(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
モデルパラメータの各セットが、所望のエンジン音の少なくとも基本周波数及びより高次の高調波周波数と、対応する振幅及び位相値とを表す、請求項1に記載のシステム。
前記誘導信号が、エンジンの回転速度信号、エンジン負荷を表す信号、車両速度を表す信号のうちの少なくとも1つを含む、請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項に記載のシステム。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1)
少なくとも1つのスピーカを使用してリスニングルームの少なくとも1つのリスニング位置において合成エンジン音を再生するシステムにおいて、
様々な予め定義されたモデルパラメータのセットを含むモデルパラメータ・データベースと、
少なくとも1つの誘導信号を受信し、前記誘導信号に応じて1セットのモデルパラメータを選択し、前記モデルパラメータの選択されたセットに応じて合成エンジン音信号を生成するように構成されたエンジン音合成装置と、
対応する音響信号を生成することによって前記合成エンジン音を再生する少なくとも1つのスピーカと、
前記合成エンジン音信号を受信し、得られた音響エンジン音信号についての前記リスニングルームの効果が前記リスニング位置においておおよそ補償されるように設定されたフィルタ伝達関数に応じて前記合成エンジン音信号をフィルタリングするように構成されているイコライザと、
得られた前記合成エンジン音信号が変更されたモデルパラメータのセットから生成された場合に、得られた音響信号についての前記リスニングルームの効果が前記リスニング位置においておおよそ補償されるように設定された等化フィルタパラメータに応じて前記モデルパラメータ・データベースにおける前記予め定義されたモデルパラメータのセットを変更するように構成されたモデルパラメータ調整ユニットのうちの1つとを備える、システム。
(項目2)
モデルパラメータの各セットが、所望のエンジン音の少なくとも基本周波数及びより高次の高調波周波数と、対応する振幅及び位相値とを表す、上記項目に記載のシステム。
(項目3)
各対のリスニング位置及びスピーカが室内伝達関数(RTF)に関連付けられており、前記システムが、さらに、前記イコライザ又は前記モデルパラメータ調整ユニットによって使用された前記RTFを定期的に又は連続的に測定して更新するように構成されたシステム識別ユニットを含む、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目4)
前記誘導信号が、エンジンの回転速度信号、エンジン負荷を表す信号、車両速度を表す信号のうちの少なくとも1つを含む、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目5)
さらに、少なくとも1つの音声信号を提供する音声信号源を備える、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目6)
前記少なくとも1つの音声信号が前記合成エンジン音信号に重畳され、得られた和信号が前記イコライザに供給される、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目7)
前記モデルパラメータ調整ユニットが、得られた前記合成エンジン音信号が変更されたモデルパラメータのセットから生成され、且つ、前記リスニングルームの効果がおおよそなくなるように、得られた前記音響信号が前記リスニング位置においておおよそ補償されるように設定された前記イコライザのフィルタパラメータに応じて前記モデルパラメータ・データベースにおける前記予め定義されたモデルパラメータのセットを変更するように構成されており、
前記合成エンジン音信号が、対応するスピーカに供給される前に、前記音響信号に重畳される、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目8)
前記音響信号が、前記合成エンジン音信号に重畳される前に等化される、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目9)
少なくとも1つのスピーカを使用してリスニングルームの少なくとも1つのリスニング位置において合成エンジン音を再生する方法において、
様々な予め定義されたモデルパラメータのセットを含むモデルパラメータ・データベースを提供することと、
少なくとも1つの誘導信号を受信し、前記誘導信号に応じてモデルパラメータの1セットを選択することと、
少なくとも1つの合成エンジン音信号を、前記選択されたモデルパラメータのセットに応じて合成することと、
対応する音響エンジン音信号を生成することによって前記合成エンジン音信号を再生することと、
得られた前記音響エンジン音信号についての前記リスニングルームの効果が前記リスニング位置においておおよそ補償されるように設定されたフィルタ伝達関数に応じて前記合成エンジン音信号をフィルタリングすることと、
得られた前記合成エンジン音信号が変更されたモデルパラメータのセットから生成された場合に、得られた前記音響エンジン音信号における前記リスニングルームの効果が前記リスニング位置においておおよそ補償されるように、等化フィルタパラメータのセットに応じて前記モデルパラメータ・データベースにおける前記予め定義されたモデルパラメータのセットを変更することと、
のうちの1つとを備える、方法。
(項目10)
モデルパラメータの各セットが、所望のエンジン音の少なくとも基本周波数及びより高次の高調波周波数と、対応する振幅及び位相値とを表す、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目11)
さらに、
前記合成エンジン音信号をフィルタリングするためのフィルタ係数を得るために使用された又は前記モデルパラメータ・データベースにおける前記予め定義されたモデルパラメータのセットを変更するために使用されたRTFを定期的に又は連続的に測定して更新することを備える、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目12)
前記誘導信号が、エンジンの回転速度信号、エンジン負荷を表す信号、車両速度を表す信号のうちの少なくとも1つを含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目13)
さらに、
少なくとも1つの音声信号を提供することと、
前記合成エンジン音信号に前記音声信号を重畳して和信号をもたらすこととを備え、
フィルタ伝達関数に応じて前記合成エンジン音信号をフィルタリングすることが、前記和信号をフィルタリングすることを含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目14)
さらに、
変更された前記モデルパラメータのセットから得られた前記合成エンジン音信号を、等化された音声信号に重畳することを備え、前記等化が、得られた前記音響信号についての前記リスニングルームの効果が前記リスニング位置においておおよそ補償されるように設定された前記フィルタ伝達関数に応じて前記音声信号をフィルタリングすることによって達成される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(摘要)
リスニングルームの少なくとも1つのリスニング位置において合成エンジン音を再生するシステムが記載されている。本発明の例によれば、システムは、様々な予め定義されたモデルパラメータのセットを含むモデルパラメータ・データベースを備える。エンジン音合成装置は、少なくとも1つの誘導信号を受信し、誘導信号に応じて1セットのモデルパラメータを選択するように構成されている。エンジン音合成装置は、モデルパラメータの選択されたセットに応じて合成エンジン音信号を生成する。少なくとも1つのスピーカは、対応する音響信号を生成することによって合成エンジン音を再生するために使用される。さらに、システムは、(1)合成エンジン音信号を受信し、得られた音響エンジン音信号についてのリスニングルームの効果がリスニング位置においておおよそ補償されるように設定されたフィルタ伝達関数に応じて合成エンジン音信号をフィルタリングするように構成されているイコライザと、(2)得られた合成エンジン音信号が変更されたモデルパラメータのセットから生成された場合に、得られた音響信号についてのリスニングルームの効果がリスニング位置においておおよそ補償されるように設定されたイコライザのフィルタパラメータに応じてモデルパラメータ・データベースにおける予め定義されたモデルパラメータのセットを変更するように構成されたモデルパラメータ調整ユニットとのうちの1つを備える。
【0005】
リスニングルームの少なくとも1つのリスニング位置において合成エンジン音を再生するシステムが記載されている。本発明の例によれば、システムは、様々な予め定義されたモデルパラメータのセットを含むモデルパラメータ・データベースを備える。エンジン音合成装置は、少なくとも1つの誘導信号を受信し、誘導信号に応じて1セットのモデルパラメータを選択するように構成されている。エンジン音合成装置は、モデルパラメータの選択されたセットに応じて合成エンジン音信号を生成する。少なくとも1つのスピーカは、対応する音響信号を生成することによって合成エンジン音を再生するために使用される。さらに、システムは、(1)合成エンジン音信号を受信し、得られた音響エンジン音信号についてのリスニングルームの効果がリスニング位置においておおよそ補償されるように設定されたフィルタ伝達関数に応じて合成エンジン音信号をフィルタリングするように構成されているイコライザと、(2)得られた合成エンジン音信号が変更されたモデルパラメータのセットから生成された場合に、得られた音響信号についてのリスニングルームの効果がリスニング位置においておおよそ補償されるように設定されたイコライザのフィルタパラメータに応じてモデルパラメータ・データベースにおける予め定義されたモデルパラメータのセットを変更するように構成されたモデルパラメータ調整ユニットとのうちの1つを備える。
【0006】
さらに、少なくとも1つのスピーカを使用してリスニングルームの少なくとも1つのリスニング位置において合成エンジン音を再生する方法が記載されている。他の実施形態によれば、本方法は、様々な予め定義されたモデルパラメータのセットを含むモデルパラメータ・データベースを提供することと、少なくとも1つの誘導信号を受信し、誘導信号に応じてモデルパラメータの1セットを選択することとを備える。少なくとも1つの合成エンジン音信号は、選択されたモデルパラメータのセットに応じて合成される。合成エンジン音信号は、対応する音響エンジン音信号を生成することによって再生される。さらにまた、本方法は、以下のうちの1つを備える:(1)得られた音響エンジン音信号についてのリスニングルームの効果がリスニング位置においておおよそ補償されるように設定されたフィルタ伝達関数に応じて合成エンジン音信号をフィルタリングすることと、(2)得られた合成エンジン音信号が変更されたモデルパラメータのセットから生成された場合に、得られた音響エンジン音信号におけるリスニングルームの効果がリスニング位置においておおよそ補償されるように、等化フィルタパラメータのセットに応じてモデルパラメータ・データベースにおける予め定義されたモデルパラメータのセットを変更すること。
【0007】
様々な実施形態は、以下の図面及び説明を参照しながらより良好に理解されることができる。図中の構成要素は、必ずしも縮尺どおりではなく、代わりに強調は、本発明の原理の説明において設定される。さらに、図面において、同様の参照符号は、対応する部分を指す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
車外からの音知覚は、毎時30−40kmまでの走行速度についてエンジン音によって支配される。従って、エンジンの音は、特に走行速度が低い都市地域においては車両の接近を他の交通参加者に警告する支配的な「警報信号」である。上述したように、人々、特に歩行者や聴覚能力が低い人々が接近する車両を聞くのを可能とするために、電気自動車又はハイブリッド自動車が最小レベルの音を放射することが要求されることがある。さらにまた、内燃機関の典型的な音はまた、(回転速度、スロットル位置、エンジン負荷等に関する)車両の動作状態に関する音響フィードバックを運転者に提供するために車両の内部にも望まれることがある。
【0010】
多くの用途において、関心のある信号は、広帯域ノイズによって破損した複数の正弦波信号成分から構成されている。正弦波又は「高調波」モデルは、そのような信号を分析してモデル化するのに適切である。さらに、正弦波信号成分から主に構成された信号は、音声処理におけるフォルマント周波数等の異なる用途においてみられる。正弦波信号モデリングはまた、それらが一般に比較的ゆっくりと変化する正弦波信号成分を有する高調波又はほぼ高調波信号を再生することから、楽器によって再生された音を分析して合成するのに成功裏に適用されることができる。正弦波信号モデリングは、元の信号が合成、すなわち、(高調波及び残差)成分の付加(又は重ね合わせ)によって回復されることができるように可聴信号成分のパラメータ表現を提供する。
【0011】
車両の燃焼機関等の回転機械システムは、非常に高調波の内容及び広帯域ノイズ信号を有し、それゆえに、「正弦波信号プラス残差」モデルは、実際の燃焼機関によって再生される音を分析して合成するのに非常に適している。この目的のために、内燃機関によって生成された音は、例えば、車両がシャーシローラダイナモメータに配置され、異なる負荷条件及び様々なエンジン回転速度で動作しているとき、車外に配置された1つ以上のマイクロフォンを使用して記録されることができる。得られた音声データは、適切な合成装置によってモータ音を容易に再生するために、(例えば、電気自動車において)後に使用されることができる音声データからモデルパラメータを「抽出」するために分析されることができる。モデルパラメータは、一般に、一定ではなく、特にエンジン回転速度に依存して変化し得る。
【0012】
図1は、上述したモデルパラメータを抽出するために周波数領域で音声信号を分析するシステムを図示している。(時間インデックスnを有する)時間離散入力信号x[n]は、上述したように、測定によって得られた音声データである。
図1において、測定は、一般に、入力信号x[n]を提供する入力信号源10によって表される。入力信号x[n]は、ディジタル短時間フーリエ変換(STFT)アルゴリズム(例えば、FFTアルゴリズム)を使用して周波数領域に変換されることができる。周波数領域において入力信号X(e
jω)を生成するためにSTFTを実行する機能ブロックは、
図1における符号20によってラベル付けされている。周波数領域において入力信号X(e
jω)から始めると、以下の全ての信号の分析は、周波数領域において行われる。しかしながら、信号処理は、周波数領域に限定されるものではない。信号処理は、時間領域において部分的に又は排他的に実行されてもよい。しかしながら、周波数領域信号処理を使用する場合は、高調波正弦波信号の数は、使用されたFFT長さによって制限される。
【0013】
図1に図示されたシステムによれば、入力信号X(e
jω)は、正弦波信号成分の推定を実行する機能ブロック30に供給されることができる。本例において、この機能は、基本周波数f
0の推定(機能ブロック31)と、周波数f
1,f
2,・・・,f
Nを有するN次高調波正弦波信号の推定(機能ブロック32)という2つの部分に分割される。このタスクを達成するための多くの方法は、当該技術分野において知られており、ここでは詳述しない。しかしながら、全ての方法は、以下のように表現されることができる信号モデルに基づいている。
x[n]=A
0sin(ω
0n+ψ
0)+A
1sin(ω
1n+ψ
1)+・・・+A
Nsin(ω
Nn+ψ
N)+r[n] (1)
【0014】
すなわち、入力信号x[n]は、以下の重ね合わせとしてモデル化される:(角周波数ω
0に対応する)基本周波数f
0を有する正弦波信号、(角周波数ω
1からω
Nにそれぞれ対応する)周波数f
1からf
Nを有するN次高調波正弦波信号、及び、広帯域の非周期的な残差信号r[n]。正弦波信号推定(ブロック30)の結果は、推定周波数f=(f
0,f
1,・・・,f
N)、対応する振幅A=(A
0,A
1,・・・,A
N)及び位相値ψ=(ψ
0,ψ
1,・・・,ψ
N)を含む3つの対応するベクトルであり、基本周波数の位相ψ
0は、ゼロに設定されることができる。これらの周波数、振幅及び位相値を表すベクトルf、A及びψは、例えば、900rpm、1000rpm、1100rpm等のエンジン回転速度に対応する様々な異なる基本周波数に対して決定されることができる。さらにまた、ベクトルf、A及びψは、エンジンの動作モードを表す異なるエンジン負荷又は他の非音響パラメータ(ギア数、アクティブリバースギア等)に対して決定されることができる。
【0015】
1つ以上の非音響パラメータ(ギア数、アクティブリバースギア等)にも依存し得る残差信号r[n]を推定するために、個々の正弦波信号の重ね合わせによって入力信号の総(推定)高調波内容を合成するために推定されたモデルパラメータ(すなわち、ベクトルf、A及びψ)が使用される。これは、
図1におけるブロック40によって達成される。入力信号の結果として生じる推定高調波部分は、周波数領域においてH(e
jω)及び時間領域においてh[n]として示される。合成信号H(e
jω)は、上述した時間領域信号r[n]の周波数領域と等価である残差信号R(e
jω)を得るために入力信号X(e
jω)から減算されることができる(ブロック50を参照)。残差信号は、(例えば、非線形平滑化フィルタ60による)フィルタリングの対象とすることができる。そのようなフィルタは、残差信号を平滑化する、すなわち、過渡アーチファクト、スパイク又は推定残差信号R(e
jω)等を抑制するように構成されることができる。フィルタリングされた残差信号R’(e
jω)は、残差信号を特徴付けるモデルパラメータを得るために行われる信号分析を表すブロック70に供給される。この信号分析は、とりわけ、残差信号のパワースペクトルの線形予測符号化(LPC)又は単純計算を含むことができる。例えば、残差信号のパワースペクトルは、心理音響学的に臨界帯域の制限を考慮して選択されることができる異なるスペクトル領域(心理音響学的に動機付けされた周波数スケールに応じた周波数帯域;例えば、Fastl、Hugo;Zwicker、Eberhard;Psychoacoustics(第3版)、Springer、2007年を参照)において計算されることができる。バーク又はメル尺度等の心理音響学的に動機付けされる周波数スケールを使用することは、計算時間及びメモリ使用量の大幅な低減を可能とする。
【0016】
それゆえに、異なる非音響パラメータ(例えば、エンジンの回転速度、ギア数、エンジン負荷等)についての異なる基本周波数及び残差信号モデルパラメータについて得られた「高調波」信号モデルパラメータを有すると、これらのモデルパラメータは、
図1に従って分析されたエンジンによって再生される音に対応する現実的なエンジン音を合成するために後に使用されることができる。
【0017】
図2は、
図1にかかる信号分析に代わるものとしてみることができる信号分析の他の例を図示している。
図2の信号分析の構造は、正弦波信号推定30の基本的原理を除き、
図1の信号分析に対応する。
図2のブロック図の残りの部分は、
図1の例と同じである。本例において、誘導高調波正弦波信号の推定が行われ、回転信号rpm[n]は、誘導信号として使用される。それにもかかわらず、エンジンの状態を表す任意の信号又は信号群が(ベクトル信号であってもよい)誘導信号として使用されることができる。特に、誘導信号は、以下の信号のうちの少なくとも1つから構成されることができる:エンジンの回転速度を表す信号、スロットル位置を表す信号、エンジン負荷を表す信号。この文脈において、回転信号は、一般に、例えば、(コントローラ・エリア・ネットワーク・バス、CANバスを介して多くの車両においてアクセス可能である駆動系制御モジュールとしても知られる)エンジン制御ユニットによって提供されることができるエンジンの回転速度を表す信号とすることができる。誘導された正弦波信号の推定を使用する場合、基本周波数は、入力信号X(e
jω)から推定されず、直接誘導信号から得ることができる:本例において、エンジンの回転信号rpm[n]は試験される。例えば、1200rpmのエンジン速度は、6気筒内燃機関について120Hzの基本周波数をもたらす。より高次の高調波もまた、例えばエンジン負荷及びスロットル位置に依存してもよい。
【0018】
誘導された正弦波信号の推定のために、以下の信号モデルが使用されることができる。従って、入力信号x[n]は、以下のようにモデル化される。
【数1】
nは、時間インデックスであり、iは、高調波の数を示し、f
0は、基本周波数を示し、A
iは、振幅であり、ψ
iは、i次の高調波の位相である。上述したように、基本周波数及び高調波の周波数は、入力信号x[n]から推定されず、直接誘導信号rpm[n]から導出されることができる。
図2において「N次の高調波正弦波信号の生成」とラベル付けされたブロックは、この機能を表す。対応する振幅A
i及び位相値ψ
iは、当該技術分野において知られている信号処理方法を使用して推定される。例えば、高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムが使用されてもよく、又は、少数の高調波のみが推定対象である場合には、Goertzelアルゴリズムが使用されてもよい。固定数N個の周波数が通常考えられる。音声処理の文脈において誘導高調波推定の一例は、Christine Smit and Daniel P.W.Ellis、Guided Harmonic Sinusoid Estimation in a Multi−Pitch Environment、2009 IEEE Workshop on Applications of Signal Processing to Audio and Acoustics、2000年10月18−21日に記載されている。
【0019】
図3は、
図2に示された例の変更例を図示している。双方のブロック図は、正弦波信号推定を表す信号処理ブロック30を除いて基本的に同一である。誘導適応正弦波信号推定アルゴリズムは、パラメータとして、基本周波数f
0及び少なくとも1つの高調波の周波数(f
1,f
2等)を含む周波数ベクトルfを取ることができ、入力信号X(e
jω)と最良に一致するようにこれらの周波数を適応的に「微調整」する。従って、推定は、微調整周波数f
0’,f
1’,等を含む変更された周波数ベクトルf’とともに、対応する振幅ベクトルA’=[A
0’,A
1’,A
2’,・・・]及び位相ベクトルψ=[ψ
0’,ψ
1’,ψ
2’,・・・]を提供することができる。適応アルゴリズムは、特に、誘導信号(例えば、回転信号rpm[n])が不十分な品質である場合に使用されてもよい。例えば、自動車の駆動系等の機械的システムは、通常、非常に高いQ値を有し、それゆえに、回転信号rpm[n]と真のエンジン回転速度との間の(数ヘルツの範囲内の)さらに小さな偏差は、特に高調波について推定結果を著しく悪化させることがある。
【0020】
図4は、最小平均二乗(LMS)の最適化アルゴリズムを使用して周波数ベクトルfに含まれる1つの周波数f
i(i=1,・・・,N)成分(並びにその振幅A
i及び位相ψ
i)を適応させるための手順の例を図示するブロック図である。適応の結果は、3個のf
i’,A
i’,ψ
i’によって表される微調整正弦波信号である。適応のための出発点は、
図2で説明した基本的なアプローチを使用して推定された(3個のf’,A’,ψ’によって表される)正弦波信号である。すなわち、その後に本願明細書に記載された適応アルゴリズムを使用して最適化されるf
i’,A
i’,ψ
i’の初期値は、周波数f
i(i=1,2,・・・,N)が単に自動車用途における回転速度信号からの(非音響又は音響)誘導信号等から直接導出される基本周波数f
0の倍数として計算される誘導高調波正弦波信号の推定を使用して得ることができる。適応のため、f’,A’,ψ’によって表される初期の正弦波信号は、直交及び同相成分Q
i及びIN
iに分解される位相ベクトルとみなされる(信号処理ブロック301を参照)。これらの成分Q
i及びIN
iは、時変重み係数a及びbによってそれぞれ重み付けされた後、加算(複素数の付加、すなわち、IN
i+jQ
i、Jは虚数単位である)され、f
i’,A
i’及びψ
i’によって表される変更された(最適化)位相ベクトルを得ることができる。
【0021】
重み係数a及びbは、エラー信号が最小になるように(すなわち、最小二乗法の意味において、信号のl
2ノルムが最小化される)重み係数a及びbを調整するように構成されたLMS最適化ブロック302によって決定される。
図3に示される残差抽出60を使用して得られる残差信号R(e
jω)は、エラー信号として使用されることができる。すなわち、適応の「目標」は、残差信号R(e
jω)のパワーを最小にすることであり、また、高調波信号成分の全パワーを最大化することである。実際の最適化アルゴリズムは、例えば、「急勾配」法に基づくLMSアルゴリズム等の任意の適切な最小化アルゴリズムとすることができる。全てのこれらの方法は周知であり、従ってここでは詳述しない。
【0022】
図1−
図3に図示される信号分析は、例えば、シャーシローラダイナモメータ上において試験車両によって「オフライン」で行われることができる。上述したモデルパラメータ(周波数、振幅及び位相ベクトルf、A及びψ、並びに、残余モデルパラメータ)は、車両のエンジンの様々な回転数値について測定されることができる。例えば、モデルパラメータは、所定間隔(例えば、100rpm)で最小値(例えば、900rpm)から最大値(例えば、6000rpm)に及ぶ離散回転数値に対して決定されることができる。後に音声合成のためのモデルパラメータが中間回転数値(例えば、2575rpm)のために必要とされる場合は、それらは、補間することによって得られることができる。本例において、2575rpmについてのモデルパラメータは、線形補間を使用して2500rpm及び2600rpmについて決定されたモデルパラメータから計算されることができる。
【0023】
モデルパラメータを決定するために、試験されている車両のエンジンの回転速度は、連続的に最小から最大回転数値まで上昇させることができる。この場合、所定間隔内の回転数値(例えば、950rpmから1049rpmまで)について決定されたモデルパラメータは、平均化され、間隔(本例では1000rpm)の中心値と関連付けることができる。他の追加の誘導信号(例えば、エンジン負荷)が考えられるべきであり、データ収集及びモデルパラメータの推定は、回転数信号が誘導信号であった場合、記載された場合と同様にして行われる。
【0024】
図5は、
図1−
図3に図示される信号分析に応じて決定されたモデルパラメータを使用するエンジン音の合成を図示するブロック図である。本例において、エンジン音合成装置10は、1つの誘導信号(回転数信号rpm[n])を使用するのみである。しかしながら、他の誘導信号が追加的に又は代替的に使用されてもよい。誘導信号rpm[n]は、高調波信号生成部110及びモデルパラメータ・データベース100に供給される。信号生成部100は、基本周波数f
0及び高調波の周波数f
1,f
2等を提供するように構成されることができる。これらの周波数値、すなわち、周波数ベクトルf=[f
0,f
1,・・・,f
N]は、高調波信号合成部130に供給されることができる。合成部130はまた、モデルパラメータ・データベース100から現在の誘導信号rpm[n]に適合する高調波モデルパラメータを受信する。モデルパラメータ・データベース100はまた、例えば、残差信号のパワースペクトルを表すことができる残差モデルを記述するモデルパラメータを提供することができる。さらにまた、モデルパラメータ・データベース100は、既に上述したように、正確なパラメータを得るために補間を使用することができる。高調波信号合成部130は、
図1−
図3に関して上述した信号分析を使用してそこから推定された入力信号X(e
jω)の高調波成分に対応する高調波信号H
est(e
jω)を提供するように構成されている。
【0025】
残差信号を記述するモデルパラメータは、残差信号の振幅M(e
jω)を回復する合成部140を包むために提供されることができる。本例において、残差信号の位相は、全残差信号R
est(e
jω)を生成するように、ホワイトノイズを全帯域通過フィルタリングする(それゆえに、位相信号P(e
jω)を得る)こと及び振幅信号M(e
jω)に位相信号P(e
jω)を追加することによって回復される。ホワイトノイズは、ノイズ生成部120によって生成されることができる。全帯域通過フィルタ150は、フィルタ入力に供給されるホワイトノイズを位相領域0−2πにマッピングすることによって位相フィルタを実装することができ、それゆえに位相信号P(e
jω)を提供する。合成されたエンジン音信号X
est(e
jω)は、回復された高調波信号H
est(e
jω)及び回復された残差信号R
est(e
jω)を追加することによって得ることができる。周波数領域において得られた音声信号は、時間領域に変換され、増幅され、一般的な音声再生装置を使用して再生されることができる。
【0026】
一般に、エンジン音合成部は、誘導信号に応じて(例えば、メモリに存在するモデルパラメータ・データベースDBから)モデルパラメータのセットを検索する(すなわち、選択する)「ブラックボックス」とみなすことができる。そして、それは、誘導信号に対応する得られたエンジン音信号を合成するためにこれらのモデルパラメータを使用する。モデルパラメータのセットは、例えば、基本周波数f
0、高調波f
1,f
2,・・・,f
N、対応する振幅値A
0,A
1,A
2,・・・,A
N及び位相値ψ
0,ψ
1,ψ
2,・・・,ψ
N並びに残差ノイズのパワースペクトルを含むことができる。誘導信号は、スカラー信号(例えば、エンジンの回転速度を表す回転信号)、又は、回転数信号、エンジン負荷信号、スロットル位置信号等を含む少なくとも2つのスカラー信号のセットを表すベクトル信号とすることができる。特定の誘導信号値(例えば、特定の回転速度又はエンジン負荷)は、
図1−
図4に関して上述したように得ることができるモデルパラメータのそれぞれのセットを一義的に定義する。換言すれば、モデルパラメータは、誘導信号の関数である。
【0027】
モデルパラメータは、誘導信号の様々な値に対して一旦決定されると、例えば不揮発性メモリにおけるモデルパラメータ・データベースDBとして記憶される。モデルパラメータは、(誘導信号によって表される)様々な状況についての所望のエンジン音を表す。しかしながら、実際に電気自動車に座っている人によって知覚される合成エンジン音は、車室の形状に応じて変化し得る。すなわち、同じモデルパラメータ・データベースDBによって表される同じエンジン音は、街の車両、自家用車及び大型車における聴取者(例えば、運転手又は乗員)毎に異なる音の印象を生成することがある。異なる音の印象は、車室の異なる大きさや形状が主な原因である。
【0028】
以下の説明において、車室は、典型的なリスニングルームとして使用される。車室内の聴取者(例えば、運転手又は乗員)の頭部位置は、(おおよそ)リスニング位置と称される。それゆえに、室内伝達関数(RTF)は、スピーカに供給された音声信号からリスニング位置に到達した音響信号に対する室内の伝達特性を表す。複数のスピーカ及び/又はリスニング位置の場合には、RTFは行列(室内伝達行列)であり、各行列要素は、特定のリスニング位置及び関連するスピーカ(又はスピーカの群)についての伝達特性を表すスカラーRTFを表す。この用語を使用すると、異なる種類の車両における異なるエンジン音の印象の原因は、(主に)RTFである。以下に記載された音声システムは、異なるリスニングルームの効果を補償し、所定の予め設定されたモデルパラメータ・データベースDBについての車両の種類にかかわらず(おおよそ)均一なエンジン音印象を達成するために使用されることができる。各RTFは、対応する室内インパルス応答(RIR)に固有に関連しており、RIRは、周波数領域内にあるRTFの時間領域に相当する。
【0029】
図6は、とりわけ、エンジン音合成装置10、音声信号源1(例えば、CDプレーヤ)及びイコライザ2を含む音声システムを図示している。エンジン音合成装置10には、誘導信号(例えば、rpm[n]及び/又はload[n])及び予め定義されたモデルパラメータ。データベースDBが供給され、現在の誘導信号に応じてモデルパラメータ・データベースDBからモデルパラメータのセットを選択して使用することによって結果としてのエンジン音信号x
est[n]を生成するように構成されている。モデルパラメータの選択されたセットは、結果としてのエンジン音信号x
est[n]を合成するために使用される。
図5において説明したように、これは達成することができる。上述したように、(1つ以上のスピーカに供給される)得られた合成音声信号x
est[n]は、常に、誘導信号の所定値に対して同じであり、特定の車室の室内特性に影響されない。すなわち、合成音声信号x
est[n]は、音声信号が再生されるリスニングルームのRTFに依存しない。しかしながら、
図6の音声再生システムは、状況を改善するのに役立つことができる。
【0030】
音声信号源1は、合成エンジン音信号x
est[n]が付加された少なくとも1つのディジタル音声信号a[n](例えば、ステレオ又はマルチチャンネル音声の場合、音声信号のセット)を提供する。少なくとも1つの得られた和信号は、y[n]と表される。この付加はまた、周波数領域において達成されることができる(すなわち、Y(e
jω)=A(e
jω)+X
est(e
jω))。ここで、A(e
jω)は、周波数領域における音声信号a[n]を表し、Y(e
jω)は、周波数領域における和信号を表す。しかしながら、音声信号源1は任意であり、音声信号a[n]はまた、ゼロであってもよい。この場合、和信号は、合成エンジン音信号Y(e
jω)=X
est(e
jω)に等しい。
【0031】
和信号は、本質的にフィルタ伝達関数G(e
jω)(通常、複数の音声チャンネルの場合には行列関数)に従って動作するディジタルフィルタであるイコライザ2に提供される。このフィルタ伝達関数G(e
jω)は、音が再生される車室(リスニングルーム)の各RIR h[n]に関連付けられているRTF H(e
jω)の効果を補償するように設計されることができる。換言すれば、イコライザ2は、室内伝達関数H(e
jω)を等化するように構成される。しかしながら、フィルタ伝達関数G(e
jω)は、所望の方法で得られた音声出力を調整するために、任意の所望の周波数応答を提供するように設計されてもよい。簡単な概要は、どのようにRIRが特定のリスニングルームについて得られることができるのか、また、どのように対応する等化フィルタ係数(フィルタインパルス応答とも称される)が、等化フィルタがリスニングルームの効果を補償するように設計されることができるのかについて以下に説明される。
【0032】
RIR H(e
jω)は、一般に、様々な公知のシステム識別技術を使用して測定又は推定されることができる。例えば、試験信号は、スピーカ又はスピーカの群を介して再生されることができるとともに、リスニングルーム内の所望の聴取位置に到達した得られた音響信号は、マイクロフォンによって測定される。そして、RTF H(e
jω)は、適応(FIR)フィルタによって試験信号をフィルタリングし、フィルタリングされた試験信号がマイクロフォン信号に一致するようにフィルタ係数を繰り返し適応させることによって得ることができる。フィルタ係数が収束すると、適応フィルタのフィルタインパルス応答(すなわち、FIRフィルタの場合にはフィルタ係数)は、求められるRIR h[n]と一致する。対応するRTF H(e
jω)は、時間領域RIR h[n]を周波数領域に変換することによって得ることができる。そして、実際の等化フィルタ伝達関数G(e
jω)は、RTF H(e
jω)の反転によって得ることができる。そのような反転は、困難な作業になる場合がある。しかしながら、様々な適切な方法は、当該技術分野において知られており、それゆえに、ここではさらに論じない。実際には、個々のRIRは、各対のスピーカ及び考えられるリスニングルーム内のリスニング位置について得ることができる。例えば、4つのスピーカ及び4つのリスニング位置を考えた場合、16個のRIRを得ることができる。これら16個のRIRは、周波数領域における対応する伝達行列に変換されることができる室内インパルス応答行列に配置されることができる。そのため、RTFは、一般に、複数の音声チャンネルの場合には行列形態を有する。従って、イコライザを特徴付けるフィルタ伝達関数はまた、行列形態を有する。1つのディジタルフィルタが各音声チャンネルに適用された実際の場合において、伝達行列は、対角行列とみなすことができる。1つの実施形態によれば、フィルタ伝達関数G(e
jω)は、任意の特定のリスニングルームについて予め決定されてもよく、ディジタルフィルタリングを実行するディジタル信号処理ユニットの不揮発性メモリにプログラムされてもよい。しかしながら、リスニングルームのRIRは、(測定値を使用して)動的に更新されることができ、フィルタG(e
jω)について更新されたフィルタ係数は、現在のRIRに基づいて得ることができる。しかしながら、等化フィルタは、必ずしもRIRによって直接制御されない。例えば、米国特許第8,160,282号明細書において、様々な異なる方法が、測定されたRIRから等化フィルタ係数を計算するために知られている。
【0033】
図6に図示されたシステムにおいて、(必要に応じて少なくとも1つの音声信号a[n]によって重畳される)合成エンジン音信号x
est[n]は、リスニングルームのRIR h[n](複数のチャンネルの場合には行列)の効果を補償するイコライザ2によって等化される。すなわち、イコライザ2は、少なくともRTF H
−1(e
jω)の(おおよそ)逆を含む(等化フィルタパラメータのセットを表す)フィルタ伝達関数G(e
jω)を有する。上述したように、伝達関数G(e
jω)及びH
−1(e
jω)は、複数のチャンネル(マルチチャンネル)の場合には双方とも行列である。
【0034】
車室のRIRが変化したり、例えば、車両内に座っている人の数に依存したりすることがあることから、イコライザのフィルタ伝達関数G(e
jω)(すなわち、等化フィルタパラメータセット)は、現在のRIRに一致するように定期的に更新されるか又は連続的に適合させることができる。この目的のために、マイクロフォンは、リスニングルーム内のリスニング位置に近接することが必要とされる。しかしながら、適切なマイクロフォンは、大抵の場合、アクティブノイズキャンセル(ANC)システムを搭載した高級車に設置されている。上述したように、RIRの行列は、複数の音声チャンネル及び/又はリスニング位置の場合にはスカラーRIRに置き換えられる。従って、イコライザの伝達動作は、スカラー伝達関数の代わりに、伝達関数の行列(伝達行列)によって特徴付けられる。しかしながら、原則を示して複雑な図示を避けるために単一チャンネルの場合が図示されている。
【0035】
図6の例において、オンボードの音声システムのイコライザ2は、双方の音声信号a[n]及び合成エンジン音信号x
est[n]を等化するために使用される。この目的のために、信号a[n]及びx
est[n]は重畳(加算)され、和信号y[n]がエンジン音合成装置10の下流に配置されたイコライザ2に供給される。
図7に図示された代替例は、異なるアプローチを使用しており、これによれば、(本例においてはx
est’[n]として示される)合成エンジン音信号は、既に等化された音声信号a’[n]に重畳され、(等化された)和信号y’[n]を生み出す。すなわち、
図7の例において、イコライザ2は、合成エンジン音信号x
est’’[n]の信号経路に並列な信号経路に配置されている。従って、イコライザ2は、合成エンジン音信号x
est’[n]を等化するために必要とされず、むしろ音声信号a[n]を等化するためにのみ必要とされる(任意)。適切に等化された合成エンジン音信号x
est’[n]を得るために、予め定義されたモデルパラメータ・データベースDBは、リスニングルーム(車室)のRIR h[n]に依存する等化フィルタパラメータセットに応じて、又は、複数のチャンネルの場合にはRIRの行列に応じて変更される。予め定義されたモデルパラメータ・データベースDBにおけるモデルパラメータは、得られた変更されたモデルパラメータ・データベースDB’が、既にRIR h[n]に応じて等化された(各音声チャンネルについての)合成エンジン音信号x
est[n]を(ESS10の出力において)生み出すモデルパラメータを含むように変更される。モデルパラメータへの等化の組み込みは、例えば、(おおよそH
−1(e
jω)である)等化フィルタの対応する伝達関数G(e
jω)と(基本周波数f
0及び高調波f
1,f
2,・・・,f
Nと関連付けられた)対応する振幅値A
0,A
1,A
2,・・・,A
N及び位相値ψ
0,ψ
1,ψ
2,・・・,ψ
Nの単純な乗算によって達成されることができる。複数のチャンネルの場合には、これは各音声チャンネルについて行われる。
【0036】
本開示のいくつかの態様が以下に要約される。しかしながら、以下の説明は、網羅的又は完全ではないことに留意すべきである。
【0037】
1つの態様は、音、特に内燃機関の近傍で取得されたエンジン音信号を分析する方法に関する。本方法は、分析対象の入力信号の基本周波数を決定し、それにより、入力信号又は少なくとも1つの誘導信号を使用することを含む。さらにまた、基本周波数に対応するより高次の高調波の周波数が決定され、それゆえに高調波モデルパラメータが得られる。本方法は、さらに、高調波モデルパラメータに基づいて高調波信号を合成し、残差信号を取得するために入力信号から高調波信号を減算することを含む。最後に、残差モデルパラメータは、残差信号に基づいて推定される。
【0038】
入力信号は、周波数領域に変換されることができ、それゆえに、さらに処理される前に、周波数領域の入力信号を提供することができる。この場合、考えられることができる高調波の量は、例えば、周波数領域への変換を提供するFFT(高速フーリエ変換)アルゴリズムによって使用される入力ベクトルの長さに制限されるにすぎない。入力信号の処理は、一般に、完全に周波数領域において行われてもよく、それゆえに、高調波信号及び残差信号は、周波数領域において計算されることができる。
【0039】
基本周波数及びより高次の高調波の周波数は、典型的には計算が複雑である入力信号からの直接的な基本周波数(及びより高次の高調波の周波数)の推定を避けるために、少なくとも1つの誘導信号から導出されてもよい。
【0040】
高調波モデルパラメータは、基本周波数及びより高次の高調波の周波数の周波数ベクトルと、対応する振幅ベクトル及び対応する位相ベクトルとを含むことができる。高調波モデルパラメータを決定することは、基本周波数及びより高次の高調波の周波数に関連付けられた位相及び振幅値を推定することを含むことができる。高調波モデルパラメータを決定することは、一般に、少なくとも1つの誘導信号から得られる基本周波数及びより高次の高調波の周波数の微調整を含むことができる。そのような微調整は、残差信号のノルム(例えば、L
2ノルム)が最小になるように、より高次の高調波の周波数及びそれらの対応する(推定された)振幅及び位相値の繰り返し変更をともなっていてもよい。この微調整は、最適化処理の一種とみなすことができる。
【0041】
残差信号は、残差モデルパラメータを推定する前に、残差信号を平滑化するために非線形フィルタによってフィルタリングされることができる。残差モデルパラメータを決定することは、残差信号のパワースペクトルを計算することを含むことができる。パワースペクトル密度は、心理音響学的に臨界帯域の制限を考慮するように、心理音響学的に動機付けされる周波数スケールに応じて異なる周波数帯域について計算されることができる。
【0042】
他の態様は、高調波モデルパラメータ及び残差モデルパラメータに基づいて音声信号を合成する方法において、パラメータが特に上記要約された方法に従って決定されることができる方法に関する。本方法は、少なくとも1つの誘導信号に基づいて、基本周波数及びより高次の高調波の周波数の計算を含む。計算された周波数に関連付けられた残差モデルパラメータ及び高調波モデルパラメータが提供され、高調波信号が、計算された基本周波数及びより高次の高調波の周波数に対する高調波モデルパラメータを使用して合成される。さらにまた、残差信号は、残差モデルパラメータを使用して合成される。全音声信号は、合成された高調波信号及び残差信号を重畳することによって計算されることができる。
【0043】
予めフィルタリングされたホワイトノイズが全音声信号に付加されてもよい。特に、事前のフィルタリングは、0−2π位相範囲にホワイトノイズの振幅値をマッピングし、それゆえに、全音声信号に付加される位相信号を生成することを含むことができる。残差信号を合成することは、一般に、残差モデルパラメータによって表されるパワースペクトル密度に対応するパワースペクトル密度を有するノイズ信号の生成を含むことができる。
【0044】
他の態様は、リスニングルームの少なくとも1つのリスニング位置において合成エンジン音を再生するシステムに関する。各リスニング位置は、室内伝達関数(RTF)と関連している。1つの例示的なシステムは、様々な予め定義されたモデルパラメータのセットを含むモデルパラメータ・データベースDBを含む。システムは、さらに、少なくとも1つの誘導信号を受信するエンジン音合成装置10を含み(
図6を参照)、それらの誘導信号は、複数の誘導信号の場合には1つのベクトル誘導信号とみなすことができる。誘導信号は、エンジンの回転速度、エンジン負荷、スロットル位置又は内燃機関の音に影響を与える可能性がある同様の測定値を表すことができる。エンジン音合成装置10は、誘導信号に応じてモデルパラメータの1つのセットを選択し、モデルパラメータの選択されたセットに応じて合成エンジン音信号x
est[n]又はx
est’[n]を生成するように構成されている(
図6及び
図7を参照)。少なくとも1つのスピーカ5は、対応する音響エンジン音信号を生成することによって合成エンジン音信号x
est[n]又はx
est’[n]を再生するために使用される。システムは、さらに、イコライザ2又はモデルパラメータ調整ユニットのいずれかを含む。第1の場合、イコライザは、合成エンジン音信号x
est[n]を受信し、得られた音響エンジン音信号についての(RTFによって特徴付けられる)リスニングルームの効果がリスニング位置においておおよそ補償されるように設定されたフィルタ伝達関数G(e
jω)に応じてフィルタリングする。第2の場合、モデルパラメータ調整ユニットは、得られた音響エンジン音信号がリスニング位置においておおよそ補償されるように設定された等化フィルタパラメータに応じてモデルパラメータ・データベースDBにおける予め定義されたモデルパラメータのセットを変更する。この場合、合成エンジン音信号は、変更されたモデルパラメータのセットから生成される。
【0045】
モデルパラメータの各セットは、所望のエンジン音の少なくとも基本周波数f
0及びより高次の高調波周波数f
1,f
2,・・・,f
Nと、対応する振幅値A
0,A
1,A
2,・・・,A
N及び位相値ψ
0,ψ
1,ψ
2,・・・,ψ
Nとを表す。システム識別ユニットは、イコライザ又はモデルパラメータ調整ユニットによって使用されるRTFを定期的に又は連続的に測定して更新するように提供されることができる。
【0046】
図8及び
図9は、それぞれ、複数の音声チャンネル及びスピーカの場合についての
図6及び
図7の例の一般化を図示している。信号a[n],x
est[n],y[n]等の下付き文字i及びkは、個々の音声チャンネルに関し、i={1,2,・・・,N}及びk={1,2,・・・,N}である。図示された例においてはN=2である。
図8の例において、音声信号源1は、2つの音声信号a
i[n](i={1,2})を提供し、そのそれぞれは、合成エンジン音信号x
est[n]に重畳される。そして、和信号y
i[n]=a
i[n]+x
est[n]は、室内インパルス応答h
ik[n]を補償するように設計された伝達行列に応じて信号をフィルタリングするイコライザ2に供給される。フィルタリングされた信号y
k’[n]は、その後、各スピーカ5
k(k={1,2})に供給される。
【0047】
図9の例において、合成エンジン音信号x
est,k[n]は、各音声チャンネルについて生成される。等化された音声信号a
k’[n]は、合成エンジン音信号x
est,k[n]に重畳され、和信号y
k’[n]は、その後、(アナログ信号への変換及び増幅後に)各スピーカ5
k(k={1,2})に供給される。上述したマルチチャンネル拡張とは別に、
図8及び
図9の例は、
図6及び
図7の前の例と同じである。
【0048】
様々な例示的な実施形態が開示されているが、変形及び変更が本発明の精神及び範囲から逸脱することなく様々な実施形態の特定の実装に応じて行われることができることは当業者には明らかであろう。同じ機能を行う他の構成要素が適切に置き換えられてもよいことは、当業者にとって自明であろう。特に、信号処理機能は、略等しい結果を達成するために時間領域又は周波数領域のいずれかにおいて行われることができる。特定の図を参照して説明された特徴は、明確に言及されていないものであっても、他の図の特徴と組み合わせられることができることが言及されるべきである。さらにまた、本発明の方法は、適切なプロセッサ命令を使用する全ソフトウェア実装又は同じ結果を達成するためにハードウェアロジック及びソフトウェアロジックの組み合わせを利用するハイブリッド実装のいずれかにおいて達成されることができる。概念に対するそのような変更は、添付された特許請求の範囲に含まれることが意図されている。