特許第6557452号(P6557452)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6557452状態観測器を使用して同期電動装置の中の回転子の位置および速度を求める方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557452
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】状態観測器を使用して同期電動装置の中の回転子の位置および速度を求める方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/00 20160101AFI20190729BHJP
   H02P 21/18 20160101ALI20190729BHJP
   H02P 21/24 20160101ALI20190729BHJP
   H02P 21/28 20160101ALI20190729BHJP
   H02P 23/12 20060101ALI20190729BHJP
   H02P 23/14 20060101ALI20190729BHJP
   H02P 25/026 20160101ALI20190729BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   H02P21/00
   H02P21/18
   H02P21/24
   H02P21/28
   H02P23/12
   H02P23/14
   H02P25/026
   H02P27/06
【請求項の数】10
【外国語出願】
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-104882(P2014-104882)
(22)【出願日】2014年5月21日
(65)【公開番号】特開2014-230485(P2014-230485A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2017年3月17日
(31)【優先権主張番号】1354520
(32)【優先日】2013年5月21日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】ウィサム ディブ
【審査官】 田村 惠里加
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−230174(JP,A)
【文献】 特開2009−291072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 1/00−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
突極同期電動装置(4)の回転子の位置θを求める方法であって、前記電動装置(4)の複数のフェーズの電流imと電圧umが測定される、方法において、
a)前記電動装置(4)の前記複数のフェーズにおいて電圧uimpを印加することと、
b)前記電動装置(4)の中を通るトータルの磁束χαβであって、前記回転子の位置の関数である磁束χαβの状態モデルを構築することと、
c)前記磁束χαβの状態モデルと、前記測定された電流imおよび電圧umによって、前記回転子の
【数1】
のそれぞれの状態観測器を構築することと、
d)前記
【数2】
の前記状態観測器と前記印加された電圧uimpとによって、前記回転子の前記
【数3】
を求めることと、が実行され、
前記回転子の
【数16】
を求めることは、
i)ω=2πfであり、Uが前記印加された電圧uimpの振幅であり、
【数8】
であり、
【数9】
であり、LおよびLが、それぞれ前記電動装置(4)の直接インダクタンスおよび直角位相インダクタンスであり、Rが前記電動装置(4)のコイルの抵抗であるとき、
【数17】
のタイプの方程式を用いて、
【数18】
の前記状態観測器および前記印加された電圧uimpから、
【数19】
を求めることと、
ii)φ推定された電流
【数20】
のカットオフ周波数fcのローパスフィルタによって誘導されるフェーズシフトであるとき、
【数21】
のタイプの方程式から、
【数22】
と測定された電流xとを用いて、前記回転子の
【数23】
を求めることと、によって行われる、方法。
【請求項2】
00rpmより低いか100rpmに実質的に等しい前記回転子の回転速度に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
記印加された電圧uimpは、前記電動装置(4)の制御電圧よりも大きい振幅Uと、前記電動装置(4)の制御周波数よりも大きい高周波数fを有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
記振幅Uは、実質的に10Vであり、前記周波数fは、実質的に1kHzである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
jが複素数であり、θ
【数4】
となる位置であるとき
素平面における前記印加された電圧は、
【数5】
のタイプの式で記載される、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
記電動装置(4)中で循環しているトータルの磁束χαβの前記状態モデルは
)測定された電流iおよび電圧uを変換することによって、コンコーディア(concordia)参照フレームにおける電圧uαβおよび電流iαβを求めることと、
ii)R前記電動装置(4)の巻線の抵抗であるとき、
【数6】
のタイプの式によって、前記磁束のダイナミクスを求めること
を実行することによって構築される、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
記電流の前記状態観測器と前記回転子の速度の前記状態観測器を構築すること

【数7】
、前記電動装置の永久磁石によって生成される磁束であり、
【数8】
であり、
【数9】
であり、(L,L、直接インダクタンスおよび直角位相インダクタンスであり、
【数10】
であり、
【数11】
であり、そして
【数12】
であるとき、
【数13】
のタイプの式によって、前記磁束χαβの前記状態モデルから電流iαβの状態表現を求めること
ii)j複素数であるとき、x=iα+jiβ および u=uα+juβとすることによって、複素平面における前記状態表現を変換することと、
iii)
【数14】
、規格化された電流測定値であり、k,k,g、管理されることになる前記観測器の収束を許容するゲインであるとき、
【数15】
のタイプの方程式によって、前記電流の前記状態観測器と前記回転子の速度の前記状態観測器を求めることと、によって行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
同期電動装置(4)を制御する方法であって、
求項1から7のいずれか1項に記載方法を用いて、前記電動装置の前記回転子の
【数24】
を求めることと、
前記測定した位置および速度に応じて、前記同期装置のトルクを制御すること
が実行される、方法。
【請求項9】
同期電動装置(4)を制御するシステムにおいて、
請求項に記載方法を用いることに適したことを特徴とする、システム。
【請求項10】
車両、特には、少なくとも1つの同期電動装置(4)を有するハイブリッドまたは電気モータ車両において、
請求項に記載のシステムをさらに有することを特徴とする、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期電動装置、特に、自動車のための同期電動装置の制御の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
同期装置は、回転部分となる回転子と固定部分となる固定子とで構成されている。回転子は、複数の永久磁石またはDC電源コイルと、電磁石と呼ばれる磁気回路とで構成することができる。固定子は3つのフェーズを有し、それぞれが少なくとも1つのコイル(巻線:windingとも称する)と接続され、これら3つのコイルに電力と電圧が供給される。外力が回転子の回転に用いられる。固定子の複数のコイル(複数の巻線)内の交流電流によって誘導された磁界が、回転子の回転を引き起こす。この回転磁場の速度は「同期速度」と称される。
【0003】
そのような電動装置を制御するために、回転子の角度位置および速度をリアルタイムで知ることが重要である。実際、位置の情報は、機械のトルクのベクトル制御の標準手法で使用される。ベクトル制御が言及される理由は、アプリケーションによって要求されたトルクを発生する機械用に、その中を循環する電流が、フェーズ中で、回転子の位置に同期して維持されなければならないからである。このため、電動装置を制御する手段は、モータの複数の端子に複数の電圧を供給し、これらの電圧は、トルク制御アルゴリズムによって提供される。
【0004】
例えば、ホール効果または誘導タイプの複数の位置検出部が、回転子の位置を知るために一般に使用されている。しかしながら、安価な位置検出部、特に、高回転速度用のものは、十分に高精度ではなく、このため、それらは、電動装置のトルクの精密な制御を行うことができない。さらに、これらの検出部は、故障や計測ノイズが生じやすく、このため、測定の不確実性が生じる。位置検出部の使用は、例えば、英国特許出願公開GB−1214331Aに記載されている。他の選択肢は、高分解能のインクリメンタルエンコーダ、または、リゾルバ(resolver)と呼ばれる絶対検出器、回転磁気エレメントの検出または光干渉法に基づいた検出器のような精密位置検出部の使用で構成されるが、それらは、高価であるという重大な欠点を有する。
【0005】
従来技術の他の解決手法は、電気測定結果から、回転子の位置に応じて変動する物理量を推定することによって、回転子の位置を再構成することである。位置推定は、2つの主なカテゴリーに分類することができる。
・電動装置制御への特定の信号の注入に基づくものであって、モータの電気測定結果から位置を求める(determine)ことができるように、電動装置の複数の端子に特定電圧を印加することを必要とする。例えば、仏国特許出願公開FR−2623033A1には、2つの非通電フェーズでのショートパルスの注入が記載されている。特定信号の注入は、その動作の間、モータの最適の制御を行えないという、電動装置制御に関する制約を含む。
・モータの入力に特定の信号を必要とせず、観測器(observer)とも称されるリアルタイム推定部によってその動作の数学的な記述のみに基づくが、ほぼ0または低いモータ速度の場合に精密な推定を行えないという欠点を有するもの。例えば、仏国特許FR−2781318B1は、電圧センサによって供給される信号から計算を通じて回転子の回転角度を推定する方法を開示している。米国特許出願公開US−2010−237817Aには、等価起電力モデルを使った観測器の使用が記載されている。
【0006】
従来の解決手法の欠点を克服するために、高速用の推定方法と共に低い回転速度用の位置検出部も使用する「ハイブリッド」解決手法が知られている。例えば、出願番号FR−11/03994の出願人の特許出願には、高い回転速度用のモータの位置と速度を求めることができるアルゴリズムを有するそのようなハイブリッド解決手法が記載されている。しかしながら、これらのハイブリッド解決手法は、常に、低い電動装置速度用の検出部の使用を必要とする。さらに、従来技術の解決手法は、電動装置の制御において十分な高精度を持っておらず、実際、それらのいくつかは、カルマンフィルタ観測器と称される高度な観測器を開発する以前の曖昧な計算を行う。さらに、これらの観測器のいくつかは、多くの複雑な計算を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】英国特許出願公開GB−1214331A
【特許文献2】仏国特許出願公開FR−2623033A1
【特許文献3】仏国特許FR−2781318B1
【特許文献4】米国特許出願公開US−2010−237817A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、電動装置の電流および信号の注入用の状態(state)観測器を使って、同期電動装置の回転子の位置および速度を求める方法を使用することを目的とする。このため、本発明によって、位置検出部を使用することなく、位置情報が、特に低速度において高精度になる。実際、信号注入は、電動装置のダイナミクスを記述するモデルを、観測可能にし、静止時を含めて、測定ノイズに対してロバストにする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、突極(salient-pole)同期電動装置の回転子の位置θを求める方法に関し、前記電動装置の複数のフェーズの電流imと電圧umが測定される。以下のステージは、この方法のために実行される:
a)前記電動装置の前記複数のフェーズにおいて電圧uimpを印加すること、
b)前記電動装置の中を通るトータルの磁束χαβの状態モデルを作成すること、前記磁束χαβは前記回転子の位置の関数であり、
c)前記トータルの磁束χαβの前記状態モデルと、前記測定された電流imおよび電圧umと、によって、前記回転子の
【0010】
【数1】
【0011】
電流 と速度
の状態観測器を構築すること、および
d)前記
【0012】
【数2】
【0013】
速度
の状態観測器と前記印加された電圧uimpとによって、前記回転子の前記
【0014】
【数3】
【0015】
位置
を求めること。
【0016】
本発明によれば、本方法は、100rpmより低いか、実質的に100rpmと等しい回転子の回転速度に適用される。
【0017】
好都合に、印加された前記電圧uimpは、前記電動装置の制御電圧よりも大きい振幅Ucと、前記電動装置の制御周波数よりも大きい高周波数fcを有する。
【0018】
好都合に、前記振幅Ucは実質的に10Vであり、前記周波数fcは実質的に1kHzである。
【0019】
好ましくは、jは複素数であり、θc
【0020】
【数4】
【0021】
となる位置としたとき、
前記複素平面における前記印加された電圧uimpは、
【0022】
【数5】
【0023】
のタイプの式で記載される。
【0024】
本発明の実施形態によれば、前記電動装置の中を通るトータルの磁束χαβの状態モデルは、以下の複数のステージを実行することによって構成される:
i)測定された電流imと電圧umとを変換することによって、コンコーディア参照フレーム(Concordia reference frame)における電圧uαβと電流iαβを求めることと、
ii)Rは前記電動装置の複数の巻線の抵抗としたとき、
【0025】
【数6】
【0026】
のタイプの方程式によって前記磁束χαβのダイナミクスを求めること。
【0027】
好都合に、前記電流と回転子速度の複数の状態観測器は、以下のステージを実行することによって構成される:
i)
【0028】
【数7】
【0029】
は、前記電動装置の永久磁石によって生成される磁束であり、
【0030】
【数8】
【0031】
であり、
【0032】
【数9】
【0033】
であり、(Ld,Lq)は前記電動装置の直接(direct)インダクタンスおよび直角位相(quadrature)インダクタンスであり、
【0034】
【数10】
【0035】
であり、
【0036】
【数11】
【0037】
であり、そして
【0038】
【数12】
【0039】
としたとき、
【0040】
【数13】
【0041】
のタイプの式によって、前記磁束χαβの前記状態モデルから、電流iαβの状態表現(state representation)を求めること、
ii)jを複素数としたとき、x=iα+jiβ および u=uα+juβとすることによって、複素平面における前記状態表現を変換すること、
および
iii)
【0042】
【数14】
【0043】
は、規格化された電流測定値であり、k1,k2,gは、管理されることになる前記観測器の収束を許容するゲインとしたとき、
【0044】
【数15】
【0045】
のタイプの方程式によって、電流と回転子速度の前記状態観測器を求めること。
【0046】
さらに、前記回転子の
【0047】
【数16】
【0048】
位置
は、以下の複数のステージによって求めることが可能である:
i)ωc=2πfcとしたとき、
【0049】
【数17】
【0050】
のタイプの方程式を使って、
【0051】
【数18】
【0052】
速度
の前記状態観測器および前記印加された電圧uimpとから、
【0053】
【数19】
【0054】
係数
を求めること、および
ii)φは、推定された
【0055】
【数20】
【0056】
電流
のカットオフ周波数fcのローパスフィルタによって誘導されるフェーズシフトとしたとき、
【0057】
【数21】
【0058】
のタイプの方程式から、
【0059】
【数22】
【0060】
係数
と測定された電流xとによって、前記回転子の
【0061】
【数23】
【0062】
前記位置
を求めること。
【0063】
さらに、本発明は、同期電動装置を制御する方法に関し、以下の複数のステージが実行される。
【0064】
上述した方法に応じて前記電動装置の回転子の
【0065】
【数24】
【0066】
位置および速度
を求め、そして、
求めた位置と速度に応じて前記同期装置のトルクを制御する。
【0067】
本発明は、上述したような制御方法を用いることに適した同期電動装置を制御するシステムにも関する。
【0068】
本発明は、車両、特には、少なくとも1つの同期電動装置を有するハイブリッドまたは電気自動車、さらに上述した制御システムを有する自動車にも関する。
【0069】
本発明に応じた方法の他の特徴と効果は、添付図面を参照し、これ以降に限定されない例が与えられている明細書を読むことで明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1図1は、本発明に応じた同期電動装置の制御を表す。
図2図2は、本発明に応じた方法フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0071】
本発明に応じた方法とシステムは突極同期電動装置のために適合されていることが気付かされる。同期電動装置は、永久磁石を有し、励磁制御またはダブル励磁タイプであることが可能である。そのような機械は、回転分である回転子と、静止部である固定子で構成されている。回転部は、少なくとも1つの磁石(または電磁石)を有する。固定子は、3つのフェーズを規定する少なくとも3つのコイルを有し、これらのコイルは、回転子を回転するために適した磁界を発生するために交互に供給される。その複数のコイルは、以下ケーシングとの称されるフレームによって支持されている。
【0072】
図1は、3つのフェーズで構成された従来の同期電動装置の制御を表す。電動装置(4)は、フェーズ電圧および電流を計測する手段を備えている。これらの計測手段は図示されていない。電動装置の制御手段1は、前記電動装置(4)の回転子の位置および速度を求める手段(2)と、電動装置(4)のトルクを制御する手段(3)と、からなる。回転子位置および速度決定手段(2)は、電流imおよび電圧umの測定値から回転子の位置および速度を求める。これらは、電動装置(4)の3つのフェーズの各1つの電流および電圧である。トルク制御手段(3)は、電動装置(4)にトルク目標値(setpoint)を供給するために、位置θと速度ωと電流imおよび電圧umとに応じて、モータ端子に電圧を供給する。決定手段(2)は、電動装置(4)に電圧uimpを印加する。
【0073】
実際、本発明に応じた方法では、電圧uimpが電動装置に注入(印加)される。この電圧は、モータ制御に影響しないように高周波数fcを有し、注入される電圧の周波数fcは、電動装置の制御信号の周波数よりも高く、不等式は、以下のように記載することができる:ωc=2πfc>>ω。例えば、注入された電圧の周波数fcは1kHzのオーダであり、回転子の回転の周波数は、低速で、50Hzのオーダである。信号注入は、モデルを、観測可能にし、静止を含んで、測定ノイズに対してロバストにする。
【0074】
さらに、印加された前記電圧uimpは、電動装置の制御電圧の振幅よりも高い振幅Ucを有する。例えば、印加された前記電圧uimpの振幅Ucは、10Vのオーダである。そのような周波数fcとそのような振幅Ucとを有する、印加された前記電圧uimpは、電動装置の制御に影響せず、そして、特に、電動装置の動作周波数が低いとき、その動作は妨げられない。
【0075】
注記
以下の表記は、明細書において使われる:
u:電動装置のフェーズの端子間の電圧
i:電動装置のフェーズにおいて流れる電流
θ:固定子に対応する電動装置の回転子の回転角度に応じた回転子位置
ω:固定子に対応する電動装置の回転子の回転速度に応じた回転子速度
imp:電動装置の印加(注入)された電圧
c:電動装置に印加された電圧uimpの振幅。10Vのオーダで選択可能
c:電動装置に印加された電圧uimpの周波数。1kHzのオーダで選択可能。ωc=2πfcである
χ:電動装置を通るトータルの磁束
R:電動装置のコイルの抵抗。既知のパラメータ(製品データ)または実験的に得られている。
d:上記電動装置の直接インダクタンス(direct inductance)、既知の電動装置のパラメータ(製品データまたは実験で得られている)
q:上記電動装置の直角位相インダクタンス(quadrature inductance)、既知の電動装置のパラメータ(製品データまたは実験で得られている)
【0076】
【数25】
【0077】
:上記電動装置の永久磁石によって作られた磁束、製造業者のデータまたは実験で得られることが可能なデータ
x:複素平面における電流の状態表現
φ:連続フィルタによって引き起こされたフェーズシフト、このフェーズシフトはフィルタの機能であり、既知である(入力信号の基本周波数に依存する)
1,k2,g:管理される状態観測器を収束させるキャリブレーション変数
1,c2,a1:状態観測器変数
我々はまた、
【0078】
【数26】
【0079】
とする。
【0080】
「#m」によってインデックスが付けられたこれらの表記は、測定値を表す。推定値は、曲折アクセント記号によって示される。時間導関数は、ドットで示される。「#αβ」によってインデックスが付けられた表記は、数量がコンコーディア参照フレームで表現されていることを意味する。jは、複素数に対応する。複素平面において、数量の複素共役は、対象の数量上の線分により示される。
【0081】
本発明は、同期電動装置の回転子の角度位置θおよび速度ωを求めることを認める。上記電動装置は、当該電動装置のフェーズの電圧および電流を求める手段を有する。本発明にかかる方法は、特に低いモータ速度において、または、電動装置が静止している場合において、回転子の位置θおよび速度ωを求めるために適している。100rpmより低い、または、100rpmと実質的に等しい電動装置の回転速度について、低いモータ速度とみなされ得る。その他のモータ速度について、本発明にかかる観測器は、精密さがより低い。この欠点を克服するために、他のアルゴリズムは、これらのモータ速度のために用いられ得る。例えば、その1つが、出願番号FR−11/03994の出願人の特許出願に記載されている。
【0082】
図2は、本発明にかかる方法の様々なステージを表現している。
1)磁束(MOD(χ))の状態モデルを構築すること
2)電流および速度の状態観測器
【0083】
【数27】
【0084】
(OBS(,))
を構築すること
3)フィルタリング(FIL)によって位置を推定すること
これらのステージの前に、電動装置のフェーズ中の電流iおよび電圧uが測定される。同期電動装置は、当該同期電動装置のフェーズへ供給される電力の電圧および電流の制御を通じて、トルク制御される。このモータの最適制御のために、フェーズ端子における電圧umおよびその中を循環している電流imを求めることが必要である。
【0085】
1)磁束(MOD(χ))の状態モデルを構築すること
測定された、またはむしろフィルタリングされた情報を用いて、トータルの磁束を再現することができる。それは電動装置を通る磁束であり、例えば、磁石の磁束に、突極同期電動装置に対する磁気電機子反応(例えば、回転子に起因する)に起因する磁束を加えたものである。
【0086】
本発明の一実施形態によれば、以下の複数のステージを実行することによって、磁束の状態モデルが構築される。
i)測定された電圧および電流を変換することによって、コンコーディア参照フレームにおける
【0087】
【数28】
【0088】
電圧 および 電流
を求めること。コンコーディア変換は、電気エンジニアリングの分野で、2フェーズモデルを用いて3フェーズシステムをモデル化するために用いられる数学的ツールである。
ii)コンコーディア参照フレームにおける磁束の状態表現は、以下のように記述される。
【0089】
【数29】
【0090】
この法則は、ジュール/ファラデー(Joule/Faraday)の法則から導き出される。
【0091】
さらに、
【0092】
【数30】
【0093】
は、モータの巻線を通り、知られても測定されてもない、トータルの磁束を表す2次元ベクトルである。それは、以下の形に表される。
【0094】
【数31】
【0095】
ただし、
【0096】
【数32】
【0097】
は、永久磁石が生成する磁束であり、
【0098】
【数33】
【0099】
パラメータおよび
は、直接インダクタンスおよび直角位相インダクタンス
【0100】
【数34】
【0101】
に依存する。
2)電流および速度の状態観測器
【0102】
【数35】
【0103】
(OBS())
を構築すること
このステージでは、我々は、前のステージで求められた磁束状態モデルと、電圧および電流の測定値とを用いて、電流および速度についての状態観測器を構築する。自動化および情報理論において、状態観測器は、状態表現の形で表現されるモデルの拡張である。システムの状態が測定可能でない場合、観測器は、ダイナミックシステムのモデルから状態を再現することを認め、他の数量(im,um)の測定値が構成される。
【0104】
本発明の一実施形態によれば、上記の電流および回転子速度の状態観測器は、以下の複数のステージを実行することによって、構築される。
i)
【0105】
【数36】
【0106】
のタイプの式による磁束の表現と磁束χαβの状態モデルとから、電流iαβの状態表現を求めること。ただし、
【0107】
【数37】
【0108】
は、電動装置の永久磁石によって生成される磁束であり、
【0109】
【数38】
【0110】
であり、
【0111】
【数39】
【0112】
であり、(Ld,Lq)は、直接インダクタンスおよび直角位相インダクタンスであり、
【0113】
【数40】
【0114】
であり、
【0115】
【数41】
【0116】
であり、そして
【0117】
【数42】
【0118】
である。
【0119】
x=iα+jiβ および u=uα+juβとすることによって、複素平面における状態表現を変換すること。ただし、jは複素数である。そして等価モデルは、以下のような形をとる。
【0120】
【数43】
【0121】
ただし、
【0122】
【数44】
【0123】
である。
iii)学習されたモデルは、周期的なシステムであることを考慮すること。微分方程式の解は、以下のような形で表される。
【0124】
【数45】
【0125】
ただし、
【0126】
【数46】
【0127】
としたとき、θcは、電動装置に印加される電圧uimpと関連する位置であり、
【0128】
【数47】
【0129】
である。我々は、したがって、電流および回転子速度(または電気周波数)に対する状態観測器を、以下のタイプの方程式を用いて求めることができる。
【0130】
【数48】
【0131】
ただし、正規化された電流測定値
【0132】
【数49】
【0133】
であり、k1,k2,gは、管理されることになる観測器の収束を許容するゲインである。
【0134】
3)フィルタリング(FIL)によって位置を推定すること
このステージでは、我々は、回転速度と、測定された電流と、印加された電圧の状態観測器を用いて、回転子の位置を求める。
【0135】
本発明の一実施形態によれば、パラメータa1,c1,c2を求めるために、速度
【0136】
【数50】
【0137】
の推定値が用いられる。定常の走行条件下では、以下のようなタイプの方程式が得られる。
【0138】
【数51】
【0139】
パラメータc2は、このシステムから求められる。
【0140】
回転子位置の推定値を得るための最後のステージは、ejθcの項に、測定された電流(であって、推定された電流ではない)を乗じた後に、フィルタリングすることからなる。高周波数をフィルタするバンドパスフィルタがこのため形成され、周波数fcが、印加された電圧により生成される。そのような条件下で、フィルタ出力は、以下のように記述され得る。
【0141】
【数52】
【0142】
ただし、Φは、フィルタによって誘導されるフェーズシフトであり、このフェーズシフトは既知である。このため、電動装置の回転子の角度位置θの推定値は、以下のタイプの数式によって計算され得る。
【0143】
【数53】
【0144】
フェーズシフトは、入力信号、特に、本発明の一実施形態にかかる電流の基本周波数に依存する。
【0145】
本発明にかかる方法は、低い速度(例えば100rpm未満)については、出願番号FR−11/03994の出願人の特許出願に記載された方法と、他の速度(例えば100rpm超)については、先の特許出願の方法が組み合わせて適用される。
【0146】
この方法の全てのステージは、コンピュータツール、特に、電動装置のコントローラによって実行される。このため、回転子の位置および速度は、リアルタイムで求められる。実際、本発明にかかる方法の利点の1つは、オンラインですぐに実装することができることであり、したがって、電気/ハイブリッド自動車の計算機に容易に組み込むことができることである。
【0147】
本発明は、また、同期電動装置を制御する方法に関する。以下の複数のステージが実行される。
−上記の方法を用いて、上述のように、印加された電圧uimpを注入することによって、上記電動装置の回転子の位置θおよび速度ωを求めること、および
−上記同期装置のトルクを、位置θおよび求められた速度ωに従って制御すること。このステージは、回転子の位置および速度と、測定された電圧および電流とに加えて、対象の電動装置のトルクのベクトル制御の、従来の任意の方法を用いて実行することができる。電動装置の制御について、位置および速度を考慮することは、電動装置の挙動を正確に求めることを認め、これは、達成するための動作に適した制御を可能にする。
【0148】
さらに、本発明は、上述の制御方法を適用するのに適した、同期電動装置の制御システムに関する。そのような、電動装置(4)を制御するためのシステム(1)は、図1に描かれている。電動装置の制御手段(1)は、上記電動装置(4)の回転子の位置および速度を求める手段(2)と、電動装置(4)のトルクを制御する手段(3)とを有する。手段(2)は、電動装置(4)の回転子の位置および速度を、電圧および電流の測定値um,imから求める。これらは、電動装置(4)の3つのフェーズのうちのそれぞれについての、複数の電圧と複数の電流である。トルク制御手段(3)は、電動装置(4)のためのトルク目標値を提供するために、内部温度と、速度ωと、電圧umおよび電流imとに従って、電圧をモータ端子に印加する。
【0149】
この制御システムは、車両、特に電気またはハイブリッド自動車に取り付けられた同期電動装置のために用いられる。しかしながら、記載された制御システムは、この実施形態に限定されず、全ての同期電動装置への適用に適している。
【符号の説明】
【0150】
1 制御手段
2 回転子位置および速度決定手段
3 トルク制御手段
4 電動装置
図1
図2