特許第6556688号(P6556688)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556688
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】光電センサ及び距離測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/10 20060101AFI20190729BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20190729BHJP
   G01J 1/42 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   G01S17/10
   G01C3/06 120Q
   G01J1/42 N
【請求項の数】12
【外国語出願】
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-241889(P2016-241889)
(22)【出願日】2016年12月14日
(65)【公開番号】特開2017-125844(P2017-125844A)
(43)【公開日】2017年7月20日
【審査請求日】2017年2月23日
(31)【優先権主張番号】15202272.9
(32)【優先日】2015年12月23日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591005615
【氏名又は名称】ジック アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン キンツレー
(72)【発明者】
【氏名】マルティン ケール
(72)【発明者】
【氏名】カイ ヴァスロヴスキ
(72)【発明者】
【氏名】ウルリッヒ ツヴェルファー
【審査官】 田中 純
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−059302(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02469301(EP,A1)
【文献】 特開2010−091378(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0162632(US,A1)
【文献】 特開2014−077658(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0015868(US,A1)
【文献】 特開2002−328166(JP,A)
【文献】 特開2014−102072(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0323654(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0162197(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 − G01S 7/51
G01S 17/00 − G01S 17/95
G01B 11/00 − G01B 11/30
G01C 3/00 − G01C 3/32
G01J 1/00 − G01J 1/60
G01J 11/00
G01V 1/00 − G01V 7/16
G01V 8/10 − G01V 8/16
G01V 8/20
G01V 9/00 − G01V 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視領域(12)内の物体までの距離を測定するための光電センサであって、一続きの個別光パルス(22)を前記監視領域(12)へ送出するための発光器(20)と、前記物体により直反射又は拡散反射された個別光パルス(24)を検出するための少なくとも1つの受光素子を有する受光器(26)と、一続きの前記個別光パルス(22、24)の個別光伝播時間を、各個別光パルス(22)の発光時点と前記受光素子により該個別光パルスが検出された受光時点との間の時間として決定するための個別光伝播時間測定ユニット(28)と、個別光伝播時間を累算し、個別光伝播時間を累算した結果から距離に対応する共通の測定値を決定する評価ユニット(30、32)とを備える光電センサにおいて、
前記評価ユニット(30)が、少なくとも1つの先行する個別光伝播時間を基準値として記憶するための一時メモリ(34)と、前記一時メモリ(34)に記憶された基準値と比較した結果、該基準値と時間窓の範囲内で一致する個別光伝播時間だけを累算するためのフィルタ(36)とを備えること、及び
前記基準値と時間窓の範囲内で一致しない個別光伝播時間は、希な雑音事象として廃棄されること、
を特徴とするセンサ。
【請求項2】
前記評価ユニット(30)が、個別光伝播時間を集計するための累算器(40)と、集計された個別光伝播時間の個数を数えるカウンタ(44)とを備えていることを特徴とする請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記評価ユニット(30)において、所定のカウント値になるまで集計された個別光伝播時間と該所定のカウント値とから前記共通の測定値を決定し、該共通の測定値と前記時間窓の範囲内で一致する個別光伝播時間に対してのみ前記フィルタ(36)が追加的又は代替的に個別光伝播時間の累算を許可することを特徴とする請求項2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記フィルタ(36)が、個別光伝播時間の量差を求めて前記時間窓と比較するために少なくとも1つの減算器段(44)を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセンサ。
【請求項5】
前記一時メモリ(34)が複数の先行する個別光伝播時間のためのシフトメモリ(42)として構成され、前記フィルタ(36)が、記憶された先行する個別光伝播時間の少なくとも1つと前記時間窓の範囲内で一致する個別光伝播時間に対してのみ個別光伝播時間の累算を許可することを特徴とする請求項1に記載のセンサ。
【請求項6】
前記評価ユニット(30、46)が個別光伝播時間の累算の過程で前記時間窓を変化させるように構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のセンサ。
【請求項7】
前記評価ユニット(30、46)が前記時間窓を累算された個別光伝播時間の個数に及び/又は前記共通の測定値の分散に適合させることを特徴とする請求項6に記載のセンサ。
【請求項8】
前記個別光伝播時間測定ユニット(28)が時間・デジタル変換器を備えていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のセンサ。
【請求項9】
前記受光器(26)が多数の受光素子と該受光素子に対して個別に又はグループ毎に割り当てられた複数の個別光伝播時間測定ユニット(28)とを備えていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のセンサ。
【請求項10】
前記受光素子がガイガーモードで駆動されるアバランシェフォトダイオードであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のセンサ。
【請求項11】
前記評価ユニット(30)が少なくとも部分的に前記受光器(26)上に統合されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のセンサ。
【請求項12】
監視領域(12)内の物体までの距離を測定する方法であって、一続きの個別光パルス(22)が前記監視領域(12)へ送出され、前記物体により直反射又は拡散反射された個別光パルス(24)が再び受光され、一続きの前記個別光パルス(22、24)の個別光伝播時間が、各個別光パルス(22)の発光時点と該個別光パルスの受光時点との間の時間として決定され、個別光伝播時間が累算され、個別光伝播時間が累算された結果から距離に対応する共通の測定値が決定される方法において、
少なくとも1つの先行する個別光伝播時間が基準値として一時メモリ(34)に記憶され、フィルタ(36)を用いて、前記一時メモリ(34)に記憶された基準値と比較した結果、該基準値と時間窓の範囲内で一致する個別光伝播時間だけが累算されること、及び
前記基準値と時間窓の範囲内で一致しない個別光伝播時間は、希な雑音事象として廃棄されること、
を特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1又は13のプレアンブルに記載の光電センサ及び監視領域内の物体までの距離を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
距離測定型の光電センサでは、単なる物体の検出に留まらず、物体までの距離も測定される。該センサが位置分解能も有する場合、距離情報を用いて3次元的な画像やいわゆる海底地形図を捕らえることもできる。そのために、スキャナは光線で監視領域を走査するのに対し、3次元カメラはその各画素で明るさ情報の代わりに又はそれに加えて距離情報も決定する。
【0003】
従来の距離測定法の1つに光伝播時間測定がある。この方法では短い光パルスが送出され、該光パルスの拡散反射又は直反射を受光するまでの時間が測定される。妨害事象や雑音効果に対する高い頑強さを得るため、例えば特許文献1から、多数の個別光パルスを相前後して送出し、その結果生じる受光信号をヒストグラムに集計し、後でまとめて評価する(例えばヒストグラム中の最大値を求めてそこから受光時点を導き出す)という方法が知られている。これはパルス平均法とも呼ばれる。
【0004】
このようなヒストグラム評価は測定に関する前述の問題を確かに解決するものの、大きなメモリを必要とする。なぜなら、測定範囲内で待ち受けるべき全ての光伝播時間が、得ようとする測定分解能に少なくとも近い幅を有するビンに分けられるからである。3次元カメラの場合のように距離測定を位置分解的に行う必要がある場合、前記メモリの必要量が更に画素数とともに段階的に増えるか、あるいは画素の順次処理によりメモリの必要量の増大を避けるために検出時間が非常に長くなる。これは特にASIC(Application Specific Integrated Circuit)のような形の低コストの集積型評価素子の開発にとって大きな妨げとなる。前述のヒストグラムを通じた計数処理の場合、多数のメモリセルが面積を決定してしまう上、速度も制限する。
【0005】
単純なフォトダイオードの検出感度は多くの用途で不十分である。アバランシェフォトダイオード(APD)では、入射光が、制御されたアバランシェ降伏(アバランシェ効果)を誘発する。そして、入射光子により生成された電荷担体が増倍され、光電流が生じる。この電流は受光強度に比例するが、単純なPINダイオードの場合に比べればはるかに大きい。いわゆるガイガーモードでは、アバランシェフォトダイオードに降伏電圧より高いバイアス電圧が印加され、その結果、1個の光子により解放されるわずか1個の電荷担体でもアバランシェを誘発し得る。電界強度が高いため、このアバランシェは利用可能な全ての電荷担体を取り込む。こうして、このアバランシェフォトダイオードは、その名前の由来であるガイガーカウンターと同様、一つ一つの事象を計数する。ガイガーモードのアバランシェフォトダイオードはSPAD(シングルフォトンアバランシェダイオード)とも呼ばれる。
【0006】
SPADの高い感度は同時に欠点ももたらす。なぜなら、極端な場合、わずか1個の外乱光子又は内部雑音の発生によっても顕著な有用信号と同様の信号が生じるからである。それゆえ、何度も測定を繰り返してまとめて評価することは、まさにSPADを用いる場合に有意義である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】DE 10 2007 013 714 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それゆえ、本発明の課題は、パルス平均法のための簡単な評価手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、請求項1又は13に記載に光電センサ及び監視領域内の物体までの距離を測定する方法により解決される。反復される個別測定のために一続きの個別光パルスが送出され、再び受光されて、それぞれの個別光伝播時間が特定され、その結果、対応する一続きの個別測定の測定値が得られる。その後、距離に対応する共通の測定値を求めることで全体としての精度を高めるために、個別測定が累算されて評価される。そして、本発明の基本思想は、雑音事象による個別光伝播時間を累算の間に直接認識してフィルタで除去することにある。そのために、累算の際には互いに近似的に同一の個別光伝播時間だけが考慮される。これは、実際の距離に少なくとも近似的に対応する個別光伝播時間は比較的多く存在する一方、雑音事象はむしろ希にしか生じない、という仮定に基づいている。特に、ある個別光伝播時間が、少なくとも1つの過去の個別光伝播時間と、予め時間窓により定められた許容差の範囲内で一致する場合にのみ、その個別光伝播時間が考慮される。前記過去の個別光伝播時間は、例えば一続きの中で直前に出現した個別光伝播時間であるが、もっと前の個別光伝播時間であってもよいし、複数の過去の個別光伝播時間を考慮してもよい。一致の判定に導出量(例えば距離値)を引き合いに出してもよい。
【0010】
本発明には、メモリを大量に使うヒストグラムを実際には作らないにも関わらず、ヒストグラム評価に似た考え方により高い測定精度を達成できるという利点がある。それゆえ、メモリが大量に必要になるという欠点がない。ハードウエアのコストは最小限で済み、それを用いて高速且つ容易にリアルタイムで評価を行うことができる。なぜなら、個別光伝播時間が直接処理されるため、もはやヒストグラムを事後的に集計したり検査したりする必要がないからである。
【0011】
評価ユニットは、個別光伝播時間を集計するための累算器、特に加算器と、集計された個別光伝播時間の個数を数えるカウンタとを備えていることが好ましい。このようにすると、多数の個別光伝播時間が合計値として記憶され、直接共通の評価部へ供給される。実装には合計値とカウント値のための2つのレジスタを有する簡素な加算器で十分である。集計された個別光伝播時間をカウント値で割った商が共通の測定値となる。これは途中経過の形のいかなるカウント値にも当てはまり、その場合、測定を終了するためにカウンタを閾値検査に利用することもできる。例えば、1000個又は他の任意の所定個数の個別光伝播時間が合計されるまで集計が行われる。
【0012】
評価ユニットにおいて、このカウント値より後ではそれまでの共通の測定値と前記時間窓の範囲内で一致する個別光伝播時間に対してのみフィルタが追加的又は代替的にその累算を許可する、というカウント値が予め設定可能であることが好ましい。この実施形態では、ある中間値、例えば集計すべき個別光伝播時間全体の10%又は他の何らかの境界値に達した後、フィルタの判定基準が変わる。もはや個別光伝播時間同士の一致だけを見るのではなく、それまでに得られた測定結果が追加的に入り込む、又は代わりの基準となる。また、カウント値が増すに従ってそれまでの測定結果に対する重みを大きくすることも考えられる。時間窓の範囲内での測定結果との一致を唯一の基準とする場合、その切り替えはマルチプレクサで行うことができる。
【0013】
フィルタは、個別光伝播時間の差(以下「量差」と呼ぶ)を求めて時間窓と比較するために少なくとも1つの減算器段を備えていることが好ましい。この実装では、フィルタが、評価すべき最新の個別光伝播時間と過去に検出された個別光伝播時間又はそれから作り出された基準値との差を求め、その差の大きさが閾値と比べて十分に小さい場合にのみ、その最新の個別光伝播時間が累算されることが好ましい。これにより、フィルタを非常に簡素な部品で実装できる。
【0014】
評価ユニットは少なくとも1つの先行する個別光伝播時間のための一時メモリを備えていることが好ましい。このようにすれば、時間窓により定められた許容差で一致する個別光伝播時間を識別するために、フィルタが過去の個別光伝播時間を遡及的に取り出すことができる。その過去の個別光伝播時間は一時メモリとフィルタの設計に応じて1つだけ又はより長い履歴にわたって一時的に記憶され、考慮される。
【0015】
一時メモリは複数の先行する個別光伝播時間のためのシフトメモリとして構成され、フィルタは、記憶された先行する個別光伝播時間の少なくとも1つと時間窓の範囲内で一致する個別光伝播時間に対してのみその累算を許可することが好ましい。シフトメモリに個別光伝播時間を順次通すことにより非常に簡単に履歴が保存される。評価対象の個別光伝播時間を一時的に記憶された個別光伝播時間と比較するために、フィルタは複数の分岐を備えており、好ましくはそれが並列で、シフトメモリ内の記憶領域と同数である。このようにすると、累算の際に考慮の対象となるには一時的に記憶された個別光伝播時間の1つ又は複数との一致が必要となる。
【0016】
評価ユニットは個別光伝播時間の累算の過程で時間窓を変化させるように構成されていることが好ましい。特に時間窓をより狭くする。可変式の時間窓を用いる実施形態は、それまでに求められた共通の測定値に応じたフィルタの切り替えとの関係で特に有利である。その場合、似た個別光伝播時間が頻出する箇所へ時間窓を収束させ、その箇所を比較的高速で大まかに特定した後は、後続の個別光伝播時間を通じて精度が高められる。あとは、大きすぎる時間窓を用いていたときにまだ考慮されていた個別光伝播時間が、得られる測定結果にわずかに影響を与えるのみである。
【0017】
評価ユニットは時間枠をカウント値に及び/又は共通の測定値の分散に適合させることが好ましい。カウント値への適合は、大まかな測定値が速やかに特定されるという前述の見込みに対応している。分散は寄与している個別光伝播時間の一致の尺度である。分散が比較的小さい場合、それより遠く離れた個別光伝播時間は、その後の測定の過程で精度が高まるにつれて無視される雑音事象であるとみなすことができる。本発明では好ましくは個別光伝播時間が全く記憶されないので、各時点での分散を求めるために、個別光伝播時間の和の他に個別光伝播時間の2乗の和も累算する必要がある。カウント値及び/又は分散に対する適切な時間枠は関数又は一覧の形で予め与えておけばよい。
【0018】
個別光伝播時間測定ユニットは時間・デジタル変換器(Time-to-Digital Converter; TDC)を備えていることが好ましい。これは公知で比較的簡単な素子であり、高い時間分解能で個別光伝播時間を特定できる。TDCは発光時点に始動され、受光された個別光パルスによって受光時点に停止されることが好ましい。
【0019】
受光器は多数の受光素子と該受光素子に対して個別に又はグループ毎に割り当てられた複数の個別光伝播時間測定ユニットとを備えていることが好ましい。その場合、受光素子は線状又は行列状に配置されていることが好ましい。その接続には様々な変形がある。最も簡単な場合、単に全受光素子にわたって平均が算出される。複数の個別パルスにわたる時間的な平均と複数の受光素子にわたる空間的な平均を算出すれば、物体の距離に対応する信頼性の高い測定値が特定される。あるいは、各受光素子が個別に評価され、物体の距離に対応する測定値が求められる。この場合、3次元画像センサが得られる。一種の混合型では平均の算出において複数の受光素子がまとめられる。これも3次元画像センサであって、その解像度は受光素子の総数に比べて低いが、代わりにその実質的な像点において物体の距離に対応する信頼性の高い測定値が得られる。
【0020】
受光素子はガイガーモードで駆動されるアバランシェフォトダイオードであることが好ましい。SPADとも呼ばれるこの受光素子については冒頭で既に短く説明を行った。APD(アバランシェフォトダイオード)に降伏電圧を超えるバイアス電圧が印加され、わずか1個の光子でもアバランシェ電流が誘発され得る。それゆえSPADは非常に感度が高いが、同時に誤測定も起き易い。なぜなら、記録された個別光伝播時間が、外乱光子に由来する、物体の距離とは全く無関係の誤ったものである可能性があるからである。このような理由から、本発明に係る個別光伝播時間の評価のような外乱事象の識別を伴う統計的な査定はSPADに非常に適している。
【0021】
評価ユニットは少なくとも部分的に受光器上に統合されていることが好ましい。この受光器は、例えば受光素子とともに評価部の少なくとも一部を有するASICである。本発明に係る評価部の回路は非常に簡単に設計できる。メモリセルは不要であり、ゆえにわずかな面積しか必要としない。これが統合を極めて容易にする。好ましくは、付属の個別光伝播時間測定ユニットを画素内に、つまり受光素子毎又は受光素子グループ毎に局所的に統合することさえできる。この評価回路は個別光伝播時間測定ユニットだけを含んでいてもよいし、他に累算器、カウンタ及びフィルタも含んでいてもよい。それでも、回路が簡単であるため、20%を超える充填率(画素の全面積に対する感光面の面積の比)を達成できる。
【0022】
本発明に係る方法は、前記と同様のやり方で仕上げていくことが可能であり、それにより同様の利点を示す。そのような利点をもたらす特徴は、例えば本願の独立請求項に続く従属請求項に模範的に記載されているが、それらに限定されるものではない。
【0023】
以下、本発明について、更なる特徴及び利点をも考慮しつつ、模範的な実施形態に基づき、添付の図面を参照しながら詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】個別光パルスの列から光伝播時間を特定するための測定カーネルのブロック図。
図2】個別パルスで測定された多数の光伝播時間のヒストグラムの模範例。
図3】少なくとも近似的に一致する個別測定値から光伝播時間を特定する第1の実施形態の評価ユニットのブロック回路図。
図4】より長い履歴を見て、少なくとも近似的に一致する個別測定値から光伝播時間を特定する第2の実施形態の評価ユニットのブロック回路図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は光伝播時間の測定により監視領域12内の物体までの距離を特定するための測定カーネル10の簡略ブロック図である。図1の測定カーネル10は上側の発光路14と下側の受光路16に分かれている。この分割は何らかの技術的な特徴を意味するものではない。本発明は何よりもまず受光路16に関するものであるから、発光路14については公知のいかなる実装も考え得る。発光路14の各要素は専用の素子でも良いし、受光路16の要素とともに1つの共通の素子上に統合されていてもよい。
【0026】
発光路14において、パルス発生器18を用いて短い個別パルスの列が生成される。その際、パルス休止期間とパルス長は、例えば符号化のため又は環境条件への適応のために変えることができる。もっとも、本発明のためには、各時点における測定に影響が出ないように十分な時間間隔を設けた一様な個別パルスの連続を想定するだけで十分である。
【0027】
パルス列を有する電子的な発射信号から、LEDやレーザダイオード等の発光器20がそれに対応する個別光パルス22の列を生成し、それが監視領域12へ送出される。該領域内で個別光パルス22が物体に当たると、それに対応する直反射又は拡散反射された個別光パルス24が測定カーネル10を有するセンサまで戻り、受光器26に入射する。受光器はそのパルスから電子的な受光信号を生成する。
【0028】
受光器26は簡単なフォトダイオード又はAPDとすることができるが、SPADを基礎としたものが好ましい。受光器26は、少なくとも1つの受光素子、特に線状又は行列状に配置された多数の受光素子を備えている。この場合、位置分解能を維持すれば3次元画像センサが得られる。あるいは複数又は全ての受光素子にわたる空間的な平均を求めてもよい。本発明に係る、個別光パルスから生成された一続きの受光信号の評価は、これらの事象がどのように記録されたかに依存しない。
【0029】
第1の評価ステップとして、個別光伝播時間測定ユニット28が、個別光パルス22の発射からそれに対応する拡散反射された個別光パルス24の受光までの個別光伝播時間をその都度特定する。個別光伝播時間測定ユニット28は例えばTDC又は複数のTDCのブロックである。
【0030】
その後の評価ステップでは個別光伝播時間が累算器30において集計される。その際、後で図3及び図4に基づいてより詳しく説明するように、フィルタの働きにより特定の個別光伝播時間だけが考慮される。
【0031】
そして、共通の測定値を特定するための測定値ブロック32において、累算された個別光伝播時間から、物体までの距離が特定される。そのために例えば平均値が求められる。なお、光伝播時間と距離は定数である光の速度を介して互いに単位が異なるに過ぎないから、本明細書ではしばしば両者を区別していない。
【0032】
好ましい実施形態では、受光路16がASIC上に統合されている。この場合、受光素子26のための専用のブロックと評価回路28、30、32のための専用のブロックをそれぞれ設けることができる。しかし、少なくとも各個別光伝播時間測定ユニット28が受光素子26のすぐそばに配置され、個々の受光素子26又はそのグループとともにインテリジェントな画素を形成していることが好ましい。累算器30と測定値ブロック32もこの画素に統合することができる。その場合、上位の制御部が、各画素の測定結果を位置分解的に利用するか、それとも再度平均するか、そしてそれをどのように行うかを決める。別の実施形態ではFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)が用いられ、その上に累算器30及び/又は測定値ブロック32並びに場合によっては個別光伝播時間測定ユニット28が実装される。
【0033】
図1は光電センサの測定カーネル10のみを示している。発光又は受光光学系等の要素は図から省略してある。このセンサは軸上で物体の距離を測定する簡単な検知器とすることができる。この軸を適宜の回転鏡により又は測定ヘッドとして一緒に回転させることでスキャナを構成することができる。別の模範的なセンサの実施形態として3次元カメラが挙げられる。
【0034】
図2は多数(例として1000個)の個別光伝播時間のヒストグラムの例である。X軸上のビンは検出され得る光伝播時間の時間間隔(ここでは任意の単位)を、またY軸は個別光伝播時間毎の検出回数をそれぞれ示している。つまり、このヒストグラム全体は測定された個別光伝播時間の分布である。
【0035】
このヒストグラムを見ると、目視で175番目あたりのビンに、周囲光や他の雑音効果に起因する妨害的な個別光伝播時間とは明らかに違った明瞭な最大値が認められる。この最大値の位置を何らかのアルゴリズムで特定し、そこから物体の距離を算出することができる。ただし、このヒストグラムには大量のメモリが必要である。特に、このようなヒストグラムを3次元画像センサにおいて画素毎に記憶しなければならないことを考えた場合にそれが言える。
【0036】
それゆえ、本発明では図2に描いたようなヒストグラムの作成及び記憶を一切行わない。本発明における評価の基礎となるのは、個別光伝播時間は最大値の近くで頻繁に出現するということ、そしてこの知見から導き出されたフィルタ判定基準を用いれば個別光伝播時間の検出中であっても測定事象を雑音事象から識別できるということである。
【0037】
図3は第1の実施例の受光路16にある評価部のブロック図である。ここではTDCが個別光伝播時間測定ユニット28の役割を果たしている。これを通じて個別測定値から個別光伝播時間のデジタル値が順次生成され、利用に供される。TDCは個別光パルス22の発射により始動された後、拡散反射された個別光パルス24の受信とともに停止され、非常に高い周波数(例えば20GHz)のクロックパルスに基づき、例えば一種のカウンタを用いて経過時間を特定する。これに適したTDCアーキテクチャそのものは文献から公知である。
【0038】
測定された個別光伝播時間は個別光伝播時間測定ユニット28から一時メモリ34及びフィルタ36に渡される。一時メモリ34は少なくとも1つの過去の個別光伝播時間(例えば、各時点においてその1つ前に渡された個別光伝播時間、又は複数の過去の個別光伝播時間の履歴)を基準値として記憶しておく。一時メモリ34はマルチプレクサ38を通じてフィルタ36にも接続されている。
【0039】
フィルタ36は、個別光伝播時間の最新の測定値と一時メモリ34から読み出した1つ又は複数の基準値との比較に基づき、該個別光伝播時間の測定値が、過去に測定された個別光伝播時間の少なくとも1つと時間窓の範囲内で一致しており、フィルタに接続された累算器40へ転送すべきものか、それとも希な雑音事象として廃棄すべきものかを判定する。
【0040】
累算器40では、フィルタ36を無事に通過した個別光伝播時間が集計され、カウントされる。そしてそこから、例えば平均値の計算により、物体までの距離が結果出力として計算される。更に、この結果を追加の基準値としてマルチプレクサ38を通じてフィルタ36に渡すこともできる。
【0041】
図3の受光路16における測定プロセスは例えば以下のように進む。測定の始めにカウンタを含む累算器がゼロにリセットされる。少なくとも1番目の個別光伝播時間はそのまま一時メモリ34に格納されるが、フィルタ判定基準によってはその初期化のためにより多くの開始時の個別光伝播時間が必要となる。
【0042】
一時メモリ34が十分に満たされたらすぐ、次の個別光伝播時間がメモリ内の基準値と比較される。そのために、例えば量差が求められ、閾値と比較される。評価対象の個別光伝播時間が、基準値として記憶された個別光伝播時間に十分に近い場合にのみ、該個別光伝播時間が次の段へ渡される。あるいは、n個の記憶された個別光伝播時間との比較においてm個(m≦n)との十分な一致が要求される。マルチプレクサ38はこの第1の測定段階においては一時メモリ34をフィルタ36に接続する。
【0043】
フィルタ36により希な妨害事象として破棄されず、ゆえに累算器40へ転送された個別光伝播時間は、そこで集計され、同時にカウンタの値を増大させる。中間結果として、それまでに算出された平均値が累算器の出力に用意される。
【0044】
第1の測定段階は、所定のカウント値になったとき、例えば100個の個別光伝播時間が累算されたら終了する。するとマルチプレクサ38が切り替わり、今度は物体までの距離に対応する測定値の中間結果を基準値としてフィルタ36に渡す。この中間結果を次の第2の測定段階において唯一の基準値としてもよいし、一時メモリ34から読み出した履歴に追加して考慮してもよい。その他の点ではフィルタ36はそれまでと同様に働き、評価対象の個別光伝播時間が基準値に十分に近いかどうかを比較判定する。
【0045】
別の所定のカウント値になったとき、例えば1000個の個別光伝播時間が累算されたら測定は終了し、その結果が累算器40の出力に用意される。場合によっては更に光の速度を介してその結果が距離によく使われる単位に換算される。
【0046】
マルチプレクサ38をなくし、全測定にわたって第1の測定段階のように個別光伝播時間の相互比較のみを行うことも考えられる。別の変形例として、フィルタ36内の閾値を静的に選ぶのではなく動的に適応させること、特に、累算器40のカウント値に依存する又は既にフィルタを通った乃至累算された個別光伝播時間の標準偏差に依存する固定的な関数又は一覧として徐々に狭くすることが挙げられる。
【0047】
この方法は最小限のハードウエアコストで十分に実装できる。フィルタ36は差と和を計算するための減算器段として、累算器40は合計とカウント値のための2つのレジスタを有する加算器として、一時メモリ34は単なるレジスタとして、またマルチプレクサ38はゲート論理回路としてそれぞれ実装できる。例えば、個別光伝播時間測定ユニット28のTDCがb=10のビット幅を有し、n=1024個の個別光伝播時間を処理するものとすると、ヒストグラム法では2ln(n)/(2)=10240個の1ビットレジスタが必要である。一方、本発明では2(b+ln(n)/ln(2))=40個の1ビットレジスタで十分である。
【0048】
図4は受光路16にある評価部の別の実施形態のブロック図である。図3に示した要素がこの形態にもあり、同じ符号が付されているが、ここでは過去の最新の(例として4個の)事象の履歴を考慮した解決策のために詳細に構成されている。
【0049】
入力される量は先と同じく個別光伝播時間測定ユニット28から来る事象x(z)である。これが、シフトレジスタ42を有するシフトメモリとして構成された一時メモリ34に格納される。従ってシフトレジスタには直近に渡された4個の個別光伝播時間の履歴が入る。
【0050】
フィルタ36は全部で5つの減算器段44を備えている。そのうち上から4つの減算器段44は、一時メモリ34から基準値を、また個別光伝播時間測定ユニット28から最新の個別光伝播時間をそれぞれ入力として受け取る。一番下の減算器段44aは基準値として累算器40の中間結果が供給される点で他と異なる。個別光伝播時間と基準値が所定の時間窓の範囲内にあるかどうかを確認するために量差が閾値εと比較される。この閾値εは固定する必要はなく、その値を一覧46から得るようにして、例えば累算器40において増大するカウント値nや該累算器でそれまでに計算された共通の測定値の分散とともに変化させてもよい。
【0051】
減算器段44、44aの出力はそれぞれANDゲート46の一方の入力に接続されている。他方の入力値はマルチプレクサ38を介して供給され、第1の測定段階では「1」、第2の測定段階では「0」である。測定段階の切り替えは、測定段階比較器48においてカウント値nが所定の閾値bに到達又は超過したことによって決定される。一番下のANDゲート46aの第2の入力が反転していることに注意されたい。これにより、第1の測定段階では一時メモリ34から読み出した個別光伝播時間が基準値として考慮され、その後は累算器40の中間結果が考慮される、という処理が達成される。
【0052】
ANDゲート46の出力はフィルタ比較器50の入力に接続されている。該比較器は、少なくとも1つの入力が「1」であり、以て個別光伝播時間が少なくとも1つの基準値と十分に良く一致していることを示しているかどうかを調べる。ここで、少なくとも第1の測定段階においては、より厳しい判定基準(≧m)を選んでもよい。
【0053】
フィルタ比較器50の出力は別のANDゲート52の入力に接続されており、該ゲートのもう一つの入力は個別光パルスの列に対応するクロックパルスを受ける。ゆえにこのクロックパルスは、個別光伝播時間がεで与えられた時間窓の範囲内で基準値と一致するちょうどそのとき、フィルタ36の結果として前記別のANDゲート52から加算器42のイネーブル入力と累算器40のカウンタ44に渡される。従って、フィルタ36により選択された個別光伝播時間だけが集計され、カウントされる。
【0054】
最後に測定値ブロック32が、加算器42により集計された個別光伝播時間をカウンタ44のカウント値で割った商として、各時点での平均値を求める。なお、カウント値と測定の終了基準(例えば1000回の個別測定の後)との比較は図示していない。リセット54を通じて累算器40を新たな測定のために元に戻すことができる。
図1
図2
図3
図4