【実施例】
【0034】
以下には、有機無機複合体を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0035】
[実施例1]
カルボキシエチルシラントリオールナトリウム塩25%水溶液8gに、硝酸1gを添加したあと、ウォーターバス中にて60℃、6時間加熱処理を施すことで加水分解及び重合
を進行させた。その後、得られた前駆体ゾルをガラス基板上に塗布し、風速8m/s、25℃にて送風しながら1時間乾燥させることで乾燥ゲル膜を作製した。乾燥後のゲル膜を150℃で2時間焼成し、焼成体を作製した。ガラス基板上の焼成体をスパチュラによりはがし取り、粉砕し、粉末状にしたあと、AgBF
4水溶液(0.5mol/L)に24
時間浸漬し、洗浄、乾燥を行った。得られた有機無機複合体を実施例1とした。実施例1では、Siに−C
2H
4−の共有結合を介して陽イオン交換基であるカルボキシル基が結合した構造を含むSiO
2が100%の割合である。
【0036】
[実施例2]
実施例1と同様に作製した前駆体ゾルを、ガラス基板上に塗布し、風速4m/s、10℃にて送風しながら1時間乾燥させることで乾燥ゲル膜を作製した。乾燥後のゲル膜を150℃で2時間焼成し、焼成体を作製した。ガラス基板上の焼成体をスパチュラによりはがし取り、粉砕し、粉末状にしたあと、AgBF
4水溶液(0.5mol/L)に24時
間浸漬し、洗浄、乾燥を行った。得られた有機無機複合体を実施例2とした。
【0037】
[実施例3]
ウレイドプロピルトリエトキシシラン50%メタノール溶液8gに、水3g、硝酸0.3gを添加したあと、3時間攪拌することで加水分解及び重合を進行させた。その後、得られた前駆体ゾルをガラス基板上に塗布し、風速8m/s、25℃にて送風しながら1時間乾燥させることで乾燥ゲル膜を作製した。乾燥後のゲル膜を100℃で2時間焼成し、焼成体を作製した。ガラス基板上の焼成体をスパチュラによりはがし取り、粉砕し、粉末状にしたあと、AgBF
4水溶液(0.5mol/L)に24時間浸漬し、洗浄、乾燥を行った。得られた有機無機複合体を実施例3とした。実施例3では、Siに−C
3H
6−の共有結合を介して固定化官能基であるウレイド基が結合した構造を有し、ウレイド基を結合したSiO
2が100%の割合である。
【0038】
[実施例4]
アセトキシプロピルトリメトキシシラン8gに、メタノール4g、水3g、硝酸0.7gを添加したあと、3時間攪拌することで加水分解及び重合を進行させた。その後、得られた前駆体ゾルをガラス基板上に塗布し、風速8m/s、25℃にて送風しながら1時間乾燥させることで乾燥ゲル膜を作製した。乾燥後のゲル膜を100℃で2時間焼成し、焼成体を作製した。ガラス基板上の焼成体をスパチュラによりはがし取り、粉砕し、粉末状にしたあと、AgBF
4水溶液(0.5mol/L)に24時間浸漬し、洗浄、乾燥を行った。得られた有機無機複合体を実施例4とした。実施例4では、Siに−C
3H
6−の共有結合を介して固定化官能基であるエステル基が結合した構造を有し、エステル基を結合したSiO
2が100%の割合である。
【0039】
[実施例5]
出発原料としてカルボキシエチルシラントリオールナトリウム塩25%水溶液とテトラエトキシシランとの1:1mol比の混合物8gを使用した以外は、実施例1と同様の工程を経て得られた有機無機複合体を実施例5とした。実施例5では、Siに−C
2H
4−の共有結合を介して陽イオン交換基であるカルボキシル基が結合した構造を有し、カルボキシル基が結合したSiO
2とカルボキシル基が結合していないSiO
2とがモル比で50:50の割合である。
【0040】
[
参考例1]
出発原料としてチタンテトライソプロポキシドとリン酸ジノルマルブチルエステルとカリウムエトキシドとの1:1:1mol比の混合物8gを使用して乾燥ゲル膜を作製し、乾燥後のゲル膜を250℃で2時間焼成した以外は、実施例1と同様の工程を経て得られた有機無機複合体を
参考例1とした。
参考例1では、リン酸基を結合したTiO
2が100%の割合である。
【0041】
[実施例
6]
実施例1と同様に作製した前駆体ゾルを、直径10mm、長さ10cm、表面細孔径0.1μmの多孔質アルミナ基材上に塗布し、風速8m/s、25℃にて送風しながら1時間乾燥した後、150℃、2時間焼成し、構造体を作製した。この構造体の一方の端部を封止し、他方の端部にガラス管を接続した。続いて、この構造体のイオン交換処理を行った。AgBF
4水溶液(0.5mol/L)を作製し、上記構造体を浸漬させた。その後、この構造体を水溶液から取り出して乾燥させ、得られた構造体を実施例
6とした。
【0042】
[実施例
7]
実施例3と同様に作製した前駆体ゾルを、直径10mm、長さ10cm、表面細孔径0.1μmの多孔質アルミナ基材上に塗布し、風速8m/s、25℃にて送風しながら1時間乾燥した後、100℃、2時間焼成し、構造体を作製した。この構造体の一方の端部を封止し、他方の端部にガラス管を接続した。続いて、AgBF
4水溶液(0.5mol/L)を作製し、上記構造体を浸漬させた。その後、この構造体を水溶液から取り出して乾燥させ、得られた構造体を実施例
7とした。
【0043】
[比較例1]
市販のポリアクリル酸ナトリウム0.1gと水30gとを攪拌し、ガラス基板上に塗布し、風速8m/s、25℃にて送風しながら1時間乾燥させることで乾燥ゲル膜を作製した。乾燥後のゲル膜を150℃で2時間焼成し、焼成体としたあと、スパチュラによりはがし取って粉砕し粉末状にしたのち、AgBF
4水溶液(0.5mol/L)に24時間浸漬し、洗浄、乾燥を行った。得られたものを比較例1とした。比較例1は、無機骨格を有さず、イオン交換基としてのカルボキシル基を有する有機化合物である。
【0044】
[比較例2]
市販のポリアクリル酸ナトリウム0.1gと水30gとを攪拌しながらシリカ粒子(平均1次粒子径0.016μm)1gを添加した。その後、得られた前駆体ゾルをガラス基板上に塗布し、風速8m/s、25℃にて送風しながら1時間乾燥させることで乾燥ゲル膜を作製した。乾燥後のゲル膜を150℃で2時間焼成し、焼成体を作製した。ガラス基板上の焼成体をスパチュラによりはがし取って粉砕し粉末状にしたのち、AgBF
4水溶液(0.5mol/L)に24時間浸漬し、洗浄、乾燥を行った。得られたものを比較例2とした。比較例2は、カルボキシル基を含むポリマーとシリカ粒子とのコンポジット(混合)材料である。
【0045】
[比較例3]
実施例1と同様に作製した前駆体ゾルを、ガラス基板上に塗布し、25℃にて大気中に1時間静置して乾燥させることで乾燥ゲル膜を作製した。乾燥後のゲル膜を150℃で2時間焼成し、焼成体を作製した。ガラス基板上の焼成体をスパチュラによりはがし取り、粉砕し、粉末状にしたあと、AgBF
4水溶液(0.5mol/L)に24時間浸漬し、洗浄、乾燥を行った。得られた有機無機複合体を比較例3とした。
【0046】
(吸着性能の耐久性評価;選択性維持率)
実施例1〜
5、
参考例1、比較例1〜3のガス分離機能に関する測定を、磁気浮遊天秤を有する高圧ガス吸着量測定装置(日本ベル株式会社製MSB−AD−H)を用いて行った。ここでは、オレフィン/パラフィンの分離機能を考察するものとし、そのモデルとして、エチレン及びエタンの吸着測定を10回繰り返して実施した。エチレン又はエタンのいずれかをより吸着するものとすれば、オレフィン/パラフィンの分離機能がより高いと判断することができる。吸着測定は、エチレン単体ガス又はエタン単体ガスを用い、23℃、0MPa〜1MPaの測定条件で行った。吸着測定の結果を用い(1MPaでのエチレン吸着量)/(エタンの吸着量)を選択性とした。また、(測定10回目の選択性)/(測定1回目の選択性)を選択性維持率とした。この選択性維持率が高いほど、ガス分離機能の耐久性がより高いものと判断することができる。
【0047】
(耐熱温度測定)
実施例1〜
5、
参考例1、比較例1〜3の耐熱温度測定を行った。ここでは、TG−DTA(Bruker AXS株式会社製TG−DTA 2000SA)により、試料量20mg、αアルミナを参照として室温から800℃まで測定を行った。得られたプロファイルより、ガラス転移温度、又は有機官能基の熱分解温度を求め、耐熱温度(℃)とした。
【0048】
(ドメインサイズ測定)
実施例1〜
5、
参考例1、比較例2、3のドメインサイズの測定を行った。ここでは、走査型電子顕微鏡(SEM;日本電子株式会社製JSM−5410)により反射電子像を撮影し、さらにSEMに付属したエネルギー分散型X線分析装置(EDS)により組成の違う領域、具体的には、SiもしくはTiのいずれかを含む無機骨格からなる領域と炭素を含む有機からなる領域とに分離し、ドメインを判定した。SEMにより、試料断面を2000〜20000倍で撮影し、1つの視野に含まれるSiもしくはTiのいずれかを含む無機骨格からなる領域もしくは炭素を含む有機からなる領域の最大の長さをドメインサイズとし、このドメインサイズを計測した。その結果、比較例2では、10〜20μmの、比較例3では50〜100nmの大きさのドメインが確認された。一方、実施例1〜4では、判別可能なドメインは確認されなかった。即ち、含まれるドメインのサイズは、0.1μmよりも小さいものと推察された。次に、実施例1〜
5、参考例1のドメインサイズを透過型電子顕微鏡(TEM;日本電子株式会社製JEM−2100F)およびTEMに付属したEDSによる観察で求めた。試料を20万倍で撮影し、組成の違う領域、具体的には、SiもしくはTiのいずれかを含む無機骨格からなる領域もしくは炭素を含む有機からなる領域とに分離し、ドメインを判定した。上記SEMと同様にドメインサイズを計測した結果、実施例1〜
5、参考例1では、ドメインサイズは20nm以下であった。このように、実施例1〜
5、参考例1では、ドメインサイズが極めて小さいことがわかった。
【0049】
(構造体のガス透過性評価)
実施例
6、7のガス分離機能に関する測定を行った。ガス透過性評価は、エチレン/エタン混合ガス(1:1)を用い、23℃、1MPaの測定条件で行った。
【0050】
(結果と考察)
実施例1〜
7、参考例1、比較例1〜3の、有機無機複合体の構成、金属イオンの種類、選択性維持率、耐熱温度(℃)についてまとめて表1に示す。表1では、ドメインサイズは、10nm以下を◎、10nm超過20nm以下を○、20nm超過200nm以下を△、200nm超過を×とした。また、耐熱性は、300℃以上を◎、250℃以上300℃未満を○、200℃以上250℃未満を△、200℃未満を×とした。また、選択性維持率は、0.7以上1.0以下を◎、0.5以上0.7未満を○、0.3以上0.5未満を△、0.3未満を×とした。表1に示すように、比較例1、2では、ガスの選択性維持率および耐熱温度が極めて低かった。比較例2は、シリカ粒子の添加による効果として、比較例1に比して選択性維持率及び耐熱温度が向上しているものの、その割合は低かった。比較例3では、実施例1と比べて選択性維持率及び耐熱温度は低かった。これは、ドメインサイズが大きいため、材料の機械的強度が低くなったことで、1MPaの加圧時に材料が緻密化したためと推察された。これに対して、実施例1〜
5、参考例1では、ガスの選択性維持率が0.50以上と高く、且つ耐熱温度が250℃以上であり、機能性及び耐久性が向上していることがわかった。即ち、無機骨格に共有結合を介して陽イオン交換基や固定化官能基が結合した構造を有し、且つドメインサイズが20nm以下であると、機能性及び熱的安定性がより向上することがわかった。また、実際に実施例
6、7にてガス透過性の評価を行った結果、エタンに比べてエチレンが選択的に透過することを確認した。
【0051】
【表1】