特許第6557326号(P6557326)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6557326分岐した広いMWDの共役ジエンポリマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557326
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】分岐した広いMWDの共役ジエンポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08F 236/04 20060101AFI20190729BHJP
   C08F 2/38 20060101ALI20190729BHJP
   C08J 3/07 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   C08F236/04
   C08F2/38
   C08J3/07CEQ
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-512863(P2017-512863)
(86)(22)【出願日】2015年5月14日
(65)【公表番号】特表2017-515966(P2017-515966A)
(43)【公表日】2017年6月15日
(86)【国際出願番号】US2015030845
(87)【国際公開番号】WO2015175815
(87)【国際公開日】20151119
【審査請求日】2017年1月12日
【審判番号】不服2018-8725(P2018-8725/J1)
【審判請求日】2018年6月26日
(31)【優先権主張番号】2012828
(32)【優先日】2014年5月16日
(33)【優先権主張国】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】510145211
【氏名又は名称】クレイトン・ポリマーズ・ユー・エス・エル・エル・シー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファン・デル・ハイゼン,アドリアーン・アルベルト
【合議体】
【審判長】 大熊 幸治
【審判官】 大▲わき▼ 弘子
【審判官】 海老原 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−107666(JP,A)
【文献】 特開2005−041966(JP,A)
【文献】 特開平10−028879(JP,A)
【文献】 特表2009−533501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C19/00-19/44
C08F6/00-246/00
C08F301/00
C08J3/07
C08F2/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性重合によって少なくとも1.1の分子量分布Mw/Mnを有する分岐した共役ジエンポリマーを調製するための方法であって、以下の反応工程:
a)少なくとも1つの共役ジエンおよび1つ以上のモノアルケニルアレーン化合物を含むモノマー混合物を、アニオン性開始剤の存在下で重合し、リビングポリマーを形成する工程;
b)重合を終了する工程;および
c)こうして製造されたポリマーを官能化および/または水素化する工程
を含み、モノマーの混合物が、コモノマーとしてのα,ω−ビス(ビニルフェニル)アルカンを該混合物の2.0モル%未満の量で含む、方法。
【請求項2】
ポリマー骨格においてコモノマーとして2.0モル%未満の量でα,ω−ビス(ビニルフェニル)アルカンを含む少なくとも1.1の分子量分布Mw/Mnを有する分岐共役ジエンポリマー。
【請求項3】
請求項2に記載の分岐共役ジエンポリマーの溶液を水および石鹸と有機溶媒中で混合し、有機溶媒を除去することによって、共役ジエンポリマーラテックスを調製するための方法。
【請求項4】
共役ジエンポリマーが少なくとも1.1の分子量分布Mw/Mnを有する分岐共役ジエンポリマーである、水中に乳化された分岐共役ジエンポリマーを含む共役ジエンポリマーラテックスであって、ポリマー骨格においてコモノマーとしてα,ω−ビス(ビニルフェニル)アルカンを2.0モル%未満の量で含む、ラテックス。
【請求項5】
物品を請求項4に記載の共役ジエンポリマーラテックスに浸漬することを含む、浸漬物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐した広い分子量の共役ジエンポリマーおよび特にポリイソプレン、ならびにこれを調製するための方法に関する。本発明はまた、分岐した広いMWDの共役ジエンポリマーのラテックスおよびこれから製造された製品(浸漬物)に関する。
【背景技術】
【0002】
インディアゴム(India rubber)または生ゴムとも呼ばれる天然ゴムは、最初に製造されたときは、有機化合物イソプレンの好適なポリマーと、他の有機化合物および水の微量の不純物とからなる。天然ゴムとして有用であるポリイソプレンの形態は、エラストマーとして分類される。
【0003】
NRの主な構成要素は、シス−ポリイソプレンであり、100,000から1,000,000ダルトンの分子量を有する。高いシス含有量、高い平均分子量、微量であるが必須量の分岐および相対的に広い分子量分布の組み合わせが、天然ゴムの独特の特性を与える。コンドームや手術用手袋のような浸漬物の肌触りは高く評価される。
【0004】
一部の人々は深刻なラテックスアレルギーを有し、ラテックスグローブのような天然ラテックスゴム製品に曝されることで、アナフィラキシーショックを生じることがある。このためおよび他の理由のために、ポリイソプレンに基づく合成ゴムから製造された浸漬物が人気である。
【0005】
例えば、Cariflex(商標)ポリイソプレン製品は、極度の純度、格別の保護および一貫した高品質が要求される用途のために天然ゴムの理想的な代替品である。Kraton Polymersによって供給されるCariflex製品は、変色、臭いおよびアレルギー反応を生じる不純物を含まずに、天然ゴムの高い引張強度および引裂耐性を必要とする製造用途のために、純粋で多用途の選択肢を提供する。
【0006】
アニオン性重合によって製造される場合、ポリイソプレンはアレルゲンを用いずに製造される。分子量は、シス含有量と同様に相対的に高い。しかし、アニオン性重合において、比較的シャープな分子量分布が達成され(約1.0のMw/Mn)、ほぼ線状のポリマー構造が得られる。NRと同じ特性を達成するために、分子量分布の一部の広がり(ここでは表現「広いMWD」は1.0を超える、好ましくは少なくとも1.1、より好ましくは少なくとも1.5のMw/Mnを指す。)および一部の分岐が必要である。他方で、ゲル化(架橋)は回避されなければならない。アニオン性重合によってポリイソプレンのような共役ジエンポリマーを調製する場合に、これらの要件を達成するには問題があることがわかった。ポリイソプレンはまた、他の方法によって製造されてもよいが、この場合、ポリマーがクリアでもなくアレルゲンフリーでもない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
今般、分岐した広いMWDの共役ジエンポリマーであって、高いシス含有量、相対的に広い分子量分布および一部の分岐を有していて、ゲル化のない、NRの主要構成成分、即ちポリイソプレンとよく似たポリマーが、アニオン性重合によって製造できることを見出した。
【0008】
従って、アニオン性重合によって、分岐し、広い分子量の共役ジエンポリマーを調製するための方法が提供され、この方法は以下の反応工程を含む:
a)少なくとも1つの共役ジエンおよび場合により1つ以上のモノアルケニルアレーン化合物を含むモノマー混合物を、アニオン性開始剤の存在下で重合し、リビングポリマーを形成する工程;
b)重合を終了する工程;および
c)こうして製造されたポリマーを場合により官能化および/または水素化する工程
を含み、モノマーの混合物が、コモノマーとしてのα,ω−ビス(ビニルフェニル)アルカン、好ましくは1,2−ビス(ビニルフェニル)エタンを含む。
【0009】
分岐した広い分子量の共役ジエンポリマーをラテックスに転換する方法も提供される。
【0010】
本発明のさらなる実施形態は、こうして調製された分岐した広い分子量の共役ジエンポリマー、こうして調製されたラテックスおよびこのラテックスから製造された浸漬物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
アニオン性重合によるポリイソプレンの合成は周知である。先行する例は、英国特許第813198号明細書である。故に、イソプレンは、炭化水素リチウムまたはポリリチウムの存在下で重合して、ゴム状の、本質的にシス1,4−ポリイソプレンを与える。
【0012】
故にリビングポリマーは、アニオン性開始剤としてのアルカリ金属またはアルカリ金属炭化水素、例えばナトリウムナフタレンの存在下、共役ジエンおよびモノマー混合物のアニオン性溶液重合によって調製されてもよい。好ましい開始剤は、リチウムまたはモノリチウム炭化水素である。多くのリチウム炭化水素が好適であり、ここで炭化水素は、1から40個の炭素原子を含有し、ここでリチウムは1つ以上の水素原子と置き換えられている。一価リチウム化合物、例えばアルキルリチウム化合物に加えて、ジリチウムおよびポリリチウム化合物も使用されてもよく、ならびに炭化水素リチウム化合物の混合物が使用されてもよいことが理解されるべきである。例えばアルキルリチウム化合物、例えばメチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、s−ブチルリチウム(「s−BuLi」)、ヘキシルリチウム、2−エチルヘキシルリチウム、n−ヘキサデシルリチウムなどが特に有利である。s−BuLiが単一開始剤として特に好ましい。
【0013】
リビングポリマーを調製するために使用される開始剤の濃度は、広い範囲内で変動してもよく、リビングポリマーの所望の分子量によって決定される。共役ジエンポリマーに関して、炭化水素リチウム系開始剤は、通常、ジエンモノマーの重量に基づいて、10から2000ppmのLi、好ましくは100から1000ppmのLiの濃度で使用される。開始剤は、場合により追加モノマーと共に2以上の段階で重合混合物に添加されてもよい。
【0014】
リチウム系開始剤の存在下でアニオン性重合によってポリマーを製造するための条件は、当該技術分野において周知である。通常、溶媒、開始剤およびモノマーはまず、いずれも重合に悪影響を与える化学的不純物、湿分および空気を含まずに、製造される。モノマーは、少なくとも90モル%純度であるべきである。精製されたストリームは、開始剤が注入された反応器または連鎖反応器に入り、重合が開始する。
【0015】
線状不飽和リビングポリマーである反応工程(a)によって得られるリビングポリマーは、1つ以上の共役ジエン、例えばC−C12共役ジエンおよび場合により1つ以上のモノアルケニルアレーン化合物から調製される。好ましくはモノマー混合物の少なくとも80モル%はイソプレンを含む。
【0016】
好適な追加の共役ジエンモノマーの具体的な例としては、1,3−ブタジエン;1,3−ペンタジエン(ピペリレン);2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン;3−ブチル−1,3−オクタジエン、1−フェニル−1,3−ブタジエン;1,3−ヘキサジエン;および4−エチル−1,3−ヘキサジエンが挙げられ、ブタジエンが好ましい。1つ以上の共役ジエンとは別に、リビングポリマーはまた、1つ以上のモノアルケニルアレーン化合物から部分的に誘導されてもよい。好ましいモノアルケニルアレーン化合物は、モノビニル芳香族化合物、例えばスチレン、モノビニルナフタレン、ならびにこれらのアルキル化誘導体、例えばo−、m−およびp−メチルスチレン、α−メチルスチレンおよび三級−ブチルスチレンである。スチレンは、好ましいモノアルケニルアレーン化合物である。リビングポリマーはまた、モノビニルピリジン、アクリル酸およびメタクリル酸のアルキルエステル(例えばメチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート(dodecyclmethacrylate)、オクタデシルメタクリレート(octadecyclmethacrylate))、塩化ビニル、塩化ビニリデン、カルボン酸のモノビニルエステル(例えば酢酸ビニルおよびステアリン酸ビニル)のような少量の他のモノマーから部分的に誘導され得る。好ましくは、リビングポリマーは、炭化水素モノマーから全体的に誘導される。モノアルケニルアレーン化合物がリビングポリマーの調製に使用される場合に、これらの量が約70重量%未満であることが好ましい。より詳細には、モノアルケニルアレーン化合物がブロックに重合される場合、最終的なカップリングされたポリマーにおけるポリ(モノアルケニルアレーン)のブロックは、カップリングされたポリマーの重量の50重量%以下、好ましくは35重量%以下で含まれる。
【0017】
リビングポリマーは、共役ジエンに基づくリビングホモポリマー、リビングコポリマー、リビングターポリマー、リビングテトラポリマーなどであってもよい。共役ジエンに基づくリビングホモポリマーは、式B−Mによって表されてもよく、ここでMはカルバニオン基、例えばリチウムであり、Bはポリブタジエンまたはポリイソプレンである。リビングコポリマーは、式B’−Mによって表されてもよく、式中、B’はブロックランダムまたはテーパードコポリマー、例えばポリ(ブタジエン/イソプレン)、ポリ(ブタジエン/スチレン)またはポリ(イソプレン/スチレン)である。リビングコポリマーはまた、式A−B−Mによって表されてもよく、式中Aは、ポリスチレンブロックである。組み合わせおよびより大きな数のブロックを有するリビングコポリマーは、本発明の範囲内である。
【0018】
上述されるように、リビングコポリマーは、リビングブロックコポリマー、リビングランダムコポリマーまたはリビングテーパードコポリマーであってもよい。
【0019】
リビングブロックコポリマーは、第1のモノマーを完全に重合し、次いで別のモノマーを添加することによって製造される。故に、リビングブロックコポリマーは、モノマーの段階的な重合によって、例えばイソプレンを重合してリビングポリイソプレンを形成、続いて別のモノマー、例えばスチレンを添加して、式ポリイソプレン−ポリスチレン−Mを有するリビングブロックコポリマーを形成することによって調製されてもよく、またはスチレンをまず重合して、リビングポリスチレンを形成し、続いてイソプレンを添加して、式ポリスチレン−ポリイソプレン−Mを有するリビングブロックコポリマーを形成してもよい。リビングコポリマーはまた、例えば式ポリスチレン−ポリ(ブタジエン/スチレン)−Mを有する中間ブロックB中のモノマーの制御された分布を有していてもよく、ここでポリ(ブタジエン/スチレン)コポリマーブロック中のスチレンの相対含有量は、ポリスチレンブロックに最も近い場所では低い。
【0020】
リビングランダムコポリマーは、重合混合物中に存在するモノマーのモル比が制御されたレベルに維持されるように、反応性の低いモノマーまたはこのモノマーの混合物が含まれる重合反応混合物に、最も反応性であるモノマーを徐々に添加することによって調製されてもよい。このランダム化は、重合混合物に共重合されるモノマーまたはモノマーの混合物を徐々に添加することによって達成することもできる。リビングランダムコポリマーはまた、以降で議論されるように、いわゆるランダマイザの存在下で重合を行うことによって調製されてもよい。
【0021】
リビングテーパードコポリマーは、モノマーの混合物を重合することによって調製され、モノマー間の反応性の相違から生じる。例えば、モノマーAがモノマーBよりも反応性である場合、コポリマーの組成は、ほぼ純粋なポリ−Aの組成からほぼ純粋なポリ−Bの組成に徐々に変化する。故に、各リビングコポリマー分子において、3つの領域が識別可能であり、これが徐々に互いに入り込み、明確な境界がなくなる。外側領域の1つは、ほぼ完全にモノマーAから誘導されるユニットからなり、モノマーBから誘導される少量のユニットのみを含有し、中間領域においてはモノマーBから誘導されるユニットの相対量は徐々に増大し、モノマーAから誘導されるユニットの相対量が低減する一方で、他の外側領域は、ほぼ完全にモノマーBから誘導されるユニットからなり、モノマーAから誘導される少量のユニットのみを含有する。ブタジエンおよびイソプレンのリビングテーパードコポリマーが好ましいリビングテーパードポリマーである。
【0022】
好ましくはリビングポリマーは、イソプレンから全体が誘導され、これによりNRとよく似る。
【0023】
リビングポリマーが形成される溶媒は、不活性液体溶媒、例えば炭化水素、例えば脂肪族炭化水素、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オキセタン、2−エチルヘキサン、石油エーテル、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンまたは芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ジエチルベンゼン、プロピルベンゼンである。一般にシクロヘキサンが好ましい溶媒である。炭化水素の混合物、例えば潤滑油も使用されてもよい。
【0024】
共役ジエンの重合が行われる温度は、広い範囲内、例えば−50℃から−150℃で変動してもよい。通常、小規模操作では0℃から100℃の温度および大規模操作では150℃までの温度が、3から60時間の反応時間で使用されてもよい。しかし、コモノマーの存在により、好ましくは重合は、約20℃から約60℃で行われる。反応は、好適には、不活性雰囲気、例えば窒素にて行われ、圧力下、例えば約0.5から約10barの圧力下で行われてもよい。
【0025】
本発明に従うポリイソプレンの調製に関して特に、開始および重合が圧力下、好ましくは40から60℃の範囲の温度で行われる。重合は、一般に、モノマーフィードの少なくとも99%の転化を達成するのに十分な時間行われる。これは、約1時間以内またはさらにこれ以下で達成され得る。
【0026】
本発明に従う重合は、選択されたコモノマーの存在下で行われる。コモノマーは、重合の開始時に存在してもよく、または徐々にもしくは段階的に投与されてもよい。
【0027】
ゲル化を回避しながら妥当な分岐度を達成するために、少量のみのコモノマーが必要とされる。一般に、コモノマーの量は、モノマー混合物の2.0モル%未満である。0.01から1.5モル%、好ましくは0.1から1.0モル%の量が好ましい。単一ショットまたはより多い段階で添加されてもよい量は、通常、コモノマーの複数の二重結合を回避するような量である。
【0028】
反応工程(a)中に調製されるリビングポリマーの分子量は、広い範囲内で変動してもよい。好ましくは数平均分子量は少なくとも45,000である。こうしたポリマーの溶液の(非常に)高い粘度を考慮しなければならないにもかかわらず、高分子量が好ましい。好適な数平均分子量は、約45,000から約2,000,000であり、約200,000から約1,000,000の数平均分子量が好ましい。
【0029】
本明細書および特許請求の範囲に使用される場合、用語分子量は、ASTM D5296−11に従って行われるようなポリスチレン較正標準を用いるゲル透過クロマトグラフィ(GPC)により測定される、ポリマーまたはコポリマーのブロックのポリスチレン換算または見掛け分子量を指す。GPCは周知の方法であり、ここでポリマーは、分子サイズに従って分離され、最大分子が最初に溶出する。クロマトグラフは、市販されているポリスチレンモル質量標準を用いて較正される。使用される検出器は、好ましくは紫外線および屈折率検出器の組み合わせが好ましい。本明細書で表現される分子量は、数平均分子量(Mn)または重量平均分子量(Mw)として表される。分子量分布(D)は、Mnに対するMwの比として表される。カップリングされたポリマーについてのMnとカップリングされていない前駆体ポリマーのMnとの比は、見掛けの分岐度(DoB)として示される。この見掛けの分岐度は、上記で示されるようにGPC方法が分子サイズを基準にして分離するので、ポリマーアームの「真」の数より一般に低い。
【0030】
リビングポリマーは、いわゆるランダマイザの存在下で重合を行うことによって調製されてもよい。ランダマイザは、触媒を不活性化せず、ランダム共重合への傾向をもたらす極性化合物である。好適なランダマイザは、三級アミン、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジメチルアニリン、ピリジン、キノリン、N−エチルピペリジン、N−メチルモルホリン;チオエーテル、例えばジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、ジ−n−プロピルスルフィド、ジ−n−ブチルスルフィド、メチルエチルスルフィド;および特にエーテル、例えばジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジ−オクチルエーテル、ジ−ベンジルエーテル、ジ−フェニルエーテル、アニソール、1,2−ジメチルオキシエタン、o−ジメトキシベンゼンおよび環状エーテル、例えばテトラヒドロフランである。一般に、ランダマイザの量は、コモノマーの過剰反応を回避するために少量である。さらに、この量はランダマイザに依存する。一般に、モノマー混合物に対して0.1から8.0重量%、好ましくはモノマー混合物に対して0.5から5.0モル重量%の量が好ましく、モノマー混合物に対して1.0から3.0重量%がより好ましい。
【0031】
所望の重合度が達成された後、重合停止剤または触媒脱活性化剤が、溶媒中のポリマーによって形成されたセメントに添加される。酸化防止剤は、仕上げおよび貯蔵の間のポリマーを保護するために添加されてもよい。
【0032】
次の工程において、溶媒およびポリマーを含むセメントは通常、ストリッピング操作を遂行し、これによって溶媒は回収され、ポリマーセメントは、熱水およびスチームによってクラムに変換される。クラムスラリーは、通常、押出機を通過させ、水が除去された後に、冷却され、梱包され、包装され、搬送の準備が整った貯蔵所に置かれる。
【0033】
別の方法として、共役ジエンポリマーラテックスが、ポスト乳化方法を介して調製されてもよい。この場合、共役ジエンポリマーは、好適な溶媒中に溶解され、高剪断乳化装置中に水性石鹸溶液と共にブレンドされる。得られた中間生成物は、多量の有機溶媒を有する高希釈エマルションである。エマルション中に含有される溶媒はストリッピングされ、続いて希釈エマルションは濃縮されて共役ジエンポリマーラテックスを製造する。この工程に関する方法パラメータは公知である。
【0034】
種々の文書、例えば国際公開第2008074513号、国際公開第2007110417号および国際公開第2010005895号から、人工ラテックスの調製に関する方法が公知である。一般に、方法は、共役ジエンポリマー(合成ゴム)を好適な炭化水素溶媒中に溶解し、これを乳化して水中油型エマルションを形成し、炭化水素溶媒を除去し、(場合により)ラテックスを濃縮することによってセメントを形成する工程を含む。これはまた、本発明の共役ジエンポリマーを用いて行われてもよい。
【0035】
本発明は、1,2−ビス(ビニルフェニル)エタン即ちBVPEに関して記載される。しかし、原理は、α,ω−ビス(ビニルフェニル)アルカンに適用されることに留意し、ここでアルカン基は少なくとも1つの炭素原子、好ましくは2個の炭素原子、より好ましくは20個以下の炭素原子を有する。アルカン基は、線状または分岐であってもよい。さらに1つ以上の炭素原子は、窒素、ケイ素または酸素原子によって置換されてもよい。アルカン基は、例えばさらなるビニルフェニルアルキル基で置換されてもよい。最も好ましくは、アルカン基は2個の炭素原子を含む。
【0036】
α,ω−ビス(ビニルフェニル)アルカンにおけるビニル基は、オルト、パラまたはメタ位にあってもよい。好ましくはこれらはパラまたはメタ位にある。ビニル基はそれぞれ、同じ位置または異なる位置にあってもよい。
【0037】
本発明に使用されるコモノマーは不純物に悩まされないことも特に興味深い。例えば、p,p’−BVPE即ち1,2−ビス(p−ビニルフェニル)エタンは、市販の出発材料である塩化p−ビニルベンジルのグリニャールカップリングによって高純度で合成できる。
【0038】
BVPE即ち1,2−ビス(ビニルフェニル)エタンは、アニオン性重合におけるコモノマーとしてほとんど開発されていない。ベンゼン中、スチレンとBVPEまたはp−ジビニルベンゼン(PDVB)とsec−ブチルリチウムとのリビングアニオン性共重合は、Endo,Takeshi:Ohshima,Akira:Nomura,Ryoji;Mizutani,Yukio,「リビングアニオン性重合技術による求核反応部位に富むネットワーク化ポリスチレンの合成」(Journal of Polymer Science,Part A:Polymer Chemistry(2000),38(14),2543−2547によって行われた。
【0039】
上記で示されるように、分岐した広い分子量分布の共役ジエンポリマーおよび特にポリイソプレンをアニオン性技術によって製造するのが望ましい。先に議論された先行技術には、このことは記載されていない。
【0040】
従来の解決策は、ジビニルベンゼン即ちDVBをコモノマーとして含むことであった。しかし、DVBは、機能が不十分であることがわかった。故に、DVBは、ほぼ即座のゲル化および多官能性カップリング剤として作用するDVBコアの形成をもたらす。こうして得られた星状ポリマーは、NRとは明らかに異なる。さらにDVBは相対的に不純である。これは、共役ジエンの重合度に悪影響を与え得る。
【0041】
驚くべきことに、BVPEは、アニオン性技術によって分岐した広いMWDの共役ジエンポリマーを製造する真の可能性を提供することを見出した。ジビニルベンゼン(DVB)に勝る高純度で得ることができるという利点を有する。モノマーの濃度、異性体温度、ランダマイザの選択および量ならびに温度を変更することによって、反応性を良好に制御できる。
【0042】
示されたように、BVPEは、市販の出発材料である塩化ビニルベンジル(VBC)のグリニャールカップリングによって高純度で合成できる。p−VBCが出発材料として適用される場合、結果として純粋な1,2−ビス(p−ビニルフェニル)エタンになる。または、p−およびm−VBCの混合物が適用される場合、結果は、BVPEの3つの異性体、即ちp,p’、p,mおよびm,m’−異性体の混合物である。p,p’−異性体は、約96℃の融点を有する結晶性固体である。出発材料としてp/m−VBC混合物を用いる場合、得られたBVPE異性体の混合物は、p,p’−異性体が豊富なフラクションおよびp,mおよびm,m’異性体が豊富なフラクションを得るために結晶化できる。
【0043】
BVPEは、2つの異なる組成物:結晶性固体である純粋なp,p’−異性体および炭化水素可溶性液体にする異性体の混合物(大部分がp,m−およびm,m’−異性体からなる。)として調査した。両方の組成が有利である。故に、結晶性BVPEが非常に安定であり、長期間の貯蔵のための安定剤を必要としない。異性体の混合物は経時的な重合を防止するためにこうした安定剤を必要とするが、液体であるので、工程(b)に使用されるために溶解させる必要はない。これはまた、結晶性p,p’−異性体と比較した場合に、より高い炭化水素可溶性を有する。また、混合物中の異性体の比を制御することによってこの挙動を変動させ得ることも興味深い。故に、p,p’−異性体は、より迅速におよび/または完全に反応する一方で、線状ポリマーのより大きな程度は、p,m−およびm,m’−異性体で製造されてもよい。
【0044】
故にBVPEは、DVBよりも反応性においてより大きな制御を与え、特に組成純度を変更し得る。故に、コモノマーとしてBVPEを用いることによって分岐した広いMWDポリイソプレンを形成できる。
【0045】
故に、通常の技術では、分岐したポリイソプレンは、ネオジウムまたはチーグラーナッタ系触媒を適用して配位重合を介してのみ製造できる。BVPEの使用により、この特徴を、アニオン性重合技術によって実現可能な範囲にする。分岐したポリイソプレン構造は、一般に、線状構造と比較して、改善された加工特性の利点を有する。今般、このことはアニオン性重合技術より得られる厳しい分子量制御および製品の清浄度と組み合わせることができる。
【0046】
本発明はさらに、分岐した広いMWDの共役ジエンポリマーのラテックスに関し、ここで、上記で製造されたポリマーは、水性エマルションに転換される。これは、有機溶媒中の新規なポリマーの溶液を水および石鹸と組み合わせ、有機溶媒を除去することによって行われてもよい。ホモジナイザまたは一連のホモジナイザは、ラテックスが安定であり、この中のポリマー粒子が小さいことを確実にするために使用されてもよい。
【0047】
こうして製造されたラテックスは、コンドームおよび手術用手袋のような浸漬物の調製のために使用されてもよい。浸漬物は、ラテックスに適切な形態を浸漬し、これを乾燥して、硬化することによって製造される。
【0048】
本発明は以降の実施例によって例示される。
【実施例】
【0049】
以下の実施例において使用されるBVPEは、Shepherd Chem.Co.USA.から購入した。2つの異なる等級が利用可能であった、即ち純粋な固体p,p’異性体およびp,p’、p,mおよびm,m’異性体の液体混合物。両方の等級は、NMRおよびGCMSによって特徴付けられる。組成データは、以下の表1に示される:
【0050】
【表1】
【0051】
ゲル透過クロマトグラフィ(GPC)データは、ポリマー製品の分子量を決定するために使用される。これらのGPC決定は、ASTM D5296−11に従ってポリスチレン較正標準を用いて行った。
【0052】
瓶重合
ここで記載されるテストは、撹拌棒および適切な隔壁を備えた250mLのDuran(商標)圧力瓶中、室温で行った。実験の前に、瓶を脱イオン水ですすぎ、150℃でストーブ中で一晩乾燥させた。熱瓶をドライボックスに移し、使用前に窒素下で冷却した。
【0053】
実験1(BVPEとイソプレンとの共重合)
BVPEとイソプレン(IPM)との共重合を、室温にてイソプレンに対して2、4および6重量%(0.58、1.16および1.74モル%)で行った。BVPEなしの1つの重合を参照として供した。開始後、2重量%のBVPE重合によりピンクから赤色調に変わったが、より高いBVPE含有量の重合は帯黄色に変わった。参照は無色であった。5時間の重合後、すべてのBVPE含有混合物は黄色になり、BVPEレベルが高くなるにつれて強くなった。視覚観察に基づいて、混合物の粘度もBVPE含有量に応じて増大した。ゲル透過クロマトグラフィ(GPC)のためにサンプルをとり、重合を室温で一晩継続させた。
【0054】
22時間後、BVPE含有混合物はすべて深橙色であった。参照および2%BVPE混合物は依然として流体であった。4および6重量%のBVPE混合物はゲルになった。すべての瓶に、酸化防止剤(ブチル化ヒドロキシトルエン、Ionol(商標)CP)として利用可能)およびメタノール(MeOH)を添加して、サンプルをGPCのためにとった。以下の表2のデータは、BVPEのパーセンテージが増大するにつれて、経時的に進行するMWDの広がり/カップリングを示す。参照は、狭いMWDを有していた。22時間後、2%のBVPEサンプルは依然としてTHF中に可溶性である一方で、4および6重量%のBVPEにて形成されたゲルはTHF中に部分的にのみ可溶性であった。完全に可溶性の2%BVPEサンプルのGPCは、分岐およびカップリングによって生じたMWDの広がりを示す。これはまた好ましくは3重量%(0.87モル%)未満のBVPEが使用されることを示す。
【0055】
【表2】
【0056】
実験2(ランダマイザの存在)
別の一連の実験(A、BおよびC)において、5つの瓶を90gの乾燥シクロヘキサン、約10gのイソプレンおよびある量のジエチルエーテル(EtO)を、以下の表3に示されるように充填した。事前に、4つの瓶に、ある量のBVPEを表3に示されるレベルにて添加した。5番目の瓶は、ポリイソプレン参照として作用した。室温または50℃での撹拌下、シクロヘキサン中s−BuLiの0.25から0.30M溶液約2.5mLの添加によって重合を開始した。シリーズBにおいて、化学量論量のMeOHおよびシクロヘキサン中のs−BuLiの後続のアリコートを添加することによって再開始を行った。各瓶から定期的に転化サンプルを、重合の異なる段階において、BHT/MeOH中にとった。
【0057】
【表3】
【0058】
BVPEユニットを均一に分配するために、ジエチルエーテル添加を調整剤として適用した。以下の表4に与えられる重合シリーズは主に、BVPEレベル、ジエチルエーテルレベルおよび適用される温度に関して変動させた。シリーズBにおいて、重合は、約80%の転化後に終了し、続いて再開始させた;この手順により、ゲル化の問題なく、より高いBVPEレベルの適用が可能になった。
【0059】
表4からわかるように、分子量分布は、高いレベルのBVPEの適用およびさらに高温の適用により広くなる。これは、より低温において、共重合反応は架橋反応よりも優勢であるが、より高い温度において、「アニオン性硬化割合」が増大するという印象を与える。故に、大抵の場合の完全な転化時、温度上昇が適用されて、完全なBVPE二重結合転化の作用が認められた。ゲル形成の傾向は、常に考慮されるべきであり、BVPE/ポリマー鎖レベル>2にてより顕著になる。これは、2を超えると架橋の「全面的」構造が形成され得るので妥当な数である。1つの著しい例は、たった30分の重合後に完全な不溶性ゲルを与えたランAVである。
【0060】
この観点において、この実験は最適化されておらず、現在のところゲルを形成する本発明の範囲内にある例は、重合条件を最適化することによってゲル化なしに行われ得ることに留意されたい。
【0061】
以下の表4に与えられるすべての実験に関して、転化サンプルは、定期的なインターバルにてとった(表4は、最終サンプルのみのGPCデータを与える。)。
【0062】
シリーズAから、相対的に高いレベルのジエチルエーテル(5重量%)が、イソプレン転化より迅速なBVPEの重合を誘導することがわかった。BVPEは、これ自体が重合の開始時に主にビルトインされる。BVPEの結果は論理的パターンを示し、最終的に、BVPEの両方の官能性が完全に反応する。
【0063】
シリーズB(0.5重量%のジエチルエーテル)において、共重合はバランスが良好であるように見え、「ランダム」コポリマーが製造されていた。これらの再開始されたランは、主に室温で行われ、最後には50℃で短期間の30分「硬化」を行った。これは、明らかに、BVPEのすべての官能性を転化するのには十分でない。この再開始は、重合の終了時のゲル化を回避するために、MeOHの化学量論の添加および後続の2−BuLiによる開始によって行われた。
【0064】
最後に、0.05重量%のジエチルエーテルであるシリーズCにおいて、イソプレン転化は、ジエチルエーテルを用いない実験において既に観察されたように最速の転化である。温度は先行シリーズよりも高く、先行シリーズよりも相当高いBVPE官能性の転化を導いた。
【0065】
実験3(分岐PS_PIジブロック)
実験の別のシリーズにおいて、シクロヘキサン中のBVPEおよびスチレンの共重合をランダマイザを添加することなく行った。データを表5に与える。Dシリーズにおいて、4500から5000のMnをターゲットした一方で、Eシリーズにおいてこれは7000から8000であった。スチレンに対して1から2モル%において、鎖あたり0.5から1.5のBVPEユニットを達成する。これらの場合において、MWDの広がりが生じたが、すべてのポリマーは可溶性のままであった。4モル%のBVPEレベル(シリーズE)において、室温にて不溶性のポリスチレンを得た。50℃において、強く広がった分子量を有するポリスチレンは、広いMWD(Mw/Mn=1.84)を伴って得られた。この高度に分岐した/不溶性のポリマーは、鎖あたり約2から3のBVPEユニットを有する。重合は、イソプレンの添加により継続され、対応するPS−PIジブロックコポリマーを得た。これにより、高い(H)またはさらに非常に高い(VH)粘度を有するポリマー溶液を得た。ジブロックは粘着性の材料を表す。
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
結果は、ジエチルエーテルのようなランダマイザの存在はランダム共重合を得るのに好ましいことを確認する。約0.5%のジエチルエーテルにおいて、これは25%の3,4含有量を有する分岐ポリイソプレンをもたらす。50℃を超える温度およびジエチルエーテルの存在は、すべてのBVPE官能性の完全な転化を促進する。好ましくは3重量%以下のランダマイザを使用する。
【0069】
種々の(中間)ポリイソプレンサンプルのGPCデータと相関する全体のNMRデータに基づいて、MWDの広がりは、BVPEの大部分が反応し、異なるポリマー鎖の間の「架橋」に転化される場合に生じることが予測される。
【0070】
所見
イソプレンとBVPEの共重合による分岐ポリマーの合成が明確に示された。好ましくは「分子量のインフレーション」によるこのタイプの分岐は、ゲル形成を回避するために重合条件の厳密な制御を含む。ここでテストされた分子量範囲において、鎖あたりのBVPEユニットの数は、好ましくは約2の最大値に限定される。
【0071】
室温において、重合反応は、優先的に最初に生じる一方で、モノマーの欠如にて分岐がより顕在化し始めることが観察された。
【0072】
ここで調製されたポリイソプレンの大部分は、相対的に低分子量(Mw<100,000)であり、粘稠で粘着性の流体を表す。高分子量の製品(見掛けMw300,000から550,000)は、非常に広い分布を有し、より高い(高い3,4−含有量、シリーズAおよびB)またはより低い(低い3,4−含有量、シリーズC)粘着性の固体を表す。
【0073】
上記で記載される実験の観点で、分岐共役ジエンポリマーはコモノマーとして少量のBVPEを用いてアニオン性重合を介して調製できることを結論付けることができる。