特許第6557284号(P6557284)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557284
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】複雑な3次元構成を有する高温導管
(51)【国際特許分類】
   F02M 35/10 20060101AFI20190729BHJP
   F01N 13/18 20100101ALI20190729BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   F02M35/10 101N
   F01N13/18
   C08L81/02
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2017-104596(P2017-104596)
(22)【出願日】2017年5月26日
(62)【分割の表示】特願2013-546405(P2013-546405)の分割
【原出願日】2011年12月22日
(65)【公開番号】特開2017-201176(P2017-201176A)
(43)【公開日】2017年11月9日
【審査請求日】2017年6月12日
(31)【優先権主張番号】61/426,409
(32)【優先日】2010年12月22日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/446,783
(32)【優先日】2011年2月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500100822
【氏名又は名称】ティコナ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】フェング、ケィ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィスジャガー、ジェロン
(72)【発明者】
【氏名】ザオ、シンユ
【審査官】 家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−355849(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/108384(WO,A1)
【文献】 特開2009−178967(JP,A)
【文献】 特開2010−247427(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/068161(WO,A1)
【文献】 特開平05−050493(JP,A)
【文献】 特開平10−077408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00 − 45/84
49/00 − 49/80
F02M 35/00 − 35/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとの間で流体を搬送するエンジン導管であって、
中空の通路を取り囲む壁を有する一体成形の管状部材を有し、前記管状部材はポリマー組成物から形成された単一の層のみを含み、前記ポリマー組成物は、
前記ポリマー組成物中に約60重量%〜約80重量%の量で存在する直鎖状ポリフェニレンスルフィドと、
前記ポリマー組成物中に約0.5重量%〜約15重量%の量で存在する分岐状ポリフェニレンスルフィドと
を有し、前記ポリマー組成物は、310℃及び0.1rad/sで測定した場合に1500Paを超える低せん断率貯蔵弾性率を有し、前記管状部材は、少なくとも2つの角変位により分離された少なくとも3つの直線的なセクションを含む3次元構成を有し、第1の角変位は、第1の平面内にあるとき約60°〜約120°であり、第2の角変位も約60°〜約120°であり、前記第1の平面と交差する第2の平面内に前記第2の角変位が含まれるように位置付けされている、エンジン導管。
【請求項2】
請求項1記載のエンジン導管において、前記管状部材は、前記第1の角変位を画成する湾曲したセクションを含み、前記湾曲したセクションは、前記第1の角変位と異なる平面内の第3の角変位も画成する、エンジン導管。
【請求項3】
請求項1記載のエンジン導管において、前記管状部材は少なくとも3つの角変位を含み、前記第3の角変位も約60°〜約120°である、エンジン導管。
【請求項4】
請求項1記載のエンジン導管において、前記壁は実質的に均一な壁厚を有し、当該壁厚の変化は50%を超えない、エンジン導管。
【請求項5】
請求項1記載のエンジン導管において、前記ポリマー組成物は、前記直鎖状ポリフェニレンスルフィドまたは前記分岐状ポリフェニレンスルフィドの融点を15℃超える温度において、当該ポリマー組成物がひずみ100%で約350kPa〜約550kPaの公称応力を呈するように、比較的高い溶融強度を有する、エンジン導管。
【請求項6】
請求項3記載のエンジン導管において、前記管状部材は、少なくとも4つの角変位を含む、エンジン導管。
【請求項7】
請求項1記載のエンジン導管において、前記ポリマー組成物は、補強剤をさらに有する、エンジン導管。
【請求項8】
請求項7記載のエンジン導管において、前記補強剤は充填剤を有する、エンジン導管。
【請求項9】
請求項7記載のエンジン導管において、前記補強剤は繊維を有する、エンジン導管。
【請求項10】
請求項1記載のエンジン導管において、前記第1の角変位および前記第2の角変位は、約80°〜約100°である、エンジン導管。
【請求項11】
請求項3記載のエンジン導管において、前記第1の角変位、前記第2の角変位、および第3の角変位は、すべて約80°〜約100°である、エンジン導管。
【請求項12】
中空の通路を取り囲む壁を有する一体成形の管状部材であって、前記管状部材はポリマー組成物から形成された単一の層のみを含み、前記ポリマー組成物は、前記ポリマー組成物中に約60重量%〜約80重量%の量で存在する直鎖状ポリフェニレンスルフィドと、前記ポリマー組成物中に約0.5重量%〜約15重量%の量で存在する分岐状ポリフェニレンスルフィドとを有し、前記ポリマー組成物は、310℃及び0.1rad/sで測定した場合に1500Paを超える低せん断率貯蔵弾性率を有し、前記管状部材は、少なくとも3つの角変位により分離された少なくとも4つの直線的なセクションを含む3次元構成を有し、第1の角変位は約60°〜約120°で第1の平面内にあり、第2の角変位も約60°〜約120°で第2の平面内にあり、第3の角変位も約60°〜約120°で第3の平面内にあり、前記第1の平面、前記第2の平面、および前記第3の平面はすべて異なり、2つの平面は残りの平面と交差する、一体成形の管状部材。
【請求項13】
請求項12記載の管状部材において、前記ポリマー組成物は、前記直鎖状ポリフェニレンスルフィドまたは前記分岐状ポリフェニレンスルフィドの融点を15℃超える温度において、当該ポリマー組成物がひずみ100%で約350kPa〜約550kPaの公称応力を呈するように、比較的高い溶融強度を有する、管状部材。
【請求項14】
請求項1記載のエンジン導管において、前記分岐状ポリフェニレンスルフィドは、約100,000Pa.s〜約300,000Pa.sの溶融粘度を有する、エンジン導管。
【請求項15】
請求項12記載の管状部材において、前記分岐状ポリフェニレンスルフィドは、約100,000Pa.s〜約300,000Pa.sの溶融粘度を有する、管状部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2011年2月25日付で出願された仮出願第61/446,783号の優先権を主張し、かつこれに基づくものであり、この参照によりその全体が本明細書に組み込まれ、前記仮出願第61/446,783号は、2010年12月22日付で出願された仮出願第61/426,409号の優先権を主張し、かつこれに基づくものであり、この参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
高温工学プラスチック(high temperature engineering plastics)には、異なる部品および物品を成形する上で使用できるものが種々存在する。これまで多くの用途において、当業者は、従来の金属部品を、高温ポリマーで作製したもので置き換える試みを行ってきた。高温ポリマーには、強靱で優れた耐薬品性を有し、高い剛性を有し、かつ高温で安定なものが種々存在する。種々の実施形態における金属部品を上記のポリマーで適切に置き換えることができれば、種々の優位性および利点が得られる。例えば、プラスチック部品は、多くの金属より軽量で、生じる騒音が少なく、化学的侵食に対する耐性がある
低温ポリマーは多くの異なる形状に成形できるが、高温ポリマーは複雑な形状に成形する上でいくつか問題が生じている。問題は、例えば押出ブロー成形を含む種々の成形工程における高温ポリマー操作で生じている。
【0003】
例えば、複雑な形状を有する中空の物品をブロー成形する場合は、パリソンの成形中に壁の厚さを制御し、および/または均一な壁厚を得る上で、またパリソン成形後にパリソンの形状を操作する上で問題が生じている複雑なブロー成形作業中には、管状の部材が形成され、その形状が絶えず変化していく。ある応用では、例えばポリマー組成物がまだ高温である間に、パリソンが下向きに押出成形されていく。前記ポリマー組成物は、前記パリソンが望ましい長さに達するまで、環状の開口部またはダイを通じて押出成形される。前記パリソンは、押出成形されている間も均一な壁厚を維持すべきであり、またブロー成形を開始する上で望ましい長さが得られるまで自重のみによる引き伸ばしまたは伸長に耐えるべきである。また、前記パリソンは押出成形中、例えばロボットにより操作して管状形態の角変位を変え、特定の形状にすることが可能である。
【0004】
望ましい長さが得られ、閉じたパリソンの一端に針が挿入されると、鋳型が前記管状形態を覆って閉じ、ガスまたは空気を前記管状形態に注入して物品をその最終形状へとブロー成形できるようになる。上記の工程中、これまでの組成物は、当該工程中に垂れ下がってパリソンの厚さが意図せず変わってしまう傾向があった。垂れ下がりは低せん断現象であり、ポリマー組成物の溶融強度または溶融弾性に左右される。
【0005】
高温環境で機能できる管状物品は、特にいくつかの産業、例えば自動車産業で必要とされている。例えば、自動車のエンジンおよびトラックのエンジンは、流体、例えばガスおよび液体をエンジンとの間で運ぶよう設計された種々のダクト、チューブ、および排気通路を含む。一部の実施形態では、高温の排気ガスが上記のダクトまたはチューブを通じて供給される。他の実施形態では、比較的低温の流体を運ぶ前記ダクトまたはチューブが、高温で稼動するエンジンの位置に近接して配置される。エンジンコンパートメントがより小型化されるに伴い、上記のダクトおよびチューブは、エンジンその他の自動車部品の周囲に嵌合するよう複雑な3次元形状をとらなければならない。従来、そのようなダクトおよびチューブは金属で作製されてきた。しかし、本開示は、高温ポリマーで作製される上述のエンジン導管および他の管状部材を対象としている。より具体的にいうと、本開示は、改善された高温物品、特に高温ポリマーで作製される比較的複雑な形状の管状部材を対象としている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般に、本開示は、3次元の複雑な形状を有する管状の物品であって、高温ポリマーを含むポリマー組成物で作製されるものを対象としている。前記高温ポリマーは、例えば約280℃を超える、例えば約290℃を超える、例えば場合により約300℃を超える融点を有するものであってよい。本開示に基づいて作製された管状部材は、多数の異なる用途によく適している。当該管状部材は、流体、例えば液体および気体を搬送する上でよく適している。前記物品がさらされる高温は、当該物品を通じて搬送される材料の温度、または当該物品が置かれる外的環境によるものである。
【0007】
上述のように、本開示に基づいて作製された管状部材は、複雑な3次元構成を有する。例えば、前記物品には、種々の湾曲したセクションにより分離されたいくつかの異なるまっすぐな若しくは直線的なセクションを含めることができる。前記湾曲したセクションは複数の角変位を形成することができ、それらの角変位は、一部の実施形態において比較的大きい。実際、一実施形態において、前記管状部材は、複数の角度を有する少なくとも1つの湾曲したセクションを含むことができる。例えば、前記湾曲したセクションは、XY平面内の第1の角変位と、交差平面内の第2の角変位とを含むことができる。これまで、上述した複雑な形状の中空部材を高温ポリマーから製造しようとすると、加工上の問題が多く生じていた。
【0008】
一実施形態において、本開示は、エンジンとの間で流体を搬送するエンジン導管を対象としている。前記エンジン導管は、中空の通路を取り囲む壁を有した一体成形の管状部材を含む。前記管状部材は、ポリマー組成物から成形される。前記ポリマー組成物は、約280℃を超える融点を有する熱可塑性ポリマーを含む。例えば、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、前記ポリマー組成物中に少なくとも約40重量%を超える量、例えば約50重量%を超える量、例えば約60重量%を超える量存在する。
【0009】
本開示によれば、前記管状部材は、少なくとも2つの角変位により分離された少なくとも3つの直線的なセクションを含む3次元構成を有する。一実施形態において、その第1の角変位は約60°〜約120°で、第1の平面内にある。第2の角変位も約60°〜約120°である。ただし、前記第2の角変位は、前記第1の平面と交差する第2の平面内に位置するように位置付けされる。
【0010】
一実施形態において、前記管状部材は、少なくとも3つの角変位、例えば4つの角変位を含むことができる。さらに別の角変位も、約60°〜約120°とできる。他の実施形態において、前記管状部材に含まれる角変位は、約70°〜約110°、例えば約80°〜約100°とできる。前記管状部材に含まれる角変位は、同じ平面内にあってもよいが、大半の用途では異なる平面内に位置することになる。一実施形態では、前記管状部材の湾曲したセクションに、それぞれ異なる平面内に位置する複数の角変位を含めることができる。例えば、前記管状部材の湾曲したセクションは、その湾曲したセクションにおける当該管状部材の軸がXY平面内、XZ平面内、およびYZ平面内に位置するよう、異なる方向へ曲げることができる。
【0011】
前記ポリマー組成物には、種々の異なる熱可塑性ポリマーを存在させることができると考えられる。そのようなポリマーとしては、液晶ポリマー、ポリイミドポリマー、ポリアリールエーテルケトンポリマー、ポリエーテルイミドポリマー、フッ素ポリマー、ポリエステルポリマー(例えば、ポリシクロヘキシレン・ジメチル・テレフタラート)、ポリフェニレン・スルフィド・ポリマー、およびこれらの組み合わせなどがある。1若しくはそれ以上の高温ポリマーのほか、前記ポリマー組成物は、補強剤、例えば充填剤または繊維を含むこともできる。
【0012】
一実施形態において、前記管状部材は、比較的高い溶融強度を有するポリマー組成物から成形される。例えば、前記ポリマー組成物は、前記熱可塑性ポリマーの融点を15°超える温度において、当該ポリマー組成物がひずみ100%で約350Pa〜約550Paの公称応力を呈するよう、配合できる。一実施形態では、上記の応力−ひずみ関係を300℃および5s−1で決定してよい。
【0013】
本開示に係るポリマー組成物では、複雑な形状を有するだけでなく比較的均一な壁厚も有する中空の管状部材を製造することができる。前記壁厚は、例えば一般に約1mm〜約5mm、例えば約2mm〜約4mmとできる。本開示によれば、管状部材は、その壁厚の変化が当該物品の全長の50%を超えない、例えば35%を超えない、例えば15%を超えないよう成形できる。
【0014】
上述のように、一実施形態において、本開示に基づいて作製された管状部材はエンジン導管として使用できる。そのため、本開示は、上述のエンジン導管と連通したエンジンも対象とする。前記エンジン導管は、例えば冷却液、排気ガス、または空気を前記エンジンとの間で搬送するものであってよい。
【0015】
ただし、本開示に基づいて作製された管状部材は、他の多くの用途に使用できることを理解すべきである。例えば、本開示の管状部材は、産業工程における加熱および冷却システムなどでの用途によく適している。
【0016】
本開示の他の特徴および態様については、以下でさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明を実現する完全な開示については、当業者向けの最良の形態を含め、以下の添付の図面を参照して本明細書の残りの部分でさらに具体的に記載している。
図1図1は、本開示に基づいて作製できる成形品の一実施形態の斜視図である。
図2図2〜6は、図1に例示した成形品を成形する工程の1つを例示したものである。
図3図2〜6は、図1に例示した成形品を成形する工程の1つを例示したものである。
図4図2〜6は、図1に例示した成形品を成形する工程の1つを例示したものである。
図5図2〜6は、図1に例示した成形品を成形する工程の1つを例示したものである。
図6図2〜6は、図1に例示した成形品を成形する工程の1つを例示したものである。
図7図7は、本開示で説明する種々のポリマー組成物の応力−ひずみ曲線を示したグラフである。
図8図8〜11は、本開示に基づいて作製される成形品の別の一実施形態を異なる角度から見た斜視図である。
図9図8〜11は、本開示に基づいて作製される成形品の別の一実施形態を異なる角度から見た斜視図である。
図10図8〜11は、本開示に基づいて作製される成形品の別の一実施形態を異なる角度から見た斜視図である。
図11図8〜11は、本開示に基づいて作製される成形品の別の一実施形態を異なる角度から見た斜視図である。
【0018】
本明細書および本図面における参照符号の反復使用は、本発明の同じ若しくは同様な特徴または要素を表すことを意図している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
当業者は、以下の議論が単に例示的諸実施形態の説明であり、かつ本開示のより広義な態様を限定することを目的としたものではないことを理解すべきである。
【0020】
一般に、本開示は、複雑な3次元形状を有する成形品を対象としたものである。より具体的にいうと、本開示は、3次元構成を有する管状部材であって、高温ポリマーを含むポリマー組成物で作製されるものを対象としている。前記管状部材は、例えば複数の直線的なセクションが湾曲したセクションにより分離されたものを含む1ピースの部品を有することができる。前記湾曲したセクションは、複数の角度を含むことができ、鋭角変位、例えば約60°〜約120°の範囲の角変位を有することができる。また、前記角変位は、前記直線的なセクションが異なる方向へ延長する態様で異なる平面上にあってよい。
【0021】
これまで、上述した管状部材は、ほぼ金属および比較的低温のポリマーだけで作製されていた。高温ポリマーでその部品を成形しようとすると、加工上のさまざまな問題が生じていた。ただし、以下さらに詳しく説明するように、ポリマー組成物を本開示に基づいて配合すると、上述した複雑な構成を有する管状部材を生産するための組成物を実現できる。
【0022】
本開示に基づいて作製された管状部材は、多くの異なる用途に使用することができる。例えば一実施形態において、前記管状部材は、エンジン、例えば自動車エンジンの異なる部分に取り付けられたエンジン導管を有することができる。例えば、前記エンジン導管は、排気導管、空気ダクト、吸気導管、エンジンからターボチャージャーへ延長する導管を有することができる。そのような導管は、通常、エンジンに近接しているため、またはその導管を通じて運ばれる流体の温度上、高温に耐えられるものでなければならない。自動車エンジン周囲の空間は限られていることから、そのエンジンに連結される導管は、サイズも形状も非常に複雑になることが要求される。
【0023】
本開示によれば、前記管状部材は、高温ポリマーを含むポリマー組成物で作製される。その高温ポリマーは、例えば、ポリアリーレンスルフィド、例えばポリフェニレン・スルフィド・ポリマーを含有することができる。他の実施形態において、前記高温ポリマーは、液晶ポリマー、ポリイミドポリマー、ポリアリールエーテルケトンポリマー、例えばポリエーテルエーテルケトンポリマー、ポリエーテルイミド、フッ素ポリマー、ポリエステルポリマー、例えばポリシクロヘキシレン・ジメチル・テレフタラート・ポリマー、またはこれらの混合物を有することができる。前記ポリマー組成物には、他の種々の添加剤および成分を含めることもできる。一実施形態において、例えば、前記ポリマー組成物は、補強剤、例えば充填剤、繊維、またはこれらの混合物を含む。前記ポリマー組成物は、溶融伸度および溶融強度特性の最適な組み合わせを有するよう配合される。このようにすると、前記高温ポリマーは、成形中、例えばブロー成形中に操作して複雑な形状をもたらすことができる。例えば、一実施形態では、前記ポリマー組成物は、そのポリマー組成物に含まれる高温熱可塑性ポリマーの融点を15℃超える温度で試験した場合、ひずみ100%で約350kPa〜約550kPaの公称応力(工学的応力)を呈することができる。
【0024】
図1を参照すると、本開示に基づいて作製される成形品の一実施形態が示されている。図示したように、この実施形態において、当該成形品は管状部材10を有する。この管状部材10は、ブロー成形工程に基づいて作製できる。図示したように、この管状部材10は、複数の方向に延長して比較的複雑な形状をなしている。例えば、ポリマー組成物が固化できる前に、図1に示した角変位が当該部品に形成される。この管状部材10は、12、14、および16で角変位の変化を含む。当該管状部材10は、例えば、自動車の排気システムに使用できる部品を有することができる。ブロー成形中は、加圧ガス、例えば不活性ガスが当該管状部材の内面に抗して吹き込まれる。本開示の組成物では、ポリマーにメルトフラクチャー(溶融破壊)または他の欠陥が生じることなく、均一な壁厚のパリソンが押出成形できるようになる。
【0025】
図1に示した前記管状部材10を作製する工程の1つを、順次図2〜6に例示している。例えば図2を参照すると、本開示のポリマー組成物がまず加熱され、押出成形装置に取り付けられたダイ22を使ってパリソン20へと押出成形される。図示したように、前記パリソン20は、下方へ押出成形される。このパリソン20が図2に示すように成形される場合、当該パリソンを成形するため使用される組成物は、重力により当該パリソンの各部が不要に伸長して不均一な壁厚および他の欠陥が生じないよう、十分な溶融強度を有さなければならない。一方、当該組成物の加工を可能にするため、溶融伸度も十分高くなければならない。そのため、加工しやすく均一な壁厚を維持する前記管状部材10を成形するため、十分高い溶融強度と十分高い溶融伸度のバランスを取ることが望ましい。すなわち、当該組成物の加工を可能にするよう、高いひずみパーセントで公称応力が十分高くなければならない。
【0026】
図2に示すように、前記パリソン20は、クランプ機構24に隣接して押出成形され、前記クランプ機構24は、通常ロボットアームに取り付けられる。また、前記パリソン20を受容するよう成形装置26が配置される。例示した実施形態では、前記成形装置26が第1の部分28および第2の部分30を含み、それらが一体的に合わされて3次元金型空洞32を形成する。例示した実施形態では、前記成形装置の部分28および30の双方が互いへ向かって、また互いから遠ざかるよう動く。ただし、一代替実施形態では、一方の部分が静止状態で保たれ、他方の部分だけが動くことができる。
【0027】
図3を参照すると、本工程の次の工程段階では、前記パリソン20が望ましい長さに達した後、前記クランプ機構24が前記パリソン20の頂部に係合する。図4に示すように、前記クランプ機構は次いで前記パリソンを一定の位置に移動させ、前記パリソンが前記成形装置26と相互作用できるようにする。当該クランプ機構24は、ロボットアームの支援で動かすことができる。
【0028】
前記パリソン20を成形してから当該パリソン20をクランプおよび移動して前記成形装置26と係合させるまでには、一定の期間が経過することが理解されるであろう。この工程段階中、前記ポリマー組成物の溶融強度は、前記パリソン20が移動中にその形状を保つよう十分高くあるべきである。また、前記ポリマー組成物は、半流体状態にとどまって、ブロー成形の開始前に急速に固化しすぎないものであるべきである。
【0029】
図4に示すように、前記ロボットアームは、ブロー成形中に使用される流体供給装置34により、前記パリソン20の底部にも係合する。
【0030】
図5を参照すると、前記パリソン20が定位置に移動されると、前記成形装置26の前記第1の部分28および前記第2の部分30がともに動いて、前記パリソン20が、図4に示した前記金型空洞32を貫通して部分的に延出ようするにする。
【0031】
図5に示したように、前記第1の部分28は頂部セクション40を含み、前記第2の部分30は、頂部セクション42を含む。例示した実施形態では、前記成形装置26の底部セクションがまず閉じて、前記頂部セクション40および42が開いたままになる。これにより、前記パリソン20は、まず前記金型空洞32の底部に係合できる。次に前記クランプ装置24は、前記成形装置の前記頂部セクション40および42を閉じる前に、ロボット制御で前記パリソンの頂部に移動できる。前記クランプ機構が図6に示すように適切に設置された時点で、前記金型の前記頂部セクションが閉じて、前記パリソンが前記金型空洞の全長にわたり延在するようにする。
【0032】
一部の成形用途では、複雑な形状の成形において、図5および6に示したように別個に動かすことのできる頂部セクションを有することが必要とされる。前記金型の別個のセクションが異なる時点で前記パリソンを取り囲むようにすると、ロボットアームは、結果として得られる部品において前記パリソンが多くの角変位を伴うよう、当該パリソンを操作し続けることができる。
【0033】
前記成形装置26の前記頂部セクション40および42が図6に示すように閉鎖されると、ガス、例えば不活性ガスが前記ガス供給部34から前記パリソン20内に供給される。前記ガスは、前記パリソンが前記金型空洞32の形状に適合するよう、前記パリソンの内面に抗して十分な圧力を供給する。
【0034】
ブロー成形後、完成した成形品は取り外され、必要に応じて使用される。一実施形態では、低温の空気を前記被成形部分に注入して、前記成形装置26からの取り外し前に前記ポリマーを固化させることができる。
【0035】
本開示に基づいて成形品、例えば図1に例示した前記管状部材10を成形するため使用されるポリマー組成物は、種々の特性を有するよう配合される。例えば、本開示のポリマー組成物は繊維強化でき、316℃および400s−1で測定した場合に3500ポアズを超える溶融粘度を有することができる。例えば、前記組成物の溶融粘度は、約5000ポアズを超えてよく、例えば約7500ポアズを超え、例えば場合により316℃および400s−1(キャピラリーレオメーター)で測定したとき約10,000ポアズを超えてもよい。大半の用途において、溶融粘度は、316℃および400s−1で測定した場合、一般に約12,500ポアズ未満である。
【0036】
前記組成物は、低せん断率で比較的高い貯蔵弾性率を有することもできる。例えば、前記組成物の低せん断率貯蔵弾性率は、一般に310℃および0.1rad/sで測定したとき約1500Paを超えるものであってよい。例えば、この低せん断率貯蔵弾性率は、一般に310℃および0.1rad/sで測定したとき、1600Paを超えるものであってよく、例えば1700Paを超えるものであってよく、例えば1800Paを超えるものであってよく、例えば1900Paを超えるものであってよく、例えば場合により2000Paを超えるものであってよい。この低せん断率貯蔵弾性率は、一般に310℃および0.1rad/sで測定したとき約6000Pa未満であってよく、例えば4000Pa未満であってよい。
【0037】
また、前記組成物は、図7に示すように応力−ひずみ曲線で一定の特徴を呈する。
【0038】
本開示の組成物配合に使用される成分を混合すると、その相乗効果により、表面が滑らかで壁厚が制御された製品を製造するブロー成形中の制御を、比較的高い押出率で大幅に改善することができる。
【0039】
図8〜11を参照すると、本開示に基づいて作製される成形品の別の一実施形態が示されている。前記管状部材50は、3次元の複雑な形状を有する。特に、この管状部材は、複数の直線的なセクションおよび湾曲したセクションを含むため、当該管状部材の軸はXY平面、XZ平面、YZ平面に延在している。
【0040】
この管状部材50は、その複雑な形状をより適切に例示するため、図8〜11で複数の視点から示されている。例えば、矩形の箱を当該管状部材の周囲に描画すると、その箱は、この部品の形状全体を収容する上で著しい容積を有することになる。
【0041】
これらの図で示すように、前記管状部材50は、直線的なセクション52、54、56、58、および60を含む。また、この管状部材50は、湾曲したセクション62、64、66、68、および68を含む。湾曲したセクション62は、直線的なセクション52と直線的なセクション54間の位置にある。湾曲したセクション64は、直線的なセクション54と直線的なセクション56間の位置にある。一方、湾曲したセクション66は、直線的なセクション56と直線的なセクション58間の位置にある。最後に、湾曲したセクション68は、直線的なセクション58と直線的なセクション60間の位置にある。
【0042】
当該管状部材の湾曲したセクションは、それぞれ角変位を生じている。前記湾曲したセクションは、単一の平面内にあっても、または複数の平面内にあってもよい(当該管状部材の軸に基づいて、この軸が各平面内にあるよう)。
【0043】
前記図で示したように、前記管状部材は通路70を画成する。この通路70は、流体を搬送するためのものである。特に、この通路70は、第1の端部または開口部72から第2の端部または開口部74へ延長する。上述のように、当該管状部材は特に当該部品が高温にさらされる環境での使用に適している。
【0044】
特に図9〜11を参照すると、前記湾曲したセクションにより生じた角変位がさらに詳しく示されている。本開示の種々の実施形態では、複数の湾曲したセクションを有して極端な角度、例えば約60°〜約120°、例えば約70°〜約110°、例えば約80°〜約100°の種々の角度で複数の角変位を生じる管状部材を製造することができる。例えば図9〜11で例示した実施形態では、前記管状部材50がそのような3つの湾曲したセクションを含む。ただし、前記管状部材には、さらに極端な角度を含むさらに湾曲したセクションを含められることを理解すべきである。
【0045】
前記管状部材50に含まれる前記湾曲したセクションを参照すると、図8および9が湾曲したセクション62を最適に例示している。図示したように、この湾曲したセクションにより、当該管状部材に約90°の角変位が生じている。湾曲したセクション62の角変位は、単一平面内にある。この湾曲したセクション62は、90°エルボとして説明できる。
【0046】
当該管状部材50の湾曲したセクション64は、前記湾曲したセクション62より複雑である。湾曲したセクション64は、図9〜11で複数の視点から示されている。実際、湾曲したセクション64は、異なる平面内にある複数の角変位を含む。例えば図11で示したように、湾曲したセクション64は、やや緩やかな第1の角変位80を含む。特に、角変位80は、当該管状部材の軸に対して測定すると約5°〜約20°である。図9に示したように、湾曲したセクション64は、より極端な角変位も含む。例えば、図9および10に示したように、湾曲したセクション64は、約70°〜約110°、特に約80°〜約100°の角変位82を含み角変位80とは異なる平面内にある。例えば角変位82は、図10に示されており、そこで直線的なセクション56が直線的なセクション54と約90°の角度を形成する。
【0047】
前記角変位82のほか、湾曲したセクション64は、前記角変位82の平面と異なる角変位84をさらに含む。例えば図10を参照すると、湾曲したセクション64は、前記角変位82を形成するだけでなく、前記角変位82のある平面と交差する平面内にある角変位84も同時に形成している。角変位84は、当該管状部材50の軸に対して約30°〜約70°である。
【0048】
図10および11を参照すると、当該管状部材50は、湾曲したセクション66をさらに含む。この湾曲したセクション66は、小さな角変位を生じるのみであるが、これを複数の平面内で行う。例えば図10で示したように、湾曲したセクション66は、第1の平面内に見られる角変位88を生じる。図11で示したように、前記湾曲したセクション66は、異なる平面内にある角変位90も生じる。そのため、これらの角変位は極端なものではないが、この湾曲したセクション66を製造するには、当該管状部材50を成形するため使用されるパリソンを異なる方向へ操作しなければならない。
【0049】
当該管状部材50は、図9、10、および11に示すように、前記湾曲したセクション68をさらに含む。この湾曲したセクション68も、異なる平面内で複数の角変位を生じる。例えば図10および11に示したように、この湾曲したセクション68は、第1の平面内で約90°の角変位92を生じる。図9で示したように、前記湾曲したセクション68は、異なる平面内にある第2の角変位、具体的には前記第1の平面と交差する第2の平面も生じる。図9に示したように、その第2の角変位は少なくとも約50°で、例えば約50°〜約80°である。
【0050】
上述のように、本開示の管状部材は、溶融温度が比較的高いポリマーを含有するポリマー組成物で作製された1ピースの成形部品を有する。前記ポリマー組成物に含まれるポリマーは、例えば約280℃を超える、例えば約285℃を超える、例えば約290℃を超える、例えば約295℃を超える、例えば場合により約300℃を超える融点を有する。一般に、その熱可塑性ポリマーの融点は約340℃未満である。上記のポリマーを含むポリマー組成物は、特に複雑な3次元形状を有する管状部材を成形するブロー成形工程中に操作および成形することが難しい。
【0051】
本開示によれば、前記ポリマー組成物は、一定の溶融伸度特性を有するよう配合される。
【0052】
前記ポリマー組成物中に存在する高温ポリマーは、特定の状況および望ましい結果に応じて異なる。前記ポリマー組成物に導入できる高温ポリマーの非網羅的リストには、液晶ポリマー、ポリイミドポリマー、ポリアリールエーテルケトンポリマー、ポリエーテルイミドポリマー、フッ素ポリマー、ポリエステルポリマー(例えば、ポリシクロヘキシレン・ジメチル・テレフタラート)、ポリフェニレン・スルフィド・ポリマー、およびこれらの組み合わせが含まれる。
【0053】
例えば、一実施形態において、前記ポリマー組成物には液晶ポリマーを含めることができる。適切なサーモトロピック液晶ポリマーとしては、例えば芳香族ポリエステル、芳香族ポリ(エステルアミド)、芳香族ポリ(炭酸エステル)、芳香族ポリアミドなどを含めてよく、また同様に、1若しくはそれ以上の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族アミノカルボン酸、芳香族アミン、芳香族ジアミンなどのほか、これらの組み合わせから形成される繰り返し単位を含めることができる。
【0054】
例えば、芳香族ポリエステルは、(1)2若しくはそれ以上の芳香族ヒドロキシカルボン酸、(2)少なくとも1つの芳香族ヒドロキシカルボン酸、少なくとも1つの芳香族ジカルボン酸、および少なくとも1つの芳香族ジオール、および/または(3)少なくとも1つの芳香族ジカルボン酸および少なくとも1つの芳香族ジオールから得られる。適切な芳香族ヒドロキシカルボン酸の例としては、4−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ−4′−ビフェニルカルボン酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−5−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、4′−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3′−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4′−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸などのほか、アルキル、アルコキシ、アリール、およびそのハロゲン置換基などがある。適切な芳香族ジカルボン酸の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4′−ジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4′−ジカルボキシビフェニル、ビス(4−カルボキシフェニル)エーテル、ビス(4−カルボキシフェニル)ブタン、ビス(4−カルボキシフェニル)エタン、ビス(3−カルボキシフェニル)エーテル、ビス(3−カルボキシフェニル)エタンなどのほか、アルキル、アルコキシ、アリール、およびそのハロゲン置換基などがある。適切な芳香族ジオールの例としては、ヒドロキノン(ハイドロキノン)、レゾルシノール、2,6−ジヒドロナフタレン、2,7−ジヒドロナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、4,4′−ジヒドロキシビフェニル、3,3′−ジヒドロキシビフェニル、3,4′−ジヒドロキシビフェニル、4,4′−ジヒドロキシビフェニルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどのほか、アルキル、アルコキシ、アリール、およびそのハロゲン置換基などがある。特定の一実施形態では、芳香族ポリエステルが4−ヒドロキシ安息香酸および2,6−ヒドロキシナフトエ酸から得られる。4−ヒドロキシ安息香酸から得られるモノマー単位は、モルベースで前記ポリマーの約45%〜約85%(例えば、73%)、また2,6−ヒドロキシナフトエ酸から得られるモノマー単位は、モルベースで前記ポリマーの約15%〜約55%(例えば、27%)を構成することができる。以上に述べた芳香族ポリエステル等の合成および構造は、米国特許第4,161,470号、第4,473,682号、第4,522,974号、第4,375,530号、第4,318,841号、第4,256,624号、第4,219,461号、第4,083,829号、第4,184,996号、第4,279,803号、第4,337,190号、第4,355,134号、第4,429,105号、第4,393,191号、第4,421,908号、第4,434,262号、および第5,541,240号でさらに詳しく説明されている。
【0055】
液晶ポリエステルアミドも、同様に(1)少なくとも1つの芳香族ヒドロキシカルボン酸および少なくとも1つの芳香族アミノカルボン酸、(2)少なくとも1つの芳香族ヒドロキシカルボン酸、少なくとも1つの芳香族ジカルボン酸、および少なくとも1つの芳香族アミン、および/または任意選択的にフェノール性水酸基を有するジアミン、(3)少なくとも1つの芳香族ジカルボン酸および少なくとも1つの芳香族アミン、および/または任意選択的にフェノール性水酸基を有するジアミンから得られる。適切な芳香族アミンおよびジアミンとしては、例えば、3−アミノフェノール、4−アミノフェノール、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミンなどのほか、アルキル、アルコキシ、アリール、およびそのハロゲン置換基などがある。特定の一実施形態では、前記芳香族ポリエステルアミドが、2,6−ヒドロキシナフトエ酸、テレフタル酸、および4−アミノフェノールから得られる。2,6−ヒドロキシナフトエ酸から得られるモノマー単位は、モルベースで前記ポリマーの約35%〜約85%(例えば、60%)、テレフタル酸から得られるモノマー単位は、モルベースで前記ポリマーの約5%〜約50%(例えば、20%)、また4−アミノフェノールから得られるモノマー単位は、モルベースで前記ポリマーの約5%〜約50%(例えば、20%)を構成することができる。別の実施形態では、前記芳香族ポリエステルアミドが、2,6−ヒドロキシナフトエ酸、4−ヒドロキシ安息香酸、および4−アミノフェノールのほか、他の任意選択的なモノマー(例えば、4,4′−ジヒドロキシビフェニルおよび/またはテレフタル酸)から得られるモノマー単位を含む。以上に述べた芳香族ポリ(エステルアミド)等の合成および構造は、米国特許第4,339,375号、第4,355,132号、第4,351,917号、第4,330,457号、第4,351,918号、および第5,204,443号でさらに詳しく説明されている。
【0056】
別の実施形態では、前記ポリマー組成物にポリアリーレンスルフィドポリマーを含めることができる。特定の一実施形態では、前記ポリマー組成物に、直鎖状ポリアリーレンスルフィド樹脂と分岐状ポリアリーレンスルフィド樹脂を組み合わせたものを含めることができる。本開示の組成物に使用できる前記直鎖状ポリアリーレンスルフィド樹脂は、特定の用途および望ましい結果に応じて異なる。使用できるポリアリーレンスルフィド樹脂は、化学式−(−Ar−S−)−で表される繰り返し単位から成り、式中、Arはアリーレン基である。
【0057】
前記直鎖状ポリアリーレンスルフィド樹脂中に存在できるアリーレン基の例としては、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基および置換フェニレン基(その場合、置換基は、アルキル基、好ましくは1〜5個の炭素原子を有するまたはフェニル基)、p,p′−ジフェニレンスルホン基、p,p′−ビフェニレン基、p,p′−ジフェニレンエーテル基、p,p′−ジフェニレンカルボニル基、およびナフタレン基などがある。
【0058】
一実施形態では、使用できるポリアリーレンスルフィドとして、次式の繰り返し単位を含むポリアリーレンチオエーテルなどがある。
【0059】
【化1】
【0060】
式中、Ar、Ar、Ar、およびArは、互いに同じであるか異なり、かつ炭素原子が6〜18個のアリーレン単位であり、W、X、Y、およびZは、互いに同じであるか異なり、かつ−SO−、−S−、−SO−、−CO−、−O−、−COO−から選択される二価の結合基または炭素原子が1個〜6個のアルキレン基かアルキリデン基であって、前記結合基のうち少なくとも1つは−S−であり、n、m、i、j、k、l、o、およびpは、互いに独立にゼロあるいは1、2、3、または4であり、それらの合計が2未満ではないという条件が適用される。前記アリーレン単位Ar、Ar、Ar、およびArは、選択的に置換でき、または非置換とできる。アリーレン単位としては、フェニレン、ビフェニレン、ナフチレン、アントラセン、およびフェナントレンなどがある。前記ポリアリーレンスルフィドには、少なくとも30モルパーセント、特に少なくとも50モルパーセント、およびより具体的には少なくとも70モルパーセントのアリーレンスルフィド(−S−)単位を含めることができる。そのポリアリーレンスルフィド・ポリマーには、2つの芳香環に直接結合したスルフィド結合を少なくとも85モルパーセント含めることができる。
【0061】
一実施形態において、前記直鎖状ポリアリーレンスルフィドポリマーは、ポリフェニレンスルフィド(polyphenylene sulfide:PPS)であり、本明細書においてフェニレンスルフィド構造−(C−S)−(式中、nは1以上の整数)をその成分として含むと定義される。
【0062】
ポリフェニレンスルフィド樹脂は、310℃および0.1rad/secで13,000ポアズ未満の複雑な溶融粘度を呈する場合、高い直線性を有すると考えられている。高い直鎖性を有するポリフェニレンスルフィド樹脂は、310℃および0.1rad/secで13,000ポアズ未満の複雑な溶融粘度を呈することが好ましい。本発明の目的上、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度は、ARES(登録商標)ひずみ制御レオメーター(TA Instruments製)を、25mmディスクおよび310℃で周波数0.1rad/secの並列プレート幾何構成を使って動的(周期的振動)せん断モードで操作して決定できる。ARES(登録商標)レオメーターで測定したとき上記で定義した高い直鎖性を有するPPSの場合、それに対応する溶融粘度をキャピラリーレオメーターで310℃、せん断率1200 1/sにおいて測定すると6500ポアズ未満であることが好ましい。
【0063】
本発明を実施する際の利用に適した直鎖状ポリフェニレンスルフィド樹脂の作製に使用できる合成技術は、米国特許第4,814,430号、米国特許第4,889,893号、米国特許第5,380,783号、および米国特許第5,840,830号に説明されており、各々の開示内容全体がこの参照により本明細書に組み込まれる
本開示の組成物に使用するため選択される直鎖状ポリアリーレンスルフィドポリマーは、種々の要因に応じて異なる。例えば、一般に直鎖状ポリアリーレンスルフィドポリマーは、成形工程、例えばブロー成形工程に適合し、かつ当該組成物に含まれる他の成分に適合したものを選択すべきである。一般に、例えば、その直鎖状ポリアリーレンスルフィドポリマーは、約20Pa.s〜約500Pa.s(約200ポアズ〜約5,000ポアズ)の溶融粘度を有することができる。本明細書において、前記直鎖状ポリアリーレンスルフィドポリマーの溶融粘度は、ASTM試験第1238−70号に基づいて316℃および1200s−1で決定される。
【0064】
本開示で使用するため選択される直鎖状ポリアリーレンスルフィドポリマーは、比較的低い含有量の塩素も有することができる。一般に、溶融粘度の比較的低いポリマーは、比較的大きな塩素含有量を有する。そのため、適切な溶融粘度を有するポリマーの選択と、低い含有量を有するポリマーの選択との間でバランスが取られる。一実施形態において、前記直鎖状ポリアリーレンスルフィドポリマーは、塩素含有量が900ppm未満の組成物を生成するため、約2000ppm未満の塩素含有量を有することができる。
【0065】
本開示で使用できる直鎖状ポリアリーレンスルフィドポリマーは、多数の市販元から入手できる。一実施形態では、例えば、ポリマーをTicona LLCおよび/またはCelanese CorporationからFORTRON(登録商標)という商品名で購入できる。
【0066】
一実施形態では、比較的高い溶融粘度を有する直鎖状ポリアリーレンスルフィドポリマーを比較的低い溶融粘度を有する直鎖状ポリアリーレンスルフィドポリマーと混合して、望ましい特徴を有するPPSポリマーを生成できる。
【0067】
直鎖状ポリアリーレンスルフィドポリマーのほか、本開示の組成物は、分岐状ポリアリーレンスルフィドポリマー、特に分子量が比較的高い分岐状ポリフェニレンスルフィドポリマーも含む。
【0068】
前記分岐状ポリアリーレンスルフィドポリマーは、硫黄化合物とジハロ芳香族化合物を、3若しくはそれ以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物の存在下で重合して得られる分岐構造を有することができる。
【0069】
前記使用されるジハロ芳香族化合物は、2個のハロゲン原子が直接芳香環に結合したジハロゲン化芳香族化合物であってよい。そのジハロ芳香族化合物の具体例としては、o−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、p−ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ−ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、およびジハロジフェニルケトンなどがある。これらのジハロ芳香族化合物は、単一で、またはこれらの任意の組み合わせのどちらかで使用できる。
【0070】
前記ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素であってよく、同じジハロ芳香族化合物中の2個のハロゲン原子は、同じでも互いに異なってもよい。多くの場合、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、またはその2若しくはそれ以上の混合物が、ジハロ芳香族化合物として使用される。
【0071】
前記3若しくはそれ以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物は、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂に分岐構造を導入するため使用される。ハロゲン置換基は、一般に、芳香環に直接結合したハロゲン原子である。そのハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素であってよく、同じジハロ芳香族化合物中の複数のハロゲン原子は、同じでも互いに異なってもよい。
【0072】
前記ポリハロ芳香族化合物の具体例としては、1,2,3−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、1,2,3,4−テトラクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロ−2,4,6−トリメチルベンゼン、2,4,6−トリクロロトルエン、1,2,3−トリクロロナフタレン、1,2,4−トリクロロナフタレン、1,2,3,4−テトラクロロナフタレン、2,2′,4,4′−テトラクロロビフェニル、2,2′,4,4′−テトラクロロベンゾフェノン、および2,4,2′−トリクロロベンゾフェノンなどがある。
【0073】
これらのポリハロ芳香族化合物は、単一で、またはこれらの任意の組み合わせのどちらかで使用できる。前記ポリハロ芳香族化合物のうち、トリハロベンゼン、例えば1,2,4−トリクロロベンゼンおよび1,3,5−トリクロロベンゼンが好ましく、トリクロロベンゼンがより好ましい。
【0074】
一実施形態では、モル重量比率が0.3〜8%、例えば約1%〜約5%の三官能性モノマー、例えばトリクロロベンゼンを共重合させることにより、分岐が実現される。分岐は、まず二官能性モノマーで直鎖状ポリマーを得たのち、そのポリマーを空気中または空気と窒素の混合物中においてガラス転移温度(80℃)と融点遷移(melting point transition)(275℃)間の温度で長時間加熱してより分子量の高い固体にすることにより得られる。高レベルの分岐が達成された時点で、前記ポリフェニレンスルフィドの粘性は非常に高くなっている可能性が高い。
【0075】
分岐状ポリアリーレンスルフィド樹脂を生成する工程の1つは、(1)初期段階の重合工程(A)であって、アルカリ金属硫化物と、ジハロ芳香族(dihaloaromatic)化合物(本明細書において以下、「DHA」という)と、分子中に2より多くのハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族(polyhaloaromatic)化合物(本明細書において以下、「PHA」という)とを、有機アミド溶媒中で、前記アルカリ金属硫化物1モルにつき0.5〜2.9モルの量の水の存在下で、180°〜235℃範囲の温度で、DHAおよびPHAの合計変換量が50〜98%に達し、かつ当該工程の終了時に得られたポリアリーレンスルフィドの溶融粘度が310℃およびせん断率1,200/秒で測定したとき5〜5,000ポアズになるまで、反応させる、初期段階の重合工程(A)と、(2)温度上昇工程(B)であって、供給されるアルカリ金属硫化物1モルにつき2.5〜7モルになるよう水の量を調整しながら、当該反応混合液が240℃に達するまでその温度上昇条件を制御して、240℃で得られたプレポリマーの溶融粘度が、310℃およびせん断率1,200/秒で測定したとき300〜10,000ポアズになるようにし、240℃と次の工程の反応温度との間の温度上昇条件が10°〜100℃/時の範囲内になるようさらに制御する、温度上昇工程(B)と、(3)第2段階の重合工程(C)であって、最終ポリマーの溶融粘度が330℃およびせん断率2/秒で測定したとき100,000ポアズ若しくはそれ以上になるまで、245°〜290℃の範囲の温度で前記反応混合液をさらに反応させる、第2段階の重合工程(C)とを有する。
【0076】
一般に、前記分岐状ポリアリーレンスルフィド樹脂は、温度330℃およびせん断率2sec−1で測定したとき約100,000Pa.s〜約300,000Pa.sの溶融粘度を有することができる。一実施形態において、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の平均分子量は、約15,000〜約40,000、例えば約22,000〜約30,000グラム/モルである。前記ポリマーの数平均分子量は、約3,000〜約10,000、例えば約4,500〜約9,000グラム/モルである。
【0077】
一般に、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、前記組成物中に約35重量%を超える量存在する。例えば、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂は、約50重量%を超える量、例えば60重量%を超える量、例えば70重量%を超える量存在する。このポリアリーレンスルフィド樹脂は、一般に、約95重量%未満の量、例えば90重量%未満の量存在する。
【0078】
前記直鎖状ポリアリーレンスルフィド樹脂に対する前記分岐状ポリアリーレンスルフィド樹脂の相対比率は、種々の要因に応じて異なる。その要因としては、前記組成物に含まれる他の成分および達成すべき望ましい特性などがある。一般に、前記分岐状ポリアリーレンスルフィド樹脂と前記直鎖状ポリアリーレンスルフィド樹脂との間の重量比は、約1:5〜約1:60、例えば約1:20〜約1:50、例えば約1:30〜約1:40である。
【0079】
一実施形態において、本開示の組成物は、前記直鎖状ポリフェニレンスルフィド樹脂を約50重量%〜約90重量%、例えば約60重量%〜約80重量%の量含む。一方、前記分岐状ポリフェニレンスルフィド樹脂は、当該組成物中に約0.5重量%〜約30重量%、例えば約1重量%〜約15重量%の量存在させることができる。
【0080】
一般に、直鎖状ポリアリーレンスルフィド樹脂と分岐状ポリアリーレンスルフィド樹脂との組み合わせは、前記組成物の低せん断率貯蔵弾性率を劇的に高めることがわかっている。本開示によれば、応力−ひずみ特性、溶融粘度特性、せん断率貯蔵弾性率特性、または流体状態の前記ポリマーまたは前記成形工程中に作製される最終品に関する他の特徴および特性をさらに改善するため、他の種々の成分を単独で、または前記ポリアリーレン硫化物樹脂と組み合わせて前記組成物に含めることができる。
【0081】
例えば、一実施形態において、前記ポリマー組成物はさらにポリフェニレンオキシドを相溶化剤との組み合わせで含む。
【0082】
そのポリフェニレンオキシドポリマーは、例えば、熱可塑性で直鎖状の非結晶性ポリエーテルを含有することができる。当該ポリフェニレンオキシドポリマーは、前記組成物全体に種々の利点をもたらすことができる。一実施形態では、例えば、前記ポリフェニレンオキシドポリマーを前記組成物に含めて熱安定性を高めることができる。
【0083】
ポリフェニレンオキシドは、種々の工程、例えば3,5−ジブロモベンゼン−1,4−ジアゾオキシドの熱分解、縮合反応を通じたハロゲン化フェノールの酸化、およびベンゾフェノン中のカリウムまたは銀ハロゲン化フェネートの還流により調製できる。
【0084】
一実施形態において、前記ポリフェニレンオキシドポリマーは、次式の繰り返し単位を有することができる。
【0085】
【化2】
【0086】
式中、RおよびR′は、同じでも異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、置換炭化水素基、非置換炭化水素基、ハロ炭化水素、アルコキシ基、またはフェノキシ基である。例えば、RおよびR′は、CH、CHCH、イソプロピル、CHO、CH、Cl、およびCとしてよい。RおよびR′は、脂肪族基、脂環式基、および芳香族基を含む、炭素原子が1個〜8個の炭化水素基であることが好ましい。RおよびR′は、同じであることが最も好ましい。
【0087】
使用できるポリフェニレンオキシドの1つはポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキシド)である。
【0088】
存在する場合、前記ポリフェニレンオキシドは一般に、前記組成物中に約3重量%〜約50重量%、例えば約10重量%〜約30重量%の量含めることができる。
【0089】
ポリフェニレンオキシドに加え若しくはその代わりに、前記組成物には、他のポリマーを含めることができる。他のポリマーとしては、例えば、高温ポリアミド(溶融温度が270℃を超える、例えば300℃を超えるもの)、液晶ポリマー、例えば芳香族ポリエステルポリマー、ポリエチレンイミンポリマーなどがある。上記のポリマーは、単独で、または上述した重量パーセントで他のポリマーと組み合わせて存在できる。
【0090】
前記ポリマー組成物には、相溶化剤も含めることができる。その相溶化剤は、前記ポリアリーレンスルフィドと他の成分間の界面相を強化するよう存在することができる。一部の実施形態において、その相溶化剤は、グラフト結合(graftlinking)添加剤、例えば以下に(i)、(ii)、および(iii)として例示したものである。
【0091】
(i)は次の構造を有し、
【0092】
【化3】
【0093】
式中、RおよびRは、同じでも異なってもよく、一価のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、またはアルカリル基のうち炭素原子が1個〜20個のもの、あるいはそのエーテル置換誘導体、あるいはハロゲンを表し、Rは、一価のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、またはアルカリル基のうち炭素原子が1個〜20個のもの、あるいはそのエーテル置換誘導体、あるいはそのオキシ誘導体またはエーテル置換オキシ誘導体、あるいはハロゲンを表し、A、B、およびCは、一価のアロキシ基、チオアロキシ基、リン酸ジエステル基、ジエステルピロリン酸基、オキシアルキルアミノ基、スルホニル基、またはカルボキシル基を表し、a、b、およびcは整数を表し、a、b、およびcの合計は3であり、
(ii)は次の構造を有し、
【0094】
【化4】
【0095】
式中、各Rは、1個〜8個の炭素原子を有するアルキルラジカルを表し、Rは、1個〜15個の炭素原子を有するアルキレンと、アリーレンと、6個〜10個の炭素原子を有するアルキル置換アリーレン基とから成る群から選択される二価のラジカルを表し、Wはエポキシ基を表し、yは1〜3の整数を表し、zは1〜3の整数を表し、yとzの合計は4に等しく、Xは、チタンまたはジルコニアを表し、
(iii)は次の構造を有し、
【0096】
【化5】
【0097】
式中、Zは次から成る群から選択され、
【0098】
【化6】
【0099】
【化7】
【0100】
【化8】
【0101】
式中、Rは、炭素原子が1個〜4個のアルキル基、シクロヘキシル基、またはフェニル基、Rは、炭素原子が1個〜8個のアルコキシ基または炭素原子が5個〜8個のシクロアルコキシ基、Alkは、炭素原子が1個〜18個の二価炭化水素、nは2〜8の整数である。
【0102】
相溶化剤としての前記タイプ(iii)の化合物は、米国特許第5,149,731号に開示されており、その開示内容全体はこの参照により本明細書に組み込まれる。
【0103】
好適な相溶化剤は、ビニルアルコキシシランと、エポキシアルコキシシランと、アミノアルコキシシランと、メルカプトアルコキシシランとから成る群から選択されるアルコキシシラン化合物またはオルガノシラン化合物である。利用できるビニルアルコキシシランの例としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、およびビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シランなどがある。利用できるエポキシアルコキシシランの例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、およびγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどがある。利用できるメルカプトアルコキシシランの例としては、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランおよびγ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどがある。
【0104】
アミノシランは、ポリアリーレンスルフィドおよび他の成分の相溶化を実施する際に使用できるアルコキシシランの好適なクラスであり、通常、式R−Si−(Rで表され、式中、Rは、アミノ基、例えばNHと、炭素原子が約1〜約10個、好ましくは炭素原子が約2〜約5個のアミノアルキル、例えばアミノメチル、アミノエチル、アミノプロピル、アミノブチルなどと、炭素原子が約2〜約10個、好ましくは炭素原子が約2〜約5個のアルケン、例えばエチレン、プロピレン、ブチレンなどと、炭素原子が約2〜約10個、好ましくは炭素原子が約2〜約5個のアルキン、例えばエチン、プロピン、ブチンなどとから成る群から選択され、Rは、原子約1〜約10個、好ましくは炭素原子が約2〜約5個のアルコキシ基、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシなどである。好適な一実施形態では、前記R−Si−(Rのアミノシラン化合物において、Rは、アミノメチルと、アミノエチルと、アミノプロピルと、エチレンと、エチンと、プロピレンと、プロピンとから成る群から選択され、Rは、メトキシ基と、エトキシ基と、プロポキシ基とから成る群から選択される。
【0105】
通常、前記アミノシラン化合物は、次式のものであることが好ましい。
【0106】
−Si−(R
式中、Rは、アミノ基、例えばNHまたは炭素原子が約1〜約10個のアミノアルキル、例えばアミノメチル、アミノエチル、アミノプロピル、アミノブチルなどであり、Rは、原子が約1〜約10個のアルコキシ基、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などである。また、前記アミノシランは、式R−Si−(Rのものであることが好ましく、式中、Rは、炭素原子が約2個〜約10個のアルケン、例えばエチレン、プロピレン、ブチレンなどと、炭素原子が約2個〜約10個のアルキン、例えばエチン、プロピン、ブチンなどとから成る群から選択され、Rは炭素原子が約1個〜約10個のアルコキシ基、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などである。前記アミノシランは、式R−Si−(R、R−Si−(R、およびR−Si−(Rの種々の化合物の混合物とできる。
【0107】
使用できるいくつかの代表的なアミノシランとしては、アミノプロピル・トリエトキシ・シラン、アミノエチル・トリエトキシ・シラン、アミノプロピル・トリメトキシ・シラン、アミノエチル・トリメトキシ・シラン、エチレン・トリメトキシ・シラン、エチレン・トリエトキシ・シラン、エチン・トリメトキシ・シラン、エチン・トリエトキシ・シラン、アミノエチルアミノプロピルトリメトキシ・シラン、3−アミノプロピルトリエトキシ・シラン、3−アミノプロピルトリメトキシ・シラン、3−アミノプロピルメチル・ジメトキシ・シランまたは3−アミノプロピル・メチル・ジエトキシ・シラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル・トリメトキシ・シラン、N−メチル−3−アミノプロピル・トリメトキシ・シラン、N−フェニル−3−アミノプロピル・トリメトキシ・シラン、ビス(3−アミノプロピル)テトラメトキシ・シラン、ビス(3−アミノプロピル)テトラエトキシ・ジシロキサン、およびこれらの組み合わせなどがある。また、前記アミノシランは、アミノアルコキシシラン、例えばγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ジアリルアミノプロピルトリメトキシシラン、およびγ−ジアリルアミノプロピルトリメトキシシランであってもよい。非常に好適なアミノシランは3−アミノプロピルトリエトキシシランで、これはDegussa、Sigma Chemical Company、およびAldrich Chemical Companyから入手できる。
【0108】
他の実施形態では、前記相溶化剤が修飾ポリフェニレンエーテル、例えばHanらの米国特許第5,122,578号で開示されたエポキシトリアジンでキャップしたポリフェニレンエーテルによりもたらされており、前記米国特許第5,122,578号は、この参照により本明細書に組み込まれる。別のPPO用エンドキャップは、エポキシクロロトリアジンである。さらに別の相溶化剤は、Khouriらの米国特許第5,132,373号に開示されており、例えばオルトエステルでキャップしたポリ(フェニレンエーテル)である。Khouriらの米国特許第5,212,255号は、オルトエステルでグラフトしたポリ(フェニレンエーテル)樹脂およびその調製方法を開示しており、当該米国特許第5,212,255号はこの参照により本明細書に組み込まれる。
【0109】
さらに別の実施形態において、ポリアリーレンスルフィドの他の成分との相溶化は、修飾したポリアリーレンスルフィドポリマーによりもたらすことができ、この修飾したポリアリーレンスルフィドポリマーは、アミノ基、カルボン酸基、金属カルボン酸塩(金属炭酸塩)基、ジスルフィド基基、チオ基、およびチオール酸金属塩基を含んでよい官能基を含むが、これに限定されるものではない。PPSに官能基を導入する方法は、ハロゲン置換PPSへの置換チオフェノール導入について開示している米国特許第4,769,424号に見られ、これはこの参照により本明細書に組み込まれる。別の方法では、アルカリ金属硫化物およびクロロ芳香族化合物と反応する望ましい官能性を含むクロロ置換芳香族化合物の導入を伴う。第3の方法では、通常、溶融物中または適切な高沸点溶媒中、例えばクロロナフタレン中の、望ましい官能基を含む二硫化物とPPSの反応を伴う。
【0110】
一実施形態において、前記ポリマー組成物はさらに粘性安定剤、例えばポリテトラフルオロエチレンポリマーを含む。ポリテトラフルオロエチレンポリマーは、前記組成物中に存在する場合、押出成形中の当該組成物の粘性をより均一にする傾向を有する。特に、ポリテトラフルオロエチレンポリマーは、完成品の不規則性、例えば不均一な壁厚につながるおそれのある低粘度領域の小ドメイン形成を、溶融処理中に抑制する。
【0111】
ポリテトラフルオロエチレンは、一般にE.I.DuPont de Nemours Co.,Inc.により上市された化合物の名称である連邦政府の登録商標TEFLON(登録商標)(テフロン)(登録商標)、ICI Americasにより上市された化合物の名称であるFLUON(登録商標)、およびICI Americasにより上市された粒子状粉末の名称であるWHITCON(登録商標)2として知られている。このような材料は、例えば台所用品の表面および他の機械用途に使用する際、その耐熱性および摩擦低減性が認められている。このような材料は、種々の形態で利用できる。この比較的一般的な形態の粒子状PTFEは、それより大きなPTFE粒子を粉砕または破砕して粉末粒子状のPTFEにすることで作製される。
【0112】
一般に、前記ポリテトラフルオロエチレンポリマーは、前記組成物中に約0.01重量%〜約5重量%、例えば約0.1重量%〜約2重量%の量存在させることができる。特定の一実施形態において、このポリテトラフルオロエチレンポリマーは、約2.0g/cm〜約2.3g/cm、例えば約2.1g/cm〜約2.2g/cmの比重を有する。特定の一実施形態において、このポリテトラフルオロエチレンポリマーは、約2.15g/cmの比重を有する。
【0113】
このポリマー組成物には、補強剤、例えば強化用繊維または鉱物充填剤も含めることができる。一実施形態では、例えば、前記樹脂組成物に、強化用ガラス繊維を含めることができる。この組成物には、任意の適切なガラス繊維を含めてよい。一実施形態では、例えば、その繊維は石灰アルミニウムホウケイ酸ガラスから成るようにできる。
【0114】
本開示に基づいて使用できる他の強化用繊維としては、炭素繊維(カーボンファイバー)、金属繊維、芳香族ポリアミド繊維、ロックウール繊維、形状記憶合金繊維、ホウ素繊維、ポリ(p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)繊維、およびこれらの混合物などがある。使用できる炭素繊維としては、非晶質炭素繊維、黒鉛状炭素繊維、または金属でコーティングした炭素繊維などがある。金属繊維としては、ステンレス鋼繊維、アルミニウム繊維、チタン繊維、マグネシウム繊維、タングステン繊維などがある。
【0115】
繊維の直径は、使用される特定の繊維に応じて異なり、短繊維または連続繊維のどちらかの形態で利用できる。前記強化用繊維は、例えば、約100ミクロン未満、例えば約50ミクロン未満の直径を有することができる。例えば、短繊維または連続繊維は、約5ミクロン〜約50ミクロン、例えば約5ミクロン〜約15ミクロンの繊維直径を有することができる。必要に応じ、前記繊維は、前記ポリマーとの混合も促進するサイズ調整の前処理を施してもよい。繊維の長さは、当業者であれば、前記ポリマー組成物中の繊維を混合し、および/または分散させるため使用される配合条件(例えば、温度プロファイル、押出速度、およびせん断またはスクリュー回転速度)およびスクリュー設計(攪拌強度の制御)を変化させることにより、配合中に制御できる。一実施形態において、例えば、前記繊維は、約3mm〜約5mmの初期長を有することができる一方、配合後の最終長は、配合に使用される配合条件およびスクリュー設計の選択肢に応じて約100ミクロン〜約1500ミクロンと異なる。
【0116】
前記強化用繊維は、結果的に得られる物品中に約10重量%〜約50重量%、例えば約10重量%〜約25重量%の量存在させることができる。
【0117】
前記樹脂組成物に含めることができる適切な鉱物充填剤としては、滑石(タルク)、粘土、シリカ、ケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、雲母、炭酸カルシウム、二酸化チタン、これらの混合物などがある。それらの充填剤は、約0.5重量%〜約30重量%、例えば約5重量%〜約25重量%の量、前記組成物中に存在させることができる。
【0118】
前記ポリアリーレンスルフィドポリマーおよび上述した他の成分のほか、本開示の組成物には、さらに、耐衝撃性改良剤を含めることができる。
【0119】
一実施形態では、耐衝撃性改良剤として、前記相溶化剤と化学反応性の高いものが選択される。一実施形態において、例えば前記耐衝撃性改良剤は、ポリオレフィンおよびメタクリル酸グリシジルのランダム共重合体を有することができる。例えば、一実施形態において、前記耐衝撃性改良剤は、ポリエチレンおよびメタクリル酸グリシジルのランダム共重合体を有することができる。そのランダム共重合体に含まれるメタクリル酸グリシジルの量は、場合に応じて異なる。特定の一実施形態では、前記ランダム共重合体が約6重量%〜約10重量%の量のメタクリル酸グリシジルを含む。
【0120】
上記の耐衝撃性改良剤は、オルガノシラン相溶化剤および前記ポリフェニレンスルフィド樹脂と組み合わせて、前記組成物の低せん断粘度、溶融伸度、および溶融強度を高めるようにできる。そのため、一実施形態において、前記耐衝撃性改良剤は、約0.5重量%〜約10重量%の量、前記組成物中に存在する。
【0121】
上述のように繊維強化されたポリマー組成物は、最適な特性の組み合わせを有する。本開示に基づいて配合された組成物は、ゼロ付近のせん断率において比較的高い溶融強度を有し、かつ高いひずみパーセントにおいて比較的高い公称応力を有しながら、高いせん断率において加工可能な溶融粘度を有する。上記の特性の組み合わせにより、この熱可塑性材料は溶融温度近くでその形状を保つことができ、それが複雑な形状の部品のブロー成形工程において非常に重要になる。
【0122】
溶融粘度が高く、かつ低せん断率での貯蔵弾性率が高いことから、例えば、前記パリソンの押出成形中または成形中に前記ポリマーをより適切に制御することができる。例えば、本開示の組成物は、壁の厚さが均一で内面が滑らかな物品の押出ブロー成形を可能にする。また、当該ポリマー組成物は高い押出率を可能にする。さらに、高いひずみパーセントで高い公称応力を有することで、前記パリソンの複雑な3次元操作処理を実現する能力が高まる。前記組成物の加工可能性が改善されることにより、当該組成物は、比較用製品より低いスクラップ率で処理能力が高まる。
【実施例】
【0123】
本開示に基づき、種々の組成物(試料1〜8)を配合した。それらの組成物は、直鎖状ポリフェニレンスルフィド樹脂を分岐状ポリフェニレンスルフィド樹脂と合わせて含むものであった。比較用の組成物(1115L0)として、直鎖状ポリフェニレンスルフィド樹脂だけを含むものも配合した。種々の伸長パーセントにおける公称応力を決定するため、図7に示すように、試料1〜8と前記比較用試料について応力−ひずみ曲線をプロットした。これらの組成物については、低せん断率貯蔵弾性率、溶融粘度、および引張強度も試験した。これらのデータを以下のチャートにまとめる。
【0124】
前記組成物は、以下の成分で調製した。
【0125】
1.1200s−1、316℃で測定したとき140Pa.sの溶融粘度を有する直鎖状ポリフェニレンスルフィド樹脂。
【0126】
2.分岐状ポリフェニレンスルフィド樹脂。
【0127】
3.10ミクロンの平均直径を有するガラス繊維。
【0128】
4.2.15g/cmの比重を有したポリテトラフルオロエチレン粉末。
【0129】
5.信越化学工業株式会社から市販されている製品番号KBE−903、アミノシラン結合剤。
【0130】
6.エチレンおよびメタクリル酸グリシジルのランダム共重合体を有する耐衝撃性改良剤であって、メタクリル酸グリシジルの含有量が8重量%のもの。
【0131】
7.Lonza,Inc.からGLYCOLUBEの名称で得られたペンタエリスリトールテトラステアレートであるポリマー潤滑剤。
【0132】
8.着色顔料。
【0133】
以下の結果が得られた。
【0134】
【表1】
【0135】
図7を参照すると、300℃、5s−1における応力−ひずみ曲線が示されている。前記組成物は、図7に詳しく示すように応力−ひずみ曲線で一定の特徴を呈する場合もある。応力−ひずみ曲線は、試料の一軸引張り試験により決定され、X軸のひずみパーセント(%)に対してY軸にプロットされた公称応力(Pa)を示す。図7のデータを取得する際に使用した試験片は、おおよそ幅10mm、長さ30mmで、厚さ約0.8mmのものであった。試験片は、圧縮成形または射出成形により得られたのち、計器、例えばEVF(extensional viscosity fixture。伸長粘度備品)を備えたTA ARESで、事前設定温度および伸長率において試験可能になり、各試料の応力−ひずみ曲線が決定される。
【0136】
その応力−ひずみ曲線は、試料にかけられた荷重を測定して得られる応力と、試料の変形、すなわち伸長、圧縮、またはゆがみを測定して得られるひずみとの関係をグラフで表す。その試験工程では、本明細書で説明する任意組成の試料を機械的な試験装置で配置し、前記試料に破砕が生じるまでその試料に張力をかける。張力をかけている間、かけられた力に対する前記試料の伸びが記録される。そのデータは、測定用試料の幾何学的構造に対し特異性がないよう演算され、結果的に得られる応力−ひずみ曲線がプロット可能となる。
【0137】
その伸長測定を使って、次式によりひずみεが計算され、εは100を乗算してひずみパーセントに変換できる。
【0138】
【数1】
【0139】
式中、
【0140】
【数2】
はゲージ長の変化、Lは初期のゲージ長、Lは最終的な長さである。前記力の測定値は、次式で公称応力σを計算するため使用される。
【0141】
【数3】
【0142】
式中、Fは力、Aは試料の断面積である。前記引張り試験のための機械は、力の増加に伴う応力およびひずみを計算し、データ点を応力−ひずみ曲線のグラフに加える。熱可塑性ポリマー材料、例えばポリアリーレンスルフィド・ポリマーブレンドの場合、応力−ひずみ曲線には、通常、当該曲線の弾性部分を表す初期の線形領域と、当該曲線の塑性領域を表す非線形領域とが含まれる。応力−ひずみ曲線の前記線形部分では、応力がひずみに比例する。当該曲線において、前記弾性部分は、荷重を取り除くと材料が元の形状に戻る部分であり、前記塑性部分は、荷重を取り除いても何らかの永続的な変形が生じてしまっている部分である。当該曲線の前記線形(弾性)領域が終わり、当該曲線の前記非線形(塑性変形)領域が始まる点は、降伏点として知られている。この線形から非線形への移行点(降伏点または降伏応力)後、材料には変形が生じ、この弾性限界を超える応力では、応力がわずかに増加しただけでも材料は破壊され、永久に変形するという結果になる。ここで生じる変形は塑性変形と呼ばれ、弾性荷重の場合と異なり、材料変形を生じる荷重で材料特性が永続的に変化する。変形中、材料試料は、図7で降伏点の直後に試料曲線が平坦になり、ひずみパーセントが増加して示されるように、応力が増えなくても伸長し続けることになる。この時点で、材料は、完全に塑性であるという。図7の試料の場合、この変形挙動はわずかである。
【0143】
降伏後、応力は再び増加して伸長も増加し、荷重がさらに試料に加えられると曲線は上昇し続けるが、やがて平坦になっていき、最大公称応力または終局公称応力に達する。応力−ひずみ曲線におけるこの時点で、材料には加工硬化と呼ばれる現象が起こる。この間、試料が伸長するとともに、その断面積は当該試料の全長にわたり均一に減少する。ただし、最大応力に達した後、試料の断面積は、試料の全長ではなく局所的な領域で減少し始める。この結果、くびれまたはネッキング領域が生じ、試料は最終的に破砕し、これが図7に示す曲線の終点として表される。
【0144】
種々の材料配合物では、降伏点、降伏(変形)領域、ひずみ硬化、最大応力、およびネッキング領域も異なり、いかなる特定の理論に制限されるわけでもないが、本願発明者らは、応力およびひずみパーセントの特定範囲により特徴付けられる特定の降伏点、ひずみ硬化領域、最大応力、およびネッキング領域を有するポリマー組成物がブロー成形用途において改善された加工可能性を呈することを見出した。例えば、図7に示すように、ブロー成形用途に使用されてきたポリマー組成物の降伏点は、約100kPa〜約450kPaの公称応力および約5%〜約25%のひずみパーセント、例えば約150kPa〜約300kPaの公称応力および約10%〜約20%のひずみパーセントで起こる可能性がある。また、ひずみ硬化は、一定範囲の公称応力、例えば約5%〜約90%のひずみパーセント範囲にわたり約100kPaから約650kPaに増加する公称応力、例えば約10%〜約80%のひずみパーセント範囲にわたり約200kPaから約600kPaに増加する公称応力で起こる可能性がある。さらに、前記組成物は、比較的高いひずみパーセントでも比較的高い最大公称応力を有することができる。例えば、前記組成物は、約60%〜約90%のひずみパーセントで約450kPa〜約650kPaの最大公称応力、または約70%〜約80%のひずみパーセントで約500kPa〜約600kPaの最大公称応力を呈することができる。また、図7に示したように、ネッキングは、一定範囲の公称応力、例えば約60%〜約150%のひずみパーセント範囲にわたり約700kPaから約100kPaに減少する公称応力、例えば約70%〜約120%のひずみパーセント範囲にわたり約600kPaから約175kPaに減少する公称応力で起こる可能性がある。
【0145】
さらに、約100%のひずみパーセントにおいて、前記組成物は、約350kPa〜約550kPaの公称応力を呈することができる。さらに、約80%のひずみパーセントにおいて、前記組成物は、約450kPa〜約650kPaの公称応力を呈することができ、約40%のひずみパーセントにおいて、前記組成物は、約350kPa〜約550kPaの公称応力を呈することができる。
【0146】
本開示の組成物配合に使用される成分を混合すると、その相乗効果により、表面が滑らかで壁厚が制御された製品を製造するブロー成形中の制御を、比較的高い押出率で大幅に改善することができる。
【0147】
上記および図7で示したように、本開示に基づいて配合された一定の組成物は、全般的に、比較的高い伸長パーセントで比較用試料1115L0より高い公称応力を呈した。前記組成物に含まれる一定の成分のパーセンテージを変更することにより、本願発明者らは、一部の配合物、例えば試料6が、比較用試料1115L0より、高い溶融粘度、高い低せん断貯蔵弾性率、および高い公称応力を実証し、前記組成物の成形用途で加工可能性の改善に寄与できることを見出した。
【0148】
特に、試料6は、例えば比較用試料1115L0の加工可能性と比べて改善された加工可能性を実証している。本願発明者らは、公称応力とひずみパーセントとの関係が、1115L0と比べて加工可能性の改善に寄与することを見出した。
【0149】
以上に述べた本発明の変更および変形等は、添付の請求項にさらに具体的に記載された本発明の要旨を逸脱しない範囲で、当業者による実施が可能である。また、種々の実施形態の態様は、全体的にも部分的にも相互に交換できることを理解すべきである。さらに、当業者であれば、以上の説明が単に例示的なものであって、添付の請求項でさらに詳しく説明されている本発明を限定することを目的としたものではないことが理解されるであろう。
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