(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記半金属又は金属の酸化物が、シリカゲル、アルミナ、シリカアルミナ、結晶性シリカ、結晶性アルミノケイ酸塩、及び酸化鉄から選ばれるものである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の触媒。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<触媒>
本発明の触媒は、上記式(1)で表される固相担持金属錯体からなるものである。当該触媒は、二酸化炭素とエポキシドの共重合でポリアルキレンカーボネートを得る反応に用いる触媒として有用である。なお、式(1)中に存在する2つのR
1は、同一であっても異なっていてもよい。R
2、R
3、R
4、Lについても同様である。
【0021】
式(1)中、Mは、コバルト、クロム、アルミニウム、ニッケル、マンガン、バナジウム、鉄、モリブデン、タングステン及びルテニウムから選ばれるいずれか1種の中心金属を示す。これらの中でも、活性の高さの観点から、好ましくはコバルト、クロムであり、より好ましくはコバルトである。
【0022】
Xは、求核性の配位子を示す。該配位子は単座配位子である。例えば、ギ酸(ホルマト)配位子、酢酸(アセタト)配位子、トリフルオロ酢酸(トリフルオロアセタト)配位子、プロピオン酸(プロピオナト)配位子、安息香酸(ベンゾエート)配位子等のカルボン酸配位子;メトキシ配位子、エトキシ配位子等のアルコラートアニオン配位子;F、Cl、Br、I等のハロゲンアニオン配位子が挙げられる。これらの中でも、活性の高さの観点から、カルボン酸配位子が好ましく、トリフルオロ酢酸(トリフルオロアセタト)配位子がより好ましい。
nは1又は2であり、n=2の場合、n個のXは同一であっても異なっていてもよい。
【0023】
R
1は、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を示すか、或いは、2つのR
1が一緒になって、隣接する炭素原子と共に炭素数5〜16の単環式又は多環式の脂環又は芳香環を形成していてもよい。
R
1で示される炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられる。
上記脂肪族炭化水素基の炭素数は、好ましくは1〜8であり、より好ましくは1〜4である。脂肪族炭化水素基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
上記脂環式炭化水素基の炭素数は、好ましくは4〜7である。脂環式炭化水素基としては、シクロアルキル基が好ましい。具体的には、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
上記芳香族炭化水素基の炭素数は、好ましくは6〜10である。芳香族炭化水素基としては、アリール基が好ましい。具体的には、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0024】
また、2つのR
1が一緒になって、隣接する炭素原子と共に形成する炭素数5〜16の単環式又は多環式の脂環又は芳香環としては、具体的には、例えば以下の(a−1)〜(a−13)のような環構造が挙げられる。
【0026】
〔式(a−1)〜(a−13)中、破線は窒素原子との結合手を示す。〕
【0027】
上記脂環又は芳香環の中でも、炭素数5〜14の環構造が好ましく、炭素数6〜10の環構造がより好ましい。また、脂環構造であるのが好ましい。環構造の好適な具体例は、環(a−1)〜(a−6)であり、より好ましくは環(a−2)〜(a−5)であり、特に好ましくは環(a−2)である。
【0028】
R
2は、炭素数1〜6のアルキル基を示す。当該アルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられるが、特に好ましくはtert−ブチル基である。
なお、m=2の場合、m個のR
2は同一であっても異なっていてもよい。
mは0〜2の整数であるが、好ましくは1又は2であり、より好ましくは1である。
【0029】
R
3は、式(2)で表される基を示す。
【0031】
〔式(2)中、R
5は、2又は3価の連結基を示す。Yは、求核性を有する窒素含有基又は亜リン酸含有基を示し、qは1又は2である。〕
【0032】
式(2)中、R
5は、2又は3価の連結基を示す。例えば、炭素数2〜10の直鎖状又は分岐鎖状の2又は3価の炭化水素基、当該炭化水素基の炭素−炭素原子間にオキシ基(−O−)、イミノ基(−NH−)及びカルボニル基(−(C=O)−)から選ばれる1種以上を有する基、下記式(4)で表される3価の連結基が挙げられる。
【0034】
〔式(4)中、R
a〜R
cは、それぞれ独立して、炭素数1〜3のアルカンジイル基(例えば、メタン−1,1−ジイル基、エタン−1,1−ジイル基、エタン−1,2−ジイル基、プロパン−1,1−ジイル基、プロパン−1,2−ジイル基、プロパン−1,3−ジイル基、プロパン−2,2−ジイル基)を示す。〕
【0035】
R
5において、直鎖状又は分岐鎖状の2価の炭化水素基の炭素数は、好ましくは2〜8である。2価の炭化水素基としては、アルカンジイル基が好ましい。また、直鎖状又は分岐鎖状の3価の炭化水素基の炭素数は、好ましくは3〜10である。3価の炭化水素基としては、アルカントリイル基が好ましい。
R
5において、上記のような炭化水素基の炭素−炭素原子間にオキシ基(−O−)、イミノ基(−NH−)及びカルボニル基(−(C=O)−)から選ばれる1種以上を有する基としては、炭化水素基の炭素−炭素原子間にオキシ基(−O−)を有する基が好ましい。
【0036】
R
5としては、具体的には、例えば以下の(b−1)〜(b−13)のような2又は3価の連結基が挙げられる。
【0038】
式(2)中、Yは求核性を有する窒素含有基又は亜リン酸含有基を示すが、窒素含有基が好ましい。
【0039】
窒素含有基としては、アミノ基、アミジノ基、グアジニノ基、カルバメート基、カルバミド基等の他に、4級アンモニウム塩型カチオン性官能基などが挙げられる。
窒素含有基としては、具体的には、例えば以下の(c−1)〜(c−59)のような窒素含有基が挙げられる。
【0045】
〔式(c−1)〜(c−59)中、破線はR
5との結合手を示す。なお、(c−26)〜(c−59)の窒素含有基は、対イオンを有していてもよい。〕
なお、q=2の場合、q個のYは同一であっても異なっていてもよい。
【0046】
R
4は、炭素数1〜10の2価の炭化水素基を示す。当該2価の炭化水素基としては、アルカンジイル基、シクロアルカンジイル基、アルカンジイル−シクロアルカンジイル−アルカンジイル基のような、炭素数2〜7のアルカンジイル基の炭素−炭素原子間にシクロアルカンジイル基を有する基が挙げられる。
【0047】
R
4で示されるアルカンジイル基の炭素数は、好ましくは1〜8であり、より好ましくは3〜8である。また、アルカンジイル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。例えば、メタン−1,1−ジイル基、エタン−1,1−ジイル基、エタン−1,2−ジイル基、プロパン−1,1−ジイル基、プロパン−1,2−ジイル基、プロパン−1,3−ジイル基、プロパン−2,2−ジイル基、ブタン−1,2−ジイル基、ブタン−1,3−ジイル基、ブタン−1,4−ジイル基、ペンタン−1,4−ジイル基、ペンタン−1,5−ジイル基、ヘキサン−1,5−ジイル基、ヘキサン−1,6−ジイル基、3,3−ジメチルヘキサン−1,6−ジイル基等が挙げられる。
R
4で示されるシクロアルカンジイル基の炭素数は、好ましくは5〜7である。例えば、シクロヘキサンジイル基等が挙げられる。
【0048】
炭素数2〜7のアルカンジイル基の炭素−炭素原子間にシクロアルカンジイル基を有する基において、アルカンジイル基の炭素数は、好ましくは2〜5である。また、炭素−炭素原子間に存在するシクロアルカンジイル基は、上記R
4で示されるシクロアルカンジイル基と同様のものが好ましい。また、炭素数2〜7のアルカンジイル基の炭素−炭素原子間にシクロアルカンジイル基を有する基の合計炭素数は、好ましくは8〜10であり、例えば、1,4−シクロヘキシレンジメチレン基、1,4−シクロヘキシレンジエチレン基等が挙げられる。
【0049】
R
4の好適な具体例としては、例えば以下の(d−1)〜(d−7)のような2価の炭化水素基が挙げられる。
【0051】
Lは、2価の連結基を示す。当該2価の連結基としては、下記式(5)で表される連結基が好ましい。
【0053】
〔式(5)中、L
2は、シランカップリング剤の反応性官能基と、当該反応性官能基と反応可能な官能基との反応によって形成される2価の連結基を示す。R
6は、2価の有機基を示す。*は、ケイ素原子との結合位置を示す。〕
【0054】
R
6で示される2価の有機基の炭素数は、好ましくは1〜12であり、より好ましくは1〜8であり、特に好ましくは1〜4である。また、2価の有機基は、2価の脂肪族炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基等が挙げられ、直鎖状でも分枝状でもよく、また、環式基を含むものでもよい。中でも、2価の脂肪族炭化水素基が好ましい。2価の脂肪族炭化水素基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。さらに、その構造中のメチレン基の一部がオキシ基(−O−)又はイミノ基(−NH−)で置き換わっていてもよい。
2価の脂肪族炭化水素基としては、アルカンジイル基が好ましく、具体例としては、R
4におけるアルカンジイル基と同様のものが挙げられる。
【0055】
L
2は、サレン型金属錯体(3)の官能基Zとシランカップリング剤の反応性官能基との反応によって形成されるものであれば特に限定されない。官能基Zとシランカップリング剤の反応性官能基の組み合わせの例を、以下の表1に示す。
【0057】
上記の組合せから導かれる具体的な構造として、例えば、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、ジスルフィド結合、又は下記式(6)若しくは(7)で表される2価の連結基等が挙げられ、触媒活性の観点から、アミド結合、ウレタン結合、式(6)で表される2価の連結基がより好ましく、式(6)で表される2価の連結基が特に好ましい。
【0059】
〔式(6)中、R
7は、水素原子又は炭化水素基を示す。〕
【0061】
〔式(7)中、R
8は、水素原子又は炭化水素基を示す。〕
【0062】
上記R
7及びR
8としては、炭化水素基が好ましい。当該炭化水素基の炭素数は、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3である。また、炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。上記脂肪族炭化水素基としては、アルキル基が好ましい。例えば、メチル基、エチル基が挙げられる。
なお、式(6)中の2つのR
7は、同一であっても異なっていてもよい。
また、式(6)で表される2価の連結基は、対イオンを有していてもよい。対イオンとしては、Cl
-、Br
-、I
-等のハロゲン化物イオンが挙げられる。
【0063】
rは2又は3であるが、3が好ましい。
【0064】
Aは、半金属又は金属の酸化物を示す。斯かる担体に、シランカップリング剤由来の連結構造(化学結合)を介して金属錯体が担持されているため、本発明の触媒を用いて重合反応を行った場合は、ポリマーに金属が混入しにくい。
上記半金属又は金属の酸化物としては、シリカゲル、アルミナ、シリカアルミナ、結晶性シリカ、結晶性アルミノケイ酸塩等のケイ素及び/又はアルミニウムの酸化物の他、酸化鉄等が挙げられ、比表面積や細孔径分布等が制御されたものが入手し易いという観点から、ケイ素及び/又はアルミニウムの酸化物が好ましく、シリカゲル、結晶性シリカがより好ましく、シリカゲルが特に好ましい。
【0065】
ここで、上記各記号の好ましい組み合わせ等を以下の<1>〜<12>に例示する。
<1> 式(1)中のMが、コバルト又はクロム、好ましくは式(1)中のMが、コバルトである態様。
<2> 上記<1>において、式(1)中のXが、カルボン酸配位子、好ましくは式(1)中のXが、トリフルオロ酢酸(トリフルオロアセタト)配位子である組み合わせ。
<3> 上記<1>〜<2>において、式(1)中のR
1が、2つのR
1が一緒になって、隣接する炭素原子と共に炭素数5〜16の単環式又は多環式の脂環又は芳香環を形成している、好ましくは式(1)中のR
1が、(a−1)〜(a−13)のいずれかで表される環構造である組み合わせ。
<4> 上記<1>〜<3>において、式(1)中のmが、1又は2、好ましくは式(1)中のmが、1である組み合わせ。
<5> 上記<1>〜<4>において、式(2)中のR
5が、(b−1)〜(b−13)のいずれかで表される2又は3価の連結基である組み合わせ。
<6> 上記<1>〜<5>において、式(2)中のYが、窒素含有基、好ましくは式(2)中のYが、(c−1)〜(c−59)のいずれかで表される窒素含有基である組み合わせ。
<7> 上記<1>〜<6>において、式(1)中のR
4が、(d−1)〜(d−7)のいずれかで表される2価の炭化水素基である組み合わせ。
<8> 上記<1>〜<7>において、式(1)中のLが、式(5)で表される連結基である組み合わせ。
<9> 上記<1>〜<8>において、式(5)中のR
6が、2価の脂肪族炭化水素基、好ましくは式(5)中のR
6が、アルカンジイル基である組み合わせ。
<10> 上記<1>〜<9>において、式(5)中のL
2が、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、ジスルフィド結合、又は式(6)若しくは(7)で表される2価の連結基、好ましくは式(5)中のL
2が、アミド結合、ウレタン結合、式(6)で表される2価の連結基、特に好ましくは式(5)中のL
2が、式(6)で表される2価の連結基である組み合わせ。
<11> 上記<1>〜<10>において、式(1)中のrが、3である組み合わせ。
<12> 上記<1>〜<11>において、式(1)中のAが、シリカゲル、アルミナ、シリカアルミナ、結晶性シリカ、結晶性アルミノケイ酸塩、及び酸化鉄から選ばれるもの、好ましくは式(1)中のAが、ケイ素及び/又はアルミニウムの酸化物、より好ましくは式(1)中のAが、シリカゲル又は結晶性シリカ、特に好ましくは式(1)中のAが、シリカゲルである組み合わせ。
【0066】
また、式(1)中のR
1に隣接する2つの炭素原子は不斉炭素原子である。斯かる不斉炭素原子に由来して、固相担持金属錯体(1)には少なくとも4種の立体異性体が存在するが、固相担持金属錯体(1)は、これら立体異性体のいずれでもよく、これら異性体の混合物であってもよい。中でも、S,S体、R,R体、及びこれら異性体の混合物が好ましい。
【0067】
<触媒の製造方法>
本発明の触媒の製造方法は、サレン型金属錯体(3)を、シランカップリング剤を用いて、半金属又は金属の酸化物に担持する工程(以下、担持工程ともいう)を含むことを特徴とするものである。斯かる方法によれば、簡便且つ高収率で、ポリアルキレンカーボネートの製造に有用な触媒を得ることができる。
具体的には、サレン型金属錯体(3)を、シランカップリング剤を用いて、半金属又は金属の酸化物に担持し、必要に応じて、当該担持工程の前又は後に、求核性配位子を中心金属に反応させる方法が挙げられる。なお、上記サレン型金属錯体(3)は、4−(5−ブロモペンチル)−2−tert−ブチルフェノールのような、シランカップリング剤と反応可能な官能基が導入されたサレン系配位子原料を用いて、特表2012−500867号公報、特開2009−215471号公報等に記載された方法に準じて製造することができる。また、上記サレン系配位子原料も常法を適宜組み合わせて製造可能である。
【0068】
本発明では、サレン型金属錯体(3)を、半金属又は金属の酸化物表面に担持するのにシランカップリング剤を用いる。シランカップリング剤は、その構造中に有機物と反応あるいは相互作用する反応性官能基と、加水分解した場合にシラノール基に変換される加水分解性基とを有する有機ケイ素化合物である。反応性官能基がサレン型金属錯体(3)と結合し、加水分解性基が半金属又は金属の酸化物表面に存在するヒドロキシ基と反応、結合することにより、サレン型金属錯体(3)が、半金属又は金属の酸化物表面に担持される。
【0069】
本発明で用いるシランカップリング剤としては、メトキシ基やエトキシ基等のアルコキシ基やアセトキシ基などの加水分解性基を2又は3個と、アミノ基、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、メルカプト基、イソシアネート基、メルカプト基などの反応性官能基とを有するものが挙げられる。
斯様なシランカップリング剤の中でも、N,N−ジメチル−3−(トリメトキシシリル)プロパン−1−アミン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤;3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート基を有するシランカップリング剤;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基を有するシランカップリング剤が好ましい。これらの中でも、触媒活性の観点から、アミノ基又はイソシアネート基を有するシランカップリング剤が好ましく、アミノ基を有するシランカップリング剤がより好ましい。
【0070】
上記サレン型金属錯体(3)において、式中のZはシランカップリング剤と反応可能な官能基を示す。
前述の表1に示した通り、シランカップリング剤の反応性官能基がアミノ基の場合には、Zが、カルボキシ基;アルカノイル基;アルコキシカルボニル基;エポキシ基、エポキシシクロヘキシル基などのオキシラン含有基;イソシアネート基;塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子などである錯体を用いるのが好ましい。また、シランカップリング剤の反応性官能基がイソシアネート基の場合には、Zが、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基などである錯体を用いるのが好ましい。また、シランカップリング剤の反応性官能基がエポキシ基の場合には、Zが、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基などである錯体を用いるのが好ましい。
【0071】
半金属又は金属の酸化物としては、式(1)中のAと同様のものが挙げられる。
【0072】
サレン型金属錯体(3)と半金属又は金属の酸化物をシランカップリングで結合させる具体的な方法としては、(方法1)担体である半金属又は金属の酸化物をシランカップリング剤で表面処理した後、サレン型金属錯体(3)を反応させる方法、(方法2)サレン型金属錯体(3)とシランカップリング剤を反応させた後、半金属又は金属の酸化物と反応させる方法、(方法3)サレン型金属錯体(3)と半金属又は金属の酸化物を混合し一緒にシランカップリング処理する方法が挙げられる。これら方法の中でも、シランカップリング剤の加水分解により生成したシラノール同士が脱水縮合してゲル化するのを抑制する観点から、方法1が好ましい。
【0073】
方法1において、担体である半金属又は金属の酸化物をシランカップリング剤で表面処理する方法は、担体を撹拌しながらシランカップリング剤の溶液をこれに直接噴霧あるいは滴下する乾式法と、担体に溶媒を加えスラリー状にしたところにシランカップリング剤の溶液を滴下等の方法で添加する湿式法に大別される。中でも、シランカップリング剤が均一に処理できること、担体を壊さずに行えることから、湿式法が好ましい。
【0074】
湿式法において用いる溶媒としては、トルエン、ベンゼン等の芳香族系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒が挙げられ、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせてもよい。また、シランカップリング剤と担体を反応させる前に予めシランカップリング剤を加水分解させる場合、加水分解に用いた水やアルコール等が混入してもよい。
【0075】
反応温度は0〜200℃程度、反応時間は1時間〜30時間程度で適宜選択すればよい。
【0076】
使用するサレン型金属錯体およびシランカップリング剤の量は、サレン型金属錯体(3)が担体表面を十分に覆うことのできる量であることが好ましい。サレン型金属錯体(3)の量は、サレン型金属錯体1分子の占有面積で担体の表面積を除した量を目安とする。シランカップリング剤の量は、サレン型金属錯体(3)の2倍モル以上であることが好ましく、ゲル状物質が生成しない範囲で大過剰としてもよい。
【0077】
酸化又は還元によるサレン型金属錯体の中心金属の価数の調整が必要な場合には、合成のし易さ、又は錯体の安定性等を考慮して、錯体を担体へ担持する前、或いは担持した後に中心金属の酸化又は還元を行えばよい。
【0078】
<ポリアルキレンカーボネート製造方法>
本発明のポリアルキレンカーボネート製造方法は、上記のようにして得られる本発明の触媒を用いて二酸化炭素とエポキシドを反応させる工程を含むことを特徴とするものである。例えば、以下のような反応式で表される製法が挙げられる。
【0080】
〔式中、R
9〜R
12は、それぞれ独立して、水素原子又は直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基(好ましくは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基)を示す。但し、R
10及びR
12は一緒になって、隣接する炭素原子と共にシクロアルキル基(好ましくは炭素数5〜7のシクロアルキル基。具体的には、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等)を形成していてもよい。〕
なお、R
9〜R
12で示されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
【0081】
上記のようなエポキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、イソブチレンオキシド、1,2−エポキシペンタン、1,2-エポキシヘキサン、1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン等が挙げられる。これらエポキシドは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、エチレンオキシド、プロピレンオキシドが好ましく、エチレンオキシドがより好ましい。
【0082】
触媒(1)の使用量は、触媒(1)中の金属換算でエポキシドに対し、金属:エポキシドのモル比が1:1000〜1:100000となる量が好ましく、1:5000〜1:25000となる量がより好ましい。なお、触媒(1)の入手経路は特に限定されないが、本発明の触媒の製造方法で得られたものを用いるのが好ましい。
【0083】
本反応は、溶媒存在下又は非存在下で行うことができる。溶媒を用いる場合、原料であるエポキシド及び重合生成物であるポリアルキレンカーボネートを溶解する溶媒であれば特に限定されない。例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の飽和脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール等のアルコール類;酢酸エチル、乳酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジオキサン等のエーテル類;炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、メチルエチルカーボネート等のカーボネート類;クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエタン等の有機塩素化合物類等が挙げられる。
【0084】
反応系に供給する二酸化炭素の圧力は、好ましくは0.1〜10MPa、より好ましくは0.5〜1.0MPaである。
【0085】
反応温度はエポキシドの種類に応じて設定すればよい。エチレンオキシドの場合、通常20℃〜40℃、好ましくは25〜35℃である。
重合反応は耐圧容器を用いてバッチ式で行うことができるが、触媒(1)が不均一系触媒なので固定床流通式で行うこともできる。
【0086】
ポリアルキレンカーボネートの回収は、デカンテーション、ろ過、遠心分離等の簡便な操作でよい。
【実施例】
【0087】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0088】
実施例における各分析条件は以下に示すとおりである。
<
1H−NMR>
装置:日本電子製JNM AL−400、内部標準物質:テトラメチルシラン、溶媒:CDCl
3
<IR(ATR法)>
装置:パーキンエルマー製Spectrum100、Universal ATR Sampling Accessory
<UV−Vis>
装置:日本分光製V−570、溶媒:CHCl
3
<ICP発光分析>
シリカゲル担持された金属錯体試料を、メノウ乳鉢を用いて粉砕し、試料の10質量倍の無水四ホウ酸リチウムと一緒にビードサンプラーを用いて約1200℃で溶融した後、濃硝酸を加えたイオン交換水に溶解し、水溶液にしたものを測定に供した。
装置:セイコー電子工業製SPS1500VR
<分子量>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により以下の器具及び条件にて、あらかじめ標準ポリエチレンオキシドを用いて作成した検量線に基づいて重量平均分子量及び分散度を算出した。
装置:東ソー製HLC−8220、ガードカラム:Shodex KD−G、分析カラム:Shodex KD−806M×3本、溶離液:0.01mol/Lの臭化リチウムDMF溶液、サンプル濃度:2質量%、注入量:50μL、流速:1.0mL/min、検出器 :示唆屈折率(RI)、測定温度:40℃
【0089】
実施例1 触媒(vii)の合成
ポリアルキレンカーボネート製造用触媒(触媒(vii))を以下のスキームに従い合成した。
【0090】
【化18】
【0091】
(1)中間体(i)の合成
300mL3つ口フラスコに2−tert−ブチルフェノール65.4mmolを秤量し、フラスコ内をアルゴンガスで置換した。ここに脱水された塩化メチレン65mLを加えて溶解させたのち、マイナス78℃に冷却し、5−ブロモバレリルクロリド65.6mmmolを加え、マイナス78℃を保ちながら30分間撹拌した。溶液は無色透明なままだった。その後、無水塩化アルミニウム65.4mmolを少量ずつ加えると、溶液は青緑色の懸濁液になった。撹拌を続けて1.5時間後には、懸濁液は抹茶色の均一溶液になり、さらに2時間撹拌した。この溶液を氷水の中に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させたのち、ろ過して硫酸マグネシウムを除去し、減圧して溶媒を留去した。残った固体を、酢酸エチル/ヘキサン(1/10)混合溶媒で洗浄し、真空ポンプで溶媒を留去し、中間体(i)(5−ブロモ−1−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ペンタン−1−オン)を収率81%で得た(52.7mmol、薄黄色固体)。中間体(i)の構造は
1H−NMRで確認した。
【0092】
1H−NMR(CDCl
3,400MHz,δ/ppm):7.96(d,1H,J=2.4Hz),7.72(dd,1H,J=8.4Hz,2,4Hz),6.72(d,1H,J=8.4Hz),5.47(s,1H),3.45(t,2H,J=6.4Hz),2.95(t,2H,J=7.2Hz),1.92(m,4H),1.43(s,9H)
【0093】
(2)中間体(ii)の合成
50mL2つ口フラスコに、中間体(i)3.0mmol、トリフルオロ酢酸29.1mmol、トリエチルシラン8.3mmolを秤量して、室温で撹拌した。始めは、ベージュ色の懸濁液であったが徐々に均一になり、1時間後にはオレンジ色の溶液に、4時間後にはほぼ無色透明の溶液になった。この溶液を水の中に注ぎ、酢酸エチル/ヘキサン混合溶媒で抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させたのち、ろ過して硫酸マグネシウムを除去した。溶媒を留去したのち、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、酢酸エチル/ヘキサン=1/10)で精製し、中間体(ii)(4−(5−ブロモペンチル)−2−tert−ブチルフェノール)を得た(0.94g、淡黄色オイル)。中間体(ii)の構造は
1H−NMRで確認した。
【0094】
1H−NMR(CDCl
3,400MHz,δ/ppm):7.05(d,1H,J=2.0Hz),6.87(dd,1H,J=8.0Hz,2.4Hz),6.59(d,1H,J=8.0Hz),4.65(s,1H),3.41(t,2H,J=7.2Hz),2.54(t,2H,J=7.2Hz),1.88(m,2H),1.61(m,2H),1.48(m,2H),1.27(s,9H)
【0095】
(3)中間体(iii)の合成
アルゴン雰囲気下、200mL3つ口フラスコに、無水塩化マグネシウム5.7mmol、パラホルムアルデヒド12.1mmol、脱水されたTHF50mL、トリエチルアミン6.9mmolを秤量し、室温で20分間撹拌した後、中間体(ii)2.1mmolを滴下した。オイルバスで加熱して還流を始めるとすぐに、白色の懸濁液はレモン色の懸濁液へと変化した。3.5時間還流した後、室温まで冷却して、1N−塩酸40mLを加えた。酢酸エチルで抽出し、無水硫酸マグネシウムで有機相を乾燥させた。ろ過して硫酸マグネシウムを除き、溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、酢酸エチル/ヘキサン=3/20)で精製し、中間体(iii)(5−(5−ブロモペンチル)−3−tert−ブチル−2−ヒドロキシベンズアルデヒド)を収率87%で得た。(淡黄色オイル)。中間体(iii)の構造は
1H−NMRで確認した。
【0096】
1H−NMR(CDCl
3,400MHz,δ/ppm):11.63(s,1H),9.84(s,1H),7.32(d,1H,J=2.4Hz),7.18(d,1H,J=2.4Hz),3.42(t,2H,J=6.8Hz),2.60(t,2H,J=7.6Hz),1.91(m,2H),1.64(m,2H),1.50(m,2H),1.42(s、9H)
【0097】
(4)配位子(iv)の合成
200mLナスフラスコに、トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン4.5mmolを添加し、これをトルエン45mLに溶かした後、中間体(iii)9.2mmolを加え、加熱して5時間還流させた。エバポレーターで溶媒を留去し、配位子(iv)を収率91%で得た(3.63g、レモン色オイル、トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン由来の不斉炭素によるS,S体とR,R体の混合物)。配位子(iv)の構造は
1H−NMRで確認した。
【0098】
1H−NMR(CDCl
3,400MHz,δ/ppm):13.67(br,2H),8.25(s,2H),7.03(d,2H,J=2.0Hz),6.78(d,2H,J=2.0Hz),3.38(t,4H,J=6.8Hz),2.46(t,4H,J=8.0Hz),1.85(m,8H),1.53(m,4H),1.40(s,18H)
【0099】
(5)コバルト錯体(v)の合成
50mL2つ口ナスフラスコにスターラーチップを入れて2方コックを付けてアルゴン置換し、酢酸コバルト4水和物5.3mmolとメタノール15mLを秤量して溶解させた後、トルエン7mLに溶解させた配位子(iv)5.0mmolを加えた。配位子(iv)導入直後に赤色の懸濁液になった反応溶液を、室温で3時間撹拌した後、ろ過し、さらにメタノールで洗浄して得られた赤色固体を40℃の減圧乾燥器で乾燥させ、2価のコバルト錯体(v)を収率65%で得た(3.2g、赤色固体、トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン由来の不斉炭素によるS,S体とR,R体の混合物)。
【0100】
IR(ATR)(cm
-1;2932,2854,1594,1527,1313)
UV−Vis(CHCl
3)(nm;422,369,249)
【0101】
(6)触媒担持シリカゲルビーズ(vi)の合成(シリカゲルへのコバルト錯体の担持)
ビーズ状のシリカゲル(富士シリシア化学製 商品名CARiACT Q−15)41gを170℃で5.5時間減圧しシリカゲル表面を脱水した。
50mLシュレンク管をアルゴン置換して、脱水したシリカゲルビーズ2.84gと、トルエン15mLと、シランカップリング剤としてN,N−ジメチル−3−(トリメトキシシリル)プロパン−1−アミン1.4mmolとを加え、100℃で8時間加熱した。空冷後、溶媒をデカンテーションで除き、トルエンで洗浄した。
次いで、トルエン5mLに溶解させたコバルト錯体(v)0.12mmolをシリカゲルビーズの入ったシュレンク管に加え、再度100℃で18.5時間加熱した。赤色の溶液は加熱するにしたがって徐々に色が薄くなり、同時に白色のシリカゲルビーズは徐々に赤色になった。空冷後、デカンテーションで溶液を除き、塩化メチレンで洗浄した後、室温で真空ラインを用いて乾燥(9.9×10
-2torr)した。触媒担持シリカゲルビーズ(vi)が得られた(赤色ビーズ、3.1g、トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン由来の不斉炭素によるS,S体とR,R体の混合物)。
ICP発光分析により求めたコバルトの含有量は0.20質量%であった。
【0102】
(7)触媒(vii)の合成(コバルトの酸化)
50mLナスフラスコに、トリフルオロ酢酸1.1mmolと酢酸エチル11.3gを入れて均一にした後、触媒担持シリカゲルビーズ(vi)2.02gを入れて空気雰囲気下室温で1時間撹拌した。ビーズは、溶液に入れるとすぐに赤色から黒っぽい色へと変化し、撹拌するうちに徐々に赤みが消えていった。また、溶液は無色透明のままだった。撹拌後、溶媒をデカンテーションで除き、ビーズを酢酸エチルで洗浄した。その後ビーズを室温で真空ラインを用いて乾燥(2.0×10
-2torr)し、黒緑色をした触媒(vii)(3価のコバルト錯体担持シリカゲル、トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン由来の不斉炭素によるS,S体とR,R体の混合物)2.13gを得た。ICP発光分析により求めたコバルトの含有量は0.18質量%であった。
【0103】
実施例2 酸化エチレンと二酸化炭素の共重合
50mLのSUS製オートクレーブにスターラーチップと触媒(vii)1.00g(コバルト換算で0.036mmol)を入れて、オートクレーブ内部を窒素で置換し、33℃のオイルバスで20分加熱した後、酸化エチレン14.8gを加えた。オートクレーブに二酸化炭素0.7MPaを常に供給し続けながら、9時間撹拌した。その後、オートクレーブ内を脱圧した後に開放し、内容物をポリビーカーに取り出して、リン酸40mgを含むアセトニトリル溶液を加えて撹拌し、触媒を失活させた。触媒ビーズをろ別し、40℃、14mmHgで1.5時間減圧乾燥し、無色透明の粘稠性液体2.98gを得た。
生成物を
1H−NMRで分析した結果、ポリエチレンカーボネート(PEC)とエチレンカーボネート(CEC)とポリエチレンオキシド(PEO)の混合物であり、そのモル比はPEC:CEC:PEO=25:63:12であった。また、GPC分析の結果、ポリエチレンカーボネートの重量平均分子量は2900、分散度Mw/Mnは1.21であった。
また、酸化エチレンの仕込み量及び生成物の重量と、
1H−NMR分析から求めた生成物のモル組成比を用いて計算した、酸化エチレンの転化率は11%であった。
【0104】
本発明の触媒を用いることによって、エポキシドと二酸化炭素から、ポリマーに触媒を混入させることなく、ポリアルキレンカーボネートを合成することができた。