特許第6556814号(P6556814)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556814
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】真空療法で使用するための創傷被覆材
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/00 20060101AFI20190729BHJP
   A61M 27/00 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   A61F13/00 301M
   A61F13/00 301Z
   A61F13/00 T
   A61M27/00
【請求項の数】6
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-231883(P2017-231883)
(22)【出願日】2017年12月1日
(62)【分割の表示】特願2014-543971(P2014-543971)の分割
【原出願日】2012年11月29日
(65)【公開番号】特開2018-64959(P2018-64959A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2018年1月4日
(31)【優先権主張番号】1120693.5
(32)【優先日】2011年12月1日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】509146126
【氏名又は名称】コンバテック・テクノロジーズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】CONVATEC TECHNOLOGIES INC
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100118625
【弁理士】
【氏名又は名称】大畠 康
(74)【代理人】
【識別番号】100176463
【弁理士】
【氏名又は名称】磯江 悦子
(74)【代理人】
【識別番号】100183232
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 敏行
(72)【発明者】
【氏名】ウェイン・ボネフィン
(72)【発明者】
【氏名】サラ・ロー
(72)【発明者】
【氏名】アメリア・プレンティス
【審査官】 ▲高▼橋 杏子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2000−510539(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/122665(WO,A1)
【文献】 特表2003−510475(JP,A)
【文献】 特表平08−505790(JP,A)
【文献】 特開2006−110393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/00
A61M 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル形成繊維を含む開放構造を製造するための方法であって、
(i) カーディングを行って連続するウェブを形成するステップと
(ii) ウェブを延伸してスライバーを作るステップと、
(iii) ロータ紡績を行ってヤーンを作るステップと、
(iv) 前記ヤーンをネット状に編むか、織るか、または、刺繍して前記開放構造にするステップと、
を備え、前記開放構造は、0.5 mm2から5.0 mm2までの間の孔サイズまたはメッシュサイズを有すると共に50重量%から100重量%までのゲル形成繊維を有して、滲出液がこの開放構造を通って流れることを可能にすることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ステップ(i)の前に、ゲル形成繊維とテキスタイル繊維とをブレンドするステップをさらに備え、30重量%以上且つ100重量%未満のゲル形成繊維が、0重量%より多く且つ70重量%以下のテキスタイル繊維とブレンドされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(i)の前に、ゲル形成繊維とテキスタイル繊維とをブレンドするステップをさらに備え、50重量%以上且つ100重量%未満のゲル形成繊維が、0重量%より多く且つ50重量%以下のテキスタイル繊維とブレンドされる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ゲル形成繊維及び前記テキスタイル繊維のそれぞれが30 mmから60 mmまでのステープル長を有する、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記開放構造は60重量%から100重量%までのゲル形成繊維を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記開放構造は20 tex(テックス)から40 texまでの線密度を有する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドレッシング材つまり被覆材と真空とで創傷を治療するためのデバイスおよびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
真空は、創傷組織への血流を増加させ、かつ創傷部位から滲出液を除去するために使用されてきた。一般に、真空治療では、創傷の外周縁のまわりを封止するためのカバーを備えるデバイスが使用され、そのカバーの下では真空が生じて、創傷表面に作用する。創傷表面に適用される真空は、慢性創傷の治癒を加速する。カバーの下では、真空が形成されるスペースを提供し、かつ組織の内部成長(ingrowth)を減少させるために、開放セル発泡材料(open cell foam material)またはガーゼの遮蔽体が通常使用される。創傷の閉鎖を促進するために、適切な持続時間、十分な真空が適用され、その結果、組織の物質移動が促進される。適切な真空は、およそ0.1気圧と0.99気圧の間である。真空は、実質的に連続的なものであるか、または適用期間と非適用期間とが交互になるように真空が周期的に適用されるものであり得る。
【0003】
一般的な従来型および先進型の創傷接触被覆材(ドレッシング材)の多くは、特に吸引創傷療法での使用に対して欠点を有する。一例において、ガーゼおよび他の同様な平たい布材料が、創傷被覆材として一般に使用される。ガーゼが創傷に接触している場合、ガーゼは滲出液で濡れて、創傷の中に陥没する。新しい組織成長はガーゼを巻き込む可能性があり、それによって、創傷からガーゼを除去することは、困難であると共に苦痛である。泡が創傷と接触した状態にあり、かつ真空が適用される場合、泡が崩壊し、かつ組織の内部成長が、泡の崩壊したセル構造の中に生じる可能性がある。この問題を克服するために、比較的堅い穴あきシートが、創傷との接触に使用されてきた。しかしながら、それらは、創傷表面(これらの表面は輪郭が不規則である場合が多い)に快適に、かつ十分に順応するほどには、十分に柔軟で、かつ順応性があるわけではない。そのような柔軟性がないか堅い構造材または創傷接触層を有する被覆材は、不必要な苦痛と不快感を患者にもたらす可能性がある。
【0004】
WO2006/052839には、真空創傷被覆材が説明されているが、これは、創傷滲出液で濡れた場合に密着性のゲルを形成する繊維混紡品または繊維性材料である。その被覆材は、不織布の繊維マットの形態をしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
真空創傷療法で使用するための創傷被覆材は、次の特性および特質、特性の内のいくつか、またはすべてを有することが好ましい。すなわち、
創傷被覆材は、滲出液が流れることを可能とするために、多孔性である、
創傷被覆材は、下にある組織が組織の歪みの効果を感じることを可能にするために、孔または穴を有する、
創傷被覆材は、創傷部位をふさぐために、容易に折り重ねる、またはしわを寄せることができる、
創傷被覆材は、繊維状である場合、創傷の中への最小の繊維損失を有する。
創傷被覆材は、創傷床(wound bed)に対するように、創傷の側面に対しても同じ材料特質を呈し、その結果、創傷接触表面が創傷全体にわたって一貫している、
創傷被覆材は、組織の内部成長に抵抗する、
創傷被覆材は、容易な除去を促進するために、十分な湿潤強度を有する、
創傷被覆材は、滲出液を吸収した時に、創傷床に対して圧力を及ぼさない、
創傷被覆材は、ある範囲内の創傷サイズに対して、および様々な形状と深さに対して適している、
創傷被覆材は、除去に際して創傷床に対する破壊を最小にするために、最小のバイオ粘着性を有する、そして、
創傷被覆材は、吸引が創傷被覆材に適用される場合、組織に対して有益な歪みを及ぼす。
【課題を解決するための手段】
【0006】
我々は、上記の望ましい特質、特性の多くを具備するゲル形成創傷被覆材を提供することが可能であることを見出すと共に、ゲル形成創傷被覆材が、真空が適用される場合、創傷をふさぎ、かつ滲出液を創傷部位から流出させることを可能にしながら、上で確認された組織の内部成長の問題のいくつかを克服することを見出した。
【0007】
したがって、本発明は、真空創傷療法で使用するための創傷被覆材であって、ゲル形成フィラメントまたは繊維を含むヤーンを備える開放構造である創傷接触層を備え、前記開放構造は、滲出液がこれを通って流れることを可能にする多孔性(多効率)を有することを特徴とする創傷被覆材を提供する。
【0008】
分かったことは、真空によって組織に与えられた歪みが、新しい組織成長を刺激し、かつ治癒を助けると考えられることである。本発明による被覆材の開放構造に存在する多孔性は、創傷の組織に対する歪みの付加を促進するものと考えられる。
【0009】
開放構造は、ゲル形成フィラメントまたは繊維を備えるヤーンつまり糸から編まれた、または織られた、もしくは刺繍されたネットの形態とし得る。「ヤーン(yarn)」(糸)という用語は、連続したフィラメントまたはステープルファイバー(短繊維)のスレッド(thread)またはストランド(strand)を意味する。あるいは、開放構造は、最初にテキスタイルヤーン(織編用糸)から編まれるか、織られるか、または刺繍され、その後、化学的に改質され、それ自身にゲル形成の特質が与えられてもよい。例えば、ヤーンはセルロースヤーンであり得るが、このヤーンは、開放構造を形成するために編まれるか、または織られ、その後、より大きな吸収性とゲル化特性をその繊維に与えるために、化学的に改質される。
【0010】
用語「ゲル形成繊維」は、創傷滲出液を取込むと、湿って滑りやすくなるか、ゼラチン状になり、したがって、周囲の繊維が創傷に付着する傾向を減少させる吸湿性の繊維を意味する。ゲル形成繊維は、滲出液を吸収したときに、自身の構造的完全性を保持するタイプのものであるか、または自身の繊維形態を失って、無構造ゲルになるタイプのものであり得る。ゲル形成繊維は、好ましくは、紡がれたナトリウム・カルボキシメチルセルロース繊維、化学的に改質されたセルロース系繊維、ペクチン繊維、アルギナート繊維、キトサン繊維、ヒアルロン酸繊維、または他の多糖繊維もしくはゴムに由来する繊維である。セルロース系繊維は、グルコース単位当たり、少なくとも0.05置換基の置換度合いを有するのが好ましい。ゲル形成繊維は、繊維1グラム当たり、少なくとも2グラムの0.9%食塩水の吸収性を有することが好ましい(自由膨潤吸収法BS EN 13726-1:基本的な創傷被覆材のための試験方法2002−第1部:吸収性、方法3.2 自由膨潤吸収能力、によって測定)。
【0011】
ゲル形成繊維の吸収性は、自由膨潤吸収法で測定して、少なくとも10g/gであるのが好ましく、より好ましくは、15g/gから25g/gである。
【0012】
被覆材は、例えば、非ゲル形成繊維を含んでいてもよく、特に、テキスタイル繊維、例えば、テンセル、コットン、またはビスコースを含んでいてもよく、また、ライクラその他の弾性繊維を含んでいてもよい。好ましくは、テキスタイル繊維の吸収性は、上記自由膨潤法で測定して、10 g/g未満であり、より好ましくは5 g/g未満である。
【0013】
被覆材の孔径は、吸引が行われたときに創傷に付与される歪みを部分的に決定する。歪みは、治療される面積にわたる被覆材の均一性によっても決定される。最大歪みおよびその付与の均一性は、それゆえに、開放構造の孔サイズだけに依存するのではなく、被覆材を製造するために使用されるヤーンの線密度にも依存するであろう。最大歪みは、孔サイズを増加させるか、またはヤーンの線密度を増加させることによって達成することができる。均一性は、孔サイズを減少させることによって、およびヤーンの線密度を減少させることによって増加される。我々が見出したことによれば、許容できる歪みが創傷上に付与されるのは、開放構造が、好ましくは0.5 mm2から5.0 mm2までの間の、より好ましくは3.0 mm2から4.0 mm2までの間の孔サイズを有し、かつヤーンが20 tex(テックス)から40 texまでの線密度を有する場合である。
【0014】
開放構造は、1セットのメッシュを形成するための間隔でヤーンが結合されたネットの形態であり得るか、または、上で述べたように、ある孔サイズをもって編んだものであり得る。
【0015】
そのような開放構造の利点は、開放構造が容易に折り重ねられるか、またはしわくちゃにされて創傷に適合し、かつ創傷部位を包むことである。その構造により、被覆材が創傷床と同一面にない場合であってさえも、真空が創傷に適用されると、被覆材は、滲出液がこの被覆材を通過することを依然として可能にする。開放構造の順応性によって、創傷のすべての部分が、同様な被覆材構造と接触することが可能となり、その結果、例えば、創傷の側面が、創傷床と同様に、開放構造と接触する。
【0016】
本発明のさらなる実施形態は、真空創傷療法のためのデバイスであって、
ゲル形成フィラメントまたは繊維のヤーンを備える開放構造である創傷被覆材であって、前記開放構造は、滲出液がこれを通って流れることを可能にする多孔性を有する、創傷被覆材と、
前記創傷被覆材によって創傷床から分離されて置かれる真空源と、
前記創傷被覆材を覆い、かつ創傷接触層において相対真空を保持するようになっている真空封止層と
を備えたことを特徴とするデバイスを提供する。
【0017】
本発明の創傷被覆材の開放構造は、まずゲル化繊維のヤーンを形成することによって製造することができる。これは種々の方法で行うことができる。例えば、ゲル形成繊維(例えば、上述した如何なるものであってもよく、または、変性セルロース、またはカルボキシメチルセルロース又はアルギン酸塩)を紡いで、ステープルゲル形成繊維とテキスタイル繊維との種々のブレンドを含むヤーンにすることができる。
【0018】
特に適したヤーンはロータ紡績またはオープンエンド紡績によって形成できることを我々は見出した。そのようなプロセスにおいて、ステープルゲル形成繊維をテキスタイル繊維とブレンドして、カーディング(梳綿)を行い、連続するウェブを生成する。このウェブを凝縮してカードスライバー(card sliver)を作った後、ロータ紡績を行う。ロータ紡績において、高速遠心分離器を使って個々の繊維を集めて撚ってヤーンにする。この技術によって作られたヤーンは、編み機または織機を用いてさらに加工することを可能にするのに十分な引張強度特性を有する。
【0019】
本発明のさらなる実施形態は、
ステープルゲル形成繊維を必要に応じてテキスタイル繊維とブレンドするステップと、
カーディングを行って連続するウェブを形成するステップと、
前記ウェブを延伸してスライバーを作るステップと、
ロータ紡績を行ってヤーンを作るステップと
を備えたことを特徴とする、ゲル形成繊維を含むヤーンを製造するための方法を提供する。
【0020】
この方法に従って製造されたヤーンは、好ましくは、30重量%から100重量%までのゲル形成繊維と、0重量%から70重量%までのテキスタイル繊維とを含む。より好ましくは、ヤーンは、50重量%から100重量%までのゲル形成繊維を含み、残りがテキスタイル繊維であり、最も好ましくは、60重量%〜100重量%のゲル形成繊維を含む。
【0021】
スパンヤーン(紡績糸)中の繊維のステープル長は、好ましくは、30mmから60mm、より好ましくは40mmから55mm、最も好ましくは、45mmから55mmである。
【0022】
本発明の方法に従って製造されたヤーンは、テキスタイル繊維を含んでいる必要はなく、全体がゲル形成繊維だけでなる構造を作り出すことを可能とする。
【0023】
ゲル化ヤーン(gelling yarn)は、天然セルロース繊維、または溶剤紡糸セルロース・ステープル繊維、またはセルロース繊維と他のテキスタイル繊維とののブレンドから成るスパンヤーン(紡績糸)を用いるか、または、ゲル化特性を産み出すために、後でヤーンを化学的に改質するべく変換される、溶剤紡糸セルロースのフィラメントヤーンを用いて、製造することができる。例えば、リヨセルヤーンを出発材料として使用し、キヤープロセス(kier process)で変換して、ヤーンにゲル形成作用(behaviour)を付与することができる。
【0024】
本発明の方法に従って製造されたヤーンは、英国規格ISO 2062 2009によって測定された場合、少なくとも10 cN/texの、好ましくは10 cN/texから40 cN/texまでの、最も好ましくは16 cN/texから35 cN/texまでの乾燥引張強度を有することが好ましい。
【0025】
別の方法として、本発明の被覆材の開放構造は、テキスタイルヤーンを用いて織ることによって作ることができ、結果として生じる布を、その後、ゲル形成作用をその布に与えるために変換して、ゲル形成繊維の開放構造を形成する。
【0026】
リヨセル等のテキスタイルヤーンを用いて、開放構造をたて編みする、またはよこ編みし、その後、結果として生じる布を変換して、本発明の創傷被覆材を作製することが可能である。さらに、支持フィルム上にテキスタイルヤーンで開放構造を刺繍することが可能であるが、この支持フィルムを、その後、例えば洗浄することにより除去し、結果として生じる構造を変換して、ゲル形成繊維のヤーンを備える開放構造を形成する。
【0027】
本発明のさらなる側面において、本発明は、
可溶性の支持フィルム上にテキスタイルヤーンで開放構造を刺繍し、
前記支持フィルムを溶かすことによって、これを除去し、
ゲル形成繊維のヤーンを備える構造を形成するために、前記開放構造を化学的に改質して、前記ヤーンにゲル形成特性を与える
ことにより、ゲル形成繊維のヤーンを備える開放構造またはネットを製造する方法を提供する。
【0028】
ヤーン又は布の好ましい変換方法がWO 00/01425に記載されている。例えば、反応容器に、したがってセルロース系材料に反応流体を65℃で90分間ポンプで送ることにより、ヤーン又は布をカルボキシメチル化することができる。反応流体は、工業用変性アルコールにアルカリ(典型的には、水酸化ナトリウム)とモノクロロ酢酸ナトリウムを溶かした溶液である。反応時間後、反応物を酸で中和し、洗浄した後、実験室オーブンの中で、1時間、40℃で乾燥させる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本発明の好ましい実施形態は、以下の図面において例示される。
図1図1は、本発明によるヤーンについての引張強度を示すグラフである。
図2図2は、ゲル形成繊維を備えるヤーンから製造された開放構造を示し、緩められた状態、わずかに伸ばされかつ濡れた湿潤状態、およびわずかに伸ばされた状態にある。
図3a図3aは、乾燥状態と湿潤状態の両方において、本発明によるヤーンの、テンセル縦糸および横糸挿入を用いて編まれた布を示す。
図3b図3bは、図3aにおける布について、一本のヤーンの別のヤーンによるロックイン(locking in)(つまり留め、締め込み)を示す。
図4図4は、フィルム上にテキスタイルヤーンを刺繍することによって製造される開放構造を示し、(a)はフィルム上に刺繍された二層構造を示し、(b)は変換された乾燥構造を示し、(c)はその構造が濡れているのを示している。
図5図5は、HF-2011/250を用いて製造された、ロックインたて編み構造を示す。
図6図6は、鎖編みの中でステッチを形成する接続ヤーンを示す、図5の顕微鏡像を示す。
図7図7は、乾燥状態における、変換され、織られた構造を示す。
図8図8は、図7からの構造であるが、しかし湿潤構造を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下の実施例により、本発明を説明する。
【0031】
実施例1 - ステープルゲル形成繊維からヤーンを紡糸
ツルッシュラー梳綿機(Trutzschler cotton card)でカーディングを行い、得られたスライバーを1メートル当たり650回転の撚りをかけることによって、カルボキシメチルセルロースステープル繊維(CMC)とリヨセル繊維とのブレンドを、CMC対リヨセル繊維比を50:50、60:40,70:30として作った。
【0032】
実施例2 - テキスタイルヤーンをゲル形成ヤーンに変換
ミニキヤー(mini kier)を用いて実験室でヤーンを変換した。両テストにおいて、ステープルヤーンとフィラメントリヨセルヤーンとを変換した。変換に使用したヤーンは、33テックス テンセル(登録商標)、HF-2011/090、そして20テックス フィラメントリヨセルバッチであるHF-2011/051 (テスト1)及びHF-2011/125 (テスト2)であった。テンセル(登録商標)は、レンチング(Lenzing)社が所有するリヨセルの登録商標であり、使用したテンセル(登録商標)ヤーンはスパンステープルヤーンであった。また、フィラメントリヨセルは、アセロンケミカルズアンドファイバーコーポレーション(Acelon chemicals and Fiber Corporation)(台湾)により、オフトリー社(Offtree Ltd)を通じて供給された。
【0033】
ヤーンを変換する利点とは、コーン巻きされたヤーン全部を1つの比較的簡単な工程で変換できる可能性があること、そして、ゲル化繊維の加工を回避でき、したがって必要とされる工程数及び繊維へのダメージを減らせることである。
【0034】
テスト1−キヤーコア(kier core)に巻かれたヤーン
このテストでは、電気ドリル用いてキヤーのコアを回転させ、速度に応じてヤーンをパッケージから引っ張り出すことにより、キヤーの穴の開いたコアにテンセル(登録商標)ヤーンをきつく巻いた。これは、ヤーンが緊張した(張力を受けた)状態でコアにしっかりときつく巻かれることを意味した。
【0035】
そのヤーンを、WO 00/01425に記載の方法で変換した。つまり、流体をキヤー(kier)を通って、したがってセルロース材料に65℃で90分間ポンプで送ることにより、カルボキシメチル化を行った。反応流体は、アルカリ(典型的には、水酸化ナトリウム)とモノクロロ酢酸ナトリウムを工業用変性アルコールに溶かした溶液である。反応時間後、反応物を酸で中和し、洗浄した後、実験室オーブンの中で、1時間、40℃で乾燥させた。
【0036】
変換は成功し、ステープルゲル化ヤーンとフィラメントゲル化ヤーンの両方つまりHF-2011/103 と HF-2011/105とを作ることができた。ステープルヤーンをコアにきつくかつ不均一に巻いたため、メスを用いて除去する必要があり、したがって、複数の短い長さ(約14cm)の変換ヤーンとなった。
【0037】
テスト2−ヤーンの小さなかせ(hanks)
2番目のテストの目的はより長い長さの変換ヤーンを作ることであったので、ステープルリヨセルヤーンとフィラメントリヨセルヤーンそれぞれで小さなかせを手作りし、これらを変換のために布(fabric)の層の間に配置した。
【0038】
それらのかせをキヤーに置き、テスト1について述べたようにゲル形成繊維ヤーンを形成するように変換することによって、ヤーンを変換した。
【0039】
変換は成功して、ステープルゲル化ヤーンとフィラメントゲル化ヤーン(それぞれHF-2011/146とHF-2011/147)の両方ができた。
【0040】
ヤーンの概要

【0041】
実施例1及び2の結果
HF-2011/051を除いて、ヤーンの全てを湿潤および乾燥引張強度について試験した。規格方法BS EN ISO 2062:2009「テキスタイル−パッケージからのヤーン:定速伸張形(CRE)試験機を用いての単一端の破断力と破断時の伸びの測定(Textiles - Yarns from packages: Determination of single-end breaking force and elongation at break using constant rate of extension (CRE) tester)」に対して必要な修正を行った。ツウィック(Zwick)引張試験機を用い、ゲージ長さを100mmとした。この試験は、破断点に達するまでヤーンに定速伸張を与えるために100N又は20Nのロードセルを用いた。湿潤引張試験での測定は、各ヤーンの中央3cmから4cmを0.2mlの溶液Aで試料を濡らし、1分間放置した。その後、湿潤試料をツウィック試験機のあご部に設置し、締め付けた。引張強度を試験した理由は、製造されたヤーンは、編み作業、織り作業、刺繍作業中に加えられる引っ張りや力に耐えるのに十分強くなければならないからである。
【0042】
引張強度
結果を図1に示す。ヤーンの全てが、湿潤時よりも乾燥時の方が強かった。そして、HF-2011/108(70:30ゲル化ヤーン)が、最大の比例強度低下を示した。
【0043】
試験したヤーンの中で、湿潤及び乾燥のいずれにおいてもHF-2011/108が最も弱いヤーンであり、リヨセル繊維の含有量が30%であるにも拘わらず、その引張強度は湿潤及び乾燥それぞれにおいて12.4cN/Tex及び3.4cN/Texであった。これは最も弱いヤーンであったが、うまくよこ編みでき(HF-2011/120)、また、布に織ることもできた(HF-2011/169)ので、他の全てのヤーンも布に変換するのに十分な強さを有すると考えられる。
【0044】
両方のアプローチとも、ゲル化ヤーンをうまく作ることができた。
【0045】
実施例3 ゲル形成ヤーンから開放構造を製造
ヤーンは、60%CMC繊維と40%ビスコース繊維から成る2/12s梳毛番手を用いて製造した。これらの繊維は各々が約40 mmまでのステープル長の繊維で、これらの繊維を、繊維段階でブレンドした。ヤーンは、梳毛糸システムを使用して製造され、かつ、2つの12番手ストランドを撚り合わせた。乾燥している場合、ヤーンは柔らかい感じであり、かつ、2つのストランドが互いの周りで包まれているため、撚り合わせは明瞭であった。溶液Aで濡れると、ヤーンはゲル化し、かつ膨潤して、より太いヤーンを形成し、さらに撚り合わせは、より際立つようになった。
【0046】
このヤーンをたて編み/ステッチ接合マシンの上で用いることによって試料を作製し、溶液Aで含水(水和)させた。
【0047】
試料構造は、テンセル縦糸とゲル化横糸でネット状配列に編んだものであるが、この配列が特によく見えるのは、図2に示されるように、その構造が、静かに引き伸ばすことによって開かれた場合である。濡れると、その構造はわずかにゲル化し、かつ湿った感じとなるが、しかしその構造は元の開放形状をよく保持する。
【0048】
実施例4
ゲル形成繊維を備えるヤーンを、実施例3の方法によって製造した。このヤーンを用い、テンセル縦糸とゲル化横糸挿入を用いて布を編んだ。横糸を、編みパターンによって横糸が留められるつまり締め込まれるような方法で横糸を挿入した。この材料は、0-1/1-1/1-2/2-3/3-2/2-1/1-2//の横糸パス記号(weft yarn path notation)を有する。その材料は極めて薄く感じられ、かつ濡れた場合、その材料はゲル化するが、しかし自身の表面上に流体を保持するように見える。
【0049】
実施例5 テキスタイルヤーンから開放構造を製造
Tajima TMEX-C1201刺繍マシンを用いて、布は、リヨセルスレッド(ボビンに巻かれ、上部スレッドとして)からPVAフィルム上に布を製造した。
スレッド=Tony Slade(T.S. Sewing Supplies)社製Giitermann 120 Texリヨセルスレッド
ソフトウェア=Wilcom ES
プログラム名=ハニカム(honeycomb)
ステッチ数=2層当たり12,369
バッキングフィルム=可溶性PVAフィルム
使用回転速度=1200 rpm
【0050】
フィルムが除去されたと見えるまで、流し台の中で何度もかき混ぜながら温かい水道水で洗浄することにより、フィルムを除去した。試料をベンチの上で、風乾した。これらの布を、WO00/01425で説明され、かつ実施例2で詳しく述べられたプロセスによって変換した。
【0051】
実施例6
ロックイン構造(locked in structure)を製造するためのたて編み
完全なロックイン構造を製造するためには、いかなる横糸挿入も無く、縦糸で編まれた布が好ましい。次の例(図5)において、1セットが4つの鎖編みからなる布を形成したが、ヤーンは、その後、隣接セットの鎖編みに対して下に重なり、最初の編み針に戻って下に重なる前に、この編み針上で鎖編みを形成し続ける。例えば、この布の最も単純なタイプに対する典型的な糸パス表記は、 0-2/2-1/2-1/2-0/0-1/0-1//であろう。1セットの鎖編み内で2セットの縦糸端部を用いることによって、各ステッチに対して使用されるヤーンを交互にすることは、容易にほどくことができる構造を妨げる。設計内でより多くの編み針を使用することによって、または反対方向で下に重なるために、追加の縦糸巻きを使用することによって、この構造は複雑になり得るであろう。製造した布はロックイン構造であるが、その理由は、編まれたステッチの各々が、その構造がほどけるのを妨げる別の糸端部の編まれたステッチによって固定されており、かつ、鎖編みと垂直となるスレッドも、図6に示されているように、その構造内でループを形成しており、それによって、これらのスレッドが締め込まれることが保証されるからである。
【0052】
実施例7 織り
前述のゲル化ヤーンHF-2011/108を用いて、ノースロップ(Northrop)織機で、開放平織構造を製造して、布HF-2011/169を製造した。また、テンセルスパンヤーンHF-2011/090を使用し、かつ布の段階で変換することによって、布HF-2011/136を製造した。その開放平織構造では、7.8端/cmの縦糸密度および5.5ピック/cmの横糸密度が使用されている。
【0053】
図7はHF-2011/136を示すが、その試料は、前述の実験室変換プロセスを用いて、布段階で変換された。これによって、乾燥した形態において、薄くてしかも柔軟な開放構造が製造された。濡れた場合、この構造はそれほど安定ではなく、丸まるが、しかし、図8に示されるように、ゲル化された構造を形成する。
【0054】
実施例8
ロックイン構造の織布試料を作るために、からみ織りが使用される。からみ織りは織りの一形態であり、そこでは、縦糸のスレッドが、ピック間で互いに交差させられる。縦糸が互いに交差するので、それらは横糸を適所で保持することができ、そのため、その構造内では、移動がほとんど起こらない。試料を切断した場合、理論上、ヤーンは、除去することが不可能でなくてはならない。なぜならば、自由端部が、その構造の残りの部分内の複数の縦糸によって適所で保持されるからである。からみ織りは、布内のヤーンのすべて、またはいくつかに適用することができる。
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7
図8