特許第6556596号(P6556596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556596
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】無段変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20190729BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20190729BHJP
   F16H 59/40 20060101ALI20190729BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20190729BHJP
   F16H 59/74 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H61/662
   F16H59/40
   F16H59/42
   F16H59/74
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-214183(P2015-214183)
(22)【出願日】2015年10月30日
(65)【公開番号】特開2017-82985(P2017-82985A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】今井 勝政
(72)【発明者】
【氏名】瓦田 遥
【審査官】 西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−177947(JP,A)
【文献】 特開平1−108454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力が入力されるインプット軸から動力を出力するアウトプット軸に至る動力伝達経路上に、プライマリプーリとセカンダリプーリとに無端状のベルトが巻き掛けられた構成を有するベルト伝達機構が設けられ、前記セカンダリプーリが前記ベルトを挟んで対向する固定シーブおよび可動シーブを備え、油圧回路から前記可動シーブに供給される制御油圧により前記ベルトに作用する推力が変更される構成の無段変速機を制御する制御装置であって、
エンジントルクに応じた制御油圧を設定する制御油圧設定手段と、
前記制御油圧設定手段により設定される制御油圧が前記油圧回路から前記可動シーブに供給可能な最低油圧を下回る場合、前記無段変速機の最小プーリ比ならびに当該制御油圧の設定時におけるエンジン回転数およびエンジントルクに基づいて、前記アウトプット軸上における回転数およびトルクを算出し、前記制御油圧が前記最低油圧を下回ることが想定されるプーリ比の所定範囲において、前記最小プーリ比と異なるプーリ比で当該算出した回転数およびトルクを得る場合の燃料消費量を算出して、当該燃料消費量が前記最小プーリ比での燃料消費量よりも低減されるプーリ比を探索するプーリ比探索手段とを含む、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される変速機として、CVT(Continuously Variable Transmission:無段変速機)が広く知られている。
【0003】
CVTは、入力側のプライマリプーリと出力側のセカンダリプーリとに無端状のベルトが巻き掛けられた構成を有している。プライマリプーリおよびセカンダリプーリの各プーリは、固定シーブおよび固定シーブに対して回転軸線方向に移動可能な可動シーブを備えている。CVTでは、各プーリにおける固定シーブと可動シーブとの間隔(溝幅)の変更により、各プーリに対するベルトの巻きかけ径を変更することができ、変速比(プーリ比)を無段階で連続的に変更することができる。
【0004】
そのため、CVTが搭載された車両では、エンジン回転数およびエンジントルクが最適燃費線上で変化するように変速比を設定でき、これにより、エンジンを最良の燃費状態で動作させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−176890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、本願発明者らによる鋭意研究の結果、変速比によっては、エンジンを最良の燃費状態で動作させることが車両の走行燃費を却って悪化させる場合があることが判ってきた。
【0007】
CVTは、図5に示されるように、プライマリプーリに対するベルトの巻きかけ径とセカンダリプーリに対するベルトの巻きかけ径との差が小さい状態、つまり変速比が1付近となる状態で伝達効率が最良となり、変速比が1から最小変速比または最大変速比に近づくほど伝達効率が下がるという特性を有している。
【0008】
また、CVTでは、各プーリの固定シーブおよび可動シーブ間において、ベルトが入力トルクに応じた推力で挟圧される必要があり、その必要な挟圧が得られるよう、セカンダリプーリの可動シーブに作用する油圧が制御される。変速比が小さく、セカンダリプーリが高速回転している状態では、セカンダリプーリの可動シーブに大きな遠心油圧が作用するので、必要な挟圧を得るためにセカンダリプーリへの供給が必要とされる油圧(制御油圧)が低くてよい。しかしながら、油圧回路からセカンダリプーリに供給される油圧には下限があり、その下限となる最低油圧よりも制御油圧を低くすることはできない。そのため、制御油圧が最低油圧を下回る変速比の範囲では、セカンダリプーリからベルトに加えられる推力が必然的に過大(過推力)になる。推力が過大になると、ベルトやセカンダリプーリ(または軸)を支持するベアリングなどでのエネルギー損失が増大する。
【0009】
したがって、制御油圧が最低油圧を下回る変速比の範囲では、変速比が小さいゆえに伝達効率が低いうえ、過推力により伝達効率がさらに低下する。その結果、車両の走行燃費が低下する。
【0010】
本発明の目的は、制御油圧が最低油圧を下回る可能性のあるプーリ比の範囲において、車両の走行燃費の向上を図ることができる、無段変速機の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するため、本発明に係る無段変速機の制御装置は、エンジンからの動力が入力されるインプット軸から動力を出力するアウトプット軸に至る動力伝達経路上に、プライマリプーリとセカンダリプーリとに無端状のベルトが巻き掛けられた構成を有するベルト伝達機構が設けられ、セカンダリプーリがベルトを挟んで対向する固定シーブおよび可動シーブを備え、油圧回路から可動シーブに供給される制御油圧によりベルトに作用する推力が変更される構成の無段変速機を制御する制御装置であって、エンジントルクに応じた制御油圧を設定する制御油圧設定手段と、制御油圧設定手段により設定される制御油圧が油圧回路から可動シーブに供給可能な最低油圧を下回る場合、無段変速機の最小プーリ比ならびに当該制御油圧の設定時におけるエンジン回転数およびエンジントルクに基づいて、アウトプット軸上における回転数およびトルクを算出し、制御油圧が最低油圧を下回ることが想定されるプーリ比の所定範囲において、最小プーリ比と異なるプーリ比で当該算出した回転数およびトルクを得る場合の燃料消費量を算出して、当該燃料消費量が最小プーリ比での燃料消費量よりも低減されるプーリ比を探索するプーリ比探索手段とを含む。
【0012】
この構成によれば、エンジントルクに応じた制御油圧が設定される。制御油圧が油圧回路から可動シーブに供給可能な最低油圧を下回る場合、無段変速機の最小プーリ比ならびに当該制御油圧の設定時におけるエンジン回転数およびエンジントルクに基づいて、アウトプット軸上における回転数およびトルクが算出される。そして、制御油圧が最低油圧を下回ることが想定されるプーリ比の所定範囲において、最小プーリ比と異なるプーリ比でその算出された回転数およびトルクを得る場合の燃料消費量が算出されて、当該燃料消費量が最小プーリ比での燃料消費量よりも低減されるプーリ比が探索される。
【0013】
制御油圧が油圧回路から可動シーブに供給可能な最低油圧を下回る場合において、探索されたプーリ比を目標プーリ比に設定することにより、燃料消費量を低減させることができ、車両の走行燃費の向上を図ることができる。
【0014】
なお、車両のファイナルギヤ比(デファレンシャルギヤのギヤ比)が固定値であるから、アウトプット軸上における回転数およびトルクを算出し、最小プーリ比と異なるプーリ比でその算出した回転数および出力トルクを得る場合の燃料消費量を算出する手法は、車軸上における回転数およびトルクを算出して、最小プーリ比と異なるプーリ比でその算出した回転数およびトルクを得る場合の燃料消費量を算出する手法と等価であり、いずれの手法においても、同じ燃料消費量が算出される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、制御油圧が油圧回路から可動シーブに供給可能な最低油圧を下回る場合において、燃料消費量を低減させることができ、車両の走行燃費の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る制御装置が搭載された車両の要部の構成を示す図である。
図2】車両の駆動系統の構成を示すスケルトン図である。
図3】目標プーリ比設定処理の流れを示すフローチャートである。
図4】エンジン回転数とエンジントルクとの関係を示す図である。
図5】無段変速機におけるプーリ比と伝達効率との関係およびプーリ比と制御油圧との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0018】
<車両の要部構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る制御装置が搭載された車両1の要部の構成を示す図である。
【0019】
車両1は、エンジン2を駆動源とする自動車である。エンジン2の出力は、トルクコンバータ3および無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)4を介して、車両1の左右の駆動輪に伝達される。
【0020】
エンジン2には、エンジン2の燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)および燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどが設けられている。また、エンジン2には、その始動のためのスタータが付随して設けられている。
【0021】
車両1には、CPU、ROMおよびRAMなどを含む構成の複数のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が備えられている。複数のECUには、エンジンECU11およびCVTECU12が含まれる。各ECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
【0022】
エンジンECU11には、アクセルセンサ21およびエンジン回転数センサ22などが接続されている。
【0023】
アクセルセンサ21は、運転者により操作されるアクセルペダルの操作量に応じた検出信号を出力する。エンジンECU11は、アクセルセンサ21から入力される検出信号に基づいて、アクセルペダルの最大操作量に対する操作量の割合、つまりアクセルペダルが踏み込まれていないときを0%とし、アクセルペダルが最大に踏み込まれたときを100%とする百分率であるアクセル開度を演算する。
【0024】
エンジン回転数センサ22は、エンジン2の回転(クランクシャフトの回転)に同期したパルス信号を検出信号として出力する。エンジンECU11は、エンジン回転数センサ22から入力されるパルス信号の周波数をエンジン2の回転数(エンジン回転数)に換算する。
【0025】
エンジンECU11は、各種センサの検出信号から取得した情報および/または他のECUから入力される種々の情報などに基づいて、エンジン2の始動、停止および出力調整などのため、エンジン2に設けられた電子スロットルバルブ、インジェクタおよび点火プラグなどを制御する。
【0026】
CVTECU12には、プライマリ回転数センサ23およびセカンダリ回転数センサ24などが接続されている。
【0027】
プライマリ回転数センサ23は、たとえば、無段変速機4のプライマリ軸51(図2参照)の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力する。CVTECU12は、プライマリ回転数センサ23から入力されるパルス信号の周波数をプライマリ軸51の回転数(プライマリ回転数)に換算する。
【0028】
セカンダリ回転数センサ24は、たとえば、無段変速機4のセカンダリ軸52(図2参照)の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力する。CVTECU12は、セカンダリ回転数センサ24から入力されるパルス信号の周波数をセカンダリ軸52の回転数(セカンダリ回転数)に換算する。
【0029】
CVTECU12は、各種センサの検出信号から取得した情報および/または他のECUから入力される種々の情報などに基づいて、無段変速機4のプーリ比(変速比)の変更などのため、無段変速機4の各部に油圧を供給するための油圧回路25に含まれる各種のバルブなどを制御する。
【0030】
<駆動系統の構成>
図2は、車両1の駆動系統の構成を示すスケルトン図である。
【0031】
トルクコンバータ3は、ポンプインペラ31、タービンランナ32およびロックアップクラッチ33を備えている。ポンプインペラ31には、エンジン2の出力軸(E/G出力軸)が連結されており、ポンプインペラ31は、E/G出力軸と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。タービンランナ32は、ポンプインペラ31と同一の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。ロックアップクラッチ33は、ポンプインペラ31とタービンランナ32とを直結/分離するために設けられている。ロックアップクラッチ33が係合されると、ポンプインペラ31とタービンランナ32とが直結され、ロックアップクラッチ33が解放されると、ポンプインペラ31とタービンランナ32とが分離される。
【0032】
ロックアップクラッチ33が解放された状態において、E/G出力軸が回転されると、ポンプインペラ31が回転する。ポンプインペラ31が回転すると、ポンプインペラ31からタービンランナ32に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ32で受けられて、タービンランナ32が回転する。このとき、トルクコンバータ3の増幅作用が生じ、タービンランナ32には、E/G出力軸の動力(トルク)よりも大きな動力が発生する。
【0033】
ロックアップクラッチ33が係合された状態では、E/G出力軸が回転されると、E/G出力軸、ポンプインペラ31およびタービンランナ32が一体となって回転する。
【0034】
トルクコンバータ3と無段変速機4との間には、オイルポンプ5が設けられている。オイルポンプ5は、機械式オイルポンプであり、ポンプ軸は、ポンプインペラ31と回転軸線が一致するように配置され、ポンプインペラ31に相対回転不能に連結されている。これにより、エンジン2の動力によりポンプインペラ31が回転されると、オイルポンプ5のポンプ軸が回転し、オイルポンプ5からオイルが吐出される。
【0035】
無段変速機4は、トルクコンバータ3から入力される動力をデファレンシャルギヤ6に伝達する。無段変速機4は、インプット軸41、アウトプット軸42、ベルト伝達機構43および前後進切替機構44を備えている。
【0036】
インプット軸41は、トルクコンバータ3のタービンランナ32に連結され、タービンランナ32と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
【0037】
アウトプット軸42は、インプット軸41と平行に配置されている。アウトプット軸42には、出力ギヤ45が相対回転不能に支持されている。
【0038】
ベルト伝達機構43には、プライマリ軸51およびセカンダリ軸52が含まれる。プライマリ軸51およびセカンダリ軸52は、それぞれインプット軸41およびアウトプット軸42と同一軸線上に配置されている。
【0039】
そして、ベルト伝達機構43は、プライマリ軸51に支持されたプライマリプーリ53とセカンダリ軸52に支持されたセカンダリプーリ54とに、無端状のベルト55が巻き掛けられた構成を有している。
【0040】
プライマリプーリ53は、プライマリ軸51に固定された固定シーブ61と、固定シーブ61にベルト55を挟んで対向配置され、プライマリ軸51にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ62とを備えている。可動シーブ62に対して固定シーブ61と反対側には、プライマリ軸51に固定されたピストン63が設けられ、可動シーブ62とピストン63との間に、ピストン室(油室)64が形成されている。
【0041】
セカンダリプーリ54は、セカンダリ軸52に対して固定された固定シーブ65と、固定シーブ65にベルト55を挟んで対向配置され、セカンダリ軸52にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ66とを備えている。可動シーブ66に対して固定シーブ65と反対側には、セカンダリ軸52に固定されたピストン67が設けられ、可動シーブ66とピストン67との間に、ピストン室68が形成されている。
【0042】
なお、図示されていないが、可動シーブ66とピストン67との間には、ベルト55に初期挟圧(初期推力)を与えるためのバイアススプリングが介在されている。バイアススプリングの弾性力により、可動シーブ66およびピストン67は、互いに離間する方向に付勢されている。
【0043】
無段変速機4では、プライマリプーリ53のピストン室64およびセカンダリプーリ54のピストン室68にそれぞれ供給される油圧が制御されて、プライマリプーリ53およびセカンダリプーリ54の各溝幅が変更されることにより、変速比が連続的に無段階で変更される。
【0044】
具体的には、変速比が下げられるときには、プライマリプーリ53のピストン室64に供給される油圧が上げられる。これにより、プライマリプーリ53の可動シーブ62が固定シーブ61側に移動し、固定シーブ61と可動シーブ62との間隔(溝幅)が小さくなる。これに伴い、プライマリプーリ53に対するベルト55の巻きかけ径が大きくなり、セカンダリプーリ54の固定シーブ65と可動シーブ66との間隔(溝幅)が大きくなる。その結果、プライマリプーリ53とセカンダリプーリ54とのプーリ比が小さくなり、変速比が下がる。
【0045】
変速比が上げられるときには、プライマリプーリ53のピストン室64に供給される油圧が下げられる。これにより、ベルト55に対するセカンダリプーリ54の推力がベルト55に対するプライマリプーリ53の推力よりも大きくなり、セカンダリプーリ54の固定シーブ65と可動シーブ66との間隔が小さくなるとともに、固定シーブ61と可動シーブ62との間隔が大きくなる。その結果、プライマリプーリ53とセカンダリプーリ54とのプーリ比が大きくなり、変速比が上がる。
【0046】
一方、プライマリプーリ53およびセカンダリプーリ54の推力は、プライマリプーリ53およびセカンダリプーリ54とベルト55との間で滑りが生じない大きさを必要とする。そのため、インプット軸41に入力されるトルクの大きさに応じた推力が得られるよう、プライマリプーリ53のピストン室64に供給される油圧およびセカンダリプーリ54のピストン室68に供給される油圧が制御される。
【0047】
前後進切替機構44は、インプット軸41とベルト伝達機構43のプライマリ軸51との間に介装されている。前後進切替機構44は、遊星歯車機構71、リバースクラッチC1およびフォワードブレーキB1を備えている。
【0048】
遊星歯車機構71には、キャリア72、サンギヤ73およびリングギヤ74が含まれる。
【0049】
キャリア72は、インプット軸41に相対回転可能に外嵌されている。キャリア72は、複数のピニオンギヤ75を回転可能に支持している。複数のピニオンギヤ75は、円周上に配置されている。
【0050】
サンギヤ73は、インプット軸41に相対回転不能に支持されて、複数のピニオンギヤ75により取り囲まれる空間に配置されている。サンギヤ73のギヤ歯は、各ピニオンギヤ75のギヤ歯と噛合している。
【0051】
リングギヤ74は、その回転軸線がプライマリ軸51の軸心と一致するように設けられている。リングギヤ74には、ベルト伝達機構43のプライマリ軸51が連結されている。リングギヤ74のギヤ歯は、複数のピニオンギヤ75を一括して取り囲むように形成され、各ピニオンギヤ75のギヤ歯と噛合している。
【0052】
リバースクラッチC1は、キャリア72とサンギヤ73とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態(オン)と、その直結を解除する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
【0053】
フォワードブレーキB1は、キャリア72とトルクコンバータ3および無段変速機4を収容するトランスミッションケースとの間に設けられ、キャリア72を制動する係合状態(オン)と、キャリア72の回転を許容する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
【0054】
車両1の前進時には、リバースクラッチC1が解放されて、フォワードブレーキB1が係合される。エンジン2の動力がインプット軸41に入力されると、キャリア72が静止した状態で、サンギヤ73がインプット軸41と一体に回転する。そのため、サンギヤ73の回転は、リングギヤ74に逆転かつ減速されて伝達される。これにより、リングギヤ74が回転し、ベルト伝達機構43のプライマリ軸51およびプライマリプーリ53がリングギヤ74と一体に回転する。プライマリプーリ53の回転は、ベルト55を介して、セカンダリプーリ54に伝達され、セカンダリプーリ54およびセカンダリ軸52を回転させる。そして、セカンダリ軸52と一体に、アウトプット軸42および出力ギヤ45が回転する。出力ギヤ45は、デファレンシャルギヤ6(デファレンシャルギヤ6の入力ギヤ)と噛合している。出力ギヤ45が回転すると、デファレンシャルギヤ6から左右に延びるドライブシャフト7,8が回転して、駆動輪(図示せず)が回転することにより、車両1が前進する。
【0055】
一方、車両1の後進時には、リバースクラッチC1が係合されて、フォワードブレーキB1が解放される。エンジン2の動力がインプット軸41に入力されると、キャリア72およびサンギヤ73がインプット軸41と一体に回転する。そのため、サンギヤ73の回転は、リングギヤ74に回転方向が逆転されずに伝達される。これにより、リングギヤ74が車両1の前進時と逆方向に回転し、ベルト伝達機構43のプライマリ軸51およびプライマリプーリ53がリングギヤ74と一体に回転する。プライマリプーリ53の回転は、ベルト55を介して、セカンダリプーリ54に伝達され、セカンダリプーリ54およびセカンダリ軸52を回転させる。そして、セカンダリ軸52と一体に、アウトプット軸42および出力ギヤ45が回転する。出力ギヤ45が回転すると、デファレンシャルギヤ6から左右に延びるドライブシャフト7,8が前進時と逆方向に回転して、駆動輪(図示せず)が回転することにより、車両1が後進する。
【0056】
<目標プーリ比の設定>
図3は、目標プーリ比設定処理の流れを示すフローチャートである。図4は、エンジン回転数とエンジントルクとの関係を示す図である。
【0057】
無段変速機4の変速比を制御するため、CVTECU12により、目標プーリ比が設定されて、実プーリ比が目標プーリ比と一致するように、油圧回路25からプライマリプーリ53のピストン室64(図2参照)に供給される油圧が制御される。実プーリ比は、プライマリ回転数をセカンダリ回転数で除することにより求められる。
【0058】
目標プーリ比は、以下のようにして設定される。
【0059】
エンジンECU11の不揮発性メモリ(ROM、フラッシュメモリまたはEEPROMなど)には、図4に一例が示される燃費率マップおよび最適燃費線が記憶されている。燃費率マップは、等燃費率におけるエンジン回転数とエンジントルクの位置をプロットした等高線を示す。等高線の中心に近いほど、燃費率(燃料消費率)が良好である。最適燃費線は、エンジン2の最良の燃費状態が達成されるエンジン回転数とエンジントルクとの関係を示す特性線である。エンジンECU11では、最適燃費線に基づいて、アクセル開度および車速に応じたエンジン2の目標回転数が設定される。その設定されたエンジン2の目標回転数は、エンジンECU11からCVTECU12に送信される。
【0060】
一方、CVTECU12では、図3に示されるプーリ比設定処理が実行される。
【0061】
プーリ比設定処理では、インプット軸41(図2参照)に入力される入力トルクに対してベルト55の滑りが発生しないベルト挟圧が安全率を考慮して設定される。トルクコンバータ3のロックアップクラッチ33が係合された状態では、入力トルクは、エンジントルクに一致する。エンジントルクは、たとえば、エンジンECU11によりアクセル開度およびエンジン回転数から推定され、エンジンECU11からCVTECU12に送信される。また、無段変速機4で使用されているオイルの密度(既知)とセカンダリ回転数の二乗値を乗じ、その乗算値に一定の係数をさらに乗じることにより、セカンダリプーリ54の可動シーブ66に作用する遠心油圧が求められる。そして、ベルト挟圧から遠心油圧およびバイアススプリングによる初期挟圧を減算し、その減算値を可動シーブ66の受圧面積で除することにより、セカンダリプーリ54のピストン室68に供給すべき制御油圧が算出される(ステップS1)。
【0062】
その後、制御油圧が油圧回路25からセカンダリプーリ54のピストン室68に供給可能な最低油圧を下回るかが判断される(ステップS2)。
【0063】
制御油圧が最低油圧以上である場合(ステップS2のNO)、エンジン回転数を目標回転数に一致させることができるプーリ比が求められ、そのプーリ比が目標プーリ比に設定される(ステップS3)。
【0064】
一方、制御油圧が最低油圧を下回る場合(ステップS2のYES)、CVTECU12のRAMに設けられた燃費率カウンタのカウント値Nが0にリセットされる(ステップS4)。
【0065】
つづいて、燃費率カウンタのカウント値Nがインクリメントされる(ステップS5)。
【0066】
また、無段変速機4の最小プーリ比γmin、制御油圧の設定時におけるエンジン回転数NinおよびエンジントルクTin、ファイナルギヤ比(デフ比)iならびに無段変速機4の伝達効率ηを下記式(1)、(2)に代入することにより、ドライブシャフト7,8上における回転数NoutおよびトルクToutが算出される。
【0067】
Nout=Nin/γmin/i ・・・(1)
Tout=Tin×γmin×i×η ・・・(2)
【0068】
なお、CVTECU12の不揮発性メモリには、エンジン回転数およびエンジントルクと無段変速機4の伝達効率との関係がマップの形態で記憶されている。伝達効率ηは、そのマップからエンジン回転数NinおよびエンジントルクTinに応じた伝達効率を読み出すことより取得される。
【0069】
車両1の車速が一定である場合、無段変速機4のプーリ比が変化しても、ドライブシャフト7,8上における馬力は一定である。したがって、プーリ比がαである場合のエンジン回転数Nin’およびエンジントルクTin’は、無段変速機4の伝達効率をη’として、下記式(3)、(4)に従って算出することができる。
【0070】
Nin’=Nout×i×α ・・・(3)
Tin’=Tout/i/α/η’ ・・・(4)
【0071】
制御油圧が最低油圧を下回ることが想定されるプーリ比の所定範囲において、プーリ比αが設定される。そして、式(3)に従って、プーリ比αである場合のエンジン回転数Nin’が算出される(ステップS6)。
【0072】
また、式(4)に従って、プーリ比αである場合のエンジントルクTin’が算出される(ステップS7)。このとき、まず、伝達効率η’が100%であるとして、式(4)に従って、プーリ比αである場合のエンジントルクTin’が仮算出される。次に、CVTECU12の不揮発性メモリに記憶されているマップからその仮算出されたエンジントルクTin’および式(3)に従って算出されたエンジン回転数Nin’に応じた伝達効率の値が読み出される。そして、式(4)における伝達効率η’にマップから読み出された伝達効率の値が代入されることにより、プーリ比αである場合のエンジントルクTin’が正式に算出される。
【0073】
その後、エンジンECU11の不揮発性メモリに記憶されている燃費率マップが参照されて、エンジン回転数Nin’およびエンジントルクTin’における燃費率が取得される(ステップS8)。
【0074】
燃費率の取得後、エンジン回転数Nin’およびエンジントルクTin’の乗算値と燃費率とが掛け合わされることにより、プーリ比がαである場合の燃料消費量が算出される(ステップS9)。
【0075】
その後、制御油圧が最低油圧を下回ることが想定されるプーリ比の所定範囲において、プーリ比αを異なる値に更新して(ステップS10)、プーリ比が更新後のαである場合の燃料消費量を算出する処理が繰り返される。制御油圧が最低油圧を下回ることが想定されるプーリ比の所定範囲において、プーリ比αは、たとえば、無段変速機4の最小プーリ比を初期値として、その初期値から一定値ずつ増加した値に更新される。
【0076】
燃料消費量を算出する処理が行われる度に、燃費率カウンタのカウント値Nがインクリメントされる(ステップS5)。そして、燃費率カウンタのカウント値Nが所定数、たとえば、制御油圧が最低油圧を下回ることが想定されるプーリ比の所定範囲の幅を一定値で除した値に達すると(ステップS11のYES)、これまでに取得された燃料消費量の最小値が探索されて、その最小値に対応するプーリ比αが目標プーリ比に設定される(ステップS12)。
【0077】
<作用効果>
以上のように、エンジントルクに応じた制御油圧が設定される。制御油圧が油圧回路25からセカンダリプーリ54の可動シーブ66(ピストン室68)に供給可能な最低油圧を下回る場合、無段変速機4の最小プーリ比γminならびに当該制御油圧の設定時におけるエンジン回転数NinおよびエンジントルクTinに基づいて、ドライブシャフト7,8上における回転数NoutおよびトルクToutが算出される。そして、制御油圧が最低油圧を下回ることが想定されるプーリ比の所定範囲において、最小プーリ比γminと異なるプーリ比αでその算出された回転数NoutおよびトルクToutを得る場合の燃料消費量が算出されて、当該燃料消費量が最小プーリ比γminでの燃料消費量よりも低減されるプーリ比αが探索される。
【0078】
制御油圧が油圧回路25からセカンダリプーリ54の可動シーブ66に供給可能な最低油圧を下回る場合において、探索されたプーリ比を目標プーリ比設定することにより、燃料消費量を低減させることができ、車両1の走行燃費の向上を図ることができる。
【0079】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0080】
前述の各センサは、本発明に関連するセンサを例示したものに過ぎず、エンジンECU11およびCVTECU12には、他のセンサが接続されていてもよい。
【0081】
また、エンジンECU11およびCVTECU12の機能が1つのECUに集約されていてもよい。
【0082】
無段変速機の一例として、ベルト式の無段変速機4を取り上げたが、本発明に係る制御装置は、ベルト式の無段変速機4に限らず、動力分割式無段変速機の制御装置として用いることもできる。動力分割式無段変速機は、動力分割式無段変速機は、変速比の変更により動力を無段階に変速するベルト式の無段変速機構と、動力を一定の変速比で変速する一定変速機構とを備え、駆動源の動力を2系統に分割して伝達可能な変速機である。
【0083】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0084】
2 エンジン
4 無段変速機
12 CVTECU(制御装置、制御油圧設定手段、プーリ比探索手段)
25 油圧回路
41 インプット軸
42 アウトプット軸
53 プライマリプーリ
54 セカンダリプーリ
55 ベルト
65 固定シーブ
66 可動シーブ
図1
図2
図3
図4
図5