特許第6557071号(P6557071)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ GKNドライブラインジャパン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6557071-動力伝達装置 図000002
  • 特許6557071-動力伝達装置 図000003
  • 特許6557071-動力伝達装置 図000004
  • 特許6557071-動力伝達装置 図000005
  • 特許6557071-動力伝達装置 図000006
  • 特許6557071-動力伝達装置 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557071
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20190729BHJP
   F16H 57/022 20120101ALI20190729BHJP
   B60K 23/08 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   F16H57/04 P
   F16H57/04 N
   F16H57/04 J
   F16H57/022
   B60K23/08 C
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-131153(P2015-131153)
(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公開番号】特開2017-15157(P2017-15157A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000225050
【氏名又は名称】GKNドライブラインジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】内田 昇
(72)【発明者】
【氏名】丸山 豊史
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−100079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
B60K 23/08
F16H 57/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油が収容されたケーシングと、このケーシング内に回転可能に収容され駆動力を入力する入力部材と、前記ケーシング内に回転可能に収容され前記入力部材からの駆動力が入力される差動機構と、前記ケーシング内に回転可能に収容され前記差動機構に伝達された駆動力を出力する第1出力部材と第2出力部材と、前記第1出力部材上に配置され前記第1出力部材の動力伝達を断続する断続機構とを備えた動力伝達装置であって、
前記断続機構は、前記差動機構側に連結されたクラッチハウジングと、前記第1出力部材の出力側に連結され前記クラッチハウジングの内径側に前記クラッチハウジングと相対回転可能に配置されたクラッチハブと、前記クラッチハウジングと前記クラッチハブとの間に配置された断続部とを有し、
前記ケーシングには、前記断続部が接続状態であるときに前記クラッチハウジングの一方側への回転によって掻き上げられる潤滑油が流入される第1溝部と、前記断続部が接続解除状態であるときに前記クラッチハウジングの他方側への回転によって掻き上げられる潤滑油が流入される第2溝部とが設けられ、
前記第1溝部は、前記ケーシングに形成され、流入された潤滑油を前記断続機構の軸心側に向けて流す油路に連通され、
前記第2溝部には、前記ケーシングに形成され、流入された潤滑油を内部に滞留させる油溜まり部が設けられ
前記第1溝部は、前記ケーシングの上方であって前記クラッチハウジングの車両の進行方向へ向けた回転に対して対向して開口して配置され、
前記第2溝部は、前記ケーシングの上方で前記第1溝部と対向するように、かつ前記クラッチハウジングの車両の進行方向と逆方向に向けた回転に対して対向して開口して配置されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記第2溝部は、潤滑油が前記油溜まり部に流入される入口部と、前記油溜まり部に滞留された潤滑油を下方の前記ケーシングの底部側に流出させる出口部とを有し、
前記出口部は、前記入口部より小さく開口されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の動力伝達装置であって、
前記ケーシングには、前記差動機構が収容された差動機構側収容部と、前記断続機構が収容された断続機構側収容部とを区画するシール部材が配置されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記油溜まり部は、内部に滞留された潤滑油の一部を下方の前記断続機構の軸心側に向けて流す小油路に連通されていることを特徴とする動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用される動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動力伝達装置としては、潤滑油が収容されたケーシングと、このケーシング内に回転可能に収容され駆動力を入力する入力部材と、ケーシング内に回転可能に収容され入力部材からの駆動力が入力される伝達部材と、ケーシング内に回転可能に収容され伝達部材に伝達された駆動力を出力する第1出力部材と第2出力部材と、第1出力部材及び第2出力部材と伝達部材との間の動力伝達を断続する第1断続機構と第2断続機構とを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この動力伝達装置では、第1断続機構及び第2断続機構が、伝達部材に連結されたクラッチハウジングと、第1出力部材及び第2出力部材に連結されクラッチハウジングの内径側にクラッチハウジングと相対回転可能に配置されたクラッチハブと、クラッチハウジングとクラッチハブとの間に配置された断続部とをそれぞれ有している。
【0004】
このような動力伝達装置では、ケーシングに、クラッチハウジングの回転によって掻き上げられた潤滑油が流入される油受ポケットと、この油受ポケットに連通されクラッチハブ側に潤滑油を導く油案内穴とが設けられている。
【0005】
この油路ポケットと油案内穴とには、断続部が接続された状態で、クラッチハウジングが回転することにより、油路ポケットに潤滑油が流入され、油案内穴からクラッチハブ側に潤滑油が導かれ、クラッチハブの遠心力によって外側に潤滑油が配分される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−269605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1のような動力伝達装置では、第1断続機構及び第2断続機構が接続解除状態であるとき、第1出力部材及び第2出力部材の回転が伝達部材に伝達されず、入力部材が回転することがなく、無駄な回転系が削減され、車両の燃費を向上することができる。
【0008】
このような伝達部材に連結されたクラッチハウジングは、第1断続機構及び第2断続機構が接続解除状態であるとき、回転されずに潤滑油を掻き上げることがなく、フリクションを低減することができる。
【0009】
ところが、上記特許文献1のような動力伝達装置では、入力部材の回転を削減するために、第1断続機構と第2断続機構とをそれぞれ設けなければいけないので、構造の複雑化や高コスト化などを引き起こしてしまう。
【0010】
これに対して、入力部材からの駆動力が入力される伝達部材を差動機構とし、第1出力部材上のみに第1出力部材の動力伝達を断続する断続機構を配置した動力伝達装置が知られている。
【0011】
この動力伝達装置では、断続機構が接続解除状態であるとき、第1出力部材の回転が差動機構に入力されることがない。一方、第2出力部材の回転は、差動機構において、一方のサイドギヤに伝達され、ピニオンを介して他方のサイドギヤに伝達されるが、一対のサイドギヤが相対回転されるだけであって、デフケースが回転することがない。
【0012】
このため、入力部材からの駆動力を差動機構に入力するデフケースが回転することがないので、断続機構が接続解除状態であるとき、第1出力部材及び第2出力部材の回転が入力部材に伝達されず、無駄な回転系を削減でき、車両の燃費向上を図ることができる。
【0013】
しかしながら、このような動力伝達装置では、断続機構がどのような状態であっても、車両が走行している限り、第2出力部材が回転するので、第1出力部材上に配置された断続機構の差動機構側に連結されたクラッチハウジングも回転する。
【0014】
このため、断続機構が接続解除状態であっても、クラッチハウジングが回転によってケーシング内の潤滑油を掻き上げてしまい、フリクションが増大していた。
【0015】
そこで、この発明は、断続機構の状態に合わせてケーシング内の潤滑油を制御でき、断続機構の接続解除状態におけるフリクションを低減することができる動力伝達装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、潤滑油が収容されたケーシングと、このケーシング内に回転可能に収容され駆動力を入力する入力部材と、前記ケーシング内に回転可能に収容され前記入力部材からの駆動力が入力される差動機構と、前記ケーシング内に回転可能に収容され前記差動機構に伝達された駆動力を出力する第1出力部材と第2出力部材と、前記第1出力部材上に配置され前記第1出力部材の動力伝達を断続する断続機構とを備えた動力伝達装置であって、前記断続機構は、前記差動機構側に連結されたクラッチハウジングと、前記第1出力部材の出力側に連結され前記クラッチハウジングの内径側に前記クラッチハウジングと相対回転可能に配置されたクラッチハブと、前記クラッチハウジングと前記クラッチハブとの間に配置された断続部とを有し、前記ケーシングには、前記断続部が接続状態であるときに前記クラッチハウジングの一方側への回転によって掻き上げられる潤滑油が流入される第1溝部と、前記断続部が接続解除状態であるときに前記クラッチハウジングの他方側への回転によって掻き上げられる潤滑油が流入される第2溝部とが設けられ、前記第1溝部は、前記ケーシングに形成され、流入された潤滑油を前記断続機構の軸心側に向けて流す油路に連通され、前記第2溝部には、前記ケーシングに形成され、流入された潤滑油を内部に滞留させる油溜まり部が設けられ、前記第1溝部は、前記ケーシングの上方であって前記クラッチハウジングの車両の進行方向へ向けた回転に対して対向して開口して配置され、前記第2溝部は、前記ケーシングの上方で前記第1溝部と対向するように、かつ前記クラッチハウジングの車両の進行方向と逆方向に向けた回転に対して対向して開口して配置されていることを特徴とする。
【0017】
この動力伝達装置では、ケーシングに、断続部が接続状態であるときにクラッチハウジングの一方側への回転によって掻き上げられる潤滑油が流入される第1溝部と、断続部が接続解除状態であるときにクラッチハウジングの他方側への回転によって掻き上げられる潤滑油が流入される第2溝部とが設けられている。
【0018】
第1溝部は、流入された潤滑油を断続機構の軸心側に向けて流す油路に連通されているので、断続部が接続状態であるとき、遠心力によってクラッチハブ側からクラッチハウジング側に向けて断続機構を潤滑・冷却することができる。
【0019】
第2溝部には、流入された潤滑油を内部に滞留させる油溜まり部が設けられているので、断続部が接続解除状態であるとき、ケーシング内の潤滑油の油面を下げることができ、クラッチハウジングの回転による潤滑油の掻き上げを抑制し、フリクションを低減することができる。
【0020】
従って、このような動力伝達装置では、断続機構の状態に合わせてケーシング内の潤滑油を制御でき、断続機構の接続解除状態におけるフリクションを低減することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、断続機構の状態に合わせてケーシング内の潤滑油を制御でき、断続機構の接続解除状態におけるフリクションを低減することができる動力伝達装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置が適用された車両の動力系を示す概略図である。
図2】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置の断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置のケーシングの第2ケース部分の側面図である。
図4】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置のケーシングの第2ケース部分の斜視図である。
図5】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置のケーシングの第2ケース部分の正面図である。
図6図3のX−X断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、図1を用いて本発明の実施の形態に係る動力伝達装置が適用される車両の動力系の一例について説明する。
【0024】
図1に示すように、車両の動力系は、駆動源としてのエンジン201及びモータジェネレータ203と、変速機構としてのトランスミッション205と、前輪側の左右輪の差動を許容するフロントデフ207と、前車軸209,211と、前輪213,215と、前輪側と後輪側との間の動力伝達を断続する切換機構217を有するトランスファ219と、プロペラシャフト221と、後輪側の左右輪の差動を許容するリヤデフとしての差動機構7と、後車軸223に伝達される駆動力を断続する断続機構13と、差動機構7と断続機構13とを有する動力伝達装置1と、後車軸223,225と、後輪227,229などから構成されている。
【0025】
このように構成された車両の動力系では、エンジン201及びモータジェネレータ203の駆動力がトランスミッション205を介してフロントデフ207に伝達される。このフロントデフ207に伝達された駆動力は、一対のサイドギヤ(不図示)から前車軸209,211を介して前輪213,215に配分されると共に、フロントデフ207のデフケース(不図示)に連結された連結部材(不図示)を介してトランスファ219に伝達される。
【0026】
このトランスファ219に伝達された駆動力は、切換機構217が接続状態であると、連結部材と方向変換ギヤ組(不図示)との間の動力伝達が可能となり、方向変換ギヤ組で方向変換されてプロペラシャフト221を介して動力伝達装置1の差動機構7に伝達される。
【0027】
この差動機構7に伝達された駆動力は、断続機構13が接続状態であると、一対のサイドギヤ73,75(図2参照)から後車軸223,225を介して後輪227,229に配分され、車両は前後輪駆動の四輪駆動状態になる。
【0028】
一方、車両が前輪駆動の二輪駆動状態になる場合には、トランスファ219の切換機構217が接続解除状態となり、連結部材と方向変換ギヤ組との間の動力伝達が遮断され、エンジン201及びモータジェネレータ203の駆動力がプロペラシャフト221側に伝達されず、後輪側への駆動力の伝達が遮断される。
【0029】
このとき、動力伝達装置1の断続機構13は、接続解除状態となり、車両の走行による後輪227の回転が断続機構13で遮断され、差動機構7のデフケース67(図2参照)に入力されることがない。
【0030】
一方、車両の走行による後輪229の回転は、差動機構7のサイドギヤ75に入力されてピニオン71(図2参照)を回転させ、サイドギヤ73を回転させるが、デフケース67を回転させることがなく、プロペラシャフト221側に後輪229の回転が伝達されることがない。
【0031】
このように車両の二輪駆動状態では、トランスファ219の切換機構217の接続解除に合わせて、動力伝達装置1の断続機構13を接続解除することにより、プロペラシャフト221やトランスファ219の方向変換ギヤ組などの回転を防止し、無駄な回転系の連れ回りを防止して燃費向上を図ることができる。
【0032】
ここで、動力伝達装置1の断続機構13は、トランスファ219の切換機構217が接続解除状態から接続状態に移行するときに、切換機構217より先に接続させることにより、車両の走行による後輪227,229の回転によってプロペラシャフト221を介してトランスファ219の方向変換ギヤ組が連結部材と同期して回転され、切換機構217の接続を容易にさせるシンクロ機構として適用することもできる。
【0033】
なお、動力伝達装置1の断続機構13は、トランスファ219の切換機構217の後に接続させてもよく、動力伝達装置1の断続機構13とトランスファ219の切換機構217との接続又は解除のタイミングは、いずれか一方の接続が他方の接続に先行して行われ、いずれか一方の解除が他方の解除に先行して行われること、或いは両方の接続又は両方の解除が同時期に行われることなど、それらの接続と解除のタイミングは各構造の機能の特徴や車両の走行状態によって適宜決定されるものである。
【0034】
このような動力伝達装置1に搭載された断続機構13のように、一方の車軸(ここでは後車軸223)に伝達される駆動力を制御可能に断続する断続機構は、いわゆるアクスルディスコネクトと称される。以下、図1図6を用いて本発明の実施の形態に係る動力伝達装置について説明する。
【0035】
本実施の形態に係る動力伝達装置1は、潤滑油が収容されたケーシング3と、このケーシング3内に回転可能に収容され駆動力を入力する入力部材5と、ケーシング3内に回転可能に収容され入力部材5からの駆動力が入力される差動機構7と、ケーシング3内に回転可能に収容され差動機構7に伝達された駆動力を出力する第1出力部材9と第2出力部材11と、第1出力部材9上に配置され第1出力部材9の動力伝達を断続する断続機構13とを備えている。
【0036】
また、断続機構13は、差動機構7側に連結されたクラッチハウジング15と、第1出力部材9の出力側に連結されクラッチハウジング15の内径側にクラッチハウジング15と相対回転可能に配置されたクラッチハブ17と、クラッチハウジング15とクラッチハブ17との間に配置された断続部19とを有する。
【0037】
さらに、ケーシング3には、断続部19が接続状態であるときにクラッチハウジング15の一方側への回転によって掻き上げられる潤滑油が流入される第1溝部21と、断続部19が接続解除状態であるときにクラッチハウジング15の他方側への回転によって掻き上げられる潤滑油が流入される第2溝部23とが設けられている。
【0038】
そして、第1溝部21は、流入された潤滑油を断続機構13の軸心側に向けて流す油路25に連通され、第2溝部23には、流入された潤滑油を内部に滞留させる油溜まり部27が設けられている。
【0039】
また、第2溝部23は、潤滑油が油溜まり部27に流入される入口部29と、油溜まり部27に滞留された潤滑油をケーシング3の底部側に流出させる出口部31とを有し、出口部31は、入口部29より小さく開口されている。
【0040】
さらに、ケーシング3には、差動機構7が収容された差動機構側収容部33と、断続機構13が収容された断続機構側収容部35とを区画するシール部材37,39が配置されている。
【0041】
また、油溜まり部27は、内部に滞留された潤滑油の一部を断続機構13の軸心側に向けて流す小油路41に連通されている。
【0042】
図1図6に示すように、ケーシング3は、内部が主に差動機構7を収容する差動機構側収容部33を形成する第1ケース部分43と、内部が主に断続機構13を収容する断続機構側収容部35を形成する第2ケース部分45とからなる。
【0043】
このケーシング3は、第2ケース部分45に固定手段としてのボルトでカバー部分47が固定され、この第2ケース部分45に固定されたカバー部分47に対して第1ケース部分43が合わされ、第2ケース部分45とカバー部分47と第1ケース部分43とに挿通されるボルトなどの固定手段によって固定されて構成される。
【0044】
このケーシング3の内部は、後述する第1出力部材9との径方向間に配置されたシール部材37,39によって差動機構側収容部33と断続機構側収容部35とが区画されており、差動機構側収容部33と断続機構側収容部35とに異なる種類の潤滑油がそれぞれ収容されている。
【0045】
このようなケーシング3には、入力部材5と、差動機構7と、第1出力部材9と、第2出力部材11と、断続機構13などが収容されている。
【0046】
入力部材5は、軸状に形成され、ケーシング3内の差動機構側収容部33に収容され、軸心が後述するデフケース67の回転軸心と直交する方向に配置され、軸方向に配置された2つのベアリング49,51を介してケーシング3に回転可能に支持されている。
【0047】
この入力部材5の一端側外周には、スプライン形状の連結部53が形成され、連結部材55が一体回転可能に連結されている。
【0048】
連結部材55は、一端側が連結部53を介して入力部材5に一体回転可能に連結され、他端側に、プロペラシャフト221が一体回転可能に連結されている。
【0049】
この連結部材55とケーシング3との径方向間にはケーシング3の内部と外部とを区画するシール部材57が配置されると共に、連結部材55の外周にはシール部材57を保護するダストカバー59が配置されている。
【0050】
このような連結部材55を介して入力部材5に伝達された駆動力は、ギヤ組61で方向変換され、差動機構7側に伝達される。
【0051】
ギヤ組61は、小径のドライブピニオン63と、大径のリングギヤ65とからなるベベルギヤ組で変速駆動されるように構成されている。
【0052】
小径のドライブピニオン63は、入力部材5の他端側に入力部材5と連続する一部材で形成され、入力部材5と一体回転する。
【0053】
大径のリングギヤ65は、差動機構7のデフケース67に形成されたフランジ部にボルトでデフケース67と一体回転するように固定され、小径のドライブピニオン63と噛み合っている。
【0054】
このギヤ組61は、エンジン201及びモータジェネレータ203からプロペラシャフト221を介して入力部材5に伝達された駆動力を方向変換して差動機構7側に出力する。
【0055】
差動機構7は、ケーシング3内の差動機構側収容部33に収容され、デフケース67と、ピニオンシャフト69と、ピニオン71と、一対のサイドギヤ73,75とを備えている。
【0056】
デフケース67は、軸方向両側に形成されたボス部でそれぞれベアリング77,79を介してケーシング3に回転可能に支持されている。
【0057】
このデフケース67には、ピニオンシャフト69と、ピニオン71と、一対のサイドギヤ73,75とが収容され、ギヤ組61から伝達された駆動力を伝達する。
【0058】
ピニオンシャフト69は、端部をデフケース67に係合してピンで抜け止め及び回り止めされ、デフケース67と一体に回転駆動される。このピニオンシャフト69には、ピニオン71が支承されている。
【0059】
ピニオン71は、デフケース67の周方向等間隔に複数配置され、ピニオンシャフト69に支承されてデフケース67の回転によって公転する。
【0060】
このピニオン71の背面側とデフケース67との径方向間には、ピニオン71の公転時に発生する径方向への移動を受ける球面ワッシャが配置されている。
【0061】
このようなピニオン71は、一対のサイドギヤ73,75に駆動力を伝達すると共に、噛み合っている一対のサイドギヤ73,75に差回転が生じると回転駆動されるようにピニオンシャフト69に自転可能に支持されている。
【0062】
一対のサイドギヤ73,75は、それぞれのボス部でデフケース67に相対回転可能に支持され、ピニオン71と噛み合っている。
【0063】
この一対のサイドギヤ73,75の背面側とデフケース67との軸方向間には、ピニオン71との噛み合い反力によるサイドギヤ73,75の軸方向への移動を受けるスラストワッシャがそれぞれ配置されている。
【0064】
このような一対のサイドギヤ73,75は、内周側にスプライン形状の連結部81,83が形成され、それぞれ左右後輪227,229側に連結された後車軸223,225に連結される第1出力部材9と第2出力部材11とが一体回転可能に連結され、デフケース67に入力された駆動力を左右後輪227,229へ出力する。
【0065】
一対のサイドギヤ73,75のうちサイドギヤ75に連結される第2出力部材11は、軸状に形成され、一端側が連結部83を介してサイドギヤ75と一体回転可能に連結され、他端側が後車軸225と一体回転可能に連結される。
【0066】
この第2出力部材11とケーシング3との径方向間にはケーシング3の内部と外部とを区画するシール部材85が配置されると共に、第2出力部材11の外周にはシール部材85を保護するダストカバー87が配置されている。
【0067】
一対のサイドギヤ73,75のうちサイドギヤ73に連結される第1出力部材9は、連結部81を介してサイドギヤ73と一体回転可能に配置される入力部89と、後車軸223と一体回転可能に連結される出力部91とを備えている。
【0068】
入力部89は、サイドギヤ73側が軸部93で形成されると共に、後述する断続機構13側が断続機構13を構成するクラッチハウジング15で軸部93と連続する一部材で形成されている。
【0069】
この入力部89は、軸部93の外周が連結部81を介してサイドギヤ73と一体回転可能に連結される。このような入力部89のクラッチハウジング15側の回転軸心部には、出力部91が入力部89と相対回転可能に配置されている。
【0070】
出力部91は、軸状に形成され、外周で後述する断続機構13を構成するクラッチハブ17を径方向に挟んでベアリング95を介して入力部89と相対回転可能にケーシング3に支持されている。
【0071】
この出力部91とケーシング3との径方向間にはケーシング3の内部と外部とを区画するシール部材97が配置されると共に、出力部91の外周にはシール部材97を保護するダストカバー99が配置されている。
【0072】
このような第1出力部材9を構成する入力部89と出力部91との間の動力伝達は、断続機構13によって断続される。
【0073】
断続機構13は、ケーシング3内の断続機構側収容部35に収容され、クラッチハウジング15と、クラッチハブ17と、断続部19と、アクチュエータ101とを備えている。
【0074】
クラッチハウジング15は、筒状に形成され、上述したように第1出力部材9の入力部89を構成する一部分であり、差動機構7のサイドギヤ73と一体回転可能に配置される。
【0075】
このクラッチハウジング15の外周には、径方向に貫通する油孔が設けられており、クラッチハウジング15内に流入した潤滑油を遠心力によってケーシング3内に排出する。
【0076】
なお、クラッチハウジング15とケーシング3との軸方向間には、後述する断続部19の接続におけるスラスト力を受けると共に、ケーシング3に対するクラッチハウジング15の回転を許容するスラストベアリングが配置されている。
【0077】
クラッチハブ17は、中空軸状に形成され、クラッチハウジング15の内径側に軸方向の両側でベアリング95,103を介してクラッチハウジング15と相対回転可能にケーシング3に支持されている。
【0078】
このクラッチハブ17の軸方向一側は、フランジ状に形成され、このフランジ部分に径方向に貫通する油孔が設けられており、断続機構13の軸心側に流入された潤滑油を遠心力によってクラッチハウジング15側に向けて排出する。
【0079】
このようなクラッチハブ17は、内周にスプライン形状の連結部105が形成され、第1出力部材9の出力部91が一体回転可能に連結されている。
【0080】
このようなクラッチハウジング15とクラッチハブ17との間には、断続部19が設けられており、クラッチハウジング15とクラッチハブ17との間、すなわちサイドギヤ73と第1出力部材9の出力部91との間の動力伝達が断続される。
【0081】
断続部19は、クラッチハウジング15とクラッチハブ17との径方向間に配置され、複数の外側クラッチ板と、複数の内側クラッチ板とで構成される多板クラッチからなる。
【0082】
複数の外側クラッチ板は、クラッチハウジング15の内周に形成されたスプライン形状の係合部に軸方向移動可能でクラッチハウジング15と一体回転可能に係合されている。
【0083】
複数の内側クラッチ板は、複数の外側クラッチ板に対して軸方向に交互に配置され、クラッチハブ17のフランジ部分の外周に形成されたスプライン形状の係合部に軸方向移動可能でクラッチハブ17と一体回転可能に係合されている。
【0084】
この断続部19は、滑り摩擦を伴い伝達トルクを中間制御可能な制御型の摩擦クラッチからなり、クラッチハウジング15とクラッチハブ17との間の動力伝達を断続する。このような断続部19は、アクチュエータ101によって作動される。
【0085】
アクチュエータ101は、電動モータ107と、減速機構109と、変換機構111と、押圧部材113とを備えている。
【0086】
電動モータ107は、ケーシング3の外側に組付けられ、ケーシング3の内部にモータ軸が配置されている。なお、モータ軸とケーシング3との径方向間には、ケーシング3の内部と外部とを区画するシール部材115が配置されている。
【0087】
この電動モータ107は、車両に搭載され車両の状況を送信する各種センサ231からの信号を受信可能なコントローラ233(ECU)に接続され、コントローラ233によって制御可能に作動される。
【0088】
このような電動モータ107のモータ軸から出力される回転は、減速機構109によって減速される。なお、トランスファ219側の切換機構217を作動するアクチュエータにおいても、制御系はコントローラ233に連結されており、アクチュエータ101と共に統合制御される。
【0089】
減速機構109は、ケーシング3に回転可能に軸支されたギヤ部材117を有し、電動モータ107のモータ軸と、ギヤ部材117に形成された大径ギヤと、ギヤ部材117に形成された小径ギヤと、変換機構111の起動部材121の外周に形成されたギヤとからなる。
【0090】
この減速機構109は、電動モータ107のモータ軸とギヤ部材117の大径ギヤとが噛み合い、ギヤ部材117の小径ギヤと起動部材121のギヤとが噛み合い、電動モータ107から起動部材121までの動力伝達経路を2段減速としている。
【0091】
このような減速機構109は、電動モータ107の作動による回転を減速し、起動部材121を回転させ、この起動部材121の回転が変換機構111によって軸方向操作力に変換される。なお、減速機構109が位置するケーシング3の開口には、閉塞部材119が組付けられ、ケーシング3が閉塞されている。
【0092】
変換機構111は、ボールカム機構であり、起動部材121とカムリング123とに周方向に形成された複数のカム面を軸方向に対向させ、これらのカム面間に介在されたカムボール125からなる。
【0093】
起動部材121は、環状に形成され、カムリング123と押圧部材113との軸方向間に軸方向移動可能でカムリング123及び押圧部材113と相対回転可能に配置されている。なお、起動部材121と押圧部材113との軸方向間には、起動部材121と押圧部材113との相対回転を許容すると共に、起動部材121の軸方向移動を押圧部材113に伝達させるスラストベアリングが配置されている。
【0094】
この起動部材121の外径側には、減速機構109のギヤ部材117の小径ギヤと噛み合うギヤが形成されており、電動モータ107の作動により減速機構109で減速された回転により起動部材121が回転される。
【0095】
カムリング123は、ケーシング3と起動部材121との軸方向間に配置され、ケーシング3に形成されたブリーザ室127の開口129を閉塞するように回り止め部131がケーシング3に回転不能に係合されている。
【0096】
ここで、カムリング123に隣接するブリーザ室127には、ケーシング3の外部と連通された部分に所定の圧力によってケーシング3の内部と外部とを連通させるプラグ133が設けられている。
【0097】
このブリーザ室127の開口129には、外径側に僅かな隙間をもってカムリング123の回り止め部131が配置され、ブリーザ室127とケーシング3の内部とが連通され、ケーシング3内部の異常な圧力の上昇により、プラグ133が作動してケーシング3の内部と外部とを連通させる。
【0098】
なお、ブリーザ室127には、ブリーザ室127内に流入した潤滑油をケーシング3内に戻す戻し油路135が形成されている。この戻し油路135の出口は、第1出力部材9の出力部91やクラッチハブ17を支持するベアリング95近傍に向けて開口されており、摺動部の潤滑性が向上されている。
【0099】
このようなブリーザ室127の開口129を閉塞するように回り止めされたカムリング123と起動部材121との軸方向の対向面には、それぞれ周方向に形成された複数のカム面が形成され、これらのカム面間にはカムボール125が介在されている。
【0100】
カムボール125は、起動部材121の回転によってカムリング123と起動部材121との間に差回転が生じることにより、起動部材121を押圧部材113側へ軸方向押圧移動させるカムスラスト力を発生させる。
【0101】
押圧部材113は、環状に形成され、起動部材121と断続部19との軸方向間に配置され、クラッチハウジング15の内周に形成された係合部に軸方向移動可能でクラッチハウジング15と一体回転可能に係合されている。
【0102】
この押圧部材113は、起動部材121の回転によって、変換機構111で変換された軸方向操作力により起動部材121が押圧部材113側に軸方向移動することにより、断続部19の接続方向に軸方向移動され、断続部19の複数のクラッチ板を押圧して断続部19を接続させる。
【0103】
このように構成された動力伝達装置1では、電動モータ107の作動により起動部材121が回転され、この回転が変換機構111に伝達される。この変換機構111に伝達された回転は、軸方向操作力に変換され、起動部材121を断続部19側に移動させる。
【0104】
なお、このとき、トランスファ219の切換機構217は、車両が4輪駆動状態となるように、接続状態となり、エンジン201及びモータジェネレータ203からの駆動力がプロペラシャフト221を介して入力部材5に伝達可能となる。
【0105】
この起動部材121の軸方向移動により、押圧部材113が断続部19の接続方向に軸方向移動され、押圧部材113が断続部19の複数のクラッチ板を押圧して、クラッチハウジング15とクラッチハブ17、すなわち第1出力部材9の入力部89と出力部91との間で制御された動力を伝達するように断続部19が接続される。
【0106】
この断続部19の接続により、差動機構7のサイドギヤ73と第1出力部材9の出力部91との間の動力伝達が可能となり、入力部材5から差動機構7に伝達された駆動力が第1出力部材9を介して後輪227側に出力される。
【0107】
このとき、断続機構13のクラッチハウジング15は、一方側に向けて回転(車両の進行方向に向けた回転)しており、ケーシング3の差動機構側収容部33に収容された潤滑油を回転方向に向けて掻き上げる。
【0108】
一方、断続部19の接続は、電動モータ107を逆回転させることにより起動部材121が断続部19の接続解除方向に軸方向移動され、この起動部材121の移動により押圧部材113による複数のクラッチ板の押圧が解除されて複数の外側クラッチ板と複数の内側クラッチ板とが相対回転可能となって解除される。
【0109】
なお、このとき、トランスファ219の切換機構217は、車両が前輪駆動の2輪駆動状態となるように、接続解除状態となり、エンジン201及びモータジェネレータ203からプロペラシャフト221への駆動力の伝達が遮断される。
【0110】
この断続部19の接続解除により、クラッチハウジング15とクラッチハブ17、すなわち第1出力部材9の入力部89と出力部91との間の動力伝達が遮断され、差動機構7のサイドギヤ73と第1出力部材9の出力部91との間の動力伝達が遮断され、車両の走行による後輪227の回転が差動機構7に入力されることがない。
【0111】
一方、車両の走行による後輪229の回転により、差動機構7のサイドギヤ75が回転され、ピニオン71を介してサイドギヤ73が回転されるが、サイドギヤ73と後輪227との間の動力伝達が遮断されているので、一対のサイドギヤ73,75は相対回転される。
【0112】
このため、車両の走行による後輪227,229の回転によってデフケース67が回転されることがなく、ギヤ組61が回転されることがないので、入力部材5やプロペラシャフト221などの無駄な回転系を削減でき、車両の燃費向上を図ることができる。
【0113】
このとき、差動機構7のサイドギヤ73は、車両の走行によって回転するサイドギヤ75と相対回転するので、断続機構13のクラッチハウジング15は、他方側に向けて回転(車両の進行方向と逆方向に向けた回転)しており、ケーシング3の差動機構側収容部33に収容された潤滑油を回転方向に向けて掻き上げる。
【0114】
このように断続機構13のクラッチハウジング15は、断続部19の断続状態に応じて、異なる方向に回転しており、クラッチハウジング15によって掻き上げられる潤滑油の掻き上げ方向も異なっている。
【0115】
このため、クラッチハウジング15を収容するケーシング3の第2ケース部分45には、クラッチハウジング15のそれぞれの回転方向によって掻き上げられた潤滑油をそれぞれ流入させる第1溝部21と、第2溝部23とが設けられている。
【0116】
第1溝部21は、第2ケース部分45の上方に配置され、断続部19が接続状態とされたときのクラッチハウジング15の一方側の回転(車両の進行方向に向けた回転)に対して対向するように開口されている。
【0117】
この第1溝部21の内部は、断続機構13の軸心側に向けて開口して設けられた油路25に連通されており、第1溝部21内に流入された潤滑油が油路25を介して断続機構13の軸心側に向けて流れる。
【0118】
このような第1溝部21には、断続部19が接続状態であるとき、クラッチハウジング15の一方側への回転によって掻き上げられた潤滑油が流入され、流入された潤滑油が油路25を介して断続機構13の軸心側に供給される。
【0119】
この断続機構13の軸心側に供給された潤滑油は、クラッチハブ17の回転により油孔を介してクラッチハウジング15側に向けて流れ、断続部19の複数のクラッチ板を潤滑・冷却した後、クラッチハウジング15の回転により油孔を介してクラッチハウジング15から排出され、ケーシング3の底部側に戻される。
【0120】
このように断続部19が接続状態であるときには、クラッチハウジング15の回転によって掻き上げられた潤滑油が第1溝部21から断続機構13の軸心側に向けて流れ、断続部19を潤滑・冷却するように循環される。
【0121】
第2溝部23は、第2ケース部分45の上方に配置され、断続部19が接続解除状態とされたときのクラッチハウジング15の他方側の回転(車両の進行方向と逆方向に向けた回転)に対して対向、すなわち第1溝部21と対向するように開口されている。
【0122】
この第2溝部23の内部には、流入された潤滑油を貯留させることが可能なように第1溝部21内よりも大きく形成された油溜まり部27が設けられている。
【0123】
この油溜まり部27は、ケーシング3の底部側に向けて開口して設けられた戻し油路137に連通されており、ケーシング3の底部側に潤滑油を流出させる戻し油路137の出口部31は、潤滑油を油溜まり部27に流入させる第2溝部23の入口部29よりも小さく開口されている。
【0124】
このため、油溜まり部27に流入される潤滑油は、出口部31から排出される油量より入口部29から流入される油量の方が多くなり、油溜まり部27内に潤滑油を一時的に貯留するように滞留させることができる。
【0125】
このような第2溝部23には、断続部19が接続解除状態であるとき、クラッチハウジング15の他方側への回転によって掻き上げられた潤滑油が流入され、流入された潤滑油が油溜まり部27で滞留される。
【0126】
このため、ケーシング3内の潤滑油が油溜まり部27で滞留されるので、ケーシング3内の油面が下がり、クラッチハウジング15の回転によって掻き上げられるケーシング3内の潤滑油の油量が大幅に低減される。
【0127】
このように断続部19が接続解除状態であるときには、油溜まり部27で潤滑油を滞留させ、ケーシング3内の油面を下げて、クラッチハウジング15の回転による潤滑油の掻き上げを抑制することにより、フリクションを低減することができる。
【0128】
ここで、油溜まり部27は、戻し油路137の他に、断続機構13の軸心側に向けて開口し戻し油路137よりも小径に形成された小油路41に連通されており、油溜まり部27に滞留された潤滑油の一部を小油路41を介して断続機構13の軸心側に向けて流す。
【0129】
このように油溜まり部27に滞留された潤滑油の一部を断続機構13の軸心側に流すことにより、断続部19の接続解除状態では外側クラッチ板と内側クラッチ板とが相対回転しているので、外側クラッチ板と内側クラッチ板とのはり付きなどを防止し、多板クラッチの相対回転を安定化させ、断続部19における引きずりトルクの発生を抑制することができる。
【0130】
このような動力伝達装置1では、ケーシング3に、断続部19が接続状態であるときにクラッチハウジング15の一方側への回転によって掻き上げられる潤滑油が流入される第1溝部21と、断続部19が接続解除状態であるときにクラッチハウジング15の他方側への回転によって掻き上げられる潤滑油が流入される第2溝部23とが設けられている。
【0131】
第1溝部21は、流入された潤滑油を断続機構13の軸心側に向けて流す油路25に連通されているので、断続部19が接続状態であるとき、遠心力によってクラッチハブ17側からクラッチハウジング15側に向けて断続機構13を潤滑・冷却することができる。
【0132】
第2溝部23には、流入された潤滑油を内部に滞留させる油溜まり部27が設けられているので、断続部19が接続解除状態であるとき、ケーシング3内の潤滑油の油面を下げることができ、クラッチハウジング15の回転による潤滑油の掻き上げを抑制し、フリクションを低減することができる。
【0133】
従って、このような動力伝達装置1では、断続機構13の状態に合わせてケーシング3内の潤滑油を制御でき、断続機構13の接続解除状態におけるフリクションを低減することができる。
【0134】
また、第2溝部23は、潤滑油が油溜まり部27に流入される入口部29と、油溜まり部27に滞留された潤滑油をケーシング3の底部側に流出させる出口部31とを有し、出口部31は、入口部29より小さく開口されているので、油溜まり部27内に安定して潤滑油を滞留させることができ、断続部19の断続状態に合わせてケーシング3内の潤滑油を制御することができる。
【0135】
さらに、ケーシング3には、差動機構7が収容された差動機構側収容部33と、断続機構13が収容された断続機構側収容部35とを区画するシール部材37,39が配置されているので、差動機構7側と断続機構13側とが独立して配置されている場合であっても、差動機構7側の潤滑環境に影響されることなく、断続機構13側の潤滑油を安定して制御することができる。
【0136】
また、油溜まり部27は、内部に滞留された潤滑油の一部を断続機構13の軸心側に向けて流す小油路41に連通されているので、断続部19が接続解除状態であるときの断続機構13における相対回転を安定して行うことができ、断続機構13の断続特性を安定化させることができる。
【0137】
なお、本発明の実施の形態に係る動力伝達装置では、ケーシングの内部が、シール部材によって差動機構側収容部と断続機構側収容部とに区画され、それぞれ異なる種類の潤滑油が収容されているが、これに限らず、ケーシングの内部を差動機構側収容部と断続機構側収容部とに区画させずに、同一の潤滑油によって差動機構と断続機構とを潤滑・冷却するようにしてもよい。
【0138】
また、アクチュエータは、モータ・ギヤ・カム機構となっているが、これに限らず、電磁式アクチュエータ、油圧シリンダ・ピストン機構、モータ・シフトロッド機構、エアダイアフラムなど、種々のアクチュエータを利用可能である。
【符号の説明】
【0139】
1…動力伝達装置
3…ケーシング
5…入力部材
7…差動機構
9…第1出力部材
11…第2出力部材
13…断続機構
15…クラッチハウジング
17…クラッチハブ
19…断続部
21…第1溝部
23…第2溝部
25…油路
27…油溜まり部
29…入口部
31…出口部
33…差動機構側収容部
35…断続機構側収容部
37,39…シール部材
41…小油路
図1
図2
図3
図4
図5
図6