(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6557443
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】樹脂組成物用フィラー、フィラー含有スラリー組成物、及びフィラー含有樹脂組成物、並びに樹脂組成物用フィラーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08K 3/36 20060101AFI20190729BHJP
C01B 33/26 20060101ALI20190729BHJP
C01B 39/20 20060101ALI20190729BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20190729BHJP
C09C 3/12 20060101ALI20190729BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20190729BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
C08K3/36
C01B33/26
C01B39/20
C08L101/00
C09C3/12
H01L23/30 R
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-519439(P2019-519439)
(86)(22)【出願日】2019年4月8日
(86)【国際出願番号】JP2019015326
【審査請求日】2019年4月10日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/014818
(32)【優先日】2018年4月6日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】萩本 伸太
(72)【発明者】
【氏名】冨田 亘孝
(72)【発明者】
【氏名】倉木 優
【審査官】
中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−024945(JP,A)
【文献】
特開2003−292806(JP,A)
【文献】
特開昭59−133265(JP,A)
【文献】
特開2016−118679(JP,A)
【文献】
特開2000−026108(JP,A)
【文献】
特開2011−002478(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/147261(WO,A1)
【文献】
特開2016−044091(JP,A)
【文献】
大川政志 外,分子動力学法によるSiO2組成フォージャサイトの熱膨張変化の研究,Journal of Computer Chemistry Japan,2015年,Vol.14, No.4,p.105-110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00−13/08
C01B 33/00−39/54
C08L 1/00−101/14
C09C 3/12
H01L 23/29,23/31
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FAU型、FER型、LTA型、MFI型、CHA型、及び/又はMWW型からなる結晶構造をもつ結晶性シリカ質材料を有するフィラー材料であり、
NH3−TPD法で活性がなく、
前記結晶性シリカ質材料の量は前記フィラー材料が負の熱膨張係数を示す範囲であり、
前記結晶性シリカ質材料は、
アルカリ金属の含有量が0.1質量%以下であり、
120℃、2atm、24時間の条件で水中に浸漬する条件で水中に抽出されるLi、Na及びKがそれぞれ5ppm以下である、
電子機器用実装材料を構成する樹脂材料に含有させて用いる樹脂組成物用フィラー。
【請求項2】
FAU型、FER型、LTA型、MFI型、CHA型、及び/又はMWW型からなる結晶構造をもつ結晶性シリカ質材料を有するフィラー材料であり、
銀、銅、亜鉛、水銀、錫、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム、コバルト、及びニッケルが表面に露出せず、且つ、NH3−TPD法で活性がなく、且つ、前記結晶性シリカ質材料の量は前記フィラー材料が負の熱膨張係数を示す範囲であり、
前記結晶性シリカ質材料は、
アルカリ金属の含有量が0.1質量%以下であり、
120℃、2atm、24時間の条件で水中に浸漬する条件で水中に抽出されるLi、Na及びKがそれぞれ5ppm以下である、
樹脂組成物に含有させて用いる樹脂組成物用フィラー。
【請求項3】
前記フィラー材料は、前記結晶性シリカ質材料からなるコア部と、非晶質シリカ材料からなり前記コア部を被覆するシェル部とをもち、前記結晶性シリカ質材料と前記非晶質シリカ材料とは複合化している請求項1又は2に記載の樹脂組成物用フィラー。
【請求項4】
前記フィラー材料の表面と反応乃至付着した有機ケイ素化合物からなる表面処理剤を有する請求項1〜3の何れか1項に記載の樹脂組成物用フィラー。
【請求項5】
前記有機ケイ素化合物は、シラザン類及び/又はシランカップリング剤から選ばれる何れか1種以上である、請求項4に記載の樹脂組成物用フィラー。
【請求項6】
全体の質量を基準としてアルミニウム元素の含有量が12%以下である請求項1〜5の何れか1項に記載の樹脂組成物用フィラー。
【請求項7】
前記結晶構造がFAU型である、請求項1〜6の何れか1項に記載の樹脂組成物用フィラー。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載の樹脂組成物用フィラーと、前記樹脂組成物用フィラーを分散する溶媒と、を有するフィラー含有スラリー組成物。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか1項に記載の樹脂組成物用フィラーと、前記樹脂組成物用フィラーを分散する樹脂材料と、を有するフィラー含有樹脂組成物。
【請求項10】
FAU型、FER型、LTA型、MFI型、CHA型、及び/又はMWW型からなる結晶構造をもつ結晶性シリカ質材料を有する原料粒子材料に対してシリコーン材料で表面を被覆してシリコーン被覆粒子材料を製造する被覆工程と、
前記シリコーン被覆粒子材料を加熱して前記シリコーン材料をシリカに転化させることでフィラー材料を製造する転化工程と、
を有し、
前記結晶性シリカ質材料は、
アルカリ金属の含有量が0.1質量%以下であり、
120℃、2atm、24時間の条件で水中に浸漬する条件で水中に抽出されるLi、Na及びKがそれぞれ5ppm以下であり、
前記結晶性シリカ質材料の量は前記フィラー材料が負の熱膨張係数を示す範囲である、
銀、銅、亜鉛、水銀、錫、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム、コバルト、及びニッケルが表面に露出せず、且つ、NH3−TPD法で活性がない、
樹脂組成物用フィラーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に含有させて用いる樹脂組成物用フィラー、その樹脂組成物用フィラーを含有するフィラー含有スラリー、及び、その樹脂組成物用フィラーを含有するフィラー含有樹脂組成物、並びに樹脂組成物用フィラーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱膨張係数を調整する等の目的で、プリント配線板や封止材などの実装材料に用いる樹脂組成物にはフィラーとして無機粒子が配合されている。熱膨張係数が低く絶縁性に優れるため、フィラーとしては主に非晶質シリカ粒子が広く用いられている。
【0003】
近年、電子機器の高機能化の要求に伴い、半導体パッケージのさらなる薄型化、高密度化が進んでおり、半導体パッケージの熱膨張や反りが信頼性に及ぼす影響がより大きくなっている。よって、プリント配線板や封止材に用いる樹脂組成物の硬化物の熱膨張係数を低くして熱膨張や反りを低減する検討が行われている。(特許文献1など)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5192259号公報
【特許文献2】特開2015−214440号公報
【特許文献3】特許第4766852号公報
【特許文献4】特開2015−24945号公報
【特許文献5】特開2003−292806号公報
【特許文献6】特開昭59−133265号公報
【特許文献7】特開2016−118679号公報
【特許文献8】特開2000−26108号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Computer Chemistry, Japan, 2015, Vol.14, No.14, p.105-110
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑み樹脂組成物に含有させることで熱膨張率を低下させることが可能になる樹脂組成物用フィラーを提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために、非晶質シリカより熱膨張係数の低い、熱をかけると収縮する負の熱膨張係数を持つ材料をフィラー材料に応用する研究を行った。負の熱膨張係数を有する材料としては、β-ユークリプタイト(LiAlSiO
4)やタングステン酸ジルコニウム(ZrW
2O
8)からなる粒子が挙げられる(特許文献2、3)。しかし、β-ユークリプタイトは主要構成元素としてLiを含有しており、Liイオンが拡散して絶縁性を低下させるため、電気的特性が充分で無い問題がある。
【0008】
このLiイオンが拡散する問題を解決する従来技術として、特許文献4には、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)からゾルゲル法にて形成したシリカからなるシェルが表面に形成されている無機フィラーが開示されている。つまり、特許文献4は、フィラーからのイオンの溶出を抑制するためにフィラーの表面をシェルにて被覆することを特徴とする技術であり、イオンの溶出がないフィラーについて適用する技術ではない。
【0009】
タングステン酸ジルコニウムは様々な研究がなされているが、合成にかかる時間やコストが大きく、実験室レベルで製造した報告は多いが、工業的に製造する方法は確立されていない。
【0010】
次にシリカ質材料のうちFAU型、FER型、LTA型、MFI型、CHA型、及び/又はMWW型からなる結晶構造をもつ結晶性シリカ質材料は、負の熱膨張係数を有している。そのような結晶性シリカ質材料のうち、フォージャサイトについて、樹脂材料中に含有させて複合材料を提供することが提案されている(特許文献5の請求項6)。なお、フォージャサイトには、Naを含むものが良く知られており、そのままではNaの溶出が問題になるが、特許文献5が開示されたときには、未だイオンの溶出に関する要求水準が低く、問題になっていなかった。
【0011】
近年、フォージャサイトを含む結晶性シリカ質材料について、イオンの溶出量を抑制するためにアルカリ金属の含有量を減らすことを検討し、充分な実用性(機械的特性、電気的特性など)を保ったままでアルカリ金属の含有量を低減することができている。
【0012】
従って、結晶性シリカ質材料は、そのまま樹脂材料中に混合して用いることができるとの認識が技術常識となっている。
【0013】
本願発明者らは、このような実情の元、結晶性シリカ質材料について鋭意検討を行った。その結果、結晶性シリカ質材料を樹脂材料中に分散させるとその樹脂材料の黄変や硬化を促進させてしまうことが明らかになった。この黄変や硬化の発生は、結晶性シリカ質材料を樹脂材料中に分散した後、すぐには問題とならず、しばらくした後に問題になる程度であるため、従来は気が付いていなかったか、又は、問題とはしていなかったが、高い性能をもつ樹脂組成物の提供を目指す本願発明者らの検討時には問題となった。
【0014】
本願発明者らは、黄変促進などについて検討した結果、これらの結晶性シリカ質材料に含まれるアルミニウム元素に由来するヒドロキシ基が活性点となって樹脂に作用していることが分かった。この活性点についてNH3−TPD法での評価で活性が有ると黄変が発生することが明らかとなった。そしてNH3−TPD法で観測されないまで活性を無くして黄変を抑制しても熱膨張係数を負の範囲に保つことも可能であった。
【0015】
ここで、結晶性シリカ質材料は、アルカリ金属の含有量が0.1質量%以下であり、120℃、2atm、24時間の条件で水中に浸漬する条件で水中に抽出されるLi、Na及びKがそれぞれ5ppm以下である。溶出するイオンによる影響を抑制するためである。
【0016】
本明細書で定義する「NH3−TPD法」は、アンモニア(NH3)をプローブ分子として測定対象に吸着させた後、連続的に昇温した際に脱離ガスが生じる場合に活性があると判断する。具体的な測定条件は以下の通りである。測定試料を約50mg秤量し、He雰囲気中で500℃1時間の脱ガス処理を行った後、1atmの0.5%アンモニアガスを100℃1時間で測定対象に吸着させる。その後、10℃/分の速度で600℃まで昇温したときに、温度に対するアンモニアの脱離量のチャートにピーク温度が確認でき、500℃までに発生するアンモニアの脱離ガスが2μmol/g以上である場合に、NH3−TPD法での活性があると判定する。
【0017】
本知見に基づき以下の発明を完成した。すなわち、上記課題を解決する第1の樹脂組成物用フィラーは、FAU型、FER型、LTA型、MFI型、CHA型、及び/又はMWW型からなる結晶構造をもつ結晶性シリカ質材料を有するフィラー材料であり、
NH3−TPD法で活性がなく、
前記結晶性シリカ質材料の量は前記フィラー材料が負の熱膨張係数を示す範囲である、電子機器用実装材料を構成する樹脂材料に含有させて用いるものである。
【0018】
上記課題を解決する第2の樹脂組成物用フィラーは、FAU型、FER型、LTA型、MFI型、CHA型、及び/又はMWW型からなる結晶構造をもつ結晶性シリカ質材料を有するフィラー材料であり、
銀、銅、亜鉛、水銀、錫、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム、コバルト、及びニッケルが表面に露出せず、且つ、NH3−TPD法で活性がなく、且つ、前記結晶性シリカ質材料の量は前記フィラー材料が負の熱膨張係数を示す範囲である、樹脂組成物に含有させて用いるものである。
【0019】
これらの樹脂組成物用フィラーは、電子部品の実装材料に用いられる樹脂組成物に含有させて用いられることが好ましい。樹脂組成物の熱膨張係数が大きいと、面方向の熱膨張によりはんだ接続にクラックが生じたり、厚み方向の熱膨張によりプリント配線板の層間に導通不良が生じたりする。また、各部材の熱膨張係数の差が大きいことで、半導体パッケージの反りが発生しやすくなる。熱膨張係数を下げることでこれらの不具合の発生を抑制することができる。また、本発明の樹脂組成物用フィラーを用いれば、正の熱膨張係数を持つ従来のフィラーのみを用いる場合と比べて少ないフィラー配合割合で所望の熱膨張係数を達成できるため、樹脂含有割合が高く、接着性や硬化後又は半硬化後の機械加工性が良好な樹脂組成物を得ることも期待できる。
【0020】
そして、本発明の樹脂組成物用フィラーは、その樹脂組成物用フィラーを分散する溶媒と組み合わされてフィラー含有スラリー組成物として用いたり、その樹脂組成物用フィラーを分散する樹脂材料と組み合わされてフィラー含有樹脂組成物として用いたりすることができる。
【0021】
上記課題を解決する樹脂組成物用フィラーの製造方法は、FAU型、FER型、LTA型、MFI型、CHA型、及び/又はMWW型からなる結晶構造をもつ結晶性シリカ質材料を有する原料粒子材料に対してシリコーン材料で表面を被覆してシリコーン被覆粒子材料を製造する被覆工程と、
前記シリコーン被覆粒子材料を加熱して前記シリコーン材料をシリカに転化させることでフィラー材料を製造する転化工程と、
を有し、
前記結晶性シリカ質材料の量は前記フィラー材料が負の熱膨張係数を示す範囲である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の樹脂組成物用フィラーは、上記構成を有することから負の熱膨張係数を有し且つ樹脂への悪影響が少ないといった効果をもつ。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の結晶性シリカ質材料の結晶骨格構造を示す図である。
【
図2】実施例においてシリカ質粒子Aについて測定した熱膨張を示す図である。
【
図3】実施例においてシリカ質粒子Bについて測定した熱膨張を示す図である。
【
図4】実施例においてシリカ質粒子Cについて測定した熱膨張を示す図である。
【
図5】実施例においてシリカ質粒子Dについて測定した熱膨張を示す図である。
【
図6】実施例においてシリカ質粒子Eについて測定した熱膨張を示す図である。
【
図7】実施例において試験例1、3、5、及び7の樹脂組成物用フィラーを混合した樹脂組成物の熱膨張を測定した図である。
【
図8】実施例において試験例3及び7並びにシリカ質粒子AのNH3−TPD法での活性を測定した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の樹脂組成物用フィラーは、熱膨張係数をできるだけ小さくすることを目的としており、樹脂組成物に含有させることで得られた樹脂組成物の熱膨張係数を小さくすることが可能になる。以下、本発明の樹脂組成物用フィラーについて実施形態に基づき詳細に説明を行う。
【0025】
(樹脂組成物用フィラー)
本実施形態の樹脂組成物用フィラーは、樹脂材料中に分散して樹脂組成物を形成するために用いる。粒度分布としては特に限定されないが、上限値としては50μm、30μm、20μm、10μm、5μm、3μm、1μmが例示できる。特にこれらの上限値よりも大きな粒径をもつ粒子(粗粒)を有さないことが好ましい。
【0026】
組み合わせられる樹脂材料としては特に限定しないが、エポキシ樹脂・フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂(硬化前のものも含む)、ポリエステル・アクリル樹脂・ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂が例示できる。更に本実施形態の樹脂組成物用フィラー以外のフィラー(粉粒体、繊維状などの形態を問わない)を含有していても良い。例えば、非晶質シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、ベーマイト、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭素材料などの無機物や、フィラーを分散させるマトリクスとしての樹脂材料以外の樹脂材料(繊維状のものや粒子状のもの)からなる有機材料(マトリクスとしての樹脂材料と厳密に区別する必要は無いし、区別することも困難である)を含有させることもできる。樹脂材料や他のフィラーが、正の熱膨張係数を有していたとしても本実施形態の樹脂組成物用フィラーが負の熱膨張係数を有していることにより製造された樹脂組成物についての熱膨張係数を小さくしたり、ゼロにしたり、負にしたりすることができる。
【0027】
本実施形態の樹脂組成物用フィラーを含有させる割合としては特に限定しないが、多くすることで最終的に得られる樹脂組成物の熱膨張係数を小さくすることができる。例えば、樹脂組成物全体の質量を基準として5%〜85%程度の含有量とすることができる。
【0028】
本実施形態の樹脂組成物用フィラーを樹脂材料中に分散させる方法としては特に限定されず、樹脂組成物用フィラーを乾燥状態で混合したり、何らかの溶媒を分散媒としてその中に分散させてスラリーとした後に樹脂材料に混合したりしても良い。
【0029】
本実施形態の樹脂組成物用フィラーは、(1)電子機器用実装材料を構成する樹脂材料に含有させて用いるものであるか、又は、(2)銀、銅、亜鉛、水銀、錫、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム、コバルト、及びニッケルが表面に露出しないかのうちの少なくとも一方の構成をもつ。
(1)の構成をもち、電子機器用実装材料に採用することで、精密化した電子機器の信頼性を向上することができ、(2)の構成をもち、これらの元素が露出しないことでフィラーの外部へのこれらの元素の拡散・溶出が抑制できる。
【0030】
更に、本実施形態の樹脂組成物用フィラーは、上述の(1)又は(2)のうちの少なくとも一方の構成に加え、FAU型、FER型、LTA型、MFI型、CHA型、及び/又はMWW型からなる結晶構造をもつ結晶性シリカ質材料を有するフィラー材料であり、NH3−TPD法で活性がなく、結晶性シリカ質材料の量はフィラー材料が負の熱膨張係数を示す範囲である。これらの結晶構造をもつ結晶性シリカ質材料は負の熱膨張係数をもつ。特にFAU型であることが好ましい。なお、結晶性シリカ質材料は、全てこれらの結晶構造をもつことは必須ではなく全体の質量を基準として50%以上(好ましくは80%以上)がこれらの結晶構造を有するものであれば良い。ここでアルファベット3つで表される型の結晶骨格構造を
図1に示す。更に、結晶性シリカ質材料は、アルカリ金属の含有量が0.1質量%以下であり、120℃、2atm、24時間の条件で水中に浸漬する条件で水中に抽出されるLi、Na及びKがそれぞれ5ppm以下である。
【0031】
フィラー材料の粒度分布や粒子形状は、樹脂組成物中に含有させたときに必要な性質を発現できる程度にする。例えば、得られる樹脂組成物が半導体封止材に用いられる場合には、その半導体封止材を侵入させる隙間よりも大きい粒径をもつものは含有しないことが好ましい。具体的には0.5μm〜50μm程度とすることが好ましく、100μm以上の粗大粒子が実質的に含有しないことが好ましい。また、樹脂組成物が例えばプリント配線板に用いられる場合には、その絶縁層の厚みよりも大きい粒径をもつものは含有しないことが好ましい。具体的には、0.2μm〜5μm程度とすることが好ましく、10μm以上の粗大粒子が実質的に含有しないことが好ましい。また、粒子形状は、アスペクト比が低いものであることが好ましく、球状であることがより好ましい。
【0032】
フィラー材料は、対応する結晶構造をもつ結晶性シリカ質材料を原料として粉砕・分級・造粒・混合などの操作を単独乃至組み合わせて行うことで製造することができる。各操作において適正な条件を採用し、適正な回数を行うことで必要な粒度分布や粒子形状のものを得ることができる。原料とする結晶性シリカ質材料自身については通常の方法(例えば水熱合成法)にて合成可能である。
【0033】
結晶性シリカ質材料は、アルミニウム元素の含有量が全体の質量を基準として12%以下であることが好ましく、8%以下、4%以下であることが更に好ましい。なお、結晶性シリカ質材料中に含まれるアルミニウムは0%に近い方が好ましいものと推測されるが、現状では不可避的に含有されることが多い。
【0034】
フィラー材料は、結晶性シリカ質材料からなるコア部と、非晶質シリカ材料からなりコア部を被覆するシェル部とをもつことができる。シェル部によりコア部を被覆することが好ましい。コア部を構成する結晶性シリカ質材料とシェル部を構成する非晶質シリカ材料とは複合化していることが好ましい。コア部とシェル部とを形成する方法は後述する。
【0035】
結晶性シリカ質材料と非晶質シリカ材料との存在比としては、全体としての熱膨張係数が負となる範囲であれば特に限定しない。例えば、熱膨張係数が負となり、且つ、全体として結晶化度が0.3〜0.9の範囲となることが好ましく、0.4〜0.8であることがより好ましい。コア部とシェル部を有する形態においては結晶化度が高い方が負の熱膨張係数が大きくなる。ここで、結晶化度が1.0とは、コア部が含有する結晶性シリカ質材料のみにおける結晶化度(X線強度)を基準とする。
【0036】
本実施形態の樹脂組成物用フィラーや、樹脂組成物用フィラーを構成するフィラー材料は、表面処理剤にて表面処理を行うことができる。表面処理剤は特に限定しないが、有機ケイ素化合物からなることが好ましい。有機ケイ素化合物からなる表面処理剤が表面に反応乃至付着することにより黄変を促進する活性点が樹脂に接触することを更に防止できる。特に、シラン化合物とすることが好ましく、更には、シラン化合物の中でもシランカップリング剤、シラザン類とすることで、樹脂組成物用フィラーやフィラー材料からなる処理対象の表面と強固に結合させることが可能になる。シラン化合物としては、結晶性シリカ質材料の黄変の活性点を遮蔽することができることに加え、混合する樹脂材料との間の親和性を向上するために、樹脂材料への親和性が高い官能基を有するものを採用することができる。
【0037】
シラン化合物としては、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、アクリル基、アルキル基を有する化合物が好ましい。シラン化合物の中でもシラザン類としては、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンが例示できる。
【0038】
処理対象に対して表面処理剤にて処理を行う条件としては特に限定しない。例えば、処理対象を理想球体と仮定して平均粒子径から算出した表面積を基準として、表面処理剤にて被覆される面積(表面処理剤の分子の大きさと処理量とから算出した値。表面処理剤は処理対象の表面に一層で付着乃至反応すると仮定する)が50%以上(更には60%以上、80%以上)とすることができる。更に、表面処理剤の量があまりに多いと本実施形態の樹脂組成物用フィラーとして負の熱膨張係数を示さなくなるおそれがあることから、表面処理剤の量の上限としては本実施形態の樹脂組成物用フィラーが負の熱膨張係数を示す範囲とする。
【0039】
処理対象に対して行う表面処理はどのように行っても良い。表面処理剤をそのまま接触させたり、表面処理剤を何らかの溶媒に溶解させた溶液を接触させたりして表面に表面処理剤を付着させることができる。付着した表面処理剤は、加熱するなどして反応を促進させることもできる。
【0040】
(樹脂組成物用フィラーの製造方法)
本実施形態の樹脂組成物用フィラーの製造方法は、上述の樹脂組成物用フィラーのうち、コア部とシェル部とを有する形態のものを製造するのに適した方法である。本実施形態の樹脂組成物用フィラーの製造方法は、被覆工程と転化工程とをもつ。
【0041】
被覆工程は、原料粒子材料に対してシリコーン材料で被覆してシリコーン被覆粒子材料を製造する工程である。原料粒子材料は、FAU型、FER型、LTA型、MFI型、CHA型、及び/又はMWW型からなる結晶構造をもつ結晶性シリカ質材料を有する。特にFAU型が好ましい。上述の樹脂組成物用フィラーにて説明した事項がそのまま適用できる。
【0042】
シリコーン材料は、後述する転化工程において転化してシリカとすることができる材料であり、どのようなものを選択してもシリカに転化できる限り特に限定しない。
【0043】
好ましいシリコーン材料としては、シリコーン、シラン化合物が挙げられる。シリコーンは、シロキサン結合が連続するシロキサンポリマーであり、アルキル基などを側鎖にもつものが汎用されている。更にシリコーンとしてはSiH基などの反応性が高い官能基や、アルコキシ基をもつことができる。シラン化合物としては、シランカップリング剤、シラザン類などが例示できる。
【0044】
シリコーン材料としては、原料粒子材料の被覆が容易となるように選択できる。例えば、流動性が高い材料を選択することで均一に被覆することが容易になる。流動性が高いシリコーン材料としては、低分子化合物、シロキサンポリマーのうち25℃での動粘度が200mm
2/s以下(好ましくは150mm
2/s以下)のものが例示できる。被覆に際して物理的な作用(吸着、絡み合いなど)により原料粒子材料の表面に付着するものや、新たな化学結合を形成するものが挙げられる。新たな化学結合としてはSiH基やアルコキシ基により原料粒子材料の表面と反応させることが例示できる。
【0045】
被覆工程において被覆するシリコーン材料の量としては最終的に製造される樹脂組成物用フィラーが負の熱膨張係数を示すことを限度として任意に決定できる。また、原料粒子材料の表面を隙間無く被覆できることが好ましい。
【0046】
被覆工程において原料粒子材料の表面をシリコーン材料にて被覆する方法としては特に限定されない。例えば、シリコーン材料と原料粒子材料とを混合して粉砕操作などにより剪断力を加えることで被覆する方法、シリコーン材料を適正な溶媒乃至は分散媒に溶解ないしは分散させた状態で原料粒子材料の表面に接触させて表面に付着させた後に溶媒乃至は分散媒を除去する方法、シリコーン材料を適正な溶媒乃至は分散媒に溶解ないしは分散させた液体中に原料粒子材料を分散させた後にシリコーン材料を原料粒子材料の表面に析出させる方法などが挙げられる。
【0047】
転化工程は、被覆したシリコーン材料を加熱することでシリカに転化する工程である。加熱する条件としてはシリカに転化できれば特に限定されない。例えば、600℃以上、700℃以上、800℃以上が下限として例示でき、1100℃以下、1200℃以下、1300℃以下が上限として例示できる。これらの上限と下限とを任意に組み合わせることができる。加熱の雰囲気としては酸化雰囲気(空気、酸素)が例示できる。加熱時間としてはシリコーン材料がシリカに転化できれば充分であり、シリカへの転化もシリコーン材料の一部であってもよい。例えばシリコーン材料の80%以上、90%以上が転化できれば充分である。
【0048】
転化工程後に得られるフィラー材料は一部乃至全部が凝集することがあるため、解砕工程、分級工程、粗大粒子除去工程などを有することができる。
【実施例】
【0049】
・結晶性シリカ質材料の評価
表1に記載のシリカ質粒子A〜D(結晶性シリカ質材料)とシリカ質粒子E(非晶質シリカ材料)について、放電プラズマ焼結機にて800℃で1時間加熱して焼結させたものを試験片とした。各試験片について測定装置(TMA:TA Instruments製 Q−400EM)にて熱膨張係数を測定した。測定温度は−50℃から250℃までで測定した。測定値の平均値を表1に示し、温度による変化の様子を
図2〜6(シリカ質粒子A〜Eに対応)に示す。
【0050】
また、シリカ質粒子A〜Eについて、シリカ質粒子が40質量%となるようにあまに油との混合物を調製して40℃で24時間保存した。その後に混合物の変色の度合いを確認した。薄い変色があるものを「△」、濃い変色があるものを「×」、変色が殆ど無いものを「〇」とした。変色の度合いが強いほどあまに油が酸化されており、混合した粒子材料の活性が高いことを示している。
【0051】
更に、シリカ質粒子A〜Dのそれぞれについて、アルカリ金属の含有量を測定すると、0.1質量%以下であり、120℃、2atm、24時間の条件で水中に浸漬する条件で水中に抽出されるLi、Na及びKがそれぞれ5ppm以下であった。
【0052】
【表1】
【0053】
表1から明らかなように、非晶質シリカ材料であるシリカ質粒子Eではあまに油の変色は認められなかったものの、結晶性シリカ質材料からなるシリカ質粒子A〜Dは全て濃い変色が認められた。また、
図2〜6から明らかなように、結晶性シリカ質材料からなるシリカ質粒子A〜Dでは負の熱膨張係数(CTE)を示しているのに対して、非晶質シリカ材料であるシリカ質粒子Eでは正の熱膨張係数を示していることが分かった。また、特にFAU型のシリカ質粒子A〜Cは、MFI型のシリカ質粒子Dよりも負の熱膨張係数の絶対値が大きいことが分かった。また、同じFAU型ではAlの含有量が小さい方が負の熱膨張係数の絶対値が大きいことが分かった。
【0054】
表2に示す質量比でシリカ質粒子Aとシリコーン材料とを粉体用の混合機にて混合することで、シリカ質材料Aの表面にシリコーン材料を被覆させてシリコーン被覆粒子材料を得た(被覆工程)。そのシリコーン被覆粒子材料を1050℃で1時間加熱して非晶質シリカ材料に転化することで、シリカ質粒子Aをコア部、非晶質シリカ材料をシェル部とする複合粒子(フィラー材料)を製造した(転化工程)。ここで、用いたシリコーン材料A〜Dの25℃における動粘度は、シリコーン材料Aが25mm
2/s、シリコーン材料Bが110mm
2/s、シリコーン材料Cが100mm
2/s、シリコーン材料Dが7mm
2/sであった。シリカ質粒子Eについてもそのまま1050℃で1時間加熱して評価した。
【0055】
【表2】
【0056】
得られた各試験例の複合粒子について以下の評価を行った。
【0057】
・結晶化度の測定
それぞれの試験例1〜6の複合粒子について、XRD回折評価を行うと、シリカ質粒子Aの結晶のピークと、表面に存在する非晶質シリカ材料のハローとが重なって観測された。試験例7については、非晶質シリカ材料由来のハローのみが観測された。シリカ質粒子A単独での結晶化度を1とした場合の相対値として試験例1〜7の結晶化度を算出して表2に示す。
【0058】
・あまに油変色の評価
前述した方法にて、試験例1〜7の複合粒子についてあまに油変色を評価した。結果を表2に示す。
表2より明らかなように、試験例2〜7では変色が殆ど認められず、表面への非晶質シリカ材料の被覆により変色が抑制できていることが分かった。試験例1ではわずかに変色が認められたが、原料であるシリカ質粒子Aに対しては大きな改善が認められた。試験例1では結晶化度が高く、非晶質シリカ材料の割合が他の試験例よりも低いためにシリカ質粒子Aの触媒活性を完全に抑制しきれなかったためと考えることができる。
【0059】
・樹脂組成物の熱膨張係数の評価
試験例1〜3、5、及び7の複合粒子が35質量部、液状エポキシ樹脂(ビスフェノールA:ビスフェノールF=50:50)及びアミン系硬化剤とからなる樹脂材料65質量部とを混合後、硬化させて樹脂組成物(硬化物)を得たものを試験片として熱膨張係数(温度0℃から50℃における平均値)を評価した。結果を表2に示す。樹脂材料の固化物単独での熱膨張係数は、70.0ppm/Kであった。
【0060】
表2より明らかなように、結晶性シリカ質材料を含む試験例1〜3、5のいずれも非晶質シリカ材料単独である試験例7よりも低いCTEを示し、かつ樹脂材料単体の熱膨張係数より算出される試験例1〜3及び5の複合粒子の熱膨張係数はいずれも負の値となった。試験例1、3、5、及び7について熱膨張の温度変化による変動を
図7に示す。
【0061】
・NH3−TPD法での活性の評価
試験例3、試験例7の複合粒子、及びシリカ質粒子Aを、粉末の触媒の活性を評価するために広く用いられている方法であるアンモニア昇温脱離法(NH3-TPD法)にて評価した。前処理として100℃1時間でアンモニアを粒子に吸着させ、試料を連続的に600℃まで昇温させて脱離するアンモニアガスを測定した。結果を
図8に示す。
【0062】
シリカ質粒子Aは200℃〜300℃で脱離したアンモニアが検出されたのに対して(脱離ピーク温度271℃、脱離量:アンモニアガス5.5μmol/g)、試験例3及び7では、アンモニアガスの脱離は観測されなかった(脱離量:アンモニアガス0.6μmol/g未満)。
【0063】
つまり、FAU型の結晶性シリカ質材料からなるシリカ質粒子Aは、材料由来の高い活性がNH3−TPD法で観測されたのに対して、シリカ質粒子Aの表面を非晶質シリカ材料にて被覆した試験例3の複合粒子ではコア部に存在するFAU型の結晶性シリカ質材料の活性を完全に抑制できていることが分かった。また、非晶質シリカ材料単独からなるシリカ質粒子E(試験例7)についても活性は認められなかった。
【0064】
・誘電率の評価
熱膨張係数の測定に用いた試験例3及び7の試験片について、誘電率を測定した。測定条件は、ネットワークアナライザを用いて摂動法、周波数1GHzにおける誘電率を測定した(3回測定した平均値)。その結果、それぞれの試験片の比誘電率は、試験例3では3.0、試験例7では3.3、樹脂単独では3.2であり、結晶性シリカ質材料であるシリカ質粒子Aをコア部とすることで、非晶質シリカ材料であるシリカ質粒子Eを用いた場合よりも誘電率が低くできた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の樹脂組成物用フィラーは負の熱膨張係数を有する。そのために正の熱膨張係数を示す樹脂材料と混合することで、樹脂材料の正の熱膨張係数を相殺乃至は低減させることが可能になる。その結果、熱膨張係数が小さく、熱的特性に優れた樹脂組成物を得ることができる。
【要約】
含有させることで熱膨張率を低下させることが可能になる樹脂組成物用フィラーを提供することを解決すべき課題とする。
シリカ質材料のうちFAU型、FER型、LTA型、MFI型、CHA型、及び/又はMWW型からなる結晶構造をもつ結晶性シリカ質材料は、負の熱膨張係数を有しているが、樹脂材料中に分散させるとその樹脂材料の黄変を促進させることが明らかになった。そこで、結晶性シリカ質材料に対してNH3−TPD法での活性を示さないようにさせることで、樹脂材料黄変の一因であるアルミニウム元素由来の活性点を失活させることが可能になり黄変を抑制できることを見出した。結晶性シリカ質材料は、アルカリ金属の含有量が0.1質量%以下であり、120℃、2atm、24時間の条件で水中に浸漬する条件で水中に抽出されるLi、Na及びKがそれぞれ5ppm以下である。