(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、射出成形機から取得されるデータは、成形サイクル毎に所定のサンプリング周期で取得されたサンプリングデータ(離散的な時系列データ)と、成形サイクル毎に1回取得されるデータとの、2種類のデータとして記録される。
【0006】
例えば、
図9A〜9Cは、射出成形機の射出工程における可塑化スクリュ駆動用モータのトルクを記録した例であり、
図9Aはある動作設定(条件Aとする)でのモータの時間−トルク曲線、
図9Bは同じ部品で動作設定を変更(条件Bとする)した際のモータの時間−トルク曲線、
図9Cは条件Aで部品が損耗した際のモータの時間−トルク曲線の例を示している。これら
図9A〜9Cに示されるデータは、成形サイクル毎に所定のサンプリング周期で取得されたサンプリングデータとして記録される。
また、動作設定の各設定値や樹脂の性質を示す値などは成形サイクル毎に1回取得されるデータとして記録される。
【0007】
ここで、
図9A及び
図9Bに示されるように、成形サイクル毎に所定のサンプリング周期で取得されたサンプリングデータは、成形サイクルにおける射出工程の動作条件が異なる場合(
図9Aと
図9B)には曲線の形は類似していることが多いが、一方で、射出工程の時間が動作設定により異なるため、同じサンプリング周期で取得すると得られる時間方向のデータ点数が異なってくる。そのため、サンプリングデータの内で取得開始時点からi番目の値が何を示すのかは動作条件が異なる成形サイクル毎に異なることとなり、射出成形機の状態を判定するためにそれぞれの成形サイクルにおいて取得されたサンプリングデータを見る場合に、サンプリングデータをそのまま用いると射出成形機の状態を正しく判定できなくなるという射出成形機特有の問題が生じる。このような問題は、例えば各成形サイクル間のサンプリングデータの比較において顕著となる。例えば、部品の損耗が起きると、
図9A及び
図9Cに示されるように、同じ動作条件でも曲線の形が変わってくるが、
図9Aと
図9C(動作条件が条件A)で比較すると曲線の形の変化は容易に判定できるものの、
図9Bと
図9C(動作条件が条件Bと条件Aとで異なる)を比較しても曲線の形の変化は容易に判定できない。
【0008】
また、射出成形機による生産は多品種であることが多く、一つの機械でも、生産対象によって条件が大きく異なる事が顕著であり、これらサンプリングデータを全て同様に扱うことが難しいという射出成形機特有の問題もある。
【0009】
そこで本発明の目的は、射出成形機の動作条件や生産対象によらずに取得されたデータに基づいて射出成形機の状態を判定することが可能な状態判定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の状態判定装置は、射出成形機から取得された該射出成形機の成形動作に係る情報に対して前処理を行う前処理部を設け、該前処理部により、射出成形機の動作状態を示す情報の内で、動作条件によってデータ点数やスケールなどに変化があるデータに対して調整を行い、調整後のデータを機械学習やデータ分析のための入力とすることで上記課題を解決する。
【0011】
そして、本発明の一態様は、射出成形機の動作状態に基づいて、該射出成形機の異常に係る状態を判定する状態判定装置において、前記射出成形機の動作状態に係るデータに含まれる時系列データの内の少なくとも1つのデータに対して前処理を実行する前処理部と、
前記射出成形機の動作状態に係り、成形動作中に変化しない固定的な内部パラメータが設定された内部パラメータ設定部と、前記射出成形機の動作状態に対する前記射出成形機の異常に係る状態を学習する機械学習装置を備え
、前記射出成形機の動作状態を示す前記前処理部により前処理されたデータを含む射出データ、及び前記内部パラメータを、環境の現在状態を表す状態変数として観測する状態観測部と、前記射出成形機の異常に係る状態を示すラベルデータを取得するラベルデータ取得部と、前記状態変数と、前記ラベルデータとを関連付けて学習する学習部と、を備え
、前記状態判定装置は、前記状態変数と、前記学習部による学習結果に基づいて判定された前記射出成形機の異常に係る状態を出力する判定出力部を更に備える状態判定装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、射出成形機の動作条件や生産対象によらずに取得されたデータに基づいて射出成形機の状態を判定することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実現するための状態判定装置の構成例を示す。ただし、本発明の状態判定装置の構成は下記の例に限定されるものではく、本発明の目的を実現可能なものであれば、どのような構成を採用しても良い。
【0015】
図1は第1の実施形態による状態判定装置の概略的な構成を示す機能ブロック図である。状態判定装置10は、例えば、射出成形機を制御する制御装置や射出成形機とデータ通信できるように有線/無線の通信回線で接続されたPCなどとして実装することができる。状態判定装置10は、射出成形機から取得されるデータに対して前処理を施す前処理部12と、固定的な内部パラメータ値が設定された内部パラメータ設定部14、射出成形機の異常に係る状態について、いわゆる機械学習により自ら学習するためのソフトウェア(学習アルゴリズム等)及びハードウェア(コンピュータのCPU等)を含む機械学習装置20を備える。状態判定装置10が備える機械学習装置20が学習する射出成形機の異常に係る状態は、射出成形機の動作状態(射出成形機から取得される射出データ)と、当該動作状態における射出成形機の異常に係る状態(異常の有無、異常がる箇所など)との、相関性を表すモデル構造に相当する。
【0016】
図1に機能ブロックで示すように、状態判定装置10が備える機械学習装置20は、射出成形機(図示せず)から取得される射出成形機の動作状態を示す射出データS1及び内部パラメータS2を含む環境の現在状態を表す状態変数Sとして観測する状態観測部22と、射出成形機の異常に係る状態を示すラベルデータLを取得するラベルデータ取得部24と、状態変数SとラベルデータLとを用いて、射出データS1及び内部パラメータS2にラベルデータLを関連付けて学習する学習部26とを備える。
【0017】
前処理部12は、例えばコンピュータのCPUの一機能として構成できる。或いは状態観測部22は、例えばコンピュータのCPUを機能させるためのソフトウェアとして構成できる。前処理部12は、射出成形機又は射出成形機に取り付けられたセンサから得られるデータや、該データを利用乃至変換して得られるデータ、射出成形機に対して入力されたデータなどの少なくとも1つのデータに対して前処理を行い、前処理後のデータを状態観測部22、ラベルデータ取得部24へと出力する。前処理を行う対象となるデータ以外のデータについては、前処理部12は、前処理を行わずにそのまま機械学習装置20へと引き渡す。前処理部12が行う前処理は、例えばサンプリングデータのデータ点数の調整が挙げられる。ここで言うところのサンプリングデータのデータ点数の調整とは、移動平均、データの間引き、あるいは部分抽出によるデータ点数の削減、または、中間点内挿、あるいは固定値追加によるデータ数の増加を組み合わせた処理である。前処理部12が行う前処理には、一般的な標準化などのスケーリングに対する処理を組み合わせても良い。
【0018】
射出成形機から取得されるデータには、成形動作毎に所定のサンプリング周期で取得されたサンプリングデータと、成形動作毎に1回取得されるデータとの2種類のデータがあり、また、動作設定により同じ成形動作の工程(例えば型締め動作)であっても開始から終了までの所要時間が異なるため、サンプリングデータは同じサンプリング周期で取得したとしても同一動作間で得られるデータ点数が異なる。前処理部12は、射出成形機の機械学習においてサンプリングデータのデータ点数を調整して状態観測部22、ラベルデータ取得部24へと受け渡すことで、動作設定の多様性に対して機械学習装置20による機械学習の精度を維持・向上させる役割を持つ。
【0019】
内部パラメータ設定部14は、例えばコンピュータのCPUの一機能として構成できる。或いは内部パラメータ設定部14は、例えばコンピュータのCPUを機能させるためのソフトウェアとして構成できる。内部パラメータ設定部14は、機械学習装置20に入力される値の内で固定的に入力される値の系列を、内部パラメータとしてデータテーブルやファイルなどの形式で記憶し、該内部パラメータを機械学習装置20による学習時などに出力する。ここで言うところの内部パラメータ(機械学習装置20に入力される値の内で固定的に入力される値の系列)とは、例えば異なる樹脂による動作でそれぞれ求められたパラメータ系列や、異なる金型による動作でそれぞれ求められたパラメータ系列、異なる機械仕様の動作でそれぞれ求められたパラメータ系列などのように、射出成形機の設定や動作の環境などにより定まる値の内で、成形動作中に変化しない値の系列である。内部パラメータは、あらかじめ、又は任意のタイミングで機械学習を用いて求められた値であってもよい。
【0020】
状態観測部22は、例えばコンピュータのCPUの一機能として構成できる。或いは状態観測部22は、例えばコンピュータのCPUを機能させるためのソフトウェアとして構成できる。状態観測部22が観測する状態変数Sの内、射出データS1は、例えば射出成形機又は射出成形機に付設されるセンサから得られるデータや、該データを利用乃至変換して得られるデータに対して前処理部12によりデータ点数などの調整が行われた前処理後のデータを含む射出成形機の動作状態を示すデータを用いることができる。射出データS1は、例えば、成形動作における射出工程時の塑化スクリュ駆動用モータのトルク(電流、電圧)、スクリュの動作速度・位置、動作音、金型に付設されるセンサにより検知された圧力などを用いることができる。
また、状態観測部22が観測する状態変数Sの内、内部パラメータS2は、内部パラメータ設定部14から入力されたデータを用いる。
【0021】
ラベルデータ取得部24は、例えばコンピュータのCPUの一機能として構成できる。或いはラベルデータ取得部24は、例えばコンピュータのCPUを機能させるためのソフトウェアとして構成できる。ラベルデータ取得部24が取得するラベルデータLは、例えば熟練した作業者により射出成形機についての判定が行われ、作業者が該射出成形機に異常があると判定した場合に申告して状態判定装置10に与えられる射出成形機の異常に関する申告データに対して前処理部12が前処理をした後のデータを用いることができる。ラベルデータLは、基準状態からの変化が判定できるものであれば良く、例えばスクリュやタイミングベルト、ベアリングなどの部品の損耗量、金型の損耗量、予測寿命などを用いることができる。ラベルデータLは、状態変数Sの下での射出成形機の異常に係る状態を示す。
【0022】
このように、状態判定装置10が備える機械学習装置20が学習を進める間、環境においては、射出成形機による成形動作の実施、センサなどによる射出成形機の動作状態の測定、熟練者による射出成形機の異常に係る状態の判定が実施される。
【0023】
学習部26は、例えばコンピュータのCPUの一機能として構成できる。或いは学習部26は、例えばコンピュータのCPUを機能させるためのソフトウェアとして構成できる。学習部26は、機械学習と総称される任意の学習アルゴリズムに従い、射出成形機の動作状態に対する射出成形機の異常に係る状態を学習する。学習部26は、射出成形機の複数の成形動作に対して、前述した状態変数SとラベルデータLとを含むデータ集合に基づく学習を反復実行することができる。
【0024】
このような学習サイクルを繰り返すことにより、学習部26は、射出成形機の射出動作にかかるデータ(射出データS1)及び内部パラメータS2と該射出成形機の異常に係る状態との相関性を暗示する特徴を自動的に識別することができる。学習アルゴリズムの開始時には射出データS1及び内部パラメータS2と射出成形機の異常に係る状態との相関性は実質的に未知であるが、学習部26は、学習を進めるに従い徐々に特徴を識別して相関性を解釈する。射出データS1及び内部パラメータS2と射出成形機の異常に係る状態との相関性が、ある程度信頼できる水準まで解釈されると、学習部26が反復出力する学習結果は、現在の動作状態に対して射出成形機の異常に係る状態をどのように判定するべきかと言う行動の選択(つまり意思決定)を行うために使用できるものとなる。つまり学習部26は、学習アルゴリズムの進行に伴い、射出成形機の現在の動作状態と、当該現在の動作状態に対して該射出成形機の異常に係る状態をどのように判定するべきかという行動との、相関性を最適解に徐々に近づけることができる。
【0025】
上記したように、状態判定装置10が備える機械学習装置20は、状態観測部22が観測した状態変数Sとラベルデータ取得部24が取得したラベルデータLとを用いて、学習部26が機械学習アルゴリズムに従い、射出成形機の現在の動作状態に対する射出成形機の異常に係る状態を学習するものである。状態変数Sは、射出データS1及び内部パラメータS2という、外乱の影響を受け難いデータで構成され、またラベルデータLは、熟練した作業の申告データに基づいて一義的に求められる。したがって、状態判定装置10が備える機械学習装置20によれば、学習部26の学習結果を用いることで、射出成形機の動作状態に応じた該射出成形機の異常に係る状態の判定を、演算や目算によらずに自動的に、しかも正確に行うことができるようになる。
【0026】
射出成形機の異常に係る状態の判定を、演算や目算によらずに自動的に行うことができれば、射出成形機による成形動作中に該射出成形機の動作状態を実測して取得するだけで、該射出成形機の異常に係る状態を迅速に決定することができる。したがって、射出成形機の異常に係る状態の判定に掛かる時間を短縮することができる。また、作業者は状態判定装置10が判定した内容を元に射出成形機が正常かどうか判断したり、保守の計画、保守部品の準備などを容易に行うことが可能となる。
【0027】
状態判定装置10の一変形例として、内部パラメータ設定部14は、複数の内部パラメータの系列をデータテーブルやファイルの形式で持つようにしておき、射出成形機で実行される成形動作に応じて、作業者が選択した複数の内部パラメータの系列の内の1つの内部パラメータの系列を機械学習装置20に対して出力するようにしても良い。内部パラメータ設定部14が機械学習装置20に対して出力する内部パラメータの系列の選択は、射出成形機に対して設定された成形動作にかかる値や検出された値などに基づいて、射出成形機又は状態判定装置10が自動的に選択するようにしても良い。
【0028】
上記構成を備えることにより、幅の広い成形動作の条件に対して汎用的に使用できる機械学習モデルを構築することが可能となり、比較的容易に機械学習モデルによる判定精度を上げる効果が期待できる。また、機械学習の特徴として、ある条件下での成形について機械学習モデルによる判定精度を上げるため、前述の条件下の状態変数で機械学習の再学習を行い、新たな内部パラメータを求め、パラメータを更新することが可能である。一方、再学習による新たなパラメータは、その条件下で最適化されてしまうため、成形動作の条件が変わった際に逆に判定の精度を損なう恐れがある。そのため、例えば汎用的なパラメータ系列と再学習更新用のパラメータ系列、また別の条件のパラメータ系列などとして、成形動作や金型の変更に応じて切り替えることで、成形動作の変更に対して柔軟に対応する事が可能となる。
【0029】
状態判定装置10が備える機械学習装置20の一変形例として、学習部26は、同一の構成を有する複数の射出成形機のそれぞれについて得られた状態変数S及びラベルデータLを用いて、それら射出成形機のそれぞれの動作状態に対する該射出成形機の異常に係る状態を学習することができる。この構成によれば、一定時間で得られる状態変数SとラベルデータLとを含むデータ集合の量を増加できるので、より多様なデータ集合を入力として、射出成形機の動作状態に対する該射出成形機の異常に係る状態の学習の速度や信頼性を向上させることができる。
【0030】
上記構成を有する機械学習装置20では、学習部26が実行する学習アルゴリズムは特に限定されず、機械学習として公知の学習アルゴリズムを採用できる。
図2は、
図1に示す状態判定装置10の一形態であって、学習アルゴリズムの一例として教師あり学習を実行する学習部26を備えた構成を示す。教師あり学習は、入力とそれに対応する出力との既知のデータセット(教師データと称する)が予め大量に与えられ、それら教師データから入力と出力との相関性を暗示する特徴を識別することで、新たな入力に対する所要の出力を推定するための相関性モデル(本願の機械学習装置20では射出成形機の動作状態に対する該射出成形機の異常に係る状態)を学習する手法である。
【0031】
図2に示す状態判定装置10が備える機械学習装置20において、学習部26は、状態変数Sから射出成形機の異常に係る状態を導く相関性モデルMと予め用意された教師データTから識別される相関性特徴との誤差Eを計算する誤差計算部32と、誤差Eを縮小するように相関性モデルMを更新するモデル更新部34とを備える。学習部26は、モデル更新部34が相関性モデルMの更新を繰り返すことによって射出成形機の動作状態に対する該射出成形機の異常に係る状態を学習する。
【0032】
相関性モデルMは、回帰分析、強化学習、深層学習などで構築することができる。相関性モデルMの初期値は、例えば、状態変数Sと射出成形機の異常に係る状態との相関性を単純化して表現したものとして、教師あり学習の開始前に学習部26に与えられる。教師データTは、例えば、過去の射出成形機の動作状態に対する該射出成形機の異常に係る状態を記録することで蓄積された経験値(射出成形機の動作状態と、該射出成形機の異常に係る状態との既知のデータセット)によって構成でき、教師あり学習の開始前に学習部26に与えられる。誤差計算部32は、学習部26に与えられた大量の教師データTから射出成形機の動作状態に対する該射出成形機の異常に係る状態との相関性を暗示する相関性特徴を識別し、この相関性特徴と、現在状態における状態変数Sに対応する相関性モデルMとの誤差Eを求める。モデル更新部34は、例えば予め定めた更新ルールに従い、誤差Eが小さくなる方向へ相関性モデルMを更新する。
【0033】
次の学習サイクルでは、誤差計算部32は、更新後の相関性モデルMに従って射出成形機により成形動作を実行することにより得られた状態変数S及びラベルデータLを用いて、それら状態変数S及びラベルデータLに対応する相関性モデルMに関し誤差Eを求め、モデル更新部34が再び相関性モデルMを更新する。このようにして、未知であった環境の現在状態(射出成形機の動作状態)とそれに対する状態の判定(射出成形機の異常に係る状態の判定)との相関性が徐々に明らかになる。つまり相関性モデルMの更新により、射出成形機の動作状態と、該射出成形機の異常に係る状態との関係が、最適解に徐々に近づけられる。
【0034】
前述した教師あり学習を進める際に、例えばニューラルネットワークを用いることができる。
図3Aは、ニューロンのモデルを模式的に示す。
図3Bは、
図3Aに示すニューロンを組み合わせて構成した三層のニューラルネットワークのモデルを模式的に示す。ニューラルネットワークは、例えば、ニューロンのモデルを模した演算装置や記憶装置等によって構成できる。
【0035】
図3Aに示すニューロンは、複数の入力x(ここでは一例として、入力x
1〜入力x
3)に対する結果yを出力するものである。各入力x
1〜x
3には、この入力xに対応する重みw(w
1〜w
3)が掛けられる。これにより、ニューロンは、次の数2式により表現される出力yを出力する。なお、数2式において、入力x、出力y及び重みwは、すべてベクトルである。また、θはバイアスであり、f
kは活性化関数である。
【0037】
図3Bに示す三層のニューラルネットワークは、左側から複数の入力x(ここでは一例として、入力x1〜入力x3)が入力され、右側から結果y(ここでは一例として、結果y1〜結果y3)が出力される。図示の例では、入力x1、x2、x3のそれぞれに対応の重み(総称してw1で表す)が乗算されて、個々の入力x1、x2、x3がいずれも3つのニューロンN11、N12、N13に入力されている。
【0038】
図3Bでは、ニューロンN11〜N13の各々の出力を、総称してz1で表す。z1は、入カベクトルの特徴量を抽出した特徴ベクトルと見なすことができる。図示の例では、特徴ベクトルz1のそれぞれに対応の重み(総称してw2で表す)が乗算されて、個々の特徴ベクトルz1がいずれも2つのニューロンN21、N22に入力されている。特徴ベクトルz1は、重みw1と重みw2との間の特徴を表す。
【0039】
図3Bでは、ニューロンN21〜N22の各々の出力を、総称してz2で表す。z2は、特徴ベクトルz1の特徴量を抽出した特徴ベクトルと見なすことができる。図示の例では、特徴ベクトルz2のそれぞれに対応の重み(総称してw3で表す)が乗算されて、個々の特徴ベクトルz2がいずれも3つのニューロンN31、N32、N33に入力されている。特徴ベクトルz2は、重みw2と重みw3との間の特徴を表す。最後にニューロンN31〜N33は、それぞれ結果y1〜y3を出力する。
【0040】
状態判定装置10が備える機械学習装置20においては、状態変数Sを入力xとして、学習部26が上記したニューラルネットワークに従う多層構造の演算を行うことで、射出成形機の異常に係る状態(結果y)を出力することができる。なおニューラルネットワークの動作モードには、学習モードと判定モードとがあり、例えば学習モードで学習データセットを用いて重みWを学習し、学習した重みWを用いて判定モードで射出成形機の異常に係る状態の判定を行うことができる。なお判定モードでは、検出、分類、推論等を行うこともできる。
【0041】
上記した状態判定装置10の構成は、コンピュータのCPUが実行する機械学習方法(或いはソフトウェア)として記述できる。この機械学習方法は、射出成形機の動作状態に対する該射出成形機の異常に係る状態を学習する機械学習方法であって、コンピュータのCPUが、射出成形機の動作状態を示す射出データS1及び内部パラメータS2を射出成形機による成形動作が行われる環境の現在状態を表す状態変数Sとして観測するステップと、該射出成形機の異常に係る状態を示すラベルデータLを取得するステップと、状態変数SとラベルデータLとを用いて、射出成形機の動作状態と、該射出成形機の異常に係る状態とを関連付けて学習するステップとを有する。
【0042】
図4は、第2の実施形態による状態判定装置40を示す。状態判定装置40は、前処理部42と、パラメータ設定部44と、機械学習装置50と、前処理部42に入力されるデータを状態データS0として取得する状態データ取得部46とを備える。状態データ取得部46は、射出成形機や、射出成形に付設されるセンサ、作業者による適宜のデータ入力から、状態データS0を取得することができる。
【0043】
状態判定装置40が有する機械学習装置50は、射出成形機の動作状態に対する該射出成形機の異常に係る状態を機械学習により自ら学習するためのソフトウェア(学習アルゴリズム等)及びハードウェア(コンピュータのCPU等)に加えて、学習部26が射出成形機の動作状態に基づいて判定した該射出成形機の異常に係る状態を、表示装置(図示せず)への文字の表示、スピーカ(図示せず)への音あるいは音声による出力、警報ランプ(図示せず)による出力、あるいはそれらの組合せとして出力するためのソフトウェア(演算アルゴリズム等)及びハードウェア(コンピュータのCPU等)を含むものである。状態判定装置40が含む機械学習装置50は、1つの共通のCPUが、学習アルゴリズム、演算アルゴリズム等の全てのソフトウェアを実行する構成を有することもできる。
【0044】
判定出力部52は、例えばコンピュータのCPUの一機能として構成できる。或いは判定出力部52は、例えばコンピュータのCPUを機能させるためのソフトウェアとして構成できる。判定出力部52は、学習部26が射出成形機の動作状態に基づいて判定した該射出成形機の異常に係る状態を文字の表示、音あるいは音声による出力、警報ランプによる出力、あるいはそれらの組合せとして作業者に対して通知するように指令を出力する。判定出力部52は、状態判定装置40が備える表示装置などに対して通知の指令を出力するようにしても良いし、射出成形機が備える表示装置などに対して通知の指令を出力するようにしても良い。
【0045】
上記構成を有する状態判定装置40が備える機械学習装置50は、前述した機械学習装置20と同等の効果を奏する。特に機械学習装置50は、判定出力部52の出力によって環境の状態を変化させることができる。他方、機械学習装置20では、学習部26の学習結果を環境に反映させるための判定出力部に相当する機能を、外部装置(例えば射出成形機の制御装置)に求めることができる。
【0046】
状態判定装置40の一変形例として、判定出力部52は、学習部26が射出成形機の動作状態に基づいて判定した該射出成形機の異常に係る状態のそれぞれについて、あらかじめ定めた所定の閾値を設けておき、学習部26が射出成形機の動作状態に基づいて判定した該射出成形機の異常に係る状態が閾値を超えた場合に警告としての情報を出力するようにしても良い。
【0047】
状態判定装置40の他の変形例として、判定出力部52は、過去に学習部26が射出成形機の動作状態に基づいて判定した該射出成形機の異常に係る状態のそれぞれと、現在の学習部26が射出成形機の動作状態に基づいて判定した該射出成形機の異常に係る状態のそれぞれとの差分を算出し、該差分があらかじめ定めた所定の閾値を超えた場合に警告としての情報を出力するようにしても良い。個々でいうところの過去に学習部26が射出成形機の動作状態に基づいて判定した該射出成形機の異常に係る状態は、過去の任意のタイミングで学習部26が判定したもので良いが、例えば新品の部品の交換時など、状態がはっきりと分かっている時点の射出成形機の異常に係る状態を用いることで比較による状態の推測が行いやすくなる。
【0048】
状態判定装置40の他の変形例として、学習部26、判定出力部52による射出成形機の異常に係る状態の判定を行う際の状態変数を取得するために、あらかじめ設定されている所定の動作設定に基づく所定の成形動作を状態判定装置40が射出成形機に指令して行わせるようにしても良い。射出成形機による成形動作では、例えば可塑化スクリュの形状、材料、金型形状等、射出成形機の各部に対して様々な種類の設定を行う必要がある。そこで、学習部26、判定出力部52による射出成形機の異常に係る状態の判定を行う際に、あらかじめ定めた外乱要素の少ない動作設定に基づく所定の動作を行わせることにより、摩耗、破損、動作の不具合、保守に関わる状態を精度よく判定することができるようになる。ここで言うところの所定の動作とは、例えば金型周りの動作では、位置、速度、動作回数の設定を決めて型締め部や突き出し部を動作させる事、加熱筒周りでは、可塑化スクリュの動作速度、位置、圧力、動作回数の設定を決めて可塑化スクリュを動作させる事などが挙げられる。判定に用いられる所定の動作が予め決められているので、機械学習モデルも単純なもので構成できる可能性があり、判定に掛かる処理を簡単にすることで、状態判定装置を安価なシステムで構成できる効果も期待できる。
【0049】
また、前記所定の動作を、電源を入れた際や樹脂排出動作などの決められた動作の前後に状態判定装置40が射出成形機に指令して自動で行わせたり、ある所定の期間が過ぎた場合に自動で行わせたり、又は作業者が状態判定装置40又は射出成形機に設けられたボタン等で要求した際に自動で行わせたり、あるいはそれらを組み合わせた条件を基準として自動で行わせるようにしてもよい。
【0050】
更に、状態判定装置40が射出成形機に指令して前記所定の動作を行わせて学習部26、判定出力部52による判定処理を実行した時刻を記憶しておき、現在時刻と記憶した処理時刻の差があらかじめ決められた時間を超えた場合に、判定出力部52が前回の判定から一定時刻が経過した旨を警告として出力するようにしても良い。これにより、作業者が状態判定の処理を忘れて機械を稼働し続ける事を防ぐことが可能となる。
【0051】
状態判定装置40の他の変形例として、追加の学習を行わずに機械学習装置50により学習された学習結果を用いて射出成形機の状態の判定のみを行う(判定モードのみで動作する)ようにすることも可能である。
図5に示すように、状態判定装置40には、機械学習装置50’が内蔵されている。機械学習装置50’は、
図4で説明した機械学習装置50からラベルデータ取得部24を取り除いたものとして構成されている。このように構成することで、機械学習装置50’は、状態観測部22が観測した状態変数Sに基づいて射出成形機の状態を判定し、その判定結果を判定出力部52が出力するが、学習部26は追加の学習を行わないため、比較的計算能力の高くないCPU等を用いても構成可能となり、コスト面でのメリットが生じる。特に、状態判定装置40を製品として出荷する場合には、本変形例の構成とすることにより価格を抑えることができる。
【0052】
状態判定装置40の他の変形例として、学習部26が複数の条件下のそれぞれにおいて機械学習をした結果として得られた相関性モデルMのパラメータ(例えば、相関性モデルMがニューラルネットワークである場合、パラメータは各ニューロン間の重み値など)を数パターン記憶しておき、状態判定装置40を利用する状況に応じて該パラメータを相関性モデルMに対して設定して動作させるようにしても良い。このとき、相関性モデルMのパラメータのパターンは、例えばパラメータ設定部44に記憶させておくことができる。このように構成することで、状態判定装置40が射出成形機の状態の判定を行う条件が異なる場合においても、当該条件にあった相関性モデルMのパラメータを学習部26に対して設定することで、より精度の高い射出成形機の状態判定を行うことができるようになる。
【0053】
図6は、射出成形機60を備えた一実施形態による射出成形システム70を示す。射出成形システム70は、同一の機械構成を有する複数の射出成形機60、60’と、それら射出成形機60、60’を互いに接続するネットワーク72とを備え、複数の射出成形機60、60’のうち少なくとも1つが、上記した状態判定装置40を備える射出成形機60として構成される。また射出成形システム70は、状態判定装置40を備えない射出成形機60’を含むことができる。射出成形機60、60’は、成形動作をするために必要とされる一般的な構成を有する。
【0054】
上記構成を有する射出成形システム70は、複数の射出成形機60、60’のうちで状態判定装置40を備える射出成形機60が、学習部26の学習結果を用いて、射出成形装置の動作状態に対する該射出成形機の異常に係る状態を、演算や目算によらずに自動的に、しかも正確に求めることができる。また、少なくとも1つの射出成形機60の状態判定装置40が、他の複数の射出成形機60、60’のそれぞれについて得られた状態変数S及びラベルデータLに基づき、全ての射出成形機60、60’に共通する射出成形装置の動作状態に対する該射出成形機の異常に係る状態を学習し、その学習結果を全ての射出成形機60、60’が共有するように構成できる。したがって射出成形システム70によれば、より多様なデータ集合(状態変数S及びラベルデータLを含む)を入力として、射出成形装置の動作状態に対する該射出成形機の異常に係る状態の学習の速度や信頼性を向上させることができる。
【0055】
図7は、射出成形機60’を備えた他の実施形態による射出成形システム70’を示す。射出成形システム70’は、状態判定装置40(又は10)と、同一の機械構成を有する複数の射出成形機60’と、それら射出成形機60’と状態判定装置40(又は10)とを互いに接続するネットワーク72とを備える。
【0056】
上記構成を有する射出成形システム70’は、状態判定装置40(又は10)が、複数の射出成形機60’のそれぞれについて得られた状態変数S及びラベルデータLに基づき、全ての射出成形機60’に共通する射出成形機の動作状態に対する該射出成形機の異常に係る状態を学習し、その学習結果を用いて、射出成形機の動作状態に応じた該射出成形機の異常に係る状態を、演算や目算によらずに自動的に、しかも正確に求めることができる。
【0057】
射出成形システム70’は、状態判定装置40(又は10)が、ネットワーク72に用意されたクラウドサーバに存在する構成を有することができる。この構成によれば、複数の射出成形機60’のそれぞれが存在する場所や時期に関わらず、必要なときに必要な数の射出成形機60’を状態判定装置40(又は10)に接続することができる。
【0058】
射出成形システム70、70’に従事する作業者は、状態判定装置40(又は10)に
よる学習開始後の適当な時期に、状態判定装置40(又は10)による射出成形機の動作状態に対する該射出成形機の異常に係る状態の学習の到達度が要求レベルに達したか否かの判断を実行することができる。
【0059】
射出成形システム70,70’の一変形例として、状態判定装置40を、射出成形機60,60’を管理する成形機管理装置80に組み込んだ形で実装することも可能である。
図8に示すように、成形機管理装置80には、ネットワーク72を介して複数の射出成形機60,60’が接続されており、成形機管理装置80は、ネットワーク72を介して各射出成形機60,60’の稼働状態や成形に関するデータを収集する。成形機管理装置80は、任意の射出成形機60,60’からの情報を受け取り、状態判定装置40に対して該射出成形機60,60’の異常にかかる状態を判定するように指令し、その結果を成形機管理装置80が備える表示装置などに出力したり、判定対象の射出成形機60,60’に対して結果を出力したりすることができる。このように構成することで、射出成形機60,60’の異常に係る状態の判定結果などを成形機管理装置80で一元管理することができ、また、再学習の際に、複数の射出成形機60,60’からサンプルとなる状態変数を集めることができるため、再学習用のデータを多く集めやすいという利点がある。更に、金型あるいは成形条件と内部パラメータを紐付けることで、金型や成形条件に起因する判定要素を射出成形機の間で共有する事ができる利点がある。
【0060】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述した実施の形態の例のみに限定されることなく、適宜の変更を加えることにより様々な態様で実施することができる。
【0061】
例えば、機械学習装置20、50が実行する学習アルゴリズム、機械学習装置50が実行する演算アルゴリズム、状態判定装置10、40が実行する制御アルゴリズム等は、上述したものに限定されず、様々なアルゴリズムを採用できる。
【0062】
また、上記した実施形態では前処理部12を状態判定装置40(または状態判定装置10)上に設けた構成としていたが、前処理部12を射出成形機上に設けるようにしても良い。このとき、前処理は、状態判定装置40(または状態判定装置10)、射出成形機のいずれか、あるいは両方で実行するようにしても良く、処理能力と通信の速度を鑑みて処理する場所を適宜設定できるようにしても良い。