【文献】
HARVEY R S J; REFFITT D M; DOIG L A; ET AL,FERRIC TRIMALTOL CORRECTS IRON DECIENCY ANAEMIA IN PATIENTS INTOLERANT OF IRON INTRODUCTION,ALIMENTARY PHARMACOLOGY & THERAPEUTICS,1998年 9月 1日,VOL:12, NR:9,PAGE(S):845 - 848,URL,http://dx.doi.org/10.1046/j.1365-2036.1998.00380.x
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トリマルトール鉄(III)及び賦形剤を含む、貧血を伴う又は伴わない鉄欠乏の治療又は予防に使用するための製剤であって、トリマルトール鉄(III)は、30mg元素鉄製剤として空腹時に1日2回経口投与され、トリマルトール鉄(III)の割合はトリマルトール鉄(III)と賦形剤の総合重量の少なくとも60%であり、貧血を伴う又は伴わない鉄欠乏が、最大4の簡易臨床的大腸炎活動指数(SCCAI)又は最大220のクローン病活動指数(CDAI)を有することによる活動性炎症性疾患又は急性慢性炎症の結果であるか又はそれに伴うものである、前記製剤。
トリマルトール鉄(III)の30mg元素鉄製剤が12週間後に、30mg〜120mg元素鉄の範囲で1日1回、又は2日、3日、4日、5日、6日もしくは7日に1回投与される、請求項3に記載の製剤。
トリマルトール鉄(III)及び賦形剤を含む、貧血を伴う又は伴わない鉄欠乏の治療又は予防に使用するための製剤であって、トリマルトール鉄(III)は、30mg元素鉄サイズ1カプセルとして空腹時に1日2回、1回は朝食前及び1回は就寝前に最大12週間経口投与され、トリマルトール鉄(III)の割合はトリマルトール鉄(III)と賦形剤の総合重量の少なくとも60%であり、貧血を伴う又は伴わない鉄欠乏が、最大4の簡易臨床的大腸炎活動指数(SCCAI)又は最大220のクローン病活動指数(CDAI)を有することによる活動性炎症性疾患又は急性慢性炎症の結果であるか又はそれに伴うものである、前記製剤。
【背景技術】
【0002】
鉄欠乏性貧血は、低い血中鉄濃度を特徴とし、食事からの鉄摂取不足、又は消化管もしくは尿路の疾患、例えばクローン病及び潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患に起因する内出血による鉄の損失が原因となりうる。潰瘍性大腸炎は大腸を冒す慢性炎症性疾患で、貧血は潰瘍性大腸炎の深刻な合併症及び症状と認識されている。炎症性腸疾患(IBD)における鉄欠乏性貧血(IDA)は、主に、炎症を起こした粘膜からの慢性失血及び/又は疾患の活動期のみならず非活動期における鉄の吸収不良によって引き起こされる(1)。IBD患者の食事制限及び高選択食は、食事からの摂取不足をもたらすことが多い上に、消化管の粘膜の炎症も不適切な栄養吸収を招きうる(2)。IBDにおけるIDAの特徴的な症状は、慢性疲労、頭痛及び認知機能障害などである。
【0003】
貧血を伴わない鉄欠乏も、患者及び個人に対して臨床的帰結を有することが示されている。鉄は、多くの細胞内プロセスの重要成分であり、鉄欠乏又は鉄欠乏補正の影響は、慢性心不全、小児の成長、行動及び学習、ならびに高齢者の認知機能において報告されている。鉄欠乏を治療しないまま放置すると、鉄欠乏性貧血を招きかねない。
【0004】
典型的には、鉄欠乏性貧血の治療は、300mgの錠剤(60mgの元素鉄)として1日3〜4回経口投与される鉄(II)(Fe
2+)塩(例えば硫酸鉄(II))の形態で行われる。しかしながら、十二指腸は1日最大10〜20mgの鉄しか吸収できないので、摂取した鉄の90%以上は吸収されず、胃腸粘膜における毒性、腹痛、吐き気、嘔吐、便秘、下痢及び暗色便などの症候性有害事象をもたらす。これらはいずれも用量依存性の症状であり、治療の順守不良につながる。
【0005】
さらに、鉄(II)錠が上部消化管に引っかかると、接触刺激が起きて、びらん又は潰瘍形成を起こす可能性もある。よって、鉄(II)を用いた治療は、特に消化管に既に相当な損傷を受けているIBDに罹患した患者では耐容性が低く、服薬順守不良を招く(3−4)。実際、そのような患者を鉄(II)製剤で治療すると、彼らの状態をしばしば悪化させうるので、そのような患者の治療は鉄の静脈内投与により行われることになる。
【0006】
経口鉄(III)(Fe
3+)塩を用いた代替治療も、酸性環境の胃から小腸に通過する際に不溶性キレートが形成されやすいため、鉄の吸収不良をもたらす。このため、鉄欠乏性貧血の現在の経口治療に伴う上記問題を克服することが求められている。特に、鉄(II)組成物に耐容性のない患者に対する、経口投与による新規の鉄ベースの治療の開発が求められている。
【0007】
ST10は、トリマルトール鉄(III)及びマルトール鉄(III)とも呼ばれるが、鉄(III)(Fe
3+)とマルトール(3−ヒドロキシ−2−メチル−4−ピロン)との間で形成された化学的に安定な錯体で、経口鉄(II)製品の代替として開発され、硫酸鉄(II)不耐症の病歴を有する対象において、鉄欠乏を補正することが示されている(5)。ST10は、粘液層及び腸壁からの取込みのために生物学的に不安定な形態の鉄を提供し、鉄を消化管で利用可能にする(5)。鉄はキレートの形態で安定化されているので低毒性である。従って、その高いバイオアベイラビリティとも相まって、低用量の元素鉄が投与されることにより、毒性及び患者の服薬順守が改良される。
【0008】
Harveyら(6)は、消化器科の診療所から集めた患者への1回量30mgのST10の1日2回投与について報告したが、活動性炎症性疾患を呈している患者は研究から除外している。
【0009】
発明者らは、特定の投与計画と錠剤処方(tablet formulation)の組合せが、これまで経口鉄(II)製品に不耐症であった、貧血を伴う又は伴わない鉄欠乏に苦しむ患者、さらにはクローン病又は潰瘍性大腸炎に由来する貧血に苦しむ患者のヘモグロビン濃度に驚くべき改善をもたらしたことを見出した。これらの結果は、4週間という短い治療期間後でも臨床的に意義があると報告され、ST10が、IBD患者の鉄欠乏性貧血の有効な療法であり、副作用も少なく服薬順守も改良されて12週間以上にわたって安全に投与できることを裏付けている。さらに、発明者らは、鉄(II)治療に伴う一般的な副作用、例えば腸関連の副作用の減少、暗色便の減少及び制酸薬治療との適合性も観察した。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第一の側面に従って、貧血を伴う又は伴わない鉄欠乏の治療又は予防に使用するためのST10を提供し、ST10は、30mg製剤として空腹時に1日2回経口投与され、前記30mg製剤は少なくとも60%のST10を含む。
【0016】
本発明の一態様において、炎症性腸疾患における鉄欠乏性貧血の治療又は予防に使用するためのST10を提供し、ST10は、30mg製剤として空腹時に1日2回経口投与され、前記30mg製剤は少なくとも60%のST10を含む。
【0017】
ST10は、トリマルトール鉄(III)及びマルトール鉄(III)としても知られ、下記化学構造に従い、鉄(III)(Fe
3+)とマルトール(3−ヒドロキシ−2−メチル−4−ピロン)との間で形成された化学的に安定な錯体である。
【0018】
【化1】
鉄とヒドロキシピロンのモル比は1:3である。
【0019】
マルトールは天然糖誘導体で、フレーバー増強剤として食品産業で使用されている。
ST10は、30mg用量として投与できる。ここで、30mgとは、用量中の元素鉄の量のことである。30mgの元素鉄(Fe
3+)に相当するST10の量は231.5mgである。
【0020】
用量には、様々な量のその他の賦形剤、例えば、ラクトース一水和物、ラウリル硫酸ナトリウム、クロスポビドン、コロイド状二酸化ケイ素、コロイド状二酸化ケイ素及びステアリン酸マグネシウムが含まれうる。
【0021】
ST10製剤は、カプセル又は錠剤内に含めることができ、薬学的に許容可能な担体、例えば経口投与の観点から選ばれる適切な希釈剤、賦形剤又は担体と混合されうる。ST10は、経口用の非毒性不活性担体、例えば、ラクトース、ゼラチン、寒天、デンプン、スクロース、グルコース、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、マンニトール、ソルビトール及び微結晶性セルロースと組み合わせることができる。適切なバインダは、デンプン、ゼラチン、天然糖、例えばグルコース又はベータ−ラクトース、コーンスターチ、天然及び合成ガム、例えばアカシア、トラガカント、又はアルギン酸ナトリウム、ポビドン、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール及びワックスなどである。これらの剤形に使用される滑沢剤は、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ステアリン酸、フマル酸ステアリルナトリウム、及びタルクなどでありうる。崩壊剤は、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガム、クロスカルメロースナトリウム、及びデンプングリコール酸ナトリウムなどであるが、これらに限定されない。
【0022】
一態様において、30mgのST10製剤は、
231.5mgのST10
91.5mgのラクトース一水和物
3.0mgのラウリル硫酸ナトリウム
9.0mgのクロスポビドン
0.6mgのコロイド状二酸化ケイ素
3.0mgのステアリン酸マグネシウム
を含む。
【0023】
別の側面において、30mgのST10製剤は、
231.5mgのST10
80〜110mgのラクトース一水和物
3.0mgのラウリル硫酸ナトリウム
9.0mgのクロスポビドン
0.6mgのコロイド状二酸化ケイ素
3.0mgのステアリン酸マグネシウム
を含む。
【0024】
ST10の割合はST10と賦形剤の総合重量の少なくとも60%である。
ST10製剤は、カプセル内に含めることができる。一例において、カプセルは硬質ゼラチンカプセルである。
【0025】
発明者らは、製剤中のラクトース一水和物の量を著しく削減することにより、ST10活性成分の効能及び吸収を損なうことなくカプセルの全体的サイズを低減できることを見出した。新規カプセル製剤は、小型化し、投与が容易になるので、それによって患者の服薬順守及び耐容性が改良される。
【0026】
カプセルのサイズは、ST10及び賦形剤を効果的に含有するために変動しうる。例えば、カプセルサイズは、サイズ1カプセルと定義でき、およそ0.5mlの容量、およそ19.4mmの長さ及びおよそ6.91mmの直径を有する。これらの寸法のわずかな変動は本発明の範囲内である。
【0027】
30mgのST10製剤は、経口用製剤として、例えば錠剤又はカプセル製剤として投与できる。一例において、30mgのST10製剤は、サイズ1カプセルとして投与される。
【0028】
誤解を避けるために述べると、本明細書において患者へのST10用量の投与と言うときは、哺乳動物、好ましくはヒトへの投与のことを言う。
30mgのST10製剤は、毎日又は起きている時間の二つの別個の機会に1日2回経口投与できるが、ただしカプセルは空腹時に摂取される。これは、ST10が食品要素と沈殿物を形成する可能性を削減するためである。一例において、ST10用量は、朝食前に1回及び就寝前に1回投与される。1日のこのような時間帯における投与は、患者の服薬順守を改良し、過剰な鉄に起因する副作用のリスクを低減することが知られている。空腹時の投与は、元素鉄の用量の低減とその結果としての耐容性の改良を可能にするので、副作用の低減と患者の服薬順守に顕著な改良を提供する。一方、鉄(II)は、随伴する胃腸症状を遮蔽するために食品と共に摂取されねばならないため、かなり大量の日用量が投与されることになる。
【0029】
一態様において、ST10用量は経口投与される。ST10用量は、固体剤形として投与されても又は液体製剤として投与されてもよい。適切な液体製剤の例はGB1404390.5に提供されている。
【0030】
30mgのST10製剤は、1日1回、又は2日、3日、4日、5日、6日もしくは7日に1回投与できる。
30mgのST10製剤は、10mg〜120mgの範囲で、1日1回、又は2日、3日、4日、5日、6日もしくは7日に1回投与できる。
【0031】
発明者らは、ST10治療に伴って、これまでに報告されていない一定の有益効果が観察されたことを見出した。特に、実施例1の試験の患者は黒色便を報告しなかったことが注目された。黒色便は、鉄(II)治療の一般に認められた副作用で、消化管及び糞便中の過剰鉄によって起こる。この観察は、疾患の監視及び予後の点で著しい利益を提供する。特に、IBDを患い、上部消化管出血のある患者、又は上部消化管(GI)源からの出血(例えば食道静脈瘤;胃潰瘍)に続発するIDAを有する対象にとっては、医師が消化器疾患に関連する出血と鉄(II)治療に由来する消化管内の過剰鉄とを識別できるので、有益である。従って、ST10治療は、医師が黒色便を疾患の病因と関連付けることを可能にするので、現在進行中の長期又は維持治療に適している。
【0032】
さらに、当然のことながら、ST10は、嚥下されて腸壁から吸収されるので、通常の生理的経路を通じて鉄を供給する。従って、ST10から吸収された鉄は、通常の生理的制御下にあり、正常濃度の鉄を有する対象では腸細胞の管腔表面で利用できる鉄輸送タンパク質が少ないことにより、下方制御(ダウンレギュレート)される。このようにして、鉄の過負荷及び毒性は、従来の鉄(II)治療とは違って、ST10では潜在的リスクにならない。鉄の過負荷のリスクの低さは、ST10を使用する長期維持治療にとって別の利益を提供し、過剰投与の場合も別の安全性利益を提供する。鉄治療は、妊娠可能年齢の女性に対しても普通に処方されるので、過剰投与の場合、小児安全性に対するリスクがある。このリスクは、ST10の場合、小児に過剰投与されると肝不全のために死亡をもたらしかねない鉄(II)製品と比べて、元素鉄の量がかなり少ないので著しく削減される。
【0033】
30mgのST10製剤は、鉄濃度が正常値に増加するまで、4週間の期間、3週間の期間又は2週間の期間投与できる。30mgのST10製剤は、鉄濃度が正常値に増加するまで任意の期間投与できる。例えば、30mgのST10用量は、最大16週間投与できるが、必要に応じてそれより長く投与されてもよい。
【0034】
30mgのST10製剤は、維持用量として無期限に投与されてもよい。
一態様において、ST10は、炎症性腸疾患における鉄欠乏性貧血の治療又は予防に使用されるためのものであり、前記ST10は、30mgのサイズ1カプセルとして空腹時に1日2回、1回は朝食前及び1回は就寝前に最大12週間経口投与され、ST10の割合は、ST10と賦形剤の総合重量の少なくとも60%である。
【0035】
別の態様において、ST10は、貧血を伴う又は伴わない鉄欠乏の治療又は予防に使用されるためのものであり、前記ST10は、30mgのサイズ1カプセルとして空腹時に1日2回、1回は朝食前及び1回は就寝前に最大12週間経口投与され、ST10の割合は、ST10と賦形剤の総合重量の少なくとも60%である。
【0036】
ST10は併用療法にも適している。例えば、月経過多を患う妊娠可能女性の貧血を治療するために、鉄補充とホルモン避妊錠を併用することは知られている。そのような併用は、鉄(II)と併用された場合、胃腸の副作用が服薬不履行を招きかねないため、服薬不履行のリスク及び妊娠のリスクを抱える。ST10は、鉄(II)で見られる副作用が観察されないので、ホルモン避妊錠と安全に併用できる。
【0037】
ST10は、月経過多を患う女性の鉄欠乏性貧血の治療又は予防に使用される。
この側面において、ST10は、本明細書中に記載された前記側面のいずれかに従って投与できる。
【0038】
ST10は、制酸薬治療、例えば、カルシウム、マグネシウム、及びプロトンポンプ阻害薬(PPI)を含有する化合物と同時に投与することもできる。ST10用量は、胃酸産生の減少又は欠如をもたらす疾患又は状況、例えば胃切除術後、高齢者又は萎縮性もしくは自己免疫性胃炎においても投与できる。これに対し、鉄(II)錠剤は、胃のpH上昇薬と共に摂取されるべきでない。pH上昇薬は、鉄(II)製品からの鉄のバイオアベイラビリティを低下させるからである。
【0039】
本明細書中に記載のST10用量は、貧血を伴う又は伴わない鉄欠乏の治療に有用である。誤解を避けるために述べると、貧血を伴う又は伴わない鉄欠乏とは、鉄欠乏を伴うすべての疾患及び状態に関し、それらのためには鉄を用いた治療が治療上有益となる。そのような疾患は、合併症又は症状として鉄欠乏があると認識されている疾患である。鉄欠乏は、鉄欠乏症(sideropenia)又は低鉄血症(hypoferremia)とも呼ばれ、長期間の不適切な鉄摂取に由来する。この病状は、潜在性鉄欠乏(Latent Iron deficiency,LID)又は鉄欠乏性赤血球生成(Iron-deficient Erythropoiesis,IDE)と呼ばれている。
【0040】
鉄欠乏の症状は、鉄欠乏性貧血の前に顕在化しうる。例えば、疲労、脱毛、(筋肉の)単収縮、過敏性、めまい、脆弱爪又は亀裂爪、異食症及び氷食症などの食欲障害、免疫機能障害、慢性心不全、小児における成長、行動及び学習、高齢者における認知、及びプランマー・ヴィンソン症候群(PVS)などであるが、これらに限定されない。
【0041】
本明細書中に記載の試験は、活動性炎症性疾患又は急性慢性炎症を有する被験者の治療について報告している。以前に報告された研究では、一部の患者は、IL−10、リポ多糖、TNF−アルファ及びヘプシジンなど、慢性炎症状態におけるサイトカインの産生が多数の機序を介して細網内皮系における鉄の取込みと貯蔵を増大し、腸管からの鉄の取込みを削減するように作用するため、除外された。クローン病及び潰瘍性大腸炎のような炎症性腸疾患(IBD)は、上記のように活動状態又は再燃状態のことも、又は寛解状態のこともある。一番最近の臨床試験(実施例1に記載の通り)に集められた患者は、一般に認められ有効性が確認されたIBD疾患活動度スケールによる測定で、IBDの様々な炎症状態を示していた。潰瘍性大腸炎患者は簡易臨床的大腸炎活動指数(Simple Clinical Colitis Activity Index,SCCAI)が最大4でなければならず、クローン病患者はクローン病活動指数(Crohn’s Disease Activity Index,CDAI)が最大220であり、従って試験への参加時点で軽度又は中等度の疾患を有していると分類された。全患者集団における疾患の活動度は、被験者のおよそ3分の1が抗TNF生物学的療法の治療を受けていたという点からも明らかである。
【0042】
被験者は、最大4の簡易臨床的大腸炎活動指数(SCCAI)又は最大220のクローン病活動指数(CDAI)を有することによって、活動性炎症性疾患又は急性慢性炎症を有すると特徴付けることができる。
【0043】
鉄欠乏性貧血を伴う状態は、慢性腎疾患(CKD)、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ、血液がん(例えばホジキン病)、慢性細菌感染(例えば骨髄炎)、ウィルス性肝炎、HIV、AIDS、消化管の疾患、例えばクローン病及び潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患(IBD)などであるが、これらに限定されない。
【0044】
一態様において、本明細書中に記載の30mgのST10用量は、貧血を伴う又は伴わない鉄欠乏の治療に有用である。ここで、鉄欠乏は、活動性炎症性疾患又は急性慢性炎症の結果であるか又はそれに伴うものである。
【0045】
さらなる態様において、活動性炎症性疾患又は急性慢性炎症の治療又は予防に使用するためのST10を提供し、ST10は、30mg製剤として1日2回経口投与される。
さらなる例において、貧血を伴う又は伴わない鉄欠乏の治療又は予防に使用するためのST10を提供し、鉄欠乏は、活動性炎症性疾患又は急性慢性炎症の結果であるか又はそれに伴うものであり、ST10は、1日2回、30mg用量として経口投与され、ST10の割合はST10と賦形剤の総合重量の少なくとも60%である。
【0046】
活動性炎症性疾患又は急性慢性炎症の存在は、医師が、例えば一般に認められたUC及びCD臨床的疾患活動度スケール(SCCAI及びCDAI)などの公知法を用いて決定できる。
【0047】
別の態様において、本明細書中に記載の30mgのST10用量は、慢性腎疾患(CKD)の治療に有用である。この状態の認められた症状の一つは、貧血を伴う又は伴わない鉄欠乏であるので、本明細書中に記載のST10投与は、既に一つ又は複数のその他の投薬治療を受けている対象に対し、安全で有効かつ管理可能な治療を提供する。
【0048】
別の側面において、本発明は、炎症性腸疾患に伴う鉄欠乏性貧血を患う患者の治療法に関し、該方法は、患者に30mgのST10製剤を空腹時に経口投与することを含む。ここで、ST10の割合は、ST10と賦形剤の総合重量の少なくとも60%である。
【0049】
一態様において、貧血を伴う又は伴わない鉄欠乏に苦しむ患者の治療法を提供し、該方法は、患者に30mgのST10製剤を空腹時に経口投与することを含む。ここで、ST10の割合は、ST10と賦形剤の総合重量の少なくとも60%である。
【0050】
IBDのほかに、ST10は、鉄欠乏をもたらす疾患、例えば、これらに限定されないが、尿路及び腎機能に関連する疾患の治療にも用途を有している。
別の側面において、本発明は、231.5mgのST10と一つ又は複数の賦形剤とを含む30mgのST10製剤にも関する。ここで、ST10の割合は、ST10と賦形剤の総合重量の少なくとも60%である。
【0051】
30mgのST10製剤は、
231.5mgのST10
91.5mgのラクトース一水和物
3.0mgのラウリル硫酸ナトリウム
9.0mgのクロスポビドン
0.6mgのコロイド状二酸化ケイ素
3.0mgのステアリン酸マグネシウム
を含みうる。
【実施例】
【0052】
実施例1
IDAを患う患者128人を無作為抽出した。この群のうち、67人はクローン病を患い、53人は潰瘍性大腸炎を患っていた。全員、軽度から中等度の疾患活動度と、低ヘモグロビン濃度(女性9.5〜12g/dL、男性13g/dL)に従って測定されたIBDに伴う貧血とを有し、鉄(II)に不耐容であるか、又は鉄(II)は使用できなかった。胃のpHを変更する薬剤又は投薬治療の使用に対する制限はなかった。
【0053】
60人の患者を、30mg用量のST10で朝食前及び就寝前の空腹時に1日2回、12週間処置した。60人の患者は、対応(matched)プラセボカプセルを投与され、同じ期間同じように処置された。12週間の前に、試験からの脱落が7人のST10被験者及び9人のプラセボ被験者に発生した。87%の被験者が12週間の処置を完了した。
【0054】
結果
平均Hb濃度は、ST10処置被験者で、ベースライン(平均Hb濃度11.10g/dL[SD 1.03)]から第12週(平均Hb濃度13.20g/dL[SD 1.04])までに2.26g/dL増加した。一方、プラセボ処置被験者では、ベースライン(平均Hb濃度11.10g/dL[SD 0.85)]から第12週(平均Hb濃度11.15g/dL[SD 1.04])までに変化はなかった。ST10群の結果は、2.25g/dL(p<0.0001)の平均改善を示し、第12週のプラセボと比較したST10のベースラインからの変化を表している。ST10で処置された被験者の65%超が第12週までに正常化されたヘモグロビン濃度を経験した。ST10群は、療法の第4週(1.05g/dL、p<0.0001)及び第8週(1.75g/dL、p<0.0001)でも顕著なヘモグロビン濃度の改善を示した。
【0055】
試験で記録された有害事象は、主に胃腸性のもので、ST10処置群にプラセボと同様の頻度で発生した(ST10処置被験者の38%及びプラセボ処置被験者の40%)。
128人中109人の被験者を30mgのSTで1日2回、最大64週間処置した。有害反応は被験者の23%に見られ、最も高頻度の反応は胃腸症状であった(腹痛、鼓腸便秘及び下痢)。
【0056】
ベースラインの疾患活動度スコア(SCCAI及びCDAI)は、Hb補正の程度に関連せず、また、患者が抗TNF療法を受けているかどうかにも関連しなかった。
これらの結果から、ST10用量による処置は、IBDの症状に悪影響を及ぼさず、処置期間の間、良好な耐容性を示すと結論づけられる。
【0057】
実施例2
これらの試験は主に薬物動態に関するもので、活動性炎症性疾患又は急性慢性炎症を有する鉄欠乏被験者で実施された。非盲検無作為化単回及び反復投与並行群間第I相薬物動態試験を実施し、30mg、60mg及び90mgのST10の単回及び反復1日2回(bid)8日間の経口投与の効果を評価した。
【0058】
24人の鉄欠乏被験者(貧血を伴う又は伴わない)を以下のように3種類のST10用量群の一つに無作為に割り付けた。
第1群:9人の被験者に30mgのST10を1日2回7日間(1〜7日目)+最終30mg用量を8日目の朝に投与。
第2群:8人の被験者に60mgのST10を1日2回7日間(1〜7日目)+最終60mg用量を8日目の朝に投与。
第3群:7人の被験者に90mgのST10を1日2回7日間(1〜7日目)+最終9 0mg用量を8日目の朝に投与。
【0059】
1日目、事前に少なくとも1.5〜2時間の絶食後、ST10を投与し(30mg、60mg又は90mg)、血液サンプルを分析のためにその後6時間にわたって採取した。60mgは2個の30mgカプセルとして投与され、90mgは3個の30mgカプセルとして投与されたが、いずれも1回量としてであった。被験者は、1日目の夕方、次いでその後6日間(2〜7日目)、毎朝及び毎夕、ST10の服用を続けた。
【0060】
8日目、事前に少なくとも1.5〜2時間の絶食後、最後のST10を投与し(30mg、60mg又は90mg)、血液サンプルを分析のためにその後6時間にわたって採取した。
【0061】
1日目及び8日目、血液サンプルを、投与前(0h=ST10投与の時間)と、投与後5分(NTBIのみ)、15分、30分、45分、及び1、1.5、2、3、4及び6時間に採取した。
【0062】
血清中のトランスフェリン、総鉄結合能(TIBC)、フェリチン及び可溶性トランスフェリン受容体の濃度;及び全血中の網状赤血球ヘモグロビン濃度(CHr)を、適切に認証された方法を用い、中央研究所で測定した。
【0063】
これらの試験は、腸管から輸送機構への鉄取込みの測定としてトランスフェリン飽和及び総血清鉄を使用した。さらに、投与期間終了時点の鉄貯蔵状態の測定として血清フェリチンを使用した。これらの測定はすべて標準的なものであり、良く知られている。
【0064】
60mg用量群の一人の被験者が7日目に試験から早期脱落したので、すべての血清鉄パラメーターの完全プロフィールは、30mg用量群で9人の被験者(1日目及び8日目)、60mg用量群で1日目に8人の被験者と8日目に7人の被験者、及び90mg用量群で7人の被験者(1日目及び8日目)について得られた。
【0065】
結果
総鉄血清濃度及び総鉄結合能
総鉄の最大血清濃度は、投与後2〜3時間で到達した。最初、血清中の総鉄濃度にわずかな低下が観察された後、30mg、60mg及び90mgの用量群で、1日目に平均してそれぞれ32.3、49.1及び48.7μmol/Lに増加した。血清中総鉄濃度は、t
max(最大観察被検体濃度に到達するまでの時間)に到達後は徐々に低下し、平均血清濃度は、30mg、60mg及び90mgの用量群で、1日目、投与後6時間で、ベースラインよりそれぞれ11.8、33.0及び24.3μmol/L高かった。同様の血清濃度が8日目に測定された(
図1及び2)。
【0066】
総鉄結合能は、時間が経過しても用量群間でもかなり一定に保たれ、平均濃度はおよそ70μmol/L、個別値は47〜101μmol/Lの範囲であった。
この結果は、30mg以上の用量が良好な耐容性を示し、高レベルの鉄吸収を可能にすることを示している。
【0067】
トランスフェリン及びトランスフェリン飽和(TSAT)
トランスフェリンは血漿中で鉄を可逆的に結合し、トランスフェリン受容体への結合を通じて鉄を細胞に輸送している。血漿中トランスフェリン濃度の増加は、鉄欠乏性貧血の指標である。
【0068】
TSATの最大血清値は、投与後2〜3時間で到達した。トランスフェリン飽和値は、30mg、60mg及び90mgの用量群で、1日目にそれぞれ45.6、69.8及び67.3%の平均値にまで徐々に増加した。トランスフェリン飽和は、t
max(最大観察被検体濃度に到達するまでの時間)に到達後は徐々に低下し、血清値は、30mg、60mg及び90mgの用量群で、1日目、投与後6時間でベースラインよりそれぞれ17.0、47.3及び33.3%高かった(
図3)。同様のTSAT血清値が8日目に測定された(
図4)。
【0069】
可溶性トランスフェリン受容体は、時間が経過しても用量群間でもかなり一定に保たれ、平均濃度はおよそ4mg/L、個別値は1.8mg/L〜9.3mg/Lの範囲であった。可溶性トランスフェリン受容体濃度は鉄処置に応答して低下する。
図5は、60mgと90mgの用量間に差がないことを示しているが、これに比べて、sTFrの濃度は30mg用量で著しく高く、30mg以上の用量が良好な耐容性を示し、有効であるという知見を裏付けている。
【0070】
フェリチン濃度
フェリチンは、鉄を可溶性及び非毒性形で貯蔵する細胞内タンパク質で、少量が血清中に分泌され、そこでは鉄担体として機能する。従って、血漿フェリチンは、体内に貯蔵されている鉄の総量の間接的マーカーとなるので、鉄欠乏の検出に使用できる。高いフェリチン濃度は、過剰鉄の存在、従って鉄欠乏の補正を示す。
【0071】
平均フェリチン濃度は、個別の濃度時間プロフィールにわたってかなり一定に保たれ、フェリチン血清濃度は1日目より8日目の方が高かった。30mg、60mg及び90mgの用量群の平均血清フェリチン値は、それぞれ、1日目におよそ15μg/L、10μg/L及び13μg/L、8日目に22μg/L、22μg/L及び32μg/Lであった。
【0072】
8日目、結果は、30mg用量と比べて60mg及び90mgの用量で血清中フェリチン濃度が高かったことを示している(
図6)。
網状赤血球ヘモグロビン(Hb)
本試験では網状赤血球ヘモグロビンを測定した。網状赤血球は幼若赤血球で、骨髄で形成されるが、循環血中にも見られる。それらは赤血球質量の5%未満にしか相当しないが、総ヘモグロビンの変化の早期指標となる。
【0073】
網状赤血球すなわち幼若赤血球の数の少なさは、貧血の存在のマーカーであるので、ヘモグロビン濃度の測定は、貧血の治療の進行をモニターすることを可能にする。
【0074】
【表1】
この試験で、我々はすべてのST10の用量が網状赤血球ヘモグロビンを増加させたことを観察した(表1)。
【0075】
8日間にわたって見られた網状赤血球中のヘモグロビン(Hb)含有量の改善率は、正常な生理的機能への鉄の取込みを示す証拠であるので、投与された用量に伴う臨床的利益と解釈される。
本発明の態様
態様1 貧血を伴う又は伴わない鉄欠乏の治療又は予防に使用するためのST10であって、前記ST10は、30mg製剤として空腹時に1日2回経口投与され、ST10の割合はST10と賦形剤の総合重量の少なくとも60%であるST10。
態様2 鉄欠乏が炎症性腸疾患における鉄欠乏性貧血である、態様1に記載の使用。
態様3 炎症性腸疾患がクローン病である、態様2に記載の使用。
態様4 炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎である、態様2に記載の使用。
態様5 前記ST10の30mg製剤が1日2回、1回は朝食前及び1回は就寝前に投与される、態様1〜4に記載の使用。
態様6 ST10の30mg製剤が最大12週間投与される、前記態様のいずれかに記載の使用。
態様7 ST10の30mg製剤がその後、10mg〜120mgの範囲で1日1回、又は2日、3日、4日、5日、6日もしくは7日に1回投与される、態様6に記載の使用。
態様8 ST10の30mg製剤が維持用量として無期限に投与される、態様1〜5に記載の使用。
態様9 ST10の30mg製剤がサイズ1カプセルである、前記態様のいずれかに記載の使用。
態様10 ST10の30mg製剤が、
231.5mgのST10
91.5mgのラクトース一水和物
3.0mgのラウリル硫酸ナトリウム
9.0mgのクロスポビドン
0.6mgのコロイド状二酸化ケイ素
3.0mgのステアリン酸マグネシウム
を含む、前記態様のいずれかに記載の使用。
態様11 貧血を伴う又は伴わない鉄欠乏の治療又は予防に使用するためのST10であって、前記ST10は、30mgのサイズ1カプセルとして空腹時に1日2回、1回は朝食前及び1回は就寝前に最大12週間経口投与され、ST10の割合は、ST10と賦形剤の総合重量の少なくとも60%であるST10。
態様12 貧血を伴う又は伴わない鉄欠乏が、活動性炎症性疾患又は急性慢性炎症の結果であるか又はそれに伴うものである、前記態様のいずれかに記載の使用。
態様13 貧血を伴う又は伴わない鉄欠乏に苦しむ患者の治療法であって、該方法は、患者に30mgのST10製剤を空腹時に1日2回経口投与することを含み、ST10の割合はST10と賦形剤の総合重量の少なくとも60%である方法。
態様14 30mgのST10製剤であって、231.5mgのST10と一つ又は複数のその他の賦形剤とを含み、ST10の割合はST10と賦形剤の総合重量の少なくとも60%である30mgのST10製剤。
態様15 30mgのST10製剤であって、
231.5mgのST10
91.5mgのラクトース一水和物
3.0mgのラウリル硫酸ナトリウム
9.0mgのクロスポビドン
0.6mgのコロイド状二酸化ケイ素
3.0mgのステアリン酸マグネシウム
を含む30mgのST10製剤。