【実施例】
【0070】
以下に,樹脂成型品に透明性を付与すると共に,金型の離型性を向上させるために必要なディンプルの形成条件(径と深さ)を導き出すために行った試験の内容について説明する。
【0071】
(1)試験目的
樹脂成型品に透明性を付与すると共に,金型の離型性を向上させることのできるディンプルの形成条件(径と深さ)を求める。
【0072】
(2)試験方法
(2-1) 概要
母材の材質が異なる複数種類の金型に対し,使用する噴射粒体の材質及び粒径と,噴射方法(噴射装置,噴射圧力等)の組み合わせを変化させてディンプルを形成し,形成されたディンプルの径と深さを測定した。
【0073】
ディンプル形成後の金型をそれぞれ使用して透明樹脂の成型を行い,研磨により表面を平滑に仕上げた金型(以下,「研磨品」という。)で成型した透明樹脂成型品の透明度を目視により比較し,研磨品に対し透明性が劣るものを「×」,研磨品と同等の透明性を示したものを「○」と,それぞれ評価した。
【0074】
また,離型性の比較を行い,研磨品と同等以下の離型性のものを「×」,研磨品を超える離型性を示したものを「○」と,それぞれ評価した。
【0075】
上記の試験結果から,得られた樹脂成型品に透明性を付与することができるディンプルの径と深さの範囲を求めた。
【0076】
(2-2) 金型の種類と処理条件
処理対象とした金型の材質と,各金型に対して行った表面処理の処理条件を下記の表1及び表2に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
比較対象として各金型の研磨品を用意した。なお,研磨後の表面粗さは,「STAVAX」(キャビティ)及びNAK80でRa0.1μm以下,S50C(コアピン),S55C(ゴム用金型)においてRa0.2μm以下,A7075(プラスチック用金型)においてRa0.2μm以下である。
【0080】
(2-3) ディンプルの径と深さの測定方法
ディンプルの径と深さは,形状解析レーザー顕微鏡(キーエンス社製「VK−X250」)を使用して測定した。
【0081】
金型の表面を直接測定可能な場合には直接,直接測定できない場合には,アセチルセルロースフィルムに酢酸メチルを滴下して金型の表面に馴染ませた後,乾燥後剥離して,アセチルセルロースフィルムに反転転写させたディンプルに基づいて測定した。
【0082】
測定は,形状解析レーザー顕微鏡で撮影した表面画像のデータ(但し,アセチルセルロースフィルムを使用した測定では撮影した画像を反転処理した画像データ)を「マルチファイル解析アプリケーション(キーエンス社製 VK-H1XM)」を使用して解析することにより行った。
【0083】
ここで,「マルチファイル解析アプリケーション」とは,レーザー顕微鏡で測定したデータを用いて、表面粗さ、線粗さ、高さや幅、円相当径や深さなどの計測・解析や基準面設定、高さ反転処理などの画像処理を行うことのできるアプリケーションである。
【0084】
測定は,先ず「画像処理」機能を使用して基準面設定を行い(但し,表面形状が曲面の場合には面形状補正を用いて曲面を平面に補正した後に基準面設定を行う),次いで,アプリケーションの「体積・面積計測」の機能から計測モードを凹部に設定して,設定された「基準面」に対する凹部を計測させ,凹部の計測結果から「平均深さ」,「円相当径」の結果の平均値をディンプルの深さ,及び径とした。
なお,前述の基準面は,高さデータから最小二乗法を用いて算出した。
【0085】
また,前述の「円相当径」又は「相当径」は,凹部(ディンプル)として測定された投影面積を,円形の投影面積に換算して測定したときの前記円形の径として測定した。
なお,前述の「基準面」とは,高さデータの中で、計測のゼロ点(基準)とする平面を指し,深さや高さなど主に垂直方向の計測に使用される。
【0086】
(3)測定結果
上記各試料におけるディンプル径とディンプル深さの測定結果,及び
透明性と離型性の評価結果を表3及び表4に,各試料におけるディンプル径と金型の母材硬度の
分散図を
図3に,ディンプル深さと金型の母材硬度の
分散図を
図4にそれぞれ示す。
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
(4)考察
図3及び
図4に示す
分散図において,プロットに添えた数字はそれぞれ試料番号を示し,プロット中,「◎」は,透明性と離型性向上の双方共得られたもの,「○」は,透明性は得られたが離型性の向上は得られなかったもの,「□」は,離型性は向上したが透明性が得られなかったもの,「●」は,透明性,離型性の向上のいずれ共に得られなかったものをそれぞれ示す。
【0090】
図3及び
図4に示した
分散図より明らかなように,ディンプルの径及び深さのいずれ共に,透明性を付与することができた試料は
分散図の下側に,透明性を付与できなかった試料は
分散図の上側に集中していることが判り,形成するディンプルの径及び深さを小さくすることにより,透明性が得られることが確認された。
【0091】
ここで,
図3及び
図4の
分散図中に「境界(上限)」と表示した曲線は,透明性が得られた試料群の上限に当てはめた近似曲線であることから,この曲線は,金型の母材硬度の変化に対し,透明性の向上が得られるディンプルの相当径及び深さの上限値がどのように変化するかを近似的に表している。
【0092】
従って,ディンプル相当径(W)と金型の母材硬度(H)の分散図である
図3中に記載した,「境界(上限)」の曲線を表す数式〔W=1.5+8.9e
-H/630〕によって求められる相当径(W)以下の径でディンプルを形成することにより,より好適には,更に,ディンプルの深さ(D)と金型の母材硬度(H)の分散図である
図4中に記載した,「境界(上限)」の曲線を表す数式〔D=0.05+0.4e
-H/320〕によって求められる深さ(
D)以下の深さでディンプルを形成することにより,このようなディンプルが形成された金型を使用することで,得られた樹脂成型品に透明性を付与することが可能である。
【0093】
一方,鏡面に研磨された金型によっても透明樹脂成型品を製造することができることから,透明性という観点のみに着目すると,透明性を付与するためのディンプルの径と深さに下限値は存在しない。
【0094】
しかし,ディンプルの形成が,離型性の向上に貢献するものであることは前述した通りであるところ,試料21,試料13,試料17のように,形成するディンプルの径及び深さが小さなものでは,樹脂成型品に対する透明性の付与は行い得るものの,離型性の向上が確認できなくなった。
【0095】
このような現象は,形成するディンプルが小さくなるに従い,ディンプル形成後の金型の表面状態は,鏡面に近付くためであると考えられる。
【0096】
ここで,
図3及び
図4の
分散図中に「境界(下限)」として表示した曲線は,離型性の向上が確認された試料群と,離型性の向上が確認できなかった試料群との境界に引いた曲線であるから,この曲線は,金型の母材硬度の変化に対し,離型性の向上が得られるディンプルの径及び深さの下限値がどのように変化するかを近似的に表している。
【0097】
従って,
相当径(W)と金型の母材硬度(H)の分散図である
図3中に記載した,下限値の近似曲線を表す数式〔W ≧ 1+3.3e
-H/230〕によって求められる径(W)以上の径でディンプルを形成することで,より好適には,更に,ディンプルの深さ(D)と金型の母材硬度(H)の分散図である
図4中に記載した,下限値の近似曲線を表す数式〔D≧ 0.01+0.2e
-H/230〕によって求められる深さ(
D)以上の深さでディンプルを形成することにより,このようなディンプルが形成された金型では,離型性の向上を得ることが可能となる。
【0098】
従って,ディンプル相当径(W)を,次式
1+3.3e
-H/230 ≦ W ≦ 1.5+8.9e
(-H/630)・・・(式1)
で規定される範囲内のものとし,
より好ましくは,更に,ディンプルの深さ(D)を,次式
0.01+0.2e
-H/230 ≦ D ≦ 0.05+0.4e
(-H/320) ・・・(式2)
で規定される範囲内のものとすることで,鏡面研磨された金型では低下することがある離型性を向上させながら,更に,透明性と同時に得ることが可能となる。