(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記眼鏡レンズに備わる2つの隠しマークを通過する直線に平行な直線であって、特定距離用度数測定点と近用度数測定点を結ぶ線分の間におけるいずれかの点を通る直線上において、主注視線が通過する点から±15mmの位置における垂直方向の面屈折力の差の絶対値が0.25D以上である、請求項4に記載の眼鏡レンズ。
前記特定距離用度数測定点と前記近用度数測定点を結ぶ線分の間におけるいずれかの点は、前記特定距離用度数測定点と前記近用度数測定点の中点を基準に鉛直方向に±3mmの間に位置する、請求項5に記載の眼鏡レンズ。
前記眼鏡レンズに備わる2つの隠しマークを通過する直線に平行な直線であって、特定距離用度数測定点と近用度数測定点を結ぶ線分の間におけるいずれかの点を通る直線上において、主注視線が通過する点から±5mmの位置における水平方向の面屈折力の差の絶対値が0.12D以上である、請求項4に記載の眼鏡レンズ。
前記特定距離用度数測定点と前記近用度数測定点を結ぶ線分の間におけるいずれかの点は、前記特定距離用度数測定点と前記近用度数測定点の中点を基準に鉛直方向に±3mmの間に位置する、請求項7に記載の眼鏡レンズ。
前記眼鏡レンズに備わる2つの隠しマークを通過する直線に平行な直線であって、特定距離用度数測定点と近用度数測定点を結ぶ線分の中点を通る水平直線上において、主注視線が通過する点から±5mmの位置における水平方向の面屈折力の差の絶対値が0.12D以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の
図1や特許文献2の
図2等に示されるように、眼鏡レンズの上方から下方に向けて主注視線に着目したとき、眼鏡レンズの下方においては装用者の鼻の側(以降、インの水平方向とする。)に向けて主注視線が曲がっている。これは、上方から下方に視線を移すときの、両眼が同時に鼻の側を向く眼球の動き(すなわち輻輳眼球運動)に起因する。下方に視線を向けると視線が内寄りに変化し、主注視線もその変化に倣っている。
【0008】
主注視線が内寄りになっているということは、眼鏡レンズを平面視した際に、眼鏡レンズの上方頂点と下方頂点とを結ぶ垂直線上に、主注視線が常に存在するというわけではないことを意味する。このことにより、眼鏡レンズに処方されていないはずのプリズム効果が発現してしまう。
【0009】
このことについて
図1を用いて説明する。
図1の左側の分布図は、物体側の面(外面)に累進面が形成され、眼球側の面(内面)を球面としたいわゆる外面累進レンズであって、球面度数(S)を0.00D、乱視度数(C)を0.00D、加入度数(ADD)を3.50Dとした眼鏡レンズにおける面平均度数を示す。分布図の右側には、分布図の各該当部分における眼鏡レンズの水平断面形状を示す。
【0010】
点Fは、主注視線上の点であって遠用部に存在する点(例えば遠用度数測定点)である。点Fを通過するように水平線A−A’で眼鏡レンズを断面視した場合、点Fにおける外面の接線と内面の接線との傾きに、差はほとんど生じていない。
【0011】
その一方、点Nは、主注視線上の点であって近用部に存在する点(例えば近用度数測定点)である。先ほども述べたように、輻輳眼球運動に起因し、近用部においては主注視線が鼻の側(インの水平方向)に曲がっている。その結果、点Nを通過するように水平線B−B’で眼鏡レンズを断面視した場合、断面視の際の眼鏡レンズの頂点から点Nが外れてしまい、点Nにおける外面の接線と内面の接線との傾きに差が生じる。この傾きの差により、視線に沿った光線が屈折することになる。つまり、本例においては、輻輳を加味して主注視線を設定することにより、意図せぬプリズムを眼鏡レンズの近用部の主注視線上において生じさせてしまうことになる。
【0012】
更に悪いことに、上記の意図せぬプリズムは、視線に沿った光線を装用者の耳の側(以降、アウトの水平方向とする。)へと屈折させるアウトプリズムとなっている。意図せぬアウトプリズムが発生すると、装用者の眼に対して、より大きな輻輳を強いることになる。これについて、
図2を用いて説明する。
図2は、装用者がアウトプリズムから受ける影響を示す概略上面図である。装用者が物体を近方視する際、アウトプリズムが生じなければ、破線のように眼球を過度に内寄せせずとも済む。しかしながらアウトプリズムが生じることにより、物体を視認するためには実線の視線にしなければならない。そうなると破線に比べ、両眼とも眼球を過度に内寄せすることになる。これは、装用者の眼に対して、より大きな輻輳を強いることを意味する。この余分な輻輳により、装用者に対して余分な疲労を招来しかねない。
【0013】
これまで、度数が連続的に変化する部分(例えば累進部)を備えた眼鏡レンズにおいては、装用者の眼の前の物体と装用者との間の距離(すなわち前後方向の距離)に応じて装用者が眼を調節することに着眼点が主に置かれていた。しかしながら本発明者の鋭意検討により、装用者の輻輳(すなわち左右方向であり水平方向の距離)が、装用者にとっての装用感に大きく影響を与えているのではないか、という知見が得られた。
【0014】
なお、
図1では外面累進レンズを例に挙げたが、内面に累進面が存在する内面累進レンズであっても、また両面において度数の変化を分配した両面累進レンズ、更には両面累進レンズであって眼の特性に合わせた最適な設計を施した両面複合型累進レンズであっても、上方から下方に向けて眼鏡レンズに対してプラスの度数が備わることに変わりがない。そのため、
図1で示したのと同様に、内面累進レンズであっても、更に言うと所定の距離を見るための一つの領域から離れるに従って度数が変化する、プラス度数を備えた単焦点レンズであっても、装用者の輻輳が加味された主注視線が通過する部分において意図せぬアウトプリズムが生じ得る。
以下、装用者にとっての眼球の輻輳量が、意図せぬアウトプリズムの量によってどのように変化するかについて述べる。
【0015】
例えば、装用者にとっての眼球の輻輳量I(mm)は、大まかに下記の式で近似的に求められる。
I=H/{l×(1/V−D/1000)+1}・・・(式1)
ここでHは片眼瞳孔間距離(mm)、lは目的距離(mm)、Vは頂点間距離(mm)、Dは水平方向のレンズの屈折力(D)である。
【0016】
その一方、意図せぬアウトプリズムは、プレンティスの公式を変形した以下の式(式2)により見積もることができる。なお、この変形についての詳細は、後述の(式3〜5)で述べる。
P=ADD*h/10 ・・・(式2)
ここで、Pはプリズム量(Δ)、hは眼鏡レンズの水平断面形状の頂点から主注視線上の点(例えば
図1の点N)との間の水平距離(mm)であり、hの絶対値は、眼鏡レンズにおけるいわゆる内寄せ量に該当する。なお、以降、hの符号は、眼鏡レンズの水平断面形状の頂点(本例においては眼鏡レンズの上方頂点から下方頂点を結ぶ上下直線(鉛直線))から見て鼻側を正、耳側を負とするが、プラスの符号については以降省略する。また水平断面形状の頂点は、2つの隠しマークを通る直線に垂直で、かつ2つの隠しマークを結ぶ線分の中点を含む平面が、水平断面形状と交わる点として規定できる。なお、
図1の点Nにおけるhは2.51mmである。
(式2)を見ると、意図せぬアウトプリズムは、加入度(ADD)が大きいほど大きくなることがわかる。
【0017】
遠用の処方度数としてSが0.00の単焦点レンズを掛けている人の場合、35cm先の近方物体を見る際に必要となる輻輳量は、片眼瞳孔間距離を32mm、頂点間距離を27mmとして、(式1)より2.29mmと見積もれる。
一方、同じ人がSを0.00、ADDを3.50Dとした累進屈折力レンズを掛けて、35cm先の近方物体を見る際に必要となる輻輳量は、近用部の水平方向のレンズの屈折力を3.50Dと近似すれば、2.51mmとなる。
つまり、ADDを3.50Dとした場合だと、加入度がない場合に比べ、意図せぬアウトプリズムが増大し、その結果、約10%多く眼球を輻輳させなければならない。
【0018】
本発明の課題は、余分な輻輳を抑制する眼鏡レンズに関する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決すべく、本発明者は鋭意検討を行った。その結果、上記の意図せぬアウトプリズムを少なくとも一部相殺すべく、眼鏡レンズに対し、視線に沿った光線を装用者の鼻の側(インの水平方向)へと屈折させるインプリズムを備えさせるという構成を想到した。
【0020】
以上の知見に基づきなされた本発明の態様は以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
眼鏡レンズを装用者が装用したときに当該眼鏡レンズにおいて装用者の鼻の側となる方向をインの水平方向、耳の側となる方向をアウトの水平方向としたとき、
前記眼鏡レンズにて度数が連続的に変化する部分であって装用者の輻輳が加味された主注視線が通過する部分において生じ得るアウトプリズムを少なくとも一部相殺するインプリズムの形状が当該部分に備わった、眼鏡レンズである。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の態様であって、
前記眼鏡レンズを装用者が装用したときに前記眼鏡レンズにおいて天地の天の側となる方向を上方、地の側となる方向を下方としたとき、
前記眼鏡レンズは、特定距離を見るための部分、当該特定距離よりも近い距離を見るための近用部、および、当該部分と当該近用部との間で度数が変化する累進部を備えており、かつ、以下の式を満たす。
P
N−P
F<ADD*h/10
ここで、P
Fは、特定距離を見るための部分の度数測定点におけるプリズム量(Δ)を示し、P
Nは近用度数測定点のプリズム量(Δ)を示す。なお、プリズム量に関しては、アウトプリズムを正、インプリズムを負とする。
また、ADDは加入度数(D)を示し、hは、前記眼鏡レンズにおける内寄せ量(mm)であり、前記眼鏡レンズの上方頂点から下方頂点を結ぶ上下直線から見て鼻側を正、耳側を負とする。
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の態様であって、
前記眼鏡レンズは以下の式を満たす。
|P
N−P
F−ADD*h/10|≧0.25
本発明の第4の態様は、第1〜第3のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記眼鏡レンズを装用者が装用したときに前記眼鏡レンズにおいて天地の天の側となる方向を上方、地の側となる方向を下方としたとき、
前記眼鏡レンズにおける前記部分の少なくとも一部において、前記インプリズムが前記眼鏡レンズの下方に向けて増加するように、前記部分を水平方向に断面視した際の眼鏡レンズの物体側の面および眼球側の面の少なくともいずれかの形状を、前記眼鏡レンズの下方に向けて連続的に捩った形状が備わっている。
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載の態様であって、
前記眼鏡レンズに備わる2つの隠しマークを通過する直線に平行な直線であって、特定距離用度数測定点と近用度数測定点を結ぶ線分の間におけるいずれかの点を通る直線上において、主注視線が通過する点から±15mmの位置における垂直方向の面屈折力の差の絶対値が0.25D以上である。
本発明の第6の態様は、第5の態様に記載の態様であって、
前記特定距離用度数測定点と前記近用度数測定点を結ぶ線分の間におけるいずれかの点は、前記特定距離用度数測定点と前記近用度数測定点の中点を基準に鉛直方向に±3mmの間に位置する。
本発明の第7の態様は、第4の態様に記載の態様であって、
前記眼鏡レンズに備わる2つの隠しマークを通過する直線に平行な直線であって、特定距離用度数測定点と近用度数測定点を結ぶ線分の間におけるいずれかの点を通る直線上において、主注視線が通過する点から±5mmの位置における水平方向の面屈折力の差の絶対値が0.12D以上である。
本発明の第8の態様は、第7の態様に記載の態様であって、
前記特定距離用度数測定点と前記近用度数測定点を結ぶ線分の間におけるいずれかの点は、前記特定距離用度数測定点と前記近用度数測定点の中点を基準に鉛直方向に±3mmの間に位置する。
本発明の第9の態様は、第1〜第4のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記眼鏡レンズにおける前記部分から見てアウトの水平方向およびインの水平方向の部分においても前記インプリズムの形状が備わっている。
本発明の第10の態様は、第9の態様に記載の態様であって、
前記眼鏡レンズを装用者が装用したときに前記眼鏡レンズにおいて天地の天の側となる方向を上方、地の側となる方向を下方としたとき、
前記眼鏡レンズに備わる2つの隠しマークを通過する直線に平行な直線であって、特定距離用度数測定点と近用度数測定点を結ぶ線分の中点から垂直上方3mmの点を通る直線上において、主注視線が通過する点から±15mmの位置における垂直方向の面屈折力の差の絶対値が0.25D以上である。
本発明の第11の態様は、第9の態様に記載の態様であって、
前記眼鏡レンズに備わる2つの隠しマークを通過する直線に平行な直線であって、特定距離用度数測定点と近用度数測定点を結ぶ線分の中点を通る直線上において、主注視線が通過する点から±15mmの位置における垂直方向の面屈折力の差の絶対値が0.25D以上である。
本発明の第12の態様は、第9の態様に記載の態様であって、
前記眼鏡レンズを装用者が装用したときに前記眼鏡レンズにおいて天地の天の側となる方向を上方、地の側となる方向を下方としたとき、
前記眼鏡レンズに備わる2つの隠しマークを通過する直線に平行な直線であって、特定距離用度数測定点と近用度数測定点を結ぶ線分の中点から垂直下方3mmの点を通る直線上において、主注視線が通過する点から±15mmの位置における垂直方向の面屈折力の差の絶対値が0.25D以上である。
本発明の第13の態様は、第1〜第4のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記眼鏡レンズにおける前記部分からアウトの水平方向およびインの水平方向へと前記インプリズムを減少させている。
本発明の第14の態様は、第13の態様に記載の態様であって、
前記眼鏡レンズを装用者が装用したときに前記眼鏡レンズにおいて天地の天の側となる方向を上方、地の側となる方向を下方としたとき、
前記眼鏡レンズに備わる2つの隠しマークを通過する直線に平行な直線であって、特定距離用度数測定点と近用度数測定点を結ぶ線分の中点から垂直下方3mmの点を通る水平直線上において、主注視線が通過する点から±5mmの位置における水平方向の面屈折力の差の絶対値が0.12D以上である。
本発明の第15の態様は、第13の態様に記載の態様であって、
前記眼鏡レンズに備わる2つの隠しマークを通過する直線に平行な直線であって、特定距離用度数測定点と近用度数測定点を結ぶ線分の中点を通る水平直線上において、主注視線が通過する点から±5mmの位置における水平方向の面屈折力の差の絶対値が0.12D以上である。
本発明の第16の態様は、第13の態様に記載の態様であって、
前記眼鏡レンズを装用者が装用したときに前記眼鏡レンズにおいて天地の天の側となる方向を上方、地の側となる方向を下方としたとき、
前記眼鏡レンズに備わる2つの隠しマークを通過する直線に平行な直線であって、特定距離用度数測定点と近用度数測定点を結ぶ線分の中点から垂直上方3mmの点を通る水平直線上において、主注視線が通過する点から±5mmの位置における水平方向の面屈折力の差の絶対値が0.12D以上である。
本発明の第17の態様は、
眼鏡レンズを装用者が装用したときに当該眼鏡レンズにおいて装用者の鼻の側となる方向をインの水平方向、耳の側となる方向をアウトの水平方向としたとき、
前記眼鏡レンズに係る情報に基づいて、前記眼鏡レンズにて度数が連続的に変化する部分であって装用者の輻輳が加味された主注視線が通過する部分において生じ得るアウトプリズムを少なくとも一部相殺するインプリズムの形状を当該部分に備えさせる設計工程と、
前記設計工程の結果に基づいて眼鏡レンズを製造する製造工程と、
を有する、眼鏡レンズの製造方法である。
本発明の第18の態様は、
眼鏡レンズを装用者が装用したときに当該眼鏡レンズにおいて装用者の鼻の側となる方向をインの水平方向、耳の側となる方向をアウトの水平方向としたとき、
前記眼鏡レンズに係る情報を受信する受信部と、
前記眼鏡レンズに係る情報に基づいて、前記眼鏡レンズにて度数が連続的に変化する部分であって装用者の輻輳が加味された主注視線が通過する部分において生じ得るアウトプリズムを少なくとも一部相殺するインプリズムの形状を当該部分に備えさせる設計部と、
前記設計部により得られる設計情報を送信する送信部と、
を備えた、眼鏡レンズ供給システムである。
本発明の第19の態様は、
眼鏡レンズを装用者が装用したときに当該眼鏡レンズにおいて装用者の鼻の側となる方向をインの水平方向、耳の側となる方向をアウトの水平方向としたとき、
前記眼鏡レンズに係る情報を受信する受信部、
前記眼鏡レンズに係る情報に基づいて、前記眼鏡レンズにて度数が連続的に変化する部分であって装用者の輻輳が加味された主注視線が通過する部分において生じ得るアウトプリズムを少なくとも一部相殺するインプリズムの形状を当該部分に備えさせる設計部、および、
前記設計部により得られる設計情報を送信する送信部、
としてコンピュータを機能させる、眼鏡レンズ供給プログラムである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、余分な輻輳を抑制する眼鏡レンズに関する技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本実施形態に関し、以下の順序で説明する。
1.眼鏡レンズ
1−1.眼鏡レンズの構成
1−2.従来との相違
2.眼鏡レンズの設計方法(製造方法)
2−1.準備工程
2−2.設計工程
2−3.製造工程
3.眼鏡レンズ供給システム
3−1.受信部
3−2.設計部
3−3.送信部
4.眼鏡レンズ供給プログラム
5.本実施形態の効果
6.変形例
【0024】
なお、本明細書における「水平方向」とは、乱視軸およびプリズム基底方向の定義における0または180度方向のことを指し、フレームへの枠入れのための2つのアライメント基準マーク(いわゆる隠しマーク)を結ぶ水平基準線の方向と一致した例について述べる。なお、本実施形態における水平基準線は、眼鏡レンズ(枠入れ加工前の丸レンズ)の上方頂点と下方頂点との中間において水平に延びる線である。また、本実施形態においては、当該2つの隠しマークを結ぶ水平基準線の中心を主注視線が通過するように隠しマークを配置する例について述べる。
【0025】
<1.眼鏡レンズ>
本実施形態に係る眼鏡レンズは、物体側の面(外面)と眼球側の面(内面)とが組み合わされて構成されるレンズである。なお、以下に記載が無い構成については、適宜公知の眼鏡レンズの構成を採用しても構わない。
【0026】
それに加え、本実施形態に係る眼鏡レンズは、眼鏡レンズにて度数が連続的に変化する部分(累進部)を備えたものであれば、特に限定されない。例えば、本実施形態に係る眼鏡レンズは、遠く(例えば無限遠〜400cm)を見るための遠用部および近く(例えば100cm以下)を見るための近用部を備えるいわゆる累進多焦点レンズや、所定の距離を見るための一つの領域から離れるに従って度数が変化する、プラス度数を備えた単焦点レンズであっても構わない。
以降、説明の便宜上、累進多焦点レンズであって内面累進レンズ(外面は球面)を例示して説明する。
【0027】
(1−1.眼鏡レンズの構成)
本実施形態における大きな特徴の一つが、装用者の輻輳が加味された主注視線が通過する累進部の中の部分において生じ得るアウトプリズムを少なくとも一部相殺するインプリズムの形状が当該部分に備わっていることである。
【0028】
なお、主注視線は、先にも述べたように、眼鏡レンズにおいて視線が通過する部分が集まって形成される線を指す。そして、本実施形態においては、説明の便宜上、累進多焦点レンズにおける主注視線を、遠用度数測定点と近用度数測定点とを結ぶ線として定義する(後述の
図3)。
【0029】
ただ、もちろん、本実施形態における相殺対象は、あくまで「眼鏡レンズにて度数が連続的に変化する部分であって装用者の輻輳が加味された主注視線が通過する部分において生じ得るアウトプリズム」である。別の言い方をすると、輻輳が加味され、主注視線は眼鏡レンズの上方頂点から下方頂点を結ぶ上下直線(鉛直線)ではないという条件を満たすのならば、主注視線の形状(直線、曲線問わず)に限定は無い。そもそも、装用者に応じて主注視線の形状が変化する場合があることを鑑みると、本実施形態の眼鏡レンズを構成するものとして主注視線そのものの形状および位置を一義的に規定する必要はない。
【0030】
話を元に戻すと、本実施形態においては、主注視線が鼻の側に曲がることによって意図せぬアウトプリズムが発生したとしても、そもそも眼鏡レンズの形状を、インプリズムを発揮可能な形状としておくことにより、アウトプリズムの悪影響を低減させることが可能となる。つまり、先んじて眼鏡レンズを、インプリズムを発揮可能な形状としておくことにより、輻輳により生じ得る意図せぬアウトプリズムを打ち消すことが可能となる。
【0031】
上記のインプリズムは、上記のアウトプリズムを一部でも相殺できれば、従来に比べ、余分な輻輳を抑制することが可能となる。あくまで一例であるが、例えば、収差とのバランスを考えて50%の補正をしてもよい。ただ、相殺する割合は多い方が好ましいのは言うまでもない。そのため、上記のインプリズムは、上記のアウトプリズムの80%以上(更に言うと90%以上、特に95%以上)を相殺するのが好ましい。
【0032】
なお、装用者の輻輳が加味された主注視線が通過する部分に生じる意図せぬアウトプリズムの量は、プレンティスの公式(式2)により見積もることが可能である。そして、見積もったアウトプリズムに応じてインプリズムの量も決定可能であり、そのインプリズムの量を眼鏡レンズに備えさせることにより本実施形態の眼鏡レンズが得られる。
【0033】
上記の内容を数式で規定すると、以下のようになる。
まず、
図3は、本実施形態における眼鏡レンズの概略平面図である。点Fは遠用度数測定点であり、点Nは近用度数測定点である。hは、先ほども述べたように、眼鏡レンズの水平断面形状の頂点から主注視線上の点(例えば
図1の点N)との間の水平距離(mm)であり、点Fと点Nとの水平方向の距離(mm)でもある。hの絶対値は、眼鏡レンズにおけるいわゆる内寄せ量に該当する。また、点F’は、点Fから距離hだけ水平方向に離れた点である。本実施形態においては、点F’にて遠用部における水平方向のプリズム量を測定し、点Nにて近用部における水平方向のプリズム量を測定する。こうすることで、加入度とは別に処方された遠用度数によって発生するプリズム作用をキャンセルできるからである。そのため、本実施形態においては、点F’と点Nとの間のプリズム量を用い、意図せぬアウトプリズムを見積もるための数式を構築する。
【0034】
まず、点F’および点Nにおけるプリズム量を求める。先に挙げたプレンティスの公式(式2)を応用すると、以下のようになる。
P
F=D
F*h/10 ・・・(式3)
P
N=D
N*h/10 ・・・(式4)
ここで、P
Fは点F’ひいては点Fのプリズム量(Δ)を示し、P
Nは点Nのプリズム量(Δ)を示す。なお、プリズム量に関しては、アウトプリズムを正、インプリズムを負とする。ただ、本明細書においては、インプリズムかアウトプリズムか明示しつつ、符号を省略することもある。その際、「アウトプリズムが増加」という表現を行う場合、アウトプリズムの度合いが増大しているという意味を指し、「アウトプリズムの量の絶対値が増加している」という意味を指す。
また、D
Fは遠用部における水平方向の度数(パワー)(D)を示し、D
Nは近用部における水平方向の度数(パワー)(D)を示す。
【0035】
ここで、意図せぬアウトプリズムは、(P
N−P
F)で表される。そのため、特別なプリズムが入っていない従来の一般の累進多焦点レンズにおいては、以下の式が成り立つ。
P
N−P
F=(D
N*h/10)−(D
F*h/10)
=(D
N−D
F)*h/10
=ADD*h/10 ・・・(式5)
意図せぬアウトプリズムの量(Δ)は(ADD*h/10)で見積もることができる。つまり、実際の眼鏡レンズにおいて測定される(P
N−P
F)が(ADD*h/10)よりも小さければ、意図せぬアウトプリズムの少なくとも一部が相殺されていることを表す。その結果、本実施形態の眼鏡レンズを以下の式で規定することも可能である。
P
N−P
F<ADD*h/10 ・・・(式6)
この(式6)に加え、以下の(式7)を満たすのも好ましい。
|P
N−P
F−ADD*h/10|≧0.25 ・・・(式7)
(式7)の左辺は、「インプリズムの付加による、意図せぬアウトプリズムの減り具合」を示す。つまり(式7)は、処方としてのプリズムでいうところの1ステップ分(0.25Δ)以上、意図せぬアウトプリズムが相殺されていることを示す。なお、好ましくは、(式7)の左辺が0.25Δを超えた値とする。
【0036】
ちなみに、本発明が対象とする眼鏡レンズにおいて「装用者の輻輳が加味された主注視線が通過する部分」(以降、単に「部分α」とも称する。)を規定するとすれば、あくまで一例ではあるが、実用上は遠用度数測定点Fと近用度数測定点Nを結ぶ線分近傍の部分として規定しても問題ない。
【0037】
また、部分αにおける眼鏡レンズの具体的な形状(本実施形態においては部分αにおける内面の具体的な形状)としては、以下の形状が挙げられる。すなわち、部分αの少なくとも一部において、インプリズムが眼鏡レンズの下方に向けて増加するように、部分αを水平方向に断面視した際の眼鏡レンズの物体側の面および眼球側の面の少なくともいずれかの形状を、眼鏡レンズの下方に向けて連続的に(徐々に)捩った形状を当該部分αに備えさせるのが好ましい。
【0038】
詳しくは実施例の項目で述べるが、意図せぬアウトプリズムを考慮する前の累進面の光学レイアウト(後述の比較例1、
図8(a)(b))に対し、遠用度数測定点Fもしくはプリズム度数測定点Pよりも下方の部分において、水平方向に断面視した際の眼鏡レンズの内面形状を、眼鏡レンズの下方に向けて連続的に捩ったのが実施例1〜3であり、その中で以降例示する実施例1の光学レイアウトが
図15(a)(b)である。
【0039】
実施例1の
図15(b)と比較例1の
図8(b)との間では面平均度数に関しては相違が小さい。なぜなら、プリズムを付加したとしても、面の上方から下方にかけて、主注視線上の点において水平断面形状の接線の傾きを連続的に変えた状態で累進面を構成するに過ぎず、累進面がもたらす平均的な度数自体にはさほど変動はないためである。ただ、もちろん、面形状を連続的に捩ったことに起因して、実施例1においては、
図15(a)に示される面非点収差の分布図自体が、鼻の側の下方に若干偏っている。また、それに伴い、面非点収差の分布図は、実施例1と比較例1との間で大きく異なっている。
【0040】
その一方、実施例1の眼鏡レンズの形状(カーブ)そのものを、部分αの側方において変形させたものが実施例4であり、実施例4と同様の設計条件で、内面形状捩り方を変えたのが実施例5、6である。以降、実施例4を例示する。実施例4においては、実施例1の眼鏡レンズの面の側方においてカーブ自体を変形させ、部分αの側方において、インプリズムの量を低く抑えている。だからこそ、実施例4の面非点収差の分布図(
図18(a))においては、意図せぬアウトプリズムを考慮する前の累進面の面非点収差の分布図(比較例1、
図8(a))と近似したレイアウトの面非点収差が得られる。その一方で、面の側方においてカーブ自体を変形させていることから、実施例4の面平均度数の分布図(
図18(b))においては、近用部が下方に向かうに従って鼻の側に傾いている。
【0041】
上記の内容について、以下、詳述する。
まず、実施例1に係る内容について述べる。上述の通り、意図せぬアウトプリズムを相殺すべく、眼鏡レンズにインプリズムを発揮する形状を備えさせる必要がある。これを実現するためには、先に挙げた
図1で言うところの、主注視線上の点における外面の接線と内面の接線との傾きに差を生じさせる必要があり、しかもインプリズムを発揮する方向へと傾きを生じさせる必要がある。
【0042】
そこで本実施形態の好ましい例においては、
図1で言うところの主注視線上の点における外面の接線と内面の接線との間で傾きに差を生じさせるべく、部分αにおける遠用度数測定点Fもしくはプリズム度数測定点Pよりも下方の部分において、水平方向に断面視した際の眼鏡レンズの内面形状を、眼鏡レンズの下方に向けて連続的に捩っていく。その際に、眼鏡レンズの内面において、主注視線上の点の接線が、鼻の側の方だと水平方向の断面視下方、耳の側の方だと水平方向の断面視上方となるように設定する。こうすることにより、眼鏡レンズの下方に向けて、連続的にインプリズムを増加させることが可能となり、そのようなインプリズムを眼鏡レンズに備えさせることが可能となる。上記の捩り形状は、本実施形態で例示する主注視線が、装用者の輻輳を反映させたために眼鏡レンズの下方に向けて鼻の側に徐々に曲がっていくことを考慮に入れた上の形状である。
【0043】
上記で列挙した内容は部分αについての説明である。以下、部分α以外の部分の形状についても説明する。なおその際、
図4および
図5を用いて説明する。
図4および
図5は、眼鏡レンズにおいて主注視線が通過する部分αおよびその側方におけるインプリズムの制御の様子を示す概念図である。なお、説明の便宜上、
図4および
図5においては主注視線を直線で示している。これは主注視線をY軸に沿わせるための措置であって、主注視線が上下方向に直線状に延びていることを示すものではない。
【0044】
本実施形態の一例として、本実施形態の眼鏡レンズにおける部分αから見てアウトの水平方向およびインの水平方向の部分においてもインプリズムの形状が備わっている。これは、部分αにインプリズムを備えさせたことに伴い、部分αの側方においても同様にインプリズムを備えさせた結果の形状である。
図4で言うと、
図4(a)→(b)→(c)へと、水平方向に断面視した際の眼鏡レンズの内面形状全体を、眼鏡レンズの下方に向けて連続的に捩っていく。この形状は、水平方向の端から端まで同様にインプリズムを備えさせる形状を採用するため、眼鏡レンズに対する加工が比較的簡素となる。その結果、上記の構成を採用する場合、眼鏡レンズの製造効率が向上する。
なお、上記の内容は、後述の実施例1〜3に対応する。
【0045】
ここで、上記の内容を、面屈折力の分布という面から規定することもできる。以下、説明する。
図21は、後述の比較例1(参照例すなわちインプリズムを備える前のオリジナル累進面)での面屈折力の分布を、水平方向の面屈折力の分布図(
図21(a))および垂直方向の面屈折力の分布図(
図21(b))へと分けた図である。
なお、同様の図を、後述の実施例1および実施例4についても
図22および
図25として設けている。
【0046】
ここで水平方向および垂直方向の面屈折力の分布は以下のように求められる。
ある面が存在した場合に、面上の各点における最大最小の曲率およびその方向は一義的に決まる。面屈折力は曲率に屈折率の係数を掛けたものであるから、このことは面上の各点における最大最小の面屈折力とその方向は一義的に決まることと同義である。ここで最大、最小の面屈折力をそれぞれDmax、Dminとして、最大屈折力の方向をAXとすると、面上の各点における任意の方向(θ)の面屈折力は以下のオイラーの式で計算により求められる。
D=Dmax × COS
2(θ-AX) + Dmin × SIN
2(θ-AX) ・・・(式8)
水平方向の面屈折力は(式8)においてθ=0もしくは180、垂直方向の面屈折力はθ=90もしくは270を代入することにより求められる。このように水平および垂直方向の面屈折力を面上の各点において求めることにより、
図21(a)および(b)のような図が得られる。
また(式8)の(Dmax + Dmin)/2は面平均度数を、|Dmax-Dmin|は面非点収差を表す。
【0047】
インプリズムを備える前のオリジナル累進面における垂直方向の面屈折力の分布を示す
図21(b)と、上記の内容に対応する実施例1の
図22(b)とを比較すると、垂直方向の面屈折力の分布において大きく異なる。
【0048】
なお、本例において、水平方向の面屈折力の分布に大きな差が生じていない理由としては、本例においてはあくまで水平方向にインプリズムを付与しているに過ぎず、眼鏡レンズの内面のカーブの形状自体に対して水平方向には変更を加えていないためである。しかしながら、垂直方向に見ると、カーブの形状が変化してしまっており、上記のような差が生じる。
【0049】
ここで、
図3の眼鏡レンズに付された(例えば刻印)された2つの隠しマークを通過する水平基準線に平行な直線であって遠用度数測定点Fと近用度数測定点Nを結ぶ線分の中点から垂直上方3mmの点を通る水平直線において垂直方向の面屈折力をプロットしたものを
図28に示す。なお、
図28の原点は上記の2つの隠しマークの中心を通る鉛直線と上記の水平直線が交わる点である。ただし、主注視線が通過する点は、原点から鼻の側の水平方向に0.9mm移動した点である。
【0050】
後述の実施例1で説明するが、
図28を見ると、主注視線が通過する点から+15mmの位置の面屈折力と、主注視線が通過する点から−15mmの位置の面屈折力とを比べると、比較例1と各実施例との間に大きな差が存在することがわかる。つまり、比較例1の場合、両者の間に屈折力の差は存在しない一方、各実施例においては鼻の側の方が屈折力が高くなっている。これは、眼鏡レンズに備えさせるインプリズムの量を0.25Δとした場合(実施例1−1)、0.50Δとした場合(実施例1−2)であっても同様である。
【0051】
なお、本例では
図3で言うところの鼻の側が向かって左側となっている左眼用眼鏡レンズを例示しているからこのような結果となっているものの、右眼用眼鏡レンズだと逆の挙動を示す。そのため、比較例1と各実施例(ひいては本実施形態)との間の差を明確にしつつ本例を規定するならば、以下のように規定される。
・2つの隠しマークを通過する水平基準線に平行な直線であって、遠用度数測定点Fと近用度数測定点Nを結ぶ線分の中点から垂直上方3mmの点を通る水平直線上において、主注視線が通過する点から±15mmの位置における垂直方向の面屈折力の差の絶対値が0.25D以上(好ましくは0.30D以上、より好ましくは0.60D以上)である。
なお、実施例1−1における上記の絶対値は0.38Dであり、実施例1−2における上記の絶対値は0.76Dである。
【0052】
また、本例に対応する他の実施例2〜3に関しても、当該絶対値を規定する水平直線の配置を変化させた上で、上記のような規定を行っても構わない。例えば以下のような規定を設けても構わない。
・2つの隠しマークを通過する水平基準線に平行な直線であって、遠用度数測定点Fと近用度数測定点Nを結ぶ線分の中点を通る直線上において、主注視線が通過する点から±15mmの位置における垂直方向の面屈折力の差の絶対値が0.25D以上(好ましくは0.40D以上、より好ましくは0.70D以上)である。
・2つの隠しマークを通過する水平基準線に平行な直線であって、遠用度数測定点Fと近用度数測定点Nを結ぶ線分の中点から垂直下方3mmの点を通る直線上において、主注視線が通過する点から±15mmの位置における垂直方向の面屈折力の差の絶対値が0.25D(好ましくは0.40D以上、より好ましくは0.80D以上)以上である。
なお、上記の各規定を単体で採用しても構わないが、本例の特徴を際立たせるためにも適宜組み合わせて採用するのが好ましい。
【0053】
これに対し、本実施形態の別の一例として、
図5に示すように、部分αの側方におけるインプリズムの量を抑える手法が挙げられる。具体的に言うと、部分αからアウトおよびインの水平方向へと付加したインプリズムを小さくするという手法である。
【0054】
確かに、意図せぬアウトプリズムを相殺するためにはインプリズムを備えさせるべきではあるが、部分αの側方においては水平方向のプリズムは歪みとして知覚されてしまう可能性がある。そのような可能性を排するためにも、部分αの側方においては水平方向のプリズム(インプリズム)の量を低く抑えておく必要がある。つまり、上記の例のように面形状を水平方向全体で捩った上で側方の捩りを元に戻す必要がある。このインプリズムの量の抑制を、眼鏡レンズにおける度数の変化(すなわち更なる面形状の変形)により実施した例が、本例である。具体的な構成としては、
図5で言うと、
図5(a)→(b)→(c)という形状変化が示すように、面の側方においてカーブ自体を水平方向に変形させる、という構成である。この構成によれば、意図せぬアウトプリズムの発生を抑制しつつも側方において歪みを低減させた眼鏡レンズを提供することができる。
なお、上記の内容は、後述の実施例4〜6に対応する。
【0055】
先に挙げた実施例1に対応する内容と同様に、上記の内容を、面屈折力の分布という面から規定することもできる。以下、説明する。
図25は、後述の実施例4での面屈折力の分布を、水平方向の面屈折力の分布図(
図25(a))および垂直方向の面屈折力の分布図(
図25(b))へと分けた図である。
【0056】
インプリズムを備える前のオリジナル累進面における水平方向の面屈折力の分布を示す
図21(a)と、上記の内容に対応する実施例4の
図25(a)とを比較すると、水平方向の面屈折力の分布において大きく異なる。この理由としては、眼鏡レンズの内面のカーブの形状自体に対して水平方向に変更を加えたためである。
【0057】
ここで、
図3の眼鏡レンズに刻印された2つの隠しマークを通過する水平基準線に平行な直線であって、遠用度数測定点と近用度数測定点を結ぶ線分の中点から垂直下方3mmの点を通る直線において水平方向の面屈折力をプロットしたものを
図31に示す。なお、
図31は、先に挙げた
図28(実施例1)に対応する、実施例4に係る図であり、図の中の諸々については説明を省略する。
【0058】
後述の実施例4で説明するが、
図31を見ると、主注視線が通過する点から+5mmの位置の面屈折力と、主注視線が通過する点から−5mmの位置の面屈折力とを比べると、比較例1と各実施例との間に大きな差が存在することがわかる。つまり、比較例1の場合、両者の間に屈折力の差はほとんど存在しない一方、各実施例においては耳の側の方が屈折力が高くなっている。これは、眼鏡レンズに備えさせるインプリズムの量を0.25Δとした場合(実施例4−1)、0.50Δとした場合(実施例4−2)であっても同様である。
【0059】
なお、本例では
図3で言うところの鼻の側が向かって左側となっている左眼用眼鏡レンズを例示しているからこのような結果となっているものの、右眼用眼鏡レンズだと逆の挙動を示す。そのため、比較例1と各実施例(ひいては本実施形態)との間の差を明確にしつつ本例を規定するならば、以下のように規定される。
・2つの隠しマークを通過する水平基準線に平行な直線であって、遠用度数測定点Fと近用度数測定点Nを結ぶ線分の中点から垂直下方3mmの点を通る直線上において、主注視線が通過する点から±5mmの位置における水平方向の面屈折力の差の絶対値が0.12D以上(好ましくは0.20D以上、より好ましくは0.40D以上)である。
なお、実施例4−1における上記の絶対値は0.22Dであり、実施例4−2における上記の絶対値は0.50Dである。
【0060】
また、本例に対応する他の実施例5〜6に関しても、当該絶対値を規定する水平直線の配置を変化させた上で、上記のような規定を行っても構わない。例えば以下のような規定を設けても構わない。
・2つの隠しマークを通過する水平基準線に平行な直線であって、遠用度数測定点Fと近用度数測定点Nを結ぶ線分の中点を通る直線上において、主注視線が通過する点から±15mmの位置における水平方向の面屈折力の差の絶対値が0.12D以上(好ましくは0.20D以上、より好ましくは0.40D以上)である。
・2つの隠しマークを通過する水平基準線に平行な直線であって、遠用度数測定点Fと近用度数測定点Nを結ぶ線分の中点から垂直上方3mmの点を通る直線上において、主注視線が通過する点から±15mmの位置における水平方向の面屈折力の差の絶対値が0.12D以上(好ましくは0.20D以上、より好ましくは0.40D以上)である。
なお、上記の各規定を単体で採用しても構わないが、本例の特徴を際立たせるためにも適宜組み合わせて採用するのが好ましい。
【0061】
この場合のインプリズムの付加量としては、上記の機能を奏するものであれば任意で構わない。ただ、現在のところ、本発明者の調べによれば、累進屈折力レンズの場合でかつレンズ上方(例えば遠用部)から下方(近用部)にかけてインプリズムを付加する際には、その付加量が2Δ以下であれば、装用者の個人差を考慮に入れたとしても、ほぼ確実に上記の効果を得ることができるうえ、面の捩ることによって発生する収差や歪みの影響を最小限に抑えることができる。
【0062】
(1−2.従来との相違)
ちなみに、従来の眼鏡レンズにおいてプリズムを設ける例は、特許文献1のように存在する。しかしながら、従来だと、斜視、斜位、固視ずれ等、装用者の症状を矯正するために処方として与えられるプリズム(処方プリズム)しか知られていない。現に、特許文献1でのプリズムは、遠用部での処方プリズムと近用部での処方プリズムを先に得ておき、その間を繋ぐようにプリズム量を連続的に変化させている。
【0063】
仮に、眼鏡レンズにおいて水平方向のプリズムを設ける例が存在するとしても、それは処方プリズムであり、装用者の症状を矯正するために全てのプリズム量が使用されることになる。そうなると、本実施形態で示すように、意図せぬアウトプリズムを相殺する分のインプリズムは残されないことになり、従来においては当該相殺を行うプリズムが備えられた眼鏡レンズは未だ知られていないことになる。繰り返しになるが、本実施形態におけるインプリズムは、斜視、斜位、固視ずれ等、装用者の症状を矯正するために処方として与えられる処方プリズムとは異なるものである。そのため、眼鏡レンズが収められるレンズ袋に処方プリズムの値が記載されている場合、実際の眼鏡レンズにおいて測定されるプリズム量とが異なる場合も考えられる。この場合、当該プリズム量がインプリズムに該当するものであれば、本実施形態の技術的思想が反映されていると見ることも可能である。
【0064】
<2.眼鏡レンズの設計方法(製造方法)>
以下、本実施形態における眼鏡レンズの設計方法(製造方法)について述べる。なお、以降の記載において、<1.眼鏡レンズ>と重複する部分については記載を省略する。また、以降の記載において、記載の無い内容については、公知の技術を採用しても構わない。例えば、WO2007/077848号公報に記載の眼鏡レンズの供給システムについての記載の内容を適宜採用しても構わない。
【0065】
(2−1.準備工程)
本工程においては、後の設計工程を行うための準備を行う。当該準備としては、まず、眼鏡レンズを設計する際に必要な情報を取得することが挙げられる。眼鏡レンズに係る情報としては、レンズアイテムに固有のデータであるアイテム固有情報と、装用者に固有のデータである装用者固有情報とに大別される。アイテム固有情報には、レンズ素材の屈折率nや、累進帯長に代表される累進面設計パラメータ等に関する情報が含まれる。装用者固有情報には、遠用度数(球面度数S、乱視度数C、乱視軸AX、プリズム度数P、プリズム基底方向PAX等)や、加入度数ADDや、レイアウトデータ(遠用PD、近用PD、アイポイント位置等)、フレーム形状、フレームと眼の位置関係を表すパラメータ(前傾角、そり角、頂点間距離等)等に関する情報が含まれる。
【0066】
(2−2.設計工程)
次に、本工程において、眼鏡レンズに係る情報に基づいて、眼鏡レンズの設計を行う。その際、上記の部分α(すなわち眼鏡レンズにて度数が連続的に変化する部分であって装用者の輻輳が加味された主注視線が通過する部分)において生じ得る意図せぬアウトプリズムを少なくとも一部相殺するインプリズムの形状を当該部分に備えさせる。
【0067】
設計方法としては眼鏡レンズにプリズムを備えさせる公知の設計手法を採用しても構わない。例えば、眼鏡レンズに係る情報に基づいて、意図せぬアウトプリズムを考慮する前のオリジナル累進面の光学レイアウトに関する事前設計情報を作成しておく(後述の比較例1)。その上で、事前設計情報に対し、上記で挙げた後述の実施例1〜3に対応する手法(面形状の捩り)や、後述の実施例4〜6に対応する手法(面形状を捩った上で側方の捩りを元に戻す)を適用し、部分αおよび側方の部分ならびにそれ以外の部分を設計しても構わない。
なお、上記のオリジナル累進面の光学レイアウトに関する事前設計情報は、準備工程において入手しておいても構わない。
また、<1.眼鏡レンズ>で挙げた構成を実現するための設計を眼鏡レンズに対して行っても構わない。その際の具体的な設計手法は、眼鏡レンズに係る情報に基づき、公知の手法を用いて行っても構わない。
【0068】
上記の設計工程をステップごとに記載すると、例えば以下のようになる。
図6に、本実施形態における設計工程を概略的に示したフローチャートを示す。
【0069】
(2−2−1.事前設計情報の入手ステップ)
本ステップにおいては、上記のオリジナル累進面の光学レイアウトに関する事前設計情報を予め入手しておく。
【0070】
(2−2−2.意図せぬアウトプリズムの量の算出ステップ)
本ステップはあくまで行うのが好ましいステップに過ぎないが、事前設計情報から、眼鏡レンズの内面における各点での意図せぬアウトプリズムの発生量は、上記のプレンティスの公式(式2)により見積もることができる。本ステップは例えば設計部の中の演算手段により算出することが可能であるし、例えば外部のサーバやクラウドによりアウトプリズムの発生量を演算しても構わない。
【0071】
(2−2−3.備えさせるインプリズムの量の決定ステップ)
本ステップはあくまで行うのが好ましいステップに過ぎないが、先のステップにより得られた意図せぬアウトプリズムの量に対応して備えさせるインプリズムの量を算出する。なお、意図せぬアウトプリズムのうち何%を相殺させるかを最初に設定しておき、その設定に応じてインプリズムの量を決定しても構わないし、そもそもインプリズムの量を予め決定しておいても構わない。
【0072】
先の(2−2−2.意図せぬアウトプリズムの量の算出ステップ)を行っていない場合は、予め決定してあった量のインプリズムを眼鏡レンズに備えさせる設計を行うことになる。その場合、ここで改めて(2−2−2.意図せぬアウトプリズムの量の算出ステップ)を行う。そして、予め決定してあった量のインプリズムと算出した意図せぬアウトプリズムの量とを比較して、少なくとも部分αにおいて意図せぬアウトプリズムを十分に相殺できているかを判定する(2−2−4.判定ステップ)。
【0073】
その結果、相殺度合いが十分であれば、設計工程を終了し、製造工程へと移行する。その一方、相殺度合いが十分でなければ、一定量のインプリズムを追加した上で、追加後のインプリズムの量と意図せぬアウトプリズムの量とを比較し、判定する。相殺度合いが十分となるまでこの判定を繰り返す。
【0074】
(2−3.製造工程)
本工程では、設計工程の結果に基づいて眼鏡レンズを製造する。具体的な製造方法に関しては、公知の手法を採用しても構わない。例えば、設計工程により得られた設計データを加工機に入力し、レンズブランクに対して加工を行い、眼鏡レンズを製造しても構わない。
【0075】
なお、上記の工程以外(例えば洗浄工程やコーティング等)の工程を、必要に応じて適宜追加してももちろん構わない。
【0076】
<3.眼鏡レンズ供給システム>
以下、本実施形態における眼鏡レンズ供給システムについて述べる。なお、本実施形態の眼鏡レンズ供給システムには、以降に述べる各部を制御する制御部が備わっている。なお、本実施形態においては、制御部を含む各部が、眼鏡レンズの設計メーカー側に備え付けられたコンピュータ(設計メーカー側端末30)に設けられる例について説明する。
図7は、本実施形態における眼鏡レンズ供給システム1を概略的に示したブロック図である。
【0077】
(3−1.受信部31)
受信部31においては、眼鏡店側端末20の情報記憶部21ひいては送受信部22から眼鏡レンズに係る情報を、公衆回線5を介して受信する。当該情報は上記の通りである。なお、当該情報には、上記のオリジナル累進面の光学レイアウトに関する事前設計情報を含めても構わない。当該情報は、通常、眼鏡店側に備え付けられたコンピュータ(眼鏡店側端末20)の入力手段により入力される情報である。もちろん、眼鏡店側端末20以外の場所(例えば外部のサーバやクラウド4)から当該情報を適宜引き出しても構わない。
【0078】
(3−2.設計部32)
設計部32においては、眼鏡レンズに係る情報に基づいて、眼鏡レンズにて度数が連続的に変化する部分であって装用者の輻輳が加味された主注視線が通過する部分において生じ得る意図せぬアウトプリズムを少なくとも一部相殺するインプリズムの形状を当該部分に備えさせる。眼鏡レンズの光学レイアウトを設計することになるため、設計部32には光学パラメータを算出するための演算手段321が備わっているのが好ましい。ただ、眼鏡店側端末20以外の場所から引き出した情報の中に、インプリズムを付加する前の光学レイアウトが存在する場合、極端に言うと、設計部32ではインプリズムのみを当該光学レイアウトに付加することのみを行っても構わない。
なお、具体的な設計手法に関しては、<2.眼鏡レンズの設計方法(製造方法)>で述べた通りである。
【0079】
(3−3.送信部34)
送信部34においては、設計部32により得られる設計情報を送信する。なお、送信先としては眼鏡店側端末20が挙げられる。設計情報(更に言うと当該設計情報を面非点収差分布図や平均度数分布図によりビジュアル化したもの)を眼鏡店側に送信し、眼鏡店側で当該設計情報を確認し、問題が無ければ、眼鏡レンズを製造するメーカーへと当該設計情報を送信し、眼鏡レンズの製造を依頼する。なお、設計メーカーが眼鏡レンズの製造も行うことが可能な場合、眼鏡店側端末20から設計メーカー側端末30へと眼鏡レンズの製造を依頼する旨の情報を送信する。
【0080】
ちなみに、同一の装置内に、送信部34と眼鏡レンズの加工機(図示せず)とが存在する場合、眼鏡レンズ供給システム1は眼鏡レンズ製造装置と呼んでも差し支えない。
【0081】
なお、上記の各部以外の構成を、必要に応じて適宜追加してももちろん構わない。例えば、<2.眼鏡レンズの設計方法(製造方法)>で述べたように、意図せぬアウトプリズムの量を見積もる演算部(図示せず)を別途設けても構わないし、設計部32における演算手段321により見積もりを行っても構わない。そして、見積もられたアウトプリズムの量を所定の割合で相殺するインプリズムの量を当該演算部(図示せず)や演算手段321で見積もっても構わない。その結果得られたインプリズムの量を設計部32に送信し、当該インプリズムの量を反映した設計情報を設計部32から得ても構わない。また、上記の判定ステップを行う判定部33を設けても構わない。この判定部33は設計部32の一部の構成としても構わない。
【0082】
<4.眼鏡レンズ供給プログラム>
先に述べた眼鏡レンズ供給システム1を稼働させるためのプログラムおよびその格納媒体にも、本実施形態の技術的思想が反映されている。つまり、コンピュータ(端末)を、少なくとも受信部31、設計部32および送信部34として機能させるプログラムを採用することにより、最終的に、余分な輻輳を抑制する眼鏡レンズを供給することが可能となる。
【0083】
<5.本実施形態の効果>
本実施形態によれば、主注視線が鼻の側に曲がることによって意図せぬアウトプリズムが発生したとしても、そもそも眼鏡レンズの形状を、インプリズムを発揮可能な形状としておくことにより、アウトプリズムの悪影響を低減させることが可能となる。つまり、先んじて眼鏡レンズを、インプリズムを発揮可能な形状としておくことにより、輻輳により生じ得る意図せぬアウトプリズムを打ち消すことが可能となる。その結果、余分な輻輳を抑制することが可能となる。
【0084】
なお、余分な輻輳を抑制することにより、例えば装用者が累進部を有さない単なる単焦点レンズを装用していた場合、装用者が累進屈折力レンズに買い換えたとしても、違和感をさほど生じなくさせるという効果も奏する。
【0085】
特に、眼鏡レンズにおける主注視線が通過する部分から見てアウトの水平方向およびインの水平方向の部分においてもインプリズムの形状が備わることにより、眼鏡レンズに対する加工が比較的簡素となる。その結果、上記の構成を採用する場合、眼鏡レンズの製造効率が向上する。
この効果は、
図4(a)→(b)→(c)へと、水平方向に断面視した際の眼鏡レンズの内面形状全体を、眼鏡レンズの下方に向けて連続的に捩っていくという構成(すなわち水平方向の端から端まで同様にインプリズムを備えさせる形状)を採用すれば特に顕著になる。
【0086】
その一方、眼鏡レンズにおける主注視線が通過する部分からアウトの水平方向およびインの水平方向へとインプリズムを減少させることにより、意図せぬアウトプリズムの発生を抑制しつつも側方において歪みを低減させた眼鏡レンズを提供することができる。
この効果は、
図5(a)→(b)→(c)という形状変化が示すように、面の側方においてカーブ自体を水平方向に変形させる、という構成である。この構成によれば、意図せぬアウトプリズムの発生を抑制しつつも側方において歪みを低減させた眼鏡レンズを提供することができる。
眼鏡レンズにおける主注視線が通過する部分からアウトの水平方向およびインの水平方向へとインプリズムを減少させる際は、インプリズムが変化しない領域を設けることなく、速やかに減少させることが好ましい。なぜならば、主注視線上の点を基準としてインおよびアウトの水平方向に沿って付加するインプリズムが変化しない領域、すなわち一定となる領域を確保しようとすると、水平方向に沿って主注視線から離れるにしたがって面の捩れが大きくなり、結果として大きな表面非点収差が面上に発生してしまうためである。このような表面非点収差は、最終的に装用者にとってはボヤけとして知覚されるため、明瞭さの観点から好ましくない。
【0087】
なお、上記の各当該効果は、上記の構成を面屈折力で規定したもの(主注視線が通過する点から所定の水平位置における垂直方向の面屈折力の差の絶対値が所定値以上等)であってももたらされる。
【0088】
上記の2種の構成(
図4、
図5)は、本発明がもたらす主とした効果であるところの「輻輳により生じ得る意図せぬアウトプリズムを打ち消し」た上で、2種の構成各々にもたらされる各々の効果が相乗する。そのため、装用感が非常に良好な眼鏡レンズを提供することができる。
【0089】
<6.変形例>
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0090】
(眼鏡レンズ)
上記の例においては遠用部および近用部を備える累進多焦点レンズについて例示した。その一方、遠用部ではなく中間部(例えば400cm〜100cmの距離の物体を見るための部分)および近用部を備える累進多焦点レンズ(いわゆる中近レンズ)であっても構わないし、近用部および更に近い物体(例えば100cm未満の距離)を見るための近用部を備える累進多焦点レンズ(いわゆる近近レンズ)であっても構わない。
【0091】
なお、中近レンズや近近レンズの場合、装用者は常に輻輳している状態になるので、中近レンズや近近レンズの場合の方が、本発明がもたらす効果は絶大となる。
【0092】
ちなみに、中近レンズや近近レンズの場合、上記の(式6)および(式7)における遠用部は、特定距離を見るための部分(例:遠用度数測定点F→特定距離用度数測定点)と言い換えればよく、近用部は当該特定距離よりも近い距離を見るための領域となる。
【0093】
また、所定の距離を見るための一つの領域から離れるに従って度数が変化する、プラス度数を備えた単焦点レンズの場合であっても、上記の場合で言うところの例えば遠用部(遠くを見るための領域であって安定して度数が略一定となる領域)が存在しなくなるだけであり、眼鏡レンズの下方に向けてプラス度数が付加される累進部が存在することに変わりはない。また、遠用度数測定点が存在しなくとも、眼鏡レンズ上の所定の位置において所定の度数が確保できているか確認するという意味での度数測定点を、上記で言うところの「特定距離を見るための部分における度数測定点」と言い換えても構わない。
【0094】
また、上記のような単焦点レンズの場合、遠用部が存在しないことから、遠用度数測定点も存在せず、ひいては、上記の内面累進レンズにて定義した「主注視線」も、名目上は存在しないことになる。しかしながら上記の単焦点レンズを装用しても輻輳が生じることに変わりはなく、そのため意図せぬアウトプリズムの問題が生じることに変わりはない。そのため、上記のような単焦点レンズに対してであっても、上記の場合と同様の手法でインプリズムを備えさせることが可能である。実用上、主注視線を特定するための方法としては、上記「特定距離を見るための部分における度数測定点」を仮の遠用度数測定点とし、その点と近用度数測定点Nを結ぶ線分を主注視線として特定することになる。
【0095】
(捩り形状)
上記の例においては内面累進レンズの場合を挙げたため、内面の形状を捩る場合について例示した。その一方、水平方向に眼鏡レンズを断面視した際に主注視線が通過する部分における外面の接線と内面の接線との間の傾きに差が生じていればプリズム効果が奏することになる。そのため、外面の形状を眼鏡レンズの下方に向けて連続的に捩っても構わないし、両面を連続的に捩っても構わない。
【0096】
また、上記の例においては遠用度数測定点Fまたはプリズム度数測定点P近傍から下方へと面形状を連続的に捩り、連続的にインプリズムを増加させる例について挙げたが、面形状を連続的に捩っていくのではなく、例えば内面の形状全体を一律に傾けることによってインプリズムを生じさせても構わない。ただ、輻輳は下方に向けて徐々に鼻の側に曲がっていくこと、側方だと水平方向のプリズムは歪みとして認識されやすいことから、先に挙げた捩り方の方が好ましい。
【0097】
また、先に挙げた捩り方を、部分αの一部に適用しても構わない。結局のところ、意図せぬアウトプリズムの少なくとも一部を相殺できれば構わない。ただ、眼鏡レンズの形状のバランスを取るためにも、部分αの全体に対して先に挙げた捩り方を適用するのが好ましい。
【0098】
更に言うと、仮に、度数が変動する部分が眼鏡レンズの一部を占めるにすぎず、当該一部でのみ度数が連続的に変化している場合、当該一部の部分のみ、上記のような形状を適用すればよい。そもそも意図せぬアウトプリズムが生じて装用者に大きな影響を与えるのは眼鏡レンズとしてプラスの度数となる部分である。そのため、当該部分αでさえアウトプリズムの少なくとも一部を相殺できればそれで構わない。
【実施例】
【0099】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。もちろん本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0100】
本項目においては、眼鏡レンズとして、遠用部および近用部ならびにそれらの間に存在する累進部を内面に備えた内面累進レンズ(外面は球面)を採用した。そのため、以降に示す結果は、内面に係る結果である。
なお、先にも簡単に述べたように、まず、参照例として比較例1が存在する。比較例1は、意図せぬアウトプリズムについての対策を講じる前の眼鏡レンズに係る例である。
それに対し、実施例1〜3は、比較例1に対し、遠用度数測定点Fまたはプリズム度数測定点Pよりも下方の部分において、インプリズムが備わるように、水平方向に断面視した際の眼鏡レンズの内面形状を、眼鏡レンズの下方に向けて連続的に捩った眼鏡レンズに係る例である。
更に、実施例4〜6は、実施例1の眼鏡レンズの形状(カーブの形状そのもの)を、部分αの側方において水平方向に変形させた眼鏡レンズに係る例である。
以下、各例について説明する。
【0101】
<比較例1(参照例)>
本例においては、眼鏡レンズの外面を球面、内面を累進面とし、球面度数(S)を0.00D、乱視度数(C)を0.00D、加入度数(ADD)を2.00Dとした。その他のパラメータとしては、ベースカーブを4.00D、屈折率を1.60、プリズム処方はゼロ、中心肉厚は2.00mmとし、2つの隠しマークを結ぶ線分の中点を原点とした場合、遠用度数測定点Fの座標は(0.0,8.0)とし、近用度数測定点Nの座標は(−2.5,−14.0)とし、プリズム度数測定点の座標は(0.0,0.0)とし、フィッティングポイントは(0.0,4.0)とした。本例においては、遠用度数測定点Fと近用度数測定点Nの両点を結ぶ直線が主注視線に該当する部分であると仮定した。
その結果得られたオリジナル累進面の光学レイアウトに関する事前設計情報が
図8である。
図8の(a)は面非点収差の分布図、(b)は面平均度数の分布図、(c)は内面の形状を通して物体を見たときの視線に沿った光線のフレ量、すなわちプリズム作用の量を示す図であり、(d)は(c)の一部の拡大図である。ここで、
図8(c)は、眼鏡レンズ(今回は内面)を平面視した際の位置と、実際に視線が通過する位置との相関関係を示している。なお、
図8(c)においてグリッド間隔は2.5mmである(以降、同様である)。
【0102】
例えば、
図8(c)においては、原点から2.5mm鼻の側に移動させた垂直方向の直線(太線)を付与している。度数変化のない単焦点レンズの場合ならば、意図せぬアウトプリズムが発生しないため、眼鏡レンズ上の太線に該当する部分と当該太線に該当するグリッド線とが一致する(すなわち水平方向の視線のずれは無い)はずである。だからこそ、
図8(c)は比較例でありながらも、眼鏡レンズの上部では、グリッド線と太線が共に上下方向に延びる形で一致している。
【0103】
しかしながら、比較例1において、眼鏡レンズの下部においては、
図8(d)が示すように、グリッド線が太線よりも鼻の側へと徐々に変位している。これはつまり、眼鏡レンズの下部を装用者が見たときに、意図せぬアウトプリズムが生じていること、すなわち鼻の側へと過剰に輻輳させられることを示す。先に挙げた
図2に示すように、意図せぬアウトプリズムが生じることにより、物体を視認するためには、両眼とも眼球を過度に内寄せすることになる。
図8(c)および(d)は、その結果を表している。
なお、以降、当該グリッド線が意味するところは同様とする。
【0104】
ちなみに、本例および後述の実施例では乱視度数を0.00Dと設定している。その一方で、眼鏡レンズに乱視処方が反映されて乱視度数が備わった場合も考えられる。ただ、その場合であっても、乱視処方に対応する乱視度数をベクトル減算したり、累進多焦点レンズの場合だと遠用測定基準点における面非点収差をベクトル減算すればよい。それにより、
図8(b)に対応する面平均度数の分布図が得られる。
【0105】
<実施例1>
本例においては、比較例1の眼鏡レンズに対し、インプリズムが備わるように、眼鏡レンズの内面において、主注視線上の点の接線が、鼻の側の方だと水平方向の断面視下方、耳の側の方だと水平方向の断面視上方となるように設定した。なお、プリズム度数測定点Pから近用度数測定点Nに至るまで連続的に内面を捩ることにより、連続的にインプリズムを備えさせた。プリズム度数測定点Pにおけるインプリズムの量はゼロとし、近用度数測定点Nにおけるインプリズムの量は0.25Δ(実施例1−1)、および0.50Δ(実施例1−2)とした。なお、以降の実施例においても同様に、インプリズムの量が0.25Δの場合、および、0.50Δの場合の各々について試験を行った。
【0106】
このように内面を連続的に捩った結果を示すのが
図9(実施例1−2)である。
図9の横軸は、2つの隠しマークを通過する線分と主注視線とが交わる点(一例として、2つの隠しマークの中心)を原点とした場合の主注視線と内面との接点の鉛直方向の位置を表し、正の方向は眼鏡レンズの上方、負の方向は眼鏡レンズの下方を表し、縦軸は内面を連続的に捩った結果として付加されるインプリズム量(符号はマイナス)を表す。
【0107】
図9に示すように、プリズム度数測定点Pに対応する点(2つの隠しマークを通る水平基準線に平行な直線であって、プリズム度数測定点Pを通る直線が主注視線と交わる点)から眼鏡レンズの下方に向けて内面の形状を連続的に捩ることにより、連続的にインプリズムの絶対値が増加するように眼鏡レンズを設計した。
【0108】
そして、本例において得られた設計情報が
図15(実施例1−2)である。
図15の(a)は面非点収差の分布図、(b)は面平均度数の分布図、(c)は内面の形状を通して物体を見たときの視線に沿った光線のフレ量、すなわちプリズム作用の量を示す図であり、(d)は(c)の一部の拡大図である。
【0109】
例えば、
図15(c)においては、原点から2.5mm鼻の側に移動させた垂直方向の直線(太線)を付与している。本例においては、眼鏡レンズの下部であっても、意図せぬアウトプリズムが発生したとしても眼鏡レンズの内面に対してインプリズムを備えた形状としていることにより、眼鏡レンズ上の太線に該当する部分と当該太線に該当するグリッド線とが一致する(すなわち水平方向の視線のずれは無い)。だからこそ、
図15(c)および
図15(d)は、眼鏡レンズの上部では、グリッド線と太線が共に上下方向に延びる形で一致している。つまり、本例においては、余分な輻輳を抑制することができている。
【0110】
なお、先にも述べたように、垂直方向の面屈折力の分布図である
図22(b)および垂直方向の面屈折力をプロットした
図28に示すように、2つの隠しマークを通る水平基準線に平行な直線であって、遠用度数測定点Fと近用度数測定点Nを結ぶ線分の中点から垂直上方3mmの点を通る直線上において、主注視線が通過する位置を基準に±15mmにおける面屈折力の差分の絶対値は、実施例1−1だと0.38D、実施例1−2だと0.76Dであり、いずれも規定した0.25D以上となっていた。本例において、主注視線は、遠用度数測定点Fと近用度数測定点Nを結ぶ線分として特定しているが、上記の主注視線が通過する位置は
図28のX座標で言うところの−0.9mmとなっている。
ちなみに、本例および以降の例においては、当該「主注視線が通過する位置」の値は、眼鏡レンズの上方頂点から下方頂点を結ぶ上下直線(鉛直線)からの水平距離(先に述べたいわゆる内寄せ量h)に該当する。先に述べた例においては、眼鏡レンズの水平断面形状における頂点からの水平距離を例示したが、それ以外の場合であっても本発明は適用可能である。
【0111】
<実施例2>
本例においては、設計条件は実施例1と同じであるが、インプリズムを連続的に付加する形態のみ、
図10に示すように変えている。具体的には遠用度数測定点とプリズム測定点の中間位置を始点として、インプリズムを連続的に付加している。
【0112】
本例において得られた設計情報が
図16である。
図16(c)および
図16(d)は、眼鏡レンズの上部では、グリッド線と太線が共に上下方向に延びる形で一致している。つまり、本例においても、余分な輻輳を抑制することができている。
【0113】
なお、垂直方向の面屈折力の分布図である
図23(b)および垂直方向の面屈折力をプロットした
図29に示すように、2つの隠しマークを通る水平基準線に平行な直線であって、遠用度数測定点と近用度数測定点を結ぶ線分の中点を通る直線上において、主注視線が通過する位置を基準に±15mmにおける面屈折力の差分の絶対値は、実施例2−1だと0.41D、実施例2−2だと0.78Dであり、いずれも規定した0.25D以上となっていた。本例において、上記の主注視線が通過する位置は
図29のX座標で言うところの−1.25mmとなっている。
【0114】
<実施例3>
本例においては、設計条件は実施例1と同じであるが、インプリズムを連続的に付加する形態のみ、
図11に示すように変えている。具体的にはフィッティングポイントFT(装用者が眼鏡レンズを装用して正面視した際に(更に言うと無限遠を見た際に)眼鏡レンズを通過する部分)を始点として、インプリズムを連続的に付加している。
なお、フィッティングポイントFTの代わりに遠用度数測定点Fやプリズム度数測定点Pを採用しても構わない。
【0115】
本例において得られた設計情報が
図17である。
図17(c)および
図17(d)は、眼鏡レンズの上部では、グリッド線と太線が共に上下方向に延びる形で一致している。つまり、本例においても、余分な輻輳を抑制することができている。
【0116】
なお、垂直方向の面屈折力の分布図である
図24(b)および垂直方向の面屈折力をプロットした
図30に示すように、2つの隠しマークを通る水平基準線に平行な直線であって、遠用度数測定点と近用度数測定点を結ぶ線分の中点から垂直下方3mmの点を通る直線上において、主注視線が通過する位置を基準に±15mmにおける面屈折力の差分の絶対値は、実施例3−1だと0.45D、実施例3−2だと0.88Dであり、いずれも規定した0.25D以上となっていた。本例において、上記の主注視線が通過する位置は
図30のX座標で言うところの−1.59mmとなっている。
【0117】
以上、実施例1〜3の結果から、以下の規定を行うことも可能であることがわかった。
・部分αを水平方向に断面視した際の眼鏡レンズの物体側の面および眼球側の面の少なくともいずれかの形状を、眼鏡レンズの下方に向けて連続的に(徐々に)捩った形状を当該部分αに備えさせる。
その上で、
・眼鏡レンズに備わる2つの隠しマークを通過する水平基準線に平行な直線であって、遠用度数測定点Fと近用度数測定点Nを結ぶ線分の間におけるいずれかの点を通る直線上において、主注視線が通過する点から±15mmの位置における垂直方向の面屈折力の差の絶対値が0.25D以上である。
それに加える形で、
・遠用度数測定点Fと近用度数測定点Nを結ぶ線分の間におけるいずれかの点は、遠用度数測定点Fと近用度数測定点Nの中点を基準に鉛直方向に±3mmの間に位置する。
【0118】
<実施例4>
本例においては、実施例1の眼鏡レンズの形状(カーブの形状そのもの)を、部分αの側方において変形させた。具体的な変形の手法としては、まず、実施例1と同様に、プリズム度数測定点Pから近用度数測定点Nに至るまで連続的に内面を捩ることにより、連続的にインプリズムを備えさせた。プリズム度数測定点Pにおけるインプリズムの量はゼロとし、近用度数測定点Nにおけるインプリズムの量は0.25Δ(実施例4−1)、および0.50Δ(実施例4−2)とした。その上で、参照例としての比較例1における
図8(a)の面非点収差の分布図に近づくように、部分αの側方において内面の形状を徐々に変形させて、適宜設計を行った。
【0119】
そして、実施例4−2においては、
図18(a)となった状態で変形を終了した。その結果得られた眼鏡レンズの面平均度数の分布図が
図18(b)であり、(c)は内面の形状を通して物体を見たときの視線の変動を示す図であり、(d)は(c)の一部の拡大図である。
【0120】
例えば、
図18(c)においては、原点から2.5mm鼻の側に移動させた垂直方向の直線(太線)を付与している。本例においては、眼鏡レンズの下部であっても、意図せぬアウトプリズムが発生したとしても眼鏡レンズの内面に対してインプリズムを備えた形状としていることにより、眼鏡レンズ上の太線に該当する部分と当該太線に該当するグリッド線とが一致する(すなわち水平方向の視線のずれは無い)。だからこそ、
図18(c)および(d)は、眼鏡レンズの上部では、グリッド線と太線が共に上下方向に延びる形で一致している。つまり、本例においては、余分な輻輳を抑制することができている。
【0121】
しかも、本例の面非点収差の分布図(
図18(a))においては、意図せぬアウトプリズムを考慮する前の累進面の面非点収差の分布図(比較例1、
図8(a))と極めて同じ状態の面非点収差が得られる。
【0122】
なお、先にも述べたように、水平方向の面屈折力の分布図である
図25(a)および水平方向の面屈折力をプロットした
図31に示すように、2つの隠しマークを通る水平基準線に平行な直線であって、遠用度数測定点と近用度数測定点を結ぶ線分の中点から垂直下方3mmの点を通る直線上において、主注視線が通過する位置を基準に±5mmにおける面屈折力の差分の絶対値は、実施例4−1だと0.22D、実施例4−2だと0.50Dであり、いずれも規定した0.12D以上となっていた。本例において、主注視線は、遠用度数測定点と近用度数測定点を結ぶ線分として特定しているが、上記の主注視線が通過する位置は
図31のX座標で言うところの−0.9mmとなっている。
【0123】
<実施例5>
本例においては、設計条件は実施例4と同じであるが、インプリズムを連続的に付加する形態のみ、
図13に示すように変えている。具体的には遠用度数測定点とプリズム測定点の中間位置を始点として、インプリズムを連続的に付加している。なお、
図13においては、遠用度数測定点Fよりも上方(遠用部)においてはプリズム付加量が正(すなわちアウトプリズムが備わる形)となっているけれども、遠用度数測定点Fよりも下方(累進部および近用部)においてはプリズム付加量が負(すなわちインプリズムが備わる形)となっている。そのため、
図13のようなプリズム付加を有する例であっても、度数が連続的に変化する部分において生じる意図せぬアウトプリズムをインプリズムにより相殺していることに変わりはない。
【0124】
本例において得られた設計情報が
図19である。
図19(c)および
図19(d)は、眼鏡レンズの上部では、グリッド線と太線が共に上下方向に延びる形で一致している。つまり、本例においても、余分な輻輳を抑制することができている。
【0125】
なお、水平方向の面屈折力の分布図である
図26(a)および水平方向の面屈折力をプロットした
図32に示すように、2つの隠しマークを通る水平基準線に平行な直線であって、遠用度数測定点と近用度数測定点を結ぶ線分の中点を通る直線上において、主注視線が通過する位置を基準に±5mmにおける面屈折力の差分の絶対値は、実施例5−1だと0.20D、実施例5−2だと0.46Dであり、いずれも規定した0.12D以上となっていた。本例において、上記の主注視線が通過する位置は
図32のX座標で言うところの−1.25mmとなっている。
【0126】
<実施例6>
本例においては、設計条件は実施例4と同じであるが、インプリズムを連続的に付加する形態のみ、
図14に示すように変えている。具体的には遠用度数測定点を始点として、インプリズムを連続的に付加している。なお、
図14においては、遠用度数測定点Fよりも上方(遠用部)においてはプリズム付加量が正(すなわちアウトプリズムが備わる形)となっているけれども、遠用度数測定点Fよりも下方(累進部および近用部)においてはプリズム付加量が負(すなわちインプリズムが備わる形)となっている。そのため、
図14のようなプリズム付加を有する例であっても、度数が連続的に変化する部分において生じる意図せぬアウトプリズムをインプリズムにより相殺していることに変わりはない。
【0127】
本例において得られた設計情報が
図20である。
図20(c)および
図20(d)は、眼鏡レンズの上部では、グリッド線と太線が共に上下方向に延びる形で一致している。つまり、本例においても、余分な輻輳を抑制することができている。
【0128】
なお、水平方向の面屈折力の分布図である
図27(a)および水平方向の面屈折力をプロットした
図33に示すように、2つの隠しマークを通る水平基準線に平行な直線であって、遠用度数測定点と近用度数測定点を結ぶ線分の中点から垂直上方3mmの点を通る直線上において、主注視線が通過する位置を基準に±5mmにおける面屈折力の差分の絶対値は、実施例6−1だと0.24D、実施例6−2だと0.47Dであり、いずれも規定した0.12D以上となっていた。本例において、上記の主注視線が通過する位置は
図33のX座標で言うところの−0.90mmとなっている。
【0129】
以上、実施例4〜6の結果から、以下の規定を行うことも可能であることがわかった。
・部分αを水平方向に断面視した際の眼鏡レンズの物体側の面および眼球側の面の少なくともいずれかの形状を、眼鏡レンズの下方に向けて連続的に(徐々に)捩った形状を当該部分αに備えさせる。
その上で、
・眼鏡レンズに備わる2つの隠しマークを通過する水平基準線に平行な直線であって、遠用度数測定点Fと近用度数測定点Nを結ぶ線分の間におけるいずれかの点を通る直線上において、主注視線が通過する点から±15mmの位置における水平方向の面屈折力の差の絶対値が0.12D以上である。
それに加える形で、
・遠用度数測定点Fと近用度数測定点Nを結ぶ線分の間におけるいずれかの点は、遠用度数測定点と近用度数測定点の中点を基準に鉛直方向に±3mmの間に位置する。
【0130】
以上の結果、本実施例によれば、既に上述した諸々の効果に加え、余分な輻輳を抑制する眼鏡レンズに関する技術を提供することができる。