工程が不要である安価な無溶剤型の光硬化性粘着剤、およびそれを塗布した再剥離可能なラベルを提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、メチルメタアクリレート(以下「MMA」という。)とブチルアクリレート(以下「BA」という。)のトリブロック共重合体エラストマー(A)と、酸素または窒素原子を含む置換基を有する単官能(メタ)アクリレートモノマー(B)と、光重合開始剤(C)と、を含む光重合性粘着剤組成物であって、(A)成分の含有量が全組成物
の不揮発分100重量部に対し10〜35重量部であ
り、(A)の硬さが、ISO7619−1に準拠したタイプAデュロメータで30〜70である光硬化性粘着剤組成物を提供する。
【0007】
また請求項2の発明は、前記酸素または窒素原子を含む置換基を有する単官能(メタ)アクリレートモノマー(B)が、ヒドロキシル基またはアミド基またはフェノキシ基を含有する、請求項1の光硬化性粘着剤組成物を提供する。
【0008】
また請求項3の発明は、前記組成物が、3000mPa・s以下の粘度である請求項1
または2いずれか記載の光硬化性粘着剤組成物を提供する。
【0009】
また請求項4の発明は、
再剥離可能なラベルに用いることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の光硬化性粘着樹脂を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光硬化性薄膜粘着剤は、ラベルやシートに薄膜で塗布する粘着剤で、被着体に一旦貼り付けた後に剥離を行う際、特別な処理工程が無くとも粘着剤残り等の汚染が生じにくい再剥離性に優れた、また低コストの粘着剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の組成物の構成は、MMAとBAのトリブロック共重合体エラストマー(A)と、酸素または窒素原子を含む置換基を有する単官能(メタ)アクリレートモノマー(B)と、光重合開始剤(C)である。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレートとメタクリレートとの双方を包含する。
【0013】
本発明に使用されるMMAとBAのトリブロック共重合体エラストマー(A)は、粘着剤層に柔軟性ともに適度な硬度を付与するベース樹脂であり、硬いポリマーであるポリメチルメタアクリレート(以下「PMMA」という。)で比較的柔らかいポリマーであるポリブチルアクリレート(以下「PBA」という。)を挟んだ構造のトリブロック共重合体が好ましい。PMMAとPBAの重合比率は、硬さがタイプAデュロメータで30〜70となる比率が好適である。
【0014】
市販品としてはクラリティLA2140E(クラレ製、PMMA/PnBA/PMMAトリブロックポリマー、タイプA硬度32)等がある。MMAとBAのトリブロック共重合体エラストマー(A)の組成物全体100重量部に対する配合量は10〜35重量部で、より好ましくは15〜30重量部である。10重量部未満では凝集力不足により硬化皮膜ができず、35重量部超では粘度が高くなり薄膜塗布ができなくなる。
【0015】
本発明に使用される酸素または窒素原子を含む置換基を有する単官能(メタ)アクリレートモノマー(B)は、MMAとBAのトリブロック共重合体エラストマー(A)を溶解する反応性の溶媒であると同時に粘着剤の粘度を調整し、また粘着層に硬度を付与する役割を担う。そのため(B)は(A)の良溶媒でなおかつ低粘度が好ましく、ヒドロキシル基またはアミド基またはフェノキシ基等の極性基を含有するアクリレートモノマーが好適である。
【0016】
具体的にはヒドロキシル基を有するモノマーとして、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2‐ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2‐ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等があり、またアミド基を有するモノマーとしては、アクリルアミド、N,N‐ジメチルアクリルアミド、N,N‐ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、アクリルロイルモルホリン等があり、更にフェノキシ基を有するモノマーとして、フェノキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、メチルフェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート等がある。これらを単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0017】
本発明に使用される光重合開始剤(C)は、紫外線や電子線などの照射でラジカルを生じ、そのラジカルが重合反応のきっかけとなるもので、汎用の光重合開始剤で良い。具体的には2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、ビス(2,4,6‐トリメチルベンゾイル)‐フェニルフォスフィンオキサイド、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン等があり、単独または2種以上を組み合わせて使用できる。ラジカル重合性成分に対して、1〜10重量%配合することが好ましい。
【0018】
本発明の粘着剤組成物には、性能を損なわない範囲で、必要により粘着付与剤、可塑剤、酸化防止剤及び濡れ性調整剤等の各種添加剤が含まれていても良い。
【0019】
本発明に使用される粘着付与剤は、ガムロジン、トールロジン、ウッドロジン、不均斉化ロジン、重合ロジン、これらロジンのグリセリンエステルやペンタエリスリトールエステル、これらの水素添加物などのロジン系樹脂、テルペン樹脂、炭化水素変性テルペン樹脂、これらの水素添加物などのテルペン系樹脂、テルペンフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂の水素添加物などのテルペンフェノール系樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、共重合系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂、ピュアーモノマー系石油樹脂、これらの水素添加物などの石油系樹脂、スチレン系樹脂、クマロンインデン系樹脂、アルキルフェノール系樹脂、キシレン系樹脂等がある。
【0020】
これらの中でも、MMAとBAのトリブロック共重合体エラストマー(A)との相溶性の点から、低軟化点のロジンエステル、テルペンフェノール、スチレン樹脂が好ましく、これらを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。市販品としてはKE−311(荒川化学工業製、水添ロジンエステル)、YSポリスターT80(ヤスハラケミカル製、テルペンフェノール樹脂)等がある。
【0021】
更に本発明に使用される可塑剤としてフタル酸エステル、ポリウレタン等あるが、MMAとBAのトリブロック共重合体エラストマー(A)との相溶性の点から、メチルメタアクリレートとブチルアクリレートの液状共重合体が好適である。市販品としてはクラリティLA1114(クラレ製、PMMA/PnBAジブロックポリマー)等がある。
【0022】
本発明の光硬化性粘着樹脂の粘度は3000mPa・s以下であり、更には500〜2000mPa・sが好ましい。3000mPa・sを超えると塗布量のコントロールが難しくなり、安定して10μm以下の薄膜塗布が困難となる。
【0023】
本発明の光硬化性粘着樹脂を基材に塗布する場合は、リバースロールコーター、グラビアコーター、バーコーターなど公知の塗工方法でよく、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、無電極放電ランプ等の光源から、紫外線のような活性エネルギー線を照射してモノマーを硬化させる。
【0024】
光硬化性粘着樹脂を塗布する基材としては、紙類(例えばアート紙、つや紙、マシンコート紙等)、各種合成紙などのシート、フィルム類などで、従来からラベル類に使用されているものと同じものが利用できる。
【0025】
以下、本発明について実施例及び比較例を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。なお表記が無い場合は、室温は25℃相対湿度65%の条件下で測定を行った。
【実施例】
【0026】
実施例1
MMAとBAのトリブロック共重合体エラストマー(A)としてクラリティLA2140E(クラレ製、PMMA/PnBA/PMMAトリブロックポリマー、タイプA硬度32)を、酸素または窒素原子を含む置換基を有する単官能アクリレートモノマー(B)として4−HBA(大阪有機化学工業製、4−ヒドロキシブチルアクリレート)を、光重合開始剤(C)としてIrgacure127(BASF製)を用い、均一に溶解するまで撹拌し実施例1の粘着剤組成物を調整した。
【0027】
実施例2〜9
実施例1で用いた材料の他、MMAとBAのトリブロック共重合体エラストマー(A)としてクラリティLA2250(クラレ製、PMMA/PnBA/PMMAトリブロックポリマー、タイプA硬度65)およびLA2330(クラレ製、PMMA/PnBA/PMMAトリブロックポリマー、タイプA硬度32)を、酸素または窒素原子を含む置換基を有する単官能アクリレートモノマー(B)としてHOP-A(共栄社化学製、2−ヒドロキシプロピルアクリレート)およびPO−A(共栄社化学製、フェノキシエチルアクリレート)およびDEAA(KJケミカルズ製、ジエチルアクリルアミド)を、粘着付与剤としてKE−311(荒川化学工業製、水添ロジンエステル)を、可塑剤としてLA1114(クラレ製、PMMA/PnBAジブロックポリマー)を用いて表1記載の配合にて、実施例2〜9の各粘着剤組成物を調製した。
【0028】
比較例1〜9
実施例1〜9で用いた材料の他、熱可塑性エラストマーとしてTPAE12(T&KTOKA製、ポリエーテルエステルアミドブロックポリマー)およびRX71−25(亜細亜工業製、水添ポリブタジエン系ウレタンアクリレート)およびRX8−39(亜細亜工業製、ポリプロピレングリコール系ウレタンアクリレート)を、脂肪族アルキル系アクリレートモノマーとしてNOAA(大阪有機化学工業製、ノルマルオクチルアクリレート)を、2官能アクリレートモノマーとして4EG−A(共栄社化学製、PEG200ジアクリレート)を、可塑剤としてGI−1000(日本曹達製、末端水酸基含有水添ポリブタジエン)を用いて表1記載の配合にて、比較例1〜9の各粘着剤組成物を調製した。
【0029】
粘着シートの作製
実施例1〜9および比較例1〜9の各粘着剤組成物を、易接着ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」という)フィルム(東洋紡績製、厚み50μm、商品名A4300)上に乾燥後の厚さが5μmとなるように均一に塗布し、フュージョンUVシステムズジャパン製の無電極UV照射装置F300S/LC−6Bを用い、Hバルブで出力1300mW/cm2、積算光量が100mJ/cm2となる様に紫外線照射硬化し、粘着シートを作製した。
【0030】
表1
【0031】
評価方法は以下の通りとした。
【0032】
粘度:東機産業製のコーンプレート型粘度計RC−550を用い、コーン角3°R17.65で25±1℃、回転数10rpmで測定し、3000mPa・s以下を○、超えるものを×とした。
【0033】
接着強度:ミネベア製の引っ張り試験機TGI−1kNを用い、ステンレス板とPETフィルムとの180°剥離強度を、クロスヘッドスピード300mm/min.で測定した。試験片は上記で作製した粘着シートを100×25mmの大きさにカットし、厚さ1mmのステンレス板(SUS304)に貼り合わせ、その上から重さ2Kgのローラーで一往復加圧した後1時間放置して用いた。
【0034】
再剥離性:上記接着強度測定後のステンレス板を用い、目視と指触により糊残りを確認し、糊残りが無いものを○、べたつきがあるものを×とした。
【0035】
評価結果を表2に示す。
表2
【0036】
実施例の各粘着剤組成物は各評価結果いずれも良好であった。一方、比較例の各粘着剤組成物においては、粘度、接着強度および再剥離性のいずれかの評価で本願発明に適さないものであった。