特許第6557453号(P6557453)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6557453化粧品用黒酸化鉄及びその製造方法並びにそれを配合した化粧料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557453
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】化粧品用黒酸化鉄及びその製造方法並びにそれを配合した化粧料
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/24 20060101AFI20190729BHJP
   C09C 3/06 20060101ALI20190729BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20190729BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20190729BHJP
   A61Q 1/10 20060101ALI20190729BHJP
   A61Q 1/08 20060101ALI20190729BHJP
   A61Q 3/02 20060101ALI20190729BHJP
   A61Q 1/06 20060101ALI20190729BHJP
   A61Q 5/02 20060101ALI20190729BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20190729BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20190729BHJP
   C01G 49/08 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   C09C1/24
   C09C3/06
   A61K8/19
   A61Q1/02
   A61Q1/10
   A61Q1/08
   A61Q3/02
   A61Q1/06
   A61Q5/02
   A61Q19/10
   A61Q19/00
   C01G49/08 B
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-120261(P2014-120261)
(22)【出願日】2014年6月11日
(65)【公開番号】特開2016-763(P2016-763A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2017年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109255
【氏名又は名称】チタン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】中村 明
(72)【発明者】
【氏名】森下 正育
(72)【発明者】
【氏名】内田 浩昭
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−106529(JP,A)
【文献】 特開2001−010821(JP,A)
【文献】 特開2000−351629(JP,A)
【文献】 特開2003−192352(JP,A)
【文献】 特開2011−213548(JP,A)
【文献】 特開2007−217320(JP,A)
【文献】 特開2007−314412(JP,A)
【文献】 特開2004−269355(JP,A)
【文献】 特開2001−151512(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0254157(US,A1)
【文献】 特開平10−279314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/24
C09C 3/06
A61Q 1/02
A61Q 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
八面体形状を呈しており、比表面積が8.0〜20.0m/gの範囲にあり、黒酸化鉄の粒子表面にアルミニウム、ケイ素、亜鉛、チタニウム、ジルコニウム、セリウム及び錫から選択される一種又は二種以上の水酸化物又は酸化物の被覆を有しており、かつJIS K5101−3−1に基づく淡色のL*値が31.0以下及びJIS K5101−3−1に基づく淡色のb*値が1.5以下であることを特徴とする高着色力黒酸化鉄であって、前記淡色のL*値及び前記淡色のb*値は、高着色力黒酸化鉄と二酸化チタンとを質量比1:3で含む塗膜について測定したものである、上記高着色力黒酸化鉄
【請求項2】
第一鉄塩水溶液と水酸化アルカリとを反応させて水酸化第一鉄スラリーを形成させ、
当該水酸化第一鉄スラリーに第二鉄塩水溶液を添加して、黒酸化鉄の核を形成させ、
黒酸化鉄の核を含む水酸化第一鉄スラリーのpHを12.0〜13.0に調整して、加熱しながら酸素含有ガスを通気して黒酸化鉄を成長させ、
黒酸化鉄の生成反応終了後のスラリーに無機金属塩を添加し、黒酸化鉄表面に当該無機金属塩の水酸化物又は酸化物の被覆を形成させることを特徴とする請求項1に記載の高着色力黒酸化鉄の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の高着色力黒酸化鉄を配合した化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色力の高い化粧品用黒酸化鉄及びその製造方法並びに当該黒酸化鉄を配合した化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アイライナーなどのポイントメイク化粧品には、黒色顔料が用いられている。化粧品用途に用いられる黒色顔料としては、カーボンブラック、黒酸化鉄およびチタンブラック等が一般的に知られている。これらの黒色顔料のうちカーボンブラックとチタンブラックは、化粧品用の色材として認可されている国もあれば、未許可の国もあり、国際化市場が進んでいる化粧品の材料としては制約が多い。
【0003】
一方、黒酸化鉄は安全性が高く、化粧品用黒色顔料として世界的に使用されているが、カーボンブラックと比べて着色力が低いため、十分な黒さを得るためには、化粧品への配合量を多くしなければならず、処方の自由度が小さくなっている。この問題を解決するため、黒酸化鉄の着色力を高める試みがなされている。
【0004】
黒酸化鉄の着色力を高める一つの手段として、粒度を小さくすることが考えられる。粒径を小さくする方法として、第一鉄イオンを含有する水溶液に不活性ガスをバブリングして水溶液中の溶存酸素含有量を減少させ、アルカリ性物質を添加して水酸化第一鉄を生成させ、60〜100℃に加熱して、粒径0.01〜0.1μmのマグネタイト微結晶(四三酸化鉄)を製造する方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、粒度を小さくすると表面積が大きくなり、高温で空気に触れた場合に黒酸化鉄の表面が酸化されてマグヘマイトが生成し赤味を帯びやすくなる。特許文献1には、微細な黒酸化鉄を得るために真空乾燥をすることが記載されているが、工業的な空気中乾燥では、茶色に変色してしまい、化粧品用途黒色顔料としての実用性に乏しい。
【0005】
元来、黒酸化鉄微粒子の製造は、製造する際の乾燥工程等での熱による変色の問題や使用時の熱変色等の耐熱性の課題を有している。水酸化アルカリ水溶液に第一鉄塩水溶液を添加し、80〜100℃で酸化性ガスを通気すると共にアルミニウム化合物を添加し、得られたマグネタイト粒子をろ過、水洗、乾燥、焼成及び粉砕する黒色顔料用マグネタイト粒子粉末の製造方法が提案されている(特許文献2)。特許文献2に記載のアルミニウム添加のマグネタイト粒子は、八面体形状を有し、平均粒子径が0.1〜0.2μm、比表面積が20m/g〜50m/gであるが、黒色顔料としての着色力に関しては十分とは言えない。アルミニウムを添加しなかった比較例1では比表面積は11.3m/gであるが、赤褐色となってしまい、黒色顔料は得られていない。
【0006】
また、水溶性第一鉄塩水溶液を水酸化アルカリまたは炭酸アルカリ水溶液に滴下し、空気を吹き込み、微細なゲーサイト(オキシ水酸化鉄(II))沈殿を得て、このゲーサイト沈殿を250〜350℃で水素還元処理することにより、粒径が100nm以下でかつ比表面積が40m/g以上である黒色四三酸化鉄が提案されている(特許文献3)。特許文献3に記載の黒色四三酸化鉄は、粒子形状が針状であるため分散し難く、着色力が十分とは言えないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−238819公報
【特許文献2】特開2000−327336公報
【特許文献3】特開昭57−200230公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、化粧料に使用した際に少量の配合でも十分な黒さ、隠蔽性およびカバー力が得られる高着色力黒酸化鉄及びその製造方法並びに当該高着色力黒酸化鉄を配合した化粧料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、化粧料に使用した際に少量の配合でも十分な黒さ、隠蔽性およびカバー力が得られる高着色力黒酸化鉄を開発するために鋭意検討を重ねた結果、八面体形状を呈しており、かつ比表面積が8.0〜20.0m/gの範囲にあり、粒子表面が無機化合物の一種または二種以上を含む層で被覆されており、淡色のL*値が31.0以下の着色力を持ち、かつ淡色のb*値が1.5以下と黒色度が高い高着色力黒酸化鉄を配合した化粧料は、少量の配合でも十分な黒さ、隠蔽性およびカバー力が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
本発明の黒酸化鉄の粒子形状は八面体である。黒酸化鉄は、合成条件により八面体の他に立方体、角無立方体や球状とすることができるが、これらの形状のうち、八面体が最も着色力が高い。粒子形状により着色力が変化する理由は明確ではないが、八面体は結晶性が良いために光の吸収効率が高くなり、着色力が高くなるものと考えている。また、結晶性が良いために耐熱性も向上する。
【0011】
本発明の黒酸化鉄は、粒径の指標である比表面積が8.0〜20.0m/gの範囲である。比表面積が8.0m/g未満である場合には、淡色のL*値が31.0以下の着色力を持つ高着色力黒酸化鉄は得られない。また、比表面積が20.0m/gを超えると淡色のb*値が1.5より大きくなって、茶色味が大きくなり黒色度が低下する。
【0012】
本発明の黒酸化鉄の粒子表面は、無機化合物の一種または二種以上を含む層で被覆されている。黒酸化鉄は、比表面積が大きくなるほど酸化されやすくなり、色調が茶色味を帯びて黒色度が低下するが、粒子表面を無機化合物の一種または二種以上を含む層で被覆すると、空気中の酸素との接触が遮断され、乾燥工程による酸化が小さくなり、茶色味が抑制されて黒色度の低下が小さくなる。本発明の黒酸化鉄の表面を被覆する無機化合物としては、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、チタニウム、ジルコニウム、セリウム及び錫等の金属の水酸化物又は酸化物が挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高着色力黒酸化鉄は、従来の黒酸化鉄に比べて着色力が高いので、化粧料に使用した際に、少量の配合でも十分な黒さ、隠蔽性およびカバー力が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で得られた高着色力黒酸化鉄の粒子形状を示す電子顕微鏡写真である。
図2】比較例1で得られた黒酸化鉄の粒子形状を示す電子顕微鏡写真である。
図3】代表的な黒酸化鉄であるチタン工業製BL−100Pの粒子形状を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の高着色力黒酸化鉄及びその製造方法並びに当該黒酸化鉄を配合した化粧料について詳しく説明する。
【0016】
本発明は、八面体形状を呈しており、かつ比表面積が8.0〜20.0m/gの範囲にあり、粒子表面が無機物の一種または二種以上を含む層で被覆され、淡色のL*値が31.0以下であり、かつ淡色のb*値が1.5以下であることを特徴とする高着色力黒酸化鉄及びその製造方法並びに本酸化鉄顔料を配合した化粧料に関する。本発明の黒酸化鉄の粒子形状とは、走査型電子顕微鏡写真より観察した形状を意味する。図1に示すように、本発明の黒酸化鉄の粒子形状は、明瞭な八面体形状である。
【0017】
本発明の黒酸化鉄の比表面積とは、試料を窒素中150℃30分間の脱気処理を行った後、マイクロメリティックス社製ジェミニ2360型にてBET1点法によって測定した比表面積を意味する。
【0018】
本発明の黒酸化鉄の淡色のL*値および淡色のb*値とは、試料0.125g、二酸化チタン0.375g及びスチレゾール1.0mlをフーバー式マラーで練ってペースト状とし、このペーストにスチレゾール2.0mlを追加し、混練、塗料化してキャストコート紙上に150μm(6mil)のアプリケーターを用いて塗布した塗布片(塗膜厚み:約30μm)を作製し、自然乾燥させた後、130℃で30分焼き付けをした後、スガ試験機製SM−7型カラーテスターを用いて測色し、JIS Z 8781−4に定めるところに従って示した表色指数(L*値およびb*値)を意味する。また、淡色とは、JIS K5101−3−1に定義される顔料の着色力の定義による。
【0019】
淡色のL*値は着色力の指標であって、淡色のL*値が小さいほど着色力が高い。従来の化粧品用黒酸化鉄の淡色のL*値は約38である。淡色のL*値が31.0以下であると、十分に着色力が高いと言える。
【0020】
淡色のb*値は黒色度の指標であり、淡色のb*値が大きいほど茶色味が大きくなって、黒色度が低下する。淡色のb*値が1.5を超えると茶色味が強すぎて黒色とは言えなくなる。淡色のb*値が負の値になると青味が強くなるが、青味がかった黒色も本発明の範囲に含まれる。
【0021】
(高着色力黒酸化鉄の製造方法)
本発明の高着色力黒酸化鉄の製造方法について詳細に説明する。
不活性ガス雰囲気中で所定温度に設定した第一鉄塩水溶液に、中和当量以上のアルカリ水溶液を加えて水酸化第一鉄スラリーを生成させる。次に、水酸化第一鉄スラリーに、所定量の第二鉄塩水溶液を添加して黒酸化鉄の核を生成させる。この後、黒酸化鉄の核を含むスラリーにアルカリ水溶液を追加して、スラリーpHを12.0〜13.0に調整し、好ましくは60〜100℃に加熱しながら酸素含有ガスを通気して、黒酸化鉄の核を成長させる。黒酸化鉄の生成反応終了後のスラリーに所定量の金属塩を添加し、酸或いはアルカリでpHを調整して金属塩を不溶性の水和酸化物にし、黒酸化鉄の粒子表面に被覆させる。次いで、無機化合物で被覆した黒酸化鉄を含むスラリーを、ろ別、洗浄して雑塩を取り除いた後、乾燥させて、本発明の無機化合物、好ましくは無機金属水酸化物又は酸化物で被覆した黒酸化鉄粒子を得る。
【0022】
本発明に使用できる第一鉄塩は、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、硝酸第一鉄などがある。又、アルカリ源としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウムなどの水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウムなどの炭酸塩、又、アンモニアガスなどを使用することができるが、中和温度が高い場合にはアンモニア系のものは揮散するため、水酸化物を使用することが好ましい。
【0023】
本発明に使用できる第二鉄塩は、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄などがある。第二鉄塩の添加量は、Fe2+に対し、Fe3+換算で0.8〜5.0重量%である。第二鉄塩の添加量が少なすぎると、黒酸化鉄の比表面積が8.0m/gより小さくなる。一方、第二鉄塩の添加量が多すぎると、比表面積が20.0m/gを超えてしまう。
【0024】
黒酸化鉄の核を含むスラリーのpHが12.0未満では、黒酸化鉄の成長が不十分で、八面体形状の粒子は得られない。スラリーpHが13.0を超えても八面体形状にはなるが、アルカリ使用量が増えるので経済的ではない。黒酸化鉄の核を含むスラリーを加熱する温度が60℃未満の場合は、ゲーサイトなど黒酸化鉄以外の結晶が生成して着色力や黒色度が低下する。100℃を越える場合でも本発明の目的とする高着色力黒酸化鉄が得られるが、経済的ではない。
【0025】
高着色力黒酸化鉄の生成反応が終了したスラリーは、乾燥工程での酸化による黒色度の低下を抑制するために、粒子表面を無機化合物の一種または二種以上を含む層で被覆する。黒酸化鉄を含むスラリーに所定量の無機金属塩を添加して無機金属塩を不溶性の水和酸化物にすることにより、黒酸化鉄粒子表面を無機化合物で被覆することができる。本発明に使用できる無機金属塩としては、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、チタニウム、ジルコニウム、セリウム及び錫等の金属の水酸化物又は酸化物を形成することができるものであれば特に制限されないが、好ましくはアルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、四塩化ケイ素、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸チタン、四塩化チタン、オキシ塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、塩化セリウム、硝酸セリウム、酢酸セリウム、塩化錫、硫酸第一錫、錫酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0026】
無機金属塩の添加量は、黒酸化鉄を100重量%として水酸化物量または酸化物量が0.5〜5.0重量%の無機化合物、好ましくは金属の水酸化物又は酸化物の被覆を形成することができる量であることが望ましい。無機化合物の被覆量が0.5重量%未満では、黒酸化鉄粒子が乾燥工程で酸化されて、色調が茶色味を帯び、黒色度の低下が抑えられない。無機化合物の被覆量が5.0重量%を超えると黒酸化鉄の割合が減ることになり、着色力が低下する。
【0027】
(有機表面処理)
本発明の黒酸化鉄粒子を配合した化粧料を製造する際の分散媒体中での分散安定性及び耐久性の向上のため、本発明の黒酸化鉄粒子表面を有機物によって撥水及び/又は撥油化処理してもよい。この場合の有機物としては、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン等のシリコーン系化合物、シラン系、アルミニウム系、チタニウム系及びジルコニウム系等のカップリング剤、パーフルオロアルキルリン酸化合物等のフッ素化合物、炭化水素、レシチン、アミノ酸、ポリエチレン、ロウやラウリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸等の脂肪酸等が挙げられる。
【0028】
(化粧料)
本発明によれば、化粧料の主成分に対して、無機化合物で表面被覆された黒酸化鉄粒子(高着色力黒酸化鉄)を所定量配合した化粧料も提供される。化粧料中の高着色力黒酸化鉄の配合量は、各種化粧料の要求特性に応じて任意に設定することができるが、化粧料中0.01〜50重量%が好ましく、より好ましくは0.02〜40重量%である。
【0029】
(併用可能な無機顔料及び有機顔料)
本発明の化粧料には、通常の化粧料に使用される無機顔料、有機顔料等の各種添加成分を必要に応じて併用できる。併用できる無機顔料には、酸化チタン、酸化亜鉛、ベンガラ、黄酸化鉄、群青、紺青、酸化セリウム、タルク、白雲母、合成雲母、金雲母、黒雲母、合成フッ素金雲母、雲母チタン、雲母状酸化鉄、セリサイト、ゼオライト、カオリン、ベントナイト、クレー、ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チッ化ホウ素、オキシ塩化ビスマス、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化クロム、カラミン、ヒドロキシアパタイトおよびこれらの複合体等を挙げることができる。同じく併用できる有機顔料には、シリコーン粉末、シリコーン弾性粉末、ポリウレタン粉末、セルロース粉末、ナイロン粉末、ウレタン粉末、シルク粉末、PMMA粉末、スターチ、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末、タール色素、天然色素、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸等およびこれらの複合体等を挙げることができる。
【0030】
(配合可能な成分)
なお、本発明の化粧料は、上記成分の他に、目的に応じて本発明の効果を損なわない量的、質的範囲内で他の成分を配合することができる。例えば、油性成分、色素、pH調整剤、保湿剤、増粘剤、界面活性剤、分散剤、安定化剤、着色剤、防腐剤、酸化防止剤、金属封鎖剤、収斂剤、消炎剤、紫外線吸収剤、香料等も、本発明の目的を達する範囲内で適宜配合することができる。
【0031】
(化粧料の剤型)
本発明の化粧料は公知の方法で製造することができ、化粧料の剤型としては粉末状、粉末固形状、クリーム状、乳液状、ローション状、油性液状、油性固形状、ペースト状等のいずれの状態であってもよく、例えばメークアップベース、ファンデーション、コンシーラー、フェースパウダー、コントロールカラー、日焼け止め化粧料、口紅、リップクリーム、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ、チークカラー、マニキュア、ボディーパウダー、パヒュームパウダー、ベビーパウダー、固形石鹸、入浴剤、ピールオフパック等のメークアップ化粧料、スキンケア化粧料、ヘアケア化粧料等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。以下に挙げる例は単に例示のために記すものであり、発明の範囲がこれによって制限されるものではない。
【0033】
[製造実施例1]
不活性ガス雰囲気中で、1.67mol/LのNaOH水溶液3.85Lに、Fe2+1.50mol/Lを含む硫酸第一鉄水溶液2.15Lを加え、水酸化第一鉄の生成を行った。(水酸化ナトリウムの使用量はFe2+に対し、1.04当量に該当する。)次いで、水酸化第一鉄を含む水溶液に、Fe2+に対しFe3+として1.7重量%の硫酸第二鉄水溶液を添加して、黒酸化鉄の結晶核を生成させた。次に、黒酸化鉄の核を含む水酸化第一鉄スラリーに、NaOH水溶液を添加して、pHを12.3に調整した。この核を含む水酸化第一鉄スラリーを温度90℃において、機械撹拌を行いながら、毎分2Lの空気を120分通気して、黒酸化鉄粒子を成長させた。次いで生成した黒酸化鉄に対しAlとして1.5重量%のアルミン酸ナトリウムを撹拌しながらゆっくりと添加し、1時間撹拌を行った後、希硫酸を添加しpHを8.0に調整した。これをろ別、洗浄した後、100℃にて乾燥してサンプルAを得た。サンプルAの電子顕微鏡写真を図1に示す。図1から明らかなように、得られたサンプルAの粒子形状は八面体であった。BET法により測定したサンプルAの比表面積は、13.3m/gであった。また、サンプルAは淡色のL*値が27.4、淡色のb*値が−1.1であった。
【0034】
[製造実施例2]
不活性ガス雰囲気中で、1.67mol/LのNaOH水溶液3.85Lに、Fe2+1.50mol/Lを含む硫酸第一鉄水溶液2.15Lを加え、水酸化第一鉄の生成を行った。(水酸化ナトリウムの使用量はFe2+に対し、1.04当量に該当する。)次いで、水酸化第一鉄を含む水溶液に、Fe2+に対しFe3+として4.2重量%の硫酸第二鉄水溶液を添加して、黒酸化鉄の核を生成させた。次に、黒酸化鉄の核を含む水酸化第一鉄スラリーに、NaOH水溶液を添加して、pHを12.5に調整した。この核を含む水酸化第一鉄スラリーを温度85℃において、機械撹拌を行いながら、毎分2Lの空気を120分通気して、黒酸化鉄粒子を成長させた。次いで生成した黒酸化鉄に対しAlとして3.0重量%のアルミン酸ナトリウムを撹拌しながらゆっくりと添加し、1時間撹拌を行った後、希硫酸を添加しpHを8.0に調整した。これをろ別、洗浄した後、100℃にて乾燥してサンプルBを得た。サンプルBの粒子形状は八面体であり、比表面積は18.8m/gであった。また、サンプルBは淡色のL*値が27.7、淡色のb*値が1.1であった。
【0035】
[製造実施例3]
不活性ガス雰囲気中で、1.67mol/LのNaOH水溶液3.85Lに、Fe2+1.50mol/Lを含む塩化第一鉄水溶液2.15Lを加え、水酸化第一鉄の生成を行った。(水酸化ナトリウムの使用量はFe2+に対し、1.04当量に該当する。)次いで、水酸化第一鉄を含む水溶液に、Fe2+に対しFe3+として0.9重量%の塩化第二鉄水溶液を添加して、黒酸化鉄の核を生成させた。次に、黒酸化鉄の核を含む水酸化第一鉄スラリーにNaOH水溶液を添加して、pHを12.1に調整した。この核を含む水酸化第一鉄スラリーを温度95℃において、機械撹拌を行いながら、毎分2Lの空気を120分通気して、黒酸化鉄粒子を成長させた。次いで生成した黒酸化鉄に対しAlとして1.5重量%のアルミン酸ナトリウムを撹拌しながらゆっくりと添加し、1時間撹拌を行った後、希塩酸を添加しpHを8.0に調整した。これをろ別、洗浄した後、100℃にて乾燥してサンプルCを得た。サンプルCの粒子形状は八面体であり、比表面積は8.6m/gであった。また、サンプルCは淡色のL*値が28.8、淡色のb*値が−2.9であった。
【0036】
[製造実施例4]
不活性ガス雰囲気中で、1.67mol/LのNaOH水溶液3.85Lに、Fe2+1.50mol/Lを含む硫酸第一鉄水溶液2.15Lを加え、水酸化第一鉄の生成を行った。(水酸化ナトリウムの使用量はFe2+に対し、1.04当量に該当する。)次いで、水酸化第一鉄を含む水溶液に、Fe2+に対しFe3+として1.7重量%の硫酸第二鉄水溶液を添加して、黒酸化鉄の核を生成させた。次いで、黒酸化鉄の核を含む水酸化第一鉄スラリーにNaOH水溶液を添加して、pHを12.7に調整した。この核を含む水酸化第一鉄スラリーを温度80℃において、機械撹拌を行いながら、毎分2Lの空気を120分通気して、黒酸化鉄粒子を成長させた。次いで生成した黒酸化鉄に対しSiOとして3.0重量%のケイ酸ナトリウムを撹拌しながらゆっくりと添加し、1時間撹拌を行った後、希塩酸を添加しpHを5.0に調整した。これをろ別、洗浄した後、100℃にて乾燥してサンプルDを得た。サンプルDの粒子形状は八面体であり、比表面積は13.0m/gであった。また、サンプルDは淡色のL*値が27.5、淡色のb*値が−1.0であった。
【0037】
[製造比較例1]
核生成後の調整pHを8.8とした以外は、製造実施例1と同様にしてサンプルEを得た。サンプルEの電子顕微鏡写真を図2に示す。図2より明らかなように、粒子形状は球状であった。サンプルEの比表面積は12.0m/gであった。また、サンプルEは淡色のL*値が31.5、淡色のb*値が−1.6であった。
【0038】
[製造比較例2]
硫酸第二鉄水溶液の添加量をFe2+に対しFe3+として0.7重量%とした以外は、製造実施例1と同様にしてサンプルFを得た。サンプルFの粒子形状は八面体であり、比表面積は7.5m/gであった。また、サンプルFは淡色のL*値が31.7、淡色のb*値が−3.4であった。
【0039】
[製造比較例3]
硫酸第二鉄水溶液の添加量をFe2+に対しFe3+として7.0重量%とした以外は、製造実施例1と同様にしてサンプルGを得た。サンプルGの粒子形状は八面体であり、比表面積は22.0m/gであった。また、サンプルGは淡色のL*値が27.5であり、淡色のb*値が2.4であった。
【0040】
[製造比較例4]
黒酸化鉄生成後の表面処理(アルミン酸ナトリウムの添加)を行わない以外は、製造実施例1と同様にしてサンプルHを得た。サンプルHの粒子形状は八面体であり、比表面積は13.1m/gであった。また、サンプルHは淡色のL*値が28.9、淡色のb*値が1.7であった。
【0041】
[実施例1〜実施例4、比較例1〜比較例5:プレスタイプアイシャドー]
製造実施例1〜4で得られたサンプルA〜Dおよび製造比較例1〜5で得られたサンプルE〜H、さらに代表的な黒酸化鉄として図3の写真に示したチタン工業製 BL−100P(粒子形状:角無立方体、比表面積:6.6m/g、淡色のL*値:39.0、淡色のb*値:−4.2)20.0重量%、セリサイト 35.0重量%、タルク 14.9重量%、雲母チタン(BASF製:Flamenco Super Pearl 120C)20.0重量%およびメチルパラベン 0.1重量%を混合粉砕し、混合した。ついで、別の容器にて混合していたジメチコン1000cs 7.0重量%とリンゴ酸ジイソステアリル 3.0重量%を加えて、均一になるよう撹拌混合した。この混合物をイソプロピルアルコールに適度な粘性になるよう分散させ、これをスラリー充填機にて直径57mm、深さ4mmの金皿に圧縮充填した。40℃で12時間乾燥し、目的のプレスタイプアイシャドーを得た。
[高着色力黒酸化鉄を用いた評価項目および評価方法]
(官能試験)
得られたプレスタイプアイシャドーについて、カバー力、黒色度、つや等の官能試験を行った。
【0042】
(評価および評価基準)
実施例1〜4および比較例1〜5で作製したプレスタイプアイシャドーをパネラー10人に使用させ、表1の官能試験項目について5段階に分けて官能評価し、その平均点より判定した。
(評価基準)
非常に良好:5点 良好:4点 普通:3点 やや不良:2点 不良:1点
(判定基準)
4.0〜5.0点:◎ 3.0〜4.0点未満:○ 2.0〜3.0点未満:△
1.0〜2.0点未満:×
その結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
官能試験の結果、本発明の実施例1〜5により得られたプレスタイプアイシャドーはいずれも比較例1〜4や従来の黒酸化鉄を配合した比較例5に比べ、カバー力や黒色度に優れ、つやのある仕上がりであった。このように、八面体形状を呈しており、かつ比表面積が8.0〜20.0m/gの範囲にあり、粒子表面が無機化合物の一種または二種以上を含む層で被覆され、L*値が31.0以下であり、かつb*値が1.5以下であることを特徴とする高着色力黒酸化鉄を化粧料に配合することにより、カバー力や黒色度に優れ、つやのある仕上がり演出する化粧料を提供できた。
【0045】
[実施例5:水性アイライナー]
【表2】
(製造方法)
A:成分1〜3を秤量し、ビーズミルにて黒酸化鉄を微細に分散させた。
B:別の容器に成分4〜7を秤量し、70℃でAを加えて均一に分散した後、室温まで冷却し、成分8を加え、水性アイライナーを得た。
得られた水性アイライナーは、黒色度が高く隠蔽性が高いものであった。
【0046】
[実施例6:乳化マスカラ]
【表3】
(製造方法)
A:成分8〜10をヘンシェルミキサーにて撹拌混合した。
B:成分1〜7にAを加え、撹拌機にて均一に分散した。
C:Bに加熱溶解させた成分11〜16を加え乳化させた後、40℃まで冷却し、成分17を加え、室温まで冷却し、乳化マスカラを得た。
得られた乳化マスカラは、若干赤みがあるが黒色度、隠蔽性に優れた乳化マスカラであった。
【0047】
[実施例7:アイブロウペンシル]
【表4】
(製造方法)
A:成分1〜4を混合粉砕した。
B:成分5〜13を加熱溶解し、これにAを加えて3本ロールミルにて均一練り合わせた。
C:芯に成型し、木にはさんで鉛筆状にし、アイブロウペンシルを得た。
得られたアイブロウペンシルは、黒色度が高いばかりか配合量が低減できるため、滑らかな使用感となった。
【0048】
[実施例8:ほほ紅]
【表5】
(製造方法)
A:成分1〜7をヘンシェルミキサーで混合した。
B:成分8〜11を加熱溶解させ、これをAに混合した後、アトマイザーにて粉砕した。
C:これをアルミ皿にプレス成型し、目的のほほ紅を得た。
得られたほほ紅は、使用性に優れたほほ紅であった。
【0049】
[実施例9:ネイルエナメル]
【表6】
(製造方法)
A:成分2、3の各半量を採取し、成分7〜8を混合し、よく練り合わせた。
B:Aに成分2、3の残部と成分1、4〜6および9を添加し、均一になるまで混合し、ネイルエナメルを得た。
得られたネイルエナメルは、黒色度および隠蔽性に優れたネイルエナメルであった。
【0050】
[実施例10:O/W乳化ファンデーション]
【表7】
(製造方法)
A:成分7〜11を混合粉砕した。
B:85℃にて加熱溶解した成分1〜6にAを加え均一に分散した。
C:成分12〜16を85℃にて加熱溶解し、Bにこれを徐々に添加して乳化を行い、室温まで撹拌冷却後、適当な容器に充填し、O/W乳化ファンデーションを得た。
得られたO/W乳化ファンデーションは、伸びが良く、さらっとした使用感でありながら、カバー力に優れたO/W乳化ファンデーションであった。
【0051】
[実施例11:2WAYケーキファンデーション]
【表8】
(製造方法)
A:成分1〜8をヘンシェルミキサーで混合した。
B:成分9〜13を加熱溶解させ、これをAに混合した。
C:Bをアトマイザーにて粉砕し、アルミ皿にプレス成型し、2WAYファンデーションを得た。
得られた2WAYファンデーションは、滑らかな使用感で、さっぱりとした使用感の2WAYファンデーションであった。
【0052】
[実施例12:口紅]
【表9】
(製造方法)
A:成分1〜16を秤量し、加熱混合した。
B:Aを3本ロールで均一に分散した後、さらに加熱し均一に撹拌した。
C:脱泡後、モールドにバルクを流し込み、急冷した。適当な容器に装着し、口紅を得た。
得られた口紅は、深い赤みが得られ、独特の色調を示した。
【0053】
[実施例13:ボディーシャンプー]
【表10】
(製造方法)
A:成分1〜3を70〜80℃で加熱溶解させた。
B:成分10〜11を混合粉砕した。
C:Aに、成分4を徐々に加えケン化を行った。ケン化が終了した時点で、成分5〜9を加え均一になるまで撹拌した。
D:を40℃まで冷却し、これにBを加え、撹拌混合しながら室温まで冷却し、ボディーシャンプーを得た。
得られたボディーシャンプーは、少量で着色するため、高温環境下で顔料の沈降を抑制することが出来た。
【0054】
[実施例14:固形石鹸]
【表11】
(製造方法)
A:成分1の組成の脂肪酸に、水酸化ナトリウム(48%)と水酸化カリウム(48%)を添加し、高温で撹拌混合し、成分1の脂肪酸アルカリ金属塩を調製した。
B:Aに成分2〜4を加え、混合し、更に3本ロールを用いて均一化した。
C:Bを押出し機で混練・加圧圧縮して棒状石鹸に押し出した後、型打ち機で成形することによって、固形石鹸を得た。
得られた固形石鹸は、水分量が11.5%で、若干の赤みを呈した黒色の安定性に優れた石鹸であった。
【0055】
[実施例15:粉末状入浴剤]
【表12】
(製造方法)
成分1〜7を秤量し、ヘンシェルミキサーにて均一に混合し、粉末状入浴剤を得た。
得られた粉末状入浴剤を使用した場合、浴槽中の湯が半透明性を有する黒色を呈した。
【0056】
[実施例16:ピールオフパック]
【表13】
(製造方法)
A:成分9〜11を混合粉砕した。
B:成分1〜8を加熱溶解させ、これにAを加え均一に分散させた後、40℃まで冷却した。
C:成分12〜14をBに加えて室温まで撹拌冷却し、ピールオフパックを調製した。
得られたピールオフパックは、均一な黒色を示し、パック後の皮脂や汚れが実感できるものとなった。
図1
図2
図3