(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
自溶炉のセットラまたはアップテイクに形成された空気取り入れ口を開口することによってアップテイクと排熱ボイラとの接続開口の酸素濃度を高くすることで、前記接続開口を通過する排ガスに含まれる未反応銅精鉱、前記排ガスに含まれるマット成分、および前記接続開口の凝固物のダスト成分の少なくともいずれかの酸化熱を利用して、前記接続開口の凝固物を溶解・除去することを特徴とする自溶炉の操業方法。
前記自溶炉内の圧力と大気圧との差圧を利用して前記空気取り入れ口にフリーエアを流入させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の自溶炉の操業方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0011】
(実施の形態)
図1は、自溶炉100の概略図である。
図1に示すように、自溶炉100は、反応シャフト10、セットラ20およびアップテイク30が順に配置された構造を有する。反応シャフト10の上部には、精鉱バーナ40が設けられている。
【0012】
図2(a)および
図2(b)は、自溶炉100を用いた銅製錬工程図である。まず、
図2(a)で例示するように精鉱バーナ40から銅精鉱等の銅製錬用原料、溶剤等(以下、これらの固体原料を出発原料と称する)とともに、酸素を含む反応ガスが反応シャフト10内に投入される。それにより、下記反応式(1)などにより銅製錬用原料が酸化反応を起こし、
図2(b)で例示するように、反応シャフト10の底部でマット50およびスラグ60に分離する。なお、下記反応式(1)で、Cu
2S・FeSがマットの主成分に相当し、FeO・SiO
2がスラグの主成分に相当する。溶剤として、珪酸鉱が用いられている。
CuFeS
2+SiO
2+O
2→Cu
2S・FeS+2FeO・SiO
2+SO
2 + 反応熱 (1)
【0013】
反応ガスとして、例えば酸素富化空気を用いることができる。酸素富化空気とは、自然の大気よりも高い酸素濃度を有する空気のことである。例えば、酸素富化空気は、60体積%〜90体積%の酸素濃度を有する。それにより、銅製錬用原料に十分な酸化反応を生じさせることができる。マット50は、アップテイク30から転炉へと導入される。スラグ60は、アップテイク30から錬カン炉へと導入される。
【0014】
反応シャフト10には反応ガスが吹き込まれるため、自溶炉100において排ガスが発生する。排ガスは高温を有しているため、排熱を回収するための排熱ボイラが設けられている。
図3は、自溶炉100と排熱ボイラ200との接続関係を例示する図である。
図3で例示するように、排熱ボイラ200は、アップテイク30の上部に接続されている。排ガスが有する熱量を排熱ボイラ200で回収することができるため、自溶炉100で生じた熱を効率よく回収することができる。
【0015】
自溶炉100で発生する排ガスには、未反応銅精鉱やダストが含まれている。ダストには、マット成分の他に、CuO,SiO
2,Fe
3O
4,Al
2O
3・FeOなどが含まれている。マット成分には、Cu
2S,FeS,FeO,ZnS,PbSなどが含まれている。排ガスが排熱ボイラ200に回収される際に、アップテイク30と排熱ボイラ200との接続開口(アップテイク開口31)においてダストの一部が凝固する。この場合、アップテイク開口31の開口面積が小さくなるため、自溶炉100内の圧力と排熱ボイラ200内の圧力との間に差が生じるようになる。自溶炉100内の圧力と排熱ボイラ200内の圧力との差を小さくするためには、アップテイク開口31において凝固物を効率よく溶解・除去することが望まれる。例えば、発破や重油バーナなどで凝固物を溶解させることが考えられる。しかしながら、発破や重油バーナなどで凝固物を溶解させるためには、自溶炉の操業を停止する必要がある。
【0016】
そこで、本実施形態においては、セットラ20またはアップテイク30に設けられた空気取り入れ口を開口して酸素を取り入れることで、アップテイク開口31における酸素濃度を高くする。それにより、アップテイク開口31を通過する排ガスに含まれる未反応銅精鉱、当該排ガスに含まれるマット成分、およびアップテイク開口31の凝固物のダスト成分の少なくともいずれかを酸化させることができる。この場合に生じる酸化熱を利用して、アップテイク開口31の凝固物を効率よく溶解・除去することができる。例えば、上記のダスト成分やマット成分は、単独では高い融点を有するが、アップテイク開口31の凝固物においては化合物を形成することで比較的低い融点を有している。例えば、上記の未反応銅精鉱、マット成分、および凝固物のダスト成分の少なくともいずれかの酸化熱を利用してアップテイク開口31における温度を1300℃程度まで上昇させることで、凝固物を溶解させることができる。
【0017】
例えば、セットラ20の天井に設けた開閉式の空気取り入れ口21を利用する。セットラ20の天井に新たに空気取り入れ口21を設けてもよいが、従来から設けられている空気取り入れ口(例えば、重油バーナ孔)を利用することができる。セットラ20の内部は、大気圧と比較すると負圧となっている。例えば、セットラ20の内部の圧力は、大気圧に対して−5mmH
2O〜−10mmH
2O程度である。したがって、空気取り入れ口21を開口すると、フリーエア(大気)がセットラ20の内部に流入する。このフリーエアは、セットラ20の内部を対流し、アップテイク30からアップテイク開口31を介して排熱ボイラ200内に流入する。または、送風機などを利用して、空気取り入れ口21から圧縮空気などを流入させてもよい。
【0018】
いずれの空気取り入れ口21を開口させてもアップテイク開口31の酸素濃度を必ずしも高くできるわけではない。アップテイク開口31の酸素濃度を高くすることができる空気取り入れ口21の位置は、自溶炉100の操業条件等に応じて変動し得る。そこで、シミュレーション等により、アップテイク開口31の酸素濃度を高くすることができる空気取り入れ口21の位置を予め取得しておいてもよい。
【0019】
例えば、空気取り入れ口21は、セットラ20の天井において、反応シャフト10よりもアップテイク30寄りに形成されていることが好ましい。または、空気取り入れ口21は、セットラ20とアップテイク30との連結部(ペチコート部)に形成されていることが好ましい。空気取り入れ口21がアップテイク開口31に近い位置に形成されることで、流入ガスの高酸素濃度が分散することが抑制され、アップテイク開口31の温度を効率よく局所的に高くすることができるからである。
【0020】
また、空気取り入れ口21から流入させる気体としてフリーエアを用いることで、自溶炉100内における乱流を抑制することができる。したがって、空気取り入れ口21から流入させる気体として、フリーエアを用いることが好ましい。また、フリーエアを用いることで、送風機や送風配管などの設置コストやランニングコストを抑制することができる。また、圧縮空気を用いる場合には、必要以上の空気がアップテイク開口31に流入し、アップテイク開口31の温度を低下させるおそれもある。したがって、フリーエアを用いることで、アップテイク開口31の温度を低下させずにアップテイク開口31の酸素濃度を高くすることができるという効果も得られる。
【0021】
ここで、自溶炉100の所定の操業条件において、空気取り入れ口21の開閉によるフリーエアの流入についてシミュレーションを行った結果について説明する。まず、
図4に示すように、空気取り入れ口21を閉じた場合には、アップテイク開口31における平均酸素濃度は、0.08%と低い値となった。この場合には、アップテイク開口31において上記の未反応銅精鉱、マット成分、および凝固物のダスト成分を十分に酸化させることは困難であると考えられる。なお、
図4において、模様が濃いほど酸素濃度が低く、模様が薄いほど酸素濃度が高いことを表している。以下の
図5(b)、
図5(d)、
図6(b)、
図6(d)においても同様である。
【0022】
図5(a)および
図5(c)は、セットラ20の天井のいずれかの空気取り入れ口21を開口した場合のフリーエアの軌跡のシミュレーション結果を示す図である。また、
図5(a)および
図5(c)において、アップテイク開口31におけるフリーエアの集中流箇所を示す。
図5(a)および
図5(c)で開口させた空気取り入れ口21は、セットラ20の天井において反応シャフト10よりもアップテイク30寄りに位置している。
図5(a)および
図5(c)のいずれの空気取り入れ口21を開口させた場合でも、セットラ20内へのフリーエアの流入が確認された。
図5(b)に示すように、アップテイク開口31における平均酸素濃度は、
図5(a)の場合では0.12%となった。
図5(d)に示すように、
図5(c)の場合では0.14%となった。このように、空気取り入れ口21を開口させることで、アップテイク開口31において上記の未反応銅精鉱、マット成分、および凝固物のダスト成分を酸化させることができることがわかる。
【0023】
次に、フリーエアの対流経路および対流速度について検討した。
図5(a)の場合では、フリーエアがアップテイク30において旋回して減速した。
図5(c)の場合では、フリーエアが減速せずに排熱ボイラ200に流入した。このように、空気取り入れ口21の位置に応じて、フリーエアの対流経路や対流速度が変化した。フリーエアの対流経路や対流速度が変化することで、アップテイク開口31の断面におけるフリーエアの流入量に分布が生じる。すなわち、アップテイク開口31の断面においてマット成分の流入量に分布が生じる。この場合、アップテイク開口31においてフリーエアから供給される熱に分布が生じることになる。この熱の分布を予め取得しておくことで、アップテイク開口31の凝固物を溶解させたい場所を制御することができる。したがって、アップテイク開口31において溶解させたい凝固物の位置に応じて、空気取り入れ口21の位置を選択することで、アップテイク開口31の凝固物を効率よく溶解・除去することができる。
【0024】
図6(a)および
図6(c)は、セットラ20の天井のいずれかの空気取り入れ口21を開口した場合のフリーエアの軌跡のシミュレーション結果を示す図である。また、
図6(a)および
図6(c)において、アップテイク開口31におけるフリーエアの集中流箇所を示す。
図6(a)および
図6(c)で開口させた空気取り入れ口21は、セットラ20の天井においてアップテイク30よりも反応シャフト10寄りに位置している。
図6(a)および
図6(c)のいずれの空気取り入れ口21を開口させた場合でも、セットラ20内へのフリーエアの流入が確認された。しかしながら、
図6(b)に示すように、アップテイク開口31における平均酸素濃度は、
図6(a)の場合では0.03%となった。
図6(d)に示すように、
図6(c)の場合では0.02%となった。このように、空気取り入れ口21を開口させたとしても、必ずしもアップテイク開口31における酸素濃度が高くなるわけではないことがわかる。
【実施例】
【0025】
図7で例示するように、アップテイク30のペチコート部Aに幅が約2000mm、高さが約100mmの開口を設けた。自溶炉100の操業中に当該開口からフリーエアをアップテイク30に流入させた。
図8(a)は、フリーエア流入前のアップテイク開口31における凝固物を示す図である。
図8(a)で示すように、アップテイク開口31においては、内面に凝固物が形成されている。
図8(b)は、フリーエア流入後のアップテイク開口31における凝固物を示す図である。
図8(b)で例示するように、凝固物量が少なくなっていることがわかる。これは、フリーエアの流入によってアップテイク開口31における酸素濃度が高くなり、上記の未反応銅精鉱、マット成分、および凝固物のダスト成分の酸化により局所的に高温となったからであると考えられる。
【0026】
表1は、アップテイク30内の圧力と、排熱ボイラ200の入口の圧力と、それらの差を示す図である。表1に示すように、フリーエアの流入により、差圧が小さくなった。これは、アップテイク開口31の凝固物が溶解・除去されて、アップテイク開口31の開口面積が大きくなったからであると考えられる。
【表1】
【0027】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。