(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556695
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】アンモニア合成触媒及びアンモニア合成方法
(51)【国際特許分類】
B01J 31/12 20060101AFI20190729BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20190729BHJP
B01J 37/18 20060101ALI20190729BHJP
C01C 1/04 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
B01J31/12 M
B01J37/08
B01J37/18
C01C1/04 E
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-507371(P2016-507371)
(86)(22)【出願日】2015年1月9日
(86)【国際出願番号】JP2015050545
(87)【国際公開番号】WO2015136954
(87)【国際公開日】20150917
【審査請求日】2017年12月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-50700(P2014-50700)
(32)【優先日】2014年3月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】陰山 洋
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋治
(72)【発明者】
【氏名】増田 直也
(72)【発明者】
【氏名】細野 秀雄
【審査官】
佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/008705(WO,A1)
【文献】
R. Waser,Solubility and diffusivity of hydrogen defects in BaTiO3 ceramics,Science of Ceramics,1988年,Vol.14,pp.383-388
【文献】
T.SHIMA, et al.,Dinitrogen Cleavage and Hydrogenation by a Trinuclear Titanium Polyhydride Complex,Science,2013年 6月28日,Vol.340, No.6140,pp.1549-1552
【文献】
Svein Steinsvik et al.,Hydrogen ion conduction in iron-substituted strontium titanate, SrTi1-xFexO3-x/2(0≦x≦0.8),Solid State Ionics,2001年,vol.143,pp.103-116
【文献】
矢島 健 他,ペロブスカイト型酸水素化物,日本結晶学会誌,2013年 8月31日,Vol.55 No.4,pp.242-247
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C01C 1/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
REGISTRY/CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドリド(H-)を含有させた、ATiO3-xHx(Aは、Ca,Sr,又はBa、0.1≦x≦0.6)で表わされるペロブスカイト型酸水素化物粉末を担体とし、該担体にアンモニア合成に触媒活性を示す金属又は金属化合物が担持されていることを特徴とするアンモニア合成触媒。
【請求項2】
前記ペロブスカイト型酸水素化物がさらに窒素を含むことを特徴とする請求項1記載のアンモニア合成触媒。
【請求項3】
前記ペロブスカイト型酸水素化物は、ATi(O3-zHxNy)(Aは、Ca,Sr,又はBa、0.1≦x≦0.6、0<y≦0.3、z≧x+y、z-x-yは酸素欠陥量を表す)で表わされることを特徴とする請求項2に記載のアンモニア合成触媒。
【請求項4】
前記触媒活性を示す金属は、該粉末表面にナノ金属粒子として担持されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアンモニア合成触媒。
【請求項5】
前記触媒活性を示す金属化合物は、該粉末に混合されて担持されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアンモニア合成触媒。
【請求項6】
前記触媒活性を示す金属又は金属化合物の金属はRuであり、担持されている量がRu金属として担体に対して0.1〜5重量%であることを特徴とする請求項4又は5に記載のアンモニア合成触媒。
【請求項7】
ペロブスカイト型チタン含有酸化物の粉末を出発原料とし、真空中又は不活性ガス雰囲気中で、LiH、CaH2、SrH2、BaH2から選ばれるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水素化物粉末とともに300℃以上、該水素化物の融点未満の温度範囲に保持することによって、該酸化物中の酸化物イオンの一部を水素化物イオンで置換することによってヒドリド(H-)を含有させた、ATiO3-xHx(Aは、Ca,Sr,又はBa、0.1≦x≦0.6)で表わされるペロブスカイト型酸水素化物の粉末を調製する第1工程、
第1工程で得られたペロブスカイト型酸水素化物粉末を、アンモニア合成活性を持つ金属の化合物の溶媒溶液に分散し、次いで、溶媒を蒸発させて触媒前駆体を調製する第2工程、
第2工程で得られた触媒前駆体を乾燥して、該粉末に触媒活性を示す金属化合物を担持した触媒を調製する第3工程、
を含むことを特徴とするアンモニア合成触媒の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の製造方法において、第3工程の後に、さらに、前記金属化合物を還元雰囲気中で加熱して還元するか真空中で熱分解して、該粉末表面にナノ金属粒子を担持した触媒を調製する第4工程、を含むことを特徴とするアンモニア合成触媒の製造方法。
【請求項9】
請求項7記載の製造方法において、第1工程の後、第2工程の前に、ペロブスカイト型酸水素化物の粉末を窒素供給源物質の存在下で処理してペロブスカイト型酸水素化物に窒素を含有させる工程を有することを特徴とするアンモニア合成触媒の製造方法。
【請求項10】
請求項7又は8記載の製造方法において、第3工程又は第4工程の後、触媒を窒素供給源物質の存在下で処理してペロブスカイト型酸水素化物に窒素を含有させる工程を有することを特徴とするアンモニア合成触媒の製造方法。
【請求項11】
水素と窒素を含有するガスを原料として水素と窒素とを反応させてアンモニアを合成する方法において、請求項1〜6のいずれかに記載の触媒を合成反応器内の触媒充填層に充填して、300℃〜450℃の反応温度、10kPa以上、20MPa未満の反応圧力条件で、原料の窒素と水素を該触媒上で反応させることを特徴とするアンモニア合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と窒素を含有するガスを原料として水素と窒素とを反応させてアンモニアを合成するために用いるアンモニア合成触媒及びその触媒を用いたアンモニア合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニア合成は、化学工業の根幹プロセスの一つであり、酸化鉄を触媒とし、水酸化カリウムを促進剤として用いるハーバー・ボッシュ(Haber-Bosch)法が普及しており、この方法は、100年ほど大きな変化はなかった。ハーバー・ボッシュ法によるアンモニア合成では、300℃〜500℃、20〜40MPaという高温高圧下で、窒素及び水素ガスを触媒上で反応させて行われる。水素と窒素を含有するガスを原料としてアンモニアを合成する反応は、N
2+3H
2⇔2NH
3で示されるが、この反応は発熱反応であるため、平衡を右に移動させる為には低温であるほどよいが、反応により分子数が減少するため、平衡を右に移動させる為には高圧ほどよい。
【0003】
しかし、窒素分子は非常に強い窒素原子間の三重結合を有しているため、極めて反応性に乏しく窒素と水素の反応は極めて遅い。したがって、窒素分子の三重結合を切断して活性化できる触媒の開発が極めて重要であった。ハーバーらは、鉄鉱石を触媒としたが、これは酸化鉄を主体とし、アルミナ、酸化カリウムを含むものであった。ハーバー・ボッシュ法では、酸化鉄を触媒として反応装置に装填するが、実際に反応しているのは水素によって還元されて生じた金属鉄である。アルミナは還元されず担体として働き、鉄粒子がシンタリングするのを防ぎ、酸化カリウムは塩基として鉄粒子に電子を供与して触媒能力を高めている。これらの作用から二重促進鉄触媒と呼ばれる。しかし、この鉄触媒を用いても、400℃以下の低温では反応速度が不十分である。
【0004】
工業的な従来技術では、天然ガスなどの改質より水素を製造し、同一プラントで大気中の窒素と上記の条件下で反応させてアンモニアが合成される。アンモニア合成の触媒は、従来はFe/Fe
3O
4が主流であったが、近年は活性炭を担体としたFe/C、Ru/C触媒も使用されている。
【0005】
Ruをアンモニア合成の金属触媒粒子として担体上に形成して用いると、低圧で反応が進行することが知られており、第2世代のアンモニア合成触媒として注目されている。しかし、Ru単独物質での触媒能は非常に小さく、窒素分子の三重結合を切断し、Ru金属触媒粒子上で吸着窒素原子に変換する能力を発揮させるには電子供与性の高い材料を同時に使用することが好ましく、Fe
3O
4や活性炭に代わる塩基性材料からなる担体や、アルカリ金属、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物などの促進剤化合物を用いる必要がある。
【0006】
アンモニア合成の触媒としては、300℃以下の低温度でアンモニア合成活性をもつ遷移金属として、Mo,W,Re,Fe,Co,Ru,Osのうちの一種の元素、又はFeとRu,RuとRe、FeとMoとの組み合わせのいずれか1つと、K又はNaと、アルミナ、トリア、ジルコニア又はシリカを含有し、前記遷移金属及びアルカリ金属が実質的に金属状態である触媒(特許文献1)、Fe,Ru,Os,Co等の8族又は9族遷移金属のいずれかと、アルカリ金属とを活性炭、あるいは多孔質炭素に担持させた200℃のような低温でもアンモニアを合成することができる触媒(特許文献2)、アルカリ金属に代えてアルカリ金属塩を使用し、触媒担体として特定の表面積を有するグラファイト含有炭素を使用する触媒(特許文献3)、アルミナ又はマグネシア等の難還元性酸化物に、金属状ルテニウム又は塩素を含有しないルテニウム化合物、及び希土類元素化合物を担持させたアンモニア製造用触媒(特許文献4)、Ru、Ni及びCeから成り、セリウムの少なくとも一部が3価の状態であるアンモニア合成触媒(特許文献5)等がある。
【0007】
Ru/CaO-Al
2O
3 からなるエレクトライド系触媒は、CaO-Al
2O
3 化合物の結晶構造内に電子を取り込んでおり、反応中に水素原子を周囲のガスから取り込むこともできる。この二つの特徴からアンモニア合成に対する高い触媒活性があることが報告され(非特許文献1)、100℃から600℃以下の反応温度、10kPa〜30MPaの反応圧力条件で、原料の窒素と水素を触媒上で反応させるアンモニア合成方法に関する発明について特許出願されている(特許文献6)。
【0008】
ペロブスカイト型複合酸化物は、排ガス浄化用触媒、超伝導酸化物、圧電体、センサー、燃料電池の電解質などの各種用途への適用が試みられている。これらのペロブスカイト型複合酸化物の中で、BaCeO
3ナノ結晶に担持されたRu触媒は、アンモニア合成触媒としてRu/γ-Al
2O
3、Ru/MgO、Ru/CeO
2触媒に比べて623K以下の低温での触媒活性が優れていることが報告されている(非特許文献2)。また、Ru/BaZrO
3からなるアンモニア合成触媒(非特許文献3、特許文献7,8)やRu/BaTiO
3、Ru/SrTiO
3 、Ru/CaTiO
3等のチタン含有ペロブスカイト型酸化物からなるアンモニア合成触媒についても報告(非特許文献4、5)や、特許出願(特許文献9)がされている。
【0009】
MTiO
3(Mは、Ca,Ba,Mg,Sr又はPb)に代表されるペロブスカイト型結晶構造又は層状ペロブスカイト型結晶構造のチタン含有酸化物やTiの一部をHf、Zrの内の少なくとも一種で置換したチタン含有酸化物等(合わせて、「チタン含有ペロブスカイト型酸化物」という)は、極めて高い比誘電率をもつことからキャパシタ材料や誘電体膜などのデバイスとして、また、他のペロブスカイト型の遷移金属酸化物の基板材料、非線形抵抗体への利用などの観点から古くから盛んに研究が進められている。
【0010】
本発明者らは、式ATi(O,H)
3(Aは、Ca
2+,Sr
2+,又はBa
2+)を基礎とするチタンの酸水素化物(titanate oxyhydrides)の合成について報告した(非特許文献6〜8、特許文献10)。この酸水素化物は、水素をヒドリド(hydride:H
-)として酸化物イオン(O
2-)と共存させた化合物であり、前駆体のATiO
3をCaH
2、LiH、NaH等の金属水素化物でトポケミカル(topochemical)に還元する方法により調製される。この酸水素化物は、水素化物イオン・電子混合伝導性や水素吸蔵、放出性能を有しているという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公昭51−47674号公報
【特許文献2】特公昭54−37592号公報
【特許文献3】特公昭59−16816号公報
【特許文献4】特公平06−15041号公報
【特許文献5】特開平08−141399号公報
【特許文献6】WO2012/077658 A1
【特許文献7】中国特許出願CN102658135(A)
【特許文献8】中国特許出願CN103357406(A)
【特許文献9】中国特許出願CN102744060(A)
【特許文献10】WO2013/008705 A1
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Kitano et al,Nat.Chem.,4,934-940(2012)
【非特許文献2】X-L Yang et al.,Cat.Commun.,11,867-870 (2010)
【非特許文献3】W.Ziqing et al,Applied Catalysis A:458,130-136(2013)
【非特許文献4】W.Ziqing et al,Cat.Commun.,32, 11-14(2013)
【非特許文献5】Y.Horiuchi et al.Chemistry Letters,Vol.42,No.10,p1282-1284(2013)
【非特許文献6】Y.kobayashi et al.,Nat.Mater.,11,507(2012)
【非特許文献7】T.Sakaguchi et al.,Inorg.Chem.,116,3855(2012)
【非特許文献8】矢島 健 他、日本結晶学会誌、第55巻、第4号、242〜247頁、(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
水素と窒素を含有するガスを原料としてアンモニアを合成する反応は、N
2+3H
2⇔2NH
3で示されるが、平衡を右に移動させる上でボトルネックとなっている点は三つある。一つ目は、N
2分子の窒素間の三重結合の解離(bond-breaking)の困難さであり、二つ目は、触媒金属粒子の表面が高圧下で解離吸着した水素原子によって覆われる現象であるところの水素被毒(poisoning)による触媒活性の低下である。三つ目は、電子供与性を示さないアルミナや活性炭を担体とする場合は、多量の促進剤を必要とすることである。
【0014】
従来、上記のような課題を克服し、より低い圧力・温度でもアンモニア合成を可能とするために様々な担体と触媒金属との組み合わせが試されてきたが、既知の触媒金属+担体の組み合わせはほぼ調べ尽くされた。既知の触媒金属+担体の組み合わせによって達成できる活性を大きく上回る活性を持つ新規な触媒の探索は極めて困難な状況である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、本発明者らが先に合成に成功したヒドリド(H
-)を含有させたチタン含有ペロブスカイト型酸水素化物を担体とし、これに、Ru、Feなどの触媒活性を示す金属を担持させて触媒を形成すると、ヒドリド(H
-)の特異な作用により、アンモニア合成活性が飛躍的に向上し、不安定なアルカリ金属やアルカリ土類金属及びそれらの化合物を促進剤化合物に用いることなく、長時間の反応においても安定であり、従来知られている最高の活性を有する触媒よりも著しく高活性なアンモニア合成触媒となり、20MPa未満の低圧での高効率なアンモニア合成が実現できることを見出した。
【0016】
また、Ti含有ペロブスカイト型酸水素化物をアンモニアガス又はN
2/H
2混合気流中で400〜600℃の低温に加熱するとヒドリド(以下、「H」と記す場合もある。)と窒素(以下、「N」と記す場合もある。)のH/N交換プロセスを経て窒化物イオンが導入され、BaTi(O,H,N)
3が形成されることが分かった。
【0017】
本発明は、上記の知見に基づくものであり、ヒドリド(H
-)を含有させたペロブスカイト型酸水素化物粉末を担体とし、該担体にアンモニア合成に触媒活性を示す金属又は金属化合物が担持されていることを特徴とするアンモニア合成触媒、である。
【0018】
前記ペロブスカイト型酸水素化物は、ATiO
3-xH
x (Aは、Ca,Sr,又はBa、0.1≦x≦0.6)で表わされる。
【0019】
前記ペロブスカイト型酸水素化物は、さらに窒素を含むものでもよい。窒素を含む場合の組成は、式ATi(O
3-zH
xN
y)(Aは、Ca,Sr,又はBa、0.1≦x≦0.6、0<y≦0.3、z≧x+y、z-x-yは酸素欠陥量を表す)で表わすことができる。
【0020】
前記触媒活性を示す金属は、該粉末表面にナノ金属粒子として担持されている。また、前記触媒活性を示す金属化合物は、該粉末に混合されて担持されている。
【0021】
前記触媒活性を示す金属又は金属化合物の好ましい金属はRuであり、担持されている量は、好ましくはRu金属として担体に対して0.1〜5重量%である。
【0022】
本発明の触媒の製造方法は、ペロブスカイト型チタン含有酸化物の粉末を出発原料とし、真空中又は不活性ガス雰囲気中で、LiH、CaH
2、SrH
2、BaH
2から選ばれるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水素化物粉末とともに300℃以上、該水素化物の融点未満の温度範囲に保持することによって、該酸化物中の酸化物イオンの一部を水素化物イオンで置換することによってヒドリド(H
-)を含有させたペロブスカイト型酸水素化物の粉末を調製する第1工程、第1工程で得られたペロブスカイト型酸水素化物粉末を、アンモニア合成活性を持つ金属の化合物の溶媒溶液に分散し、次いで、溶媒を蒸発させて触媒前駆体を調製する第2工程、第2工程で得られた触媒前駆体を乾燥して、該粉末に触媒活性を示す金属化合物を担持した触媒を調製する第3工程、を含む。
【0023】
本発明の触媒の製造方法は、前記第3工程まででもよいが、前記第3工程の後に、さらに、前記金属化合物を還元雰囲気中で加熱して還元するか真空中で熱分解して、該粉末表面にナノ金属粒子を担持した触媒を調製する第4工程、を含むことが好ましい。
【0024】
上記の製造方法において、第1工程の後、第2工程の前に、ペロブスカイト型酸水素化物の粉末を窒素供給源物質の存在下で処理してペロブスカイト型酸水素化物に窒素を含有させる工程を有してもよい。
【0025】
上記の製造方法において、第3工程又は第4工程の後、触媒を窒素供給源物質の存在下で処理してペロブスカイト型酸水素化物に窒素を含有させる工程を有してもよい。
【0026】
本発明のアンモニア合成方法は、水素と窒素を含有するガスを原料として水素と窒素とを反応させてアンモニアを合成する方法において、上記の触媒を合成反応器内の触媒充填層に充填して、300℃〜450℃の反応温度、10kPa以上、20MPa未満の反応圧力条件で、原料の窒素と水素を該触媒上で反応させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の触媒は、水素と窒素を含有するガスを原料として、水素と窒素とを反応させてアンモニアを合成するためのFe/Fe
3O
4, Fe/C, Ru/Cなどの従来の触媒に代わる高活性の触媒として報告されているRu-Cs/MgO、Ru/BaTiO
3のNH
3合成速度(Ru 1 wt%,5.0MPa,400℃の試験条件)を数倍も上回る触媒活性を有し、低圧で、少ない触媒量で、低温でも反応させることが可能となり、反応の制御も容易になる。また、従来のアルミナ等の担体のようにアルカリ金属、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等の促進化合物を添加しないでもよいので、製造が簡便である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、実施例1のRu/BaTiO
2.5H
0.5触媒、実施例2のRu/BaTiO
2.4D
0.6触媒と従来例の触媒の触媒活性の比較を示す。各触媒の上側横棒線はNH
3の合成濃度(容積%)を示し、下側横棒線はNH
3合成速度(mmolg
-1h
-1)を示す。
【
図2】
図2は、実施例3のCo/BaTiO
2.5H
0.5触媒、実施例4のFe/BaTiO
2.5H
0.5触媒と従来例の触媒の触媒活性の比較を示す。
【
図3】
図3は、Ru/CaO-Al
2O
3 からなるエレクトライド系触媒と従来報告されている代表的な触媒の触媒活性の比較(文献値)を示す。
【
図4】
図4は、Ti含有ペロブスカイト型酸水素化物の結晶構造の模式図である。
【
図5】
図5は、実施例1、比較例1で得られたRu担持触媒のTEM像を示す図面代用写真である。
【
図6】
図6は、実施例1において、アンモニア合成評価に用いた装置の概略図である。
【
図7】
図7は、実施例1において、アンモニア生成評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のアンモニア合成触媒は、ヒドリド(H
-)を含有させたペロブスカイト型酸水素化物粉末からなる担体と、該担体に担持されたアンモニア合成に触媒活性を示す金属又は金属化合物から構成される。
【0030】
<チタン含有ペロブスカイト型酸水素化物の組成と構造>
チタン含有ペロブスカイト型酸水素化物は、チタン含有ペロブスカイト型酸化物に含まれる酸化物イオンの一部を水素化物イオン(H
-)で置換したものである。Ti含有ペロブスカイト型酸化物は、水素化物イオン(H
-)を特定の熱処理条件で低濃度からから高濃度まで取り込むことが可能であり、式ATiO
3-xH
x(Aは、Ca,Sr,又はBa、0.1≦x≦0.6)で表すことができる。xの値が、0.1未満では、水素化物イオンによる触媒活性向上の効果が十分ではなく、また0.6を超えると、結晶性が悪くなり、不純物が出てくるので望ましくない。この範囲内でxで示される水素含有量が大きいほどアンモニア合成に対する触媒活性は高くなる。xの値のより好ましい範囲は、0.3〜0.6である。
【0031】
Ti含有ペロブスカイト型酸水素化物は、
図4に示すように、頂点共有の八面体からなるペロブスカイト構造を維持している。八面体の中心にはTi原子が存在し、八面体の頂点に酸化物アニオン、ヒドリドアニオンが存在する。Ti含有ペロブスカイト型酸化物の酸水素化物としては、ATi(O,H)
3(Aは、Ca,Sr,又はBa)、SrTi(O,H)
3、層状ペロブスカイトであるSr
3Ti
2(O,H)
7、Sr
2Ti(O,H)
4などが挙げられる。
【0032】
本発明の触媒は下記の工程により製造できる。
<第1工程;Ti含有ペロブスカイト型酸水素化物の調製>
チタン含有ペロブスカイト型酸水素化物は、ペロブスカイト型チタン含有酸化物の粉末を出発原料とし、真空中又は不活性ガス雰囲気中で水素化リチウム(LiH)、水素化カルシウム(CaH
2)、水素化ストロンチウム(SrH
2)、水素化バリウム(BaH
2)から選ばれるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水素化物粉末とともに300℃以上、該水素化物の融点未満の温度範囲、望ましくは300℃以上600℃以下に保持した後、室温に冷却して、該酸化物中の酸化物イオンの一部を水素化物イオンで置換することによってペロブスカイト型酸水素化物の粉末として調製できる。保持温度までの昇温速度、室温までの降温速度には制限はない。保持に要する時間は温度にもよるが1時間程度以上1週間程度まででよい。
【0033】
出発原料のTi含有ペロブスカイト型酸化物は、一般式ATiO
3(Aは、Ca,Sr,又はBa)で表すことができる。出発原料となるTi含有ペロブスカイト型酸化物は、特に、その製造方法や形態は限定されない。ペロブスカイト型酸化物は、固相法、蓚酸法、クエン酸法、水熱法、ゾルゲル法など種々の方法で製造されているが、触媒としては比表面積が大きいほど望ましく、比表面積が30m
2/g以上、粒径分布5〜500nm程度のものが望ましい。
【0034】
得られた水素化物イオンを含有するTi含有ペロブスカイト型酸化物は、水素化物イオン伝導性と電子伝導性を併せ持ち、さらに外界の水素ガスとの450℃程度以下の低温における反応性を有するので、含有されている水素を重水素と反応させて置換するとATiO
3-xD
x (A=Ca,Sr,又はBa、0.1≦x≦0.6、Dは重水素)を形成することができ、これを担体とすることもできる。重水素と置換するとヒドリドの濃度が高い組成となる。
【0035】
また、第1工程の後、得られたTi含有ペロブスカイト型酸水素化物を、アンモニアガス、窒素ガス、窒素化合物等の窒素供給源物質の存在下で処理してペロブスカイト型酸水素化物に窒素を含有させる工程を有するようにしてもよい。例えば、アンモニアガス又はN
2/H
2混合気流中で400〜600℃の低温に加熱するとH/Nの交換プロセスを経て窒化物であるBaTi(O,N,H)
3が生成する。このように、Ti含有ペロブスカイト型酸水素化物に予め窒化物イオンを導入したものを担体とするとアンモニア合成反応中のATiO
3-xH
xの安定化がもたらされる。窒化物イオンを導入したTi含有ペロブスカイト型酸水素化物は、式BTi(O
3-zH
xN
y)(0.1≦x≦0.6、0<y≦0.3、z≧x+y、z-x-yは酸素欠陥量を表す)で表される。
【0036】
Ti含有ペロブスカイト型酸水素化物を触媒としてアンモニア合成条件で使用した場合も、同様にBaTi(O,N,H)
3が生成し、触媒の安定化に寄与しているものと推測される。
【0037】
<第2工程;触媒前駆体の調製>
ペロブスカイト型酸水素化物担体への金属の担持は、含浸法により行う。原料として使用される金属化合物は塩化物をはじめとする化合物を使用する。特にペロブスカイト型酸水素化物の特異な性質を維持でき、分解が容易なカルボニル化合物又は錯体の使用が好ましい。例えば、触媒活性を示す金属としてRuを用いる場合は、ルテニウム化合物として、塩化ルテニウム、ルテニウムカルボニル、ルテニウムアセチルアセトナート、ルテニウムシアン酸カリウム、ルテニウム酸カリウム、酸化ルテニウム、硝酸ルテニウム等が挙げられる。これらの金属化合物はアセトン、テトラヒドロフラン等の極性有機溶媒、又は水に溶解させて溶媒溶液とする。ペロブスカイト型酸水素化物粉末をこの溶媒溶液に分散し、次いで、溶媒を蒸発させて、触媒前駆体を調製する。
【0038】
<第3工程;金属化合物の担持>
さらに、第2工程で得られた触媒前駆体を乾燥して、該粉末に触媒活性を示す金属化合物を担持した触媒を調製する。アンモニア合成反応に触媒を使用する前には、通常、水素還元処理を行うので次工程の金属化合物の還元工程を省略してもよい。
【0039】
<第4工程;金属粒子の担持>
第3工程の後に、さらに前記金属化合物を還元雰囲気中で加熱して還元するか真空中で熱分解して、該粉末表面にナノ金属粒子を担持させる。金属化合物を水素還元して該粉末表面にナノ金属粒子を形成する場合、水素還元温度は100℃〜700℃、好ましくは300℃〜600℃、水素還元時間は通常1〜5時間が好ましい。
【0040】
触媒活性を示す金属又は金属化合物の金属の担持量は金属として担体に対して0.1〜20wt%である。担持量0.1wt%未満では触媒活性が低く、担持量20wt%を超えると、担持量を増やしてもアンモニア合成活性の向上が認められない。触媒活性を示す金属として最も好ましいのはルテニウムであるが、高価な金属であるからルテニウムの場合、好ましくは0.1〜5wt%である。
【0041】
前記第3工程又は第4工程の後、触媒を窒素供給源物質の存在下で処理してペロブスカイト型酸水素化物に窒素を含有させる工程を有するようにしてもよい。この場合も、第1工程の後、第2工程の前にペロブスカイト型酸水素化物に予め窒化物イオンを導入する場合と同様に、Ti含有ペロブスカイト型酸水素化物をアンモニアガス又はN
2/H
2混合気流中で400〜600℃の低温に加熱すればよい。
【0042】
なお、ペロブスカイト型酸化物に触媒活性を示す金属粒子を先に担持した後に水素化物形成を行うことも可能であるが、その場合は該金属粒子のシンタリングが生じ、触媒活性が低下しやすいので、シンタリングをできるだけ抑制する必要がある。
【0043】
<アンモニアの合成>
本発明のアンモニア合成方法は、水素と窒素を含有するガスを原料として水素と窒素とを反応させるために、前記の触媒粉末を合成反応器内の触媒充填層に充填して、原料ガスを触媒粉末層上で反応させてアンモニアを合成する方法である。反応の代表的一形態は、従来のハーバー・ボッシュ法と同じく、窒素と水素の混合気体を加熱加圧下で直接反応させ、N
2+3H
2→2NH
3の反応よって生成したアンモニアを冷却又は水で吸収して分離する方法である。窒素及び水素ガスは、反応器内に設置した触媒粉末層に接触するように供給する。窒素及び水素ガスを供給する前に触媒の表面を水素ガス又は水素と窒素の混合ガスで還元処理を行い、担持された触媒表面に付着している酸化物等を除去することが好ましい。
【0044】
アンモニア合成反応はできるだけ水分を含有しない雰囲気、すなわち、水蒸気分圧0.1kPa程度以下の雰囲気である乾燥窒素及び水素中で行うのが好ましい。
【0045】
次に、原料の窒素と水素の混合ガス雰囲気下で触媒を加熱することによって、アンモニアを合成する。窒素と水素のモル比が約1/10〜1/1となる条件で行うことが好ましい。反応温度は室温以上〜500℃未満とする。反応温度は300〜350℃程度がより好ましい。反応温度が低いほど平衡はアンモニア生成に有利であり、十分なアンモニア生成速度を得ると同時に平衡をアンモニア生成に有利にするには上記範囲が好ましい。
【0046】
合成反応を行う際の窒素と水素の混合ガスの反応圧力は特に限定されないが、好ましくは10kPa〜20MPa、より好ましくは10kPa〜5MPaである。実用的な利用を考えると、大気圧から加圧条件での使用が可能であることが好ましい。したがって、実用上は、100kPa〜1.5MPa程度がより好ましい。
【0047】
反応装置は、バッチ式反応容器、閉鎖循環系反応装置、流通系反応装置のいずれでもかまわないが、実用的な観点からは流通系反応装置が最も好ましい。
【0048】
<本発明の触媒の機能>
本発明の触媒の機能を以下に説明するが、これは推定であって本発明の範囲を限定するものではない。本発明の触媒が優れた性能を示す理由は、担体中の水素化物イオンが原料の窒素分子、水素分子に及ぼす特異な機能によるものと考えられる。すなわち、不均一触媒は通常、炭素や金属酸化物担体の上に、金属触媒粒子を担持することにより構成される。触媒による酸化反応では金属酸化物が直接反応に加わることがあるが、様々な水素化反応では金属酸化物自身は担体として不活性であり、単に金属粒子の担持など、比較的間接的な役割を果たしていた。
【0049】
しかし、Ti含有ペロブスカイト型酸水素化物は300〜450℃前後で水素分子などのガス分子を直接解離させて担体上に優先的に吸着するとともに、水素化物イオンと窒素分子の変換反応により直接的に窒素分子を解離させる反応に加わると推測される。これによって金属粒子への水素蓄積による被毒を防ぐものと考えられる。このことは、従来の触媒担体と全く異なり、アンモニア合成条件下におけるヒドリド(H
-)を含有させたペロブスカイト型酸水素化物の未知の属性によるものと考えられる。
【0050】
以下に、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0051】
1.酸水素化物の合成
粒径が100nmから200nmの範囲に分布する市販のBaTiO
3粉末0.3gを3当量のCaH
2粉末とグローブボックス中で混合し、ハンドプレス器により錠剤整形した後、内部容量約15cm
3のガラス管へ真空封入し、500〜600℃で168時間(一週間)保持し水素化反応を行なって酸化物イオンの一部が水素化物イオンで置換されたBaTiO
2.5H
0.5粉末を合成した。
【0052】
2.Ru担持
合成したBaTiO
2.5H
0.5粉末をRu
3(CO)
12のTHF溶液に混合し3時間撹拌した後、減圧状態、40℃で溶媒を蒸発させて触媒前駆体を調製した。次いで、この前駆体を乾燥した後、ガラス管へ再び真空封入した後、390℃に3時間加熱しカルボニル化合物を熱分解してRu金属粒子を担持したRu/BaTiO
2.5H
0.5粉末を得た。得られたRu/BaTiO
2.5H
0.5粉末中のルテニウム担持量はRuとして1.0wt%であった。
【0053】
3.Ru担持触媒の形態
図5に、実施例1(
図5A)と比較例1(
図5B)で得られた触媒のTEM像を示す。TEM像から、実施例1の担体の粒子径が約100〜200nmであり、Ru粒子径は5nm前後であることが分かる。
【実施例2】
【0054】
1.酸水素化物の合成
実施例1のCaH
2粉末に代えてCaD
2(Dは、重水素)粉末を用いる以外は実施例1と同一の条件でヒドリドの濃度が高いBaTiO
2.4D
0.6粉末を合成した。CaD
2は、塊状のCaをD
2と600℃で30分反応させ、これを窒素雰囲気下で砕いた後、粉砕物を再びD
2と反応させ、この作業を3回繰り返し純粋な粉末を作成した。
2.Ru担持
この粉末に実施例1と同様にRuを担持させた。
【実施例3】
【0055】
1.酸水素化物の合成
実施例1と同一の条件でBaTiO
2.5H
0.5粉末を合成した。
2.Co担持
合成したBaTiO
2.5H
0.5粉末をCo(アセチルアセトナート)
3のTHF溶液に混合し3時間撹拌した後、減圧状態、40℃で溶媒を蒸発させて触媒前駆体を調製した。この触媒前駆体は、アンモニア合成評価装置の触媒充填層に充填して水素気流中で2時間還元してCo/BaTiO
2.5H
0.5触媒として用いた。
【実施例4】
【0056】
1.酸水素化物の合成
実施例1と同一の条件でBaTiO
2.5H
0.5粉末を合成した。
2.Fe担持
合成したBaTiO
2.5H
0.5粉末をFe(アセチルアセトナート)
3のTHF溶液に混合し3時間撹拌した後、減圧状態、40℃で溶媒を蒸発させて触媒前駆体を調製した。この触媒前駆体は、アンモニア合成評価装置の触媒充填層に充填して水素気流中で2時間還元してFe/BaTiO
2.5H
0.5触媒として用いた。
【0057】
<比較例1>
水素化反応を行なっていないBaTiO
3粉末に実施例1と同じ条件でRuを担持させてRu/BaTiO
3触媒を得た。
【0058】
<比較例2>
比較例1のBaTiO
3粉末の代わりにMgO粉末を用いた以外は実施例1と同じ条件でRuを担持させてRu/MgO触媒を得た。
【0059】
<比較例3>
比較例2で得たRu/MgOをCs
2CO
3のエタノール溶液で含浸してCs
2CO
3を熱分解してRu-Cs/MgO(Ru/Cs=1)触媒を得た。触媒中のRu-Cs担持量は1.0wt%であった。
【実施例5】
【0060】
<アンモニア合成>
図6に示すような、固定床流通式装置でアンモニア合成を行った。合成反応器として縦型反応管1を用い、その中央のガラスウール2上の触媒充填層に実施例1のRu/BaTiO
2.5H
0.5触媒(Ru 1 wt%)3を0.1g充填した。バルブ4を開、バルブ5,6,7を閉にして、反応管1内の温度を400℃とし、この触媒を水素気流中で2時間還元した。
【0061】
その後、一旦150℃程度以下まで降温してから再度昇温して200℃程度で、バルブ4,5,7を閉、バルブ6を開にしてガス流を切り替えて、ニードルバルブ8で流量を調整し、Ar/N
2/H
2混合ガス(Ar:N
2:H
2 =10:22.5:67.5)を縦型反応管1へ流し(流量;110ml/min)、より工業的条件に近づけるために背圧調整器9により縦型反応管1内の圧力を5.0MPa(50気圧)まで加圧して温度を徐々に400℃まで高めた。生成されたアンモニアは質量分析計10で定性的に確認し、オイルバブラー(流量計)11を経て水にトラップした後にアンモニア選択電極12で定量して大気中に排出した。
【0062】
図7に、実施例1の触媒を用いたアンモニア生成評価の結果を示す。
図7の横軸は、相対時間(Relative Time)、縦左軸は、イオン電流(Ion current)、縦右軸は、反応温度(Temperature)であり、200℃〜400℃の間の温度の推移を点線で示す。NH
3生成量は温度の上昇と共に増大し、その後400℃に温度を一定で保持している間も、NH
3の生成速度は衰えなかった。
【0063】
<触媒活性の比較>
実施例2、3、4、比較例1〜3の触媒についても実施例1の触媒のアンモニア合成評価(H
2/N
2=3,流量;110ml/min)と同様に評価した。
図1、
図2に、アンモニア合成反応における様々な触媒の活性をNH
3合成速度(mmolg
-1h
-1)により比較した。
図1のグラフでは、実施例1のRu/BaTiO
2.5H
0.5触媒よりも実施例2のBaTiO
2.4D
0.6の方が活性が高く、これは担体中のヒドリド濃度が高いほど活性が高いことを示している。実施例1及び実施例2のいずれも、水素化反応を行なっていないBaTiO
3粉末にRuを担持させた比較例1のRu/BaTiO
3触媒に比べて著しく高い触媒活性を示した。比較例3のRu-Cs/MgO触媒は以前から活性が高い触媒として報告されており、本発明の触媒は、これを上回る活性を確認できた。
図2のグラフでは、実施例3、4のCo、Feを担持した触媒は、Ru/BaTiO
2.5H
0.5触媒ほど活性は高くないものの、酸水素化物担体を使用したことにより、活性が著しく向上した。
【0064】
図3のグラフでは、Ru-Cs/MgOやRuエレクトライド触媒Ru/C12A7:e-)などの従来報告されている代表的な触媒の触媒活性(文献値 M.Kitano et al., Nat.Chem., 4, 934-940, 2012)をNH
3合成速度(mmolg
-1h
-1)により比較している。文献値は、加圧条件が0.1MPaで、流量;60ml/minである点で実施例1、2、3、4、比較例1、3の評価条件(加圧条件が5.0MPaで、流量;110ml/min)と相違するので、実施例1、2、3、4、の触媒の触媒活性とRu-Cs/MgOやRu/C12A7:e
-触媒の触媒活性との単純な比較はできないが、比較例3のRu-Cs/MgOは、従来報告されている代表的な触媒の中では抜きん出て触媒活性が大きく、Ru/C12A7:e-に次いで大きいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の触媒は、水素と窒素を含有するガスを原料としてアンモニアを工業的に合成する方法において、各種の担体を用いるRu触媒に代えて、汎用的なTi含有ペロブスカイト型酸化物を利用して、水素化物形成工程を追加するだけで、従来の高圧反応条件に代えて低圧での使用でも触媒活性を著しく向上させた触媒を得ることができるので、少ないエネルギーで高効率でアンモニアを合成できる。