特許第6557180号(P6557180)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557180
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】回転子部材、回転子、及び電動機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/27 20060101AFI20190729BHJP
【FI】
   H02K1/27 501C
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-121088(P2016-121088)
(22)【出願日】2016年6月17日
(65)【公開番号】特開2017-225316(P2017-225316A)
(43)【公開日】2017年12月21日
【審査請求日】2017年7月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】有松 洋平
【審査官】 尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−245086(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/008964(WO,A1)
【文献】 特開2005−117732(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0079770(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機の回転軸部に圧入によって固定される回転子部材であって、
軸方向第1の側の第1端部と、軸方向第2の側の第2端部とを有する、筒状のスリーブ部と、
前記スリーブ部の径方向外側において周方向に並ぶように配置された複数の磁石セグメントと、
前記複数の磁石セグメントを径方向外側から覆い、前記スリーブ部との間で前記複数の磁石セグメントを挟持する筒状部材と、を備え、
前記スリーブ部の内周面は、前記第1端部から前記第2端部に向かうにつれて連続的に径方向外側に向かって拡がるテーパ面を有し、
前記周方向において隣接する前記複数の磁石セグメントの間には、前記スリーブ部に対して前記筒状部材を前記径方向外側へ突っ張る部材が存在し、
前記筒状部材の内周面は、前記突っ張る部材によって、前記磁石セグメントの端部の角部から離間した状態となっている、回転子部材。
【請求項2】
前記突っ張る部材は、前記周方向において隣接する両側の前記磁石セグメント、前記スリーブ部、及び、前記筒状部材に接触している部材である、請求項1に記載の回転子部材。
【請求項3】
前記突っ張る部材は、前記周方向において隣接する両側の前記磁石セグメントにおける前記径方向外側の一部と、前記筒状部材と、の間に挟まる部分を有する部材である、請求項1または2に記載の回転子部材。
【請求項4】
前記請求項1乃至3の何れか1つに記載の回転子部材を備える、回転子。
【請求項5】
請求項4に記載の回転子を備える電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子部材、回転子、及び電動機に関し、特に、磁石表面貼付型の電動機を構成する回転子部材、回転子、及びそれらを備える電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
同期電動機の回転子部材は、筒状のスリーブ部と、スリーブ部の径方向外側において周方向に並ぶように配置されて、全体で筒状の磁石セグメント群を構成する複数の磁石セグメントと、磁石セグメントを磁石セグメント群の径方向外側から覆い、スリーブ部との間で磁石セグメントを挟持する筒状部材とを備える。筒状部材は、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)により構成されている。スリーブ部の内周面は、テーパ面を有する。このような回転子部材のスリーブ部の内周面により取囲まれる空間に、円筒形状を有する回転軸部が圧入により挿入されて、電動機の回転子は構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−212680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の同期電動機の最高回転数を上げるには、遠心力による磁石セグメントの飛散を防止するために、回転子外周の磁石保持部材としての筒状部材の保持強度(保持力)を上げる必要がある。上記特許文献1では、筒状部材の伸びを増加させることで張力を増やし、磁石セグメントの保持強度を上げている。
【0005】
しかし、この方法では、筒状部材に張力を付与する。このとき、筒状部材は、筒状部材の周方向に、偏りなく均一に伸びる必要がある。しかし、実際には、スリーブ部への回転軸部の圧入の進行とともに張力が増大していく過程で、磁石セグメント群の周方向における磁石セグメントの端部の角部形状の部分に筒状部材が当接することに起因する摩擦力が集中し、複数の磁石セグメント間の筒状部材の部分に、伸びによる応力が集中することが考えられる。また、磁石セグメントの角部形状の部分は、凸部を形成し、この部分が筒状部材に当接することにより、筒状部材の曲率が局所的に大きくなるため、筒状部材に影響を与えることが考えられる。
【0006】
本発明は、筒状部材の一部に応力や伸びが集中することが抑えられ、最高回転数を上げることが可能であり、また、より大きなトルクを得ることが可能な、回転子部材、回転子、及び、これらを備える電動機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る回転子部材(例えば、後述の回転子部材300、300A、300B、300C)は、回転電機(例えば、後述の電動機100)の回転軸部(例えば、後述の回転軸部200)に圧入によって固定される回転子部材であって、軸方向第1の側の第1端部(例えば、後述の第1端部302)と、軸方向第2の側の第2端部(例えば、後述の第2端部303)とを有する、筒状のスリーブ部(例えば、後述のスリーブ部301)と、前記スリーブ部の径方向外側において周方向に並ぶように配置された複数の磁石セグメント(例えば、後述の磁石セグメント311)と、前記複数の磁石セグメントを径方向外側から覆い、前記スリーブ部との間で前記複数の磁石セグメントを挟持する筒状部材(例えば、後述の筒状部材321、321C)と、を備え、前記スリーブ部の内周面は、前記第1端部から前記第2端部に向かうにつれて連続的に径方向外側に向かって拡がるテーパ面(例えば、後述のテーパ状内周面306)を有し、前記周方向において隣接する前記複数の磁石セグメントの間には、前記スリーブ部に対して前記筒状部材を前記径方向外側へ突っ張る部材(例えば、後述の突っ張る部材330、330A、330B、330C)が存在する。
【0008】
前記突っ張る部材は、前記周方向において隣接する両側の前記磁石セグメント、前記スリーブ部、及び、前記筒状部材に接触している部材であってもよい。
【0009】
また、前記突っ張る部材は、前記周方向において隣接する両側の前記磁石セグメントにおける前記径方向外側の一部と、前記筒状部材と、の間に挟まる部分を有する部材であってもよい。
【0010】
また、本発明に係る回転子は、上記回転子部材を備える。また、本発明に係る電動機は、上記回転子を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、筒状部材の一部に応力や伸びが集中することが抑えられ、最高回転数を上げることが可能であり、また、より大きなトルクを得ることが可能な、回転子部材、回転子、及び、これらを備える電動機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る電動機100を示す断面図である。
図2】第1実施形態に係る回転子部材300を示す、スリーブ部301の軸方向視の断面図である。
図3】第1実施形態に係る回転子部材300を示す、スリーブ部301の軸心に沿って切った断面図である。
図4】第1実施形態に係る回転子部材300の突っ張る部材330を示す拡大断面図である。
図5】第2実施形態に係る回転子部材300Aの突っ張る部材330Aを示す拡大断面図である。
図6】第3実施形態に係る回転子部材300Bの突っ張る部材330Bを示す拡大断面図である。
図7】第4実施形態に係る回転子部材300Cの突っ張る部材330Cを示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態に係る電動機100を示す断面図である。図2は、第1実施形態に係る回転子部材300を示す、スリーブ部301の軸方向視の断面図である。図3は、第1実施形態に係る回転子部材300を示す、スリーブ部301の軸心に沿って切った断面図である。図4は、第1実施形態に係る回転子部材300の突っ張る部材330を示す拡大断面図である。
以下の説明においては、説明の便宜上、電動機100の回転軸部200の軸心に沿う方向を軸方向とし、図1における左方を軸方向前方、右方を軸方向後方と定義する。
【0014】
回転電機としての電動機100は、同期電動機により構成されており、内部空間101を画定するハウジング102と、ハウジング102の内部空間101に静止して配置される固定子110と、固定子110の径方向内側に回転可能に設置された回転子400と、を備える。固定子110は、固定子鉄心103と、固定子鉄心103に巻回されたコイル104と、を有する。固定子鉄心103は、例えば電磁鋼板の薄板が積層されて作製される。
【0015】
固定子110からは、コイル104に電気的に接続された動力線(図示せず)が引き出されている。動力線は、ハウジング102に設けられた貫通孔を介して、電動機100の外部に設置された動力源(図示せず)に接続される。
【0016】
回転子400は、内部空間101において軸方向に延びる回転軸部200と、回転軸部200の径方向外側に固定される回転子部材300と、を有する。
【0017】
回転軸部200は、図3に示すように、軸心(中心軸線)Oと、軸心Oと同心の中心孔201と、を有する、筒状の部材である。本実施形態では、工作機械の主軸に用いられるビルトインモータを想定しているため、回転軸部200に中心孔201が形成されているが、これに限定されない。回転軸部200は、中心孔201が形成されていない中実材で作られてもよい。
【0018】
回転軸部200の軸心Oは、電動機100の回転軸心である。回転軸部200の軸方向前方側の部分は、ハウジング102の前方側の壁部に取り付けられた軸受(図示せず)を介して、ハウジング102に回転可能に支持される。同様に、回転軸部200の軸方向後方側の部分は、ハウジング102の後方側の壁部に取り付けられた軸受(図示せず)を介して、ハウジング102に回転可能に支持される。
【0019】
回転軸部200は、回転軸部200の軸方向後方側から軸方向前方側に向かうにつれて、徐々に径方向外側に向かって拡がるテーパ状の外周面202を有する。回転軸部200の軸方向前方側の部分203および段差部204は、製造時の利便性のために設けられている。テーパ状外周面202は、軸方向後端205から、軸方向前端206まで連続して延びている。テーパ状外周面202の軸方向後端205の軸方向後方には、軸方向に沿って直線状に延びる円筒状の外周面207が形成されている。
【0020】
突き当て用の部分203および段差部204は、製造時に組付け作業をし易くするために形成されている。突き当て用の部分203は、軸方向に沿って延びる円筒状の外周面を有しており、テーパ状外周面202の軸方向前端206との間で段差部204を形成するように、テーパ状外周面202から回転軸部200の径方向外側に突出する。
【0021】
回転子部材300は、図2に示すように、筒状のスリーブ部301と、スリーブ部301の径方向外側において、周方向に並ぶように配置されて、全体で筒状の磁石セグメント群を構成する複数の磁石セグメント311(図3等参照)と、磁石セグメント311を径方向外側から覆う、筒状部材321と、を有する。磁石セグメント311は、製造の都合や磁石の成形の都合に応じて軸方向に複数に分割されてもよく、本実施形態では、図3に示すように、軸方向に3分割されている。
【0022】
図1図3等に示すように、スリーブ部301は、中心軸線Oを有する筒状の部材である。スリーブ部301は、軸方向第1の側としての軸方向後方側の第1端部302と、軸方向第2の側としての軸方向前方側の第2端部303と、軸方向に沿って延びる円筒状の外周面304と、を有する。スリーブ部301の軸方向後端の、外周面304から径方向外側に突出する凸部305は、製造時に磁石の軸方向の位置を揃え易くするために形成されている。
【0023】
スリーブ部301は、例えばSS400またはS45Cといった、磁性体の金属材料から作製される。また、スリーブ部301の径方向におけるスリーブ部301の厚さは、スリーブ部301を回転軸部200に圧入する作業を容易とするために、より薄くすることが好ましい。例えば、スリーブ部301は、最も厚みが薄い部分において、1mm〜2mmの厚みを有する。
【0024】
本実施形態においては、スリーブ部301は、第1端部302から第2端部303に向かうにつれて連続的に径方向外側に向かって拡がるテーパ面としてのテーパ状内周面306を有する。テーパ状内周面306は、第1端部302から第2端部303まで連続して延びており、且つ、軸方向前方向としての、第1端部302から第2端部303に向かう方向において、その半径が小さくなる部分を含まない。換言すれば、テーパ状内周面306は、第1端部302から第2端部303までの全域に亘って、軸方向前方に向かうにつれてその半径が徐々に大きくなっており、第1端部302から第2端部303に至るまでの途中の部分に、局部的にテーパ状内周面306の半径が小さくなる部分は存在しない。
【0025】
電動機100においては、回転軸部200の中心軸線O1と、スリーブ部301の中心軸線O2とが一致するように、スリーブ部301は、回転軸部200のテーパ状外周面202上に、締り嵌めによって固定される。そして、図1に示すように、スリーブ部301の第2端部303と、突き当て用の部分203の段差部204とが当接する。第2端部303におけるテーパ状内周面306の半径R4と、軸方向前端206におけるテーパ状外周面202の半径とは、略同じである。スリーブ部301のテーパ状内周面306と、回転軸部200のテーパ状外周面202とは、互いに大きな面圧で密着している。スリーブ部301は、回転軸部200によって、図3において矢印で示すように、径方向外側に向かって押圧されている。
【0026】
磁石セグメント311は、所定の曲率半径の内径を有する略円弧状の磁石片により構成されている。具体的には、磁石セグメント311は、図2図3等に示すように、軸方向前方側の端面312、および軸方向後方側の端面313と、磁石セグメント群の周方向一方側の端面314、および磁石セグメント群の周方向他方側の端面315と、径方向内側の内周面316、および径方向外側の外周面317とを有する。
【0027】
内周面316は、所定の曲率半径を有する円弧面であって、端面312を形成する一辺であって磁石セグメント群の径方向内側の一辺と、端面313を形成する一辺であって磁石セグメント群の径方向内側の一辺と、を接続するように、軸方向に沿って延びている。外周面317は、磁石セグメント群の周方向に沿って延びる滑らかな曲線で構成されている。磁石セグメント群の周方向における磁石セグメント311の端部の部分は、図4等に示すように、端縁に近づくにつれて、内周面316に外周面317が近づくように、厚さが薄く構成されている。
【0028】
図1図2に示すように、筒状部材321は、軸方向に延びる形状を有する筒状の部材である。具体的には、筒状部材321は、軸方向前方側の端面322、および軸方向後方側の端面323と、筒状の内周面324および外周面325とを有している。筒状部材321は、完全な円筒形状を有しておらず、磁石セグメント群の周方向において隣接する複数の磁石セグメント311の間の空間に対向する部分及びその近傍においては、図2等に示すように、他の筒状部材321の部分と比較して半径が小さくなる非円筒形状を有している。
【0029】
筒状部材321は、筒状部材321の周方向へ僅かに伸びることは可能であるが、径方向外側に向かって膨張するような変形に対して、強い強度を有しており、筒状部材321の半径(直径)は変化し難い。また、筒状部材321は、磁束による発熱や、磁束の漏れによる性能低下を防止する観点から、非磁性材料から作製されることが好ましい。さらに、筒状部材321は、回転によって生じる遠心力を小さくするために、小さい密度を有することが好ましい。
【0030】
例えば、筒状部材321の材料としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、ボロン繊維、チタン合金繊維、超高分子量ポリエチレン、またはポリブチレンテレフタレート繊維といった、比強度(単位密度当りの引張強度)に優れた材料が好適である。また、筒状部材321の材料として、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、ボロン繊維、チタン合金繊維、超高分子量ポリエチレン、またはポリブチレンテレフタレート繊維を使用したFRP(繊維強化樹脂)、もしくは、これらの幾つかを組み合わせた複合材も好適である。また、筒状部材321の材料として、オーステナイト系のステンレスやチタン、またはチタン合金等の非磁性金属を用いてもよい。本実施形態では、筒状部材321の材料としては、CFRP(炭素繊維強化樹脂)が用いられる。
【0031】
図2及び図3から分かるように、回転子部材300においては、計12個の磁石セグメント311が配置されている。具体的には、図2のAに示す周方向位置において、3つの磁石セグメント311が軸方向に隣り合うように配置されている。同様に、図2のB、C、およびDに示す周方向位置において、それぞれ、3つの磁石セグメント311が軸方向に隣り合うように配置されている。
【0032】
このように、本実施形態に係る回転子部材300においては、6対の磁石セグメント311が、スリーブ部301の外周面304上において、スリーブ部301の周方向に略等間隔で配列するように配置されている。軸方向後方側に位置する磁石セグメント311の各々は、図1等に示すように、例えばスリーブ部301に凸部305等の構造が設けられることによって、軸方向の位置を揃えて配置される。
【0033】
スリーブ部301の周方向に6対、計12個の磁石セグメント311の径方向外側には、全ての磁石セグメント311をスリーブ部301の径方向外側から、覆うと共に締め付けるように、筒状部材321が設けられている。ここで、上述したように、図1に示すように電動機100においては、スリーブ部301は、回転軸部200によって、図3に矢印で示すように径方向外側に向かって押圧されている。この押圧により、スリーブ部301は、径方向外側に変形しようとし、磁石セグメント311の各々を、径方向外側に向かって押圧する。
【0034】
これに対して、筒状部材321は、上述したように、径方向外側に向かって膨張するような変形に対して強い強度を有している。したがって、筒状部材321の周方向に生ずる筒状部材321の張力によって、磁石セグメント311から加えられる圧力を受け止め、その反力として、磁石セグメント311を径方向内側に向けて押し返す。このため、磁石セグメント311は、スリーブ部301と筒状部材321との間で、強固に挟持される。これにより、電動機100の駆動時において、回転子部材300が高速で回転した場合においても、磁石セグメント311が、スリーブ部301および筒状部材321に対して相対移動することが抑えられる。
【0035】
磁石セグメント群の周方向において隣接する複数の磁石セグメント311の間の空間には、スリーブ部301に対して筒状部材321をスリーブ部301の半径方向外側へ突っ張ることにより支持する突っ張る部材330が存在する。突っ張る部材330は、弾性を有し、軽量である非磁性材、例えば、樹脂、ゴム、チタン、アルミニウム等により構成されており、本実施形態では、樹脂により構成されている。
【0036】
図4に示すように、突っ張る部材330は、スリーブ部301の軸方向に直交する断面では、中実の楕円形状を有しており、スリーブ部301の軸方向に第1端部302から第2端部303に至るまで延びている。突っ張る部材330においては、突っ張る部材330の外部から外力が作用していない状態では、磁石セグメント群の周方向において、隣り合う磁石セグメント311間の距離よりも突っ張る部材330の長さが長く、また、スリーブ部301及び筒状部材321の径方向において、筒状部材321の内周面324とスリーブ部301の外周面304との間の距離よりも突っ張る部材330の長さ(厚さ)が長い。このため、突っ張る部材330は、図2に示すように、磁石セグメント群の周方向、及び、スリーブ部301及び筒状部材321の径方向において、圧縮されて弾性変形した状態で、磁石セグメント群の周方向において隣接する両側の磁石セグメント311の端面314、315と、スリーブ部301の外周面304と、筒状部材321の内周面324と、にそれぞれ接触している。
【0037】
このため、突っ張る部材330は、スリーブ部301に対して筒状部材321を、筒状部材321の半径方向外側へ押圧するようにして突っ張っている。突っ張る部材330によって支持されている筒状部材321の部分は、筒状部材321の径方向外側へ突出しており、筒状部材321は、円筒形状ではなく非円筒形状とされている。更に、前述のように、磁石セグメント群の周方向における磁石セグメント311の端部の部分は、図4等に示すように、端縁(端面314、又は、端面315)に近づくにつれて、内周面316に外周面317が近づくように、厚さが薄くなるように構成されているため、筒状部材321の内周面は、磁石セグメント群の周方向における磁石セグメント311の端部の部分(端部の角部の部分を含む)に対して、筒状部材321の径方向外側へ僅かに浮き上がって離間している。
【0038】
次に、図1図2等を参照して、電動機100の動作について説明する。電動機100の外部に設置された動力源から、動力線を介してコイル104に電流が流されると、固定子110によって、軸心Oの周りに回転磁界が生成される。回転子部材300の磁石セグメント311は、固定子110によって生成される回転磁界によって磁石セグメント群の周方向に電磁力を受ける。その結果、回転子部材300は、回転軸部200とともに一体的に回転する。
【0039】
以上のように、本実施形態によれば、回転電機としての電動機100の回転軸部200に、圧入によって固定される回転子部材300は、軸方向第1の側の第1端部302と、軸方向第2の側の第2端部303とを有する、筒状のスリーブ部301と、スリーブ部301の径方向外側において周方向に並ぶように配置されて、全体で筒状の磁石セグメント群を構成する複数の磁石セグメント311と、複数の磁石セグメント311を径方向外側から覆い、スリーブ部301との間で複数の磁石セグメント311を挟持する筒状部材321と、を備えている。
スリーブ部301の内周面は、第1端部302から第2端部303に向かうにつれて連続的に径方向外側に向かって拡がるテーパ面としてのテーパ状内周面306を有し、磁石セグメント群の周方向において隣接する複数の磁石セグメント311の間には、スリーブ部301に対して筒状部材321を筒状部材321の半径方向外側へ突っ張る部材330が存在する。
【0040】
これにより、筒状部材321の内周面が、磁石セグメント群の周方向における磁石セグメント311の端部の角部から離間した状態とすることが可能となる。これにより、本実施形態のように、筒状部材321が非円筒形状を有している場合には、筒状部材321の内周面と磁石セグメント311の当該端部の角部とが当接することを抑え、当該当接により応力集中が筒状部材321に発生することを緩和することができる。この結果、複数の磁石セグメント311間において、筒状部材321が筒状部材321の周方向へ局所的に伸びることを抑えることができる。このため筒状部材321の全体でのより均一に近い、筒状部材321の周方向への伸びによって、より高い張力を得ることが可能となり、電動機100の最高回転数を上げることができる。
また、より厚く強力な磁石セグメント311は、重くなるため遠心力が大きくなり、同一回転数でもより高い張力が必要となるが、これにも対応できるため、電動機100の最高回転数を下げずに、トルク向上、出力向上を図ることができる。そして、上述のような電動機100の性能向上を図ることが可能となると共に、筒状部材321の外周面の剥離の発生も抑えられ、信頼性、耐久性を向上させることが可能となる。
また、本実施形態における筒状部材321を構成する炭素繊維強化樹脂(CFRP)は、引張には強いが、曲げには弱い。このため、上述のように磁石セグメント311の端部に当接する筒状部材321に曲げが集中する構造を回避することは、筒状部材321の材料にCFRPを使用する場合に、特に有利である。
【0041】
また、突っ張る部材330は、磁石セグメント群の周方向において隣接する両側の磁石セグメント311、スリーブ部301、及び、筒状部材321に接触している部材である。
これにより、磁石セグメント群の周方向において隣接する両側の磁石セグメント311、筒状部材321、スリーブ部301に接触する突っ張る部材330を挟むことで、筒状部材321が、磁石セグメント群の周方向における磁石セグメント311の端部に接触することを確実に回避することができる。これにより、磁石セグメント311の端部で筒状部材321に応力が集中する問題を確実に回避することができる。また、突っ張る部材330が磁石セグメント群の周方向において隣接する磁石セグメント311にそれぞれ接触していることにより、突っ張る部材330を、磁石セグメント311間の中央に位置決めすることができる。
【0042】
また、例えば、特開平11−107920号公報には、磁石の間隔を一定に保つ構造について開示されている。しかし、同公報には、磁石縁部に因る保持部材側の応力集中の回避に関しては一切記述がない。また、保持部材を突っ張る、持ち上げる、という概念も書かれていない。よって、同公報に基づき当業者が上記実施形態を想到することは不可能である。
【0043】
また、特開昭59−056857号公報には、磁性体と非磁性体とを組み合わせて機械効率の良い電動機を得るための発明が記述されている。同公報には、上記実施形態のような、磁石端部による保持部材側の応力集中回避や、保持部材の張力の均一化を意図した構成に関しては、関連する記述は一切ない。よって、同公報に基づき当業者が上記実施形態を想到することは不可能である。
【0044】
また、特開2010−233325号公報においては、磁束を調整可能な磁性体、コギングトルクの調整、を目的とする。しかし、上記実施形態は、磁束の調整も、コギングトルクの調整も全く関係がない。このように対象とする作用効果が全く異なるため、同公報に基づき当業者が上記実施形態を想到することは不可能である。
【0045】
また、特開2005−012870号公報に記載された発明は、円筒磁石は高価であり、分割磁石は位置決めに手間がかかり、これらを解消するために、位置決め目的で部材を密着させる、という作用効果を狙った発明である。位置決めの目的の構造がもたらす作用効果から、上記実施形態のような、筒状部材321への応力集中を抑える構成を、当業者は想到し得ない。
【0046】
また、特開2000−069696号公報には、ロータからの発塵を防止する為にロータをケーシングで覆い、磁石間に樹脂を充填する、という構成が記載されている。即ち、単純にロータをケースで覆い、単純に磁石間に樹脂を充填しているだけである。同公報に基づき当業者が、筒状部材321を、筒状部材321に作用する応力を抑える目的で、スリーブ部301に対して突っ張る状態で支持するというような発想にまで至ることは、不可能である。
【0047】
次に、本発明の第2実施形態による回転子部材について図5を参照しながら説明する図5は、第2実施形態に係る回転子部材300Aの突っ張る部材330Aを示す拡大断面図である。
【0048】
第2実施形態による回転子部材300Aにおいては、突っ張る部材330が、第1実施形態による突っ張る部材330とは異なる。これ以外の構成については、第1実施形態による回転子部材300の構成と同様であるため、第1実施形態における各構成と同様の構成については、同様の符号を付して説明を省略する。
【0049】
図5に示すように、突っ張る部材330Aは、スリーブ部301の軸方向に直交する断面では、中実の略長方形状を有しており、スリーブ部301の軸方向に第1端部302から第2端部303に至るまで延びている。突っ張る部材330Aにおいては、突っ張る部材330Aの外部から外力が作用していない状態では、磁石セグメント群の周方向において、隣り合う磁石セグメント311間の距離よりも突っ張る部材330Aの長さが長く、また、スリーブ部301及び筒状部材321の径方向において、筒状部材321の内周面とスリーブ部301の外周面との間の距離よりも突っ張る部材330Aの長さ(厚さ)が長い。このため、突っ張る部材330Aは、図5に示すように、磁石セグメント群の周方向、及び、スリーブ部301及び筒状部材の径方向において、圧縮されて弾性変形した状態で、磁石セグメント群の周方向において隣接する両側の磁石セグメント311の端面と、スリーブ部301の外周面304と、筒状部材321の内周面324と、にそれぞれ接触している。
【0050】
このため、突っ張る部材330Aは、スリーブ部301に対して筒状部材321を、筒状部材321の半径方向外側へ押圧するようにして突っ張っている。突っ張る部材330Aによって支持されている筒状部材321の部分は、筒状部材321の外側へ突出しており、筒状部材321は、円筒形状ではなく非円筒形状とされている。更に、前述のように、磁石セグメント群の周方向における磁石セグメント311の端部の部分は、図5等に示すように、端縁(端面314、又は、端面315)に近づくにつれて、内周面316に外周面317が近づくように、厚さが薄く構成されているため、筒状部材321の内周面は、磁石セグメント群の周方向における磁石セグメント311の端部の部分(端部の角部の部分を含む)に対して、筒状部材321の径方向外側へ浮き上がって離間している。
【0051】
次に、本発明の第3実施形態による回転子部材について図6を参照しながら説明する。図6は、第3実施形態に係る回転子部材300Bの突っ張る部材330Bを示す拡大断面図である。
【0052】
第3実施形態による回転子部材300Bにおいては、突っ張る部材330Bが、第1実施形態による突っ張る部材330とは異なる。これ以外の構成については、第1実施形態による回転子部材300の構成と同様であるため、第1実施形態における各構成と同様の構成については、同様の符号を付して説明を省略する。
【0053】
図6に示すように、突っ張る部材330Bは、スリーブ部301の軸方向に直交する断面では、中空の楕円形状を有しており、スリーブ部301の軸方向に第1端部302から第2端部303に至るまで延びている。
【0054】
次に、本発明の第4実施形態による回転子部材について図7を参照しながら説明する。図7は、第4実施形態に係る回転子部材300Cの突っ張る部材330Cを示す拡大断面図である。
【0055】
第4施形態による回転子部材300Cにおいては、突っ張る部材330Cが、第2実施形態による突っ張る部材330Aとは異なる。また、筒状部材321Cが、第1実施形態〜第3実施形態による筒状部材321とは異なる。これ以外の構成については、第2実施形態による回転子部材300Aの構成と同様であるため、第2実施形態における各構成と同様の構成については、同様の符号を付して説明を省略する。
【0056】
筒状部材321Cは、筒状部材321Cの軸方向前方の端面から軸方向後方の端面まで(筒状部材321の軸方向前方の端面322から軸方向後方の端面323までに相当)の軸方向区間において、内径、外径がそれぞれ一定の完全な円筒形状を有している。筒状部材321Cの内径は、磁石セグメント群の径方向における磁石セグメント311の最も厚い部分を通る回転子400の直径から、当該直径の一端側の筒状部材321Cの厚さと、当該直径における他端側の筒状部材321Cの厚さと、を引いた値に等しい。
【0057】
突っ張る部材330Cは、磁石セグメント群の周方向において隣接する両側の磁石セグメント311における磁石セグメント群の径方向外側の一部と、筒状部材321Cと、の間に挟まる部分を有する部材である。
具体的には、図7に示すように、突っ張る部材330Cは、スリーブ部301の軸方向に直交する断面では、中実の長方形状の矩形部331Cと、磁石セグメント311の外周面317と筒状部材321Cの内周面324Cとの間に入り込んでいる間隙挿入部332Cとを有しており、これらは、一体成形されて構成されている。突っ張る部材330Cは、スリーブ部301の軸方向に第1端部302から第2端部303に至るまで延びている。
【0058】
矩形部331Cは、第2実施形態における突っ張る部材330Aと同一の構成を有している。間隙挿入部332Cは、矩形部331Cから磁石セグメント群の周方向に、磁石セグメント311の外周面317と筒状部材321Cの内周面324Cとの間に入り込み、同方向の所定の位置に至っている。これにより、間隙挿入部332Cは、磁石セグメント311に対して筒状部材321Cを筒状部材321Cの径方向外側へ向けて支持している。
【0059】
以上のように、本実施形態によれば、突っ張る部材330Cは、磁石セグメント群の周方向において隣接する両側の磁石セグメント311における磁石セグメント群の径方向外側の一部である外周面317と、筒状部材321Cと、の間に挟まる部分を有する部材である。これにより、筒状部材321の半径方向外側へ向けて、磁石セグメント311の外周面に対して筒状部材321Cの内周面324Cを突っ張ることにより支持することができる。この結果、筒状部材321Cを、内径、外径がそれぞれ一定の完全な円筒形状を有する構成とすることが可能となる。このため、筒状部材321Cの周方向において、筒状部材321Cが均等に伸びる構成とすることが可能となる。また、筒状部材321Cの製造が容易となる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に限るものではない。また、本実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0061】
例えば、回転子部材、回転子、及び、これらを有する電動機の構成は、本実施形態における回転子部材300、300A、300B、300C、回転子400、及び、これらを有する電動機100の構成に限定されない。
例えば、磁石セグメント311は12個設けられていたが、この数に限定されない。また、突っ張る部材の構成は、本実施形態における突っ張る部材330、330Cの構成に限定されない。
【符号の説明】
【0062】
100 電動機(回転電機)
200 回転軸部
300、300A、300B、300C 回転子部材
301 スリーブ部
302 第1端部
303 第2端部
306 テーパ状内周面
311 磁石セグメント
321、321C 筒状部材
330、330A、330B、330C 突っ張る部材
400 回転子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7