特許第6557240号(P6557240)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6557240ヒト免疫不全ウイルス/後天性免疫不全症候群の治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557240
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】ヒト免疫不全ウイルス/後天性免疫不全症候群の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/17 20150101AFI20190729BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20190729BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20190729BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20190729BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20190729BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   A61K35/17 ZZMD
   A61K39/00 Z
   A61K39/39
   A61K38/19
   A61P31/18
   A61P37/04
【請求項の数】24
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-545336(P2016-545336)
(86)(22)【出願日】2015年1月8日
(65)【公表番号】特表2017-502058(P2017-502058A)
(43)【公表日】2017年1月19日
(86)【国際出願番号】US2015010658
(87)【国際公開番号】WO2015105999
(87)【国際公開日】20150716
【審査請求日】2017年12月25日
(31)【優先権主張番号】61/924,936
(32)【優先日】2014年1月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513276477
【氏名又は名称】イミュノバティブ セラピーズ,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100189094
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 陽一
(72)【発明者】
【氏名】ハー−ノイ マイケル
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−523886(JP,A)
【文献】 特表2007−523884(JP,A)
【文献】 特表2002−543144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A61K 38/00
A61K 39/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高免疫原性抗原を含む同種異系活性化Th1免疫生細胞又はその構成成分である高免疫原性抗原、;CD40表面レセプターとの結合を介してシグナルを伝達する分子、;並びに1型サイトカイン、;を含んでなるaTh1組成物であって、以下の用法にて用いるHIV患者の治療用組成物:
(A)HIVに感染している患者に、少なくとも1回の前記aTh1組成物の皮内投与を行うことによって、HIV感染に耐性を有する循環CD4+Th1記憶細胞の力価を上昇させ、更に、
(B)少なくとも1回の前記aTh1組成物の静脈内投与を行うことによって、前記患者における前記CD4+Th1記憶細胞を増加させ活性化させること、
を含む、用法であって、;
前記用法が、(a−1)少なくとも2回の前記aTh1組成物の皮内投与を行うことによって前記力価を上昇させる用法であって、(b−1)前記aTh1組成物の静脈内投与を当該皮内投与から7日以内に行うことを含む用法であり、;
前記用法が、(b−2)aTh1組成物の静脈内投与の後に更にaTh1組成物の静脈内投与を増量して行うことを含む用法であって、当該静脈内投与による前記患者のHIVウイルス量の増加の有無を検査することを含む用法である。
【請求項2】
前記用法が、前記(b−1)に記載の静脈内投与に関して、
(b−1’)前記aTh1組成物の静脈内投与を当該皮内投与から24時間以内に行うことを含む用法である、
請求項1に記載の治療用組成物。
【請求項3】
前記用法の(b−2)に記載の静脈内投与に関して、
当該静脈内投与による前記患者のHIVウイルス量の増加が検出されない場合に、又は、当該静脈内投与による前記患者のHIVウイルス量の増加が検出されたが当該HIVウイルス量が増加前のベースラインに回復した場合に、更なるaTh1組成物の静脈内投与が行われる、
請求項1又は2に記載の治療用組成物。
【請求項4】
前記同種異系活性化Th1免疫生細胞が、CD3/CD28モノクローナル抗体被覆マイクロ粒子を付着して備えるものである、請求項1〜3のいずれかに記載の治療用組成物。
【請求項5】
前記用法において、(a−1)に記載の少なくとも2回の前記aTh1組成物の前記皮内投与の間の間隔が3日間から1週間の間である、請求項1〜4のいずれかに記載の治療用組成物。
【請求項6】
前記用法が、(a−1)に記載の少なくとも2回の前記aTh1組成物の皮内投与において、最初の2回の皮内投与の部位とは異なる部位にて更に追加的な少なくとも2回の前記aTh1組成物の皮内投与を含む用法である、請求項1〜5のいずれかに記載の治療用組成物。
【請求項7】
前記用法において、(a−1)に記載の少なくとも2回の前記aTh1組成物の皮内投与のうちの少なくとも2回が同じ部位である、請求項1〜6のいずれかに記載の治療用組成物。
【請求項8】
前記用法において、前記静脈内投与をaTh1組成物の皮内投与とほぼ同時に行うことを含む、請求項1〜7のいずれかに記載の治療用組成物。
【請求項9】
前記aTh1組成物が、同種異系活性化CD4+T細胞を含むものである、請求項1〜8のいずれかに記載の治療用組成物。
【請求項10】
前記用法が、少なくとも1回の前記aTh1組成物の投与及び少なくとも1回のHIV抗原の投与を行って、HIV患者におけるHIV感染に耐性を有する循環CD4+Th1記憶細胞の力価を上昇させ、前記患者におけるHIVウイルス量を減少させることを含む用法である、請求項1〜9のいずれかに記載の治療用組成物。
【請求項11】
前記用法において、前記aTh1組成物及び前記HIV抗原が皮内投与される、請求項10に記載の治療用組成物。
【請求項12】
前記用法において、2回以上の前記aTh1組成物及び前記HIV抗原の皮内投与が行われる、請求項10又は11に記載の治療用組成物。
【請求項13】
前記用法において、前記患者が、高活性抗レトロウイルス療法(HAART)による治療を同時に受けている、請求項1〜12のいずれかに記載の治療用組成物。
【請求項14】
前記用法において、前記HAARTを中断し、前記患者のCD4+細胞及びHIVウイルス量をモニタリングする、請求項13に記載の治療用組成物。
【請求項15】
前記用法において、前記患者にウイルス急増が検出された場合には前記HAARTを再開する、請求項14に記載の治療用組成物。
【請求項16】
前記患者におけるHIV潜伏ウイルス量を低減又は除去する、請求項1〜15のいずれかに記載の治療用組成物。
【請求項17】
抗レトロウイルス薬剤を更に含む、請求項1〜16のいずれかに記載の治療用組成物。
【請求項18】
前記用法において、前記aTh1組成物及びHIV抗原が別々に投与される、請求項10〜17のいずれかに記載の治療用組成物。
【請求項19】
HIV抗原を更に含む、請求項1〜17のいずれかに記載の治療用組成物。
【請求項20】
治療用HIVワクチンの構成成分を含むキットであって、請求項1〜19のいずれかに記載の治療用組成物を含んでなり
前記aTh1組成物の皮内投与分、前記aTh1組成物の静脈内投与分、及びHIV抗原、を含んでなるHIV患者の治療用キットであって、以下の用法で用いるための前記キット:
(A)HIVに感染している患者に、少なくとも1回の前記aTh1組成物の皮内投与を行うことによって、HIV感染に耐性を有する循環CD4+Th1記憶細胞の力価を上昇させ、更に、
(B)少なくとも1回の前記aTh1組成物の静脈内投与を行うことによって、前記患者における前記CD4+Th1記憶細胞を増加させ活性化させること、
を含む、用法であって、;
前記用法が、(a−1)少なくとも2回の前記aTh1組成物の皮内投与を行うことによって前記力価を上昇させる用法であって、(b−1)前記aTh1組成物の静脈内投与を当該皮内投与から7日以内に行うことを含む用法であり、;
前記用法が、(b−2)aTh1組成物の静脈内投与の後に更にaTh1組成物の静脈内投与を増量して行うことを含む用法であって、当該静脈内投与による前記患者のHIVウイルス量の増加の有無を検査することを含む用法である
【請求項21】
前記治療用キットが、高活性抗レトロウイルス療法(HAART)の構成成分を更に含むものである、請求項20に記載の治療用キット。
【請求項22】
前記皮内投与分の組成物が、単回投与分のパッケージに分割されたものであって、各パッケージ中には同量の当該組成物が含まれる、請求項20又は21に記載の治療用キット。
【請求項23】
前記静脈内投与分の組成物が、単回投与分のパッケージに分割されたものであって、各パッケージ中には異なる量の当該組成物が含まれる、請求項20〜22のいずれかに記載の治療用キット。
【請求項24】
各投与サイクルでの単回投与分のパッケージがラベリングされ、前記組成物の量が増加するように設計されてなる、請求項20〜23のいずれかに記載の治療用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗レトロウイルス療法による治療に関し、特にHIV/AIDSの免疫療法による治療に関する。
【背景技術】
【0002】
AIDSは、米国において1981年に最初に報告され、それ以降主たる世界的流行病となっている。AIDSはヒト免疫不全ウイルス、即ちHIVによって発症する。今日において、世界中の三千万を超える人々が当該ウイルスに感染している(Cohen, Hellmann et al. 2008)。HIVは、人体の免疫系の細胞を致死させる又は損傷させることによって、特に、CD4+ヘルパーTリンパ球(CD4/CD8 T細胞比の反転に繋がる)及び単球/マクロファージ系統の細胞等のようなCD4分子を発現する免疫細胞を除去することによって、感染症及び他の疾患に抗する人体の能力を進行的に崩壊させる(Fauci 1996)。
【0003】
CD4 T細胞は成熟すると、Th1及びTh2と呼ばれる2つの極化した機能タイプに分化する(Mosmann and Coffman 1989; Mosmann and Sad 1996)。Th1 CD4+細胞は細胞性免疫の仲介に関与し、Th2 CD4+細胞は体液性免疫の仲介に関与する(D’Elios and Del Prete 1998)。HIV感染はTh1の一部を徐々に喪失させることにより、Th1/Th2比を反転させ(Becker 2004)、細胞性免疫を喪失させる。HIV患者におけるTh1免疫の喪失及びTh2優位である免疫への転換は、重篤な免疫抑制及びHIV陽性状態からAIDSへの進行と相関関係がある(Klein, Dobmeyer et al. 1997)。AIDS患者の主たる死因の1つに、細胞性免疫系の抑制による日和見感染がある(Baker and Leigh 1991)。
【0004】
HIVは、免疫回避のための複数の戦略を有する。これらの戦略には変異による回避、潜伏、ウイルスエンベロープにおける抗体結合部位のマスキング、クラスI主要組織適合遺伝子複合体(MHC−I)の発現低下、感染細胞の表面におけるFasリガンドの上方制御(Piguet and Trono 2001)、及びIL−10の生成誘導(Leghmari, Bennasser et al. 2008; Brockman, Kwon et al. 2009)が含まれる。更に、vif、vpr、vpu、及びnef遺伝子等のいくつかのウイルス遺伝子は、抗ウイルス免疫応答を抑制するように作用するタンパク質を翻訳する(Kirchhoff 2010)。これらのウイルスの回避機構によって、当該ウイルスは免疫学的手法を用いても制御困難なものとなる(Migueles, Tilton et al. 2006; Bansal, Yue et al. 2007; Feinberg and Ahmed 2012; Teshome and Assefa 2014)。
【0005】
HIVウイルス学は鋭意研究され、HIVのウイルス構造及びライフサイクルが明らかにされてきた(Pomerantz 2002; Sierra, Kupfer et al. 2005; Li and Craigie 2006; Cohen 2008; Scherer, Douek et al. 2008; Fanales-Belasio, Raimondo et al. 2010)。HIV粒子のひとつひとつはビリオンと呼ばれる。当該ビリオンは突起を有する球体形状である。当該球体の中心コアはカプシドと呼ばれる。当該カプシドはウイルスRNAと呼ばれる2つの一本鎖HIV RNAを含む。ウイルスRNAが血清中に検出された場合、当該ウイルスRNA量はウイルス量とみなすことができる。当該ウイルスRNAは逆転写酵素、インテグラーゼ、及びプロテアーゼと呼ばれるウイルスのライフサイクルにとって重要な3つの酵素をコードする。これらの酵素はヒト免疫系にとって異質であり、CD8+CTLキラー細胞により認識可能である(Haas, Samri et al. 1998)。このようにして、これらのウイルス酵素を発現する細胞は、免疫異物除去における標的となる。しかしながら、当該ウイルスRNAは、当該ウイルスが免疫異物除去を回避するよう補助する役割を果たすウイルスアクセサリータンパク質を生成する指示を更に含む(Seelamgari, Maddukuri et al. 2004; Malim and Emerman 2008)。
【0006】
当該コアの周囲には保護脂質(脂肪)二重層が存在し、カプシドの周りに殻を形成している(Frankel 1996; Bradbury 2013)。当該殻はウイルスエンベロープと呼ばれる。envと称されるHIVタンパク質は、当該ウイルスエンベロープ中に埋め込まれている。envタンパク質はgp120及びgp41という2つの糖タンパク質からなり、これらはビリオンから突出して突起を形成している。当該突起の頂点がgp120であり、幹部分がgp41である。HIVが宿主細胞に侵入するためには、まずgp120を用いてCD4レセプターに付着しなければならない(Pancera, Majeed et al. 2010; Guttman and Lee 2013)。
【0007】
gp120がCD4細胞に成功的に付着した後、当該分子は中和抗体による認識を回避するために形状を変化させる。当該プロセスは立体構造マスキングとして知られる(Kwong, Doyle et al. 2002)。gp120における当該立体構造変化によって、ケモカインレセプターと称されるCD4細胞表面上の第2のレセプターとの結合が可能となる。
【0008】
HIVビリオンの共受容体として用いられるCD4細胞表面上のケモカインレセプターは、CCR5又はCXCR4である(Moore, Trkola et al. 1997)。あるケモカイン共受容体に対して他のケモカイン共受容体を用いるようなウイルス側の優先傾向を「ウイルス指向性(viral tropism)」という。ケモカインレセプター5(CCR5)は、マクロファージ指向性(M指向性)のHIVが細胞に結合するのに利用される(Cohen, Kinter et al. 1997)。HIV感染全体の約90%が当該M指向性HIV株に関係するものである。フュージンとも呼ばれるCXCR4は、T指向性HIV(CD4 T細胞に好んで感染するHIV)が、宿主細胞に付着するのに利用されるケモカインレセプターである(Hoxie, LaBranche et al. 1998)。DC−SIGNとも呼ばれる別の共受容体は樹状細胞上で発現し、細胞性免疫に関与するこれら重要な細胞へのウイルス感染を促進するために、gp120を結合させる(Cunningham, Harman et al. 2007)。ウイルス感染したマクロファージは、CD4 T細胞と相互作用して細胞間接触によってウイルスを伝搬し得る(Martin and Sattentau 2009; Poli 2013)。更に、HIVはT細胞の合胞体形成を誘発して、細胞間ウイルス伝搬を促進する(Emilie, Maillot et al. 1990; Kozal, Ramachandran et al. 1994; Margolis, Glushakova et al. 1995)。
【0009】
一粒のビリオン粒子からであったとしても、HIVの伝染によって新たな感染が生じることになる。HIVビリオンは宿主感染細胞内で複製され、血漿中に放出されることによって、人体のリンパ組織の全てにおいてウイルス血症及び免疫細胞の持続感染を引き起こす。HIVは、高レベルのCD4表面発現を有するT細胞及びCCR5を共発現する一部のT細胞に好んで感染する。一部の記憶T細胞、特にHIVに特異的な記憶T細胞(Douek, Brenchley et al. 2002)及びTh2/Th0細胞(Maggi, Mazzetti et al. 1994)は、標的として好まれる(Helbert, Walter et al. 1997)。
【0010】
免疫不全が発症すると、ウイルスは進化して新たな細胞タイプに感染するようになる。これはCCR5共受容体への優先傾向からもう1つのCXCR4共受容体へと転換することを含む指向性変化に関係する。このような転換は、好適とされていた記憶細胞に加えてナイーブCD4+T細胞を含むように感染細胞が拡大することに関連する。同様に、当該ウイルスは表面上のCD4が低レベルである細胞に侵入する能力を進化させ、これにより単球/マクロファージに感染する能力を強化する。ナイーブ細胞はほぼ例外なく二次リンパ器官でみられるが、記憶細胞及びマクロファージは脳、組織、及び器官系を含むより広い組織分布を有する。ナイーブ細胞及びマクロファージへの感染は、人体全体並びに薬剤若しくは免疫療法にて標的化されにくい部位において、ウイルス感染細胞のプールを確立することになる。
【0011】
HIVのM指向性株及びT指向性株は人体に共存可能であり、これが当該ウイルス除去を標的化する能力を更に複雑にしている。ある感染段階においては、gp120はCR5又はCXCR4のいずれにも付着可能である。このような性質を有するHIVビリオンは、二重指向性ウイルス又はR5X4 HIVと呼ばれる(Toma, Whitcomb et al. 2010; Loftin, Kienzle et al. 2011; Svicher, Balestra et al. 2011)。マクロファージ及びT細胞の両方に存在するCXCR4レセプターを利用可能なHIVは、二重指向性X4 HIVとも称される(Huang, Eshleman et al. 2009; Gouwy, Struyf et al. 2011; Xiang, Pacheco et al. 2013)。ヒト個体が2つのウイルス集団、即ちCD4 T細胞と結合するために一方はCCR5を用いる集団であり他方はCXCR4を用いる集団、を有する場合は混合指向性となる。T指向性ウイルスとM指向性ウイルスとではウイルス学的な挙動が異なるため、混合指向性は薬剤設計において困難な問題を引き起こす。
【0012】
HIVエンベロープがCD4分子に付着して共受容体に結合すると、gp41エンベロープタンパク質の構造変化を利用してHIVエンベロープは細胞膜に融合し、中和抗体を回避する(Chen, Kwon et al. 2009)。HIVビリオンはこれにより当該標的化された細胞膜を透過することが可能となる。
【0013】
宿主細胞に侵入すると、当該ウイルスの酵素である逆転写酵素がウイルスRNAをウイルスDNAへと変換する。逆転写酵素阻害剤は抗HIV療法として開発された(Nurutdinova and Overton 2009; Chowers, Gottesman et al. 2010; Zhan and Liu 2011)。当該ウイルスRNAがDNAに転写されると、当該DNAは宿主細胞の核に侵入可能となる。インテグラーゼと呼ばれる別のウイルス酵素を用いることによって、当該ウイルスDNAは宿主細胞の染色体DNAに組み込まれることが可能となる。インテグラーゼの阻害は、抗ウイルス薬剤の開発における別の標的である(Geretti, Armenia et al. 2012; Okello, Nishonov et al. 2013)。当該組み込まれたウイルスDNAはプロウイルスと称され、宿主細胞の分裂時に宿主染色体とともに複製される。このプロウイルスの宿主DNAへの組み込みによって潜伏状態をもたらし、当該ウイルスが宿主免疫応答を効果的に回避することが可能となる。
【0014】
宿主細胞が活性化して分裂する際に、当該プロウイルスが宿主DNAと伴に転写され、ウイルスタンパク質及びウイルスRNAの生成が起こる。そしてウイルスタンパク質が宿主細胞のタンパク質生成機構を利用して集合し構築される。当該ウイルスのプロテアーゼ酵素により、新たに翻訳されたウイルスポリペプチドを、当該ウイルスを構成するタンパク質へと加工(processing)することが可能となる。これら種々のタンパク質は最終的にはウイルス粒子へと集合構築される。プロテアーゼ阻害剤はHIV感染治療のための別の種類の抗ウイルス薬剤である(Wattanutchariya, Sirisanthana et al. 2013)。当該集合構築されたウイルスはgagと称される核カプシドタンパク質を用いて宿主タンパク質機構と相互作用し、当該ウイルスの出芽及びウイルス全体の宿主細胞からの放出を引き起こす(Dussupt, Javid et al. 2009)。また、出芽状態のHIVは、細胞間相互作用によって直接に伝搬可能である(Fais, Capobianchi et al. 1995)。多くのウイルス粒子は、時間経過と伴に一つの細胞から出芽することが可能であり、最終的には細胞膜を溶解して細胞を致死させる。
【0015】
ウイルスを活発に生成している細胞は、CD8細胞(細胞傷害性Tリンパ球又はCTLs)による攻撃に脆弱である。CTL細胞は、ウイルス生成細胞を致死させるためにTh1 CD4細胞からの助力が必要である(Wodarz 2001)。HIV感染においては、ウイルス量は免疫を介したウイルス生成細胞の破壊速度と感染細胞からのウイルス粒子の放出速度との均衡がとれた定常状態にて維持することが可能である。当該定常状態において、当該ウイルス量がセットポイントのレベルに維持される(Korthals Altes, Ribeiro et al. 2003; Kaul, MacDonald et al. 2010)。CD4のカウントがCTLに対する当該ヘルパー機能を喪失するまで低下した場合、当該セットポイントでの制御が不能となり、ウイルス量が増加する。結局はこの点がCD4のカウントを低下させ、細胞性免疫の喪失をさせ、そして最終的にはAIDSに至ることになる。HIV感染は、AIDSの臨床的な症候群が発症するまで8〜10年間このような定常状態に留まり得る(Jurriaans and Goudsmit 1996; Callaway and Perelson 2002; Maenetje, Riou et al. 2010)。
【0016】
HIV感染における最も明白な実験室での観測は、血液中で見出されるCD4+T細胞数の低下及びCD4/CD8比の低下である。ウイルス量(ウイルスRNA)の増加は高感度PCRテストによって検出可能である。
【0017】
HIVの複製を長期的に抑制するための高活性抗レトロウイルス療法(HAART)は、HIV/AIDS医学における重要な業績である。HAARTカクテルは、当該本来のウイルスのライフサイクルを様々なポイントにてブロックするように設計された異なる作用機構を有する薬剤を含む。例えば、HAARTには、逆転写酵素、インテグラーゼ、プロテアーゼ、及び結合に対する阻害剤を含むことができる(Carter 2003; Laurence 2004; 2007)。現在、多くの患者が10年以上治療を受けているが、血漿HIV RNAレベル(ウイルス量)が臨床アッセイの検出限界(例えば、<50コピー/ml)を下回る状態となっている。当該ウイルスのライフサイクルを妨害する新たなHAART薬剤が開発されている。例えば、CCR5は主要なHIV共受容体と同定されているため、ファースト・イン・クラスの認可を受けた薬剤であるマラビロク(Maraviroc)(Rusconi, Vitiello et al. 2013)を含めた、当該ウイルス−CCR5相互作用を標的とした薬剤の開発に繋がっている。
【0018】
HAARTでは当該ウイルスを完全には除去できないため、HIV感染制御のためには、生涯にわたる抗ウイルス療法が必要となる。そのような療法は高い費用を要し、薬剤耐性、累積的な副作用、及び長期治療による未知の作用を引き起こす傾向にある。HAARTは腎臓、肝臓、及び膵臓の異常を含むいくつかの長期の副作用を生じさせ、脂肪代謝を変化せることによってコレステロール及びトリグリセリドレベルを上昇させ、卒中や心臓発作のリスクを増大させる(Carter 2003; Laurence 2004; 2007)。更には、いくつかのウイルスは、HAARTに対する耐性を有するように進化している(Fumero and Podzamczer 2003; Tebit, Sangare et al. 2008; Loulergue, Delaugerre et al. 2011)。
【0019】
HAART療法を停止した場合に最も典型的には3〜10日以内にウイルス血症の迅速なリバウンドが生じることからも明らかであるように、HAART療法は効果的であるのにもかかわらず、HIVの感染は持続状態にある。(Neumann, Tubiana et al. 1999; VanGulck, Heyndrickx et al. 2011)。この現象は、安定した保有宿主である潜伏感染細胞が初期に確立されていることに起因すると考えられる。ここで潜伏感染細胞は、HAART停止後にビリオン生成を広める元となる組み込まれたウイルスDNAを有している。
【0020】
HIV感染患者におけるHAART療法の目的は、血漿HIVウイルス量(HIV RNA)を検出不能レベルにまで低下させ、CD4細胞カウントを増加させることにある。当該目的の達成により疾患進行速度及び死亡率が低減する。しかしながら、一時的に検出可能なHIV RNA、即ちウイルスリバウンドという例外を経験する患者も存在する(Staszewski, Miller et al. 1998; Butler, Gavin et al. 2014)。ウイルスリバウンドの原因は未だ不明である。検出不能HIV RNAを達成したHAARTの患者のうち、ウイルスリバウンド率は25〜53%であることが報告されている。低レベルウイルス血症(セットポイントレベル)としてその後に持続するウイルスリバウンドは、当該ウイルスにおいて薬剤耐性を引き起こす遺伝子突然変異の原因となることがある。
【0021】
持続的低レベルウイルス血症を有する患者は、ウイルス学的失敗を経験する確率が高くなる。持続的低レベルウイルス血症とは、少なくとも2回の連続した通院において少なくとも3か月の間、血漿HIV RNAレベルが51〜1000コピー/mLの範囲にある状態と定義される。ウイルス学的失敗とは、血漿HIV RNAレベルが2回の連続測定において>1000コピー/mLである状態と定義される。
【0022】
HAART開始後、ほとんどの患者が免疫機能の向上及びウイルス抑制の維持を経験する。しかしながら、不十分な免疫応答(HAART療法を用いたのにもかかわらず、適切なCD4応答を達成及び維持できない状態と定義される)を有する患者も一部には存在する。HAART療法において不適切なCD4カウントを有する患者は、免疫学的失敗であると呼ばれる。適切なCD4カウントとは、一般的に特定の期間(例えば4〜7年間)において>500細胞/mmであると定義される。免疫学的失敗は、AIDS関係及びAIDSに無関係の罹患率及び死亡率を上昇させる。例えば、<500である低CD4カウントは心臓血管、肝臟、及び腎臓の疾患、並びに癌のリスク増大に関わっている。
【0023】
細胞傷害性Tリンパ球(CTL)及びナチュラルキラー(NK)細胞の応答は、急性感染後の最初の数か月間に見られるHIVウイルス量の初期の低減において重要である(Borrow, Lewicki et al. 1997; Fan, Huang et al. 1997; Smalls-Mantey, Connors et al. 2013)。これらの有用な細胞免疫応答は疾患進行に伴って減少し、抗レトロウイルス療法のみでは回復不可能である。CTL応答が有効なものとなるために一般的にCD4細胞からの助力を必要とする(Wodarz 2001)。
【0024】
最近の研究では、治療ワクチンは細胞性免疫並びにウイルスへのCTL及びNK応答を回復させるのに役立ち得ることを示唆している。治療用HIVワクチンは、人体本来の免疫応答を高めることによって、HIV感染を制御するように設計されている。HIV特異的なT細胞に基づくワクチンは、予防及び治療の両方の状況において鋭意研究されているが、ほとんどの研究は利点を提示することができず、いくつかの研究は有害であることを示唆している(Papagno, Alter et al. 2011)。現在においてFDAの認可を受けた治療用HIVワクチンは存在しない。
【0025】
HAARTによる長期間のウイルス抑制にも関わらず、HIVを治すことは今まで不可能であった。強力なウイルス抑制及びウイルス侵入の閉塞にも関わらず、急速なリバウンドが生じる。これは、ウイルス抑制の影響を受けず、免疫異物除去の標的化が不可能な、保有宿主である潜伏感染細胞の存在、;リンパ節及び組織におけるいくつかの細胞からの継続的で無症状のウイルス生成、;並びに、侵入経路の代替として、細胞間接触を通じてウイルスが拡散する能力、;によるものとも考えられており、これら全てがウイルス持続を維持する役割を果たしている。
【0026】
HAARTを行うことなくウイルス検出不能状態を維持できる患者に関する記述もあるが、これらの所謂「二次制御者」は低感染性タイプのHIVに感染している患者である(Lobritz, Lassen et al. 2011; VanGulck, Bracke et al. 2012)。患者の大部分にとっては、HAARTは疾患制御のために生涯にわたって必要とされる。
【0027】
HAART療法停止後における長期間ウイルス抑制の唯一の報告は、所謂「ベルリンの患者」である。当該ベルリンの患者は白血病治療のために同種異系幹細胞移植を受けていた。そのドナーは、特別な遺伝的特性(2コピーの劣性CCR5Δ32対立遺伝子)を有していたため、CD4細胞表面上にCCR5レセプターを発現する能力を有しなかった。これにより、当該移植のためのドナー細胞はウイルス侵入に対する耐性を有していた。移植後、当該患者は全てのHAART抗レトロウイルス療法を停止することができ、当該移植後3年半の間、検出不能ウイルス量の状態が持続された(Hutter, Nowak et al. 2009)。
【0028】
当該ドナーの免疫系によってもたらされた先天性又は後天性免疫が、活発なHIV複製を伴う細胞の除去に貢献した可能性がある。当該患者は移植片対宿主病(GVHD)を経験し、宿主リンパ球に対して向けられた同種異系免疫応答が、リンパ球において潜伏していたHIV保有宿主を一掃する効果を発揮した可能性がある。
【0029】
同種異系幹細胞移植は、治療に関連した死亡率及び罹患率が高く、毒性の高い処置である。その高い毒性は、化学療法による調整療法が必要であること、並びに、時としてGVHDによる致死的な副作用と関連している。GVHDによる当該毒性のため、同種異系移植処置の臨床的な使用は、他に治療の選択肢のない末期患者に制限される。しかしながら、HAART薬物療法中にて安定状態にあるHIV陽性患者においては、同種異系幹細胞移植による治療は臨床的に適していない。
【0030】
更に、同種異系移植はHLA組織適合ドナーを必要とする。血縁者にHLA適合ドナーを有する者は僅か1/3であり、非血縁者のHLA適合ドナーを見つけられる者は更に少数である。その上、適合ドナーが見つけられた場合であっても当該ドナーはCCR5Δ32突然変異に対して同型接合でなくてはならず、これは極めて稀な遺伝子型である(Jiang, Wang et al. 1999; Williamson, Loubser et al. 2000)。このように、適切なドナーの欠乏及び同種異系移植処置の毒性は、当該ベルリンの患者のデータを大多数のHIV感染患者にとって有益となるようにすることを不可能としている。
【0031】
従って、当該ベルリンの患者において長期間のHAART停止を可能とした機構を有効に活用するためには、更なる毒性を有さない治療法が必要となる。更に、HAART治療におけるウイルス学的失敗及び免疫学的失敗に対する治療の選択肢も緊急に必要となる。
【発明の概要】
【0032】
本記載は、HAART薬物療法中においてウイルス学的失敗及び/又は免疫学的失敗を抱えるHIV感染患者を治療するための免疫療法用薬剤及び治療用ワクチン組成物、並びに、それらの使用方法に関する。更に本記載は、日毎のHAART薬物治療の必要において、長期の休薬期間を可能とするのに十分なレベルまでに、HIV患者における潜伏ウイルスプールを一掃するための方法を記述する。
【0033】
本記載に係る組成物は、少なくとも1つの高免疫原性抗原を含んでいる生細胞又はその構成成分、;細胞活性化シグナルを伝達する表面CD40レセプターに結合する分子、;並びに、同時に又は時間をおいて送達される1つ以上の炎症性1型サイトカイン及び/又はケモカイン、;の組み合わせを含んでなる(以下「aTh1」と称する)。当該aTh1組成物は、少なくとも1つの抗レトロウイルス薬剤を更に含んでも良い。抗レトロウイルス薬剤を含む当該aTh1組成物は、本明細書においてAVI組成物と称することがある。当該aTh1組成物及び抗ウイルス薬剤は異なる経路にて送達されても良いが、両者の効果は同時的でなくてはならない。当該aTh1組成物の構成成分は、投与において溶液中にて混合することが可能であり、生分解性の担体の表面に付着した状態とすることも可能である。例示的な当該aTh1組成物は「アロスチム(AlloStim)TM」として知られており、イミュノバティブセラピーズリミテッド社(Immunovative Therapies,Ltd.)から入手可能である。
【0034】
本記載は当該患者におけるCD4+T細胞を増強する方法を含む。このCD4増強方法は、HIV患者の循環CD4+Th1細胞の力価を上昇させるためにaTh1組成物を用いることを含む方法である。ここで循環CD4+Th1細胞には、記憶表現型を有し、表面CCR5発現の下方制御を有すること、又は、ケモカインアゴニストの生成によりCCR5を阻害すること、又は、その両方、に起因することによって、HIV感染に対して耐性を有するCD4+細胞が含まれる。本方法は、免疫学的失敗を経験しているHIV感染患者においてHAARTと伴に同時に施用することが可能である。
【0035】
本記載は治療的なワクチン方法を更に含む。本方法は、aTh1組成物を、治療的ワクチンを形成するHIV抗原源と伴にアジュバントとして用いることを含む。ここで当該治療的ワクチンは、HIV特異的なT細胞の力価の上昇及び当該ウイルスの免疫制御という結果をもたらす。本方法は、HIV患者において治療的ワクチンとして施用することが可能であり、当該患者にはウイルス学的失敗を抱えるHAART薬物療法中の患者が含まれる。
【0036】
本記載はウイルス一掃方法を更に含む。本方法は、HIVの遺伝的物質に潜伏感染された細胞を活性化させるためのAVI組成物を用いることを含むため、当該細胞がウイルス粒子を生成し、これにより免疫介在性異物除去の標的となる。AVI組成物での当該抗ウイルス薬物療法は、覚醒した潜伏ウイルスプールが、残存するCD4細胞を圧倒して破壊することを防ぐ。本方法は、当該潜伏ウイルスプールを減少又は除去するために施用することが可能である。当該潜伏ウイルスプールの一掃は、最終的な完治のために必要な工程である。
【0037】
本記載の別の局面においては、CD4増強方法と、ウイルス一掃方法と、を組み合わせたHIV治療方法(「HAART休薬方法」)が記載される。また、当該HAART休薬方法は、治療的ワクチン方法とも組み合わせることが可能である。当該HAART休薬方法では、日毎のHAART薬物治療の必要性において、長期の休薬期間をHIV患者にもたらす。このような休薬期間としては、好ましくは30日間より長い期間であり、より好ましくは少なくとも90日間であり、最も好ましくは1年を超える期間である。
【0038】
一つの局面においては、本記載はHIV患者を治療する方法を含む。本方法は、HIVに感染している患者に少なくとも1回のaTh1組成物の皮内投与を行うことによって、HIV感染に耐性を有する循環CD4+Th1記憶細胞の力価を上昇させることを含む。また本方法では、更に、少なくとも1回のaTh1組成物の静脈内投与を行うことによって、前記患者における前記CD4+Th1記憶細胞を増加させ活性させることを含む。また本方法は、更に、少なくとも2回のaTh1組成物の皮内投与を行うことによって前記力価を上昇させる方法であって、前記投与の両方が同じ部位であり、前記皮内投与の間の間隔が約3日間から約1週間の間であることを含むものであっても良い。また、本方法では、前記最初の2回の皮内投与の部位とは異なる部位において、更に追加的な2回のaTh1組成物の皮内投与を含むものであっても良い。また、本方法では、前記患者が、高活性抗レトロウイルス療法(HAART)による治療を同時に受けていることを含むものであっても良い。
【0039】
別の局面においては、本記載はHIV患者のHIVウイルス量を低減する方法を更に含む。本方法には、少なくとも1回のaTh1組成物の投与及び少なくとも1回の1つ以上のHIV抗原の投与を行って、HIV患者におけるHIV感染に耐性を有する循環CD4+Th1記憶細胞の力価を上昇させ、前記患者におけるHIVウイルス量を減少させることが含まれる。本方法では、aTh1組成物及びHIV抗原が別々に投与されることを含んでも良く、またaTh1組成物及び1つ以上のHIV抗原が皮内投与されることを含んでも良い。
【0040】
更に別の局面においては、本記載は患者からHIVウイルスを低減又は除去する方法を更に含む。本方法は、患者にaTh1組成物の静脈内投与を増量して行うことを含む方法である。ここで前記患者はHAARTによる治療を同時に受けている患者である。また、本方法は、前記HAARTを中断し、前記患者のCD4+細胞及びHIVウイルス量をモニタリングし、前記患者にウイルス急増が検出された場合にはHAARTを再開する工程、を更に含むものであっても良い。
【0041】
更なる局面においては、本記載には、治療用HIVワクチンの構成成分を含むキットであって、aTh1組成物の皮内投与分、aTh1組成物の静脈内投与分、及び1つ以上のHIV抗原、を含んでなるキットが含まれる。当該キットはHAARTの構成成分を更に含むものであっても良い。
【0042】
更に別の局面においては、本記載には、同種異系抗原、CD40表面レセプターと相互作用する分子、及びI型サイトカインを含むaTh1組成物、;並びに、少なくとも1つ以上のHIV抗原、;を含有してなる組成物が含まれる。
【0043】
別の更なる局面においては、本記載には、同種異系抗原、CD40表面レセプターと相互作用する分子、及びI型サイトカインを含むaTh1組成物、;並びに、少なくとも1つ以上の抗レトロウイルス薬剤、;を含んでなるAVI組成物が含まれる。本組成物は1つ以上のHIV抗原を更に含むものであっても良い。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本記載は、レトロウイルス、特にヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染した患者のための組成物を含む。本組成物は、当該患者による免疫応答を引き出すためのaTh1組成物を含むことができる。本記載は抗ウイルス免疫療法用の薬剤組成物(aTh1+抗ウイルス薬剤)及びHIV感染患者の治療に当該抗ウイルス組成物を用いる方法を含む。
本記載において、本組成物が次のことに使用され得る方法が記載される:(1)CD4カウントを上昇させることによる免疫学的失敗の治療(CD4増強方法(CD4 Enhancement Method))、(2)ウイルス量の免疫制御を回復することによる、ウイルス学的失敗の治療(治療的ワクチン方法(Therapeutic Vaccine Method))、及び(3)潜伏ウイルスプールからのウイルスの一掃(ウイルス一掃方法(Viral Purge Method))。これらの方法全ての組み合わせ、又は、CD4増強方法及びウイルス一掃方法との組み合わせは、長期間に亘り、日毎のHAART薬物療法の必要性を除去することを可能とする(HAART休薬方法(HAART Holiday Method))。
【0045】
本明細書においては、aTh1及び抗ウイルス薬剤を含む抗ウイルス免疫療法用組成物はAVI組成物と称することがある。
【0046】
HIV感染患者は、本明細書に記載の当該組成物及び方法によって治療可能である。当該患者は、HAART治療中に免疫学失敗又はウイルス学的失敗を抱えた状態で、治療を受けるものであっても良い。当該患者は、HAART薬物療法と同時に治療を受けても良く、HAART薬物療法と同時でなく治療を受けても良い。本明細書に記載された当該組成物及び方法による治療成功を示すバイオマーカーは、HIV患者の血漿中における血清IL−12濃度の増加によって特徴づけられることができる。IL−12は、HIVに特異的な細胞性免疫を増強することが可能である。当該記載の方法は、通常は少なくとも120日間、好ましくは90日間、より好ましくは30日間、更に好ましくは7日間のaTh1組成物の投与によって、血清中におけるIL−12の出現を引き起こすことを可能とする。IL−12は、抗HIV免疫を生成する方法の成功を示す初期バイオマーカーとしての機能を果たすことができる。
【0047】
aTh1組成物は、i)少なくとも1つの高免疫原性抗原を含む生細胞又はその構成成分、ii)表面CD40レセプターとの結合を介してシグナルを伝達する分子、及びiii)1つ以上の炎症性1型サイトカイン及び/又はケモカインを含むことを可能とする。aTh1組成物におけるこれら全ての成分は、併用又は単独にて、同時に又は時間をおいて送達されることが可能である。
【0048】
aTh1組成物の高免疫原性抗原成分は、天然の、合成の、若しくは組換え体であるタンパク質又はペプチドであっても良く、ヒト免疫系にとって認識可能である外来性成分を含んでいても良い。当該免疫原性抗原は、例えば、同種異系又は異種タンパク質抗原であっても良い。異物と認識されるように改質された自己タンパク質も本記載の範囲に含まれる。自己タンパク質の改質は、組み換え又は化学的手段によるものであっても良く、自己タンパク質とアジュバントとの混合であっても良い。好適な実施形態としては、当該高免疫原性抗原は生細胞の一部であることが好適であり、好ましくは同種異系生細胞の一部、より好ましくは同種異系免疫生細胞の一部、最も好ましくは同種異系Th1免疫生細胞の一部であることが好適である。同種異系抗原はaTh1組成物に含まれる好適な高免疫原性抗原である。
【0049】
本組成物の高免疫原性抗原は、MHC I 及び/又はMHC II 上での提示を行うプロフェッショナル抗原提示細胞(APC)にて処理され得る。高免疫原性抗原の例としては、KLH、ウイルスタンパク質、細菌タンパク質、酵母タンパク質、真菌タンパク質、又はこれらの組み合わせを含むことができる。
【0050】
自己タンパク質等のタンパク質の免疫原性を向上させることを可能とするアジュバントの例には、未成熟樹状細胞を成熟したIL−12+DC1細胞にする薬剤が含まれる。その例には、LPS、BCG、及びToll様レセプターアゴニスト(例えばTLR4及びTLR7)等のアジュバント危険信号(danger signal)が含まれる。全ての高免疫原性のペプチド及びタンパク質は本記載の範囲に含まれる。
【0051】
また、当該aTh1組成物はI型サイトカイン及び/又はケモカインを更に含むことができる。aTh1組成物にとって好適な1型サイトカインは、インターフェロン−γ、IL−2、TNF−α、TNF−β、GM−CSF、IL−1、IL−7、IL−15、IL−23、及びIL−12のそれぞれ単独又はそれらの組み合わせを含むことができる。aTh1組成物にとって好適なケモカインは、RANTES、MIP−1α、MIP−1β、及びMCP−1のそれぞれ単独又はそれらの組み合わせを含むことができる。これらのI型サイトカインは、aTh1組成物の一部であっても良く、aTh1組成物によって患者の体内にて誘導されるものであっても良い。
【0052】
また、当該aTh1組成物は、表面CD40レセプターを介してシグナル伝達を行う分子を更に含むことができる。aTh1組成物においてCD40を介してシグナル伝達を行う好適な分子の1つは、固定化CD40L(CD154)である。CD40L(CD154としても知られる)はTNFスーパーファミリーに属する。CD40Lは、IL−12+表現型への成熟を補助するために、樹状細胞(DC)上に発現したCD40と相互作用する共刺激分子として作用し得る。CD40Lは、好ましくは細胞表面上の発現によって固定化され、CD40を介して陽性シグナルを供給する。別態様としては、融合タンパク質又は抗CD40抗体等のCD40に対するアゴニストを、CD40シグナルを伝達するために使用することも可能である。当該aTh1組成物の構成成分は、併用又は別々にて、様々な順序及び様々な時点において送達されることが可能であり、これらは本記載の範囲に含まれる。
【0053】
好適な実施形態においては、当該aTh1組成物は、活性化された同種異系CD4+T細胞を含むことができる。更により好適な実施形態においては、表面においてCD40Lの高発現を伴い、インターフェロン−γを生成する活性化同種異系記憶CD4+T細胞が用いられる。
【0054】
HIVに感染した(HIV陽性)のヒト個体では、IL−12生成及びCD40L発現が著しく損なわれ得る。CD40とCD40Lとの間の相互作用は、IL−12を生成するためのDC等の抗原提示細胞(APC)のT細胞依存活性化に関与する主要な機構である。CD40Lに対する受容体(counter-receptor)であるCD40は、HIV陽性のヒト個体での単球(monocytes)上において発現するところ、一方、IL−12の生成は抑制され続け得る。当該aTh1組成物投与後における血漿中でのIL−12の出現は、本方法での当該免疫機構が成功的に開始されたことを示すことができる。
【0055】
また、CD40Lの様々な形態(different forms of CD40L)についても、CD40を介したシグナル伝達をすることが可能である。例えば、可溶性三量体CD40Lアゴニストタンパク質(CD40LT)、可溶性CD40L、及びHIVウイルスに挿入されたCD40Lも上記と同様のシグナル及び同様の効果を提供することが可能である。CD40アゴニストのすべての形態が、本記載の範囲に含まれる。
【0056】
いくつかの好適な実施形態においては、当該aTh1組成物はアロスチムTMであっても良い。アロスチムTMは、正常ドナーの血液に由来する生物工学処理したCD4免疫細胞である。アロスチムTMは、活性化Th1記憶表現型であるCD4+、CD45RO+、CD62Llo、CD40Lhi、CD25+、インターフェロン−γ+、及びIL−4−を有する。アロスチムTMは、CD3/CD28モノクローナル抗体被覆マイクロ粒子との継続的な付着によって活性化状態を維持することが可能である。アロスチムTMのキーエフェクター分子は、CD40Lの高い表面発現、並びに、インターフェロン−γ、腫瘍壊死因子−α、及び顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)等の炎症性サイトカインの大量生成である。アロスチムTM及びアロスチムTMの製造方法は、例えば、米国特許第7,435,592号、米国特許第7,678,572号、及び米国特許第7,402,431号に記載されており、これらの全てが参照により本明細書に組み込まれる。他の同種異系である又は異種である免疫細胞も当該aTh1組成物の構成成分として用いることが可能である。本開示のいくつかの方法はアロスチムTMを参照して記載されるが、これは当該方法をアロスチムTMの使用のみに限定することを意味するものではなく、本記載の方法においては他の組成物を使用するものであっても良い。
【0057】
本明細書に記載のaTh1組成物は、抗ウイルス薬剤又は抗レトロウイルス薬剤(AVI組成物)を更に含んでも良い。aTh1組成物の必要な構成成分を含むアロスチムTM等の組成物がこれまでに開示されている。いくつかの実施形態においては、アロスチムTMの単独使用又はaTh1組成物の使用は、HIV感染の治療に対して十分ではない可能性がある。当該AVI組成物は、aTh1組成物と伴に抗レトロウイルス薬剤を含むものである。
【0058】
当該aTh1組成物は、癌治療においては有益であり得るところであるが、一方、HIV患者には害を与える可能性がある。これはHIVライフサイクルに特有の性質に起因するものである。例えば、アロスチムTMをaTh1組成物として用いた場合、アロスチムTMの皮内注入は、同種異系抗原に対して特異的な記憶CD4+細胞の力価を上昇させることを可能とする。HIV感染においては、CD4+記憶細胞のみの当該増加は、当該ウイルスの感染の標的となるCD4+の数を増加させるだけとなる。検出限界を下回るウイルス量となるようにウイルス抑制がされていない患者の場合、循環ビリオンが新たに形成されたCD4細胞に感染し、潜伏ウイルスプールを増加させることになる。このように、皮内へのアロスチムTM注入のみでは、潜伏ウイルスプールを増加させることになる。これらの新たに形成されたCD4+細胞をウイルス侵入から保護することを可能とする本方法に係る特徴は、静脈内注入を用いることによって、これらの細胞の活性化を行うことを可能とする工程にある。活性化記憶細胞はCCR5アゴニストサイトカインの上方制御及びCCR5レセプターの下方制御によってウイルス侵入に対して耐性を有し得る。しかしながら、当該記憶細胞の大量の活性化は、潜伏感染細胞における当該ウイルス生成を呼び起こし得る。アロスチムTMの静脈内注入はT細胞及び単球の活性化を引き起こし、その結果、潜伏感染細胞におけるウイルス生成の開始が起こりうる。これにより血漿中ウイルス量が増加し、最終的にCD4+細胞カウントが減少する可能性がある。更に、静脈内アロスチムTM注入後の潜伏ウイルスプールの活性化及びそれに続くウイルス複製の増加は、HAART薬剤カクテルに耐性を有するようになるウイルスエスケープ変異体への発達リスクを、増大させる可能性がある。HAARTにおいて用いられるような抗レトロウイルス薬剤と組み合わされる際には、アロスチムTM等のaTh1組成物を用いてHIV治療を行うために慎重に順序構成された用量及び経路での投与が要求され得る。これはウイルス生成を鈍化させ、当該ウイルスに対する免疫制御の確立を可能とする。CD4カウント及びHIV RNAウイルス量の頻繁なモニタリングは、適切な平衡状態が維持されることを確実にするために実行することが可能である。細胞及び血漿両方のウイルスDNAレベルをモニタリングすることによって、当該潜伏ウイルス量をモニタリングすることが可能である。
【0059】
アロスチムTM又は他のaTh1組成物は、健常細胞へのウイルス拡散を鈍化させ、ウイルス突然変異を防ぐために、初期段階においてはウイルス抑制薬剤と伴に用いることができる。
【0060】
AVI組成物には、種々の抗レトロウイルス薬剤や薬物を含ませることが可能である。AVI組成物には、例えば、抗レトロウイルス薬剤のどの種類の薬剤でも1つ以上含むことが可能である。抗レトロウイルス薬剤には、例えば以下の種類の薬剤を含むことが可能である。他の種類の薬剤も本記載の範囲に含まれる。
【0061】
ヌクレオシド/ヌクレオチド系逆転写酵素阻害剤(NRTIs):
「ニューク(nukes)」と呼ばれることもある。これらの抗HIV薬剤は、ウイルスRNAをDNAへ正しく変化するように逆転写酵素を用いるHIVの能力を、阻害するように作用し得る。宿主細胞では当該ウイルスが自身を複製するために必要なタンパク質を生成するためにDNAを用い得る。
【0062】
非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NNRTIs):
「非ニューク(non−nukes)」と呼ばれることもある。これらは「ニューク」と非常によく似た機序で作用し得る。非ニュークも酵素、即ち逆転写酵素を阻害して、HIVが自身のDNAの複製を作成することを妨げ得る。しかしニューク(遺伝物質に作用する)とは異なり、非ニュークは酵素が正しく機能しないようにするために酵素自体に直接作用し得る。
【0063】
プロテアーゼ阻害剤(PIs):
HIVが細胞内にて複製を行う際には、自身のRNA遺伝物質の長鎖を生成し得る。HIVが自身の複製をより多く生成するためには、これらの長鎖はより短い鎖に切断される必要がある。これらの長鎖を切断するよう作用する酵素は、プロテアーゼと呼ばれる。プロテアーゼ阻害剤は当該酵素を阻害して、遺伝物質である長鎖が機能片に切断されることを妨げ得る。
【0064】
侵入/融合阻害剤:
これらの薬剤は、ウイルスが細胞へ侵入することを阻害するように作用し得る。HIVはレセプター部位を介してCD4細胞に付着及び結合する。レセプター部位は、HIV及びCD4細胞の両方にみられる(他の種類の細胞にもみられる)。融合阻害剤は、HIV及びCD4細胞のいずれかにおけるこれらの部位を標的化し、HIVが健常細胞に「ドッキング」しないように妨げ得る。CCR5は、HIVに対するレセプター部位の一例である。
【0065】
AVI組成物に含まれ得る抗HIV薬剤の例としては、次に示す複数クラスの組み合わせを含み得る、:アトリプラ(エファビレンツ+テノホビルDF+エムトリシタビン)、コンプレラ(エビプレラ、リルピビリン+テノホビルDF+エムトリシタビン)、スタリビルド(旧称クアッド)(エルビテグラビル+コビシスタット+テノホビルDF+エムトリシタビン)、並びにトリーメク(旧称トリイ)(ドルテグラビル+アバカビル+ラミブジン)。
【0066】
抗HIV薬剤の例としては、次に示すNNRTsを含む、:エジュラント(リルピビリン、RPV、TMC−278)、インテレンス(エトラビリン、ETR、TMC−125)、レスクリプター(デラビルジン、DLV)、サスティバ(ストックリン、エファビレンツ、EFV)、ビラミューン及びビラミューンXR(ネビラピン、NVP)、並びにレルシビリン(UK−453061)。
【0067】
抗HIV薬剤の例としては、次に示すNRTIsを含む、:コンビビル(ジドブジン+ラミブジン、AZT+3TC)、エムトリバ(エムトリシタビン、FTC)、エピビル(ラミブジン、3TC)、エプジコム(カイベクサ、アバカビル+ラミブジン、ABC+3TC)、レトロビル(ジドブジン、AZT、ZDV)、トリジビル(アバカビル+ジドブジン+ラミブジン、ABC+AZT+3TC)、ツルバダ(テノホビルDF+エムトリシタビン、TDF+FTC)、ヴァイデックスEC及びヴァイデックス(ジダノシン、ddI)、ビリアード(テノホビルジソプロキシルフマル酸塩、TDF)、ゼリット(スタブジン、d4T)、ザイアジェン(アバカビル、ABC)、アムドキソビル(AMDX、DAPD)、並びにテノホビルアラフェナミドフマル酸塩、即ちTAF。
【0068】
抗HIV薬剤の例としては、次に示すプロテアーゼ阻害剤を含む、:アプティバス(チプラナビル、TPV)、クリキシバン(インジナビル、IDV)、インビラーゼ(サキナビル、SQV)、カレトラ(アルビア、ロピナビル/リトナビル、LPV/r)、レクシヴァ(テルジア、ホスアンプレナビル、FPV)、ノービア(リトナビル、RTV)、プリジスタ(ダルナビル、DRV)、レイアタッツ(アタザナビル、ATV)、ビラセプト(ネルフィナビル、NFV)、Prezcobix(Rezolsta、ダルナビル/コビシスタット)、並びにアタザナビル+コビシスタット。
【0069】
抗HIV薬剤の例としては、次に示すインテグラーゼ阻害剤を含む、:アイセントレス(ラルテグラビル、MK−0518)、テビケイ(ドルテグラビル、S/GSK−72)、並びにビテクタ(エルビテグラビル、GS−9137)。
【0070】
抗HIV薬剤の例としては、次に示す融合阻害剤を含む、:フューゼオン(エンフビルチド、ENF、T−20)、並びセルゼントリ(セルセントリ、マラビロク、UK−427,857)。
【0071】
上記した抗HIV薬剤は例示であり、他の抗HIV薬剤も本記載の範囲に含まれる。
【0072】
本明細書にて記載されたaTh1組成物及び/又はAVI組成物は、患者からHIVを低減及び/又は除去する方法において使用することが可能である。本明細書にて記載された方法は、当該患者におけるCD4+細胞を増強することを可能とする。また、本方法はウイルス量を低減させる及び/又は当該患者から当該ウイルスを一掃することも可能とする。

CD4増強方法
【0073】
本記載に含まれる方法にはCD4を増強する方法が含まれ得る。当該CD4増強方法は、抗ウイルス薬物療法を受けているHIV患者におけるaTh1組成物の使用を可能とする。これは、HIV患者のCD4+細胞カウント、好ましくはTh1記憶(CD4+CD45RO+)細胞カウントを増加させることを可能とする。本方法によって生成された新たなCD4+細胞は、ウイルス複製及びウイルス侵入に対して耐性を有し得る。当該CD4増強方法は、HAART薬物療法中に免疫学的失敗を抱えた患者において用いることが可能である。
【0074】
当該CD4増強方法は、循環中の活性化CD4+Th1記憶細胞を生成することによって、CD4+細胞カウントを増加させることを可能とする。活性化CD4+Th1記憶細胞は、HIV複製に対して耐性を有し得る。このようなHIV耐性の状態は、活性化記憶細胞から放出されてCCR5レセプター(例えば、RANTES、MIP−1α、及びMIP−1β)と相互作用するケモカインの生成の増加、並びに、活性化CD4記憶細胞上でのCCR5発現の下方制御、に起因し得る。
【0075】
ウイルス耐性CD4+細胞の生成は、当該CD4増強方法の重要な局面となり得る。ナイーブCD4細胞、Th2細胞、Th0細胞、又は休止CD4記憶細胞の数を増加させる方法は、単に「火に油」を注ぐことになりかねない。これらの好適でないCD4サブタイプはウイルス複製を許容する。「火に油」とは、ウイルス侵入の標的となるより多くのCD4が存在することとなり、これにより更に多くの細胞が血漿中にビリオンを生成し、潜伏感染を伴った細胞がより多くなり、ウイルス量が増加し、ついにはCD4細胞死を増加させる結果となり得ることを意味する。最終的には、CD4細胞の喪失によりCD4カウントが元々のベースラインを下回るまで低減され、当該患者を当該療法の前よりも悪化させることになり得る。
【0076】
当該CD4増強方法は、ウイルス侵入及び複製に対して耐性を有する高力価の活性化Th1記憶細胞を生成することを可能とする。ここで当該ウイルス侵入及び複製は、天然のCCR5リガンドの発現上昇及び付随する表面CCR5発現の下方制御を引き起こすことを可能とするCD28の共刺激(APC上での共刺激リガンドであるCD80及びCD86リガンドの上方制御を介して)による活性化に起因するものである。これらのHIV耐性細胞を生成するために、当該方法ではaTh1組成物(プライミング投与(priming doses))の複数回の注入、並びに、CD80及びCD86の共刺激性分子を発現させるためにAPCを活性化させること、を含み得る。aTh1組成物のプライミング投与は皮内に、皮下に、筋肉内に、又は静脈内に投与可能である。また、aTh1組成物はこれらの経路を組み合わせて投与し得る。
【0077】
実施形態の一つとしては、aTh1組成物のプライミング投与は複数回にわたり皮内投与にて行われる。記憶細胞を発達させるためには、最低でも2回の皮内注入又は投与が必要であり、例えば約4回以上の投与が行われる。当該投与は通常は頻回にて行われ得る。当該投与は約2週間の間隔で又は約1週間の間隔で、更には約3〜4日間の間隔であっても良い。約2日間より短い間隔での投与は統合して1回の投与とみなされる。循環中のCD4+記憶細胞が検出されるようになると、当該患者は「プライミングされた」(即ち、aTh1組成物における抗原に対して免疫がある)ということができる。
【0078】
当該CD4増強方法では、絶対的なCD4+細胞カウントを増加させることになり得る。CD4/CD8比は上昇し得える、又は、これに付随するCD8細胞の増加によりベースラインに近い付近に留まり得る。これに加えて本方法では、Th1/Th2平衡をTh1が増大する方向にシフトする結果となり得る。HIV感染はTh1細胞の喪失を引き起し、循環中の免疫細胞がTh2優勢となる結果となる。本明細書に記載の方法は、Th1細胞成分を増加させることによって当該不平衡状態を補正することを可能とする。
【0079】
実施形態の一つとしては、少なくとも2回のaTh1組成物の投与が同じ部位に行われる。当該同じ部位における少なくとも2回の投与の後、それに続く次の投与のための新たな部位が選択され得る。また別の態様としては、全ての投与を同じ部位にて行うことも可能である。新たな部位が選択された場合、新たな部位のそれぞれにおいて少なくとも2回の投与を行うと良い。当該aTh1組成物の投与サイクルは、所望のCD4+細胞カウントが得られるまで継続して行うことが可能である。
【0080】
同じ部位におけるaTh1組成物の皮内投与は、当該注入部位にアクセスするランゲルハンス細胞(LC)、マクロファージ(M)、および未成熟樹状細胞(DC)等のプロフェッショナル抗原提示細胞(APC)が、高免疫原性抗原を取り込んだ時にaTh1組成物中の1型サイトカイン及びCD40Lに曝された状態になることを確実にするために、行われ得る。これらのAPCが投与部位にアクセスするのに2〜3日間を要することがある。皮内投与の後、当該皮膚のLCがaTh1組成物からの当該抗原を取り入れて処理することにより、抗原に特異的なT細胞の活性化及びプライミングが生じる結果となる。
【0081】
aTh1組成物における1型サイトカイン及びCD40Lは、aTh1抗原を処理するプロフェッショナルAPCを成熟させ、MHC I/II、CD80/86、及びIL−12を発現させることを引き起こすことを可能とする。これらの成熟したAPCは、次いでナイーブT細胞と相互作用するために流入領域リンパ節にアクセスして、aTh1組成物中の当該抗原に特異的な新たなエフェクターCD4+Th1細胞及びCD8+CTL(Tc1)キラー細胞の活性化、分化、及び増殖を起こし得る。複数回の投与は、当該エフェクターTh1/Tc1細胞を記憶細胞へと変換することを可能とする。抗レトロウイルス薬剤の存在下において、aTh1組成物の投与回数を増加するのに従って、最終的に新たなより高いCD4セットポイントを実現することが可能となる。aTh1注入の過程においては、CD4カウント及びウイルス量をモニタリングすることが可能である。
【0082】
当該CD4増強方法は、当該患者を「プライミングされた」状態にし、aTh1組成物中の当該抗原に免疫を有する状態にすることを可能とする。これにより、活性化によりウイルス侵入に対して耐性を有する記憶CD4細胞が増加することになり得る。aTh1組成物のプライミング注射は複数回にて行うことが好適である。このような、免疫系への抗原の「反復的な(pulsed)」導入は、注入部位における遅延型過敏反応(DTH)を増大させ得る。当該DTH反応は記憶Th1細胞によって仲介される。そして、当該注入部位におけるDTH反応の出現は、aTh1抗原に特異的なCD4記憶細胞の存在を確認することを可能とする。また、増大したDTH皮膚反応は、HIV陽性患者にて循環中CD4記憶細胞の上昇した力価とも関係し得る。
【0083】
aTh1組成物中のCD40L及び1型サイトカインは、非特異的に(ポリクローナルに)記憶T細胞を活性化することが可能である。記憶Th1細胞がポリクローナルに活性化されると、これらはHIVへの耐性記憶、CCR5フェノタイプ、を増加及び維持することを可能とする。HIV耐性を有するCD4記憶細胞の増加は、有益で持続的なCD4カウントの増加を引き起こすことを可能とする。循環CD4記憶細胞をポリクローナルに活性化させるためには、aTh1組成物が静脈内に注入され得る。
【0084】
また、aTh1組成物の静脈内注入は潜伏感染した記憶細胞を活性化させ得る。これらの活性化細胞は、ポリクローナルに活性化されるとウイルス生成を開始し得る。本明細書に記載の方法はウイルスに耐性を有する記憶CD4細胞のプールを生成することを可能とし、これらの細胞は、HIV特異的CTLキラー細胞がウイルスを活発に生成している細胞を除去するために、補助を行うことを可能とする。当該患者がHAART薬物療法を継続中の場合、当該ウイルス生成を鈍化させることが可能となるため、抗HIV免疫応答を補助するのに十分な程度にCD4カウントを高く維持することが可能となる。このようにして、常在性の抗HIV免疫応答はウイルスを生成している当該活性化記憶細胞を識別して致死させることを可能とする一方、新たなウイルス耐性記憶細胞がこれらの細胞と置き換わっていく。ウイルス生成をしている活性化細胞の免疫異物除去とウイルス耐性記憶細胞の上昇との間での当該平衡状態は、最終的には絶対的なCD4カウントの増加及び当該潜伏ウイルス負荷量の減少へと繋がる。CD4カウントの揺らぎ的変動は、より高いCD4+細胞のセットポイントレベルに到達することに先行して生じ得る。
【0085】
患者がプライミング状態となりCD4カウントが増加した後、併発的に行われるaTh1組成物の皮内注入並びにaTh1組成物の静脈内注入によって、当該CD4カウントを更に増加させることが可能となり、HIVの排出から当該記憶細胞を継続的に保護することが可能となる。循環中のTh1記憶細胞における当該ポリクローナルな活性化は、持続的な1型サイトカインストームの確立を引き起こし得る。当該静脈内注入は、HIV患者の血液中の記憶CD4細胞の活性化を引き起こし得る。それにより1型炎症性サイトカインの生成の増大を引き起こすことが可能となり、1型サイトカインストームが引き起こされる。1型サイトカインは、周囲の記憶細胞をポリクローナリーに活性化することを可能とし、これにより活性化記憶細胞を維持するための正のフィードバックのループが創出される。
【0086】
活性化された記憶細胞は1型サイトカイン存在下で増加し得、これにより循環CD4カウントの増加が加速する。突発的で激しい免疫反応が、TNF−α及びIFN−γ等の1型サイトカインを含むサイトカインストームと伴に発生することが知られている。このようなサイトカインストームはHIV患者にとって有益であり得る。また、IFN−γ及びIL−12等のI型サイトカインは、当該記憶細胞の機能及び先天的な免疫活性を増強することを可能とする。
【0087】
当該使用に供されるaTh1組成物がアロスチムTMである好適な実施形態においては、本組成物中における当該細胞に付着させたCD3/CD28被覆マイクロビーズによって、静脈内注入はHIVに耐性を有する記憶細胞のCD4カウントを更に増強させる。また、これらのマイクロビーズは相互作用して宿主記憶細胞を活性化させ、これらの細胞を増殖させ得る。CD3/CD28被覆マイクロビーズで活性化された記憶細胞は、HIV感染に耐性を有し得る。
【0088】
実施形態の一つとしては、アロスチムTM細胞がaTh1組成物として用いられる。アロスチムTM細胞は、約0.2×10細胞〜約2×10細胞、好ましくは約1×10細胞となる投与量にて皮内に注入される。CD4カウントを加速させるための静脈内への好適な投与量は、約1×10〜約3×10細胞(低い投与量)である。アロスチムTM細胞は、約1×10細胞/mLの濃度にて緩衝液(例えば1%ヒト血清アルブミンを含むPlasmaLyteA)中に懸濁される。
【0089】
CD4カウント増強を加速する方法の1つには、皮内プライミングの間に1回以上の低投与量での静脈内アロスチムTM注入を含み得る。当該低投与量での静脈内注入は、最後の皮内注射から7日以内又は24時間以内に行うことができる。または皮内注入と同時に行うことができる。当該静脈内投与は、少なくとも2回の皮内プライミング投与が行われるまでは開始されない。または4回の皮内プライミング投与又は4回を超える皮内プライミング投与が行われるまでは開始されない。
【0090】
投与のタイミング、投与用量、及び投与経路のバリエーションは変更可能であり、これらは全て本記載の範囲に含まれる。

ウイルス量低減方法
【0091】
当該ウイルス量低減方法では、当該ウイルスに対する細胞性免疫制御の増強を介して、ウイルス量を低減することが可能である。本方法は、HAART薬物療法中のウイルス学的失敗を抱えた患者にとって有用となり得る。また、当該CD4増強方法及び本方法の加速はウイルス量の低減を達成可能である。しかしながら、当該構築された方法は、当該増加したCD4カウントにより覚醒可能である常在性抗HIV免疫応答の存在を必要とし得る。ある患者では有効な常在性抗HIV免疫応答を有しない場合があり、この場合これにより、ウイルスを生成するように活性化された細胞に対する免疫異物除去を媒介することができない。当該状況においては、当該ウイルス量低減方法は、欠損した抗HIV免疫応答を刷り込み、CD4カウントを増加させウイルス量を減少させることが可能であるため、有用である。
【0092】
当該ウイルス量低減方法は、aTh1組成物と伴に投与される1つ以上のHIV抗原成分を含むものであっても良い。当該HIV抗原成分としては、例えば、天然の又は組換えHIVウイルスタンパク質に加え、弱毒化したウイルス全体を含み得る。これらのHIV抗原は、aTh1組成物と伴に同一の投与経路及び投与頻度にて投与される。
【0093】
当該HIV抗原及びaTh1組成物は、事前にプライミングされた患者に、同時に又はお互いの間隔をあけずに即座に皮内投与される。当該aTh1抗原は、事前のプライミングによって激しい記憶応答を引き起こし得る。次いで、当該ウイルス抗原及びaTh1抗原は、LC又はDC等のスカベンジャーであるAPCによって取り込まれ得る。これらの細胞は、HIV抗原に特異的なT細胞を活性化させるために、当該抗原を処理して提示を行い得る。本方法によって、aTh1組成物と、事前のプライミングにより注入部位に到達しているTh1記憶細胞とは伴に、両方がTh1/Tc1抗HIV免疫の発達を導くアジュバントとして作用し得る。
【0094】
当該ウイルス量低減方法は、通常はaTh1組成物と伴に用いられるHIV抗原を含む。これらのHIV抗原は、天然の又は組換えウイルスタンパク質であってもよく、tat、env、及びgp120が含まれる。また、弱毒化ウイルス全体又はnef置換による弱毒化ウイルスを用いることもできる。当該タンパク質は、ポックスウイルス等のキャリアにおいて発現させることが可能である。好適な実施形態の一つとしては、当該HIVウイルスタンパク質はgagタンパク質である。aTh1組成物と伴にHIV抗原を反復的に投与することは、HIVに特異的なCD4 Th1記憶細胞及びCD8記憶CTLの高い力価を確立させることを可能とする。これらの記憶細胞は、aTh1組成物を静脈内に注入することによって活性化状態が維持され得る。

ウイルス一掃方法
【0095】
当該ウイルス一掃方法では、抗ウイルス薬物療法中の患者においてaTh1組成物の静脈内投与の用量を増量させることを含むことが可能である。本方法はCD4増強方法及び/又はウイルス量低減方法を最初に受けた患者を対象としている。当該ウイルス一掃方法は、ウイルス耐性記憶細胞からなる増加したCD4セットポイントを達成した患者に対して施される。当該患者が高い潜伏ウイルス量を有する場合、静脈内への注入によるこれらの細胞の活性化は、ウイルスの爆発的放出を引き起こしてCD4カウントの即時低下という結果になり得る。従って、可能な限り高いCD4セットポイントから本方法を開始した方が安全である。例として挙げると、当該患者としては、CD4セットポイントが>300細胞/mL、>500細胞/mL、又は>700細胞/mLである。
【0096】
ある実施形態においては、事前にプライミングされて少なくとも6か月の間ウイルス量が検出限界を下回った状態にある患者が、活発な抗ウイルス抑制を維持しつつ、投与用量を増加させながらaTh1組成物の静脈内投与を受ける。当該静脈内注入は少なくとも約3日間の間隔を空けて行うことが可能である。各注入後においては、ウイルスの急増が生じたかを判定するために当該ウイルス量を検査することが可能である。急増とは当該検出限界を超える如何なる測定値をも指す。当該aTh1の投与用量は、ウイルス急増が生じるまで各注入時において増加することが可能である。当該ウイルス急増の出現は、当該潜伏プールの細胞が活性化されたことを示し得る。ウイルス急増の発生後においては、当該ウイルス量が検出不能レベルに回復するまでの間、CD4カウント及びウイルス量について経過観察を行っても良い。当該ウイルス量が検出不能となった場合、ウイルス急増を引き起こした投与量と同じ投与量にて、更なるIV注入を施すことが可能である。ウイルス急増が再び検出された場合、当該ウイルス量がベースラインに回復するまで当該患者は経過観察され、そして当該処理は静脈内注入後にウイルス急増が発生しなくなるまで反復して行うことができる。ウイルス急増が検出されない如何なる時点においても、当該静脈内投与量を再び増量することが可能である。当該増された投与量がウイルス急増を引き起こす場合、急増が引き起こされなくなるまで当該処理は反復して行われる。増量された静脈内投与量がウイルス急増を引き起こさない時点にて、当該静脈内投与は中断することが可能である。
【0097】
当該静脈内投与が中断された後、当該患者のCD4及びウイルス量は継続してモニタリングを行っても良い。1週間を空けて少なくとも2回のカウントにおいてCD4が当該ベースラインCD4値を超えて安定しており且つ当該ウイルス量が検出不能である場合、当該患者の当該抗ウイルス薬物療法を終了することが可能となる。抗ウイルス薬物療法の休薬中の間、当該患者はCD4カウント及びウイルス量をモニタリングされる。当該ウイルス量が急増するまでの間は、当該患者は抗ウイルス薬剤を用いないままが望ましい。当該ウイルス量の急増が発生した場合は、当該抗ウイルス薬物療法を直ちに再開することが望ましい。
抗ウイルス薬剤の休薬中でのウイルス量の急増後は、当該静脈内投与の用量を増量する処理が再開される。当該患者は抗ウイルス薬物療法からの休薬状態に置かれる度ごとに、ウイルス急増の発生に要する時間が増加することになるであろう。
【0098】
アロスチムTMがaTh1組成物として用いられる実施形態においては、当該増量された静脈内投与は約3×10細胞から開始することが可能であり、約5×10細胞へ、約10×10細胞へ、約15×10細胞へ、約20×10細胞へと増量することが可能である。投与用量の増量は、5×10細胞の間隔で最大100×10細胞まで継続して行うことが可能である。
【0099】
上記されたように、CD4増強方法、ウイルス量低減方法、及びウイルス一掃方法の組み合わせを施すことが可能である。いくつかの実施形態においては、当該患者はaTh1組成物と併用して必要に応じてHAART薬物療法が施される。
【実施例】
【0100】
実施例1
【0101】
当該初期治療プロトコールの段階において患者に対するHAART療法を継続した。潜伏ウイルスの活性化に成功したこと示すウイルス負荷量の急増、並びに、それに続く免疫制御を示すベースラインへのウイルス負荷量の減少、を検出の後、患者はHAART中断段階に適した状態となり得る。
【0102】
治療中断におけるリスクを最小限にするために、当該患者は厳密にモニタリングされ、ウイルス複製が検出されると治療が再開されることになる。
【0103】
当該プロトコールは、HAART中の患者に対してアロスチムTMの皮内投与と増量した静脈内投与との間で変更可能である。当該皮内投与は、HIV感染に対して耐性を有する循環CD4+Th1記憶細胞の力価を上昇させるように設計されている。当該静脈内注入は、炎症性サイトカインストームを引き起こし、記憶CD4細胞及びマクロファージ(CD40−CD40Lを介して)を活性化させるように設計されている。活性化により保有宿主における潜伏ウイルス複製が刺激されることになる。更に、当該静脈内注入は、ウイルス抗原源を提供するウイルス複製細胞を標的化し致死させるNK細胞を活性化させることになる。樹状細胞はshedウイルス抗原を処理し、炎症性環境において抗HIV特異的免疫を刺激することになる。当該継続的な炎症性ストームは、ウイルス免疫回避機構を無能力化し、ウイルス複製細胞を一掃することになる。CD4細胞を増加させるための皮内注射、及び、潜伏ウイルスを活性化し抗HIV免疫を刺激するための静脈内注入、との間の当該サイクルによって、潜伏ウイルスを消滅できることが期待される。各IV注入によって、ウイルス量の急増が引き起こされることになる。そしてそれに続く免疫制御によって、ウイルス量が徐々に減少することになる。ウイルス量をベースラインにまで回復させることが困難である場合、ウイルス遮断薬(例えばマラビロク及び/又はフューゼオン)が添加されることになる。
【0104】
治療計画
【0105】
初期プロトコールは28日間である。
【0106】
0日目:皮内アロスチムTM
【0107】
3日目:皮内アロスチムTM
【0108】
7日目:静脈内アロスチムTM(1mL)
【0109】
10日目:皮内アロスチムTM
【0110】
14日目:皮内アロスチムTM
【0111】
17日目:静脈内アロスチムTM(3mL)
【0112】
21日目:皮内アロスチムTM
【0113】
24日目:皮内アロスチムTM
【0114】
28日目:静脈内アロスチムTM(5mL)
【0115】
ウイルス量およびCD4/CD8比をベースライン(0日目)、10日目、21日目、及び29日目にて、並びにその後28〜32日ごとに6か月間測定する。
【0116】
検査用の血液(45mL)をベースライン(0日目)にて又はその前に、並びに7日目、17日目、及び27日目のIV注入前に採取する。PBMC及び血漿は、Th1/Th2平衡(ELISPOT)、HIV特異的免疫(ELISPOT)、サイトカインビーズアレイでの分析を行うまで冷凍保存される。
【0117】
以下に記載のものを含む表現型解析がベースライン前及び60(±2)日目に行われる:
【0118】
CD3、CD4、CD8、CD45RA、CD45RO、CD62L、CD25
【0119】
CD14、HLA−DR、CD80、CD86、CD16、CD38、CD117
【0120】
CBC、CMP、CRP実験室試験を念のため、ベースライン、7日目、14日目、21日目、及び28日目にて行う。
【0121】
HAART中断
【0122】
潜伏感染レベルを測定するために、健康なHIVの感染対象部位であるリンパ系組織又はほとんどの解剖学上部位へアクセスすることは困難である。更に、そのような調査にて感染した保有宿主を検出できなかったとしても、これらのことによって潜伏ウイルスの根絶を証明することはできない。当該有効性の最終的な検査は、HAARTの休薬のみであり得る。
【0123】
ウイルス量の急増を経験し、その後にベースライン以下にまで回復し、少なくとも60日間ベースライン以下を維持した患者は、当該プロトコールにおけるHAART中断段階に移行する選択が与えられる。当該段階においては、すべてのウイルス抑制薬が休薬され、最初の7日間はウイルス量が毎日測定される。ウイルス量の増加が検出された場合、HAARTが再開されることになる。ウイルス量の増加が検出されない場合、ウイルス量を7週間毎週測定しながら当該HAART中断は継続される。ウイルス量の増加が検出されない場合、ウイルス負荷量検査がHAART中断から1年経過するまで毎月実施される。ウイルス負荷量の増加が検出されたいかなる時点でも、HAARTは再開される。
【0124】
主要評価項目:
【0125】
ベースライン及びHAARTを継続しながらの28日間のプロトコール完了後6か月間毎月での定常状態ウイルス血症(所謂ウイルスセットポイント)の変化
【0126】
安全性及び耐性
【0127】
CD4及びCD8ナイーブ並びに記憶T細胞のベースラインからの変化、絶対的カウント、及び活性化状態
【0128】
単球/マクロファージの絶対的カウント及び活性化状態における変化
【0129】
細胞内サイトカイン染色(ICS)又はELISPOTにより測定されたインターフェロン(IFN)−γ生成(HIV抗原に反応して)CD4 T細胞の末梢血単核細胞(PBMC)100万細胞に対する細胞数の変化
【0130】
二次評価項目:
【0131】
HAART中断後にベースラインからウイルス負荷量が増加する時間
【0132】
試験対象患者基準:
【0133】
HIV−1に感染している
【0134】
治験前少なくとも12週間の間、変化又は中断なくHAART治療計画を安定して継続中である。患者は現時点において少なくとも異なる2種類の薬剤を含む治療計画を受けていなくてはならない。
【0135】
治験前30日以内において血漿中HIV−1ウイルス量を2回測定した値が50コピー/mL未満である。
【0136】
治験前12週間以内においてCD4カウントが350細胞/mmを超える値である。
【0137】
治験前のいかなる時点においてもCD4カウントの最小値が250細胞/mmを超える値である。
【0138】
避妊のために許容可能な形態のものを利用する意思がある。
【0139】
治験前30日以内において得られたカルノフスキー指数(Karnofsky performance score)が90以上である。
【0140】
除外基準:
【0141】
年齢が18歳未満である。
【0142】
HAARTに失敗した患者である。
【0143】
治験前24週間以内においてHIV−1ウイルス量が500コピー/mLを超える量である。
【0144】
何等かの慢性自己免疫疾患(例えばバセドウ病)の病歴を有する。治験前2週間以内に、日光(例えば日光浴、日焼けマシーン)に過剰に曝されている。
【0145】
以前のCDCカテゴリーでB又はCであった。
【0146】
治験前6か月以内において、サイクロスポリン、IgG含有製品、インターロイキン、インターフェロン、又は全身性のグルココルチコステロイド(吸入によるものを含む)を含む、免疫調節療法を受けている。
【0147】
実験的なHIVワクチンに曝されている。
【0148】
治験前30日以内において何等かのワクチンを用いている。
【0149】
治験前12週間以内において臨床試験用医薬品を用いている。
【0150】
調査員の意見において、本治験を妨げる程度のドラッグ又はアルコールの現時点での使用又は依存状態にある。
【0151】
全身治療及び/又は入院治療を必要とする深刻な疾患である。治療を完了した参加者、又は、治療中であり治験前少なくとも14日間臨床的に安定状態にある参加者、は除外されない。
【0152】
スクリーニングにおいてB型肝炎表面抗原陽性又は抗C型肝炎抗体陽性である。
【0153】
妊娠中又は授乳中である。
【0154】
以下に記載のものを含む適切な臓器機能を有する:
【0155】
骨髄:
【0156】
WBC>3000/mm
【0157】
血小板>100,000/mm
【0158】
好中球絶対数カウント≧1,500/mm
【0159】
ヘモグロビン≧10.0g/dL(輸血可能)
【0160】
肝臟:
【0161】
血清総ビリルビン<1.5×ULN mg/dL
【0162】
ALT(SGPT)/AST(SGOT)≦1×正常上限(ULN)
【0163】
腎臓:
【0164】
血清クレアチニン(SCR)<1.0×ULNまたは
【0165】
クレアチニンクリアランス(CCR)>30mL/分
【0166】
心臓、肺、胃腸、肝臟、腎臓、膵臓、又は神経の疾患に関する病歴を有するが、本治験役員の意見により参加が許容される。

実施例#1
【0167】
19年間のHAART薬物療法中であり、ウイルス量が常に検出可能限界を下回っているHIV陽性の男性に当該ウイルス増強プロトコールを実施した。
【0168】
当該患者は、250〜350の絶対的なCD4細胞カウントをベースラインにて有していた。
【0169】
当該患者のHAART薬物療法を継続しながら、0日目及び3日目に同一部位に1×10のアロスチムTMの皮内投与が施された。その後、7日目及び10日目において別の部位に再び投与を行った。この期間を通して、当該患者の絶対的なCD4カウントは350細胞から450細胞に増加した。
【0170】
14日目から増量した静脈内投与用量のアロスチムTMが投与された。14日目には1×10細胞を注入された。検出可能なウイルス量はなかった。17日目には5×10細胞が注入された。検出可能なウイルス量はなかった。21日目には10×10細胞が注入された。当該ウイルス量は66に急増し10日間検出状態が維持され、再び検出不能にまで回復した。この期間中CD4カウントは500を超えて増加し、次の60日間を通して増加し続けて600を超えて安定した。

実施例#1
【0171】
少なくとも6年間HAART薬物療法中であり検出不能なウイルス量を維持しているHIV陽性の男性である。当該患者の絶対的なCD4カウントは2年間を通して100〜230の範囲内であった。
【0172】
当該患者は、ベースラインにおいてCD4カウント250を有している。
【0173】
当該患者には、0日目、3日目、10日目、及び14日目に1×10のアロスチムTMの皮内投与が施された。当該患者のCD4カウントは293に増加した。当該患者は17日目に1×10の皮内注射及び3×10の静脈内注入を受けた。当該患者は21日目に1×10の皮内注射及び10×10の静脈内注入を受けた。当該患者は24日目に10×10の静脈内注入を受けた。当該患者は28日目及び31日目に10×10の静脈内注入を受けた。当該患者のウイルス量は31日目に300に急増し、42日目までにベースラインに回復した。この期間中、当該患者のCD4カウントはゆっくりと低下し、42日目までに200未満になった。
【0174】
49日目から63日目まで、当該患者は3〜4日間毎に1×10のアロスチムTMの皮内注射を受けた。当該患者のCD4カウントは200未満から300を超えるまで徐々に増加した。当該患者のウイルスは検出不能の状態で維持された。
【0175】
84日目、87日目、91日目、及び94日目に当該患者は10×10の静脈内アロスチムTM注入を受けた。97日目に当該患者のウイルス量は86に急増した。101日目までに当該患者のウイルス量はベースラインへと回復し、当該患者のCD4カウントは300を超えた状態で維持された。当該患者のHAART薬物治療を休止した。
当該患者はHAART薬物療法なしで、ウイルス量が検出不能である状態を31日間維持した。32日目には当該ウイルス量は300であり、CD4は230であった。HAARTは再開され、そして当該ウイルスは検出不能レベルに戻りCD4は250付近にて安定した。
【0176】
本記載は好適な実施形態を参照して記載されたものであるが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく形態及び詳細における変更が可能であることが、当業者には理解されよう。