【文献】
PROC. N. A. S.,1969年,Vol.63,pp.78-85
【文献】
J. Mol. Biol.,2006年,vol.361,pp.687-697
【文献】
J. Mol. Biol.,2005年,vol.347,pp.773-789
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、重鎖可変領域と軽鎖可変領域の界面を形成する2残基以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するアミノ酸残基である、請求項1または2に記載の二重特異性抗体。
前記互いに電荷的に反発するアミノ酸残基が、以下の(a)または(b)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される1組または2組のアミノ酸残基である、請求項3に記載の二重特異性抗体;
(a)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング39位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング38位のアミノ酸残基、
(b)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング45位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング44位のアミノ酸残基。
前記互いに電荷的に反発するアミノ酸残基が、以下の(X)または(Y)のいずれかの組に含まれるアミノ酸残基から選択される、請求項3または4に記載の二重特異性抗体;
(X)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、
(Y)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)。
前記工程(1)において、互いに電荷的に反発するアミノ酸残基が、以下の(X)または(Y)のいずれかの群に含まれるアミノ酸残基から選択されるように核酸を改変する工程を含む、請求項6に記載の二重特異性抗体の製造方法;
(X)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、
(Y)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)。
さらに前記工程(1)において、重鎖可変領域と軽鎖可変領域の界面を形成する2残基以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するアミノ酸残基であるように核酸を改変する工程を含む、請求項6または7に記載の二重特異性抗体の製造方法。
前記互いに電荷的に反発するアミノ酸残基が、以下の(a)または(b)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択されるいずれか1組のアミノ酸残基である、請求項8に記載の二重特異性抗体の製造方法;
(a)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング39位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング38位のアミノ酸残基、
(b)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング45位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング44位のアミノ酸残基。
前記互いに電荷的に反発するアミノ酸残基が、以下の(X)または(Y)のいずれかの組に含まれるアミノ酸残基から選択される、請求項8または9に記載の二重特異性抗体の製造方法;
(X)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、
(Y)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)。
前記互いに電荷的に反発するアミノ酸残基が、以下の(a)または(b)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択されるいずれか1組のアミノ酸残基である、請求項13に記載の方法;
(a)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング39位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング38位のアミノ酸残基、
(b)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング45位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング44位のアミノ酸残基。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みて為されたものであり、その目的は、重鎖と軽鎖の会合が制御された抗体、重鎖と軽鎖の会合が制御された抗体の製造方法、および抗体の重鎖と軽鎖の会合制御方法を提供することにある。また本発明は、その一態様として、CH1とCLの界面における会合が制御された二重特異性抗体、CH1とCLの界面における会合を制御して二重特異性抗体を効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは会合の制御に供する重鎖と軽鎖の領域として、重鎖の定常領域であるCH1および軽鎖定常領域(CL)を選択し、これらCH1とCLの会合の制御について、鋭意研究を行った。その結果、CH1とCLの界面に存在するアミノ酸残基を互いに電荷的に反発する、あるいは反発しないアミノ酸残基へ置換することにより、CH1とCLの会合を抑制することができ、上述のCH3にknobとholeを単独に導入する改変を用いるよりも、効率よくヘテロ分子が形成されることを見出した。
【0009】
即ち、本発明者らによって見出された知見によって、CH1とCLとの会合を制御することが可能である。また、本発明はCH1とCLとの会合の制御に適用可能なだけではなく、任意のポリペプチド間の会合の制御に応用することが可能である。
【0010】
さらに本発明者らは、本発明の重鎖と軽鎖の会合が制御された二重特異性抗体が、実際に機能を保持していることを確認した。
【0011】
上述の如く本発明者らは、重鎖と軽鎖の会合が制御された抗原結合分子の開発に成功し、本発明を完成させた。
本発明は、重鎖と軽鎖の会合が制御された抗原結合分子、重鎖と軽鎖の会合が制御された抗原結合分子の製造方法、および抗原結合分子の重鎖と軽鎖の会合制御方法に関し、より具体的には、以下に関する。
〔1〕 重鎖と軽鎖の会合が制御された抗原結合分子であって、
当該抗原結合分子において重鎖と軽鎖における以下の(a)〜(c)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される1組または2組以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するアミノ酸残基である抗原結合分子;
(a)重鎖の定常領域(CH1)に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及び軽鎖定常領域(CL)に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位のアミノ酸残基、
(b)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング131位のアミノ酸残基、
(c)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング160位のアミノ酸残基。
〔2〕 さらに、以下の(d)に示すアミノ酸残基の組のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するアミノ酸残基である、〔1〕に記載の抗原結合分子;
(d)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基。
〔3〕 前記互いに電荷的に反発するアミノ酸残基が、以下の(X)または(Y)のいずれかの組に含まれるアミノ酸残基から選択される、〔1〕又は〔2〕に記載の抗原結合分子;
(X) グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)、
(Y) リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)。
〔4〕 さらに、重鎖可変領域と軽鎖可変領域の界面を形成する2残基以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するアミノ酸残基である、〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の抗原結合分子。
〔5〕 前記互いに電荷的に反発するアミノ酸残基が、以下の(a)または(b)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される1組または2組のアミノ酸残基である、〔4〕に記載の抗原結合分子;
(a)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング39位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング38位のアミノ酸残基、
(b)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング45位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング44位のアミノ酸残基。
〔6〕 前記互いに電荷的に反発するアミノ酸残基が、以下の(X)または(Y)のいずれかの組に含まれるアミノ酸残基から選択される、〔4〕または〔5〕に記載の抗原結合分子;
(X)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、
(Y)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)。
〔7〕 重鎖と軽鎖の会合が制御された抗原結合分子であって、
当該抗原結合分子において会合する重鎖と軽鎖における以下の(a)〜(c)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される1組または2組以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基である抗原結合分子;
(a)重鎖の定常領域(CH1)に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及び軽鎖定常領域(CL)に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位のアミノ酸残基、
(b)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング131位のアミノ酸残基、
(c)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング160位のアミノ酸残基。
〔8〕 さらに、以下の(d)に示すアミノ酸残基の組のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基である、〔7〕に記載の抗原結合分子;
(d)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基。
〔9〕 前記互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基が、以下の(X)〜(Z)からなる群より選択される2つの組のそれぞれから選択されるアミノ酸残基であって、2つの組が(X)と(Y)、(X)と(Z)、(Y)と(Z)、または(Z)と(Z)の組み合わせから選択される、〔7〕又は〔8〕に記載の抗原結合分子;
(X) グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)、
(Y) リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)、
(Z) アラニン(A)、アスパラギン(N)、システイン(C)、グルタミン(Q)、グリシン(G)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)、セリン(S)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)又はバリン(V)。
〔10〕 前記互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基が、CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基がリジン(K)、CLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位、131位及び160位のアミノ酸残基がいずれもグルタミン酸(E)である、〔7〕〜〔9〕のいずれか1項に記載の抗原結合分子。
〔11〕 前記互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基が、CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位及び175位のアミノ酸残基がグルタミン酸(E)、CLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位、131位及び160位のアミノ酸残基がいずれもリジン(K)である、〔7〕〜〔9〕のいずれか1項に記載の抗原結合分子。
〔12〕 さらに、CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基がグルタミン酸(E)であり、CLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基がリジン(K)である、〔11〕に記載の抗原結合分子。
〔13〕 さらに、重鎖可変領域と軽鎖可変領域の界面を形成する2残基以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基である、〔7〕〜〔12〕のいずれか1項に記載の抗原結合分子。
〔14〕 前記互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基が、以下の(a)または(b)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される1組または2組のアミノ酸残基である、〔13〕に記載の抗原結合分子;
(a)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング39位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング38位のアミノ酸残基、
(b)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング45位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング44位のアミノ酸残基。
〔15〕 前記互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基が、以下の(X)〜(Z)からなる群より選択される2つの組のそれぞれから選択されるアミノ酸残基であって、2つの組が(X)と(Y)、(X)と(Z)、(Y)と(Z)、または(Z)と(Z)の組み合わせから選択される、〔13〕または〔14〕に記載の抗原結合分子;
(X)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、
(Y)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)、
(Z) アラニン(A)、アスパラギン(N)、システイン(C)、グルタミン(Q)、グリシン(G)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)、セリン(S)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)又はバリン(V)。
〔16〕 抗原結合分子が二重特異性抗体である、〔1〕〜〔15〕のいずれか1項に記載の抗原結合分子。
〔17〕
以下の(1)〜(3)の工程を含む、重鎖と軽鎖の会合が制御された抗原結合分子の製造方法;
(1)重鎖の定常領域(CH1)及び軽鎖定常領域(CL)をコードする核酸を、以下の(a)〜(c)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される1組または2組以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するように核酸を改変する工程、
(a)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位のアミノ酸残基
(b)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング131位のアミノ酸残基
(c)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング160位のアミノ酸残基
(2)前記改変された核酸を宿主細胞へ導入し、宿主細胞を該核酸が発現するように培養する工程、
(3)前記宿主細胞の培養物から抗原結合分子を回収する工程。
〔18〕 前記工程(1)において、さらに、以下の(d)に示すアミノ酸残基の組のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するように核酸を改変する工程を含む、〔17〕に記載の抗原結合分子の製造方法;
(d)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基。
〔19〕 前記工程(1)において、互いに電荷的に反発するアミノ酸残基が、以下の(X)または(Y)のいずれかの群に含まれるアミノ酸残基から選択されるように核酸を改変する工程を含む、〔17〕または〔18〕に記載の抗原結合分子の製造方法;
(X)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、
(Y)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)。
〔20〕 さらに前記工程(1)において、重鎖可変領域と軽鎖可変領域の界面を形成する2残基以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するアミノ酸残基であるように核酸を改変する工程を含む、〔17〕〜〔19〕のいずれか1項に記載の抗原結合分子の製造方法。
〔21〕 前記互いに電荷的に反発するアミノ酸残基が、以下の(a)または(b)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択されるいずれか1組のアミノ酸残基である、〔20〕に記載の抗原結合分子の製造方法;
(a)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング39位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング38位のアミノ酸残基、
(b)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング45位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング44位のアミノ酸残基。
〔22〕 前記互いに電荷的に反発するアミノ酸残基が、以下の(X)または(Y)のいずれかの組に含まれるアミノ酸残基から選択される、〔20〕または〔21〕に記載の抗原結合分子の製造方法;
(X)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、
(Y)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)。
〔23〕 以下の(1)〜(3)の工程を含む、重鎖と軽鎖の会合が制御された抗原結合分子の製造方法;
(1)重鎖の定常領域(CH1)及び軽鎖定常領域(CL)をコードする核酸を、以下の(a)〜(c)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される1組または2組以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないように核酸を改変する工程、
(a)重鎖の定常領域(CH1)に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及び軽鎖定常領域(CL)に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位のアミノ酸残基
(b)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング131位のアミノ酸残基
(c)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング160位のアミノ酸残基
(2)前記改変された核酸を宿主細胞へ導入し、宿主細胞を該核酸が発現するように培養する工程、
(3)前記宿主細胞の培養物から抗原結合分子を回収する工程。
〔24〕 前記工程(1)において、さらに、以下の(d)に示すアミノ酸残基の組のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないように核酸を改変する工程を含む、〔23〕に記載の抗原結合分子の製造方法;
(d)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基。
〔25〕 前記工程(1)において、互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基が、以下の(X)〜(Z)からなる群より選択される2つの組のそれぞれから選択されるアミノ酸残基であって、2つの組が(X)と(Y)、(X)と(Z)、(Y)と(Z)、または(Z)と(Z)の組み合わせから選択されるように核酸を改変する工程を含む、〔23〕または〔24〕に記載の抗原結合分子の製造方法;
(X) グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)、
(Y) リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)、
(Z) アラニン(A)、アスパラギン(N)、システイン(C)、グルタミン(Q)、グリシン(G)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)、セリン(S)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)又はバリン(V)。
〔26〕 前記工程(1)において、互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基が、CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基がリジン(K)、CLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位、131位及び160位のアミノ酸残基がいずれもグルタミン酸(E)であるように核酸を改変する工程を含む、〔23〕〜〔25〕のいずれか1項に記載の抗原結合分子の製造方法。
〔27〕 前記工程(1)において、互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基が、CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位及び175位のアミノ酸残基がグルタミン酸(E)、CLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位、131位及び160位のアミノ酸残基がいずれもリジン(K)であるように核酸を改変する工程を含む、〔23〕〜〔25〕のいずれか1項に記載の抗原結合分子の製造方法。
〔28〕 さらに、CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基がグルタミン酸(E)であり、CLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基がリジン(K)であるように核酸を改変する工程を含む、〔27〕に記載の抗原結合分子の製造方法。
〔29〕 さらに前記工程(1)において、重鎖可変領域と軽鎖可変領域の界面を形成する2残基以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基であるように核酸を改変する工程を含む、〔23〕〜〔28〕のいずれか1項に記載の抗原結合分子の製造方法。
〔30〕 前記互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基が、以下の(a)または(b)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択されるいずれか1組のアミノ酸残基である、〔29〕に記載の抗原結合分子の製造方法;
(a)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング39位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング38位のアミノ酸残基、
(b)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング45位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング44位のアミノ酸残基。
〔31〕 前記互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基が、以下の(X)〜(Z)からなる群より選択される2つの組のそれぞれから選択されるアミノ酸残基であって、2つの組が(X)と(Y)、(X)と(Z)、(Y)と(Z)、または(Z)と(Z)の組み合わせから選択される、〔29〕または〔30〕に記載の抗原結合分子の製造方法;
(X)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、
(Y)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)、
(Z) アラニン(A)、アスパラギン(N)、システイン(C)、グルタミン(Q)、グリシン(G)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)、セリン(S)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)又はバリン(V)。
〔32〕 〔17〕〜〔31〕のいずれか1項に記載の抗原結合分子の製造方法により製造される抗原結合分子。
〔33〕 抗原結合分子が二重特異性抗体である、〔32〕に記載の抗原結合分子。
〔34〕 抗原結合分子の重鎖と軽鎖の会合制御方法であって、
以下の(a)〜(c)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される1組または2組以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するアミノ酸残基となるように核酸を改変することを含む方法;
(a)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位のアミノ酸残基、
(b)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング131位のアミノ酸残基、
(c)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング160位のアミノ酸残基。
〔35〕 さらに、以下の(d)に示すアミノ酸残基の組のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するアミノ酸残基となるように核酸を改変することを含む、〔34〕に記載の方法;
(d)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基。
〔36〕 前記互いに電荷的に反発するアミノ酸残基が、以下の(X)または(Y)のいずれかの組に含まれるアミノ酸残基から選択される、〔34〕または〔35〕に記載の方法;
(X)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、
(Y)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)。
〔37〕 さらに、重鎖可変領域と軽鎖可変領域の界面を形成する2残基以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するアミノ酸残基である、〔34〕〜〔36〕のいずれか1項に記載の方法。
〔38〕 前記互いに電荷的に反発するアミノ酸残基が、以下の(a)または(b)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択されるいずれか1組のアミノ酸残基である、〔37〕に記載の方法;
(a)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング39位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング38位のアミノ酸残基、
(b)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング45位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング44位のアミノ酸残基。
〔39〕 前記互いに電荷的に反発するアミノ酸残基が、以下の(X)または(Y)のいずれかの組に含まれるアミノ酸残基から選択される、〔37〕または〔38〕に記載の方法;
(X)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、
(Y)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)。
〔40〕 抗原結合分子の重鎖と軽鎖の会合制御方法であって、
以下の(a)〜(c)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される1組または2組以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基となるように核酸を改変することを含む方法;
(a)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位のアミノ酸残基、
(b)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング131位のアミノ酸残基、
(c)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング160位のアミノ酸残基。
〔41〕 さらに、以下の(d)に示すアミノ酸残基の組のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基となるように核酸を改変することを含む、〔40〕に記載の方法;
(d)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基。
〔42〕 前記互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基が、以下の(X)〜(Z)からなる群より選択される2つの組のそれぞれから選択されるアミノ酸残基であって、2つの組が(X)と(Y)、(X)と(Z)、(Y)と(Z)、または(Z)と(Z)の組み合わせから選択される、〔40〕または〔41〕に記載の方法;
(X)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、
(Y)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)、
(Z) アラニン(A)、アスパラギン(N)、システイン(C)、グルタミン(Q)、グリシン(G)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)、セリン(S)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)又はバリン(V)。
〔43〕 前記互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基が、CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基がリジン(K)、CLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位、131位及び160位のアミノ酸残基がいずれもグルタミン酸(E)である、〔40〕〜〔42〕のいずれか1項に記載の方法。
〔44〕 前記互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基が、CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位及び175位のアミノ酸残基がグルタミン酸(E)、CLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位、131位及び160位のアミノ酸残基がいずれもリジン(K)である、〔40〕〜〔42〕のいずれか1項に記載の方法。
〔45〕 さらに、CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基がグルタミン酸(E)であり、CLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基がリジン(K)である、〔44〕に記載の方法。
〔46〕 抗原結合分子が二重特異性抗体である、〔34〕〜〔45〕のいずれか1項に記載の方法。
〔47〕 〔1〕〜〔16〕、〔32〕、または〔33〕のいずれか1項に記載の抗原結合分子、および医薬的に許容される担体を含む組成物。
〔48〕 〔1〕〜〔16〕、〔32〕、または〔33〕のいずれか1項に記載の抗原結合分子をコードする核酸。
〔49〕 〔48〕に記載の核酸を有する宿主細胞。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、重鎖と軽鎖の会合が制御された抗体、重鎖と軽鎖の会合が制御された抗体の製造方法、および抗体の重鎖と軽鎖の会合制御方法に関する。
【0014】
本発明において、「抗体」という用語は「抗原結合分子」と同義で用いられる。すなわち、本発明において、「抗体」または「抗原結合分子」という用語は最も広い意味で使用され、所望の抗原結合活性、生物学的活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体変異体(キメラ抗体、ヒト化抗体、低分子化抗体(任意で他の分子が付加されていてもよい抗体断片も含む)、多重特異性抗体等)が含まれる。例えば、本発明における「抗体」または「抗原結合分子」として、FabにHAS結合スキャフォールドが付加された分子(Fab部分のみ通常の抗体)が挙げられる。また、本発明において「抗体」は、ポリペプチドあるいは異種多量体のいずれであってもよい。好ましい抗体は、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、Fc-fusion抗体、並びに、及び抗体断片等の低分子化抗体である。
【0015】
本発明の抗体は、重鎖と軽鎖の会合が制御された抗体であって、抗体を構成する重鎖と軽鎖が目的とする重鎖と軽鎖の組合せである、重鎖の定常領域(CH1)及び軽鎖定常領域の所定の位置のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するアミノ酸残基である(同種の電荷である)抗体に関する。
本発明においては、目的としない重鎖と軽鎖の組合せの重鎖の定常領域(CH1)及び軽鎖定常領域の所定の位置のアミノ酸残基を互いに電荷的に反発するアミノ酸残基にする(同種の電荷とする)ことで、電荷の反発を利用して目的としない重鎖と軽鎖の組合せの形成を防ぐことができ、その結果として目的とする重鎖と軽鎖の組合せを形成させることができる。
【0016】
本発明の抗体は、別の態様として、重鎖と軽鎖の会合が制御された抗体であって、抗体を構成する重鎖と軽鎖が目的とする重鎖と軽鎖の組合せで会合する、重鎖の定常領域(CH1)及び軽鎖定常領域の所定の位置のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しない抗体に関する。目的とする重鎖と軽鎖の組合せの重鎖の定常領域(CH1)及び軽鎖定常領域の所定の位置のアミノ酸残基を互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基にすることで、例えば電荷の吸引力を利用して目的とする重鎖と軽鎖の組合せを形成させることができる。
【0017】
本発明におけるポリペプチドとは、通常、10アミノ酸程度以上の長さを有するペプチド、およびタンパク質を指す。また、通常、生物由来のポリペプチドであるが、特に限定されず、例えば、人工的に設計された配列からなるポリペプチドであってもよい。また、天然ポリペプチド、あるいは合成ポリペプチド、組換えポリペプチド等のいずれであってもよい。さらに、上記のポリペプチドの断片もまた、本発明のポリペプチドに含まれる。
【0018】
本発明において「会合を制御する」「会合が制御される」とは、所望の会合状態になるように制御することを言い、より具体的には、重鎖と軽鎖間において望ましくない会合が形成されないように制御することを言う。
【0019】
本発明における「界面」とは、通常、会合(相互作用)する際の会合面を指し、界面を形成するアミノ酸残基とは、通常、その会合に供されるポリペプチド領域に含まれる1もしくは複数のアミノ酸残基であって、より好ましくは、会合の際に接近し相互作用に関与するアミノ酸残基を言う。該相互作用には、具体的には、会合の際に接近するアミノ酸残基同士が水素結合、静電的相互作用、塩橋を形成している場合等が含まれる。
【0020】
本発明における「界面を形成するアミノ酸残基」とは、詳述すれば、界面を構成するポリペプチド領域において、該ポリペプチド領域に含まれるアミノ酸残基を言う。界面を構成するポリペプチド領域とは、一例を示せば、抗体、リガンド、レセプター、基質等において、分子間において選択的な結合を担うポリペプチド領域を指す。具体的には、抗体においては、重鎖定常領域、重鎖可変領域、軽鎖定常領域、軽鎖可変領域等を例示することができる。
【0021】
本発明におけるアミノ酸残基の「改変」とは、具体的には、元のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換すること、元のアミノ酸残基を欠失させること、新たなアミノ酸残基を付加すること等を指すが、好ましくは、元のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換することを指す。
【0022】
本発明の抗体の好ましい態様においては、会合制御前の目的としない重鎖と軽鎖の組み合わせの重鎖の定常領域(CH1)及び軽鎖定常領域の所定の位置のアミノ酸残基が電荷的に反発するアミノ酸残基を有する(同種の電荷を有する)抗体である。
上記抗体におけるアミノ酸残基を互いに電荷的に反発する(同種の電荷を有する)アミノ酸残基に改変することにより、その電荷の反発力によって、これらアミノ酸残基同士の会合が阻害されるものと考えられる。
【0023】
本発明の抗体の好ましい別の態様においては、ポリペプチドの界面において会合に関与するアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基を有する抗体である。
上記抗体において、ポリペプチドの界面において会合に関与するアミノ酸残基を互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基に改変することにより、例えばその電荷の吸引力によって、これらアミノ酸残基同士の会合が促進されるものと考えられる。
【0024】
従って、上記抗体において、改変されるアミノ酸残基は、界面を形成するポリペプチド領域間において、会合の際に互いに接近したアミノ酸残基であることが好ましい。
【0025】
会合の際に接近するアミノ酸残基は、例えば、ポリペプチドの立体構造を解析し、該ポリペプチドの会合の際に界面を形成するポリペプチド領域のアミノ酸配列を調べることにより見出すことができる。界面において互いに接近したアミノ酸残基は、本発明の抗体における「改変」の好ましいターゲットとなる。
【0026】
アミノ酸の中には、電荷を帯びたアミノ酸が知られている。一般的に正の電荷を帯びたアミノ酸(正電荷アミノ酸)としては、リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)が知られている。負の電荷を帯びたアミノ酸(負電荷アミノ酸)としては、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)等が知られている。また、電荷を帯びていないアミノ酸又は非極性アミノ酸としては、アラニン(A)、アスパラギン(N)、システイン(C)、グルタミン(Q)、グリシン(G)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)、セリン(S)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)又はバリン(V)等が知られている。
従って、本発明において互いに電荷的に反発する(同種の電荷を有する)アミノ酸とは、
(1)一方のアミノ酸が正の電荷のアミノ酸で他方のアミノ酸も正の電荷のアミノ酸
(2)一方のアミノ酸が負の電荷のアミノ酸で他方のアミノ酸も負の電荷のアミノ酸
を意味する。
【0027】
また本発明において互いに電荷的に反発しないアミノ酸とは、
(1)一方のアミノ酸が正の電荷のアミノ酸で他方のアミノ酸が負の電荷のアミノ酸、
(2)一方のアミノ酸が正の電荷のアミノ酸で他方のアミノ酸が電荷を帯びていないアミノ酸又は非極性アミノ酸、
(3)一方のアミノ酸が負の電荷のアミノ酸で他方のアミノ酸が電荷を帯びていないアミノ酸又は非極性アミノ酸、
(4)双方のアミノ酸がいずれも電荷を帯びていないアミノ酸又は非極性アミノ酸、
を意味する。
【0028】
アミノ酸の改変は、当分野において公知の種々の方法により行うことができる。これらの方法には、次のものに限定されるわけではないが、部位特異的変異誘導法(Hashimoto-Gotoh, T, Mizuno, T, Ogasahara, Y, and Nakagawa, M. (1995) An oligodeoxyribonucleotide-directed dual amber method for site-directed mutagenesis. Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Oligonucleotide-directed mutagenesis of DNA fragments cloned into M13 vectors.Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer,W, Drutsa,V, Jansen,HW, Kramer,B, Pflugfelder,M, and Fritz,HJ(1984) The gapped duplex DNA approach to oligonucleotide-directed mutation construction. Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Oligonucleotide-directed construction of mutations via gapped duplex DNA Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Rapid and efficient site-specific mutagenesis without phenotypic selection.Proc Natl Acad Sci U S A. 82, 488-492)、PCR変異法、カセット変異法等の方法により行うことができる。
【0029】
アミノ酸の改変は、例えば、電荷を帯びていないアミノ酸又は非極性アミノ酸の正の電荷のアミノ酸への改変、電荷を帯びていないアミノ酸又は非極性アミノ酸の負の電荷のアミノ酸への改変、正の電荷のアミノ酸の負の電荷のアミノ酸への改変、負の電荷のアミノ酸の正の電荷のアミノ酸への改変を挙げることができる。なお、電荷を帯びていないアミノ酸又は非極性アミノ酸の別の電荷を帯びていないアミノ酸又は非極性アミノ酸への改変、正の電荷のアミノ酸の別の正の電荷のアミノ酸への改変、負の電荷のアミノ酸の別の負の電荷のアミノ酸への改変も、本発明におけるアミノ酸の改変に含まれる。
【0030】
本発明においてアミノ酸の改変は、重鎖及び軽鎖のそれぞれに1個ずつ加えてもよく、また複数個ずつ加えてもよい。また重鎖と軽鎖に加える改変の数は互いに同じでもよく、また異なっていてもよい。
【0031】
本発明においてアミノ酸の改変は、重鎖又は軽鎖の一方に正の電荷のアミノ酸への改変を複数加え、他方には負の電荷のアミノ酸への改変を複数加えてもよい。また、重鎖又は軽鎖の同じ鎖に正の電荷のアミノ酸への改変と負の電荷へのアミノ酸の改変を複数加えてもよい。なお、この改変において電荷を帯びていないアミノ酸又は非極性アミノ酸への改変、電荷を帯びていないアミノ酸又は非極性アミノ酸の改変を適宜組み合わせてもよい。
【0032】
本発明の改変において、例えば一方の鎖のアミノ酸を改変することなくそのまま用いることもでき、その場合必ずしも重鎖及び軽鎖の双方に改変を加える必要はなく、一方の鎖のみに改変を加えてもよい。
【0033】
本発明の抗体において改変に供されるアミノ酸残基の数は、特に制限されないが、例えば、抗体の定常領域を改変する場合、抗原との結合活性を低下させないために、また免疫原性を上げないために、なるべく少数のアミノ酸残基を改変することが好ましい。上記「少数」とは、例えば、1〜30個程度の数、好ましくは、1〜20個程度の数、さらに好ましくは1〜15個の数、最も好ましくは1〜5個の数である。
【0034】
本発明において、「抗体」という用語は最も広い意味で使用され、所望の生物学的活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体変異体(キメラ抗体、ヒト化抗体、低分子化抗体(抗体断片も含む)、多重特異性抗体等)が含まれる。また、本発明において「抗体」は、ポリペプチドあるいは異種多量体のいずれであってもよい。好ましい抗体は、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、Fc-fusion抗体、並びに、及び抗体断片等の低分子化抗体である。
【0035】
本発明において「多重特異性抗体」(本明細書では「多種特異性抗体」と同じ意味で使用する)とは、異なる多種のエピトープと特異的に結合し得る抗体を言う。つまり、多重特異性抗体は少なくとも2種類の異なるエピトープに対して特異性を有する抗体であり、異なる抗原を認識する抗体のほか、同一の抗原上の異なるエピトープを認識する抗体も含まれる。(例えば、抗原がヘテロ受容体の場合には、多重特異性抗体はヘテロ受容体を構成する異なるドメインを認識する、あるいは、抗原がモノマーの場合には、多重特異性抗体はモノマー抗原の複数箇所を認識する)。通常、このような分子は2個の抗原と結合するものであるが(二重特異性抗体:bispecific抗体; 本明細書では「二種特異性抗体」と同じ意味で使用する)、それ以上の(例えば、3種類の)抗原に対して特異性を有していてもよい。
【0036】
本発明における「抗体」には、上述の抗体に対してさらにアミノ酸の置換、欠失、付加及び/若しくは挿入、またはキメラ化やヒト化等により、そのアミノ酸配列が改変されたものが含まれる。アミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入、並びにヒト化、キメラ化などのアミノ酸配列の改変は、当業者に公知の方法により行うことが可能である。同様に、本発明における抗体を組換え抗体として作製する際に利用する抗体の可変領域及び定常領域も、アミノ酸の置換、欠失、付加及び/若しくは挿入、またはキメラ化やヒト化等によりそのアミノ酸配列を改変してもよい。
【0037】
本発明における抗体はマウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体など、どのような動物由来の抗体でもよい。さらに、例えば、キメラ抗体、中でもヒト化抗体などのアミノ酸配列を置換した改変抗体でもよい。また、各種分子を結合させた抗体修飾物、抗体断片、低分子化抗体などいかなる抗体でもよい。
【0038】
「キメラ抗体」とは、異なる動物由来の配列を組合わせて作製される抗体である。例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変(V)領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常(C)領域からなる抗体を例示することができる。キメラ抗体の作製は公知であり、例えば、抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることによりキメラ抗体を得ることができる。
【0039】
「ヒト化抗体」とは、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される、ヒト以外の哺乳動物由来の抗体、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)をヒト抗体のCDRへ移植したものである。CDRを同定するための方法は公知である(Kabat et al., Sequence of Proteins of Immunological Interest (1987), National Institute of Health, Bethesda, Md.; Chothia et al., Nature (1989) 342: 877)。また、その一般的な遺伝子組換え手法も公知である(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576号公報参照)。そこで公知の方法により、例えば、マウス抗体のCDRを決定し、該CDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)とが連結された抗体をコードするDNAを取得し、ヒト化抗体を通常の発現ベクターを用いた系により産生することができる。このようなDNAは、CDR及びFR両方の末端領域にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR法により合成することができる(WO98/13388号公報に記載の方法を参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、CDRが良好な抗原結合部位を形成するように選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するように、抗体の可変領域におけるFRのアミノ酸を改変してもよい(Sato et al., Cancer Res. (1993) 53: 851-6)。改変できるFR中のアミノ酸残基には、抗原に直接、非共有結合により結合する部分(Amit et al., Science (1986) 233: 747-53)、CDR構造に影響または作用する部分(Chothia et al., J. Mol. Biol. (1987) 196: 901-17)及びVH-VL相互作用に関連する部分(EP239400号特許公報)が含まれる。
【0040】
本発明の抗体の重鎖定常領域は、好ましくはヒト重鎖定常領域である。また、抗体の重鎖定常領域には、例えばIgA1、IgA2、IgD、IgE、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgMタイプの定常領域が存在している。本発明の抗体の重鎖定常領域は特に限定されないが、IgG1タイプの定常領域が好ましく、特にヒトIgG1定常領域が好ましい。ヒトIgG1定常領域としては、遺伝子多形による複数のアロタイプ配列がSequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242に記載されているが、本発明においてはそのいずれであっても良い。
【0041】
又、本発明の抗体の軽鎖定常領域は、好ましくはヒト軽鎖定常領域である。また抗体の軽鎖定常領域には、例えばIgK(Kappa)、IgL1、IgL2、IgL3、IgL6、IgL7 (Lambda)タイプの定常領域が存在している。本発明の抗体の軽鎖定常領域は特に限定されないが、ヒトIgK(Kappa)定常領域が好ましい。ヒトIgK(Kappa)定常領域のアミノ酸配列は公知である(配列番号:72)。ヒトIgK(Kappa)定常領域とヒトIgL7 (Lambda)定常領域としては、遺伝子多形による複数のアロタイプ配列がSequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242に記載されているが、本発明においてはそのいずれであっても良い。
【0042】
抗体の機能や抗体の安定性の改善のために、抗体定常領域、特に重鎖定常領域を必要に応じ改変してもよい。抗体の機能を改善するための改変としては、例えば、抗体とFcγ受容体(FcγR)との結合を増強する又は減弱する改変、抗体とFcRnとの結合を増強する又は減弱する改変、抗体の細胞傷害活性(例えば、ADCC活性、CDC活性など)を増強又は減弱する改変などが挙げられる。また、抗体のヘテロジェニティーを改善する改変、免疫原性および/または薬物動態を改善する改変が含まれてもよい。
【0043】
また、IgG抗体の重鎖C末端配列のヘテロジェニティーとして、C末端アミノ酸のリジン残基の欠損、および、C末端の2アミノ酸のグリシン、リジン両方の欠損によるC末端カルボキシル基のアミド化が報告されている(Anal Biochem. 2007 Jan 1;360(1):75-83.)。従って、本発明においては、重鎖C末端のヘテロジェニティーを低減させるために、C末端のリジン、またはC末端のリジンおよびグリシンを欠損させたIgGを用いることが好ましい。
【0044】
ヒト由来の配列を利用したキメラ抗体及びヒト化抗体は、ヒト体内における抗原性が低下しているため、治療目的などでヒトに投与する場合に有用と考えられる。
【0045】
また、低分子化抗体は、体内動態の性質の面からも、大腸菌、植物細胞等を用いて低コストで製造できる点からも抗体として有用である。
【0046】
抗体断片は低分子化抗体の一種である。低分子化抗体には、抗体断片をその構造の一部とする抗体も含まれる。本発明における低分子化抗体は、抗原への結合能を有していれば特にその構造、製造法等は限定されない。低分子化抗体の中には、全長抗体よりも高い活性を有する抗体も存在する(Orita et al., Blood(2005) 105: 562-566)。本明細書において、「抗体断片」とは、全長抗体(whole antibody、例えばwhole IgG等)の一部分であれば特に限定されないが、重鎖可変領域(VH)又は軽鎖可変領域(VL)を含み、さらにCH1又はCLを含んでいることが好ましい。好ましい抗体断片の例としては、例えば、Fab、F(ab')2、Fab'などを挙げることができる。抗体断片中のVH、VL、CH1及びCLのアミノ酸配列は、置換、欠失、付加及び/又は挿入により改変されていてもよい。さらに抗原への結合能を保持する限り、CH1、CL、VH及びVLの一部を欠損させてもよいし、薬物動態(PK)や薬効を増強させるために、scFv、Fab、ドメイン抗体(domain antibody: dAb)、VHHといった抗体断片、HAS結合スキャフォールド(HAS binding scaffold)、PEG、アルブミン、サイトカイン、トキシン等(Biodrugs 2009; 23 (2): 93-109、Methods Mol Med. 2005;109:347-74.、AAPS J. 2006 Aug 18;8(3):E532-51.等に記載の分子)が付加されていてもよい。
【0047】
抗体断片は、抗体を酵素、例えばパパイン、ペプシン等のプロテアーゼにより処理して得ることができる(Morimoto et al., J. Biochem. Biophys. Methods (1992) 24: 107-17; Brennan et al., Science (1985) 229: 81参照)。また、該抗体断片のアミノ酸配列を基に、遺伝子組換えにより製造することもできる。
【0048】
抗体断片を改変した構造を有する低分子化抗体は、酵素処理若しくは遺伝子組換えにより得られた抗体断片を利用して構築することができる。又は、低分子化抗体全体をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させることもできる(例えば、Co et al., J. Immunol. (1994) 152: 2968-76; Better and Horwitz, Methods Enzymol. (1989) 178: 476-96; Pluckthun and Skerra, Methods Enzymol. (1989) 178: 497-515; Lamoyi, Methods Enzymol. (1986) 121: 652-63; Rousseaux et al., Methods Enzymol. (1986) 121: 663-9; Bird and Walker, Trends Biotechnol. (1991) 9: 132-7参照)。
【0049】
本発明の好ましい抗体としては、例えば、二種以上のCH1と二種以上のCLを有する異種多量体を挙げることができる。該異種多量体は、2種以上のエピトープを認識するものが好ましく、例えば、多重特異性抗体を例示することができる。
【0050】
本発明の多重特異性抗体として好ましくは、二重特異性抗体を挙げることができる。即ち、本発明の抗体の好ましい態様として、例えば、2種の重鎖(第一の重鎖と第二の重鎖)と、2種の軽鎖(第一の軽鎖と第二の軽鎖)から構成される二重特異性抗体が挙げられる。
【0051】
本発明の抗体の好ましい態様の「二重特異性抗体」についてさらに詳述すれば、上記「第一の重鎖」とは、抗体を形成する2つの重鎖(H鎖)のうちの一方のH鎖であり、第二のH鎖は第一のH鎖とは異なるもう一方のH鎖のことをいう。つまり、2つのH鎖のうち任意にどちらか一方を第一のH鎖とし、他方を第二のH鎖とすることができる。同様に、「第一の軽鎖」とは二重特異性抗体を形成する2つの軽鎖(L鎖)のうちの一方のL鎖であり、第二のL鎖は第一のL鎖とは異なるもう一方のL鎖のことを指し、2つのL鎖のうちどちらか一方を任意に第一のL鎖とし、他方を第二のL鎖とすることができる。通常、第一のL鎖と第一のH鎖はある抗原(又はエピトープ)を認識する同一の抗体に由来し、第二のL鎖と第二のH鎖もある抗原(又はエピトープ)を認識する同一の抗体に由来する。ここで、第一のH鎖とL鎖で形成されるL鎖-H鎖対を第一の対、第二のH鎖とL鎖で形成されるL鎖-H鎖対を第二の対と呼ぶ。第二の対の由来となる抗体を作製する際に用いられる抗原(又はエピトープ)は、第一の対の由来となる抗体を作製する際に用いられるものとは異なっていることが好ましい。即ち、第一の対と第二の対が認識する抗原は同じでもよいが、異なる抗原(又はエピトープ)を認識することが好ましい。この場合、第一の対及び第二の対のH鎖とL鎖は互いに異なるアミノ酸配列を有していることが好ましい。第一の対と第二の対が異なるエピトープを認識する場合、該第一の対と第二の対は全く異なる抗原を認識してもよいし、同一抗原上の異なる部位(異なるエピトープ)を認識してもよい。又、一方がタンパク質、ペプチド、遺伝子、糖などの抗原を認識し、他方が放射性物質、化学療法剤、細胞由来トキシン等の細胞傷害性物質などを認識してもよい。しかしながら、特定のH鎖とL鎖の組合せで形成される対を有する抗体を作製したいと考えた場合には、その特定のH鎖とL鎖を第一の対及び第二の対として任意に決定することができる。
【0052】
本発明における変異導入前の抗体(本明細書においては、単に「本発明の抗体」と記載する場合あり)のH鎖又はL鎖をコードする遺伝子は既知の配列を用いることも可能であり、又、当業者に公知の方法で取得することもできる。例えば、抗体ライブラリーから取得することも可能であるし、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから抗体をコードする遺伝子をクローニングして取得することも可能である。
【0053】
抗体ライブラリーについては既に多くの抗体ライブラリーが公知になっており、又、抗体ライブラリーの作製方法も公知であるので、当業者は適宜抗体ライブラリーを入手することが可能である。例えば、抗体ファージライブラリーについては、Clackson et al., Nature 1991, 352: 624-8、Marks et al., J. Mol. Biol. 1991, 222: 581-97、Waterhouses et al., Nucleic Acids Res. 1993, 21: 2265-6、Griffiths et al., EMBO J. 1994, 13: 3245-60、Vaughan et al., Nature Biotechnology 1996, 14: 309-14、及び特表平10−504970号公報等の文献を参照することができる。その他、真核細胞をライブラリーとする方法(WO95/15393号パンフレット)やリボソーム提示法等の公知の方法を用いることが可能である。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を元に適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047、WO92/20791、WO93/06213、WO93/11236、WO93/19172、WO95/01438、WO95/15388を参考にすることができる。
【0054】
ハイブリドーマから抗体をコードする遺伝子を取得する方法は、基本的には公知技術を使用し、所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングし、得られたハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成し、これを所望の抗体定常領域をコードするDNAと連結することにより得ることができる。
【0055】
上記のH鎖及びL鎖をコードする抗体遺伝子を得るための感作抗原には、特に以下の例示に限定されないが、免疫原性を有する完全抗原と、免疫原性を示さないハプテン等を含む不完全抗原の両方が含まれる。本発明の抗体の抗原は特に限定されず、例えば、目的タンパク質の全長タンパク質、又は部分ペプチドなど、その他に抗原となり得ることが知られている、多糖類、核酸、脂質等から構成される物質、を用いることができる。抗原の調製は、例えば、バキュロウィルスを用いた方法(例えば、WO98/46777など)など、当業者に公知の方法に準じて行うことができる。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(G. Kohler and C. Milstein, Methods Enzymol. 1981, 73: 3-46)等に準じて行うことができる。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と結合させ、免疫を行えばよい。また、必要に応じ抗原を他の分子と結合させることにより可溶性抗原とすることもできる。受容体のような膜貫通分子を抗原として用いる場合、受容体の細胞外領域部分を断片として用いたり、膜貫通分子を細胞表面上に発現する細胞を免疫原として使用することも可能である。
【0056】
抗体産生細胞は、上述の適当な感作抗原を用いて動物を免疫化することにより得ることができる。または、抗体を産生し得るリンパ球をin vitroで免疫化して抗体産生細胞とすることもできる。免疫化する動物としては、各種哺乳動物を使用できるが、ゲッ歯目、ウサギ目、霊長目の動物が一般的に用いられる。具体的にはマウス、ラット、ハムスター等のゲッ歯目、ウサギ等のウサギ目、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、チンパンジー等のサル等の霊長目の動物を例示することができる。
【0057】
ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物も知られており、このような動物を使用することによりヒト抗体を得ることもできる(WO96/34096; Mendez et al., Nat. Genet. 1997, 15: 146-56参照)。このようなトランスジェニック動物を使用する代わりに、例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作されたリンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させることにより、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878号公報参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(WO93/12227、WO92/03918、WO94/02602、WO96/34096、WO96/33735参照)。
【0058】
動物の免疫化は、例えば、感作抗原をPhosphate-Buffered Saline(PBS)または生理食塩水等で適宜希釈、懸濁し、必要に応じてアジュバントを混合して乳化した後、動物の腹腔内または皮下に注射することにより行われる。その後、好ましくは、フロイント不完全アジュバントに混合した感作抗原を4〜21日毎に数回投与する。抗体の産生の確認は、動物の血清中の目的とする抗体力価を慣用の方法により測定することにより行われ得る。
【0059】
ハイブリドーマは、所望の抗原で免疫化した動物またはリンパ球より得られた抗体産生細胞を、慣用の融合剤(例えば、ポリエチレングリコール)を使用してミエローマ細胞と融合して作成することができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press, 1986, 59-103)。そして必要に応じハイブリドーマ細胞を培養・増殖し、免疫沈降、放射免疫分析(RIA)、酵素結合免疫吸着分析(ELISA)等の公知の分析法により該ハイブリドーマにより産生される抗体の結合特異性、親和性、または活性を測定する。その後、必要に応じ、目的とする結合特異性、親和性または活性が測定された抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法等の手法によりサブクローニングすることもできる。
【0060】
続いて、目的の抗体をコードする遺伝子を、ハイブリドーマまたは抗体産生細胞(感作リンパ球等)から、抗体に特異的に結合し得るプローブ(例えば、抗体定常領域をコードする配列に相補的なオリゴヌクレオチド等)を用いてクローニングすることができる。また、mRNAからRT-PCRによりクローニングすることも可能である。免疫グロブリンは、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMの5つの異なるクラスに分類される。さらに、これらのクラスは幾つかのサブクラス(アイソタイプ)(例えば、IgG-1、IgG-2、IgG-3、及びIgG-4;IgA-1及びIgA-2等)に分けられる。本発明において抗体の製造に使用するH鎖及びL鎖は、これらいずれのクラス及びサブクラスに属する抗体に由来するものであってもよく、特に限定されないが、IgGが特に好ましい。
【0061】
ここで、H鎖及びL鎖をコードする遺伝子を遺伝子工学的手法により改変することも可能である。例えば、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ハムスター抗体、ヒツジ抗体、ラクダ抗体等の抗体について、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体等を適宜作製することができる。
【0062】
キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体のH鎖、L鎖の可変領域とヒト抗体のH鎖、L鎖の定常領域からなる抗体であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される。このヒト化抗体は、ヒト以外の哺乳動物(たとえばマウス)の抗体の相補性決定領域(CDR; complementary determining region)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成し、得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得ることができる(EP239400; WO96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(K. Sato et al., Cancer Res. 1993, 53: 851-856)。
【0063】
上述のヒト化以外に、例えば、抗原との結合性等の抗体の生物学的特性を改善する改変を行ってもよい。このような改変は、部位特異的突然変異(例えば、Kunkel (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488参照)、PCR変異、カセット変異等の方法により行うことができる。一般に、生物学的特性の改善された抗体変異体は、元の抗体の可変領域のアミノ酸配列に対して70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%以上、97%、98%、99%等)のアミノ酸配列相同性及び/または類似性を有する。本明細書において、配列の相同性及び/または類似性は、配列相同性が最大の値を取るように、必要に応じ配列を整列化、及びギャップ導入した後、元となった抗体残基と相同(同じ残基)または類似(一般的なアミノ酸の側鎖の特性に基き同じグループに分類されるアミノ酸残基)するアミノ酸残基の割合として定義される。通常、天然のアミノ酸残基は、その側鎖の性質に基づいて
(1)疎水性:アラニン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、メチオニン及びロイシン;
(2)中性親水性:アスパラギン、グルタミン、システイン、スレオニン及びセリン;
(3)酸性:アスパラギン酸及びグルタミン酸;
(4)塩基性:アルギニン、ヒスチジン及びリシン;
(5)鎖の配向に影響する残基:グリシンおよびプロリン;ならびに
(6)芳香族性:チロシン、トリプトファン及びフェニルアラニン
のグループに分類される。
【0064】
通常、H鎖及びL鎖の可変領域中に存在する全部で6つの相補性決定領域(超可変部;CDR)が相互作用し、抗体の抗原結合部位を形成している。このうち1つの可変領域であっても全結合部位を含むものよりは低い親和性となるものの、抗原を認識し、結合する能力があることが知られている。従って、本発明のH鎖及びL鎖をコードする抗体遺伝子は、該遺伝子によりコードされるポリペプチドが所望の抗原との結合性を維持していればよく、H鎖及びL鎖の各々の抗原結合部位を含む断片部分をコードしていればよい。
【0065】
以下、2種の重鎖定常領域CH1(CH1-AとCH1-B)および2種の軽鎖定常領域(CL-AとCL-B)を有するIgG型二重特異性抗体の場合について、より詳細に説明するが、その他の抗体についても同様に本発明を適用することができる。
【0066】
第一のCH1-Aと第一のCL-Aにより一方のエピトープを認識し、また、第二のCH1-Bと第二のCL-Bにより他方のエピトープを認識するような二重特異性抗体を取得したい場合、該抗体の生産において4種のそれぞれの鎖を発現させると理論上10種類の抗体分子が生産される可能性がある。
【0067】
この場合、例えば、CH1-AとCL-Bおよび/またはCH1-BとCL-Aの間の会合を阻害するように制御すれば、所望の抗体分子を優先的に取得することが可能である。
【0068】
例えば、CH1-AとCL-B間の界面を形成するアミノ酸残基を正の電荷を有するアミノ酸残基に改変し、CH1-BとCL-A間の界面を形成するアミノ酸残基を負の電荷を有するアミノ酸残基に改変する例を挙げることができる。この改変により、目的としないCH1-AとCL-Bとの会合は界面を形成するアミノ酸残基がどちらも正電荷であるため阻害され、CH1-BとCL-Aとの会合も界面を形成するアミノ酸残基がどちらも負電荷であるため阻害され、目的としないCH1-AとCL-Bとの会合及びCH1-BとCL-Aとの会合は界面を形成するアミノ酸残基が互いに同じ電荷であるため阻害される。その結果、目的とするCH1-AとCL-Aとの会合及び目的とするCH1-BとCL-Bとの会合が生じた抗体を効率的に得ることができる。また、目的とするCH1-AとCL-Aとの会合は、界面を形成するアミノ酸残基が互いに異種の電荷を有するために促進され、目的とするCH1-BとCL-Bとの会合も界面を形成するアミノ酸残基が互いに異種の電荷を有するため促進される。その結果、目的とする会合が生じた抗体を効率的に得ることができる。
【0069】
また、CL-AとCH1-B間の界面を形成するアミノ酸残基が互いに電荷を帯びていないアミノ酸又は非極性アミノ酸である場合、CH1-AとCL-B間の界面を形成するアミノ酸残基を正の電荷を有するアミノ酸残基に改変する例を挙げることができる。この改変により、目的としないCH1-AとCL-Bとの会合は界面を形成するアミノ酸残基がどちらも正電荷であるため阻害される。その一方で、目的とするCH1-AとCL-Aとの会合及び目的とするCH1-BとCL-Bとの会合は、界面を形成するアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないアミノ酸であるため、電荷的に反発するアミノ酸である場合に比べて会合が起こりやすい。その結果、目的とするCH1-AとCL-Aとの会合及び目的とするCH1-BとCL-Bとの会合が生じた抗体を効率的に得ることができる。尚、この例においてCL-AとCH1-B間の界面を形成するアミノ酸残基が互いに電荷を帯びていないアミノ酸又は非極性アミノ酸でない場合は、互いに電荷を帯びていないアミノ酸又は非極性アミノ酸となるよう改変してもよい。
【0070】
また、CL-BとCH1-B間の界面を形成するアミノ酸残基が互いに電荷を帯びていないアミノ酸又は非極性アミノ酸である場合、CH1-AとCL-A間の界面を形成するアミノ酸残基を一方を正電荷、他方を負電荷を有するアミノ酸残基に改変する例を挙げることができる。この改変により、目的とするCH1-AとCL-Aとの会合は界面を形成するアミノ酸残基が正電荷と負電荷の組合せのため促進される一方で、目的とするCH1-BとCL-Bとの会合は界面を形成するアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないアミノ酸であるために阻害されない。その結果として、目的とするCH1-AとCL-Aとの会合及び目的とするCH1-BとCL-Bとの会合が生じた抗体を効率的に得ることができる。尚、この例においてCL-BとCH1-B間の界面を形成するアミノ酸残基が互いに電荷を帯びていないアミノ酸又は非極性アミノ酸でない場合は、互いに電荷を帯びていないアミノ酸又は非極性アミノ酸となるよう改変してもよい。
【0071】
また、CL-BとCH1-B間の界面を形成するアミノ酸残基がCH1-Bにおいては電荷を帯びていないアミノ酸又は非極性アミノ酸である場合、CH1-AとCL-A間の界面を形成するアミノ酸残基を一方を正電荷、他方を負電荷を有するアミノ酸残基に改変し、CL-BにおいてCL-BとCH1-B間の界面を形成するアミノ酸残基をCH1-Aに加えた改変と同じ電荷を有する改変を加える例を挙げることができる。この改変により、目的とするCH1-AとCL-Aとの会合は界面を形成するアミノ酸残基が正電荷と負電荷の組合せのため促進される一方で、目的とするCH1-BとCL-Bとの会合は界面を形成するアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないアミノ酸であるために阻害されない。その結果として、目的とするCH1-AとCL-Aとの会合及び目的とするCH1-BとCL-Bとの会合が生じた抗体を効率的に得ることができる。尚、この例においてCL-BとCH1-B間の界面を形成するアミノ酸残基がCH1-Bにおいては電荷を帯びていないアミノ酸又は非極性アミノ酸でない場合は、電荷を帯びていないアミノ酸又は非極性アミノ酸となるよう改変してもよい。
【0072】
また、本発明の会合制御を利用することにより、CH1同士(CH1-AとCH1-B)、あるいは、CL同士(CL-AとCL-B)の会合を抑制することも可能である。
当業者であれば、本発明によって会合を制御したい所望のポリペプチドについて、会合した際のCH1とCLの界面において接近するアミノ酸残基の種類を適宜知ることが可能である。
【0073】
また、ヒト、サル、マウス及びウサギ等の生物において、抗体のCH1又はCLとして利用可能な配列を、当業者であれば、公共のデータベース等を利用して適宜取得することができる。より具体的には、後述の実施例に記載の手段にて、CH1又はCLのアミノ酸配列情報を取得することが可能である。
【0074】
例えば、後述の実施例に示す二重特異性抗体については、会合した際のCH1とCLの界面において接近(相対または接触)するアミノ酸残基の具体例として、以下の組合せを挙げることができる。
・CH1のEUナンバリング147位(例えば、配列番号:1に記載のアミノ酸配列における147位)のリジン(K)と、相対(接触)するCLのEUナンバリング180位のスレオニン(T)
・CH1のEUナンバリング147位のリジン(K)と、相対(接触)するCLのEUナンバリング131位のセリン(S)
・CH1のEUナンバリング175位のグルタミン(Q)と、相対(接触)するCLのEUナンバリング160位のグルタミン(Q)
・CH1のEUナンバリング213位のリジン(K)と、相対(接触)するCLのEUナンバリング123位のグルタミン酸(E)
【0075】
本発明におけるEUナンバリングとして記載された番号は、EU numbering(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242)にしたがって記載したものである。なお本発明において、「EUナンバリングX位のアミノ酸残基」、「EUナンバリングX位のアミノ酸」(Xは任意の数)は、「EUナンバリングX位に相当するアミノ酸残基」、「EUナンバリングX位に相当するアミノ酸」と読みかえることも可能である。
後述の実施例で示すように、これらアミノ酸残基を改変し、本発明の方法を実施することにより、所望の抗体を優先的に取得することができる。
【0076】
即ち、本発明は、重鎖と軽鎖の会合が制御された抗体であって、当該抗体において重鎖と軽鎖における以下の(a)〜(c)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される1組または2組以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するアミノ酸残基である抗体を提供する;
(a)重鎖の定常領域(CH1)に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及び軽鎖定常領域(CL)に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位のアミノ酸残基、
(b)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング131位のアミノ酸残基、
(c)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング160位のアミノ酸残基。
【0077】
本発明の別の態様として、さらに以下の(d)に示すアミノ酸残基の組のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するアミノ酸残基である抗体を提供する;
(d)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基。
【0078】
上記抗体において、「互いに電荷的に反発するアミノ酸残基」または「同種の電荷を有するアミノ酸残基」は、例えば、以下の(X)または(Y)のいずれかの組に含まれるアミノ酸残基から選択されることが好ましい;
(X) グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)、
(Y) リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)。
【0079】
上記抗体において、互いに電荷的に反発するアミノ酸残基としては、具体的には、以下のアミノ酸残基を挙げることができる;
・CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基がリジン(K)、CLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位、131位及び160位のアミノ酸残基がいずれもグルタミン酸(E)
・CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位及び175位のアミノ酸残基がグルタミン酸(E)、CLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位、131位及び160位のアミノ酸残基がいずれもリジン(K)
上記抗体において電荷的に反発しないアミノ酸残基としては、さらに、CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基がグルタミン酸(E)であり、CLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基がリジン(K)を挙げることができる。
また、上述の抗体についての製造方法、および、上記(a)〜(d)に示すアミノ酸残基の組のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するアミノ酸残基となるように改変する本発明の会合制御方法もまた、本発明の好ましい態様である。
【0080】
また本発明は、重鎖と軽鎖の会合が制御された抗体であって、当該抗体において会合する重鎖と軽鎖における以下の(a)〜(c)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される1組または2組以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基である抗体を提供する;
(a)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位のアミノ酸残基、
(b)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング131位のアミノ酸残基、
(c)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング160位のアミノ酸残基。
【0081】
本発明の別の態様として、さらに、以下の(d)に示すアミノ酸残基の組のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基である抗体を提供する;
(d)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基。
【0082】
上記組合せに記載のそれぞれのアミノ酸残基は、後述の実施例および
図1に示すように、会合した際に互いに接近している。当業者であれば、所望のCH1またはCLについて、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、上記(a)〜(d)に記載のアミノ酸残基に対応する部位を見出すことができ、適宜、該部位のアミノ酸残基を改変に供することが可能である。
【0083】
上記抗体において、「互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基」は、例えば、以下の(X)〜(Z)からなる群より選択される2つの組のそれぞれから選択されるアミノ酸残基であって、2つの組が(X)と(Y)、(X)と(Z)、(Y)と(Z)、または(Z)と(Z)の組み合わせから選択されることが好ましい;
(X)グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)
(Y)リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)
(Z)アラニン(A)、アスパラギン(N)、システイン(C)、グルタミン(Q)、グリシン(G)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)、セリン(S)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)又はバリン(V)
【0084】
例えば、(X)〜(Z)からなる群から(X)と(Y)を選択し、(X)からグルタミン酸を選択し、(Y)からリジン(K)を選択し、CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基をグルタミン酸(E)に改変し、CLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位のアミノ酸残基をリジン(K)に改変する場合を挙げることができる。この場合において、例えばCH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基が改変前からグルタミン酸(E)であった場合は改変する必要はない。
【0085】
上記抗体において、互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基としては、具体的には、以下のアミノ酸残基を挙げることができる;
・CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基がリジン(K)、CLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位、131位及び160位のアミノ酸残基がいずれもグルタミン酸(E)
・CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位及び175位のアミノ酸残基がグルタミン酸(E)、CLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位、131位及び160位のアミノ酸残基がいずれもリジン(K)
上記抗体において電荷的に反発しないアミノ酸残基としては、さらに、CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基がグルタミン酸(E)であり、CLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基がリジン(K)を挙げることができる。
【0086】
また、上述の抗体についての製造方法、および、上記(a)〜(d)に示すアミノ酸残基の組のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基となるように改変する本発明の会合制御方法もまた、本発明の好ましい態様である。
【0087】
本発明の抗体には、重鎖の第二の定常領域(CH2)又は重鎖の第三の定常領域(CH3)の界面に電荷的な反発を導入して、目的としない重鎖同士の会合を抑制する技術、重鎖可変領域と軽鎖可変領域の界面に電荷的な反発を導入して目的としない重鎖と軽鎖の会合を抑制する技術、重鎖可変領域と軽鎖可変領域の界面に存在する疎水性コアを形成するアミノ酸残基を電荷を有する極性アミノ酸へ改変して目的としない重鎖と軽鎖の会合を抑制する技術をさらに適用することができる(WO2006/106905参照)。
【0088】
CH2又はCH3の界面に電荷的な反発を導入して意図しない重鎖同士の会合を抑制させる技術において、重鎖の他の定常領域の界面で接触するアミノ酸残基としては、例えばCH3領域における377位(356位)と470位(439位)、378位(357位)と393位(370位)、427位(399位)と440位(409位)に相対する領域を挙げることができる。抗体定常領域のナンバリングについては、Kabatらの文献(Kabat EA et al. 1991. Sequences of Proteins of Immunological Interest. NIH)を参考にし、重鎖定常領域のナンバリングについてはEUナンバリングを括弧内に示した。
【0089】
前記技術と組み合わせて、IgGとProteinAとの結合に関係する部位であるEUナンバリング435番目のアミノ酸残基をArgなどのProteinAへの結合力の異なるアミノ酸に改変するという技術を、本発明の抗体に用いてもよい。本技術を用いることにより、H鎖とProtein Aとの相互作用を変化させ、Protein Aカラムを用いることで、ヘテロ二量化抗体のみを効率的に精製することができる。尚、本技術は前記技術と組み合わせず、単独で用いることもできる。
【0090】
より具体的には、例えば、2種の重鎖CH3領域を含む抗体においては、第1の重鎖CH3領域における以下の(1)〜(3)に示すアミノ酸残基の組から選択される1組ないし3組のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発する抗体とすることができる;
(1)重鎖CH3領域に含まれるアミノ酸残基であって、EUナンバリング356位および439位のアミノ酸残基、
(2)重鎖CH3領域に含まれるアミノ酸残基であって、EUナンバリング357位および370位のアミノ酸残基、
(3)重鎖CH3領域に含まれるアミノ酸残基であって、EUナンバリング399位および409位のアミノ酸残基。
【0091】
更に、上記第1の重鎖CH3領域とは異なる第2の重鎖CH3領域における前記(1)〜(3)に示すアミノ酸残基の組から選択されるアミノ酸残基の組であって、前記第1の重鎖CH3領域において互いに電荷的に反発する前記(1)〜(3)に示すアミノ酸残基の組に対応する1組ないし3組のアミノ酸残基が、前記第1の重鎖CH3領域における対応するアミノ酸残基とは電荷的に反発しない抗体とすることができる。
【0092】
上記(1)〜(3)に記載のそれぞれのアミノ酸残基は、会合した際に互いに接近している。当業者であれば、所望の重鎖CH3領域または重鎖定常領域について、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、上記(1)〜(3)に記載のアミノ酸残基に対応する部位を見出すことができ、適宜、該部位のアミノ酸残基を改変に供することが可能である。
【0093】
上記抗体において、「電荷的に反発する」または「同種の電荷を有する」とは、例えば、2つ以上のアミノ酸残基のいずれもが、上記(X)または(Y)のいずれか1の群に含まれるアミノ酸残基を有することを意味する。一方で、「電荷的に反発しない」とは、例えば、アミノ酸残基が、上記(X)もしくは(Y)、または以下の(Z)からなる群より選択される2つの組のそれぞれから選択されるアミノ酸残基であって、2つの組が(X)と(Y)、(X)と(Z)、(Y)と(Z)、または(Z)と(Z)の組み合わせから選択されるアミノ酸残基を有することを意味する。
(Z) アラニン(A)、アスパラギン(N)、システイン(C)、グルタミン(Q)、グリシン(G)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)、セリン(S)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)又はバリン(V)
【0094】
好ましい態様において上記抗体は、第1の重鎖CH3領域と第2の重鎖CH3領域がジスルフィド結合により架橋されていてもよい。
【0095】
本発明において「改変」に供するアミノ酸残基としては、上述した抗体の可変領域または抗体の定常領域のアミノ酸残基に限られない。当業者であれば、ポリペプチド変異体または異種多量体について、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、界面を形成するアミノ酸残基を見出すことができ、会合を制御するように、該部位のアミノ酸残基を改変に供することが可能である。ホモロジーモデリングとは、市販のソフトウェアを用いて、タンパク質の立体構造を予測する手法の一つである。立体構造が未知のタンパク質の構造を構築する場合、まずそれに相同性の高い立体構造が決定されているタンパク質を探索する。次にその立体構造を鋳型 (テンプレート) として構造が未知のタンパク質の構造を構築し、さらに分子動力学法などにより構造を最適化し、未知のタンパク質の立体構造を予測する手法である。
【0096】
重鎖可変領域と軽鎖可変領域の界面に電荷的な反発を導入して目的としない重鎖と軽鎖の会合を抑制させる技術において、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)の界面で接触するアミノ酸残基としては、例えば、重鎖可変領域上のkabatナンバリング39位(FR2領域)のグルタミン(Q)と、相対(接触)する軽鎖可変領域上のKabatナンバリング38位(FR2領域)のグルタミン(Q)を挙げることができる。さらに、重鎖可変領域上のKabatナンバリング45位(FR2)のロイシン(L)と、相対する軽鎖可変領域上のKabatナンバリング44位(FR2)のプロリン(P)を好適に例示することができる。なお、これら部位のナンバリングについては、Kabatらの文献(Kabat EA et al. 1991. Sequence of Proteins of Immunological Interest. NIH)を参考にしている。
【0097】
これらアミノ酸残基は、ヒトおよびマウスにおいて高度に保存されていることが知られている(J. Mol. Recognit. 2003; 16: 113-120)ことから、実施例に示す抗体以外のVHとVLの会合についても、上記アミノ酸残基に対応するアミノ酸残基を改変することによって、抗体の可変領域の会合を制御することができる。
【0098】
具体的には、重鎖可変領域と軽鎖可変領域の界面を形成する2残基以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するアミノ酸残基である抗体を挙げることができる。
より具体的には、以下の(a)または(b)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される1組または2組のアミノ酸残基である抗体を挙げることができる;
(a)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であって、(1)Kabatナンバリング39位のアミノ酸残基、および軽鎖に含まれるアミノ酸残基であって、(2)Kabatナンバリング38位のアミノ酸残基、
(b)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であって、(3)Kabatナンバリング45位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であって、(4)Kabatナンバリング44位のアミノ酸残基。
【0099】
上記(a)または(b)に記載のそれぞれのアミノ酸残基は、会合した際に互いに接近している。当業者であれば、所望の重鎖可変領域または軽鎖可変領域について、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、上記(a)または(b)に記載のアミノ酸残基に対応する部位を見出すことができ、適宜、該部位のアミノ酸残基を改変に供することが可能である。
【0100】
上記抗体において、「互いに電荷的に反発するアミノ酸残基」は、例えば以下の(X)または(Y)のいずれかの組に含まれるアミノ酸残基から選択されることが好ましい;
(X) グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)、
(Y) リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)。
【0101】
また、本発明の抗体の別の態様として、重鎖可変領域と軽鎖可変領域の界面を形成する2残基以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基である抗体を挙げることができる。このような抗体として、具体的には、上記の(a)または(b)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される1組または2組のアミノ酸残基である抗体を挙げることができる。
【0102】
上記(a)または(b)に記載のそれぞれのアミノ酸残基は、会合した際に互いに接近している。当業者であれば、所望の重鎖可変領域または軽鎖可変領域について、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、上記(a)または(b)に記載のアミノ酸残基に対応する部位を見出すことができ、適宜、該部位のアミノ酸残基を改変に供することが可能である。
【0103】
上記抗体において「互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基」とは、例えば、上記の(X)〜(Z)からなる群より選択される2つの組のそれぞれから選択されるアミノ酸残基であって、2つの組が(X)と(Y)、(X)と(Z)、(Y)と(Z)、または(Z)と(Z)の組み合わせから選択されることを意味する。
【0104】
上記(a)または(b)に記載のアミノ酸残基は、通常、ヒトおよびマウスにおいてはそれぞれ
(1)グルタミン(Q)、
(2)グルタミン(Q)、
(3)ロイシン(L)、
(4)プロリン(P)
である。従って本発明の好ましい態様においては、これらアミノ酸残基を改変(例えば、電荷を有するアミノ酸への置換)に供する。なお、上記(a)または(b)のアミノ酸残基の種類は、必ずしも上記のアミノ酸残基に限定されず、該アミノ酸に相当する他のアミノ酸であってもよい。例えば、軽鎖可変領域上のKabatナンバリング38位のアミノ酸として、ヒトの場合、例えば、ヒスチジン(H)であってもよい。
【0105】
重鎖可変領域と軽鎖可変領域の界面に存在する疎水性コアを形成するアミノ酸残基を電荷を有する極性アミノ酸へ改変して、目的としない重鎖と軽鎖の会合を抑制する技術において、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)の界面で疎水性コアを形成し得るアミノ酸残基としては、例えば、重鎖可変領域上のKabatナンバリング45位(FR2)のロイシン(L)と、相対する軽鎖可変領域上のKabatナンバリング44位(FR2)のプロリン(P)を好適に例示することができる。なお、これら部位のナンバリングについては、Kabatらの文献(Kabat EA et al. 1991. Sequence of Proteins of Immunological Interest. NIH)を参考にしている。
【0106】
一般的に、「疎水性コア(hydrophobic core)」とは、会合したポリペプチドの内側に疎水性アミノ酸の側鎖が集合して形成する部分を指す。疎水性アミノ酸には、例えばアラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、バリンなどが含まれる。また、疎水コアの形成には、疎水性アミノ酸以外のアミノ酸残基(例えばチロシン)が関わることもある。この疎水性コアは、親水性アミノ酸の側鎖が外側に露出する親水性表面とともに、水溶性のポリペプチドの会合を進める駆動力となる。異なる2つのドメインの疎水性アミノ酸が分子表面に存在し、水分子に暴露されるとエントロピーが増大し自由エネルギーが増大してしまう。よって、2つのドメインは自由エネルギーを減少させ、安定化するために、互いに会合し、界面の疎水性アミノ酸は分子内部に埋もれ、疎水コアを形成することになる。
【0107】
ポリペプチドの会合が起こる際に、疎水性コアを形成する疎水性アミノ酸を電荷を持つ極性アミノ酸へ改変することにより、疎水性コアの形成が阻害され、その結果、ポリペプチドの会合が阻害されるものと考えられる。
【0108】
当業者においては、所望のポリペプチドについてアミノ酸配列を解析することにより、疎水性コアの存在の有無、および形成部位(領域)等を知ることが可能である。即ち本発明の抗体は、例えば、界面において疎水性コアを形成し得るアミノ酸残基を、電荷を有するアミノ酸残基へ改変することを特徴とする抗体である。より具体的には、以下の(1)と(2)のいずれか一方が電荷を有するアミノ酸残基である抗体を挙げることができる。以下の(1)と(2)で示すアミノ酸残基の側鎖は近接し、疎水性コアを形成し得る。
(1)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であって、Kabatナンバリング45位のアミノ酸残基
(2)軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であって、Kabatナンバリング44位のアミノ酸残基
【0109】
上記抗体における電荷を有するアミノ酸残基としては、好ましくは、グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)を挙げることができる。より好ましくは、グルタミン酸(E)、リジン(K)である。
【0110】
上記(1)及び(2)に記載のアミノ酸残基は、通常、ヒトおよびマウスにおいてはそれぞれ
(1)ロイシン(L)、
(2)プロリン(P)
である。従って本発明の好ましい態様においては、これらアミノ酸残基を改変(例えば、電荷を有するアミノ酸への置換)に供する。なお、上記(1)及び(2)のアミノ酸残基の種類は、必ずしも上記のアミノ酸残基に限定されず、該アミノ酸に相当する他のアミノ酸であってもよい。
【0111】
本発明の抗体には、さらに他の公知技術を適用することができる。例えば、第一のVH(VH1)と第一のVL(VL1)、および/または第二のVH(VH2)と第二のVL(VL2)の会合が促進されるように、一方のH鎖の可変領域に存在するアミノ酸側鎖をより大きい側鎖(knob; 突起)に置換し、もう一方のH鎖の相対する可変領域に存在するアミノ酸側鎖をより小さい側鎖(hole; 空隙)に置換することによって、突起が空隙に配置され得るようにしてVH1とVL1、および/またはVH2とVL2の会合を促進させ、結果的にVH1とVL2、および/またはVH2とVL1の会合をさらに抑制することが可能である(WO1996/027011、Ridgway JB et al., Protein Engineering (1996) 9, 617-621、Merchant AM et al. Nature Biotechnology (1998) 16, 677-681)。
【0112】
例えば、ヒトIgG1の場合、一方のH鎖のCH3領域にあるアミノ酸側鎖をより大きい側鎖(knob; 突起)とするためにY349C、T366Wの改変を加え、他方のH鎖のCH3領域にあるアミノ酸側鎖をより小さい側鎖にするためにD356C、T336S、L368A、Y407Vの改変を加える場合を挙げることができる。
【0113】
本発明の抗体には、さらに他の公知技術を適用することができる。抗体の一方のH鎖のCH3の一部をその部分に対応するIgA由来の配列にし、もう一方のH鎖のCH3の相補的な部分にその部分に対応するIgA由来の配列を導入したstrand-exchange engineered domain CH3を用いることで、目的とする抗体をCH3の相補的な会合化によって効率的に作製することができる (Protein Engineering Design & Selection, 23; 195-202, 2010)。
【0114】
本発明の抗体には、さらに他の公知技術を適用することができる。二重特異性抗体の作製において、例えば二種類のH鎖の可変領域にそれぞれ異なるアミノ酸改変を加えることにより等電点の差を付与し、その等電点の差を利用してイオン交換クロマトグラフィーで精製することにより、目的とする二重特異性抗体を作製することができる(WO2007/114325)。
【0115】
本発明の改変は、以下のような抗体にも用いることができる。例えば、第一のVH(VH1)と第一のVL(VL1)、および/または第二のVH(VH2)と第二のVL(VL2)の会合が促進されるように、VH1が第一のCH1を介して一方のFc領域に連結され、VL1が第一のCLと連結され、VH2が第二のCLを介して他方のFc領域に連結され、VL2が第二のCH1と連結された構造を有する抗体が挙げられる(WO09/80254)。
【0116】
本発明の抗体には、上記公知技術を複数、例えば2個以上組み合わせて用いることができる。なお、本発明の抗体は、上記公知技術の改変が加えられたものをベースにして作製したものであってもよい。
【0117】
後述する本発明の会合制御方法を利用することにより、例えば、活性を有する抗体もしくはポリペプチドを効率的に作成することができる。該活性としては、例えば、結合活性、中和活性、細胞傷害活性、アゴニスト活性、アンタゴニスト活性、酵素活性等を挙げることができる。アゴニスト活性とは、受容体などの抗原に抗体が結合することにより、細胞内にシグナルが伝達される等して、何らかの生理的活性の変化を誘導する活性である。生理的活性としては、例えば、増殖活性、生存活性、分化活性、転写活性、膜輸送活性、結合活性、タンパク質分解活性、リン酸化/脱リン酸化活性、酸化還元活性、転移活性、核酸分解活性、脱水活性、細胞死誘導活性、アポトーシス誘導活性等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0118】
また本発明の方法によって、所望の抗原を認識する、または所望の受容体と結合する抗体もしくはポリペプチドを効率的に作成することができる。
【0119】
本発明の抗原は特に限定されず、どのような抗原でもよい。抗原の例としては、例えば、受容体もしくはその断片、癌抗原、MHC抗原、分化抗原等を挙げることができるが、特にこれらに制限されない。
【0120】
また、本発明の受容体の例としては、例えば、造血因子受容体ファミリー、サイトカイン受容体ファミリー、チロシンキナーゼ型受容体ファミリー、セリン/スレオニンキナーゼ型受容体ファミリー、TNF受容体ファミリー、Gタンパク質共役型受容体ファミリー、GPIアンカー型受容体ファミリー、チロシンホスファターゼ型受容体ファミリー、接着因子ファミリー、ホルモン受容体ファミリー、等の受容体ファミリーに属する受容体などを挙げることができる。これら受容体ファミリーに属する受容体、及びその特徴に関しては多数の文献が存在し、例えば、Cooke BA., King RJB., van der Molen HJ. ed. New Comprehensive Biochemistry Vol.18B "Hormones and their Actions Part II"pp.1-46 (1988) Elsevier Science Publishers BV., New York, USA、Patthy L. (1990) Cell, 61: 13-14.、Ullrich A., et al. (1990) Cell, 61: 203-212.、Massagul J. (1992) Cell, 69: 1067-1070.、Miyajima A., et al. (1992) Annu. Rev. Immunol., 10: 295-331.、Taga T. and Kishimoto T. (1992) FASEB J., 7: 3387-3396.、Fantl WI., et al. (1993) Annu. Rev. Biochem., 62: 453-481、Smith CA., et al. (1994) Cell, 76: 959-962.、Flower DR. (1999) Biochim. Biophys. Acta, 1422: 207-234.、宮坂昌之監修, 細胞工学別冊ハンドブックシリーズ「接着因子ハンドブック」(1994) (秀潤社, 東京, 日本)等が挙げられる。上記受容体ファミリーに属する具体的な受容体としては、例えば、ヒト又はマウスエリスロポエチン(EPO)受容体、ヒト又はマウス顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)受容体、ヒト又はマウストロンボポイエチン(TPO)受容体、ヒト又はマウスインスリン受容体、ヒト又はマウスFlt-3リガンド受容体、ヒト又はマウス血小板由来増殖因子(PDGF)受容体、ヒト又はマウスインターフェロン(IFN)-α、β受容体、ヒト又はマウスレプチン受容体、ヒト又はマウス成長ホルモン(GH)受容体、ヒト又はマウスインターロイキン(IL)-10受容体、ヒト又はマウスインスリン様増殖因子(IGF)-I受容体、ヒト又はマウス白血病抑制因子(LIF)受容体、ヒト又はマウス毛様体神経栄養因子(CNTF)受容体等を例示することができる(hEPOR: Simon, S. et al. (1990) Blood 76, 31-35.; mEPOR: D'Andrea, AD. Et al. (1989) Cell 57, 277-285.; hG-CSFR: Fukunaga, R. et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 87, 8702-8706.; mG-CSFR: Fukunaga, R. et al. (1990) Cell 61, 341-350.; hTPOR: Vigon, I. et al. (1992) 89, 5640-5644.; mTPOR: Skoda, RC. Et al. (1993) 12, 2645-2653.; hInsR: Ullrich, A. et al. (1985) Nature 313, 756-761.; hFlt-3: Small, D. et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 91, 459-463.; hPDGFR: Gronwald, RGK. Et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85, 3435-3439.; hIFNα/βR: Uze, G. et al. (1990) Cell 60, 225-234.及びNovick, D. et al. (1994) Cell 77, 391-400.)。
【0121】
癌抗原は細胞の悪性化に伴って発現する抗原であり、腫瘍特異性抗原とも呼ばれる。又、細胞が癌化した際に細胞表面やタンパク質分子上に現れる異常な糖鎖も癌抗原であり、癌糖鎖抗原とも呼ばれる。癌抗原の例としては、例えば、肺癌を初めとする複数の癌で発現するEpCAM(Proc Natl Acad Sci U S A. (1989) 86 (1), 27-31)(そのポリヌクレオチド配列はRefSeq登録番号NM_002354.2(配列番号:78)に、ポリペプチド配列はRefSeq登録番号NP_002345.2(配列番号:79)にそれぞれ記載されている。)、CA19-9、CA15-3、シアリルSSEA-1(SLX)等が好適に挙げられる。
【0122】
MHC抗原には、MHC class I抗原とMHC class II抗原に大別され、MHC class I抗原には、HLA-A,-B,-C,-E,-F,-G,-Hが含まれ、MHC class II抗原には、HLA-DR,-DQ,-DPが含まれる。
【0123】
分化抗原には、CD1,CD2,CD3,CD4,CD5,CD6,CD7,CD8,CD10,CD11a,CD11b,CD11c,CD13,CD14,CD15s,CD16,CD18,CD19,CD20,CD21,CD23,CD25,CD28,CD29,CD30,CD32,CD33,CD34,CD35,CD38,CD40,CD41a,CD41b,CD42a,CD42b,CD43,CD44,CD45,CD45RO,CD48,CD49a,CD49b,CD49c,CD49d,CD49e,CD49f,CD51,CD54,CD55,CD56,CD57,CD58,CD61,CD62E,CD62L,CD62P,CD64,CD69,CD71,CD73,CD95,CD102,CD106,CD122,CD126,CDw130などが含まれる。
【0124】
本発明の抗体は二重特異性抗体であってもよく、その場合、該抗体が認識する抗原(又はエピトープ)は、上記受容体もしくはその断片、癌抗原、MHC抗原、分化抗原等から任意に2つを選択できる。例えば受容体もしくはその断片から2つ、癌抗原から2つ、MHC抗原から2つ、分化抗原から2つ選択してもよい。また、例えば、受容体もしくはその断片、癌抗原、MHC抗原及び分化抗原から任意に選ばれる2つからそれぞれ一つずつ選択してもよい。
【0125】
また本発明は、重鎖と軽鎖の会合が制御された抗体の製造方法を提供する。
本発明の製造方法の好ましい態様としては、重鎖と軽鎖の会合が制御された抗体の製造方法であって、
(1)CH1及びCLをコードする核酸を、以下の(a)〜(c)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される1組または2組以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するアミノ酸残基となるように核酸を改変する工程、
(a)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位のアミノ酸残基、
(b)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング131位のアミノ酸残基、
(c)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング160位のアミノ酸残基
(2)前記改変された核酸を宿主細胞へ導入し、宿主細胞を該核酸が発現するように培養する工程、
(3)前記宿主細胞の培養細胞物から抗体を回収する工程。
【0126】
本発明の製造方法の別の態様として、前記製造方法の工程(1)において、さらに、以下の(d)に示すアミノ酸残基の組のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するアミノ酸残基となるように核酸を改変する工程を含む、抗体の製造方法が挙げられる;
(d)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基。
【0127】
また本発明は、前記工程(1)において、互いに電荷的に反発するアミノ酸残基が上述の(X)または(Y)のいずれかの群に含まれるアミノ酸残基から選択されるように核酸を改変する工程を含む製造方法に関する。
さらに本発明は、前記工程(1)において、重鎖可変領域と軽鎖可変領域の界面を形成する2残基以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するアミノ酸残基であるように核酸を改変する工程を含む製造方法に関する。ここで好ましくは、互いに電荷的に反発するアミノ酸残基は、例えば以下の(a)または(b)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択されるいずれか1組のアミノ酸残基である;
(a)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング39位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング38位のアミノ酸残基、
(b)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング45位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング44位のアミノ酸残基。
【0128】
上記の互いに電荷的に反発するアミノ酸残基は、上述の(X)または(Y)のいずれかの組に含まれるアミノ酸残基から選択されることが好ましい。
【0129】
本発明の製造方法の別の好ましい態様としては、重鎖と軽鎖の会合が制御された抗体の製造方法であって、
(1)CH1及びCLをコードする核酸を、以下の(a)〜(c)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される1組または2組以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基となるように核酸を改変する工程、
(a)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位のアミノ酸残基、
(b)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング131位のアミノ酸残基、
(c)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング160位のアミノ酸残基
(2)前記改変された核酸を宿主細胞へ導入し、宿主細胞を該核酸が発現するように培養する工程、
(3)前記宿主細胞の培養物から抗体を回収する工程、
を含む製造方法が挙げられる。
【0130】
本発明の製造方法の別の態様として、前記製造方法の工程(1)において、さらに、以下の(d)に示すアミノ酸残基の組のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基となるように核酸を改変する工程を含む、抗体の製造方法が挙げられる;
(d)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基。
また本発明は、前記工程(1)において、互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基が上述の(X)〜(Z)からなる群より選択される2つの組のそれぞれから選択されるアミノ酸残基であって、2つの組が(X)と(Y)、(X)と(Z)、(Y)と(Z)、または(Z)と(Z)の組み合わせから選択されるように核酸を改変する工程を含む製造方法に関する。
また本発明は、前記工程(1)において、互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基として、具体的に以下のアミノ酸残基を挙げることができる。
・CH1に含まれるアミノ酸残基であって、EUナンバリング175位のアミノ酸残基がリジン(K)、CLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位、131位及び160位のアミノ酸残基がいずれもグルタミン酸(E)
・CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位及び175位のアミノ酸残基がグルタミン酸(E)、CLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位、131位及び160位のアミノ酸残基がいずれもリジン(K)
さらに、CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基がグルタミン酸(E)であり、CLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基がリジン(K)を挙げることができる。
【0131】
さらに本発明は、前記工程(1)において、重鎖可変領域と軽鎖可変領域の界面を形成する2残基以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基であるように核酸を改変する工程を含む製造方法に関する。ここで好ましくは、互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基は、例えば以下の(a)または(b)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択されるいずれか1組のアミノ酸残基である;
(a)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング39位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング38位のアミノ酸残基、
(b)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング45位のアミノ酸残基、及び軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であってKabatナンバリング44位のアミノ酸残基。
【0132】
上記の互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基は、上述の(X)〜(Z)からなる群より選択される2つの組のそれぞれから選択されるアミノ酸残基であって、2つの組が(X)と(Y)、(X)と(Z)、(Y)と(Z)、または(Z)と(Z)の組み合わせから選択されることが好ましい。
【0133】
また本発明は、抗体の重鎖と軽鎖の会合制御方法を提供する。
本発明の会合制御方法の好ましい態様としては、抗体の重鎖と軽鎖の会合制御方法であって、以下の(a)〜(c)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される1組または2組以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するアミノ酸残基となるように核酸を改変することを含む方法;
(a)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位のアミノ酸残基、
(b)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング131位のアミノ酸残基、
(c)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング160位のアミノ酸残基。
【0134】
本発明の別の態様として、さらに、以下の(d)に示すアミノ酸残基の組のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発するアミノ酸残基となるように核酸を改変することを含む、抗体の会合制御方法を提供する;
(d)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基。
【0135】
本発明の会合制御方法の別の好ましい態様としては、抗体の重鎖と軽鎖の会合制御方法であって、以下の(a)〜(c)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される1組または2組以上のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基となるように核酸を改変することを含む方法;
(a)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位のアミノ酸残基、
(b)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング131位のアミノ酸残基、
(c)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング160位のアミノ酸残基。
【0136】
本発明の別の態様として、さらに、以下の(d)に示すアミノ酸残基の組のアミノ酸残基が互いに電荷的に反発しないアミノ酸残基となるように核酸を改変することを含む、抗体の会合制御方法を提供する;
(d)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基。
【0137】
本発明の会合制御方法によって、上述のように、例えば、所望の二重特異性抗体を優先的かつ効率的に取得することができる。即ち、モノマー混合物から所望の異種多量体である二重特異性抗体を効率的に形成させることができる。
【0138】
本発明の上記方法において「核酸を改変する」とは、本発明における「改変」によって導入されるアミノ酸残基に対応するように核酸を改変することを言う。より具体的には、元(改変前)のアミノ酸残基をコードする核酸について、改変によって導入されるアミノ酸残基をコードする核酸へ改変することを言う。通常、目的のアミノ酸残基をコードするコドンとなるように、元の核酸に対して、少なくとも1塩基を挿入、欠失または置換するような遺伝子操作もしくは変異処理を行うことを意味する。即ち、元のアミノ酸残基をコードするコドンは、改変によって導入されるアミノ酸残基をコードするコドンによって置換される。このような核酸の改変は、当業者においては公知の技術、例えば、部位特異的変異誘発法、PCR変異導入法等を用いて、適宜実施することが可能である。
【0139】
また本発明は、本発明の抗体をコードする核酸を提供する。さらに該核酸を担持するベクターもまた、本発明に含まれる。
【0140】
本発明における核酸は、通常、適当なベクターへ担持(挿入)され、宿主細胞へ導入される。該ベクターとしては、挿入した核酸を安定に保持するものであれば特に制限されず、例えば宿主に大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターとしてはpBluescriptベクター(Stratagene社製)などが好ましいが、市販の種々のベクターを利用することができる。本発明のポリペプチドを生産する目的においてベクターを用いる場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、生物個体内でポリペプチドを発現するベクターであれば特に制限されないが、例えば、試験管内発現であればpBESTベクター(プロメガ社製)、大腸菌であればpETベクター(Invitrogen社製)、培養細胞であればpME18S-FL3ベクター(GenBank Accession No. AB009864)、生物個体であればpME18Sベクター(Mol Cell Biol. 8:466-472(1988))などが好ましい。ベクターへの本発明のDNAの挿入は、例えば、In-Fusion Advantage PCR Cloning Kit(クロンテック社製)を用いて行うことができる。
【0141】
さらに本発明は、上記核酸を有する宿主細胞を提供する。該宿主細胞は特に制限されず、目的に応じて、例えば、大腸菌や種々の動物細胞などの種々の宿主細胞が用いられる。宿主細胞は、例えば、本発明の抗体もしくはポリペプチドの製造や発現のための産生系として使用することができる。ポリペプチド製造のための産生系には、in vitroおよびin vivoの産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系及び原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
【0142】
宿主細胞として使用できる真核細胞として、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞が挙げられる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(J. Exp. Med. (1995) 108: 945)、COS、3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、C127、HEK293、Bowes メラノーマ細胞、Vero等、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle et al., Nature (1981) 291: 338-340)、及び昆虫細胞、例えば、ドロソフィラS2、Sf9、Sf21、Tn5が例示される。本発明の抗体の発現においては、CHO-DG44、CHO-DX11B、COS7細胞、BHK細胞が好適に用いられる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。
宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(Boehringer Mannheim製)を用いた方法、エレクトロポレーション法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクション、リポフェクタミン法(GIBCO-BRL社製)、マイクロインジェクション法、などの公知の方法で行うことが可能である。また、Free Style 293 Expression System(Invitrogen社製)を用いて、遺伝子導入からポリペプチドの発現までを行うこともできる。
【0143】
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が蛋白質生産系として知られており、この細胞をカルス培養する方法により本発明の抗体を産生させることができる。
真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属の細胞(サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)等)、及び糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属の細胞(アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等)を用いた蛋白質発現系が公知であり、本発明の抗体産生の宿主として利用できる。
【0144】
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、上述の大腸菌(E. coli)に加えてストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌を用いた産生系が知られており、本発明の抗体産生に利用できる。
【0145】
本発明の宿主細胞を用いて抗体を産生する場合、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターにより形質転換された宿主細胞の培養を行い、ポリヌクレオチドを発現させればよい。培養は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、動物細胞を宿主とした場合、培養液として、例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができる。その際、FBS、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用しても、無血清培養により細胞を培養してもよい。培養時のpHは、約6〜8とするのが好ましい。培養は、通常、約30〜40℃で約15〜200時間行い、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加える。
【0146】
一方、in vivoでポリペプチドを産生させる系としては、例えば、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。これらの動物又は植物に目的とするポリヌクレオチドを導入し、動物又は植物の体内でポリペプチドを産生させ、回収する。本発明における「宿主」とは、これらの動物、植物を包含する。
【0147】
宿主細胞において発現したポリペプチドを小胞体の内腔に、細胞周辺腔に、または細胞外の環境に分泌させるために、適当な分泌シグナルを目的のポリペプチドに組み込むことができる。これらのシグナルは目的のポリペプチドに対して内因性であっても、異種シグナルであってもよい。
【0148】
上記製造方法におけるポリペプチドの回収は、本発明のポリペプチドが培地に分泌される場合は、培地を回収する。本発明のポリペプチドが細胞内に産生される場合は、その細胞をまず溶解し、その後にポリペプチドを回収する。
【0149】
動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系がある。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシ等を用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications (1993))。また、哺乳類動物を用いる場合、トランスジェニック動物を用いることができる。
【0150】
例えば、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドを、ヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生されるポリペプチドをコードする遺伝子との融合遺伝子として調製する。次いで、この融合遺伝子を含むポリヌクレオチド断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ移植する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から、目的の抗体を得ることができる。トランスジェニックヤギから産生される抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに投与してもよい(Ebert et al., Bio/Technology (1994) 12: 699-702)。
【0151】
また、本発明の抗体を産生させる昆虫としては、例えばカイコを用いることができる。カイコを用いる場合、目的の抗体をコードするポリヌクレオチドを挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させることにより、このカイコの体液から目的の抗体を得ることができる(Susumu et al., Nature (1985) 315: 592-4)。
【0152】
さらに、植物を本発明の抗体産生に使用する場合、例えばタバコを用いることができる。タバコを用いる場合、目的とする抗体をコードするポリヌクレオチドを植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入し、このベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)に感染させ、本タバコの葉より所望の抗体を得ることができる(Ma et al., Eur. J. Immunol. (1994) 24: 131-8)。
【0153】
このようにして得られた抗体は、宿主細胞内または細胞外(培地、乳汁など)から単離し、実質的に純粋で均一な抗体として精製することができる。抗体の分離、精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせて抗体を分離、精製することができる。
【0154】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティクロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィーまたはカチオン交換クロマトグラフィーなどのイオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性(相互作用)クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al.(1996) Cold Spring Harbor Laboratory Press)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。アフィニティクロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えば、プロテインAを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F. (Pharmacia製)等が挙げられる。
【0155】
必要に応じ、抗体の精製前又は精製後に適当なタンパク質修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり、部分的にペプチドを除去することもできる。タンパク質修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼなどが用いられる。
【0156】
上述のように本発明の宿主細胞を培養し、該細胞培養物から抗体を回収する工程を含む、本発明の抗体の製造方法もまた、本発明の好ましい態様の一つである。
【0157】
また本発明は、本発明の抗体、および医薬的に許容される担体を含む医薬組成物(薬剤)に関する。本発明において医薬組成物とは、通常、疾患の治療もしくは予防、あるいは検査・診断のための薬剤を言う。
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法で製剤化することが可能である。また、必要に応じ本発明の抗体を、その他の医薬成分と組み合わせて製剤化することもできる。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は、指示された範囲の適当な容量が得られるように設定する。
【0158】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液が挙げられる。適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80(TM)、HCO-50等)を併用してもよい。
【0159】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル及び/またはベンジルアルコールを併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液及び酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール及びフェノール)、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填する。
【0160】
本発明の医薬組成物は、好ましくは非経口投与により投与される。例えば、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型の組成物とすることができる。例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。
【0161】
投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択することができる。抗体または抗体をコードするポリヌクレオチドを含有する医薬組成物の投与量は、例えば、一回につき体重1 kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲に設定することが可能である。または、例えば、患者あたり0.001〜100000 mgの投与量とすることもできるが、本発明はこれらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量及び投与方法は、患者の体重、年齢、症状などにより変動するが、当業者であればそれらの条件を考慮し適当な投与量及び投与方法を設定することが可能である。
【0162】
なお、本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれるアミノ酸は翻訳後に修飾(例えば、N末端のグルタミンのピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾は当業者によく知られた修飾である)を受ける場合もあるが、そのようにアミノ酸が翻訳後修飾された場合であっても当然のことながら本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれる。
【0163】
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0164】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕CH1/CLの界面を制御する箇所の探索
二重特異性抗体のそれぞれのCH1とCLドメインに変異を導入し、CH1/CLの界面の電荷を利用し、CH1/CLの界面を制御することによって、抗原Aに対するH鎖とL鎖のみが会合し、抗原Bに対するH鎖とL鎖のみがそれぞれ特異的に会合することを考えた。以降、CH1/CL界面制御と記す。そこで、結晶構造モデルから、CH1/CL界面制御が可能な箇所を探索した。アミノ酸は疎水性相互作用、電荷的相互作用、水素結合などにより側鎖間の相互作用を維持している。これらの相互作用は約4 Åの範囲内に存在する側鎖間に生じることが知られている。そこで、PDBモデル1HZHから、CH1とCLの界面において、CH1に存在するアミノ酸とCLにあるアミノ酸の距離が約4Åであるアミノ酸を見出した。見出したアミノ酸の箇所を、
図1、表1(改変箇所のまとめ)にそれぞれまとめた。表1に記載のアミノ酸番号はEU numbering(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242)にしたがって記載した。また、以降のアミノ酸番号もEU numberingに従って記載した。本実施例ではH鎖はIgG1、L鎖はIgK(Kappa)を用いた。
【0165】
【表1】
【0166】
アミノ酸の電荷を利用してCH1/CL界面制御を行うために、H鎖のCH1、またはL鎖のCLに表1で見出したアミノ酸を正電荷であるLysまたはHis、負電荷であるGluまたはAspに置換した。具体的には、ヒトのG1d(配列番号:1)のCH1のアミノ酸を正電荷であるLysに置換したTH2、TH11、負電荷であるGluまたはAspに置換したTH1、TH3、TH4、TH9、TH10、TH12にそれぞれ置換した定常領域を作製した。同様に、ヒトのCL(配列番号:13)のアミノ酸を正電荷であるLysに置換したTL2、TL4、TL5、TL6、TL8、TL12、Hisに置換したTL11、負電荷であるGluまたはAspに置換したTL1、TL3、TL7、TL9、TL10、TL13にそれぞれ置換した定常領域を作製した。作製した定常領域の名前(name)、変異箇所(mutation)、配列番号を表2(改変箇所のまとめ)にまとめた。
【0167】
【表2】
【0168】
〔実施例2〕CH1/CL界面制御を実施する箇所のスクリーニング方法と各抗体の作製と分析
見出したアミノ酸のCH1/CL界面制御の効果を、以下の方法を用いて確認した。Anti-GPC3抗体を用いてスクリーニングすることとした。まず、H鎖、L鎖の発現ベクターを構築した。H鎖として可変領域であるGpH7(配列番号:34)と実施例1で作製したH鎖の定常領域を持っているH鎖の発現ベクター、L鎖として可変領域であるGpL16(配列番号:35)と実施例1で作製したL鎖の定常領域を持っているL鎖の発現ベクターをそれぞれ参考実施例1に従って構築した。次に、作製したH鎖、L鎖の発現ベクターの組み合わせを以下のように選択した。実施例1で作製した定常領域ののうち、見出した箇所のアミノ酸が正の電荷、または負の電荷を持っているH鎖を一つ選択した。この場合、必ずしも変異が導入されているとは限らない。例えば、TH1の147番目はGluに置換されているが、G1dは147番目のアミノ酸はLysであり、もともと正電荷を持っているため変異は導入されていない。次に、選択したH鎖のCH1の変異箇所と表1において対応している箇所に変異を有するL鎖を表2から選択した。例えば、CH1の147番目のアミノ酸とCLの180番目のアミノ酸がCH1/CLの界面において関与していると予想されるので、H鎖としてTH1を選択した場合、L鎖としてTL1、TL2を選択した。続いて、選択した1本のH鎖に対して、選択した2つのL鎖を混ぜ合わせて、参考実施例1に従って抗体を発現させた。最後に、発現させた抗体を参考実施例3または4に従って分析し、各抗体の発現比率によって、CH1/CL界面制御に効果のある改変をスクリーニングした。H鎖1種類とL鎖2種類を混ぜ合わせて発現した場合、IgGはH鎖2本とL鎖2本の複合体からなっているため、3つの組み合わせが発現すると予想される。例えば、H鎖としてTH1とL鎖としてTL1とTL2の組み合わせを発現させた場合、
H鎖_1:H鎖_2:L鎖_1:L鎖_2=TH1:TH1:TL1:TL1(これをTH1/TL1と表記する)、
H鎖_1:H鎖_2:L鎖_1:L鎖_2=TH1:TH1:TL1:TL2(これをTH1/TL1_TL2と表記する)、
H鎖_1:H鎖_2:L鎖_1:L鎖_2=TH1:TH1:TL2:TL2(これをTH1/TL2と表記する)
の3つの組み合わせが発現する(
図2)。H鎖とL鎖の会合に選択性がない場合、2つのL鎖が等量にはいっているので、TH1/TL1、TH1/TL1_TL2、TH1/TL2=1:2:1の割合で発現すると予想される。しかしながら、CH1/CLの界面において、H鎖がいずれか一方のL鎖とのみ優先的に結合する場合、その組み合わせのみが優先的に発現すると考えられる。例えば、H鎖としてTH1、L鎖としてTL1及びTL2を発現させた時、CH1の147番目のアミノ酸とCLの180番目のアミノ酸がCH1/CLの界面において関与している場合、CH1の147番目のアミノ酸がGlu(負電荷)であるTH1と、L鎖のCLの180番目のアミノ酸がLys(正電荷)であるTL2との組み合わせが優先的に発現すると予想される。しかしながら、CH1の147番目のアミノ酸とCLの180番目のアミノ酸がCH1/CLの界面において関与していない場合、H鎖とL鎖の会合に選択性が生じないので、TH1/TL1、TH1/TL1_TL2、TH1/TL2=1:2:1の割合で発現すると予想される。このように、H鎖1種類とL鎖2種類を混ぜ合わせて発現し、その発現バランスを指標にし、CH1/CL界面制御の効果がある改変(CH1/CLの界面において関与している改変)をスクリーニングすることとした。
H鎖とL鎖の組み合わせを、表3(発現に用いたH鎖、L鎖の組み合わせ。H鎖、L鎖変異場所も記載)にまとめた。
【0169】
【表3】
【0170】
この表3の組み合わせに従って、抗体の発現を実施し、選択したCH1/CL界面制御の効果を確認した。この際、1種類のH鎖と1種類のL鎖の抗体も同時に発現し、分析する際のコントロールとした。抗体の発現は参考実施例1の方法に従って行った。
【0171】
作製した抗体を参考実施例3の方法にしたがってAIEX分析を行った。AIEX分析のデータを
図3にまとめた。AIEX分析では陰イオン交換カラムを用いているため、負電荷を帯びている抗体のほうが早く溶出される。分析したデータを表4にまとめて記載した。溶出時間が早いpeakの順番にそれぞれpeak1、2、3とした。各peak面積の合計を100%として、それぞれのpeakの割合を算出した。
図2で示したように、変異を導入した箇所が電荷的に相互作用している場合、灰色で塗りつぶしたpeakの位置の抗体の割合が多くなる。すなわち、灰色で塗りつぶした抗体の割合が25%より多い変異箇所は、電荷的に相互作用していると考えられる。
【0172】
【表4】
【0173】
このように様々改変箇所の検討を行った結果、H鎖において、147、175、213番目、L鎖において、123、131、160、180番目がCH1/CL界面制御に効果があると考えられた。また、WO2006/106905、WO2007/147901において報告されているH鎖の147番目とL鎖の123番目の改変のみでは、H鎖とL鎖を特異的に会合させるには不十分であり、本実施例で見出した改変を組み合わせることによって始めて可能であることが見出された。
【0174】
〔実施例3〕改変箇所を組み合わせた抗体の作製と分析
実施例2で見出した、CH1/CL界面制御の効果が大きいと考えられたCH1にあるK147、Q175、K213の箇所と、CLにあるE123、S131、Q160、T180の箇所を組み合わせて、CH1/CL界面制御をより効率的に行うことを考えた。作製した抗体の改変の組み合わせと、発現した抗体について表5(改変箇所のまとめ)にまとめた。
【0175】
【表5】
【0176】
変異を導入したH鎖、またはL鎖の発現ベクターの作製、および抗体の発現は参考実施例1、作製した抗体の分析は参考実施例3または4の方法に従って行った。結果を表6にまとめた。
【0177】
【表6】
【0178】
表4と表6を比較すると、改変を一つ導入した場合と比較して、改変を組み合わせることによって、目的とするH鎖とL鎖の組み合わせの割合が増加したことが分かった。このことより、改変を組み合わせることによって、目的としたH鎖とL鎖のみが会合した抗体を、効率よく作製できると考えられる。
【0179】
〔実施例4〕二重特異性抗体の発現と分析
実施例3の中で、CH1/CL界面制御の効果が大きかったH鎖のTH2、TH13、TH15、L鎖のTL16、TL17、TL19、TL20について、二重特異性抗体、Bispecific Abを作製することを考えた。本実施例では、Anti-IL6R抗体とAnti-GPC3抗体を用いて二重特異性抗体を作製することとした。
【0180】
Anti-IL6Rを認識するH鎖(配列番号:59)とL鎖(配列番号:60)、Anti-GPC3を認識するH鎖(配列番号:61)とL鎖(配列番号:62)の定常領域を、H鎖の定常領域はTH2、TH13、TH15、L鎖のCLはTL16、TL17、TL19、TL20に置換した。さらにH鎖同士の会合をさけるため、Knob into Hole(KiH)(WO 96/27011)の改変を導入したH鎖を作製した。作製したこれらの抗体の変異箇所、発現した抗体は表7(各二重特異性抗体のH鎖、L鎖の組み合わせ)にまとめた。
【0181】
【表7】
【0182】
上記表7において、H鎖にKnob(突起)の改変を導入した定常領域には改変体名に続けて「k」を、Hole(空隙)の改変を導入した定常領域には改変体名に続けて「h」をつけた。例えば、TH1kはTH1の変異に加えknobの改変が、TH1hはTH1の変異に加えHoleの改変が導入されている。変異を導入したH鎖、またはL鎖の発現ベクターの作製、および抗体の発現は参考実施例1、作製した抗体の分析は参考実施例4に示したCIEX分析法にしたがって行った。
【0183】
二重特異性抗体に用いるAnti-IL6R抗体とAnti-GPC3抗体のH鎖とL鎖の組み合わせを表8にまとめた。
【0184】
【表8】
【0185】
ここでは、4ch_001、4ch_002、4ch_003、4ch_004、4ch_011、4ch_012を例として、各組み合わせを説明する。CH1/CL界面制御の改変は表8にまとめた。
4ch_001はCH1/CL界面制御及びKiHの改変が導入されていないH鎖、L鎖を用いて発現した。4ch_002はKiHの改変が導入されているH鎖、L鎖を用いて発現した。4ch_003はCH1/CL界面制御改変が導入されているH鎖、L鎖を用いて発現した。4ch_004はKiHの改変とCH1/CL界面制御改変が導入されているH鎖、L鎖を用いて発現した。また、4ch_011は、KiHの改変とCH1/CL界面制御改変が導入されているAnti-IL6R抗体のH鎖とAnti-GPC3抗体のH鎖、CH1/CL界面制御の改変が導入されたAnti-IL6R抗体のL鎖を用いて発現した。4ch_012は、KiHの改変とCH1/CL界面制御改変が導入されているAnti-IL6R抗体のH鎖とAnti-GPC3抗体のH鎖、CH1/CL界面制御の改変が導入されたAnti-GPC3抗体のL鎖を用いて発現した。それぞれの抗体を参考実施例1に従って発現し、参考実施例4に従ってCIEX分析を実施し、その結果を
図9−1および9−2にまとめた。Anti-IL6R抗体のH鎖可変領域を用いた場合はMH0、Anti-GPC3抗体のH鎖可変領域を用いた場合はGpH7、Anti-IL6R抗体のL鎖可変領域を用いた場合はML0、Anti-GPC3抗体のL鎖可変領域を用いた場合はGpL16と記載した。CH1/CL界面制御及びKiHの改変が導入されていない4ch_001はH鎖とL鎖の様々な組み合わせと考えられるヘテロ成分が、クロマトグラフィー上で複数検出された。それに対してKiHの改変を導入した4ch_002はH鎖どうしの会合が抑制されたため、不純物と考えられるクロマトグラフィー上のpeakの数が減少した。また、CH1/CL界面制御の改変を導入したH鎖のTH2、TH13、L鎖のTL16、TL17を用いた4ch_003はH鎖とL鎖の会合が抑制されたため、不純物と考えられるクロマトグラフィー上のpeakの数が減少した。さらにKiHとCH1/CL界面制御の改変を組み合わせた4ch_004に関しては、大部分がメインのpeakであることが明らかとなった。4ch_004のクロマトグラフィー上のpeakと4ch_011のクロマトグラフィー上のpeakがほぼ一致しているのはそれぞれの抗体の等電点(pI)が近いため、クロマトグラフィー上で分離できていないと考えられる。4ch_003、4ch_004、4ch_011、4ch_012と同様の方法で、4ch_004とは異なるCH1/CL界面制御を加えた4ch_005、4ch_006、4ch_015、4ch_016、また4ch_004に導入したCH1/CL界面制御の改変をAnti-GPC3抗体とAnti-IL6R抗体間で交換した4ch_007、4ch_008、4ch_013、4ch_014、さらに4ch_006に導入したCH1/CL界面制御の改変をAnti-GPC3抗体とAnti-IL6R抗体間で交換した4ch_009、4ch_010、4ch_017、4ch_018についても検討を実施した。その結果、4ch_001と比較するとクロマトグラフィー上のヘテロ成分が大幅に減少した。
以上より、CH1/CL界面制御改変とKiHの改変を組み合わせることによって効率よく二重特異性抗体を作製することが明らかとなった。
【0186】
〔実施例5〕異なる抗体を用いたCH1/CL界面制御改変の効果
実施例4より、CH1/CLを用いた界面制御が、二重特異性抗体を作製するのに有用であることが明らかとなった。そこで、Anti-CD3抗体であるM12と(H鎖、配列番号:54、L鎖、配列番号:57)、Anti-GPC3であるGC33(2)(H鎖、配列番号:55、L鎖、配列番号:58)を用いてCH1/CL界面制御の効果を確認した。実施例4と同様、CH1/CL界面制御の効果が大きかったH鎖のTH2、TH13、TH15、L鎖のTL16、TL17、TL19を用いて二重特異性抗体を作製することとした。
Anti-CD3を認識する抗体であるM12のH鎖(配列番号:54)とL鎖(配列番号:57)、Anti-GPC3を認識する抗体GC33(2)のH鎖(配列番号:55)とL鎖(配列番号:58)の定常領域を、H鎖のCH1はTH2、TH13、TH15、L鎖のCLはTL16、TL17、TL19に置換した。さらにH鎖同士の会合をさけるため、Knob into Hole(KiH)(特許文献1)の改変を導入したH鎖を作製した。作製したこれらの抗体の変異箇所、発現した抗体は表9(改変箇所のまとめ)にまとめた。
【0187】
【表9】
【0188】
変異を導入したH鎖、またはL鎖の発現ベクターの作製、および抗体の発現は参考実施例1、作製した抗体の分析は参考実施例4に示したCIEX分析法にしたがって行った。
Anti-CD3とAnti-GPC3抗体を用いてもCH1/CL界面制御は、二重特異性抗体を作製するのに有用であることが明らかである。
【0189】
〔実施例5〕CH1/CL界面制御と可変領域の界面制御の組み合わせ
二重特異性抗体を調製する際に、目的としたH鎖とL鎖のみを特異的に会合させる技術として可変領域のVHとVLに電荷的な反発を導入する技術が知られている(特許文献WO 2006/106905)。そこで、目的成分のみをより効率よく発現させるために、CH1/CL界面制御に加え、H鎖とL鎖を可変領域同士で反発させることを考えた。これをVH/VL界面制御という。Anti-IL6RのH鎖のKabatナンバリング39番目のGlnをLysに置換したMH01(配列番号:46)とGluに置換したMH02(配列番号:47)、L鎖のKabatナンバリング38番目のGlnをGluに置換したML01(配列番号:50)とLysに置換したML02(配列番号:51)を作製した。さらにAnti-GPC3のH鎖のKabatナンバリング39番目のGlnをLysに置換したGpH71(配列番号:48) とGluに置換したGpH72(配列番号:49)、L鎖のKabatナンバリング38番目のGlnをGluに置換したGpL161(配列番号:52) とLysに置換したGpL162(配列番号:53)ををそれぞれ作製した。抗体の発現ベクターの作製は参考実施例1の方法に従って行った。作製した抗体を用いて、二重特異性抗体を発現した。作製した抗体の改変の組み合わせと、発現した抗体について表10にまとめた。
【0190】
【表10】
【0191】
抗体の発現は参考実施例1、作製した抗体の分析は参考実施例4の方法に従って行った。
CH1/CL界面制御の変異を導入した4ch_006, 4ch_008のクロマトグラフィー上で観察されたヘテロ成分と考えられるpeakが、VH/VL界面制御の変異を導入した4ch_1,2_006, 4ch_2,1_008で消失していることから、CH1/CL界面制御に加え、VH/VL界面制御を加えることによってさらに、目的成分のみを効率的に作製できることが明らかとなった(
図10及び
図11)。また、目的成分と思われる成分のみが精製できていると考えられる、CH1/CLにのみ変異を導入した4ch_004, 4ch_010に、VH/VL界面制御の変異をさらに加えても新しいヘテロ成分と考えられるpeakは検出されなかった(
図10及び
図11)。
以上のことより、CH1/CL界面制御に対してVH/VL界面制御を加えることによって、さらに目的成分が精製されやすくなる一方で、すでに目的成分のみが精製できていると考えられる場合にはその精製には悪影響を与えないことが明らかとなった。
【0192】
〔実施例6〕改変箇所を組み合わせた抗体のTm測定
CH1/CL界面制御の改変がFabの安定性に影響を与える可能性が考えられる。そこで、TH2/TL17、TH13/TL16、TH15/TL19の組み合わせについて、Fabの安定性、Tmを参考実施例2の方法にしたがって測定することとした。Anti-IL6R抗体を用いて、H鎖/L鎖がTH2/TL17、TH13/TL16、TH15/TL19からなる抗体を作製した。抗体の改変の組み合わせと、発現した抗体について表11にまとめた。
【0193】
【表11】
【0194】
抗体の発現は参考実施例1、作製した各抗体のTm(℃)を参考実施例2に従って測定した。その結果、変異を導入していないG1d/k0とCH1/CLに変異を導入したTH2/TL17、TH13/TL16、TH15/TL19のFabのTmはそれぞれ、95.0℃、93.1℃、95.1℃、94.8℃であった。このことから、CH1/CL界面制御の変異が、Fabの安定性に影響を与えないことが明らかとなった。
【0195】
〔実施例7〕CH1/CL界面制御の変異を導入することによる結合活性の影響
CH1/CL界面制御の改変が、抗原に対する結合に影響を与える可能性がないとは言い切れない。そこで、IL-6R、GPC3に対する結合活性を測定するために、TH2/TL17、TH13/TL16、TH15/TL19の組み合わせについて、結合活性を参考実施例5の方法に従って測定した(表12)。
【0196】
CH1/CL界面制御の変異を導入した TH2/TL17、TH13/TL16、TH15/TL19のIL-6RとGPC3に対する結合活性と天然型のG1d/k0のIL-6RとGPC3に対する結合活性が変わっていないことから、CH1/CL界面制御の改変は結合活性に影響を与えないことが明らかとなった。さらに、実施例4で作製した4ch_004、4ch_006、4ch_008、4ch_010を用いて、IL-6RとGPC3の2つの抗原に対する結合活性を参考実施例5に従って測定したところ、表12で示されている天然型のG1d/k0の結合活性と同等であった(表13、14)。
【0197】
実施例1〜7の検討より、CH1/CLに変異を導入することによって、Fabの安定性を低下させることなく、結合活性を低下させることなく、目的成分のみを効率よく精製できることが明らかとなった。
【0198】
【表12】
【0199】
【表13】
【0200】
【表14】
【0201】
〔実施例8〕
H鎖のCH1について、ヒトのIgA1(配列番号:63)、IgA2(配列番号:64)、IgD(配列番号:65)、IgE(配列番号:66)、IgG1(配列番号:67)、IgG2(配列番号:68)、IgG3(配列番号:69)、IgG4(配列番号:70)、IgM(配列番号:71)と、L鎖はCLについて、ヒトのIgK(Kappa)(配列番号:72)、IgL1(配列番号:73)、IgL2(配列番号:74)、IgL3(配列番号:75)、IgL6(配列番号:76)、IgL7(配列番号:77)(Lambda)のアミノ酸配列をアライメントし、それぞれ比較した。結果を
図12に示した。本実施例で見出した改変を矢印で示した。矢印で記したアミノ酸を、本実施例で示したように、H鎖のCH1とL鎖のCLが反発するように、H鎖とL鎖に異なる電荷のアミノ酸を導入することによって、目的とするH鎖とL鎖を特異的に会合させることができると考えられる。
【0202】
〔参考実施例1〕抗体の発現ベクターの作製および抗体の発現と精製
アミノ酸置換の導入はQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)、PCRまたはIn fusion Advantage PCR cloning kit (TAKARA)等を用いて当業者公知の方法で行い、発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。作製したプラスミドをヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)、またはFreeStyle293細胞(Invitrogen社)に、一過性に導入し、抗体の発現を行った。得られた培養上清から、rProtein A SepharoseTM Fast Flow(GEヘルスケア)を用いて当業者公知の方法で、抗体を精製した。精製抗体濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定し、得られた値からPACE法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した(Protein Science 1995 ; 4 : 2411-2423)。
【0203】
〔参考実施例2〕示査走査型カロリメトリーによる改変抗体の熱変性中点(Tm)評価
本検討では、示差走査型カロリメトリーであるMicroCal Capillary DSC(DKSH)用いて抗体の熱変性中点(Tm)を測定することにより熱安定性を評価した。
各抗体溶液を500μLずつ測定用プレートにセットし、20℃から115℃まで温度を上昇させた。昇温速度は120℃/時とし、熱容量の変化を観測した。
データはOrigin7(Light stone)を用いて解析を行い、熱容量変化が認められた温度を算出し、この値をTm値とした。
【0204】
〔参考実施例3〕陰イオン交換クロマトグラフィー(AIEX)法による分析
Alliance system(Waters)を用いたAIEX法により、作製抗体の分析を実施した。分析カラムにTSK-gel DEAE-NPR(Tosoh)を用い、移動相Aとして10 mmol/L Tris-HCl, pH7.5を、移動相Bとして10 mmo/L Tris-HCl/500 mmol/L NaCl, pH7.5を用いた2液グラジエント法を実施した。測定は280 nmの波長でおこなった。
Empower2(Waters)を用いてデータ解析を実施し、検出された各ピークの比率を算出した。
【0205】
〔参考実施例4〕陽イオン交換クロマトグラフィー(CIEX)法による分析
Alliance system(Waters)を用いたCIEX法により、作製抗体の分析を実施した。分析カラムにWCX-10(Dionex)を用い、移動相Aとして25 mmol/L MES, pH6.1、移動相Bとして25 mmo/L MES/ 500 mmol/L NaCl, pH6.1を用いた2液グラジエント法を実施した。測定は280 nmの波長でおこなった。
Empower2(Waters)を用いてデータ解析を実施し、検出された各ピークの比率を算出した。
【0206】
〔参考実施例5〕IL6RとGPC3に対するAffinity 測定
Biacore T100 (GE Healthcare) を用いて、目的の抗体とhIL6RおよびGPC3との相互作用解析を行った。ランニングバッファーにはHBS-EP+ (GE Healthcare)を用い、測定温度は25 ℃とした。Series S Sencor Chip CM5(GEヘルスケア)に、アミンカップリング法によりProtein A/G (Thermo Scientific) を固定化したチップを用いた。チップへ目的の抗体をキャプチャーさせ、ランニングバッファーで希釈した各抗原を相互作用させた。10 mM glycine-HCl、pH1.5を反応させることで、チップにキャプチャーした抗体を洗浄し、チップを再生して繰り返し用いた。
各抗体の抗原に対する解離定数 (KD) は、Biacoreの測定結果に対して速度論的解析を実施することで算出した。具体的には、Biacore Evaluation Softwareにより測定して得られたセンサーグラムを1:1 Langmuir binding modelでglobal fittingさせることで結合速度定数ka (L/mol/s)、解離速度定数kd(1/s)を算出し、その値から解離定数KD (mol/L) を算出した。