(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557032
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】スライディングノズル用プレート耐火物
(51)【国際特許分類】
C04B 35/101 20060101AFI20190729BHJP
B22D 41/32 20060101ALI20190729BHJP
C21C 5/46 20060101ALI20190729BHJP
F27D 3/14 20060101ALI20190729BHJP
F27D 1/10 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
C04B35/101
B22D41/32
C21C5/46 103B
F27D3/14 C
F27D1/10
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-57481(P2015-57481)
(22)【出願日】2015年3月20日
(65)【公開番号】特開2016-175799(P2016-175799A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2018年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】余多分 智博
(72)【発明者】
【氏名】八反田 浩勝
【審査官】
小川 武
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−263664(JP,A)
【文献】
特開昭58−130157(JP,A)
【文献】
特開昭60−180950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
F27D 1/00−1/10
B22D 41/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火骨材と、結合剤と、アルミナ微粉を含むスライディングノズル用プレート耐火物であって、
前記耐火骨材は、アルミナの含有量が90質量%以上であるアルミナ骨材を含み、更に、前記耐火骨材の気孔率が10〜20%であるスライディングノズル用プレート耐火物。
【請求項2】
前記耐火骨材は、5〜50質量%含有される請求項1に記載のスライディングノズル用プレート耐火物。
【請求項3】
前記耐火骨材の粒径は、5mm〜0.1mmである請求項1又は2に記載のスライディングノズル用プレート耐火物。
【請求項4】
前記アルミナ骨材は、焼結クリンカーの破砕体、電融クリンカーの破砕体より選ばれる請求項1〜3のいずれか一項に記載のスライディングノズル用プレート耐火物。
【請求項5】
タール又はピッチが含浸されている請求項1〜4のいずれか一項に記載のスライディングノズル用プレート耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属を取鍋やタンディッシュ等の容器からノズルを経由して排出する際の、排出開始若しくは停止を含む流量制御に使用するスライディングノズル用プレート耐火物(以下、単に「プレート耐火物」とも称する)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶鋼を容器からノズルを経由して排出する際の流量制御に使用するスライディングノズルは、内孔を設けた上プレートと下プレートの2枚、またはそれに中プレートが加わった3枚のスライディングノズル用プレートを有し、これらのスライディングノズル用プレートを相対的に摺動動作させることにより、溶鋼流路である内孔の開度を調整し溶鋼の流量制御を行う。
【0003】
このようなスライディングノズル用プレートには、流量制御にあたり、相対的に摺動するプレート面間からの溶鋼の漏れを防ぐことを目的として高い圧力が負荷されており、この高圧を負荷した状態で摺動動作を行っている。このスライディングノズル用プレートと溶鋼との接触面は、溶鋼中の酸素による酸化、溶鋼中の耐火物と反応性の高い成分による化学的な溶損、溶鋼中の非金属介在物の付着と、それらによる摩耗等により損傷する。
【0004】
またスライディングノズル用プレートは、1500℃以上の溶鋼が通過する内孔周辺から常温の外周方向に向かって大きな温度分布を持つことから、その熱膨張差等により反りが生じる虞がある。この反りにより、スライディングノズル用プレート間には隙間が生じる。特に溶鋼が通過する内孔周辺では負圧になることが多く、このような隙間が生じると、外気が侵入する。従って、スライディングノズル用プレート摺動面等が外気にさらされ酸化による損傷を受ける虞がある。
【0005】
加えて、スライディングノズル用プレートは上下方向に強く圧縮された状態で開閉(摺動)動作を行うことから、特に溶鋼が通過する内孔を中心に亀裂が入りやすい。そして、生じた亀裂を通じてスライディングノズル用プレートの外部から内孔へ空気中の酸素が引き込まれ、この酸素による酸化等によりスライディングノズル用プレートの損傷がさらに大きくなる。
【0006】
このように、スライディングノズル用プレートの損傷形態としては、溶鋼流による摩耗や溶損、熱衝撃によるスポーリング亀裂、酸化や鋼中成分の浸潤に伴う摺動部の面荒れ等がある。従って、これらの損傷をバランスよく抑える耐火物をスライディングノズル用プレートに適用することが要求される。
【0007】
プレート耐火物としては、アルミナを主体とした原料を骨材として各種金属、炭化物、窒化物、炭素原料等を添加して1000℃を超えた温度で焼成した焼成アルミナカーボン質プレート耐火物や、1000℃以下で熱処理した不焼成アルミナカーボン質プレート耐火物が一般的に広く知られている。このプレート耐火物の骨材原料として、アルミナ、ムライト、ジルコニアムライト、アルミナジルコニア、スピネル、マグネシアなどが、目的とする特性に応じて組み合わせられ使用される。
【0008】
アルミナ骨材を基準として、耐熱衝撃性の向上効果が得られる骨材は、上述した骨材原料ではムライト、ジルコニアムライト、アルミナジルコニアである。ムライトおよびジルコニアムライトはSiO
2成分を含み低熱膨張率を示す。そのため、高い耐熱衝撃性向上効果が得られる。また、単斜晶ジルコニアを含むジルコニアムライトやアルミナジルコニアは、単斜晶ジルコニアが1000〜1200℃付近において相転移する際の体積収縮を利用した低熱膨張効果が得られる。加えて、耐火物組織内で粒の周囲にマイクロクラックを形成して低弾性率化することによる耐熱衝撃性向上効果が得られる。
【0009】
特許文献1は、プレート耐火物のエッジ部の欠けや摺動部のピーリングを防止するために、高強度のアルミナジルコニア原料を骨材に使用することを開示している。特許文献2は、加熱冷却サイクルを繰り返すうちにクラックが増大して組織脆化が生じることを抑制するために、ジルコニアの相転移を抑制して常温から立方晶ジルコニアの割合を増やす作用を有するイットリアを含有したアルミナ−ジルコニア−イットリア複合原料を骨材に使用することを開示している。特許文献3は、耐熱衝撃性を高めるために、アルミナジルコニア粒内のジルコニア結晶周囲にマイクロクラックを形成したアルミナジルコニア原料を骨材に使用して、マイクロクラックにより熱応力を吸収する構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭60−180950号公報
【特許文献2】特開平4−300242号公報
【特許文献3】特開平3−170366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述の従来技術には以下のような課題がある。すなわち、特許文献1が開示する高強度のアルミナジルコニア原料は、研削材として使用されている研削材用途のアルミナジルコニア粒であり、このようなアルミナジルコニア粒をそのまま使用したプレート耐火物は高弾性率・高強度となる。従って、耐熱衝撃性は低下してしまう。また、特許文献2が開示する技術では、立方晶ジルコニア含有率の上昇に伴って熱膨張率が増大するため、耐熱衝撃性向上効果は低下してしまう。また、特許文献3が開示する技術では、粒内のマイクロクラックが粒子破壊の原因になるため、プレート組織の強度低下を招いてしまう。さらに、特許文献1〜3は、アルミナジルコニアやジルコニアムライトを原料としているため、非常に高価である。
【0012】
本発明は、上記従来の事情を鑑みて提案されたものであって、適度な強度を有し、耐食性と耐熱衝撃性をバランスよく備え、かつ、製造コストを抑えることを可能としたスライディングノズル用プレート耐火物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明のスライディングノズル用プレート耐火物は、耐火骨材と、結合剤と、アルミナ微粉を含み、耐火骨材は、
アルミナの含有量が90質量%以上であるアルミナ
骨材を含み、
更に、耐火骨材の気孔率が10〜20%であることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、本発明のスライディングノズル用プレート耐火物は耐火骨材としてアルミナジルコニアやジルコニアムライトといった高価な原料を使用していない。従って、製造コストを抑えることに効果的である。また、耐火骨材に10〜20%の気孔率を持たせることで、焼成後に行うタール又はピッチ等の含浸において、耐火骨材に効果的に炭素を含有させることができる。すなわち、耐火骨材自体が溶鋼又はスラグ等に濡れにくくなり、本発明の耐食性を向上させることができる。さらに、耐火骨材に存在する気孔により、耐火骨材が熱衝撃により生じる応力を効果的に吸収でき、亀裂の進展を抑制することができる。
【0015】
本発明に含有される耐火骨材は、気孔率が10〜20%のアルミナ骨材からなる事が望ましい。また、アルミナ骨材のアルミナ含有量が90質量%以上であることが望ましい。また、本発明の耐火骨材は、プレート耐火物全質量中5〜50質量%含有されていることが望ましい。また、本発明の耐火骨材の粒径は、5mm〜0.1mmであることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
以上記載のごとく本発明のスライディングノズル用プレート耐火物によれば、耐火骨材としてアルミナジルコニアやジルコニアムライトといった高価な原料を使用しない。すなわち、製造コストを抑えることに効果的である。
【0017】
また、10〜20%の気孔率をもつ耐火骨材を使用するため、焼成後に行うタール又はピッチ等の含浸において、耐火骨材に効果的に炭素を含有させることができる。すなわち、耐火骨材自体が溶鋼又はスラグ等に濡れにくくなり、本発明のスライディングノズル用プレート耐火物の耐食性を向上させることができる。
【0018】
さらに、耐火骨材に存在する気孔により、耐火骨材が熱衝撃を効果的に吸収できるため、熱衝撃による亀裂の進展を抑制することができる。
【0019】
従って、本発明のスライディングノズル用プレート耐火物は適度な強度を有し、耐食性と耐熱衝撃性をバランスよく備え、かつ、製造コストを削減することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(a)プレート耐火物に生じる亀裂を示す写真 (b)従来の耐火骨材を使用したプレート耐火物に生じる亀裂を示すイメージ図 (c)本発明の耐火骨材を使用したプレート耐火物に生じる亀裂を示すイメージ図
【
図2】ピッチ含浸後に適当な熱処理を施した後の実施例と比較例の物理特性を表すグラフ
【
図3】熱スポーリング試験における実施例と比較例の弾性率の劣化率比較を表すグラフ
【
図4】溶損試験における実施例と比較例の切断面写真と溶損量比較を表す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のスライディングノズル用プレート耐火物は、上記したように耐火骨材と、結合剤と、アルミナ微粉とを含む。
【0022】
本発明で用いる耐火骨材は、従来から耐火物の製造に用いられている耐火骨材のうち、
アルミナ骨材、シリカ骨材、
ムライト骨材等のアルミナ−シリカ骨材、マグネシア骨材、スピネル骨材等のアルミナ−マグネシア骨材から選ばれる少なくとも1種以上を含むものが挙げられる。ここで、耐火骨材としてアルミナジルコニアやジルコニアムライトといった高価な原料を使用しないことが、製造コストを削減する観点から望ましい。
【0023】
さらに、耐火物の熱間安定性、耐食性を優れたものとすることから、アルミナ骨材を用いることが好ましい。
耐火骨材の材料としては、シャモット(Al
2O
3:40〜50質量%)、ムライト(Al
2O
3:60質量%前後)、ボーキサイト(Al
2O
3:80〜89質量%)、高純度アルミナ(Al
2O
3:90質量%以上)等が挙げられる。骨材中のアルミナの含有量が高い方が、耐食性に関して良好となることから高純度アルミナを用いることが好ましい。
【0024】
最も好ましい耐火骨材は、アルミナの含有量が90質量%以上の高純度アルミナ
のアルミナ骨材である。その中でもアルミナの含有量が99質量%以上の高純度アルミナが耐火骨材としては最も好ましいものである。例えば、Al
2O
3;99質量%以上、SiO
2;0.1質量%以下とその他工業的に含まれる不可避的な不純物からなる高純度アルミナ骨材等が挙げられる。
【0025】
ここで、本発明者らは鋭意検討の結果、耐火骨材の気孔率が10%〜20%において、熱衝撃により生じる亀裂の進展を抑制することを知見した。
図1(a)〜(c)に示すように、組織における亀裂進展のイメージ図を参照して説明する。
【0026】
プレート耐火物において、気孔率の低い従来の耐火骨材を使用すると耐火骨材は緻密で弾性率が高くなるが、熱衝撃により生じる熱応力を緩和することができない。すると、耐火骨材に到達したこの熱応力は、耐火骨材とマトリックス組織との境界に沿って伝わる。すなわち、これが亀裂の進展へと繋がってしまうものと考えられる(
図1(b))。しかし、本発明のように耐火骨材に従来よりも高い気孔率を持たせることで、耐火骨材は熱衝撃により生じる熱応力を緩和させ、これにより生じる亀裂を吸収することができる。従って、本発明は亀裂の進展を効果的に抑制することができるものと考えられる(
図1(c))。
【0027】
耐火骨材の有する気孔率は、10%未満であると亀裂の進展抑制効果が小さい。また、プレート耐火物の焼成後、ピッチ、タール等で含浸した際に、耐火骨材への炭素残留が効果的ではない。耐火骨材の有する気孔率が20%より大きくなると、耐火骨材の強度低下が起こり、使用時の熱衝撃や摩耗により、耐火骨材が割れたり損耗することが起こり得る。従って、より効果的な気孔率は12%〜17%である。なお、本明細書において気孔率とは、JIS R2205に準じて算出する見掛気孔率のことである。
【0028】
本発明の耐火骨材は、プレート耐火物全質量中5〜50質量%含有されていることが望ましい。耐火骨材の含有量が5質量%未満では、亀裂進展抑制効果が小さい。また、耐火骨材の含有量が50質量%より大きい場合、プレート用耐火物としての絶対的に必要な微粉量が不足する可能性があるため、強度低下を招き得る虞がある。
【0029】
本発明のスライディングノズル用プレート耐火物における耐火骨材は、その粒径が、5mm〜0.1mmであることが好ましい。5mmよりも大きいと坏土のまとまりが悪くなり塊が作れないことや、セグリゲーションが発生し成形性を悪化させる虞がある。また、耐火骨材の粒径が0.1mmよりも小さいと坏土の粘りが大きくなり、施工性が低下し、ひいては耐食性低下や強度低下を引き起こす虞がある。
【0030】
また、上記範囲においても、大きさの異なる骨材を組み合わせて用いることが好ましい。例えば、5mm未満3mm以上、3mm未満1mm以上、1mm未満0.1mm以上のように大きさの異なるカテゴリーに分け、これらをそれぞれ適宜組み合わせて用いることができる。なお、本明細書において粒度とは、JIS R2552に準じて測定された値をいう。
【0031】
耐火骨材の製造方法としては、特に制限されないが、焼結クリンカーまたは電融クリンカーの塊から破砕により得る方法、所定の含有量となるように調合された原料をアーク電気炉などで溶解し出湯時に高速のエアー等で細粒化する方法(以下、溶融法と称す)や、調整された原料を噴霧粒子化し焼結する方法などが挙げられる。
【0032】
次に、本発明で用いるアルミナ微粉は、従来、耐火物用粉体組成物に用いられているアルミナ微粉であればよく、それ自体の凝集力が強く、耐火物用粉体組成物を耐火物とする際に硬化を促進する作用を有するものである。このとき、アルミナ微粉は、その凝集により耐火物の硬化を促進する観点から、平均粒径が10μm未満のものを用いることができ、5μm未満であることが好ましい。
【0033】
これら成分に、さらにシリカ微粉を添加することもできる。このとき、シリカ微粉は、従来、耐火物用粉体組成物に用いられているシリカ微粉であればよく、アルミナ微粉とシリカ微粉を併用することにより、より粉体組成物の硬化を促進することができる。このシリカ微粉としては、その平均粒径が10μm未満であることが好ましく、1μm未満であることがより好ましい。
【0034】
また、同様に、アルミナ微粉にカーボンを併用したり、アルミナ微粉にマグネシア微粉を併用する事もできる。
【0035】
さらに、上記の成分に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で、適宜、酸化防止剤や機能的強度を向上させるための金属等を使用することができる。
【0036】
ここで用いることができる酸化防止剤としては、ZrC、TiC、SiC、B
4Cなどの炭化物、TiB
2、ZrB
2、AlB
2などの硼化物、AlN、Si
3N
4などの窒化物を挙げることができる。機能的強度を向上させる金属としては、Al、Si、Niや、Al−Mg合金、Al−Si合金などを挙げることができる。
【0037】
本発明のスライディングノズル用プレート耐火物で用いられる結合剤は、特に限定されないが、タールやフェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂を使用することが望ましい。
【0038】
本発明のスライディングノズル用プレート耐火物は、上記各原料を所定の割合で調整した後、混練し、スライディングノズル用プレートの型に入れ成形し、乾燥後、熱処理することにより製造することができる。ここで、乾燥温度は100℃〜300℃の範囲内が望ましい。また、熱処理温度は1000℃以下の不焼成でも、1000℃より高い温度での焼成であっても良い。
【0039】
さらに、熱処理後、プレート耐火物の気孔に炭素を導入するためピッチ含浸を行うことが望ましい。これにより、プレート耐火物は溶融スラグとの濡れ性が悪くなるため、耐食性の向上に繋がる。また、本発明に使用する耐火骨材は10%〜20%の気孔率を有するため、より効率よく炭素を導入することができる。
【0040】
[実施例および比較例]
耐火骨材として表1に示す化学組成、物理特性の高純度アルミナ、アルミナ微粉、結合剤としてフェノール樹脂を配合し、常温で約30分間混練した後、一軸プレスを用いてプレート形状に成形したものを、150℃で約60分間乾燥後、温度を250℃〜1500℃で熱処理をし、プレート耐火物を得た。
【0041】
さらに、上記によって得られたプレート耐火物にピッチ含浸を行う。すなわち、プレート耐火物を含浸槽に挿入の後、真空状態にて加熱されたピッチを含浸槽に充填する。その後、含浸槽内を加圧し、所定時間保持の上、含浸槽内のピッチを排出した状態で含浸槽内を徐々に冷却して、プレート耐火物を取り出し、実施例および比較例のプレート耐火物を作成した。
【0043】
表1は、実施例と比較例で使用する耐火骨材の化学組成、及び物理特性を示す。実施例と比較例との違いは、この耐火骨材の物理特性にある。すなわち、実施例で使用する耐火骨材の見掛気孔率と比較例で使用する耐火骨材の見掛気孔率との違いであり、実施例は比較例のおよそ9倍高い割合となっている。
【0044】
図2は実施例と比較例のプレート耐火物をピッチ含浸後に適当な熱処理を施した後の物性値を表したものである。(a)は見掛気孔率をJIS R2205に基づき測定し、(b)は曲げ強さをJIS R2213に基づき測定し、(c)は圧縮強さをJIS R2206に基づき測定した。
【0045】
図2より、実施例は、曲げ強さ及び圧縮強さにおいて比較例より優れた効果を示したことがわかる。すなわち、本発明のスライディングノズル用プレート耐火物は耐熱衝撃性に優れていることを証明した。
【0046】
また、ピッチ含浸後における実施例のプレート耐火物全体の見掛気孔率は、比較例のプレート耐火物全体の見掛気孔率のおよそ1.6倍である。これは、ピッチ含浸前の実施例で使用する耐火骨材の見掛気孔率が、比較例で使用する耐火骨材の見掛気孔率のおよそ9倍であったことを考えると、比較例に比べて実施例にはより多くの炭素が耐火骨材に捉えられたと考えられる。すなわち、本発明のスライディングノズル用プレート耐火物はピッチ含浸後において、溶融スラグに濡れにくくなり、耐食性に優れていることを証明した。
【0047】
図3は、実施例及び比較例のプレート耐火物における含浸及び熱処理後の熱スポーリング試験の結果である。ここで熱スポーリング試験として、実施例と比較例の弾性率の劣化試験を実施した。
【0048】
弾性率の劣化試験では、実施例及び比較例のプレート耐火物を1400℃の電気炉に20分挿入した後20分空冷するサイクルを5回繰り返し、各々のサイクルにおける空冷後の弾性率を測定した。
図3で示す黒丸が実施例、白丸が比較例を表している。
図3から理解できるように、実施例のプレート耐火物は比較例のプレート耐火物よりも耐熱スポーリング性に優れていた。
【0049】
図4は、実施例及び比較例のプレート耐火物の耐食性試験の結果である。ここで耐食性試験として、スライディングノズルプレートの酸素洗浄時のFeOによる溶損を想定した酸素洗浄試験を実施した。
【0050】
酸素洗浄試験では、50rpmで回転させた実施例及び比較例のプレート耐火物に酸素圧力0.9Mpaで160NL/minの酸素を約60分酸素パイプで吹き込み、2000℃以上の高温下で耐食性を評価した。
図4は、実施例と比較例の酸素洗浄試験後の切断面を観察した写真である。
図4において、溶損寸法とは試験終了後の各プレート耐火物の侵食された大きさ(
図4のxの寸法)を意味し、溶損指数とは比較例の侵食量を100とする指数を意味する。溶損指数は、この数値が小さいものほど耐食性に優れることを示す。
【0051】
図4から理解できるように、実施例は比較例よりも溶損量が18%減少している。すなわち、実施例のプレート耐火物は、比較例のプレート耐火物よりも耐溶損性に優れていることを証明した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のスライディングノズル用プレート耐火物は、耐熱衝撃性と耐食性をバランス良く兼ね備えるものであり、鉄鋼業における有用性は極めて高い。