(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556551
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】巻上機およびそれを用いた天井クレーン装置
(51)【国際特許分類】
B66D 1/46 20060101AFI20190729BHJP
【FI】
B66D1/46 D
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-157424(P2015-157424)
(22)【出願日】2015年8月7日
(65)【公開番号】特開2017-36110(P2017-36110A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2017年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】及川 裕吾
【審査官】
今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−026326(JP,A)
【文献】
特開昭60−153396(JP,A)
【文献】
特公平02−001069(JP,B2)
【文献】
実開平02−007289(JP,U)
【文献】
特開平05−058591(JP,A)
【文献】
特開平07−069582(JP,A)
【文献】
特開2010−030760(JP,A)
【文献】
特開平2−261796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66D 1/00 − 5/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フックを取り付けたワイヤーロープを巻上電動機により巻き上げ/巻き下ろす巻上機であって、
前記巻上電動機の回転数を検出するエンコーダと、
前記巻上電動機に制動をかける巻上ブレーキと、
前記巻上ブレーキを制御するブレーキ制御処理部とを備え、
前記ブレーキ制御処理部は、
巻上用インバータの出力周波数に基づいて前記巻上ブレーキを制御する通常モードのブレーキ制御処理部と、
前記巻上電動機の回転数に基づいて前記巻上ブレーキを制御する荷下ろしモードのブレーキ制御処理部と、を備え、
前記荷下ろしモードのブレーキ制御処理部は、制御部が故障した荷下ろしモード時に、前記エンコーダで検出した巻上電動機の回転数に基づいて前記巻上ブレーキを制御することを特徴とする巻上機。
【請求項2】
請求項1に記載の巻上機において、
前記荷下ろしモードのブレーキ制御処理部は、制御部が故障した荷下ろしモード時に、前記巻上電動機の回転数が所定の回転数以下の場合には前記巻上ブレーキを解放し、所定の回転数を越えると前記巻上ブレーキに制動をかけることを特徴とする巻上機。
【請求項3】
請求項1に記載の巻上機において、
操作入力部から入力された通常モード或いは荷下ろしモードに応じて、前記通常モードのブレーキ制御処理部と前記荷下ろしモードのブレーキ制御処理部を切り替えることを特徴とする巻上機。
【請求項4】
請求項3に記載の巻上機において、
前記操作入力部は、電源の入り切りを行う入切ボタン、クレーンフックを上下させる上下ボタン、巻上機を移動させる東西ボタンおよび南北ボタンを備えており、ボタンの組み合わせ操作により、通常モードと荷下ろしモードを入力することを特徴とする巻上機。
【請求項5】
請求項1に記載の巻上機において、
前記巻上電動機、前記巻上用インバータ、または、前記巻上インバータ制御部の異常を検出した場合に前記荷下ろしモードへ移行することを特徴とする巻上機。
【請求項6】
請求項1に記載の巻上機において、
荷下ろしモードから通常の運転モードへ戻す手段を備えることを特徴とする巻上機。
【請求項7】
請求項1に記載の巻上機において、
荷下ろしモード等の運転モードの状態を、外部に出力する手段を備えることを特徴とする巻上機。
【請求項8】
請求項7記載の巻上機において、
前記運転モードの状態を外部に出力する手段は、ランプまたは警報音発生手段であることを特徴とする巻上機。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一つに記載の巻上機を用いた天井クレーン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻上機の制御部故障時の荷下ろし技術に関する。
【背景技術】
【0002】
巻上機(ホイスト)は、クレーンフックに取り付けた荷物を、電動機を備えた巻上用装置によりワイヤーロープを巻上げ巻下げすることで、上下に移動するものである。巻上機において制御部が故障すると、吊荷を上げ下げ運転できなくなり、吊荷を下ろす必要がある。
【0003】
本技術分野の背景技術として、特開2006−273547号公報(特許文献1)がある。この公報には、「ホイスト故障時に、ホイスト側制御器から外部に取り出されている巻上げモータ/ブレーキ及び走行モータ/ブレーキの主操作回路からの分岐線に接続されたコネクターに、ホイストの巻上げ、走行を司る制御部分を有する補助操作回路を有した故障ホイストの操作装置のカップラーを接続し、該接続回路を介して、前記故障ホイストに電源を投入して、故障ホイストをホイスト操作用操作盤により再操作可能とする。」(要約参照)と記載されている。
【0004】
また、特開平10−316377号公報(特許文献2)がある。この公報には、「主モータの回転軸に連結されたブレーキ軸をクラッチ部及び微速側減速部を介して微速モータの回転軸に連結し、故障発生時回転軸に設けた延長部にハンドルを取り付け、回転軸を制動するブレーキ部のブレーキトルクに抗して回転軸を強制的に回転させる。」(要約参照)と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−273547号公報
【特許文献2】特開平10−316377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
巻上機の制御部が故障すると、上げ下げ運転ができなくなる。故障時に荷を吊った状態であると修理の際危険であるため、吊荷を下ろす必要がある。
【0007】
この問題を解決するために、巻上機の制御部故障時の対策として、例えば特許文献1では、予めホイストを制御する制御盤に、別制御盤を簡易的に接続できる構成を設け、制御盤が故障時、別制御盤を接続し故障したホイストを動作させている。
【0008】
また、特許文献2では、モータの回転軸を手動で回転させるためのハンドルを設け、故障時に前記ハンドルを回転させることで荷降ろしを可能としている。
【0009】
故障した巻上機を動作させるため、前記特許文献1では、別制御盤を簡易的に接続できる構成、及び、別制御盤を設ける必要があり、また、前記特許文献2では、モータの回転軸を手動で回転させるためのハンドルを設ける必要がある。
【0010】
また、前記特許文献1、2いずれにおいても、荷下ろしをするためには、巻上機が設置されている工場の天井に操作員が昇る必要がある。
【0011】
本発明は、特別な装置を用いることなく、故障した巻上機を動作させ、安全に吊荷を下ろすことができる巻上機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、フックを取り付けたワイヤーロープを巻上電動機により巻き上げ/巻き下ろす巻上機であって、前記巻上電動機の回転数を検出するエンコーダと、前記巻上電動機に制動をかける巻上ブレーキと、前記巻上ブレーキを制御するブレーキ制御処理部とを備え、
前記ブレーキ制御処理部は、巻上用インバータの出力周波数に基づいて前記巻上ブレーキを制御する通常モードのブレーキ制御処理部と、前記巻上電動機の回転数に基づいて前記巻上ブレーキを制御する荷下ろしモードのブレーキ制御処理部と、を備え、前記
荷下ろしモードのブレーキ制御処理部は、制御部が故障した荷下ろしモード時に、前記エンコーダで検出した巻上電動機の回転数に基づいて前記巻上ブレーキを制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特別な装置を用いることなく、故障した巻上機を動作させ、安全に吊荷を下ろすことができる巻上機を提供することができる。また、故障時に操作員が天井に上って作業を行う必要もなくなる。
【0014】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例のインバータ式天井クレーン装置の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】実施例のインバータ式天井クレーン装置の主要部の構成を示すブロック図である。
【
図3】実施例の荷下ろし制御の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図3の巻上・横行インバータ制御部内のブレーキ制御の構成を示す図である。
【
図5】荷下ろし制御の実行判断処理を示すフローチャートの一例である。
【
図6】
図5の処理を行うための操作入力装置を示す図である。
【
図7】荷下ろし時のブレーキ制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。
【0017】
図1は、本実施例によるインバータ式天井クレーン装置の全体構成を示す斜視図である。
インバータ式天井クレーン装置は、クレーンフック1、ワイヤーロープ2、巻上誘導電動機3、巻上用装置4、横行誘導電動機5、横行用装置6、横行用ガーダー7、走行誘導電動機8、走行用装置9、走行用ガーダー10、巻上・横行インバータ装置(主制御部と称す。)11、操作入力装置13および走行用インバータ装置18から構成されている。
【0018】
インバータ式天井クレーン装置は、クレーンフック1に取り付けた荷物を、巻上誘導電動機3を備えた巻上用装置4によりワイヤーロープ2を巻上巻下することでZ方向(Z方向、−Z方向の矢印で示す。)即ち、上下方向に荷物を移動する。また、X方向(X方向、−X方向の矢印で示す。)(横方向)には、横行用装置6にある車輪を、横行誘導電動機5が回転させ、横行用ガーダー7に沿ってX方向に移動する。また、Y方向(Y方向、−Y方向の矢印で示す。)(前後方向)には、走行用装置9にある車輪を、走行誘導電動機8が回転させ、走行用ガーダー10に沿ってY方向に移動する。
【0019】
図2は、インバータ式天井クレーン装置の主要部の構成を示すブロック図である。
巻上誘導電動機3と横行誘導電動機5は、巻上・横行用インバータ装置11に格納された巻上・横行インバータ制御部12により制御される。即ち、オペレータが操作入力装置13からの所定の指示を入力すると、巻上・横行インバータ制御部12は、巻上用インバータ14と横行用インバータ15を制御し、巻上用インバータ14と横行用インバータ15から制御に必要な周波数、電圧、電流を巻上誘導電動機3と横行誘導電動機5に加え、同時に誘導電動機用ブレーキ16を解放制御することで、巻上用装置4の場合、クレーンフック1に取り付けられた荷物が、落下することなくZ方向に移動させる。また、横行用装置6の場合、横行用ガーダー7に沿って巻上用装置4をX方向に移動させる。
また、巻上・横行インバータ制御部12は、モータの回転数を検出するエンコーダ17の情報を取り込み、モータ回転数の情報を巻上用インバータ14の制御に使用する。
【0020】
同様に、走行用装置9に取り付けてある走行誘導電動機8は、オペレータが操作入力装置13からの所定の指示を入力すると、走行用インバータ装置18に格納された走行インバータ制御部19が走行用インバータ20を制御し、走行用インバータ20から制御に必要な周波数、電圧、電流を走行誘導電動機8に加え、同時に誘導電動機用ブレーキ16を解放制御することで、走行用ガーダー10に沿って巻上用装置4をY方向に移動させる。
【0021】
本実施例の、制御部故障時の荷下ろし構成を、
図3乃至
図7により説明する。
【0022】
図3は、荷下ろし制御構成を示すブロック図である。
巻上・横行インバータ制御部12は、マイコンを搭載しており、巻上用インバータ14、巻上用モータ3、または、巻上・横行インバータ制御部12自体の異常を検出すると、荷下ろしモードに移行する。ここで、荷下ろしモードへの移行は例えば巻上・横行インバータ制御部12のマイコンのタイマ割込処理で実施する。
【0023】
図5に、荷下ろし制御実行判断処理のフロー図の一例を示す。また、
図6に、
図5のフローで荷下ろしモードへ移行するための操作入力装置の一例を示す。操作入力装置13は、天井クレーン装置を動作させるもので、電源の入り切りを行う入切ボタン、クレーンフックを上下させる上下ボタン、巻上機を移動させる東西ボタンおよび南北ボタンを有している。
図5のフローは、
図6の操作入力装置13において、上操作をしながら切操作をし、その後、入操作をすると、荷下ろしモードへ移行するものである。
まず、現在荷下ろしモードであるか確認し(S101)、荷下ろしモードでなければ、荷下ろしフラグの確認をする(S102)。次に、荷下ろしフラグが0ならば、巻上異常を検出中であるか確認し(S103)、異常検出中ならば、上下操作入力を確認する(S104)。次に、上または下操作入力があるならば、切操作入力を確認し(S105)、切操作ならば、荷下ろしフラグを1にする(S106)。前記順序で荷下ろしフラグを1にすることで、荷下ろしフラグが1であるとき(S102)、入操作を確認し(S107)、入操作があれば、荷下ろしモードに移行する(S108)。
前記順序で荷下ろしモードに移行することができるので、巻上異常検出で動作できないときに、上操作をしながら切操作をし、その後、入操作をすれば、荷下ろしモードに移行することができる。
図5において、荷下ろし後など通常モードへ戻す方法は、荷下ろしモード時、切操作を検出した場合(S109)、荷下ろしモードを終了し通常モードに移行する(S110)。
なお、
図5,6の例では、特定の操作ボタンの組み合わせにより荷下ろしモードへ移行するように構成したが、他の操作ボタンの組み合わせとしても良いし、或いは、荷下ろしモードへ移行するための専用の操作ボタンを設けても良い。
【0024】
ここで、荷下ろしモードに移行したことの確認は、巻上・横行インバータ制御部12から現在の運転モードを出力させ、例えば、ランプ等を点灯させる、または、ブザー等で警報音を発生させることで、確認できるようにしても良い。
【0025】
荷下ろしモード移行後、巻上・横行インバータ制御部12は、操作入力装置13からの下方向への操作信号を検出すると、巻上誘導電動機3のブレーキ16を解放させることで、吊荷の荷下ろしを行う。その際、巻上・横行インバータ制御部12は、巻上誘導電動機3の回転数が一定値を越えないように、ブレーキ16の解放・制動を指示する。
【0026】
図4に、
図3の巻上・横行インバータ制御部12内のブレーキ制御の構成を示す。通常モードのブレーキ制御処理部41と荷下ろしモードのブレーキ制御処理部42を備えており、操作入力検出処理部43で操作入力装置13の操作を検出し、通常モードか荷下ろしモードかの操作入力情報に基づいて、通常/荷下ろしモード切替処理部44で通常モードのブレーキ制御処理部41と荷下ろしモードのブレーキ制御処理部42とを切り替える。なお、通常モードのブレーキ処理部41では、巻上インバータ出力周波数に基づいて巻上ブレーキ16が制御され、また、荷下ろしモードのブレーキ制御処理部42では、巻上モータ回転数に基づいて巻上ブレーキ16が制御される。
【0027】
図3において、巻上ブレーキ16を解放すると、吊荷の重さや自重によりクレーンフック1は下方に落下する。巻上ブレーキ16の解放時には、巻上用モータ3に直結されたエンコーダ17からの信号で巻上用モータの回転数を確認し、一定の値、例えば500rpmを越えないように、巻上ブレーキ16の解放・制動を行う。巻上用モータ3の回転数に基づいてブレーキ制御を実施することで、安全な速度で荷下ろしを行うことができる。
なお、
図3の例では、巻上用モータの回転数が一定の値を越えないように制御したが、巻上用モータの回転数が所定の回転数になるようにブレーキを連続的に制御しても良い。
【0028】
図7に、荷下ろし時のブレーキ制御処理のフローチャートを示す。
図7は、
図5のフローチャートにおいて、下操作があると荷下ろし制御を行うものである。
先ず、ステップ201で、荷下ろしモードであるかを判別し、荷下ろしモードの場合、ステップ202で、下操作があるかを判別し、下操作がある場合には、ステップ204で巻き上げブレーキの解放制御を行う。その際、ステップ203で、モータの回転数が例えば500rpm以下の場合は、巻き上げブレーキの解放制御を行うが、500rpmを越える場合は、ステップ205の巻き上げブレーキ制動制御を行う。
なお、通常モードの場合は、ステップ206で通常のブレーキ制御処理(開閉制御)を行う。
【0029】
本実施例により、異常検出時すなわち制御部の動作ができないときに、操作員が天井に昇って作業を行う必要がない。そして、巻上・横行インバータ制御部12、エンコーダ17は一般的なインバータホイストならば、標準的に搭載しているので、特別な装置を用いることなく、故障した巻上機を動作させることができ、安全に吊荷を下ろすことができる。
【符号の説明】
【0030】
1:クレーンフック
2:ワイヤーロープ
3:巻上誘導電動機
4:巻上用装置
5:横行誘導電動機
6:横行用装置
7:横行用ガーダー
8:走行誘導電動機
9:走行用装置
10:走行用ガーダー
11:巻上・横行インバータ装置
12:巻上・横行インバータ制御部
13:操作入力装置
14:巻上用インバータ
15:横行用インバータ
16:誘導電動機用ブレーキ
17:エンコーダ
18:走行用インバータ装置
19:走行インバータ制御部
20:走行用インバータ
41:通常モードのブレーキ制御処理部
42:荷下ろしモードのブレーキ制御処理部
43:操作入力検出処理部
44:通常/荷下ろしモード切替処理部