【実施例】
【0038】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0039】
<サンプルの作成>
試験者は、形状、放電層22及び緩和層21の組成、平均結晶粒径および厚さの異なる種々のチップ20を、放電層22と緩和層21との固相拡散接合により作成した。NFC600製の電極母材19に放電層22を抵抗溶接により接合し、接地電極18に種々のチップ20が設けられたスパークプラグ10のサンプルを作成した。作成したサンプルを一覧にして表1に示した。各サンプルについて複数の評価を行うので、各サンプルは複数準備した。
【0040】
【表1】
なお、サンプル1〜56は、クラッド材料で放電層22及び緩和層21が作られたチップ20が接地電極18に設けられている。サンプル57〜62は、放電層22と緩和層21とに分かれていないチップが接地電極18に設けられている。表1におけるチップの「放電層」「緩和層」の欄の数値は元素の質量%を示している。
【0041】
試験者は、耐火花消耗性を評価するための2種類の試験(試験1及び試験2)、及び、バーナで接地電極18を加熱して放冷する2種類の冷熱繰り返し試験(冷熱試験1及び冷熱試験2)を、各サンプルに別々に実施した。
【0042】
試験者は、これらの試験とは別に、電極母材19に溶接された後の試験前のチップ20を樹脂に埋め込んだ後に研磨して、顕微鏡観察によって、軸線Oを含む断面上に現出する結晶粒内を横切る試験線(軸線Oと平行、直交、45°に交わるそれぞれ1本以上の直線)の1結晶粒当たりの平均線分長(平均結晶粒径)を求めた。放電層22の平均結晶粒径を緩和層21の平均結晶粒径で除した値を、表1の「結晶粒径」「前」の欄に記した。それと同時に、軸線Oを含む断面上に現出する放電層22の厚さを緩和層21の厚さで除した値を求めた。その値を表1の「厚さ」の欄に記した。
【0043】
これとは別に、試験者は、チップ20が溶接された試験前の電極母材19を切断した。切断した電極母材19及びチップ20を1200℃で33時間加熱し、その後、樹脂に埋め込んだ電極母材19及びチップ20を研磨して、軸線Oを含む断面上に現出する結晶粒内を横切る試験線(軸線Oと平行、直交、45°に交わるそれぞれ1本以上の直線)の1結晶粒当たりの平均線分長(平均結晶粒径)を求めた。放電層22の平均結晶粒径を緩和層21の平均結晶粒径で除した値を、表1の「結晶粒径」「後」の欄に記した。
【0044】
<耐火花消耗性 試験1の試験方法および評価方法>
試験者は、排気タービン式過給装置の付いた排気量2.0リットルの4気筒直噴エンジンにスパークプラグ10の各サンプルを取り付け、エンジンを運転した。各サンプルの火花ギャップ(放電層22と中心電極13との間隔)は0.75mmとした。エンジンの運転条件は、回転数を4000rpm、空燃比を12.0、負荷を図示平均有効圧力(NMEP)190kPa、エンジンの運転時間は連続200時間とした。
【0045】
試験者は、試験後の各サンプルの火花ギャップをピンゲージで測定し、試験による火花ギャップの増加量(消耗量)を求めた。評価は、増加量が0.15mm未満は「A」、増加量が0.15mm以上0.20mm未満は「B」、増加量が0.20mm以上は「C」とした。
【0046】
<耐火花消耗性 試験2の試験方法および評価方法>
各サンプルの火花ギャップを1.05mmとした以外は、試験1と同様にして、スパークプラグ10の各サンプルを取り付けたエンジンを運転した。
【0047】
試験者は、試験後の各サンプルの火花ギャップをピンゲージで測定し、試験による火花ギャップの増加量(消耗量)を求めた。評価は、増加量が0.15mm未満は「S」、増加量が0.15mm以上0.20mm未満は「A」、増加量が0.20mm以上0.30mm未満は「B」、増加量が0.30mm以上は「C」とした。
【0048】
<冷熱試験1の試験方法>
試験者は、電極母材19の先端(主体金具17から最も離れた部分)の温度が600℃になるように2分間バーナで加熱した後、1分間かけて放冷することを1サイクルとして、1000サイクルを電極母材19に加えた。
【0049】
<冷熱試験2の試験方法>
試験者は、電極母材19の先端の温度が1000℃になるように2分間バーナで加熱した後、1分間かけて放冷することを1サイクルとして、1000サイクルを電極母材19に加えた。
【0050】
<界面剥離の評価方法>
試験者は、試験後の接地電極18を樹脂に埋め込み、研磨して、チップ20の中心を含む断面を露出させた。顕微鏡観察によって、チップ20の長さ(チップ20と電極母材19との界面に沿った寸法)をA、界面剥離が生じておらず緩和層21と電極母材19とが接合されている部分の長さをa、界面剥離が生じておらず放電層22と緩和層21とが接合されている部分の長さをbとし、界面剥離の割合、即ちX=(A−a)/A(%)、Y=(A−b)/A(%)を求めた。評価は、X,Yの大きい方の値が10%未満は「S」、10%以上40%未満は「A」、40%以上50%未満は「B」、50%以上は「C」とした。
【0051】
<粒界割れの評価方法>
試験者は、上記の界面剥離を評価した断面(試験後の接地電極18を樹脂に埋め込み、研磨して露出させたチップ20の中心を含む断面)において、放電層22、緩和層21の各々の断面積に対する、粒界割れにより欠損している部分の面積の割合(%)をそれぞれ求めた。評価は、1%未満は「A」、1%以上10%未満は「B」、10%以上は「C」とした。
【0052】
<変形の評価方法>
冷熱試験後にマイクロメータで測定した電極母材19からのチップ20の突き出し量から、冷熱試験前にマイクロメータで測定した電極母材19からのチップ20の突き出し量を減じた値をチップ20の変形量(μm)とした。
【0053】
<総合評価の方法>
各評価の「S」に3点、「A」に2点、「B」に1点、Cに0点を付与して各評価を数値化し、合計点を算出した。総合評価は、その合計点が18点以上は「S」、15点〜17点は「A」、11点〜14点は「B」、0点〜10点は「C」とした。但し、各評価のなかに一つでも「C」が存在する場合は、合計点に関わらず、総合評価は「C」とした。
【0054】
<結果>
表1の「チップ」「組成」の欄に示すように、サンプル1〜52は、放電層がPtRh合金からなり、緩和層がPtNi合金からなるサンプルであった。サンプル53,54は、緩和層はPtNi合金からなるが、放電層がPtRh合金以外の金属からなるサンプルであった。サンプル55,56は、放電層はPtRh合金からなるが、緩和層がPtNi合金以外の金属からなるサンプルであった。サンプル57〜62は、クラッド材料ではないチップを用いたサンプルであった。
【0055】
冷熱試験1の界面剥離の評価において、サンプル53〜56,57,59,60,62は評価がCであったのに対し、サンプル1〜14,17〜52,58,61は評価がS〜Bであった。このサンプル1〜14,17〜52,58,61のうち、サンプル58,61以外のサンプル1〜14,17〜52は、耐火花消耗性 試験1の評価がA又はBであった。
【0056】
サンプル1〜52のうち、表1の「結晶粒径」「前」の欄に示すように、サンプル15,16は、電極母材19に溶接された後の放電層22の平均結晶粒径と緩和層21の平均結晶粒径とが同じであった。サンプル1〜14,17〜52は、電極母材19に溶接された後の放電層22の平均結晶粒径と緩和層21の平均結晶粒径とが異なるサンプルであった。サンプル1〜14,17〜52のように、放電層がPtRh合金からなり、緩和層がPtNi合金からなるサンプルでは、電極母材19に溶接された後の放電層22の平均結晶粒径と緩和層21の平均結晶粒径とを互いに異ならせることにより、最高到達温度が600℃の冷熱試験1において、界面剥離を抑制できることが確認された。
【0057】
サンプル1〜14,17〜52のうち、サンプル1〜14は、電極母材19に溶接された後の放電層22の平均結晶粒径が、緩和層21の平均結晶粒径より小さいサンプルであった。サンプル17〜52は、電極母材19に溶接された後の放電層22の平均結晶粒径が、緩和層21の平均結晶粒径より大きいサンプルであった。サンプル1〜14は、冷熱試験1において、緩和層21の粒界割れの面積が、放電層22の粒界割れの面積より大きいことがわかった。一方、サンプル17〜52は、冷熱試験1において、放電層22の粒界割れの面積が、緩和層21の粒界割れの面積より大きいことがわかった。
【0058】
これらの結果から、放電層22及び緩和層21のうち平均結晶粒径の大きい層に生じた粒界割れにより、冷熱試験1の熱衝撃で生じた熱応力を緩和して界面剥離を抑制できたと推察される。
【0059】
冷熱試験1の界面剥離の評価において、サンプル8,9,17〜20,34,35を比べると、緩和層21のNiの含有率が3質量%以下のサンプル17〜20,34,35は評価がBであった。しかし、緩和層21がNiを3質量%よりも多く(5質量%)含有するサンプル8,9は評価がSであった。この結果から、Niを3質量%よりも多く含む緩和層21は、緩和層21の線膨張率が、放電層22の線膨張率と電極母材19の線膨張率との中間に近づいたことで、界面剥離を抑制できたと推察される。
【0060】
冷熱試験1の界面剥離の評価において、サンプル31〜33を比べると、電極母材19に溶接された後の放電層22の厚さを緩和層21の厚さで除した値が3以上のサンプル32,33は評価がBであった。しかし、放電層22の厚さを緩和層21の厚さで除した値が3未満のサンプル29〜31は評価がSであった。この結果から、放電層22の厚さを薄くすることにより、熱応力により放電層22を変形させ易くすることができ、熱応力の緩和効果を向上できたと推察される。
【0061】
なお、耐火花消耗性 試験2の評価において、サンプル6,7,13,14を比べると、放電層22がPt及びRhを80質量%含有するサンプル14は評価がCであった。しかし、放電層22がPt及びRhを85質量%以上含有するサンプル6,7,13は評価がA又はBであった。同様に、耐火花消耗性 試験1の評価において、サンプル6,7,13,14を比べると、放電層22がPt及びRhを80質量%含有するサンプル14は評価がBであった。しかし、放電層22がPt及びRhを85質量%以上含有するサンプル6,7,13は評価がAであった。この結果から、放電層22がPt及びRhを85質量%以上含有することにより、耐火花消耗性を向上できることがわかった。
【0062】
冷熱試験2の界面剥離および粒界割れの評価において、サンプル8〜12とサンプル13,14とを比較し、サンプル17〜24とサンプル25〜33とを比較し、サンプル34〜36とサンプル37〜44とを比較した。サンプル8〜12,17〜24,34〜36は、電極母材19及びチップ20を1200℃で33時間加熱した後の緩和層21の平均結晶粒径が放電層22の平均結晶粒径よりも大きいサンプルであった。サンプル13,14,25〜33,37〜44は、電極母材19及びチップ20を1200℃で33時間加熱した後の放電層22の平均結晶粒径が緩和層21の平均結晶粒径よりも大きいサンプルであった。
【0063】
それらを比較した結果、サンプル8〜12,17〜24,34〜36は、サンプル13,14,25〜33,37〜44に比べて、粒界割れにより緩和層21の欠損した部分がそれぞれ大きいことが確認された。サンプル8〜12,17〜24,34〜36のように、1200℃で33時間加熱した後の緩和層21の平均結晶粒径が、放電層22の平均結晶粒径よりも大きくなるように緩和層21及び放電層22の組成を調製することにより、最高到達温度が1000℃の冷熱試験2において、緩和層21に粒界割れを生じさせ易くできることがわかった。その結果、熱応力を緩和してチップ20の界面剥離を抑制できる。
【0064】
また、サンプル13,14,25〜33,37〜44は、サンプル8〜12,17〜24,34〜36に比べて、粒界割れにより緩和層21の欠損した部分がそれぞれ小さいことが確認された。サンプル13,14,25〜33,37〜44のように、1200℃で33時間加熱した後の放電層22の平均結晶粒径が、緩和層21の平均結晶粒径よりも大きくなるように緩和層21及び放電層22の組成を調製することにより、最高到達温度が1000℃の冷熱試験2において、緩和層21の粒界割れを抑制しつつ放電層22に微小な粒界割れを生じさせ易くできることがわかった。その結果、熱応力を緩和してチップ20の界面剥離を抑制できる。
【0065】
冷熱試験2の変形量において、サンプル17〜24,34〜36を比べると、放電層22が第3成分を含有するサンプル23,24,36は、その他のサンプル17〜22,34,35に比べて、変形量を小さくできることが確認された。
【0066】
なお、本実施例では、円盤または角柱の形状をしたチップ20を接地電極18に設けたサンプル1〜62について各種の評価を行った。サンプル1〜62によれば、評価結果は、チップ20の形状に何ら影響されないことが確認された。
【0067】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0068】
上記実施の形態では、チップ20の形状が円盤または角柱の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の形状を採用することは当然可能である。他のチップ20の形状としては、例えば円錐台状、楕円柱状などが挙げられる。
【0069】
上記実施の形態では、チップ20を電極母材19に抵抗溶接で接合する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の手段によってチップ20を電極母材19に接合することは当然可能である。他の手段としては、例えばレーザ溶接が挙げられる。
【0070】
上記実施の形態では、接地電極18にチップ20(緩和層21及び放電層22)を設ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。中心電極13に設けられたチップ15に代えて、中心電極13の電極母材14にチップ20を接合することは当然可能である。この場合にも、上記実施の形態で説明したのと同様の作用効果を実現できる。
【0071】
上記実施の形態では、主体金具17に接合された電極母材19を屈曲させる場合について説明した。しかし、必ずしもこれに限られるものではない。屈曲した電極母材19を用いる代わりに、直線状の電極母材を用いることは当然可能である。この場合には、主体金具17の先端側を軸線O方向に延ばし、直線状の電極母材を主体金具17に接合して、電極母材を中心電極13と対向させる。
【0072】
上記実施の形態では、中心電極13の軸線Oとチップ20とを一致させ、チップ20が中心電極13と軸線O方向に対向するように接地電極18を配置する場合について説明した。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、接地電極18と中心電極13との位置関係は適宜設定できる。接地電極18と中心電極13との他の位置関係としては、例えば、中心電極13の側面と接地電極18とが対向するように接地電極18を配置すること等が挙げられる。