(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数種の機器構成部品のうち1以上の部品の各々について、該部品が故障した際の前記プラント設備の能力低下の度合いと、前記部品の故障率と、前記部品のための前記予備品の納期と、に基づいて、前記部品の各々の在庫の要否を判定する在庫要否判定ステップをさらに備え、
前記暫定在庫数決定ステップでは、前記在庫要否判定ステップにて在庫が不要と判定された前記部品のための前記予備品について前記在庫数の前記暫定解をゼロと決定する、
ことを特徴とする、請求項1に記載のプラント設備の保守計画方法。
下記(a)又は(b)の少なくとも一方の条件を満たす場合、前記複数種の予備品の少なくとも一つについて前記暫定解の前記在庫数を修正する在庫数修正ステップをさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラント設備の保守計画方法。
(a)前記複数種の予備品の各々を前記暫定解の前記在庫数だけ保有することによる前記プラント設備の稼働率向上幅の総和が前記プラント設備の稼働率目標向上量未満である。
(b)前記複数種の予備品のそれぞれについての前記購入費及び前記在庫管理費の合計費の総和が在庫関連予算を超える。
前記在庫数修正ステップでは、少なくとも、前記暫定解からの前記在庫数の増減量に対する前記稼働率向上幅の変化率が最大である前記予備品の在庫数を増やすことを特徴とする請求項3に記載のプラント設備の保守計画方法。
前記在庫数修正ステップでは、少なくとも、前記暫定解からの前記在庫数の増減量に対する前記購入費、前記在庫管理費又は前記合計費の第1変化率が最大になる前記予備品、前記暫定解からの前記在庫数の増減量に対する前記金銭的損失の第2変化率が最小である前記予備品、または、前記第1変化率に対する前記第2変化率の比が最小である前記予備品の在庫数を減らすことを特徴とする請求項3又は4に記載のプラント設備の保守計画方法。
前記複数種の予備品の各々について前記暫定在庫数決定ステップにより決定した前記在庫数に基づいて、前記プラント設備の複数の保守メニュー候補を生成する保守メニュー候補生成ステップと、
各々の前記保守メニュー候補の実施の有無による前記プラント設備の稼働率の変化を算出するステップと稼働率変化算出ステップと、
前記稼働率の変化に基づいて、各々の前記保守メニュー候補の実施の有無による、前記プラント設備の稼働により得られる収益の変化を算出する収益変化算出ステップと、
前記保守メニュー候補の複数通りの組み合わせのうち、少なくとも一つの制約条件を満たす前記組み合わせの中から、前記収益の変化に基づいて少なくとも一つの前記組み合わせを選択する選択ステップと、
をさらに備えることを特徴とする、請求項1乃至請求項7のうちのいずれか一項に記載されたプラント設備の保守計画方法。
前記保守制約条件は、前記保守メニューセット候補の実施に必要な保守コストが保守予算内であるか否かという第1条件、または、前記保守メニューセット候補を実施した場合における前記プラント設備の期待稼働率が目標稼働率以上であるか否かという第2条件の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項9に記載のプラント設備の保守計画方法。
全ての前記保守メニューセット候補について前記保守制約条件が成立しない場合、前回の前記在庫数条件における1以上の前記予備品の前記在庫数を変更する在庫数条件修正ステップをさらに備えることを特徴とする請求項9又は10に記載のプラント設備の保守計画方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2記載の発明では、複数種の予備品の各々について、無駄な在庫を減らし、状況に応じて適正な水準の在庫量を保有することによって、当該予備品の調達や在庫維持に要する費用をできるだけ抑制するための仕組みを開示していない。また、特許文献1および特許文献2記載の発明では、当該予備品が在庫切れを起こした場合に想定される金銭的損害を評価した上で、当該想定される金銭的損害に基づいて当該予備品についての適正な水準の在庫量を判断するための仕組みを開示していない。
【0006】
以上の問題点に鑑み、本発明に係る幾つかの実施形態は、予備品の在庫切れによるプラント設備運営主体の金銭的損失および予備品調達に要するプラント保守費用をできるだけ抑制するようなプラント保守計画を策定可能なプラント保守計画方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の幾つかの実施形態に係るプラント設備の保守計画方法は、
コンピュータ・システムを用いたプラント設備の保守計画方法であって、
前記コンピュータ・システムの部品情報データベースから、前記プラント設備の複数種の機器構成部品のそれぞれについて保有される複数種の予備品の各々について、該予備品の単価を示す第1部品情報を取得する第1部品情報取得ステップと、
前
記予備品の各々について、
前記第1部品情報を用いて、前記コンピュータ・システムにより、該予備品
の在庫数に応じて定まる前記予備品の購入費を前記在庫数ごとに算出する購入費決定ステップと、
前記コンピュータ・システムの在庫管理コストデータベースから、前記予備品の各々について、該予備品の1個あたりの在庫保有コストを示す在庫保有コスト情報を取得する在庫保有コスト情報取得ステップと、
前記複数種の予備品の各々について、
前記在庫保有コスト情報を用いて、前記コンピュータ・システムにより、前記予備品の前記在庫数に応じて定まる前記予備品の在庫管理費を前記在庫数ごとに算出する在庫管理費決定ステップと、
前記部品情報データベースから、前記予備品の各々について、前記予備品の故障率及び納期を含む第2部品情報を取得する第2部品情報取得ステップと、
前記複数種の予備品の各々について、
前記第2部品情報のうち前記故障率を用いて、前記コンピュータ・システムにより、前記予備品の在庫切れを起こす確率を示す品切れ率を算出する故障率算出ステップと、
算出された前記品切れ率および前記第2部品情報のうち前記納期を用いて、前記コンピュータ・システムにより、前記予備品の品切れによって前記プラント設備の停止又は能力低下に起因した金銭的損失を前記在庫数ごとに算出する損失算出ステップと、
前記複数種の予備品の各々について、
算出された前記購入費、前記在庫管理費および前記金銭的損失に基づいて、
前記コンピュータ・システムにより、前記予備品の在庫数の増加に伴い増大する前記購入費及び前記在庫管理費と、前記予備品の在庫数の減少に伴い増加する前記金銭的損失とを考慮した在庫数の暫定解を決定する暫定在庫数決定ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0008】
上記(1)の方法では、プラント設備を構成する機器構成部品のうち、故障した機器構成部品と交換すべき予備品が在庫切れを起こした場合のプラント設備の停止又は能力低下に起因した金銭的損失を考慮して、当該予備品の在庫数の暫定解を算出している。同時に、上記(1)の方法では、当該故障した機器構成部品との交換のために在庫として保有すべき当該予備品の購入費用や在庫管理費を考慮して、当該予備品の在庫数の暫定解を算出している。その結果、上記(1)の方法によれば、当該予備品の適正な在庫数を策定することによって、当該予備品の在庫切れによるプラント設備運営主体の金銭的損失および予備品調達に要するプラント保守費用をできるだけ抑制可能なプラント保守計画方法を実現することができる。
【0009】
(2)例示的な一実施形態では、上記(1)の方法において、前記複数種の機器構成部品のうち1以上の部品の各々について、該部品が故障した際の前記プラント設備の能力低下の度合いと、前記部品の故障率と、前記部品のための前記予備品の納期と、に基づいて、前記部品の各々の在庫の要否を判定する在庫要否判定ステップをさらに備え、
前記暫定在庫数決定ステップでは、前記在庫要否判定ステップにて在庫が不要と判定された前記部品のための前記予備品について前記在庫数の前記暫定解をゼロと決定する、
ことを特徴とする。
【0010】
上記(2)の方法では、複数種の機器構成部品のうち1以上の部品の各々について、該部品が故障した際のプラント設備の能力低下の度合いと、該部品の故障率と、該部品のための予備品の納期と、に基づいて、該部品の各々の在庫の要否を判定している。従って、上記(2)の方法によれば、故障したとしても、例えば、プラント稼働状況への影響を小さいことができる部品、短期間で調達可能な部品または信頼性が高い部品については、予備品の在庫を不要と判断することが可能である。その結果、上記(2)の方法では、当該不要と判断した予備品を在庫として保有しない分だけ、プラント保守に要する費用を節約することが可能となる。
【0011】
(3)例示的な一実施形態では、上記(1)または(2)の方法において、下記(a)又は(b)の少なくとも一方の条件を満たす場合、前記複数種の予備品の少なくとも一つについて前記暫定解の前記在庫数を修正する在庫数修正ステップをさらに備えることを特徴とする。
(a)前記複数種の予備品の各々を前記暫定解の前記在庫数だけ保有することによる前記プラント設備の稼働率向上幅の総和が前記プラント設備の稼働率目標向上量未満である。
(b)前記複数種の予備品のそれぞれについての前記購入費及び前記在庫管理費の合計費の総和が在庫関連予算を超える。
【0012】
上記(3)の方法によれば、上記(a)又は(b)の少なくとも一方の条件を満たす場合、故障した機器構成部品と交換すべき複数種の予備品の少なくとも一つについて、上記(1)の方法において暫定解として決定した在庫数を修正する処理を実行するようにしている。具体的には、上記(3)の方法では、複数種の予備品の各々について上記(1)の方法に従って暫定解として決定した在庫数を保有した場合に、プラント設備の稼働率向上幅の総和が目標値未満であるならば、当該稼働率向上幅が目標値以上となるように当該暫定解の在庫数を修正するようにしている。また、上記(3)の方法では、複数種の予備品の各々について上記(1)の方法に従って暫定解として決定した在庫数を保有した場合に、在庫調達および在庫管理のための費用が予算を超える場合には、当該費用が予算内に収まるように、当該暫定解の在庫数を修正するようにしている。
【0013】
その結果、上記(3)の方法によれば、プラント設備の稼働率向上幅の総和が目標値を達成することが可能となるように、複数種の予備品の各々について暫定解として決定した在庫数を修正することができる。また、上記(3)の方法によれば、在庫調達および在庫管理のための費用が予算内に収まるように、複数種の予備品の各々について暫定解として決定した在庫数を修正することができる。
【0014】
(4)例示的な一実施形態では、上記(3)の方法において、前記在庫数修正ステップでは、少なくとも、前記暫定解からの前記在庫数の増減量に対する前記稼働率向上幅の変化率が最大である前記予備品の在庫数を増やすことを特徴とする。
【0015】
上記(4)の方法では、プラント設備の稼働率向上幅の総和を目標値以上とすることが可能となるように、複数種の予備品の各々について暫定解として決定した在庫数を修正する際に、以下のようにしている。すなわち、上記(4)の方法では、当該暫定解から在庫数を増減させた際に、当該在庫数の増減量に応じてプラント設備の稼働率向上幅の変化率が最大となる予備品の在庫数を増やすようにしている。従って、上記(4)の方法では、複数種の予備品のいずれか一つ以上について在庫数を暫定解から増減させる際に、プラント設備の稼働率向上幅の総和が目標値を達成するという条件を満たすために最も効果的な予備品について在庫数を修正することが可能となる。
【0016】
(5)例示的な一実施形態では、上記(3)または(4)の方法において、前記在庫数修正ステップでは、少なくとも、前記暫定解からの前記在庫数の増減量に対する前記購入費、前記在庫管理費又は前記合計費の第1変化率が最大になる前記予備品、前記暫定解からの前記在庫数の増減量に対する前記金銭的損失の第2変化率が最小である前記予備品、または、前記第1変化率に対する前記第2変化率の比が最小である前記予備品の在庫数を減らすことを特徴とする。
【0017】
上記(5)の方法では、複数種の予備品についての在庫調達および/または在庫管理に要する費用を予算内に収めることが可能となるように、複数種の予備品の各々について暫定解として決定した在庫数を修正する際に、以下のようにしている。すなわち、暫定解として決定した在庫数を増減させた際の増減量に対して在庫調達および/または在庫管理に要する費用が変化する際の変化率が最大になる予備品の在庫数を当該暫定解から減少させるようにしている。それにより、上記(5)の方法では、在庫調達および/または在庫管理に要する費用を最も効果的に削減できるような予備品について在庫数を調整することが可能となる。
【0018】
また、上記(5)の方法では、プラント保守に要する費用を予算内に収めることが可能となるように、複数種の予備品の各々について暫定解として決定した在庫数を修正する際に、以下のようにしている。すなわち、暫定解からの在庫数の増減量に対する金銭的損失の変化率が最小になる予備品の在庫数を当該暫定解から減少させるようにしている。それにより、上記(5)の方法では、在庫数を所定量減らした場合に、在庫切れ時のプラント停止等により発生する金銭的損失の増加幅ができるだけ小さい予備品について在庫数を調整することが可能となる。
【0019】
また、上記(5)の方法では、暫定解からの在庫数の増減量に対する在庫調達および/または在庫管理に要する費用の変化率を第1変化率とし、暫定解からの在庫数の増減量に対する金銭的損失の変化率を第2変化率とした場合に、以下の工夫を行っている。すなわち、プラント保守に要する費用を予算内に収めることが可能となるように、第1変化率に対する第2変化率の比が最小である予備品の在庫数を暫定解から減らすようにしている。それにより、上記(5)の方法では、在庫数を所定量減らした場合に、在庫切れ時のプラント停止等により発生する金銭的損失の増加幅ができるだけ小さく、しかも、在庫調達および/または在庫管理に要する費用を最も効果的に削減できるような予備品について在庫数を調整することが可能となる。
【0020】
(6)例示的な一実施形態では、上記(1)〜(5)の方法において、前記損失算出ステップでは、
前記複数種の予備品の各々について、前記予備品の品切れに起因した前記プラント設備の停止時間又は能力低下時間を前記在庫数ごとに算出し、
算出した前記プラント設備の前記停止時間又は前記能力低下時間に対して、前記プラント設備の停止又は能力低下に起因した単位時間当たりの逸失利益を乗算して、前記金銭的損失を前記在庫数ごとに算出する
ことを特徴とする。
【0021】
上記(6)の方法では、プラント設備が停止または能力低下の状態にある期間の長さと当該期間内における単位時間当たりの逸失利益の増減をさらに考慮して上述した金銭的損失を評価している。従って、上記(6)の方法によれば、上述した停止時間又は能力低下時間に加えて単位時間当たりの逸失利益の増減をさらに考慮して、在庫数ごとに金銭的損失を高精度に評価することができる。このため、上記(1)で述べた手法により、予備品の在庫切れに起因したプラント設備の停止又は能力低下に起因した金銭的損失、予備品の在庫数に応じた購入費用及び在庫管理費を考慮して、各予備品の在庫数の暫定解を適切に算出することができる。
【0022】
(7)例示的な一実施形態では、上記(1)〜(6)の方法において、前記暫定在庫数決定ステップでは、
前記複数種の機器構成部品のうち定期交換部品に関して、在庫保有検討基準時点から次回定期交換時点までの期間が、前記定期交換部品の納期に応じて定まる準備期間と同一又は前記準備期間よりも長い場合、前記定期交換部品について前記購入費、前記在庫管理費および前記金銭的損失に基づいて、在庫数の暫定解を決定し、
前記期間が前記準備期間よりも短い場合、前記定期交換部品の在庫数を、定期交換作業に必要な前記定期交換部品の数以上に決定する
ことを特徴とする。
【0023】
複数種の機器構成部品の中でも定期交換部品に関しては、対応する予備品の在庫数をどの程度保有すべきかを検討している時点(在庫保有検討基準時点)から次回の定期交換時点までの期間が予め分かっている。在庫保有検討基準時点において、当該定期交換品にための予備品の納期に応じて定まる準備期間と比べて、次回の定期交換時期までに充分な時間的余裕がある場合には、定期交換部品を在庫保有検討基準時点において保有しなければならないわけではない。一方、在庫保有検討基準時点において、当該定期交換品にための予備品の納期に応じて定まる準備期間と比べて、次回の定期交換時期までに充分な時間的余裕がない場合、在庫保有検討基準時点において定期交換部品の在庫を保有しておく必要がある。
この点、上記(7)の方法によれば、在庫保有検討基準時点から次回定期交換時点までの期間が準備期間よりも短い場合には、在庫数の暫定解によらず、定期交換作業に必用な定期交換部品の数量以上に在庫数を設定することで、定期交換作業を滞りなく実施することができる。これに対し、在庫保有検討基準時点から次回定期交換時点までの期間が準備期間と同一又は準備期間よりも長い場合、在庫数の暫定解を決定するようにしたので、購入費、在庫管理費及び金銭的損失に基づいて、定期交換部品の在庫数を適切に決定できる。
【0024】
(8)例示的な一実施形態では、上記(1)〜(7)の方法において、前記複数種の予備品の各々について前記暫定在庫数決定ステップにより決定した前記在庫数に基づいて、前記プラント設備の複数の保守メニュー候補を生成する保守メニュー候補生成ステップと、
各々の前記保守メニュー候補の実施の有無による前記プラント設備の稼働率の変化を算出するステップと稼働率変化算出ステップと、
前記稼働率の変化に基づいて、各々の前記保守メニュー候補の実施の有無による、前記プラント設備の稼働により得られる収益の変化を算出する収益変化算出ステップと、
前記保守メニュー候補の複数通りの組み合わせのうち、少なくとも一つの制約条件を満たす前記組み合わせの中から、前記収益の変化に基づいて少なくとも一つの前記組み合わせを選択する選択ステップと、
をさらに備えることを特徴とする。
【0025】
上記(8)の方法では、複数の保守メニュー候補の実施の有無に応じてプラント設備の稼働率の変化を求め、当該稼働率の変化に基づいて算出された収益の変化に基づいて、保守メニュー候補の組み合せを選択する。従って、上記(8)の方法では、保守費用やプラント停止により生じる被害コストを抑制するだけでなく、期待されるプラント稼働率の改善見込みに基づいてプラントの稼働から得られる収益を評価した結果を考慮して保守メニューの組み合わせを合理的に決定することができる。これにより、上記(8)の方法では、プラント稼働率の改善見込みから得られる収益の向上が十分に期待されるような保守メニューの組み合わせを合理的に決定することができる。
【0026】
また、上記(8)の方法では、保守メニュー候補の複数通りの組み合わせのうち、少なくとも一つの制約条件を満たす組み合わせの中から、当該収益の変化に基づいて少なくとも一つの組み合わせを選択する。これにより、上記(8)の方法では、プラント保守計画を行う際に、プラント稼働から得られる収益の向上とプラントが満たすべき所望の制約条件の充足という互いにトレードオフ関係にある2つの要求を両立させる形で保守メニューの組み合わせを選定することができる。
【0027】
さらに、上記(8)の方法によれば、暫定在庫数決定ステップにより決定した各予備品の在庫数に基づいて、プラント設備の複数の保守メニュー候補を生成するようにしたので、各予備品の在庫数に応じて実際に行い得る保守メニュー候補の好適な組み合わせを選定することができる。
【0028】
(9)例示的な一実施形態では、上記(1)〜(8)の方法において、前記複数種の予備品のそれぞれの前記在庫数の組み合わせである在庫数条件を設定する在庫数条件設定ステップと、
前記在庫数条件に基づいて、前記プラント設備の複数の保守メニュー候補を生成する保守メニュー候補生成ステップと、
前記複数の保守メニュー候補のうち少なくとも一つの保守メニュー候補の組み合わせからなる1以上の保守メニューセット候補のそれぞれについて、保守制約条件を満たすか否かを判定する制約条件判定ステップと、
をさらに備えることを特徴とする。
【0029】
上記(9)の方法では、予備品の在庫数条件に基づいて保守メニュー候補を生成するようにしたので、各予備品の在庫数に応じて実際に行い得る保守メニュー候補の好適な組み合わせを選定することができる。また、上記(9)の方法によれば、1以上の保守メニューセット候補のそれぞれについて、保守制約条件を満たすか否かを事前に評価することができる。
【0030】
(10)例示的な一実施形態では、上記(9)の方法において、前記保守制約条件は、前記保守メニューセット候補の実施に必要な保守コストが保守予算内であるか否かという第1条件、または、前記保守メニューセット候補を実施した場合における前記プラント設備の期待稼働率が目標稼働率以上であるか否かという第2条件の少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【0031】
これにより、上記(10)の方法によれば、1以上の保守メニューセット候補のそれぞれについて、プラント長期保守に必要な保守費用が所定の予算内に収まるという条件(第1条件)または保守期間中のプラント実稼働率が目標稼働率を下回らないという条件(第2条件)を満たすか否かを事前に評価できる。
【0032】
(11)例示的な一実施形態では、上記(9)または(10)の方法において、全ての前記保守メニューセット候補について前記保守制約条件が成立しない場合、前回の前記在庫数条件における1以上の前記予備品の前記在庫数を変更する在庫数条件修正ステップをさらに備えることを特徴とする。
【0033】
上記(11)の方法では、上記(9)または(10)の方法に従って生成された全ての保守メニューセット候補について保守制約条件が成立しない場合、前回の在庫数条件における1以上の予備品の在庫数を変更するようにしている。その際、当該在庫数の変更を適切に行うようにすれば、保守制約条件を満たす保守メニュー候補が見つかる可能性を高めることができる。
【0034】
(12)例示的な一実施形態では、上記(11)の方法において、前記保守制約条件は、前記保守メニューセット候補の実施に必要な保守コストが保守予算内であるか否かという第1条件を含み、
前記在庫数条件修正ステップでは、
全ての前記保守メニューセット候補について前記第1条件が成立しない場合、少なくとも、前記前回の前記在庫数条件からの前記在庫数の増減量に対する前記購入費、前記在庫管理費又は前記合計費の第3変化率が最大になる前記予備品、前記前回の前記在庫数条件からの前記在庫数の増減量に対する前記金銭的損失の第4変化率が最小である前記予備品、または、前記第3変化率に対する前記第4変化率の比が最小である前記予備品の在庫数を減らす
ことを特徴とする。
【0035】
上記(12)の方法では、全ての保守メニューセット候補について保守制約条件が成立しないことにより、前回の在庫数条件における1以上の予備品の在庫数を変更する際に、以下の工夫を行っている。すなわち、上記(12)の方法では、在庫調達および/または在庫管理に要する費用を最も効果的に削減できるような予備品について在庫数を減少させることが可能となる。また、上記(12)の方法では、在庫数を所定量減らした場合に、在庫切れ時のプラント停止等により発生する金銭的損失の増加幅ができるだけ小さい予備品について在庫数を減少させることが可能となる。
【0036】
また、上記(12)の方法では、在庫数の増減量に対する在庫調達および/または在庫管理に要する費用の変化率を第3変化率とし、在庫数の増減量に対する金銭的損失の変化率を第4変化率とした場合に、以下の工夫を行っている。すなわち、プラント保守に要する費用を予算内に収めることが可能となるように、第3変化率に対する第4変化率の比が最小である予備品の在庫数を減らすようにしている。それにより、上記(12)の方法では、在庫数を所定量減らした場合に、在庫切れ時のプラント停止等により発生する金銭的損失の増加幅ができるだけ小さく、しかも、在庫調達および/または在庫管理に要する費用を最も効果的に削減できるような予備品について在庫数を減少させることが可能となる。
こうして、在庫数条件の修正により、保守制約条件(保守メニューセット候補の実施に必要な保守コストが保守予算内であるという第1条件)を満たす保守メニューセット候補が見つかる可能性を高めることができる。
【0037】
(13)例示的な一実施形態では、上記(11)または(12)の方法において、前記保守制約条件は、前記保守メニューセット候補を実施した場合における前記プラント設備の期待稼働率が目標稼働率以上であるか否かという第2条件を含み、
前記在庫数条件修正ステップでは、
全ての前記保守メニューセット候補について前記第2条件が成立しない場合、前記前回の前記在庫数条件からの前記在庫数の増減量に対する、前記予備品の在庫保有による前記プラント設備の稼働率向上幅の変化率が最大である前記予備品の在庫数を増やす
ことを特徴とする。
【0038】
上記(13)の方法では、上記(9)または(10)の方法に従って生成された全ての保守メニューセット候補について上記第2条件(保守メニューセット候補を実施した場合におけるプラント設備の期待稼働率が目標稼働率以上であること)が成立しないことにより、前回の在庫数条件における1以上の予備品の在庫数を変更する際に、以下の工夫を行っている。すなわち、上記(13)の方法では、在庫数を増減させた際に、当該在庫数の増減量に応じてプラント設備の稼働率向上幅の変化率が最大となる予備品の在庫数を増やすようにしている。従って、上記(13)の方法では、複数種の予備品のいずれか一つ以上について在庫数を増減させる際に、プラント設備の稼働率向上幅の総和が目標値を達成するという条件を満たすために最も効果的な予備品について在庫数を調整することが可能となる。
【0039】
こうして、在庫数条件の修正により、保守制約条件(保守メニューセット候補を実施した場合におけるプラント設備の期待稼働率が目標稼働率以上であるという第2条件)を満たす保守メニューセット候補が見つかる可能性を高めることができる。
【0040】
(14)幾つかの実施形態に係るコンピュータ・システムは、プラント設備の保守計画を策定する保守計画サーバを備え、前記保守計画サーバは、
前記プラント設備の複数種の機器構成部品のそれぞれについて保有される複数種の予備品の各々について
、前記コンピュータ・システムの部品情報データベースから取得される前記予備品の単価を示す第1部品情報を用いて、該予備品
の在庫数に応じて定まる前記予備品の購入費を前記在庫数ごとに算出する購入費決定手段と、
前記複数種の予備品の各々について、
前記コンピュータ・システムの在庫管理コストデータベースから取得される前記予備品の1個あたりの在庫保有コストを示す在庫保有コスト情報を用いて、前記予備品の前記在庫数に応じて定まる前記予備品の在庫管理費を前記在庫数ごとに算出する在庫管理費決定手段と、
前記複数種の予備品の各々について、
前記コンピュータ・システムの部品情報データベースから取得される前記予備品の第2部品情報のうち該予備品の故障率を用いて、前記予備品の在庫切れを起こす確率を示す品切れ率を算出し、前記第2部品情報のうち前記予備品の納期と前記故障率の算出結果とを用いて、前記予備品の品切れによって前記プラント設備の停止又は能力低下に起因した金銭的損失を前記在庫数ごとに算出する損失算出手段と、
前記複数種の予備品の各々について、前記購入費、前記在庫管理費および前記金銭的損失に基づいて、
前記予備品の在庫数の増加に伴い増大する前記購入費及び前記在庫管理費と、前記予備品の在庫数の減少に伴い増加する前記金銭的損失とを考慮した在庫数の暫定解を決定する暫定在庫数決定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0041】
上記(14)の構成では、プラント設備を構成する機器構成部品のうち、故障した機器構成部品と交換すべき予備品が在庫切れを起こした場合のプラント設備の停止又は能力低下に起因した金銭的損失を考慮して、当該予備品の在庫数の暫定解を算出している。同時に、上記(14)の構成では、当該故障した機器構成部品との交換のために在庫として保有すべき当該予備品の購入費用や在庫管理費を考慮して、当該予備品の在庫数の暫定解を算出している。その結果、上記(14)の構成によれば、当該予備品の適正な在庫数を策定することによって、当該予備品の在庫切れによるプラント設備運営主体の金銭的損失および予備品調達に要するプラント保守費用をできるだけ抑制可能なプラント保守計画用のコンピュータ・システムを実現することができる。
【発明の効果】
【0042】
以上より、本発明に係る幾つかの実施形態によれば、予備品の在庫切れによるプラント設備運営主体の金銭的損失および予備品調達に要するプラント保守費用をできるだけ抑制するようなプラント保守計画を策定可能なプラント保守計画方法を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
以下、最初に、幾つかの実施形態に係るプラント設備の保守計画方法を説明するのに先立って、当該保守計画方法の適用対象であるプラント設備の一例について
図1を参照して説明する。続いて、当該保守計画方法の処理内容について
図2乃至
図11を参照して説明する。
【0045】
図1は、本発明の幾つかの実施形態に係る保守計画方法の適用対象であるプラント設備の一例を示す。プラント設備1は、石炭火力発電プラントの簡単な具体例であり、ボイラ2を有する。ボイラ2は、内部に火炉(燃焼室)3が形成される火炉壁4と、火炉壁4の下部に多段に設置されたバーナー5と、火炉3の出口部近傍に設けられ、燃焼用空気を火炉3に供給するエアノズル6と、火炉3の出口に連結された煙道7と、火炉3の上部から煙道7に向かって順に配置された過熱器8、再熱器9およびエコノマイザ10と、火炉5の上部に設けられたドラム11とを備える。なお、火炉壁4は、管軸方向を上下方向に向けた水管が複数並ぶ水冷壁として構成され、蒸気タービン駆動用に過熱される水は当該水冷壁内を通る。
【0046】
プラント設備1はさらに、バーナー5に燃料を供給する燃料供給手段12と、エアノズル6に燃焼用空気を供給する空気供給手段13(空気ダクト13cを経由して風箱13bからバーナー5に給気するための給気ポンプとして働く押込通風機13aおよび給気と排ガスとの間で熱交換を行う熱交換器13dを含む)を備える。プラント設備1はさらに、煙道7からの排ガスを外部に排出するための排ガスライン14(排ガス処理のために排ガスダクト14aに介装された脱硝装置14b、電気集塵機14c、誘引通風機14d、脱硫装置14eおよび煙突14fを含む)を備える。
【0047】
また、図示しない給水ポンプから供給された水が煙道気配置されたエコノマイザ10で燃焼ガスと熱交換して予熱された後に、火炉壁4を通る間にさらに過熱され、水と飽和蒸気とから成る気液二相流となる。この気液二相流は、ドラム11により飽和蒸気と分離された飽和水は火炉壁4に送り返されて再加熱され、当該飽和蒸気は、過熱器8でさらに過熱されて過熱蒸気となり、発電用の蒸気タービンの駆動に使用される。また、蒸気タービンで膨張過程の中途で取り出された蒸気は、再熱器9により再度過熱されて再び蒸気タービンに供給される。
【0048】
以下、
図2乃至
図11を参照して、本発明の幾つかの実施形態に従い、プラント設備1の複数の保守メニュー候補から保守メニュー候補を選択する保守計画方法について説明する。
図1を参照しながら上述したように、プラント設備1は、複数の機器から構成され、以下の説明においては、これら複数の機器、これらの機器を構成する部品およびこれらの機器の検査や補修に必要な部材などを、機器構成部品D1、D2、…、D(j)などと抽象化して表記する。
【0049】
プラント保守計画の候補は、機器構成部品D1〜D(J)の各々についての予備品の在庫量を前提条件として生成されるという点に鑑み、本発明の幾つかの実施形態に係るプラント保守計画方法は、特徴的構成として、当該予備品の在庫を適正化する仕組みを備えている。そこで、本発明の幾つかの実施形態に係るプラント保守計画方法の全体像を説明するのに先立って、まず最初に、当該プラント保守計画方法において上述した在庫適正化を行う仕組みについて
図2〜
図6を参照しながら説明する。
【0050】
図2は、当該プラント保守計画方法において在庫適正化の第1段階として実施される在庫初期条件決定処理の流れを示すフローチャートである。
図2のフローチャートによって示される在庫初期条件決定処理は、在庫要否判定段階、在庫数暫定解算出段階および在庫数修正段階の3段階に分けて実施される。具体的には、
図2のフローチャートにおいて、在庫要否判定段階は、ステップS21〜S25に対応する。また、
図2のフローチャートにおいて、在庫数暫定解算出段階は、ステップS27に対応する。また、
図2のフローチャートにおいて、在庫数修正段階は、ステップS28に対応する。上述した3つの段階の中でも、在庫数暫定解算出段階は、在庫適正化のために重要な役割を果たす。そこで、
図2のフローチャート全体の説明に先立って、
図2に示される一連の処理段階のうち、在庫数暫定解算出段階について
図3を用いて詳しく説明する。
【0051】
図3は、
図2に示す在庫初期条件決定処理の一部として実行される在庫数暫定解算出段階の処理の流れを示すフローチャートである。
図3のフローチャートは、ステップS461から実行を開始し、ステップS461では、プラント設備1の複数種の機器構成部品D(j)(1≦j≦J)のそれぞれについて保有される予備品E(j)(1≦j≦J)の各々について、予備品E(j)(1≦j≦J)の在庫数c(j)(1≦j≦J)に応じて定まる予備品E(j)(1≦j≦J)の購入費O
jc(1≦j≦J)を在庫数ごとに算出する。つまり、ステップS461では、複数種の機器構成部品D(j)(1≦j≦J)のそれぞれについて、予備品E(j)の購入費O
jcが在庫数c(j)(1≦j≦J)に応じて変化する関数として求められる。ここで、E(j)(1≦j≦J)は、機器構成部品D(j)(1≦j≦J)が故障した際などに機器構成部品D(j)(1≦j≦J)と交換される予備品を表し、c(j)(1≦j≦J)は、予備品E(j)(1≦j≦J)の在庫数を表す。また、O
jc(1≦j≦J)は、予備品E(j)(1≦j≦J)の在庫数がc(j)に等しい場合において、c(j)個の予備品E(j)(1≦j≦J)を購入するのに要する購入費用である。
【0052】
例示的な一実施形態では、予備品E(j)(1≦j≦J)の在庫数がc(j)に等しい場合、c(j)個の予備品E(j)(1≦j≦J)を販売元から購入するための購入費用O
jc(1≦j≦J)は、以下の式に従って算出されてもよい。
【数1】
上記式(1)において、予備品E(j)の部品価格とは、予備品E(j)の1個当たりの単価である。この実施形態に係るプラント保守計画方法が、プラント保守計画策定用のコンピュータ・システムにより実行されている場合、予備品E(j)の部品価格と諸費用は、当該コンピュータ・システムが備える部品情報データベース221aから取得することが可能である。
【0053】
続いて、
図3のフローチャートの実行は、ステップS462に進み、ステップS462では、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)の各々について、予備品E(j)(1≦j≦J)の在庫数c(j)に応じて定まる予備品E(j)(1≦j≦J)の在庫管理費Q
jc(1≦j≦J)が在庫数ごとに算出される。つまり、ステップS461では、複数種の機器構成部品D(j)(1≦j≦J)のそれぞれについて、予備品E(j)(1≦j≦J)の在庫管理費Q
jc(1≦j≦J)が在庫数c(j)(1≦j≦J)に応じて変化する関数として求められる。Q
jc(1≦j≦J)は、予備品E(j)(1≦j≦J)の在庫数がc(j)(1≦j≦J)に等しい場合において、c(j)個の予備品E(j)(1≦j≦J)を在庫管理するのに要する在庫管理費用である。
【0054】
例示的な一実施形態では、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)の在庫数がc(j)(1≦j≦J)に等しい場合、c(j)個の予備品E(j)(1≦j≦J)を在庫管理するために要する在庫管理費用Q
jc(1≦j≦J)は、以下の式に従って算出されてもよい。
【数2】
上記式(1)において、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)の在庫保有コスト率とは、予備品E(j)の単価に対する予備品E(j)の1個あたりの在庫管理費用の比率である。この実施形態に係るプラント保守計画方法が、プラント保守計画策定用のコンピュータ・システムにより実行されている場合、予備品E(j)の在庫管理コスト率は、当該コンピュータ・システムが備える在庫管理コスト率データベース223aから取得することが可能である。
【0055】
続いて、
図3のフローチャートの実行は、ステップS463に進み、ステップS463では、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)の各々について、予備品E(j)(1≦j≦J)の品切れによってプラント設備1の停止又は能力低下に起因した金銭的損失P
jc(1≦j≦J)が在庫数ごとに算出される。つまり、ステップS461では、複数種の機器構成部品D(j)(1≦j≦J)のそれぞれについて、予備品E(j)(1≦j≦J)が在庫切れを起こしたことにより生じる金銭的損失P
jcが在庫数c(j)に応じて変化する関数として求められる。
【0056】
例示的な一実施形態では、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)の在庫数がc(j)(1≦j≦J)に等しい場合、c(j)個の予備品E(j)(1≦j≦J)が在庫切れを起こしたことにより生じる金銭的損失P
jc(1≦j≦J)は、以下のように算出されてもよい。まず、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)の各々について、予備品E(j)(1≦j≦J)の品切れに起因したプラント設備1の停止時間又は能力低下時間を在庫数c(j)(1≦j≦J)ごとに算出する。続いて、当該算出したプラント設備1の停止時間又は前記能力低下時間に対して、プラント設備1の停止又は能力低下に起因した単位時間当たりの逸失利益を乗算して、金銭的損失P
jc(1≦j≦J)を在庫数ごとに算出する。
【0057】
より具体的には、まず、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)のそれぞれが在庫切れを起こした際に、プラント設備1が完全に停止してしまう場合には、金銭的損失P
jc(1≦j≦J)は、以下の式に従って算出されてもよい。
【数3】
ここで、T
HT(j)は、予備品E(j)(1≦j≦J)が在庫切れを起こしたことにより生じるプラント設備1の停止時間の長さを表し、T
LT(j)は、予備品E(j)(1≦j≦J)が在庫切れを起こした時点から新品の予備品E(j)(1≦j≦J)が納品されるまでの納期の長さを表す。上記式(3−1)において、売電単価および発電容量は、プラント設備1全体の単位時間当たりの供給電力量に応じた売電価格およびプラント設備1全体の単位時間当たりの発電出力である。
【0058】
また、α
jは、任意の時点において予備品E(j)(1≦j≦J)が在庫切れを起こす確率に相当する品切れ率であり、以下の式で表される。
【数4】
ここで、λ
jは、予備品E(j)(1≦j≦J)の故障率を表し、Jは、機器構成部品の総数を表す。また、
図3のフローチャートに従って予備品E(j)(1≦j≦J)の在庫数を検討する対象となる時点を在庫数検討対象時点とすると、xは、在庫数検討対象時点から時間tが経過するまでに故障する予備品E(j)の個数である。その上で、上記式(4−1)では、xの確率分布はポアソン分布に従うと仮定している。従って、上記式(4−1)において、m
jは、故障率λ
jを有する予備品E(j)(1≦j≦J)の故障関数をポアソン分布曲線で表した際のポアソン分布曲線の形状を規定するポアソン分布パラメータである。また、上記式(4−1)において、P
r(x|m
j)は、x個の予備品E(j)(1≦j≦J)の少なくとも一つ以上が故障を起こしていないことにより、x個の予備品E(j)(1≦j≦J)によって冗長構成されたシステム全体が稼働し続ける確率を表す信頼度関数である。
【0059】
他方、予備品E(j)(1≦j≦J)が在庫切れを起こした際に、プラント設備1の能力は低下するが、低下した能力でプラント設備の稼働を継続することが可能な場合には、金銭的損失P
jc(1≦j≦J)は、以下の式に従って算出されてもよい。
【数5】
上記式(5−1)において、(1−Ld
(j))は、予備品E(j)(1≦j≦J)が在庫切れを起こした際に、プラント設備1の能力が低下する度合いを表し、(1−Ld
(j))≦1となる重み係数である。例えば、予備品E(j)(1≦j≦J)が在庫切れを起こした際に、プラント設備1の発電出力が在庫切れ以前における出力のw%に低下したとすれば、Ld
(j)=w×0.01となり、Ld
(j)は、機器構成部品D(j)の負荷率と呼ばれる。
【0060】
なお、この実施形態に係るプラント保守計画方法が、プラント保守計画策定用のコンピュータ・システムにより実行されている場合、売電単価および発電容量は、当該コンピュータ・システムが備える売電単価/発電容量データベース222aから取得することが可能である。また、予備品E(j)(1≦j≦J)の故障率λ
j、予備品E(j)(1≦j≦J)の納期T
LT(j)、プラント設備1を構成する機器構成部品D(j)(1≦j≦J)の個数Jは、当該コンピュータ・システムが備える部品情報データベース221aから取得することが可能である。
【0061】
続いて、
図3のフローチャートの実行は、ステップS464に進み、ステップS464では、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)の各々について、購入費O
jc(1≦j≦J)、在庫管理費Q
jc(1≦j≦J)および金銭的損失P
jc(1≦j≦J)に基づいて、在庫数c(j)の暫定解が決定される。例示的な一実施形態では、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)の各々について在庫数c(j)の暫定解を以下のように決定しても良い。まず、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)の各々について、在庫数c(j)を増減させた場合に、購入費O
jc、在庫管理費Q
jcおよび金銭的損失P
jcを合計した合計額がどのように変化するかを在庫数c(j)の関数として求める。続いて、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)の各々について、在庫数c(j)を増減させた場合に、上記合計額が最小となるような在庫数c
opt(j)(1≦j≦J)の暫定解を求める。
【0062】
在庫数c(j)(1≦j≦J)を増減させた場合に、購入費O
jc(1≦j≦J)、在庫管理費Q
jc(1≦j≦J)および金銭的損失P
jc(1≦j≦J)を合計した合計額がどのように変化するかを表す変動曲線の一例を
図4に示す。
図4の曲線グラフを参照すると、予備品E(ja)を在庫として保有する個数c(ja)が17個のときに、購入費O
jac、在庫管理費Q
jacおよび金銭的損失P
jacを合計した合計額が最小となることが分かる。また、予備品E(ja)を在庫として保有する個数c(ja)が17個未満である場合には、在庫数c(ja)の減少に伴い、予備品E(ja)が在庫切れを起こす可能性が高まり、その分、金銭的損失P
jacが急激に増大するので、上記合計額も最小値から急速に増大する。一方、予備品E(ja)を在庫として保有する個数c(ja)が18個以上である場合には、在庫数c(ja)の増加に伴い、予備品E(ja)の余剰在庫量に応じて購入費O
jacおよび在庫管理費Q
jacが緩慢に増大するので、上記合計額も緩慢に増大する。従って、この場合には、予備品E(ja)について保有すべき在庫数c
opt(ja)の暫定解を17個と決定することができる。
【0063】
以上より、
図3に示す実施形態では、プラント設備1の複数種の機器構成部品D(j)(1≦j≦J)のうち、故障した機器構成部品D(jd)と交換すべき予備品E(jd)が在庫切れを起こした場合のプラント設備1の停止又は能力低下に起因した金銭的損失P
jdcを考慮して、予備品E(jd)の在庫数c(jd)の暫定解を算出している。同時に、
図3に示す実施形態では、当該故障した機器構成部品D(jd)との交換のために在庫として保有すべき予備品E(j)の購入費O
jdcや在庫管理費Q
jdcを考慮して、予備品E(jd)の在庫数c(jd)の暫定解を算出している。その結果、
図3に示す実施形態によれば、予備品E(jd)の適正な在庫数を策定することによって、予備品E(jd)の在庫切れによるプラント設備1の運営主体の金銭的損失および予備品調達に要するプラント保守費用をできるだけ抑制可能なプラント保守計画方法を実現することができる。
【0064】
また、
図3に示す実施形態では、金銭的損失P
jcを上記式(4−1)または(5−1)に従って評価することにより、以下の技術的利点が得られる。すなわち、そのような実施形態では、プラント設備1が停止または能力低下の状態にある期間の長さと当該期間内における単位時間当たりの逸失利益の増減をさらに考慮して金銭的損失P
jcを評価している。従って、この実施形態によれば、上述した停止時間又は能力低下時間に加えて単位時間当たりの逸失利益の増減をさらに考慮して、在庫数ごとに金銭的損失P
jcを高精度に評価することができる。このため、この実施形態では、
図3のフローチャートに示す手順に従い、予備品E(j)の在庫切れに起因したプラント設備1の停止又は能力低下に起因した金銭的損失P
jc、予備品E(j)の在庫数c(j)に応じた購入費O
jc及び在庫管理費Q
jcを考慮して、各々の予備品E(j)(1≦j≦J)の在庫数c(j)の暫定解を適切に算出することができる。
【0065】
次に、
図2のフローチャートに従って、
図3に示す在庫数暫定解算出段階を含む在庫初期条件決定処理全体の流れを説明する。
【0066】
図2のフローチャートの実行はステップS21から開始し、機器構成部品D(j)(1≦j≦J)の中から未選択の機器構成部品D(js)を選択する。続いて、
図2のフローチャートの実行はステップS22に進み、ステップS22では、機器構成部品D(js)が定期交換品であるか否かが判定され、定期交換品であれば、処理はステップS23に進み、定期交換品でなければ、処理はステップS24に進む。ステップS23では、機器構成部品D(js)について、在庫数の適正化処理の対象となる時点である在庫保有検討基準時点(
図5のT
1)から次回定期交換時点(
図5のT
2)までの期間(
図5のΔT)が、定期交換部品の納期に応じて定まる準備期間(リードタイム)より長いか否かが判定される。次回定期交換時点までの期間ΔT(
図5)が準備期間(リードタイム)より短い場合には、処理はステップS30に進み、そうでなければ、処理はステップS24に進む。ステップS30では、当該定期交換部品の在庫数を、定期交換作業に必要な定期交換部品の数以上に決定する。
【0067】
複数種の機器構成部品の中でも定期交換部品D(js)に関しては、対応する予備品の在庫数をどの程度保有すべきかを検討している時点(在庫保有検討基準時点(
図5のT
1))から次回の定期交換時点(
図5のT
2)までの期間が予め分かっている。在庫保有検討基準時点において、当該定期交換品にための予備品の納期に応じて定まる準備期間と比べて、次回の定期交換時期までに充分な時間的余裕がある場合には、定期交換部品を在庫保有検討基準時点において保有しなければならないわけではない。一方、在庫保有検討基準時点において、当該定期交換品D(js)のための予備品E(js)の納期に応じて定まる準備期間と比べて、次回の定期交換時期までに充分な時間的余裕がない場合、在庫保有検討基準時点(
図5のT
1)において定期交換部品D(js)の在庫を保有しておく必要がある。
【0068】
この点、ステップS21〜ステップS23によれば、在庫保有検討基準時点(
図5のT
1)から次回定期交換時点(
図5のT
2)までの期間ΔT(
図5)が準備期間よりも短い場合には、在庫数の暫定解によらず、定期交換作業に必用な定期交換部品の数量以上に在庫数を設定することで、定期交換作業を滞りなく実施することができる。これに対し、在庫保有検討基準時点(
図5のT
1)から次回定期交換時点(
図5のT
2)までの期間ΔT(
図5)が準備期間と同一又は準備期間よりも長い場合、在庫数の暫定解を決定するようにしたので、購入費O
jsc、在庫管理費Q
jsc及び金銭的損失P
jscに基づいて、定期交換部品の在庫数を適切に決定できる。すなわち、
図2のフローチャートのステップS21、S22およびS23においては、機器構成部品D(j)(1≦j≦J)のうち定期交換部品D(js)に関して、在庫保有検討基準時点から次回定期交換時点までの期間ΔT(
図5)が、定期交換部品D(js)の納期に応じて定まる準備期間より短い場合、定期交換部品D(js)に対応する予備品E(js)の在庫数c(j)
sを、定期交換作業に必要な定期交換部品の数以上に決定し、当該期間ΔT(
図5)が当該準備期間と同一又は当該準備期間よりも短い場合には、定期交換部品D(js)に対応する予備品E(js)の在庫数c(js)をステップS27〜S28の処理フローに従って算出する。
【0069】
図2のフローチャートのステップS24では、選択中の機器構成部品D(js)について在庫推奨度が算出される。機器構成部品D(js)についての在庫推奨度とは、機器構成部品D(js)の在庫の必要度合いを評価して得られる評価指標である。なお、在庫推奨度は、ゼロ以上となる実数であり、機器構成部品D(js)について、在庫推奨度がゼロである場合には、在庫が不要であることが示唆され、当該在庫推奨度がゼロより大きくなるほど在庫の必要性が高いことが示唆される。例示的な一実施形態では、機器構成部品D(js)についての在庫推奨度は、機器構成部品D(js)が故障した際のプラント設備1の能力低下の度合いと、機器構成部品D(js)の故障率と、機器構成部品D(js)のための予備品E(js)の納期と、に基づいて求めしてもよい。
【0070】
例示的な一実施形態では、機器構成部品D(j)についての在庫推奨度SR
jは、以下の式に従って算出されても良い。
【数6】
ここで、λ
jは、予備品E(j)(1≦j≦J)の故障率を表し、T
LT(j)は、予備品E(j)(1≦j≦J)が在庫切れを起こした時点から新品の予備品E(j)(1≦j≦J)が納品されるまでの納期の長さを表す。また、(1−Ld
(j))は、予備品E(j)(1≦j≦J)が在庫切れを起こした際に、プラント設備1の能力が低下する度合いを表し、(1−Ld
(j))<1となる重み係数である。例えば、予備品E(j)(1≦j≦J)が在庫切れを起こした際に、プラント設備1の発電出力が在庫切れ以前における出力のw%に低下したとすれば、Ld
(j)=w×0.01となり、Ld
(j)は、機器構成部品D(j)の負荷率と呼ばれる。
【0071】
続いて、
図2のフローチャートの実行はステップS25に進み、ステップS25では、選択中の機器構成部品D(js)について算出された在庫推奨度がゼロより大きいか否かが判定される。当該在庫推奨度がゼロより大きければ、処理はステップS26に進み、当該在庫推奨度がゼロに等しければ、処理はステップS29に進み、選択中の機器構成部品D(js)について予備品E(js)の在庫数をゼロと決定し(在庫不要と判断し)、続いて、処理はステップS21に戻る。
【0072】
以上より、ステップS24を実行することにより、選択中の機器構成部品D(js)について、機器構成部品D(js)が故障した際のプラント設備1の能力低下の度合いと、機器構成部品D(js)の故障率と、機器構成部品D(js)のための予備品E(js)の納期と、に基づいて、機器構成部品D(js)の在庫の要否が判定される。加えて、ステップS25を実行することにより、在庫が不要と判定された機器構成部品D(js)のための予備品E(js)について在庫数c(j)
sがゼロと決定される。
【0073】
従って、この実施形態では、複数種の機器構成部品D(j)(1≦j≦J)のうち1以上の部品の各々について、該部品が故障した際のプラント設備1の能力低下の度合いと、該部品の故障率と、該部品のための予備品E(j)(1≦j≦J)の納期と、に基づいて、該部品の各々の在庫の要否を判定している。従って、この実施形態によれば、故障したとしても、例えば、プラント稼働状況への影響を小さいことができる部品、短期間で調達可能な部品または信頼性が高い部品D(jx)については、予備品E(jx)の在庫を不要と判断することが可能である。その結果、この実施形態では、当該不要と判断した予備品E(jx)を在庫として保有しない分だけ、プラント保守に要する費用を節約することが可能となる。
【0074】
続いて、
図2のフローチャートの実行はステップS26に進み、ステップS26では、全ての機器構成部品D(j)(1≦j≦J)が選択済みであるか否かが判定され、全ての機器構成部品D(j)(1≦j≦J)が選択済みであれば、処理はステップS27に進み、そうでなければ、処理はステップS21に戻る。
図2のフローチャートの実行がステップS27に進んだ時点で、全ての機器構成部品D(j)(1≦j≦J)について、在庫の要否が判定され、在庫不要とされた機器構成部品D(j)(j=j
1,…,j
k)については在庫数c(j)の暫定解がゼロに設定されている。続いて、ステップS27では、
図3に示すフローチャートに従って、在庫が必要と判定された全ての機器構成部品D(j)(j≠j
1,…,j
k)について在庫数c(j)の暫定解を算出する。
【0075】
ステップS28においては、下記(a)又は(b)の少なくとも一方の条件が満たされる場合、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)の少なくとも一つについて
図3のフローチャートに従って算出された暫定解の在庫数c(j)(1≦j≦J)を修正する在庫数修正処理が行われる。(a)複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)の各々を暫定解の在庫数c(j)(1≦j≦J)だけ保有することによるプラント設備1の稼働率向上幅の総和がプラント設備1の稼働率目標向上量未満である。(b)複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)のそれぞれについての購入費O
jc及び在庫管理費Q
jcの合計費の総和が在庫関連予算を超える。
【0076】
例示的な一実施形態では、下記(a)又は(b)の少なくとも一方の条件が満たされる場合、暫定解の在庫数c(j)(1≦j≦J)を修正するための在庫数修正処理は、以下のように実行される。すなわち、少なくとも、暫定解からの在庫数c(j)(1≦j≦J)の増減量Δc(j)(1≦j≦J)に対する稼働率向上幅の変化率が最大である予備品E(j)”の在庫数c(j)”を増やすことによって、暫定解の在庫数c(j)(1≦j≦J)を修正する。
【0077】
この実施形態では、プラント設備1の稼働率向上幅の総和を目標値以上とすることが可能となるように、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)の各々について暫定解として決定した在庫数c(j)(1≦j≦J)を修正する際に、以下のようにしている。すなわち、この実施形態では、当該暫定解から在庫数c(j)(1≦j≦J)を増減させた際に、当該在庫数c(j)(1≦j≦J)の増減量Δc(j)(1≦j≦J)に応じてプラント設備1の稼働率向上幅の変化率が最大となる予備品E(jm)の在庫数を増やすようにしている。従って、この実施形態では、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)のいずれか一つ以上について在庫数c(j)(1≦j≦J)を暫定解から増減させる際に、プラント設備1の稼働率向上幅の総和が目標値を達成するという条件を満たすために最も効果的な予備品E(jm)について在庫数c(jm)を修正することが可能となる。
【0078】
また、別の例示的な一実施形態では、下記(a)又は(b)の少なくとも一方の条件が満たされる場合、暫定解の在庫数c(j)(1≦j≦J)を修正するための在庫数修正処理は、以下のように実行される。すなわち、少なくとも、暫定解からの在庫数c(j)(1≦j≦J)の増減量Δc(j)(1≦j≦J)に対する購入費O
jc、在庫管理費Q
jc又はこれらの合計費の第1変化率が最大になる予備品E(jq)の在庫数c(jq)、暫定解からの在庫数c(j)(1≦j≦J)の増減量Δc(j)(1≦j≦J)に対する金銭的損失P
jcの第2変化率が最小である予備品E(jp)の在庫数c(jp)、または、上記第1変化率に対する上記第2変化率の比が最小である予備品E(jr)の在庫数c(jr)を減らすようにしている。
【0079】
この実施形態では、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)についての在庫調達および/または在庫管理に要する費用を予算内に収めることが可能となるように、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)の各々について暫定解として決定した在庫数c(j)(1≦j≦J)を修正する際に、以下のようにしている。すなわち、在庫調達および/または在庫管理に要する費用を最も効果的に削減できるような予備品E(js)について在庫数c(js)を調整することが可能となる。また、この実施形態では、プラント保守に要する費用を予算内に収めることが可能となるように、複数種の予備品の各々について暫定解として決定した在庫数を修正する際に、以下のようにしている。すなわち、在庫数c(j)(1≦j≦J)を所定量減らした場合に、在庫切れ時のプラント停止等により発生する金銭的損失P
jc(1≦j≦J)の増加幅ができるだけ小さい予備品E(jt)について在庫数c(jt)を調整することが可能となる。また、この実施形態では、在庫数c(j)(1≦j≦J)を所定量減らした場合に、在庫切れ時のプラント停止等により発生する金銭的損失P
jc(1≦j≦J)の増加幅ができるだけ小さく、しかも、在庫調達および/または在庫管理に要する費用を最も効果的に削減できるような予備品E(ju)について在庫数c(ju)を調整することが可能となる。
【0080】
以上より、ステップS28において在庫数修正処理を実行することにより、上記(a)又は(b)の少なくとも一方の条件が満たされる場合、故障した機器構成部品D(jd)と交換すべき複数種の予備品の少なくとも一つE(jd)について、
図3のフローチャートに従って暫定解として決定した在庫数c(jd)を修正する処理を実行するようにしている。具体的には、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)の各々について
図3のフローチャートに従って暫定解として決定した在庫数c(j)(1≦j≦J)を保有した場合に、プラント設備1の稼働率向上幅の総和が目標値未満であるならば、当該稼働率向上幅が目標値以上となるように当該暫定解の在庫数c(j)(1≦j≦J)を修正するようにしている。また、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)の各々について
図3のフローチャートに従って暫定解として決定した在庫数c(j)(1≦j≦J)を保有した場合に、在庫調達および在庫管理のための費用が予算を超える場合には、当該費用が予算内に収まるように、当該暫定解の在庫数c(j)(1≦j≦J)を修正するようにしている。
【0081】
その結果、ステップS28において在庫数修正処理を実行することにより、プラント設備1の稼働率向上幅の総和が目標値を達成することが可能となるように、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)の各々について暫定解として決定した在庫数c(j)を修正することができる。また、この実施形態によれば、在庫調達および在庫管理のための費用が予算内に収まるように、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)の各々について暫定解として決定した在庫数c(j)(1≦j≦J)を修正することができる。
【0082】
次に、
図2のフローチャートによって示される在庫適正化処理を
図6A〜
図6Cに示す数値例を使用して実行した場合の例示的シナリオについて説明する。
図6Aの表は、6種類の予備品E(1)〜E(6)について在庫数c(1)〜c(6)をc=0個からc=10個まで増減させた場合に、予備品E(1)〜E(6)の各々がそれぞれ在庫切れを起こすことによって発生すると予想されるプラント停止時間の長さを表す。
図6Bの表は、6種類の予備品E(1)〜E(6)について在庫数c(1)〜c(6)をc=0個からc=10個まで増減させた場合に、購入費O
jcおよび在庫管理費Q
jcを合計した額がどのように変化するかを示している。
図6Cの表は、6種類の予備品E(1)〜E(6)について在庫数c(1)〜c(6)をc=0個からc=10個まで増減させた場合に、金銭的損失P
jcの額がどのように変化するかを示している。
【0083】
図6A〜
図6Cに示す数値例を実行条件として
図2のステップS27に相当する
図3のフローチャート全体の処理を実行した場合、複数種の予備品E(1)〜E(6)の各々について好適な在庫数c(1)〜c(6)の暫定解として、c(1)=8個、c(2)=7個、c(3)=4個、c(4)=3個、c(5)=4個およびc(6)=5個となった。このように得られた暫定解を、
図6A〜
図6Cの表中の予備品E(1)〜E(6)の各々について該当する行の位置を四角い丸で囲むことによって表す。
図6Aから、
図3のフローチャートに従って暫定解として得られた在庫数c(1)〜c(6)に相当する在庫を保有することにより、予備品E(1)〜E(6)のいずれか一つ以上が在庫切れを起こすことによるプラント設備1の停止が起こる可能性はゼロであることが分かる。
【0084】
続いて、
図2のステップS28において在庫数修正処理が実行され、
図3のフローチャートに従って暫定解として得られた在庫数c(1)〜c(6)が修正されるシナリオについて検討する。まず、
図2のステップS28により暫定解を修正するための第1シナリオとして、暫定解からの在庫数c(j)(1≦j≦J)の増減量Δc(j)(1≦j≦J)に対する購入費O
jcおよび在庫管理費Q
jcの合計費の変化率が最大になる予備品E(jq)の在庫数c(jq)を減らす場合を考える。この場合、
図6Bの数値表において、在庫数c(j)を
図2のステップS27で求めた暫定解から一つ減らしたときに購入費O
jcおよび在庫管理費Q
jcの合計費が最も大きく減るのは、E(4)である。具体的には、c(4)を暫定解である3個から2個に減らすと、購入費O
jcおよび在庫管理費Q
jcの合計費が119万3千円だけ減少する。しかし、
図6Aの数値表から明らかなように、c(4)を暫定解である3個から2個に減らすと、プラント停止時間が0時間から2時間へと増加する。従って、この第1シナリオの場合には、購入費O
jcおよび在庫管理費Q
jcの減少幅を基準として在庫を減らす予備品を選定すべきではないことが分かる。
【0085】
続いて、
図2のステップS28により暫定解を修正するための第2シナリオとして、暫定解からの在庫数c(j)(1≦j≦J)の増減量に対する金銭的損失P
jcの変化率が最小である予備品E(jp)の在庫数c(jp)を減らす場合を考える。この場合、
図6Cの数値表において、在庫数c(j)を
図2のステップS27で求めた暫定解から一つ減らしたときに金銭的損失P
jcが最も小さく減るのは、E(6)である。具体的には、c(6)を暫定解である5個から4個に減らすと、金銭的損失P
jcが29万7千円だけ増加する。しかも、
図6Aの数値表から明らかなように、c(6)を暫定解である5個から4個に減らしても、プラント停止時間は0のままである。従って、この第2シナリオの場合には、金銭的損失P
jcの減少幅を基準として在庫を減らす予備品を選定するのは合理的であることが分かる。
【0086】
次に、本発明の幾つかの実施形態に係るプラント保守計画方法の全体像について、
図7〜
図10を参照しながら説明する。本発明の幾つかの実施形態に係るプラント設備1の保守計画方法では、まず最初に、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)のそれぞれの在庫数c(j)の組み合わせである在庫数条件を設定する在庫数条件設定ステップが実行される。例示的な一実施形態では、在庫数条件設定ステップにおいては、
図2に示したフローチャートに従って複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)のそれぞれの在庫数c(j)を求めてもよい。その上で、この実施形態では、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)のそれぞれの在庫数c(j)の組み合わせを在庫数条件として設定するようにしても良い。続いて、上記保守計画方法では、当該在庫数条件に基づいて、プラント設備1の複数の保守メニュー候補m
k(1≦k≦K)(
図7を参照)を決定する保守メニュー候補生成ステップが実行される。
【0087】
図7は、当該保守計画方法によって選択される保守メニューセットの一例を示す。
図7に示す保守メニューセットMは、一つ以上の保守メニュー候補m
kから成る一つ以上の組み合わせである。
図7において、保守メニューセットMに含まれるオプションの保守メニュー候補は、保守メニュー候補m
1、m
2、m
3、m
4、m
5である。本実施形態に関する以下の説明においては、標準保守メニューm
0は、プラント設備1の保守のために最低限実施しなくてはならない保守メニューであると仮定して説明を行う。また、標準保守メニューm
0を除く複数の保守メニュー候補m
1〜m
Kは、プラント設備1の信頼性向上のために、標準保守メニューm
0に追加する形で任意選択的に実施されるオプションの保守メニューであると仮定して説明を行う。複数の(K個の)保守メニュー候補m
1〜m
Kの各々によって、構成機器D1、D2、…、D(J)の中のいずれの機器についてどのような種別の保守作業項目がいずれの時期に実施されるかが示される。
【0088】
なお、本実施形態においては、プラント消却時点までのプラント稼働時間全体は、複数の期間(例えば、第1期間〜第n期間)に分割される。すなわち、プラント設備の消却時期までのn年間の稼働期間全体は、1年毎の短期保守期間τ
i(1≦i≦n)に分割され、プラント設備の稼働率やプラント稼働により得られる収益は短期保守期間毎に評価される。しかし、本実施形態においては、上記稼働期間全体は、3ヶ月毎や半年毎などの他の長さの短期保守期間または不均一な長さの短期保守期間に分割されても良い。
【0089】
続いて、上記保守計画方法では、複数の保守メニュー候補m
k(1≦k≦K)の実施の有無に応じてプラント設備1の稼働率の変化ΔA
kを算出する稼働率変化算出ステップが実行される。続いて、上記保守計画方法では、稼働率の変化ΔA
kに基づいて、各々の保守メニュー候補m
k(1≦k≦K)の実施の有無による、プラント設備1の稼働により得られる収益の変化ΔPc
kを算出する収益変化算出ステップが実行される。続いて、上記保守計画方法では、保守メニュー候補m
k(1≦k≦K)の複数通りの組み合わせのうち、少なくとも一つの制約条件を満たす組み合わせの中から、収益の変化ΔPc
kに基づいて少なくとも一つの組み合わせ(保守メニューセット)Mを選択する選択ステップが実行される。
【0090】
以上より、上記保守計画方法では、保守費用やプラント停止により生じる被害コストを抑制するだけでなく、期待されるプラント稼働率の改善見込みに基づいてプラント設備1の稼働によって得られると期待される収益を評価した結果を考慮して保守メニューm
k(1≦k≦K)の適切な組み合わせ(保守メニューセット)Mを合理的に決定することができる。その結果、上記保守計画方法では、プラント稼働率の向上から得られる収益の向上が十分に期待されるような保守メニューの組み合わせを合理的に決定することができる。これにより、上記保守計画方法では、個々の保守メニュー候補m
k(1≦k≦K)を実施した場合における顧客収益の改善効果に応じて、保守メニュー候補の組み合わせ(保守メニューセット)M’を適切に選択することができる。
【0091】
例示的な一実施形態においては、
図1〜
図6を参照して上述したプラント設備1の保守計画方法は、
図8〜
図10に示すコンピュータ・システム20を使用して実施してもよい。
図4において、コンピュータ・システム20は、保守計画サーバ100a、RAM分析装置210、見積もりシステム220および利用者端末230がローカルエリア・ネットワーク240を介して通信可能に相互接続されたシステムとして構成されてもよい。RAM分析装置210および見積もりシステム220は、自身が管理するデータを格納するために、データベース210aおよび220aをそれぞれ備えていてもよい。
【0092】
利用者端末230は、保守計画サーバ100a、RAM分析装置210および見積もりシステム220に対して利用者が情報やコマンドを入力する入力手段として使用される。また、利用者端末230は、保守計画サーバ100a、RAM分析装置210および見積もりシステム220からの出力情報を画面表示する出力手段としても使用される。
【0093】
RAM分析装置210は、一つ以上の保守メニュー候補mk(0≦k≦K)の組み合わせが外部から入力されると、プラント設備1を構成する構成機器D1〜D(J)の機器故障率および構成機器D1〜D(J)間における故障の繋がりに基づいてプラント全体の期待稼働率を算出する。
図6に示すとおり、RAM分析装置210が備えるデータベース210aには、所与の保守メニューの組み合わせに応じてRAM分析によりプラント全体の期待稼働率を算出するために必要な情報が格納されている。例えば、RAM分析装置210が備えるデータベース210aは、
図2に示すような各構成機器D(j)(1≦j≦J)についての故障率曲線を表すデータ、故障率重みづけ係数などを格納する。また、データベース210aは、プラント設備1内における信頼性ブロック図などを格納する。
【0094】
見積もりシステム220は、複数の保守メニュー候補mk(0≦k≦K)の各々について、保守コスト(予防保守費用を含む)の見積もり結果を保守計画サーバ100および利用者端末230に出力する。また、見積もりシステム220は、プラント設備1の保守に関し、保守メニュー候補毎の保守コストを見積もるための情報をデータベース220a内に管理している。データベース220a内で管理されている当該情報は、各構成機器D(j)(1≦j≦J)に対して行われる点検、補修および予防保守の種類とこれらに要する費用、必要工具、必要工数、必要部品、必要部品の所要個数および必要部品の在庫量に関する情報および各種の補修項目や予防保守項目を実施した際の各構成機器D(j)の故障率低減量を含む(
図6参照)。
【0095】
見積もりシステム220上にて、機器担当者は、機器別の(各構成機器D1〜D(J)のそれぞれについての)保守メニュー候補のコスト見積もりを行うようにしてもよい。当該見積もり結果は、点検項目、補修項目および予防保守項目の種類、数量、効果(構成機器毎の故障率低減量やMTTR低減量)等を含む詳細な見積もりを含んでいてもよい。見積もりシステム220は、利用者端末230の画面上に情報入力用の入力フォームを表示し、当該入力フォームは、プラント設備1の様々な長期保守プロジェクトに関する見積年数やプラント系統数などに応じて編集可能であってもよい。また、当該入力フォームは、入力ミスや入力漏れをチェックする機能を有することにより人的エラーを防止することができるように実装されても良い。
【0096】
当該入力フォームには、保守メニュー候補m
k(0≦k≦K)の各々の実施に要する保守コストの見積もり結果を見積もりシステム220が生成するために必要な情報が入力される。また、当該入力フォームには、
図8においてデータベース220aに格納される情報を新規作成したり更新したりするための情報が入力される。各機器担当者が当該入力フォームから入力した情報に基づいて見積もりシステム220が算出した上記見積もり結果は、事前に指定された承認ルートを通って最終承認された後に、プロジェクト管理者へ通知されてもよい。見積もりシステム220は、各機器担当者が入力した情報から、保守メニュー候補m
k(0≦k≦K)の各々を実施するために必要な予備品や交換品等を含むパーツリストを自動的に生成するようにしてもよい。また、見積もりシステム220は、各機器担当者が機器別に(構成機器D1〜D(J)の各々について)入力した情報から得られた保守メニュー候補別の保守コストの見積もり結果を自動的に集約し、保守メニュー候補m
k(0≦k≦K)を実施した場合のプラント全体の保守費用を算出する。
【0097】
保守計画サーバ100は、利用者端末230を介した利用者からの要求に応じて、見積もりシステム220から複数の保守メニュー候補m
k(0≦k≦K)と保守メニュー候補毎の予防保守費用PMCの見積もり結果を受け取る。続いて、保守計画サーバ100は、
図1〜
図3を使用して上述した手順に従い、適切な保守メニューセットM’を選択して利用者端末230に出力する。
【0098】
以下、
図9を参照しながら、保守計画サーバ100の詳細な内部構成について説明する。保守計画サーバ100は、CPU 110、主記憶120およびインターフェース130により構成される。CPU 110は、
図1〜
図3を参照して上述した保守計画方法を実行するために、主記憶120上に記憶されたコンピュータ・プログラムを読み出して実行する。インターフェース130は、CPU 110、主記憶120およびローカルエリア・ネットワーク240の間でデータや制御信号をやり取りするための通信経路を提供する。上記コンピュータ・プログラムを構成する複数のプログラム・モジュールまたは関数は、主記憶120からCPU 110によって読み出され、機能モジュール111〜119として実行されてもよい。以下、
図10を参照しながら、上述した機能モジュール111〜119によって上述した保守計画方法が実行される際の動作の流れを説明する。なお、入出力部111は、上述した機能モジュール112〜119が、主記憶120、データベース210および制御用コンソール220との間でデータや制御指令などをやり取りするための機能モジュールとして機能する。
【0099】
まず、
図10のフローチャートはステップS00から開始し、複数の保守メニュー候補m
k(0≦k≦K)が生成される。具体的には、まず、
図2に示したフローチャートに従って複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)のそれぞれの在庫数c(j)を以下のようにして求めてもよい。例えば、
図9に示す入出力部111は、不要在庫判定手段112を呼び出して、機器構成部品D(j)(1≦j≦J)、予備品E(j)(1≦j≦J)に関する情報及びこれらと関連するその他の情報を渡す。続いて、不要在庫判定手段112は、
図2のステップS21〜ステップS26を実行し、複数種の機器構成部品D(j)(1≦j≦J)の各々について在庫の要否を判定し、在庫不要と判定された機器構成部品D(j)(j=j1,…,jk)の在庫数c(j)をゼロとする。その際、不要在庫判定手段112は、在庫推奨度算出手段119から複数種の機器構成部品D(j)(1≦j≦J)の各々について算出された在庫推奨度の値SR
jを受け取ることによって機器構成部品D(j)(1≦j≦J)の各々について在庫の要否を判定する。続いて、暫定在庫数決定手段113は、
図2のステップS27を実行し、機器構成部品D(j)(j≠j1,…,jk)の各々について在庫数c(j)の暫定解を算出する。続いて、在庫数初期条件決定手段114は、
図2のステップS28を実行し、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)の各々について暫定解として得られた在庫数c(j)(1≦j≦J)を修正し、所定の制約条件を満たすc(j)(1≦j≦J)の組み合わせを得る。
【0100】
続いて、
図10のフローチャートの実行はステップS11に進み、
図9の保守メニュー候補生成手段115は、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)のそれぞれについて算出された在庫数c(j)の組み合わせを在庫数条件として設定する。続いて、当該在庫数条件に基づいて、プラント設備1の複数の保守メニュー候補m
k(1≦k≦K)を決定する。その際、保守メニュー候補生成手段115は、RAM分析装置210および見積もりシステム220と通信しながら、
図8においてデータベース210aおよび220aに格納されている情報に基づいて複数の保守メニュー候補m
k(0≦k≦K)を生成する。
【0101】
保守メニュー候補生成手段115がデータベース220aおよび220b内に格納されている情報を使用して複数の保守メニュー候補m
k(0≦k≦K)を生成すると、処理はステップS01に進み、標準保守メニューm
0の評価が行われる。具体的には、ステップS01では、標準保守メニューm
0に含まれるべき保守作業項目とその実施対象機器および実施時期を決定する。当該決定は、保守メニューセット候補選定手段116が、実施すべき保守作業項目、実施対象機器、実施時期を様々に変えながらプラント設備1の基準稼働率A
bを算出する試行錯誤を繰り返し、基準稼働率A
bが適切な値となった時点で終了するようにしても良い。続いて、ステップS02において、プラント保守作業に要する費用が運用予算内に収まるという制約条件が課せられるか否かが判断され、当該制約条件が課されていれば処理はステップS05に進み、課されていなければ処理はステップS03に進む。
【0102】
ステップS03では、標準保守メニューm
0に追加して実施されても良い複数の任意付加的な保守メニュー候補m
1〜m
Kの各々について評価を行う。具体的には、ステップS03では、以下の2段階の処理が行われる。第1段階の処理として、保守メニューセット候補選定手段116は、標準保守メニューm
0に追加する形で各保守メニュー候補m
k(1≦k≦K)の各々を実施する場合におけるプラント設備1の稼働率変化指標ΔA
k(i)(1≦k≦K,1≦i≦n)を算出する。続いて、第2段階の処理として、保守メニューセット候補選定手段116は、基準稼働率A
bおよび稼働率変化指標ΔA
k(i)(1≦k≦K,1≦i≦n)に基づいて、各々の保守メニュー候補m
k(1≦k≦K)を実施した場合においてプラント設備1の稼働により得られる第1収益の変化Pc
k(1≦k≦K)を算出する。
【0103】
続いて、ステップS03の実行が終わると、処理はステップS04に進む。ステップS04では、各々の保守メニュー候補m
k(1≦k≦K)について算出された第1収益の変化Pc
kに基づいて、一つ以上の保守メニュー候補m
kから成る一つ以上の組み合わせ(保守メニューセット)M’を選択する。具体的には、ステップS04では、保守メニューセット候補選定手段116が、以下の3段階の処理を行う。まず、第1段階の処理として、ステップS04Aが実行される。ステップS04Aでは、複数の保守メニューセットM
h(1≦h≦H)の中から、プラント期待稼働率Aが目標稼働率A
gを上回るという制約条件を満たす保守メニューセットM
λ1〜M
λsが選定される。また、ステップS04Aでは、保守メニューセットM
λ1〜M
λsがそれぞれ実施された際にプラント稼働により得られる収益Pc
(h)を、第1収益の変化Pc
k(1≦k≦K)に基づいて算出する。例示的な一実施形態では、保守メニューセットM
hに含まれる各保守メニュー候補をm
k(k=ε1,ε2,…,εq)とすると、m
k(k=ε1,ε2,…,εq)の全てについて対応する第1収益の変化Pc
kを合計することによって収益Pc
(h)が得られる。
【0104】
続いて、第2段階の処理として、ステップS04Bが実行されても良い。ステップS04Bは、保守メニューセットM
λ1〜M
λsが実施された際にプラント稼働により得られる収益がより適切に評価されるように当該収益を再計算するための任意付加的な処理であるので、このステップの実行は省略されても良い。なお、保守メニューセットM
λ1〜M
λsが実施された場合における当該再計算された収益は、保守メニューセットM
λ1〜M
λsについての第2収益と呼ばれる。続いて、第3段階の処理として、任意付加的な処理であるステップS04Cが実行されても良い。ステップS04Cでは、保守メニューセットM
λ1〜M
λsのそれぞれについて評価した第2収益に基づいて、保守メニューセットM
λ1〜M
λsの中から一つ以上の好適な保守メニューセットM
σ1〜M
σsを選定しても良い。
【0105】
ステップS02において、プラント保守作業に要する費用が運用予算内に収まるという制約条件が課されていると判定されると、処理はステップS05に進む。ステップS05では、標準保守メニューm
0に追加して実施されても良い複数の任意付加的な保守メニュー候補m
1〜m
Kの各々について評価を行う。具体的には、ステップS05では、以下の3段階の処理が行われる。第1段階と第2段階の処理は、S03における第1段階と第2段階の処理と同様である。第3段階の処理では、各々の保守メニュー候補m
k(1≦k≦K)を実施した場合の費用対効果を各々の保守メニュー候補m
k(1≦k≦K)について評価する。
【0106】
続いて、ステップS05の実行が終わると、処理はステップS06に進む。ステップS06では、各々の保守メニュー候補m
k(1≦k≦K)について算出された第1収益の変化Pc
kに基づいて、それぞれ一つ以上の保守メニュー候補m
k(1≦k≦K)から成る一つ以上の組み合わせ(保守メニューセット)M
h(1≦h≦H)の中から一つ以上の適切な保守メニューセットM’を選択する。具体的には、ステップS06では、保守メニューセット候補選定手段116が、以下の3段階の処理を行う。まず、第1段階の処理として、ステップS06Aが実行される。ステップS06Aでは、複数の保守メニューセットM
h(1≦h≦H)の中から、プラント期待稼働率が目標稼働率を上回るという制約条件を満たし、なおかつ、プラント保守に要する費用が事前に決められた運用予算内に収まるという制約条件を満たす保守メニューセットM
λ1〜M
λsが選定される。また、ステップS06Aでは、保守メニューセットM
λ1〜M
λsがそれぞれ実施された際にプラント稼働により得られる収益を、第1収益の変化Pc
kに基づいて算出する。続いて、第2段階の処理として、ステップS06Bが実行されても良く、第3段階の処理としてステップS06Cが実行されても良い。ステップS06BおよびステップS06Cの処理内容は、ステップS04BおよびステップS04Cと同様であるので、説明を省略する。
【0107】
ステップS04の実行が終わると、
図10のフローチャートの実行はステップS09に進む。ステップS09では、
図9の制約条件充足性判定手段117により、複数の保守メニュー候補m
k(1≦k≦K)のうち少なくとも一つの保守メニュー候補の組み合わせからなる1以上の保守メニューセット候補の各々について以下の処理が行われる。すなわち、保守メニューセット候補M
λ1〜M
λs(または、保守メニューセット候補M
σ1〜M
σs)のそれぞれについて、保守制約条件を満たすか否かを判定する制約条件判定ステップが実行される。具体的には、ステップS09では、ステップS04において選択された保守メニューセットM
λ1〜M
λsのいずれか一つを実施した場合に、プラント設備1の期待稼働率が目標稼働率を達成するか否かが判定され、目標稼働率が達成された判定した場合には、
図10のフローチャートの実行を終える。ステップS09において、目標稼働率が達成されていないと判定された場合には、
図10のフローチャートの実行は、ステップS10に進む。
【0108】
また、ステップS06の実行が終わると、
図10のフローチャートの実行はステップS08に進む。ステップS08においても、
図9の制約条件充足性判定手段117により、複数の保守メニュー候補m
k(1≦k≦K)のうち少なくとも一つの保守メニュー候補の組み合わせからなる1以上の保守メニューセット候補M
λ1〜M
λsのそれぞれについて、保守制約条件を満たすか否かを判定する制約条件判定ステップが実行される。具体的には、ステップS08では、ステップS06において選定された保守メニューセットM
λ1〜M
λsのいずれか一つを実施した場合に、プラント設備1の期待稼働率が目標稼働率を達成し、かつ保守メニューセットM
λ1〜M
λsのいずれか一つを実施するのに要する保守費用が予算内に収まるか否かが判定される。ステップS08において、目標稼働率が達成され、かつ保守費用が予算内に収まると判定した場合には、
図10のフローチャートの実行を終える。ステップS08において、目標稼働率が達成されていない又は保守費用が予算内に収まらないと判定された場合には、
図10のフローチャートの実行は、ステップS10に進む。
【0109】
ステップS10は、
図9の在庫数修正手段118が制約条件充足性判定手段117から全ての保守メニューセット候補M
λ1〜M
λsを受け取った後に、在庫数修正手段118によって実行される。ステップS10では、全ての保守メニューセット候補M
λ1〜M
λsについて保守制約条件が成立しない場合、ステップ11において前回設定された在庫数条件における1以上の予備品E(j)の在庫数c(j)を変更する在庫数条件修正ステップを実行する。具体的には、ステップS10では、全ての保守メニューセット候補M
λ1〜M
λsについて第1条件(プラント長期保守に必要な保守費用が所定の予算内に収まるという条件)が成立しない場合、少なくとも、ステップ11において前回設定された在庫数条件からの在庫数の増減量Δc(j)(1≦j≦J)に対する購入費O
jc(1≦j≦J)、在庫管理費Q
jc(1≦j≦J)又はこれらの合計費の第3変化率が最大になる予備品E(jf)、前回の在庫数条件からの在庫数の増減量Δc(j)(1≦j≦J)に対する金銭的損失P
jc(1≦j≦J)の第4変化率が最小である予備品E(jg)、または、第3変化率に対する第4変化率の比が最小である予備品E(jh)の在庫数c(jh)を減らすようにしている。
【0110】
以上より、ステップS10では、在庫調達および/または在庫管理に要する費用を最も効果的に削減できるような予備品E(jf)について在庫数c(jf)を減少させることが可能となる。また、ステップS10では、在庫数c(j)(1≦j≦J)を所定量減らした場合に、在庫切れ時のプラント停止等により発生する金銭的損失P
jc(1≦j≦J)の増加幅ができるだけ小さい予備品E(jg)について在庫数c(jg)を減少させることが可能となる。また、ステップS10では、在庫数c(j)(1≦j≦J)を所定量減らした場合に、在庫切れ時のプラント停止等により発生する金銭的損失P
jc(1≦j≦J)の増加幅ができるだけ小さく、しかも、在庫調達および/または在庫管理に要する費用を最も効果的に削減できるような予備品E(jh)について在庫数c(jh)を減少させることが可能となる。こうして、在庫数条件の修正により、保守制約条件を満たす保守メニューセット候補Mが見つかる可能性を高めることができる。
【0111】
また、ステップS10では、全ての保守メニューセット候補M
λ1〜M
λsについて第2条件(保守メニューセット候補を実施した場合におけるプラント設備の期待稼働率が目標稼働率以上であること)が成立しない場合、ステップS11において前回設定された在庫数条件からの在庫数の増減量Δc(j)(1≦j≦J)に対する、予備品E(je)の在庫保有によるプラント設備1の稼働率向上幅の変化率が最大である予備品E(je)の在庫数c(jj)を増やすようにしている。
【0112】
以上より、ステップS10では、複数種の予備品E(j)(1≦j≦J)のいずれか一つ以上について在庫数c(j)(1≦j≦J)を増減させる際に、プラント設備1の稼働率向上幅の総和が目標値を達成するという条件を満たすために最も効果的な予備品E(jb)について在庫数c(ji)を調整することが可能となる。こうして、在庫数条件の修正により、保守制約条件(保守メニューセット候補を実施した場合におけるプラント設備の期待稼働率が目標稼働率以上であるという第2条件)を満たす保守メニューセット候補Mが見つかる可能性を高めることができる。
【0113】
ステップ11において前回設定された在庫数条件における1以上の予備品E(j)の在庫数c(j)(1≦j≦J)を変更する処理が完了すると、当該変更後の在庫数c(j)(1≦j≦J)を新たな在庫数条件として設定した上で、
図10のフローチャートの実行はステップS11に戻り、上述した処理を再度繰り返す。