(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の粉末焼結法による成形方法では、焼結時の収縮等が原因により、焼結後の永久磁石の形状を予め設計された設計形状と厳密に同一形状とすることは非常に困難であった。従って、焼結後の永久磁石をモータに配置する場合に、永久磁石がモータに形成された収容部に挿入できない事態を防止する為、永久磁石は収容部の形状に対して小さめの形状に設計する必要がある。その結果、
図10に示すようにモータに形成された収容部101に永久磁石102を収容した場合には、収容部101と永久磁石102との間に一定間隔の隙間103が生じることとなる。この収容部101と永久磁石102との間に生じる隙間103は、モータの性能に寄与しない不要なスペースであり、できる限り小さくすることが望まれる。
【0007】
一方、焼結後の永久磁石を収容部よりもあえて大きいサイズとなるように設計し、焼結後の永久磁石の外形を切削加工して収容部の形状へと近づけることも可能であるが、その方法では製造工程が増加するとともに、歩留まりが大きく低下することとなっていた。特に永久磁石が弓型形状や蒲鉾型形状等の複雑な形状を有する場合には、その問題が大きくなる。
【0008】
本発明は前記従来における問題点を解消するためになされたものであり、高いニアネットシェイプ性について実現し、収容部内に永久磁石を設置した際に収容部と永久磁石との間に生じる隙間を減少させ
た永久磁石の製造方
法及び回転電機の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成する為に本願の請求項1に係る永久磁石の製造方法は、開口部を有する所定形状の収容部内に設置される永久磁石の製造方法であって、磁石原料を磁石粉末に粉砕する工程と、前記粉砕された磁石粉末とバインダーとが、磁石粉末とバインダーの合計量に対するバインダーの比率が1wt%〜40wt%で混合された混合物を生成する工程と、前記混合物を前記収容部に充填する工程と、前記収容部に充填されるとともに事前に非酸化性雰囲気下で加熱することにより脱バインダー処理された前記混合物を、前記開口部から一軸方向に加圧した状態で焼結する工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
また、請求項
2に係る永久磁石の製造方法は、請求項
1に記載の永久磁石の製造方法であって、前記混合物を前記収容部に充填する工程では、前記混合物を加熱溶融した状態で前記収容部に充填することを特徴とする。
【0017】
また、請求項
3に係る永久磁石の製造方法は、請求項
1に記載の永久磁石の製造方法であって、前記混合物を前記収容部に充填する工程では、前記混合物に溶媒を添加することによってスラリー状態とした後に前記収容部に充填することを特徴とする。
【0018】
また、請求項
4に係る永久磁石の製造方法は、請求項
1乃至請求項
3のいずれかに記載の永久磁石の製造方法であって、前記収容部へ充填された前記混合物に対して磁場を印加することにより磁場配向することを特徴とする。
【0019】
また、請求項
5に係る永久磁石の製造方法は、請求項
1乃至請求項
4のいずれかに記載の永久磁石の製造方法であって、前記収容部は、回転電機の固定子又は可動子に形成された収容部であることを特徴とする。
【0020】
更に、請求項
6に係る回転電機の製造方法は、請求項
5に記載の製造方法で製造された永久磁石を、前記固定子又は前記可動子に形成された前記収容部に収容することにより製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
前記構成を有する請求項1に記載の永久磁石の製造方法によれば、磁石粉末とバインダーとの混合物を収容部に充填した後に加圧して焼結するので、従来の圧粉成形等を用いる場合と比較して、焼結後の磁石形状を収容部の形状により正確に対応させた形状とすることができる。特に、収容部が複雑な形状を有する場合においても、磁石形状を収容部の形状に正確に対応させることが可能となる。即ち、高いニアネットシェイプ性を実現することが可能となる。また、焼結後の外形加工に対する負担が軽減され、生産性が大きく向上する事が期待できる。また、収容部内に永久磁石を設置した際に収容部と永久磁石との間に生じる隙間を減少させる。
【0028】
また、請求項
2に記載の永久磁石の製造方法によれば、混合物を加熱溶融した状態で収容部に充填し、その後に焼結を行うので、収容部が複雑な形状を有する場合においても、流動性のある混合物を収容部に充填することによって、混合物を収容部の形状に正確且つ迅速に対応させた形状へと成形することが可能となる。従って、その後に焼結を行えば焼結後の永久磁石と収容部との間に生じる隙間を減少させることができる。
【0029】
また、請求項
3に記載の永久磁石の製造方法によれば、混合物をスラリー状態で収容部に充填し、その後に焼結を行うことにより製造されるので、収容部が複雑な形状を有する場合においても、混合物を特に流動性の高い状態にして収容部に充填することによって、混合物を収容部の形状により正確に対応させた形状へと成形することが可能となる。従って、その後に焼結を行えば焼結後の永久磁石と収容部との間に生じる隙間を減少させることができる。
【0030】
また、請求項
4に記載の永久磁石の製造方法によれば、磁石粉末とバインダーとを混合した混合物に対して磁場配向を行うので、圧粉成形等を用いる場合と比較して、配向後に磁石粒子が回動することも無く、配向度についても向上させることが可能となる。
また、混合物に対して磁場配向を行う場合には、電流のターン数を利用できるため磁場配向を行う際の磁場強度を大きく確保することができ、且つ静磁場で長時間の磁場印加を施せるので、バラつきの少ない高い配向度を実現することが可能となる。
【0031】
また、請求項
5に記載の永久磁石の製造方法によれば、製造された永久磁石を、IPMモータ等の永久磁石を内部に埋め込む構造を有する回転電機に設置する場合において、収容部と永久磁石との間に生じる不要な隙間を減少させる。従って、同じ形状の収容部に対して収容する永久磁石の体積をより大きくすることができ、従来に比べてモータの高トルク化、発電機の発電力の向上、小型軽量化を実現することが可能となる。
【0032】
更に、請求項
6に記載の回転電機の製造方法によれば、収容部と永久磁石との間に生じる不要な隙間を減少させる。従って、同じ形状の収容部に対して収容する永久磁石の体積をより大きくすることができ、従来に比べてモータの高トルク化、発電機の発電力の向上、小型軽量化を実現することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係
る永久磁石の製造方
法及び回転電機の製造方法について具体化した一実施形態について以下に図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0035】
[永久磁石の構成]
先ず、本発明に係る永久磁石1の構成について説明する。
図1は本発明に係る永久磁石1を示した全体図である。
図1に示すように本発明に係る永久磁石1は断面弓型形状を有する永久磁石である。そして、
図2に示すように埋込磁石型のモータ(又は発電機)2のロータ3に形成された収容部(スロット)4に収容され、埋込磁石型のモータ(又は発電機)を構成する。
図2は、永久磁石1が配置された埋込磁石型のモータ(以下、IPMモータという)2を示した図である。尚、以下の実施例では永久磁石1の形状を断面弓型形状とした例について説明するが、永久磁石1の形状は配置対象となる回転電機の種別や形状等によって適宜変更可能である。例えば、扇型形状、蒲鉾型形状、直方体形状としても良い。
【0036】
また、本発明に係る永久磁石1はNd−Fe−B系磁石からなる。尚、各成分の含有量はNd:27〜40wt%、B:0.8〜2wt%、Fe(電解鉄):60〜70wt%とする。また、磁気特性向上の為、Dy、Tb、Co、Cu、Al、Si、Ga、Nb、V、Pr、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Ag、Bi、Zn、Mg等の他元素を少量含んでも良い。
【0037】
また、永久磁石1は、後述のように磁石粉末とバインダーを混合した混合物を成形した成形体(グリーン成形体)によって形成される。後述のように本発明に係る永久磁石1は、磁石粉末とバインダーとが混合された混合物を成形する前に、粘土状や液体状の状態で永久磁石1の配置対象となるスロット4内に充填(注入)する。そして、スロット4に充填された状態の混合物を加圧焼結することによって、混合物がスロット4に対応する形状(例えば
図1、
図2に示す例では断面弓型形状)に成形されるとともに、混合物が焼結された永久磁石1が製造される。それによって、従来と比較してスロット4と永久磁石1との間に生じる不要な隙間を減少させることが可能となる。また、特にスロット4が複雑な形状をしていた場合であっても、永久磁石1の形状を容易且つ迅速にスロット4の形状に対応させた形状に成形することが可能となる。尚、永久磁石1の製法の詳細については後述する。
【0038】
また、本発明に係る永久磁石1は異方性磁石であり、
図3に示すように磁化容易軸(C軸)が径方向に配向されている。即ち、永久磁石1の配向は、面に対して法線方向に配向されることとなる。尚、永久磁石1の配向は、
図4に示すように磁化容易軸(C軸)を一の径方向に平行となるように配向させても良い。その場合には、永久磁石1の配向は、パラレル配向を有することとなる。
【0039】
更に、
図5に示すように、磁石表面を通過する集束軸Pに沿った一方向(
図5ではロータ外側方向)へと磁化容易軸(C軸)が集束するように配向しても良い。また、
図5に示す例では集束軸Pは、永久磁石1の中央付近を通過するように設定しているが、中央付近ではなく右側寄り又は左側寄りに設定しても良い。また、減磁し易い箇所に集束するように配向しても良い。そして、特に
図5に示すように永久磁石1を配向した場合には、永久磁石1がロータ3のスロット4に収容された場合において、ロータ3の周方向に沿って両端側から中心側へと、外側方向(即ちエアギャップ側)に磁化容易軸(C軸)が傾斜するように配向されることとなる。より具体的には、磁化容易軸が指数曲線に沿って形成されることとなる。その結果、永久磁石1がロータ3のスロット4に収容され且つ着磁された場合に、ロータ3の中心方向から外側方向(即ちエアギャップ側)へと磁石内部の磁束が集中する(即ち、磁石表面の磁束密度が高くなる)こととなる。
【0040】
また、本発明に係る永久磁石1では、後述のように磁石粉末とバインダーを混合した混合物に対して磁場を印加して配向するので、圧粉成形のように配向後に付加された圧力によって磁石粒子が回動することがなく、配向度を向上させることが可能である。また、PLP法のように磁石粉末の密度分布にばらつきが生じることがないので、ニアネットシェイプ性が向上する。
【0041】
また、本発明では特に永久磁石1を製造する場合において、磁石粉末に混合されるバインダーは、樹脂や長鎖炭化水素や脂肪酸エステルやそれらの混合物等が用いられる。
更に、バインダーに樹脂を用いる場合には、構造中に酸素原子を含まず、且つ解重合性のあるポリマーを用いるのが好ましい。また、後述のように磁石粉末とバインダーとの混合物をスロット4に充填する際に生じた混合物の残余物を再利用する為、及び混合物を加熱して軟化した状態で磁場配向を行う為に、熱可塑性樹脂が用いられる。具体的には以下の一般式(1)に示されるモノマーから選ばれる1種又は2種以上の重合体又は共重合体からなるポリマーが該当する。
【化1】
(但し、R1及びR2は、水素原子、低級アルキル基、フェニル基又はビニル基を表す)
【0042】
上記条件に該当するポリマーとしては、例えばイソブチレンの重合体であるポリイソブチレン(PIB)、イソプレンの重合体であるポリイソプレン(イソプレンゴム、IR)、1,3−ブタジエンの重合体であるポリブタジエン(ブタジエンゴム、BR)、スチレンの重合体であるポリスチレン、スチレンとイソプレンの共重合体であるスチレン−イソプレンブロック共重合体(SIS)、イソブチレンとイソプレンの共重合体であるブチルゴム(IIR)、スチレンとブタジエンの共重合体であるスチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS)、2−メチル−1−ペンテンの重合体である2−メチル−1−ペンテン重合樹脂、2−メチル−1−ブテンの重合体である2−メチル−1−ブテン重合樹脂、α−メチルスチレンの重合体であるα−メチルスチレン重合樹脂等がある。尚、α−メチルスチレン重合樹脂は柔軟性を与えるために低分子量のポリイソブチレンを添加することが望ましい。また、バインダーに用いる樹脂としては、酸素原子を含むモノマーの重合体又は共重合体(例えば、ポリブチルメタクリレートやポリメチルメタクリレート等)を少量含む構成としても良い。更に、上記一般式(1)に該当しないモノマーが一部共重合していても良い。その場合であっても、本願発明の目的を達成することが可能である。
尚、バインダーに用いる樹脂としては、磁場配向を適切に行う為に250℃以下で軟化する熱可塑性樹脂、より具体的にはガラス転移点又は流動開始温度が250℃以下の熱可塑性樹脂を用いることが望ましい。
【0043】
一方、バインダーに長鎖炭化水素を用いる場合には、室温で固体、室温以上で液体である長鎖飽和炭化水素(長鎖アルカン)を用いるのが好ましい。具体的には炭素数が18以上である長鎖飽和炭化水素を用いるのが好ましい。そして、後述のように磁石粉末とバインダーとの混合物を磁場配向する際には、混合物を長鎖炭化水素のガラス転移点又は流動開始温度以上で加熱して軟化した状態で磁場配向を行う。
【0044】
また、バインダーに脂肪酸エステルを用いる場合においても同様に、室温で固体、室温以上で液体であるステアリン酸メチルやドコサン酸メチル等を用いるのが好ましい。そして、後述のように磁石粉末とバインダーとの混合物を磁場配向する際には、混合物を脂肪酸エステルの流動開始温度以上で加熱して軟化した状態で磁場配向を行う。
【0045】
磁石粉末に混合されるバインダーとして上記条件を満たすバインダーを用いることによって、磁石内に含有する炭素量及び酸素量を低減させることが可能となる。具体的には、焼結後に磁石に残存する炭素量を2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下とする。また、焼結後に磁石に残存する酸素量を5000ppm以下、より好ましくは2000ppm以下とする。
【0046】
また、バインダーの添加量は、スラリーや加熱溶融したコンパウンドを成形する際に成形体の厚み精度を向上させる為に、磁石粒子間の空隙を適切に充填する量とする。例えば、磁石粉末とバインダーの合計量に対するバインダーの比率が、1wt%〜40wt%、より好ましくは2wt%〜30wt%、更に好ましくは3wt%〜20wt%とする。
【0047】
[回転電機の構成]
また、上記永久磁石1がロータ3のスロット4に収容される埋込磁石型のIPMモータ2は、
図2に示すようにステータ6と、ステータ6の内側で回転自在に配置されたロータ3とから基本的に構成される。
【0048】
また、ステータ6は、電磁鋼板等の磁性材料からなるステータコア7と、ステータコア7に巻装された複数の巻線8とから基本的に構成される。更に、ステータコア7は、円環状のヨークと、ヨークから径方向外側に突出する複数のティースからなり、巻線8はティースに巻き付けられている。尚、巻線8の巻装形態には、集中巻き方式と分布巻き方式がある。集中巻き方式とは、ティース毎に巻線8が巻装される形態であり、分布巻き方式とは、複数のティースに跨って巻線8が巻装される形態である。
【0049】
一方、ロータ3には、永久磁石1が収容されるスロット4が形成される。スロット4は、ロータ3の軸方向に沿って永久磁石1と対応する形状(例えば断面弓型形状)に複数(
図2では4個)形成され、ロータ3の軸方向の一面に対して永久磁石1を挿入する為の開口部9を備える。尚、スロット4の端部にはフラックスバリアとして空隙を形成しても良い。そして、スロット4内には上述した永久磁石1が配置される。ここで、
図6はロータ3の特にスロット4周辺を拡大して示した拡大図である。
【0050】
本発明に係る永久磁石1は、磁石粉末とバインダーとが混合された混合物を成形する前に、粘土状や液体状の状態でスロット4に充填される。そして、スロット4に充填した混合物を、開口部9から一軸方向に加圧した状態で焼結することにより製造される。従って、従来と比較して焼結後の永久磁石1とスロット4との間には、ほとんど隙間が生じることがない。また、焼結後の永久磁石1は、スロット4に対して固定する為の部材を別途用いることなくスロット4に対してある程度の強度で固定することができる。尚、スロット4に充填された充填剤を介して永久磁石1をスロット4に固定しても良い。充填剤としては、例えば、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂を用いることができる。
【0051】
また、本発明に係る永久磁石1は異方性磁石であり、例えば
図3〜
図5に示す方向に磁化容易軸(C軸)が揃うように配向される。その結果、永久磁石1がロータ3のスロット4に収容され、永久磁石1のC軸方向に平行に磁場を印加し着磁を行った場合には、IPMモータ2を実現する為の磁場を形成することが可能となる。
【0052】
一方、ロータ3の中央には、ロータ3に一端が固定された回転軸10を備える。そして、回転軸10はロータ3が回転するとロータ3の回転に伴って回転するように構成される。
【0053】
そして、上記構成を有するIPMモータ2において、ステータ6の巻線8に電流を印加すると、ロータ3とステータ6との間に磁気による吸引力と反発力が生じ、回転軸10を中心にロータ3が回転する。
【0054】
[永久磁石及び永久磁石を用いた回転電機の製造方法]
次に、本発明に係る永久磁石1及び永久磁石1を用いた回転電機の製造方法について
図7及び
図8を用いて説明する。
図7及び
図8は本実施形態に係る永久磁石1及び永久磁石1を用いた回転電機の製造工程を示した説明図である。
【0055】
先ず、所定分率のNd−Fe−B(例えばNd:32.7wt%、Fe(電解鉄):65.96wt%、B:1.34wt%)からなる、インゴットを製造する。その後、インゴットをスタンプミルやクラッシャー等によって200μm程度の大きさに粗粉砕する。若しくは、インゴットを溶解し、ストリップキャスト法でフレークを作製し、水素解砕法で粗粉化する。それによって、粗粉砕磁石粉末15を得る。
【0056】
次いで、粗粉砕磁石粉末15をビーズミル16による湿式法又はジェットミルを用いた乾式法等によって微粉砕する。例えば、ビーズミル16による湿式法を用いた微粉砕では溶媒中で粗粉砕磁石粉末15を所定範囲の粒径(例えば0.1μm〜5.0μm)に微粉砕するとともに溶媒中に磁石粉末を分散させる。その後、湿式粉砕後の溶媒に含まれる磁石粉末を真空乾燥などで乾燥させ、乾燥した磁石粉末を取り出す。また、粉砕に用いる溶媒の種類に特に制限はなく、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールなどのアルコール類、酢酸エチル等のエステル類、ペンタン、ヘキサンなどの低級炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなど芳香族類、ケトン類、それらの混合物等が使用できる。尚、好ましくは、溶媒中に酸素原子を含まない溶媒が用いられる。
【0057】
一方、ジェットミルによる乾式法を用いた微粉砕では、粗粉砕した磁石粉末を、(a)酸素含有量が実質的に0%の窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気中、又は(b)酸素含有量が0.0001〜0.5%の窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気中で、ジェットミルにより微粉砕し、所定範囲の粒径(例えば0.7μm〜5.0μm)の平均粒径を有する微粉末とする。尚、酸素濃度が実質的に0%とは、酸素濃度が完全に0%である場合に限定されず、微粉の表面にごく僅かに酸化被膜を形成する程度の量の酸素を含有しても良いことを意味する。
【0058】
次に、ビーズミル16等で微粉砕された磁石粉末にバインダーを混合することにより、磁石粉末とバインダーからなる粘土状の混合物(コンパウンド)17を作製する。ここで、バインダーとしては、上述したように樹脂や長鎖炭化水素や脂肪酸エステルやそれらの混合物等が用いられる。例えば、樹脂を用いる場合には構造中に酸素原子を含まず、且つ解重合性のあるポリマーからなる熱可塑性樹脂を用い、一方、長鎖炭化水素を用いる場合には、室温で固体、室温以上で液体である長鎖飽和炭化水素(長鎖アルカン)を用いるのが好ましい。また、脂肪酸エステルを用いる場合には、ステアリン酸メチルやドコサン酸メチル等を用いるのが好ましい。また、バインダーの添加量は、上述したように添加後のコンパウンド17における磁石粉末とバインダーの合計量に対するバインダーの比率が、1wt%〜40wt%、より好ましくは2wt%〜30wt%、更に好ましくは3wt%〜20wt%となる量とする。
【0059】
また、上記コンパウンド17には、後に行われる磁場配向工程での配向度を向上させる為に配向を助長する添加剤を添加しても良い。配向を助長する添加剤としては例えば炭化水素系の添加剤が用いられ、特に極性を有する(具体的には酸解離定数pKaが41未満の)添加剤を用いるのが望ましい。また、添加剤の添加量は磁石粉末の粒子径に依存し、磁石粉末の粒子径が小さい程、添加量を多くする必要がある。具体的な添加量としては、磁石粉末に対して0.1部〜10部、より好ましくは1部〜8部とする。そして、磁石粉末に添加された添加剤は、磁石粒子の表面に付着し、後述の磁場配向処理において、磁石粒子の回動を補助する役目を有する。その結果、磁場を印加した際に配向が容易に行われ、磁石粒子の磁化容易軸方向を同一方向に揃えること(即ち、配向度を高くすること)が可能となる。特に、磁石粉末にバインダーを添加する場合には、粒子表面にバインダーが存在するため、配向時の摩擦力が上がり、粒子の配向性が低下する為、添加剤を添加する効果がより大きくなる。
【0060】
尚、バインダーの添加は、窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気で行う。尚、磁石粉末とバインダーの混合は、例えば磁石粉末とバインダーをそれぞれ攪拌機に投入し、攪拌機で攪拌することにより行う。また、混練性を促進する為に加熱攪拌を行っても良い。また、磁石粉末とバインダーの混合は、窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気で行うことが望ましい。また、特に磁石粉末を湿式法で粉砕した場合においては、粉砕に用いた溶媒から磁石粉末を取り出すことなくバインダーを溶媒中に添加して混練し、その後に溶媒を揮発させ、後述のコンパウンド17を得る構成としても良い。
【0061】
続いて、生成されたコンパウンド17を、ノズル19等を用いてロータ3に形成されたスロット4内に充填する。尚、コンパウンド17のスロット4への充填は、常温の粘度状や粉末状の状態で行っても良いし、コンパウンド17を加熱することによりコンパウンド17を溶融し、流体状にしてからスロット4内に注入することにより行っても良い。更に、コンパウンド17に溶媒を添加することによってスラリー状態とし、スラリー状態のコンパウンド17をスロット4内に注入することにより行っても良い。
【0062】
尚、コンパウンド17を加熱溶融してスロット4に充填した場合には、充填後に放熱して凝固させる。また、コンパウンド17を加熱溶融する際の温度は、用いるバインダーの種類や量によって異なるが50〜300℃とする。但し、用いるバインダーの流動開始温度よりも高い温度とする必要がある。一方、コンパウンド17をスラリー状にしてスロット4に充填した場合には、充填後に乾燥して溶媒を揮発させる。また、コンパウンド17の充填を行う際には、消泡剤を用いたり、加熱真空脱泡を行うこと等によってスロット4内に充填されたコンパウンド17中に気泡が残らないよう充分に脱泡処理することが好ましい。
【0063】
次に、スロット4内に充填されたコンパウンド17に対して磁場を印加することにより磁場配向を行う。具体的には、先ずスロット4内に充填されたコンパウンド17を加熱することによりコンパウンド17を軟化させる。具体的には、コンパウンド17の粘度が1〜1500Pa・s、より好ましくは1〜500Pa・sとなるまで軟化させる。それによって、磁場配向を適切に行わせることが可能となる。
【0064】
尚、コンパウンド17を加熱する際の温度及び時間は、用いるバインダーの種類や量によって異なるが、例えば100〜250℃で0.1〜60分とする。但し、コンパウンド17を軟化させる為に、用いるバインダーのガラス転移点又は流動開始温度以上の温度とする必要がある。次に、加熱により軟化したコンパウンド17に対して磁場を印加することにより磁場配向を行う。例えば、
図7に示すようにロータ3の周囲にスロット4の数に応じた磁場コイル20を配置し、各磁場コイル20に電流を流すことによって、磁場を生じさせることが可能となる。尚、磁場コイル20の代わりに電磁石を用いても良い。また、印加する磁場の強さは5000[Oe]〜150000[Oe]、好ましくは、10000[Oe]〜120000[Oe]とする。その結果、コンパウンド17に含まれる磁石結晶のC軸(磁化容易軸)が一方向に配向される。
【0065】
更に、コンパウンド17に磁場を印加する際には、加熱工程と同時に磁場を印加する工程を行う構成としても良いし、加熱工程を行った後であってコンパウンド17が凝固する前に磁場を印加する工程を行うこととしても良い。また、コンパウンド17を加熱溶融してスロット4内に充填した場合には、充填されたコンパウンド17が凝固する前に磁場配向する構成としても良い。その場合には、磁場配向時の加熱工程は不要となる。
【0066】
続いて、ロータ3のスロット4内に充填されたコンパウンド17を、スロット4に収容された状態で焼結する焼結処理を行う。尚、コンパウンド17の焼結方法としては、真空中での無加圧焼結、一軸方向に加圧した状態で焼結する一軸加圧焼結、2軸方向に加圧した状態で焼結する2軸加圧焼結、等方に加圧した状態で焼結する等方加圧焼結等がある。本発明では、特にコンパウンド17を開口部9から一軸方向に加圧した状態で焼結する一軸加圧焼結を用いる。尚、加圧方向はロータ3の軸方向に対して平行な方向(即ち、スロット4に対するコンパウンド17の充填方向)とする。また、加圧焼結としては、例えば、ホットプレス焼結、熱間静水圧加圧(HIP)焼結、超高圧合成焼結、ガス加圧焼結、放電プラズマ(SPS)焼結等がある。但し、一軸方向に加圧可能であって且つ通電焼結により焼結するSPS焼結を用いることが好ましい。尚、コンパウンド17を加圧する際には、例えば、スロット4の開口部9の形状と同形状のパンチで、開口部9からスロット4に収容されたコンパウンド17をロータ3の軸方向に押圧することにより行う。
尚、SPS焼結で焼結を行う場合には、加圧値を例えば0.01MPa〜100MPaとし、数Pa以下の真空雰囲気で940℃まで10℃/分で上昇させ、その後5分保持することが好ましい。その後冷却し、再び300℃〜1000℃で2時間熱処理を行う。そして、焼結の結果、製品形状(例えば
図1に示す断面弓型形状)へと成形されたコンパウンド17の焼結体31が製造される。
【0067】
また、コンパウンド17を焼結する前に、大気圧、又は大気圧より高い圧力や低い圧力(例えば、1.0Paや1.0MPa)に加圧した非酸化性雰囲気(特に本発明では水素雰囲気又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気)においてバインダー分解温度で数時間〜数十時間(例えば5時間)保持することにより仮焼処理を行うことが望ましい。水素雰囲気下で行う場合には、例えば仮焼中の水素の供給量は5L/minとする。仮焼処理を行うことによって、バインダー等の有機化合物を解重合反応等によりモノマーに分解し飛散させて除去することが可能となる。即ち、コンパウンド17中の炭素量を低減させる所謂脱カーボンが行われることとなる。また、仮焼処理は、コンパウンド17中の炭素量が2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下とする条件で行うこととする。それによって、その後の焼結処理でコンパウンド17の全体を緻密に焼結させることが可能となり、残留磁束密度や保磁力の低下を抑制する。また、上述した仮焼処理を行う際の加圧条件を大気圧より高い圧力で行う場合には、15MPa以下とすることが望ましい。尚、加圧条件は大気圧より高い圧力、より具体的には0.2MPa以上とすれば特に炭素量軽減の効果が期待できる。
【0068】
尚、バインダー分解温度は、バインダー分解生成物および分解残渣の分析結果に基づき決定する。具体的にはバインダーの分解生成物を補集し、モノマー以外の分解生成物が生成せず、かつ残渣の分析においても残留するバインダー成分の副反応による生成物が検出されない温度範囲が選ばれる。バインダーの種類により異なるが200℃〜900℃、より好ましくは400℃〜600℃(例えば450℃)とする。
【0069】
また、上記仮焼処理は、一般的な磁石の焼結を行う場合と比較して、昇温速度を小さくするのが好ましい。具体的には、昇温速度を2℃/min以下(例えば1.5℃/min)とする。従って、仮焼処理を行う場合には、
図9に示すように2℃/min以下の所定の昇温速度で昇温し、予め設定された設定温度(バインダー分解温度)に到達した後に、該設定温度で数時間〜数十時間保持することにより仮焼処理を行う。上記のように仮焼処理において昇温速度を小さくすることによって、コンパウンド17中の炭素が急激に除去されず、段階的に除去されるので、焼結後の永久磁石の密度を上昇させる(即ち、永久磁石中の空隙を減少させる)ことが可能となる。そして、昇温速度を2℃/min以下とすれば、焼結後の永久磁石の密度を95%以上とすることができ、高い磁石特性が期待できる。
【0070】
また、仮焼処理によって仮焼されたコンパウンド17を続いて真空雰囲気で保持することにより脱水素処理を行っても良い。脱水素処理では、仮焼処理によって生成されたコンパウンド17中のNdH
3(活性度大)を、NdH
3(活性度大)→NdH
2(活性度小)へと段階的に変化させることによって、仮焼処理により活性化されたコンパウンド17の活性度を低下させる。それによって、仮焼処理によって仮焼されたコンパウンド17をその後に大気中へと移動させた場合であっても、Ndが酸素と結び付くことを防止し、残留磁束密度や保磁力の低下を抑制する。また、磁石結晶の構造をNdH
2等からNd
2Fe
14B構造へと戻す効果も期待できる。
【0071】
その後、ロータ3のスロット4に収容されている焼結体31に対してC軸に沿って着磁を行う。具体的には、ロータ3に収容された複数の焼結体31について、ロータ3の周方向に沿って、N極とS極とが交互に配置されるように着磁を行う。その結果、永久磁石1を製造することが可能となる。尚、焼結体31の着磁には、例えば着磁コイル、着磁ヨーク、コンデンサー式着磁電源装置等が用いられる。
【0072】
その後、ステータ6や回転軸10等のロータ3以外の部材を組み付けることによりIPMモータ2が製造される。
【0073】
以上説明したように、本実施形態に係る永久磁石1及び永久磁石1の製造方法では、磁石原料を磁石粉末に粉砕し、粉砕された磁石粉末とバインダーとを混合することによりコンパウンド17を生成する。そして、生成したコンパウンド17をロータ3に形成されたスロット4内に充填する。その後、スロット4内に充填されたコンパウンド17に対して磁場を印加することにより磁場配向を行い、更に、一軸方向に加圧した状態で焼結することにより永久磁石1を製造する。その結果、従来の圧粉成形等を用いる場合と比較して、焼結後の磁石形状をスロット4の形状により正確に対応させた形状とすることができる。特に、スロット4が複雑な形状を有する場合においても、磁石形状をスロット4の形状に正確に対応させることが可能となる。即ち、高いニアネットシェイプ性を実現することが可能となる。また、焼結後の外形加工に対する負担が軽減され、生産性が大きく向上する事が期待できる。また、スロット4内に永久磁石1を設置した際にスロット4と永久磁石1との間に生じる隙間を減少させる。
また、コンパウンド17を加熱溶融した状態でスロット4に充填し、その後に焼結を行うこととすれば、スロット4が複雑な形状を有する場合においても、流動性のあるコンパウンド17をスロット4に充填することによって、コンパウンド17をスロット4の形状に正確且つ迅速に対応させた形状へと成形することが可能となる。従って、その後に焼結を行えば焼結後の永久磁石1とスロット4との間に生じる隙間を減少させることができる。
また、コンパウンド17をスラリー状態でスロット4に充填し、その後に焼結を行うこととすれば、スロット4が複雑な形状を有する場合においても、コンパウンド17を特に流動性の高い状態にしてスロット4に充填することによって、混合物をスロット4の形状により正確に対応させた形状へと成形することが可能となる。
また、磁石粉末とバインダーとを混合した混合物に対して磁場配向を行うので、圧粉成形等を用いる場合と比較して、配向後に磁石粒子が回動することも無く、配向度についても向上させることが可能となる。
また、混合物に対して磁場配向を行う場合には、電流のターン数を利用できるため磁場配向を行う際の磁場強度を大きく確保することができ、且つ静磁場で長時間の磁場印加を施せるので、バラつきの少ない高い配向度を実現することが可能となる。
また、IPMモータ等の永久磁石を内部に埋め込む構造を有する回転電機に設置する場合において、スロット4と永久磁石1との間に生じる不要な隙間を減少させる。従って、同じ形状のスロット4に対して収容する永久磁石1の体積をより大きくすることができ、従来に比べてモータの高トルク化、発電機の発電力の向上、小型軽量化を実現することが可能となる。
【0074】
尚、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
例えば、磁石粉末の粉砕条件、混練条件、成形条件、磁場配向工程、仮焼条件、焼結条件などは上記実施例に記載した条件に限られるものではない。例えば、上記実施例ではビーズミルを用いた湿式粉砕により磁石原料を粉砕しているが、ジェットミルによる乾式粉砕により粉砕することとしても良い。また、仮焼を行う際の雰囲気は非酸化性雰囲気であれば水素雰囲気以外(例えば窒素雰囲気、He雰囲気等、Ar雰囲気等)で行っても良い。また、仮焼処理を省略しても良い。その場合には、焼結処理の過程で脱炭素が行われることとなる。
【0075】
また、上記実施例では、永久磁石1を断面弓型形状としているが断面弓型形状以外の形状(例えば、直方体形状、蒲鉾型形状)としても良い。尚。永久磁石1の形状がより複雑な形状である程、本発明の効果は大きくなる。
【0076】
また、永久磁石1をロータ側では無くステータ側に形成された収容部に配置する回転電機に対しても適用することが可能である。また、インナーロータ型の回転電機に限らず、アウターロータ型の回転電機にも適用可能である。更に、永久磁石1はデュアルロータ型の回転電機や永久磁石を平面状に配置したリニアモータに対しても適用可能である。また、本発明に係る永久磁石1はモータ以外に、発電機や磁気減速機等の各種回転電機、更には回転電機以外の永久磁石1を収容部に収容した各種装置に対して適用可能である。尚、本発明に係る回転電機を磁気減速機に適用する場合には、ステータ6をステータコア7や巻線8に代えて磁性材料からなる所定数の磁極片により構成する。
【0077】
また、上記実施例では、ステータコア7に巻線8を巻装したステータコア7を有する回転電機としているが、ステータコア7は磁性体以外に非磁性体により構成しても良い。更に、回転電機はステータコアを有さないコアレスモータとしても良い。その場合には、巻線8を樹脂等によりカップ状に固定したものをステータ6とする。このようなコアレスモータでは、鉄損を無くすことができるので回転電機の効率を高めることが可能となる。
【0078】
また、本発明ではNd−Fe−B系磁石を例に挙げて説明したが、他の磁石(例えばサマリウム系コバルト磁石、アルニコ磁石、フェライト磁石等)を用いても良い。また、磁石の合金組成は本発明ではNd成分を量論組成より多くしているが、量論組成としても良い。