【文献】
KENNETH LYONS JONES et al.,Altered lipid metabolism in gastroschisis: a novel hypothesis,american journal of medical genetics part A,2013年 6月21日,Vol.161,No.8,PP.1860-1865
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バイオマーカーが、血液中のパルミテート(16:0)、パルミトレエート(16:1n7)およびリノレエート(18:2n6)の全レベルを含む、請求項1に記載の方法。
前記生物学的サンプルが、皮脂サンプル、皮膚サンプル、表皮サンプルおよび皮膚細胞サンプルからなる群から選択され、前記3種以上のバイオマーカーが、16:0、16:1n7、16:1n10、14:0、14:1n5、18:2n6、20:4n6、スクアレンおよび22:6n3、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
前記バイオマーカーが、トリアシルグリセリド、ホスファチジルコリンおよびコレステリルエステルからなる群から選択される1つ以上の個別の脂質クラス内で測定される、請求項1に記載の方法。
前記de novo脂質生成指標スコアを用いて疾患を有する個体の疾患状態を評価する、前記疾患が、糖尿病、または肝臓脂肪症およびインスリン感受性からなる群から選択される糖尿病プロセスである、請求項1に記載の方法。
前記de novo脂質生成指標スコアを用いて肝臓障害を有する個体の肝臓の健康を評価する、前記肝臓障害が、脂肪症および肝臓インスリン抵抗性からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
前記de novo脂質生成指標スコアを、肝障害を病期分類するために用いる、前記肝障害が、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)および非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
前記de novo脂質生成指標スコアが、de novo脂質生成および関連疾患病態に関して治療剤に対する反応をモニターするために用いられる、請求項1に記載の方法。
前記治療剤が、アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)、脂肪酸シンターゼ(FAS)、ステアロイルCoAデサチュラーゼ(SCD)、エロンガーゼ(ELOVL)、およびジアシルグリセロール:CoAアシルトランスフェラーゼ(DGAT)阻害剤からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
前記数学モデルが、前記モデルにおける各バイオマーカーの前記測定レベルの線形結合であり、それにより、陽性マーカーが正の係数を有し、かつ陰性マーカーが負の係数を有する、請求項18に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
DNLのバイオマーカー、DNLを決定する方法、DNLに関連する疾患を診断する方法、DNLに関連する疾患の素因を決定する方法、DNLに関連する疾患の進行/退縮をモニターする方法、DNL関連の疾患または障害を予測する方法、DNL指標を生成する方法、DNL関連疾患の治療の有効性をモニターする方法、さらにはDNLのバイオマーカーに基づく他の方法が本明細書に記載されている。
【0016】
しかしながら、本発明をさらに詳細に説明する前に最初に以下の用語を定義する。
【0017】
定義:
「de novo脂質生成」または「DNL」とは、基質から脂肪酸を合成する生理学的プロセスを意味する。
【0018】
「分画DNL」または「fDNL」とは、VLDL−トリアシルグリセロール中の新たに合成された脂肪酸画分の測定量のことである。この方法では安定同位体が用いられる。
【0019】
「DNL指標」とは、in vivoでde novo脂質生成の評価を可能にする本明細書に記載のDNLバイオマーカーおよび医療アルゴリズムに基づくde novo脂質生成の尺度を意味する。「DNL指標」とは、DNLバイオマーカーを用いた数式を意味する。「DNL指標スコア」とは、DNL指標から得られる値またはDNL指標を使用した結果を意味する。
【0020】
「医療アルゴリズム」または「患者管理アルゴリズム」とは、健康管理に有用な任意の計算、式、統計調査、ノモグラム、またはルックアップテーブルを意味する。医療アルゴリズムには、健康管理処理に対する決定木手法(たとえば、症状A、B、およびCが明らかである場合、治療Xを使用する)および診断に対する決定木手法(たとえば、症状E、F、およびGが明らかである場合、診断はZであるか、または行うべき診断検査はYである)が含まれる。医療アルゴリズムは、たとえば二分決定木の形態で診断ノモグラムまたは診断フローチャートを含みうる。
【0021】
本明細書で用いられる「DNL関連疾患」または「DNL関連障害」とは、糖尿病および関連病態(前糖尿病、インスリン抵抗性糖尿病、および2型糖尿病を含む)、さらには肥満、肝臓脂肪症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、癌、および心血管疾患(高トリグリセリド血症、アテローム硬化症、心筋症を含む)、ならびに皮膚障害を意味する。
【0022】
「心血管疾患」とは、心臓または血管の任意の疾患を意味する。心血管疾患または心疾患としては、たとえば、アンギナ、不整脈、冠動脈疾患(CAD)、冠性心疾患、心筋症(拡張型心筋症、拘束型心筋症、不整脈原性右室心筋症、および糖尿病性心筋症を含む)、心臓発作(心筋梗塞)、心不全、肥大型心筋症、僧帽弁逆流、僧帽弁逸脱、肺動脈弁狭窄などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。血管疾患としては、たとえば、末梢血管疾患、動脈疾患、頸動脈疾患、深部静脈血栓症、静脈疾患、アテローム硬化症などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
「糖尿病」とは、インスリンの分泌もしくは作用またはその両方の欠損から生じる高血糖(グルコース)レベルにより特徴付けられる代謝性疾患の群を意味する。
【0024】
「2型糖尿病」とは、2つの主要なタイプの糖尿病の1つ、すなわち、膵臓のβ細胞が少なくともその疾患の初期段階ではインスリンを産生するが、生体の細胞がインスリンの作用に耐性があるため、生体がそれを効果的に使用できないタイプを意味する。疾患のより後の段階では、β細胞は、インスリンの産生を停止することがある。2型糖尿病はまた、インスリン抵抗性糖尿病、インスリン非依存性糖尿病、および成人発症型糖尿病としても知られる。
【0025】
「前糖尿病」とは、グルコース利用障害、空腹時グルコースレベルの異常または障害、グルコース耐性障害、インスリン感受性障害、およびインスリン耐性障害を含む1つ以上の初期糖尿病病態を意味する。
【0026】
「インスリン抵抗性」とは、細胞内へのグルコースの取込みを調節するホルモンであるインスリンの作用に対して細胞が抵抗性になる病態または産生されるインスリンの量が正常グルコースレベルの維持に不十分である病態を意味する。細胞は、血液から筋肉および他の組織への糖グルコースの輸送を促進するインスリンの作用に反応する能力が減少する(すなわち、インスリンに対する感受性の減少)。最終的には、膵臓は、正常時よりもはるかに多くのインスリンを産生し、かつ細胞は、抵抗性であり続ける。この抵抗性を克服するのに十分なインスリンが産生されるかぎり、血中グルコースレベルは正常な状態のままである。膵臓がもはや維持できなくなると、血中グルコースは上昇し始めて糖尿病をもたらす。インスリン抵抗性は、正常(インスリン感受性)からインスリン抵抗性(IR)までの範囲に及ぶ。
【0027】
「インスリン感受性」または「Si」とは、グルコースの取込みおよび利用を調節するインスリンの作用に細胞が反応する能力を意味する。インスリン感受性は、正常からインスリン抵抗性(IR)までの範囲に及ぶ。
【0028】
「グルコース利用」とは、筋肉および脂肪細胞による血液からのグルコースの吸収、ならびに細胞代謝のための糖の利用を意味する。細胞内へのグルコースの取込みは、インスリンにより刺激される。
【0029】
「肥満」とは、過剰量の体脂肪により定義される慢性病態を意味する。体脂肪の正常量(体重に対するパーセントで表される)は、女性では25〜30%、男性では18〜23%である。体脂肪が30%を超える女性および体脂肪が25%を超える男性は、肥満であるとみなされる。
【0030】
「皮膚障害」とは、座瘡、脂漏性湿疹、および油性皮膚を含めて皮脂の産生または質に影響を及ぼす病態、または乾癬、酒さ、乾燥皮膚、頭部粃糠疹、遮水機能などを含めて角質層に影響を及ぼす病態を意味する。de novo脂質生成に関連する皮膚障害はまた、黒色腫などの癌を含みうる。
【0031】
「体重指数(BMI)」とは、個体の身長および体重を用いて個体の体脂肪の量を推定する計算式を意味する。過度の体脂肪(たとえば肥満)は、病気および他の健康問題を引き起こす可能性がある。BMIは、肥満を研究する多くの医師および研究者に最適な測定量である。BMIは、個体の身長および体重の両方を考慮に入れた数式を用いて計算される。BMIは、キログラム単位の個人の体重をメートル単位の身長の二乗で除算した値に等しい。(BMI=kg/m
2)。19未満のBMIを有する被験者は低体重であるとみなされ、19〜25のBMIを有する被験者は正常体重であるとみなされ、25〜29のBMIは一般に過体重であるとみなされ、30以上のBMIを有する個体は典型的には肥満であるとみなされる。病的肥満とは、40以上のBMIを有する被験者を意味する。
【0032】
「サンプル」または「生物学的サンプル」または「試料」とは、被験者から単離された生物学的物質を意味する。生物学的サンプルは、所望のバイオマーカーを検出するのに好適な任意の生物学的物質を含有しうると共に、被験者からの細胞物質および/または非細胞物質を含みうる。サンプルは、任意の好適な生物学的な組織または流体から単離可能であり、たとえば、血液、血漿、血清、皮膚、表皮組織、脂肪組織、大動脈組織、肝臓組織、尿、皮脂、細胞などのサンプルでありうる。
【0033】
「被験者」とは、任意の動物を意味するが、好ましくは、哺乳動物、たとえば、ヒト、サル、非ヒト霊長動物、ラット、マウス、ウシ、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ウサギなどである。
【0034】
1種以上のバイオマーカーの「レベル」とは、サンプル中のバイオマーカーの絶対的または相対的な量または濃度を意味する。
【0035】
バイオマーカーの「参照レベル」とは、特定の疾患状態、表現型、またはそれらの欠如、さらには疾患状態、表現型、またはそれらの欠如の組合せの指標となるバイオマーカーのレベルを意味する。バイオマーカーの「陽性」参照レベルとは、特定の疾患状態または表現型の指標となるレベルを意味する。バイオマーカーの「陰性」参照レベルとは、特定の疾患状態または表現型の欠如の指標となるレベルを意味する。たとえば、バイオマーカーの「DNL陽性参照レベル」とは、被験者においてDNLの尺度の増加の指標となるバイオマーカーのレベルを意味し、バイオマーカーの「DNL陰性参照レベル」とは、被験者においてDNLの尺度の減少の指標となるバイオマーカーのレベルを意味する。他の例として、バイオマーカーの「DNL進行陽性参照レベル」とは、被験者においてDNLの進行の指標となるバイオマーカーのレベルを意味し、バイオマーカーの「DNL退縮陽性参照レベル」とは、DNLの退縮の指標となるバイオマーカーのレベルを意味する。バイオマーカーの「参照レベル」は、バイオマーカーの絶対的または相対的な量または濃度、バイオマーカーの存在または不在、バイオマーカーの量または濃度の範囲、バイオマーカーの最小および/または最大の量または濃度、バイオマーカーの平均の量または濃度、ならびに/あるいはバイオマーカーのメジアンの量または濃度でありうると共に、それに加えて、バイオマーカーの組合せの「参照レベル」もまた、2種以上のバイオマーカーの絶対的または相対的な量または濃度の互いの比でありうる。特定の疾患状態、表現型、またはそれらの欠如に対するバイオマーカーの適切な陽性および陰性の参照レベルは、1つ以上の適切な被験者で所望のバイオマーカーのレベルを測定することにより決定されうると共に、かかる参照レベルは、特定の被験者集団に合わせて調整されうる(たとえば、ある特定の年齢の被験者からのサンプル中のバイオマーカーレベルと、ある特定の年齢群での特定の疾患状態、表現型、またはそれらの欠如に対する参照レベルとの間で比較が行えるように、参照レベルは年齢を一致させうる;同様に、参照レベルは性別または民族性/人種を一致させうる)。
【0036】
「DNL陽性マーカー」とは、レベルがDNLと正の相関があるde novo脂質生成のバイオマーカーを意味する(すなわち、バイオマーカーのレベルはDNLの増加と共に増加する)。
【0037】
「DNL陰性マーカー」とは、レベルがDNLと負の相関があるde novo脂質生成のバイオマーカーを意味する(すなわち、バイオマーカーのレベルはDNLの増加と共に減少する)。
【0038】
I.バイオマーカー
DNLに関して本明細書に開示される方法に使用されるバイオマーカーは、脂肪酸16:1n10、18:1n10、18:1n12、スクアレン、16:0、16:1n7、14:0、14:1n5、18:2n6、20:4n6、および22:6n3、ならびにそれらの組合せおよびサブセットを含む。バイオマーカーは、特定の脂質クラス(たとえば、トリアシルグリセリド(TG)、リン脂質(PL)、コレステリルエステル(CE)、ジグリセリド(DG)、遊離脂肪酸(FA)、リゾホスファチジルコリン(LY)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、スフィンゴミエリン(SM)、ワックスエステル(WE)など)の範囲内でまたは全脂肪酸分析(すべて脂質クラスが分析に含まれる)の一部として測定されうる。脂肪酸は、任意の生物学的サンプルで測定されうる。16:0、16:1n7、14:0、14:1n5、16:1n10、18:1n10、18:1n12、またはこれらの脂肪酸を含有する無傷の複合脂質(たとえば、トリアシルグリセリド種またはリン脂質種)は、DNLの陽性マーカーであり(すなわち、DNLの増加はバイオマーカーのレベルの上昇に関連する)、18:2n6、20:4n6、22:6n3、これらの脂肪酸を含有する無傷の複合脂質、またはスクアレンは、DNLの陰性マーカーである(すなわち、DNLの増加はバイオマーカーのレベルの低下に関連する)。一実施形態では、バイオマーカーは、16:0、16:1n7、および18:2n6、ならびにそれらの組合せを含む。
【0039】
さらに、バイオマーカー16:1n10、18:1n10、18:1n12、スクアレン、16:0、16:1n7、14:0、14:1n5、18:2n6、20:4n6、および22:6n3、ならびにそれらの組合せを用いた本明細書に開示される方法は、DNL関連疾患の臨床診断尺度と組み合わせて使用されうる。臨床診断と組み合わせることにより、開示される方法を容易にしうるか、または開示される方法の結果を確認しうる(たとえば、診断を容易にしたりもしくは確認したり、進行もしくは退縮をモニターしたり、および/またはDNL関連疾患の素因を決定したりしうる)。バイオマーカー16:1n10、18:1n10、18:1n12、スクアレン、16:0、16:1n7、14:0、14:1n5、18:2n6、20:4n6、および22:6n3、ならびにそれらの組合せを用いた本明細書に開示される方法はまた、患者情報、たとえば、性別、人種、年齢、病歴、家族歴、リスク因子などと組み合わせて使用されうる。
【0040】
本明細書に開示される脂肪酸を無傷の複合脂質クラス(たとえば、PC16:0|16:1n7などのトリアシルグリセリド種またはリン脂質種)の成分として測定する方法もまた想定される。脂質クラスは、たとえば、中性脂質、リン脂質、遊離脂肪酸、全脂肪酸、トリグリセリド、コレステリルエステル、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジグリセリド、リゾホスファチジルコリン、またはワックスエステルでありうる。いくつかの実施形態では、脂質クラスは、中性脂質、リン脂質、遊離脂肪酸、全脂肪酸、トリグリセリド、コレステロールエステル、ホスファチジルコリン、およびホスファチジルエタノールアミンからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、脂質クラスは、中性脂質、リン脂質、全脂肪酸、およびコレステロールエステルからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、脂質クラスは、遊離脂肪酸、全脂肪酸、トリグリセリド、コレステロールエステル、ホスファチジルコリン、およびホスファチジルエタノールアミンからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、脂質クラスは、トリグリセリド、遊離脂肪酸、およびワックスエステルからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、脂質クラスは遊離脂肪酸である。いくつかの実施形態では、脂質クラスは全脂肪酸である。いくつかの実施形態では、脂質クラスはトリグリセリドである。いくつかの実施形態では、脂質クラスはコレステリルエステルである。いくつかの実施形態では、脂質クラスはホスファチジルコリンである。いくつかの実施形態では、脂質クラスはホスファチジルエタノールアミンである。いくつかの実施形態では、脂質クラスはリン脂質である。いくつかの実施形態では、脂質クラスは中性脂質である。いくつかの実施形態では、脂質クラスはジグリセリドである。いくつかの実施形態では、脂質クラスはスフィンゴミエリンである。いくつかの実施形態では、脂質クラスはワックスエステルである。接頭辞「TG」、「FA」、「PC」、「PE」、および「CE」は、それぞれ、トリグリセリド、遊離脂肪酸、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、およびコレステロールエステルの範囲内に存在する脂肪酸に対応する。したがって、「TG14:0」は、トリグリセリドの範囲内に存在する脂肪酸14:0を表す。
【0041】
II.DNLの評価
DNLバイオマーカーを用いて被験者においてDNLの評価(または評価支援)を行うことが可能である。健常被験者において(たとえば、ルーチンの体の健康評価の一部として)、無症候被験者において、DNL関連疾患を有する疑いがあるかもしくはそのリスクがある被験者において、または組成物もしくは治療的介入に反応する被験者においてDNLを評価することを含めて、任意の被験者において同定されたバイオマーカーを用いてDNLを評価可能であることは理解されよう。被験者がDNLの1つ以上の評価を受けうることもさらに理解されよう。
【0042】
例示的な方法では、被験者においてDNLを評価する工程は、(1)被験者から得られる生物学的サンプルを分析してサンプル中のDNLの1種以上のバイオマーカーのレベルを決定する工程と、(2)サンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルと1種以上のバイオマーカーの参照レベルとを比較して、被験者においてDNLのレベルを評価する工程とを含む。1種以上のバイオマーカーは、16:1n10、18:1n10、18:1n12、スクアレン、16:0、16:1n7、14:0、14:1n5、18:2n6、20:4n6、および22:6n3、ならびにそれらの組合せからなる群から選択されうる。たとえば、列挙されたバイオマーカーのすべての組合せを含めて、1種のバイオマーカー、2種以上のバイオマーカー、3種以上のバイオマーカー、4種以上のバイオマーカー、5種以上のバイオマーカー、6種以上のバイオマーカーなどのレベルを用いて、DNLを評価しうる。バイオマーカーの組合せのレベルを決定することにより、本明細書に記載の方法でより大きい感度および特異度を可能にしうる。たとえば、生物学的サンプル中の2種のバイオマーカーのペアワイズ分析またはある特定のバイオマーカー(および非バイオマーカー化合物)のレベルの比により、DNLの評価でより大きい感度および特異度を可能にしうる。
【0043】
さらに、本開示は、皮膚中でのDNLおよびそれと皮膚機能との関係を評価する(たとえば、皮脂産生、座瘡リスクなどを評価する)方法を提供する。例示的な方法では、被験者においてDNLを評価する工程は、前記被験者からの皮膚または表皮または皮膚細胞のサンプルを分析してサンプル中の1種以上のDNLバイオマーカーのレベルを決定する工程であって、1種以上のバイオマーカーが、16:1n10、18:1n10、18:1n12、スクアレン、16:0、16:1n7、14:0、14:1n5、18:2n6、20:4n6、および22:6n3、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される、工程と、サンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルと1種以上のバイオマーカーのDNL陽性および/またはDNL陰性の参照レベルとを比較して、皮膚中での脂質生成を評価する工程とを含む。たとえば、列挙されたバイオマーカーのすべての組合せを含めて、1種のバイオマーカー、2種以上のバイオマーカー、3種以上のバイオマーカー、4種以上のバイオマーカー、5種以上のバイオマーカー、6種以上のバイオマーカーなどのレベルを用いて、DNLを評価しうる。一実施形態では、1種以上のバイオマーカーは、16:1n10、18:1n10、18:1n12、およびスクアレンからなる群から選択される。他の実施形態では、16:0、16:1n7、14:0、14:1n5、18:2n6、20:4n6、および22:6n3、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1種以上のバイオマーカーと組み合わせて、16:1n10、18:1n10、18:1n12、およびスクアレンからなる群から選択される1種以上のバイオマーカーが使用される。他の実施形態では、1種以上のバイオマーカーは、16:0、16:1n7、および18:2n6を含む。他の実施形態では、1種以上のバイオマーカーは、16:0、16:1n10、および18:2n6を含む。他の実施形態では、1種以上のバイオマーカーは、16:0、16:1n10、およびスクアレンを含む。他の実施形態では、1種以上のバイオマーカーは、16:0、16:1n7、18:2n6、14:0、および14:1n5を含む。他の実施形態では、1種以上のバイオマーカーは、16:0、16:1n7、18:2n6、14:0、14:1n5、20:4n6、および22:6n3を含む。バイオマーカーの組合せのレベルを決定することにより、本明細書に記載の方法でより大きい感度および特異度を可能にしうる。たとえば、生物学的サンプル中の2種のバイオマーカーのペアワイズ分析またはある特定のバイオマーカー(および非バイオマーカー化合物)のレベルの比により、DNLの評価でより大きい感度および特異度を可能にしうる。
【0044】
任意の好適な方法を用いて生物学的サンプルを分析してサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルを決定しうる。好適な方法としては、クロマトグラフィー(たとえば、HPLC、ガスクロマトグラフィー、キャピラリーガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー)、質量分析(たとえば、MS、MS−MS)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、抗体結合、他の免疫化学的技術、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0045】
単純比較(たとえばマニュアル比較)をはじめとする種々の技術を用いて、1種以上のバイオマーカーのレベルとDNL参照レベルとを比較しうる。また、1つ以上の統計解析(たとえば、t検定、ウェルチのT検定、ウィルコクソンの順位和検定、相関分析、ランダムフォレスト、Tスコア、Zスコア)を用いてまたは数学モデル(たとえば、統計モデル)を用いて、生物学的サンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルと参照レベルとを比較しうる。たとえば、単一のバイオマーカーアナライト測定または複数のバイオマーカーアナライト測定を含む数学モデルを用いて、被験者においてDNLを評価しうる。2種以上のDNLバイオマーカーにより付与される作用を分析する場合、たとえば、各バイオマーカーの作用を定量する種々の数式または数学モデルを用いることにより、これらのバイオマーカーの作用を個別に評価するかまたはこれらのバイオマーカーの正味の作用を得ることが可能である。変数として1種以上のDNLバイオマーカーのレベルを含む式としては、変数として1種以上のバイオマーカーの値を用いて数学または統計学の原理または方法に基づいて確立された任意の数式、モデル、方程式、または表現が挙げられる。
【0046】
本方法の結果は、被験者においてDNLの評価に有用な他の方法(またはその結果)と一緒に使用されうる。たとえば、fDNL、インスリン感受性、および/または急性インスリン反応(AIR)の測定、さらには患者情報、たとえば、年齢、BMI、性別、人種、または他のリスク因子などは、バイオマーカーと共に使用可能である。
【0047】
一態様では、本明細書に提供されるバイオマーカーを数学または統計学のモデルまたは式(「DNL指標」)で用いて、被験者においてDNLのインジケーターとなる数値スコア(「DNL指標スコア」)を生成することが可能である。被験者は、DNL指標スコアにより低DNLから正常DNL、さらには高DNLまでの範囲内に割り当てられる。DNL指標を生成する方法は、1つ以上の参照コホート(たとえば、健常者、DNL関連疾患を有する個体)から生物学的サンプルを得る工程と、サンプル中の1種以上のDNLバイオマーカーのレベルを測定する工程と、1種以上のバイオマーカーの前記測定レベルで構成される測定レベルを数学モデルで使用する工程とを含みうる。たとえば、多変量分散分析、多変量回帰、重回帰などの方法を用いて、DNL指標で従属変数と独立変数との関係を決定することが可能である。本方法では、16:1n10、18:1n10、18:1n12、スクアレン、16:0、16:1n7、14:0、14:1n5、18:2n6、20:4n6、および22:6n3、ならびにそれらの組合せから選択される任意の数のマーカーを利用しうる。回帰分析などの統計的方法を含めて任意の方法により、複数のバイオマーカーとDNLとを相関付けうる。
【0048】
いくつかの実施形態では、1種以上のDNLバイオマーカーを変数として含む式は、回帰分析たとえば線形重回帰を用いて確立される。一実施形態では、バイオマーカーを統計モデルで用いてDNL指標を生成しうる。たとえば、なんら限定されるものではないが、以下の式をDNL指標で用いてDNL指標スコアを生成しうる。
DNL指標スコア=a(16:0)+b(16:1n7)−c(18:2n6)(モル%データを用いるかまたは全量もしくはTGに対して規格化する)
DNL指標スコア=(a(16:0)+b(16:1n7))/c(18:2n6)(規格化比)
DNL指標スコア=a(DNL陽性マーカー)−b(DNL陰性マーカー)
DNL指標スコア=a(16:0)+b(16:1n10)−c(18:2n6)
DNL指標スコア=a(16:0)+b(16:1n10)−c(スクアレン)
DNL指標スコア=a(16:0)+b(16:1n7)−c(18:2n6)
DNL指標スコア=a(16:0)+b(16:1n7)−c(18:2n6)+d(14:0)+e(14:1n5)
DNL指標スコア=a(16:0)+b(16:1n7)−c(18:2n6)+d(14:0)+e(14:1n5)−f(20:4n6)−g(22:6n3)
【0049】
式中、a、b、c、d、e、f、gは、各マーカーの標準的ヒトレベルから推定可能なスケーリング係数として機能する係数である。さらに、最適な臨床有用性を提供するように式の結果(DNL指標スコア)をスケーリングすることが可能である(たとえば1〜10)。バイオマーカー代謝物は、定量的または相対的に表すことが可能である(たとえばモル%)。しかしながら、式の係数および形態は、提供されるデータの形態に適合しなければならない。式では、1種以上のDNLバイオマーカー、たとえば、1、2、3、4、5種、またはそれを超えるバイオマーカーを変数として使用しうる。これらの式の定数は、既知のDNL値からまたはDNL関連疾患を有するコホートから得られるデータセットを用いて確立可能である。これらの式で使用されるDNLバイオマーカーのレベルは、一定の時点でのレベルまたは一定期間にわたるレベルの変化のいずれかでありうる。
【0050】
他の態様では、たとえば性別および/または人種などの変数をDNL指標に導入しうる。他の態様では、追加の脂肪酸または脂質の測定結果をDNL指標に導入しうる。
【0051】
DNL指標スコアは、DNLのレベル(たとえば、正常レベル、低レベル、高レベル)に従って被験者を分類するために使用可能である。DNL指標スコアの使用例としては、限定されるものではないが、DNLの評価、DNLの分類、DNL関連疾患を発症する素因、DNL関連疾患の診断、DNL関連疾患の進行/退縮のモニタリング、およびDNL関連疾患の治療の有効性のモニタリングが挙げられる。
【0052】
さらなる態様では、DNLバイオマーカーまたはDNL指標は、DNL指標およびDNLスコアが臨床診療に組み込まれて有用なメトリックとなる患者管理の医療アルゴリズムに含まれうる。医療アルゴリズムは、1種以上のDNLバイオマーカーアナライトの測定値または計算されたDNL指標スコアを用いて、診療所または医師を訪れる被験者の追加の検査、評価、および治療の指針を与えうる。単純なアルゴリズム例を
図1に示すが、これに限定されるものではない。被験者(101)は、症状を有して診療所を訪れうるか、または無症状でありうる(102)。被験者は、異常de novo脂質生成の個人歴または家族歴などのリスク因子を有していることもあれば、リスク因子を有していないこともある(102)。被験者がリスク因子を有しておらずかつ無症状である場合、DNL指標は決定されず、症状もリスク因子も発生しないかぎり患者は毎年モニターされる(103)。被験者が現在症状を有しかつ/またはリスク因子(たとえば個人歴もしくは家族歴)を有する場合、被験者からのサンプルを分析(104)して前記被験者のDNL指標スコア(105)を決定する。同様に、被験者が無症状でありかつリスク因子(たとえばその個人歴または家族歴)を有する場合、被験者からのサンプルを分析(104)して前記被験者のDNL指標スコア(105)を決定する。DNL指標スコア(105)がDNLの存在またはDNL関連疾患の素因の指標となる閾値または参照値を超えない場合、被験者は定期的にモニターされる(106)。DNL指標スコア(105)がDNLの存在またはDNL関連疾患の素因の指標となる閾値または参照値を超える場合、被験者を追加の検査および評価(107)に付して、前記被験者が(たとえば、薬剤および/または生活習慣を変更して)治療を受けるべきか決定する。追加の検査および評価に基づいて治療が必要であると決定された場合(108)、治療的介入を指示して(109)、治療に対する前記患者の反応をモニターする(110)。DNLバイオマーカー(104)を測定してDNLスコア(105)を計算することによりDNL状態を決定するために、前記被験者は定期的に来院する。DNLスコアと前のDNLスコアとを比較して、治療が有効であるかを決定する。治療介入(108)が必要でないと決定された場合、被験者は定期的にモニターされる(106)。
【0053】
III.疾患の進行/退縮のモニタリング
DNL指標でDNLバイオマーカーを用いることにより、被験者においてDNL関連疾患(たとえば、糖尿病および関連病態、肥満、肝臓脂肪症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、癌、心血管疾患など)の進行/退縮をモニターすることが可能である。被験者において、DNL関連疾患、たとえば、糖尿病および関連病態、肥満、肝臓脂肪症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、癌、心血管疾患、および皮膚障害の進行/退縮をモニターする方法は、(1)被験者からの第1の生物学的サンプルを分析して、第1の時点で被験者から得られる第1のサンプルで、16:1n10、18:1n10、18:1n12、スクアレン、16:0、16:1n7、14:0、14:1n5、18:2n6、20:4n6、および22:6n3、ならびにそれらの組合せからなる群から選択されるDNLの1種以上のバイオマーカーのレベルを決定する工程と、(2)被験者からの第2の生物学的サンプルを分析して1種以上のバイオマーカーのレベルを決定する工程であって、第2のサンプルが第2の時点で被験者から得られる、工程と、(3)第2のサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルと、(a)第1のサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルおよび/または(b)DNL参照レベルとを比較して、被験者においてDNL関連疾患の進行/退縮をモニターする工程とを含む。本方法の結果は、被験者においてDNL関連疾患の経過(すなわち、なんらかの変化がある場合、進行または退縮)の指標となる。
【0054】
第1のサンプルを得た後、1つ以上の追加のサンプルは、より後の時点で被験者から得られうる。一態様では、1つ以上の追加のサンプルは、第1のサンプルの1、2、3、4、5、6日後、またはそれよりも後で得られる。他の態様では、1つ以上のサンプルは、第1のサンプルのまたは組成物による治療開始の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10週間後、またはそれよりも後で得られる。他の態様では、1つ以上の追加のサンプルは、第1のサンプルのまたは組成物による治療開始の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ヶ月後、またはそれよりも後で得られる。
【0055】
一実施形態では、本方法の結果は、被験者においてDNLのレベルの指標となりかつ経時的にモニター可能なDNL指標スコアに基づきうる。第1の時点のサンプルのDNL指標スコアと少なくとも第2の時点のサンプルのDNL指標スコアとを比較することにより、DNL関連疾患の進行または退縮を決定することが可能である。たとえば、被験者において前糖尿病および/または2型糖尿病の進行/退縮をモニターするかかる方法は、(1)被験者からの第1の生物学的サンプルを分析して第1の時点で被験者から得られる第1のサンプルのDNL指標スコアを決定する工程と、(2)被験者からの第2の生物学的サンプルを分析して第2のDNL指標スコアを決定する工程であって、第2のサンプルが第2の時点で被験者から得られる、工程と、(3)第1のサンプルのDNL指標スコアと第2のサンプルのDNL指標スコアとを比較して、被験者において前糖尿病および/または2型糖尿病の進行/退縮をモニターする工程とを含む。
【0056】
本明細書に記載のバイオマーカーおよびDNL指標を進行のモニタリングに使用することにより、食事制限、運動、初期薬剤治療などの予防手段を実行する医師の決定に指針を与えたりまたはそれを支援したりしうる。
【0057】
IV.疾患の素因の決定
本明細書に記載のDNL指標でのDNLバイオマーカーの使用はまた、DNLに関連する疾患、たとえば、糖尿病および関連病態、肥満、肝臓脂肪症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)癌、心血管疾患、および皮膚障害のいずれの症状も示さない被験者がDNL関連疾患を発症する素因を有するか否かの決定にも利用されうる。DNL関連疾患、たとえば、糖尿病および関連病態、肥満、肝臓脂肪症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、癌、心血管疾患、および皮膚障害の症状を有していない被験者がDNL関連疾患を発症する素因を有するか否かを決定するかかる方法は、(1)被験者からの生物学的サンプルを分析して、16:1n10、18:1n10、18:1n12、スクアレン、16:0、16:1n7、14:0、14:1n5、18:2n6、20:4n6、および22:6n3、ならびにそれらの組合せからなる群から選択されるサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルを決定する工程と、(2)サンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルと1種以上のバイオマーカーのDNL陽性および/またはDNL陰性の参照レベルとを比較して、被験者がDNL関連疾患を発症する素因を有するか否かを決定する工程とを含む。また、バイオマーカーを数学または統計学のモデルまたは式(DNL指標)で使用して、DNL関連疾患の素因を決定しうる。本方法の結果は、被験者が疾患を発症する素因を有するか否かの臨床決定に有用な他の方法(またはその結果)と一緒に使用されうる。
【0058】
サンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルを決定した後、そのレベルとDNL陽性および/またはDNL陰性の参照レベルとを比較して、被験者がDNL関連疾患、たとえば、糖尿病および関連病態、肥満、肝臓脂肪症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、癌、心血管疾患、または皮膚障害を発症する素因を有するか否かを予測する。DNL陽性参照レベルに対応するサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベル(たとえば、参照レベルと同一のレベル、参照レベルと実質的に同一のレベル、参照レベルの最小および/もしくは最大を上回るおよび/もしくは下回るレベル、ならびに/または参照レベルの範囲内のレベル)は、被験者がDNL関連疾患を発症する素因を有することの指標となる。DNL陰性参照レベルに対応するサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベル(たとえば、参照レベルと同一のレベル、参照レベルと実質的に同一のレベル、参照レベルの最小および/もしくは最大を上回るおよび/もしくは下回るレベル、ならびに/または参照レベルの範囲内のレベル)は、被験者がDNL関連疾患を発症する素因を有していないことの指標となる。さらに、DNL陰性参照レベルと比較して、サンプル中に示差的に存在する(特に統計的に有意なレベルで)1種以上のバイオマーカーのレベルは、被験者がDNL関連疾患を発症する素因を有することの指標となりうる。DNL陽性参照レベルと比較して、サンプル中に示差的に存在する(特に統計的に有意なレベルで)1種以上のバイオマーカーのレベルは、被験者がDNL関連疾患を発症する素因を有していないことの指標となる。
【0059】
他の実施形態では、バイオマーカーを数学または統計学のモデルまたは式(DNL指標)で使用してDNL関連疾患の素因を決定しうる。本方法は、(1)被験者からの生物学的サンプルを分析して、16:1n10、18:1n10、18:1n12、スクアレン、16:0、16:1n7、14:0、14:1n5、18:2n6、20:4n6、および22:6n3、ならびにそれらの組合せからなる群から選択されるサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルを決定する工程と、(2)前記1種以上のバイオマーカーの測定レベルを含む数学モデルを用いてDNL指標を生成する工程と、(3)前記DNL指標からDNL指標スコアを計算する工程と、(4)サンプルのDNL指標スコアと1種以上のバイオマーカーのDNL陽性および/またはDNL陰性の参照レベルとを比較して、被験者がDNL関連疾患を発症する素因を有するか否かを決定する工程とを含む。
【0060】
さらに、DNL関連疾患、たとえば、糖尿病および関連病態、肥満、肝臓脂肪症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、癌、心血管疾患、または皮膚障害を有していない被験者がDNL関連疾患を発症する素因を有するか否かの評価に特有の参照レベルを決定することも可能であろう。たとえば、DNL関連疾患の発症に関して被験者において異なるリスク度(たとえば、低リスク、中リスク、高リスク)を評価するためのバイオマーカーの参照レベルを決定することが可能であろう。かかる参照レベルは、被験者からの生物学的サンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルと比較するために使用可能である。
【0061】
V.治療有効性のモニタリング:
提供されるバイオマーカーはまた、DNL関連疾患、たとえば、糖尿病および関連病態、肥満、肝臓脂肪症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、癌、心血管疾患、または皮膚障害の治療の有効性の評価を可能にする。かかる評価は、たとえば、有効性の研究、生活習慣の変更の影響のモニタリング、さらにはDNL関連疾患を治療するための組成物のリード選択に使用されうる。たとえば、糖尿病に対してDNL指標でDNLバイオマーカーを使用することにより、糖尿病の治療の有効性の評価さらには糖尿病の2つ以上の治療の相対有効性の評価を可能にする。治療有効性に関してモニターされる治療は、食事、ライフスタイルの変更、組成物による治療、またはDNL関連病態の治療に使用される他の治療を含みうる。
【0062】
したがって、(1)DNL関連疾患、たとえば、糖尿病および関連病態、肥満、肝臓脂肪症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、癌、心血管疾患、または皮膚障害を有し、かつ現在または以前、前記疾患の治療を受けている被験者(または被験者群)からの生物学的サンプル(またはサンプル群)を分析して、16:1n10、18:1n10、18:1n12、スクアレン、16:0、16:1n7、14:0、14:1n5、18:2n6、20:4n6、および22:6n3、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される障害の1種以上のバイオマーカーのレベルを決定する工程と、(2)サンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルと、(a)被験者から以前採取した生物学的サンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベル(ただし、以前採取した生物学的サンプルは、治療開始前に被験者から得たものである)、(b)1種以上のバイオマーカーのDNL陽性参照レベル、(c)1種以上のバイオマーカーのDNL陰性参照レベル、(d)1種以上のバイオマーカーのDNL進行陽性参照レベル、および/または(e)1種以上のバイオマーカーのDNL退縮陽性参照レベルとを比較する工程とを含む、DNL関連疾患、たとえば、糖尿病および関連病態、肥満、肝臓脂肪症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、癌、心血管疾患、または皮膚障害の治療の有効性を評価する方法もまた提供される。比較の結果は、DNL関連疾患の治療の有効性の指標となる。
【0063】
第2のサンプルは、第1のサンプルを得た後の任意の時間で被験者から得られうる。一態様では、第2のサンプルは、第1のサンプルのまたは治療開始の1、2、3、4、5、6日後、またはそれよりも後で得られる。他の態様では、第2のサンプルは、第1のサンプルのまたは治療開始の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10週間後、またはそれよりも後で得られる。他の態様では、第2のサンプルは、第1のサンプルのまたは治療開始の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ヶ月後、またはそれよりも後で得られる。
【0064】
1種以上のバイオマーカーのレベルの経時変化(もしあれば)は、被験者においてDNL関連疾患の進行または退縮の指標となりうる。被験者において所与のDNL関連疾患の経過を特徴付けるために、第1のサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベル、第2のサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベル、ならびに/または第1および第2のサンプル中のバイオマーカーのレベルの比較の結果と、1種以上のバイオマーカーのDNL陽性および/またはDNL陰性の参照レベルとを比較しうる。1種以上のバイオマーカーのレベルが経時的に(たとえば、第1のサンプルと第2のサンプルとを比較して)増加または減少してDNL陽性参照レベルに類似してくる(またはDNL陰性参照レベルに類似しなくなる)ことが比較から示唆されるのであれば、その結果はDNL関連疾患の進行の指標となる。1種以上のバイオマーカーのレベルが経時的に増加または減少してDNL陰性参照レベルに類似してくる(またはDNL陽性参照レベルに類似しなくなる)ことが比較から示唆されるのであれば、その結果はDNL関連疾患の退縮の指標となる。
【0065】
他の実施形態では、バイオマーカーを数学または統計学のモデルまたは式(DNL指標)で使用してDNL関連疾患の治療の有効性を決定することができ、本方法は、(1)DNL関連疾患、たとえば、糖尿病および関連病態、肥満、肝臓脂肪症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、癌、心血管疾患、または皮膚障害を有し、かつ現在または以前、前記疾患の治療を受けている被験者(または被験者群)からの生物学的サンプル(またはサンプル群)を分析して、16:1n10、18:1n10、18:1n12、スクアレン、16:0、16:1n7、14:0、14:1n5、18:2n6、20:4n6、および22:6n3、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される障害の1種以上のバイオマーカーのレベルを決定する工程と、(2)前記1種以上のバイオマーカーの測定レベルを含む数学モデルを用いてDNL指標を生成する工程と、(3)前記DNL指標からDNL指標スコアを計算する工程と、(4)サンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルと、(a)被験者から以前採取した生物学的サンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベル(ただし、以前採取した生物学的サンプルは、治療開始前に被験者から得たものである)、(b)1種以上のバイオマーカーのDNL陽性参照レベル、(c)1種以上のバイオマーカーのDNL陰性参照レベル、(d)1種以上のバイオマーカーのDNL進行陽性参照レベル、および/または(e)1種以上のバイオマーカーのDNL退縮陽性参照レベルとを比較する工程とを含む。比較の結果は、DNL関連疾患の治療の有効性の指標となる。
【0066】
本明細書に記載の他の方法と同様に、被験者においてDNL関連疾患、たとえば、糖尿病および関連病態、肥満、肝臓脂肪症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、癌、心血管疾患、または皮膚障害の治療の治療有効性をモニターする方法で行われる比較は、単純比較、1つ以上の統計解析、およびそれらの組合せを含めて種々の技術を用いて行われうる。
【0067】
本方法の結果は、本明細書に記載の他の方法(もしくはその結果)および/または被験者において疾患もしくは病態の進行/退縮の臨床モニタリングに有用な他の方法と一緒に使用されうる。
【0068】
以上に記載したように、疾患または病態、たとえば、糖尿病および関連病態、肥満、肝臓脂肪症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、癌、心血管疾患、または皮膚障害の診断(または診断支援)を行う方法に関連して、任意の好適な方法を用いて生物学的サンプルを分析してサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルを決定しうる。さらに、16:1n10、18:1n10、18:1n12、スクアレン、16:0、16:1n7、14:0、14:1n5、18:2n6、20:4n6、および22:6n3、またはそれらの任意の部分からなる群から選択されるすべてのバイオマーカーの組合せを含めて、1種以上のバイオマーカーのレベルを決定して、被験者においてDNL関連疾患の進行/退縮をモニターする方法に使用しうる。
【0069】
かかる方法を行って、被験者において疾患もしくは病態の発症の経過、たとえば、前糖尿病を有する被験者において前糖尿病から2型糖尿病への経過をモニターすることが可能であるか、またはかかる方法を用いて、疾患または病態を有していない被験者(たとえば、疾患もしくは病態を発症する素因を有することが疑われる被験者)において疾患もしくは病態の素因のレベルをモニターすることが可能である。
【0070】
提供されるバイオマーカーはまた、DNL関連疾患、たとえば、糖尿病および関連病態、肥満、肝臓脂肪症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、癌、心血管疾患、または皮膚障害の治療が有効な被験者(すなわち、患者は治療に反応する)の同定を可能にする。かかる評価は、たとえば、ある特定の被験者の疾患または病態を治療するための組成物の選択に使用されうる。
【0071】
VI.バイオマーカーを他の疾患または病態に使用する方法
他の態様では、本明細書に開示されるDNLバイオマーカーの少なくとも一部は、DNLに関連することが現在知られていない他の疾患または病態のバイオマーカーにもなりうる。すなわち、DNLに関する本明細書に記載の方法は、DNLに関連する疑いのある疾患または病態の診断(または診断支援)、かかる疾患または病態の進行/退縮をモニターする方法、かかる疾患または病態の素因を決定する方法、およびかかる疾患または病態を治療するための組成物の有効性を評価する方法にも使用されうる。かかる方法は、本明細書に記載されるようにインスリン抵抗性に関して実施可能である。
【実施例】
【0072】
I.一般的方法
簡潔に述べると、クロロホルム:メタノール(2:1v/v)を用いてFolchらの方法[Folch,J.,M.Lees,and G.H.Sloane−Stanley.1957.A simple method for the isolation and purification of total lipids from animal tissues.J.Biol.Chem.226:497−509.]により基準内部標準の存在下で血漿サンプルまたは皮脂サンプルから脂質を抽出した。記載されるようにsebutapeを用いて皮脂サンプルを採取した[Pierard,G.E.,Pierard−Franchimont,C.&Kligman,A.M.Kinetics of sebum excretion evaluated by the Sebutape−Chromameter technique.Skin pharmacology:the official journal of the Skin Pharmacology Society 6,38−44(1993)]。100℃、窒素雰囲気下、密閉バイアル内、メタノール中1%硫酸で全脂質抽出物を45分間エステル交換した。得られた抽出物を6%炭酸カリウムで中和し、脂肪酸メチルエステル(FAME)をヘキサンで抽出し、ガスクロマトグラフィーに供すべく調製した。脂肪酸メチルエステルを分離し、30m DB−88MSキャピラリーカラム(Agilent Technologies)およびフレームイオン化検出器を備えたキャピラリーガスクロマトグラフィー(Agilent Technologiesモデル6890)により定量した。各脂肪酸とその内部標準対照とを比較することにより定量結果を得た。ここに提示されたアッセイはすべて、内部精度管理プロトコルに合格したものである。
【0073】
これらの実施例では、モルパーセントデータ(モル%)をすべての解析に使用した。モル%データは、各脂肪酸が全プールに対するパーセントとして表された単純な脂肪酸組成データである。定量脂肪酸濃度をモル%濃度に変換することにより、全血漿中脂質レベルの変化(たとえば、トリアシルグリセリドの増加または減少)の影響を規格化により除去した。他の選択肢として、これらの脂肪酸を無傷の複合脂質(たとえば、PC16:0|16:1n7などのトリアシルグリセリド種またはリン脂質種)の成分として測定しうる。
【0074】
実施例1:de novo脂質生成(DNL)指標
いくつかの脂肪酸は、一部は順方向に(すなわち、それらはde novo合成される)、一部は逆方向に(すなわち、それらはde novo脂質生成により希釈されるかまたはそのプロセスの阻害剤である)、de novo脂質生成の影響を受ける。たとえば、脂肪酸のパルミテートおよびパルミトレエート(16:0および16:1n7)は、ヒトDNLの産物である(Aarsland A,Wolfe RR.Hepatic secretion of VLDL fatty acids during stimulated lipogenesis in men.J Lipid Res.1998;39:1280−1286.;Wu JH,Lemaitre RN,Imamura F,King IB,Song X,Spiegelman D,Siscovick DS,Mozaffarian D.Fatty acids in the de novo lipogenesis pathway and risk of coronary heart disease:the Cardiovascular Health Study.Am J Clin Nutr.2011;94:431−438.)。ミリステートおよびミリストレエートは、16:0および16:1n7の14個の炭素のアナログであり、かなり低い存在量であるがde novo脂質生成を介して産生される。しかしながら、リノール酸(18:2n6)は排他的に食事に由来する(それは食品供給物の中で最も豊富な多価不飽和脂肪酸である)。18:2n6は、このセットの他のメンバーと強い相関があるが負の相関があることから、このクラスターは、血流中でDNL由来の脂肪酸と食事由来の脂肪酸とのバランスを呈することが示唆される。これまでの研究では、DNL起源(Aarsland A,Wolfe RR.Hepatic secretion of VLDL fatty acids during stimulated lipogenesis in men.J Lipid Res.1998;39:1280−1286.)の脂質のうち18:2n6は低レベルであることが示されている。
【0075】
DNLに関連する脂肪酸は、(A)陽性マーカー:16:0、16:1n7、14:0、14:1n5と、(B)陰性マーカー:18:2n6、20:4n6、22:6n3とを含む。
【0076】
DNLの最も一貫性のあるバイオマーカーは、16:0、16:1n7、および18:2n6である。これらのマーカーを例示的なバイオマーカーとして選択し、サンプル中のレベルを測定し、前記測定レベルを指標で使用してDNLを測定した。バイオマーカーは、特定の脂質クラス(たとえば、トリアシルグリセリド(TG)、リン脂質(PL)、コレステリルエステル(CE))の範囲内でまたは全脂肪酸分析(すべて脂質クラスが分析に含まれる)の一部として測定されうる。脂肪酸は、組織中または流体中で測定可能であり、血清または血漿から測定される場合、DNLの特に有用なバイオマーカーである。この実施例では、これらのバイオマーカーの測定値を統計モデルで用いてDNL指標を生成する。このDNL指標は、患者のDNL状態について臨床医に通知したり、治療的介入に対する反応をモニターしたり、糖尿病および関連病態、肥満、肝臓脂肪症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、癌、心血管疾患(高トリグリセリド血症)、皮膚障害などの疾患の素因を評価したりするのに有用である。
【0077】
例示的なDNL指標、すなわち、DNL=a(16:0)+b(16:1n7)−c(18:2n6)を生成した。式中、データ(すなわち、例示的なバイオマーカー16:0、16:1n7、18:2n6の測定レベルの値)は、モル%にスケーリングされた。スケーリングおよび係数は、式中の各成分が等重量に近くなるように式の最終形態で変更される。たとえば、バイオマーカー16:0が脂肪酸の30%で存在し、かつバイオマーカー16:1n7が脂肪酸の1%で存在する場合、16:1n7の係数は、式の各脂肪酸成分の寄与を等しくするために約30にすべきである。
【0078】
標準的な脂肪酸分析プラットフォーム(GC−FIDまたはGC−MS)を用いて、バイオマーカーを測定した。プラットフォームは、1回のランでDNL指標の各成分のデータを生成する。他の選択肢として、LC−MSプラットフォームを用いてDNLを最もよく反映する脂質種を同定することが可能であり、かつバイオマーカー特異的/最適化LC−MSアッセイを開発することが可能である。
【0079】
式をスケーリングするための値の初期推定値を導出した。ヒト血清中の各主要DNL脂肪酸バイオマーカーの平均濃度(モル%で表される)(平均±SD)は、以下のとおりである。
16:0: 21.6±2.4
16:1n7: 2.1±1.1
18:2n6 31.9±4.6
【0080】
スケーリング係数は、各脂肪酸成分をその平均濃度で除算する(またはその濃度の逆数を乗算する)程度の単純なものでありうる。したがって、DNL指標の例(測定して以上で報告した平均バイオマーカー濃度に基づく)は、DNL指標スコア=0.0463(モル%16:0)+0.476(モル%16:1n7)−0.0313(モル%18:2n6)である。たとえば、任意のサンプルタイプ中の16:1n10、18:1n10、18:1n12、スクアレン、16:0、16:1n7、14:0、14:1n5、18:2n6、20:4n6、および22:6n3を含めて任意の脂肪酸に対して、スケーリング係数を計算しうる。
【0081】
この実施例に記載の方法を用いてかつDNL脂肪酸バイオマーカーの任意の組合せを用いて、任意のサンプルタイプのDNL指標を生成しうる。
【0082】
実施例2〜3では、以下のDNL指標を使用した。
DNL指標スコア=0.0463(モル%16:0)+0.476(モル%16:1n7)−0.0313(モル%18:2n6)。
【0083】
実施例2:DNL指標スコアに及ぼすde novo脂質生成阻害の影響
アセチル:coAカルボキシラーゼ(ACC)の化学阻害剤で処理された細胞を用いて2つの実験を行った。ACCは、de novo脂質生成に必要とされる基質であるマロニルCoAを産生する反応を触媒する酵素である。ACCの阻害により、マロニルCoAは産生されなくなるため、結果的にde novo脂質生成は阻害される。
【0084】
第1の実験では、培養下の細胞を阻害剤または媒体単独で24時間または48時間処理した。処理後、細胞を採取してバイオマーカーを測定した。バイオマーカーのレベルをDNL指標で使用してDNL指標スコアを生成した。DNL指標スコアは、阻害剤で処理された細胞では媒体単独の対照細胞よりも有意に低かったことから、de novo脂質生成は、ACC阻害剤で処理された細胞では減少したことが示唆される。2つの脂質画分、すなわちPL画分およびTG画分を用いてDNL指標スコアを計算したところ、類似の結果が得られた。データは、
図2(PL画分)および
図3(TG画分)にグラフで示される。
【0085】
第2の実験では、培養下の脂腺細胞を3つの用量(低、中、高)の1つのACC阻害剤または媒体単独の対照で処理した。処理後、細胞を採取してバイオマーカーを測定した。バイオマーカーレベルをDNL指標で使用してDNL指標スコアを生成した。阻害剤で処理された細胞は、媒体単独の細胞で得られたDNL指標スコアと比較してDNL指標スコアの用量依存的かつ有意な減少を示した。データは、
図4にグラフで示される。
【0086】
実施例3:肝臓障害を有する被験者へのDNL指標の適用
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、肝臓中への脂肪(一部はDNL脂肪であると考えられる)の蓄積から開始されて炎症および線維症に進行する疾患である。疾患の病期分類が生検により確認された合計60名の被験者(19名のNASH被験者、2名のNAFLD被験者、および39名の正常被験者)から血漿を採取した。バイオマーカー16:0、16:1n7、および18:2n6を測定し、測定結果をDNL指標で使用して各被験者のDNL指標スコアを生成した。正常対照と対比してNASH患者およびNAFLD患者でDNL指標スコアの明らかな上昇が存在した。結果は
図5にグラフで示される。
【0087】
実施例4:インスリン抵抗性および糖尿病性の被験者におけるDNL指標の開発および適用
他の実施例では、DNL指標モデルを作成して749名の被験者(そのうち102名は5年以内に糖尿病に進行した)で構成されたコホートに適用した。コホートは、55%の女性、45%の男性、42%の白人、34%の非白人系ヒスパニック人、24%のアフリカ系アメリカ人で構成され、平均年齢は55歳であった。最小モデル分析を用いて頻回サンプリング静脈内グルコース耐性試験(FSIGTT)によりベースライン時にすべての参加者からインスリン感受性(SI)および急性インスリン反応(AIR)の測定値を得た。糖尿病を発症した102名の参加者のうち、より高いBMIの被験者は高齢者であり、空腹時血中グルコース、SI、およびAIRのベースライン値は、糖尿病を発症しなかった個体とは有意に異なっていた。
【0088】
ベースライン時に749名の被験者から採取された血清で実施例1に記載されるように脂肪酸を定量した。脂肪酸濃度は人種/民族間で異なっていた。データは表1に示される。例示されたDNL指標中で変数として使用される脂肪酸バイオマーカーは、太字フォントに示される。
【0089】
【表1】
【0090】
分析前に代謝物のモル%値を平均値0および分散1に規格化した。SiおよびAIRもまた、AIR=sign(AIR)*sqrt(abs(AIR))およびSi=loge(Si+1)として変換した。DNL指標は、DNL=0.0464(16:0)+0.489(16:1n7)−0.0335(18:2n6)として計算した。
【0091】
パルミチン酸(16:0)およびパルミトレイン酸(16:1n7)は、インスリン感受性と強い逆相関があり(−0.39および−0.25のβ
0標準化係数、p<0.001)、新規発症糖尿病の有意な陽性予測因子であった(RR1.64および1.77、p<0.0001)。リノール酸(18:2n6)は、インスリン感受性と強い正の相関があり(0.38のβ
0標準化係数、p<0.001)、糖尿病の有意な逆予測因子であった(RR0.61、p<0.001)。データは表2に示される。例示されたDNL指標中で変数として使用される脂肪酸バイオマーカーは、太字フォントに示される。
【0092】
【表2】
【0093】
DNLバイオマーカーをDNL指標で使用した。DNL指標の相関をロジスティック回帰により評価した。2つのモデルを評価した。すなわち、一方は、未調整DNL指標(DNL指標スコア=0.0464(16:0)+0.489(16:1n7)−0.0335(18:2n6))、他方はSiおよびAIRで調整されたDNL指標である。未調整DNL指標は、新規発症糖尿病の有意な予測因子であった(表3、OR:1.5982、p値:<0.001)。DNL指標は、SiおよびAIRで調整した後も依然として有意であり、1.3987(p値:0.0054)のオッズ比を有していた。DNL指標は、インスリン感受性(Si)およびβ細胞機能(AIR)に依存しない新規発症糖尿病の予測因子であることがデータから示唆される。
【0094】
【表3】
【0095】
糖尿病予測モデルで曲線下面積(AUC)を評価した。受診者動作特性曲線(ROC)のグラフ図は
図6に示される。AIRおよびSiのみを含むモデル1のAUCは0.816であった。SiおよびAIRで調整されたDNL指標であるモデル2のAUCは0.837であった。したがって、モデル1とモデル2との間のROCの有意な増加により示されるように、数学モデルにDNL指標を組み込むことにより糖尿病(インスリン抵抗性、β細胞機能および肥満)の周知の病原基準よりも優れた糖尿病のリスクのさらなる識別が提供された。
【0096】
したがって、de novo脂質生成のマーカー(18:2n6、14:0、16:0、14:1n5、および16:1n7)は、インスリン抵抗性およびβ細胞反応障害のよく知られた経路に依存せずに新規発症糖尿病と相関があった。脂肪酸バイオマーカーは、SIの横断的相関因子および糖尿病の予測因子であった。前記バイオマーカーで構成されたDNL指標を前記被験者に適用した結果、DNL指標は、a)インスリン抵抗性と相関があり、かつb)インスリン感受性およびβ細胞機能に依存せずに将来の糖尿病の予測因子となることが示された。DNL指標は、糖尿病を発症するリスクを評価したり、その変化をモニターしたりするために測定されるべき、糖尿病プロセスの新しい生理学的属性となる。
【0097】
実施例5.皮脂DNL指標の開発および適用
他の実施例では、皮脂DNL指標モデルを用いて、皮膚中の皮脂の産生/分泌を阻害する脂質生成阻害剤の影響を評価した。コホートは、皮脂分泌の低減治療として脂質生成の阻害剤の臨床試験に登録された20名の被験者で構成された。10名の被験者はプラセボを摂取し、10名の被験者は治療剤を摂取した。ベースライン時に採取されたサンプルおよび治療後に採取されたサンプルで皮脂DNL指標スコアを計算した。以下の2つの皮脂DNL指標モデルを作成して評価した。
皮脂DNL指標1(SDI1):DNLスコア=0.0398(16:0)+0.0455(16:1n10)−1.398(18:2n6)
皮脂DNL指標2(SDI2):DNLスコア=0.0398(16:0)+0.0455(16:1n10)−0.0113(スクアレン)。
【0098】
ベースライン時および治療後、Sebutapeを用いて参加者からサンプルを採取した。このSebutapeは、参加者の前頭部に30分間適用してから除去され、一般的方法に記載のものと同一の方法で処理された。次いで、皮脂DNL指標モデルのそれぞれに示されるバイオマーカー変数に対して得られた測定値を用いて、DNL指標スコアを計算した。例示的な皮脂DNL指標モデルの両方を用いて、各群でベースラインの時点と治療後の時点とを比較する対応のあるスチューデントのt検定に基づいて、治療群ではDNLスコアの有意な減少(p<0.01)が観測されたが、プラセボ群ではDNL指標スコアの変化が観測されなかった(SDI1ではp=0.66、SDI2ではp=0.93)。皮脂DNL指標1では、治療によりスコアの有意な減少が測定されたが(p<0.01)、SDI1スコアに及ぼすプラセボの影響はなかった(p=0.66)。結果のグラフ図は
図7に示されている。同様に、治療に反応して皮脂DNL指標2から得られたスコアの有意な減少が測定されたが(p<0.01)、プラセボ治療ではSDI2スコアは変化しなかった(p=0.93)。データのグラフ図は
図7に示される。SDI1およびSDI2で得られたこれらの結果は、プラセボと比較された治療の効果と一致する。
【0099】
実施例6.正常ヒト集団でのDNL指標の性能
全血漿中脂質組成に対するde novo脂質生成の寄与率(fDNL)が分かっている11名の患者からのヒト血漿サンプルを分析に使用した。[M.K.Hellerstein,De novo lipogenesis in humans:metabolic and regulatory aspects.European journal of clinical nutrition 53 Suppl 1,S53−65(1999)]に記載されるようにfDNLを決定した。fDNL評価を行うと同時に脂肪酸分析用の血漿サンプルを得た。各サンプルで脂肪酸分析を行って、16:0、16:1n7、18:2n6、14:0、14:1n5、18:1n9、20:4n6、および22:6n3の濃度を決定した。
【0100】
本明細書に記載の方法を用いて、脂肪酸組成データから以下の3通りのDNL指標を計算した。
DNL指標1スコア=a(16:0)+b(16:1n7)−c(18:2n6)
DNL指標2スコア=a(16:0)+b(16:1n7)−c(18:2n6)+d(14:0)+e(14:1n5)
DNL指標3スコア=a(16:0)+b(16:1n7)−c(18:2n6)+d(14:0)+e(14:1n5)−f(20:4n6)−g(22:6n3)
【0101】
DNL指標で使用される係数は、研究コホートからのサンプル全体にわたる各脂肪酸の平均モル%濃度の逆数に等しかった。すなわち、a=0.043870068、b=0.576706455、c=0.030067766、d=0.887528921、e=16.64691481、f=0.178183345、g=0.670499855であった。
【0102】
11名の各患者のDNL指標スコアを3つの例示的なDNL指標で計算した。表4には、各患者に対する3つのDNL指標スコア、ならびに16:0、16:1n7、18:2n6、14:0、14:1n5、20:4n6、および22:6n3の脂肪酸濃度が示されている。
【0103】
【表4】
【0104】
3つの各DNL指標およびfDNLを用いて相関分析を行った。3つのDNL指標はすべて、fDNLと有意に正の相関があった。DNL指標1は、fDNLとの相関係数が0.62(p=0.04)であった。DNL指標2は、fDNLとの相関係数が0.77(p=0.01)であった。DNL指標3は、fDNLとの相関係数が0.62(p=0.04)であった。
図8は、DNL指標1、DNL指標2、およびDNL指標3の相関プロットのグラフ図を示している。
【0105】
実施例7.NASHの疑いのある患者集団でのDNL指標の性能
他の実施例では、3つのDNL指標モデルを評価して各指標とNASH対非NASH(二元分類)の診断および脂肪症の病期との相関を決定した。NASHを有する疑いのある213名の被験者の肝生検および組織診断によりNASHの診断および脂肪症のグレードを決定した。生検が行われたのと同一の日に絶食時血清サンプルを被験者から採取した。血清サンプルの脂肪酸組成プロファイリングを行って、3つの各DNL指標例およびDNL指標を構成する各脂肪酸と、NASHの存在(存在または不在の二分アウトカム)および脂肪症グレード(0、1、2、3)との相関を決定した。
【0106】
以下の3つのDNL指標を用いる。
DNL指標1スコア=a(16:0)+b(16:1n7)−c(18:2n6)
DNL指標2スコア=a(16:0)+b(16:1n7)−c(18:2n6)+d(14:0)+e(14:1n5)
DNL指標3スコア=a(16:0)+b(16:1n7)−c(18:2n6)+d(14:0)+e(14:1n5)−f(20:4n6)−g(22:6n3)
【0107】
DNL指標で使用される係数は、研究コホートからのサンプル全体にわたる各脂肪酸の平均モル%濃度の逆数に等しかった。すなわち、a=0.043870068、b=0.576706455、c=0.030067766、d=0.887528921、e=16.64691481、f=0.178183345、g=0.670499855であった。
【0108】
実施例6に記載されるように、213名の各患者のDNL指標スコアを計算した。ロジスティック回帰分析を用いて、3つの各DNL指標およびDNL指標の個別の脂肪酸成分とNASH診断とを関連付けた。データは表5に示される。結果は、
図9にグラフで示される。このグラフは、DNL指標1、2、および3のスコアのそれぞれについてNASHおよび非NASHに値の分布のボックスプロットを示している。DNL指標1、2、および3のスコアはすべて、NASH診断と有意に相関があり、それぞれ、0.027、0.002、および0.004のp値を有する。
【0109】
【表5】
【0110】
肝生検および組織学的分析に基づいて患者を脂肪症グレード(グレード0&1、グレード2、およびグレード3)により分類した。ANOVA分析を用いて、3つの各DNL指標およびDNL指標の個別の脂肪酸成分と脂肪症グレードとを関連付けた。データは表6に示される。結果は
図10にグラフで示される。このグラフは、DNL指標1、2、および3のスコアのそれぞれについて脂肪症グレード0&1、グレード2、およびグレード3の値の分布のボックスプロットを示している。DNL指標1、2、および3のスコアはすべて、脂肪症グレードと有意に相関があり、すべての指標で0.001未満のp値を有する。
【0111】
【表6】
【0112】
本発明についてその特定の実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく種々の変更形態および修正形態をなしうることは、当業者には明らかであろう。