(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記検出器での波面の前記推定値は、物体関数の推定値と出射波面を決定する(910)プローブ関数とを乗じ、前記出射波面を前記検出器の平面へと伝播させることにより決定される、
請求項1から15のいずれか1項に記載の方法。
入射放射に対して目標物体の複数の位置の各々について検出器によって検出された放射に対する背景寄与の推定値と前記目標物体により散乱された測定された放射を示し、検出器により検出されたデータとを保存するメモリと、
各々の位置について、前記目標物体により散乱された放射からの波面に対するコヒーレントな寄与と背景寄与とを備える推定波面を決定する処理装置と
を備える装置であって、
前記背景寄与は、前記目標物体によって散乱された放射と少なくとも部分的に非コヒーレントな放射である、
装置。
前記第一物体関数が弾性散乱放射に対応する推定プローブ関数の一部分に基づいて決定され、前記第二物体関数が前記推定プローブ関数の更なる部分に対応する推定プローブ関数の一部分に基づいて決定される、
請求項23に記載の装置。
前記処理装置がプローブ関数を決定し、前記プローブ関数を第一及び第二の領域に分割するよう配置され、前記プローブ関数の前記第一領域が前記第一物体関数と関連し、前記プローブ関数の前記第二領域が前記第二物体関数と関連する、
請求項23又は24に記載の装置。
【発明の概要】
【0009】
本発明の態様は、添付の請求の範囲で述べるような方法及び装置を提供する。
【0010】
本発明の更に別の態様によると、目標物体の複数の領域の各々での背景放射の大きさを推定する方法が提供され、検出器で検出された背景放射の推定値を提供する工程と、入射放射に対して物体の複数の位置の各々について検出器において目標物体によって散乱された放射を測定する工程と、各々の位置について、検出器での波面の推定値を計算する工程と、各位置について、背景放射の推定値の大きさを調整するためのスケール係数を決定し、背景放射の推定値と推定された波面との組み合わせと測定された放射との差異を減少させる工程とを備える。
【0011】
背景放射の推定値が、物体の平面での背景放射のプローブ関数の推定値を決定する工程と、検出器の平面へと推定値を伝播させる工程とにより提供されてもよい。
【0012】
プローブ関数の推定値を決定する工程が、弾性散乱放射に対応するプローブ関数の推定値の一部分を選択する工程と、その部分を一つ以上の所定の値に設定する工程とを備えてもよい。
【0013】
選択工程が、マスクをプローブ関数の推定値に適用する工程と、マスク内の部分を一つ以上の所定の値に設定する工程とを備えてもよい。
【0014】
背景放射の推定値が、物体の平面でのプローブ関数の推定値を検出器の平面へと伝播させる工程と、検出器の平面での推定値から自由空間回折パターンを除去する工程とによって提供されてもよい。
【0015】
スケール係数は、背景放射の推定値と推定された波面との合計と、測定された放射との間の差異を減らすために、背景放射の推定値に適用されてもよい。
【0016】
スケール係数は、適合(fitting)プロセスによって決定され、スケール係数が背景放射の推定値と推定された波面との組み合わせと、測定された放射との間の最小差異を有するよう決定されてもよい。
【0017】
スケール係数γ
jは、
の最小値を求めることで決定されてもよく、I
j(u)は位置jで検出器が測定する放射の強度を表し、S(u)は検出器が検出する背景放射の推定値を表し、ψ
j(u)は推定された波面を表す。
【0018】
この方法は、多次元配列内の複数の位置の各々についてのスケール係数を保存する工程を更に備えてもよい。
【0019】
検出器での波面の推定値は、タイコグラフィー(ptychography)の方法で決定してもよい。
【0020】
検出器での波面の推定値は、物体関数の推定値と出射波面を決定するプローブ関数とを乗じ、出射波面を検出器の平面へと伝播させることにより決定してもよい。
【0021】
物体関数とプローブ関数の少なくとも一つが、測定された放射と大きさを調整した背景放射とに基づいて更新され、物体関数とプローブ関数の少なくとも一つの改良された推定値を提供してもよい。
【0022】
本発明の更に別の態様によると、入射放射に対して目標物体の複数の位置の各々について検出器によって検出された背景放射の推定値と目標物体により散乱された放射を示すデータとを保存するメモリと、検出器での波面の推定値を決定するよう配置された処理装置であって、各々の位置について、背景放射の推定値の大きさを調整するためのスケール係数を決定するよう配置され、背景放射の推定値と波面の推定値との組み合わせと、測定された放射との間の差異を減じる処理装置を備える装置が提供される。
【0023】
スケール係数は、背景放射の推定値と推定された波面との合計と、測定された放射との間の差異を減らすために、背景放射の推定値に適用されてもよい。
【0024】
処理装置は、スケール係数を決定する適合プロセスを行うよう配置されてもよく、背景放射の推定値と推定された波面との組み合わせと、測定された放射との間が最小の差異となる。
【0025】
スケール係数γ
jは、
の最小値を求めるよう決定してもよく、I
j(u)は位置jの検出器によって測定された放射の強さを表し、S(u)は検出器によって検出された背景放射の推定値を表し、ψ
j(u)は推定された波面を表す。
【0026】
この装置は、メモリ内の多次元配列内の複数の位置の各々についてのスケール係数を保存するよう配置されてもよい。
【0027】
この装置は、目標物体によって散乱される放射の強度を測定する検出器を更に備えてもよい。
【0028】
本発明の更に別の態様によると、目標物体の複数の領域各々での背景放射の大きさを推定する方法が提供され、検出器で検出された背景放射の推定値を提供する工程と、入射放射に対して物体の複数の位置の各々について検出器において目標物体によって散乱された放射を測定する工程と、各々の位置について、検出器における波面の推定値を計算する工程と、各々の位置について目標物体が散乱する放射からのコヒーレントな寄与に対応する第一の物体関数を決定し、非コヒーレントな散乱放射からの背景寄与に対応する第二の物体関数を決定することにより推定された波面を決定する工程とを備える。
【0029】
第一物体関数が弾性散乱放射に対応する推定プローブ関数の一部分に基づいて決定されてもよい。第二物体関数がプローブ関数の更なる部分に対応する推定プローブ関数の一部分に基づいて決定されてもよい。
【0030】
本発明の実施形態において、コヒーレントな寄与と背景寄与とは別々に決定される。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施形態は、物体の少なくともある領域の非コヒーレントな背景マップを生成するように配置され、このマップは、検出器によって記録された非コヒーレントな背景放射に対する物体の複数の領域各々での寄与を示している。
【0033】
図1は、ある物体の非コヒーレントな背景マップの可視化表現である。
図1に示されるマップは、二次元である。しかし、当然のことながらマップは一次元であってもよく、即ち、一つの軸にそって配置された複数の場所での寄与を示す。
図1から明らかなように、このマップは、非コヒーレントな放射に対する各位置での相対的な寄与を表す。相対的な寄与は、各々の場所の色又は暗さによって
図1に示される。なお、
図1はマップを表すが、このマップは配列のようなデータ構造をしており、各々の場所での相対的寄与を示すデータを保持する。したがって、このマップを視覚的に表示することは要求されず、メモリに保存されるだけでよい。
【0034】
図2は、本発明の実施形態に係る装置100を示す図である。本装置は、物体の画像データを提供するのに好適であり、目標物体の少なくともある領域の画像を生成するために使用され得るが、これに限定されない。
【0035】
図2には示していない放射源は、一つ以上のレンズのような集束機構20に当たって、目標物体30のある領域を照らす放射源10である。放射という用語は、広く解釈すべきであることを理解されたい。放射という用語は、各種の波面を含む。放射には、放射源からのエネルギーが含まれる。これには、X線、電子などの放射粒子を含む電磁放射が含まれる。他の種類の放射として、音波等の音響放射が含まれる。このような放射は、波動関数Ψ(r)によって表すことができる。この波動関数は、当業者には明らかなように、実部と虚部を含む。これらは、波動関数の絶対値(modulus)と位相とによって表すことができる。Ψ(r)
*は、Ψ(r)の複素共役であって、Ψ(r)Ψ(r)
*=|Ψ(r)|
2であり、|Ψ(r)|
2が波動関数に関して測定される強度である。
【0036】
レンズ20は、調査する目標物体20のある領域を選択するように配置されるプローブ関数P(r)を形成する。このプローブ関数は、分析する物体の出射波の部分を選択する。P(r)は、物体40の平面で計算されるこのような波動場の複素定常値(complex stationary value)である。
【0037】
当然のことながら、目標40上で弱集束(又は実際には強集束)の照明ではなく、非集束の放射を、目標後方の開口と共に使用可能である。開口は目標物体の後方に配置されているため、これにより調査する目標のある領域が選択される。目標前方の開口も使用可能である。開口は、「サポート」を画定するようマスク内に形成される。サポートとは、ある関数のゼロではないエリアのことである。言い換えれば、サポートの外部では、関数はゼロとなる。サポートの外側では、マスクによって放射の透過が阻止される。開口という用語は、放射の局所的な透過関数を説明している。このことは、0と1との間の絶対値を有する二次元の複素変数によって表される。一例として、透過率が変化する物理的な開口領域を有するマスクが挙げられる。
【0038】
従って、入射放射は、目標物体30の上流側に当たり、伝達されるにつれて目標物体30によって散乱する。目標物体30は、入射放射に対して少なくとも部分的に透明でなくてはならない。目標物体30は、何らかの繰り返し構造を有していても有していなくてもよい。或いは、拡散パターンが反射による放射に基づいて計測される場合には、目標物体30は、全体的又は部分的に反射性のものであってもよい。
【0039】
それゆえ物体関数O(r)は、2次元の複素関数を表して、O(r)内の各点が複素数と関連しており、rは二次元座標を示すように形成される。O(r)は透過関数を表し、全ての位置rでO(r)=1ならば、物体は完全に透明であり、全ての位置rでO(r)=0ならば、物体は完全に不透明である。しかし、一般にO(r)は絶対値と位相成分を有する複素関数である。例えば電子散乱の場合、O(r)は、対象となる物体30を通過した結果として入射平面波に導入される位相及び振幅の変化を表すことになる。プローブ関数P(r)又は照明関数は、分析する物体関数の一部を選択する。当然のことながら、開口を選択するのではなく、透過回折格子やその他のこのようなフィルタ関数を物体関数の下流側に配置してもよい。プローブ関数P(r−R)は、開口が位置Rにある場合の開口透過関数である。プローブ関数は、絶対値及び位相によって与えられる複素数を備えた複素関数として表せる。プローブ関数は、物体の平面での波動場の複素定常値(complex stationary value)である。当然のことながら、プローブ、試料関数は共に、三次元の複素関数、P(s)及びO(s)であってもよく、P(s)及びO(s)での各点が複素数と関連しており、sは三次元座標を示す。
【0040】
出射波動関数ψ(r,R)は、物体30を出射する際の放射の出射波動関数である。この出射波ψ(r,R)は、回折面において回折パターンΨ(u)を形成する。ここで、rは、実空間でのベクトル座標であり、uは、回折空間でのベクトル座標である。
【0041】
当然ながら、開口を形成する実施形態と開口のない実施形態との両方について、散乱放射が検出される回折面が試料又は物体30に近い方へと移動した場合には、フーリエ回折パターンではなくフレネル回折パターンが検出されるであろう。このような場合、出射波ψ(r,R)から回折パターンΨ(u)への伝播関数は、フーリエ変換ではなくフレネル変換となる。更に当然ながら、この出射波ψ(r,R)から回折パターンΨ(u)への伝播関数を、別の変換を用いてシミュレーションしてもよい。
【0042】
光を照射する又は調査する対象の目標物体30の領域を選択するため、物体30に対するプローブ関数の動きを可能にするx/y移動ステージ上に、レンズ20又は開口を搭載してもよい。また当然のことながら、レンズ20又は開口に対して物体30を移動させてもよい。プローブ関数20は、配置位置内で移動ステージにより移動可能である。その配置は、格子状であってもよい。格子は、20×20の位置を備えるが、位置の数は他の数であってもよく、更にx及びy方向でグリッドの位置の数が等しくなくてもよい。想定される他の配置は、六角形又は略円形状のパターンである。他の形状のパターンを用いることもできる。各格子位置の場所にランダムなオフセット量を導入してもよい。例えば、グリッド位置のピッチが30μmである場合には、オフセット量を±15μmとする。これにより、「ラスタグリッド異常(raster grid pathology)」に関連する問題を回避することができる。
【0043】
検出器40は、CCDカメラ等の好適な記録装置であり、回折パターンの検出が可能となる。検出器40は、回折平面での回折パターンを検出できる。検出器40は、CCDにおけるようなアレイ状の検出素子を備えてもよい。
【0044】
上記の方法において、物体及び/又は放射源、レンズ20又は開口は、複数の位置間で移動する。その位置により、プローブ関数に他の幾つかのプローブ位置との少なくとも部分的な重複が生じる。回折パターンは、各々のプローブ位置で記録される。
【0045】
当然のことながら、複数のプローブ位置の各々に関して回折パターンが同時に記録される本発明の実施形態も想定される。同時係属出願GB1207800.2の内容を参照することにより本明細書に援用する。各々がそれぞれの回折パターンを形成する複数の部分を有する目標物体に放射を当てることにより、複数のプローブ位置に対応する複数の回折パターンを同時に記録することができる。レンズによって各部分は発散可能となる。他の実施形態において、開口配列は目標物体の後方に配列され、同時に複数の回折パターンを形成する。この開口配列は、複数の位置間で移動可能である。このように複数の位置を参照することは、同時に、連続的に、又はその両方の組み合わせを意味すると解釈することができる。
【0046】
図3は、検出器40によって記録される回折パターンを示す図であり、ここでは放射10は電子ビームであるが、本発明の実施形態はこのタイプの放射に限定はされない。入射電子が物体30と相互作用するため、エネルギーが失われて波長の変化が生じる。
図3から分かるとおり、記録された回折パターン200は、中心の明視野領域210と明視野領域210の周辺の周りに拡がった「光輪」(halo)の領域220を含んでいる。光輪220の少なくとも一部は、非弾性散乱電子から生じ、コヒーレントな回折パターン210に直接関係しない背景を形成する。
【0047】
上述のPIE法及びePIE法のような従来技術の位相回復の方法において、検出器40によって記録された非弾性散乱による寄与は、弾性散乱された寄与とは非コヒーレントであり、決定されたプローブ及び/又は物体関数が一つ以上の画像の乱れ(artefacts)を含む場合がある。
【0048】
図4は、
図3のような非弾性散乱放射がある場合のePIE法により決定されたプローブ関数を示す図である。プローブ関数は弾性散乱された電子放射から生じる略円形の成分310と、非弾性散乱放射によって生じる円形成分310から離れた画像の乱れ320を含む。画像の乱れは、物体へ入射した放射を表す略円形成分310の範囲の外部で輝点320を形成する。それゆえ、非弾性散乱放射成分のために、再構築されたプローブ関数は、物体へ入射する実際の放射を表さないことがわかる。
【0049】
上述の問題を改善するために、本発明の幾つかの実施形態は、
図1に示されるような非コヒーレントな背景マップを決定し、以下に述べるようにこの背景マップを検出器によって測定される背景放射の影響を減らすために使用する。
【0050】
図5は、本発明の実施形態に係る方法500を示す図である。
図5に示した方法500は、プローブ及び物体関数の推定値の両方を同時に、ステップごとに更新する工程を有する。ただし、当然ながら、例えば国際公開公報第2005/106531号に開示の方法及び装置のように、本発明の実施形態において、物体関数のみを更新し、既知のプローブ関数を用いてもよい。更に、本発明の別の実施形態において、既知の物体関数を使用し、プローブ関数を決定する方法としてもよい。更に当然ながら、物体関数及び/又はプローブ関数をその他の方法で更新してもよい。
【0051】
この方法では、J個の回折強度の集合s(j)又は検出器40が記録する回折パターンI
j(u)を利用する。J個の回折パターンはそれぞれ異なるプローブ位置に関連付けてもよい。この方法の各繰り返し内において、検出器40が測定するJ個の回折パターンの各々に対して、プローブ及び物体関数の推定値が更新される。J個の測定強度各々を考慮する順番を選択する。この順番は、数字の順番、即ち、j=1,2,3…Jであってもよい。この場合、回折パターンs(j)で開始して、s(J)まで進むと、プローブP
1(r)・・・P
J(r)及び物体O
1(r)・・・O
J(r)の更新推定値が生成される。ただし、回折パターンをラスター形式(一行の各パターンを順にかつ各行を順に)で考慮すると、本方法の間に特にプローブ関数推定値の変動(drifting)に関連した問題が発生する場合がある。従って、幾つかの実施形態において、回折パターンは、ランダム又は疑似ランダムな順番に考慮する。なお、説明の都合上、集合s(j)を連続した順に考慮する。
【0052】
方法500の開始時に、第一(k=1)の反復に先立って、初期プローブ関数P
0(r)501及び物体関数O
0(r)502が決定される。下付添え字0は、これらが初期推定値であることを示しており、これらの推定値は、本方法によって改善されて、より真の関数をより近く表すようになる。初期プローブ及び物体関数501、502は、初期推測値等の所定の初期値、即ち事前に計算した近似値やランダムな分布であり、又は別の初期測定値や事前の計算に基づくものであってよい。これらの関数501、502は、幾つかの標本点でシミュレーションされて、行列で表される。このような行列は、コンピュータ又はその他の処理装置によって保存及び操作することができる。標本点は等間隔とし、矩形状配列を形成するとよい。
【0053】
ステップ510で、現在のプローブ関数501と物体関数502の推定値を乗ずることにより、j番目の回折パターンを生成した出射波ψ
j(r)の推定値を決定する。本方法の第一(k=1)の反復の際、第一のプローブ位置s(1)については、初期推定物体関数O
0(r)とプローブ関数P
0(r)とを掛け合わせて、第一の出射波ψ
j(r)を決定する。本方法の以降の反復に際し、現在選択している、プローブ関数と物体関数のj番目のプローブ位置での推定値即ち、P
j(r) O
j(r)を掛け合わせて、現在の出射波ψ
1(r)を決定する。
【0054】
ステップ520で、出射波ψ
j(r)が検出器40の測定平面に伝播する。この伝播により、検出器40の平面での波面の推定値530Ψ
j(u)が生成される。数式1に示すように、出射波ψ
j(r)は、適切な変換Tにより測定平面に伝播する。幾つかの実施形態において、変換Tは、フーリエ変換であり、別の実施形態では、フレネル自由空間プロパゲータ(propagator)である。本方法の特定の用途に適した別の変換を想定してもよい。
【数1】
【0055】
ステップ540で、現在のプローブ位置でのスケール係数が決定される。スケール係数γ
jは、背景関数S(u)の大きさを調整する(scale)ために用いられる。
【0056】
背景関数S(u)は、検出器40によって検出される背景放射の推定値である。背景放射は、物体30による非弾性散乱からの寄与を含んでいる。
【0057】
第一の実施形態で、背景関数S(u)は、プローブ関数P
j(r)の決定した推定値に基づいて推定された541である。プローブ関数の推定値は、上述のePIE法によって決定してもよい。上述のように、非コヒーレントな背景放射がある場合に、一回以上の反復の後、物体の平面で推定されたプローブ関数は、画像の乱れ320を含んでいる。すなわち、例えばePIE法又はPIE法といった反復位相回復方法のような位相回復方法を事前に行って、プローブ関数P
j(r)を決定する。非弾性散乱放射がある場合に決定したプローブ関数P
j(r)の推定値は、
図4に示したような画像の乱れを含む場合がある。
【0058】
第一の実施形態で、プローブ位置に関して「真の」プローブ関数P
j(r)に対応した放射はマスクにより除去(masked out)される。このようなマスキングは、プローブ関数P
j(r)に対応する検出値を0のような所定の値に設定することで行われる。幾つかの実施形態において、円形の又は他の形状のマスクを(「真の」プローブ関数に対応した)弾性散乱放射の推定値に適合させ、マスク内の値を所定値、即ち0に設定することで、このマスキングは行われるが、0以外の他の値を使ってもよい。このマスクは、予測される「真の」プローブ関数より大きなサイズであるように選択してもよい。マスクは、プローブ窓より小さなサイズであるように選んでもよい。プローブ窓は、例えば512×512等のデータポイントであるプローブ関数の値を収納するデータ構造の範囲であるが、これは単に例示の目的で示したものである。
【0059】
次に、画面の乱れ320を含む残りの検出された放射に対応した、即ちプローブ関数周辺外部の値を用いて、背景関数S(u)を推定する。残りの放射はフーリエ変換のような適切な変換によって、検出器の平面へと伝播し、背景関数S(u)の推定値を提供する。
【0060】
別の実施形態において、本方法の一回以上の反復の後に推定した物体平面におけるプローブ関数P
j(r)を検出器の平面へと伝播してもよい。自由空間回折パターン(定位置の物体無しで測定された回折パターン)を推定されたプローブ関数から減じて、背景関数S(u)の推定値を提供してもよい。
【0061】
両実施形態においてアルゴリズムが進むにつれて、S(u)を繰り返して更新してもよい。上述のS(u)の算出方法のいずれかを基本として用いてS(u)を更新してもよい。例えば現在のプローブ推測値を検出器の平面へと伝播してもよく、伝播したプローブ関数と自由空間回折パターンとの間の差異によってS(u)を更新してもよい。当然のことながらS(u)は、マスクされていない領域内、即ち「真の」プローブ関数に対応した領域の外部での放射に基づいて更新されるが、物体関数は「真の」プローブ関数に対応した放射に基づいてのみ更新される。
【0062】
図6は、検出器の平面で推定された背景関数を示す図である。
【0063】
プローブ位置に関するスケール係数γ
jの値は、ステップ545におけるように背景関数S(u)が減じられて、推定された波面Ψ
j(u)とプローブ位置に関して測定された回折パターン
の絶対値との最少の誤差となる値にステップ540で決定される。プローブ位置に関するスケール係数γ
jは、最小二乗法、γ
jのランダム又は疑似ランダムな値を選択する反復プロセスにより、
の最小値を得る方法、又は当業者によって選ばれた他の好適な適合法によって計算してもよい。
【0064】
ステップ550で、検出器40の平面で推定された波面Ψ
j(u)の少なくとも一部は、測定された回折パターンI
j(u)545に基づいて更新される。幾つかの実施形態において、波面の全体、すなわちエリア又は範囲の全体が更新されてもよいが、他の実施形態においては波面の範囲の一部分だけが更新される。引用文献で説明されているように、Ψ
j(u)は複素数値であるので、数式2のように表される。
【数2】
【0065】
推定された波面の絶対値は数式3によって置換できる。
【数3】
これは、大きさが調整された背景関数を減じた、測定された回折パターンの絶対値である。
【0066】
ステップ560で、j番目の回折パターンΨ
j(u)を生成した波面の修正された推定値を、物体30の平面へと戻るよう逆伝播し、物体30ψ
j,new(r)の平面での波面の更新された推定値565が提供される。この逆伝播は、ステップ520で用いた変換の逆変換によって行われる。幾つかの実施形態において、ステップ520で用いた変換は、逆フーリエ変換であるが、先に説明したように他の変換を用いてもよい。逆変換は、数式4によって行われる。
【数4】
【0067】
ステップ571、572で、プローブ関数及び物体関数を更新する。この更新によって、改善後のプローブP
j,new(r)及び目的O
j,new(r)関数推定値が得られる。この更新は、援用した文献である国際公開公報第201/064051号に記載の通りに行ってもよく、別の任意の方法で行ってもよい。国際公開公報第201/064051号と同様にして、物体関数が数式5に従って更新され、プローブ関数が数式6に従って更新される。
【数5】
【0068】
パラメータαにより、物体推測値の変化率を調節する。この値が高いと、更新後の物体推測値が不安定となる場合があるので、0と2との間に調整する。本発明の実施形態によれば、プローブ関数は、物体関数とほとんど同じ方法で再構築される。プローブ関数の推測は、物体推測値の更新と同時に実行するとよい。(当然のことながら、プローブ関数の更新の頻度は必要に応じて、物体関数の更新の頻度より多くしても少なくしてもよい)。
【数6】
【0069】
このような関数の更新の結果、プローブ関数の動的推定値が生成される。パラメータβは、プローブ推測値の変化率を調節する。この値は高すぎる場合、更新されたプローブ推測値が不安定となるため、0と2との間に調整するとよい。
【0070】
ステップ580で、現在の反復に関して全てのプローブ位置が処理されたかどうかを判断する。即ち、幾つかの実施形態において、j=Jかどうかを判断する。現在のプローブ位置が現在の反復の最終プローブ位置でない場合には、次のプローブ位置を選択する。次のプローブ位置は、ステップ581において、j=j+1とすることにより選択される。次のプローブ位置はランダムに選択することもできる。現在のプローブ位置が現在の反復の最終プローブ位置であれば、ステップ590に進む。
【0071】
一旦次のプローブ位置がステップ581で選択されれば又はステップ591でリセットされれば、本方法はステップ510へ戻り、プローブ位置の波面の推定値が、そのプローブ位置についての(そのプローブ位置についての本方法の第一の反復についての)物体関数とプローブ関数の初期推定値か、そのプローブ位置についての物体関数及び/又はプローブ関数の更新された推定値に基づいて推定される。
【0072】
ステップ590で、チェック条件を満たしているかどうかを判断する。幾つかの実施形態において、チェック条件は、現在の反復番号kがk=100等の所定の値であるかどうかを判断するものであり、所定の反復回数が行われたかどうかを判断するものである。このようなチェックは計算上簡単に行えるが、物体関数及び/又はプローブ関数の推定値の精度は考慮されていない。従って、幾つかの実施形態において、チェック条件により、推定された回折パターンの現在の推定値を検出器40が記録しているものと比較する。この比較は、数式7のような二乗誤差の総和(sum squared error:SSE)を考慮して行ってもよい。
【数7】
【0073】
本方法は、誤差尺度(error metric)が一つ以上の所定の基準、例えば所定の値を下回ることを満たした場合に終了する。
【0074】
所定の基準が満たされない場合には、次の反復(k=k+1)に備えてステップ591に進み、プローブ位置をリセット、即ち、j=1等の第一のプローブ位置を再度選択する。
【0075】
図1に示したような背景マップは、各々のプローブ位置でのスケール係数γ
jを保存することで決定される。幾つかの実施形態において、スケール係数は、二次元配列のようなデータ構造内に保存される。より大きなスケール因子を有する場所は
図1ではより暗い色で示されており、このように
図1のそれぞれの色は、プローブ位置に関するスケール係数γ
jがより大きいことを示す。
【0076】
各々のプローブ位置でのスケール係数を決定することで、各プローブ位置にとって適切な大きさに調整された背景放射を推定することができ、
図7および8を参照して説明されるように、非弾性散乱放射によって導入される誤差を減少させることができる。
【0077】
図7は、本発明の実施形態の効果を示す図である。
図7(a)は、従来技術ePIE法によって決定された物体関数を示す。リング状エリア710において特に分かるように、決定された物体関数には、物体30の特徴ではない特徴が存在する。
図7(b)から分かるとおり、この図にはこれらの特徴がなく、各プローブ位置について背景マップに応じて大きさが調整された背景関数を使うことで除去されているためである。
【0078】
図8は、決定されたプローブ関数についての本発明の実施形態の効果を更に示した図である。
図8(a)は、従来技術ePIE法によって決定されたプローブ関数を示した図である。背景非弾性散乱放射の結果として、プローブ関数を超えた領域に画像の乱れ810がある。本発明の実施形態によって生成される
図8(b)には、この画像の乱れがない。
【0079】
図9は、本発明の更なる実施形態による方法900を示した図である。
【0080】
図9に示した方法で、少なくとも2つの物体関数推定値がステップごとの手法で更新される。即ち、実施形態例において、前述のように、第一の物体関数はマスク内のプローブ関数に基づいて決定される。第一の物体関数は前述のように、「真の」プローブ関数に対応した放射に関して決定される。一つ又はそれ以上のプローブ関数が、例えば以下に説明するようなマスクエリアの外部において、「真の」プローブ関数に対応しない放射に関して決定される。本発明の一実施形態が第一と第二の物体関数に関して説明されるが、本発明はこの点で限定されない。特に「真の」プローブ関数の外部領域は各々がプローブ関数を有する複数のエリアへと分割可能である。
【0081】
図10は、プローブ窓の内部に前述したような非コヒーレントな放射がある場合に決定されたプローブ関数を示した図である。プローブ関数は例えば反復タイコグラフィー(ptychographic)法等の反復法によって決定してもよい。反復タイコグラフィー法は、プローブ関数を決定するために先行するステップにおいて実行される。プローブ窓は、
図10のAとBとして認識される第一の領域と第2の領域に分割され、領域Aは「真の」プローブ関数に対応する。領域AとBは、
図10に参照符号1010で示されるマスク1010によって分割されている。マスク1010は円形であるが、他の形状のマスクを使ってもよい。
【0082】
本発明の実施形態例において、領域Aは物体に対応する第一物体関数を決定するためのプローブ関数として使用し、領域Bは非コヒーレントな放射に対応する第二物体関数を決定するために使用する。第一物体関数はO
o(r)とし、第二物体関数はO
S(r)とし、下付き文字oは物体関数が「真の」物体関数であることを示し、下付き文字sは物体関数が「背景」寄与又は散乱物体関数であることを示す。
【0083】
援用した文献に記載されているように、出射波の推定値は推定した物体関数とプローブ関数を掛け合わせた値に基づいて決定される。本発明の実施形態において、出射波は、プローブ関数、開口マスク関数A及び複数の物体関数に基づいて決定される。本発明の実施形態において、開口マスク関数Aは、第一と第二の値、0と1の間の値をとることができる。当然のことながら、開口マスク関数は用いられる際に、効果的に物体からの出射波の寄与と非コヒーレントな放射との間で選択する。出射波は数式8に示されるように決定しても良い。
【数8】
【0084】
出射波内での背景放射の推定値は数式8に含まれており、sum((1−A)O
s.P)として別に計算してもよく、この合計が全てのデータ位置での総寄与を決定することになる。この寄与は当然のことながら検出器の平面へと伝播してもよい。
【0085】
出射波ψ(r)は、フーリエ変換のような適切な変換を用いて検出器の平面へと伝播するが、本発明の実施形態はこの点において制限されない。検出器の平面で、測定された波面の絶対値は、数式9を用いて従来技術のように更新してもよい。
【数9】
【0086】
出射波は複数の寄与に基づいて決定されるが、フーリエ変換のような特定の変換の線形特性によってこのように更新してもよく、FFT(A+B)=FFT(A)+FFT(B)である。数式8において、Bは(1−A)と表され、出射波が二つの成分を含む。但し、更なる成分を導入してもよく、各項は例えばB、Cといった乗数を有する。
【0087】
もう一度
図9を参照して、プローブ関数P
0(r)の初期推測又は推定の開始時に、物体関数O
0(r)および散乱物体関数O
S(r)が提供される。ステップ910で、物体からの出射波は、プローブ位置jについて上述したように決定され、ステップ920で変換Tによって検出器の平面まで伝播する。ステップ940で、出射波の絶対値は、数式9を参照して説明したように更新され、物体の平面まで逆伝播され、ステップ960で出射波の更新された推定値が提供される。ステップ971、972、973で、援用した文献で説明されているように、プローブ関数、物体関数及び散乱物体関数が更新される。
【0088】
それゆえ当然のことながら、本発明の実施形態は、非コヒーレントな放射による等の背景放射成分に対応して、少なくとも一つの物体関数を決定する方法と装置を提供する。
【0089】
図11は、本発明の実施形態に係る装置900を示す図である。装置900は、物体の画像データを決定するために配置される。幾つかの実施形態において、画像データは、物体の可視画像を生成するために使用される。可視画像は例えば、表示装置に出力される。他の実施形態において、画像データは画像を生成するために使用されなくてよいが、物理的な寸法、即ち厚さ、又は物体の光学的特性のような物体の一つの又は他の物理的特性を決定するのに使用される。
【0090】
装置900は、装置に当たる放射の強度を検出するための検出器910を備える。検出器910は、
図1の検出器50に対応し、目標物体が散乱する放射によって形成される回折パターンを記録するよう配置される。検出器は、複数の検出素子を備えてもよく、各検出素子は、検出素子に当たった放射の強度を示す信号を出力可能である。検出器は、CCD装置、又は同等のものである。検出器910は、処理装置920と通信可能に連結しており、処理装置は、検出器910が検出した放射の強度に基づいて画像データを決定するよう配置される。処理装置920は、メモリ930とCPU等のデータ処理装置940とを備える。
図9には、一つのメモリを備える処理装置920を示しているが、処理装置920は二つ以上のメモリを備えてもよい。更に、処理装置920は、一つのデータ処理装置を備えるものとして図示されているが、複数のデータ処理装置940を備えてもよく、各データ処理装置は、一つ以上の処理コアを備える。メモリ930は、複数のプローブ位置に対応する測定された放射強度データI
j(u)を保存するよう配置する。データ処理装置940は、
図5又は8に示した上述のような本発明の実施形態を実現する。データ処理装置は、決定した画像データをメモリ930に保存する。
【0091】
当然のことながら、本願発明の実施形態は、ハードウェア、ソフトウェア、ハードウェア及びソフトウェアの組み合わせの形態において実現され得る。かかるソフトウェアのいずれもが、消去可能であるか若しくは書き換え可能であるかにかかわらず、例えば、ROM等の記憶装置等の揮発性記憶装置又は不揮発性記憶装置の形態で記憶されるか、例えば、RAM、メモリチップ、デバイス又は集積回路等のメモリの形態で記憶されるか又は、例えば、CD、DVD、磁気ディスク若しくは磁気テープ等の光学可読媒体又は磁気可読媒体において記憶される。当然のことながら、記憶装置及び記憶媒体は、プログラム又は複数のプログラムを記憶するのに適した機械可読記憶装置の実施形態であり、当該プログラムが実行されると、本発明の実施形態が実現される。従って、実施形態は、先のいずれかの請求項に記載されたシステム又は方法を実現するコードを含むプログラムを提供し、かかるプログラムを記憶する機械読込可能な記憶装置を提供する。更に、本発明の実施形態は、有線接続若しくは無線接続において伝達される通信信号等の任意の媒体を介して電子的に伝達され、実施形態はこれを適切に包含し得る。
【0092】
(添付した特許請求の範囲、要約、及び図面のすべてを含む)本明細書において開示された特徴のすべて、及び/又は、開示された任意の方法又は処理のステップのすべてが、かかる特徴及び/又はステップのうち少なくともいくつかが互いに排他的である組み合わせを除く、任意の組み合わせで組み合わされ得る。
【0093】
(添付した特許請求の範囲、要約、及び図面のすべてを含む)本明細書において開示された各々の特徴が、特に明記しない限り、同一であり同等の目的又は類似の目的に有益である代替的特徴によって置換され得る。従って、特に明記しない限り、開示された各特徴は、包括的な一連の均等な又は類似の特徴の一例である。
【0094】
本発明は、前述のいかなる実施形態の詳細にも限定されない。本発明は、(添付した特許請求の範囲、要約、及び図面のすべてを含む)本明細書において開示された特徴の任意の新規なもの又は任意の新規な組合せに、又は、開示された任意の方法及び処理のステップの任意の新規なもの又は任意の新規な組合せに及ぶ。特許請求の範囲は、上記の実施形態のみに及ぶだけでなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内の任意の実施形態にも及ぶものと、解釈されるべきである。