【実施例】
【0041】
以下の実施例は本発明の利点をさらに例示し、実施例の中で述べられた態様に本発明を限定するものであると解釈されるべきではない。
【0042】
6. 実施例
6.1 実施例1:ポリイソプレンコーティングされた手袋の作製
A. 手袋の作製
磁器製の型(または浸漬型)を以下の工程によって徹底的に清掃した。
(a)ナイロンブラシで機械的にブラシ掛けする工程、
(b)凝固剤から残留炭酸カルシウム粉末を溶解する酸溶液、例えば、クエン酸または硝酸に
浸漬する工程、
(c)ナイロンブラシで機械的にブラシ掛けする工程、
(d)アルカリ溶液に浸漬する工程、および
(e)ナイロンブラシで機械的にブラシ掛けする工程。
【0043】
温水(約50℃〜約70℃)に浸漬して、約60℃まで加熱する工程によって、型をさらに清掃した。清掃された型は、型に空気を吹き付けた後に型を熱風乾燥機に入れ、乾燥させ、約57℃〜約61℃まで加熱することによって乾燥させた。
【0044】
清掃された型を、硝酸カルシウム凝固剤溶液(52〜59℃、必要な手袋の厚みに応じて、比重約1.100〜1.200)に浸漬した。凝固剤溶液は、炭酸カルシウム(離型剤)およびSurfynol TG(湿潤剤)も含有した。凝固剤でコーティングされた型を乾燥機(約100℃、約15 秒)内で乾燥させ、次いで、硫黄(架橋剤)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(加硫促進剤)、酸化亜鉛(活性剤)およびWinstay L(酸化防止剤)および着色顔料を含有する配合天然ゴムラテックスに浸漬した。ラテックス中での滞留時間は約10 秒であり、ラテックスの総固体含有率は、必要な手袋の厚みに応じて30%〜約49%であった。次いで、ラテックスコーティングされた型は、ラテックス薄膜をゲル化する2 つの熱風乾燥機に通した。その後に、手袋の末端部を機械的に平らにすることによって、袖口部の端にビードを形成した。薄膜から水溶性材料、例えば、硝酸カルシウム、タンパク質、および界面活性剤を浸出させるために、温水(65〜85℃、5 つの異なるタンクに入れられた温水)の中で、合計で約4 分間、手袋をリーチングした。
【0045】
B. ポリイソプレンコーティングの適用
次いで、表1 に示される、3〜15%、好ましくは5〜8%の総固体含有率を有する配合物を用いて配合されたポリイソプレンラテックスに浸漬することによって、リーチングされた薄膜をポリイソプレン層でコーティングした。次いで、ラテックス薄膜でコーティングされた型を、115℃から135℃まで温度が漸増する一連の熱風乾燥機に、約20 分間、入れた。乾燥機の中で、最初に、手袋を乾燥させ、次いで、ゴムを加硫した。これによって、ゴム分子は硫黄の結合によって架橋した。さらに多くの水溶性材料を抽出させるために、硬化した手袋を温水中でさらにリーチングし、次いで、剥ぎ取りを助けるよう機能しかつ剥ぎ取った後に手袋の内側がくっつくのを防ぐ炭酸カルシウム粉末またはデンプン粉末のスラリーに浸漬した。冷却した後に、手袋を手で型から剥ぎ取った。これによって、手袋は裏返しになり、ポリイソプレンコーティングが内側になった。
【0046】
【表1】
【0047】
C. 塩素化
手袋を塩素化によって後処理した。塩素化工程によって、手袋から粉末が除去され、着用を改善するように手袋の内面が改良され、外面上での掌握力が弱くなった。ポリイソプレンコーティングされた面が外側なるように、形成された物品を手で裏返しにした。次いで、手袋をクロリネーターに入れ、水と一緒に3 分間、2 サイクル、回転させることによって洗浄した。次いで、手袋を、有効塩素濃度が約400ppm〜約700ppm の塩素水溶液中で、8.3 分間、塩素化した。塩素化サイクルの終わりに、中和溶液のpH が約8 以上になるようにカセイソーダ溶液を添加することによって、残留塩素をすべて中和した。4 分間、手袋を回転させた後に、溶液を排出した。次いで、水と一緒に5 回、各3 分間、回転させることによって、手袋を洗浄した。
【0048】
D. 潤滑化
塩素化の後に、湿った手袋を水抜き機(water extraction machine)に移し、遠心分離によって余分な水を除去した。湿り気のある手への手袋の着用(湿り気を帯びた状態での着用)を改善するために、手袋を潤滑剤でコーティングした。手袋をウォッシャーに入れ、塩化セチルピリジニウム(1.56%)、シリコーンSM2140 エマルジョン(1.5%)、およびアルキルホスフェートのアンモニウム塩(1.2%)を含有する水溶液と共に回転させることによって、手袋をコーティングした。その後に、手袋を約60℃のサイクロンドライヤーで20 分間乾燥させた。部分的に乾燥した手袋を手で裏返しにし、約60℃のサイクロンドライヤーでもう30 分間さらに乾燥させた。
【0049】
6.2 実施例2:代替コーティング法
または、ポリイソプレンコーティングはリーチング工程前に手袋に適用されてもよい。この場合、第1 のラテックス浸漬および第1 の熱風乾燥機内での乾燥の後に、ラテックスコーティングされた型はポリイソプレンラテックス組成物に浸漬され、次いで、ラテックス薄膜をゲル化するために第2 の熱風乾燥機内で乾燥される。次いで、ゲル化した薄膜にビードを形成した後に、薄膜を温水中でリーチングした。この工程は、節6.1 に記載のように加硫、硬化後のリーチング、および剥ぎ取りまで続く。
【0050】
6.3 実施例3:試験に用いられる手袋
A. コーティングの無い天然ゴムラテックス手袋
ポリイソプレンラテックス組成物への浸漬を省略した以外は節6.1 に記載のように、コーティングの無い天然ゴムラテックス手袋を作製した。硝酸カルシウム凝固剤の比重は約1.144 であり、天然ゴムラテックスの総固体含有率は約47.5%であった。作製された手袋の指の厚みは約0.30mm であった。節6.1 に記載の手順に従って、2 種類の有効塩素濃度、すなわち、約420ppm および約550ppm を用いて、作製された手袋を塩素化した。塩素化の後、手袋を乾燥させ、包装し、次いで、様々な特性について評価した。約420ppm で塩素化した手袋および約550ppm で塩素化した手袋を、それぞれ、試料1A および試料1B と呼ぶ。
【0051】
約420ppm で塩素化した手袋は節6.1 に記載の潤滑化工程にも供され、乾燥させた手袋(以下、試料1C と呼ぶ)を包装し、評価した。
【0052】
B. ポリイソプレンコーティングを有する天然ゴムラテックス手袋
ポリイソプレンコーティングを有する天然ゴムラテックス手袋を、節6.1 に記載の手順に従って作製した。硝酸カルシウム凝固剤の比重は約1.144 であり、天然ゴムラテックスの総固体含有率は約47.5%であった。ポリイソプレンコーティング組成物の総固体含有率は約8%であった。天然ゴムラテックス薄膜のリーチングの後に、手袋をポリイソプレン層でコーティングした。作製された手袋の指の厚みは約0.31mm であった。作製された手袋を、前記の手順に従って塩素化した。2 種類の塩素化レベル、すなわち、有効塩素濃度 約420ppm および約550ppm を調べた。塩素化の後、手袋を乾燥させ、包装し、評価した。約420ppm で塩素化した手袋および約550ppm で塩素化した手袋を、それぞれ、試料2Aおよび試料2B と呼ぶ。約420ppm で塩素化した手袋は前記の潤滑化工程にも供された。乾燥させた潤滑化手袋(以下、試料2C と呼ぶ)を包装し、評価した。
【0053】
C. アクリルコーティングされた天然ゴム手袋およびコーティングされていない天然ゴム手袋
粉末を含まない、アクリルコーティングされた塩素化天然ゴム手袋の試料(有効塩素濃度 約350ppm で塩素化した、以下、試料3 と呼ぶ)、およびコーティングされていない塩素化天然ゴム手袋の試料(有効塩素濃度 約350ppm で塩素化した;以下、試料4 と呼ぶ)を同じ製造業者から入手した。アクリルコーティングされた手袋(試料3)の指の厚みは約0.23mm であったのに対して、コーティングされていない手袋(試料4)の指の厚みは約0.25mm であった。手袋を様々な特性について評価した。
【0054】
D. ヒドロゲルコーティングされた天然ゴム手袋
粉末を含まない、ヒドロゲルコーティングされた、指の厚みが約0.29mm の天然ゴム手袋の市販試料(以下、試料5 と呼ぶ)を入手し、評価した。この手袋は、Regent Medical, Norcross, GA(製品照会番号30475、ロット04D1482、使用期限2009 年4 月)によって製造され、「Biogel」コーティングを有する、滅菌された、粉末を含まないラテックス手術用手袋であった。
【0055】
E. ポリイソプレン手袋
天然ゴムラテックスの代わりに、表1 に示した配合物である配合ポリイソプレンラテックスを使用し、このラテックスの総固体含有率が約31.0%であった以外は節6.1 に記載のように、ポリイソプレン手袋を作製した。硝酸カルシウム凝固剤の比重は約1.142 であった。作製された手袋の指の厚みは約0.28mm であった。節6.1 に記載の手順に従って、作製された手袋を約420ppm の有効塩素濃度で塩素化した。塩素化の後に、手袋を乾燥させ(以下、試料6 と呼ぶ)、試験に用意した。
【0056】
【表2】
【0057】
6.4 実施例4:走査型電子顕微鏡による評価
A. 実験計画
以下の手袋試料の内面コーティングの表面形態を走査型電子顕微鏡によって1000X 倍
率で調べた。
試料1A:コーティングの無い天然ゴム手袋(対照)
試料2A:天然ゴム手袋にポリイソプレンコーティングがされている
試料3:天然ゴム手袋にアクリルコーティングがされている
試料5:天然ゴム手袋にヒドロゲルコーティングがされている
【0058】
それぞれの手袋試料について、(a)引き伸ばされていない試料、(b)1 分間、約100%引き伸ばされた後の試料、および(a)1 分間、約300%引き伸ばされた後の試料の走査型電子顕微鏡写真を撮影した。
【0059】
試料(引き伸ばされていない試料および約300%引き伸ばされた試料)の走査型電子顕微鏡写真を
図1〜4 に示した。約100%引き伸ばされた試料の顕微鏡写真は約300%引き伸ばされた試料とほぼ同じであり、示さなかった。
【0060】
B. 観察
試料1A.表面は本質的に完全に平らであった。引き伸ばされていない試料(
図1A)については、数本の細い線のクラックが識別できた。割れのひどさは、試料を約100%または約300%引き伸ばすことよって影響を受けなかった(
図1B)。塩素化天然ゴム表面の割れは以前に報告されており(C.C. Ho and M. C. Khew, International Journal of Adhesion & Adhesives 19 (1999) 387-398)、割れのひどさは塩素化の程度と共に増大した。
【0061】
試料2A.ポリイソプレンコーティングの最も顕著な特色は表面が平らでないことであった(
図2A)。表面全体が、様々なサイズおよび表面から突出した形状の粒子で覆われていた。粒子の中には、ほぼ球状に見える粒子(主に小さな粒子)もあれば、不規則な形状の粒子もあった。大きな突出部は、小さな粒子が融合している凝集物からなっているように見えた。突出部は約0.5 マイクロメートルから数マイクロメートルであった。引き伸ばされていなくても、約300%引き伸ばされた後でも、すべての試料について表面割れは明らかでなかった(
図2B)。
【0062】
試料3.試料の表面形態は本質的に完全に平らであり、表面が「ジグソーパズル」のようにアクリルがつなぎ合わされたフレークからなるように多くのクラックがあった(
図3A)。引き伸ばされていない試料または約100%引き伸ばされた試料もしくは約300%引き伸ばされた試料の間で、表面割れのひどさには違いがあるように見えなかった(
図3B)。
【0063】
試料5.表面形態(
図4A)は、表面に突出部がある点で試料2A とある程度の類似性を示した。しかしながら、試料2A と比較して突出部が少ないように見え、突出部の表面は丸みがあり、滑らかなように見え、突出部のサイズは概して大きかった。大きな違いの1 つは、引き伸ばされていない試料ならびに引き伸ばされた試料について、表面クラックがはっきりと目に見えたことであった。約100%引き伸ばされた試料および約300%引き伸ばされた試料(
図4B)は、引き伸ばされていない試料(
図4A)よりひどい表面割れを有するように見えた。
【0064】
前述の観察に基づくと、本発明のポリイソプレンコーティングは、引き伸ばされていない手袋ならびに引き伸ばされている手袋について表面割れを示さない。これに対して、先行技術コーティングは、引き伸ばされていない手袋でも表面クラックを示す。
【0065】
6.5 実施例5:コーティングの付着性
ゴム基材への本発明のポリイソプレンコーティング、アクリルコーティング、およびヒドロゲルコーティングの付着性を、各手袋タイプの2 つの試料を用いて評価した。手袋の指および手掌の部分を約500%まで引き伸ばし、コーティングされた表面を親指で繰り返し擦った。次いで、コーティングされた表面を、コーティングフレークおよび粉末物質について目視検査した。コーティングの付着性は1 から5 までの段階に分けて定性評価した。1 は、コーティング全体がゴム基材から剥離する最悪の場合である。5 は、剥離が認められず、手袋の表面上に粉末物質が目で見えない最良の場合である。本発明のポリイソプレンコーティングの付着性は評価5 と優れていた(すなわち、手袋を約500%引き伸ばし、親指で繰り返し擦った後に、剥離も粉末の破砕(shredding)も観察されなかった)。アクリルコーティング(試料3)およびヒドロゲルコーティング(試料5)の付着性は評価4 とほぼ同じであった。両方の場合において、手袋を約500%引き伸ばし、親指で繰り返し擦った後に、白っぽいフレークが手袋から落ちた。
【0066】
本発明のポリイソプレンコーティングの前記の結果は、引き伸ばされていない試料ならびに引き伸ばされた試料の表面上に割れを示さなかった走査型電子顕微鏡からの表面コーティング写真と良好な相関関係にあった。ポリイソプレンコーティングが(天然ゴムベースの手袋より長く)極限まで伸ばすことができるのは、手袋を約500%引き伸ばした時に割れが観察されなかった理由の説明となり得る。ポリイソプレンコーティングと天然ゴム基材(天然ゴムは化学的に似ている、すなわち、これもポリイソプレンである)との結合は非常に良好であったとも結論付けることができる。
【0067】
前記のように、アクリルコーティングされた手袋およびヒドロゲルコーティングされた手袋の走査型電子顕微鏡写真は、引き伸ばされていない試料ならびに引き伸ばされた試料について表面割れを示した。この割れは、基材からのコーティングの剥離として現れたコーティング離層につながった可能性がある。
【0068】
6.6 実施例6:潤滑化されていない手袋の着用
潤滑剤の無い手袋を乾燥した手に付け、着用のしやすさについて1 から5 までの段階に分けて主観的に評価した。1 は、着用が非常に難しいことを意味し、5 は、着用が非常に容易なことを意味する。結果(表3)から、コーティングされていない天然ゴム手袋と比較すると、ポリイソプレンコーティングされた手袋はかなり優れた着用性をもたらすことが分かる。特定の理論に拘束されるつもりはないが、ポリイソプレンは、良い手触りの突出部を手袋表面に作り出し、それにより着用中の摩擦力を弱める塩素化の影響を天然ゴムより非常に受けやすいと考えられている。
【0069】
さらに、ポリイソプレンコーティングは、異なる有効塩素濃度、例えば、420ppm〜550ppmの有効塩素濃度を特徴とする塩素化工程に適合し、コーティングされていない天然ゴム手袋より一貫して良好な着用性をもたらし得る。
【0070】
【表3】
【0071】
6.7 実施例7:潤滑化手袋の着用
潤滑剤で処理した手袋を乾燥した手ならびに湿り気のある/湿気を帯びた手に着け、着用のしやすさについて1 から5 までの段階に分けて主観的に評価した。1 は、着用が非常に難しいことを意味し、5 は、着用が非常に容易なことを意味する。結果(表4)から、ポリイソプレンコーティングは、(コーティングされていない手袋と比べて)乾燥した手ならびに湿気を帯びた手への手袋の着用性を改善したことが分かった。コーティングされていない手袋を潤滑剤で処理すると、湿気を帯びた手への手袋の着用性は乾燥した手と比較して改善されたが、湿気を帯びた状態での着用の評価は、潤滑化されたポリイソプレンコーティング手袋(試料2C)の評価より依然としてかなり悪かった。特定の理論に拘束されるつもりはないが、前記の実施例6 で示したポリイソプレンコーティングの高い塩素化効率は、コーティングされていない天然ゴム手袋より優れた、湿気を帯びた状態での着用をもたらす潤滑化工程にさらに適合し得るとみなされている。
【0072】
【表4】
【0073】
6.8 実施例8:内側他着性
手袋を包装し、約29.5kGy〜約30.3kGy のガンマ線照射によって滅菌した。滅菌した手袋を約70℃で1 日間および7 日間エージングし、ブロッキングとも呼ばれる手袋の内面が互いにくっつく程度を評価するために検査した。他着性の程度を1 から5 までの段階に分けて評価した。1 は全くくっつかないことを表し、5 は互いにひどくくっつくことを表している。結果を表5 に示した。
【0074】
これらの結果は、本発明のポリイソプレンコーティングが約70℃で7 日間エージングした後でも他着性を示さず、これに対して、コーティングされていない天然ゴム表面は約70℃で1 日エージングした後でもひどいブロッキングを示したことを証明している。特定の理論に拘束されるつもりはないが、塩素化されたポリイソプレンコーティング表面上の突出部は接触表面積を小さくし、従って、表面が互いにくっつく傾向を弱めるとみなされている。
【0075】
【表5】
【0076】
6.9 実施例9:物理的特性および手袋の触感
異なる伸びでのモジュラスを求め、結果を表6 に示した。
【0077】
一般的に、厚みが似た、コーティングされていないゴム手袋の柔らかさ/硬さの感触(着用後)はゴムのモジュラス値と相関関係があることがある。例えば、柔らかな感触のある手袋のモジュラスは、硬い感触のある手袋より低い。コーティングのある手袋の場合、皮膚と直接接触しているのはコーティングであるので、着用後の手袋の感触は主にコーティング材料のモジュラスに支配されると予想される。
【0078】
手袋の研究開発に8〜16 年間取り組んだことのある3 人の研究者らが、試料3(アクリルコーティングあり)の手袋および試料4(コーティングなし)の手袋を着用および評価した。結果から、試料3 の感触は明らかに試料4 より硬いことが分かった。実際には、この研究者らは、手でアクリルコーティングを触った感触は硬いと報告した。手袋の柔らかさ/硬さの感触は、手袋のモジュラス値と実際に相関関係があった。すなわち、試料3 のモジュラス値は試料4 より高かった。(1)アクリルコーティングのモジュラスが非常に高い、および/または(2)コーティングがあまり薄くない、ということでなければ、薄いコーティングが手袋全体のモジュラスに影響を及ぼすことができたのは予期しないことであった。
【0079】
同じ研究者らが、コーティングされていないポリイソプレン手袋(試料6)およびコーティングされていない天然ゴム手袋(試料1A)を着用および評価した。結果から、コーティングされていないポリイソプレン手袋はコーティングされていない天然ゴム手袋より明らかに柔らかい感触があることが分かった。これは予想されていたことであり、手袋のモジュラス値と良好な相関関係にあった。すなわち、ポリイソプレン手袋のモジュラス値は天然ゴム手袋よりかなり低かった。
【0080】
同じ研究者らが、ポリイソプレンコーティングされた手袋(試料2A)およびコーティングされていない天然ゴム手袋(試料1A)を着用および評価した。結果から、ポリイソプレンコーティングされた手袋は、コーティングされていない天然ゴム手袋より柔らかいか、またはそれと似ていると判断されたことが分かった。これは、ポリイソプレンコーティングされた手袋のモジュラス値(M100 およびM300)がコーティングされていない手袋のモジュラス値よりほんのわずかに低かったのにもかかわらず、2 種類の手袋試料のモジュラス値と良好な相関関係にあった。
【0081】
【表6】
【0082】
6.10 実施例10:代替ポリイソプレンコーティングを有する天然ゴムラテックス手袋
節6.1 とは異なるように配合された代替ポリイソプレンコーティングを有する天然ゴムラテックス手袋を、節6.1 に記載の手順に従って実験室において作製した。コーティング組成物を表7 に示した。硝酸カルシウム凝固剤の比重は1.150 であり、NR ラテックス総固体含有率は47.5%であった。ポリイソプレンコーティング組成物の総固体含有率は8%であった。NR ラテックス薄膜のリーチング後に、手袋をポリイソプレン層でコーティングした。手袋を135℃で30 分間硬化した。作製された手袋の指の厚みは0.30mm であった。節6.1 に記載の手順に従って、作製された手袋を420ppm で塩素化した。塩素化の後に、手袋を乾燥させ、包装し、評価した。
【0083】
手袋を乾燥した手に付け、着用のしやすさについて1 から5 までの段階に分けて主観的に評価した。1 は、着用が非常に難しいことを意味し、5 は、着用が非常に容易なことを意味する。手袋の着用評価は4.5 であった。これは、100%ポリイソプレンでコーティングされた手袋(表3 の試料2A)の着用評価とほぼ同じであった。
【0084】
包装された手袋を70℃で1 日間および7 日間エージングし、手袋の内面が互いにくっつく程度について評価した。他着性の程度を1 から5 までの段階に分けて評価した。1 は全くくっつかないことを表し、5 は互いにひどくくっつくことを表している。約70℃で1 日間エージングした後ならびに約70℃で7 日間エージングした後に、手袋の内面は互いに全くくっつかなかった。内側他着性の評価は両条件とも1 であった。これらの結果は、100%ポリイソプレンでコーティングされた手袋(表5 の試料2A)の結果とほぼ同じであった。
【0085】
ゴム基材への代替ポリイソプレンコーティングの付着性を評価した。手袋の指および手掌の部分を約500%まで引き伸ばし、コーティングされた表面を親指で繰り返し擦った。次いで、コーティングされた表面を、コーティングフレークおよび粉末物質について目視検査した。コーティングの付着性は1 から5 までの段階に分けて定性評価した。1 は、コーティング全体がゴム基材から剥離する最悪の場合である。5 は、剥離が認められず、手袋の表面上に粉末物質が目で見えない最良の場合である。代替ポリイソプレンコーティングの付着性は評価5 と優れていた(すなわち、手袋を約500%引き伸ばし、親指で繰り返し擦った後に、剥離も粉末の破砕も観察されなかった)。代替ポリイソプレンコーティングの付着性は、100%ポリイソプレンコーティングの付着性とほぼ同じである(節6.5 を参照されたい)。
【0086】
【表7】
【0087】
6.10 実施例11:PI 混合物コーティングを有する天然ゴムラテックス手袋
90%ポリイソプレン(PI)および10%ニトリルの混合物を含むコーティングを有する天然ゴムラテックス手袋を、節6.1 に記載の手順に従って実験室において作製した。コーティング組成物を表7 に示した。この組成物は、Kraton IR-401 RP ポリイソプレンラテックスを、90%ポリイソプレンおよび10%Reichhold ニトリル68077-01 ラテックスを含む混合物と取り替えた以外は表1 に示したコーティング組成物と似ている。硝酸カルシウム凝固剤の比重は1.150 であり、NR ラテックス総固体含有率は47.5%であった。ポリイソプレン/ニトリル混合コーティング組成物の総固体含有率は8%であった。NR ラテックス薄膜のリーチング後に、手袋をポリイソプレン/ニトリル層でコーティングした。手袋を135℃で30 分間硬化した。作製された手袋の指の厚みは0.31mm であった。節6.1に記載の手順に従って、作製された手袋を約420ppm で塩素化した。塩素化の後に、手袋を乾燥させ、包装し、評価した。
【0088】
手袋を乾燥した手に付け、着用のしやすさについて1 から5 までの段階に分けて主観的に評価した。1 は、着用が非常に難しいことを意味し、5 は、着用が非常に容易なことを意味する。手袋の着用評価は4.5 であった。これは、100%ポリイソプレンでコーティングされた手袋(表3 の試料2A)の着用評価とほぼ同じであった。
【0089】
包装された手袋を70℃で1 日間および7 日間エージングし、手袋の内面が互いにくっつく程度について評価した。他着性の程度を1 から5 までの段階に分けて評価した。1 は全くくっつかないことを表し、5 は互いにひどくくっつくことを表している。70℃で1 日間エージングした後ならびに70℃で7 日間エージングした後に、手袋の内面は互いに全くくっつかなかった。内側他着性の評価は両条件とも1 であった。これらの結果は、100%ポリイソプレンでコーティングされた手袋(表5 の試料2A)の結果とほぼ同じであった。
【0090】
ゴム基材への本発明のポリイソプレン/ニトリル混合コーティングの付着性を評価した。手袋の指および手掌の部分を約500%まで引き伸ばし、コーティングされた表面を親指で繰り返し擦った。次いで、コーティングされた表面を、コーティングフレークおよび粉末物質について目視検査した。コーティングの付着性は1 から5 までの段階に分けて定性評価した。1 は、コーティング全体がゴム基材から剥離する最悪の場合である。5 は、剥離が認められず、粉末物質が手袋の表面に目で見えない最良の場合である。本発明のポリイソプレン/ニトリル混合コーティングの付着性は評価5 と優れていた(すなわち、手袋を500%引き伸ばし、親指で繰り返し擦った後に、剥離も粉末の破砕も観察されなかった)。ポリイソプレン/ニトリルコーティングの付着性は、100%ポリイソプレンコーティングの付着性とほぼ同じである(節6.5 または節6.10 を参照されたい)。
【0091】
【表8】
【0092】
産業上の利用可能性
本発明は、天然ゴム、合成ポリイソプレン、合成ポリマー、例えば、ネオプレン、ポリウレタン、ニトリル、ビニル、スチレンブタジエン、およびブタジエンコポリマーからなるエラストマー物品の製造方法において有用である。本発明は、ポリイソプレンコーティングを有するエラストマー物品を作製する能力をもたらす。これによって、コーティングされた表面は他着性/粘着性が無いか、または低く、潤滑性が改善されている。有利なことに、本発明は、手術用手袋、コンドーム、プローブカバー、歯科用ダム、指サック、カテーテルなどの製造に取り入れることができる。
【0093】
本発明は、様々な特定の好ましい態様および技術に関して説明された。しかしながら、
多くの変更および修正が、以下の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神または
範囲内にありながら可能であると理解すべきである。
付記
<項1>
内面および外面を有するエラストマーゴム物品であって、内面の少なくとも一部が、合
成ポリイソプレンゴム層を含むコーティングでコーティングされている、エラストマーゴ
ム物品。
<項2>
合成ポリイソプレンゴムコーティングが、エラストマーゴム物品のゴム表面に直接結合
している、項1 記載のエラストマーゴム物品。
<項3>
天然ゴム、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ニトリル、カルボキシル化アクリロニ
トリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンコポリマー、ポリウレタン
、またはその混合物、およびビニルから作られる、項1 記載のエラストマーゴム物品。
<項4>
合成ポリイソプレンゴムのコーティングが、天然ゴムラテックス、ポリクロロプレンラ
テックス、ニトリルラテックス、カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンゴムラテッ
クス、スチレンブタジエンラテックス、ブタジエンコポリマーラテックスまたはポリウレ
タンラテックスまたはポリ塩化ビニルラテックスを含む、項1 記載のエラストマーゴム物品。
<項5>
ポリイソプレンゴム層が潤滑剤溶液で処理されている、項1 記載のエラストマー物品。
<項6>
合成ポリイソプレンゴムを含むコーティングが、ポリイソプレンゴムから作られた突出
部を有し、かつ0.5 ミクロンから10 ミクロンの範囲にある、項1 記載のエラストマーゴム物品。
<項7>
手袋、コンドーム、指サック、プローブカバー、または歯科用ダムである、項1 記載のエラストマーゴム物品。
<項8>
ポリイソプレンゴム層でコーティングされていないエラストマーゴム物品と比較して少なくとも1 つの改善された特徴を有する物品であって、前記特徴が、乾燥した皮膚での潤滑性の改善、湿った皮膚での潤滑性の改善、内側他着性の低下、快適さの増大、柔らかさの増大、モジュラス値の低下、引き伸ばした時のコーティングの割れの減少およびコーティングの剥離の減少からなる群より選択される、項1 記載のエラストマーゴム物品。
<項9>
コーティングされていないエラストマー物品、アクリルコーティングされたエラストマ
ー物品、およびヒドロゲルコーティングされたエラストマー物品からなる群より選択され
るポリイソプレンゴム層でコーティングされていないエラストマーゴム物品と比較して、
少なくとも1 つの改善した特徴を有する、項8 記載のエラストマーゴム物品。
<項10>
内面および外面を有するエラストマーゴム物品であって、外面の少なくとも一部が、合
成ポリイソプレンゴム層を含むコーティングでコーティングされ、前記物品がカテーテル
である、エラストマーゴム物品。
<項11>
物品の内面の少なくとも一部を、合成ポリイソプレンゴムを含む層でコーティングする
工程を含む、エラストマーゴム物品の少なくとも1 つの特徴を向上させる方法であって、
前記特徴が、乾燥した皮膚での潤滑性の改善、湿気を帯びた皮膚での潤滑性の改善、内側
他着性の低下、快適さの増大、柔らかさの増大、モジュラス値の低下、引き伸ばした時の
コーティングの割れの減少およびコーティング剥離の減少からなる群より選択される、方
法。
<項12>
ポリイソプレンゴム層でコーティングされていないエラストマーゴム物品が、コーティ
ングされていないエラストマー物品、アクリルコーティングされたエラストマー物品、お
よびヒドロゲルコーティングされたエラストマー物品からなる群より選択される、項11 記載の方法。
<項13>
合成ポリイソプレンゴムを含むエラストマー物品の内面をコーティングするための組成物であって、前記組成物が、エラストマー物品の内面の少なくとも一部に適用された時にエラストマー物品の少なくとも1 つの特徴を改善し、前記特徴が、乾燥した皮膚での潤滑性の改善、湿気を帯びた皮膚での潤滑性の改善、内側他着性の低下、快適さの増大、柔らかさの増大、モジュラス値の低下、引き伸ばした時のコーティングの割れの減少およびコーティング剥離の減少からなる群より選択される、組成物。
<項14>
ポリイソプレンゴム層でコーティングされていないエラストマーゴム物品が、コーティ
ングされていないエラストマー物品、アクリルコーティングされたエラストマー物品、お
よびヒドロゲルコーティングされたエラストマー物品からなる群より選択される、請求項
13 記載の組成物。
<項15>
少なくとも1 種類の硬化剤をさらに含む組成物であって、ポリイソプレンゴムがエラストマーゴムのゴムと架橋している、項13 記載の組成物。
<項16>
硬化剤が、硫黄および/または硫黄ドナー、加硫促進剤、酸化亜鉛、および酸化防止剤
を含む、項15 記載の組成物。
<項17>
合成ポリイソプレンゴムが、天然ゴムラテックス、ポリクロロプレンラテックス、ニト
リルラテックス、カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンゴムラテックス、スチレン
ブタジエンラテックス、ブタジエンコポリマーラテックス、またはポリウレタンラテック
ス、またはポリ塩化ビニルラテックスを含む、項13 記載の組成物。