特許第6557045号(P6557045)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557045
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】円すいころ軸受の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20190729BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20190729BHJP
   F16C 43/04 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   F16C33/66 A
   F16C19/36
   F16C43/04
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-85161(P2015-85161)
(22)【出願日】2015年4月17日
(65)【公開番号】特開2016-205466(P2016-205466A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】西脇 英司
【審査官】 星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−147470(JP,A)
【文献】 特開2003−113844(JP,A)
【文献】 特開2004−217056(JP,A)
【文献】 特開平02−256921(JP,A)
【文献】 特開2003−314568(JP,A)
【文献】 特開2005−172113(JP,A)
【文献】 特開2005−009533(JP,A)
【文献】 特開2008−261458(JP,A)
【文献】 特開2010−106974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/66
F16C 43/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にテーパ状の内輪軌道面を有する内輪と、内周面にテーパ状の外輪軌道面を有する外輪と、前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間を転動する複数の円すいころと、前記複数の円すいころを保持する保持器とを備え、軸受内部空間に固形潤滑剤が充填されてなる円すいころ軸受の製造方法であって、
前記内輪と前記円すいころと前記保持器とを組み合わせた状態とし、これに内周面両端部の面取り部を有さない外輪模範と、封入治具とを組み付けて、軸受内部空間を密封する工程と、
前記密封された空間全体に前記固形潤滑剤の固形化前の材料を充填する工程と、
前記充填された材料を固形化する工程と、
前記封入治具および前記外輪模範を取り外す工程と、
得られた前記内輪、前記円すいころ、前記保持器、および前記固形潤滑剤からなる部材に前記外輪を組み付ける工程と、を備えてなることを特徴とする円すいころ軸受の製造方法。
【請求項2】
前記外輪模範が前記封入治具の一部として、該封入治具に一体に形成されていることを特徴とする請求項1記載の円すいころ軸受の製造方法。
【請求項3】
前記外輪の軌道面の軸方向断面が中高形状であり、前記外輪模範の軌道面の軸方向断面が、直線形状または中低形状であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の円すいころ軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転動体として円すいころを用いた円すいころ軸受の製造方法に関し、特に軸受内部空間に固形潤滑剤を充填した円すいころ軸受の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円すいころ軸受は、自動車や産機用の動力伝達系などの高負荷用軸受として広く使用されている。円すいころ軸受では、剛性、回転精度などの向上のために予圧をかけて用いられる。従来の一般的な円すいころ軸受の構造を図6に基づいて説明する。図6に示すように、円すいころ軸受11は、外周面にテーパ状の軌道面12aを有する内輪12と、内周面にテーパ状の軌道面13aを有する外輪13と、内輪12の軌道面12aと外輪13の軌道面13aとの間を転動する複数の円すいころ14と、各円すいころ14をポケット部で転動自在に保持する保持器15とを備えている。保持器15は、大径リング部と小径リング部とを複数の柱部で連結してなり、柱部同士の間のポケット部に円すいころ14を収納している。内輪12の大径側端部に大鍔12bを、小径側端部に小鍔12cをそれぞれ一体形成している。円すいころ軸受における内輪は、テーパ状の軌道面を有することから軸方向に見て小径側と大径側とがあり、「小鍔」は小径側端部に設けられた鍔であり、「大鍔」は大径側端部に設けられた鍔である。荷重が作用した場合には、円すいころ14が大径側に押圧され、大鍔12bでこの荷重を受ける。また、軸受を各種装置に組み込むまでの間に、円すいころ14が小径側に脱落することを小鍔12cで防止する。
【0003】
円すいころが使用される機器の小型化や高性能化に伴ない、該円すいころ軸受の使用環境も年々厳しくなっており、例えば、負荷容量の増大や長寿命化が要求されている。従来、高負荷容量化のために、内輪小鍔をなくして円すいころの長さを延長したものとして、円すいころ軸受における保持器を固形グリース(固形潤滑剤)で形成したものが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1では、通常の保持器に代えて、円すいころ相互間に充填されて各円すいころを保持すると共に内輪に対して軸線方向に係合する円すい筒状の固形グリース製保持器を使用している。また、このような円すいころ軸受は、通常、固形化前の流動状態の固形潤滑剤材料を封入治具などを利用して実機となる軸受の軸受内部空間に直接封入し、軸受内部で加熱や冷却により固形化して製造している(特許文献2参照)。
【0004】
固形潤滑剤を封入した円すいころ軸受は、固形潤滑剤より潤滑油が徐放されるため、長期にわたって良好な潤滑作用が期待できる。また、転走面近くに潤滑剤が存在できるため、単なるグリース潤滑と比較してより潤滑油が転走面に供給されやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−157311号公報
【特許文献2】特開平9−94893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のような固形潤滑剤が軸受内部空間に充填された円すいころ軸受(フルパック)を上記の特許文献2のような製造方法で製造した場合の例を図7に示す。内輪22と、外輪23と、複数の円すいころ24と、保持器25とを組み合わせて円すいころ軸受(固形潤滑剤なし)を構成し、該軸受の軸方向両端部に金型となる2つの封入治具29を配置して、軸受内部空間を密封する。この状態で、固形潤滑剤の充填口29aまたは29bより、内外輪間の軸受内部空間(封入治具によって形成される一部外部空間を含む)の全体に固形潤滑剤材料26’を充填する。ここで、外輪23は、軌道面23aの両側に位置する内周面両端部に面取り部23bを有する。このため、固形潤滑剤材料26’の充填時において、この面取り部23bと封入治具29との間にも材料が入り込み、固形化後において、この部分が固形潤滑剤26のバリ26bとして残る。なお、図中の29aおよび29bのうち、上記充填口としない方は、充填時に余剰分の固形潤滑剤材料26’を封入治具外部に排出する逃げ口となる。
【0007】
円すいころ軸受は、玉軸受、円筒ころ軸受などと異なり、取扱い上、内輪と外輪を分離させる必要がある。上記のような製造方法により得られる円すいころ軸受21において、外輪23の面取り部23bにバリ26bが存在すると、外輪23を固形潤滑26を含む内輪側の部材から分離することが不可能または困難となる。また、バリ26bが外輪23の面取り部23bと摺接するため、固形潤滑剤26と外輪23との接触面積が大きくなり、運転時の熱や回転トルクが増大するおそれがある。さらに、バリ26bが運転時に脱落する等のおそれもある。このため、固形潤滑剤26の固形化後に、後処理としてバリ26bの除去工程が必要となる場合がある。
【0008】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、固形潤滑剤を充填した円すいころ軸受において、その製造時に外輪が分離困難となるようなバリを発生させず、作業工程の削減が図れる円すいころ軸受の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の円すいころ軸受の製造方法は、外周面にテーパ状の内輪軌道面を有する内輪と、内周面にテーパ状の外輪軌道面を有する外輪と、上記内輪軌道面と上記外輪軌道面との間を転動する複数の円すいころとを備え、軸受内部空間に固形潤滑剤が充填されてなる円すいころ軸受の製造方法であって、(1)上記内輪と上記円すいころと上記保持器とを組み合わせた状態とし、これに内周面両端部の面取り部を有さない外輪模範と、封入治具とを組み付けて、軸受内部空間を密封する工程と、(2)上記密封された空間全体に上記固形潤滑剤の固形化前の材料を充填する工程と、(3)上記充填された材料を固形化する工程と、(4)上記封入治具と上記外輪模範を取り外す工程と、(5)得られた上記内輪、上記円すいころ、上記保持器、および上記固形潤滑剤からなる部材に上記外輪を組み付ける工程と、を備えてなることを特徴とする。
【0010】
上記外輪模範が上記封入治具の一部として、該封入治具に一体に形成されていることを特徴とする。
【0011】
上記外輪の軌道面の軸方向断面が中高形状であり、上記外輪模範の軌道面の軸方向断面が、直線形状または中低形状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の円すいころ軸受の製造方法は、(1)内輪と円すいころと保持器とを組み合わせた状態で、これに内周面両端部の面取り部を有さない外輪模範と、封入治具とを組み付けて、軸受内部空間を密封する工程と、(2)密封された空間全体に固形潤滑剤の固形化前の材料を充填する工程と、(3)充填された材料を固形化する工程と、(4)封入治具と外輪模範を取り外す工程と、(5)得られた内輪、円すいころ、保持器、および固形潤滑剤からなる部材に外輪を組み付ける工程とを備えてなるので、外輪の軌道面の両側に位置する内周面両端部の面取り部周囲に、固形潤滑剤を含む内輪側の部材から外輪を分離することが不可能または困難となるようなバリを発生させない。このため、バリ除去工程が不要となり、作業工程の削減が図れる。
【0013】
上記外輪模範が上記封入治具の一部として、該封入治具に一体に形成されているので、(1)の工程において外輪模範を組み付ける必要がなく、製造設備の部品点数を削減できる。また、外輪模範と封入治具との隙間をなくすことができ、上記バリの発生をより完全に防止できる。
【0014】
上記外輪の軌道面の軸方向断面が中高形状であり、上記外輪模範の軌道面の軸方向断面が、直線形状または中低形状であるので、外輪軌道面と固形潤滑剤の該軌道面と対向する面との間に隙間を形成できる。このため、固形潤滑剤による優れた潤滑特性を享受しつつ、固形潤滑剤と各軌道面との接触面積を小さくでき、運転時の発熱と回転トルクを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の円すいころ軸受の製造方法の工程フロー図である。
図2図1の製造方法の一例の様子および完成品を示す図である。
図3図1の製造方法の他の例の様子および完成品を示す図である。
図4】本発明の円すいころ軸受の一例を示す軸方向断面図である。
図5図4における一部拡大図である。
図6】従来の円すいころ軸受の軸方向断面図である。
図7】従来の製造方法の様子および完成品を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の円すいころ軸受の製造方法を図1および図2に基づいて説明する。図1は該製造方法の工程フロー図であり、図2図1に示す製造方法の一例の様子およびその完成品を示す図である。図1に示すように、本発明の円すいころ軸受の製造方法は、(1)内輪と円すいころと保持器とを組み合わせた状態とし、これに内周面両端部の面取り部を有さない外輪模範と、封入治具とを組み付けて、軸受内部空間を密封する工程[準備工程]と、(2)密封された空間全体に固形潤滑剤の固形化前の材料を充填する工程[充填工程]と、(3)充填された材料を固形化する工程[固形化工程]と、(4)封入治具と外輪模範を取り外す工程[解放工程]と、(5)得られた内輪、円すいころ、保持器、および固形潤滑剤からなる部材に外輪を組み付ける工程[最終工程]を備えている。
【0017】
(1)準備工程
図2(上図)に示すように、準備工程として、内輪2と円すいころ4と保持器5とを組み合わせた状態とし、これに内周面両端部の面取り部を有さない外輪模範8と、封入治具9とを組み付けて、軸受内部空間を密封する。各軸受部材、外輪模範、および封入治具の寸法や組み合わせ位置は、完成品の形状に合わせて適宜調整する。外輪模範8は、実機(図2下図)の外輪3と略同一形状であり、該外輪3と同様に他の部材と組み合わせることができ、該模範により形成される固形潤滑剤表面が使用時に悪影響を及ぼさない。より詳細には、外輪模範8は、実機の外輪3の面取り部3bに相当する面取り部を有さないことと、後述する軌道面に微差があること以外は、外輪3と同寸法である。外輪模範8の内周面両端部の形状は、面取り部がないので、該外輪模範の外輪軌道面をそのまま延長した形状となる。封入治具9は、金型となるものであり、軸受の軸方向両端部を囲い、内外輪間の軸受内部空間と、上記軸方向両端部から一部突出した外部空間とを密封している。
【0018】
(2)充填工程および(3)固形化工程
まず、本発明で用いる固形潤滑剤について説明する。本発明に用いる固形潤滑剤は、特にその種類は限定されず、例えば(A)潤滑油やグリースに、超高分子量ポリオレフィンを混合し、樹脂の分子間に液状の潤滑成分を保持させて徐々に滲み出させる物性を持たせた固形潤滑剤、(B)ポリオールとジイソシアネートとを潤滑成分存在下で反応させて得られる、または、分子内にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと硬化剤とを潤滑成分存在下で反応させて得られるポリウレタン系固形潤滑剤、(C)(B)を発泡させたもの、などが挙げられる。これらの中でも潤滑特性に優れる(A)が好ましい。また、(A)は、剛性に優れるため、円すいころ軸受の使用時における変形などを防止できる。
【0019】
上記(A)について説明する。この固形潤滑剤に使用する超高分子量ポリオレフィン粉末は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンもしくはこれらの共重合体からなる粉末またはそれぞれ単独の粉末を配合した混合粉末であればよく、各粉末の、粘度法により測定される平均分子量は、1×10〜5×10 である。このような分子量の範囲にあるポリオレフィンは、剛性と保油性において低分子量のポリオレフィンより優れる。また、潤滑油(基油)としては、鉱油、合成炭化水素油、ジエステル油、ポリオールエステル油、アルキルジフェニルエーテル油、シリコーン油、フッ素油などが挙げられる。また、グリースとしては、上記基油を、石けん(金属石けん、複合金属石けんなど)または非石けん(ウレア化合物、フッ素樹脂など)で増ちょうしたグリースが挙げられる。グリースと超高分子量ポリオレフィン粉末との好ましい配合割合としては、グリースが70〜90重量%、超高分子量ポリオレフィン粉末が30〜10重量%である。
【0020】
また、上記固形潤滑剤には、油の滲み出しを抑制する目的や、焼成時に軸受からの該潤滑剤の漏出を防止する目的で、固体ワックスを配合してもよい。固体ワックスとしては、カルナバロウ、カンデリナロウなどの植物性ワックス、ミツロウ、虫白ロウなどの動物性ワックス、またはパラフィンロウなどの石油系ワックスが挙げられる。固体ワックスはこれを含む低分子ポリオレフィンなどの配合物であってもよい。
【0021】
上記(A)の固形潤滑剤の軸受内部空間への充填方法としては、常温方法と高温方法がある。常温方法は、常温の円すいころ軸受(外輪は外輪模範)の軸受内部空間に、固形前の常温の固形潤滑剤材料を充填する際に、常温の固形潤滑剤成形用の封入治具を配置して軸受内部空間を密封し、この状態で超高分子量ポリオレフィンのゲル化点以上(例えば150〜200℃程度)でありかつ滴点以下の温度範囲で材料を加熱し、次いで冷却して全体を固形化する方法である。また、高温方法は、予め加熱した円すいころ軸受(外輪は外輪模範)の軸受内部空間に、高温で固形潤滑剤材料(超高分子量ポリオレフィンのゲル化点以上でありかつ滴点以下の温度範囲で加熱したもの)を高圧で充填する際に、高温の固形潤滑剤成形用の封入治具を配置して軸受内部空間を密封し、次いで冷却して全体を固形化する方法である。また、上記(B)や(C)の固形潤滑剤についても、温度条件などを除き、類似の充填方法が採用できる。いずれの方法も、固形化前の固形潤滑剤材料を充填し、軸受内部で固形化して製造している点は同じである。
【0022】
図2(上図)に示すように、充填工程では、充填口9aまたは9bより、準備工程で密封された空間全体に固形潤滑剤の固形化前の固形潤滑剤材料6’を充填する。この際、余剰分の固形潤滑剤材料6’は、逃げ口9aまたは9bより、封入治具外部に排出され、上記空間全体に密に固形潤滑剤材料6’が充填される。ここで、充填口方向は限定されず、9aを充填口とする場合は9bが逃げ口となり、9bを充填口とする場合は9aが逃げ口となる。上記のとおり、常温方法の場合、各軸受部材と封入治具9を加熱しない常温の状態で、常温の固形潤滑剤材料6’を充填する。グリースと超高分子量ポリオレフィン粉末を混合したものは、常温でも適当な流動性を有するので該常温での充填が可能である。高温方法の場合は、各軸受部材を加熱した高温の状態で、高温の固形潤滑剤材料6’を充填する。
【0023】
固形化工程では、常温方法の場合、固形潤滑剤材料6’が充填された封入治具9ごと焼成し、その後冷却して該材料を固形化し、軸受内部で固形潤滑剤6とする。高温方法の場合、固形潤滑剤材料6’を冷却して該材料を固形化し、軸受内部で固形潤滑剤6とする。
【0024】
本発明の製造方法では、準備工程において、外輪軌道面の両側に位置する内周面両端部に面取り部を有さない外輪模範8を用いているため、充填工程においてこれら端部に固形潤滑剤材料が入り込まず、固形化工程においてバリが発生することを防止できる。このため、後のバリ除去工程が不要となり、作業工程の削減が図れる。
【0025】
(4)解放工程および(5)最終工程
解放工程では、封入治具9と外輪模範8を取り外すことで、内輪2、円すいころ4、保持器5、および固形潤滑剤6が一体とされた部材が得られる。図2(下図)に示すように、最終工程として、上記部材に、軌道面3aの両側に位置する内周面両端部に面取り部3bを有する外輪3を組み付け、円すいころ軸受1が完成する。円すいころ軸受1は、外輪3の面取り部3bの周囲に、固形潤滑剤6を含む内輪側の部材から外輪3を分離することが不可能または困難となるような固形潤滑剤のバリを有さない。
【0026】
本発明の円すいころ軸受の製造方法の他の例を図3に基づいて説明する。図3図1に示す製造方法の他の例の様子およびその完成品を示す図である。図3(上図)に示すように、この製造形態では、(1)準備工程として、内輪2と円すいころ4と保持器5とを組み合わせた状態とし、これに内周面両端部の面取り部を有さない外輪模範8の部分を一体として有する封入治具9を組み付けて、軸受内部空間を密封する。外輪模範8の部分の形状の詳細は、図2の場合と同じである。また、(2)充填工程、(3)固形化工程、(4)解放工程(封入治具9と外輪模範8部分とは一体取り外し)、(5)最終工程については、図2の場合と同じである。外輪模範が封入治具の一部として、該封入治具に一体に形成されているので、準備工程において、外輪模範8を別途組み付ける必要がなく、製造設備の部品点数を削減し得る。また、外輪模範8と封入治具9との隙間が存在せず、バリの発生をより完全に防止できる。
【0027】
本発明の製造方法で得られる円すいころ軸受の一例を図4および図5に基づいて説明する。図4は固形潤滑剤を充填した円すいころ軸受全体の軸方向断面図であり、図5図4における一部拡大図である。図4に示すように、円すいころ軸受1は、外周面にテーパ状の軌道面2aを有する内輪2と、内周面にテーパ状の軌道面3aを有する外輪3と、内輪2の軌道面2aと外輪3の軌道面3aとの間を転動する複数の円すいころ4と、円すいころ4をポケット部で周方向一定間隔で転動自在に保持する保持器5とを備えてなる。各軌道面は、軸方向に沿って該軌道面を構成する径が増加・減少するテーパ状である。テーパの角度は特に限定されないが、軸方向に対して通常15°〜60°程度である。
【0028】
図5に示すように、円すいころ軸受1は、内外輪間の軸受内部空間の略全体に固形潤滑剤6が充填されている。円すいころ4の一部(軸方向中央部)が、固形潤滑剤6から露出して外輪3の軌道面3aと内輪2の軌道面2aに当接している。固形潤滑剤の充填方法は、上記の製造方法による。このため、円すいころ軸受1は、外輪3の軌道面3aの両側に位置する内周面両端部の面取り部3bの周囲にバリを有さない。また、外輪3の軌道面3aにクラウニング加工を施し、製造時の外輪模範の軌道面の軸方向断面を直線形状とすること等により、外輪3の軌道面3aと、固形潤滑剤6の該軌道面3aに対向する面6aとの間において、軸方向両端部に両面の非接触部となる微小な隙間7を形成できる。この隙間7は、少なくとも軸方向一部に形成され、円周方向には連続する隙間である。
【0029】
図4および図5に示す形態では、外輪3の軌道面3aにクラウニング加工が施されており、軸方向断面で見て極僅かな膨らみとなる中高形状としている。このクラウニングによって生じた外輪軌道面両端部における半径の減少量(ドロップ量)は、数十μm程度である。また、固形潤滑剤6の該軌道面3aに対向する面6aを形成するのに用いる外輪模範において、その軌道面を上記クラウニング加工がない以外は同寸法の直線(ストレート)形状とすることで、外輪3の軌道面3aと、固形潤滑剤6の該軌道面3aに対向する面6aとの間の隙間7の間隔は、クラウニングのドロップ量程度の微小間隔となる。
【0030】
内外輪(軌道輪)の軌道面と円すいころの転動面とが接触する際、接触の端部では応力集中が生じて接触面圧が過大となり得る(エッジ応力)。これに対して相互に接触する軌道輪の軌道面と円すいころの転動面のいずれか一方、あるいは両方にクラウンニング加工を施すことで、エッジ応力を避けることができ、転動疲労寿命を延長できる。本発明において適用可能なクラウニングの形式については、特に限定されず、軌道面と転動面の接触部の母線方向全域にわたって形成されるフルクラウニング(単一の円弧)、接触部の端部に形成されるカットクラウニング(複数の円弧と直線との組み合わせ)、対数関数で表されるクラウニングなどのいずれも採用できる。実機として種々のクラウニング加工が施された軌道輪を用い、外輪模範や封入治具として、軌道面に該加工のない、該軌道面の軸方向断面が直線形状や中低形状であるものを選択採用することで、隙間の形状を調整できる。この微小な隙間7により、固形潤滑剤と各軌道面との接触面積を小さくでき、運転時の発熱と回転トルクを低減できる。
【0031】
固形潤滑剤6を、軸受内部空間の略全体に充填する形態(フルパック)では、接触面積の増大が起こりやすいが、上記隙間を形成することで、これを防止できる。また、固形潤滑剤6は、固形化の際の加熱などにより膨張するため、通常は軌道面との接触が緊密になり回転トルクの上昇のおそれがあるが、上記隙間を形成することで、これを防止できる。
【0032】
また、図4に示す形態では、内輪2の大径側端部に大鍔2bを小径側端部に小鍔2cを一体形成して、円すいころ4および保持器5が内輪2から脱落しないようにしている。また、固形潤滑剤6が内輪2に係合するような構造を設けることで、小鍔2cを省略でき、円すいころ4の軸方向長さを延長して高負荷容量化が図れる。例えば、大鍔2bの外側(図中左側)に半径方向内方に向かう係合溝を形成することで、固形潤滑剤の充填・硬化時に、固形潤滑剤4側に該溝に係合する鍔が形成され、これらの係合構造により、小鍔を省略できる。その他、固形潤滑剤で保持器を形成する形態としてもよい。
【0033】
以上、各図に基づき本発明の実施形態の一例を説明したが、本発明の円すいころ軸受はこれらに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の円すいころ軸受の製造方法は、固形潤滑剤を充填した円すいころ軸受において、その製造時に外輪が分離困難となるようなバリを発生させず、作業工程の削減が図れるので、自動車や産業用に用いられる各種の円すいころ軸受(固形潤滑剤を充填したもの)の製造方法として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0035】
1 円すいころ軸受
2 内輪
3 外輪
4 円すいころ
5 保持器
6 固形潤滑剤
7 隙間
8 外輪模範
9 封入治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7