(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6557555
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】涙道治療用具
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20190729BHJP
【FI】
A61F9/007 140
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-171327(P2015-171327)
(22)【出願日】2015年8月13日
(65)【公開番号】特開2017-35428(P2017-35428A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2018年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】505001661
【氏名又は名称】医療法人 すぎもと眼科医院
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100103056
【弁理士】
【氏名又は名称】境 正寿
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】杉本 学
【審査官】
石田 智樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−313290(JP,A)
【文献】
米国特許第06383192(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に開口を有しかつこの先端部より後方に透孔を有する弾力性のあるチューブと、前記透孔から入り前記開口から出る弾力性を有するガイド線と、前記チューブを同心的に中に入れることができるシースと、前記ガイド線の途中に存在し前記開口を通過することができないストッパーとを有する涙道治療具。
【請求項2】
前記ストッパーはガイド線の結び目であることを特徴とする請求項1記載の涙道治療具。
【請求項3】
前記ガイド線は、太い線の先端に窪みを設け、この窪みに細い線の先端を入れ接着材等で結合してなるストッパーを有することを特徴とする請求項1記載の涙道治療具。
【請求項4】
前記ストッパーは前記透孔から抜け出せる大きさであることを特徴とする請求項1記載の涙道治療具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、涙道閉塞などの治療のために使用する涙道治療用具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
涙道が閉塞した場合に、まず、涙道にブジ−(消息子)だけを挿入して、閉塞部分を除去する。次に、涙道にスタイレットを使ってチューブを挿入し、スタイレットを除去してチューブを涙道に8週間留置して、その後チューブを抜去することが行われている。
このような涙道の治療に用いられるチューブは、例えば特開平7−213551号公報に示されているように、二本のチューブ(全体としては一本となっている。)が涙道に挿入される。
【0003】
医師が涙道閉塞を治療する場合、涙道にブジ−(直径が0.4〜0.6mm程度のステンレス等の弾力性のある金属棒で構成されている)を挿入して涙道の閉塞部を押して、涙道を確保することがまず行われる。この時、ブジ−で涙道の壁面を突き破って、そのまま突き進み、再び元の涙道に出るといったことがある。これによって、仮道が形成される。その後、ブジ−を引き抜き、次にスタイレット(ステンレス等の細い金属棒で、柔軟性を有するチューブに挿入してチューブの形を整えるもの)を使ってチューブを涙道に挿入する。このとき上記仮道にチューブを挿入してしまうことがある。スタイレットを引き抜くとチューブは仮道に挿入されたままとなる。
【0004】
上記の例は一例であり、治療の過程でいろいろな状態が発生し、チューブが正しく涙道に挿入されないことがしばしば発生する。一方のチューブでも仮道に挿入されていると、正しく涙道の治療ができないことになる。
そこで、上記の課題を解決し、チューブが正しく涙道に挿入されるようにするとともに、治療を容易に行える涙道治療用具が考えられた(特開2010−213957)。
【0005】
この涙道治療用具によれば、涙道に挿入できる外径を持ち、柔軟性を有する材料で構成された涙道留置用本体の先端部に特別に構成したシース部を設けたので、内視鏡カメラのプローブを前記シース部に挿入し、涙道内の閉塞物を確認しながら、これを除去することができるので、誤って仮道を作ってしまうことはない。その上、シース部を涙道の下端から引き抜くと涙道留置用本体が涙道内に入るので涙道留置用本体を涙道内に迅速に留置することができる。
【0006】
また、特別な場合を除き、従来のようにブジーを使用して治療をする必要がないので、涙道留置用本体にブジー挿入用の透孔設ける必要がなく、涙道留置用本体を全体として密封状態にできるので、不必要な体液などが侵入して菌が発生することもないので都合が良い。また、内視鏡カメラはシース部に設けた透孔より、挿入することができる。
【0007】
まず、この涙道治療用具について説明する。
図1において、1はシリコンや、ポリウレタンなどの樹脂によって構成された柔軟性を有する透明なチューブである。このチューブ1は両側がチューブ2a,2bとなっている。チューブ2a,2b,3が涙道留置用本体を構成している。
【0008】
チューブ2a,2bの外径は例えば、1.1mm、肉厚は0.5mm、内径は0.6mm、長さはショートタイプで90mm、スタンダードタイプで105mmである。なお、チューブ2a,2bの径は1.1〜1.2mm程度が良い。肉厚は0.5mmと厚く構成されている。これは、チューブ2a,2bを涙道に留置したとき、チューブ2a,2bが涙道の壁面の圧力によって押しつぶされないようにするためである。押しつぶされると治療の効果が充分でなくなる。
【0009】
チューブ2a,2bの先端部4a,4bにはシース(鞘)部5a,5bの端部が結合されている。このシース部5a,5bはシリコン、ポリウレタン、ポリエチレン、テフロン(登録商標)などの柔軟性を有する透明又は半透明の円筒体で構成されている。シース部5a,5bは柔軟性を有するがチューブ2a,2bより硬い材料で構成されている。柔軟性の程度は短いものであれば下端を持って立てると自立し、両端を持って押すと湾曲するが、離すと元の直線状態に復帰するものである。
【0010】
図2、
図3はシース(鞘)部5a,5bの断側面図及び斜視図である。このシース5a,5bは円筒体であるので両端部は開放状態(開口部)に構成されている。そして、一端部は、少し外方に向かって徐々に径を大きくしておき、この径大部6a,6bでチューブ2a,2bの下端部の湾曲部を包み込んで接着材などで結合し、一体とする。この径大部6a,6bの加工は、例えば温めた金属製の円垂体をシース5a,5b端部に押し込むことによって行う。また、他端部は外側が加工され先端に行くほど薄くなるようにテーパー7a,7bが形成されている。
【0011】
シース部5a,5bの外径はチューブ2a,2bの外径以下であり、例えば1.0mm、肉厚は0.2mm、内径は0.8mm、長さは45mm(涙点から鼻涙管の下端部までの長さより長い)に設定されている。シース部5a,5bの外径をチューブ2a,2b外径以下にしてあるのは、涙道に最初に入るのがシース部5a,5bであるので、細くて硬く、且つ柔軟性を有するものの方が良いためである。
シース部5a,5bの肉厚はチューブ2a,2bの肉厚より小さく設定してある。これは内部空間を広くして、内視鏡カメラのプローブを入れやすくするためである。
シース部5a,5bの径大部の近傍に透孔8a,8bが設けられている。この透孔8a,8bは内視鏡カメラのプローブが入る孔である。
【0012】
図1では2つのチューブ2a,2bと二つのシース部5a,5bを3の細い部分で連結して1つの涙道治療用具とした。また、シース部5a,5bは内視鏡カメラのプローブが入るので、中空である必要がある。そして、先端は開口している方が、内視鏡カメラで外部を良く観察出来て良いが、透明体で先端部は閉じられていても差し支えない。
【0013】
図4a,bに示すものは内視鏡カメラ9であり、本体部10からプローブ(探知棒)11が突出して設けられている。この内視鏡カメラ9は眼科医院ですでに使用されているものである。プローブ11の最先端部は長さA=10mm程度で、角度α=27度程度曲げられており、直線部の長さBは4cm程度である。
図4bに示すように、プローブ11の内部には、水を出す導管12と、光源となる光ファイバー13a,13bとレンズ14が設けられている。
【0014】
次に、
図1に示す涙道治療用具を用いて涙道の治療をする方法を説明する。
まず、内視鏡カメラ9のプローブ11の先端部をシース部5aの透孔8aより挿入し、プローブ11の先端部がシース部5aの先端から出ない位置、例えば、0.5mm程度入ったところに設定する。
【0015】
図5は涙道の状態を示しており、15は上側の涙小管、16は下側の涙小管、17は涙嚢、18は鼻涙管、19は隆起部、20は涙小管15に詰まった閉塞物、21は鼻涙管18に詰まった閉塞物である。
上記の状態にセットされた内視鏡カメラ9のプローブ11を、
図5に示すようにシース部5aの先端から涙小管15に挿入する。カメラ9で涙小管15の閉塞状態を見ながらシース部5aを涙小管15の奥へと進める。閉塞物20が見つかると、シース部5aの先端部で押して、閉塞物20を除去する。
【0016】
シース部5aの先端部が涙嚢17に入ったことを確認すると、シース部5aをプローブ11とともに立てて
図6の状態にする。この状態からカメラ9で鼻涙管18の閉塞状態を見ながらシース部5aの先端部をプローブ11とともに鼻涙管18の奥へと進める。閉塞物21が見つかると、シース部5aの先端部で押して、閉塞物21を除去する。
【0017】
次に、鼻涙管18の下端からシース部5aの先端部が出た状態で、把手でこれを固定し、カメラ9のプローブ11を透孔8aから引き抜く。すると、
図7に示すように、涙道にはシース部5aのみが残る。この状態でシース部5aの先端部を持って、鼻涙管18の下端からゆっくりと引き抜く。すると、
図8に示すように、シース部5aに結合されているチューブ2aが涙小管15、鼻涙管18を通ってその先端部が鼻涙管18の下端から出てくる。
【0018】
ここで、
図8の矢印Cで示す部分、すなわち、シース部5aの上端部(チューブ2aとの結合部分)を切断し、シース部5aとチューブ2aとを分離する。
同様の手順で、
図9に示すように、下側の涙小管16から鼻涙管18にかけてチューブ2bを挿入する。これで、チューブ2a,2bを涙道に留置できる。8週間程度でチューブ2a,2bを涙道から抜くことによって、治療は終了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】 特開2010−213957公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
ところで、最近チューブ2a、2bとして潤滑性親水性コーティングをチューブ本体表面に施して挿入性を良くしたものが作られている。このチューブ2a、2bの場合
図1に示すようにチューブ2a、2bの先端4a、4bとシース5a、5bの径大部とを接着材で結合しようとしても、接着は出来るが、
図7のようにシース5a、5bの先端を持って涙鼻管18から引き抜こうとした場合、チューブ2a、2bとシース5a、5bとの結合部が外れてしまいチューブ2a、2bを涙道に留置できない。本発明は上手くチューブを涙道に留置できる涙道治療器具を提供しようとするものである。
【0021】
本発明の涙道治療器具は先端部に開口を
有しかつこの先端部より後方に透孔を有する弾力性のあるチューブと、前記透孔から入り前記開口から出る弾力性を有するガイド線と、前記チューブを同心的に中に入れることができるシースと、前記ガイド線の途中に存在し前記開口を通過することができないストッパーとを有する涙道治療具。
【0022】
また、前記ストッパーはガイド線の結び目であることを特徴とする。
また、前記ガイド線は、太い線の先端に窪みを設け、この窪みに細い線の先端を入れ接着材等で結合してなるストッパーを有することを特徴とする。
さらに、前記ストッパーは前記透孔から抜け出せる大きさであることを特徴とする。
【0023】
以上のように、本発明によれば、チューブの中にストッパー付きのガイド線が入っているので、ガイド線を先端から引くことにより、ストッパーがチューブの先端部に当たり、チューブに直接力を加えなくてもチューブをシースの中へ挿入することができる。従がって潤滑性親水性コーティングが施されたチューブでも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】従来の一実施例における涙道治療用具の平面図である。
【
図4】a,bは同涙道治療用具による医療に用いる内視鏡カメラの一部分の側面図、及び一部分の平面図である。
【
図5】同涙道を断面にして治療の状態を示す断平面図である。
【
図6】同涙道を断面にして治療の他の状態を示す断平面図である。
【
図7】同涙道を断面にして治療の他の状態を示す断平面図である。
【
図8】同涙道を断面にして治療の他の状態を示す断平面図である。
【
図9】同涙道を断面にして治療の他の状態を示す断平面図である。
【
図10】本発明の一実施例における涙道治療器具の原理を示す断面図である。
【
図11】同涙道治療器具の留置の途中を示す図である。
【
図12】a,b,は同涙道治療器具の一部分の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、
図2,3,4,5,6,9に示すものは本発明のものと同一であるが、
図1のシース5a、5bの径はチューブ2a、2bと同じか少し小さめに設定してあるが端部はチューブ2a、2bが中に入るようラッパ状にしておく。また
図1のチューブ2a、2bの先端には小さな開口27が、開口27の後方には透孔28が設けられている。チューブ2a、2bの径は上述では1.1〜1.2mmとしたが最近のものでは1.1〜1.5mmのものが使用されている。
【0026】
以下、同じ番号を付して異なる点について説明する。
図10に示すように、チューブ2a(2bも同じ)の先端に小さな開口27が設けられており、ここに弾力性を有する細いガイド線22を挿入する。開口27は真ん中であることは無く、少しずれても先端部に設ければよい。ガイド線23は透孔28を通過してくる。チューブ2aの先端部の肉厚は他の部分に比較して厚くしておく。強度のためである。
【0027】
ガイド線22はビニール線の他、他のものでも良い。また、ガイド線22の途中(チューブ2aの中)にはストッパー23が設けられている。ガイド線22の一端はチューブ2aの先端の開口27を通りシース5aの中にはいる。シース5aとチューブ2aは別体としておく。ガイド線22の他端は透孔28から出した状態で長くしておく。透孔28は開口27よりも後方(後端に近い方がガイド線22が涙道の壁面を擦る長さが小さくなって良い。)10図はシース5aにチューブ2aを接続しようとする状態を示している。
【0028】
この、ストッパー23は
図12に示すような物が考えられる。aでは径の太い線24の先端に窪みを設け、ここに細い線25の先端を入れ接着材で結合して、段差部をストッパー23としたり、bではガイド線22の途中に結び目を設けてストッパー23としたり、cでは熱により傾斜部26を設けてストッパー23としたりしている。
【0029】
図10、
図11に示すように、シース5aからカメラ9を引き出し、この状態でシース5aの後端からガイド線22をまず挿入し、次にチューブ2aを挿入する。この時ガイド線22の先端をシース5aの先端より出しておいて、ガイド線22の先端を鑷子又は鉗子で持って引くようにする。するとストッパー23がチューブ2aの先端(内面)に当たりチューブ2aを直接引かずともガイド線22を引くことによりチューブ2aを留置位置まで持って行くことができる。この状態でシース5aを先端部から引き抜き、ガイド線22は、透孔28から引き抜けばよい。ガイド線22は先端部からは引き抜けない。これでチューブ2aが涙道に留置されたことになる。
【0030】
潤滑性親水性コーティングが施されているチューブは勿論のこと、施されていないチューブにも使用することができる。
以上のように、本発明によれば、チューブの中にストッパー付きのガイド線が入っているので、ガイド線を先端から引くことにより、ストッパーがチューブの先端部に当たり、チューブに直接力を加えなくてもチューブをシースの中え挿入することができる。従がって潤滑性親水性コーティングが施されたチューブでも使用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の涙道治療用具は涙道の閉塞状態を治療する用具であるが、潤滑性親水性コーティングが施されたチューブでも使用可能な涙道治用具として用いて有用である。
【符号の説明】
【0032】
2a、2b:チューブ
5a、5b:シース
22:ガイド線
23:ストッパー
27:開口
28:透孔