特許第6556772号(P6556772)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556772
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】シートベルトリトラクタ
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/44 20060101AFI20190729BHJP
【FI】
   B60R22/44 126
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-32566(P2017-32566)
(22)【出願日】2017年2月23日
(65)【公開番号】特開2018-135067(P2018-135067A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2018年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】503175047
【氏名又は名称】オートリブ株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松木 培
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 修司
【審査官】 飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−329714(JP,A)
【文献】 特開平05−213156(JP,A)
【文献】 特開2016−074338(JP,A)
【文献】 特開2006−199116(JP,A)
【文献】 特開2000−052922(JP,A)
【文献】 特開平07−069172(JP,A)
【文献】 米国特許第05535959(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/00−22/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートベルトが巻き取り及び引き出し可能に巻回されるスピンドルと、
内端部が前記スピンドルに接続され、外端部が固定側部材に接続され、前記スピンドルに対してベルト巻取方向の付勢力を常時付与する、渦巻きバネで構成される主スプリングと、
前記主スプリングと並列に配置されるとともに、外端部が前記固定側部材に接続され、前記スピンドルに対してベルト巻取方向の付勢力を選択的に付与する、渦巻きバネで構成される副スプリングと、
前記副スプリングの内端部が接続され、前記スピンドルと同軸に回転自在に設けられ、外周部に複数のラチェット歯部を有するラチェットホイールと、
前記ラチェットホイールの前記ラチェット歯部に係合可能な爪部を備え、前記ラチェットホイールのベルト引出方向の回転を許容しベルト巻取方向の回転を規制する規制状態と、前記ラチェットホイールのベルト引出方向及びベルト巻取方向の両方向の回転を許容する解除状態と、に選択的に切り換える切換え装置と、
前記規制状態における前記ラチェットホイールに対する前記スピンドルの相対回転量を記憶する回転メモリ機構と、
を備えるシートベルトリトラクタであって、
前記スピンドルと一体回転するリテーナと、
前記リテーナの周囲に相対回転自在に配置され、外周部に複数のラチェット歯部を有するクラッチリングと、
前記リテーナと前記クラッチリングとの間に配設されて前記クラッチリングが前記リテーナに対して相対回転するとき、前記クラッチリングに回転抵抗を付与するフリクションスプリングと、
前記ラチェットホイールと共に回転すると共に、前記ラチェットホイールに対して揺動可能に支持され、前記クラッチリングの前記ラチェット歯部に係合可能な爪部を備えるクラッチ部材と、
前記爪部を前記クラッチリングの前記ラチェット歯部から離間させる方向に付勢する付勢手段と、
を備え、
前記切換え装置による前記ラチェットホイールの規制状態が解除されて前記ラチェットホイールが前記リテーナより速く回転するとき、前記クラッチ部材が前記ラチェットホイールの回転に伴って発生する遠心力により揺動して、前記爪部が前記クラッチリングの前記ラチェット歯部と係合することで、前記クラッチリングを前記ラチェットホイールと共に一体回転させて、前記フリクションスプリングの摩擦力により前記ラチェットホイールに制動力を付与することを特徴とするシートベルトリトラクタ。
【請求項2】
前記切換え装置による前記ラチェットホイールの規制状態が解除された後、前記ラチェットホイールと前記リテーナとの相対回転が停止したとき、前記クラッチ部材の前記爪部と前記クラッチリングの前記ラチェット歯部との係合が解除されることを特徴とする請求項1に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項3】
前記フリクションスプリングは、その両端部を前記クラッチリングに係止されることで、前記クラッチリングと一体に回転することを特徴とする請求項1または2に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項4】
前記ラチェットホイールには、該ラチェットホイールと協働して前記回転メモリ機構を収容し、前記リテーナに対して回転自在に外嵌するカバーが取り付けられ、
前記カバーの側面には、前記クラッチ部材が揺動自在に嵌合される支持ピンが設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項5】
前記回転メモリ機構は、長尺の帯状部材が渦巻き状に巻回されて構成され、前記副スプリングと直列に配置されるとともに、その内端部が前記スピンドルに接続され、その外端部が前記ラチェットホイールに接続されたメモリ部材である請求項1〜4のいずれか1項に記載のシートベルトリトラクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に装備されるシートベルトリトラクタに係り、特にシートベルトの通常装着時にシートベルトを巻き取るスプリングの付勢力を軽減するテンションレデューサ(TRD)機能を備えるシートベルトリトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に装備されているシートベルト装置は、車両衝突時等の車両に大きな減速度が生じた緊急時にシートベルトで乗員を拘束して乗員のシートからの慣性移動を阻止することにより、乗員を保護している。このシートベルト装置には、スピンドルによりシートベルトの巻き取り・引き出しを行うと共に、緊急時にシートベルトの引き出しを阻止するシートベルトリトラクタが設けられている。
【0003】
このようなシートベルトリトラクタでは、乗員がシートに座ってシートベルトを引き出し、タングをバックルに挿入係合した際に、その余分な引き出し分を吸収し、通常装着状態で乗員の胸部等に不必要な圧迫感を与えないようにすることが好ましい。しかし、一般のシートベルトリトラクタでは、一定の力を発揮するスプリングの付勢力でスピンドルがベルト巻取方向に常時付勢されているため、通常装着時において乗員が圧迫感を抱くことがある。
【0004】
そこで、シートベルトの通常装着時にシートベルトを巻き取るスプリングの付勢力を軽減するテンションレデューサ(TRD)機能を備えたシートベルトリトラクタが提供されている。テンションレデューサ(TRD)機能を備えるシートベルトリトラクタでは、シートベルトを巻取方向に付勢するスプリング手段を、予め主スプリングと付加スプリングとに分けて構成し、通常のベルト巻取時には、両スプリングの合成付勢力により充分なベルト巻取力を作り出すと共に、シートベルトの正常装着時には、主スプリングの付勢力のみによる弱い巻取力でシートベルトに張力を付与するようにしている。主スプリング及び付加スプリングの両スプリングの作動状態と、主スプリングのみの作動状態と、の切り替えは、メモリ手段を用いて制御するのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載されたテンションレデューサ(TRD)機能を備えるシートベルトリトラクタでは、メモリ手段が、レバーを有してスピンドルとともに回転するブッシュシャフトと、ラチェットホイールに回転自在に配設され、レバーにより間欠駆動されるゼネバ歯車とで構成されている。ラチェットホイールのベルト巻取方向への回転が規制されたテンションレデューサ機能ONでは、シートベルトが巻き取られる際、ラチェットホイールに対するスピンドル(ブッシュシャフト)の相対回転量がゼネバ歯車の回転数として記憶される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−347199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のシートベルトリトラクタは、テンションレデューサ機能解除時に、ベルト巻取方向への回転が規制されていたラチェットホイールが急速に回転し、このラチェットホイールの回転に伴ってゼネバ歯車が短時間で一気に回転するため、ゼネバ歯車のストッパがブッシュシャフトのレバーに当接する衝撃によって異音が発生する問題点があった。特に、このようなテンションレデューサ機能付きのシートベルトリトラクタが乗員の耳に近い位置にある場合、乗員に与える不快感が大きい。
【0008】
また、メモリ手段をメモリーテープで構成し、ラチェットホイールに対するスピンドルとの相対回転量をメモリーテープの弛みとして記憶するようにしたシートベルトリトラクタもあるが、テンションレデューサ機能解除時に、弛んでいたメモリーテープが短時間で一気に全密着状態になるため、テープの巻き締め時の衝撃によって異音が発生する場合があった。
【0009】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、テンションレデューサの解除時、メモリ部材が急激に巻き締められることで発生する不快な異音を低減することができるシートベルトリトラクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) シートベルトが巻き取り及び引き出し可能に巻回されるスピンドルと、
内端部が前記スピンドルに接続され、外端部が固定側部材に接続され、前記スピンドルに対してベルト巻取方向の付勢力を常時付与する、渦巻きバネで構成される主スプリングと、
前記主スプリングと並列に配置されるとともに、外端部が前記固定側部材に接続され、前記スピンドルに対してベルト巻取方向の付勢力を選択的に付与する、渦巻きバネで構成される副スプリングと、
前記副スプリングの内端部が接続され、前記スピンドルと同軸に回転自在に設けられ、外周部に複数のラチェット歯部を有するラチェットホイールと、
前記ラチェットホイールの前記ラチェット歯部に係合可能な爪部を備え、前記ラチェットホイールのベルト引出方向の回転を許容しベルト巻取方向の回転を規制する規制状態と、前記ラチェットホイールのベルト引出方向及びベルト巻取方向の両方向の回転を許容する解除状態と、に選択的に切り換える切換え装置と、
前記規制状態における前記ラチェットホイールに対する前記スピンドルの相対回転量を記憶する回転メモリ機構と、
を備えるシートベルトリトラクタであって、
前記スピンドルと一体回転するリテーナと、
前記リテーナの周囲に相対回転自在に配置され、外周部に複数のラチェット歯部を有するクラッチリングと、
前記リテーナと前記クラッチリングとの間に配設されて前記クラッチリングが前記リテーナに対して相対回転するとき、前記クラッチリングに回転抵抗を付与するフリクションスプリングと、
前記ラチェットホイールと共に回転すると共に、前記ラチェットホイールに対して揺動可能に支持され、前記クラッチリングの前記ラチェット歯部に係合可能な爪部を備えるクラッチ部材と、
前記爪部を前記クラッチリングの前記ラチェット歯部から離間させる方向に付勢する付勢手段と、
を備え、
前記切換え装置による前記ラチェットホイールの規制状態が解除されて前記ラチェットホイールが前記リテーナより速く回転するとき、前記クラッチ部材が前記ラチェットホイールの回転に伴って発生する遠心力により揺動して、前記爪部が前記クラッチリングの前記ラチェット歯部と係合することで、前記クラッチリングを前記ラチェットホイールと共に一体回転させて、前記フリクションスプリングの摩擦力により前記ラチェットホイールに制動力を付与することを特徴とするシートベルトリトラクタ。
(2) 前記切換え装置による前記ラチェットホイールの規制状態が解除された後、前記ラチェットホイールと前記リテーナとの相対回転が停止したとき、前記クラッチ部材の前記爪部と前記クラッチリングの前記ラチェット歯部との係合が解除されることを特徴とする(1)に記載のシートベルトリトラクタ。
(3) 前記フリクションスプリングは、その両端部を前記クラッチリングに係止されることで、前記クラッチリングと一体に回転することを特徴とする(1)または(2)に記載のシートベルトリトラクタ。
(4) 前記ラチェットホイールには、該ラチェットホイールと協働して前記回転メモリ機構を収容し、前記リテーナに対して回転自在に外嵌するカバーが取り付けられ、
前記カバーの側面には、前記クラッチ部材が揺動自在に嵌合される支持ピンが設けられることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のシートベルトリトラクタ。
(5) 前記回転メモリ機構は、長尺の帯状部材が渦巻き状に巻回されて構成され、前記副スプリングと直列に配置されるとともに、その内端部が前記スピンドルに接続され、その外端部が前記ラチェットホイールに接続されたメモリ部材である(1)〜(4)のいずれかに記載のシートベルトリトラクタ。
【0011】
なお、「スピンドルに接続される」とは、スピンドルに直接される場合や、スピンドルと一体回転する部材(例えば、本実施形態のリテーナやコネクタ)を介してスピンドルに接続される場合を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシートベルトリトラクタによれば、テンションレデューサの解除時に、メモリ部材の巻き締め速度を抑制して、メモリ部材が急激に巻き締められることで発生する不快な異音を低減することができるシートベルトリトラクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態のシートベルトリトラクタの要部分解斜視図である。
図2】ギアケースを外して示すシートベルトリトラクタの側面図である。
図3図2のIII−III矢視断面図である。
図4】クラッチ部材がクラッチリングに係合した状態の図3のIV−IV矢視断面図である。
図5】クラッチ部材とクラッチリングとの係合が解除された状態の図3のIV−IV矢視断面図である。
図6】TRDのOFF時におけるシートベルトリトラクタの作用説明のための模式図である。
図7】TRDがONした状態からシートベルトが更に引き出されるときの作用説明のための模式図である。
図8】TRDのONした状態でウェビングが巻き戻されるときの作用説明のための模式図である。
図9】TRDがONからOFFに切り替えられたときの作用説明のための模式図である。
図10】TRDがOFFしてウェビングが巻き戻されるときの作用説明のための模式図である。
図11】回転メモリ機構の変形例として、ウォブルギヤ機構が使用される場合の要部斜視図である。
図12図11の変形例に係るラチェットホイールを、図11と反対側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係るシートベルトリトラクタを図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1に示すように、本実施形態のシートベルトリトラクタ1は、巻き取り及び引き出し可能にウェビングB(図6参照)が巻回されるスピンドル10と、スピンドル10を左右側壁8a、8b間に回転自在に支持するフレーム8と、フレーム8の側壁8a側に設けられ、テンションレデューサ(TRD)機能を備えた巻取機構2と、フレーム8の側壁8b側に設けられ、車両衝突時等の車両に大きな減速度が生じた緊急時を検出してシートベルトの引き出しを阻止するセンサ機構5と、を有している。
【0016】
巻取機構2は、スピンドル10に対しベルト巻取方向RAの付勢力を常時付与する主スプリング21と、主スプリング21と並列に配置され、スピンドル10に対してベルト巻取方向RAの付勢力を選択的に付与する副スプリング22と、副スプリング22と直列に配置され、長尺の帯状部材が渦巻き状に巻回されてなる、回転メモリ機構としてのメモリ部材23と、ラチェットホイール40と、カバー48と、ラチェットホイール40を選択的に一方向回転ロックするロックアーム60と、ロックアーム60をロック位置とロック解除位置に切り替え変位させる電磁ソレノイド70と、を有する。また、巻取機構2は、テンションレデューサの解除時のメモリ部材23の巻き締めによる異音を低減する機構として、フリクションスプリング51、クラッチリング52、クラッチ部材53、及び、付勢手段であるトーションスプリング54を有する。なお、テンションレデューサ(TRD)は、以上の巻取機構2の要素のうち主スプリング21を除いた要素で主に構成されている。
【0017】
さらに、巻取機構2は、第1ハウジング31と、第2ハウジング32と、第3ハウジング33と、を有している。これらのハウジング31、32、33は、主スプリング21、副スプリング22、メモリ部材23、ラチェットホイール40、カバー48、フリクションスプリング51、クラッチリング52、クラッチ部材53、トーションスプリング54を収容支持するもので、固定側部材として、フレーム8に対して直接または間接に固定されている。図3も参照して、これら第1ハウジング31、第2ハウジング32、第3ハウジング33は、この順に、スピンドル10の軸線方向の外側(フレーム8の左側壁8aから遠い側)から内側(フレーム8の左側壁8aに近い側)に向かって並んでいる。本実施形態では、第2及び第3ハウジング32、33は、第1ハウジング31に嵌合固定され、第1ハウジング31がフレーム8の側壁8aに固定されている。
【0018】
従って、主スプリング21は、第1ハウジング31と第2ハウジング32との間に配置され、副スプリング22、ラチェットホイール40、メモリ部材23、カバー48、フリクションスプリング51、クラッチリング52、クラッチ部材53、トーションスプリング54は、第2ハウジング32と第3ハウジング33との間に配置されている。なお、図2に示すように、ロックアーム60や電磁ソレノイド70などは、第1ハウジング31に一体に形成されたカバー部31sと、第3ハウジング33に一体に形成されたケース部33sとによって収容されている。
【0019】
スピンドル10の軸端11は、フレーム8の左側壁8aに固定された第3ハウジング33の中央孔33aを貫通しており、その軸端11にリテーナ12がスピンドル10と一体回転するように結合されている。
【0020】
図1及び図3に示すように、リテーナ12には、ラチェットホイール40を回転自在に支持する円筒支持部12aと、ラチェットホイール40の中心孔を貫通してコネクタ13の角孔に嵌合される角軸部12bと、コネクタ13を貫通して第1ハウジング31の内面の軸受孔31aに回転自在に支持される先端突部12cと、が設けられている。また、リテーナ12の基部(第3ハウジング33側)には、カバー48の嵌合孔48cに嵌合する大径円筒支持部12eが設けられ、該大径円筒支持部12eには、後述する略C字形のフリクションスプリング51が摩擦嵌合するスプリング溝12fが形成されている。
【0021】
主スプリング21は、外端部21aが第1ハウジング31に係止され、内端部21bがコネクタ13のバネ係止部13aに係止されている。コネクタ13は、その角孔に角軸部12bが嵌合するリテーナ12を介してスピンドル10と一体回転するように結合されている。これにより、主スプリング21は、第1ハウジング31を基準にした状態で、そのベルト巻取方向RAの付勢力を、コネクタ13及びリテーナ12を介してスピンドル10に常時付与している。
【0022】
また、ラチェットホイール40の軸線方向外側に配設された副スプリング22は、外端部22aが第2ハウジング32に係止され、内端部22bがラチェットホイール40のボス筒部44のバネ係止部45に係止されている(図3参照)。これにより、副スプリング22は、第2ハウジング32を基準にした状態で、そのベルト巻取方向RAの付勢力を、ラチェットホイール40に付与している。
【0023】
主スプリング21及び副スプリング22は、渦巻き方向が同じ方向の渦巻きバネ(ゼンマイバネとも言われる)によって構成されている。主スプリング21及び副スプリング22の渦巻きバネは、巻き締め方向に巻かれることでエネルギー(トルク)を蓄え、巻き緩め方向(巻き締め方向と逆方向)にエネルギー(トルク)を解放する機能を有するものである。
【0024】
主スプリング21と副スプリング22のトルク(回転付勢力)は、任意に設定することができ、例えば、互いに等しく設定してもよい。また、テンションレデューサのON/OFF時に、スピンドル10に加わる巻取力に大きな差を付与するため、副スプリング22のトルクを、主スプリング21のトルクより大きく設定してもよい。
【0025】
ラチェットホイール40の筒壁42の内部に収容されたメモリ部材23は、外端部23aがラチェットホイール40に一体固定されたカバー48のテープ固定部48fに係止されている。即ち、メモリ部材23の外端部23aは、カバー48を介してラチェットホイール40に連結さている。また、メモリ部材23の内端部23bは、リテーナ12に直線部分と曲線部分とで形成された抜け止め溝12dに係止されている。
【0026】
メモリ部材23は、例えば、耐衝撃性能の高いポリアセタールなどの樹脂で形成された長尺のテープ(帯状部材)であり、副スプリング22と直列に配置されて、主スプリング21及び副スプリング22と同じ方向に渦巻き状に巻かれている。メモリ部材23は、エネルギー(トルク)の蓄積機能は有しておらず、テンションレデューサのOFF時には、主スプリング21及び副スプリング22のばね力により、径方向に隣接するテープ同士が密着する巻き締められた形状となっている。また、テンションリデューサのON時には、巻き緩んだ状態となる。メモリ部材23は、規制状態におけるラチェットホイール40に対するスピンドル10の相対回転量を記憶する。
【0027】
ラチェットホイール40は、円形基板41の第3ハウジング33側(内側)の側面に大径の筒壁42を突設し、その筒壁42の外周に、周方向に一定間隔でラチェット歯部43を配列したものである。ラチェット歯部43を外周に形成した筒壁42の内部で、第3ハウジング33側(内側)の側面には、カバー48が取り付けられて、ラチェットホイール40とカバー48とでメモリ部材23を収容する。また、ラチェットホイール40の円形基板41の反対側(外側)の側面の中央孔の周囲には、外周にバネ係止部45の付いた小径のボス筒部44が形成されている。
【0028】
カバー48は、円形基板48aの周囲に設けた複数の取付爪48bを、ラチェットホイール40の円形基板41に形成した取付孔46に係合させることで、ラチェットホイール40と一体に固定されている。また、カバー48は、その中心に後述するリテーナ12の大径円筒支持部12eに嵌合する嵌合孔48cが設けられている。
【0029】
嵌合するカバー48の嵌合孔48cから第3ハウジング33側に突出するリテーナ12の大径円筒支持部12eの周囲には、クラッチリング52が相対回動自在に配置される。
【0030】
図4に示すように、クラッチリング52は、外周面にラチェット歯部である複数の係止爪52aを有すると共に、カバー48側の側面には、フリクションスプリング51の両端を係止する一対の係止溝52bが径方向に設けられている。従って、一対の係止溝52bに両端が係止されたフリクションスプリング51は、クラッチリング52と一体に回転する。
【0031】
通常時、リテーナ12の大径円筒支持部12eに回動自在に嵌合するクラッチリング52は、スプリング溝12fに摩擦嵌合するフリクションスプリング51の摩擦力によりリテーナ12と一体回転する。そして、リテーナ12とクラッチリング52とが相対回転するとき、スプリング溝12fに摩擦嵌合するフリクションスプリング51の摩擦抵抗による抵抗力が、クラッチリング52に回転方向と逆方向に作用する。
【0032】
図2に示すように、カバー48の円形基板48aには、その回転中心から離れた位置に、第3ハウジング33側に突出する支持ピン48dとばね受けピン48eとが形成されている。支持ピン48dには、略V字形のクラッチ部材53の中央部が揺動自在に装着されている。クラッチ部材53の中央部に対してベルト引出方向RB側に形成された一方の腕53aの先端には、クラッチリング52の係止爪52aと係合可能な爪部53bが形成されている。また、クラッチ部材53の中央部に対して一方の腕53aと反対方向(ベルト巻取方向RA)側に設けられた他方の腕53cは、一方の腕53aより大きく形成されて一方の腕53aより大きい質量を有する。これにより、クラッチ部材53は、ラチェットホイール40と共に回転すると共に、クラッチ部材53が回転(公転)したとき、他方の腕53cに作用する遠心力によりクラッチ部材53を作動(揺動)させる。
なお、クラッチ部材53の他方の腕53cは、一方の腕53aがクラッチリング52の係止爪52aと係合した状態で、第3ハウジング33の内面と干渉しないように設計されている。
【0033】
また、図4も参照して、支持ピン48dには、クラッチ部材53の付勢手段であるトーションスプリング54が装着されている。該トーションスプリング54の一端54aは、クラッチ部材53のばね受け溝53dに係止され、トーションスプリング54の他端54bは、カバー48のばね受けピン48eに係止されている。これにより、クラッチ部材53は、トーションスプリング54の弾性力により、爪部53bがクラッチリング52の係止爪52aから離間する方向に常時付勢されている。
【0034】
そして、カバー48が回転すると、中央部が支持ピン48dに揺動自在に装着されているクラッチ部材53は、一方の腕53aより他方の腕53cに作用する大きな遠心力により、トーションスプリング54の弾性力に抗して、図2において半時計方向に回動し、爪部53bがクラッチリング52の係止爪52aと係合するように構成されている。クラッチ部材53の爪部53bが、クラッチリング52の係止爪52aと係合することで、クラッチリング52、カバー48、及びラチェットホイール40が、一体回転可能となる。
【0035】
また、第3ハウジング33に設けられたアーム支持軸部33bには、クランク形状のロックアーム60の中央部が揺動自在に装着されている。ロックアーム60は、先端に、ラチェット歯部43と係合する爪部62を有したもので、電磁ソレノイド70により、ロック位置とロック解除位置とに選択的に切替変位させられる。
【0036】
この場合、電磁ソレノイド70のプランジャ71にロックアーム60の基端63が連結され、プランジャ71に配設した復帰スプリング72の付勢力で、電磁ソレノイド70が非通電状態にある時(OFF時)、ロックアーム60は、ロック解除位置(ロックアーム60の爪部62がラチェットホイール40のラチェット歯部43から離れる位置)に保持される。また、電磁ソレノイド70が通電状態に切り替えられると(ON時)、プランジャ71が復帰スプリング72の付勢力に抗して引き込まれることで、ロックアーム60が、ロック解除位置からロック位置(ロックアーム60の爪部62がラチェットホイール40のラチェット歯部43に係合する位置)に変位するようになっている。
【0037】
ロックアーム60の爪部62は、ラチェットホイール40のラチェット歯部43と対向する。ロックアーム60がロック位置に操作されることで、ロックアーム60の爪部62がラチェットホイール40のラチェット歯部43に係合する。その係合状態にあるとき、ロックアーム60の爪部62は、ラチェットホイール40のベルト引出方向RBの回転のみを許し、ベルト巻取方向RAの回転を阻止する。つまり、ロックアーム60の爪部62とラチェットホイール40のラチェット歯部43によって、ラチェットホイール40のベルト引出方向RBのみの回転を許す一方向クラッチが構成されている。
【0038】
ロックアーム60及び電磁ソレノイド70は、ラチェットホイール40の状態を、ラチェットホイール40のベルト引出方向RBの回転を許容し、ベルト巻取方向RAの回転を規制した規制状態(TRD=ONの状態)と、ラチェットホイール40のベルト引出方向RB及びベルト巻取方向RAの両方向の回転を許容する解除状態(TRD=OFFの状態)と、に選択的に切り替える切換え装置80を構成する。
【0039】
即ち、電磁ソレノイド70は、ロックアーム60をロック解除位置に切り替えたとき、副スプリング22によるベルト巻取方向RAの付勢力のスピンドル10への伝達を有効とし、ロックアーム60をロック位置に切り替えたとき、副スプリング22によるベルト巻取方向RAの付勢力のスピンドル10への伝達を無効とする。
【0040】
また、電磁ソレノイド70は、ウェビングBのタング(図示せず)がバックルにロックされていないとき、TRD=OFF、つまりロックアーム60をロック解除位置に保持し、ウェビングBのタングがバックルにロックされているとき、TRD=ON、つまりロックアーム60をロック位置に保持する。この切り替え信号は、バックルに内蔵された不図示の検知スイッチの検知信号に応じて発せられる。即ち、バックルにタングが挿入されて係合されたとき、TRD=ONとするべく電磁ソレノイド70に通電信号(ON信号)が供給され、バックルにタングが挿入されてないとき、または係合が外れたとき、TRD=OFFとするべく電磁ソレノイド70に非通電信号(OFF信号)が供給される。
【0041】
次に、図4図10を参照してシートベルトリトラクタの作用について説明する。図6図10は、各使用状況におけるシートベルトリトラクタの模式図である。
【0042】
先ず、図6に示すように、ウェビングBのタングがバックルに係合されていないときには、TRD=OFFであり、ラチェットホイール40が何ら拘束されていない(回転規制されていない)ので、スピンドル10には、主スプリング21と副スプリング22による合成付勢力FA+FBが作用する。
【0043】
なお、メモリ部材23は、カバー48及びラチェットホイール40を介して副スプリング22と直列配置され、副スプリング22と渦巻き方向を同一方向とし、自由状態において完全に巻き締められた形状となっている。このため、TRD=OFFの状態では、メモリ部材23は完全に巻き締められた状態に保たれ、ラチェットホイール40とリテーナ12とは一体に回転する。したがって、TRD=OFFの状態では、副スプリング22の付勢力FBが、主スプリング21の付勢力FAに加算されて、スピンドル10に作用する。
【0044】
従って、この状況でのウェビングBの引き出しや巻き取りの際には、主スプリング21と副スプリング22による大きな合成付勢力FA+FBがベルト巻取方向に作用することになる。乗員が主スプリング21及び副スプリング22の合成付勢力FA+FBに抗してウェビングBを引き出して行くと、スピンドル10がベルト引出方向(矢印RB方向)に回転して、主スプリング21及び副スプリング22を巻き締めて行く(メモリ部材23は完全に巻き締められた状態を維持したまま、主スプリング21及び副スプリング22がエネルギーを蓄えて行く)。また、ウェビングBの巻き取りの際には、主スプリング21及び副スプリング22の合成付勢力FA+FBによって、スピンドル10を迅速に回転させることができる。
【0045】
ウェビングBの引き出しや巻き取りによりスピンドル10が回転すると、リテーナ12、ラチェットホイール40も回転するが、回転速度は緩やかであるので、クラッチ部材53に作用する遠心力はトーションスプリング54の弾性力より小さく、図5に示すように、クラッチ部材53の爪部53bは、クラッチリング52の係止爪52aから離間した状態を維持する。クラッチリング52は、フリクションスプリング51の摩擦力によりリテーナ12と共に回転可能である。
【0046】
次に、乗員が、引き出したウェビングBのタングをバックルに差込係合させると、バックルの検知スイッチからON信号が出て、図7に示すように、電磁ソレノイド70がONされ、電磁ソレノイド70が復帰スプリング72の付勢力に抗してプランジャ71を引き込んで、ロックアーム60を動かす。それにより、ロックアーム60の爪部62がラチェットホイール40のラチェット歯部43に係合して、ラチェットホイール40が、ベルト巻取方向(矢印RA方向)に一方向回転規制される。つまり、この状態がTRD=ONの状態(規制状態)である。
【0047】
そして、電磁ソレノイド70がONした状態(TRD=ON)から、ウェビングBの弛みをとるべくベルト巻取方向(矢印RA方向)にウェビングBを戻そうとすると、図8に示すように、ラチェットホイール40がベルト巻取方向に回転規制されているので、副スプリング22の付勢力FBのスピンドル10への伝達が無効とされる。
【0048】
さらに、ウェビングBをベルト巻取方向に巻き戻すと、メモリ部材23の内端部23bが係止しているリテーナ12がスピンドル10と一体回転することで、巻き緩み始める。即ち、メモリ部材23は、完全に巻き締められた状態から、スピンドル10の巻取方向の回転により巻き緩められる。したがって、TRD=ONの状態においてスピンドル10に作用するベルト巻取方向の付勢力は、主スプリング21のベルト巻取方向の付勢力FAのみとなる。この状態は、乗員がフィットする位置にウェビングBを巻き戻した状態に相当する。
【0049】
なお、TRD=ONの状態でのウェビングBの巻き取り、巻き戻しにおいてスピンドル10に作用する付勢力は、副スプリング22の付勢力FBが無効化されて、主スプリング21のベルト巻取方向の付勢力FAであるので、副スプリング22の付勢力FBを主スプリング21の付勢力FAより大きく設定しておけば(FB>FA)、TRD=ON時とTRD=OFF時とのウェビングBの巻取力の差を大きく設定することができる。
【0050】
従って、タングをバックルに差込係合させたときの力よりも弱い力で乗員が拘束されることになり、乗員の圧迫感が少なくなり、自由感が増す。このように、TRD=OFF時(シートベルト装着のための巻取・引出時)とTRD=ON時(シートベルトの通常装着時)の巻取力の差を大きく設定することができるので、それにより、ベルト装着時の乗員の快適性の向上が図れる。
【0051】
次に、図9に示すように、ウェビングBのタングをバックルから抜くと、バックル内の検知スイッチのOFF信号に応答して、電磁ソレノイド70がOFFに切り替わる。その結果、プランジャ71が復帰スプリング72の付勢力により突出位置へと復帰し、ロックアーム60が回転して、ラチェットホイール40のラチェット歯部43とロックアーム60の爪部62の係合が外れる。
【0052】
これにより、ラチェットホイール40は、副スプリング22の付勢力FBによりリテーナ12に対して急速に回転する。同時に、ラチェットホイール40に作用している副スプリング22の付勢力FBがメモリ部材23に伝達されて、メモリ部材23が巻き締められた形状に戻ろうとする。
【0053】
このとき、図4に示すように、ラチェットホイール40と一体に組み付けられたカバー48も回転するので、中央部がカバー48の支持ピン48dに揺動自在に支持されたクラッチ部材53がリテーナ12の回りを公転してクラッチ部材53に遠心力が作用する。
【0054】
先端に爪部53bを有する一方の腕53aに対して、他方の腕53cは大きく(重い)形成されているので、より大きな遠心力が他方の腕53cに作用し、クラッチ部材53は、トーションスプリング54の弾性力に抗して爪部53bがクラッチリング52の係止爪52aに接近する方向に揺動する。そして、クラッチ部材53の爪部53bとクラッチリング52の係止爪52aとが係合する。これにより、クラッチリング52は、クラッチ部材53を介してカバー48、即ち、ラチェットホイール40と実質的に一体に結合されてラチェットホイール40と一体で回転する。
【0055】
ラチェットホイール40の回転によりクラッチリング52がリテーナ12に対して相対回転すると、クラッチリング52に固定されたフリクションスプリング51と、フリクションスプリング51が摩擦嵌合するリテーナ12のスプリング溝12fとの間に摩擦抵抗が発生して、クラッチリング52を介してラチェットホイール40に制動力が作用して、ラチェットホイール40の回転速度を抑える。
【0056】
TRD=ONからTRD=OFFになると、副スプリング22の付勢力FBがラチェットホイール40を介してメモリ部材23に伝達され、巻き緩められていたメモリ部材23が巻き締められる。従来のメモリ部材では、一気に完全に巻き締められるので、巻き締め完了時の衝撃により異音が発生する。しかし、本実施形態のシートベルトリトラクタ1は、メモリ部材23が巻き締められる方向にラチェットホイール40が回転すると、フリクションスプリング51とスプリング溝12fとの摩擦抵抗によりラチェットホイール40に制動力が作用してメモリ部材23が一気に巻き締められることがない。これにより、メモリ部材23の巻き締めに伴う異音の発生が抑制され、乗員に与える不快感が大幅に軽減される。
【0057】
そして、図10に示すように、メモリ部材23が完全に巻き締められた状態となると、ラチェットホイール40(クラッチリング52)の回転は、ウェビングBを巻き取るときのリテーナ12(スピンドル10)と同じ回転速度まで遅くなる。これにより、クラッチ部材53に作用する遠心力が低下して、クラッチ部材53の爪部53bとクラッチリング52の係止爪52aとの係合が解除(図5参照)されて、図6に示す元の状態に戻る。
【0058】
なお、図7に示すTRD=ONの状態で、乗員が、ウェビングBのタングをバックルに差込係合させた状態で、ウェビングBを更に引き出して行く場合や、乗員が正常にベルト装着した後、大きく前傾姿勢をとったり、車をバックさせるために後方に大きく振り向く場合など、ウェビングBの引き出し位置を超えてウェビングBが引き出される場合がある。この場合、図7に示すように、メモリ部材23は完全に巻き締められた状態で、ベルト引出方向に回転規制されていないラチェットホイール40が、副スプリング22を巻き締めながらベルト引出方向に回転する。この際、ロックアーム60は、爪部62とラチェット歯部43が一方向クラッチを構成する関係で、ラチェットホイール40のラチェット歯部43から外れる方向に回転するので、ウェビングBの引き出しを邪魔することはない。
【0059】
そのときにスピンドル10に作用する巻取力は、主スプリング21のベルト巻取方向の付勢力FAと副スプリング22のベルト巻取方向の付勢力FBの合成付勢力FA+FBとなる。
【0060】
したがって、ラチェットホイール40は、ロックアーム60の爪部62とのラチェット歯部43の噛み合い位置が変わった状態で回転規制される。この場合でも、更新されたロックアーム60とラチェットホイール40の噛み合い位置からウェビングBがベルト巻取方向に巻き戻されることで、主スプリング21のベルト巻取方向の付勢力FAがスピンドル10に作用する。
【0061】
以上説明したように、本実施形態のシートベルトリトラクタ1によれば、スピンドル10と、スピンドル10に対してベルト巻取方向の付勢力を常時付与する主スプリング21と、主スプリング21と並列に配置され、スピンドル10に対してベルト巻取方向の付勢力を選択的に付与する副スプリング22と、副スプリング22の内端部22bが接続され、複数のラチェット歯部43を有するラチェットホイール40と、スピンドル10に一体回転可能に固定され、ラチェットホイール40が嵌合するリテーナ12と、ラチェットホイール40を規制状態と解除状態とに選択的に切り換える切換え装置80と、規制状態におけるラチェットホイール40に対するスピンドル10の相対回転量を記憶するメモリ部材23と、を備える。さらに、シートベルトリトラクタ1は、スピンドル10と一体回転するリテーナ12と、外周部に複数の係止爪52aが設けられ、リテーナ12の周囲に相対回転自在に配置されるクラッチリング52と、ラチェットホイール40と共に回転すると共に、ラチェットホイール40に対して揺動可能に支持され、クラッチリング52の係止爪52aと係合可能な爪部53bを備えるクラッチ部材53と、リテーナ12とクラッチリング52との間に配設されたフリクションスプリング51と、を備える。そして、切換え装置80による規制状態が解除されてラチェットホイール40がリテーナ12より速く回転するとき、ラチェットホイールの回転に伴って発生する遠心力によりクラッチ部材53が揺動してクラッチ部材53の爪部53bが、クラッチリング52の係止爪52aと係合し、クラッチリング52をラチェットホイール40と共に一体回転させ、フリクションスプリング51の摩擦力によりラチェットホイール40に制動力が付与される。これにより、テンションレデューサの解除時にメモリ部材23が急激に巻き締められることがなく、メモリ部材23から発生する不快な異音を低減することができる。更に、メモリ部材23の巻き締め完了時にメモリ部材23に作用する荷重が軽減されて耐久性が向上する。
【0062】
また、切換え装置80による規制状態が解除された後、ラチェットホイール40とリテーナ12との相対回転が停止したとき、クラッチ部材53の爪部53bとクラッチリング52の係止爪52aとの係合が解除されるので、簡単な機構でラチェットホイール40に対するフリクションスプリング51の摩擦力を自動的に解除することができる。
【0063】
また、フリクションスプリング51は、その両端部をクラッチリング52に係止されることで、クラッチリング52と一体に回転するので、フリクションスプリング51の組立性を向上することができる。
【0064】
また、ラチェットホイール40と協働してメモリ部材23を収容し、ラチェットホイール40と一体回転可能に組み付けられたカバー48は、クラッチ部材53が揺動自在に嵌合する支持ピン48dと、が設けられているので、テンションリデューサの解除時のメモリ部材23の巻き締めによる異音を低減する機構がコンパクトに設計できる。
【0065】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。例えば、上記実施形態においては、メモリ部材23は、ポリアセタールなどの樹脂で形成された長尺のテープとして説明したが、本発明のメモリ部材は、長尺の帯状部材であればよく、渦巻ばねなどで構成することもできる。この場合もラチェットホイールに制動力を作用させることで、メモリ手段を構成する部材の当接を和らげることができ、本実施形態と同様の効果を奏する。
【0066】
また、上記実施形態では、規制状態におけるラチェットホイール40に対するスピンドル10の相対回転量を記憶する回転メモリ機構として、メモリ部材23を用いているが、本発明のシートベルトリトラクタは、これに限定されない。即ち、回転メモリ機構としては、ゼネバ機構やウォブルギヤ機構も適用可能である。例えば、図11及び図12に示すように、回転メモリ機構としてのウォブルギヤ機構は、ラチェットホイール40の内周部に形成された内歯部49と、スピンドル10の軸心に対して偏心する偏心軸に回転自在に設けられ、内歯部49の歯数と異なる歯数を有し、外周部にラチェットホイール40の内歯部49と噛合する外歯部93を有するウォブルギヤ90と、を備え、ラチェットホイール40の内歯部49とウォブルギヤ90の外歯部93とは、ヘリカルギヤによって構成される。
【0067】
また、ウォブルギヤ機構は、ラチェットホイール40の内歯部49の内径側で、円周方向の所定の位置に形成されたストッパ47と、ウォブルギヤ90のラチェットホイール側の側面に形成された突起部97と、突起部97に対して移動自在となるように突起部97と嵌合する嵌合孔98aを有し、解除状態においてストッパ47と当接し、規制状態においてストッパ47から離間可能な当接部材98と、をさらに備える。
【0068】
そして、ラチェットホイール40がベルト引出方向に回転した後、ベルト巻取方向の回転が規制された規制状態が解除されるとき、副スプリング22の付勢力によりウォブルギヤ90がベルト巻取方向に回転して当接部材98がストッパ47に当接する際に生じる衝撃力を、前述したリテーナ12とクラッチリング52との間のフリクションスプリング51によって吸収する。
【0069】
また、上記実施施形態では、ウェビングBのタングをバックルに差込係合させたとき、バックルの検知スイッチから送出される検知信号により電磁ソレノイド70を作動してTRD=OFF状態とTRD=ON状態とに切換えるようにしたが、TRD状態の切換え信号は、ドアの開閉に応じた検知信号により電磁ソレノイド70を作動させるようにしてもよい。この場合、ドアが閉じられたときの検出信号によりTRD=ON状態とし、ドアが開かれたときの検出信号によりTRD=OFF状態に切換える。
【符号の説明】
【0070】
1 シートベルトリトラクタ
2 巻取機構
10 スピンドル
12 リテーナ
21 主スプリング
21a 外端部
21b 内端部
22 副スプリング
22a 外端部
22b 内端部
23 メモリ部材(回転メモリ機構、帯状部材)
23a 外端部
23b 内端部
31 第1ハウジング(固定側部材)
32 第2ハウジング(固定側部材)
40 ラチェットホイール
43 ラチェット歯部
48 カバー
48d 支持ピン
48f テープ固定部
51 フリクションスプリング
52 クラッチリング
52a 係止爪(ラチェット歯部)
53 クラッチ部材
53b 爪部
54 トーションスプリング(付勢手段)
60 ロックアーム
62 爪部
80 切換え装置
B ウェビング(シートベルト)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12