(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
中心部に、回転中心から内縁までの距離が前記回転中心回りの角度位置において異なる距離の孔を有する動力伝達部材と、前記孔に嵌め合わされた、前記回転中心から外縁までの距離が前記回転中心回りの角度位置において異なる距離の挿入部を有する軸真とを備え、
前記孔と前記挿入部とは、前記回転中心回りの周方向の少なくとも2つの部分において互いに接触し、前記接触している少なくとも2つの部分に対する、前記回転中心回りの特定の回転方向に沿ったそれぞれ前方の前記孔の部分は、前記接触している少なくとも2つの部分よりも前記回転中心からの距離が大きく形成され、
前記挿入部は、前記回転中心から最も突出した外縁まで距離raで形成された歯車状の部分であり、
前記孔は、前記回転中心から前記内縁まで異なる距離Raと距離Rbとを有し、
前記回転中心回りの、前記歯車状の歯の歯底の中心と最も突出した外縁との間の角度をθとしたとき、前記距離ra、前記孔の距離Ra、前記Rb及び前記角度θが下記不等式を満たす時計の動力伝達体。
Rb<ra<Rb/(cosθ)≦Ra
回転中心から外縁までの距離が前記回転中心回りの角度位置において異なる距離の挿入部を有する軸真と、前記軸真に対する前記回転中心回りの特定の角度位置において前記挿入部より大きく、かつ前記特定の角度位置以外の角度位置において前記挿入部の最大の距離よりも小さい少なくとも2つの部分が形成された輪郭形状の孔を有する動力伝達部材とを結合するに際して、
前記特定の角度位置において、前記孔に前記挿入部を挿入し、
前記動力伝達部材及び前記軸真のうち少なくとも一方を他方に対して前記回転中心回りに回転させて、前記少なくとも2つの部分を前記孔に接触させ、前記動力伝達部材と前記軸真とを結合する時計の動力伝達体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る時計の動力伝達体及びその製造方法の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0013】
<伝達車の構成>
図1は、本発明の実施形態である時計の伝達車1を示す斜視図、
図2は、
図1の伝達車1における歯車11単体を示す平面図であり、
図3は、
図1の伝達車1におけるかな12単体を示す斜視図である。なお、
図3に示したかな12は、
図1に示したものを拡大している。
【0014】
伝達車1(動力伝達体の一例)は、例えば機械式時計における輪列機構の2番車、3番車、4番車、ガンギ車等の、動力を順次伝達する歯車装置であり、
図1に示すように、相対的に大径の歯車11(動力伝達部材の一例)と小径のかな12(軸真の一例)とが一体に形成されているものである。
【0015】
ここで、歯車11は例えばシリコン、ガラス、セラミックス等の脆性材料で形成されている。なお、歯車は脆性材料でなくてもよい。歯車11は、
図2に示すように中心部に孔11aを有している。孔11aは例えば正八角形に形成されていて、孔11aは、回転中心Cから内縁までの距離(半径)が、回転中心回りの角度位置ごとに異なる距離となっている。
【0016】
かな12は、例えば真鍮等の金属で形成されている。かな12は、
図3に示すように、軸となるほぞ12aと、歯車部12bと、挿入部12cとを備えている。ほぞ12aは上下端が、地板や輪列受けに設けられた受け石により支持され、かな12はほぞ12aの軸心を回転中心Cとして回転自在となる。歯車部12bは、回転中心Cを中心として形成された例えば8つの歯を有する歯車であり、他の伝達車の歯車と噛み合って動力を伝達する。
【0017】
挿入部12cは、歯車部12bのうち図示上部の歯の一部分(
図3において二点鎖線で示す)を削り落として形成されている。したがって、挿入部12cは、回転中心C回りの角度位置において、回転中心Cからの距離が長い歯先12fと回転中心Cからの距離が短い歯底12dとを有する歯車状の輪郭形状を有している。
【0018】
図4A及び
図4Bは、歯車11の孔11aと挿入部12cとの関係を示す平面図である。挿入部12cは、回転中心Cから最も突出した外縁である歯先12fまで距離(半径)raで形成された歯車状の部分であり、前述したように、歯車部12bの歯の部分のうち回転中心Cから半径raの外側部分を削り落として形成されている。したがって、挿入部12cの歯車状の部分は、歯車部12bのうち回転中心Cから半径raまでの部分と同じ断面輪郭形状を有している。
【0019】
なお、
図4A及び
図4Bに示すように、挿入部12cは、歯車状の歯底12dの部分と歯先12fの部分とでは、回転中心Cから外縁までの距離(半径)が、それぞれ距離rbと距離raというように異なっている。ただし、距離ra>距離rbである。
【0020】
歯車11の孔11aは、
図2に示すように歯車11の回転中心Cを中心とした正八角形に形成されている。この孔11aの形状は、挿入部12cの歯車状の歯12eの数に一致する数の頂点11cを有し、回転中心Cから半径Rbの円が各辺11bに内接する正多角形として形成されている。本実施形態においては、挿入部12cの歯車状の歯12eの数が8つであるため、孔11aは正八角形に形成されている。回転中心Cから正八角形の頂点11cまでの距離(半径)はRaである。
【0021】
なお、
図4A及び
図4Bに示すように、孔11aは、回転中心Cを中心とした正八角形であるため。頂点11cと辺11bとでは、回転中心Cからの距離(半径)が、距離Ra、距離Rbというように異なっている。ただし、距離Ra>距離Rbである。
【0022】
ここで、
図4Aに示すように、本実施形態の伝達車1は、回転中心C回りの、挿入部12cの歯車状の部分の歯底12dの中心と最も突出した歯12eの歯先12fとが最も近接した部分との間の角度をθとしたとき、挿入部12cの距離ra、孔11aの距離Ra、距離Rb及び角度θは下記不等式を満たす。
Rb<ra<Rb/(cosθ)≦Ra
【0023】
つまり、上記不等式の右側の条件(ra<Rb/(cosθ))は、
図4(A)に示すように、挿入部12cの歯先12fが、正八角形の孔11aの各辺11bの中心部(半径Rbの内接円が接する部分)から角度θの角度位置に配置されているときは、その角度θの角度位置での回転中心Cから各辺11bまでの長さ(距離Rb/(cosθ))よりも歯先12fまでの長さ(距離ra)の方が短いことを示している。
【0024】
当然ながら、回転中心Cから正八角形の頂点11cまでの距離を距離Raとした場合には、回転中心Cから各辺11bまでの長さ(距離Rb/(cosθ))は、距離Raより小さくなる。したがって、この配置のとき、挿入部12cは回転中心C回りの全周に亘って孔11aとの間に隙間が形成され、挿入部12cと孔11aとは全周に亘って非接触となる。
【0025】
上記の通り、孔11aの形状が正八角形の場合には、回転中心Cから頂点11cまでの距離Raは、角度θの角度位置における回転中心Cから各辺11bまでの長さ(Rb/(cosθ))より明らかに大きくなるが、挿入部12cと孔11aとが、全周に亘って非接触となることが重要であるので、孔11aの形状によっては、回転中心Cから頂点11cまでの距離Raと、角度θの角度位置における回転中心Cから各辺11bまでの長さ(Rb/(cosθ))とが等しくても構わない。
【0026】
一方、上記不等式の左側の条件は、回転中心Cから挿入部12cの歯先12fまでの距離raが正八角形の孔11aの内接円の半径Rbよりも大きいことを示している。
図4Aに示した全周に亘る非接触の状態から歯車11を矢印方向(時計回り方向)に回転させるか、又はかな12を逆方向(反時計回り方向)に回転させることで、
図4Bに示すように、挿入部12cの8つの歯先12fは、それぞれ対応する孔11aの辺11bの中央部(半径Rbの内接円が接する部分)よりも手前の部分で辺11bに接する。
【0027】
これにより、歯車11とかな12とを組み合わせて伝達車1を製造する工程では、まず、挿入部12cと孔11aとが全周に亘って非接触となる
図4Aに示した配置(特定の角度位置)で、歯車11の孔11aにかな12の挿入部12cを挿入する。
【0028】
その後、歯車11を矢印方向(時計回り方向)に回転して、又はかな12を矢印方向とは反対方向(反時計回り方向)に回転して、
図4Bに示すように、歯車11とかな12とが回転中心C回りの周方向の8つの部分で接触させる。これにより、本実施形態の伝達車1は、歯車11とかな12とが8つの部分で接触による摩擦力で結合した完成状態となる。
【0029】
本実施形態の完成状態の伝達車1は、
図4Bに示すように、歯車11とかな12とが接触した部分にさらに接着剤10が塗布されて、両者の結合が強化されている。接着剤は、常温で硬化するものが好ましい。常温で硬化する接着剤としては、例えば、常温硬化型エポキシ接着剤、紫外線硬化型接着剤などが好適である。接着剤10の塗布は必須ではない。また、接着剤の塗布以外の方法で、両者の結合を強化してもよい。
【0030】
なお、
図4Bに示した完成状態の伝達車1は、孔11aと挿入部12cとが、回転中心C回りの周方向の8つの部分において互いに接触し、接触している8つの部分から回転中心Cまでの距離(距離Rb)に比べ、回転中心C回りの時計回り方向(特定の回転方向)に沿ったそれぞれ前方の孔11aの部分(例えば、頂点11c)から回転中心Cまでの距離(例えば、距離Ra)が大きく形成されている。
【0031】
<伝達車の作用>
以上のように構成された本実施形態の伝達車1によれば、孔11aと挿入部12cとが接触している8つの部分に対する、回転中心C回りの時計回り方向に沿ったそれぞれ前方の孔11aの部分は、接触している8つの部分よりも回転中心Cからの距離が大きいため、かな12に対して歯車11を反時計回り方向に回転させた状態(
図4Aの配置)では、孔11aと挿入部12cとが全周に亘って非接触となる。
【0032】
したがって、孔11aと挿入部12cとが全周に亘って非接触の状態で、歯車11の孔11aにかな12の挿入部12cをかな12の軸心方向に沿って挿入することができる。
このため、脆性材料で形成された歯車11の孔11aの周囲には、圧入により荷重が作用することがなく、孔11aの周囲が圧入の荷重で破損することがない。
【0033】
そして、孔11aに挿入部12cが挿入された状態で、歯車11及びかな12のうち少なくとも一方を、回転中心C回りに回転させることで、孔11aと挿入部12cとが8つの部分で接触し、この接触による摩擦力で歯車11とかな12とが結合される。このとき、歯車11には、かな12の挿入部12cとの摩擦力が作用するが、この摩擦力は、圧入時の荷重とは異なり、歯車11の厚さ方向に作用するものではない。したがって、歯車11は、この摩擦力によっては破損することがない。
【0034】
また、本実施形態の伝達車1は、歯車11とかな12とで構成されていて、歯車11とかな12とを結合させるために他の部品が用いられていないため、製造コストの増大を招くこともない。
【0035】
本実施形態の伝達車1によれば、回転中心C回りの、挿入部12cの歯車状の部分の歯底12dの中心と最も突出した歯12eの歯先12fとが最も近接した部分との間の角度をθとしたとき、挿入部12cの距離ra、孔11aの距離Ra、距離Rb及び角度θは上記不等式(Rb<ra<Rb/(cosθ)≦Ra)を満たすため、挿入部12cと孔11aとが全周に亘って非接触の状態と、非接触の状態から回転中心C回りに回転したときに8つの部分で接触した状態とを形成することができる。
【0036】
本実施形態の伝達車1の製造方法によれば、
図4Aに示した配置、すなわち、回転中心C回りの全周に亘って、歯車11の孔11aがかな12の挿入部12cよりも大きくなる角度位置での配置(非接触の状態)において、歯車11の孔11aにかな12の挿入部12cを挿入し、その後、歯車11及びかな12のうち少なくとも一方を他方に対して回転中心C回りに回転させるだけの簡単な工程で、歯車11とかな12とを破損させることなく結合させることができる。また、歯車11とかな12との他に部品を用いることがないため、製造コストの増大を招くこともない。
【0037】
なお、歯車11の孔11aとかな12の挿入部12cとが全周に亘って非接触の状態(
図4A)から、孔11aと挿入部12cとが接触した状態(
図4B)への回転方向としては、他の歯車から駆動されるときに荷重が作用する向きに対応した回転方向であることが好ましい。伝達車1に作用する、他の歯車から駆動されるときの荷重が、歯車11とかな12との接触を強める方向に向くため、歯車11とかな12との結合を強固にすることができる。
【0038】
本実施形態の伝達車1は、か
な12の歯車部12bの歯の一部を削り落として、挿入部12cを形成しているため、歯車部12bとは別の輪郭形状の挿入部を別途形成したものよりも、製造コストを低減することができる。
【0039】
ただし、本発明の動力伝達体は、挿入部が、回転中心から外縁までの距離が回転中心回りの角度位置において異なる距離に形成されたものであればよく、かなの歯車を削り落としたものに限定されない。したがって、本発明の動力伝達体は、かなの歯車とは別に、回転中心からの距離が回転中心回りの角度位置において異なる距離の挿入部を形成したものであってもよい。
【0040】
<変形例>
本実施形態の伝達車1は、かな12形成された挿入部12cの歯12eの数が8つであり、歯車11に形成された孔11aが正八角形であるが、本発明に係る動力伝達体における挿入部の歯車の歯の数は8つに限定されるものではなく、また、孔の形状も正八角形に限定されるものではない。
【0041】
すなわち、本実施形態の伝達車1は、挿入部12cの歯12eを少なくとも2つ形成して、孔11aと挿入部12cとを少なくとも2つの部分で接触させた状態とすればよい。
【0042】
図5Aは、挿入部12cと孔11aとを2つの部分で接触させて歯車11とかな12とを結合させた伝達車1を示す図であり、矩形状の輪郭形状の孔11aと平行四辺形状の輪郭形状の挿入部12cとが全周に亘って非接触の状態を示す。
図5Bは、挿入部12cと孔11aとを2つの部分で接触させて歯車11とかな12とを結合させた伝達車1を示す図であり、孔11aと挿入部12cとが2つの部分で接触した状態を示す。
【0043】
図5Aに図示するように、先の実施形態と同様、平行四辺形状の挿入部12cは、歯底12dに相当する部分12d′と歯先12fに相当する部分12f′とでは、回転中心Cからの距離(半径)が、それぞれ距離rbと距離raと異なっている。ただし、距離ra>距離rbである。
【0044】
また、孔11aは、回転中心Cを中心とした矩形状であるため。頂点11cと辺11bとでは、回転中心Cからの距離(半径)が、それぞれ距離Ra、距離Rbというように異なっている。ただし、距離Ra>距離Rbである。
【0045】
そして、歯車11を
図5Aの矢印方向に回転させた完成状態(
図5B参照)の伝達車1は、孔11aと挿入部12cとが、回転中心C回りの周方向の2つの部分において互いに接触し、接触している2つの部分から回転中心Cまでの距離(距離Rb)に比べ、回転中心C回りの時計回り方向(特定の回転方向)に沿ったそれぞれ前方の孔11aの部分(例えば、頂点11c)から回転中心Cまでの距離(例えば、距離Ra)が大きく形成されている。
【0046】
このように、
図5A及び
図5Bに示すように構成された変形例の伝達車1によっても、
図1等に示した伝達車1と同様の作用、効果を得ることができる。ただし、歯車11とかな12との結合状態で、回転中心Cの位置を安定した状態に保つ観点からは、挿入部12cの歯12eを3つ以上形成して、挿入部12cと孔11aとを3つ以上の部分で接触させた状態とするのが好ましい。
【0047】
また、本実施形態の伝達車1は、挿入部12cの歯12eの数と孔11aの輪郭形状である正八角形の頂点11cの数とを一致させているが、本発明の動力伝達体は、これらが一致したものに限定されるものではない。したがって、本実施形態の伝達車1において、挿入部12cの歯12eの数と孔11aの輪郭形状である多角形の頂点の数とを異なる数としてもよい。
【0048】
なお、異なる数とする場合には、孔11aの輪郭形状である正多角形の頂点11cの数を、挿入部12cの歯12eの数の、1を除く約数の数や倍数の数とするのが好ましい。
【0049】
図6Aは、挿入部12cの歯12eの数が8つであり、孔11aの輪郭形状が、歯の数(8つ)の約数の1つである4つの頂点11cを有する正四角形の孔11aである実施形態の伝達車1を示す図であり、孔11aと挿入部12cとが全周に亘って非接触の状態を示す。
【0050】
図6Bは、挿入部12cの歯12eの数が8つであり、孔11aの輪郭形状が、歯の数(8つ)の約数の1つである4つの頂点11cを有する正四角形の孔11aである実施形態の伝達車1を示す図であり、孔11aと挿入部12cとが4つの部分で辺11b(回転中心Cから距離Rb)と歯先12f(回転中心Cから距離ra)とが接触した状態を示す。
【0051】
図6A及び
図6Bに示すように構成された実施形態の伝達車1、すなわち、孔11aと挿入部12cとが回転中心C回りの周方向の4つの部分において互いに接触し、接触している4つの部分に対する、回転中心C回りの特定の回転方向に沿ったそれぞれ前方の孔11aの部分の回転中心Cからの距離Raは、接触している4つの部分からの距離raよりも大きく形成されている伝達車1によっても、
図1等に示した伝達車1と同様の作用、効果を得ることができる。
【0052】
また、例えば、本実施形態の変形例として、挿入部12cの歯12eの数を12個とした場合、孔11aの輪郭形状を、歯の数(12個)の約数の1つである12個の頂点を有する正十二角形の他、6個の頂点を有する正六角形や、4個の頂点を有する正四角形や、3個の頂点を有する正三角形とすることもできる。このように孔11aの頂点の数が歯の数の約数で構成された変形例の伝達車によっても各実施形態の伝達車1と同様の効果を得ることができる。
【0053】
図7Aは、挿入部12cの歯12eの数が4つであり、孔11aの輪郭形状が、歯の数(4つ)の倍数の1つである8個の頂点11cを有する正八角形の孔11aである実施形態の伝達車1を示す図であり、孔11aと挿入部12cとが全周に亘って非接触の状態を示す。
図7Bは、挿入部12cの歯12eの数が4つであり、孔11aの輪郭形状が、歯の数(4つ)の倍数の1つである8個の頂点11cを有する正八角形の孔11aである実施形態の伝達車1を示す図であり、孔11aと挿入部12cとが4つの部分で辺11b(回転中心Cから距離Rb)と歯先12f(回転中心Cから距離ra)とが接触した状態を示す。
【0054】
図7A及び
図7Bに示すように構成された実施形態の伝達車1、すなわち、孔11aと挿入部12cとが回転中心C回りの周方向の4つの部分において互いに接触し、接触している4つの部分に対する、回転中心C回りの特定の回転方向に沿ったそれぞれ前方の孔11aの部分の回転中心Cからの距離Raは、接触している4つの部分からの距離raよりも大きく形成されている伝達車1によっても、
図1等に示した伝達車1と同様の作用、効果を得ることができる。
【0055】
また、例えば、本実施形態の変形例として、挿入部12cの歯12eの数を6個とした場合、孔11aの輪郭形状を、歯の数(6個)の倍数の1つである12個の頂点を有する正十二角形の他、18個の頂点を有する正十八角形や、24個の頂点を有する正二十四角形とすることもできる。このように孔11aの頂点の数が歯の数の倍数で構成された変形例の伝達車によっても各実施形態の伝達車1と同様の効果を得ることができる。
【0056】
図8は、
図4に示した伝達車1における挿入部12cの歯12eの角を曲面とした変形例を示す
図4相当の平面図である。上述した実施形態の伝達車1は、
図8に示すように、挿入部12cの歯12eの歯先12fの角部を、曲面(R形状)で形成してもよく、このように形成された伝達車1も、上述した実施形態の伝達車1と同様の作用効果を発揮する、しかも、歯車11とかな12との相対的な回転で両者を固定する際に、両者は曲面(R形状)で接触し始めるため、滑らかに荷重を作用させることができる。
【0057】
図9Aは、挿入部12cの歯12eの数が8つであり、正八角形の各頂点11c及びその近傍部分が切り取られた輪郭形状の孔11aを有する実施形態の伝達車1を示す図であり、孔11aと挿入部12cとが全周に亘って非接触の状態を示す。
図9Bは、挿入部12cの歯12eの数が8つであり、正八角形の各頂点11c及びその近傍部分が切り取られた輪郭形状の孔11aを有する実施形態の伝達車1を示す図であり、孔11aと挿入部12cとが8つの部分で接触した状態を示す。
【0058】
本発明に係る時計の動力伝達体における、歯車に形成された正多角形の輪郭形状の孔としては、
図4A及び
図4Bに示した真正の正多角形(
図4A及び
図4Bの例では正八角形)の輪郭形状の他、
図9A及び
図9Bに示すように、正多角形の一部(かなの挿入部との接触に関与しない部分)を切り欠いた輪郭形状も含む。
【0059】
図9A及び
図9Bにおいても、孔11aと挿入部12cとが、回転中心C回りの周方向の8つの部分において互いに接触し、接触している8つの部分に対する、回転中心C回りの特定の回転方向に沿ったそれぞれ前方の孔11aの部分の回転中心Cからの距離Raは、接触している8つの部分からの距離raよりも大きく形成されている。
【0060】
図9A及び
図9Bに示した伝達車1は、歯車11が、正八角形(一点鎖線で示す)の各頂点11c及びその近傍部分が曲線で切り取られた輪郭形状の孔11aを備えているものである。この結果、孔11aは、正八角形の辺11bの一部と、円弧状の曲線の辺11dとが組み合わされて形成された多角形の輪郭形状を有し、真正の正八角形の輪郭形状ではない。
【0061】
しかし、切り取られた各頂点11c及びその近傍部分は、切り取られていない状態においても、
図9Bに示すように、かな12の挿入部12cとの接触に関与しない部分である。つまり、この伝達車1における歯車11の孔11aのうち、かな12の挿入部12cの歯先12fとの接触に関与する部分は、正八角形の辺11bの一部である。
【0062】
このように、孔11aの輪郭形状が
図7に示すように全体としては正八角形でなくても、かな12の挿入部12cの歯先12fとの接触に関与する孔11aの辺11bが正八角形の辺を構成するため、このような孔11aは、実質的に正八角形の輪郭形状を有するものとして把握することができる。
【0063】
したがって、本発明の動力伝達体において、動力伝達部材の孔の形状として正多角形というときは、真正の正多角形だけでなく、軸真の挿入部との接触に実質的に関与する部分が正多角形の一部に対応している場合も含む。
【0064】
なお、
図9A及び
図9Bに示した伝達車1は、正八角形の頂点11cや辺11bの一部が切り取られて、真正の正八角形の輪郭よりも曲線の辺11dまで孔11aが外側に広がっている。したがって、
図9Aに示した非接触状態での孔11aと挿入部12cとの隙間が大きくなる。これにより、歯車11の孔11aにかな12の挿入部12cを非接触で挿入するときの操作を、真正の正多角形の孔11a(
図4参照)の場合よりも容易にすることができる。
【0065】
図10は、かな12の挿入部12cの各歯12eに、歯先12fよりも半径方向の外方に突出した庇12mが形成された例を示す斜視図、
図11Aは、歯車11の孔11aに
図10の挿入部12cの歯先12fの部分が挿入された状態を示す平面図であり、歯先12fが孔11aの辺11bに接触していない状態を示す。
図11Bは、歯車11の孔11aに
図10の挿入部12cの歯先12fの部分が挿入された状態を示す平面図であり、かな12が反時計回り(矢印方向)に回転して歯先12fが辺11bに接触した状態を示す。
図12は、
図11における回転中心Cに沿った断面を示す図である。
【0066】
かな12の挿入部12cは、
図10に示すように、歯12eの歯先12fよりも半径方向の外方に突出した庇12mが形成されていてもよい。この庇12mは、
図11Aに示すように、回転中心C回りの特定の回転角度位置では、歯車11の孔11aを軸方向に通過できる大きさに形成されている。
【0067】
一方、
図11Bに示すように、挿入部12cのうち歯先12fの厚さの部分が孔11aに挿入された状態でかな12が回転中心C回りの反時計回りで回転されると、歯先12fが孔11aの辺に接触して、挿入部12cは歯車11の孔11aに固定される。しかも、
図12に示すように、歯12eの歯先12fに軸方向に隣接して形成された庇12mは、歯車の孔11aよりも半径方向の外方に突出するため、軸方向への抜け止めとなり、かな12と歯車11とが軸方向に外れるのを確実に防止することができる。
【0068】
本発明に係る時計の動力伝達体は、要するに、動力伝達部材に形成された孔と軸真に形成された挿入部とが、特定の角度位置の配置のときは全周に亘って非接触となり、その非接触の状態から回転中心回りに回転した状態で、孔と挿入部とが2か所以上で接触して動力伝達部材と軸真とが接触による摩擦力で結合されていればよい。したがって、本発明は、このような構成を実現するものであれば、例示した実施形態に限定されるものではない。
【0069】
上記実施形態、変形例においては、輪列機構の2番車、3番車、4番車、ガンギ車等の、動力を順次伝達する伝達車1を、本発明に係る時計の動力伝達体の一例として適用したものであるが、本発明に係る時計の動力伝達体としては、これらの伝達車の他に、時計のアンクル、テンプ、角穴車、ヒゲゼンマイなどの、かな以外の軸真と歯車以外の動力伝達部材とが組み合わされた動力伝達体であってもよい。
【0070】
図13は、動力伝達体を構成する軸真の一例として、上述した歯車11の孔11aに組み合わされる軸真112を示す側面図である。この軸真112は、ほぞ112aを除いた挿入部112cに、上述した各実施形態や変形例におけるかな12の歯12eに相当する歯112eが形成されている。このように、かな12がなく、軸真112そのものに歯112eが形成されているものであっても、各実施形態や変形例と同様に、組み合わされる歯車11の孔11aに固定することができる。
【0071】
なお、歯112eは、
図13の二点鎖線で示した円板状で回転する歯切り用の工具200で形成することができる。具体的には、歯切り用の工具200を、歯112eが形成される前の円柱状の軸真112に向かって図示矢印方向に移動し、工具200を軸真112の周面に押し当てて軸真112を切削し、軸真112の周面に複数の溝112nを形成することで、これらの溝112nの間に残った部分を歯112eとして用いることができる。
【0072】
本出願は、2015年3月11日に日本国特許庁に出願された特願2015−048629に基づいて優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。