(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556614
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】車両用閉じ切り検出装置
(51)【国際特許分類】
E05F 15/46 20150101AFI20190729BHJP
E05F 15/689 20150101ALI20190729BHJP
【FI】
E05F15/46
E05F15/689
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-245208(P2015-245208)
(22)【出願日】2015年12月16日
(65)【公開番号】特開2017-110398(P2017-110398A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小杉 正則
(72)【発明者】
【氏名】長尾 貴史
【審査官】
家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−110574(JP,A)
【文献】
特開2011−240775(JP,A)
【文献】
特開2010−210582(JP,A)
【文献】
特開2012−254312(JP,A)
【文献】
特開2010−236292(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0152615(US,A1)
【文献】
独国実用新案第202005012636(DE,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 15/00−15/79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の窓ガラスの上縁に設けた第一の電極と、
前記窓ガラスを昇降可能に支持する窓枠に設けられ、前記窓ガラスを閉じ切ったときに前記第一の電極に対向する第二の電極と、
前記第二の電極に高周波交流信号を供給する高周波源と、
前記第一の電極と前記第二の電極との間の静電容量の変化に基づく前記高周波源から前記第二の電極に流れる電流の変化に基づいて、前記窓ガラスの閉じ切りを検出する検出回路とを備え、
前記第一の電極を窓ガラスの上縁から側縁にかけて形成し、前記第二の電極を前記窓枠の側辺で、前記窓ガラスの閉じ切り位置で前記第一の電極に対向する位置に設けたことを特徴とする車両用閉じ切り検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用閉じ切り検出装置において、
前記第一の電極と前記第二の電極を、非導電材で被覆したことを特徴とする車両用閉じ切り検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両用閉じ切り検出装置において、
前記第一の電極に、該第一の電極の静電容量の増大を検出する静電容量検出回路を接続したことを特徴とする車両用閉じ切り検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるパワーウィンドウ装置に設けられ、窓ガラスの閉じ切りを検出して、モータの作動を停止させる閉じ切り検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータの駆動力により窓ガラスを昇降可能としたパワーウィンドウ装置では、窓ガラス上縁と窓枠との間での異物の挟み込みを防止する挟み込み防止装置を備えたものがある。
挟み込み防止装置の一種類として、窓ガラスの上縁に電極を備え、その電極の静電容量の増大に基づいて、窓ガラス上縁への異物の接触、あるいは異物の接近を検知するようにしたものがある。
【0003】
このような挟み込み防止装置では、例えば窓ガラスの上昇中に窓ガラス上縁の電極の静電容量が増大すると、窓ガラス上縁近傍に異物が存在することを検知して、窓ガラスの上昇動作を停止し、あるいはモータを所定時間反転させて窓ガラスを下降させるように動作する。このような動作により、窓ガラス上縁と窓枠との間への異物の挟み込みが防止される。
【0004】
上記のように、電極の静電容量の増大に基づいて異物の接触あるいは接近を検出する挟み込み防止装置では、窓ガラスの上縁が窓枠近傍まで上昇すると、窓枠との間で電極の静電容量が増大する。このため、モータの回転角度を積算して、窓ガラスの位置を検知する窓位置カウンタを備え、窓ガラスが窓枠近傍まで上昇した場合には、電極の静電容量の増大に関わらず、窓ガラスを窓枠に当接するまで上昇させるようにした閉じ切り装置が設けられている。
【0005】
特許文献1には、窓位置を検出する窓位置カウンタと、窓ガラスの上縁に設けた電極の静電容量の変化を窓位置情報に関連して記憶する記憶器を備え、静電容量が上昇したとき窓位置情報に応じて窓ガラスを上昇動作から下降動作に転じさせる反転閾値を設定したパワーウィンドウが開示されている。
【0006】
特許文献2には、車窓の内周部に設けられた感圧部で異物の挟み込みを検知する挟み込み検知装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−314949号公報
【特許文献2】特開2000−177380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されるように、挟み込み防止装置と閉じ切り装置を搭載したパワーウィンドウ装置では、挟み込みが発生していないときには窓ガラスを閉じ切り位置まで上昇させるために、窓位置カウンタが必要となる。従って、部品点数および部品コストが上昇するという問題点がある。
【0009】
特許文献2に開示された挟み込み検知装置では、窓ガラスの上昇途中に窓ガラス上縁に異物が当接しても、上昇動作を停止させることはできない。
この発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は電極の容量に基づいて窓ガラスの閉じ切りを制御し得る車両用閉じ切り検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する車両用閉じ切り検出装置は、車両の窓ガラスの上縁に設けた第一の電極と、前記窓ガラスを昇降可能に支持する窓枠に設けられ、前記窓ガラスを閉じ切ったときに前記第一の電極に対向する第二の電極と、前記第二の電極に高周波交流信号を供給する高周波源と、前記第一の電極と前記第二の電極との間の静電容量の変化に基づく前記高周波源から前記第二の電極に流れる電流の変化に基づいて、前記窓ガラスの閉じ切りを検出する検出回路とを備えることを特徴とする。
【0011】
この構成により、検出回路で、高周波源から前記第二の電極に流れる電流の変化を検出することにより、第一の電極と第二の電極の接近が検出されるので、窓ガラスの閉じ切りを制御可能となる。
【0012】
また、上記の車両用閉じ切り検出装置では、前記第一の電極と前記第二の電極を、非導電材で被覆することが好ましい。
この構成により、窓ガラスを閉じ切っても、第一の電極と第二の電極は電気的に接続されない。
【0013】
また、上記の車両用閉じ切り検出装置では、前記第二の電極を窓枠の上辺に設けることが好ましい。
この構成により、窓ガラスを閉じ切ると、窓ガラスの上縁に設けられた第一の電極と第二の電極との間の容量が増大してインピーダンスが低下する。そして、第一の電極と第二の電極との間の容量のインピーダンスの低下に基づいて高周波源から第二の電極に流れる電流が増大する。
【0014】
また、上記の車両用閉じ切り検出装置では、前記第一の電極を窓ガラスの上縁から側縁にかけて形成し、前記第二の電極を前記窓枠の側辺で、前記窓ガラスの閉じ切り位置で前記第一の電極に対向する位置に設けることが好ましい。
【0015】
この構成により、窓ガラスを閉じ切ると、窓ガラスの側縁に設けられた第一の電極と窓枠の側辺に設けられた第二の電極との間の容量が増大してインピーダンスが低下する。そして、第一の電極と第二の電極との間の容量のインピーダンスの低下に基づいて高周波源から第二の電極に流れる電流が増大する。
【0016】
また、上記の車両用閉じ切り検出装置では、前記第一の電極に、該第一の電極の静電容量の増大を検出する静電容量検出回路を接続することが好ましい。
この構成により、第一の電極の静電容量の増大を検出して、窓ガラスの上縁近傍の異物検出が可能となり、異物を挟み込まないようにする制御が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車両用閉じ切り検出装置によれば、電極の容量に基づいて窓ガラスの閉じ切りを制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】車両用閉じ切り検出装置の電気的構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、車両用閉じ切り検出装置を備えたパワーウィンドウ装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示す車両用パワーウィンドウ装置は、モータ制御部1により制御されるモータ2の駆動力に基づいて、たとえばフロントドアの窓ガラス3が窓枠4内で昇降される。
【0020】
窓ガラス3の上縁には第一の電極5が取着され、その第一の電極5の一端は、閉じ切り制御部6に接続線7を介して電気的に接続されている。
窓枠4の上辺一側には、第一の電極5に対向するように第二の電極8が取付けられ、その第二の電極8の一端は接続線7を介して閉じ切り制御部6に電気的に接続されている。
【0021】
第一の電極5と第二の電極8は、窓ガラス3の上昇にともなって互いの間隔が狭くなるにつれて両電極5,8間の静電容量が増大する。また、各電極5,8は例えば人体等の導電体が近づくと、静電容量が増大する。
【0022】
なお、各電極5,8は合成樹脂などの非導電材で被覆されて、窓ガラス3が上限まで上昇した場合にも、電気的に導通しないようになっていることが望ましい。
図2に示すように、閉じ切り制御部6には高周波源9と、抵抗10と、交流電圧検出回路11と、静電容量検出回路12が備えられる。高周波源9は、抵抗10を介して一定周波数の高周波信号を第二の電極8に供給する。
【0023】
交流電圧検出回路11は、抵抗10の両端子間の電位差を検出し、その電位差があらかじめ設定された閾値を超えたとき、モータ制御部1に検出信号dt1を出力する。
静電容量検出回路12は、第一の電極5に接続されて、第一の電極5の静電容量の増大を検出する。そして、第一の電極5の静電容量があらかじめ設定された閾値を超えると、モータ制御部1に検出信号dt2を出力する。
【0024】
モータ制御部1は、検出信号dt2の受信に基づいてモータ2の作動を適宜に制御する。閾値が複数設定されていれば、まず第一の閾値を超えたとき、窓ガラス3の上昇速度が低下するように制御され、第二の閾値を超えたとき、窓ガラス3の上昇動作が停止される。さらに、第三の閾値を超えたとき、モータ2が反転動作して、窓ガラスのあらかじめ設定された位置まで下降するように制御される。
【0025】
図3は、閉じ切り制御部6と第一及び第二の電極5,8の等価回路を示す。第一及び第二の電極5,8は、等価回路上で容量Cとして動作する。そして、窓ガラス3が上昇して両電極5,8の間隔が狭くなるにつれて、容量Cの容量値が増大する。
【0026】
静電容量のインピーダンスZは、Z=1/ωCで表される。従って、容量Cでは高周波源9から供給される高周波信号の周波数が一定であれば、容量値が大きくなるほど、インピーダンスZが低下する。
【0027】
このような構成により、窓ガラス3が上昇して第一の電極5が第二の電極8に近づくにつれて、容量Cのインピーダンスが低下し、抵抗10に流れる電流が増大する。
抵抗10に流れる電流が増大すると、交流電圧検出回路11で検出される抵抗10の両端子間の電位差が大きくなる。そして、交流電圧検出回路11では、窓ガラス3の上縁が窓枠4にほぼ当接したとき、抵抗10の両端子間の電位差が閾値を超えるように設定され、閾値を超えたとき、検出信号dt1が出力されるようになっている。
【0028】
次に、上記のように構成された挟み込み防止装置及び閉じ切り検出装置の作用を説明する。
操作スイッチの操作によりモータ2を作動させて、窓ガラス3を上昇させるとき、第一の電極5が第二の電極8に近接する位置まで上昇すると、容量Cのインピーダンスが低下して、抵抗10に流れる交流電流が増大する。
【0029】
すると、交流電圧検出回路11で検出される抵抗10の両端子間の電位差が増大し、窓ガラス3が上限まで上昇すると、その電位差が最大となる。交流電圧検出回路11では、抵抗10の両端子間電圧の最大値に近い値が閾値として設定されている。従って、窓ガラス3が上限まで上昇すると、交流電圧検出回路11から検出信号dt1がモータ制御部1に出力され、モータ2の作動が停止されて窓ガラス3の上昇動作が自動的に停止される。
【0030】
窓ガラス3の上昇動作時に、窓ガラス3の上縁近傍に異物が接近すると、第一の電極5の静電容量が増大する。そして、第一の電極5の静電容量が、あらかじめ設定されている所定の閾値を超えると、静電容量検出回路12からモータ制御部1に出力される検出信号dt2に基づいて、窓ガラス3の上昇速度が低下し、あるいは窓ガラス3の上昇が停止し、あるいは窓ガラス3が下降される。
【0031】
上記のような閉じ切り検出装置では、次に示す効果を得ることができる。
(1)窓ガラス3上縁に取着された第一の電極5と、窓枠4に設けられた第二の電極8との間に生成される容量Cの容量値の変化に基づいて、窓ガラス3の閉じ切りを検出することができる。従って、窓位置カウンタを必要とすることなく、窓ガラス3を上限まで上昇させて閉じ切ることができる。
(2)第一の電極5と、第二の電極8との間に生成される容量Cの容量値の変化は、容量Cに抵抗10を介して高周波交流信号を供給することにより、容量Cのインピーダンスの低下に基づく抵抗10の両端子間の電位差の増大を検出して行うことができる。従って、容量Cのインピーダンスの低下を電圧の変化に変換して、交流電圧検出回路11で容易に検出することができる。
(3)高周波交流信号に対する容量Cのインピーダンスの低下を検出する構成としたので、第一の電極5と、第二の電極8を構成する導体を露出させる必要はなく、高周波交流信号を透過可能とした非導電材で覆うことができる。従って、第一の電極5と、第二の電極8の耐候性を確保することができる。
(4)高周波交流信号に対する容量Cのインピーダンスの低下を検出する構成としたので、静電容量検出回路12で静電容量の変化を検出する際に、高周波交流信号と第一の電極5の充放電動作の周波数との差は大きい。従って、静電容量検出回路12で第一の電極5の静電容量の変化を検出する動作に高周波交流信号が及ぼす悪影響は少なく、また静電容量検出回路12でデジタルフィルターにより高周波交流信号を除去することも容易である。
(5)第一の電極5と静電容量検出回路12により、異物が窓ガラス3の上縁に近接あるいは当接すると、第一の電極5の静電容量の増大を検出して、窓ガラス3の上昇を停止させ、あるいは窓ガラス3を所定位置まで下降させることができる。従って、窓ガラス3と窓枠4との間での異物の挟み込みを防止することができる。
【0032】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・第二の電極は、窓枠4の上辺ではなく、窓ガラス3の側縁を支持する窓枠側辺に設けてもよい。このような構成により、窓ガラス3の上縁と窓枠4との間に、容量Cのインピーダンスを低下させるような導体、たとえば金属棒などを挟み込んだ場合に、閉じ切り位置と判定するような誤作動を防止することができる。
・高周波源から第二の電極に流れる電流の変化を、抵抗で電圧に変換することなく、電流計等の電流検出手段で検出してもよい。
【符号の説明】
【0033】
3…窓ガラス、4…窓枠、5…第一の電極、8…第二の電極、9…高周波源、10…抵抗、11…検出回路(交流電圧検出回路)、12…静電容量検出回路。