特許第6557519号(P6557519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6557519高分子ハイドロゲル被覆型O/Wエマルションの製造方法、および該O/Wエマルションを調製するための界面活性剤組成物
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  • 特許6557519-高分子ハイドロゲル被覆型O/Wエマルションの製造方法、および該O/Wエマルションを調製するための界面活性剤組成物 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557519
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】高分子ハイドロゲル被覆型O/Wエマルションの製造方法、および該O/Wエマルションを調製するための界面活性剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20190729BHJP
   A61K 8/86 20060101ALI20190729BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20190729BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20190729BHJP
   A61K 8/31 20060101ALI20190729BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20190729BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20190729BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20190729BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20190729BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20190729BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20190729BHJP
   B01F 17/56 20060101ALI20190729BHJP
   B01F 17/38 20060101ALI20190729BHJP
   B01J 13/00 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   A61K8/73
   A61K8/86
   A61K8/34
   A61K8/06
   A61K8/31
   A61Q19/00
   A61K9/107
   A61K47/36
   A61K47/34
   A61K47/10
   A61K47/04
   B01F17/56
   B01F17/38
   B01J13/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-120682(P2015-120682)
(22)【出願日】2015年6月15日
(65)【公開番号】特開2017-2011(P2017-2011A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124349
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 圭啓
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】武井 孝行
(72)【発明者】
【氏名】板垣 亮平
(72)【発明者】
【氏名】大角 義浩
(72)【発明者】
【氏名】脇田 和晃
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−092082(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/047846(WO,A1)
【文献】 特開2014−221724(JP,A)
【文献】 酒井裕二,化粧品の使用感、機能をコントロールするエマルション膜設計,FRAGRANCE JOURNAL,2009年12月,19-25頁
【文献】 村上 敦、他,ポリソルベートによるD相乳化に対する糖の影響,日本農芸化学会2006年度大会講演要旨集,日本農芸化学会,2006年 3月 5日,215頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
B01F 17/00−17/56
B01J 13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(a)〜成分(d)から構成され、それぞれの質量比において[a/b]が1/40〜4/1、[c/(c+d)]が1/2〜1/1、[(c+d)/a]が10〜300である、高分子ハイドロゲル被覆型O/Wエマルションを調製するための界面活性剤組成物。
(a)ポリウロン酸もしくはカルボキシル変性天然多糖類またはそれらの塩
(b)無機性値/有機性値が1.2〜2.9である界面活性剤
(c)炭素数3〜6の多価アルコール
(d)水
【請求項2】
下記の工程(i)および工程(ii)を有することを特徴とする、平均粒径が0.1〜100μmの高分子ハイドロゲル被覆型O/Wエマルションを製造する方法。
(i)請求項1に記載の界面活性剤組成物に、成分(e)の油剤、質量比[e/(a+b+c+d+e)]が2/5〜9/10の割合で、乳化させてO/Dゲルエマルションを調製する工程
(ii)工程(i)で得られたO/DゲルエマルションをpH2〜6の水で希釈する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子ハイドロゲル被覆型O/Wエマルションの製造方法、および該O/Wエマルションを調製するための界面活性剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な産業分野において、互いに混ざり合わない二種類の液体を混ぜ合わせる乳化技術は非常に重要であり、安定なエマルションを得るために数多くの研究が行われている。その中に、油滴を高分子ハイドロゲルで被覆したO/Wエマルションの調製技術がある。油滴を高分子ハイドロゲルで被覆するメリットとしては、エマルションの合一を抑制できる、油滴中の油性成分を酸化や加水分解から保護できる、油性成分の徐放効果が得られるなどが挙げられる。さらに、化粧品分野であれば、界面活性剤に影響されずに油剤の感触をそのままに肌に伝えることができるなどのメリットがある。
しかしながら、油滴の表面のみに高分子ハイドロゲルを形成させ被覆することは容易でなく、その調製にはマイクロカプセルの製造技術が応用される場合が多い。
【0003】
エマルションの調製に応用できるマイクロカプセルの製法としては、滴下法、コアセルベーション法、スプレードライ法などが挙げられる。特許文献1では、無機又は有機粉粒状担体に油性成分を含浸又は付着させ、これを水溶性高分子のゲル膜で被覆してなることを特徴とする、滴下法で調製された油溶性成分配合ゲルカプセルが開示されている。
しかしながら、特許文献1の方法では、粒径が100μm以下のエマルションを得ることが困難であり、用途が制限されるという課題があった。
【0004】
また特許文献2には、寒天などのカプセル皮膜液とシリコーンオイルを多層構造のノズル先端から冷却液中に放出し、コアセルベーション法によってカプセル製剤を得る方法が開示されている。
しかしながら、特許文献2の方法では、マイクロカプセルの製造に特殊な装置を必要とし、またカプセルの粒径を100μm以下に制御することは困難であった。
【0005】
特許文献3には、アルギン酸塩などの架橋ポリマーと微結晶性セルロースなどの充填剤を含む水性混合物にフレーバーなどのオイルを添加した乳液を、スプレードライ法または高圧乳化法で処理することでアルギン酸マトリクス粒子を調製する方法が開示されている。
しかしながら、特許文献3の方法では、スプレードライヤーやホモジナイザーなどの特殊な装置を必要とするばかりでなく、工程が煩雑であり、手軽にエマルションを得ることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−110663号公報
【特許文献2】特開2000−007558号公報
【特許文献3】特開2013−209383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明が解決しようとする課題は、平均粒径が0.1〜100μmの微細なO/Wエマルションである、高分子ハイドロゲル被覆型のO/Wエマルションを、多層構造ノズル、スプレードライヤー、ホモジナイザーなどの特殊な装置を必要とせずに、簡便に製造する方法及びそのための界面活性剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本願発明の構成とすることで、平均粒径が0.1〜100μmの高分子ハイドロゲル被覆型O/Wエマルションの製造方法、およびその調製用の界面活性剤組成物を完成させるに至った。
すなわち本発明は、次の〔1〕および〕である。
【0009】
〔1〕下記成分(a)〜成分(d)から構成され、それぞれの質量比において[a/b]が1/40〜4/1、[c/(c+d)]が1/2〜1/1、[(c+d)/a]が10〜300である、高分子ハイドロゲル被覆型O/Wエマルションを調製するための界面活性剤組成物。
(a)ポリウロン酸もしくはカルボシキル変性天然多糖類またはそれらの塩
(b)無機性値/有機性値が1.2〜2.9である界面活性剤
(c)炭素数3〜6の多価アルコール
(d)水
【0011】
〔2〕下記の工程(i)および工程(ii)を有することを特徴とする、平均粒径が0.1〜100μmの高分子ハイドロゲル被覆型O/Wエマルションを製造する方法。
(i)前記〔1〕に記載の界面活性剤組成物に、成分(e)の油剤、質量比[e/(a+b+c+d+e)]が2/5〜9/10の割合で、乳化させてO/Dゲルエマルションを調製する工程
(ii)工程(i)で得られたO/DゲルエマルションをpH2〜6の水で希釈する工程
【発明の効果】
【0012】
本発明の界面活性剤組成物を利用すれば、平均粒径が0.1〜100μmの高分子ハイドロゲル被覆型O/Wエマルションを、特殊な装置を使わずに、簡便に製造することができる。また、得られたO/Wエマルションは、低粘度にかかわらずエマルションの保存安定性が極めて良好であり、また界面活性剤に対して質量比で最大約250倍もの油性成分を内包でき、したがって内包した油性成分を酸化や加水分解から保護することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例9および比較例9での安定性評価試験において、包摂されたビタミンAの残存量の経日変化の差異を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、界面活性剤組成物、高分子ハイドロゲル被覆型O/Wエマルションおよびその製造方法の順で説明する。
【0015】
〔界面活性剤組成物〕
本発明の界面活性剤組成物は、下記成分(a)〜成分(d)から構成される。
(a)ポリウロン酸もしくはカルボシキル変性天然多糖類またはそれらの塩
(b)界面活性剤
(c)炭素数3〜6の多価アルコール
(d)水
【0016】
成分(a)は、ポリウロン酸もしくはカルボシキル変性天然多糖類またはそれらの塩である。
ポリウロン酸とは、ウロン酸を構成成分の一部に含む多糖類である。ウロン酸とは、アルドースの第一アルコール基の代わりにカルボキシル基が導入された単糖の総称であり、例えば、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸、イズロン酸、グルロン酸などが含まれる。ポリウロン酸の具体的としては、例えば、ペクチン酸、ペクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キサンタンガム、アラビアガム、ジェランガムなどが挙げられる。またポリウロン酸塩としては、これらポリウロン酸のナトリウム(Na)塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩、これらポリウロン酸のアンモニウム塩などが挙げられる。
【0017】
カルボキシル変性天然多糖類としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、セルロースガム、カルボキシメチルβグルカン、カルボキシメチルイヌリン、カルボキシメチルキチン、カルボキシメチルデンプン、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられる。またカルボキシル変性天然多糖類の塩としては、これらカルボキシル変性天然多糖類のナトリウム(Na)塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩、これらポリウロン酸のアンモニウム塩などが挙げられる。
なお、無水グルコース1単位当りのカルボキシル基の数であるエーテル化度は、好ましくは0.5〜2.0であり、より好ましくは0.7〜1.5、さらに好ましくは0.8〜1.3である。エーテル化度は、例えば灰化測定法を用いて測定することがてきる。
【0018】
上記成分(a)の重量平均分子量は、好ましくは10,000〜500,000であり、より好ましくは15,000〜400,000、さらに好ましくは20,000〜300,000である。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりデキストラン換算分子量として測定することができる。
【0019】
上記成分(a)において、好ましくはアルギン酸、ペクチン、アラビアガム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロースまたはそれらの塩であり、より好ましくはアルギン酸またはその塩である。
なお、成分(a)は一種類または二種類以上を用いることができる。
【0020】
成分(b)は界面活性剤である。
本発明では、成分(a)〜成分(d)を混合して界面活性剤相を調製することが肝要である。界面活性剤相は、両連続マイクロエマルションとも呼ばれ、界面活性剤が形成する高次会合体の一種である。界面活性剤としては、高次会合体を形成する界面活性剤であればその種類は問わないが、安全性の点から非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤が好ましい。具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン水添ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルなどの非イオン性界面活性剤;アシルグルタミンNa、ジラウロイルグルタミン酸リシンNa、サーファクチンNaなどのアニオン性界面活性剤;ラウラミノジ酢酸Na、ラウリルアミノジプロピオン酸Naなどの両性活性剤が挙げられる。
なお、成分(b)は一種類または二種類以上を用いることができる。
【0021】
成分(c)は、2価以上、好ましくは2〜6価であり、炭素数が3〜6の多価アルコールである。成分(c)は、成分(b)の界面活性剤が形成する高次会合体に適度なゆらぎを与え、液晶相から界面活性剤相への相転移を促すために必須の成分である。具体的な成分(c)としては、グリセリン、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、キシリトール、ソルビトール、グルコースなどが挙げられ、好ましくはグリセリン、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、ソルビトールであり、より好ましくはグリセリン、ソルビトールである。
なお、成分(c)は一種類または二種類以上を用いることができる。
【0022】
成分(d)は水であり、例えば、精製水、蒸留水、イオン交換水などを用いることができる。本発明の界面活性剤組成物において成分(d)は任意成分であり、成分(d)を含まないこともある。
【0023】
本発明の界面活性剤組成物において、成分(b)に対する成分(a)の質量比[a/b]が1/40〜4/1であり、好ましくは1/30〜3/1、より好ましくは1/20〜2/1である。質量比[a/b]が小さすぎる場合、後述の油性成分(e)を被覆する高分子ハイドロゲル層が薄くなりすぎて安定なO/Wエマルションが得られないことがある。一方、質量比[a/b]が大きすぎる場合、界面活性剤が十分に効果を発揮できずに微細なO/Wエマルションが得られないことがある。
【0024】
また、成分(c)と成分(d)の和に対する成分(c)の質量比[c/(c+d)]が1/2〜1/1であり、好ましくは3/5〜19/20、より好ましくは7/10〜9/10である。質量比[c/(c+d)]が小さすぎる場合、界面活性剤が十分に効果を発揮できずに微細なO/Wエマルションが得られないことがある。なお、界面活性剤組成物中に成分(d)の水が含まれない場合は、質量比[c/(c+d)]=1/1となる。
【0025】
さらに、成分(a)に対する成分(c)と成分(d)の和の質量比[(c+d)/a]が10〜300であり、好ましくは15〜250、より好ましくは20〜200である。質量比[(c+d)/a]が小さすぎる場合、成分(a)が水相に溶解することが困難となることがあり、質量比[(c+d)/a]が大きすぎる場合、成分(a)の量が少なすぎてO/Wエマルションの安定性が不十分となることがある。
【0026】
本発明の界面活性剤組成物は、常法に従って、上記成分(a)〜成分(d)を均一に混合することによって調製することができる。例えば、成分(a)を成分(d)の水に室温で溶解させた後、成分(c)および成分(b)を加えて均一に溶解することによって調製することができる。
【0027】
本発明の界面活性剤組成物には、発明の効果を損なわない範囲でその他の任意成分を添加することができる。その他の任意成分として、例えば、エタノール、イソプロピルアルコールなどの溶剤;クエン酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩などのpH調整剤;トコフェロールなどの抗酸化剤;多糖類;アミノ酸;ペプチド;防腐剤;香料;着色剤などを適宜配合することができる。
【0028】
〔高分子ハイドロゲル被覆型O/Wエマルション及びその製造方法〕
本発明の高分子ハイドロゲル被覆型O/Wエマルションは、本発明の界面活性剤組成物と成分(e)の油剤とを所定の割合で乳化して得られるO/DゲルエマルションをpH2〜6の水で希釈することで得られる。
【0029】
成分(e)の油剤としては、例えば、オリーブ油やホホバ油などの植物油脂、動物油脂などの油脂類;スクワラン、流動パラフィン、水添ポリイソブテンなどの炭化水素油;パルミチン酸エチルヘキシル、トリ(2−エチルヘキサン酸)グリセリル、ミリスチン酸オクチルドデシルなどの合成エステル油;環状シリコーン、ジメチルポリシロキサンなどのシリコーン油;オレイン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸類;セチルアルコール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコールなどの高級アルコール類などが例示される。油剤として、いずれの融点のものを使用することができ、一種類または二種類以上を用いることができる。2種類以上の油剤を用いる場合、混合した油剤の融点以上で乳化を行う必要がある。
【0030】
界面活性剤相(D相)に油剤を分散したO/Dゲルエマルションは、一般的なD相乳化法に準じて行われる。例えば、一種類または二種類以上の油剤を均一に溶解し、油剤の融点以上の温度で混合した界面活性剤相(成分(a)〜(d)の混合物)に少量ずつ滴下する。適切な量の油剤が界面活性剤相に充填されると、系が増粘しO/Dゲルエマルションが形成される。
【0031】
本発明の高分子ハイドロゲル被覆型O/Wエマルションにおける成分(e)と成分(a)〜成分(e)の和との質量比[e/(a+b+c+d+e)]は2/5〜9/10であり、好ましくは1/ 2〜17/ 20、より好ましくは3/5〜4/5である。質量比[e/(a+b+c+d+e)]が上記の範囲内であれば、微細なO/Wエマルションを調製することができる。
【0032】
O/Dゲルエマルションを希釈する水のpHは2〜6であり、好ましくは2.5〜5.5、より好ましくは3〜5である。O/Dゲルエマルションを酸性から弱酸性の水で希釈することで、界面活性剤相に含まれる成分(a)が油滴の界面に集積し、水素結合で架橋された高分子ハイドロゲル被覆型O/Wエマルションを調製できると考えられる。
水での希釈率は、1〜100倍、好ましくは2〜80倍、より好ましくは3〜50倍である。
水での希釈に際しては、O/Dゲルエマルションを水中に投入してもよいし、O/Dゲルエマルション中に水を投入してもよい。
本発明の製造方法によれば、O/Dゲルエマルションを水で希釈することによって高分子ハイドロゲル被覆型O/Wエマルションを製造することができるので、多層構造ノズル、スプレードライヤー、ホモジナイザーなどの特殊な装置を必要とせずに、簡便に製造することが可能となる。
【0033】
調製されたO/Wエマルションの平均粒径は0.1〜100μmであり、好ましくは0.2〜90μm、より好ましくは0.3〜80μmである。本発明の製造方法により、従来法では安定性の確保が困難であった平均粒径0.1μm以上のO/Wエマルションの保存安定性を、低粘度の系でも大幅に改善することができる。さらに、本発明の製造方法により、従来の滴下法では困難であった平均粒径100μm以下のサイズのマイクロカプセルを調製することができる。
なお、O/Wエマルションの平均粒径は、例えば、濃厚系粒径アナライザー FPAR−1000(大塚電子(株)製)を用いて測定することができる。
【実施例】
【0034】
次に実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
<使用した原料(成分名/製品名/メーカー名/製品物性等)>
使用した原料について、成分名/製品名/メーカー名/製品物性等の順で次に示す。なお、表中には略称で示した。
【0035】
〔成分(a)〕
(a−1)アルギン酸Na/キミカアルギンULV−L3G/キミカ社/水溶液粘度:20〜50mPa・s(10%、20℃)/重量平均分子量:5.3×10
(a−2)ペクチン/GENUペクチンLM−100AS−HP/CPケルコ社/重量平均分子量/2.0×10
(a−3)ジェランガム/ケルコゲルCG−LA/PCケルコ社/重量平均分子量:2.5×10
(a−4)カルボキシメチルセルロースNa/CMC1260/ダイセルファインケム(株)/水溶液粘度:80〜150mPa・s(1%、25℃)/エーテル化度:0.9/重量平均分子量:1.1×10
【0036】
〔成分(b)〕
(b−1)PEG−40水添ヒマシ油/ユニオックスHC−40/日油(株)/有効分:100%
(b−2)サーファクチンNa/カネカ サーファクチン/カネカ(株)/有効分:100%
(b−3)ラウラミノジ酢酸Na/ニッサン アノンLA/日油(株)/有効分:30%
(b−3)ジラウロイルグルタミン酸リシンNa/ペリセアL−30/旭化成ケミカルズ(株)/有効分:29%
【0037】
〔成分(c)〕
(c−1)グリセリン/RG・コ・P/日油(株)/有効分:100%
(c−2)ソルビトール/ソルビトール花王/花王(株)/有効分70%
〔成分(d)〕
(d)水/イオン交換水
〔成分(e)〕
(e−1)オリーブ油/オリーブオイルリファインド/Oreo Monterreal S.A.社
(e−2)ミリスチン酸オクチルドデシル/ミリスチン酸オクチルドデシル/日油(株)
(e−3)ジメチルポリシロキサン/KF−96A−20cs/信越化学工業(株)
(e−4)水添ポリイソブテン/パールリーム6/日油(株)
(e−5)ホホバ油/精製ホホバ油/香栄興業(株)
【0038】
〔成分(a’)〕
(a’−1)カルボキシビニルポリマー/AQUPEC HC−501E/住友精化(株)/水溶液粘度:2,500〜6,400mPa・s(0.2%、25℃)
(a’−2)デキストリン/日本薬局方デキストリン/日澱化学(株)/分子量:2.8×104
(a’−3)ヒドロキシエチルセルロース/HECダイセルSE400/ダイセルファインケム(株)/水溶液粘度:80−130mPa・s(2%、25℃)
〔成分(c’)〕
(c’−1)エタノール/試薬特級/和光純薬(株)
【0039】
(その他成分)
○ラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)/エルデュウPS−306/味の素(株)
○シア脂/CROPURE SHEA BUTTER/クローダジャパン(株)
○トコフェロール/イーミックスD/エーザイフード・ケミカル(株)
○酢酸トコフェロール/酢酸dl−α−トコフェロール/DSM ニュートリション
ジャパン
○香料/Chypre KT−0190/香栄興業(株)
○ベタイン/アミノコート/旭化成ケミカルズ(株)
○ヒアルロン酸Na/バイオヒアルロン酸ナトリウム1%水溶液 MP−PE−N/資生堂(株)
○BG/1,3−ブチレングリコール/ダイセル化学工業(株)
○EDTA−2Na/試薬特級エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム/和光純薬(株)
○ポリクオタニウム‐51(5%水溶液)/Lipidure−PMB/日油(株)
○アスコルビルグルコシド/AA−2G/林原(株)
○ペンチレングリコール/ジオールPD/高級アルコール工業(株)
【0040】
<界面活性剤組成物の調製>
200mLのビーカーにプロペラを装着し、成分(a)と成分(d)の水に室温で溶解させた。続いて成分(c)、成分(b)を加えて均一に溶解した。
【0041】
<O/Dゲルエマルションの調製>
上記の界面活性剤組成物を室温で攪拌しながら成分(e)の油剤を20mL/minでゆっくりと添加して、O/Dゲルエマルションを100gスケールで調製した。O/Dゲルエマルション形成可否の判断基準は、その粘度が5,000mPa・s以上であれば合格(○)、5,000mPa・s未満であれば不合格(×)とした。
なお、粘度はB型粘度計を用いて、25℃にてローターNo.2を使用して測定した。
【0042】
<O/Wエマルションの調製>
調製された上記O/Dゲルエマルション30重量部を、クエン酸で所定のpH(25℃)に調整した水70重量部に希釈してO/Wエマルションを得た。
【0043】
<O/Wエマルションの粒径測定>
得られたO/Wエマルションを濃厚系粒径アナライザー FPAR−1000(大塚電子(株)製)を用いて平均粒径を測定した。
【0044】
<O/Wエマルションの保存安定性評価>
得られたO/Wエマルションを50mLのスクリュー管に充填し、40℃の恒温槽で1ヶ月間保管し、その状態を観察した。以下の判断基準で保存安定性を評価した。
○:エマルションの外観が調製直後と全く変わらない。
×:相分離、クリーミングなど、調製直後と比べてエマルションの外観に変化が見られる。
以上の結果を、界面活性剤組成物の成分比率などとともに、表1および表2に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
実施例1〜8については、全てのサンプルで安定なO/Dゲルエマルションが得られ、これをpH2〜6の水に希釈すると平均粒径0.1〜100μmのO/Wエマルションが得られた。また、これらのサンプルは40℃で1ヶ月以上の保存安定性を確保できた。
【0048】
一方、比較例1〜8については十分な効果は得られなかった。すなわち、比較例1〜3では本発明の成分(a)以外の高分子を使用しているため、O/Wエマルションの安定性が不十分であった。
比較例4では本発明の成分(c)以外のアルコールを使用しているため、O/Dゲルエマルションを調製できなかった。
比較例5では成分(a)を含有していないため、O/Wエマルションの安定性が不十分であった。
比較例6では成分(a)と(b)の質量比[a/b]が4/1を超えるため、実施例7では質量比[c/(c+d)]が1/2未満であるため、実施例8では質量比[(c+d)/a]が10未満であるため、いずれもO/Dゲルエマルションを調製できなかった。
【0049】
<内包したビタミンAの安定性評価>
実施例5および比較例5において配合された油剤(ミリスチン酸オクチルドデシル)のうち0.05質量%をビタミンAに置き換えたサンプルを調製し、それぞれ実施例9、比較例9とした。これらのサンプルについて、ビタミンAの安定性評価を行った。使用した試薬は以下の通りである。
○ビタミンA:「レチノール50C」BASFジャパン(株)製
【0050】
試験方法は以下の通りである。
1)各サンプルを40℃の恒温槽に入れ、静置した。
2)所定日数後、高速液体クロマトグラフィーによりビタミンAを定量し、初期値を100とした相対値からビタミンA残存量(%)を算出した。
結果を図1に示す。図1に示すように、成分(a)でビタミンAの粒子が被覆(コーティング)された実施例9では、比較例9に比して、ビタミンAの残存量(%)が大幅に向上していることが確認された。
【0051】
以下、その他の実施例を挙げて本発明についてさらに説明を行うが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、調製方法は実施例1〜8と同様である。
【0052】
(実施例10:保湿乳液) 配合率(質量%)
(a−1)アルギン酸Na 0.3
(b−3)ラウラミノジ酢酸Na 0.3
(c−1)グリセリン 17.8
(d) 水 2.2
(e−5)ホホバ油 70.0
ラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル) 0.2
シア脂 9.0
トコフェロール(d−δ−トコフェロール) 0.05
酢酸トコフェロール(酢酸dl−α−トコフェロール) 0.05
香料 0.1
(O/Dゲルエマルションとして合計100質量%)
【0053】
続いて、上記O/Dゲルエマルション30質量部を、クエン酸でpH4に調整した水70質量部に投入し、O/Wエマルションを調製した。さらに、下記の添加成分をO/Wエマルション100重量部に対して追加で投入し、保湿乳液を調製した。
(その他成分) (質量部)
ベタイン(トリメチルグリシン) 1.0
ヒアルロン酸Na(1質量%水溶液) 1.0
BG 3.0
EDTA−2Na 0.05
ポリクオタニウム‐51(5質量%水溶液) 1.0
アスコルビルグルコシド 1.0
ペンチレングリコール 2.0
図1