【文献】
FRIEDRICH R. et al.,Nature,Vol.425(2003),pp. 535-539
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
[発明の詳細な説明]
黄色ブドウ球菌は適応力の高いヒト病原菌であり、免疫系を回避することによって再発性の皮膚及び軟組織感染症を引き起こす。黄色ブドウ球菌は、20〜30%のヒト集団の鼻及び皮膚に定着している。完全な皮膚及び粘膜バリアを有する健康な個体は、悪影響を全く受けずに黄色ブドウ球菌を寄生させ得る。しかしながら、皮膚や粘膜の完全性に穴がある場合、黄色ブドウ球菌は、組織や血流に侵入及び進入し得、損傷を引き起こす恐れがある。
【0014】
黄色ブドウ球菌の定着に関連する病態には、髄膜炎、敗血症、肺炎が挙げられるが、これらに限定されない。病態には、乳児、免疫不全の成人、及び静注薬物使用者などのような高リスク集団における心内膜炎、及び敗血症性関節炎も挙げられる。静脈内カテーテルを含む体内中の異物の存在は、黄色ブドウ球菌が誘導する心内膜炎の発症のリスクを大きく増大させる。例えば、カテーテルは、フィブリノゲンやフィブロネクチンでコートされ得るが、これによって細菌が容易に付着できるようになる。
【0015】
MRSA感染症を含むがこれに限定されないブドウ球菌感染症の治療は、該細菌が通常用いられる治療法に対してこれまでに抵抗性を進化させてきており、さらに新規治療法に対しても迅速に免疫を発達させるという事実により、困難である。例えば、抗生物質治療を行ったとしても、MRSA感染症は予後不良と関連付けられる。たった5%の黄色ブドウ球菌分離菌しか、ペニシリン治療に対して感受性でないと見積もられている。ブドウ球菌感染症の他の特徴はその再発率である。さらに複雑な治療徴候(complication treatment indications)には、臨床的及び実験的観察から、黄色ブドウ球菌の感染症は、防御免疫応答を生じさせないことが示唆されている。
【0016】
黄色ブドウ球菌は、その免疫侵入戦略により血液中で生き残ることが可能である。血液及び/又は表皮下の組織の至る所で黄色ブドウ球菌は宿主の自然免疫防御に遭遇し、そして免れる。黄色ブドウ球菌は、凝固促進性スタフィロコアグラーゼ(SC)を含む、細胞表面タンパク質や分泌毒性因子を提示し、これらによって、自然免疫応答及び適応免疫応答両方の実効性を損なわせしめることを可能としている。どのように黄色ブドウ球菌が宿主の免疫系を回避するかに関するいくつかの例としては、感染目的での、内皮細胞や好中球への侵入、補体系の阻害、及び、凝固系の破壊が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
急性感染性心内膜炎(AIE)は、黄色ブドウ球菌により引き起こされる疾病の一つである。他の疾病には、(とりわけ)骨/関節、脾臓、腎臓、肝臓、及び肺へ転移する転移性感染症;敗血症;毒素性ショック症候群;及び、肺炎が挙げられる。黄色ブドウ球菌は、他の株又は異なった細菌種からの可動遺伝要素(MGE)によりコードされる、新たな毒性因子及び抗生物質耐性を補充する。市中感染型MRSA(CA-MRSA)である高毒性USA300株が現在進行形で世界中に蔓延していくのと同様に、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の出現は、MGE伝播に起因している。
【0018】
CA-MRSAの抗生物質耐性は、重篤な感染症の治療に対するバンコマイシンへの依存へと繋がっている。しかし、黄色ブドウ球菌は、この抗生物質に対しての耐性をも発達させてきている。肥厚した細胞壁を有する、部分的にバンコマイシン耐性を有する黄色ブドウ球菌が記述されてきており、vanA遺伝子複合体を保有する臨床分離菌が米国において現れてきている。
【0019】
黄色ブドウ球菌の適応能力や高毒性及び多剤耐性株の急速な拡大は、黄色ブドウ球菌が早期に全ての利用可能な抗生物質に対して耐性となるとの予測を裏付けている。この大規模な公衆衛生問題は、黄色ブドウ球菌が多くの潜在的に致死性の感染症を引き起こす性質により、罹患率や死亡率の上昇に関連していくであろう。高齢者は特に感染しやすく、米国の人口が高齢化するにつれ、これらの感染症が増加していくであろう。
【0020】
本公衆衛生問題は、製薬会社の新規抗生物質の開発における無関心により深刻化している。これは、薬剤の市場寿命(the market life)を低減させる抗生物質耐性の急速な出現や、治療期間が短いため利益が低いことに由来している。ブドウ球菌ワクチン創出の試みも、臨床試験データによって証明されるように、一様に失敗に終わっている。
【0021】
黄色ブドウ球菌によってもたらされる公衆衛生の脅威への対処を開始するために、本発明者らは、黄色ブドウ球菌の凝固促進性スタフィロコアグラーゼ(SC)のメカニズム標的化阻害剤としての新規のモノクローナル抗体を開示する。
【0022】
黄色ブドウ球菌の急性感染性心内膜炎(AIE)発病機序は、少なくとも2つの起因事象を有する(
図1)。第一に、心臓弁を覆う内皮に対する損傷。一例において、損傷は先天性又は後天性の欠陥に起因する乱流により生じ得る。損傷はまた、血管内カテーテルの存在、静注薬物使用、又は、過敏性状態、ホルモン変化、若しくは高所への曝露からの生理的ストレスによっても生じ得る。
【0023】
損傷は、凝固を開始させ、例えば、フィブリンや血小板などから構成される無菌性の血栓の形成を開始させ得る。凝固は、血液の、とりわけ組織因子への曝露に起因して開始され得る。血液の組織因子への曝露が血液凝固の活性化をトリガーする。血液凝固の活性化は、無菌性の血栓の形成をもたらし得る。無菌性の血栓は、いくつかある因子の中でも特に、活性化された血小板及びフィブリン(例えば、トロンビン産生フィブリン)から構成され得る。
【0024】
欠陥がある系は、細菌の血流への進入を許し、さらに、例えばフィブリノゲン及びフィブロネクチンに結合することにより、無菌性血栓(thrombis)への付着を許し得る。黄色ブドウ球菌は、なかでも最も一般的な細菌性病原菌の一つである。黄色ブドウ球菌は、これに限られないが、例えばアドヘシンなどの細胞表面成分を発現する。黄色ブドウ球菌の細胞表面成分には、例えばクランピング因子(ClfA)や他の微生物表面成分などの、フィブリン(フィブリノゲン)に結合する壁結合型アドヘシン(wall-bound adhesins)が挙げられるが、これらに限定されない。多様な細胞表面成分が、細菌が血管の損傷部位へ結合することを介在する接着性マトリクス分子を認識する。
【0025】
AIEにおいて最も病原性の高い黄色ブドウ球菌株は、SC及びvWFbpも分泌し、これらは「II」と略記される宿主プロトロンビンに結合する。活性化型(活性化型は「*」で示される)SC・プロトロンビン
*(SC・II
*)複合体及びvWFbp・II
*複合体は、それらの基質として宿主フィブリノゲンに結合し、それをフィブリンへと変換する。フィブリンの堆積は、血管の損傷部位で、AIEの特徴である血小板−フィブリン−細菌疣腫の形成を拡大させる。
【0026】
疣腫は、フィブリン上へのさらなる細菌と、SC・II
*及びvWFbp・II
*の触媒複合体によるフィブリン生成との積層化によって成長する(
図1)。フィブリンは疣腫上に積み重なり、細菌を免疫細胞による排除及び抗生物質による殺菌から保護する。疣腫近傍の乱流は、心臓弁に亘る内皮損傷を拡大し、最終的には、組織損傷及び心不全に起因する弁機能不全をもたらす。大きな疣腫は感染性の栓子を生じさせ、これらは血流を通って遠隔部位に拡散する。そしてこれらは、脳、脾臓、及び腎臓において膿腫を形成する。
【0027】
脳に対する塞栓形成は、黄色ブドウ球菌のAIEにおいて一般的であり、患者の30%において発症し、大抵の場合致死的な虚血性又は出血性脳卒中を引き起こす。AIEによる死亡率は、積極的な抗生物質療法にもかかわらず25-47%であり非常に高い。明らかに補助療法が切望されており、そこで本発明者らは、メカニズムベースのモノクローナル抗体を形成することで、これに対応することとした。
【0028】
図2は、スタフィロコアグラーゼの模式図を提供する。
図3は、プロトロンビンの模式図を提供する。
図5は、スタフィロコアグラーゼとプロトロンビンの相互作用により生じる、活性部位の非タンパク質分解性の形成の図である。スタフィロコアグラーゼのN末端Ileは、プロトロンビン活性化部位におけるAsp194(キモトリプシン(chymostrypsin)ナンバリング)と塩橋を形成し、プロトロンビンの立体構造変化を生じさせ、非タンパク質分解的にトロンビン活性部位を安定化させる。その後フィブリノゲンがトロンビンによってフィブリンへと切断され、凝血塊の形成がもたらされる(
図1)。
【0029】
SC(1-325)・Pre 2
*構造は、Pre2で示されるプロトロンビンフラグメントのIIe
16 (キモトリプシノーゲンナンバリング)N末端結合溝に挿入されるSC (IIe
1-Val
2)のN末端を示し、それは、複合体中でPre 2の非タンパク質分解性活性化をトリガーするAsp
194との塩橋を形成する。
【0030】
新たに発生しつつあるバンコマイシン耐性を含む急速な耐性や、抗凝固剤に関連するオフターゲット現象など(これらに限定されない)の既存の治療法における内在的な問題を認識し、本発明者らは、SC特異的モノクローナル抗体を用いた、特異的且つ正確な様式における黄色ブドウ球菌感染症の治療を可能とする方法、システム、及びモノクローナル抗体分泌細胞株を開示する。
【0031】
従って、本発明者らは、高い親和性で、黄色ブドウ球菌由来のスタフィロコアグラーゼタンパク質又はその特定の小領域に結合することができ、該スタフィロコアグラーゼタンパク質が活性型プロトロンビン−細菌補助因子複合体を形成することを妨げるモノクローナル抗体を提供する。本明細書に開示される該モノクローナル抗体はそれによりフィブリンの形成を妨げ、免疫細胞による排除及び抗生物質による殺菌から細菌を保護するために用いられる疣腫を作り出す黄色ブドウ球菌の能力を妨げる。
【0032】
本発明者らは、フィブリン形成を妨げ(とりわけ、凝固データにより実証されるように)、動物モデルにおいて黄色ブドウ球菌感染症を成功裏に治療する抗スタフィロコアグラーゼモノクローナル抗体の有効性を、本明細書において実証する。
【0033】
血液感染性の肺炎マウスモデルにおいてはスタフィロコアグラーゼの役割は実証される一方で、心内膜炎のラットモデルおいてはスタフィロコアグラーゼの役割は何ら示されなかったとの相反する結果が原因で、黄色ブドウ球菌感染症における毒性因子としてのスタフィロコアグラーゼの役割はこれまで疑問のままであったという事実を踏まえると、本明細書における本発明者らの実験結果は驚くべきものであった。
【0034】
十分に発達した黄色ブドウ球菌膿腫は、当該細菌を中心とし、免疫細胞及び抗生物質から当該細菌を保護するフィブリンリッチなバリアによって縁どられた明確な構造を示す。スタフィロコアグラーゼの役割は、スタフィロコアグラーゼ遺伝子を欠損する黄色ブドウ球菌が膿腫を形成し得ることを実証する研究を考慮しても、疑問であった。
【0035】
致死的な出血を引き起こす可能性がある抗凝固剤をAIEの治療に使用することには、議論が続けられている。タンパク質基質、阻害剤、及び、制御性高分子(regulatory macromolecules)に結合する2つの非活性部位を介したトロンビン制御の複雑性や、その多くの凝固促進的役割や抗凝固的役割を考慮すると、スタフィロコアグラーゼ/vWFbp-II
*を阻害する試みにおける(抗凝固剤を介した)トロンビンの全身的阻害は、有害な結果を伴うオフターゲット現象を導き得る。抗凝固剤を服用していなかった自然弁AIEを有する患者、その90%が抗凝固剤を服用していた人工弁AIEを有する21名の患者に対する、黄色ブドウ球菌AIEを有する35名の患者を比較した結果、これらのグループは神経性塞栓形成に関して類似した発生率を有すること、及び、非抗凝固剤グループにおける死亡率は37%であるのに比較して、抗凝固剤グループにおける死亡率は71%であったことが分かった。これらの患者の多くは脳出血を有した。ある古い研究では、人工弁を有する患者の小グループに関して反対の結果、即ち、抗凝固剤療法を停止した場合、死亡率が僅かに高くなる(57%対47%)ことを示していた。
【0036】
本発明者らのスタフィロコアグラーゼを標的とする新規モノクローナル抗体は、抗凝固剤により経験されるオフターゲット現象を回避する。該SCモノクローナル抗体は、スタフィロコアグラーゼタンパク質を特異的に標的とすることによって、フィブリン形成を阻害する。それ故、それは黄色ブドウ球菌感染症部位での局所的効果を有し、系全体に及ぶ影響を有さない。
【0037】
血液凝固に関するマウスモデルはヒトの凝固系と類似している。その全体が参照により本明細書に組込まれるEmeis, et al., A guide to murine coagulation factor structure, function, assays and genetic alterations, J. Thromb. Haemost. 2007; 5:670-9。ヒト凝固系(凝固、血小板、繊維素溶解)に向けられた多くの治療法は、マウスにおいても、同等の投与量にて同様に効果的である。これが示唆するのは、抗体を用いたスタフィロコアグラーゼの標的化が、ヒトにおいて起こることを反映した生理学的及び薬学的データを与え得るということである。
【0038】
宿主の止血性応答を介した黄色ブドウ球菌の標的化は、黄色ブドウ球菌感染症の治療に対する新規の治療アプローチである。プロトロンビン活性化の機構的詳細は周知である(例えば、その全体が参照により本明細書に組込まれる、Krishnaswamy, S., The transition of prothrombin to thrombin, J. Thromb. Haemost, 2013; 11:256-76を参照されたい)。新規のアプローチは、黄色ブドウ球菌のフィブリンメッシュを形成する能力をブロックし疾病の進行を妨げるためのモノクローナル抗体の使用に関する。(疾病の進行は
図1で説明される。)治療用モノクローナル抗体は、ワクチンを超える利益を提供する。数日又は数か月かかり得る免疫応答の進行を必要とするワクチンとは対照的に、治療用モノクローナル抗体は急性の感染症において用いることができ、また、感染前に予防的保護を提供することもできる。本発明者らは、本発明者らの新規の抗スタフィロコアグラーゼモノクローナル抗体がフィブリン形成を妨げることを実証する。
【0039】
従って、本発明者らは、高い親和性で、黄色ブドウ球菌由来のSCタンパク質、又はその特定の小領域に結合することができ、それ故、ブドウ球菌感染症を治療、予防、又は診断するための方法において有用であり得るモノクローナル抗体を提供する。
【0040】
本発明者らはまた、N末端SCからの残基1-10(「SC(1-10)」)を含有する、黄色ブドウ球菌由来のSCタンパク質のエピトープを認識する治療用抗原結合タンパク質も提供する。
【0041】
本発明者らはまた、SCタンパク質の残基1-3、1-4、1-5、1-6、1-7、1-8、1-9又は1-10を含有する、黄色ブドウ球菌由来のSCタンパク質のエピトープを認識する治療用抗原結合タンパク質も提供する。
【0042】
1つのバリエーションにおいて、治療用抗原結合タンパク質は、抗体、若しくはその抗原結合フラグメント、及び/又はその誘導体である。
【0043】
本発明者らはまた、SC及びSCから生じたペプチド、又はそれらの小領域に結合することができ、ブドウ球菌感染症を治療、予防又は診断するための方法において有用なモノクローナル抗体を提供する。一例においては、本発明者らはN末端SCから生成されたモノクローナル抗体を提供し、又、別の例においては、本発明者らはSC(1-10)から生成されたモノクローナル抗体を提供する。別の例において、本発明者らは、アミノ酸IVTKDYSKES(配列番号9)を含むペプチド、及びそのホモログ、並びに/又はそれらの縮重型から生成されたモノクローナル抗体を提供する。
【0044】
本発明者らはまた、SC-II活性化を阻害することにおいて有用であり得る、SCタンパク質に対するモノクローナル抗体を提供する。
【0045】
本発明者らはまた、スタフィロコアグラーゼタンパク質(配列番号2)及びvWFbpを含むスタフィロコアグラーゼ(配列番号4)に対して相同な配列を提示する他のタンパク質、並びに、他の細菌が有するスタフィロコアグラーゼ、又は、このタンパク質に相同な配列、を認識し、結合することができるモノクローナル抗体を提供する。
【0046】
本発明者らはまた、スタフィロコアグラーゼヌクレオチド配列(配列番号1)によってコードされるタンパク質、及びスタフィロコアグラーゼに相同な配列によってコードされる他のタンパク質を認識し、結合するモノクローナル抗体を提供する。該モノクローナル抗体は、細菌が有するスタフィロコアグラーゼのタンパク質、又はスタフィロコアグラーゼに相同な配列も認識し、結合し得る。
【0047】
本発明者らはまた、ペプチド配列IVTKDYSKES-CONH2(配列番号9)、スタフィロコアグラーゼペプチド配列IVTKDYSKES-CONH2(配列番号9)、並びにペプチド配列IVTKDYSKES-CONH2(配列番号9)及びスタフィロコアグラーゼペプチド配列IVTKDYSKES-CONH2(配列番号9)に相同な配列を提示する他のタンパク質、を認識し、結合することができるモノクローナル抗体を提供する。
【0048】
本発明者らはまた、SC(1-10)ペプチド配列(配列番号9、及び配列番号2のアミノ酸1-10)を用いて生成されたSC特異的モノクローナル抗体を用いることによる、特異的且つ正確な様式における、黄色ブドウ球菌の治療を可能とする方法も提供する。
【0049】
本発明者らは、SCを含むポリペプチドに特異的に結合する抗体であって、該モノクローナル抗体が、アミノ酸配列IVTKDYSKES(配列番号9)を含むペプチドを用いて生成されたものである抗体を提供する。
【0050】
本発明者らはまた、SC(1-10)に結合することができ、且つ、SCのプロトロンビンへの結合を阻害することができる抗体も提供する。
【0051】
本発明者らはまた、SC(1-10)(配列番号9)に結合することができ、SC(1-246)によるプロトロンビン
3Q(非切断可能型のプロトロンビン)の活性化を0.9 nMの親和性で阻害することができる抗体を提供する。
【0052】
0.1nm及び10 nMの間のSCに対する親和定数(K
D)を有し、特に、1.6 mol Bodipy-SC/mol mAbの結合に関して2 nMの親和定数を有する、SCに結合することができる抗体。
【0053】
本発明者らは、SCに結合することができるモノクローナル抗体を産生し、アクセッション番号ATCC PTA-120537を有するハイブリドーマ細胞株を提供する。
【0054】
本発明者らはまた、SCに対するモノクローナル抗体を黄色ブドウ球菌に感染した動物に注射することにより、該感染動物を治療する方法を提供する。
【0055】
本発明者らはまた、黄色ブドウ球菌のSCに結合し、且つ、配列番号6の重鎖可変領域アミノ酸配列及び配列番号8の抗体軽鎖可変領域を含む、抗体若しくはその抗原結合フラグメント及び/又はその誘導体のような、治療用抗原結合タンパク質も提供する。
【0056】
本発明者らはまた、SCタンパク質に特異的に結合し、且つ、配列番号6に記載の配列のバリアントである重鎖領域を含む、抗体又はその抗原結合フラグメントのような、抗原結合タンパク質も提供する。
【0057】
本発明者らはまた、SCタンパク質に特異的に結合し、且つ、配列番号8に記載の配列のバリアントである軽鎖領域を含む、抗体又はその抗原結合フラグメントのような、抗原結合タンパク質も提供する。
【0058】
本発明者らはまた、SCに結合し、且つ、以下のCDRを含む、抗体若しくはその抗原結合フラグメント及び/又はその誘導体のような、治療用抗原結合タンパク質も提供する。
【0059】
CDRL1: QNVDIY(配列番号8の残基27-32、及び配列番号10)
【0060】
CDRL2: SAS(配列番号8の残基50-52、及び配列番号11)
【0061】
CDRL3: QQYNNYPYT(配列番号8の残基89-97、及び配列番号12)
【0062】
CDRH1: GFTFSDAW(配列番号6の残基26-33、及び配列番号13)
【0063】
CDRH2: IRTKANNHAT(配列番号6の残基51-60、及び配列番号14)
【0064】
CDRH3: CTNVYYGNNDVKDY(配列番号6の残基98-111、及び配列番号15)
【0065】
本発明者らはまた、SCに特異的に結合し、且つ、配列番号10-15に記載の配列のバリアントであるCDRを含む、抗体又はその抗原結合フラグメントのような、抗原結合タンパク質も提供する。
【0066】
バリアントは、CDR、重鎖、及び/若しくは軽鎖の1から数アミノ酸の欠失若しくは置換による、若しくは、CDR、重鎖、及び/若しくは軽鎖に対する1から数アミノ酸の付加若しくは挿入よる、又はそれらの組合せによる、CDR、重鎖、及び/又は軽鎖アミノ酸配列の部分的変更を含む。バリアントは、1、2、3、4、5、又は6のアミノ酸の置換、付加又は欠失を、CDR、重鎖、及び/又は軽鎖配列のアミノ酸配列中に含み得る。アミノ酸残基における置換は保存的置換であり得、例えば、一つの疎水性アミノ酸を別の疎水性アミノ酸に対して置換し得る。
【0067】
CDR、重鎖、及び/又は軽鎖のバリアントである抗原結合タンパク質は、本明細書に記載されるCDR、重鎖、及び/又は軽鎖を含む抗原結合タンパク質と同一又は類似の機能的特性を有する。それ故、バリアントCDRを含む抗原結合タンパク質は、本明細書に記載されるCDR、重鎖、及び/又は軽鎖と同一又は類似の結合親和性で、同一の標的タンパク質又はエピトープに結合する。
【0068】
典型的な抗体は、GMA-2105マウスモノクローナル抗体である。1つのバリエーションにおいて、GMA-2105の以下のCDRを含むヒト化又はキメラ抗体が提供される:
【0069】
CDRL1: QNVDIY(配列番号8の残基27-32、及び配列番号10)
【0070】
CDRL2: SAS(配列番号8の残基50-52、及び配列番号11)
【0071】
CDRL3: QQYNNYPYT(配列番号8の残基89-97、及び配列番号12)
【0072】
CDRH1: GFTFSDAW(配列番号6の残基26-33、及び配列番号13)
【0073】
CDRH2: IRTKANNHAT(配列番号6の残基51-60、及び配列番号14)
【0074】
CDRH3: CTNVYYGNNDVKDY(配列番号6の残基98-111、及び配列番号15)
【0075】
例えば、キメラ抗体は、GMA-2105抗体の可変領域、乃ち、配列番号6(V
H)及び配列番号8(V
L)を含み得る。GMA-2105に基づくヒト化抗体の第一の例は、配列番号18を有する重鎖を含む抗体である。GMA-2105に基づくヒト化抗体の第二の例は、配列番号19を有する重鎖配列を含む抗体である。GMA-2105に基づくヒト化抗体の第三の例は、配列番号16を有する軽鎖を含む抗体である。GMA-2105に基づくヒト化抗体の第四の例は、配列番号17を有する軽鎖を含む抗体である。GMA-2105に基づくヒト化抗体の第五の例は、配列番号18又は配列番号19のいずれかを有する重鎖配列と、配列番号16又は配列番号17のいずれかを有する軽鎖配列とを含む抗体である。
【0076】
スタフィロコアグラーゼに対するモノクローナル抗体の生成方法
本発明者らは、タンパク質の中でもとりわけ、スタフィロコアグラーゼ、及びそのホモログを認識し、結合することができるモノクローナル抗体を提供する。一つの方法において、該抗体は、配列IVTKDYSKES(配列番号9)を含む合成ペプチドに対して産生させる。該合成ペプチドは、マウスモノクローナル抗体のパネルを生成するために用いられた。スタフィロコアグラーゼを認識するモノクローナル抗体は、発現させ、精製されたスタフィロコアグラーゼを含むペプチド、及び/又は、スタフィロコアグラーゼタンパク質の他の小領域若しくは大きな免疫原性領域から産生された合成ペプチドから産生させ得る。
【0077】
抗体は、スタフィロコアグラーゼ抗原、小領域、ペプチド、又はそれらの縮重型を宿主動物へ導入し、続いて抗体を産生する脾臓細胞を単離し、好適なハイブリドーマを形成する工程を含む、従来の方法において獲得し得る。
【0078】
GMA-2105と指定される抑制性マウス抗スタフィロコアグラーゼ抗体は、プロトロンビンへ挿入されるスタフィロコアグラーゼ配列に結合することによって、プロトロンビンの活性化をブロックするという達成目標を持って、スタフィロコアグラーゼ(配列番号2)の残基1-10を表すペプチドIVTKDYSKES(配列番号9)に対して生産された。
【0079】
抗スタフィロコアグラーゼモノクローナル抗体の生成方法例
凡そ6-8週齢の雌のBalb/cマウスは、0日目に、完全フロイントアジュバントにおいて乳化されたスカシガイヘモシアニン(KLH)コンジュゲートスタフィロコアグラーゼペプチド(配列IVTKDYSKES、配列番号9)100 μgの最初の腹腔内(ip)注射を受けた。不完全フロイントで乳化された、50 μgの上記ペプチドコンジュゲートのブースター注射を10日目、20日目、及び30日目に行った。
【0080】
2回の更なる50 μg注射(不完全フロイントアジュバント中のペプチド−KLHコンジュゲート)を、61日目及び111日目に行った。各マウスからの血清サンプルを、122日目に採取し、96ウェルELISAプレートに対して2 ug/mlでコートされた、卵白アルブミンをコンジュゲートしたスタフィロコアグラーゼペプチドSC(1−10)(配列番号9)を用いて、固相酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によって抗体価を測定した。ウェルの未コート区域は、ウシ血清由来アルブミン(BSA)でブロックした。その後ウェルをマウス血清希釈液と共にインキュベートし、血清がスタフィロコアグラーゼペプチドSC(1−10)(配列番号9)に対する抗体を含有するか試験した。結合した抗体を、西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートした抗マウスIgG二次抗体を用いて検出した。その後、プレートは、o-フェニレンジアミン(OPD)基質と共にインキュベートした。o-フェニレンジアミン基質はHRPの存在において変色するが、この強度はマイクロプレートリーダーにおける490 nmの波長での吸収を用いて測定することができる。
【0081】
図6は、スタフィロコアグラーゼペプチドSC(1−10)(配列番号9)を注射したマウス(
図6上、938-1、938-2及び938-3と指定される)のマウス血清中における抗スタフィロコアグラーゼ抗体の存在を実証するELISAの結果を提供する。無関係なマウスからの血清を陰性対照(
図6上、陰性対照と指定される)として用いた。
【0082】
陽性クローンを生じたマウス3匹を用いて融合を行った。
図6上938-3で指定されるマウスからの脾細胞を、128日目に融合のために採取した。合計で2.9×10
8個の脾細胞を3×10
7個のNS1ミエローマ細胞と混合し、遠心分離して細胞をペレット化した。上清を吸引し、1.0 mlの50%ポリエチレングリコール含有培養液(PEG)を1分間に亘って滴下し、細胞膜を融合可能にした。その後、培養培地を滴下により加えてPEGを20倍希釈した。融合細胞を遠心分離し、15%ウシ胎児血清(FBS)、100 uMヒポキサンチン、2% (v/v) ハイブリドーマクローニングサプリメント(Roche)、4 mM L-グルタミン、50 U/mlペニシリン、50 μg/mlストレプトマイシン、1×非必須アミノ酸、及び未融合のNS1細胞を殺すために用いられる選択薬剤アザセリンを5.7uMで添加したダルベッコ改変イーグル培地高グルコース(DMEM)ベースからなる100 ml選択培地に再懸濁した。細胞懸濁液は24ウェルプレートへ1 ml/ウェルで分注した。プレートは、37℃で8%CO
2大気中において6日間インキュベートし、その後、上記培地からアザセリンを除いた成分からなる増殖培地をウェル当たり1ml与えた。細胞は更に4−5日増殖させた。
【0083】
融合後11日目に、上記したELISAアッセイを用いたELISAにより、細胞上清を抗スタフィロコアグラーゼペプチド抗体の存在に関して試験した。陽性のウェルを、モノクローナル細胞株を得るために増殖培地における限界希釈法によってサブクローニングした。
【0084】
この方法に関し、細胞を、単一細胞から増殖するコロニーの確率を増加させるために十分に低い密度で96ウェルプレートへ播種した。凡そ10日後に、ウェルを固相ELISAによってスクリーニングし、抗体産生クローンを同定した。陽性のウェルの内容物を、単一の96ウェルプレートに播種する限界希釈によって再びサブクローニングした。陽性のウェルの内容物は、2A1.5H4.B7との名称を与えた。該細胞を凍結保存及び抗体産生に十分な数となるよう増殖させた。
【0085】
抗体産生に関し、細胞は、ローラーボトル中の500 ml無血清培地において高密度となるまで増殖させた。非抗体タンパク質を素通りさせるアフィニティカラム(Pierce)上のプロテインGセファロースに対して抗体を結合させることによって、上清から抗体を精製した。その後、結合した抗体を0.1 Mグリシン、pH 2.7を用いてセファロースから溶出させた。溶出した抗体を、1 Mトリスバッファーを用いてpH 7へ中和した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)へのバッファートランスファーは、30kd分子量カットオフ透析チューブを用いた透析により行った。精製された抗体を、防腐剤として0.1%アジ化ナトリウムの存在下、4℃で保存した。
【0086】
図10は、精製したGMA-2105のSDS-PAGE画像である。3μgの抗体サンプルを、還元条件及び非還元条件下、200Vで4-12% Bis-Trisゲル上で電気泳動した。レーン1は非還元条件下のGMA-2105を示し、分子量155kDaの単一バンドを生じた。レーン4は、還元条件下のGMA-2105を示し、約55kDa(重鎖)及び26kDa(軽鎖)を伴う。レーン3は、分子量マーカーである。レーン2は空レーンである。
【0087】
図7は、ハイブリドーマ生成に用いられた脾細胞ドナーマウスからの血清免疫応答を示す。脾細胞ドナーマウスは2つの時点で採血した。スタフィロコアグラーゼペプチドSC(1-10)(配列番号9)卵白アルブミンでコートされた96ウェルプレートのウェルに対するマウス血清抗体の結合は、西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートしたヤギ抗マウス二次抗体を用いて検出した。基質であるオルト-フェニレンジアミンの産物への変換は、分光光度計を用いて490 nmで測定した。陰性対照は無関係のマウスからの血清とした。
【0088】
図8は、ハイブリドーマ細胞上清における抗スタフィロコアグラーゼ抗体GMA-2105の、96ウェルプレートのウェルへ結合したSC(1-10)ペプチド卵白アルブミンコンジュゲートへの結合を示す。抗体抗原複合体を、西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートしたヤギ抗マウス二次抗体を用いて検出した。基質であるオルト-フェニレンジアミンの産物への変換は分光光度計を用いて490 nmで測定した。陰性対照は、無抗原の炭酸バッファーでコートし、その後ブロッキングバッファーでブロッキングされたウェルとした。陰性対照ウェルは、ペプチドコンジュゲートを含有しなかった。
【0089】
図9は、本明細書に開示される精製されたモノクローナル抗体GMA-2105の、スタフィロコアグラーゼペプチドSC(1-10)(配列番号2の残基1-10)への結合能を実証する。参照しやすいように、精製された抗体は、GMA-2105と指定された。曲線はコンジュゲートされていないスタフィロコアグラーゼペプチドSC(1-10)(配列番号9)、及びスタフィロコアグラーゼペプチドSC(1-10)(配列番号9)-卵白アルブミンコンジュゲートに対するGMA-2105の結合を示す。精製された、無関係のマウスIgGを陰性対照として用いた。
【0090】
図11は、GMA-2105フラグメントである抗原結合フラグメント(F(ab)フラグメント)の結合の成功を実証する。GMA-2105 F(ab)は、IVTKDYSKESペプチド(配列番号9)に対するELISAによって試験した。陰性対照は、精製された無関係のF(ab)フラグメントとした。これは、GMA-2105 F(ab)フラグメントが、単独で、スタフィロコアグラーゼIVTKDYSKESペプチド(配列番号9)に結合できることを実証する。
【0091】
図12は、精製されたGMA-2105 F(ab)フラグメントを用いた、様々な株の培養細菌におけるスタフィロコアグラーゼのウェスタンブロット検出を示す。レーンA、B及びCは、同様に培養された細菌からの濃縮(10×)上清を含有する。レーンA: 腐性ブドウ球菌(S. saprophyticus)(コアグラーゼ陰性細菌対照);レーンB:黄色ブドウ球菌株COL(MRSA);レーンC:黄色ブドウ球菌株MW2 (MRSA);レーンD:培地ブランク;レーンE:卵白アルブミンにコンジュゲートしたスタフィロコアグラーゼペプチド(配列番号9)。ウェスタンブロットは、GMA-2105 F(ab)フラグメントが、培養された細菌中でさえもスタフィロコアグラーゼに結合できる能力を実証した。
【0092】
実験:スタフィロコアグラーゼバリアントへGMA-2105が結合することの実証
スタフィロコアグラーゼ(配列番号2)の8位及び9位の残基での株特異的な配列の相違が報告されている。例えば、多様な株が、8位及び/又は9位にアミノ酸置換を有することが見いだされている。その全体が参照により本明細書に組込まれるWantabe, et al., Genetic Diversity of Staphylocoagulase Genes (coa): Insight into the evolution of variable chromosomal virulence factors in Staphylococcus aureus. PLoS ONE 2009; 4(5): 1-11。GMA-2105が様々な黄色ブドウ球菌株の多様なスタフィロコアグラーゼを認識し、結合する能力を実証するために、本発明者らは、配列番号9の8位で(「変異ペプチドAla 8」)、配列番号9の9位で(「変異ペプチドAla 9」)、並びに、配列番号9の8位及び9位で(「変異ペプチドAla 8 & 9」)、アラニン置換を有する3つのペプチドを合成した(
図13参照)。本発明者らは、溶液中の各合成ペプチド(変異ペプチドAla 8、変異ペプチドAla 9、及び変異ペプチドAla 8 & 9)のGMA-2105への結合を測定した。
【0093】
図14は、競合結合アッセイの結果を示す。本発明者らは、固相競合阻害アッセイにおいて、変異ペプチドAla 8、変異ペプチドAla 9、及び変異ペプチドAla 8 & 9のGMA-2105への結合を試験した。GMA-2105は、濃度を増加させていった各変異ペプチドAla 8、変異ペプチドAla 9、及び変異ペプチドAla 8 & 9と、溶液中において4℃、終夜、インキュベートした(以降、「GMA-2105-変異ペプチドサンプル」と称する)。インキュベーション後、GMA-2105-変異ペプチドサンプルは、未変異のペプチドIVTKDYSKES(配列番号9)でコートし、0.1% BSA PBSでブロッキングされたウェルへ移行させた。30分のインキュベーション後、ウェルを0.05% TWEEN 20含有PBSで洗浄し、その後、西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートしたヤギ抗マウス二次抗体を追加した。基質であるオルト-フェニレンジアミンの産物への変換を、分光光度計を用いて490 nmで測定した。陰性対照は、精製された無関係の合成ペプチドとした。
【0094】
変異ペプチドAla 8、変異ペプチドAla 9、及び変異ペプチドAla 8 & 9全てが、溶液中で抗体と結合した。
図14において示されるように、変異ペプチドAla 8、変異ペプチドAla 9、及び変異ペプチドAla 8 & 9それぞれが皆、競合アッセイにおいて、IVTKDYSKES(配列番号9)でコートされたウェル上の抗体の結合を阻害した。
【0095】
本実施例において実証されるように、本発明者らは単離されたモノクローナル抗体、及び/又は、精製された(例えば、ATCC PTA-120537から精製された)モノクローナル抗体を提供する。該抗体は、例えば、プロトロンビンの活性化を阻害する方法(例えばこれに限定されないが、SC及び/又はvWFbpのプロトロンビンへの結合の阻害)において用いられ得る。上記で説明される方法に加えて、モノクローナル抗体は、例えば、その全体が参照により本明細書に組込まれるMonoclonal Antibodies: Methods and Protocols, ISBN: 1588295672; Antibodies: A Laboratory Manual, ISBN: 0879693142において見いだされる方法等、様々な方法を用いて製造し得る。
【0096】
結果として得られる抗体は、多くの形態において調製し得、これにはマウスに加えて、キメラ、ヒト化、又はヒトが含まれ得る。モノクローナル抗体は、軽鎖又は重鎖のような一本鎖から調製され得る。選択的に又は追加的に、モノクローナル抗体は、例えば、全抗体の結合特性(例えば特異性及び/又は親和性)を保持したフラグメント等の活性フラグメントから調製され得る。本明細書において提供されるモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を用いて調製される抗血清は、多くの好適な方法において調製され得る。
【0097】
実施例:プロトロンビン活性化の阻害
スタフィロコアグラーゼN末端残基を標的とする高親和性モノクローナル抗体GMA-2105は、プロトロンビン活性化を阻害する。溶液中において、該抗体は、Ser 7をCysとしたSC(1-325)の変異体に結合した。結合実験は、BODIPY標識化スタフィロコアグラーゼSC(S7C)(1-325)(配列番号2、7位でCysを有する1-325位)を用いて行った。抗体結合による蛍光変化は、未標識のリガンド濃度の関数として測定し、二次結合方程式(quadratic binding equation)へのデータのフィッティングにより解離定数(K
D)及び化学量論(n)が与えられる。Panizzi, et al., Fibrinogen substrate recognition by staphylocoagulase-(pro)thrombin complexes, J. Biol. Chem. 2006; 281:118-95.
【0098】
GMA-2105結合によるBODIPY蛍光の増加の解析により、1.6 mol BODIPY -SC/mol GMA-2105の結合に対してK
D 2 nMが与えられ、これは抗体GMA-2105が二価であり、スタフィロコアグラーゼSC(1-246)(配列番号2の1-246位)に高い親和性で結合することを示している。標識化スタフィロコアグラーゼSC(1-246)(配列番号2の1-246位)のGMA-2105への結合は、配列番号2の1-246位を提示する未標識化スタフィロコアグラーゼペプチド(SC(1-246))の結合によりK
D 4nMで競合的に阻害され(
図15における下降曲線)、スタフィロコアグラーゼ(配列番号2の1-246位)に対する該抗体の同程度の親和性が示された。
【0099】
図15は、GMA-2105のスタフィロコアグラーゼSC(1-246)(配列番号2の1-246位)への平衡結合を示す。本結果は高親和性相互作用を示す。GMA-2105で滴定した27 nM (●)及び130 nM (○)プローブでのBODIPY-SC(S7C)の直接的な結合は蛍光増加をもたらしたが、一方、未標識のSC(1-246)(三角形)は、BODIPY-SC(S7C)標識化スタフィロコアグラーゼの該抗体への結合に取って代わった。すべてのデータセットの同時フィッティングは、該抗体に対する未修飾のコンペティターのKdを与える。
【0100】
GMA-2105抗体は、SC(1-246)(配列番号246の1-246位)により、0.9 nMの親和性でプロトロンビン
3Q活性化を阻害する(
図16)。プロトロンビン活性化の阻害は、阻害解析により決定されたように、SC(1-246)(配列番号246の1-246位)に対するプロトロンビン
3QとGMA-2105の競合的結合として2つのSC(1-246)(配列番号246の1-246位)の濃度で達成され、これは、GMA-2105へ結合したスタフィロコアグラーゼは、プロトロンビンを活性化できないことを意味する。
【0101】
蛍光標識されたスタフィロコアグラーゼ(配列番号2のSC(1-325)、且つ、7位でSerをCys)、及び、未標識化GMA-2105の使用により、0.99±0.07 nMのKD及び2 mol スタフィロコアグラーゼ/mol GMA-2105の化学量論を得た。濃度は:GMA-2105及び未標識化スタフィロコアグラーゼ(1-246)(配列番号2の残基1-246)で滴定された27 nM( )及び130 nM(○)でのBODIPY-スタフィロコアグラーゼ(1-325)。
【0102】
図16は、GMA-2105によるSC(1-246)・プロトロンビン
3Qの阻害を示す。このデータは、スタフィロコアグラーゼに結合する抗体に対する同一のK
D及びnを与えた。GMA-2105濃度に対するプロトロンビン(1nm)及びSC(1-246)による5.6 nM(●)及び28 nM(○)でのS2238の加水分解の速度。差し込み図は、SC(1-246)での1nMプロトロンビンの滴定を示す。
【0103】
実施例:血漿凝固の阻害
GMA-2105は黄色ブドウ球菌の血漿凝固を阻害する。
図17は、精製されたGMA-2105の濃度の増加による血漿凝固の阻害を示す。異なった濃度のGMA-2105を、OD600が0.5となるまで増殖させた黄色ブドウ球菌株Tager 104からの上清と室温で1時間インキュベートした後、等量のウサギ血漿を加えた。凝固は、マイクロプレート分光光度計を用いて340 nmで測定した。GMA-2105を100 ug/mL (三角形)及び500 ug/mL (菱形)で追加すると、示されるように、凝固が妨げられた。対照として、アイソタイプがマッチする抗体(XX)及び無抗体(黒丸)を含めた。
【0104】
図18は、GMA-2105の濃度の増加による黄色ブドウ球菌Tager上清におけるスタフィロコアグラーゼ活性の阻害効果を実証する。黄色ブドウ球菌Tager上清を、様々な濃度(6.25nM GMA-2105, 3.125 nM GMA-2105, 1.625 nM GMA-2105, 0nM GMA-2105)のGMA-2105抗体と共に、又はGMA-2105抗体無しで、3時間、室温にて、50nM HEPES pH 7.4, 150 nM NaCl, 5 mM CaCl
2, 1mg/mL PEG8000のバッファー中でインキュベートした。プロトロンビンを最終濃度40 nMとなるよう加えた。サンプルを3時間、室温にてインキュベートした。インキュベーション後、S-2238発色性基質を最終濃度286 uMとなるよう加え、結果として生じる吸光度を405 nMで1時間読み取った。
【0105】
実施例:GMA-2105抗体は凝集しない。
モノクローナル抗体を含むタンパク質療法は、たとえ化学的組成が不変であってもタンパク質の物理的状態が変化するとの不安定性にかかる可能性を有している。モノクローナル抗体を用いた幾つかの臨床試験は、抗体が凝集することに起因して失敗に終わっている。タンパク質凝集を測定するために2つの方法が一般的に用いられている:サイズ排除クロマトグラフィー及び光散乱である。
図19及び20は、これらの方法を用いて、単離されたGMA-2105が凝集しない証拠を実証する。
【0106】
図19。精製されたGMA-2105を、SEPHACRYL 300レジンを充填したカラムを用いてサイズ排除クロマトグラフィーによって解析した。全体で4.2 mg又は5.9吸光度単位が1.5 mL容量のカラム上にロードされた。フラクション(1mL)を回収し、分光光度法により280 nMによって吸光度を決定した。カラムからの回収物は5.6吸光度単位であり、ロードされたサンプルの96%の割合を占めた。
【0107】
図20。MALVERN ZETASIZER NANO Sを用いた25.0℃での動的光散乱。サイズ排除クロマトグラフィー解析からの1mLフラクションをWHATMAN 0.2 uMフィルターを用いて濾過し、使い捨てのサイジングキュベット(sizing cuvette)へロードし、タンパク質解析ソフトウェアを用いて実行した。GMA-2105は、生成及び精製後、溶液中において十分に安定化しているように思われる。
【0108】
実施例:生存実験及び薬物動態
予備結果において特徴づけられるSC(1-10)標的化mAbは、黄色ブドウ球菌敗血症マウスモデルにおける生存を促進する。精製された抗体のマウスへの注射、及びその後の黄色ブドウ球菌の接種により、
図22に示される生存曲線を得た。本実験は対照(無関係の抗体又はリン酸緩衝生理食塩水)に対して統計的に有意な生存を示す。
【0109】
図21。投与後21日目のマウス血中におけるGMA-2105抗体の検出。C57BL/6マウスに120 μg のSC(1-10) に対するmAb(GMA-2105)を腹腔内注射した。7日毎、計21日間、3匹のマウスのそれぞれの尾静脈から血液を回収した。抗血清を希釈し、ペプチドIVTKDYSKES (配列番号9)でコートされ、0.1% BSA/PBSでブロッキングされた96ウェルELISAプレートへ加えた。1時間のインキュベーションの後、ウェルを0.05% TWEEN 20を含有したPBSで洗浄し、その後西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートしたヤギ抗マウス二次抗体を加えた。基質であるオルト-フェニレンジアミンの産物への変換を、分光光度計を用いて490 nmで測定した。
【0110】
図22。生存曲線。C57BL/6マウスに120 μg のSC(1-10)に対するmAb(GMA-2105)又はアイソタイプがマッチした無関係のmAb又は無抗体のPBSバッファーを腹腔内注射した。8〜9時間後、処置及び未処置(treated an untreated)マウスに1 x 10
8CFUの黄色ブドウ球菌を、尾静脈を介して注射し、生存をモニターした。抗SC(1-10) mAb GMA-2105は、生存曲線中央値を24時間から72時間まで増加させた(p<0.005対未処置)。
【0111】
キメラGMA-2105
GMA-2105ハイブリドーマ細胞由来の精製されたmRNAからのcDNAを配列決定し、このcDNA配列を用いて末端に適切な制限酵素サイトを有するDNA断片を合成することによって、キメラGMA-2105を作製した。DNAセグメントを、ヒト定常領域を含む発現ベクターにインサートした。
図23は、概略図を提供する。配列番号20は、典型的なヒトIgG
1 CH1を提供し、配列番号21は、典型的なヒトIgG
1ヒンジ領域を提供し;配列番号22は、典型的なヒトIgG
1 CH2を提供し;配列番号23は、典型的なヒトIgG
1 CH3を提供し、配列番号24は、典型的なヒトIgG
1 カッパ軽鎖定常領域を提供する。
【0112】
スタフィロコアグラーゼへ結合するGMA-2105抗体キメラの能力を、トランスフェクトした細胞の上清を解析することにより試験した。
図24は、ELISAアッセイにおける、HEK293細胞トランスフェクション上清中のGMA-2105キメラのIVTKDYSKES(配列番号9)への結合の結果を提供する。55 μgのGMA-2105 重鎖キメラDNA及び57 μgのGMA-2105軽鎖キメラDNAの組合せを293fectinと混合し、InvitrogenのFreestyle 293 Expression systemトランスフェクションプロトコールに従って、総容積60 mL中の6×10
7HEK293細胞へ加えた。細胞を、振とうしながら37℃でインキュベートし抗体を産生させ、トランスフェクション後5日目に上清を回収した。トランスフェクション上清に関しては、西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートしたヤギ抗ヒト二次抗体を用いて抗体−抗原複合体を検出し、また、精製されたマウスGMA-2105抗体検出に関しては、西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートしたヤギ抗マウス二次抗体を用いた。基質であるオルト-フェニレンジアミンの産物への変換を、分光光度計を用いて490 nmで測定した。陰性対照は、精製された、無関係のヒトIgGとした。
【0113】
上清中の組換えキメラGMA-2105抗体の発現はSDS-PAGEで解析し、
図25に示される。HEK293 GMA-2105キメラHC及びLCトランスフェクト上清中のヒト抗体重鎖Fc及びヒトカッパ軽鎖の検出。上清をNOVEX NUPAGE 4-12% Bis-Trisゲルで 200 Vにて電気泳動し、その後、ニトロセルロースへ電気泳動転写し、1% BSAのPBSでブロッキングした。上清中の抗体は、ビオチン化抗ヒトカッパ鎖抗体(Vector Laboratories)又はビオチン化抗ヒトIgG、ガンマ鎖特異的抗体(Vector Laboratories)を用いて検出し、その後、発色基質とともにアビジンペルオキシダーゼによって検出した。陰性対照は、未トランスフェクトHEK細胞上清とし、陽性対照はヒトIgGとし、0.5 ugをロードした。レーンA:非還元キメラGMA-2105トランスフェクト上清;レーンB:非還元キメラGMA-2105トランスフェクト上清;レーンC:還元未トランスフェクト上清;レーンD:還元ヒトIgG対照
【0114】
精製されたキメラGMA-2105抗体を、SDS-PAGEで解析し、
図26に示される。3 μgの抗体サンプルを、還元条件下及び非還元条件下、NOVEX NUPAGE 4-12% Bis-Trisゲルで、200Vにて電気泳動した。1時間後、ゲルを取り出し、固定剤(50%エタノール水、7%(v/v)酢酸)中で1時間インキュベートし、その後、ddH
2Oで2回洗浄し、Gel Code Blue(Invitrogen)中で終夜インキュベートし、その後、ddH
2O中で脱染した。
【0115】
図27は、スタフィロコアグラーゼに対する精製されたキメラGMA-2105の結合を示す。精製されたキメラGMA-2105及びマウスGMA-2105抗体を、ELISAアッセイにおいて、スタフィロコアグラーゼペプチドIVTKDYSKES(配列番号9)に対して試験した。ペプチドIVTKDYSKES(配列番号9)を、非結合型で0.5 μg/mLの濃度にて96ウェルプレートのウェル上へコートした。プレートを洗浄し、その後0.1% BSAでブロッキングし、その後、さらなる抗体希釈を添加した。抗体-抗原複合体は、西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートしたヤギ抗マウス二次抗体又は西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートしたヤギ抗ヒト二次抗体を用いて検出した。基質であるオルト-フェニレンジアミンの産物への変換を、分光光度計を用いて490nmで測定した。
【0116】
キメラGMA-2105抗体をアフィニティクロマトグラフィにより精製し、凝集を排除するために動的光散乱によって解析した。
図28における25.0℃でMalvern Zetasizer nano Sを用いてのGMA-2105キメラの動的光散乱。キメラ抗体サンプルをWHATMAN 0.2 μmフィルターを用いて濾過し、その後、〜100 uLを、使い捨ての低用量サイジングキュベットへロードし、ソフトウェアバージョン6.20タンパク質解析モードを用いて実行した。
【0117】
図29における、未標識化スタフィロコアグラーゼフラグメント(1-246)(▲)の存在下の溶液中において、キメラGMA-2105で滴定した27 nM(●)及び130 nM(○)でのBODIPY(登録商標)標識化スタフィロコアグラーゼフラグメント(1-325)。
【0118】
図30は、マウスGMA-2105及びキメラGMA-2105の結合特性を要約する。キメラ抗体は、0.79 ± 0.40 nMのK
D及び2 mol スタフィロコアグラーゼ/molキメラ抗体の化学量論で、スタフィロコアグラーゼに結合した。キメラGMA-2105の結合特性はマウスGMA-2105の値と本質的に同一であった。
【0119】
ヒトGMA-2015のモデリング及び構築
マウス抗体配列を、ヒト抗マウス免疫応答を排除するために「ヒト化」した。第一工程は、マウス重鎖及び軽鎖可変領域をヒトFc領域へグラフトすることによるキメラ抗体の形成であった(上述)。第二工程は、相補性決定領域(CDR)及び支持骨格配列の抗原結合を維持しつつ、特定のアミノ酸残基を置換することによるマウス可変領域の改良であった。ヒトアミノ酸配列は、IgGサブグループに関するコンセンサス配列、生殖系列配列、成熟ヒト抗体配列、又は、対応するX線構造を有する配列のいずれかである(例えば、本明細書に参照により組み入れられるAlmagro, et al., Antibody Engineering: Humanization, Affinity Maturation, and Selection Techniques. An Z. editor. Therapeutic Monoclonal Antibodies. Hoboken, NJ: John Wiley & Son; 2009を参照)。
【0120】
ロゼッタデザイングループの助力を得て、本発明者らは、GMA-2105可変領域のヒト化に対して、構造及び配列誘導アプローチ(structure- and sequence- guided approach)を実施した。GMA-2105のヒトホモログに対するProtein Data Bank (PDB)のBLAST解析により、好適な骨格として、利用可能な結晶構造(PDB ID:3QOS)を有し、GMA-2105 CDR(配列番号10-15)に対するレシピエントとして、ヒト生殖系列抗体(B3/3-23)を同定した。GMA-2105可変領域に対するモデルの小集団は、3000のフォールディングシミュレーションから生じた。CDR立体構造に影響を与え、従って抗原結合に影響を与え得るGMA-2105骨格アミノ酸を決定するために、該集団を解析した。GMA-2105 CDR(配列番号10-15)をB3/3-23へグラフトした後に、逆突然変異の影響を評価するために、さらにシミュレーションを行った。
【0121】
図31は、RosettaAntibodyソフトウェアを用いた、GMA-2105軽鎖(配列番号8、残基4-105)及びGMA-2105重鎖(配列番号6、残基4-110)の理論モデルを提供する。モデルは、充分に詰まった相補性決定領域及び芳香族残基の間のΠスタッキング相互作用を示す。
【0122】
図32は、26個の最低エネルギーGMA-2105モデルから形成された6クラスターそれぞれの典型を提供する。主要なクラスターにおける特徴は、GMA-2105重鎖(配列番号6)のW33、R52、Y58及びY97残基の間のΠスタッキング相互作用である。
【0123】
図33は、ヒトフレームワークにおけるGMA-2105軽鎖の残基46(配列番号8、残基46)でのアラニンからロイシンへの置換が、軽鎖−重鎖接触部分でこの残基が横たわることを理由に、鎖間配向性に影響し得ることを示す。
【0124】
図34は、重鎖残基76(配列番号6、残基76)でのアスパラギン酸のアスパラギンへの置換が、重鎖のフォールディングに影響を与え得ることを示す。D76(配列番号6、残基76)は、重鎖CDR2の残基H58(配列番号6、残基58及び配列番号14、残基8)及びフレームワークの残基R74(配列番号6、残基74)と塩橋を形成し得る。76位(配列番号6、残基76)でのアスパラギンへの置換は、ヒトモデルにおける重鎖のCDR2(配列番号10)と水素結合を形成するが、該配列におけるその他の相違がどのような影響をこの相互作用にもたらすかは不明である。1つのバリエーションにおいて、GMA-2105配列のヒト化は、76位でのアスパラギン酸(配列番号6、残基76)を保持し得る。
図34上で、数字指標は3だけシフトしている。配列番号6、残基76は、
図34ではD/N73と表示される。配列番号6、残基58は、
図34ではH55と表示される。配列番号6、残基74は、
図34ではR71と表示される。
【0125】
図35、重鎖残基81(配列番号6、残基81)でのバリンのロイシンへの置換は、重鎖残基81と重鎖CDR1残基F29(配列番号6、残基29及び配列番号13、残基4)の間のファンデルワールス接触に影響を与え得る。重鎖79位(配列番号6、残基79)での(SのNへの)置換、重鎖80位(配列番号6、残基80)での(SのTへの)置換、及び軽鎖43位(配列番号8、残基43)での(SのPへの)置換もまた、重鎖残基F29とH55-D73塩橋との間の接触を妨害し得る。1つのバリエーションにおいて、GMA-2105のヒト化は、43位、79位、80位、及び81位の少なくとも1つで、マウス残基を保持し得る。
図35上で、数字表示は場合によってシフトしている。それ故、配列番号6、81位は、
図35ではV/L78と表示される。配列番号6、残基79は、
図35ではS/N76と表示される。配列番号6、残基80は、
図35ではS/T77と表示される。
【0126】
図36、ヒト化GMA-2105配列の低エネルギーモデル。23のモデルを、重鎖CDR3(配列番号15)の立体構造に基づき、5つのクラスターへグループ化した。5つのクラスターのうち最大のもの(16/23)は、最大マウスGMA-2105クラスターでクラスター化された。
【0127】
治療的適用
スタフィロコアグラーゼの機能を特異的に阻害するモノクローナル抗体(mAb)は、抗凝固剤よりもオフターゲットの副作用を有する可能性が低く、重要な前進であり得る。
【0128】
本明細書に開示されるモノクローナル抗体は、スタフィロコアグラーゼの阻害剤として使用可能である。
【0129】
提供される抗体は、ブドウ球菌によってもたらされる感染症を治療又は予防するために、ヒト又は動物患者への投与のために好適な医薬組成物へ形成してもよい。提供される抗体、その変種、及び/又はその有効なフラグメントを含有する医薬組成物は、当技術分野において一般的に用いられる任意の好適な医薬的ビヒクル、賦形剤、又は、担体と組み合わせて製剤化され得、これには、本目的用のかかる従来の物質として例えば、生理的食塩水、ブドウ糖、水、グリセロール、エタノール、その他の治療的化合物、及びそれらの組合せが含まれる。用いられる特定のビヒクル、賦形剤、又は担体は、患者及び患者の状態に依存して変わり、当業者により認識され得るような様々な投与様式が本組成物に対して好適であり得る。本願に開示されるあらゆる医薬組成物の好適な投与方法には、局所投与、経口投与、経肛門投与、膣内投与、静脈内投与、腹腔内投与、筋内投与、皮下投与、鼻腔内投与、及び皮内投与が挙げられるが、これらに限定されない。
【0130】
局所投与が望まれる場合、組成物を、必要に応じて好適な形態、例えば、軟膏剤、クリーム、ゲル、ローション剤、(点眼薬や点耳薬のような)ドロップ剤、又は(洗口液のような)溶液として製剤化し得る。創傷被覆材又は縫合材、縫合糸、及びエアロゾルに、組成物を浸み込ませ得る。組成物は、例えば、保存剤、浸透を促進するための溶媒、及び皮膚軟化剤などの従来の添加物を含有し得る。局所製剤はまた、従来の担体、例えば、クリーム基材若しくは軟膏基材、エタノール、又はその他なども含有し得る。
【0131】
従って、提供される抗体組成物は、血中及び組織中において、ブドウ球菌の分泌するスタフィロコアグラーゼタンパク質とそのリガンドタンパク質であるプロトロンビンとの間の結合相互作用を干渉し、調節し、又は阻害することに対して有用であり、それ故、ブドウ球菌感染症を予防又は治療する組成物や方法の開発やプロトロンビンの活性化の阻害において注目すべき適用性を有する。
【0132】
上記のようなモノクローナル抗体の有効量を、ブドウ球菌感染症を治療又は予防するために有効な量において投与することを含む、ブドウ球菌感染症を予防又は治療するための方法が提供される。さらに、これらのモノクローナル抗体(マウス、キメラ、ヒト化配列、及びF(ab)フラグメントを含む様々な形態における)は、ブドウ球菌により分泌されるスタフィロコアグラーゼとの結合において高い親和性を有し、且つ、黄色ブドウ球菌のようなブドウ球菌由来の感染症を治療又は予防するのに効果的であることが示されている。本特質は、本明細書中に提供されるマウスの生存データによって裏付けられる。さらに、阻害実験によって実証されるように、これらのモノクローナル抗体は、宿主の凝固メカニズム(例えばAIEの発生に関わるメカニズム)の黄色ブドウ球菌による活性化を阻害することにおいて有用である。
【0133】
従って、上記したあらゆる従来の方法(例えば、局所投与、非経口投与、筋内投与等)における本明細書に開示される抗体の投与により、ヒト又は動物患者におけるブドウ球菌感染症の治療又は予防の極めて有用な方法が提供され得る。有効量とは、例えば抗体力価などの使用の水準が、細菌の付着を予防するのに、又はブドウ球菌の宿主細胞への結合を阻害するのに十分であり、ひいてはブドウ球菌感染症の治療又は予防において有用である、使用レベルを意味する。当業者に認識されるとおり、ブドウ球菌感染症の治療又は予防において有効であるために必要な抗体力価の水準は、患者の特質や状態、及び/又は先在するブドウ球菌感染症の重症度に依存して変わるであろう。
【0134】
開示される抗体及びその縮重型又はそのホモログの上記に記載されたような黄色ブドウ球菌感染症の治療又は予防のための使用に加えて、本発明者らは、これらの抗体を様々な方法において使用することを企図しており、これには患者においてであろうと、又は感染し得る医療機器、インプラント、又は人工装具においてであろうと、ブドウ球菌感染症の診断のために、黄色ブドウ球菌の存在を検出することが含まれる。例えば、ブドウ球菌感染症の存在を検出する方法は、個体から採取された、例えば、その個体の血液、唾液、組織、骨、筋肉、軟骨、又は皮膚から採取されたサンプル等の、1又は複数のブドウ球菌種又は株による感染が疑われるサンプルを獲得する工程を伴う。その後細胞を溶解してDNAを抽出し、沈殿させ、増幅させることができる。サンプルを単離した後、黄色ブドウ球菌の存在を検出するために、開示される抗体を利用した診断アッセイが実行され得るが、サンプル中におけるかかる存在を決定するためのそのようなアッセイ技術は当業者に周知であり、ラジオイムノアッセイ、ウェスタンブロット解析、及びELISAアッセイなどの方法が挙げられる。黄色ブドウ球菌感染症を診断する方法であって、黄色ブドウ球菌に感染していると疑われるサンプルに本明細書に記載されるモノクローナル抗体を添加しておき、当該サンプル中で抗体がスタフィロコアグラーゼタンパク質に結合することによって、黄色ブドウ球菌の存在が示されるとの方法が企図される。
【0135】
従って、開示される抗体は、ブドウ球菌タンパク質の特異的検出又は診断のため、ブドウ球菌由来の感染症を予防するため、進行中の感染症の治療のため、又は研究手段としての使用のために、用いられ得る。本明細書で用いられる用語「抗体」には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、二重特異性抗体、サル化(simianized)抗体、及び、ヒト化抗体、又は霊長類化(primatized)抗体、並びに、F(ab)イムノグロブリン発現ライブラリの産物を含む、スタフィロコアグラーゼタンパク質への抗体の結合特異性を維持したF(ab)フラグメントなどのF(ab)フラグメントが含まれる。従って、本発明者らは、以降に説明されるように抗体の可変重鎖及び可変軽鎖のような一本鎖の使用を企図する。これらのタイプの抗体又は抗体フラグメントのいずれの生成も、当業者には周知である。この場合、スタフィロコアグラーゼタンパク質に対するモノクローナル抗体は、N末端スタフィロコアグラーゼタンパク質に対して生成され、単離され、黄色ブドウ球菌に高い親和性を有することが示されている。さらに、提供されるモノクローナル抗体は、スタフィロコアグラーゼに対するポリクローナル抗体が認識するのと同程度に、多数の株を認識することが示されており、従って、ブドウ球菌感染症からの防御又はその治療のための方法において有効に用いることができる。
【0136】
上記されるようなスタフィロコアグラーゼに対する抗体はまた、例えば、アフィニティクロマトグラフィ等によって、さらなる量の当該タンパク質を単離するために、製造施設又は研究所においても用いられ得る。例えば、該抗体はまた、さらなる量のスタフィロコアグラーゼタンパク質又はそれらの活性フラグメントを単離するためにも利用され得る。
【0137】
本明細書において提供される単離された抗体、又はその活性フラグメントはまた、ブドウ球菌感染症に対する受動免疫のためのワクチンの開発においても利用され得る。さらに、医薬組成物として創傷へ投与され、又は、インビトロ及びインビボにおいて医療装置又は高分子バイオマテリアルをコートするために用いられる際に、当該抗体は、先在のブドウ球菌感染が存在する場合に有用であり得るが、これは、本抗体が黄色ブドウ球菌のスタフィロコアグラーゼのプロトロンビンへの結合をさらに制限及び阻害し、これにより感染の程度を限定することができるためである。さらに、該抗体は、場合によっては、それが投与される患者における免疫原性を低減するように改変され得る。例えば、患者がヒトである場合、例えば、Jones et al., Nature 321:522-525 (1986)又はTempest et al. Biotechnology 9:266-273 (1991)に記載され、本明細書に実証されるように、ハイブリドーマ由来の抗体の相補性決定領域(CDR)(例えば、配列番号10-15)を、ヒトモノクローナル抗体へ移植することにより、抗体は「ヒト化」され得る。またそれらは、例えば、これらの参考文献のいずれもが参照により本明細書に組込まれるPadlan, Molecular Imm. 28:489-498 (1991)及びU.S. Pat. No. 6,797,492によって記載されるように、イムノグロブリン可変領域中の表面に露出したマウスのフレームワーク残基を相同なヒトフレームワークのカウンターパートを模倣するように変更することによって、「べニア化(veneered)」され得る。なおさらに、そのように望まれる場合は、開示されるモノクローナル抗体は、本発明の組成物が細菌感染と戦うための能力をさらに強化するために、好適な抗生物質と共に投与され得る。
【0138】
該抗体はまた、ブドウ球菌感染症を治療又は予防するための好適な抗体の提供において有用である受動ワクチンとしても用いられ得る。当業者に認識されるとおり、ワクチンは、例えば非経口(すなわち、筋内、皮内、若しくは、皮下)投与又は鼻咽頭(すなわち、鼻腔内)投与などの多数の好適な方法における投与のためにパッケージ化され得る。かかる一つの様式においてワクチンは例えば三角筋へ筋内注射されるが、特定の投与様式は、対処される細菌感染の性質や患者の状態に依存するだろう。ワクチンは、投与を促進するために医薬上許容される担体と組み合され得、担体は通常、防腐剤を伴うか又は伴わない、水又は緩衝生理食塩水である。ワクチンは、凍結乾燥し投与時に再懸濁してもよく、また、溶液中にあってもよい。
【0139】
本明細書を通して「SC」及び「スタフィロコアグラーゼ」が用いられるが、開示されるモノクローナル抗体はまた、SCのホモログ又は縮重型に対しても有用であると企図される。同様に、DNA及びアミノ酸配列が開示されているが、特許請求の範囲は開示された配列並びに実質的に類似する配列に及ぶものと企図される。
【0140】
おおよそ70%又はそれ以上(例えば、少なくとも約80%、少なくとも約89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)のヌクレオチドが、DNA配列の定義される長さに亘って一致する場合に、2つのDNA配列は「実質的に類似」する。実質的に相同な配列は、配列データバンクにおいて利用可能な標準的なソフトウェアを用いて配列を比較することによって、或いは、例えば、その特定の系に対して定義されるようなストリンジェントな条件下で、サザンハイブリダイゼーション実験において同定することができる。適切なハイブリダイゼーション条件を定義することは、当業者の備える技能の範囲内である。例えば、Maniatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 1982; DNA Cloning, Vols. I & II, 前述; Nucleic Acid Hybridization, [B. D. Hames & S. J. Higgins eds. (1985)]を参照されたい。
【0141】
「実質的に類似する」とは、遺伝コードの縮重に起因して、開示される配列のいずれかにおいて示される配列と同一ではないものの、依然として同一のアミノ酸配列をコードしているDNA配列;又は、1のアミノ酸が類似のアミノ酸に置換されることにより、又は、変化(それが、置換、欠失又は挿入にかかわらず)がタンパク質の活性部位に影響を与えないことのいずれかの理由により、タンパク質の活性を保持している異なるアミノ酸配列をコードするDNA配列をさらに意味する。
【0142】
おおよそ70%又はそれ以上(例えば、少なくとも約80%、少なくとも約89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%)のアミノ酸が、配列の定義される長さに亘って一致する場合に、2つのアミノ酸配列又は2つの核酸配列は「実質的に類似」する。
【0143】
本明細書の証拠によって実証されるように、改変及び変更を、ペプチド及びそれらをコードするDNAセグメントの構造中に行い得、且つ、所望の特性を有するタンパク質又はペプチドをコードする機能的分子を依然として獲得し得る。タンパク質のアミノ酸の変更は等価物の創出のために用い得、また、改良された第二世代の分子を創出するためにさえも用い得る。
【0144】
例えば、ある特定のアミノ酸は、例えば、抗体の抗原結合領域又は基質分子上の結合部位の様な構造との相互結合能の大幅な喪失を伴うことなく、タンパク質構造において、他のアミノ酸へ置換され得る。タンパク質の相互作用能及び性質こそが、そのタンパク質の生物学的機能活性を定義するため、特定のアミノ酸配列の置換を、タンパク質配列中、及び当然に、その根本となるDNAコード配列においてなすことが可能であり、且つ、それにもかかわらず同様の特性を有するタンパク質を得ることが可能である。従って、それらの生物学的な有用性又は活性の大幅な喪失なしに、開示される組成物のペプチド配列中において、又は、当該ペプチドをコードする対応するDNA配列において、様々な変更がなされ得ることが本発明者らによって企図される。
【0145】
かかる変更をなすにおいて、アミノ酸のハイドロパシー指標が考慮され得る。タンパク質の相互作用的生物学的機能の付与におけるハイドロパシーアミノ酸指標の重要性は当技術分野において広く理解されている(Kyte and Doolittle, J. Mol Biol, 157(1):105-132, 1982)。
【0146】
特定のアミノ酸が、類似するハイドロパシー指標又はスコアを有する他のアミノ酸によって置換し得、且つ、依然として類似する生物学的活性を有するタンパク質を生じ得ること、乃ち、依然として生物学的な機能的に同等のタンパク質を得ることができることは当技術分野において公知である。かかる変更を行う際には、ハイドロパシー指標が約±0.5から約±2以内のアミノ酸を置換するとの一般的傾向がある。似ているアミノ酸の置換が、親水性に基づき効果的に行い得ることもまた当技術分野において理解されている。例えば、タンパク質の局所平均親水性は、その隣接するアミノ酸の親水性により左右され、該タンパク質の生物学的特性に関連し得る。
【0147】
アミノ酸を、類似する親水性値を有する他のアミノ酸へ置換しても、依然として生物学的同等物、特に、免疫学的に同等なタンパク質を得ることができることが理解される。
【0148】
上記に概説されるように、それ故、アミノ酸置換は一般的に、例えば、疎水性、親水性、電荷、サイズ等のアミノ酸側鎖の置換基の相対的類似性に基づく。様々な上述の特性を考慮に入れた典型的な置換が当業者に対して周知であり、これらに限定されないが、アルギニン及びリジン;グルタミン酸及びアスパラギン酸;セリン及びスレオニン;グルタミン及びアスパラギン;並びに、バリン、ロイシン及びイソロイシンが挙げられる。
【0149】
ポリペプチドは化学的に合成することができる。合成ポリペプチドは、これらに限定されないが、例えば固相法、液相法、若しくはペプチド縮合技術、又はそれらの任意の組合せなどの周知の技術を用いて調製され、天然及び非天然のアミノ酸を含めることができる。
【0150】
ATCC寄託
2013年8月14日に、特許が許可される場合、寄託物の永続性と、公衆によるそれに対する容易な利用可能性とを提供する寄託機関において、生物材料の寄託が行なわれた。具体的には、生物材料の寄託は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)、10801 ユニバーシティ ブルバード(University Boulevard)、マナサス、VA、20110、アメリカ合衆国に行われている。
【0151】
寄託された材料は、BALB/c マウス(Mus musculus)脾臓細胞由来のハイブリドーマ細胞株である。該細胞株は、スタフィロコアグラーゼGMA-2105、クローン2A1.5H4.2D3.B7を発現する。ATCCより、受託アクセッション番号ATCC PTA-120537が割り当てられた。そのように寄託された該材料の公衆の利用におけるあらゆる制限は、本特許の許可により決定的に除外される。該材料は、該材料へのアクセスが、本特許出願の係属の間は、37 C.F.R.1.14及び35 U.S.C. §122の下、それに対しての権利が与えられるべきと長官によって決定された者に対して利用可能であるとの条件の下、寄託されている。
【0152】
寄託された材料は、それが生存し、且つ、汚染されない状態を保つために必要なあらゆる注意をもって、該寄託された材料のサンプルの供与に関する最も直近の要請後少なくとも5年の期間、そして、どのような場合であっても、寄託日後少なくとも三十(30)年の期間、又は、本特許の権利行使可能な存続期間のいずれか長い方の期間、維持される。寄託物の利用可能性は、行政措置により許可される特許権の逸脱としての本発明を実施するための認可を構成するものではないということが理解されるべきである。
【0153】
本発明は、例証され、記載される態様に限定されず、それらが本発明の精神を逸脱しない限りにおいて、あらゆる同等の実施にも及ぶ。さらに、本発明は、本明細書に記載される特徴の組合せに限定されるものではなく、開示される個々の特徴の全てのあらゆる他の組合せによって定義され得る。さらに、本発明は、本明細書に記載される一連の方法ステップに限定されるものではなく、開示されるステップのあらゆる他の組合せ又は順序により定義され得る。当業者であれば、前述の詳細な説明及び図面及び特許請求の範囲から、本発明の開示された態様に対して、本発明の範囲を逸脱することなく、改変が行われ得ることを認識するだろう。