特許第6556981号(P6556981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6556981有機無機複合体、構造体及び有機無機複合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556981
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】有機無機複合体、構造体及び有機無機複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/04 20060101AFI20190729BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20190729BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   C08G77/04
   B01D69/10
   B01D71/02 500
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-65585(P2014-65585)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-208813(P2014-208813A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2016年10月17日
【審判番号】不服2018-7491(P2018-7491/J1)
【審判請求日】2018年6月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-71656(P2013-71656)
(32)【優先日】2013年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 宏之
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】木下 直人
【合議体】
【審判長】 近野 光知
【審判官】 岡崎 美穂
【審判官】 佐藤 健史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−517711(JP,A)
【文献】 特開2014−189635(JP,A)
【文献】 特開2015−89901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G77,79
B01F71,69
CA(STN),REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素としてのSiと酸素との結合からなる3次元構造である無機骨格と、
前記金属元素に対して炭素を含む共有結合を介して結合した陽イオン交換基、及び前記金属元素に対して炭素を含む共有結合を介して結合し、配位結合により金属イオンを固定化しうる官能基、のうち1以上と、
前記陽イオン交換基及び/又は前記官能基により固定化された金属イオンとしてのAgイオンと、を備え、
前記無機骨格の構成単位からなる領域もしくは炭素を含む有機の構成単位からなる領域の最大の長さであるドメインサイズが20nm以下であり
複数の成分からなる流体に含まれる特定の成分を選択的に透過する機能を有する、有機無機複合体。
【請求項2】
前記無機骨格は、前記ドメインサイズが10nm以下である、請求項1に記載の有機無機複合体。
【請求項3】
前記陽イオン交換基は、カルボキシル基、スルホン基、リン酸基、ホスホン酸基、フェノール性水酸基のうち1以上である、請求項1又は2に記載の有機無機複合体。
【請求項4】
前記配位結合により金属イオンを固定化しうる官能基は、非共有電子対を有する基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機無機複合体。
【請求項5】
次式(1)の基本構造を少なくとも含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機無機複合体。
【化1】
(但し、M1はSi、2はAのほかNaを含んでもよい金属イオン、R1はメチレン基(−CH2−)を含むがN、O、Sを含んでいてもよく、R2はカルボキシル基、スルホン基、リン酸基、ホスホン酸基、フェノール性水酸基のうち1以上の陽イオン交換基、及び/又はカルボニル基、アミド基、ウレイド基、イソシアネート基、エステル基及びエーテル基のうち1以上の前記官能基、R3は(−O−)又は(−OH)であり該R3が(−O−)である場合該R3を介して他のM1と結合しており、M1に応じてないものとしてもよい)
【請求項6】
膜体である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機無機複合体。
【請求項7】
基材と、
前記基材上に形成された請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機無機複合体と、
を備えた構造体。
【請求項8】
前記基材は、複数のセルを備えたモノリス構造を有している、請求項7に記載の構造体。
【請求項9】
複数の成分からなる流体に含まれる特定の成分を選択的に透過する機能を有する有機無機複合体の製造方法であって、
金属元素としてのSiと酸素との結合からなる3次元構造である無機骨格となる前記金属元素に対して炭素を含む共有結合を介して結合した陽イオン交換基、及び前記無機骨格となる前記金属元素に対して炭素を含む共有結合を介して結合し配位結合により金属イオンを固定化しうる官能基、のうち1以上を有する金属アルコキシド原料を重合させゾルを作製するゾル作製工程と、
前記ゾルを風速2m/s以上で送風乾燥し、前記無機骨格からなる領域もしくは炭素を含む有機からなる領域の最大の長さであるドメインサイズが20nm以下である有機無機複合体を得る乾燥工程と、を含み、
前記ゾル作製工程において、前記金属イオンとしてのAgイオンが前記陽イオン交換基及び/又は前記官能基により固定化された前記金属アルコキシド原料を用いるか、前記陽イオン交換基及び/又は前記官能基に前記金属イオンとしてのAgイオンを固定化する固定化工程を更に含む、
有機無機複合体の製造方法。
【請求項10】
前記乾燥工程では、風速4m/s以上の範囲で送風乾燥する、請求項9に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の有機無機複合体の製造方法であって、
前記乾燥工程のあと、前記乾燥したゾルを100℃以上300℃以下の温度で熱処理する焼成工程、を含む有機無機複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機複合体、構造体及び有機無機複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機無機複合体としては、陽イオン交換基を有する重合体によってシリカなどの無機粒子が被覆されており、陽イオン交換基の対イオンがカルシウムなどのアルカリ土類金属イオンであるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この複合体では、より高い防錆性を有し防錆効果の安定性、持続性にも優れたものとすることができるとしている。また、無機複合体としては、無機粉末の表面に、末端にスルホン酸エステル基を有するアルコキシシラン化合物の被覆を形成し、次いで加水分解又は熱分解によりエステル基をスルホン酸基に分解し、粉末表面にスルホン酸基を導入するものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この複合体では、粉末表面の親水性が向上し、粉末の水中などでの分散性が向上する。また、無機複合体としては、分子内に金属イオンに配位可能な配位基とアルコキシシリル基とを有する配位化合物が、銀イオンに配位してなる金属錯体を無機粒子に担持した抗菌性塗料組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この複合体では、金属錯体が均一に分散しており、持続性の高い抗菌性を有するとしている。また、窒素に炭化水素を介してリン酸基を有する構造を備えた平版印刷版用修正剤が提案されている(例えば、特許文献4)。この修正剤では、必要な画像に悪影響を与えることなく、所望の画像部を迅速に消去することができ、汚れの発生をより抑制することができるとしている。また、ケイ素原子及び酸素原子を含むポリマー構造物、可撓性結合基及び含窒素複素環である末端基を含むポリマー電解質膜が提案されている(例えば、特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−217732号公報
【特許文献2】特開平9−48610号公報
【特許文献3】特開平7−133444号公報
【特許文献4】特開2004−114360号公報
【特許文献5】特表2007−504637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された複合体では、シリカ粒子の表面を樹脂で覆うものであるが、シリカ粒子と樹脂とは単に混合された状態であり、無機物と有機物とが乖離しやすく、機械的強度や熱的安定性が劣るものであった。また、特許文献2に記載された複合体では、無機粉末を用いており、粒子の凝集を生じやすく、ドメインサイズが大きくなるという問題があった。また、特許文献1〜3に記載された複合体では、熱に対する安定性については検討されていなかった。また、引用文献2、3では、無機粒子の表面のみにスルホン酸基又は金属錯体を有するので、金属イオンを固定化するサイトが少ないという問題があった。また、特許文献4、5に記載された複合体では、ドメインサイズについて検討されていなかった。したがって、機能をより高めることが求められていた。また、特許文献1〜5に記載された有機無機複合体では、例えば、防錆性、親水性、抗菌性、修正剤及びプロトン伝導性について検討されているが、ガスなどの流体の分離性能などについては検討されていなかった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、機能性及び熱的安定性をより高めることができる有機無機複合体及び構造体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した主目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、無機骨格に炭素を含む共有結合を介して、陽イオン交換基や金属イオンを固定化しうる官能基を結合するものとすると、機能性及び熱的安定性をより高めることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の有機無機複合体は、
金属元素を含む無機骨格と、
前記金属元素に対して炭素を含む共有結合を介して結合した陽イオン交換基、及び前記金属元素に対して炭素を含む共有結合を介して結合し、配位結合により金属イオンを固定化しうる官能基、のうち1以上と、
前記陽イオン交換基及び/又は前記官能基により固定化された金属イオンと、を備え、
ドメインサイズが20nm以下であるものである。
【0008】
本発明の構造体は、基材と、前記基材上に形成された上述の有機無機複合体と、を備えたものである。
【0009】
本発明の有機無機複合体の製造方法は、
無機骨格となる金属元素に対して炭素を含む共有結合を介して結合した陽イオン交換基、及び無機骨格となる金属元素に対して炭素を含む共有結合を介して結合し、配位結合により金属イオンを固定化しうる官能基、のうち1以上を有する金属アルコキシド原料を重合させゾルを作製するゾル作製工程と、
前記ゾルを風速2m/s以上で送風乾燥する乾燥工程と、
を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機無機複合体、構造体及び有機無機複合体の製造方法では、機能性及び熱的安定性をより高めることができる。この理由は、以下のように推察される。例えば、無機骨格に炭素を含む共有結合を介して、陽イオン交換基や金属イオンを固定化しうる官能基を結合するため、この共有結合により耐熱性が向上するものと推察される。このため、高温での用途、例えば、触媒、分離膜、コーティング膜などに利用することができる。また、ドメインサイズが小さい状態で無機物と有機物とがハイブリッド化されているため、機械的強度などに優れ、熱的にも安定であると考えられる。また、無機骨格により機械的強度を高めることができるから、金属イオンの示す活性を長期間発現できるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の有機無機複合体の一例を表す説明図。
図2】有機無機複合体の具体例を表す説明図。
図3】金属イオンを固定化しうる官能基を有する有機無機複合体を表す説明図。
図4】構造体10の構成の概略の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の構造体の一実施形態を、図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態である有機無機複合体の一例を表す説明図である。図2は、有機無機複合体の具体例を表す説明図である。図3は、金属イオンを固定化しうる官能基を有する有機無機複合体を表す説明図である。図4は、構造体10の構成の概略の一例を示す説明図である。本発明の有機無機複合体は、金属元素を含む無機骨格と、金属元素に対して炭素を含む共有結合を介して結合した陽イオン交換基、及び金属元素に対して炭素を含む共有結合を介して結合し、配位結合により金属イオンを固定化しうる官能基(以下、便宜的に「固定化官能基」とも称する)のうち1以上と、陽イオン交換基及び/又は固定化官能基により固定化された金属イオンと、を備え、ドメインサイズが20nm以下であるものである。ここで、「ドメインサイズ」とは、有機無機複合体のうち、有機骨格の構成単位の大きさもしくは無機骨格の構成単位の大きさをいうものとする。
【0013】
無機骨格は、例えば、金属元素と酸素との鎖状構造であるものとしてもよいし、3次元構造であるものとしてもよい。この無機骨格は、金属元素としてSi、Ti、Al及びZrから選ばれる1以上を含むものとしてもよく、更にOを含むものとしてもよい。これらの金属では、酸素との結合により、機械的強度の高い構造としやすい。また、鎖状構造又は3次元構造としやすく好ましい。このうち、Siが特に好ましい。更に、この無機骨格は、金属と酸素との構造の中に、金属以外の元素、例えば、C、N、Sなどの元素を含む構造としてもよい。例えば、金属と炭素との結合構造や、金属と窒素との結合構造、金属と炭素と窒素との結合構造などを含んでいてもよく、更に酸素がこれらの間のいずれかに含まれるものとしてもよい。この金属元素には、共有結合により陽イオン交換基や固定化官能基が結合されているが、例えば、陽イオン交換基や固定化官能基が結合していない部位があってもよく、陽イオン交換基や固定化官能基以外の官能基が結合している部位があってもよい。この官能基としては、例えば、アルキル基、アリール基などC、N、O、Hのうち1以上の元素を含む基及び、ハロゲンなどが挙げられる。あるいは、この金属元素には、更に酸素を介して金属元素の無機骨格が結合していてもよい。
【0014】
無機骨格と、陽イオン交換基又は固定化官能基との間には、炭素を含む結合基があってもよい。この結合基としては、1以上のメチレン基(−CH2−)n(nは1以上の整数)が挙げられる。また、この結合基には、N、O、S、Pのうち1以上を含むものとしてもよい。このメチレン基の繰り返し数nは、0以上10以下であることが好ましい。
【0015】
陽イオン交換基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン基、リン酸基、ホスホン酸基、フェノール性水酸基のうち1以上が挙げられる。このうち、カルボキシル基やスルホン基が好ましい。この陽イオン交換基は、炭素を含む結合基を介して無機骨格の金属元素と共有結合しているものとしてもよいし、無機骨格の金属元素と直接共有結合しているものとしてもよい。この陽イオン交換基は、原料のときから金属元素(又は金属元素と共有結合した結合基)と共有結合を介して結合していることが好ましい。こうすれば、陽イオン交換基の導入処理による強度低下等の悪影響を有機無機複合体に与えることがなく、好ましい。固定化官能基としては、例えば、非共有電子対を有する基などが挙げられ、具体的には、カルボニル基、アミド基、ウレイド基、イソシアネート基、エステル基及びエーテル基のうち1以上が挙げられる。このうち、カルボニル基やウレイド基が好ましい。この固定化官能基は、炭素を含む結合基を介して無機骨格の金属元素と共有結合しているものとしてもよいし、無機骨格の金属元素と直接共有結合しているものとしてもよい。この固定化官能基は、原料のときから金属元素(又は金属元素と共有結合した結合基)と共有結合を介して結合していることが好ましい。こうすれば、固定化官能基の導入処理による強度低下等の悪影響を有機無機複合体に与えることがなく、好ましい。陽イオン交換基及び/又は固定化官能基に固定化される陽イオンとしては、例えば、Au、Ag、Cu、Pt、Pd、Ni、Co、Fe,及びアルカリ金属から選ばれる1以上であるものとしてもよい。このうち、オレフィン分離に使用できるのでAgが特に好ましい。
【0016】
この有機無機複合体は、次式(1)の基本構造を少なくとも含むものとしてもよい。但し、次式(1)において、M1は、Si、Ti、Al及びZrから選ばれる1以上の金属元素である。M2は、Au、Ag、Cu、Pt、Pd、Ni、Co、Fe,及びアルカリ金属から選ばれる1以上の金属イオンである。R1は、メチレン基(−CH2−)を含むがN、O、Sを含んでいてもよいしこれ自体がないものとしてもよい。R2は、カルボキシル基、スルホン基、リン酸基、ホスホン酸基、フェノール性水酸基のうち1以上の陽イオン交換基及び/又はカルボニル基、アミド基、ウレイド基、イソシアネート基、エステル基及びエーテル基のうち1以上の固定化官能基である。R3は、C、N、O及びハロゲンのうち1以上を含む官能基であり、M1に応じてないものとしてもよい。このような構造を有することが好ましい。
【0017】
【化1】
【0018】
この有機無機複合体のドメインサイズは、以下のようにして測定するものとする。まず、有機無機複合体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により、ランダムに10視野を撮影し、得られた画像において、エネルギー分散型X線分析(EDS)を用いて組成の違う領域に分離する。具体的には、Si、Ti、Al、Zrなどの金属を含む無機骨格からなる領域(以下、無機領域とも称する)と、炭素を含む有機骨格からなる領域(以下、有機領域とも称する)とに分離する。このとき、得られた画像において、無機領域が白(又は黒)に近く、有機領域が黒(又は白)に近いコントラストを有する場合には、そのコントラストに基づいて無機領域と有機領域とに分離してもよい。SEMにおいては、有機無機複合体の断面を2000〜20000倍で撮影するものとする。画像に含まれる無機領域と有機領域の最大の長さ(長径)をドメインサイズとし、このドメインサイズを計測する。SEMにおいて0.1μm以上のドメインが確認された場合には、ドメインサイズを0.1μm以上と評価する。SEMにおいて0.1μm以上のドメインが10視野のうち2視野以上において、1つの画像の面積の5%以上ないことが確認された場合には、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、有機無機複合体の断面を20万倍で撮影し、EDSを用いて組成の違う領域、具体的には、無機領域と有機領域とに分離する。そして、上記SEMと同様にドメインサイズを計測する。上記の方法で10視野中の全ドメインのサイズを計測し、その平均値を有機無機複合体のドメインサイズとする。このドメインサイズが小さいほど、有機骨格と無機骨格とが均一に混合しているといえる。このようにして計測したドメインサイズは、20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。ドメインサイズが小さい状態で無機物と有機物とがハイブリッド化されていれば、機械的強度などに優れると考えられる。また、陽イオンを均一に分散させることができると考えられる。なお、「ドメインサイズが20nm以下」とは、無機骨格の領域が20nm以下及び有機骨格の領域が20nm以下を意味する。また、金属イオンの領域は、ドメインサイズに関しないが、この領域も20nm以下であることが好ましい。
【0019】
有機無機複合体は、金属アルコキシドの加水分解化合物であるものとしてもよい。金属アルコキシドは、加水分解及び重合しやすく、好ましい。この金属アルコキシドは、例えば、無機骨格の金属元素に対して炭素を含む共有結合を介して結合した陽イオン交換基や固定化官能基を有しているものとしてもよい。また、有機無機複合体は、陽イオン交換基や固定化官能基を有する金属アルコキシドと、陽イオン交換基や固定化官能基を有さない金属アルコキシドとを加水分解して得るものとしてもよい。金属アルコキシドとしては、例えば、金属元素をSiとした場合は、カルボキシエチルシラントリオール塩、N−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミントリ酢酸ナトリウム塩、N−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]マレインアミド酸、3−(トリヒドロキシシリル)−1−プロパンスルホン酸、メチルホスホン酸3−(トリヒドロキシシリル)プロピルナトリウム、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ウレイドプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)尿素、N−[5−(トリメトキシシリル)−2−アザ−1−オクソ-ペンチル]カプロラクタム、3−(トリエトキシシリル)プロピル無水コハク酸、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、(イソシアネートメチル)メチルジメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、11−(スクシンイミドルオキシ)ウンデシルジメチルエトキシシラン、N−(トリエトキシシリルプロピル)−o−ポリエチレンオキサイドウレタン、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4−ヒドロキシブチルアミド、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)グルコンアミド、アセトキシメチルトリエトキシシラン、アセトキシメチルトリメトキシシラン、アセトキシプロピルトリメトキシシラン、ベンゾイルオキシプロピルトリメトキシシラン、10−(カルボメトキシ)デシルジメチルメトキシシラン、2−(カルボメトキシ)エチルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0020】
有機無機複合体は、例えば、原料として、次式(2)、(3)の化合物を用いるものとしてもよい。このとき、有機無機複合体は、上述した金属アルコキシド、あるいは他のアルコキシドと混合して重合させて得られたものとしてもよい。
【0021】
【化2】
【0022】
【化3】
【0023】
本発明の有機無機複合体は、耐熱温度が250℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましい。耐熱温度が250℃以上であれば、高温での用途、例えば、触媒、分離膜、コーティング膜などに利用することができる。この耐熱温度は、例えば、ガラス転移温度、又は有機官能基の熱分解温度としてもよい。この耐熱温度は、例えば、熱分析(TG−DTAやDSC測定など)により求めることができる。
【0024】
本発明の有機無機複合体は、複数の成分からなる流体に含まれる特定の成分を選択的に透過する機能を有するものとしてもよい。流体としては、液体や気体が挙げられる。例えば、この有機無機複合体は、オレフィン/パラフィンの分離機能を有しているものとしてもよい。このとき、陽イオン交換基及び/又は固定化官能基に結合した陽イオンが分離機能を発現もしくは増強するものとしてもよい。また、本発明の有機無機複合体は、流体に含まれる第1成分と流体に含まれる第2成分とを分離する機能を有するものとしてもよい。
【0025】
本発明の有機無機複合体は、オレフィン/パラフィンの分離機能の耐久性を表す選択性維持率が、0.50以上であることが好ましく、0.60以上であることがより好ましく、0.70以上であることが更に好ましい。この選択性維持率は、以下のように求めるものとする。オレフィン単体ガス又はパラフィン単体ガスを用い、23℃、0MPa〜1MPaの測定条件で有機無機複合体にこのガスを吸着させる。この吸着を10回繰り返して行う。この吸着結果を用い、(1MPaでのエチレン吸着量)/(エタンの吸着量)を選択性とする。また、(測定10回目の選択性)/(測定1回目の選択性)を選択性維持率とする。この選択性維持率が高いほど、ガス分離機能の耐久性がより高い。用いるガスは、オレフィンとしては例えば、エチレン、プロピレンなどが挙げられる。また、パラフィンとしては、メタン、エタン、プロパンなどが挙げられる。
【0026】
本発明の有機無機複合体は、例えば、図1に示すように、金属M1及び酸素を含む無機骨格と、炭素を含む結合基R1を介して無機骨格に共有結合した基R2と、基R2に固定化された金属イオンM2とを備えているものとしてもよい。R2は、陽イオン交換基、及び/又は配位結合により金属イオンを固定化しうる官能基である。この有機無機複合体は、その構成体の大きさであるドメインサイズが、20nm以下である。より具体的には、例えば、図2に示すように、Si及びOを含むSi骨格と、Si骨格と陽イオン交換基であるカルボキシル基との間に共有結合するメチレン基(nは0以上の整数)と、カルボキシル基に結合したAgイオンとを備え、ドメインサイズが20nm以下であるものとしてもよい。また、図3に示すように、この有機無機複合体は、Si及びOを含むSi骨格と、固定化官能基であるウレイド基と、Si骨格とウレイド基との間に共有結合するメチレン基(nは0以上の整数)と、ウレイド基の非共有電子対に配位結合したAgイオンとを備え、ドメインサイズが20nm以下であるものとしてもよい。
【0027】
次に、この有機無機複合体の製造方法について説明する。この製造方法では、所定の金属アルコキシド原料を重合させゾルを作製するゾル作製工程と、前記ゾルを送風乾燥する乾燥工程と、を含むものとし、更に、乾燥工程のあと、乾燥したゾルを熱処理する焼成工程、を含むものとしてもよい。この製造方法では、まず、無機骨格となる金属元素に対して炭素を含む共有結合を介して結合した陽イオン交換基、及び無機骨格となる金属元素に対して炭素を含む共有結合を介して結合した固定化官能基を有する金属アルコキシド原料を加水分解及び重合させることで前駆体であるゾルを作製する。次に、得られたゾルを乾燥、焼成することで有機無機複合体を作製する。あるいは、得られた前駆体を基材上に成膜したあと、焼成することで有機無機複合体の膜を作製するものとしてもよい。ゾルの乾燥は、送風乾燥を行うことが好ましく、例えば、風速2m/s以上、より好ましくは風速4m/s以上、更に好ましくは風速8m/s以上で行うことが好ましい。送風乾燥を行うと、ドメインの凝集をより抑制することができ、ドメインサイズを20nm以下にしやすい。ドメインの凝集をより抑制するために、乾燥温度は、10℃以上であることが好ましく、使用する溶媒によって適宜選択することができる。焼成処理では、100℃以上300℃以下の温度で熱処理することが好ましく、150℃以上250℃以下の温度で熱処理することがより好ましい。この焼成処理は、1時間以上24時間以下の範囲で行うことが好ましく、2時間以上4時間以下の範囲で行うことがより好ましい。陽イオン交換基や固定化官能基に金属イオンを固定化する工程は、前駆体を作製する前と、有機無機複合体の複合化を行ったあととの間の、いずれかのタイミングで行うものとすることができる。即ち、所望の金属イオンが陽イオン交換基や固定化官能基に固定化された原料を用いて材料を作製してもよいし、上記複合体を作製したあとに、イオン交換処理を行うことで望みの金属イオンを導入してもよい。無機骨格となる金属元素や、陽イオン交換基、固定化官能基、固定化される金属イオンは、それぞれ、上述したものを用いることができる。
【0028】
次に、本発明の構造体について説明する。本発明の構造体は、基材と、基材上に形成された上述したいずれかの有機無機複合体と、を備えたものである。基材は、特に限定されないが、例えば、樹脂などの有機材料や無機材料及び金属材料などとすることができる。無機材料としては、例えば、コージェライト、Si結合SiC、再結晶SiC、チタン酸アルミニウム、ムライト、窒化珪素、サイアロン、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア、アルミナ及びシリカから選択される1以上とすることができる。有機無機複合体は、例えば、膜状として基材上に形成されているものとしてもよい。このとき、有機無機複合体の厚さは、例えば、0.01μm〜数10μm程度とすることができる。
【0029】
この構造体の具体例を説明する。図4に示すように、本発明の構造体10は、複数のセル12を備えたモノリス構造を有しているものとしてもよい。その外形は、特に限定されないが、円柱状、楕円柱状、四角柱状、六角柱状などの形状とすることができる。この構造体10は、混合流体の流路となる複数のセル12を形成する基材としての多孔質の隔壁部14と、上述した有機無機複合体からなり隔壁部14の内表面15に設けられた機能層16と、を備えている。また、隔壁部14の端面17には、シール部18が形成されている。このシール部18は、例えば、ガラスやセラミックス、樹脂などのうち緻密質な材料により形成されており、隔壁部14の端面17からの流体の流入や流出を防ぐものである。この構造体10では、機能層16は、混合流体を分離する分離膜として機能する。具体的には、入口側からセル12へ入った混合流体のうち、機能層16の有機無機複合体の陽イオン交換基や固定化官能基に結合した陽イオンと親和性の高い流体は、機能層16が形成された多孔質の隔壁部14を通過して濃縮され、濃縮流体として構造体10の側面から排出される。一方、陽イオンと親和性が低く機能層16を通過できない流体は、セル12の流路に沿って流通し、分離流体としてセル12の出口側から排出される。隔壁部14は、気孔径の大きな粗粒部14aの表面に気孔径の小さな細粒部14bが形成された二層以上の多層構造を有しているものとしてもよい。粗粒部14aの気孔径は、例えば、0.1μm〜数100μm程度とすることができる。細粒部14bの気孔径は、粗粒部14aの気孔径に比して小さいものであればよく、例えば、気孔径が0.001〜1μm程度のものとすることができる。こうすれば、隔壁部14の透過抵抗を低減することができる。このように、構造体10を形成し、有機無機複合体を利用することができる。
【0030】
以上説明した有機無機複合体によれば、無機骨格に炭素を含む共有結合を介して陽イオン交換基や固定化官能基を結合するため、この共有結合により耐熱性が向上する。このため、高温での用途、例えば、触媒、分離膜、コーティング膜などに利用することができる。また、ドメインサイズが小さい状態で無機物と有機物とがハイブリッド化されているため、機械的強度などに優れ、熱的にも安定である。また、無機骨格により機械的強度を高めることができるから、金属イオンの示す活性を長期間発現できるものと考えられる。したがって、機能性及び熱的安定性をより高めることができる。
【0031】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0032】
例えば、上述した実施形態では、構造体10は複数のセル12を備え流体が流通するものとしたが、基材と基材上に形成された有機無機複合体とを備えるものとすれば、特にこの形状に限定されない。例えば、1つのセルを備えたチューブラー形状としてもよい。あるいは、本発明の有機無機複合体は、粉末の状態で用いるものとしてもよい。有機無機複合体の粉末は、例えば、吸着剤や触媒として利用することができる。
【0033】
上述した実施形態では、有機無機複合体からなる機能層16は流体としての混合流体を分離する分離膜として機能するものとしたが、特にこれに限定されず、液体や気体を殺菌・浄化する殺菌・浄化膜として機能するものとしてもよい。こうした殺菌・浄化膜としての機能層16を備えた構造体10は、殺菌・浄化用フィルターとして用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下には、有機無機複合体を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0035】
[実施例1]
カルボキシエチルシラントリオールナトリウム塩25%水溶液8gに、硝酸1gを添加したあと、ウォーターバス中にて60℃、6時間加熱処理を施すことで加水分解及び重合
を進行させた。その後、得られた前駆体ゾルをガラス基板上に塗布し、風速8m/s、25℃にて送風しながら1時間乾燥させることで乾燥ゲル膜を作製した。乾燥後のゲル膜を150℃で2時間焼成し、焼成体を作製した。ガラス基板上の焼成体をスパチュラによりはがし取り、粉砕し、粉末状にしたあと、AgBF4水溶液(0.5mol/L)に24
時間浸漬し、洗浄、乾燥を行った。得られた有機無機複合体を実施例1とした。実施例1では、Siに−C24−の共有結合を介して陽イオン交換基であるカルボキシル基が結合した構造を含むSiO2が100%の割合である。
【0036】
[実施例2]
実施例1と同様に作製した前駆体ゾルを、ガラス基板上に塗布し、風速4m/s、10℃にて送風しながら1時間乾燥させることで乾燥ゲル膜を作製した。乾燥後のゲル膜を150℃で2時間焼成し、焼成体を作製した。ガラス基板上の焼成体をスパチュラによりはがし取り、粉砕し、粉末状にしたあと、AgBF4水溶液(0.5mol/L)に24時
間浸漬し、洗浄、乾燥を行った。得られた有機無機複合体を実施例2とした。
【0037】
[実施例3]
ウレイドプロピルトリエトキシシラン50%メタノール溶液8gに、水3g、硝酸0.3gを添加したあと、3時間攪拌することで加水分解及び重合を進行させた。その後、得られた前駆体ゾルをガラス基板上に塗布し、風速8m/s、25℃にて送風しながら1時間乾燥させることで乾燥ゲル膜を作製した。乾燥後のゲル膜を100℃で2時間焼成し、焼成体を作製した。ガラス基板上の焼成体をスパチュラによりはがし取り、粉砕し、粉末状にしたあと、AgBF4水溶液(0.5mol/L)に24時間浸漬し、洗浄、乾燥を行った。得られた有機無機複合体を実施例3とした。実施例3では、Siに−C36−の共有結合を介して固定化官能基であるウレイド基が結合した構造を有し、ウレイド基を結合したSiO2が100%の割合である。
【0038】
[実施例4]
アセトキシプロピルトリメトキシシラン8gに、メタノール4g、水3g、硝酸0.7gを添加したあと、3時間攪拌することで加水分解及び重合を進行させた。その後、得られた前駆体ゾルをガラス基板上に塗布し、風速8m/s、25℃にて送風しながら1時間乾燥させることで乾燥ゲル膜を作製した。乾燥後のゲル膜を100℃で2時間焼成し、焼成体を作製した。ガラス基板上の焼成体をスパチュラによりはがし取り、粉砕し、粉末状にしたあと、AgBF4水溶液(0.5mol/L)に24時間浸漬し、洗浄、乾燥を行った。得られた有機無機複合体を実施例4とした。実施例4では、Siに−C36−の共有結合を介して固定化官能基であるエステル基が結合した構造を有し、エステル基を結合したSiO2が100%の割合である。
【0039】
[実施例5]
出発原料としてカルボキシエチルシラントリオールナトリウム塩25%水溶液とテトラエトキシシランとの1:1mol比の混合物8gを使用した以外は、実施例1と同様の工程を経て得られた有機無機複合体を実施例5とした。実施例5では、Siに−C24−の共有結合を介して陽イオン交換基であるカルボキシル基が結合した構造を有し、カルボキシル基が結合したSiO2とカルボキシル基が結合していないSiO2とがモル比で50:50の割合である。
【0040】
参考例1
出発原料としてチタンテトライソプロポキシドとリン酸ジノルマルブチルエステルとカリウムエトキシドとの1:1:1mol比の混合物8gを使用して乾燥ゲル膜を作製し、乾燥後のゲル膜を250℃で2時間焼成した以外は、実施例1と同様の工程を経て得られた有機無機複合体を参考例1とした。参考例1では、リン酸基を結合したTiO2が100%の割合である。
【0041】
[実施例
実施例1と同様に作製した前駆体ゾルを、直径10mm、長さ10cm、表面細孔径0.1μmの多孔質アルミナ基材上に塗布し、風速8m/s、25℃にて送風しながら1時間乾燥した後、150℃、2時間焼成し、構造体を作製した。この構造体の一方の端部を封止し、他方の端部にガラス管を接続した。続いて、この構造体のイオン交換処理を行った。AgBF4水溶液(0.5mol/L)を作製し、上記構造体を浸漬させた。その後、この構造体を水溶液から取り出して乾燥させ、得られた構造体を実施例とした。
【0042】
[実施例
実施例3と同様に作製した前駆体ゾルを、直径10mm、長さ10cm、表面細孔径0.1μmの多孔質アルミナ基材上に塗布し、風速8m/s、25℃にて送風しながら1時間乾燥した後、100℃、2時間焼成し、構造体を作製した。この構造体の一方の端部を封止し、他方の端部にガラス管を接続した。続いて、AgBF4水溶液(0.5mol/L)を作製し、上記構造体を浸漬させた。その後、この構造体を水溶液から取り出して乾燥させ、得られた構造体を実施例とした。
【0043】
[比較例1]
市販のポリアクリル酸ナトリウム0.1gと水30gとを攪拌し、ガラス基板上に塗布し、風速8m/s、25℃にて送風しながら1時間乾燥させることで乾燥ゲル膜を作製した。乾燥後のゲル膜を150℃で2時間焼成し、焼成体としたあと、スパチュラによりはがし取って粉砕し粉末状にしたのち、AgBF4水溶液(0.5mol/L)に24時間浸漬し、洗浄、乾燥を行った。得られたものを比較例1とした。比較例1は、無機骨格を有さず、イオン交換基としてのカルボキシル基を有する有機化合物である。
【0044】
[比較例2]
市販のポリアクリル酸ナトリウム0.1gと水30gとを攪拌しながらシリカ粒子(平均1次粒子径0.016μm)1gを添加した。その後、得られた前駆体ゾルをガラス基板上に塗布し、風速8m/s、25℃にて送風しながら1時間乾燥させることで乾燥ゲル膜を作製した。乾燥後のゲル膜を150℃で2時間焼成し、焼成体を作製した。ガラス基板上の焼成体をスパチュラによりはがし取って粉砕し粉末状にしたのち、AgBF4水溶液(0.5mol/L)に24時間浸漬し、洗浄、乾燥を行った。得られたものを比較例2とした。比較例2は、カルボキシル基を含むポリマーとシリカ粒子とのコンポジット(混合)材料である。
【0045】
[比較例3]
実施例1と同様に作製した前駆体ゾルを、ガラス基板上に塗布し、25℃にて大気中に1時間静置して乾燥させることで乾燥ゲル膜を作製した。乾燥後のゲル膜を150℃で2時間焼成し、焼成体を作製した。ガラス基板上の焼成体をスパチュラによりはがし取り、粉砕し、粉末状にしたあと、AgBF4水溶液(0.5mol/L)に24時間浸漬し、洗浄、乾燥を行った。得られた有機無機複合体を比較例3とした。
【0046】
(吸着性能の耐久性評価;選択性維持率)
実施例1〜参考例1、比較例1〜3のガス分離機能に関する測定を、磁気浮遊天秤を有する高圧ガス吸着量測定装置(日本ベル株式会社製MSB−AD−H)を用いて行った。ここでは、オレフィン/パラフィンの分離機能を考察するものとし、そのモデルとして、エチレン及びエタンの吸着測定を10回繰り返して実施した。エチレン又はエタンのいずれかをより吸着するものとすれば、オレフィン/パラフィンの分離機能がより高いと判断することができる。吸着測定は、エチレン単体ガス又はエタン単体ガスを用い、23℃、0MPa〜1MPaの測定条件で行った。吸着測定の結果を用い(1MPaでのエチレン吸着量)/(エタンの吸着量)を選択性とした。また、(測定10回目の選択性)/(測定1回目の選択性)を選択性維持率とした。この選択性維持率が高いほど、ガス分離機能の耐久性がより高いものと判断することができる。
【0047】
(耐熱温度測定)
実施例1〜参考例1、比較例1〜3の耐熱温度測定を行った。ここでは、TG−DTA(Bruker AXS株式会社製TG−DTA 2000SA)により、試料量20mg、αアルミナを参照として室温から800℃まで測定を行った。得られたプロファイルより、ガラス転移温度、又は有機官能基の熱分解温度を求め、耐熱温度(℃)とした。
【0048】
(ドメインサイズ測定)
実施例1〜参考例1、比較例2、3のドメインサイズの測定を行った。ここでは、走査型電子顕微鏡(SEM;日本電子株式会社製JSM−5410)により反射電子像を撮影し、さらにSEMに付属したエネルギー分散型X線分析装置(EDS)により組成の違う領域、具体的には、SiもしくはTiのいずれかを含む無機骨格からなる領域と炭素を含む有機からなる領域とに分離し、ドメインを判定した。SEMにより、試料断面を2000〜20000倍で撮影し、1つの視野に含まれるSiもしくはTiのいずれかを含む無機骨格からなる領域もしくは炭素を含む有機からなる領域の最大の長さをドメインサイズとし、このドメインサイズを計測した。その結果、比較例2では、10〜20μmの、比較例3では50〜100nmの大きさのドメインが確認された。一方、実施例1〜4では、判別可能なドメインは確認されなかった。即ち、含まれるドメインのサイズは、0.1μmよりも小さいものと推察された。次に、実施例1〜5、参考例1のドメインサイズを透過型電子顕微鏡(TEM;日本電子株式会社製JEM−2100F)およびTEMに付属したEDSによる観察で求めた。試料を20万倍で撮影し、組成の違う領域、具体的には、SiもしくはTiのいずれかを含む無機骨格からなる領域もしくは炭素を含む有機からなる領域とに分離し、ドメインを判定した。上記SEMと同様にドメインサイズを計測した結果、実施例1〜5、参考例1では、ドメインサイズは20nm以下であった。このように、実施例1〜5、参考例1では、ドメインサイズが極めて小さいことがわかった。
【0049】
(構造体のガス透過性評価)
実施例6、7のガス分離機能に関する測定を行った。ガス透過性評価は、エチレン/エタン混合ガス(1:1)を用い、23℃、1MPaの測定条件で行った。
【0050】
(結果と考察)
実施例1〜7、参考例1、比較例1〜3の、有機無機複合体の構成、金属イオンの種類、選択性維持率、耐熱温度(℃)についてまとめて表1に示す。表1では、ドメインサイズは、10nm以下を◎、10nm超過20nm以下を○、20nm超過200nm以下を△、200nm超過を×とした。また、耐熱性は、300℃以上を◎、250℃以上300℃未満を○、200℃以上250℃未満を△、200℃未満を×とした。また、選択性維持率は、0.7以上1.0以下を◎、0.5以上0.7未満を○、0.3以上0.5未満を△、0.3未満を×とした。表1に示すように、比較例1、2では、ガスの選択性維持率および耐熱温度が極めて低かった。比較例2は、シリカ粒子の添加による効果として、比較例1に比して選択性維持率及び耐熱温度が向上しているものの、その割合は低かった。比較例3では、実施例1と比べて選択性維持率及び耐熱温度は低かった。これは、ドメインサイズが大きいため、材料の機械的強度が低くなったことで、1MPaの加圧時に材料が緻密化したためと推察された。これに対して、実施例1〜5、参考例1では、ガスの選択性維持率が0.50以上と高く、且つ耐熱温度が250℃以上であり、機能性及び耐久性が向上していることがわかった。即ち、無機骨格に共有結合を介して陽イオン交換基や固定化官能基が結合した構造を有し、且つドメインサイズが20nm以下であると、機能性及び熱的安定性がより向上することがわかった。また、実際に実施例6、7にてガス透過性の評価を行った結果、エタンに比べてエチレンが選択的に透過することを確認した。
【0051】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、無機フィルタやハニカム構造体などの機能材の分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0053】
10 構造体、12 セル、14 隔壁部、14a 粗粒部、14b 細粒部、15 内表面、16 機能層、17 端面、18 シール部。
図1
図2
図3
図4