特許第6556765号(P6556765)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6556765ヒアルロン酸及び無機ナノ粒子をベースとする抗腫瘍組成物,その調製法,並びにその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556765
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】ヒアルロン酸及び無機ナノ粒子をベースとする抗腫瘍組成物,その調製法,並びにその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/36 20060101AFI20190729BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20190729BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20190729BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20190729BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20190729BHJP
   A61K 33/30 20060101ALI20190729BHJP
   A61K 33/26 20060101ALI20190729BHJP
   A61K 33/24 20190101ALI20190729BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20190729BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   A61K47/36
   A61K9/14
   A61K47/02
   A61K47/26
   A61P35/00
   A61K33/30
   A61K33/26
   A61K33/24
   A61K45/00
   A61K9/51
【請求項の数】23
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-575532(P2016-575532)
(86)(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公表番号】特表2017-519785(P2017-519785A)
(43)【公表日】2017年7月20日
(86)【国際出願番号】CZ2015000068
(87)【国際公開番号】WO2016000669
(87)【国際公開日】20160107
【審査請求日】2018年6月22日
(31)【優先権主張番号】PV2014-451
(32)【優先日】2014年6月30日
(33)【優先権主張国】CZ
(73)【特許権者】
【識別番号】507211897
【氏名又は名称】コンティプロ アクチオヴァ スポレチノスト
(74)【代理人】
【識別番号】110002398
【氏名又は名称】特許業務法人小倉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スメユカロヴァ,ダニエラ
(72)【発明者】
【氏名】ネスポロヴァ,クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】テプラ,マルティナ
(72)【発明者】
【氏名】シロヴァツカ,ヤクブ
(72)【発明者】
【氏名】フエルタ−アンジェレス,グロリア
(72)【発明者】
【氏名】ポスピシロヴァ,マルティナ
(72)【発明者】
【氏名】マツスカ,ヴィト
(72)【発明者】
【氏名】ムラツェク,イリ
(72)【発明者】
【氏名】ガリソヴァ,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】イラク,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ヴェレブニー,ヴラディミル
【審査官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/082609(WO,A1)
【文献】 特表平10−506121(JP,A)
【文献】 特表2010−516705(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/110828(WO,A1)
【文献】 特表2002−519481(JP,A)
【文献】 特表2012−520902(JP,A)
【文献】 Journal of Materials Chemistry,2012年 5月,Vol.22,pp.10444-10447
【文献】 Advanced Materials,2008年10月 6日,Vol.20,pp.4154-4157
【文献】 Nanomedicine: Nanotechnology, Biology, and Medicine,2007年,Vol.3,pp.132-137
【文献】 International Journal of Nanomedicine,2012年,Vol.7,pp.845-857
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
A61K47/00−47/69
A61K9/00−9/72
A61K45/00
A61P1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
(式中,RはH又はNaであり,RはH又はC(=O)C又は−C(=O)CH=CH−hetであり,xは5〜17の範囲内の整数であり,yは11〜35の範囲内の整数であり,Cは直鎖又は分岐鎖のC−C17の飽和鎖又は不飽和鎖であり,そしてhetは所望によりN,S又はO原子を有する複素環式基又は複素環芳香族基であり,少なくとも一つの繰り返し単位において一つ以上のRは,−C(=O)C又は−C(=O)CH=CH−hetであり,nは12〜4000の範囲内にある)で表されるヒアルロン酸のC−C18−アシル化誘導体をベースとする抗腫瘍組成物であって,安定化するオレイン酸を有する無機ナノ粒子をさらに含み,該無機ナノ粒子が超常磁性ナノ粒子及びアップコンバージョンナノ粒子又は酸化亜鉛ナノ粒子から成る群から選ばれることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記アシル化ヒアルロナンが,飽和及び不飽和結合を有するヒアルロン酸のC−C18アシル化誘導体,特にヒアルロン酸のC18:1アシル化誘導体であることを特徴とする請求項1記載の抗腫瘍組成物。
【請求項3】
前記アシル化ヒアルロナンが無機ナノ粒子のキャリヤーとして寄与することを特徴とする請求項1又は2記載の抗腫瘍組成物。
【請求項4】
前記無機ナノ粒子が超常磁性ナノ粒子であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の抗腫瘍組成物。
【請求項5】
前記組成物中のFeの量が0.3〜3重量%,好ましくは1.0重量%である酸化鉄をベースとする超常磁性ナノ粒子を含むことを特徴とする請求項4記載の抗腫瘍組成物。
【請求項6】
5〜20nmのサイズを有する超常磁性ナノ粒子を含むことを特徴とする請求項4又は5記載の抗腫瘍組成物。
【請求項7】
5〜7nmのサイズを有する超常磁性ナノ粒子を含むことを特徴とする請求項4又は5記載の抗腫瘍組成物。
【請求項8】
5nmのサイズを有する超常磁性ナノ粒子を含むことを特徴とする請求項4又は5記載の抗腫瘍組成物。
【請求項9】
酸化亜鉛ナノ粒子を0.3〜3重量%含むことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の抗腫瘍組成物。
【請求項10】
前記組成物中の希土類元素の合計含有量が0.3〜3重量%である量でアップコンバージョンナノ粒子を含むことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の抗腫瘍組成物。
【請求項11】
Er,Yb及びYを含むアップコンバージョンナノ粒子を含むことを特徴とする請求項10記載の抗腫瘍組成物。
【請求項12】
付着及び懸濁の両方の腫瘍細胞の増殖抑制に使用される請求項1〜11いずれか1項記載の抗腫瘍組成物。
【請求項13】
大腸の癌及び腺癌,肺癌,肝細胞癌,乳腺癌,好ましくは大腸の癌及び腺癌に由来した腫瘍細胞の増殖の抑制に使用される請求項1〜12いずれか1項記載の抗腫瘍組成物。
【請求項14】
体内,特に腫瘍及び肝臓中における前記組成物の蓄積のインビボ検出に使用される請求項4〜8いずれか1項記載の抗腫瘍組成物。
【請求項15】
体内の病的形成物,特に腫瘍のインビボ検出に使用される請求項4〜8いずれか1項記載の抗腫瘍組成物。
【請求項16】
非経口又は局所投与のための処方において適用可能であることを特徴とする請求項1〜15いずれか1項記載の抗腫瘍組成物。
【請求項17】
医薬品組成物に使用される他の添加剤,好ましくは塩化ナトリウム,デキストロース又は緩衝塩をさらに含むことを特徴とする請求項1〜16いずれか1項記載の抗腫瘍組成物。
【請求項18】
さらに薬物,好ましくは細胞増殖抑制剤を含むことを特徴とする請求項1〜17いずれか1項記載の抗腫瘍組成物。
【請求項19】
最終包装内でオートクレーブにより滅菌可能であることを特徴とする請求項1〜18いずれか1項記載の抗腫瘍組成物。
【請求項20】
請求項1〜19いずれか1項記載の組成物の調製方法であって,ヒアルロン酸のアシル化誘導体の水溶液を調製し,次に有機ハロゲン化物溶媒に分散されオレイン酸によって安定化されかつ超常磁性ナノ粒子,アップコンバージョンナノ粒子又は酸化亜鉛ナノ粒子からなる群より選択される無機ナノ粒子を添加し,得られた懸濁液を均質の混合物が形成されるまでソニケーションし,その後,遊離の無機ナノ粒子をナノミセルに充填された無機ナノ粒子から遠心分離及びその後の濾過により分離することを特徴とする方法。
【請求項21】
続いて濾液を凍結乾燥することを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項22】
続いて濾液を最終包装内でオートクレーブにより滅菌することを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項23】
続いて凍結乾燥体を水溶液に溶解し,最終包装内でオートクレーブにより滅菌することを特徴とする請求項21記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,腫瘍疾病の治療に使用され得るヒアルロン酸をベースとする組成物に関する。該組成物は,ヒアルロン酸の疎水化誘導体又はその薬学的に許容される塩を含むポリマーナノミセル,オレイン酸によって安定化されたナノ粒子,好ましくは鉄の超常磁性ナノ粒子,亜鉛のナノ粒子又はアップコンバージョンナノ粒子を含む。
【背景技術】
【0002】
腫瘍疾病の治療においては,全身に分布される薬物を患者に静脈内又は経口投与する化学療法が最も頻繁に使用される。しかしながら,抗癌物質は,腫瘍細胞だけでなく正常細胞にも非常に有毒である。従って,全身への分布の結果,腫瘍疾病のある領域だけでなく健康な組織及び細胞の領域で抗腫瘍治療の毒性がもたらされる。さらに,医薬の選択的でない分配は,最終的に腫瘍細胞に到達する薬物の量を減少させ,それによって,治療の有効性を低下させる。
【0003】
上記の事実により,腫瘍細胞への化学療法の有効性を増強し,同時に治療による望ましくない全身毒性を抑えることを可能にする適切な方法を見つけることに非常に大きな利益がある。医薬がキャリヤーシステムのマトリックス中に取り込まれると,薬物の望ましくない副作用がかなりの程度抑えられ,消失することさえあることが見出された。この目的のために,そのような腫瘍細胞へのキャリヤーシステムのターゲッティングに研究が向けられることが多くなっている。
【0004】
最近,ターゲッティングに最もよく使用される二つの方法がある。一つは,腫瘍組織における透過性及び貯留の増加(いわゆるEPR効果)を利用するいわゆる受動的ターゲッティングに基づくものである(Maeda,2001)。健康な組織とは対照的に,腫瘍組織はナノメートルサイズの分子を血流から腫瘍まで到達させる穿孔のある血管の分布を特徴とする。しかしながら,他の要因に加えて,受動的ターゲッティングは,低い有効性と,腫瘍細胞が薬物を伴うキャリヤーシステムを非特異的に捕捉することにより制限される。しかしながら,キャリヤーシステムが受動的ターゲッティングに適した大きさを有する場合,そのようなターゲッティング法は,該キャリヤーの他の特性により腫瘍細胞に対する特定の治療の増強された抗腫瘍効果と関連し得る。例えば,特許出願WO2008/130121は,水溶液中で高分子ミセルを形成する腫瘍選択性・生分解性のシクロトリホスファゼン−白金(II)複合体の特許を請求しており,そしてこれは,US2001/6333422の同様の複合体と比較して,受動的ターゲッティングにおいて腫瘍組織に増強された選択性を示す。受動的ターゲッティングにおける腫瘍細胞に関しての増強された選択性は,特許出願WO2013/188727にも言及されており,ここでは迅速に開裂するエステルフェノール結合(esteric phenolic bond)によって結合したレチノエート(retinoate)又はその異性体と薬物(SN−38,PI−103,エトポシド,フェンレチニド)との複合体を含む,生分解性のPEG化ナノ粒子が開示されている。いずれの場合も,同様のシステムと比較した実験データに基づいて増強された選択性が確認された。
【0005】
ターゲッティング及びそれによる医薬の作用の選択性をより有効にするための別の方法,治療剤(therapeutics)が腫瘍細胞の表面にある受容体に対して高親和性を有するリガンドにより修飾されている場合の可能性である。この第2の方法は,能動的ターゲッティングとして知られており,治療剤(therapeutic)の腫瘍細胞への選択的分布を保証するものである。一例として,例えばチアゾリジノン・アミド及びチアゾリジニン(thiazolidinine)アミドのカルボン酸誘導体が特許請求されているUS2007/0155807に開示されている解決法があり,ここでは,増加したLPL受容体発現を示すメラノーマ細胞への選択的挙動が確認された。この解決法及び類似の解決法の欠点は,LPL受容体が正常細胞,例えば心筋細胞でも同様に発現するという事実であり,それらは健康な組織におけるそれらの選択作用をも導き得る。この解決法及び類似の解決法(例えばWO2012/173677,US2013/02742200)の別の欠点は,腫瘍細胞受容体の発現が時期だけでなく患者によっても変動するという事実である(Duncan & Gaspar, 2011)。従って,能動的ターゲッティングのために選択した結合リガンドは,腫瘍疾患の特定の病期の細胞にのみ,あるいは患者のうちの数人にのみ効果があるかもしれない。
【0006】
能動的ターゲッティングの別の可能性は,システムが共有結合で又は非共有結合で結合した磁気ナノ粒子を含む場合に外部磁界によりキャリヤーシステムをターゲッティングすることにある。この場合,好ましくは超常磁性ナノ粒子(SPION)が使用され得る。最も頻繁には,これらは,意図された薬学的機能のない不活性なコントラストMRI手段として評価されているFeナノ粒子である(Huang et al.,2013)。細胞におけるそのインターナリゼーションの後のSPIONに関する限り,短期毒性も長期毒性もこれまで報告されていない(Huang et al.,2013)。MRIコントラスト及び磁気ターゲッティングに加えて,SPIONは細胞増殖抑制剤あるいは他の薬物と結合してキャリヤーとして使用され得る。別の好ましい用途は,SPIONが交番磁界エネルギーを吸収してそれを熱に転換する磁性流体ハイパーサーミアである。したがって,SPIONが位置する領域の温度を選択的に上昇させることが可能である。SPIONが腫瘍の領域に位置する場合,それらは正常細胞より温度感受性が高いので,高温により腫瘍細胞を破壊することが可能である(Laurent, Dutz, Hafeli & Mahmoudi, 2011)。
【0007】
受動的又は能動的ターゲッティングと組み合わせて,正常細胞と比較して特徴的な腫瘍細胞のいくつかの性質が,治療の選択性を強化するために使用される(Fleige, Quadir & Haag, 2012)。これらの性質は,例えばより酸性度の高いpH,高レベルの活性酸素(ROS)である。特許出願US2013/0230542は,ROSが存在する環境で活性化される治療成分(フェノール誘導体)を開示しており,これらは高レベルのROSを有する腫瘍細胞中で選択的に作用する。この解決法の欠点は,高いROSレベルはある種の正常細胞でも同様に存在するという事実である。例としては高レベルのROSがファゴゾーム中の病原体を消失させるマクロファージが挙げられる。高いROSレベルは,他の細胞においても低酸素に対する自然な生体防御機構として,また多くの生理機能に影響するシグナル分子として寄与する。
【0008】
文献では,インビトロで,いくつかのタイプの腫瘍細胞についての抗腫瘍方法で作用するという点で有望な抗腫瘍組成物もある。一例として,次の群から選ばれる1〜3の成分を含むUS2005/0255173の組成物が挙げられる:クエン酸,亜鉛及びアルブミン。この組成物は腺癌NIH:OV−CAR−3及びSKOV−3に由来したヒト細胞株に対してコントロール細胞WI38(正常ヒト肺線維芽細胞)と比較してインビトロでより高い細胞毒性を有する。この組成物の欠点は,その抗腫瘍効果が個々の成分の濃度含量に依存するという事実である(US2005/0255173)。成分が身体に固有のものであるので,特許請求された組成物の効果は,投与された特定の箇所での個々の物質の局所濃度(例えば血液中の高濃度のアルブミン)によって影響を受けるかもしれない。
【0009】
引用した文献は,抗腫瘍治療学の研究が国際的に行われていることを示す。しかしながら,提案されている解決法の臨床用途での成功については,特にそれらの解決法のほとんどが生物分解性でない有機ポリマーを含んでいること,それらに腫瘍細胞への十分な選択性がないことから,まだ課題がある。そのため,腫瘍細胞に選択性を有する新しい組成物を見出すことはなお重要である。
【0010】
発明の内容
本発明の主題は,選択的な抗腫瘍治療剤(therapeutics)としての無機ナノ粒子と組み合わせたヒアルロナンのナノミセルにある。より具体的には,本発明は,大腸癌又は腺癌,肺癌,肝細胞癌及び乳癌に由来する細胞に選択的に作用する疎水化ヒアルロン酸及び無機ナノ粒子をベースとする組成物に関する。この組成物はインビボの造影剤としても使用され得る。さらに,本発明は該組成物の調製法に関する。
【0011】
該組成物は疎水化ヒアルロナンのナノミセルに,オレイン酸によって安定化された無機ナノ粒子を充填することに基づく。充填は,有機溶媒中のナノ粒子の溶液を水中の疎水化ヒアルロナンの溶液と共にソニケーションすることによって行ない得る。その後,得られた無機ナノ粒子を含むナノミセルを遠心分離にかけ,それによって遊離の無機ナノ粒子から分離し,腫瘍細胞への選択的効果のために使用し得る。本発明の組成物の主要かつ特徴的な利点は,腫瘍細胞とコントロール細胞の混合物を処理する場合でさえインビトロでの腫瘍細胞への選択的活性があることである。この組成物はオレイン酸によって安定化された無機ナノ粒子を含んでおり,無機ナノ粒子の本来の目的は,身体に投与した後に該組成物のインビボでの検出を可能にすることであった。しかしながら,驚くべきことに,疎水化ヒアルロン酸,特にヒアルロン酸オレイル誘導体と組み合わせると,たとえ細胞増殖抑制剤又は他の治療剤がなくても該組成物がインビトロで腫瘍細胞に選択的な細胞毒性を有することが見出された。この予期されず,今のところ説明もできない効果は,オレイン酸によって安定化されている限り,SPIONナノ粒子,酸化亜鉛ナノ粒子及びアップコンバージョンナノ粒子に見られた。予期されていなかった効果は受容体媒介の効果,すなわちヒアルロナンに特有のCD44受容体に媒介される効果として明確に説明することもできず,増加したROS産生の影響に関連して今まで集められたデータにより観測される選択性でもあり得ない。しかしながら,選択性はナノ粒子イオンの細胞内遊離の別の機構によって起きるかもしれない。多糖類あるいは別のポリマーマトリクスをベースとするキャリヤーに組み入れられたSPIONは,非細胞毒性であると解釈されてきたため腫瘍細胞上の選択効果はなおさら驚くべきことである(El-Dakdouki et al., 2012;Li, Kim, Tian, Yu, Jon & Moon, 2012)。
【0012】
前述の組成物の他の利点は,生理的溶液との適合性,インビボでの静脈内投与の可能性及び生理的pHにおけるナノミセルの経時安定性を含む。該組成物の別の利点は,ナノミセル・システムのまわりの外被を形成するキャリアポリマーとしてのヒアルロナンの使用によって,インビボで投与するための組成物の適合性を確保することである。好ましくは,ヒアルロナンは,CD44受容体の発現増加を特徴とする腫瘍細胞への該組成物の結合形成をサポートしてもよい。組成物中のSPIONの存在は,磁界による体内の希望の位置へのキャリヤーのターゲッティングに好ましく使用され得る。交番磁界は,腫瘍組織の破壊に結びつく高熱を引き起こすのに寄与し得る。別の利点は,所定の組成物を細胞増殖抑制剤のような他の活性物質と組み合わせてもよいということである。SPION及び酸化亜鉛のナノ粒子と同様に,アップコンバージョンナノ粒子の存在は,組織内での組成物のインビボでの検出に好ましく使用され得る。さらに,特定組成を有するアップコンバージョンナノ粒子は,光線力学療法又は組成物からの薬物の制御された放出に使用され得る。酸化亜鉛ナノ粒子の存在は,ZnOナノ粒子が溶解しZn2+イオンが放出されてより高濃度で局所的に細胞毒性となる,酸性度がより高いpHを有する腫瘍組織で好ましく使用され得る。
【0013】
したがって,本発明は,アシル化ヒアルロナンと,オレイン酸によって安定させた超常磁性ナノ粒子,アップコンバージョンナノ粒子又は酸化亜鉛ナノ粒子を含む群から選ばれ,特に超常磁性ナノ粒子である無機ナノ粒子をベースとする抗腫瘍組成物に関する。アシル化ヒアルロナンは,特に飽和及び不飽和結合を有するヒアルロン酸のC−C18アシル化誘導体,特にヒアルロン酸のC18:1アシル化誘導体であってよく,該アシル化ヒアルロナンは無機ナノ粒子のキャリヤーとして寄与する。本発明による組成物が超常磁性ナノ粒子を含んでいる場合,これらは好ましくは組成物中のFeの量が0.3〜3重量%,好ましくは1.0重量%である酸化鉄をベースとするナノ粒子である。超常磁性ナノ粒子のサイズは5〜20nm,好ましくは5〜7nm,より好ましくは5nmである。抗腫瘍組成物が酸化亜鉛ナノ粒子を含む場合,これらは好ましくは0.3〜3重量%のZn量で存在する。該抗腫瘍組成物がアップコンバージョンナノ粒子を含む場合,これらは好ましくは組成物中の希土類元素の総量が,0.3〜3重量%である量で存在する。アップコンバージョンナノ粒子は,例えばEr,Yb及びYを含み得る。本発明の組成による組成物の利点は,オートクレーブにより最終包装の中で滅菌することが可能であるという事実でもある。
【0014】
本発明による抗腫瘍組成物は,特に大腸の癌及び腺癌,肺癌,肝細胞癌,乳癌,好ましくは大腸の癌及び腺癌由来の付着及び懸濁の両方のヒト腫瘍細胞株の増殖抑制に使用され得る。さらに,超常磁性ナノ粒子を含む抗腫瘍組成物は,インビボの造影剤(contrast substance)として,即ち体内,特に肝臓及び病的形成物,例えば腫瘍における組成物の蓄積の検出のために使用され得る。本発明による組成物が,腫瘍細胞と非腫瘍細胞とで,特にヒトの大腸腺癌(=腫瘍)に由来する細胞とヒトの皮膚線維芽細胞(=非腫瘍)に由来する細胞とで,インビトロで異なる方法による金属イオンの放出を示すことが見出された。
【0015】
本発明による抗腫瘍組成物は非経口又は局所投与,例えば,静脈内投与のための処方に適用され得る。それはさらに,医薬品組成物に使用される他の添加物,好ましくは塩化ナトリウム,デキストロース又は緩衝塩を含み得る。
【0016】
本発明による組成物は下記の方法で調製することができる:ヒアルロン酸のアシル化誘導体の水溶液を調製し,次にハロゲン化物溶媒,例えばクロロホルムに分散した無機粒子を添加し,該無機粒子はオレイン酸によって安定化されておりかつ超常磁性ナノ粒子,アップコンバージョンナノ粒子又は酸化亜鉛ナノ粒子からなる群より選択されるものであり,得られた懸濁液を均質の混合物が形成されるまでソニケーションし,その後,遊離の無機ナノ粒子をナノミセルに充填した無機ナノ粒子から遠心分離及びその後の濾過により分離する。その後,濾液を凍結乾燥してもよく,長期貯蔵の目的でオートクレーブにより滅菌してもよい。その後,凍結乾燥体を水溶液に溶解し,オートクレーブにより滅菌してもよい。
【0017】
本発明の目的のためには,市販のSPIONを使用し,オレイン酸によって安定化し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】疎水化ヒアルロナンに内包されたナノ粒子(SPION)のTEM写真。
図2A】コントロールのNHDF線維芽細胞及びマウス非腫瘍3T3株のポジティブ/ニュートラル効果と比較した,腫瘍HT−29株における,SPIONを有するアシル化ヒアルロナンの組成物による生存率の抑制。
図2B】コントロールのNHDF線維芽細胞及びマウス非腫瘍3T3株のポジティブ/ニュートラル効果と比較した,腫瘍HT−29株における,SPIONを有するアシル化ヒアルロナンの組成物による生存率の抑制。
図2C】コントロールのNHDF線維芽細胞及びマウス非腫瘍3T3株のポジティブ/ニュートラル効果と比較した,腫瘍HT−29株における,SPIONを有するアシル化ヒアルロナンの組成物による生存率の抑制。
図3】コントロールのNHDF線維芽細胞及びマウス非腫瘍3T3株のポジティブ効果と比較した,様々な腫瘍細胞株の生存率の抑制に対するSPIONを有するアシル化ヒアルロナンの組成物の影響。
図4A】内包された5nmのSPIONを有するアシル化ヒアルロナンの組成物の腫瘍細胞HT−29と正常NHDF及び3T3株の生存率に対する影響の比較。
図4B】内包された10nmのSPIONを有するアシル化ヒアルロナンの組成物の腫瘍細胞HT−29と正常NHDF及び3T3株の生存率に対する影響の比較。
図4C】内包された20nmのSPIONを有するアシル化ヒアルロナンの組成物の腫瘍細胞HT−29と正常NHDF及び3T3株の生存率に対する影響の比較。
図5A】コントロールのNHDF線維芽細胞及びマウス非腫瘍3T3株のポジティブ/ニュートラル効果と比較した,腫瘍HT−29株における,亜鉛ナノ粒子を有するアシル化ヒアルロナンの組成物による生存率の抑制。
図5B】コントロールのNHDF線維芽細胞及びマウス非腫瘍3T3株のポジティブ/ニュートラル効果と比較した,腫瘍HT−29株における,亜鉛ナノ粒子を有するアシル化ヒアルロナンの組成物による生存率の抑制。
図5C】コントロールのNHDF線維芽細胞及びマウス非腫瘍3T3株のポジティブ/ニュートラル効果と比較した,腫瘍HT−29株における,亜鉛ナノ粒子を有するアシル化ヒアルロナンの組成物による生存率の抑制。
図6A】コントロールのNHDF線維芽細胞及びマウス非腫瘍3T3株のポジティブ/ニュートラル効果と比較した,腫瘍HT−29株における,アップコンバージョンナノ粒子を有するアシル化ヒアルロナンの組成物による生存率の抑制。
図6B】コントロールのNHDF線維芽細胞及びマウス非腫瘍3T3株のポジティブ/ニュートラル効果と比較した,腫瘍HT−29株における,アップコンバージョンナノ粒子を有するアシル化ヒアルロナンの組成物による生存率の抑制。
図6C】コントロールのNHDF線維芽細胞及びマウス非腫瘍3T3株のポジティブ/ニュートラル効果と比較した,腫瘍HT−29株における,アップコンバージョンナノ粒子を有するアシル化ヒアルロナンの組成物による生存率の抑制。
図7】SPIONを有するアシル化ヒアルロナンの組成物を用いた,正常NHDF線維芽細胞及びコントロールのHT−29細胞の共培養。
図8】フローサイトメトリーによって測定した,細胞NHDF,MCF−7及びMDA−MB−231の表面のCD44受容体の発現。
図9】NHDF及びHT−29におけるSPIONを有するアシル化ヒアルロナンの組成物によるROS生成の誘導。
図10】SPION(スケール(scale):10μm)を有するアシル化ヒアルロナンの組成物と共にインキュベーションした後の腫瘍HT−29及びコントロールのNHDF細胞における細胞内Fe染色
図11】静脈内投与後の腫瘍細胞におけるアシル化ヒアルロナンに充填されたSPIONの時間蓄積(time accumulation)のMRI検出(膠芽腫,1.1mgFe/kg)。
図12】アシル化ヒアルロナンに充填されたSPION組成物の静脈内投与(1.1mgFe/kg)の後の肝臓のMRIコントラスト。
図13】プルシアンブルーによる染色後の腫瘍の組織切片におけるFe検出(SPION組成物の投与後2及び24時間)。
図14】プルシアンブルーによる染色後の肝臓の組織切片におけるFe検出(SPION組成物の投与後2及び24時間)
図15】疎水化ヒアルロナン中に内包させたナノ粒子(SPION)の滅菌後のTEM写真。
図16】オートクレーブによる滅菌前後のSPION組成物の選択的な細胞毒性。
図17A】マウスリンパ腫株EL4におけるSPION組成物によるアポプトーシスの誘導。
図17B】マウスリンパ腫株EL4におけるSPION組成物によるアポプトーシスの誘導。
図17C】マウスリンパ腫株EL4におけるSPION組成物によるアポプトーシスの誘導。
【0019】
実施例
SS=置換度=100%結合した置換基のモル量/多糖二量体の全モル量
ここに使用される当量(eq)という用語は,そうでないとことが示されていない限り,ヒアルロン酸二量体について使用される。パーセンテージは,そうでないとことが示されていない限り,重量パーセントである。
【0020】
ヒアルロン酸:(Contipro Pharma,a.s., Dolni Dobrouc,CZから入手)の分子量は,SEC−MALLSにより決定した。無機ナノ粒子という用語は,診断機能を有し,該診断機能が本発明による組成物中で使用される無機ナノ粒子の本質的な一般的性質である無機ナノ粒子を意味する。該診断機能は,医学において利用可能な方法によって該粒子を検知する可能性を意味することが意図されている。SPIONは磁気共鳴によって,ZnO及びアップコンバージョンナノ粒子は発光(luminiscence)画像形成により検知することができ,これらのすべての粒子状物質は,検出のために適正に最適化されており,それが,それらが使用される理由である。したがって,1セットの無機ナノ粒子から,インビボであるいはインビトロでの検出(ミセルの)を可能にするものを選択した。
【0021】
アップコンバージョンナノ粒子という用語は,エネルギーを有効にアップコンバージョンできる無機ナノ粒子が他に知られていないので,アップコンバージョンランタノイドナノ粒子,即ち希土類の群からの元素を含むナノ粒子を意味する。
【0022】
実施例1:疎水化ヒアルロン酸,より具体的には安息香酸とオレイン酸の混合酸無水物によるヒアルロン酸のオレイル誘導体(C18:1)の調製
100gのヒアルロン酸ナトリウム(250mmol,15kDa)を脱イオン水(demi water)2000mlに溶解した。その後,1000mlのイソプロパノールを徐々に添加した。その後,TEA(70ml,3当量)及びDMAP(1.52g,0.05当量)を該溶液に添加した。同時に,オレイン酸(35.3g,0.5当量)をイソプロパノール1000mlに溶解し,その後TEA(70ml,3当量)及び塩化ベンゾイル(14.4ml,0.5当量)を,該溶液に添加した。この酸の活性化の後,沈殿物を濾取して前記調製したHA溶液に入れた。この反応は室温で3時間行った。その後,この反応混合物を95gのNaClを添加した1000mlの脱イオン水によって希釈した。アシル化した誘導体を4倍の無水イソプロパノールを用いて沈殿させることにより反応混合物から分離した。デカンテーションの後,沈殿をイソプロパノール水溶液(85容量%)で繰り返し洗浄した。
SS 13%(NMRで決定)。
H NMR(DO):δ0.88(t,3H,−CH−CH),δ1.22−1.35(m,20H(−CH−)10),
δ1.60(m,2H,−CH−CH−CO−),δ2.0(4H(−CH−)),δ2.41(t,2H,−CH−CO−),δ5.41(d,2H,CH=CH)
この実施例は,ヒアルロナンの疎水化誘導体の一般的な合成法を記載している。しかしながら,その方法はオレイル誘導体のみに限定されない。疎水化誘導体の合成の詳細な開示は,特許出願CZ PV2012−842に記載されている。
【0023】
実施例2:平均サイズ5nmのSPIONの調製
1.80gのオレイン酸第二鉄,0.35mlのオレイン酸及び13.35mlの1−オクタデケンを,容量50mlの三口フラスコへ添加した。その混合物を真空下でゆっくり100℃まで加熱し,揮発成分を取り出す(draw away)ために30分間維持した。その後,その混合物を穏やかなアルゴン流下で280℃まで加熱し,60分間この温度で維持した。この混合物を280℃で反応させる間にアルゴンでバブリングした。室温に冷却した後,アセトンをその反応混合物に添加し,ナノ粒子を遠心分離によって分離した。その後,沈殿したSPIONをヘキサン/アセトン(1:4〜1:1の連続する比率)の混合物で4回洗浄し,最後に,それらをトルエン中に分散し,暗所で4℃で貯蔵した。
収率:78%
ナノ粒子のサイズ:5.2±0.8nm(電子顕微鏡写真による)
【0024】
実施例3:10nmの平均サイズを有するSPIONの調製
1.80gのオレイン酸第二鉄,0.35mlのオレイン酸及び13.35mlの1−オクタデケンを,50ml容量の三口フラスコへ加えた。その混合物を真空下でゆっくり100℃まで加熱し,揮発成分を取り出すために30分間維持した。その後,その混合物を穏やかなアルゴン流下で沸点(〜317℃)まで加熱し,60分間この温度で維持した。室温に冷却した後,SPIONを実施例2と同じ方法で分離した。
収率:74%
ナノ粒子のサイズ:9.8±0.5nm(電子顕微鏡からの写真による)
【0025】
実施例4:平均サイズ20nmのSPIONの調製
1.80gのオレイン酸第二鉄,0.35mlのオレイン酸及び5.34mlの1−オクタデケン,及び6gのn−ドコサンを,50ml容量の三口フラスコへ加えた。その混合物を真空下でゆっくり100℃まで加熱し,揮発成分を取り出すために30分間維持した。その後,その混合物を穏やかなアルゴン流の下で315℃まで加熱し,60分間この温度で維持した。室温に冷却した後,SPIONを実施例2と同じ方法で分離した。
収率:56%
ナノ粒子のサイズ:21.1±3.1nm(電子顕微鏡写真による)
【0026】
実施例5:ZnOナノ粒子の調製
酢酸亜鉛二水和物(1185.30mg;5.4mmol)を,室温で,容量250mlの三口フラスコへ導入し,メタノール(90ml)に溶解した。その間にメタノール(22.39ml)中の水酸化テトラメチルアンモニウム(1622.91mg;8.96mmol)の溶液を2口フラスコ中で調製した。上記溶液の両方を,アルゴンでバブリングしながら超音波洗浄浴(水浴温度50℃,出力120W)中で15分間脱気した。酢酸亜鉛のメタノール溶液を,油浴(浴温60℃)中,還流下で加熱した。オレイン酸(310μl;0.99mmol)を添加した後,この混合物を沸点にした(浴温85℃)。前記メタノール中の水酸化テトラメチルアンモニウムの溶液を還流下で加熱し(浴温75℃),酢酸亜鉛とオレイン酸を入れた三口フラスコへ素早く添加した。この反応混合物を絶えず撹拌しながら(600rpm)還流し,2分間アルゴンでバブリングした(浴温85℃)。その後,その混合物をメタノール(90ml)によって希釈し,氷浴中で15分間冷却した。この冷却した混合物を15分間遠心分離機にかけた(4000×g,4℃)。この粒子をエタノール(3×25ml)で洗浄し,各洗浄工程の後には遠心分離(4000×g,25℃)を10分間行った。その粒子をクロロホルム(45ml)中に分散し,4℃で暗所で貯蔵した。
螢光の量子収率:34%(平均法,標準=ノルハルマンによって決定した)
ナノ粒子のサイズ:3.4±0.3nm(電子顕微鏡写真による)
【0027】
実施例6:アップコンバージョンナノ粒子の調製
1.60mmolのイットリウム(III)酢酸塩,0.36mmolのイッテルビウム(III)酢酸塩及び0.04mmolのエルビウム(III)酢酸塩に対応するモル量を,100ml容量の三口フラスコへ導入し,1−オクタデケン(34ml)及びオレイン酸(12.0ml)を添加した。その混合物を激しく撹拌しながら(600rpm)脱気し,80℃まで油浴でゆっくり加熱した。この温度で,該混合物を完全な清澄化まで真空下で攪拌し,そしてその時点からさらに90分間真空下で撹拌した。この混合物の入ったフラスコにアルゴンを充填し,アルゴン雰囲気下,室温まで冷却した後,メタノール(20ml)中のNaOH(200mg)及びNHF(296.3mg)の溶液を添加したところ,混合物には直ちに曇りが生じた。その混合物を,室温で一晩撹拌し,その後メタノールをゆっくり65℃(油浴)で蒸発させた。その後,混合物の入ったフラスコをPIDコントローラーによってコントロールされたマントルヒーターに移した。その混合物を徐々に真空とし,真空下で112℃にゆっくり加熱し,これをその温度で30分間脱気した。その後,この混合物の入ったフラスコに,アルゴンを充填し,空気還流下(under air reflux)で,穏やかなアルゴン流中で305℃まで2℃/分の速度で加熱した。この混合物を305℃で110分間放置し,加熱をやめ,室温に自然冷却した。
アップコンバージョンナノ粒子をエタノール(反応混合物の体積の二倍の体積)によって反応混合物から沈殿させ,次に,遠心分離(RCF 3000×g;10分)によって分離した。該ナノ粒子(沈殿)をヘキサン5mlに分散し,エタノール(10ml)によって沈殿させ,遠心分離(RCF 3000×g;7分)によって分離した。該ナノ粒子をヘキサン/エタノール系で3回及びヘキサン/アセトン系で3回という方法で精製した。最後に,該ナノ粒子をクロロホルム(10ml)に分散し,室温で貯蔵した。
ナノ粒子組成(ICP−OES):NaYF:Yb/Er(80mol.%Y,18mol.%Yb,2mol.%Er)
有機成分フラクション(TGA):7%
ナノ粒子のサイズ(電子顕微鏡):34±2nm
【0028】
実施例7:SPIONを有するヒアルロン酸のカプロニル(capronyl)誘導体(HAC6)の組成物の調製
実施例1によって調製したヒアルロナンのアシル化誘導体(HAC6,DS=60%,Mw=38kDa)150mgを,マグネチックスターラーで常に撹拌しながら15mlの脱イオン水中に2時間で溶解させた。実施例2により調製したSPION(オレイン酸によって安定化,ナノ粒子のサイズ:5nm)を,トルエン溶媒からクロロホルム溶媒に移した。
アシル化ヒアルロナンの溶液を,ロゼットソニケーション容器(RZ1,容量:25ml)へ移し,氷浴に浸漬した。まず,その溶液を60秒間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:200W,振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。さらに,3mlのCHCl中に分散した5mgのSPIONを,徐々に該溶液に添加した(ソニケーションパラメーター:200W,振幅85%,サイクル0.8秒及びソノトロードS2)。均質化した懸濁液をさらに15分間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。遊離のナノ粒子を遠心分離を繰り返すこと(3×4500RPM,10分間)によって分離し,得られたナノ粒子が充填されたヒアルロナンのナノミセルを含む上澄みを取り出し,1.0μmガラス濾過器によってろ過し,凍結乾燥した。
充填されたFeの量(ICP測定):1.1重量%
【0029】
実施例8:SPIONを有するヒアルロン酸のカプリリル誘導体(HAC8)の組成物の調製
実施例1によって調製したヒアルロナンのアシル化誘導体(HAC8,DS=22%,Mw=20kDa)150mgを,マグネチックスターラーで常に撹拌しながら15mlの脱イオン水中に2時間で溶解させた。実施例2により調製したSPION(オレイン酸によって安定化,ナノ粒子のサイズ:5nm)を,トルエン溶媒からクロロホルム溶媒に移した。
アシル化ヒアルロナンの溶液を,ロゼットソニケーション容器(RZ1,容量:25ml)へ移し,氷浴に浸漬した。まず,その溶液を60秒間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:200W,振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。さらに,3mlのCHCl中に分散した5mgのSPIONを,徐々に該溶液に添加した(ソニケーションパラメーター:200W,振幅85%,サイクル0.8秒及びソノトロードS2)。均質化した懸濁液をさらに15分間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。遊離のナノ粒子を遠心分離を繰り返すこと(3×4500RPM,10分間)によって分離し,得られたナノ粒子が充填されたヒアルロナンのナノミセルを含む上澄みを取り出し,1.0μmガラス濾過器によってろ過し,凍結乾燥した。
充填されたFeの量(ICP測定):1.1重量%
【0030】
実施例9:SPIONを有するヒアルロン酸のカプリニル(caprinyl)誘導体(HAC10)の組成物の調製
実施例1によって調製したヒアルロナンのアシル化誘導体(HAC10,DS=15%,Mw=15kDa)150mgを,マグネチックスターラー上で常時撹拌しながら15mlの脱イオン水に2時間で溶解した。実施例2で調製したSPION(オレイン酸によって安定化,ナノ粒子のサイズ:5nm)を,トルエン溶媒からクロロホルム溶媒に移した。
アシル化ヒアルロナンの溶液を,ロゼットソニケーション容器(RZ1,容量:25ml)へ移し,氷浴に浸漬した。まず,その溶液を60秒間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:200W,振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。さらに,3mlのCHCl中に分散した5mgのSPIONを,徐々に前述の溶液に添加した(ソニケーションパラメーター:200W,振幅85%,サイクル0.8秒及びソノトロードS2)。均質化した懸濁液をさらに15分間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。遊離のナノ粒子を遠心分離を繰り返すこと(3×4500RPM,10分間)によって分離し,得られたナノ粒子が充填されたヒアルロナンのナノミセルを含む上澄みを取り出し,1.0μmガラス濾過器によってろ過し,凍結乾燥した。
充填されたFeの量(ICP測定):1.2重量%
【0031】
実施例10:SPIONを有するヒアルロン酸のパルミトイル誘導体(HAC16)の組成物の調製
実施例1によって調製したヒアルロナンのアシル化誘導体(HAC16,DS=9%,Mw=15kDa)150mgを,マグネチックスターラーで常に撹拌しながら15mlの脱イオン水中に2時間で溶解させた。実施例2により調製したSPION(オレイン酸によって安定化,ナノ粒子のサイズ:5nm)を,トルエン溶媒からクロロホルム溶媒に移した。
アシル化ヒアルロナンの溶液を,ロゼットソニケーション容器(RZ1,容量:25ml)へ移し,氷浴に浸漬した。まず,その溶液を60秒間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:200W,振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。さらに,3mlのCHCl中に分散した5mgのSPIONを,徐々に該溶液に添加した(ソニケーションパラメーター:200W,振幅85%,サイクル0.8秒及びソノトロードS2)。均質化した懸濁液をさらに15分間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。遊離のナノ粒子を遠心分離を繰り返すこと(3×4500RPM,10分間)によって分離し,得られたナノ粒子が充填されたヒアルロナンのナノミセルを含む上澄みを取り出し,1.0μmガラス濾過器によってろ過し,凍結乾燥した。
充填されたFeの量(ICP測定):1.2重量%
【0032】
実施例11:SPIONを有するヒアルロン酸のステアリル誘導体(HAC18)の組成物の調製
実施例1によって調製したヒアルロナンのアシル化誘導体(HAC18:0,DS =9%,Mw=15kDa)150mgを,マグネチックスターラーで常に撹拌しながら15mlの脱イオン水中に2時間で溶解させた。実施例2により調製したSPION(オレイン酸によって安定化,ナノ粒子のサイズ:5nm)を,トルエン溶媒からクロロホルム溶媒に移した。
アシル化ヒアルロナンの溶液を,ロゼットソニケーション容器(RZ1,容量:25ml)へ移し,氷浴に浸漬した。まず,その溶液を60秒間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:200W,振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。さらに,3mlのCHCl中に分散した5mgのSPIONを,徐々に該溶液に添加した(ソニケーションパラメーター:200W,振幅85%,サイクル0.8秒及びソノトロードS2)。均質化した懸濁液をさらに15分間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。遊離のナノ粒子を遠心分離を繰り返すこと(3×4500RPM,10分間)によって分離し,得られたナノ粒子が充填されたヒアルロナンのナノミセルを含む上澄みを取り出し,1.0μmガラス濾過器によってろ過し,凍結乾燥した。
充填されたFeの量(ICP測定):1.0重量%
【0033】
実施例12:SPIONを有するヒアルロン酸のオレイル誘導体(HAC18:1)の組成物の調製
実施例1によって調製したヒアルロナン(HAC18:1,DS=12%,Mw=15kDa)のアシル化誘導体150mgを,マグネチックスターラー上で常時撹拌しながら15mlの脱イオン水に2時間で溶解した。実施例2で調製したSPION(オレイン酸によって安定化,ナノ粒子のサイズ:5nm)を,トルエン溶媒からクロロホルム溶媒に移した。
アシル化ヒアルロナンの溶液を,ロゼットソニケーション容器(RZ1,容量:25ml)へ移し,氷浴に浸漬した。まず,その溶液を60秒間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:200W,振幅65%,0.5秒及びソノトロードS2)。さらに,3mlのCHCl中に分散した5mgのSPIONを,徐々に前述の溶液に添加した(ソニケーションパラメーター:200W,振幅85%,サイクル0.8秒及びソノトロードS2)。均質化した懸濁液をさらに15分間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。遊離のナノ粒子を遠心分離を繰り返すこと(3×4500RPM,10分間)によって分離し,得られたナノ粒子が充填されたヒアルロナンのナノミセルを含む上澄みを取り出し,1.0μmガラス濾過器によってろ過し,凍結乾燥した。
充填されたFeの量(ICP測定):1.0重量%
高分子ミセルに包まれたナノ粒子の形態を図1に示す。
【0034】
実施例13:SPIONを有するヒアルロン酸(HAC18:1)のオレイル誘導体の組成物の調製
実施例1によって調製したヒアルロナンのアシル化誘導体(HAC18:1,DS=12%,Mw=15kDa)120mgを,マグネチックスターラーで常に撹拌しながら12mlの脱イオン水中に2時間で溶解させた。実施例2により調製したSPION(オレイン酸によって安定化,ナノ粒子のサイズ:5nm)を,トルエン溶媒からクロロホルム溶媒に移した。
アシル化ヒアルロナンの溶液を,ロゼットソニケーション容器(RZ1,容量:25ml)へ移し,氷浴に浸漬した。まず,その溶液を60秒間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:200W,振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。さらに,4mlのCHCl中に分散した7.25mgのSPIONを,徐々に該溶液に添加した(ソニケーションパラメーター:200W,振幅85%,サイクル0.8秒及びソノトロードS2)。均質化した懸濁液をさらに15分間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。遊離のナノ粒子を遠心分離を繰り返すこと(3×4500RPM,10分間)によって分離し,得られたナノ粒子が充填されたヒアルロナンのナノミセルを含む上澄みを取り出し,1.0μmガラス濾過器によってろ過し,凍結乾燥した。
充填されたFeの量(ICP測定):1.8重量%
【0035】
実施例14:SPIONを有するヒアルロン酸のリノレイル(linoleyl)誘導体(HAC18:2)の組成物の調製
実施例1によって調製したヒアルロナンのアシル化誘導体(HAC18:2,DS=12%,Mw=15kDa)150mgを,マグネチックスターラーで常に撹拌しながら15mlの脱イオン水中に4時間で溶解させた。実施例2により調製したSPION(オレイン酸によって安定化,ナノ粒子のサイズ:5nm)を,トルエン溶媒からクロロホルム溶媒に移した。
アシル化ヒアルロナンの溶液を,ロゼットソニケーション容器(RZ1,容量:25ml)へ移し,氷浴に浸漬した。まず,その溶液を60秒間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:200W,振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。さらに,3mlのCHCl中に分散した5mgのSPIONを,徐々に該溶液に添加した(ソニケーションパラメーター:200W,振幅85%,サイクル0.8秒及びソノトロードS2)。均質化した懸濁液をさらに15分間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。遊離のナノ粒子を遠心分離を繰り返すこと(3×4500RPM,10分間)によって分離し,得られたナノ粒子が充填されたヒアルロナンのナノミセルを含む上澄みを取り出し,1.0μmガラス濾過器によってろ過し,凍結乾燥した。
充填されたFeの量(ICP測定):0.98重量%
【0036】
実施例15:SPIONを有するヒアルロン酸(HAC18:3)のリノレニル(linolenyl)誘導体の組成物の調製
実施例1によって調製したヒアルロナンのアシル化誘導体(HAC18:3,DS=3%,Mw=15kDa)150mgを,マグネチックスターラーで常に撹拌しながら15mlの脱イオン水中に4時間で溶解させた。実施例2により調製したSPION(オレイン酸によって安定化,ナノ粒子のサイズ:5nm)を,トルエン溶媒からクロロホルム溶媒に移した。
アシル化ヒアルロナンの溶液を,ロゼットソニケーション容器(RZ1,容量:25ml)へ移し,氷浴に浸漬した。まず,その溶液を60秒間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:200W,振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。さらに,3mlのCHCl中に分散した5mgのSPIONを,徐々に該溶液に添加した(ソニケーションパラメーター:200W,振幅85%,サイクル0.8秒及びソノトロードS2)。均質化した懸濁液をさらに15分間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。遊離のナノ粒子を遠心分離を繰り返すこと(3×4500RPM,10分間)によって分離し,得られたナノ粒子が充填されたヒアルロナンのナノミセルを含む上澄みを取り出し,1.0μmガラス濾過器によってろ過し,凍結乾燥した。
充填されたFeの量(ICP測定):1.0重量%
【0037】
実施例16:SPIONを有するヒアルロン酸のオレイル誘導体(HAC18:1)の組成物の調製
実施例1によって調製したヒアルロナンのアシル化誘導体(HAC18:1,DS=12%,Mw=15kDa)150mgを,マグネチックスターラーで常に撹拌しながら15mlの脱イオン水中に2時間で溶解させた。実施例3により調製したSPION(オレイン酸によって安定化,ナノ粒子のサイズ:10nm)を,トルエン溶媒からクロロホルム溶媒に移した。
アシル化ヒアルロナンの溶液を,ロゼットソニケーション容器(RZ1,容量:25ml)へ移し,氷浴に浸漬した。まず,その溶液を60秒間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:200W,振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。さらに,3mlのCHCl中に分散した5mgのSPIONを,徐々に該溶液に添加した(ソニケーションパラメーター:200W,振幅85%,サイクル0.8秒及びソノトロードS2)。均質化した懸濁液をさらに15分間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。遊離のナノ粒子を遠心分離を繰り返すこと(3×4500RPM,10分間)によって分離し,得られたナノ粒子が充填されたヒアルロナンのナノミセルを含む上澄みを取り出し,1.0μmガラス濾過器によってろ過し,凍結乾燥した。
充填されたFeの量(ICP測定):0.4重量%
【0038】
実施例17:SPIONを有するヒアルロン酸のオレイル誘導体(HAC18:1)の組成物の調製
実施例1によって調製したヒアルロナンのアシル化誘導体(HAC18:1,DS=12%,Mw=15kDa)150mgを,マグネチックスターラーで常に撹拌しながら15mlの脱イオン水中に2時間で溶解させた。実施例4により調製したSPION(オレイン酸によって安定化,ナノ粒子のサイズ:20nm)を,トルエン溶媒からクロロホルム溶媒に移した。
アシル化ヒアルロナンの溶液を,ロゼットソニケーション容器(RZ1,容量:25ml)へ移し,氷浴に浸漬した。まず,その溶液を60秒間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:200W,振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。さらに,3mlのCHCl中に分散した5mgのSPIONを,徐々に該溶液に添加した(ソニケーションパラメーター:200W,振幅85%,サイクル0.8秒及びソノトロードS2)。均質化した懸濁液をさらに15分間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。遊離のナノ粒子を遠心分離を繰り返すこと(3×4500RPM,10分間)によって分離し,得られたナノ粒子が充填されたヒアルロナンのナノミセルを含む上澄みを取り出し,1.0μmガラス濾過器によってろ過し,凍結乾燥した。
充填されたFeの量(ICP測定):1.7重量%
【0039】
実施例18:SPION及びパクリタキセルを有するヒアルロン酸のオレイル誘導体(HAC18:1)の組成物の調製
実施例1によって調製したヒアルロナンのアシル化誘導体(HAC18:1,DS=12%,Mw=15kDa)150mgを,マグネチックスターラーで常に撹拌しながら15mlの脱イオン水中に2時間で溶解させた。実施例2により調製したSPION(オレイン酸によって安定化,ナノ粒子のサイズ:5nm)5mgを,トルエン溶媒からクロロホルム溶媒に移した。このように調製されたナノ粒子をクロロホルム3ml中のパクリタキセル6mgと混合した。
アシル化ヒアルロナンの溶液を,ロゼットソニケーション容器(RZ1,容量:25ml)へ移し,氷浴に浸漬した。まず,その溶液を60秒間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:200W,振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。さらに,CHCl中に分散した5mgのSPION及び6mgのパクリタキセルを,徐々に該溶液に添加した(ソニケーションパラメーター:200W,振幅85%,サイクル0.8秒及びソノトロードS2)。均質化した懸濁液をさらに15分間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。遊離のナノ粒子及びパクリタキセルを遠心分離を繰り返すこと(3×4500RPM,10分間)によって分離し,得られたナノ粒子及びパクリタキセルが充填されたヒアルロナンのナノミセルを含む上澄みを取り出し,1.0μmガラス濾過器によってろ過し,凍結乾燥した。
充填されたFeの量(ICP測定):1.5重量%
充填されたPTXの量(HPLC測定):0.3重量%
【0040】
実施例19:ZnOナノ粒子を有するヒアルロン酸のオレイル誘導体(HAC18:1)の組成物の調製
実施例1によって調製したヒアルロナンのアシル化誘導体(HAC18:1,DS=12%,Mw=15kDa)150mgを,マグネチックスターラー上で常時撹拌しながら15mlの脱イオン水に2時間で溶解した。
アシル化ヒアルロナンの溶液を,ロゼットソニケーション容器(RZ1,容量:25ml)へ移し,氷浴に浸漬した。まず,その溶液を60秒間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:200W,振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。さらに,3mlのCHCl中に分散した5mgの酸化亜鉛(実施例5より)を,徐々に前述の溶液に添加した(ソニケーションパラメーター:200W,振幅85%,サイクル0.8秒及びソノトロードS2)。均質化した懸濁液をさらに15分間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。遊離のナノ粒子を遠心分離を繰り返すこと(3×4500RPM,10分間)によって分離し,得られたナノ粒子が充填されたヒアルロナンのナノミセルを含む上澄みを取り出し,1.0μmガラス濾過器によってろ過し,凍結乾燥した。
充填されたZn(ICP測定)の量:1.6重量%
【0041】
実施例20:アップコンバージョンナノ粒子を有するヒアルロン酸のオレイル誘導体(HAC18:1)の組成物の調製
実施例1によって調製したヒアルロナンのアシル化誘導体(HAC18:1,DS=12%,Mw=15kDa)150mgを,マグネチックスターラーで常に撹拌しながら15mlの脱イオン水中に2時間で溶解させた。
アシル化ヒアルロナンの溶液を,ロゼットソニケーション容器(RZ1,容量:25ml)へ移し,氷浴に浸漬した。まず,その溶液を60秒間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:200W,振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。さらに,3mlのCHCl中に分散した5mgのアップコンバージョンナノ粒子(実施例6より)を,徐々に該溶液に添加した(ソニケーションパラメーター:200W,振幅85%,サイクル0.8秒及びソノトロードS2)。均質化した懸濁液をさらに15分間ソニケーションした(ソニケーションパラメーター:振幅65%,サイクル0.5秒及びソノトロードS2)。遊離のナノ粒子を遠心分離を繰り返すこと(3×4500RPM,10分間)によって分離し,得られたナノ粒子が充填されたヒアルロナンのナノミセルを含む上澄みを取り出し,1.0μmガラス濾過器によってろ過し,凍結乾燥した。
充填されたEr;Y;Ybの量(ICP測定):0.02;0.50;0.19重量%
【0042】
実施例21:SPIONを有するアシル化ヒアルロナンの組成物のインビトロの細胞毒性
96ウェルパネルに初代培養細胞及び非腫瘍及び腫瘍細胞株(表1)を播種し,37℃/5%COで24時間培養した。その後,細胞を,濃度10,100,200及び500μg/ml(培地中の高分子ミセルの濃度)の,実施例7〜12,14及び15のSPIONを有するアシル化ヒアルロナンの組成物の溶液で処理した。同時に,アシル化ヒアルロナン単独及びSPION単独の生存率を測定した(各濃度で)。細胞の生存率はMTT法によって時間0,24,48及び72時間でモニターし,最終的な値は各時点での細胞の生存率の抑制又は活性化を示す。SPIONを有するアシル化HA誘導体の種々の組成物で処理した細胞の細胞生存率の抑制(図2A図2C),及び様々な腫瘍細胞株に対する組成物HAC18:1+SPION(実施例12からの)の影響(図3)をモニターした。図(4A〜4C)は,5,10及び20nmのSPIONを有する組成物(実施例12,16,17による)の細胞毒性作用の比較を示す。細胞株は表1に記載する。
【0043】
【表1】
【0044】
図2A図2Cの結果は,コントロールの細胞株(NHDFと3T3)とは異なり,腫瘍細胞株HT29の場合には,細胞増殖の著しい抑制があることを示す。最も高い抑制はC18及びC18:1アシル化誘導体をベースとする組成物で記録された。SPIONを有するC18:1誘導体をベースとする組成物は,NHDFと3T3細胞の生存率をより高く維持した。アシル化ヒアルロナン単独及びSPION単独の場合は,試験細胞のいずれの生存率にも影響を及ぼさなかった(データは示されていない)。
【0045】
SPIONを有するHAC18:1の組成物を,さらに他の腫瘍株の処理に使用した(図3)。実験データは,腫瘍系統A549,HCT116,C3A,MCF7及びMDA−MB231及びCaco2の増殖の減速を示した。例外は黒色腫A2058株のみであり,これにおいては最も高い濃度(500μg/ml)の組成物で処理された場合にのみ抑制が示された。逆に,コントロールの線維芽細胞(NHDFと3T3の両方)は該組成物により有意に刺激され,最も高い濃度(500μg/ml)で処理した場合でさえいかなる細胞毒性作用も示さなかった。
【0046】
図4A図4Cは,5nmのSPIONを有する組成物の選択的な抗腫瘍活性を確認する。この効果は,10及び20nmのSPIONを有する組成物になるとそのような程度までは見られない。
【0047】
実施例22:酸化亜鉛のナノ粒子を有するアシル化ヒアルロナンの組成物のインビトロの細胞毒性
初代ヒト線維芽細胞(NHDF),大腸癌HT−29細胞及びマウス線維芽細胞3T3株を96ウェルパネルに播種し,37℃/5%COで24時間培養した。その後,濃度10,100,200及び500μg/ml(高分子ミセルの濃度)の実施例19からの酸化亜鉛ナノ粒子を有するアシル化ヒアルロナンの組成物の溶液で該細胞を処理した。細胞の生存率がMTT法によって時間0,24,48及び72時間でモニターされ,結果としての値は各時点における細胞の生存率の抑制又は活性化を示す(図5A図5C)。
図5A図5Cの結果は,コントロール株(NHDFと3T3)とは異なり,インキュベーション時間の増加と共に,高分子ミセルのより高い濃度で癌細胞増殖の抑制が生じることを示す。しかしながら,500μg/mlの高分子ミセル濃度の場合には3T3細胞でも増殖の抑制が観察された。より低い濃度の組成物,及びコントロールのNHDF細胞株では,抑制は観察されていない。
【0048】
実施例23:アップコンバージョンナノ粒子を有するアシル化ヒアルロナンの組成物のインビトロ細胞毒性
初代ヒト線維芽細胞(NHDF),腸の腫瘍HT−29細胞及びマウス線維芽細胞3T3株を96ウェルパネルに播種し,37℃/5%COで24時間培養した。その後,濃度10,100,200及び500μg/ml(高分子ミセルの濃度)の実施例20からのアップコンバージョンナノ粒子を有する高分子ミセルの溶液で該細胞を処理した。細胞の生存率がMTT法によって時間0,24,48及び72時間でモニターされ,結果としての値は各時点における細胞の生存率の抑制又は活性化を示す(図6A図6C)。
図6A図6Cの結果は,生存率が著しく増加するコントロールのNHDF系とは異なり,インキュベーション時間の増加と共に,癌細胞増殖の抑制が生じることを示す。しかしながら,非腫瘍細胞3T3株にも僅かな抑制が見られる。
【0049】
実施例24:SPIONを有するアシル化ヒアルロナンの組成物のインビトロの選択的な細胞毒性
DiO(緑)で標識した初代ヒト線維芽細胞及びDiI(赤)で標識した腫瘍HT−29細胞を3:1の比率で50,000細胞/ウェルの総濃度で24ウェルパネルのRPMI 1640(ロズウェルパークメモリアルインスティチュート)培地1ml中に播種した。細胞単層のmin80%コンフルエンスの達成後に,該細胞を実施例12のSPIONを有する組成物の200μg/ml溶液で処理した。72時間のインキュベーションの後,細胞の写真を,蛍光顕微鏡Nikon Ti-Eclipseで撮影した(図7)。
コントロールの細胞と腫瘍細胞で活性が異なることの可能なメカニズムを説明するために,ヒアルロナンに対するCD44受容体の発現を,NHDF,MCF−7及びMDA−MB−231細胞についてフローサイトメトリーによって分析した。80%コンフルエンスを達成した後に,細胞をPBSで洗浄し,抗CD44−FITC抗体と共に室温で15分間インキュベートし,インキュベーションの後,それらを再びPBSで二回洗浄し,フローサイトメーターMACSQuant Analyzer(Miltenyi Biotec)で分析した。結果を蛍光強度(RFU)として示す(図8)。
さらに,NHDF及びHT−29細胞について,実施例12のSPIONを有するアシル化ヒアルロナンの組成物で処理した後の酸化ストレスを測定した。細胞を6ウェルパネル上で培養し,80%コンフルエンスを達成した後にそれらをSPIONを有する組成物の200μg/ml溶液で24時間処理した。コントロールの細胞については,培地だけを試験組成物を含まない新しいものに交換した。インキュベーションの後,細胞を洗浄し,DCF−DA(細胞内のROSによって酸化され蛍光性のDCFとなる非蛍光物質,最終濃度:1uM)により暗所で37℃で20分間処理した。続いてPBSで洗浄した後,細胞をフローサイトメーターMACSQuant Analyzer(Miltenyi Biotec)で分析した。結果を細胞内のDCFの相対的な蛍光強度(未処理のコントロールに対する%)として示す(図9)。
図7の結果により,腫瘍HT−29株の選択的増殖抑制が確認され,一方コントロールの線維芽細胞NHDFは悪影響を受けず,それらはコンフルエンスに達する。この効果は,ROS形成の異なる誘導によって引き起こされるのではなく,誘導は両タイプの細胞の中で増加するが同じレベルまで増加される(図9)。このことの説明はNHDF,及びHT−29細胞におけるROS生産のそのような増加に対する反応の程度が異なるということであり得る。
コントロールの細胞及び腫瘍細胞に関する活性の違いと,ヒアルロナンに対する主な表面受容体CD44の発現との相関関係はない。図8から,コントロールNHDF線維芽細胞においては組成物によるCD44の高い発現と生存率の増加が確認され,腫瘍MCF−7及びMDA−MB−231株では低い発現と生存率の著しい抑制が見られる(図3)。
細胞染色(プルシアンブルーによるFeの存在の検出)の後,実施例12のSPIONを有するアシル化ヒアルロナンの組成物と共にインキュベートすると,異なるFeイオン分布が観察される。即ち,腫瘍細胞では溶解したFeが検出されたが,コントロール細胞では鉄凝集物が検出された(図10)。この現象は,腫瘍細胞における組成物の選択的活性の原因であり得る。
【0050】
実施例25:静脈内投与用組成物の調製
無菌の0.9%のNaCl650μlを,無菌様式で調製した実施例12のSPIONを有するアシル化ヒアルロナン20〜30mgに添加し,該溶液を,凍結乾燥体が全て溶解するまで時々激しく撹拌する。該溶液は,問題なくインビボで注射可能である。
このように調製した溶液は粒子の流体力学的サイズに関する限り少なくとも2日間安定である。
【0051】
実施例26:静脈内投与用組成物の調製
無菌の5%デキストロース650μlを,無菌様式で調製した実施例12からのSPIONを有するアシル化ヒアルロナン20〜30mgに添加し,該溶液を,凍結乾燥体が全て溶解するまで時々激しく攪拌する。該溶液は,問題なくインビボに注射可能である。
このように調製した溶液は粒子の流体力学的サイズに関する限り少なくとも2日間安定である。
【0052】
実施例27:SPIONを有するアシル化ヒアルロナンの組成物のインビボでの検出
膠芽腫のあるLewis Brown Norwayラットをインビボ実験に使用した。この腫瘍は,脚の筋肉に3x10膠芽腫細胞の懸濁液を注射することにより接種され,9日後にこのラットに,SPIONを有するアシル化ヒアルロナン(HAC18:1)(0.9%NaCl中の溶液750μl,Fe含有量が1.1mg/kg)の組成物を静脈内投与した。その後,ラットをBruker Biospec(4.7T)によって分析した。
組成物の静脈内投与の後の腫瘍中のSPIONの蓄積は図11に確認され,腫瘍の端縁を特に暗くすることが検出された。SPIONの視認可能な蓄積は肝臓でも検出された(図12)。従って,該組成物は造影剤として肝臓に使用することができる。
Feの存在をプルシアンブルー着色(図中の青い染色)によって検知した場合,動物を屠殺した後に腫瘍上(図13)及び肝臓(図14)の組織切片でSPIONの蓄積をさらに確認した。青い着色はコントロールの試料のいずれにも検知されなかった。
【0053】
実施例28:SPIONを有するアシル化ヒアルロナンの組成物のオートクレーブによる滅菌
実施例12により調製した組成物(0.9%NaCl中,濃度30mg/ml)の滅菌を,オートクレーブ中121℃で15分間行った。
該溶液は滅菌後安定であり,SPIONはヒアルロナンのナノミセル中に覆われたままであり(図15),腫瘍細胞に対する選択的な細胞毒性効果が保持された。
腫瘍HT−29株及びコントロールの初代NHDF線維芽細胞について,細胞毒性を実施例21において示した方法により測定した。図16は,オートクレーブによる滅菌前後の実施例12の組成物の比較を示し,腫瘍細胞への選択的な細胞毒性はオートクレーブによる滅菌の後でも保持された。
【0054】
実施例29:マウス腫瘍懸濁液リンパ腫EL4株におけるアポプトーシスの誘導
マウスリンパ腫EL4株(マウス発癌実験モデルにおいて腫瘍の誘導に使用される)を,RPMI 1640(Roswell Park Memorial Institut)培地中で培養した。指数増殖相で,アリコートをRPMI培地中の5×10細胞/mlの濃度の細胞培養液から調製し,これらを実施例9のSPIONを有する組成物の100,200,及び500μg/ml溶液で処理した。72時間インキュベートした後,細胞を洗浄し,細胞死の蛍光マーカー(ヨウ化プロピジウム,Annexin V-FITC)で特異的に染色し,続いてこれをフローサイトメーターMACSQuant(Miltenyi Biotec)で検出した。
図17A図17Cにおいて,実施例12のSPIONを有する組成物の100μg/ml溶液で処理した後に,アポプトーシスの明瞭な誘導(図17B中の右下象限の細胞集団)及びネクローシスのわずかに増加した誘導(図17Bの左/右上象限)がある。個々の濃度での組成物による処理の後の生存,アポプトーシス及びネクローシス細胞の表示を,グラフにプロットする(図17C)。

図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図17C