(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のチルドパンは、
パン生地に、穀粉類を主体とする組成物で、穀粉類、食用油脂、卵黄、
それ自体で添加される糖類を含有し、食用油脂の由来として、(A)水中油型乳化物、および(B)水中油型乳化物を乾燥した粉末油脂から選ばれる少なくとも1種を含む。
本明細書において、上記のそれ自体で添加される糖類とは、前記i)〜iii)とは別途にそれ自体で添加される糖類であり、(A)水中油型乳化物および(B)水中油型乳化物を乾燥した粉末油脂に含まれる糖類など、前記i)〜iii)に含まれる糖類以外のものである。
【0017】
穀粉類としては、小麦粉(強力粉、準強力粉、中力粉、デュラム粉、薄力粉等)、全粒粉、小麦ふすま、小麦胚芽、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、ライ麦全粒粉、そば粉、大豆粉などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
穀粉類は、ミキシング耐性が向上し、薄く均一な伸展性の良い生地を得られる点から、穀粉中のタンパク量が高い方が良い。中でも、小麦粉が好ましく、特に強力粉100%であるのがよい。
【0019】
卵黄は、リン脂質を含むことで、主にチルドパンに良好なしとり感を付与する。卵黄としては、液卵黄、乾燥卵黄、凍結卵黄、加糖卵黄、酵素処理卵黄などが挙げられる。卵黄と同様にリン脂質の含有されているものとして、大豆レシチンを併用してもよい。
【0020】
卵黄としては加工されていない、液卵黄がしとり感が良好となる。また、卵黄由来物質として全卵(全卵中の卵白と卵黄の比率≒2:1)も使用することが出来るが、卵白が入ることにより食感が硬くパサついたものになる傾向があるため全卵の配合量は穀粉類100質量部に対し、12質量部以下にする必要がある。
【0021】
本発明のチルドパン
のパン生地における卵黄の含有量は、穀粉類100質量部に対し、1〜30質量部である。卵黄の含有量がこの範囲であるとチルドパンはしとり感が良好である。
【0022】
糖類は、主に良好なしとり感と口溶けを付与する。糖類としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなどの単糖類、ラクトース、ショ糖(スクロース)、マルトース、トレハロースなどの二糖類、澱粉、デキストリン、オリゴ糖などの多糖類などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
糖類としては、ショ糖が好ましく、例えば上白糖が挙げられる。また、上白糖以外に、トレハロースや液糖で代替することもできる。液糖を使用するとしとり感が良好となる。液糖としては、全砂糖液糖、転化糖液糖、これら両者の混合液糖、濃厚砂糖溶液にブドウ糖を加えたもの、異性化糖と砂糖溶液を混合したもの、異性化糖などが挙げられる。
【0024】
本発明のチルドパン
のパン生地における、
前記i)〜iii)とは別途にそれ自体で添加される糖類の含有量は、穀粉類100質量部に対し、10〜20質量部である。糖類の含有量が10質量部以上であるとしとり感と口溶けが良く、チルドパンはソフトな食感になる。20質量部以下であると混捏、分割、成型時にベタツキの無い生地となり作業性が低下しない。また焼き色を抑え、製品の表面の皮づりを抑えよりしとりが良好となる。
【0025】
食用油脂は、主に良好な歯切れとしとり感を付与する。食用油脂としては、液状、固体の動植物性油脂、硬化した動植物性油脂、エステル交換油脂、分別した液状油または固体脂などが挙げられる。具体的には、ナタネ油、コーン油、大豆油、綿実油、サフラワー油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、米糠油、ゴマ油、オリーブ油、カカオ脂などの植物性油脂、牛脂、ラード、乳脂、魚油などの動物性油脂および、これらの油脂の硬化油またはエステル交換油脂、あるいはこれらの油脂を分別して得られる液状油、固体脂などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
本発明のチルドパン
のパン生地における食用油脂の含有量は、穀粉類100質量部に対し、8〜20質量部である。食用油脂の含有量が8質量部以上であると、チルドパンの歯切れとしとり感と口溶けが良好で、20質量部以下であると、チルドパンの製造時には混捏、分割、成型時にベタツキが抑制されて作業性が良好となる。
【0027】
本発明のチルドパンに使用される食用油脂は、食用油脂の由来として、(A)水中油型乳化物、および(B)水中油型乳化物を乾燥した粉末油脂から選ばれる少なくとも1種を含む。これにより、水中油型乳化物(A)および粉末油脂(B)による水中油型乳化物が水和した生地中へ容易に均一に分散して練り込むことができるので、歯切れが良く、しとり感があり口溶けの良い食感を持続し、再加熱することなく低温状態のままで喫食することができる。すなわち、水中油型乳化物(A)および粉末油脂(B)は、外側が水溶性基材であるため水和したパン生地との親和性が良いためパン生地に容易に分散する。そのため、微細な油滴がパン生地の隅々まで均一に分散し、食用油脂や乳化剤などの機能性をより有効に発揮できる。
【0028】
水中油型乳化物(A)は、食用油脂、乳化剤、水を必須とし、例えば、次の手順で製造することができる。
【0029】
まず食用油脂、乳化剤、水などの各成分を混合して乳化する。乳化にはホモミキサーなどを用いることができる。乳化は、油相については配合油脂が完全に溶解する温度に加温し、水相については混合後の油相が温度低下を起こさない温度に加温し、水相に油相を添加しホモミキサー等で撹拌する。乳化は、例えば60〜70℃で行うことができる。
【0030】
乳化した後、均質化を行う。均質化は、高圧ホモジナイザーを用いて、従来より水中油型乳化物の製造に用いられている圧力等の条件を適宜に設定して行うことができる。この均質化の工程において油滴のメディアン径を調整することができる。また均質化の前後の工程として、殺菌または滅菌処理をすることができる。
【0031】
そして、均質化後の乳化物を冷却することにより、水中油型乳化物(A)を製造することができる。
【0032】
水中油型乳化物(A)には、必要に応じて、水中油型乳化物に通常使用される各種の食品素材や食品添加物などを添加することができる。具体的には、乳、乳製品、pH調整剤、糖類、フレーバー、酸化防止剤などが挙げられる。
【0033】
粉末油脂(B)は、水溶性の粉末化基材を含む水相に油相を添加し、ホモミキサー等で攪拌後、ホモジナイザー等で均質化することにより、水中油型乳化物とし、その後、乾燥粉末化して得ることができる。
【0034】
水中油型乳化物を乾燥粉末化する方法としては、一般的に知られている噴霧乾燥法、真空凍結乾燥法、真空乾燥法等を用いることができる。
【0035】
水溶性の粉末化基材は、被覆材として機能し、乾燥後の粉末油脂(B)は、油脂が水溶性の粉末化基材で覆われた(カプセル化した)形状となっている。
【0036】
水溶性の粉末化基材としては、例えば、乳タンパク、大豆タンパク、小麦タンパク、全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー、バターミルクパウダー、コラーゲン、ゼラチンなどのタンパク、これらタンパクの分解物、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなどの単糖類、ラクトース、ショ糖(スクロース)、マルトース、トレハロースなどの二糖類、澱粉、デキストリン、オリゴ糖などの多糖類、増粘多糖類、糖アルコールなどが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
乳タンパクとしては、例えば、酸カゼイン、レンネットカゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、ホエイタンパク、それらの酵素分解物である乳ペプチド、ミルクプロテインコンセントレート、トータルミルクプロテインなどが挙げられる。これらの中でも、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、ホエイタンパク、乳ペプチド、酸カゼインなどの非ミセル状態であるものは、乳化安定性が向上する点で好ましい。
【0038】
澱粉としては、例えば、馬鈴薯デンプン、コーンスターチ、小麦デンプン、米デンプン、甘藷デンプン、タピオカデンプン、緑豆デンプン、サゴデンプン、コーン、ワキシーコーン、馬鈴薯、タピオカ等を原料とし、これをエーテル化処理したカルボキシメチルデンプンや、エステル化処理したリン酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、酢酸デンプン、エーテル化処理したヒドロキシプロピルデンプン、湿熱処理デンプン、酸処理デンプン、架橋処理デンプン、α化処理デンプンなどが挙げられる。
【0039】
デキストリンは、澱粉を化学的または酵素的方法により低分子化した澱粉部分加水分解物であり、市販品などを使用できる。澱粉の原料としては、コーン、キャッサバ、米、馬鈴薯、甘藷、小麦などを挙げることができる。デキストリンとして具体的には、水あめ、粉あめ、マルトデキストリン、サイクロデキストリン、焙焼デキストリン、分岐サイクロデキストリン、難消化性デキストリンなどが挙げられる。
【0040】
増粘多糖類としては、例えば、プルラン、アラビアガム、キサンタンガム、トラガントガム、ジェランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、寒天、LMペクチン、HMペクチンなどが挙げられる。
【0041】
水溶性の粉末化基材は、粉末油脂(B)中の割合が、10〜60質量%となるように配合することが好ましく、15〜50質量%がより好ましく、20〜40質量%がさらに好ましい。
【0042】
粉末油脂(B)には、乳化剤を配合することができる。粉末油脂(B)に乳化剤を配合する場合、通常は、油溶性乳化剤は油相に、水溶性乳化剤は水相に配合する。
【0043】
油相および水相には、本発明の効果を損なわない範囲内において、酸化防止剤、着色料、フレーバーなどを適宜に配合してもよい。
【0044】
粉末油脂(B)は、例えば、食用油脂、水溶性の粉末化基材、水、および必要に応じて他の成分を配合して水中油型に乳化後、水中油型乳化物を乾燥させ粉末化することによって製造することができる。以下に粉末油脂(B)の製造方法の一例を説明する。
【0045】
乳化工程では、前記の各原料を撹拌機のついた乳化釜に投入して撹拌混合した後、圧力式ホモジナイザーで均質化する。
【0046】
原料の配合比は、特に限定されないが、例えば、食用油脂と水溶性の粉末化基材の合計量100質量部に対して水50〜200質量部の範囲内にすることができる。
【0047】
配合手順は、特に限定されないが、例えば、水溶性の粉末化基材を水に室温で分散後、加熱下に攪拌して完全に溶解させた後、ホモミキサーで攪拌しながら、食用油脂を加熱溶解させたものを滴下して乳化することができる。
【0048】
得られた乳化液は、圧力式ホモジナイザーに供給することによって油滴サイズが微細化される。例えば、圧力式ホモジナイザーを用いて、10〜250kgf/cm
2の程度の圧力をかけて均質化し、油滴サイズを微細化することができる。
【0049】
次に、均質化した乳化液を高圧ポンプで噴霧乾燥機の入口に供給し、高温熱風を吹き込み、噴霧乾燥機の槽内に上方から噴霧する。噴霧乾燥された粉末は槽内底部に堆積される。噴霧乾燥機としては、例えば、アトマイザー方式やノズル方式で噴霧するスプレードライヤーを用いることができる。
【0050】
次に、噴霧乾燥された粉末を噴霧乾燥機の槽内から取り出した後、振動流動槽などにより搬送しながら冷風で冷却することによって、粉末油脂(B)を製造することができる。なお、適宜のときに加熱殺菌工程などを設けることもできる。
【0051】
水中油型乳化物(A)および粉末油脂(B)由来の食用油脂の含有量は、食用油脂全量に対して30〜100質量%が好ましい。水中油型乳化物(A)および粉末油脂(B)以外を由来とする食用油脂の含有量は、食用油脂全量に対して70〜0質量%が好ましい。これらの範囲内であると、水中油型乳化物(A)および粉末油脂(B)による水中油型乳化物が水和した生地中へ容易に均一に分散して練り込むことができるので、歯切れが良く、しとり感があり口溶けの良い食感を持続し、再加熱することなく低温状態のままで喫食することができる。
【0052】
食用油脂の由来として、水中油型乳化物(A)および粉末油脂(B)以外のものとしては、特に限定されるものではないが、油中水型乳化物(C)などが挙げられる。
【0053】
水中油型乳化物(A)の油滴のメディアン径、および粉末油脂(B)を水に溶解した時の油滴のメディアン径は、0.5〜2μmが好ましい。なお、油滴のメディアン径は、油滴の粒度分布をレーザー回折散乱法によって測定し、粒度分布からメディアン径(積算で50体積%における直径)を算出することで得ることができる。粉末油脂(B)は、水中油型乳化物を乾燥したものであり、水に添加すると元の水中油型乳化物となり、油滴が再分散した状態となる。
【0054】
油滴のメディアン径が上記の範囲内であると、粒径が小さく、乳化剤を含有した油滴が水和した生地中に薄く均一に分散し、練り込み用油脂組成物としての効果をより発揮できる。
【0055】
水中油型乳化物(A)および粉末油脂(B)に使用される乳化剤としては、レシチン、モノグリセリン脂肪酸エステル、グリセリンジ脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルなどが挙げられる。
【0056】
水中油型乳化物(A)および粉末油脂(B)の各々は、乳化剤としてモノグリセリン脂肪酸エステルを3〜5質量%、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを1〜3質量%含有することが好ましい。これらの乳化剤を当該範囲内で使用すると、歯切れ、しとり感、口溶けが良好となる。
【0057】
モノグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリン1分子に1分子の脂肪酸がエステル化した化合物であり、モノグリセリン脂肪酸エスエルとしては、脂肪酸が飽和であることが好ましく、さらにステアリン酸であることが好ましい。
【0058】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルは、グリセリンに脂肪酸と有機酸の両方がそれぞれ1個から2個エステル結合した構造の化合物で、モノグリセリン脂肪酸エステルと有機酸との反応、油脂と有機酸とのエステル交換、またはグリセリンと有機酸と脂肪酸との反応などにより得ることができる。有機酸としては、例えば、酢酸、乳酸、コハク酸、ジアセチル酒石酸、クエン酸などが挙げられる。グリセリン有機酸脂肪酸エステルの構成脂肪酸は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれでも良い。グリセリン有機酸脂肪酸エステルは、有機酸や脂肪酸の種類の異なるものを混合して用いることもできる。本発明において用いるグリセリン有機酸脂肪酸エステルは、有機酸がコハク酸もしくはジアセチル酒石酸であるものが食感、口溶けなどの点から好ましく、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、特にステアリン酸などの飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0059】
特に本発明のチルドパンは、水中油型乳化物(A)の油滴のメディアン径、および粉末油脂(B)を水に溶解した時の油滴のメディアン径が0.5〜2μmであり、かつ、水中油型乳化物(A)および粉末油脂(B)の各々は、乳化剤としてモノグリセリン脂肪酸エステルを3〜5質量%、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを1〜3質量%含有することが好ましい。油滴のメディアン径と乳化剤をこのような構成にすることで、乳化剤を含有した油滴が生地中に薄く均一に分散し、練り込み用油脂組成物としての効果をより発揮できるので、油滴サイズと特定の乳化剤が相乗的に作用し、澱粉の老化現象の起こりやすい冷蔵温度帯で流通および保管しても、歯切れが良く、しとり感があり口溶けの良い食感を持続できる。
【0060】
本発明のチルドパンは、穀粉類100質量部に対し、食用油脂8〜20質量部、卵黄1〜30質量部、
前記i)〜iii)とは別途にそれ自体で添加される糖類10〜20質量部を含有し、食用油脂の由来として、(A)水中油型乳化物、および(B)水中油型乳化物を乾燥した粉末油脂から選ばれる少なくとも1種を含むパン生地を捏ね上げ後、発酵させ、焼成することによって製造することができる。
【0061】
パン生地には、上記必須の原材料以外にも、通常パン生地に配合されるものであれば、特に制限なく配合することができる。具体的には、例えば、水や、乳、乳製品、タンパク、塩類、乳化剤、乳化起泡剤(乳化油脂)、イースト、イーストフード、カカオマス、ココアパウダー、チョコレート、コーヒー、紅茶、抹茶、野菜類、果物類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、肉類、魚介類、豆類、きな粉、豆腐、豆乳、膨張剤、甘味料、調味料、香辛料、着色料、香料等が挙げられる。乳としては、牛乳等が挙げられる。乳製品としては、脱脂乳、クリーム、チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズ等)、発酵乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、タンパク濃縮ホエイパウダー、ホエイタンパクコンセントレート(WPC)、ホエイタンパクアイソレート(WPI)、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウム等が挙げられる。タンパクとしては、小麦タンパク、大豆タンパク、エンドウ豆タンパク等の植物タンパク等が挙げられる。
【0062】
混捏は、(A)水中油型乳化物、および(B)水中油型乳化物を乾燥した粉末油脂と(C)油中水型乳化物である練り込み用油脂組成物のうち、(B)水中油型乳化物を乾燥した粉末油脂は初めから投入することが好ましい。残りの練り込み用油脂組成物はミキシングの途中で投入し、十分にできた生地のグルテン膜に、油脂を均一に薄く分散させる。このため、ミキシングはしっかりかけ、できるだけグルテン膜を薄くしておく。この点から、ミキシング耐性のあるタンパクの多い穀粉が必要である。
【0063】
捏上温度は低く抑え、かつミキシング後の発酵は抑えることが好ましい。これにより目の詰んだパンにすることができ、しとり感を出してパサつきを抑制することができる。捏上温度は、25℃以下が好ましい。
【0064】
パン生地を捏ね上げ後、発酵工程をとる。発酵時間は短くし、捏ね上げ後の発酵時間を5〜40分とすることが好ましい。これにより、パンの肌理を細かくし、冷蔵保管中の水分の散逸を抑制して、しとり感を持たせることができる。
【0065】
得られたパン生地は、分割、ベンチタイム、成形、ホイロなどをとり、その後焼成することによって、本発明のチルドパンを得ることができる。
【0066】
ベンチタイムは、しとり感を向上させパサつきを抑える点から、0〜15分とすることが好ましい。
【0067】
焼成において、パンの焼き色は、製品の表面の皮づりを抑え、ソフトさを出すために薄くすることが好ましい。
【0068】
本発明のチルドパンは、冷やして食べることを前提とするパン類であれば特に限定されるものではない。具体的には、クリームやフィリングを詰め、もしくは挟んだ菓子パン、バターロール、ハードロール、食パン、コッペパン、バンズ、ブリオッシュ、デニッシュなどが挙げられる。
【実施例】
【0069】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、表1および表4〜表7に示す配合量は質量部を示す。
【0070】
(1)粉末油脂、水中油型乳化物、油中水型乳化物の製造
(製造例1)粉末油脂
水相に水溶性の粉末化基材としてマルトース、ラクトース、コーンシロップ、カゼインナトリウムを溶解し、60℃に調温して水相部を調製した。
パーム油を70℃に調温し、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジアセチル酒石酸モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、レシチンを添加し油相部を調製した。
水相部をホモミキサーで撹拌しながら油相部を添加し水中油型に乳化させたのち、ホモジナイザーで均質化し水中油型乳化物を得た。
得られた水中油型乳化物を、ノズル式ドライヤーを用いて噴霧乾燥し表1組成の粉末油脂を得た。
この粉末油脂を10質量%になるよう水に溶解し、島津製作所製:SALD−2300湿式レーザー回折装置により測定し、粒子径分布の中央値としてメディアン径を求めた。メディアン径は1μmであった。
【0071】
(製造例2)水中油型乳化物
水相にコハク酸モノグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビトールを溶解し、70℃に調温して水相部を調製した。
ナタネ油を70℃に調温して、モノグリセリン脂肪酸エステルを添加し油相部を調製した。
水相部をホモミキサーで撹拌しながら油相部を添加し、水中油型に乳化させたのち、ホモジナイザーで均質化し水中油型乳化物を得た。
得られた水中油型乳化物を急冷混合機であるコンビネーターで急冷捏和し目的とする水中油型乳化物を得た。
この水中油型乳化物を島津製作所製:SALD−2300湿式レーザー回折装置により測定し、粒子径分布の中央値としてメディアン径を求めた。メディアン径は1μmであった。
【0072】
(製造例3)油中水型乳化物
食用油脂(パーム油68質量%、パームステアリン15質量%、ナタネ油17質量%)86.3質量%を65℃に調温してレシチンM0.2質量%を添加し油相部を得た。
水12.5質量%に脱脂粉乳1質量%を溶解し70℃に調温して水相部を得た。
油相部を撹拌しながら水相部を添加し、均質化して油中水型乳化物を得た。
得られた油中水型乳化物を急冷混合機であるコンビネーターで急冷捏和し目的とする油中水型乳化物を得た。
【0073】
【表1】
※1 理研ビタミン(株) エマルジーMS
※2 理研ビタミン(株) ポエムW−60
※3 阪本薬品工業(株) SYグリスターCR−ED
※4 昭和産業(株) レシチンM
※5 理研ビタミン(株) ポエムB−10
※6 三菱化学フーズ(株) P1670
※7 林原商事(株) サンマルトシロ
※8 GRANDE ラクトース80メッシュ
※9 コーンシロップ(DE=28)
※10 日研化学(株) ソルビトールC
※11 フォンテラ社 アラネート180
【0074】
(2)チルドパンの製造
表4〜表7に示す配合で、表2に示す工程によってチルドパンを製造した。
【0075】
実施例1〜11と比較例1〜7では、製造例1(粉末油脂)を混捏開始時に製造例3(油中水型乳化物)を除いた他の原材料と共に投入して混捏を開始した。低速3分中高速7分の混捏終了後、製造例3(油中水型乳化物)をミキサーに投入して低速2分中高速4分混捏した。
【0076】
実施例12〜23と比較例8〜13では、製造例2(水中油型乳化物)と製造例3(油中水型乳化物)を除いた他の原材料をミキサーに投入して混捏を開始した。低速3分中高速4分の混捏終了後、製造例2(水中油型乳化物)と製造例3(油中水型乳化物)をミキサーに投入して低速2分中高速4分混捏した。
【0077】
比較例14では、製造例3(油中水型乳化物)を除いた他の原材料をミキサーに投入して混捏を開始した。低速3分中高速4分の混捏終了後、製造例3(油中水型乳化物)をミキサーに投入して低速2分中高速4分混捏した。
【0078】
【表2】
【0079】
(3)評価
実施例1〜23と比較例1〜14によって次の評価を行った。
[焼成品の歯切れ]
焼成したバンズを20℃で1時間冷却した後、ポリ袋に密閉し0℃の冷蔵庫に3日間保管した。
【0080】
3日間保管したバンズについて、パネル10名により歯切れを以下の基準で評価した。
【0081】
パネルは、五味(甘、酸、塩、苦、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準臭覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判定された20〜40代の男性4名、女性6名を選抜した。
評価基準
◎:10名中8名以上が良好であると評価した。
○:10名中7〜5名が良好であると評価した。
△:10名中4〜3名が良好であると評価した。
×:10名中2名以下が良好であると評価した。
【0082】
[焼成品のしとり感]
焼成したバンズを20℃で1時間冷却した後、ポリ袋に密閉し0℃の冷蔵庫に3日間保管した。
【0083】
3日間保管したバンズについて、パネル10名によりしとり感を以下の基準で評価した。
【0084】
パネルは、五味(甘、酸、塩、苦、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準臭覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判定された20〜40代の男性4名、女性6名を選抜した。
評価基準
◎:10名中8名以上が良好であると評価した。
○:10名中7〜5名が良好であると評価した。
△:10名中4〜3名が良好であると評価した。
×:10名中2名以下が良好であると評価した。
【0085】
[焼成品の口溶け]
焼成したバンズを20℃で1時間冷却した後、ポリ袋に密閉し0℃の冷蔵庫に3日間保管した。
【0086】
3日間保管したバンズについて、パネル10名により口溶けを以下の基準で評価した。
【0087】
パネルは、五味(甘、酸、塩、苦、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準臭覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判定された20〜40代の男性4名、女性6名を選抜した。
評価基準
◎:10名中8名以上が良好であると評価した。
○:10名中7〜5名が良好であると評価した。
△:10名中4〜3名が良好であると評価した。
×:10名中2名以下が良好であると評価した。
【0088】
[作業性]
作業工程中の混捏、分割、成型時の生地状態を、製パン技能検定2級以上の有資格者5名が4点満点で評価し、その平均の合計点を評価基準とした。
【0089】
【表3】
【0090】
評価基準
◎:生地状態の評価合計点が20〜15点であった。
○:生地状態の評価合計点が14〜10点であった。
△:生地状態の評価合計点が9〜5点であった。
×:生地状態の評価合計点が4点以下であった。
【0091】
評価結果を表4〜表7に示す。
【0092】
【表4】
【0093】
【表5】
【0094】
【表6】
【0095】
【表7】