(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス及びマイクロエレクトロニクス用途におけるボンディングワイヤの使用はよく知られた技術水準である。ボンディングワイヤは当初は金から製造され、最近では、銅、銅合金、銀及び銀合金のような高価ではない材料が用いられている。そのようなワイヤは金属被覆を有していてもよい。
【0003】
ワイヤ形状に関して、最も一般的なのは円形断面のボンディングワイヤ、及び概ね矩形断面を有するボンディングリボンである。いずれのタイプのワイヤ形状も、それらを特定の用途において有用にするそれらの利点を有する。
【0004】
本発明の目的は、ワイヤボンディング用途に使用するのに適した被覆された銀又は銀合金のワイヤを提供することにあり、不活性ガス又は還元性ガスでフリーエアボール(free air ball:FAB)をパージする必要なく、大気下であってもFABの形成において特に改善され、FAB柔軟性、結合性並びに耐腐食性及び耐酸化性が改善されているだけでなく、例えば、広いスティッチボンディングウィンドウ、良好な再現性を有する軸対称FABの形成、高いスティッチ引張強さ、柔軟なワイヤ、低い電気抵抗率、低いエレクトロマイグレーション、長いフロアライフなどを含む、ワイヤおよびそのボンディング用途に関して関係する全体的にバランスのとれた範囲の特性も示す。
【0005】
「軸対称FAB」の用語が本明細書において使用される。これは、以下のいずれの欠陥も示さない固化球状のFABを意味する。
− 尖ったチップ(FABチップにおける溶融金属の流出)、
− アップルバイトチップ(FABチップにおける溶融金属の流入)、
− ピーチチップ(FABチップにおける異なる半球を持つ2つのプラトー)、
− FABは、5°未満、好ましくは1°以下の角度でワイヤ軸から傾く。
【0006】
「球状FAB」の用語が本明細書において使用される。それは絶対的な意味で理解されるものではなく、それは真球状のFAB及び実質的に球状のFABを含むものとして理解されるものとする。すなわちFABは、1:1(真球状)から1:1.1(実質的に球状)までの範囲のアスペクト比(FAB半径方向軸に沿って最長対角と最短対角(若しくは直径)の割合)を示す。
【0007】
前記目的の解決への貢献は、カテゴリを形成する請求項の主題によって提供される。カテゴリを形成する請求項の従属請求項は、本発明の好ましい実施形態を表し、その主題もまた、上記の目的の解決に貢献する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のワイヤは、好ましくはマイクロエレクトロニクスにおけるボンディングのためのボンディングワイヤである。それは、好ましくは一体物の物体である。非常に多くの形状が既知であり、かつ本発明のワイヤのために有用であると思われる。好ましい形状は、断面視において、円形、楕円形及び矩形形状である。本発明に関して、「ボンディングワイヤ」と言う用語は、断面の全ての形状及び全ての通常のワイヤ径を含むが、円形断面及び細径を有するボンディングワイヤが好ましい。平均断面積は、例えば50から5024μm
2、又は好ましくは110から2400μm
2の範囲にあり、したがって、好ましい円形断面の場合、平均直径は、例えば8から80μmまで、好ましくは12から55μmの範囲にある。
【0011】
ワイヤ又はワイヤコアの平均直径又は、単純に言えば、直径は、「サイジング法」によって取得され得る。本方法によれば、規定された長さについてのワイヤの物理的重量が決定される。この重量に基づいて、ワイヤ又はワイヤコアの直径が、ワイヤ材料の密度を用いて計算される。直径は特定のワイヤの5つの切断部についての5つの測定値の算術平均として計算される。
【0012】
前述に沿って、前述の開示された組成物の各場合で、ワイヤコアは、(a)純銀、(b)ドープされた銀、(c)及び(d)銀合金、又は(e)ドープされた銀合金、からなる。本発明のワイヤのコアは、0から100wt.ppm、例えば10から100wt.ppmの範囲の総量のいわゆる更なる成分を含んでいてもよい。本文脈において、しばしば「不可避の不純物」とも呼ばれる、更なる成分は、使用された原料内に存在する不純物若しくはワイヤの製造プロセスに由来する少量の化学元素及び/又は化合物である。更なる成分の0から100wt.ppmの低い総量は、ワイヤ特性の良好な再現性を保証する。コアに存在する更なる成分は、通常、別に添加されない。各個々の更なる成分は、ワイヤコアの総量に基づいて30wt.ppm未満の量で含まれる。
【0013】
ワイヤのコアは、バルク材料の均一の領域である。いかなるバルク材料も常に、ある程度まで異なる特性を示し得る表面領域を有するので、ワイヤのコアの特性は、バルク材料の均一の領域の特性として理解される。バルク材料の領域の表面は、モフォロジー、組成(例えば硫黄、塩素及び/又は酸素含有量)及び他の特徴に関して異なっていてもよい。表面は、ワイヤコアとワイヤコア上に重ねられた被覆層との間の界面の領域である。典型的には、被覆層はワイヤコアの表面上に完全に重ね合わされる。そのコアとその上に重ね合わされたコーティング層との間のワイヤの領域において、コアと被覆層の両方の材料の組み合わせが存在してもよい。
【0014】
ワイヤの表面に重ね合わされた被覆層は、1から1000nm、好ましくは10から460nm、より好ましくは10から200nmの厚さの金若しくはパラジウムの単層、又は1から100nm、好ましくは1から20nmの厚さのニッケル若しくはパラジウムの内層と、隣接する1から200nm、好ましくは1から40nmの厚さの金の外層で構成される二重層である。この文脈において、「厚さ」又は「被覆層の厚さ」という用語は、コアの縦方向軸に垂直な方向における被覆層のサイズを意味する。
【0015】
金又はパラジウムの単層の組成に関し、金又はパラジウムの量は、例えば、被覆層の総量に基づき、少なくとも50wt%、好ましくは少なくとも95wt%である。純銀又はパラジウムからなる被覆層が特に好ましい。純金又は純パラジウムは、通常、被覆層の総量に基づき1wt%未満の更なる成分(金又はパラジウム以外の成分)を有する。
【0016】
前記二重層の組成に関し、内層のニッケル又はパラジウムの量は、被覆内層の総重量に基づき、例えば、少なくとも50wt%、好ましくは少なくとも95wt%である。純ニッケル又は純パラジウムからなる被覆内層が特に好ましい。純ニッケル又は純パラジウムは通常、被覆内層の総重量に基づき、1wt%未満の更なる成分(ニッケル又はパラジウム以外の成分)を有する。隣接する金の外層の金の量は、被覆外層の総重量に基づき、例えば、少なくとも50wt%、好ましくは少なくとも95wt%である。純金からなる被覆外層が特に好ましい。純金は通常、被覆外層の総量に基づき、1wt%未満の更なる成分(金以外の成分)を有する。
【0017】
一実施形態において、本発明のワイヤコアは、以下の固有特性(1)〜(6)(下記の「試験法A」を参照):
(1)平均ワイヤ粒径(平均粒径)が、10μm以下、例えば2から10μmの範囲、好ましくは2から5μmの範囲であること、
(2)ワイヤ粒子の[100]又は[101]又は[111]配向面が、15%以下、例えば2から15%の範囲、好ましくは2から7%の範囲であること、
(3)ワイヤ双晶境界率が、70%以下、例えば50から70%の範囲、好ましくは50から60%の範囲であること、
(4)FAB平均粒径が、30μm以下、例えば8から30μmの範囲、好ましくは8から16μmの範囲であること、
(5)FAB粒子の[111]配向面が、30%以下、例えば10から30%の範囲、好ましくは10から20%の範囲であること、
(6)FAB双晶境界率が50%以下、例えば40から50%の範囲であること
のうちの1つによって少なくとも特徴付けられる。
【0018】
一実施形態において、本発明のワイヤは、以下の外因的特性(α)から(θ):
(α)耐腐食性が、5%以下、例えば0から5%の範囲のボンディングされたボールリフトの値を有すること(下記の「試験法B」を参照)、
(β)耐湿性が、5%以下、例えば0から5%の範囲のボンディングされたボールリフトの値を有すること(下記の「試験法C」を参照)、
(γ)ワイヤの抵抗率が、4.0μΩ・cm未満、例えば1.6から4.0μΩ・cmの範囲、好ましくは1.63から3.4μΩ・cmの範囲であること(下記の「試験法D」を参照)、
(δ)ワイヤの銀樹枝状成長が、12μm/s以下、例えば0から12μm/sの範囲、好ましくは0から4μm/sの範囲であること(下記の「試験法E」を参照)、
(ε)ワイヤコアの硬度が、80HV以下(10mN/12s)、例えば50から80HVの範囲、好ましくは50から70HVの範囲であること(下記の「試験法F」を参照)、
(ζ)スティッチボンディングのプロセスウィンドウ領域が、少なくとも36100mA・g、例えば金フィンガーにスティッチボンディングされた直径17.5μmのワイヤの場合36100から38000mA・gの値を有すること(下記の「試験法G」を参照)、
(η)ボールボンディングのプロセスウィンドウ領域は、少なくとも960mA・g、例えばAl−0.5wt%Cuボンドパッドにボールボンドされた直径17.5μmのワイヤの場合960から1000mA・gの値を有すること(下記の「試験法H」を参照)、
(θ)ワイヤの降伏強度が、170MPa以下、例えば140から170MPaの範囲であること(下記の「試験法J」を参照)
のうちの1つによって少なくとも特徴付けられる。
【0019】
「固有特性」及び「外因的特性」という語は、本明細書においてワイヤコア又はFABに関して使用される。固有特性は、ワイヤコア又はFABが(他の因子とは独立に)それ自体有する特性を意味し、一方外因的特性は、ワイヤコア又はFABの用いられた測定方法及び/又は測定条件のような他の因子との関係に依存する。
【0020】
本発明の被覆ワイヤは、空気雰囲気下であっても軸対称FABの形成を可能にする、すなわちFAB形成プロセス中に不活性ガス又は還元ガスでパージする必要がないという予想されない利点を有する。
【0021】
別の態様において、本発明は、上に開示されたその実施形態のいずれかにおける本発明の被覆ワイヤの製造のためのプロセスにも関する。プロセスは、少なくともステップ(1)から(5):
(1)前駆体部材を提供するステップであって、前駆体部材は、
(a)(a1)99.99から100wt%の範囲の量の銀と、(a2)総量が0から100wt.ppmの更なる成分(銀以外の成分)と、からなる純銀、又は、
(b)(b1)99.69から99.987wt%、好ましくは99.93から99.987wt%の範囲の量の銀、と(b2)総量が30から3000wt.ppm、好ましくは30から600wt.ppmのカルシウム、ニッケル、白金、銅、ロジウム及びルテニウムからなる、好ましくは、カルシウム及びニッケルからなる群より選択される、少なくとも1つのドーピング元素と、(b3)総量が0から100wt.ppmの更なる成分(銀、カルシウム、ニッケル、白金、銅、ロジウム及びルテニウム以外の成分)と、からなるドープされた銀、又は、
(c)(c1)95.99から99.49wt%、好ましくは97.49から99.09wt%の範囲の量の銀と、(c2)0.5から4wt%、好ましくは0.9から2.5wt%の範囲の量のパラジウムと、(c3)0から100wt.ppmの総量の更なる成分(銀及びパラジウム以外の成分)と、からなる銀合金、又は、
(d)(d1)93.99から99.39wt%、好ましくは95.39から96.59wt%の範囲の量の銀と、(d2)0.5から4wt%、好ましくは2.7から3.3wt%の範囲の量のパラジウムと、(d3)0.1から2wt%、好ましくは0.7から1.3wt%の範囲の量の金と、(d4)0から100wt.ppmの総量の更なる成分(銀、パラジウム及び金以外の成分)、又は、
(e)(e1)93.69から99.387wt%、好ましくは、95.33から96.587wt%の範囲の量の銀と、(e2)0.5から4wt%、好ましくは2.7から3.3wt%の範囲の量のパラジウムと、(e3)0.1から2wt%、好ましくは0.7から1.3wt%の範囲の量の金と、(e4)30から3000wt.ppm、好ましくは30から600wt.ppmの総量のカルシウム、ニッケル、白金、銅、ロジウム及びルテニウムからなる、好ましくは白金、カルシウム及びニッケルからなる群より選択される少なくとも1つのドーピング元素と、(e5)0から100wt.ppmの総量の更なる成分(銀、パラジウム、金、カルシウム、ニッケル、白金、銅、ロジウム及びルテニウム以外の成分)と、からなるドープされた銀合金、
からなり、更なる成分の個々の量は、30wt.ppm未満であり、ドーピング元素の個々の量は、少なくとも30wt.ppmであり、wt%とwt.ppmの全ての量は、前駆体部材の総重量に基づく、ステップと、
(2)7850から31400μm
2の範囲の中間断面積又は100から200μm、好ましくは130から140μmの中間直径が得られるまで、延伸された前駆体部材を形成するように前駆体部材を延伸するステップと、
(3)ステップ(2)の完了後に得られた延伸された前駆体部材の表面に金若しくはパラジウムの単層被覆、又はニッケル若しくはパラジウムの内層(ベース層)と、隣接する金の外層(上層)と、の二重層被覆を堆積するステップと、
(4)所望の最終断面積又は直径が得られるまで、ステップ(3)の完了後に、得られた被覆前駆体部材をさらに延伸するステップと、
(5)被覆ワイヤを形成するために、0.4から0.8秒の範囲の曝露時間、200から600℃の炉設定温度で、ステップ(4)の完了後に、得られた被覆前駆体を最終的にストランドアニーリングするステップと、を含み、
ステップ(2)は、50から150分の範囲の曝露時間、400から800℃の炉設定温度で、前駆体部材の中間バッチアニーリングの1つ以上のサブステップを含む。
【0022】
用語「ストランドアニーリング」が本明細書で使用される。これは、高い再現性でワイヤの速い生成を可能にする連続的なプロセスである。本発明の文脈において、ストランドアニーリングとは、アニーリングが、アニーリングされる被覆前駆体が従来のアニーリング炉を通って引っ張られ又は移動して、かつ、アニーリング炉を離れた後にリール上に巻かれる間に動的になされることを意味する。ここで、アニーリング炉は、典型的には、所与の長さの円筒形の形状である。例えば、10から60メートル/分の範囲で選択され得る所与のアニーリング速度にてその規定された温度プロファイルを用いて、アニーリング時間/炉温度パラメータは、規定及び設定されてもよい。
【0023】
用語「炉設定温度」が本明細書で使用される。それは、アニーリング炉の温度調節器において調節される温度を意味する。アニーリング炉は、チャンバー炉型の炉(バッチアニーリングの場合)又は、管状アニーリング炉(ストランドアニーリングの場合)であってもよい。
【0024】
本開示は、前駆体部材、延伸された前駆体部材、被覆前駆体部材、被覆前駆体、および被覆ワイヤを区別する。用語「前駆体部材」は、ワイヤコアの所望の最終断面又は最終直径に達していないそれらのワイヤの前段階で使用される一方で、用語「前駆体」は、所望の最終断面又は所望の最終直径でのワイヤの前段階で使用される。プロセスステップ(5)の完了後、すなわち所望の最終断面又は所望の最終直径の被覆前駆体の最終ストランドアニーリング後に本発明の意味における被覆ワイヤが得られる。
【0025】
第1の代替において、プロセスステップ(1)において提供されたような前駆体部材は、前述の開示された組成の(a)純銀からなる。典型的には、そのような前駆体部材は、例えば2から25mmの直径と2から100mの長さを有するロッドの形状である。そのような銀ロッドは、適切な金型を使用して銀を連続鋳造し、続いて冷却させ、固化させることによって製造されてもよい。
【0026】
第2から第4の代替において、プロセスステップ(1)で提供された前駆体部材は、前述の組成物の各場合における、(b)ドープされた銀、又は(c)銀合金、又は(d)銀合金又は(e)ドープされた銀合金からなる。そのような前駆体部材は、成分(b2)又は(c2)又は(d2)及び(d3)又は(e2)、(e3)及び(e4)の所望量で銀を合金化し、ドープし、又は合金化及びドープすることによって得られてもよい。ドープされた銀又は銀合金又はドープされた銀合金は、金属合金の当業者に公知の従来の方法によって提供されてもよく、例えば、所望の比率で成分を互いに溶融することによるものでもよい。そうする場合、1種又は複数の従来型のマスター合金を使用することが可能である。溶融プロセスは、例えば誘導炉を使用して実行してよく、かつ真空下又は不活性ガス雰囲気下で作業することは適切である。使用される材料は、例えば、99.99wt%以上の純度等級を有してよい。そのように生成された溶融物は、銀系前駆体部材の均一な部分を形成するために冷却してよい。典型的には、そのような前駆体部材は、例えば、2から25mmの直径及び例えば、2から100mの長さを有するロッドの形状である。そのようなロッドは、適切な金型を使用して前記ドープされた銀又は(ドープされた)銀合金溶融物を連続して鋳造し、その後冷却すること及び固化することによって作られ得る。
【0027】
プロセスステップ(2)において、7850から31400μm
2の範囲の中間断面積又は100から200μm、好ましくは130から140μmの中間直径が得られるまで、延伸された前駆体部材を形成するように前駆体部材は延伸される。前駆体部材を延伸するための技法は、既知でありかつ本発明との関連で有用と思われる。好ましい技法は、圧延、スエージ加工、ダイ延伸などであり、その中でダイ延伸は、特に好ましい。後者において前駆体部材は、いくつかのプロセスステップにおいて所望の中間断面積又は所望の中間直径が達成されるまで延伸される。こうしたワイヤダイ延伸プロセスは、当業者に良く知られている。従来型のタングステンカーバイド及びダイヤモンド延伸ダイを採用してよく、かつ従来型の延伸潤滑剤を、延伸を助けるために採用してよい。
【0028】
本発明のプロセスのステップ(2)は、50から150分の範囲の曝露時間、400から800℃の炉設定温度での延伸された前駆体部材の中間バッチアニーリングの1つもしくは複数のサブステップを含む。中間バッチアニーリングは、例えば、2mmの直径まで延伸されかつドラム上に巻き付けられたロッドとともに実行され得る。
【0029】
プロセスステップ(3)において、プロセスステップ(2)の完了後に得られた延伸された前駆体部材の表面に、金若しくはパラジウムの単層被覆又はニッケル若しくはパラジウムの内層と、隣接する金の外層から構成される二重層被覆を前記表面上に被覆を重ねるように堆積する。
【0030】
当業者には、ワイヤの実施形態について開示された層の厚さのコーティングを最終的に得るため、すなわち被覆前駆体部材を最終的に延伸した後、延伸された前駆体部材上におけるそのような被覆の厚さを計算する方法が知られている。当業者は、銀又は銀合金の表面上に実施形態に従った材料の被覆層を形成するための多くの手法を知っている。好ましい手法は、電気めっき及び無電解めっきのようなめっき、スパッタリング、イオンプレーティング、真空蒸着及び物理気相成長のような気相からの材料の堆積、及び溶融物からの材料の堆積である。本発明の文脈では、電気めっきが好ましい手法である。
【0031】
プロセスステップ(4)において、プロセスステップ(3)の完了後に、得られた被覆前駆体部材は、ワイヤの所望の最終断面又は直径が得られるまでさらに延伸される。被覆された前駆体部材を延伸する技法は、プロセスステップ(2)の開示において上記したものと同様の延伸技法である。
【0032】
プロセスステップ(5)において、プロセスステップ(4)の完了後に、得られた被覆前駆体は、0.4から0.8秒の範囲の曝露時間、200から600℃、好ましくは200〜400℃の炉設定温度で最終的にストランドアニーリングして被覆ワイヤを形成する。
【0033】
好ましい実施形態において、最終的にストランドアニーリングされた被覆前駆体、すなわち高温被覆ワイヤが、一実施形態では1種以上の添加剤、例えば0.01〜0.07体積%の添加剤を含有し得る水中で急冷される(クエンチされる:quenched)。水中での前記急冷は、例えば浸漬又は滴下により、最終にストランドアニーリングされた被覆前駆体を、前記ワイヤがプロセスステップ(5)において与えられた温度から室温へ直ちに又は迅速に、すなわち0.2〜0.6秒以内に冷却することを意味する。
【0034】
プロセスステップ(2)の中間バッチアニーリングは、不活性又は還元性雰囲気下で実施され得る。多くの種類の不活性雰囲気並びに還元雰囲気が当業において知られており、アニーリング炉をパージするために使用されている。既知の不活性雰囲気のうち、窒素又はアルゴンが好ましい。既知の還元雰囲気のうち、水素が好ましい。別の好ましい還元雰囲気は水素及び窒素の混合物である。好ましい水素及び窒素の混合物は、90から98体積%の窒素と、従って2から10体積%の水素であり、前記体積%は合計で100体積%になる。好ましい混合物の窒素/水素は、それぞれ前記混合物の全体積に基づいて、93/7、95/5及び97/3体積%/体積%に等しい。
【0035】
前駆体部材材料(ワイヤコアの組成と同一である)の組成と、プロセスステップ(2)及び(5)の間に支配的なアニーリングパラメータとの独特の組み合わせは、上記に開示した固有及び/又は外因的特性の少なくとも1つを示す本発明のワイヤを得るのに不可欠であると考えられる。中間バッチ及び最終ストランドアニーリングステップの温度/時間条件は、ワイヤ又はワイヤコアの固有及び外因的特性を達成するか、又は調節することを可能にする。
【0036】
プロセスステップ(5)の完了および任意選択の急冷後、本発明の被覆ワイヤが完成する。その特性から利益を完全に得るためには、ワイヤボンディング用途のために直ちに、すなわち、例えばプロセスステップ(5)の完了後28日以内に遅延せずに使用することが有益である。これに代わって、ワイヤの広いワイヤボンディングプロセスウィンドウ特性を維持するために、及びそれを酸化又は他の化学的攻撃から保護するために、完成したワイヤは、プロセスステップ(5)の完了直後に、すなわち、例えばプロセスステップ(5)の完了後1〜5時間以内に直ちに典型的には巻き取られて、真空密封され、次いでボンディングワイヤとしての更なる使用のために保存される。真空密封状態における保管は12月を超えるべきでない。真空密封を開放した後には、ワイヤは、28日以内にワイヤボンディングに使用されるべきであろう。
【0037】
プロセスステップ(1)から(5)、並びに巻き取り及び真空密封のすべてはクリーンルーム条件(米国連邦規格209E(US FED STD 209E)クリーンルーム規格、1k基準)下で実施されることが好ましい。
【0038】
本発明の第3態様は、それらの実施形態に従って前述して開示したプロセスによって得られる被覆ワイヤである。本発明の被覆ワイヤは、ワイヤボンディング用途においてボンディングワイヤとしての使用によく適していることが判明した。ワイヤボンディング技法は当業者によく知られている。ワイヤボンディングの間に、ボールボンド(第1ボンド)及びスティッチボンド(第2ボンド、ウェッジボンド)が形成されることが典型的である。ボンドの形成中に、特定の力(典型的にはグラムで測定される)が加えられ、これは超音波エネルギー(典型的にはmAで測定される)の印加によって支援される。ワイヤボンディングプロセスにおいて加えた力の上限値と下限値との間の差と、印加した超音波エネルギーの上限値と下限値との間の差との数学的積は、ワイヤボンディングプロセスウィンドウを定義する:(加えた力の上限値−加えた力の下限値)・(印加した超音波エネルギーの上限値−印加した超音波エネルギーの下限値)=ワイヤボンディングプロセスウィンドウ。
【0039】
ワイヤボンディングプロセスウィンドウは、仕様を満たす、すなわち、ほんの数例を挙げると、プルテスト、ボールせん断テスト及びボールプルテストのような従来の試験に合格するワイヤボンドの形成を可能にする力/超音波エネルギーの組み合わせの領域を規定する。
【0040】
換言すると、第1ボンド(ボールボンド)プロセスウィンドウ領域は、ボンディングにおいて用いられる力の上限値と下限値との間の差と、印加される超音波エネルギーの上限値と下限値との間の差との積であり、結果として生じるボンドは特定のボールせん断テスト仕様、例えば0.0085グラム/μm
2のボールせん断、ボンドパッド上における不着(non−stick)なし、などを満たさなければならず、一方、第2ボンド(スティッチボンド)プロセスウィンドウ領域は、ボンディングにおいて用いられる力の上限値と下限値との間の差と、印加される超音波エネルギーの上限値と下限値との間の差との積であり、結果として生じるボンドは特定のプルテスト仕様、例えば2グラムの引張力、リード上における不着なし、などを満たさなければならない。
【0041】
工業用途のためには、ワイヤボンディングプロセスの頑健性のために、広いワイヤボンディングプロセスウィンドウ(力(g)対超音波エネルギー(mA))を有することが望ましい。本発明のワイヤはかなり広いワイヤボンディングプロセスウィンドウを示す。
【0042】
以下の非限定的な実施例は本発明を説明する。これらの実施例は本発明の例示的な説明として機能し、本発明の範囲又は請求項をいかなる形でも限定するようには意図されない。
【実施例】
【0043】
FABの調製:FABのためのKNSプロセスユーザーズガイド(クリックアンドソファーインダストリーズインコーポレテッド(Kulicke & Soffa Industries Inc.)、フォートワシントン、ペンシルベニア州、米国、2002、2009年5月31日)に記載されている手順に従って作業した。FABは、標準的な放電(シングルステップ、17.5μmのワイヤ、50mAのEFO電流、125μsのEFO時間)による従来の電気トーチ(electric flame−off:EFO)の放電(firing)を実施することにより調製した。
【0044】
試験方法A〜J
すべての試験及び測定は、T=20℃及び相対湿度RH=50%で行った。
【0045】
A.電子線後方散乱回折(EBSD)パターン解析:
ワイヤテクスチャを測定するために採用された主要ステップは、試料調製、良好なKikuchiパターンの取得及び成分計算である:
ワイヤを、最初にエポキシ樹脂を用いて埋め込んで標準の金属組織学的技法によって研磨した。イオンミリングを、ワイヤ表面、汚染物及び酸化層のいかなる機械的変形も除去するために最終試料調製ステップにおいて適用した。イオンミリングした試料断面を金でスパッタリングした。次いでイオンミリング及び金スパッタリングを、さらに二回実行した。化学エッチング又はイオンエッチングは行わなかった。
【0046】
試料を、垂直なFESEM試料保持テーブル表面に対して70°の角度を付けたホルダーを備えたFESEM(電界放出型走査型電子顕微鏡)内に充填した。FESEMは、さらにEBSD検出器を備えていた。ワイヤ結晶学的情報を含む電子後方散乱パターン(EBSP)を取得した。
【0047】
これらのパターンを、粒子配向率、平均粒径、などについて(Brukerによって開発されたQUANTAX EBSDプログラムと呼ばれるソフトウェアを用いて)さらに解析した。類似した配向の点を、テクスチャ成分を形成するために共にグループ化した。異なるテクスチャ成分を区別するために、15°の最大公差角度を使用した。ワイヤ延伸方向を基準配向として設定した。[100]、[101]及び[111]テクスチャ割合を、基準配向に対して平行な[100]、[101]及び[111]配向面を有する結晶の割合の測定によって計算した。
【0048】
粒界の位置を決定するために、平均粒径を、本明細書において10°の、最小より大きい隣接した格子点間の結晶学的配向を規定して解析した。EBSDソフトウェアは、それぞれの粒子の面積を計算し、それを「平均結晶粒径」として規定される、相当する円直径に変換した。約100μm以内の長さのワイヤの縦方向に沿った全ての粒子を、平均結晶粒径の平均及び標準偏差を決定するために計数した。
【0049】
双晶境界(Σ3 CSL双晶境界とも呼ばれる)は、平均粒径計算から除外した。双晶境界を、隣接する結晶学的ドメイン間の<111>配向面周囲の60°回転によって表した。点の数は、ステップサイズに依存し、平均結晶粒径の1/5未満であった。
【0050】
B.ボンディングされたボールの塩溶液浸水試験:
ワイヤを、Al−0.5wt%Cuボンドパッドにボールボンドした。そのようにボンディングされたワイヤを備えた試験デバイスを、25℃で10分間塩溶液に浸水し、脱イオン(DI)水及び後にアセトンで洗った。塩溶液は、脱イオン水中に20wt.ppmのNaClを含有した。リフトされたボールの数を、低倍率の顕微鏡(Nikon MM−40)下で100X倍率で検査した。リフトされたボールのより多くの数の観測は、激しい界面のガルバニック腐食を示した。
【0051】
C.ボンディングされたボールの耐湿性試験:
ワイヤを、Al−0.5wt%Cuボンドパッドにボールボンドした。そのようにボンディングされたワイヤを備えた試験デバイスを、高度加速ストレス試験(HAST)チャンバーにおいて温度130℃、相対湿度(RH)85%で8時間保管し、後にリフトされたボールの数について低倍率の顕微鏡(Nikon MM−40)下で100X倍率で検査した。リフトされたボールのより多くの数の観測は、激しい界面のガルバニック腐食を示した。
【0052】
D.電気抵抗率:
試験片すなわち長さ1.0メートルのワイヤの両端部を、一定電流/電圧を提供している電源に接続した。抵抗を、供給電圧についてデバイスで記録した。測定デバイスは、HIOKIモデル 3280−10であり、かつ試験は、少なくとも10個の試験片で繰り返した。測定値の算術平均を、下に示す計算のために使用した。
【0053】
抵抗Rを、R=V/Iに従って計算した。
【0054】
比抵抗ρを、ρ=(R×A)/Lに従って計算し、式中、Aはワイヤの平均断面積及びLは電圧を測定するためのデバイスの2つの測定点間のワイヤの長さである。
【0055】
比導電率σを、σ=1/ρに従って計算した。
【0056】
E.ワイヤのエレクトロマイグレーション試験:
直径75μmの2本のワイヤを、50X倍率の低倍率の顕微鏡Nikon MM40モデルの対物レンズの下のPTFEプレート上で1ミリメートル以内の距離に平行に維持した。電気的に接続される2本のワイヤ間にマイクロピペットによって水滴を形成した。1本のワイヤを陽極にもう一方を陰極に接続して5Vをワイヤに与えた。2本のワイヤを、10Ωレジスタと直列に接続し、閉回路内で5V直流でバイアスした。回路を、電解液として数滴の脱イオン水を用いて2本のワイヤを湿らせることによって閉じた。銀は、電解液中で陰極から陽極へエレクトロマイグレーションして銀樹枝状結晶を形成し、時には2本のワイヤがブリッジを形成した。銀樹枝状結晶の成長の速度は、ワイヤの被覆層及び銀合金ワイヤコアの場合は、合金添加に強く依存する。
【0057】
F.Vickers微小硬度:
硬度を、Vickers圧子を備えたMitutoyo HM−200試験装置を用いて測定した。10mN押し込み荷重の力を、12秒の滞留時間の間、ワイヤの試験片に加えた。試験は、ワイヤ又はFABの中心で実行した。
【0058】
G.スティッチボンディングプロセスウィンドウ領域:
スティッチボンディングプロセスウィンドウ領域の測定を、標準的な手順によって行った。試験ワイヤを、KNS−iConnボンディングツール(Kulicke & Soffa Industries Inc.、米国、PA、フォートワシントン)を使用してスティッチボンディングした。プロセスウィンドウ値は、17.5μmの平均直径を有するワイヤに基づいており、ワイヤがボンディングされたリードフィンガーは金からなる。
【0059】
プロセスウィンドウの4つの角は、2つの主要な故障モードを克服して得られ、それは、
(1)ワイヤのリードフィンガー上での不着(NSOL)を引き起こす低すぎる力及び超音波エネルギーの供給、及び
(2)短いワイヤテール(SHTL)を引き起こす高すぎる力及び超音波エネルギーの供給、
である。
【0060】
H.ボールボンディングプロセスウィンドウ領域:
ボールボンディングプロセスウィンドウ領域の測定を、標準的な手順によって行った。試験ワイヤを、KNS−iConnボンディングツール(Kulicke & Soffa Industries Inc.、米国、PA、フォートワシントン)を使用してボールボンディングした。プロセスウィンドウ値は、17.5μmの平均直径を有するワイヤに基づいており、ワイヤがボンディングされたボンドパッドはAl−0.5wt%Cuからなる。
【0061】
プロセスウィンドウの4つの角は、2つの主要な故障モードを克服して得られ、それは:
(1)ワイヤのパッド上での不着(NSOP)を引き起こす低すぎる力及び超音波エネルギーの供給、及び
(2)短いワイヤテール(SHTL)を引き起こす高すぎる力及び超音波エネルギーの供給、
である。
【0062】
J.伸び率(EL):
ワイヤの引っ張り特性を、Instron−5564計器を用いて試験した。ワイヤを、2.54cm/分の速度で、254mmゲージ長(L)について試験した。破壊(破断)荷重及び伸び率を、ASTM規格F219−96により取得した。伸び率は、記録された荷重対引張伸びのプロットから計算された、通常(100・ΔL/L)として百分率で報告される、引張試験の最初と最後との間のワイヤのゲージ長(ΔL)における差であった。引張強度及び降伏強度を、ワイヤ面積で割った破断及び降伏荷重から計算した。ワイヤの実際の直径を、サイジング法、標準の長さのワイヤの秤量及びその密度を用いることによって測定した。
【0063】
実施例1:ワイヤ試料1から8
いずれの場合にも少なくとも99.99%純度(「4N」)の銀(Ag)、パラジウム(Pd)及び金(Au)の分量を、坩堝において溶融した。少量の銀−ニッケル、銀−カルシウム、銀−白金、又は銀−銅マスター合金を溶融物に加え、撹拌することによって加えた成分の均一な分散を確実にした。以下のマスター合金を使用した:
【0064】
【表1】
【0065】
表1の合金については対応するマスター合金の組み合わせを加えた。
【0066】
次いで8mmロッドの形状のワイヤコア前駆体部材を、溶融物から連続鋳造した。ロッドを、次いで134μmの直径の円形断面を有するワイヤコア前駆体を形成するためにいくつかの延伸ステップにおいて延伸した。ワイヤコア前駆体を、500℃の炉設定温度で60分の曝露時間、中間バッチアニーリングし、次いで少なくとも純度99%の金からなる775nmの薄被覆層を電気めっきし、その後さらに17.5μmの最終直径及び103nmの最終金被覆層の厚さに延伸し、220℃の炉設定温度での0.6秒の曝露時間で最終ストランドアニーリングを実行し、直ちにそのようにして得られた被覆ワイヤを0.07体積%の界面活性剤を含有する水中で急冷した。
【0067】
本手順によって、いくつかの異なる金被覆銀及び銀ベースワイヤの試料1から8並びに、4N純度の未被覆の比較の銀ワイヤ(基準)を製造した。表1に、ワイヤの組成を示す。
【0068】
【表2】
【0069】
ワイヤ試料1から8の粒径を測定して平均粒径を報告した。結果は、いずれの場合にも2から5μmの範囲であった。試料1については、平均粒径は3.12μmであった。
【0070】
下表2は、特定の試験結果を示す。75μm直径のワイヤで実行したエレクトロマイグレーション試験を除いて全ての試験を17.5μm直径のワイヤで実行した(評価:++++優、+++良、++可、+劣)。
【0071】
【表3】
【0072】
「形成ガスパージ」とは、FABをその形成中に95/5体積%/体積%窒素/水素でパージしたことを意味し、「雰囲気下」とは、FABの形成は空気雰囲気下で行ったことを意味する。
【0073】
ワイヤにおける粒子形態、HAZ(熱影響部)及びFABの位置を明らかにした、典型的なイオンミリングされた断面画像を
図2に示す。表3は、ワイヤ試料1の平均粒径及びテクスチャ成分(ワイヤ、FAB及びHAZ)を示す。
【0074】
【表4】
【0075】
実施例2:ワイヤ試料9から12
以下のマスター合金を使用して実施例1と同様にして実施した。
【0076】
【表5】
【0077】
金で電気めっきする代わりに、パラジウムからなる厚さ153nmの被覆層を塗布した(最終のパラジウム層の厚さは20nm)。表4は、ワイヤ試料9から12の組成を示す。
【0078】
【表6】
【0079】
下表5は、特定の試験結果を示す。75μm直径のワイヤで実行したエレクトロマイグレーション試験を除いて全ての試験を17.5μm直径のワイヤで実行した。
【0080】
【表7】
【0081】
実施例3:ワイヤ試料13から17
以下のマスター合金を使用して実施例1と同様にして実施した。
【0082】
【表8】
【0083】
単層の金で電気めっきする代わりに、パラジウム(又はニッケル)の内層と、金の外層からなる二重層被覆(最終パラジウム又はニッケル層の厚さ=2.6nm、最終金層の厚さは=13nm)が塗布された。表6はワイヤ試料13から17の組成を示す。
【0084】
【表9】
【0085】
表7は、特定の試験結果を示す。75μm直径のワイヤで実行したエレクトロマイグレーション試験を除いて全ての試験を17.5μm直径のワイヤで実行した。
【0086】
【表10】