【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明では、フィン材の成分を適正化するとともにろう付時の耐ろう浸食性の改善策として所定以上の融点(固相線温度)を有し、かつろう付時の結晶粒径を粗大とすることで、高強度かつろう付性に優れるフィンを得ている。具体的にはZrを添加し、微細な第二相粒子の分布状態を制御することでこれを実現している。また、耐食性に関しては、ろう付後の粗大な第二相粒子の組成を制御することで耐食性を向上させている。
【0007】
すなわち、本発明のアルミニウム合金フィン材のうち、第1の本発明は、質量%で、Zr:0.05〜0.25%、Mn:1.3〜1.8%、Si:0.7〜1.3%、Fe:0.10〜0.35%、Zn:1.2〜3.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し、固相線温度が615℃以上で、ろう付後の引張強さが135MPa以上、ろう付後の孔食電位が−900〜−780mVの範囲にあり、さらに、ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が200μm〜1000μmの範囲にあることを特徴とする。
【0008】
第2の本発明のアルミニウム合金フィン材は、前記第1の本発明において、前記組成成分として、さらに質量%で、Cu:0.03〜0.10%を含有することを特徴とする。
【0009】
第3の本発明のアルミニウム合金フィン材は、前記第1または第2の本発明において、ろう付後に母相中に分布する第二相粒子のうち、円相当径が0.5μm以上のAl−Mn−Fe−Si化合物中のMn、Fe、Siの含有量の平均が、前記化合物中の原子%でFe/(Mn+Si)<0.25の関係を満足することを特徴とする。
【0011】
以下に、本発明の限定理由について説明する。なお、組成中の成分含有量はいずれも質量%で示される。
【0012】
Zr:0.05〜0.25%
Zrは、ろう付後のフィンの結晶粒径を粗大化するため、およびろう付後のフィンの強度を向上させるため含有させる。ただし、Zrの含有量が0.05%未満であると、ろう付後のフィンの結晶粒径を粗大化する効果と強度を向上させる効果が十分に得られない。一方、Zrが0.25%を超えて含有すると、巨大晶が生成しやすく、アルミニウム合金板の製造性が大幅に低下する。これらの理由により、Zrの含有量を0.05〜0.25%に定める。
【0013】
Mn:1.3〜1.8%
SiやFe等とAl−Mn−Si系、あるいはAl−(Mn、Fe)−Si系の金属間化合物(分散粒子)を生成することでろう付後のフィンの強度を向上させる効果を有している。その含有量が1.3%未満では、その効果が十分発揮されず、1.8%を超えると、Al−(Mn、Fe)−Si系の金属間化合物の巨大晶が生成してアルミニウム合金板の製造性が大幅に低下する。そのため、Mn含有量は1.3%〜1.8%に定める。なお、同様の理由により、下限は1.5%、上限は1.75%とするのが望ましい。
【0014】
Si:0.7〜1.3%
Siは、Al−Mn−Si系、あるいはAl−(Mn、Fe)−Si系金属間化合物(分散粒子)を析出させ、分散強化によるろう付後の強度を得るために含有させる。ただし、0.7%未満の含有では、Al−Mn−Si系、あるいはAl−(Mn、Fe)−Si系金属間化合物による分散強化の効果が小さく、所望のろう付後強度が得られない。一方、1.3%を超えて含有するとSiの固溶量が大きくなり、固相線温度(融点)が低下し、ろう付時に著しいろう侵食が生じやすくなる。なお、同様の理由で下限を0.9%、上限を1.2%とするのが望ましい。
【0015】
Fe:0.10〜0.35%
Feの含有によって、Al−(Mn、Fe)−Si系化合物による分散強化が得られ、ろう付後強度が向上する。このため、Fe含有量を0.10%以上とする。また、Feの含有量が0.35%を超えると、鋳造時に粗大化した晶出物(金属間化合物)が腐食の起点となることで、フィン材の自己耐食性が低下するおそれがある。
【0016】
Cu:0.03〜0.10%
Cuは、固溶強化によりろう付後強度を向上させるので、所望により含有させる。ただし、0.03%未満ではその効果が十分に得られない。また0.10%以上を含有すると電位を貴にしてフィン材のチューブ材に対する犠牲陽極効果を低下させるので、所望により含有させる場合は、Cu含有量を0.03〜0.10%とする。ただし、0.03%未満でCuを不可避不純物として含有してもよい。
【0017】
Zn:1.2〜3.0%
Znは、電位を卑にして犠牲陽極効果を得るため含有させる。Zn含有量が1.2%未満であると、犠牲陽極効果が十分に得られない。一方、3.0%を超えて含有すると、電位が卑になりすぎて、フィン材単体の自己耐食性が低下するおそれがある。
【0018】
固相線温度:615℃以上
固相線温度を615℃以上とすることで、ろう付け時のろう浸食を防止し、座屈を防止する。なお、同様の理由で固相線温度が617℃以上であるのが望ましい。固相線温度は、成分の設定により達成することができる。
【0019】
ろう付後引張強さ:135MPa以上
熱交換器として使用される際の強度保障としてろう付後の引張強さが135MPa以上であることが必要である。
【0020】
ろう付後孔食電位:−900〜−780mV
ろう付後の孔食電位を設定することで良好な犠牲陽極効果が得られる。このため、ろう付後孔食電位を−780mV以下とする。この電位よりも貴な孔食電位では、犠牲陽極効果が不十分となりチューブに腐食が発生しやすくなる。一方、孔食電位が−900mVよりも卑となると、フィンの自己耐食性が低下するため、−900mV以上とする。
【0021】
ろう付後の圧延面の平均結晶粒径:200μm〜1000μm
ろう侵食は結晶粒界で優先的に生じるから、結晶粒径が微細だと結晶粒界の数(面積)が増えるのでろう侵食されやすくなる。ろう付後の強度はろう付後の結晶粒径が粗大になり過ぎると低下する。すなわち、ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が200μm未満であると、耐ろう侵食性が低下し、1000μmを超えると、ろう付後強度の低下を招く。
当該材はろう付するとその昇温過程(ろうが溶融する温度よりも低い温度)で再結晶する。再結晶した後では結晶粒の大きさは殆ど変化しない。したがって、ろうによる侵食時に形成されている再結晶粒の大きさ=ろう付後の再結晶粒の大きさとなるため、ろう付後の粒径で観察することができる。
【0022】
円相当径で0.5μm以上のAl−Mn−Fe−Si化合物中のMn、Fe、Siの含有量の平均が、(前記化合物中の)原子%でFe/(Mn+Si)<0.25
Al合金の腐食はFeを含有する化合物によって促進される。一方、Feを含有しない化合物は腐食を促進しにくい。したがって、化合物中のFe/(Mn+Si)比が小さいというのは、腐食を促進しにくい化合物が形成されていることを意味する。ただし、化合物が存在するとAl合金の腐食が促進されるが、その効果は微細な化合物では影響が少ない。その目安となるサイズが0.5μm以上である。
したがって、円相当径で0.5μm以上のAl−Mn−Fe−Si化合物における上記比を満たすことで、化合物がAl合金の腐食を促進する効果を低減することができる。
上記比は、0.22以下であるのがさらに望ましい。また、同様の理由で上記比が0.13以上であるのが一層望ましい。
上記比は、製造時に材料成分、製造時の鋳造速度、および均質化処理条件などによって達成することができる。
【0023】
加工前の素材において円相当径0.05〜0.4μmの範囲にある第二相粒子が20〜80個/μm
2
第二相粒子は材料の再結晶挙動に影響する。微細な化合物(0.5μm以下)は再結晶を遅延して再結晶後の結晶粒を粗大化する。一方、粗大な化合物は再結晶を促進して再結晶後の結晶粒を微細化する。したがって、ろう付前の素材の状態で0.05〜0.4μmの化合物が多く存在する場合、ろう付熱処理時の再結晶が遅延されてろう付熱処理後の結晶粒が大きくなる。上記第二相粒子を適量分散することで、結晶粒が大きくなり、耐ろう侵食性が増すためろう付けに際し座屈が生じにくくなる。
ただし、80個/μm
2を超えると、製造中の冷間圧延続行あるいは調質調整のための焼鈍時に材料が軟化しにくくなり製造に支障をきたす。上記分散量は、30個/μm
2以上であるのが一層望ましく、同様の理由で50個/μm
2以下であるのが一層望ましい。
上記第二相粒子の分散は、均質化処理を低温、長時間、例えば350〜480℃×2〜15時間などの条件によって行うことで達成される。