(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記抵抗調整部がNi−Cr、白金ロジウム、クロメル、インコロイ及びステンレスからなる群から選択された材料からなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のスピン素子。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0023】
(スピン軌道トルク型磁化回転素子)
「第1実施形態」
図1は、本発明の第1実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子100を模式的に示した斜視図である。スピン軌道トルク型磁化回転素子は、スピン素子の一例である。
【0024】
スピン軌道トルク型磁化回転素子100は、第1強磁性層1と、スピン軌道トルク配線5と、電流経路10(10A、10B)と、を有する。スピン軌道トルク配線5は、通電部の一例である。第1強磁性層1は、素子部の一例である。
図1では、スピン軌道トルク型磁化回転素子100に接続される半導体回路30を同時に図示した。スピン軌道トルク配線5は、第1強磁性層1との積層方向(Z方向)から見て、第1の方向(X方向)に延びる。すなわち、スピン軌道トルク配線5は、Z方向からの平面視で、X方向に長軸を有する。スピン軌道トルク配線5は、第1強磁性層1に面する。ここで、面するとは、互いに向き合う関係を言い、2つの層が接触していても、間に他の層を有してもよい。電流経路10(10A、10B)は、スピン軌道トルク配線5と半導体回路30(第1半導体回路30A、第2半導体回路30B)との間を電気的につなぐ。電流経路10(10A、10B)は、途中に抵抗調整部11(第1抵抗調整部11A、第2抵抗調整部11B)を備える。抵抗調整部11の抵抗値は、スピン軌道トルク配線5の抵抗値よりも高い。抵抗調整部11を構成する材料の体積抵抗率の温度係数は、スピン軌道トルク配線5を構成する材料の体積抵抗率の温度係数よりも低い。
【0025】
半導体回路30は、スピン軌道トルク配線5に電流を流すために設けられた回路であって、例えば、トランジスタ(
図2参照)である。半導体回路30は、スピン軌道トルク型磁化回転素子100の外部にある。
【0026】
図2は、
図1に示したスピン軌道トルク型磁化回転素子100に加えて、半導体回路30の一例を追加した断面図である。
図2に示す半導体回路30は、トランジスタ30A(ソースドレインS/D、ゲート電極G)、トランジスタ30B(ソースドレインS/D、ゲート電極G)と、それに接続されたビア121A、121Bと、ビットラインBL1、BL2と、を有する。
【0027】
トランジスタ30A、30Bをオンし、ビットラインBL1、BL2の間に所定の電位差を印加すると、ビットラインBL1とビットラインBL2との間に電流が流れる。例えば、電流は、ビットラインBL1、ビア121A、トランジスタ30A、ビア21A−2、第1抵抗調整部11A、ビア21A−1の順に流れ、スピン軌道トルク配線5の第1端部5aに供給される。また、電流は、これと反対に、ビットラインBL2、ビア121B、トランジスタ30B、ビア21B−2、第2抵抗調整部11B、ビア21B−1の順に流れ、スピン軌道トルク配線5の第2端部5bに供給してもよい。
【0028】
スピン軌道トルク配線5に電流が流れると、スピン軌道トルク配線5内に純スピン流を生成される。純スピン流は、第1強磁性層1とスピン軌道トルク配線5との接合面1aを介して第1強磁性層1へスピンを供給する。供給されたスピンは、第1強磁性層1の磁化にスピン軌道トルク(SOT)を与える。
【0029】
本明細書において「電流経路」とは、電流の流れる経路を意味するものである。本明細書における「電流経路」は、例えば、代表的には、ビアや配線である。一方で、本明細書における「電流経路」は、寄生容量や寄生インダクタンスに起因する電流経路、絶縁体中を流れる微小な電流の電流経路は含まない。ビアは、多層配線において、下層の配線と上層の配線を電気的につなぐ接続領域である。ビアは、層間絶縁膜をエッチングしてビアホールを開口し、そのビアホールを金属材料で埋め込んで形成する。本明細書において、ビアと配線とをまとめてビア配線ということがある。本明細書における「電流経路」には、ビア配線と抵抗調整部とからなる場合と、ビア配線と抵抗調整部とそれ以外の構成とからなる場合が含まれる。
【0030】
本明細書において “素子外部の半導体回路”は、スピン軌道トルク配線(通電部)から接続している電流経路を辿っていったときに、最初に到達する半導体回路を意味する。言い換えると、本明細書における“半導体回路”は、電流経路上でスピン軌道トルク配線に最も近い半導体回路を指す。従って、
図1で示した例では、スピン軌道トルク配線と半導体回路との間の電流経路10A、10Bは、スピン軌道トルク配線5とトランジスタ30Aとの間に配置するビア21A−1、第1抵抗調整部11A及びビア21A−2であり、また、スピン軌道トルク配線5とトランジスタ30Bとの間に配置するビア21B−1、第2抵抗調整部11B及びビア21B−2である。従って、ビア121Aやビア121Bは、「スピン軌道トルク配線と半導体回路との間の電流経路」には含まれない。
【0031】
<第1強磁性層>
第1強磁性層1は、強磁性体からなる。第1強磁性層1を構成する強磁性材料としては、例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を用いることができる。具体的には、Co−Fe、Co−Fe−B、Ni−Fe、等が挙げられる。
【0032】
第1強磁性層1を構成する材料は、ホイスラー合金でもよい。ホイスラー合金はハーフメタルであり、高いスピン分極率を有する。ホイスラー合金は、XYZまたはX
2YZの化学組成をもつ金属間化合物である。Xは周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素である。YはMn、V、CrあるいはTi族の遷移金属又はXの元素種である。ZはIII族からV族の典型元素である。ホイスラー合金として例えば、Co
2FeSi、Co
2FeGe、Co
2FeGa、Co
2MnSi、Co
2Mn
1−aFe
aAl
bSi
1−b、Co
2FeGe
1−cGa
c等が挙げられる。
【0033】
第1強磁性層1は、xy面内方向に磁化容易軸を有する面内磁化膜でも、z方向に磁化容易軸を有する垂直磁化膜でもよい。また、磁化容易軸はZ方向に対して傾いていても良い。
【0034】
第1強磁性層1の膜厚は、第1強磁性層1の磁化容易軸をz方向とする(垂直磁化膜にする)場合は、2.5nm以下とすることが好ましく、2.0nm以下とすることがより好ましい。また十分な磁化量を確保するために、第1強磁性層1の膜厚は、1.0nm以上であることが好ましい。第1強磁性層1の膜厚を薄くすると、第1強磁性層1と他の層との界面の影響を受けて、第1強磁性層1は垂直磁気異方性(界面垂直磁気異方性)を有する。
【0035】
<スピン軌道トルク配線>
スピン軌道トルク配線5は、X方向に延在する。スピン軌道トルク配線5は、第1強磁性層1のZ方向の一面に面する。スピン軌道トルク配線5は、第1強磁性層1に直接接続されていてもよいし、他の層を介して接続されていてもよい。
【0036】
スピン軌道トルク配線5と第1強磁性層1との間に介在する層は、スピン軌道トルク配線5から伝搬するスピンを散逸しにくい材料で構成されていることが好ましい。例えば、銀、銅、マグネシウム、及び、アルミニウム等は、スピン拡散長が100nm以上と長く、スピンが散逸しにくいことが知られている。
【0037】
また、この層の厚みは、層を構成する物質のスピン拡散長以下であることが好ましい。層の厚みがスピン拡散長以下であれば、スピン軌道トルク配線5から伝搬するスピンを第1強磁性層1に十分に伝えることができる。
【0038】
スピン軌道トルク配線5は、電流が流れるとスピンホール効果によってスピン流が生成される材料からなる。かかる材料としては、スピン軌道トルク配線5中にスピン流が生成される構成のものであれば足りる。従って、単体の元素からなる材料に限らないし、スピン流が生成される材料で構成される部分とスピン流が生成されない材料で構成される部分とからなるものであってよい。
【0039】
スピンホール効果とは、配線に電流を流した場合にスピン軌道相互作用に基づき、電流の向きと直交する方向にスピン流が誘起される現象である。配線に電流が流れると、一方向に配向した第1スピンと、第1スピンと反対方向に配向した第2スピンとが、それぞれ電流と直交する方向に曲げられる。第1スピン及び第2スピンの偏在を解消する方向にスピン流が誘起される。通常のホール効果とスピンホール効果とは運動(移動)する電荷(電子)が運動(移動)方向を曲げられる点で共通する。一方で、通常のホール効果は磁場中で運動する荷電粒子がローレンツ力を受けて運動方向を曲げられるのに対して、スピンホール効果では磁場が存在しないのに電子が移動するだけ(電流が流れるだけ)で移動方向が曲げられる点で、大きく異なる。
【0040】
非磁性体(強磁性体ではない材料)は、第1スピンの電子数と第2スピンの電子数とが等しい。したがって、スピン軌道トルク配線5の第1強磁性層1が配設された第1面へ向かう第1スピンの電子数と、第1面とは反対の方向へ向かう第2スピンS2の電子数とは、等しい。この場合、電荷の流れは互いに相殺され、電流量はゼロとなる。この電流を伴わないスピン流は特に純スピン流と呼ばれる。
【0041】
第1スピンの電子の流れをJ
↑、第2スピンの電子の流れをJ
↓、スピン流をJ
Sと表すと、J
S=J
↑−J
↓で定義される。純スピン流としてJ
Sが一方向に流れる。ここで、J
Sは分極率が100%の電子の流れである。
【0042】
スピン軌道トルク配線5の主構成は、非磁性の重金属であることが好ましい。ここで、重金属とは、イットリウム以上の比重を有する金属の意味で用いている。スピン軌道トルク配線5は、非磁性の重金属だけからなってもよい。
【0043】
非磁性の重金属は、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属であることが好ましい。非磁性の重金属は、スピンホール効果を生じさせるスピン軌道相互作用が大きい。スピン軌道トルク配線5は、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属だけからなってもよい。
【0044】
電子は、一般にそのスピンの向きに関わりなく、電流とは逆向きに動く。これに対し、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号が大きい非磁性金属はスピン軌道相互作用が大きく、スピンホール効果が強く作用する。そのため、電子の動く方向は、電子のスピンの向きに依存する。従って、これらの非磁性の重金属中ではスピン流J
Sが発生しやすい。
【0045】
また、スピン軌道トルク配線5は、磁性金属を含んでもよい。磁性金属とは、強磁性金属、あるいは、反強磁性金属を指す。非磁性金属に微量な磁性金属が含まれるとスピンの散乱因子となる。スピンが散乱するとスピン軌道相互作用が増強され、スピン軌道トルク配線5に流す電流に対するスピン流の生成効率を高くなる。スピン軌道トルク配線5は、反強磁性金属だけからなってもよい。
【0046】
スピン軌道相互作用は、スピン軌道トルク配線の物質の固有の内場によって生じるため、非磁性材料でも純スピン流が生じる。スピン軌道トルク配線に微量の磁性金属を添加すると、磁性金属は流れる電子(スピン)を散乱する。その結果、スピン軌道トルク配線5のスピン流の生成効率は向上する。ただし、磁性金属の添加量が増大し過ぎると、発生したスピン流が添加された磁性金属によって散乱されるため、結果としてスピン流が減少する作用が強くなる場合がある。したがって、添加される磁性金属のモル比はスピン軌道トルク配線におけるスピン生成部の主成分のモル比よりも十分小さい方が好ましい。目安で言えば、添加される磁性金属のモル比は3%以下であることが好ましい。
【0047】
また、スピン軌道トルク配線5は、トポロジカル絶縁体を含んでもよい。スピン軌道トルク配線5は、トポロジカル絶縁体だけからなってもよい。トポロジカル絶縁体とは、物質内部が絶縁体、あるいは、高抵抗体であるが、その表面にスピン偏極した金属状態が生じている物質である。この物質には、スピン軌道相互作用により内部磁場が生じる。そのため、外部磁場が無くてもスピン軌道相互作用の効果で新たなトポロジカル相が発現する。これがトポロジカル絶縁体であり、強いスピン軌道相互作用とエッジにおける反転対称性の破れにより純スピン流を高効率に生成することができる。
【0048】
トポロジカル絶縁体としては例えば、SnTe,Bi
1.5Sb
0.5Te
1.7Se
1.3,TlBiSe
2,Bi
2Te
3,Bi
1−xSb
x,(Bi
1−xSb
x)
2Te
3などが好ましい。これらのトポロジカル絶縁体は、高効率にスピン流を生成することが可能である。
【0049】
<抵抗調整部>
抵抗調整部11は、スピン軌道トルク配線と半導体回路との間の電流経路10の途中に位置する。言い換えると、抵抗調整部11は、スピン軌道トルク配線5と半導体回路30との間の電流経路10の一部として、電流経路10を構成するものである。
【0050】
抵抗調整部11は、1つの部分から構成されてもよい。例えば、
図1、
図2において、第1抵抗調整部11Aのみ、または、第2抵抗調整部11Bのみでもよい。また抵抗調整部11は、離間して配置された複数の抵抗調整部分からなってもよい。例えば、
図1及び
図2に示すように、複数の抵抗調整部分は、第1抵抗調整部11Aと第2抵抗調整部11Bとを有してもよい。抵抗調整部11が複数の抵抗調整部分からなる場合には、隣接する抵抗調整部分はビア配線により接続されている。
【0051】
図1及び
図2に示す例では、抵抗調整部11は、離間して配置する2つの抵抗調整部分から構成される場合であるが、抵抗調整部11は3つ以上の抵抗調整部分から構成されてもよい。
抵抗調整部が離間して配置する複数の抵抗調整部分から構成される場合、抵抗調整部全体としての抵抗値の設計の自由度が高くなる。一方、抵抗調整部が1つの部分から構成される場合には、作製が容易になる。
【0052】
また、
図1及び
図2に示す例では、抵抗調整部11(第1抵抗調整部11A、第2抵抗調整部11B)は、ビアを介してスピン軌道トルク配線5に接続されている。抵抗調整部11は、この場合に限られず、ビアを介さずに直接スピン軌道トルク配線5に接続されてもよい。
【0053】
また、
図1及び
図2に示す例では、第1抵抗調整部11A,第2抵抗調整部11Bは、スピン軌道トルク配線5の長手方向であるX方向の第1端部5a、第2端部5bのそれぞれに、ビア21A−1、ビア21B−1を介して電気的に接続されている。第1抵抗調整部11A、第2抵抗調整部11Bは、第1端部5a、第2端部5b以外に直接または間接的に接続されても構わない。
【0054】
また、
図1及び
図2に示す例では、抵抗調整部11(第1抵抗調整部11A、第2抵抗調整部11B)は、通常のビア配線の配線に相当する部材を抵抗調整部で置き換えたものであるが、ビアに相当する部材を抵抗調整部で置き換えたものにしたものでもよいし、ビア配線以外の電流経路を構成する部材を置き替えたものにしたものでもよい。
【0055】
抵抗調整部11は、その抵抗値がスピン軌道トルク配線5の抵抗値よりも高い。
ここで、抵抗値は、R=ρL/A(Rは抵抗値、ρは抵抗率、Lは長さ、Aは断面積)の式で表される。抵抗値は、抵抗率(体積抵抗率)、長さ、断面積のうちの一つ又は二つ以上を変えることによって自由に設計できる。
また、抵抗調整部11を構成する材料の体積抵抗率の温度係数は、スピン軌道トルク配線5を構成する材料の体積抵抗率の温度係数よりも低い。
ここで、本明細書において「体積抵抗率の温度係数」は、0℃における体積抵抗率をρ
0、100℃におけるそれをρ
100とすると、α
0,100={(ρ
100−ρ
0)/ρ
0}×100として算出されたものである。
スピン軌道トルク型磁化回転素子100は、抵抗調整部11を備えることで、スピン軌道トルク配線に適度な電流値を安定的に供給できる。これによって、書き込み電流の減少による書き込み確率の低下や、電流増加によるバックホッピングが防止できる。
【0056】
抵抗調整部11の材料としては例えば、Ni−Cr、白金ロジウム、クロメル、インコロイ及びステンレスからなる群から選択された材料を用いることができる。
これらの材料は、100℃のときの体積抵抗率は0℃のときの体積抵抗率に対しての変化率(上記定義の温度係数)が低く、すべて15%以下であり、白金ロジウム以外は10%以下であり、Ni−Cr、クロメル及びインコロイは4%以下である。
【0057】
「第2実施形態」
図3は、本発明の第2実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子200をZ方向から見た平面模式図である。
以下、第2実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子200の特徴を説明する。第1実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子100と重複する構成については同じ符号をつけてその説明は省略する。
【0058】
スピン軌道トルク型磁化回転素子200において、抵抗調整部12は、離間して配置する2つの抵抗調整部分12A、12Bからなる。抵抗調整部12は、Z方向から平面視してスピン軌道トルク配線5の外形5Aの範囲内に収まる。2つの抵抗調整部分12A、12Bは、スピン軌道トルク配線5の延在方向と同じX方向に延在している。
抵抗調整部12がスピン軌道トルク配線5の外形5Aの範囲内に収まると、スピン軌道トルク型磁化回転素子を密に配置することができ、素子全体の集積度が上がる。また、抵抗調整部12がスピン軌道トルク配線5の延在方向(X方向)に延在して長いため、抵抗調整部12の抵抗を大きくできる。
【0059】
図3に示すスピン軌道トルク型磁化回転素子200では、抵抗調整部12を構成する2つの抵抗調整部分12A、12Bはいずれも、スピン軌道トルク配線5の延在方向と同じX方向に延在する構成であるが、一方のみがX方向に延在する構成でもよい。この場合でも、その一つの抵抗調整部分の抵抗を大きくできる。
【0060】
図4Aは、第2実施形態の変形例にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子200Aの平面模式図である。
図4Bは、
図4Aを矢印Aの向きから見た側面模式図である。
【0061】
この変形例のスピン軌道トルク型磁化回転素子200Aは、スピン軌道トルク配線の延在方向と同じX方向に延びる抵抗調整部分を異なる深さ位置に複数有する点が、
図3に示す構成と異なる。
【0062】
具体的には、抵抗調整部分12Aは、2つの抵抗調整部分を有する。抵抗調整部分12A−1と抵抗調整部分12A−2とは、異なる深さ位置にある。同様に抵抗調整部分12Bは、2つの抵抗調整部分を有する。2つの抵抗調整部分は、
図4Bにおいて、抵抗調整部分12A−1及び抵抗調整部分12A−2と重なる位置にある。すなわち、抵抗調整部12は、4つの抵抗調整部分からなる。
深さ方向に隣接する抵抗調整部分(例えば、抵抗調整部分12A−1、12A−2)はビアによって接続されている。
【0063】
図4A及び
図4Bに示す例では、抵抗調整部分は4つであるが、3つであってもよいし、5つ以上であってもよい。また、抵抗調整部分は対称的に設置されている必要はない。また、抵抗調整部分は、3層以上の異なる深さ位置に配置されてもよい。それぞれの深さを1層と数えると、
図3に示した例は、抵抗調整部分は1層であり、
図4に示す例は2層である。
抵抗調整部を構成する抵抗調整部分が2つ以上の深さ(すなわち、2層以上)に設けることによって、1層にだけ設ける構成に比べて、抵抗の長さが長くなる。すなわち抵抗調整部全体の抵抗値を大きくできる。
抵抗調整部を構成する抵抗調整部分を、異なる深さ(異なる層)に備える構成は他の実施形態で適用してもよい。
【0064】
「第3実施形態」
図5は、第3実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子300をZ方向から見た平面模式図である。
以下、第3実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子300の特徴を説明する。第1実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子100や第2実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子200、200Aと重複する構成については同じ符号をつけてその説明は省略する。
【0065】
スピン軌道トルク型磁化回転素子300において、抵抗調整部13は、離間して配置する2つの抵抗調整部分13A、13Bからなる。抵抗調整部分13A、13Bは、積層方向(Z方向)から平面視して、少なくとも一部がスピン軌道トルク配線5の外形5Aの範囲外に配置されている。2つの抵抗調整部分13A、13Bは、積層方向(Z方向)に直交する面内方向(XY面内)に広がっている。
【0066】
ここで、抵抗調整部を構成する抵抗調整部分が積層方向(Z方向)から平面視で、スピン軌道トルク配線5の外形5Aの範囲外に配置しているとは、その抵抗調整部分の一部でもスピン軌道トルク配線の外形の範囲外に配置していればよい。例えば、
図5に示した抵抗調整部分13Aは、第1部分13A−1と第2部分13A−2とからなる。第1部分13A−1は、ビア23A−1に接続してY方向に延在する部分である。第2部分13A−2は、第1部分13A−1のビア23A−1に接続していない側の端部からX方向に延在する部分である。第2部分13A−2はスピン軌道トルク配線の外形の範囲外に配置されている。第1部分13A−1はその一部(実線の部分)は外形の範囲外に配置されているが、他の一部(点線の部分)は外形の範囲内に配置されている。同様に、抵抗調整部分13Bは、第1部分13B−1と第2部分13B−2とからなる。第1部分13B−1は、ビア23B−1に接続してY方向に延在する部分である。第2部分13B−2は、第1部分13B−1のビア23B−1に接続していない側の端部からX方向に延在する部分である。第2部分13B−2はスピン軌道トルク配線の外形の範囲外に配置する。第1部分13B−1はその一部(実線の部分)は外形の範囲外に配置するが、他の一部(点線の部分)は外形の範囲内に配置する。
【0067】
抵抗調整部を構成する抵抗調整部分13A、13Bが積層方向(Z方向)から平面視してスピン軌道トルク配線5の外形5Aの範囲外に配置される構成の場合、外形5Aの範囲内に配置される構成に比べて、スピン軌道トルク配線5の直下に配置するビアから外形5Aの範囲外に出る部分(
図5の例では、第1部分13A−1や第2部分13B−2)だけ、長くなる。すなわち抵抗調整部全体の抵抗値を大きくできる。
【0068】
第3実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子においても、異なる深さ(異なる層)に抵抗調整部を構成する抵抗調整部分を複数備えてもよい。
【0069】
「第4実施形態」
(スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子)
図6は、第4実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子500を模式的に示した斜視図である。
【0070】
スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子500は、第1強磁性層1と、非磁性層2と、第2強磁性層3と、スピン軌道トルク配線5と、電流経路10(10A、10B)と、を有する。スピン軌道トルク配線5は、通電部の一例である。第1強磁性層1と非磁性層2と第2強磁性層3とを合わせた構成20は、素子部の一例である。
図6では、スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子500に接続される半導体回路30を同時に図示した。スピン軌道トルク配線5は、第1強磁性層1との積層方向(Z方向)から見て、第1の方向(X方向)に延びる。スピン軌道トルク配線5は、第1強磁性層1に面する。非磁性層2は、第1強磁性層1のスピン軌道トルク配線5と反対側の面に面する。第2強磁性層3は、非磁性層2の第1強磁性層1と反対側の面に面する。電流経路10(10A、10B)は、スピン軌道トルク配線5と半導体回路30(第1半導体回路30A、第2半導体回路30B)との間を電気的につなぐ。電流経路10(10A、10B)は、途中に抵抗調整部11(第1抵抗調整部11A、第2抵抗調整部11B)を備える。抵抗調整部11の抵抗値は、スピン軌道トルク配線5の抵抗値よりも高い。抵抗調整部11を構成する材料の体積抵抗率の温度係数は、スピン軌道トルク配線5を構成する材料の体積抵抗率の温度係数よりも低い。
【0071】
第1強磁性層1と非磁性層2と第2強磁性層3とを合わせた構成20は、通常の磁気抵抗効果素子の構成であり、構成20において通常の磁気抵抗効果素子が備える層構成を適用することができる。
【0072】
<第2強磁性層>
スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子500は、第2強磁性層3の磁化が一方向に固定され、第1強磁性層1の磁化の向きが相対的に変化することで機能する。保磁力差型(疑似スピンバルブ型;Pseudo spin valve型)のMRAMに適用する場合には、第2強磁性層3の保磁力は第1強磁性層1の保磁力よりも大きいものとする。交換バイアス型(スピンバルブ型;spin valve型)のMRAMに適用する場合には、反強磁性層との交換結合によって第2強磁性層3の磁化方向を固定する。
【0073】
また、スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子500は、非磁性層2が絶縁体からなる場合は、トンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistance)素子であり、非磁性層2が金属からなる場合は巨大磁気抵抗(GMR:Giant Magnetoresistance)素子である。
【0074】
スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子500の積層構成は、公知の磁気抵抗効果素子の積層構成を採用できる。例えば、各層は複数の層からなるものでもよいし、第2強磁性層3の磁化方向を固定するための反強磁性層などの他の層を備えてもよい。第2強磁性層3は固定層や参照層、第1強磁性層1は自由層や記憶層などと呼ばれる層に相当する。
【0075】
第2強磁性層3の材料には、公知の材料を用いることができ、第1強磁性層1と同様の材料を用いることができる。第1強磁性層1が面内磁化膜であるため、第2強磁性層3も面内磁化膜であることが好ましい。
【0076】
また、第2強磁性層3の第1強磁性層1に対する保磁力をより大きくするために、第2強磁性層3と接する材料としてIrMn、PtMnなどの反強磁性材料を用いてもよい。さらに、第2強磁性層3の漏れ磁場を第1強磁性層1に影響させないようにするため、シンセティック強磁性結合の構造としてもよい。
【0077】
<非磁性層>
非磁性層2には、公知の材料を用いることができる。例えば、非磁性層2が絶縁体からなる場合(トンネルバリア層である場合)、その材料としては、Al
2O
3、SiO
2、MgO、及びMgAl
2O
4などを用いることができる。また、これらのほかにも、Al、Si、Mgの一部が、Zn、Beなどに置換された材料なども用いることができる。これらの中でも、MgOやMgAl
2O
4はコヒーレントトンネルが実現できる材料であるため、スピンを効率よく注入できる。また、非磁性層2が金属からなる場合、その材料としてはCu、Au、Agなどを用いることができる。さらに、非磁性層2が半導体からなる場合、その材料としては、Si、Ge、CuInSe
2、CuGaSe
2、Cu(In,Ga)Se
2等を用いることができる。
【0078】
「第5実施形態」
(スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子)
図7は、第5実施形態にかかる磁壁移動型磁気記録素子600を模式的に示した斜視図である。
図8は、第5実施形態にかかる磁壁移動型磁気記録素子600を模式的に示した断面図である。
【0079】
磁壁移動型磁気記録素子600は、第1強磁性層1と、非磁性層4と、磁気記録層5’と、電流経路10(10A、10B)と、を有する。磁気記録層5’は、通電部の一例である。第1強磁性層1と非磁性層4とを合わせた構成40は、素子部の一例である。
図7及び
図8では、磁壁移動型磁気記録素子600に接続される半導体回路30を同時に図示した。通電部が磁気記録層5’であり、素子部が構成40である点以外は、上述の実施形態と同様であり、同様の構成についての説明を省く。
【0080】
磁気記録層5’は、第1強磁性層1との積層方向(Z方向)から見て、第1の方向(X方向)に延びる。磁気記録層5’は、第1強磁性層1に面する。非磁性層4は、第1強磁性層1と磁気記録層5’との間に位置する。電流経路10(10A、10B)は、磁気記録層5’と半導体回路30(第1半導体回路30A、第2半導体回路30B)との間を電気的につなぐ。電流経路10(10A、10B)は、途中に抵抗調整部11(第1抵抗調整部11A、第2抵抗調整部11B)を備える。抵抗調整部11の抵抗値は、磁気記録層5’の抵抗値よりも高い。抵抗調整部11を構成する材料の体積抵抗率の温度係数は、磁気記録層5’を構成する材料の体積抵抗率の温度係数よりも低い。
【0081】
磁気記録層5’は、内部に磁壁DWを有する。磁壁DWは、互いに反対方向の磁化を有する2つの磁区の境界である。磁壁移動型磁気記録素子600は、磁気記録層5’における磁壁DWの位置によって、データを多値で記録する。磁気記録層5’に記録されたデータは、第1強磁性層1と磁気記録層5’の積層方向の抵抗値変化として読み出される。
【0082】
磁壁DWは、磁気記録層5’に電流を流すと動く。磁壁DWの位置が変化すると、磁気記録層5’の磁化状態が変化する。磁壁移動型磁気記録素子600は、非磁性層4を挟む2つの磁性体(第1強磁性層1と磁気記録層5’)の磁化の相対角の変化に伴う抵抗値変化をデータとして出力する。
【0083】
磁気記録層5’は、磁性体により構成される。磁気記録層5’を構成する磁性体は、第1強磁性層1と同様のものを用いることができる。また磁気記録層5’は、Co、Ni、Pt、Pd、Gd、Tb、Mn、Ge、Gaからなる群から選択される少なくとも一つの元素を有することが好ましい。例えば、CoとNiの積層膜、CoとPtの積層膜、CoとPdの積層膜、MnGa系材料、GdCo系材料、TbCo系材料が挙げられる。MnGa系材料、GdCo系材料、TbCo系材料等のフェリ磁性体は飽和磁化が小さく、磁壁DWを移動するために必要な閾値電流を下げることができる。またCoとNiの積層膜、CoとPtの積層膜、CoとPdの積層膜は、保磁力が大きく、磁壁DWの移動速度を抑えることができる。
【0084】
ここまで、スピン素子の具体例として、スピン軌道トルク型磁化回転素子、スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子、磁壁移動型磁気記録素子を例示した。これらは、データの書込み時に第1強磁性層1と交差する方向に延在する通電部(スピン軌道トルク配線5、磁気記録層5’)に、書き込み電流を流すという点で共通する。スピン素子は、データの書込み時に素子部と交差する方向に延在する通電部に、書き込み電流を流すものであれば、これらの素子に限られるものではない。
【0085】
「第6実施形態」
(磁気メモリ)
第6実施形態に係る磁気メモリは、スピン素子を複数備える。本発明のスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子を複数備える。
【0086】
図9は、第6実施形態に係る磁気記録アレイ700の平面図である。
図9に示す磁気記録アレイ700は、スピン軌道トルク型磁化回転素子100が3×3のマトリックス配置をしている。
図9は、磁気記録アレイの一例であり、スピン軌道トルク型磁化回転素子100に代えて他のスピン素子にしてもよく、またスピン素子の数及び配置は任意である。
【0087】
スピン軌道トルク型磁化回転素子100には、それぞれ1本のワードラインWL1〜3と、1本のビットラインBL1〜3、1本のリードラインRL1〜3が接続されている。
【0088】
電流を印加するワードラインWL1〜3及びビットラインBL1〜3を選択することで、任意のスピン軌道トルク型磁化回転素子100のスピン軌道トルク配線5に電流を流し、書き込み動作を行う。また、電流を印加するリードラインRL1〜3及びビットラインBL1〜3を選択することで、任意のスピン軌道トルク型磁化回転素子100の積層方向に電流を流し、読み込み動作を行う。電流を印加するワードラインWL1〜3、ビットラインBL1〜3、及びリードラインRL1〜3はトランジスタ等により選択することができる。
【0089】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
このスピン素子100は、第1強磁性層1を含む素子部と、第1強磁性層1の積層方向(Z方向)から見て、第1の方向(X方向)に延び、第1強磁性層1に面する通電部5と、前記通電部5から半導体回路30(30A、30B)に至り、途中に抵抗調整部11(11A、11B)を有する電流経路10(10A、10B)と、を備え、抵抗調整部11の抵抗値は、前記通電部5の抵抗値よりも高く、抵抗調整部11を構成する材料の体積抵抗率の温度係数は前記通電部5の材料の体積抵抗率の温度係数よりも低い。